特許異議申立
2024-700208
化粧シート
- 審判番号
- 2024-700208
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-155807外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7338768
- 請求日
- 2024年03月05日
- 審決日
- 2024年08月20日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】森川 元嗣
- 【異議申立人代理人】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
- 分類
- P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7338768号発明「化粧シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7338768号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7338768号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和4年9月29日に出願され、令和5年8月28日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和5年9月5日発行)がされ、その後、その特許について、令和6年3月5日に特許異議申立人森川元嗣(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
2 本件特許発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面を有する化粧シートであって、
前記化粧シートは、前記第1面から前記第2面に向けて、保護層、装飾層及び基材をこの順に有し、
前記保護層は、バインダー樹脂及び抗ウイルス剤を有し、
前記第1面は、下記条件1及び2を満たす、化粧シート。
<条件1>
ISO 25178-2:2012の界面の展開面積比であるSdrが0.500以上。
<条件2>
JIS B0601:2013の最大高さであるRzと、JIS B0601:2013の粗さ曲線要素の平均長さであるRSmとの比をRSm/Rzと定義した際に、RSm/Rzが5.5以下。
【請求項2】
前記条件1において、Sdrが0.500以上1.500以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記条件2において、RSm/Rzが3.0以上5.5以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記第1面は、JIS B0601:2013の最大高さであるRzが、4.5μm以上8.5μm以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記第1面は、JIS B0601:2013の粗さ曲線要素の平均長さであるRSmが、20.0μm以上50.0μm以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記第1面は、JIS B0601:2013の算術平均粗さであるRaが、0.6μm以上1.5μm以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記化粧シートを平面視した際に、前記化粧シートの全面に保護層を有する、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記バインダー樹脂100質量部に対して、前記抗ウイルス剤を0.5質量部以上20.0質量部以下含む、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記バインダー樹脂が、硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含む、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項10】
前記第1面側の最表面に位置する層が前記保護層である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項11】
前記第1面のJIS Z8741:1997の60度鏡面光沢度が1.0以上20.0以下であり、前記第1面のJIS Z8741:1997の85度鏡面光沢度が7.0以上25.0以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項12】
JIS K7361-1:1997の全光線透過率が20%以下である、請求項1に記載の化粧シート。」
3 申立理由の概要
