特許異議申立
2019-700181
歯ブラシ
- 審判番号
- 2019-700181
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-090255
- 登録番号
- 特許第6385023号(P6385023)
- 請求日
- 2019年03月05日
- 審決日
- 2020年01月21日
- 公報発行日
- 2020年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ライオン株式会社
- 【権利者代理人】黒瀬 雅一
- 【権利者代理人】川越 雄一郎
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】加藤 広之
- 【異議申立人】芝崎 公昭
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 芳枝
- 審判官 久保 竜一
- 審判官 堀川 一郎
- 分類
- P1651.537-YAA(A46B) / P1651.536-YAA(A46B) / P1651.121-YAA(A46B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6385023号発明「歯ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6385023号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第6385023号の請求項1,2,6及び7に係る特許を維持する。
特許第6385023号の請求項3~5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6385023号の請求項1~7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月9日(優先権主張 平成28年3月9日)を国際出願日とする特願2018-504585号の一部を平成30年5月8日に新たな特許出願としたものであって、平成30年8月17日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月5日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 3月 5日 特許異議申立人芝崎 公昭による特許異議
の申立て
令和 元年 5月22日付け 取消理由通知書
令和 元年 7月25日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和 元年 9月18日 特許異議申立人による意見書の提出
令和 元年10月25日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 元年12月13日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
2 令和元年12月13日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、「ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、」との記載の後に「前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであり、」との記載を加入するとともに、訂正前に「A’×Bが2.5~12であり」とあるのを「A’×Bが2.5~7であり」に、訂正前に「(B/A’)が0.8~2.5である」とあるのを「(B/A’)が0.8~2.0である」に、それぞれ変更する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」とあるのを「請求項1、2のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」に変更する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」とあるのを「請求項1、2、6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」に変更する。
キ.訂正事項7
明細書の段落【0006】について、「[1]ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、」との記載の後に「前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであり、」との記載を加入するとともに、訂正前に「A’×Bが2.5~12であり」とあるのを「A’×Bが2.5~7であり」に、訂正前に「(B/A’)が0.8~2.5である」とあるのを「(B/A’)が0.8~2.0である」に、訂正前に「[3](B/A’)が0.8~2.0である、[1]又は[2]に記載の歯ブラシ。」とあるのを「[3](削除)」に、訂正前に「[4]A’×Bが2.5~10である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯ブラシ。」とあるのを「[4](削除)」に、訂正前に「[5]前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmである、[1]~[4]のいずれかに記載の歯ブラシ。」とあるのを「[5](削除)」に、訂正前に「[6]前記ネック部の最小の幅が3.0~4.5mmである、[1]~[5]のいずれかに記載の歯ブラシ。」とあるのを「[6]前記ネック部の最小の幅が3.0~4.5mmである、[1]、[2]のいずれかに記載の歯ブラシ。」に、訂正前に「[7]前記ネック部の最小の厚さが3.0~4.5mmである、[1]~[6]のいずれかに記載の歯ブラシ。」とあるのを「[7]前記ネック部の最小の厚さが3.0~4.5mmである、[1]、[2]、[6]のいずれかに記載の歯ブラシ。」に、それぞれ変更する。
