特許異議申立
2022-701008
非発酵ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2022-701008
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-010597
- 登録番号
- 7053150
- 請求日
- 2022年10月12日
- 審決日
- 2023年09月14日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】永井 浩之
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【権利者代理人】朝倉 悟
- 【権利者代理人】反町 洋
- 【権利者代理人】佐藤 泰和
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.537-ZAA(A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7053150号発明「非発酵ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7053150号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4、5について訂正することを認める。
特許第7053150号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7053150号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成29年1月24日を出願日とする特許出願であって、令和4年4月4日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許に対して、令和4年10月12日に特許異議申立人 田中 眞喜子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年12月20日付けで取消理由が通知され、令和5年2月20日に特許権者 キリンホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求がされるとともに意見書の提出がされ、同年3月2日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年4月4日に特許異議申立人より意見書が提出され、同年同月28日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、同年6月30日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年7月7日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年8月10日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
なお、令和5年2月20日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年6月30日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、訂正要件についての判断の便宜上、令和5年6月30日に提出された訂正請求書における訂正事項の番号を当審において整理し、通番とした。また、下線は、訂正箇所について当審が付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において「アラニン含有量が10ppm以上であり」を「アラニン含有量が10ppm以上(25~28ppmの範囲を除く)であり」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2及び3も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6である」を「プロリン含有量/アラニン含有量比が2.36~6である」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2及び3も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2において「アラニン含有量が10~80ppmである」を「アラニン含有量が10~80ppm(25~28ppmの範囲を除く)である」に訂正する。
請求項2の記載を引用して特定する請求項3も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3において、「プロリン含有量/アラニン含有量比が1.5~6である」を「プロリン含有量/アラニン含有量比が3~6である」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4において、「アラニン含有量が10ppm以上であり」を「アラニン含有量が10ppm以上(25~28ppmの範囲を除く)であり」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4において、「プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6となるように」を「プロリン含有量/アラニン含有量比が2.36~6となるように」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5において、「プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6となるように」を「プロリン含有量/アラニン含有量比が2~6となるように」に訂正する。
