特許異議申立
2024-700361
塗膜転写具
- 審判番号
- 2024-700361
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-546520
- 登録番号
- 7402885
- 請求日
- 2024年04月17日
- 審決日
- 2024年08月06日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】フジコピアン株式会社
- 【権利者代理人】立花 顕治
- 【権利者代理人】大古場 ゆう子
- 【異議申立人】佐野 裕之
- 審判長/審判官
- 審判長 川俣 洋史
- 審判官 山本 一
- 審判官 道祖土 新吾
- 分類
- P1652.113-Y (B43L) / P1652.121-Y (B43L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7402885号発明「塗膜転写具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7402885号の請求項1、2及び4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7402885号の請求項1、2及び4に係る特許(以下、それぞれ「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許」ということがある。)についての出願は、2020年(令和2年)7月9日(優先権主張 令和1年9月19日)を国際出願日とする出願であって、令和5年12月13日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、令和6年4月17日に特許異議申立人 佐野 裕之(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材テープ及び前記基材テープ上に設けた塗膜を含む転写テープを繰出す繰出部と、
前記繰出部から繰り出された前記転写テープを被転写面に押圧することにより、前記被転写面に前記塗膜を転写する転写ヘッドと、
前記塗膜の転写後の前記基材テープを巻取る巻取部と、
前記繰出部及び前記巻取部を収容し、前記転写ヘッドが固定されたカセットと、
前記転写ヘッドをカバーする閉位置と、前記転写ヘッドを露出させる開位置との間を回動するヘッドキャップと
を備え、
前記ヘッドキャップと、前記転写ヘッド又は前記カセットとの2つの要素の一方に、回転軸を有する軸部が設けられ、前記2つの要素の他方に、前記軸部を受け取る軸受孔を有する軸受部が設けられ、前記軸部が前記回転軸周りを前記軸受孔内で相対的に回転することにより、前記ヘッドキャップが前記閉位置と前記開位置との間を回動し、
前記回転軸の方向から視て、前記軸部は、前記回転軸からの距離が周方向に沿って変化し、
前記回転軸の方向から視て、前記軸受孔は、前記回転軸からの距離が周方向に沿って変化し、
前記ヘッドキャップは、前記閉位置と前記開位置との間の思案点よりも前記閉位置側にあるとき、前記2つの要素の少なくとも一方に作用する弾性力により、前記閉位置に向かって付勢され、前記思案点よりも前記開位置側にあるとき、前記2つの要素の少なくとも一方に作用する弾性力により、前記開位置に向かって付勢される、
塗膜転写具。
【請求項2】
前記回転軸の方向から視て、前記軸受孔及び前記軸部は、各々楕円形状である、
請求項1に記載の塗膜転写具。
【請求項4】
前記回転軸の方向から視て、前記軸部は、その外周上に、その最大径に相当する線分と交わる第1点及び第2点を有し、
前記回転軸の方向から視て、前記軸受孔は、その外周上に、
第1位置と、
第2位置と、
前記第1位置と前記第2位置との間に位置し、前記第1位置及び前記第2位置の各々よりも前記回転軸からの距離が短い第3位置と、
前記第3位置に連続し、前記第3位置から前記第1位置に向かって延び、前記第3位置から前記第1位置に向かうにつれて徐々に前記回転軸からの距離が長くなる第1遷移領域と、
前記第3位置に連続し、前記第3位置から前記第2位置に向かって延び、前記第3位置から前記第2位置に向かうにつれて徐々に前記回転軸からの距離が長くなる第2遷移領域とを含み、
前記ヘッドキャップは、
前記第1点が前記第1位置に位置合わせされるとき、前記閉位置にあり、
