特許異議申立
2024-700242
ターボファン
- 審判番号
- 2024-700242
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-179874
- 登録番号
- 7348500
- 請求日
- 2024年03月14日
- 審決日
- 2024年12月23日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイキン工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 【異議申立人】角田 朗
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 北村 英隆
- 審判官 米倉 秀明
- 分類
- P1651.113-YAA(F04D) / P1651.121-YAA(F04D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7348500号発明「ターボファン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7348500号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7348500号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7348500号の請求項1~6に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」~「本件特許6」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、令和元年9月30日の出願であって、令和5年9月12日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和5年9月21日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和6年3月14日に、本件特許1~6に対し、特許異議申立人角田朗(以下「異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
特許異議の申立ての、その後の手続等の概要は以下のとおりである。
令和6年5月31日付け 取消理由通知書
令和6年7月26日 意見書(特許権者)及び訂正請求書の提出
令和6年9月13日 意見書(異議申立人)
以下、令和6年7月26日に提出された訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求の趣旨は、「特許第7348500号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「円形のエンドプレート(31)と、上記エンドプレート(31)と対向する円環状のシュラウド(32)と、上記エンドプレート(31)と上記シュラウド(32)の間に配置された複数の翼部材(33)とを備え、
上記エンドプレート(31)と上記シュラウド(32)の間の空間のうち上記翼部材(33)が配置された環状の部分が昇圧用流路(43)であり、
回転することによって上記昇圧用流路(43)の内周側から外周側へ向かって空気を流すターボファンであって、
上記昇圧用流路(43)の断面積が、該昇圧用流路(43)の上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加している
ことを特徴とするターボファン。」とあるのを、
「円形のエンドブレート(31)と、上記エンドプレート(31)と対向する円環状のシュラウド(32)と、上記エンドプレート(31)と上記シュラウド(32)の間に配置された複数の翼部材(33)とを備え、
上記エンドプレート(31)と上記シュラウド(32)の間の空間のうち上記翼部材(33)が配置された環状の部分が昇圧用流路(43)であり、
回転することによって上記昇圧用流路(43)の内周側から外周側へ向かって空気を流すターボファンであって、
上記シュラウド(32)の上記昇圧用流路(43)に臨む面は、上記シュラウド(32)と上記エンドプレート(31)の間隔が上記ターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲し、
上記昇圧用流路(43)の断面積が、該昇圧用流路(43)の上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加している
ことを特徴とするターボファン。」と訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、シュラウドに関し、「シュラウド(32)の上記昇圧用流路(43)に臨む面は、上記シュラウド(32)と上記エンドプレート(31)の間隔が上記ターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲し」と限定するものである。すなわち、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1により、シュラウドに関し、「シュラウド(32)の上記昇圧用流路(43)に臨む面は、上記シュラウド(32)と上記エンドプレート(31)の間隔が上記ターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲」するものに限定された。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