(1)申立理由1(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない(特許法第36条第4項第1号)から、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない(同法同条第6項第1号)から、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:津谷裕子、外2名、「環境に広がるイソシアネートの有害性」、臨床環境、日本臨床環境医学会、2012年、Vol.21、No.1、p.82-94
甲第2号証:清水兵衛、外4名、「キシリレンジイソシアネートの特性とその塗料用硬化剤への応用」、ネットワークポリマー、合成樹脂工業協会、2011年、Vol. 32、No. 6、p.310-316
甲第3号証:ウレタン原料工業会編著、「ポリオール(PPG)輸送管理指針」、ウレタン原料工業会、2015年9月、第5版、p.1-4
甲第4号証:芥子明三、外1名、「ポリオール化合物」、日本ゴム協会誌、日本ゴム協会、1982年、第55巻、第3号、p.143-150
甲第5号証:「特許・実用新案 審査基準」の抜粋(第II部第1章第1節(実施可能要件)の1~9頁、第II部第2章第2節(サポート要件)の1~5頁)
甲第6号証:知的財産高等裁判所判決(平成17年(行ケ)第10280号)、平成17年6月30日判決言渡
4 当審の判断
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
ア 発明が解決しようとする課題
「【0007】
本開示は、抗ウイルス性を効率よく発現し得るとともに、抗ウイルス性の経時的低下を抑制し得る化粧シートを提供することを課題とする。」
イ 発明を実施するための形態
「【0012】
本開示の化粧シートは、
第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面を有する化粧シートであって、
前記化粧シートは、前記第1面から前記第2面に向けて、保護層、装飾層及び基材をこの順に有し、
前記保護層は、バインダー樹脂及び抗ウイルス剤を有し、
前記第1面は、下記条件1及び2を満たす、ものである。
<条件1>
ISO 25178-2:2012の界面の展開面積比であるSdrが0.500以上。
<条件2>
JIS B0601:2013の最大高さであるRzと、JIS B0601:2013の粗さ曲線要素の平均長さであるRSmとの比をRSm/Rzと定義した際に、RSm/Rzが5.5以下。」
「【0015】
<第1面>
本開示の化粧シートは、第1面を有する。化粧シートの第1面は、人が視認したり、人が触ったりする側の面である、化粧シートの表側の面として用いることが好ましい。
本開示の化粧シートは、第1面側の最表面に位置する層が保護層であることが好ましい。
・・・
【0017】
Sdrは、第1面の表面積をA1、第1面のXY平面に投影した時の面積をA0とした際に、下記の式で表すことができる。Sdrが大きいほど、平滑な面を基準とした第1面の表面積の増加割合が大きいといえる。
Sdr=(A1/A0)-1
【0018】
Sdrが大きいと、ウイルスが抗ウイルス剤と接触する確率が上がりやすくなる。一方、Sdrが小さいと、ウイルスが抗ウイルス剤と接触する確率が下がりやすくなる。このため、Sdrが0.500未満であり条件1を満たさない場合、抗ウイルス性を効率よく発現することができない。抗ウイルス性を効率よく発現することができない場合、抗ウイルス活性値を所定の値にするために多くの時間を要してしまう。
・・・
【0019】
Sdrが大きくなるほど、第1面の表面形状は、シワ等の凹凸が緻密に配置されている形状である傾向が高くなる。シワ等の凹凸が緻密に配置されている場合、第1面の凹部にウイルスを含む皮脂が入り込みにくくなり、シワの稜線部や凹部において抗ウイルス性を十分に発揮できなくなる可能性がある。
第1面のSdrは、0.500以上1.500以下であることが好ましく、0.700以上1.250以下であることがより好ましく、0.800以上1.000以下であることがさらに好ましい。
・・・
【0021】
保護層のうち、人の手足及び清掃用具等の物体と接触しやすい箇所は保護層の凸部である。そして、保護層の凹凸の標高差が大きいほど、保護層の凹部に物体は接触しにくい。また、保護層の凹凸の間隔が狭いほど、保護層の凹部に物体は接触しにくい。
RSm/Rzが小さいことは、シワ等の凹凸の間隔が狭いこと、及び/又は、シワ等の凹凸の標高差が大きいこと、を意味している。RSm/Rzが小さいと、保護層の凹部に物体が接触しにくくなり、凹部の抗ウイルス剤を脱離し難くすることができるため、抗ウイルス性の経時的低下を抑制しやすくできる。一方、RSm/Rzが大きいと、保護層の凹部に物体が接触しやすくなり、凹部の抗ウイルス剤が脱離しやすくなるため、抗ウイルス性が経時的に低下しやすくなる。このため、RSm/Rzが5.5を超えて条件2を満たさない場合、抗ウイルス性の経時的低下を抑制することができない。
【0022】