(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし3について、請求項2ないし3は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、請求項1ないし3は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び2による請求項1ないし3の訂正について
訂正事項1による請求項1の訂正は、「アラニン含有量」の数値範囲を「10ppm以上」から「10ppm以上(25~28ppmの範囲を除く)」へ狭めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2による請求項1の訂正は、「プロリン含有量/アラニン含有量比」の数値範囲を「1~6」から「2.36~6」へ狭めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び訂正事項2による請求項1の訂正は、いずれも、特許権者に通知した取消理由及び取消理由<決定の予告>において甲第1号証から認定された発明を除くものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲の全てを統合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1及び2による請求項1の訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2及び3の訂正についても同様である。
なお、特許異議申立人は、令和5年8月10日付け意見書の第6~8頁において、上記訂正が新規事項の追加に該当する旨主張するが、上記のとおり、上記訂正は上記取消理由において証拠から認定された発明を除くものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲の全てを統合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、上記主張は採用できない。
(2)訂正事項3による請求項2ないし3の訂正について
訂正事項3による請求項2の訂正は、「アラニン含有量」の数値範囲を「10~80ppm」から「10~80ppm(25~28ppmの範囲を除く)」へ狭めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項2の訂正は、特許権者に通知した取消理由及び取消理由<決定の予告>において甲第1号証から認定された発明を除くものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲の全てを統合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項3による請求項2の訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2の記載を引用して特定する請求項3の訂正についても同様である。
なお、特許異議申立人は、令和5年8月10日付け意見書の第6~8頁において、上記訂正が新規事項の追加に該当する旨主張するが、上記(1)と同様の理由により、上記主張は採用できない。
(3)訂正事項4による請求項3の訂正について
訂正事項4による請求項3の訂正は、「プロリン含有量/アラニン含有量比」の数値範囲を「1.5~6」から「3~6」へ狭めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4による請求項3についての訂正は、明細書の【表2】の試験区12の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項5及び6による請求項4の訂正について
訂正事項5による請求項4の訂正は、「アラニン含有量」の数値範囲を「10ppm以上」から「10ppm以上(25~28ppmの範囲を除く)」へ狭めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6による請求項4の訂正は、「プロリン含有量/アラニン含有量比」の数値範囲を「1~6」から「2.36~6」へ狭めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5及び6による請求項4の訂正は、特許権者に通知した取消理由及び取消理由<決定の予告>において甲第1号証から認定された発明を除くものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲の全てを統合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項5及び6による請求項4の訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、特許異議申立人は、令和5年8月10日付け意見書の第6~8頁において、上記訂正が新規事項の追加に該当する旨主張するが、上記(1)と同様の理由により、上記主張は採用できない。
(5)訂正事項7による請求項5の訂正について
訂正事項7による請求項5の訂正は、「プロリン含有量/アラニン含有量比」の数値範囲を「1~6」から「2~6」へ狭めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項7による請求項5についての訂正は、明細書の【表1】の試験区2の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし7による請求項1ないし5についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし7による請求項1ないし5についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4、5について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