前記第1点が前記第2位置に位置合わせされるとき、前記開位置にあり、
前記第1点が前記第3位置に位置合わせされるとき、前記思案点にあり、
前記第1点が前記第1遷移領域に位置合わせされるとき、前記思案点よりも前記閉位置側にあり、前記閉位置に向かって付勢され、
前記第1点が前記第2遷移領域に位置合わせされるとき、前記思案点よりも前記開位置側にあり、前記開位置に向かって付勢される、
請求項1から3のいずれかに記載の塗膜転写具。」
第3 申立理由の概要
申立人は、甲第1号証として特開2009-29053号公報、甲第2号証として特開2017-74677号公報を証拠方法とし、概略以下の異議申立理由を主張する。なお、申立理由の番号は、当審にて付した。
1.申立理由1(新規性)
本件特許発明1及び4は、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)と相違点がないから、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。
2.申立理由2-1(進歩性)
仮に、本件特許発明1及び4と甲1発明との間に相違点があったとしても、甲1発明及び甲2号証に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。
3.申立理由2-2(進歩性)
本件特許発明2は、甲1発明及び設計事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。
第4 各甲号証に記載の発明等
1.甲第1号証について
(1)本件特許の出願前に公開された甲第1号証には、以下の記載がなされている(下線は当審が付した。以下同様)。
ア 「【請求項1】
転写テープを支軸周りに回転可能な供給リールから転写ヘッドを経て巻取リールに巻き回してなるものであって、少なくとも前記供給リール及び巻取リールを保持してなる転写具本体と、この転写具本体に設けた前記転写ヘッドと、前記転写具本体又は転写ヘッドに枢着軸部を介して枢着してなり、前記転写ヘッドを被覆する閉止位置と前記転写ヘッドを露出させる開成位置との間で回動動作可能なヘッドキャップとを具備するとともに、前記枢着軸部近傍に、前記ヘッドキャップが、前記閉止位置と前記開成位置との中間近傍に1箇所のみ設けた思案点よりも閉止位置側に位置する場合には閉止位置に、思案点よりも開成位置側に位置する場合には開成位置にそれぞれ向けてヘッドキャップを弾性付勢可能な付勢機構を設けていることを特徴とする転写具。」
イ 「【0013】
以下、転写具Aを構成する各部について説明する。以下の説明において、「前」とは、特別な限定がない限り、転写ヘッド4がある側を指し、「後」とは転写ヘッド4とは反対の側を指す。また、転写物は、糊や、被転写体である紙面あるいはフィルムに書かれたり印刷された文字や図形などを修正する修正インキ塗膜等が考えられる。」
ウ 「【0014】
前記転写具本体1は、上述したように、ケース部2と、このケース部2の内部に着脱可能に保持させてなるリフィル3とを具備する。前記ケース部2は、第1のケース6と、この第1のケース6と対をなす第2のケース7と、これら第1及び第2のケース6、7を使用位置Sと開放位置Oとの間で相対移動可能に接続する蝶番21とを具備する。」
エ 「【0024】
前記リフィル3は、第1のケース6と第2のケース7との間に保持されるものであり、未使用の転写テープを巻き付けた状態で保持する供給リール32と、使用済みの転写テープのフィルムを巻き取る巻取リール33と、これら供給リール32及び巻取リール33を回転可能に支持するとともに転写ヘッド4を一体的に保持している支持板34とを具備する。」
【0025】
また、転写テープに設けた転写物を被転写体に転写し得る転写ヘッド4は、本実施形態では前記リフィル3に支持させてなるとともにこれらリフィル3及び転写ヘッド4を一体的に扱うようにしている。
【0026】
供給リール32は、図4に示すように、当該供給リール32の主体をなす供給リール本体321と、上述した供給リール支持部612aに対して転写テープが引き出された際の供給リール32の回転を伝達可能に噛合いながら収容し得る噛合穴32xとを有している。」
オ 「【0029】
