特許異議申立
2019-700182
歯ブラシ
- 審判番号
- 2019-700182
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-090256
- 登録番号
- 特許第6385024号(P6385024)
- 請求日
- 2019年03月05日
- 審決日
- 2020年02月20日
- 公報発行日
- 2020年05月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ライオン株式会社
- 【権利者代理人】黒瀬 雅一
- 【権利者代理人】川越 雄一郎
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】加藤 広之
- 【異議申立人】芝崎 公昭
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 芳枝
- 審判官 久保 竜一
- 審判官 堀川 一郎
- 分類
- P1651.537-YAA(A46B) / P1651.536-YAA(A46B) / P1651.121-YAA(A46B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6385024号発明「歯ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6385024号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6385024号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6385024号の請求項1~4に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月9日(優先権主張 平成28年3月9日)を国際出願日とする特願2018-504585号の一部を平成30年5月8日に新たな特許出願としたものであって、平成30年8月17日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月5日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 3月 5日 特許異議申立人芝崎 公昭による特許異議
の申立て
令和 元年 5月22日付け 取消理由通知書
令和 元年 7月26日 特許権者による意見書の提出
令和 元年 8月13日 審尋
令和 元年 9月 3日 特許異議申立人による回答書の提出
令和 元年10月25日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 元年12月13日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和 2年 1月23日 特許異議申立人による意見書の提出
2 令和元年12月13日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、訂正前に「前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され」とあるのを「前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設され」に変更する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について、訂正前に「前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され」とあるのを「前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設され」に、訂正前に「前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.027~0.035であり」とあるのを「前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.027~0.032であり」に、それぞれ変更する。
ウ 訂正事項3
明細書の段落【0006】について、訂正前に「[1]ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され」とあるのを「[1]ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設され」に、訂正前に「[2]ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され」とあるのを「[2]ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設され」に、訂正前に「前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.027~0.035であり」とあるのを「前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.027~0.032であり」に、それぞれ変更する。
(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、ヘッド部の植毛面について、訂正前の請求項1に記載されていた「前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され」ることを、訂正前の明細書段落0041に記載されていた「前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設され」ることに変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項2は、ヘッド部の植毛面について、訂正前の請求項2に記載されていた「前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され」ることを、訂正前の明細書段落0041に記載されていた「前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設され」ることに変更するとともに、訂正前の請求項2に記載されていた「前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.027~0.035であ」ることを訂正前の明細書段落0041に記載されていた「前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.027~0.032であ」ることに変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項3は、訂正事項1及び2に係る請求項1及び2の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としており、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