アラニン含有量が10ppm以上(25~28ppmの範囲を除く)であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が2.36~6である、麦汁を原料とする非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
アラニン含有量が10~80ppm(25~28ppmの範囲を除く)である、請求項1に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項3】
プロリン含有量/アラニン含有量比が3~6である、請求項1または2に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項4】
麦汁を原料とする非発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、アラニン含有量が10ppm以上(25~28ppmの範囲を除く)であり、およびプロリン含有量/アラニン含有量比が2.36~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整する工程を含んでなる、方法。
【請求項5】
麦汁を原料とする非発酵ビールテイスト飲料におけるビールらしい飲み応えを増強する方法であって、アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が2~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整することを含んでなる、方法。」
第4 特許異議の申立ての理由の概要
令和4年10月12日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第5号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、次の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明は、非発酵ビールテイスト飲料における「プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6である」ことで所望の課題を解決できるとしている。しかしながら、本件実施例において示されている「プロリン/アラニン比」は添加量の比率であり、非発酵ビールテイスト飲料における比率(麦汁由来の成分量と添加量との合計量同士の比率)は示されていない。
即ち、本件明細書の実施例においては、一般的な仕込工程により得られた麦汁に対して炭酸水等を加え、貯蔵した後に濾過を行い、この濾過後の液(即ち、一般的な方法で得られた非発酵ビールテイスト飲料)に対して所定の濃度となるようアラニンおよびプロリン、並びにビール風味香料を添加して試験区1~7や試験区8~15のサンプルを調製している(本件明細書の段落0025、0029)。
ここで、上記サンプルの調製方法では、麦汁からプロリン、アラニンを除去する工程などは特段記載されていない。従って、試験区1~15のサンプル中には、添加されたプロリン、アラニン以外にも、麦汁に由来するプロリン、アラニンが相当量含まれている筈である(麦汁中にプロリン、アラニンが含まれることは証拠を示すまでもなく技術常識であるが、要すれば甲第3号証、甲第4号証を参照)。
一方、本件明細書の試験区1(表1)、試験区9(表2)では、プロリン濃度が「0ppm」と記載されているが、試験区1~15のサンプル中には麦汁に由来するプロリンが必ず含まれている筈であるから、表1、2に記載された「プロリン濃度」は、サンプル中のプロリン濃度ではなくサンプルに添加した「プロリンの添加量」であり、試験区1、9ではプロリンを添加しなかったとみるのが自然であり、同様に記載された「アラニン濃度」についても「アラニンの添加量」であると考えられる。このことは、表1、2の表題が「ビールテイスト飲料へのアラニンおよびプロリンの添加による風味の影響」と記載されていることとも符合する。
このように、本件実施例で具体的に開示されているのはプロリンやアラニンの「添加量」であり、非発酵ビールテイスト飲料中の含有量(麦汁由来の成分量と添加量との合計量)は何ら具体的に示されていないのであるから、本件特許発明の特徴である非発酵ビールテイスト飲料中の「プロリン含有量/アラニン含有量比」についても具体的に示されているとはいえず、請求項で規定された比率(1~6)の数値範囲内であっても所望の課題を解決できるとは理解できない。
5 証拠方法
甲第1号証:再表2010/079634号公報
甲第2号証:西野伊史・大場俊輝・佐藤信「麦芽飲料のタイプの解析」J. Brew. Soc. Japan, Vol. 78, No. 8, p.637-640 (1983)
甲第3号証:D.E.Briggs「Barley」p.510-511, 1978
甲第4号証:特開2006-262860号公報
甲第5号証:特開2016-144409号公報
甲第6号証:国際公開第2014/156735号
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第5 取消理由通知<決定の予告>における取消理由の概要