転写ヘッド4は、図3及び図5に示すように、リフィル3の支持板34に一体的に形成された基端部41と、基端部41から前方へ延出する延出板42と、延出板42の両側に形成された外側板たる規制板43と、規制板43の先端に回転可能に支持された折り返し案内部たる転写ローラ44とを有している。基端部41は、本実施形態では使用時の転写ヘッド4の押圧時に若干弾性変形し得るように設定されている。規制板43、43は使用時の転写テープの側方のずれを抑制して安定した転写テープの走行並びに転写物の正確な被転写物への転写に供するものである。すなわち、規制板43、43間に転写テープ挿通路を形成している。転写ローラ44は、転写テープを被転写物へ好適に押圧するために、表面を例えば弾性変形し得る素材で構成したものとしている。また、この転写ヘッド4の基端部41と第1のケース6と第2のケース7との間に、基端部41とケース部2(すなわち第1のケース6及び第2のケース7)との相対的な回動を禁止し得る係合部を設けている。この係合部は、前記転写ヘッド4の基端部41に設けられこの転写具Aの幅方向に開口する十字溝41xと、前記第1のケース6及び第2のケース7に設けた十字リブ619、719とを係合させてなる。」
カ 「【0037】
この態様におけるヘッドキャップA5には、閉止位置Pにおいて転写ヘッド4の転写テープ挿通路を被覆可能なキャップ本体A51と、前記キャップ本体A51の両側縁から延伸して設けた1対の接続アームA52と、この接続アームA52の一端部に設けてなりケース本体1に設けた軸受部たるヘッドキャップ受けA621に係合可能な枢着軸部A53とを具備する。この枢着軸部A53近傍には、付勢機構A54を構成する突起A55を設けている。なお、図12の(a)にはこのヘッドキャップ5の底面図、同図の(b)にはこのヘッドキャップ5の側面図、同図の(c)にはこのヘッドキャップ5の中央縦断面図、そして同図の(d)にはこのヘッドキャップ5の平面図をそれぞれ示している。
【0038】
一方、この態様における転写具本体1には、第1のケース6から外方に延出させて前記ヘッドキャップ受けA621を設けている。このヘッドキャップ受けA621は、前記枢着軸部A53を収納可能な軸受凹部A622x、A623xを先端部にそれぞれ有し対をなす第1、第2の軸受要素A622、A623を具備する。ここで、第1の軸受要素A622を第1のケース6に近い側、第2の軸受要素A623は第1のケース6から遠い側にそれぞれ設けている。そして、前記第2の軸受要素A623の軸受凹部A623xは、前記付勢機構A54を構成する。なお、図11の(a)にはこの実施態様に係る第1のケース6の平面図、同図の(b)にはこの第1のケース6の側面図、そして同図の(c)にはヘッドキャップ受けA621近傍の拡大図をそれぞれ示している。
【0039】
さらに、このヘッドキャップA5の枢着軸部A53近傍には、このヘッドキャップA5を前記閉止位置P及び前記開成位置Qのいずれかに選択的に弾性付勢する付勢機構A54を設けている。また、この態様において、転写具Aのその他の部位は、上述した実施形態におけるものと同一の構成を有する。
【0040】
前記ヘッドキャップA5が閉止位置P又は開成位置Qに位置する場合には、図13の(a)及び(c)にそれぞれ示すように、前記突起A55は、前記第1及び第2の軸受要素A622、A623の間の空間に位置する。一方、前記ヘッドキャップA5が閉止位置P又は開成位置Q以外に位置する際には、同図の(b)に示すように、前記突起A55に前記第2の軸受要素A623の軸受凹部A623xが押圧され、この第2の軸受要素A623が弾性変形して前記第1の軸受要素A622と離間する。そして、前記付勢機構A54は、この第2の軸受要素A623からの弾性力を受け、前記ヘッドキャップA5が前記閉止位置Pと開成位置Qとの中間に位置する思案点よりも閉止位置P寄りであれば閉止位置Pに向けて該ヘッドキャップA5を付勢するとともに、前記ヘッドキャップA5が前記思案点よりも開成位置Q寄りであれば開成位置Qに向けて該ヘッドキャップA5を付勢する構成を有する。なお、図13の(a)にはこのヘッドキャップA5を閉止位置Pに配した状態、同図の(b)にはこのヘッドキャップA5を思案点Xに配した状態、そして同図の(c)にはこのヘッドキャップA5を開成位置Qに配した状態をそれぞれ示している。」
キ 「【図11】
[図:0001414214000001.jpg]
」
ク 「【図12】