(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項5に記載されていた「前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであ」ることを請求項1に新たに加入するとともに、訂正前の請求項1に記載されていた「A’×Bが2.5~12であ」ることを訂正前の明細書段落0037に記載されていた「A’×Bが2.5~7であ」ることに、訂正前の請求項1に記載されていた「(B/A’)が0.8~2.5である」ことを訂正前の請求項3に記載されていた「(B/A’)が0.8~2.0である」ことに、それぞれ変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項2~4は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
訂正事項5及び6は、いずれも多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
訂正事項7は、訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としており、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
そして、これらの訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
3 本件特許
特許第6385023号の請求項1、2、6及び7に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明6」及び「本件特許発明7」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、6及び7(以下、「本件請求項1」、「本件請求項2」、「本件請求項6」及び「本件請求項7」という。)に記載された下記の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、
前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであり、
下記の方法(α’)で測定される前記ヘッド部の撓み量をA’、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量をBとしたとき、
A’×Bが2.5~7であり、
(B/A’)が0.8~2.0であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α’):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置から前記ハンドル部側に10mmずれた位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量A’とする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項2】
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量をAとしたとき、(B/A)が1.5~5.0である、請求項1に記載の歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
【請求項6】
前記ネック部の最小の幅が3.0~4.5mmである、請求項1、2のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記ネック部の最小の厚さが3.0~4.5mmである、請求項1、2、6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」
4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1~7に係る特許に対して令和元年10月25日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1~7全体にまで拡張ないし一般化することはできないから、本件特許発明1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)当審の判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1は、前記「3」にあるとおり、ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設された歯ブラシであって、前記ヘッド部の厚さが2.0~4.0mmであり、前記ヘッド部の撓み量A’と前記ネック部の撓み量Bとの積A’×Bが2.5~7であり、商B/A’が0.8~2.0であるものである。
一方、本件訂正請求により訂正された訂正後の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、歯ブラシのハンドル体のヘッド部を薄くすると、通常の歯ブラシでは届きにくい奥歯の奥等に対する清掃力を高めることができる一方で、使用時に前記ヘッド部が撓みやすく毛束が広がるなど使用者の使用感が損なわれるという事情を前提とし、発明が解決しようとする課題として、清掃力により優れ、かつ、使用感により優れる歯ブラシを提供するということが記載されている(特に段落0002~0005参照)。
そして、発明の詳細な説明には、ヘッド部2の厚さT1が2.0~4.0mmであると、ヘッド部2における充分な強度の確保と毛束の抜けの抑制とがしやすくなると同時に、歯ブラシ1の口腔内での操作性と汚れ除去効果がより高められる旨記載されている(段落0014参照)。