明細書の段落0026には「シュラウド(32)は、その内周縁がエンドプレート(31)から遠ざかる方へ突出する」と記載され、図3には、シュラウド(32)とエンドプレート(31)の間隔がターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲する形状が図示されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項1に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
また、請求項1の記載を引用する請求項2~6についても同様である。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係であるから、請求項1~6は、一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項1~6について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
(3)以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正後の請求項1~6に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」などといい、また、本件発明1~6を総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
円形のエンドブレート(31)と、上記エンドプレート(31)と対向する円環状のシュラウド(32)と、上記エンドプレート(31)と上記シュラウド(32)の間に配置された複数の翼部材(33)とを備え、
上記エンドプレート(31)と上記シュラウド(32)の間の空間のうち上記翼部材(33)が配置された環状の部分が昇圧用流路(43)であり、
回転することによって上記昇圧用流路(43)の内周側から外周側へ向かって空気を流すターボファンであって、
上記シュラウド(32)の上記昇圧用流路(43)に臨む面は、上記シュラウド(32)と上記エンドプレート(31)の間隔が上記ターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲し、
上記昇圧用流路(43)の断面積が、該昇圧用流路(43)の上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加している
ことを特徴とするターボファン。
【請求項2】
請求項1において、
上記昇圧用流路(43)の下流端(43b)の断面積SNを上記昇圧用流路(43)の上流端(43a)の断面積S1で除した値である面積拡大比SN/S1が1.2以上である
ことを特徴とするターボファン。
【請求項3】
請求項2において、
上記昇圧用流路(43)の面積拡大比SN/Slが1.55以下である
ことを特徴とするターボファン。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
上記翼部材(33)の翼型を示す断面を対象断面(51)とし、
上記対象断面(51)の前縁(52)を通り且つ上記エンドプレート(31)の中心軸(CX)上に中心が位置する円を前方円(FC)とし、
上記対象断面(51)の後縁(53)を通り且つ上記エンドプレート(31)の中心軸(CX)上に中心が位置する円を後方円(RC)とし、
上記対象断面(51)の前縁(52)において上記対象断面(51)のキャンバーライン(54)の接線と上記前方円(FC)の接線がなす角を入口角θiとし、
上記対象断面(51)の後縁(53)において上記対象断面(51)のキャンバーライン(54)の接線と上記後方円(RC)の接線がなす角を出口角θ。とし、
上記出口角θ。を上記入口角θiで除した値を角度比θ。/θiとしたときに、
上記翼部材(33)の全体における上記角度比θ。/θiの平均値が2.5よりも小さい
ことを特徴とするターボファン。
【請求項5】
請求項4において、
上記翼部材(33)の全体における上記角度比θ。/θiの平均値が2.1以下である
ことを特徴とするターボファン。
【請求項6】
請求項4又は5において、
上記翼部材(33)の全体における上記角度比θ。/θiの平均値が1.0以上である
ことを特徴とするターボファン。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和6年5月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由通知の概要
(1)理由1(新規性)
請求項1~2、4~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証(以下、「甲1」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1~2、4~6に係る特許は、同項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)理由2(進歩性)
請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2013-19288号公報
2 甲号証の記載
(1)甲1について
ア 甲1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