[図:0001414214000002.jpg]
」
ケ 「【図13】
[図:0001414214000003.jpg]
」
(2)また、上記(1)から甲第1号証について、以下の事項を把握することができる。
ア 上記(1)ウの「ケース部2の内部に着脱可能に保持させてなるリフィル3」及び上記(1)エの「リフィル3は、・・・供給リール32と、・・・巻取リール33と、・・・を具備する。」との記載から、ケース部が供給リールと巻取リールを収容することは明らかである。
イ 上記(1)イ及びエからすれば、未使用の転写テープは、修正インキ塗膜等の転写物が設けられるものであり、転写ヘッドによる転写物の転写後に使用済みの転写テープのフィルムが巻取リールに巻き取られることからすれば、未使用の転写テープは、フィルム上に転写物が設けられていると認められる。
ウ 上記(1)エの「リフィル3は、・・・転写ヘッド4を一体的に保持している支持板34とを具備する。」、上記(1)オの「転写ヘッド4の基端部41と第1のケース6と第2のケース7との間に、基端部41とケース部2(すなわち第1のケース6及び第2のケース7)との相対的な回動を禁止し得る係合部を設けている。」との記載から、リフィルがケース部に保持された状態で転写ヘッドはケース部に係合されているといえる。
エ 上記(1)カの「同図の(b)にはこのヘッドキャップ5の側面図、同図の(c)にはこのヘッドキャップ5の中央縦断面図・・・をそれぞれ示している。」との記載から、上記(1)クの図12(c)は、ヘッドキャップ側面から視た中央縦断面図を示していると理解できる。そして、上記(1)ケの図13各図には、図12(c)と同じ方向から視たヘッドキャップA5が見て取れるから、図13各図も上記ヘッドキャップA5の側面から視た図であると理解できる。してみると、上記(1)ケからは、ヘッドキャップの側面から視て、ヘッドキャップが図13(a)、(b)及び(c)に示す各位置にあるときに、第1の軸受要素A622及び第2の軸受要素A623内で、枢着軸部A53の位置は変わらず、突起A55の突出する向きが変わっていることが見て取れる。
オ 上記(1)アの「転写ヘッドを被覆する閉止位置と前記転写ヘッドを露出させる開成位置との間で回動動作可能なヘッドキャップ」との記載及び上記(1)カの「前記ヘッドキャップA5が閉止位置P又は開成位置Qに位置する場合には、図13の(a)及び(c)にそれぞれ示すように、前記突起A55は、前記第1及び第2の軸受要素A622、A623の間の空間に位置する。一方、前記ヘッドキャップA5が閉止位置P又は開成位置Q以外に位置する際には、同図の(b)に示すように、前記突起A55に前記第2の軸受要素A623の軸受凹部A623xが押圧され、この第2の軸受要素A623が弾性変形して前記第1の軸受要素A622と離間する。」との記載から、ヘッドキャップは、図13(a)、(b)及び(c)の順又はその逆順に位置を変えて回動動作するものと認められる。
カ 上記エ及びオをふまえると、図13(a)~(c)から、第1、第2の軸受要素A622、A623の間における枢着軸部A53に対する突起A55の位置が変化していることから、枢着軸部A53の軸線が回動中心となっていることが看取できる(「軸線」とは、一般に、部材の軸方向(部材の長手方向)の図心を通る線を意味する)。
キ 上記カに照らしてみると、ヘッドキャップA5が閉止位置Pから開成位置Qへと回動することに伴い、第1、第2の軸受要素A622、A623の間において、枢着軸部A53が軸線を回動中心に回動し、ヘッドキャップA5が閉止位置P又は開成位置Qに位置する場合には、前記突起A55は、前記第1及び第2の軸受要素A622、A623の間の空間に位置し、一方、前記ヘッドキャップA5が閉止位置P又は開成位置Q以外に位置する際には、前記突起A55に前記第2の軸受要素A623の軸受凹部A623xが押圧され、この第2の軸受要素A623が弾性変形して前記第1の軸受要素A622と離間すると認められる。
ク 上記エの看取事項、上記(1)ク図12(c)及び(1)ケ図13から、枢着軸部A53が、ヘッドキャップの側面から視て、突起A55を有した非円形の形状であることが見て取れる。上記カから、ヘッドキャップの側面から視た方向は、枢着軸部の軸線方向であるから、枢着軸部は、その軸線の方向から視て、突起を有した非円形の形状であると認められる。