当審が令和5年4月28日付けで特許権者に通知した取消理由通知<決定の予告>における取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、取消理由1は申立理由1の一部であり、取消理由4は申立理由4と実質的に同じである。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 取消理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由の判断
当審は、以下のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、依然として、取消理由4によって取り消すべきものであると判断する。
1 主な証拠に記載された事項
(1)甲1に記載された事項
甲1にはおおむね次の事項が記載されている。
・「【0049】
実施例1:完全無アルコールのビール風味飲料の製造およびその評価
(1)麦汁の調製
仕込槽に麦芽粉砕物200kgと温水700Lを加えて混合し、50~76℃で糖化を行った。糖化工程終了後、これを麦汁濾過槽において濾過して、その濾液として透明な麦汁を得た。
【0050】
得られた麦汁を煮沸釜に移し、これに液糖を主体とする副原料80kg(固形分換算)を加え、更にホップを1kg加えて、100℃で煮沸した。煮沸した麦汁をワールプール槽に入れて、乳酸をpH4.0になるように添加した。次いで、沈殿により生じたタンパク質などの粕を除去した。この際、煮沸後の麦汁に温水を加え、糖度を7%に調整した。得られた麦汁(1,800L)をプレートクーラーで4℃まで冷却し、脱気水を加えて珪藻土濾過機により濾過して後述の官能評価試験と成分分析に供する麦汁(糖度4%)を得た。なお、振動式密度計により測定した20℃における密度を糖度(%)とした。
・・・(略)・・・
【0067】
(4)成分分析
調味成分が添加されていない麦汁と、(3)で酸味の低減・緩和効果と味の調和効果が確認された調味成分が添加された麦汁について、pHおよび酸度を測定するとともに、アミノ酸および有機酸の濃度を測定した。
・・・(略)・・・
【0070】
分析結果は以下の通りであった。
【表7】
[図:0001406681000001.jpg]
」
(2)甲4に記載された事項
甲4にはおおむね次の事項が記載されている。なお、下線は説明のために当審で付したものである。
・「【0051】
<実施例1>
実施例1では、麦芽、並びに副原料として澱粉質、水飴、ホップ及び大麦水飴を使用し、図1に示した工程によって発泡酒を製造した。図1に示すように実施例1では煮沸工程において大麦水飴を麦汁に添加した。なお、水を除く全原料の質量を基準として大麦水飴の使用量は6質量%とした。主原料である麦芽及び副原料の配合量を表2に示す。表2に示すように、麦芽の使用量は、水を除く全使用原料の22.9質量%とした。なお、水飴としては通常、発泡酒の製造に用いられるものを使用した。また、大麦水飴としては上記の大麦水飴の製造例で製造したアミノ酸濃度が2.5質量%の大麦水飴を使用した。
【0052】
まず、麦芽151g及び澱粉質51gを仕込槽に入れ、さらに1Lの温水を加えて混合し、温度条件40~60℃で30分間保持し(マイシェ形成工程)、麦芽に含まれる酵素を用いて澱粉質を糖分に変えてマイシェ(糖化液)を得た(糖化工程)。
【0053】
この糖化液を濾過し、麦汁を得た(濾過工程)。この麦汁を煮沸釜に移し、水飴410g及び大麦水飴40gを加え、さらに温水を加えることで麦汁の各種成分の濃度を調整した。この煮沸釜にさらにホップ7gを加えて煮沸し(煮沸工程)、煮沸の終了後に沈殿物を分離、除去した(沈殿工程)。その後、煮沸後の麦汁を8~10℃まで冷却した(冷却工程)。
【0054】
この麦汁を2つの発酵槽に分け、主発酵を行った(発酵工程)。発酵工程においては、2種類の酵母を用意し、それぞれの発酵槽内の麦汁に別々の酵母を接種した。酵母としては通常、発泡酒の製造に用いられるものであり、バッチの異なる2種類の酵母を使用した(以下、2種類の酵母を「酵母A」及び「酵母B」という)。
【0055】
主発酵はEBC所定法(EBCAnalytica Microbiologica 1977)に準じて行った。具体的には、EBC発酵管を用いて2.5Lの麦汁で行い、酵母は2質量%(50%泥状度)になるように添加した。発酵温度は13.5℃一定とし、発酵期間は麦汁の発酵の進行に応じて決定した。
【0056】
2つの発酵槽で得られた発酵液を別々の貯酒槽にて温度条件10℃で7日間保持した後、0℃で2週間保持し、発酵液を後発酵させた(熟成工程)。これによって2種類の発泡酒を得た。すなわち、酵母Aによる発酵工程を経て製造された発泡酒及び酵母Bによる発酵工程を経て製造された発泡酒を得た。
【0057】
<比較例1>
比較例1では、煮沸工程において大麦水飴を麦汁に添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、酵母Aによる発酵工程を経て製造された発泡酒及び酵母Bによる発酵工程を経て製造された発泡酒を得た。主原料である麦芽及び副原料の配合量を表2に示す。表2に示すように、麦芽の使用量は、水を除く全使用原料の24.4質量%である。」
・「【0070】
表6は実施例1及び比較例1,2における発泡酒の製造工程において発酵工程前の冷麦汁を採取して、アミノ酸分析を行った結果を示す表である。実施例1と比較例1,2とを比較すると酵母の栄養源となりやすいアミノ酸(特に表6のNo.1~13)が増加している。このことは発泡酒のような麦芽の少ない原料で製造するアルコール飲料において大麦水飴は酵母の栄養源として働き、アルコール発酵をより促進し、好ましいアルコール飲料の製造に寄与していると考えることができ、このことは実施例1及び比較例1,2の発泡酒に対する各種試験及び測定結果と一致するものである。
【0071】
【表6】
[図:0001406681000002.jpg]
」