(ア)「【0001】
本発明は、後ろ向き羽根を備えた遠心型羽根車に係り、高い送風効率の空気清浄装置、空調機器、送風および換気用ファンに用いる遠心型羽根車に関する。」
(イ)「【0002】
後ろ向き羽根の遠心型羽根車は、主に空調機器や電子機器に組み込まれて、送風および換気を行う。この羽根車には、目標の圧力と流量を発生させることの他に、高効率であること、低騒音であることが要求される。
なかでも、最近の省エネルギ化に対応するために、高効率であることが重要視されている。
高効率化を目標とした遠心型羽根車の特許としては、例えば、特許文献1(特許第4612084号)では、羽根前縁の形状を中央で凹、端部で凸形状として、羽根車内部での剥離を抑制している。」
(ウ)「【0022】
図1および図2において、羽根車1は回転中心Oに図示しないモータの出力軸が配置されている。2はモータの出力軸に取り付けられた環状の主板である。この主板2に対向して環状の側板3が一定間隔を置いて設けられている。主板2と側板3との間には、円周方向に一定間隔で複数の翼(羽根)4が、内径側から外径側に向けて反回転方向に径が大きくなるように、それぞれ傾斜して設けられている。羽根車1は、軸方向から吸引した空気を径方向に昇圧して吐出するものである。
【0023】
図1,図2に示す実施例では、翼4の外周を成す円の直径φDは200mmであり、翼4の内周を成す円の直径は本発明の請求項に従い、φD×0.62=124mmである。また、翼4の入口角β1は本発明の請求項に従い、10度であり、翼4の出口角β2についても本発明の請求項に従い、10度としてある。
【0024】
ここで、翼4の入口角β1と翼4の出口角β2について、拡大図を用いて説明する。図3は翼4の入口角β1部分を拡大したものである。図3において、翼内周を成す円6と翼中心線7との交点における翼内周を成す円6の接線11と翼中心線7の接線12との成す角度、すなわち図3においては8が翼入口角β1となる。
【0025】
また、図4は翼4の出口角β2部分を拡大したものである。同様に、図4において、翼外周を成す円5と翼中心線7との交点における翼外周を成す円の接線10と翼中心線の接線13とが成す角、すなわち図4において9が翼出口角β2となる。
翼4の数については任意であるが、一般に翼4の干渉による騒音は翼数の公倍数に比例した周波数で発生するため、騒音を低減させるために翼数を素数とする例が多い。実施例においても、翼数を素数である11とした。また、羽根車1の厚さについても任意であるが、実施例では30mmとした。」
(エ)「【0028】
すなわち、従来の羽根車51では羽根車を回転させるエネルギのうち50%が流体エネルギに変換されているのに対して、本発明の羽根車1では羽根車を回転させるエネルギの62%が流体エネルギに変換されていることになり、12%効率が向上していることがわかる。」
(オ)「【0055】
ここで、羽根車外径すなわち、翼内周を成す円の直径が最初の解析では190mmで、今回の解析では200mmとしているが、前述のように、羽根車外径と羽根車内径については、相似形状の羽根車内の流れは相似になることから、羽根車内径と羽根車外径の絶対値ではなく、羽根車内径と外形との比が問題となる。そのため、本発明に至る解析において、羽根車外径が異なっていても、羽根車内径と外径との比率を求めることが目的であり、羽根車外径が一部異なっていても、その影響はないと言える。
【0056】
その結果、翼内周を成す円の直径については、翼外径を成す円の直径が200mmでの解析で、図11に示すように、124mmで送風効率の最大値がもっとも大きくなることがわかった。一連の解析での翼外周を成す円の直径は200mmであるから、翼内周を成す円の直径が、翼外周を成す円の直径の、0.62倍のときに、送風効率ηがもっとも大きくなることがわかる。
【0057】
また、翼入口角β1については、図12に示すように、10度で送風効率ηがもっとも大きくなることが、翼出口角β2についても、図13に示すように、10度で送風効率ηがもっとも大きくなることがわかった。」
(カ)「【0065】
したがって、効率が大きく変化しない範囲で最適寸法を設定する必要がある。翼入口角と出口角での計算と同様に、効率差が0.01未満であれば、実質同等とみなすとすると、翼の内周を成す円の直径が120mmから135mmの範囲で、最大効率の違いは0.01未満となり、同等の効率とみなせる。翼外周の成す円の直径はいずれでも200mmであるから、翼外周を成す円の直径に対する翼内周を成す円の直径の最適割合は、0.60から0.67となり、前記最適寸法の範囲で送風効率ηの違いは0.01未満となり、実質同等の効率となる。これが本願請求項にある翼の外周を成す円の直径Dに対して、翼の内周を成す円の直径が0.60×D~0.67×Dとする技術的根拠である。」
(キ)
【図1】
[図:0001421349000001.jpg]
【図2】
[図:0001421349000002.jpg]
【図3】
[図:0001421349000003.jpg]
【図4】
[図:0001421349000004.jpg]
【図12】
[図:0001421349000005.jpg]
【図13】
[図:0001421349000006.jpg]
イ 甲1に記載された発明
以上のア(ア)~(キ)の記載を総合して、本件発明の表現に倣って整理すると甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「環状の主板2と、上記主板2に対向して一定間隔を置いて設けられる環状の側板3と、主板2と側板3との間に設けられた複数の翼4とを備え、