そして、これらの訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
3 本件特許
特許第6385024号の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4(以下、「本件請求項1」ないし「本件請求項4」という。)に記載された下記の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設され、
前記ハンドル体の材質がポリプロピレン樹脂であり、
前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであり、
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量をA、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量をBとしたとき、
前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.015~0.045であり、
前記ヘッド部の長さL2(mm)と前記ネック部の長さL3(mm)の和当たりの前記ネック部の撓み量(B/(L2+L3))の値Yと、前記Xの比であるY/Xが、0.8~2.0であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項2】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設され、
前記ハンドル体の材質がポリアセタール樹脂であり、
前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであり、
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量をA、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量をBとしたとき、
前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.027~0.032であり、
前記ヘッド部の長さL2(mm)と前記ネック部の長さL3(mm)の和当たりの前記ネック部の撓み量(B/(L2+L3))の値Yと、前記Xの比であるY/Xが、1.0~1.4であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項3】
前記ネック部の最小の幅が3.0~4.5mmである、請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記ネック部の最小の厚さが3.0~4.5mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」
4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1~4に係る特許に対して令和元年10月25日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア.請求項2~4の記載からみて、本件特許発明2並びに請求項2を引用する請求項3及び4に係る本件特許発明3及び4は、訂正前の請求項2の記載により規定される値Xが0.027~0.035であるものであるが、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明2全体並びに請求項2を引用する請求項3及び4に係る本件特許発明3及び4全体にまで拡張ないし一般化することはできない。したがって、本件特許発明2ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、請求項1に記載されたX及びY/Xの範囲並びに請求項2に記載されたX及びY/Xの範囲は、いずれも、ハンドル体のヘッド部の植毛面に平線式植毛により毛束が植設されることを前提としていると認められるが、請求項1及び2並びに請求項1又は2を引用する請求項3及び4には当該前提が記載されていないから、本件特許発明1ないし4は、前記前提を欠くものをも包含し、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1ないし4全体にまで拡張ないし一般化することはできない。したがって、本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)当審の判断
ア 理由アについて
本件特許発明2は、前記「3」にあるとおり、ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設された歯ブラシであって、前記ハンドル体の材質がポリアセタール樹脂であり、前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであり、前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.027~0.032であり、前記ヘッド部の長さL2(mm)と前記ネック部の長さL3(mm)の和当たりの前記ネック部の撓み量(B/(L2+L3))の値Yと、前記Xの比であるY/Xが、1.0~1.4であるものである。
一方、本件訂正請求により訂正された訂正後の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、歯ブラシのハンドル体のヘッド部を薄くすると、通常の歯ブラシでは届きにくい奥歯の奥等に対する清掃力を高めることができる一方で、使用時に前記ヘッド部が撓みやすく毛束が広がるなど使用者の使用感が損なわれるという事情を前提とし、発明が解決しようとする課題として、清掃力により優れ、かつ、使用感により優れる歯ブラシを提供するということが記載されている(特に段落0002~0005参照)。
そして、発明の詳細な説明には、ヘッド部2の厚さT1が2.0~4.0mmであると、ヘッド部2における充分な強度の確保と毛束の抜けの抑制とがしやすくなると同時に、歯ブラシ1の口腔内での操作性と汚れ除去効果がより高められる旨記載されている(段落0014参照)。