また、前記ヘッド部の撓み量A’と前記ネック部の撓み量Bとの積A’×B及び商B/Aについて、発明の詳細な説明には、A’×Bは、2.5~12が好ましく、3~12がより好ましく、3~10がさらに好ましく、3~7がさらに好ましく、A’×Bがその範囲であることで、使用感がさらに向上するとともに、操作性が低下し清掃力が低下することを抑制することが容易になる旨記載されており(段落0037参照)、B/A’は、0.8~2.5が好ましく、0.9~2.0がより好ましい旨記載されている(段落0038参照)。
更に、発明の詳細な説明には、前記ヘッド部の撓み量A’と前記ネック部の撓み量Bの値が明らかである実施例及び比較例として、歯の奥の清掃力、使用感及び口腔内操作性のいずれもが○と評価された実施例4~9と、奥歯の奥の清掃力、使用感及び口腔内操作性の少なくとも1つが×と評価された比較例3~7とが記載されている。これらの実施例4~9及び比較例3~7について、横軸をA’×B、縦軸をB/A’として、その分布をみてみると、以下の参考図のとおりとなる(B/A’の値は、表2及び3に記載されたヘッド部の撓み量A’及びネック部の撓み量Bの値から当審にて計算した。)。そして、本件特許発明1におけるA’×B及びB/A’は、太線で囲った範囲となる。
[参考図]
参考図から看取できるように、本件特許発明1におけるA‘×B及びB/A’は、前記範囲のA’×Bの下限とB/A’の上限により規定される外縁が実施例4~9と比較例3~7との間に位置しており、前記範囲のA’×Bの上限とB/A’の下限により規定される外縁が、A’×Bの上限及びB/A’の下限のいずれについても実施例6に近接している。
以上のことからみて、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された前記課題を解決することができると理解することができるから、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、前記「3」にあるとおり、本件特許発明1において、ヘッド部の撓み量をAとネック部の撓み量Bとの商B/Aが1.5~5.0であるものである。
そして、発明の詳細な説明には、B/Aは、1.5~5.0が好ましい旨記載されているとともに(段落0033参照)、本件特許発明2におけるB/Aの範囲は、その下限及び上限とも、実施例4~9における最小値(1.94,実施例6)及び最大値(4.76,実施例5)に近接している。
そうすると、前記「ア」において検討した理由と併せて、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
ウ 本件特許発明6について
本件特許発明6は、前記「3」にあるとおり、本件特許発明1において、ネック部の最小の幅が3.0~4.5mmであるものである。
そして、発明の詳細な説明には、前記ネック部の最小の幅は、3.0~4.5mmが好ましく、前記幅がその範囲であることで、良好な使用感が得られやすく、口腔内での操作性及び汚れ除去効果が高められる旨記載されており(段落0022参照)、前記ネック部の最小の幅に相当する、実施例4~9の前記ネック部の最小径は、4.0mmであり、本件特許発明6における前記ネック部の幅の範囲内となっている。
そうすると、前記「ア」において検討した理由と併せて、本件特許発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
エ 本件特許発明7について
本件特許発明7は、前記「3」にあるとおり、本件特許発明1において、ネック部の最小の厚さが3.0~4.5mmであるものである。
そして、発明の詳細な説明には、前記ネック部の最小の厚さは、3.0~4.5mmが好ましく、前記幅がその範囲であることで、良好な使用感が得られやすく、口腔内での操作性及び汚れ除去効果が高められる旨記載されており(段落0023参照)、前記ネック部の最小の厚さに相当する、実施例4~9の前記ネック部の最小径は、4.0mmであり、本件特許発明6における前記ネック部の厚さの範囲内となっている。
そうすると、前記「ア」において検討した理由と併せて、本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
オ 特許異議申立人の意見について
a.特許異議申立人は、本件特許発明1は、ヘッド部およびネック部の長さ、縦弾性係数、断面2次モーメントのいずれの要件も含んでいないから、課題を解決できないことは明白である旨主張している(令和元年9月18日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)「3(2)(2-2)」参照)。
しかしながら、前記「ア」で検討したとおり、本件特許発明1は、ヘッド部を適度な厚さとするとともに前記ヘッド部とネック部とに両者が協調する適度な撓みを持たせることにより課題を解決したものである。してみれば、ヘッド部及びネック部の長さ、縦弾性係数、断面2次モーメントについて本件請求項1に記載されていないからといって、直ちに本件特許発明1が課題を解決することができないとはいえない。また、特許異議申立人は、ヘッド部の長さが極端に長い場合や極端に短い場合を例示するが、本件特許発明1は歯ブラシに関するものであって、そのヘッド部の大きさは、歯ブラシが用いられる口腔部の大きさ等に基づき、おのずと所定の範囲内のものとなることは、当業者にとって明らかである。
b.特許異議申立人は、本件特許発明1は、用毛の撓みに関する規定を含まず、訂正発明は、「用毛の撓みが大きすぎると、歯周ポケットへの用毛の進入性が低下して清掃力が低下したり、毛開きが大きくなり、歯ブラシの耐久性が低下するなどの問題が生じる。」という課題を解決できない旨主張している(意見書「3(2)(2-3)」参照)。
しかしながら、前記「ア」で検討したとおり、発明の詳細な説明には、特許異議申立人が主張する前記課題以外の課題も記載されており、本件特許発明1は、当該課題を解決できるものである。