RSm/Rzが過剰に小さいことは、シワ等の凹凸の間隔が過剰に狭いこと、及び/又は、シワ等の凹凸の標高差が過剰に大きいこと、を意味している。シワ等の凹凸の間隔が過剰に狭い場合、第1面の凹部にウイルスを含む皮脂が入り込みにくくなり、凹部において抗ウイルス性を十分に発揮できなくなる可能性がある。シワ等の凹凸の標高差が過剰に大きい場合、清掃時に布等の清掃用具が破れる可能性がある。
第1面のRSm/Rzは、3.0以上5.5以下であることが好ましく、3.5以上5.3以下であることがより好ましく、4.0以上5.2以下であることがさらに好ましい。」
「【0028】
《保護層》
保護層は、バインダー樹脂及び抗ウイルス剤を有する。
本開示の化粧シートにおける保護層は、第1面側の最表面に位置することが好ましい。保護層は、例えば、装飾層及び基材を保護する役割を有する。また、保護層は、抗ウイルス剤を含むことにより、化粧シートに抗ウイルス性を付与する役割を有する。
保護層は、化粧シートを平面視した際に、化粧シートの全面に有することが好ましい。
【0029】
保護層は、Sdrを上述した範囲としやすくするため、凹凸が緻密に配置され、かつ、凹凸の傾斜角が大きい表面形状を有することが好ましい。保護層は、RSm/Rzを上述した範囲としやすくするため、RSmが小さい、及び/又は、Rzが大きい表面形状を有することが好ましい。このため、保護層の表面形状は、シワにより構成される凹凸形状であることが好ましい。
ただし、保護層の表面形状がシワにより構成される凹凸形状を有していても、Sdr及びRSm/Rzを上述した範囲にできるとは限らない。Sdr及びRSm/Rzを上述した範囲にしやすくするためには、シワの密度及びシワの標高差を高くすることが重要である。そして、後述するA2の手法でシワの密度及びシワの標高差を高くするためには、保護層を形成する硬化性樹脂組成物として、後述する所定の多官能モノマーを含むことが重要である。ただし、シワの標高差を高くすると、凸部の裾野が広がることによってRSmが大きくなり、RSm/Rzが小さくならない場合がある。このため、RSm/Rzを上述した範囲にしやすくするためには、保護層を形成する硬化性樹脂組成物として、後述する所定の多官能モノマーを含み、かつ、前記多官能モノマーと多官能オリゴマーとの配合割合を、後述する所定の配合割合とすることが重要である。
なお、従来の汎用的な保護層は、バインダー樹脂及びマット剤を含み、マット剤の粒子形状に基づいて凹凸形状を形成している。従来の汎用的な保護層では、緻密かつ傾斜角の大きい凹凸形状を形成することが困難であるため、Sdr及びRSm/Rzを上述した範囲にすることは困難である。
【0030】
Sdr及びRSm/Rzが上述した範囲である保護層は、例えば、下記A1又はA2の手法で作製することができる。下記A2の手法の場合、バインダー樹脂組成物の配合を調整するとともに、バインダー樹脂組成物を硬化する際の波長を制御することが重要である。
A1:Sdr及びRSm/Rzが上記範囲となる表面形状をシミュレーションで作成する。シミュレーションで作成した形状が反映されるように、金属等の型の母材の表面をエッチング又は切削することにより、型を作製する。型に保護層形成用の組成物を流し込み、型から前記組成物を取り出することにより、保護層を得ることができる。あるいは、基材上に保護層形成用の組成物を塗布した後、前記型を押し当てて賦型し、前記型を剥離することにより、保護層を得ることができる。
A2:基材又は装飾層上に、バインダー樹脂組成物、抗ウイルス剤及びシワ形成安定剤を含む保護層形成用の組成物を塗布、硬化することにより、保護層を得ることができる。」
「【0035】
―バインダー樹脂―
バインダー樹脂は、保護層の耐擦傷性を向上するため、硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましく、電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含むことがより好ましい。
硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化性樹脂が挙げられる。中でも、保護層の耐擦傷性を高め、さらには、シワ形状を形成しやすい電離放射線硬化性樹脂が好ましい。
【0036】
電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線硬化性官能基を有する樹脂のことであり、電離放射線硬化性官能基は電離放射線の照射によって架橋硬化する基であり、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基などが好ましく挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクロイル基を示す。また、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを示す。
また、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合及び/又は架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も含まれる。
【0037】