(3)上記(1)及び(2)より、甲第1号証には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。
「フィルム上に転写物が設けられた転写テープを巻き付けた状態で保持し、転写テープが引き出される供給リールと、
転写テープに設けた転写物を被転写体である紙面に押圧して転写し得る転写ヘッドと、
使用済みの転写テープのフィルムを巻き取る巻取リールと、
供給リールと巻取リールを収容し、リフィルがケース部に保持された状態では転写ヘッドが係合されたケース部と、
転写ヘッドを被覆する閉止位置と前記転写ヘッドを露出させる開成位置との間で回動動作可能なヘッドキャップと、
を備え、
転写テープは、供給リールから転写ヘッドを経て巻取リールに巻き回してなり、
転写物は、修正インキ塗膜であり、
ヘッドキャップは、キャップ本体の両側縁から延伸して設けた1対の接続アームと、この接続アームの一端部に設けてなりケース本体に設けた軸受部たるヘッドキャップ受けに係合可能な枢着軸部とを具備し、
このヘッドキャップ受けは、前記枢着軸部を収納可能な軸受凹部を先端部にそれぞれ有し対をなす第1、第2の軸受要素を具備し、
その軸線の方向から視て、枢着軸部は突起を有した非円形の形状であり、
ヘッドキャップが閉止位置から開成位置へと回動することに伴い、第1、第2の軸受要素の間において、枢着軸部が軸線を回動中心に回動し、ヘッドキャップが閉止位置P又は開成位置Qに位置する場合には、前記突起は、前記第1及び第2の軸受要素の間の空間に位置し、一方、前記ヘッドキャップが閉止位置P又は開成位置Q以外に位置する際には、前記突起に前記第2の軸受要素の軸受凹部が押圧され、この第2の軸受要素が弾性変形して前記第1の軸受要素と離間し、第2の軸受要素からの弾性力を受け、前記ヘッドキャップが前記閉止位置と開成位置との中間に位置する思案点よりも閉止位置寄りであれば閉止位置に向けて該ヘッドキャップを付勢するとともに、前記ヘッドキャップが前記思案点よりも開成位置寄りであれば開成位置に向けて該ヘッドキャップを付勢する、転写具」
2.甲第2号証について
(1)本件特許の出願前に公開された甲第2号証には、以下の記載がなされている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、転写テープに塗布された塗膜を被転写体に転写する塗膜転写具に関するものである。」
イ 「【0039】
固定部5cの両側には突起片5c-1が形成されており、固定部5cの先端下部が開口部4の下部に当たり、突起片5c-1の側部および上部がケース本体1の側壁および当該ケース本体1の内側に突出して形成された規制片(図示せず)の下部にそれぞれ当たって横方向および上下方向が規制されるとともに、嵌込部5dの孔5d-1がシャフト3eに嵌め込まれて前後方向が規制されることにより、転写ヘッド5がケース本体1の前述した位置に固定されている。」
(2)したがって、甲第2号証には、以下の事項が記載されており、これは本件特許の出願日前に広く知られた周知技術であると認められる。
「転写ヘッドがケース本体に固定されている、転写テープに塗布された塗膜を被転写体に転写する塗膜転写具」
第5 当審の判断
1.申立理由1-1(新規性)
(1)本件特許発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「供給リール」は、転写テープが引き出されるから、その機能からみて、本件特許発明1の「繰出部」に相当する。また、甲1発明の「ケース部」は、供給リールと巻取リールを収容するものであるから、本件特許発明1の「カセット」に相当する。同様に、甲1発明の「転写テープのフィルム」、「被転写体である紙面」、「転写ヘッド」、「巻取リール」、「ヘッドキャップ」は、それぞれ本件特許発明1の「基材テープ」、「被転写面」、「転写ヘッド」、「巻取部」、「ヘッドキャップ」に相当する。
イ 甲1発明の「フィルム上に設けた転写物」は、修正インキ塗膜であり、甲1発明の「転写具」は、「修正インキ塗膜」を転写するものであるから、本件特許発明1の「塗膜転写具」といえる。また、甲1発明の「供給リール」と本件特許発明1の「繰出部」とは、「基材テープ及び前記基材テープ上に設けた塗膜を含む転写テープを繰出す」ものである点で一致する。