c.特許異議申立人は、撓み量は、ヘッド部の厚さやハンドル体の材料に関係するところ、発明の詳細な説明には、ヘッド部の厚さが3.0mm、ハンドル体の材質がPP-1である実施例4~8と、ヘッド部の厚さが2.6mm、ハンドル体の材質がPOM-1である実施例9しか記載されておらず、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできない旨主張している(意見書「3(3)(3-1)」参照)。
しかしながら、前記「ア」で検討したとおり、本件特許発明1は、ヘッド部を適度な厚さとするとともに前記ヘッド部とネック部とに両者が協調する適度な撓みを持たせることにより課題を解決したものである。
ヘッド部の厚さの作用、すなわちヘッド部が厚くなれば、強度は向上するが口腔内での操作性及び清掃力が低下し、ヘッド部の撓み量A’も減少し、ヘッド部が薄くなれば、強度は低下するが口腔内での操作性及び清掃力が向上し、ヘッド部の撓み量A’も増加することは、当業者にとって明らかであるから、実施例4~9のヘッド部の厚さがいずれも3.0mmであっても、直ちに発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできないとはいえない。更に、本件特許発明1は、ヘッド部の撓み量A’とネック部の撓み量Bとの積A’×B及び商B/A’の範囲が規定されており、ハンドル体の材料が異なったとしても、ヘッド部の撓み量A’及びネック部の撓み量Bが同じであれば、当たり心地及びそれに伴う使用感が大きく異なるとは考えられない。
したがって、発明の詳細な説明に実施例4~9しか記載されていないからといって、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできないとはいえない。
d.特許異議申立人は、発明の詳細な説明に記載された実施例は、本件特許発明1におけるA’×B及びB/A’の範囲において偏在するから、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできない旨主張している(意見書「3(4)(4-2)~(4-3)」参照)。
しかしながら、本件特許発明1が発明の詳細な説明に記載されているといえることは、前記「ア」において検討したとおりである。
e.特許異議申立人は、A’×B及びB/A’が本件特許発明1における上限値である歯ブラシは、ネック部の撓み量Bが実施例4~9と比較として大きく、実施例4~9に比べて撓みやすくなっており、実施例4~9と同等の効果を奏するか不明であるから、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできない旨主張している(意見書「3(4)(4-4)」参照)。
しかしながら、本件特許発明1は、ヘッド部とネック部とに両者が協調する適度な撓みを持たせることにより課題を解決したものであるから、ネック部の撓み量のみを取り出した特許異議申立人の前記主張は、当を得ないものである。
f.特許異議申立人は、本件特許発明1は、ヘッド部の撓み量A’が上限値をとる場合、ヘッド部の撓み量A’はネック部の撓み量Bより大きくなるが、このような歯ブラシは、ネック部の先においてヘッド部が曲がり、課題を解決できる効果を奏するとは考え難い旨主張している((意見書「3(4)(4-5)」参照)。
しかしながら、特許異議申立人は、ネック部の先においてヘッド部が曲がるとなぜ課題を解決できる効果を奏するとはいえないのか、その理由を述べておらず、特許異議申立人の前記主張には十分な裏付けがない。
更に、特許異議申立人は、ヘッド部の撓み量A’がネック部の撓み量Bよりも大きい実施例6は技術的に理解不能であり、このような技術的に理解不能な歯ブラシを含む本件特許発明1まで発明の詳細な説明の内容から拡張ないし一般化できない旨主張している((意見書「3(4)(4-5)」参照)。
しかしながら、歯ブラシのように断面二次モーメントがその軸方向に沿って変化する部材の場合には、撓み量は長さに比例するとは単純にはいえないから、実施例6が技術的に理解不能であるとまではいえない。
6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第4項第1項について
特許異議申立人は、本件特許発明1は、所定の効果が得られたものについて任意の物理量の範囲を規定したもの過ぎず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張している(特許異議申立書「3(4)ウ」参照)。
しかしながら、特許異議申立人が前記主張の基礎としている実施例1、実施例3及び比較例2は、いずれもヘッド部の撓み量A’が不明であり、本件特許発明に係る実施例又は比較例とはいえないから、特許異議申立人の前記主張は、その前提から当を得ないものである。
(2)特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している(特許異議申立書「3(4)エ」参照)。
しかしながら、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれにも、歯ブラシのハンドル体の撓み量をヘッド部の撓み量A’とネック部の撓み量Bとの積A’×B及び商B/A’で規定することが記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1,2,6及び7に係る特許取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1,2,6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項3~5に係る特許は、前記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、本件請求項3~5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定による却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700181