軸方向から吸引した空気を径方向に昇圧して吐出する羽根車1であって、
翼4の外周を成す円5の直径φDは200mmであり、翼4の内周を成す円6の直径はφD×0.62=124mmであり、
翼4の内周を成す円6と翼中心線7との交点における翼4の内周を成す円6の接線11と翼中心線7の接線12との成す角度である翼入口角β1は10度であり、翼4の外周を成す円5と翼中心線7との交点における翼4の外周を成す円5の接線10と翼中心線7の接線13とが成す角である翼出口角β2は10度である
羽根車1。」
3 当審の判断
(1)理由1(特許法第29条第1項)、(2)理由2(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
(ア)甲1発明の「環状の主板2」、「環状の側板3」及び「翼4」は、それぞれ本件発明1の「円径のエンドプレート」、「環状のシュラウド」及び「翼部材」に相当する。
(イ)甲1発明の「羽根車1」は、甲1の段落0001等から「後ろ向き羽根を備えた遠心型羽根車」であり、「高い送風効率の空気清浄装置、空調機器、送風および換気用ファンに用いる遠心型羽根車」であることから、本件発明1の「ターボファン」に相当する。
また、甲1発明の「羽根車1」は、「主板2」と「側板3」が環状であるとともに、「軸方向から吸引した空気を径方向に昇圧して吐出する」ことから、「主板2と側板3との間」の「翼4」が配置された「環状の部分」で空気を昇圧していることは明らかであり、甲1発明の「羽根車1」は、本件発明1の「上記エンドプレート(31)と上記シュラウド(32)の間の空間のうち上記翼部材(33)が配置された環状の部分が昇圧用流路(43)であ」るとともに、「昇圧用流路の内周側から外周側へ向かって空気を流す」といえる。
さらに、甲1の段落0022の「羽根車1は回転中心Oに図示しないモータの出力軸が配置されている」及び段落0028の「本発明の羽根車1では羽根車を回転させるエネルギの62%が流体エネルギに変換されている」ことから、甲1発明の「羽根車1」は、回転することによって「軸方向から吸引した空気を径方向に昇圧して吐出する」ことは明らかであり、本件発明1の「回転することによって上記昇圧用流路(43)の内周側から外周側へ向かって空気を流す」構成を有しているといえる。
してみると、甲1発明の「軸方向から吸引した空気を径方向に昇圧して吐出する羽根車1」は、本件発明1の「上記エンドプレート(31)と上記シュラウド(32)の間の空間のうち上記翼部材(33)が配置された環状の部分が昇圧用流路(43)であり、回転することによって上記昇圧用流路(43)の内周側から外周側へ向かって空気を流すターボファン」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「円形のエンドブレートと、上記エンドプレートと対向する円環状のシュラウドと、上記エンドプレートと上記シュラウドの間に配置された複数の翼部材とを備え、
上記エンドプレートと上記シュラウドの間の空間のうち上記翼部材が配置された環状の部分が昇圧用流路であり、
回転することによって上記昇圧用流路の内周側から外周側へ向かって空気を流すターボファン。」
(相違点)
本件発明1は、「上記シュラウド(32)の上記昇圧用流路(43)に臨む面は、上記シュラウド(32)とエンドプレート(31)の間隔がターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲し、上記昇圧用流路(43)の断面積が、該昇圧用流路(43)の上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加している」のに対し、甲1発明は、「環状の側板3」が、「環状の主板2に対向して一定間隔を置いて設けられ」、「翼4の外周を成す円5の直径φDは200mmであり、翼4の内周を成す円6の直径はφD×0.62=124mm」であるものの、かかる構成を有しているか明らかでない点。
イ 判断
(ア)まず、「昇圧用流路」の断面積について検討する。
甲1発明は「主板2に対向して一定間隔を置いて設けられる環状の側板3」を備えていることから、「環状の主板2」と「環状の側板3」の間隔は一定であると認められる。この場合、甲1発明の「羽根車1」において、羽根車1の回転中心O(段落0022、図1)からの距離を半径とする円を底面とし、「環状の主板2」と「環状の側板3」の間隔を高さとする円筒の側面積は、回転中心Oからの距離に比例して増加することとなる。そして、甲1発明の「翼4の外周を成す円5の直径φDは200mmであり、翼4の内周を成す円6の直径はφD×0.62=124mmであ」ることを踏まえると、「翼4」の外周を成す「円5」を底面とする円筒の「側面積」は、「翼4」の内周を成す「円6」を底面とする円筒の「側面積」に対して、200/124=1.61倍に増加することとなる。また、甲1発明の羽根車1における上記「側面積」は、本件発明1の断面積に相当し、甲1発明の羽根車1における「翼4」の内周を成す「円6」の箇所及び「翼4」の外周を成す「円5」の箇所は、それぞれ本件発明1の「上流端」及び「下流端」に相当する。