2 取消理由4(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これを踏まえ、以下検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「詳細な説明」という。)には、おおむね次の記載がある。
・「【0006】
本発明者らは、非発酵ビールテイスト飲料の製造において、アラニンの含有量およびアラニンとプロリンの含有比率を所定の範囲内に調整することにより、コク(ボディ感)を付与し、後渋味を低減し、ビールらしい飲み応えを付与することができることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明は、コクを付与し、後渋味を低減した、ビールらしい飲み応えを有する非発酵ビールテイスト飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6である、非発酵ビールテイスト飲料。
(2)アラニン含有量が10~80ppmである、(1)に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
(3)プロリン含有量/アラニン含有量比が1.5~6である、(1)または(2)に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
(4)非発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、アラニン含有量が10ppm以上であり、およびプロリン含有量/アラニン含有量比が1~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整する工程を含んでなる、方法。
(5)非発酵ビールテイスト飲料におけるビールらしい飲み応えを増強する方法であって、アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整することを含んでなる、方法。
【0009】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、本来のビールのビールらしい飲み応えを奏する点で有利である。特に、本発明によれば、アルコールをほとんど含まない点と豊かなビール風味という需要者のニーズに同時に応えることができる点で有利であるといえる。」
・「【0013】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、アラニンを所定の濃度範囲で含んでおり、さらには、アラニンとプロリンの重量比も所定の範囲内にある。これにより、コク(ボディ感)が増強され、後渋味が低減され、ビールらしい飲み応えを得ることが可能となる。
【0014】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、アラニン含有量およびプロリン含有量を調整することにより製造することができる。アラニン含有量およびプロリン含有量の調整は、例えば、非発酵ビールテイスト飲料の製造過程においてアラニンおよび/またはプロリンを添加することによって行ってもよく、また、非発酵ビールテイスト飲料にアラニンおよび/またはプロリンを与える原材料を増減することにより行ってもよい。
・・・(略)・・・
【0017】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料におけるアラニン含有量は10ppm以上とされ、好ましくは10~80ppm、より好ましくは20~80ppmとされる。本発明の非発酵ビールテイスト飲料におけるプロリン含有量/アラニン含有量比は1~6とされ、好ましくは1を超えて6以下、より好ましくは1.5~6、さらに好ましくは2~6とされる。本発明の非発酵ビールテイスト飲料におけるプロリン含有量は特に制限されないが、好ましくは15~320ppm、より好ましくは25~320ppmとされる。」
・「【0022】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、当技術分野においてよく知られている一般的な方法において、いずれかの段階でアラニンおよびプロリンの含有量を調整することによって製造することができる。このような一般的な方法としては、例えば、麦汁の調製工程および濾過工程を含む方法が挙げられ、この方法は、例えば、(a)麦芽粉砕物と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得る工程、(b)得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸する工程、(c)煮沸した麦汁を冷却する工程、および(d)冷却した麦汁を濾過する工程を順次行うことによって実行することができる。
【0023】
本発明の他の態様によれば、非発酵ビールテイスト飲料におけるビールらしい飲み応えを増強する方法が提供され、該方法は、アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整することを含んでなる。
【実施例】
【0024】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1:非発酵ビールテイスト飲料におけるアラニンおよびプロリンの濃度調整による風味への影響(その1)
(1)サンプルの調製
麦芽1kgを適当な粒度に粉砕して仕込槽に入れ、これに3Lの温水を加え、65℃で30分保持後、徐々に昇温して76℃で30分間、糖化を行った。糖化終了後、82℃まで昇温後、濾紙を用いて濾過を行い、濾液を得た。この濾過液1Lにホップを約1g添加し、100℃で60分間煮沸した。煮沸後の液を濾紙を用いて濾過を行い、約5℃に冷却した。適宜、糖度が7.0°Pになるよう、湯を加えて麦汁を調整した。この麦汁に炭酸水および炭酸ガスを加え、2~4℃で24時間貯蔵し、その後濾過を行った。この濾過後の液に、所定の濃度となるようアラニンおよびプロリン、並びにビール風味香料を添加した。こうして、試験区1~7の各サンプルを得た。