電離放射線硬化性樹脂としては、電子線硬化性樹脂及び紫外線硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、シワ形状を形成しやすい紫外線硬化性樹脂が好ましい。
電離放射線硬化性樹脂は、重合性モノマー及び重合性オリゴマーから選ばれる1種以上を用いることができる。
【0038】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0039】
多官能性(メタ)アクリレートモノマーの官能基数は、上記の表面形状を得やすくするため、2以上4以下が好ましく、2以上3以下がより好ましく、2がさらに好ましい。多官能性(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
多官能性(メタ)アクリレートモノマーは、Sdr及びRSm/Rzを上記範囲にしやすくするため、(メタ)アクリロイル基と(メタ)アクリロイル基との間に一定の距離を有するものが好ましい。(メタ)アクリロイル基と(メタ)アクリロイル基との間に一定の距離を有する多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、アルキレンオキサイド変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマー、及び、カプロラクトン変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも1種以上のモノマーが挙げられる。これらのモノマーは、分子内の変性された箇所が動きやすいため、硬化時にシワを高密度で形成しやすくできる。アルキレンオキサイド変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマーよりも、カプロラクトン変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマーの方が、硬化時によりシワを高密度で形成しやすい。
・・・
【0041】
アルキレンオキサイド変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマーは、多官能性(メタ)アクリレートモノマー中に、(-R1-O-)nで示す単位を有するものである。
前記単位において、R1は直鎖状又は分岐状アルキレン基を示す。R1の炭素数は、2以上4以下であることが好ましく、2以上3以下であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。
前記単位において、nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す。平均付加モル数は、2以上9以下であることが好ましく、3以上6以下であることがより好ましい。平均付加モル数を2以上とすることにより、硬化時にシワを高密度で形成しやすくできる。平均付加モル数を9以下とすることにより、保護層の耐擦傷性の低下を抑制しやすくできる。
【0042】
カプロラクトン変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマーは、多官能性(メタ)アクリレートモノマー中に、ε-カプロラクトンを開環した構造単位である〔-C(=O)-(CH2)5-O-〕を有するものである。
前記変性モノマーは、上記の開環構造を、分子内に1以上6以下有することが好ましく、2以上4以下有することがより好ましい。上記の開環構造を2以上有する場合、個々の開環構造は、分子内で繋がって存在していてもよいし、分子内で離れた位置に存在していてもよい。開環構造を1以上有することにより、硬化時にシワを高密度で形成しやすくできる。開環構造を6以下有することにより、保護層の耐擦傷性の低下を抑制しやすくできる。
【0043】
多官能性(メタ)アクリレートモノマーは、多官能グリセリン(メタ)アクリレートモノマーを含むことも好ましい。多官能グリセリン(メタ)アクリレートモノマーを含むことにより、保護層の柔軟性を高め、化粧シートの耐擦傷性を高めやすくできる。多官能グリセリン(メタ)アクリレートモノマーとしては、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
このため、多官能性(メタ)アクリレートモノマーは、下記(A)及び(B)を含むことが好ましい。
(A)アルキレンオキサイド変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマー、及び、カプロラクトン変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも1種以上のモノマー
(B)多官能グリセリン(メタ)アクリレートモノマー」
「【0045】
電離放射線硬化性樹脂は、多官能性(メタ)アクリレートモノマー等の重合性モノマーと、多官能性(メタ)アクリレートオリゴマー等の重合性オリゴマーとを併用することが好ましい。重合性モノマーと重合性オリゴマーとを併用することにより、Sdr及びRSm/Rzを上記範囲にしやすくできる。