してみると、上記のとおり、甲1発明の羽根車1における「側面積」は、羽根車1の回転中心Oからの距離に比例して次第に増加すること及び「翼4」の外周を成す「円5」を底面とする円筒の側面積が、「翼4」の内周を成す「円6」を底面とする円筒の「側面積」の1.61倍であることから、甲1発明の羽根車1における「翼4」の内周を成す「円6」の箇所から「翼4」の外周を成す「円5」の箇所にかけて上記「側面積」は、次第に増加しているといえ、甲1発明の羽根車1は、本件発明1の「昇圧用流路(43)の断面積が、該昇圧用流路(43)の上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加している」という構成を有しているといえる。
(イ)次に、「円環状のシュラウド」の形状について検討する。
本件発明1においては、「上記シュラウド(32)と上記エンドプレート(31)の間隔が上記ターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲」する構造において、ターボファンの昇圧作用を向上させる目的でディフューザ作用に着目し、昇圧用流路(43)の断面積を、上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加する構成としたものである(本願明細書の段落0049及び0053参照)。
一方、甲1発明は、本件発明1のシュラウドに相当する「環状の側板3」を備えた「羽根車1」であるが、「環状の側板3」は「環状の主板2」に「対向して一定間隔を置いて設けられる」ことから、本件発明1の「シュラウド(32)」の構造とは異なるものであり、甲1には、「環状の側板3」と「環状の主板2」との間隔を径方向側に向かって次第に短くなるように湾曲させることを示唆する記載もない。
したがって、甲1発明において「環状の側板3」を上記相違点のように、「環状の主板2」との間隔を径方向側にむかって次第に短くなるように湾曲させる構成とすることは当業者にとっても容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)仮に、甲1発明において、「環状の側板3」を、「環状の主板2」との間隔が径方向側に向かって次第に短くなるように湾曲させることが容易であるとした場合について検討する。
その場合、「環状の主板2」と「環状の側板3」の間隔は一定とならないため、上記(ア)で検討した、甲1発明の「側面積」について、「翼4」の内周から外周にかけて次第に増加するかは不明である。そして、甲1発明は、例えば甲1の段落0016に「本発明が解決しようとする課題は、高効率の遠心型羽根車の設計に際し、必要不可欠な3つの設計寸法、すなわち、羽根車内径と羽根車外径との比と翼入口角と翼出口角とを明らかにすることであり、この3つの設計寸法が明らかになれば、誰でも容易に、高効率の遠心型羽根車を設計することが可能となる。」と記載されているように、高効率とするために翼入口角と翼出口角に注目したものであり、仮に「環状の側板3」の形状を変えた場合において、昇圧流路の断面積をどのようにするかについての示唆はされていない。
したがって、甲1発明において「環状の側板3」を、「環状の主板2」との間隔が径方向側に向かって次第に短くなるように湾曲させたとしても、さらに昇圧用流路の断面積を、上流端から下流端へ向かって次第に増加するような構成とする動機付けもなく、また周知技術ともいえないことから、当業者といえども甲1発明において、上記相違点に係る構成のようにすることは容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1は、シュラウドとエンドプレートの間隔が径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲する構成を備えたターボファンにおいて、昇圧用流路の断面積を下流側へ向かって次第に増加する構成としたことで、昇圧作用を向上するといった効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるといえず、また、当業者が甲1発明に基いて容易に発明することができたものではない。
ウ 本件発明2乃至6について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2乃至6は、本件発明1を特定するための事項をすべて含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2乃至6は、甲1に記載された発明であるといえず、また、本件発明2乃至6は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立ての理由について
1 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立ての理由の概要は、次のとおりである。
(1)進歩性について
ア 本件特許1の構成要件である「上記昇圧用流路(43)の断面積が、該昇圧用流路(43)の上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加していることを特徴とする」について、甲第3号証(特開平10-153194号公報)には「ファン本体1と側板5の間隔が入口側から出口側に向かって狭くなる遠心ファン(図6)」及び「出口/入口面積比が0.5~1.13まで変化したときの騒音と風量を測定した結果(段落0007、図5)」との記載が開示されている旨、主張している(特許異議申立書13頁1~9行)。