【0026】
(2)官能評価
官能評価の評価項目として、ビールらしい飲み応えを設定した。ここでは、ビールらしい飲み応えを、コク(ボディ感)が付与され、後渋味の低減された風味であると定義し、この風味の強度を1(弱い)~9(強い)の9段階で評価した。官能評価は、訓練された5名のパネルによって実施し、各パネルの評価の平均値を算出した。この評価結果の平均値から導き出される総合評価は以下の通りである:
A:平均値が7.0以上:優れた飲み応えが認められる。
B:平均値が5.5以上7.0未満:良好な飲み応えが認められる。
C:平均値が3.5以上5.5未満:飲み応えは認められるが弱い。
D:平均値が3.5未満:飲み応えは認められない。
【0027】
(3)結果
上記の官能評価の結果を、各試験区におけるアラニンおよびプロリンの濃度並びにプロリン/アラニン濃度比とともに表1に示す。
[図:0001406681000003.jpg]
【0028】
官能評価の結果、アラニン濃度が20~80ppm、プロリン濃度が40ppm以上である試験区2~6では、良好な飲み応え(B)、あるいは優れた飲み応え(A)が認められた。一方で、プロリン濃度が0ppmの試験区1では飲み応えは認められず(D)、プロリン濃度が40ppmの試験区2では、プロリン濃度が80ppmの試験区3に比べて飲み応えの評価が劣ることから、飲み応えが認められるためにはアラニンに対して一定量のプロリン濃度が必要であることが分かった。次に、アラニン濃度が120ppmの試験区7は、飲み応えは認められるが弱い(C)と評価された。また、試験区7のサンプルは、渋味、酸味およびエグ味が強く感じられた。
【0029】
実施例2:非発酵ビールテイスト飲料におけるアラニンおよびプロリンの濃度調整による風味への影響(その2)
(1)サンプルの調製
アラニンおよびプロリンの濃度を以下の表2の通りに変更した以外は、実施例1の方法に従って、試験区8~15のサンプルを調製した。
【0030】
(2)官能評価
サンプルの官能評価は、実施例1と同じ手法を用いて、訓練された6名のパネルによって実施した。
【0031】
(3)結果
上記の官能評価の結果を、各試験区におけるアラニンおよびプロリンの濃度並びにプロリン/アラニン濃度比とともに表2に示す。
[図:0001406681000004.jpg]
【0032】
官能評価の結果、アラニン濃度が20ppm、プロリン濃度が40~120ppmである試験区11~13では、良好な飲み応え(B)、あるいは優れた飲み応え(A)が認められた。一方で、アラニン濃度が5ppmである試験区8では、飲み応えは認められなかった(D)。次に、プロリン濃度が0ppmである試験区9では飲み応えは認められなかった(D)。プロリン濃度が20ppmの試験区10では、プロリン濃度が40ppmの試験区11に比べて飲み応えの評価がやや劣っていた。次に、プロリン濃度が140ppmの試験区14およびプロリン濃度が160ppmの試験区15では、プロリン濃度が120ppmの試験区13に比べて飲み応えの評価がやや劣っていた。また、試験区14および15のサンプルは、渋味、酸味およびエグ味が強く感じられた。
【0033】
実施例1および実施例2の官能評価の結果より、アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6の場合に、良好な飲み応え、あるいは優れた飲み応えが認められると考えられる。」
(4)判断
詳細な説明の【0006】及び【0007】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「コク(ボディ感)を付与し、後渋味を低減した、ビールらしい飲み応えを有する非発酵ビールテイスト飲料とその製造方法を提供すること」ことである。
そして、発明の課題に関し、詳細な説明の【0013】、【0014】及び【0017】には、アラニンを所定の濃度範囲で含むこと、及び、アラニンとプロリンの重量比を所定の範囲内とすることと、「コク(ボディ感)が増強され、後渋味が低減され、ビールらしい飲み応えを有する」こととの関係についての記載があり、この点を裏付けるべく、【0024】ないし【0033】に実施例が記載されている。
そこで、実施例について検討する。【0025】には、試験区1~7のサンプルの調製方法の記載があり、【0029】には、試験区8~15のサンプルを【0025】の方法に従って調製した旨の記載があり、【0026】ないし【0033】において、上記各サンプルの飲み応えを試験し、表1及び2の「アラニン濃度」及び「プロリン濃度」並びに「プロリン/アラニン比」ごとに結果を比較したことが記載されている。
ここで、上記の実施例の調製工程と同様の、糖化工程及び煮沸工程及び濾過工程で得られた通常の非発酵の麦汁のアラニン濃度及びプロリン濃度に関し甲1及び甲4の記載を参酌すると、甲1の表7における「麦汁(対照)」のアラニン濃度が25.2ppmであり、甲4の表6における比較例1の麦汁のアラニン濃度が29mg/L、プロリン濃度が136mg/Lであるとの記載からみて、通常の非発酵の麦汁において、アラニン含有量は25.2ppm程度であり、プロリン含有量は136ppm程度であるものといえる。
してみると、アラニン含有量及び/又はプロリン含有量を上記の通常の非発酵の麦汁における含有量より低いものとするためには、上記の調製工程で得られる麦汁に対し、アラニン含有量及び/又はプロリン含有量を低減する工程を行う必要があるといえるところ、該低減する工程に関し詳細な説明に記載されているのは「濾過工程」のみである。