重合性オリゴマーは、重合性モノマーに比べてシワを形成しにくい。このため、重合性モノマーにと重合性オリゴマーとを併用すると、シワの起点が減ると考えられる。そして、シワの起点が減ると、個々のシワの標高差は大きくなる傾向がある。このため、重合性モノマーにと重合性オリゴマーとを併用することにより、Rzを大きくしやすくなり、条件2を満たしやすくなる。ただし、重合性オリゴマーの量を増やし過ぎると、シワの起点が減り、表面積を増やしにくくなるため、条件1を満たしにくくなる。このため、重合性モノマーと重合性オリゴマーとの質量比は、5:5~9:1であることが好ましく、6:4~8:2であることがより好ましい。
【0046】
重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有するオリゴマーが挙げられる。
多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
さらに、重合性オリゴマーとしては、ポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、及びノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー等がある。
【0047】
重合性オリゴマーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
重合性オリゴマーの中でも、分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する、多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマーがより好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが更に好ましい。
【0048】
重合性オリゴマーの官能基数は、下限は2以上が好ましく、上限は8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。重合性オリゴマーの官能基数が前記範囲であると、上記形状を得やすく、かつ、化粧シートの強度を良好にしやすくできる。
重合性オリゴマーの重量平均分子量は、1,500以上7,500以下が好ましく、1,700以上5,000以下がより好ましく、2,000以上4,500以下が更に好ましい。ここで、重量平均分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。重合性オリゴマーの重量平均分子量が前記範囲であると、上記形状を得やすく、かつ、化粧シートの強度を良好にしやすくできる。」
ウ 測定及び評価方法
「【0115】
・・・・
1-1.表面形状の測定
実施例及び比較例で得られた化粧シートの第1面について、表面形状(Sdr、RSm、Rz及びRa)を、レーザー顕微鏡を用いて測定した。化粧シートの表面形状の任意の1箇所と、それに近接した8箇所の合計9箇所を測定し、9箇所の測定値の平均値を、各化粧シートの表面形状(Sdr、RSm、Rz及びRa)とした。
1箇所の測定領域は、縦203.6μm×横271.5μmとした。
1箇所の測定領域のSdrの値は、1箇所の測定領域の全体から算出した。1箇所のRSm、Rz及びRaの値は、測定領域に対応する測定画面において、縦方向に8の断面、横方向に7の断面について測定して得られた、合計15の断面の測定値の平均値とした。RSm、Rz及びRaを算出する際のカットオフ値は0.8mmとした。
測定装置は、形状解析レーザー顕微鏡(「VK-X150(制御部)/VK-X160(測定部)」、株式会社キーエンス製)を用いた。
<測定条件>
・対物レンズ:50倍
・レーザ波長:658nm
・測定モード:表面形状モード
・測定ピッチ:0.13μm
・測定品質:高速モード
【0116】
1-2.鏡面光沢度
実施例及び比較例で得られた化粧シートについて、第1面の60度鏡面光沢度及び85度鏡面光沢度を測定した。各化粧シートについて、任意の10箇所を測定し、10箇所の平均値を、各化粧シートの0度鏡面光沢度及び85度鏡面光沢度とした。測定装置は、グロスメータ(「マイクログロス(機種名)」、BYKガードナー社製)を用いた。
【0117】
1-3.初期の抗ウイルス性
実施例及び比較例で得られた化粧シートについて、下記の手法により抗ウイルス活性値を測定した。各化粧シートについて、下記の“所定の時間”を徐々に増やし、1時間ごとに抗ウイルス活性値を測定して、下記の基準で評価した。抗ウイルス活性値は、インフルエンザウイルスについて測定した。
<抗ウイルス活性値の測定方法>
化粧シート及び無加工品に関して、5cm角の試験片を準備する。試験片に0.4mlのウイルス液を滴下し、4cm角のフィルムで被覆する(化粧シートの場合、保護層側にウイルス液を滴下する。)。この試験片を25℃、90%RHの環境に“所定の時間”静置する。静置後、試験片上に滴下したウイルス液を洗いだして回収し、ウイルス感染価を測定する。次式(1)により抗ウイルス活性値を算出する。