ウ 甲1発明の「転写ヘッド」は、転写テープに設けた転写物を被転写体である紙面に押圧して転写するものであるところ、転写物は、修正インキ塗膜であることから、本件特許発明1の「転写ヘッド」とは、「繰出部から繰り出された転写テープを被転写面に押圧することにより、前記被転写面に塗膜を転写する」ものである点で一致する。
エ 甲1発明の「巻取リール」と本件特許発明1の「巻取部」とは、「塗膜の転写後の基材テープを巻取る」ものである点で一致する。
オ 甲1発明の「転写ヘッド」は、リフィルがケース部に保持された状態でケース部に係合されており、転写具の使用に際しては、ケース部に固定されているといえる。よって、甲1発明の「ケース部」と本件特許発明1の「カセット」とは、「繰出部及び巻取部を収容し、転写ヘッドが固定された」ものである点で一致する。
カ 甲1発明の「ヘッドキャップ」と本件特許発明1の「ヘッドキャップ」とは、「転写ヘッドをカバーする閉位置と、前記転写ヘッドを露出させる開位置との間を回動する」ものである点で一致する。
キ 甲1発明の「枢着軸部」は、本件特許発明1の「軸部」に相当する。また、甲1発明の「軸線」は、枢着軸部の回動中心となるから、本件特許発明1の「回転軸」に相当する。そして、甲1発明の「ヘッドキャップ受け」は、本件特許発明1の「軸受部」と「軸部を受け取る軸受部」との概念で一致する。
さらに、本件特許発明1の「ヘッドキャップと、転写ヘッド又はカセットとの2つの要素の一方に、回転軸を有する軸部が設けられ、前記2つの要素の他方に、前記軸部を受け取る軸受孔を有する軸受部が設けられ」るとの発明特定事項は、「ヘッドキャップに回転軸を有する軸部が設けられ、カセットに軸部を受け取る軸受孔を有する軸受部が設けられ」ることを包含するものである。
したがって、甲1発明と本件特許発明1とは、「ヘッドキャップに、回転軸を有する軸部が設けられ、カセットに、前記軸部を受け取る軸受部が設けられ、
前記軸部が前記回転軸周りを軸受部内で相対的に回転することにより、前記ヘッドキャップが閉位置と開位置との間を回動」するとの概念で一致する。
ク 甲1発明の「枢着軸部」は、軸線を回動中心に回動し、軸線の方向から視て、突起を有した非円形の形状であるから、軸線からの距離は、周方向に沿って変化するといえ、甲1発明の「枢着軸部」と本件特許発明1の「軸部」とは、「回転軸の方向から視て、前記回転軸からの距離が周方向に沿って変化」する点で一致する。
ケ 本件特許発明1の「2つの要素の少なくとも一方に作用する弾性力」との発明特定事項は、「カセットに作用する弾性力」を包含する。一方、甲1発明は、ケース部に設けられた第2の軸受要素からヘッドキャップを付勢する弾性力を受けるものであり、このことは、ケース部に作用する弾性力がヘッドキャップを付勢するといえる。してみると、甲1発明と本件特許発明1とは、「ヘッドキャップは、閉位置と開位置との間の思案点よりも前記閉位置側にあるとき、カセットに作用する弾性力により、前記閉位置に向かって付勢され、前記思案点よりも前記開位置側にあるとき、カセットに作用する弾性力により、前記開位置に向かって付勢される」するとの概念で一致する。
コ したがって、本件特許発明1と甲1発明は、以下の一致点と相違点を有する。
[一致点]
基材テープ及び前記基材テープ上に設けた塗膜を含む転写テープを繰出す繰出部と、
前記繰出部から繰り出された前記転写テープを被転写面に押圧することにより、前記被転写面に前記塗膜を転写する転写ヘッドと、
前記塗膜の転写後の前記基材テープを巻取る巻取部と、
前記繰出部及び前記巻取部を収容し、前記転写ヘッドが固定されたカセットと、
前記転写ヘッドをカバーする閉位置と、前記転写ヘッドを露出させる開位置との間を回動するヘッドキャップと
を備え、
前記ヘッドキャップに、回転軸を有する軸部が設けられ、前記カセットに、前記軸部を受け取る軸受部が設けられ、前記軸部が前記回転軸周りを前記軸受部内で相対的に回転することにより、前記ヘッドキャップが前記閉位置と前記開位置との間を回動し、
前記回転軸の方向から視て、前記軸部は、前記回転軸からの距離が周方向に沿って変化し、
前記ヘッドキャップは、前記閉位置と前記開位置との間の思案点よりも前記閉位置側にあるとき、前記カセットに作用する弾性力により、前記閉位置に向かって付勢され、前記思案点よりも前記開位置側にあるとき、前記カセットに作用する弾性力により、前記開位置に向かって付勢される、