一般に、「濾過工程」とは不溶分のみを除くことで含有量を低減する工程であるから、該「濾過工程」を行っても、ある物質の含有量を、該物質が溶解する限界量未満の量とすることはできない。そして、アラニン、プロリンの溶解度(すなわち、20℃の水100gに溶解する限界量)がそれぞれ15.8、1.54であり(要すれば、「アミノ酸の物性」<URL: https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/protein-biology/protein-biology-learning-center/protein-biology-resource-library/pierce-protein-methods/amino-acid-physical-properties.html>を参照されたい)、これらを溶液濃度に換算するとそれぞれ15.8g/100mL=158000ppm、1.54g/100mL=15400ppm、と、通常の非発酵の麦汁におけるアラニン及びプロリンの含有量に比して大きな値となることから、上記「濾過工程」を20℃以上で行う場合は、通常の非発酵の麦汁におけるアラニン及びプロリンの含有量を低減することはできないといえる。
また、詳細な説明の【0025】には、「2~4℃で24時間貯蔵し、その後濾過を行った。」とあることから、上記「濾過工程」を2~4℃で行う場合についても検討するに、2~4℃の水100gにアラニン及びプロリンが溶解する限界量が、通常の非発酵の麦汁におけるアラニン及びプロリンの含有量を下回り、上記「濾過工程」を2~4℃で行うことで通常の非発酵の麦汁におけるアラニン及びプロリンの含有量を低減できる、とする技術常識はない。
してみると、上記「濾過工程」では、上記の調製工程で得られる非発酵の麦汁のアラニン含有量及び/又はプロリン含有量を、非発酵の麦汁における通常の含有量未満の値とするように調整することができるとはいえない。
そうすると、上記の実施例の各試験区に関し、上記の実施例に記載の麦汁を調製し濾過して液を得る段階では、該液のアラニン含有量及びプロリン含有量を、通常の非発酵の麦汁における含有量、すなわち、アラニン含有量は「25.2ppm程度」、プロリン含有量は「136ppm程度」、より低減する調整を行うことは困難であるから、上記の「この濾過後の液に、所定の濃度となるようアラニンおよびプロリン、並びにビール風味香料を添加」することで達せられるアラニン含有量は25.2ppm以上であり、プロリン含有量は136ppm以上であるといえる。
これらの点をふまえ、実施例、特に表1及び2における「アラニン濃度」及び「プロリン濃度」をみるに、「アラニン濃度」については、試験区1ないし4及び9ないし15は20ppm、試験区8は5ppmと、いずれも25.2ppm未満の値であるとされ、「プロリン濃度」については、試験区1及び9は0ppm、試験区8及び10は20ppm、試験区2及び11は40ppm、試験区12は60ppm、試験区3は80ppm、試験区4及び13は120ppmと、いずれも136ppm未満の値であるとされ、これらは、詳細な説明の【0025】の「この濾過後の液に、所定の濃度となるようアラニンおよびプロリン、並びにビール風味香料を添加」することで達せられる値であるとはいえない。そうすると、上記の「アラニン濃度」及び「プロリン濃度」を、上記の実施例の試験区のサンプル中のアラニン含有量及びプロリン含有量を意味するものであると理解した場合、該サンプルのうち、試験区1ないし4及び8ないし15のものは、上記の実施例に記載の麦汁を調整し濾過して液を得る方法では得ることができないこととなる。
また、仮に、上記の実施例の試験区のサンプルの調製において、詳細な説明の【0025】の「麦汁に炭酸水および炭酸ガスを加え」る工程において麦汁が希釈されることで、アラニンやプロリンの含有量が低下し、アラニン含有量が25.2ppm以下、プロリン含有量が136ppm以下となるとしても、かかる希釈によって「プロリン濃度」が「0ppm」である試験区1及び9のサンプルとするには、有効数字1桁で表したときに「0」となる、すなわち、0.4ppm以下となるまで希釈を行う必要があり、最低でも、136÷0.4=340倍以上の希釈が行われていることとなるが、そのような条件は詳細な説明には何ら記載も示唆もされていないし、また、当業者が飲料の製造において340倍以上もの希釈を行うとも推定し難い。
してみると、詳細な説明の実施例に記載のサンプルの調製方法では、当業者は、実施例のサンプルを適切に調製することができるとはいえず、当該実施例の記載が適切なものであるとはいえない。
そうすると、詳細な説明の【0013】、【0014】及び【0017】の記載はその裏付けを欠くものとなるから、本件特許発明は、詳細な説明及び技術常識に基づいて発明の課題を解決することができると当業者が認識することはできない。
(5)特許権者の主張について
特許権者は、令和5年6月30日付け意見書の5(3)(iii)第5~7頁において、以下のとおり主張している。
「令和5年2月20日付け意見書では、上記の指摘の通り、得られた麦汁を、プロリン含有量が有効数字1桁で0ppmとなるまで炭酸水で希釈し、これにアラニンおよびプロリンを添加してサンプルを作製したことを説明している。しかし、この説明は誤りであり、正しくは、得られた麦汁を、プロリン含有量が20ppm以下となるまで炭酸水で希釈し、これにアラニンおよびプロリンを添加してサンプルを作製している。そして、このサンプル作製法では、通常の麦汁を約7倍希釈することになるため、薄くなった風味を補填するためにビール風味香料を添加している。