また、前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値X、及び前記ヘッド部の長さL2(mm)と前記ネック部の長さL3(mm)の和当たりの前記ネック部の撓み量(B/(L2+L3))の値Yと前記Xとの比であるY/Xについて、発明の詳細な説明には、ポリアセタール樹脂をハンドル体の材質として採用した平線式植毛による歯ブラシの場合、Xを0.027~0.035、好ましくは‘0.029~0032としたときに、Y/Xを1.0~1.4とすることが好ましい旨記載されている(段落0041参照)。
更に、発明の詳細な説明には、前記ハンドル体の材質がポリアセタール樹脂であって、前記ヘッド部の長さL2及び撓み量Aと前記ネック部の長さL3及び撓み量Bの値が明らかである実施例として、歯の奥の清掃力、使用感及び口腔内操作性のいずれもが○と評価された実施例1及び9が記載されている。これらの実施例1及び9について、表1及び2に記載されたヘッド部の長さL2及び撓み量Aとネック部の長さL3及び撓み量Bの値からX及びY/Xを計算すると、それぞれ、以下のとおりとなる
実施例1:X=0.028 Y/X=1.38
実施例9:X=0.032 Y/X=1.10
本件特許発明2におけるX及びY/Xは、Xの下限及びY/Xの上限が実施例1に近接し、Xの上限及びY/Xの下限が実施例9に一致又は近接している。
以上のことからみて、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された前記課題を解決することができると理解することができ、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
この点は、請求項2を引用する請求項3及び4に係る本件特許発明3及び4についても同様である。
イ 理由イについて
本件特許発明1及び2は、いずれも、前記「3」にあるとおり、ハンドル体のヘッド部の植毛面に平線式植毛により毛束が植設された歯ブラシである。
そうすると、本件特許発明1及び2は、請求項1に記載されたX及びY/Xの範囲並びに請求項2に記載されたX及びY/Xの範囲の前提となる事項を備えているといえるから、本件特許発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
この点は、請求項1又は2を引用する請求項3及び4に係る本件特許発明3及び4についても同様である。
5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第1項について
特許異議申立人は、本件特許発明1並びに請求項1を引用する請求項3及び4に係る本件特許発明3及び4は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している(特許異議申立書「3(4)イ(イ-1)~(イ-3)」参照)。
本件特許発明1は、前記「3」にあるとおり、ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により毛束が植設された歯ブラシであって、前記ハンドル体の材質がポリプロピレン樹脂であり、前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであり、
前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xが0.015~0.045であり、前記ヘッド部の長さL2(mm)と前記ネック部の長さL3(mm)の和当たりの前記ネック部の撓み量(B/(L2+L3))の値Yと、前記Xの比であるY/Xが、0.8~2.0であるものである。
一方、発明の詳細な説明には、歯ブラシのハンドル体のヘッド部を薄くすると、通常の歯ブラシでは届きにくい奥歯の奥等に対する清掃力を高めることができる一方で、使用時に前記ヘッド部が撓みやすく毛束が広がるなど使用者の使用感が損なわれるという事情を前提とし、発明が解決しようとする課題として、清掃力により優れ、かつ、使用感により優れる歯ブラシを提供するということが記載されている(特に段落0002~0005参照)。
そして、発明の詳細な説明には、ヘッド部2の厚さT1が2.0~4.0mmであると、ヘッド部2における充分な強度の確保と毛束の抜けの抑制とがしやすくなると同時に、歯ブラシ1の口腔内での操作性と汚れ除去効果がより高められる旨記載されている(段落0014参照)。
また、前記ヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値X、及び前記ヘッド部の長さL2(mm)と前記ネック部の長さL3(mm)の和当たりの前記ネック部の撓み量(B/(L2+L3))の値Yと前記Xとの比であるY/Xについて、発明の詳細な説明には、ポリプロピレン樹脂をハンドル体の材質として採用した平線式植毛による歯ブラシの場合、Xを0.015~0.045としたときに、Y/Xを0.8~2.0とすることが好ましい旨記載されている(段落0041参照)。
更に、発明の詳細な説明には、前記ハンドル体の材質がポリプロピレン樹脂であって、前記ヘッド部の長さL2及び撓み量Aと前記ネック部の長さL3と撓み量Bの値が明らかである実施例又は比較例として、歯の奥の清掃力、使用感及び口腔内操作性のいずれもが○と評価された実施例2~8と、奥歯の奥の清掃力、使用感及び口腔内操作性の少なくとも1つが×と評価された比較例1~7とが記載されている。これらの実施例2~8及び比較例1~7について、横軸をX、縦軸をY/Xとして、その分布をみてみると、以下の参考図のとおりとなる(X、Y及びY/Xの値は、表1~3に記載されたヘッド部の長さL2及び撓み量Aとネック部の長さL3及び撓み量Bの値から当審にて計算した。)。そして、本件特許発明1におけるX及びY/Xは、太線で囲った範囲となる。
[参考図]
参考図から看取できるように、本件特許発明1におけるX及びY/Xは、前記範囲のXの下限とY/Xの上限により規定される外縁が実施例2,4~8と比較例1,3~7との間に位置している。Xの上限により規定される外縁は、実施例3と実施例6の間に位置しており、前記範囲の外に位置するものであっても前記課題を解決し得ることとなるが、それにより前記範囲内に位置するものが前記課題を解決し得ることが否定されるものではない。Y/Xの下限により規定される外縁は、実施例6に近接している。Y/Xについては、比較例2も前記下限の範囲内であるが、比較例2は、Xが前記範囲から大きく外れている。
以上のことからみて、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された前記課題を解決することができると理解することができ、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
この点は、請求項1を引用する請求項3及び4に係る本件特許発明3及び4についても同様である。
(2)特許法第36条第4項第1項について