イ そして特許権者が令和6年7月26日提出の訂正請求書において、請求項1に「上記シュラウド(32)の上記昇圧用流路(43)に臨む面は、上記シュラウド(32)と上記エンドプレート(31)の間隔が上記ターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲し」との訂正をおこなったことに対して、令和6年9月13日提出の意見書において改めて「訂正後の請求項1に係る発明は、異議申立書で引用した甲第3号証(特開平10-153194号公報)に記載の発明(以下、「甲3発明」と称します)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものです。」(意見書2頁下から3行~最終行)と主張しているので、以下検討する。
ウ 異議申立人の主張1
「甲3発明の図4には、ファン本体1と対向することで昇圧用流路を形成するファンガイド4の対向面が径方向外側に向かってファン本体1との間隔が小さくなるように湾曲している遠心ファンが記載されています。・・・これによれば、訂正後の請求項1の「シュラウド(32)と上記エンドプレート(31)の間隔が上記ターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲している」との構成1Fは、甲3から容易想到です。」(意見書3頁下から5行目~4頁2行目)
甲3【図4】
[図:0001421349000007.jpg]
エ 異議申立人の主張2
「甲3発明には、出口/入口面積比が0.5~1.13まで変化したときの騒音と風量を測定した結果が記載されています(段落0007、図5)。従来の遠心ファンの例としてS2/S1=1.13との記載があります。これは、流路断面積が入口から出口に向かって次第に増加していることを意味します。・・・よって、訂正後の請求項1に係る発明は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものです。」(意見書4頁7行目~5頁2行目)
甲3【図5】
[図:0001421349000008.jpg]
オ 異議申立人の主張1及び2について
甲3発明は、「騒音低減を可能とした遠心ファンに関するもの」(段落0001)であり、課題を解決するための手段として「遠心ファンの各羽根間の間隔と羽根の高さの積からなる面積及び半径との積を各半径位置においてほぼ等しくすることにより流速と周速の比を等しくし、羽根内の空気の流れを円滑にすることによって達成できる」(段落0004)、「この時、λ1=λ2とすれば流速と周速Uの比は等しくなり、空気の流れを円滑にできる。そのためにはS1×D1=S2×D2とすればよい」(段落0006、S1は入口部面積、S2は出口部面積、D1は内径、D2は外径)と記載されている。
そうすると、甲3発明において遠心ファンの出口部面積S2は入口部面積S1よりも小さい構成を備えているということができ、甲3発明の実施例の断面図を示す【図4】(段落0010)は、出口部面積S2が入口部面積S1よりも小さいと推察できる。
また、異議申立人の主張2において、「従来の遠心ファンの例としてS2/S1=1.13との記載があります。これは、流路断面積が入口から出口に向かって次第に増加していることを意味します。」と述べているが、【図5】を参照すると、S2/S1が1.0より大きいと騒音レベルが大きく、S2/S1=1.13は、甲3発明において採用を想定されない数値を示すものだと理解できる。そして、「ファン本体1と対向することで昇圧用流路を形成するファンガイド4の対向面が径方向外側に向かってファン本体1との間隔が小さくなるように湾曲している遠心ファン」を示す【図4】は、甲3における本発明の実施例を示す図であることから、S2/S1=1.13であるときの構成を示すものではないといえる。
したがって、甲3には、本件発明における「上記シュラウド(32)の上記昇圧用流路(43)に臨む面は、上記シュラウド(32)と上記エンドプレート(31)の間隔が上記ターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲し、上記昇圧用流路(43)の断面積が、該昇圧用流路(43)の上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加している」構成は記載も示唆もされていないことから、当業者が容易に本件発明1に想到し得たものということはできない。
カ また、異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許1の構成要件である「上記昇圧用流路(43)の断面積が、該昇圧用流路(43)の上流端(43a)から下流端(43b)へ向かって次第に増加していることを特徴とする」点について、甲第2号証(特許第5823192号公報)の段落0009及び図4に記載されている旨、主張している(第2頁証拠欄「甲第2号証」)。
しかし、上記相違点(第4 3(1)ア(ウ))で述べた「上記シュラウド(32)の上記昇圧用流路(43)に臨む面は、上記シュラウド(32)とエンドプレート(31)の間隔がターボファンの径方向の外側に向かって次第に短くなるように湾曲し」との構成は記載も示唆もされていないことから、本件発明1は、甲第2号証を参照しても、当業者が甲1発明から容易に発明できたものとはいえない。
以上により、申立人の主張は採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許1~6は、取消理由通知に記載した取消理由1、2及び特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1~6を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700242