ここで、プロリン含有量が0ppmであるサンプルは、上記の方法では作製できないため、上記とは異なる方法によって作製されている。残念ながら、今となってはその方法の詳細は不明であるが、本発明者らのこれまでの経験から、恐らくは液体中に溶解しているアミノ酸の量を低減するための処理がなされているものと考えられる。アミノ酸量を低減するための処理としては、当技術分野において周知となっている、天然吸着材(例えば白土)を用いてアミノ酸を吸着除去する処理、イオン交換樹脂を用いてアミノ酸を吸着除去する処理、プロリンデヒドロゲナーゼ(プロリン脱水素酵素)を用いてプロリンを除去する処理などが用いられた可能性が高いと思われる。
本件特許明細書の実施例では、得られた麦汁に炭酸水を加えて希釈し、さらにビール風味香料を添加したものを試飲サンプルのベースとして、アラニンとプロリンの濃度調整を行ったことが記載されており(本件特許明細書の段落【0025】)、この手順に従って、プロリン含有量が0ppmであるサンプル以外の全てのサンプルを作製できることは、一般的な麦汁のアラニン含有量が25.2ppm以上であり、プロリン含有量が136ppm以上であるという知識を有する当業者であれば容易に理解できることである。一方で、このような知識を有する当業者であれば、ビールテイスト飲料の飲み応えを評価するためのサンプルとして、プロリン含有量が0ppmであるサンプルを同様の方法で作製することが適当でないと容易に理解するであろうし、また、このような極端な数値を有するサンプルを異なる方法で作製することは当技術分野においてもよく行われることである。従って、本件特許明細書の実施例は、そこに記載されたサンプルを当業者が適切に作製できる程度に記載されているものということができ、少なくとも技術常識に照らして記載が不適切であるとまではいえないと考えられる。
さらに、本件特許発明では、プロリン含有量/アラニン含有量比は2~6の範囲内に限定されている。この数値範囲で課題を解決できることは、プロリン含有量が0ppmである試験区1および9のサンプルを参照しなくても、試験区10(アラニン濃度:20ppm、プロリン濃度:20ppm、プロリン/アラニン比:1)、試験区14(アラニン濃度:20ppm、プロリン濃度:140ppm、プロリン/アラニン比:7)、および試験区15(アラニン濃度:20ppm、プロリン濃度:160ppm、プロリン/アラニン比:8)のサンプルを比較対照として、試験区11~13(プロリン/アラニン比:2~6)のサンプルの評価結果を参照することにより、明確に確認できるものである。
従って、本件特許発明は、本件特許明細書の実施例において課題を解決しうることが確認されたものであるので、本件特許明細書に記載された発明であると考えられる。よって、本件特許発明は、取消理由4には該当しない。」
上記主張について検討する。
特許権者の主張は、要するに、詳細な説明の実施例において、プロリン含有量が0ppmではないサンプルはプロリン含有量が20ppm以下となるまで炭酸水で希釈する方法で調製されるが、プロリン含有量が0ppmである試験区1及び9のサンプルのみが当該方法と異なる方法で調製されたことを主張し(以下、当該主張部分を「主張A」という。)、当該主張に基づいて、本件特許発明は発明の課題を解決できるとするものである。
しかしながら、詳細な説明の【0025】には、「サンプルの調製」として、すべてのサンプルに共通する工程が記載されるにとどまり、一部の特定のサンプルにおいて異なる調製工程を使用する旨の記載はない。また、一般に、化学実験では、着目する事項以外の条件を揃えて比較し、当該比較に基づき、当該事項の効果を検討するものであるから、詳細な説明に特段その記載がない場合に、一部の特定のサンプルにおいて異なる調製工程が使用されたことが明らかであるとはいえない。そうすると、詳細な説明の記載をみても、実施例において、プロリン含有量が0ppmではないサンプルと、プロリン含有量が0ppmである試験区1及び9のサンプルが、異なる方法で調製されていると当業者が認識することはできない。よって、両者のサンプルが異なる方法で調製されたという前提に基づく主張Aは失当である。
したがって、主張Aに基づく特許権者の上記主張は採用できない。
さらに、特許権者は、「さらに、本件特許発明では、プロリン含有量/アラニン含有量比は2~6の範囲内に限定されている。この数値範囲で課題を解決できることは、プロリン含有量が0ppmである試験区1および9のサンプルを参照しなくても、試験区10・・・、試験区14・・・および試験区15・・・のサンプルを比較対照として、試験区11~13・・・のサンプルの評価結果を参照することにより、明確に確認できるものである。」と主張する(以下、当該主張部分を「主張B」という)。
しかしながら、上記のとおり、主張Aは採用できず、試験区1及び9以外のすべてのサンプルが、プロリン含有量が20ppm以下となるまで炭酸水で希釈される調製条件により調製された、とまで当業者が認識することはできないのであるから、詳細な説明の記載をみても、いずれの試験区のサンプルについてもその具体的な調製方法が不明であるといわざるを得ず、結果として、表1及び2に記載の各サンプルの試験結果を比較し、その効果を確認することはできない。すなわち、アラニンの濃度範囲及びアラニンとプロリンの重量比を所定の範囲内とすることで発明の課題を解決できるというためには、アラニンやプロリンの濃度以外に関わる調製方法を揃えたサンプル同士を比較する必要があるから、当該調製方法が揃えられているとまではいえないサンプル同士の比較に基づいて、発明の課題を解決できるということはできない。
したがって、主張Bを採用することはできない。
(6)取消理由4についてのまとめ
上記(4)及び(5)のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第7 結語
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701008