特許異議申立人は、本件特許発明1~4は、所定の効果が得られたものについて任意の物理量の範囲を規定したもの過ぎず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張している(特許異議申立書「3(4)ウ」参照)。
特許異議申立人が前記主張の基礎としている実施例1、実施例3及び比較例2のヘッド部の撓み量A及びネック部の撓み量Bからも明らかなように、発明の詳細な説明の表1~3に記載された諸元に加え、当該諸元以外のハンドル体の諸元も前記ヘッド部の撓み量A及び前記ネック部の撓み量Bに影響する。これは、発明の詳細な説明に、例えば「ネック部4の最小径は、上記幅W2と厚さT2のうちの小さな方の値、即ちネック部4の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方を意味する。」(段落0024)や「撓み量Bは、ネック部4の材質(つまりハンドル体10の材質)の曲げ弾性率やネック部の最小径、境界P2の断面形状等を調整することで調整される。」(段落0031)と記載されていることからも明らかである。更に、発明の詳細な説明には、前記ハンドル体の形状を規定するものとして、前記表に記載された諸元以外に、例えば前記ヘッド部の、平面視形状における前記ネック部よりの隅切を形成する曲線(段落0013)や、段落0021には)や前記ネック部の、平面視において拡幅する部分の両縁を形成する直線又は曲線(段落0021)等が記載されており、これらも、当然、前記ヘッド部の撓み量A及び前記ネック部の撓み量Bに影響する。
しかしながら、これらの、前記表に記載されている諸元以外の前記ハンドル体の諸元は、いずれも、本件特許発明1~4を実施するにあたり、当業者が当然に検討すべき事項であって、これらが前記ヘッド部の撓み量A及び前記ネック部の撓み量Bに影響することも当業者にとって明らかである。そうすると、本件特許発明1~4を実施するにあたり、過度の試行錯誤を要するとはいえない。
(3)特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、甲第1号証(特開平5-15410号公報)、甲第2号証(特開2003-135148号公報)、甲第3号証(特開2002-28028号公報)及び甲第4号証(特開平7-143914号公報)を提出し、本件特許発明1、3及び4は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明及び、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している(特許異議申立書「3(4)エ」参照)。
しかしながら、甲第1号証ないし甲第4号証のいずれにも、歯ブラシのハンドル体の撓み量をヘッド部の長さL2(mm)当たりの前記ヘッド部の撓み量(A/L2)の値X、及び前記ヘッド部の長さL2(mm)とネック部の長さL3(mm)の和当たりの前記ネック部の撓み量(B/(L2+L3))の値Yと前記Xとの比であるY/Xで規定することが記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
6 特許異議申立人の意見について
a.特許異議申立人は、歯ブラシの総合的撓みは、X及びY/Xが本件特許発明1における上限値である歯ブラシが最も大きく、下限値である歯ブラシが最も小さい一方、発明の詳細な説明に記載された実施例は、いずれも前記総合的撓みが中間的な撓みになっており、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1にまで拡張ないし一般化することはできない旨主張している(令和2年1月23日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)「1(1)(1-1)(a)~(c)」参照)。
本件特許発明1は歯ブラシに関するものであって、そのヘッド部やネック部の長さがおのずと所定の範囲内のものとなることは、当業者にとって明らかであるところ、特許異議申立人がいうところの歯ブラシの総合的撓みが、本件特許発明1におけるX及びY/Xの範囲においては、X及びY/Xの上限値で最も大きくなり、下限値で最も小さくなることは、おおむね特許異議申立人が主張するとおりである。一方、発明の詳細な説明には、前記ヘッド部の撓み量、前記ネック部の撓み量及び前記ヘッド部の撓み量と前記ネック部の撓み量の大小関係と、前記課題を解決するという効果との関係が記載されているところ(例えば段落0026~0033参照)、前記のとおり、本件特許発明1におけるヘッド部やネック部の長さがおのずと所定の範囲内のものとなることを考慮すれば、発明の詳細な説明の前記記載から、X及びY/Xと、前記課題を解決するという効果との関係も理解することができる。
そうすると、前記総合的撓みがいずれも中間的な撓みである前記実施例から、X及びY/Xが上限値である歯ブラシや下限値である歯ブラシが前記課題を解決する程度を推認することができるから、前記実施例が、いずれも、前記総合的撓みが中間的な撓みであっても、そのことをもって、直ちに、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1にまで拡張ないし一般化することはできないとはいえない。
b.特許異議申立人は、X及びY/Xが略等しい実施例2、4、7及び8の使用感が4.1~4.8と大きく相違することは、発明において使用感の効果的な範囲を決めるためには、発明の構成として別の要素が必要であることを示唆しており、本件特許発明1は、構成上、課題を解決できないものである旨主張している(意見書「1(1)(1-1)(d)」参照)。
実施例2、4、7及び8は、本件特許発明1の実施例といえ、その使用感の平均点は4.1~4.8となっている。しかしながら、使用感の評価としては、いずれも、「○」となっているから、実施例2、4、7及び8の使用感の平均点が4.1~4.8であっても、そのことをもって本件特許発明1が前記課題を解決できないものを包含するとはいえない。
更に、特許異議申立人は、X及びY/Xについての数値範囲が何に基づいて決められているのか不明である旨も主張しているが、本件特許発明1が発明の詳細な説明に記載されているといえることは、前記「5(1)」において検討したとおりである。
c.特許異議申立人は、本件特許発明2についても、本件特許発明1と同様の理由により発明の詳細な説明に記載された発明ではない旨主張しているが(意見書「1(1)(1-2)」参照)、この主張についても、前記「a」,「b」において検討した理由と同様の理由により採用することができない。
7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700182