塗膜転写具。
[相違点]
軸受部が、本件特許発明1においては、「軸部を受け取る軸受孔を有する」ものであり、「前記回転軸の方向から視て、前記軸受孔は、前記回転軸からの距離が周方向に沿って変化」するのに対し、甲1発明においては、枢着軸部を収納可能な軸受凹部を先端部にそれぞれ有し対をなす第1、第2の軸受要素を具備するものであって、回転軸からの距離が周方向に沿って変化する軸受孔を有するものではない点。
(2)判断
ア 上記(1)コに示したとおり、本件特許発明1と甲1発明とは、上記相違点において相違するものであって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証により特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。
イ 同様に、本件特許発明1をさらに限定する本件特許発明4は、甲第1号証により特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書10~11ページにおいて、次のように主張している。
「本件特許発明1の「軸受孔」は、特許請求の範囲において「切欠き等が設けられていない閉じた孔である」という趣旨の具体的な文言や「変形しない孔である」という趣旨の具体的な文言が何ら明記されていないものであるから、甲1発明に開示されている第1、第2の軸受要素A622、A623により構成された軸受孔を当然に含んだものである。」
イ そこで、本件特許発明1の「軸受孔」について検討すると、まず、「孔」とは、一般に「くぼんだ所。または、向うまで突き抜けた所。」であって、「孔」の文字は、突き抜けたあなの場合に用いられる(「広辞苑 第五版」株式会社岩波書店)ものである。本件特許発明1には、「回転軸の方向から視て、軸受孔は、回転軸からの距離が周方向に沿って変化」することが発明特定事項にあることから、回転軸からの距離が周方向に沿って特定できる、向こうまで突き抜けた所を前提とするものであり、本件特許の発明の詳細な説明においても、軸受孔に関しては、変形例も含め閉じた孔の実施形態のみが記載されている。
一方で、甲1発明の対をなす第1、第2の軸受要素によってできる、軸受凹部の間の空間は、周方向に沿った距離が特定できない区間が存在するものである。
また、一般に、孔には切欠きが設けられるものも当然に含まれるとする技術常識も見いだせない。
してみると、本件特許発明1の軸受孔に甲1発明の軸受部の形状が当然に含まれるとはいえず、申立人の主張は採用できない。
2.申立理由2-1(進歩性)
(1)判断
ア 上記第4の2.(2)に示した、甲第2号証で例示される周知技術は、上記1.(1)コの相違点について、なんら示すものではないから、本件特許発明1は、申立人が主張するような、甲1発明及び甲2号証に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
イ また、甲1発明の枢着軸部を収納可能な軸受凹部を先端部にそれぞれ有し対をなす第1、第2の軸受要素を具備するヘッドキャップ受けの構成に対して、回転軸からの距離が周方向に沿って特定できる、向こうまで突き抜けた所とすべく、2つに分かれた第1、第2の軸受要素を互いに繋げて孔とする動機付けはなんら見いだせず、また、繋げた孔とすることが設計的事項といえる根拠もない。よって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証のその他の記載事項を考慮したとしても、当業者が容易に想到できたものではない。
ウ したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
エ 同様に、本件特許発明1をさらに限定する本件特許発明4は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
3.申立理由2-2(進歩性)
(1)上記1.及び2.より、本件特許発明1をさらに限定する本件特許発明2は、甲1発明に基づき、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した申立理由によって、請求項1、2及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700361