R=Ut-At (1)
R:抗ウイルス活性値
Ut:無加工品の24時間静置後のウイルス感染価(PFU/cm2)の常用対数の平均
At:化粧シートの24時間静置後のウイルス感染価(PFU/cm2)の常用対数の平均
<評価基準>
A:抗ウイルス活性値が2.0に達する時間までの時間が10時間以内。
B:抗ウイルス活性値が2.0に達する時間までの時間が10時間超15時間以内。
B-:抗ウイルス活性値が2.0に達する時間までの時間が15時間超20時間以内。
C:抗ウイルス活性値が2.0に達する時間までの時間が20時間超。
【0118】
1-4.抗ウイルス性の経時安定性(1)
実施例及び比較例で得られた化粧シートの第1面を、下記の条件で摩耗した(但し、1-3の評価が「C」のものは評価から除外した。)。摩耗後の化粧シートについて、1-3と同様にして、抗ウイルス活性値が2.0に達する時間までの時間を測定した。1-4の時間と1-3との時間の差分を算出し下記の基準で評価した。
<評価基準>
A:差分が5時間以内。
B:差分が5時間超10時間以内。
B-:差分が10時間超15時間以内。
C:差分が15時間超。
<摩耗条件>
・摩耗材:ガーゼ(川本産業株式会社製)
・摩耗材の荷重:100g
・摩耗回数:往復1000回
【0119】
1-5.抗ウイルス性の経時安定性(2)
実施例で得られた化粧シートの第1面を、下記の条件で摩耗した。摩耗後の化粧シートについて、1-3と同様にして抗ウイルス活性値を測定した(但し、“所定の時間”は24時間に固定した。)。24時間後の抗ウイルス活性値が2.0以上のものを「A」、24時間後の抗ウイルス活性値が2.0未満のものを「C」とした。抗ウイルス活性値は、インフルエンザウイルスについて測定した。24時間後の抗ウイルス活性値が2.0以上のものは、ISO 21702の規定を満たし、抗ウイルス性が良好といえる。
<摩耗条件>
・摩耗材:ガーゼ(川本産業株式会社製)
・摩耗材の荷重:100g
・摩耗回数:往復1000回
【0120】
1-6.拭き取り具の破れ
上記1-4の試験後に、ガーゼの状態を目視で評価した。化粧シートの表面凹凸に起因してガーゼが破れていないものを「A」、ガーゼのごく一部が破れていたものを「B」、ガーゼの大部分が破れていたものを「C」とした。」
エ 実施例と比較例
「【0121】
[実施例1]
コロナ放電処理を施したポリプロピレンシート(厚さ:60μm)を基材とし、基材の一方の面に、印刷インキ(バインダー樹脂:2液硬化型アクリル-ウレタン樹脂)をグラビア法で塗布して着色層及び絵柄層からなる装飾層(厚さ:3μm)を設けた。
次いで、装飾層上に、ウレタン樹脂系接着剤からなる厚み3μmの接着剤層を形成し、さらに、接着剤層上に、ポリプロピレン系樹脂をTダイ押出し機により加熱溶融押出し、厚み80μmの透明性樹脂層を形成した。次いで、透明性樹脂層上に、2液硬化型アクリル-ウレタン樹脂含む樹脂組成物を塗布してプライマー層(厚さ:2μm)を設けた。
次いで、プライマー層上に、下記の保護層形成用の組成物1を、乾燥及び硬化後の厚みが5μmとなるようにグラビア法により全面に塗布した。
次いで、保護層側の面から、LEDから構成されるUV照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:395nm、紫外線量:6W/cm2)、さらに、エキシマ光照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:172nm(Xe2)、紫外線出力密度:1W/cm、積算光量:10~100mJ/cm2、窒素雰囲気(酸素濃度200ppm以下))、さらに高圧水銀灯を用いて紫外線を照射して(紫外線出力密度:200W/cm)、保護層を形成した。
以上の工程により、実施例1の化粧シートを得た。実施例1の化粧シートは、第1面から第2面に向けて、保護層、プライマー層、透明性樹脂層、接着層、装飾層及び基材をこの順に有している。
【0122】
<保護層形成用の組成物1>
・多官能ウレタンアクリレートオリゴマーA 30質量部
(平均官能基数:3、重量平均分子量:2400)
・多官能アクリレートモノマーA 50質量部
(ポリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学製『ライトアクリレート 4EG-A』)
・多官能アクリレートモノマーB 20質量部
(グリセリンジアクリレート、東亞合成製『アロニックス M-920』)
・シワ形成安定剤A 3.0質量部
(シリカ粒子、平均粒子径:8μm)
・シワ形成安定剤B 3.0質量部
(シリカ粒子、平均粒子径:3μm)
・抗ウイルス剤 3質量部
(下記の粒子A1と粒子A2とを質量比1:1で含む抗ウイルス剤、平均粒子径5μm)
(粒子A1:スチレンポリマー誘導体化合物を含有する粒子、島貿易株式会社製のポリスチレンスルホン酸誘導体、商品名「VERSA-TL3」)
(粒子A2:不飽和カルボン酸誘導体化合物を含有する粒子、BYK製の溶剤系不飽和ポリカルボン酸ポリマーである商品名「BYK-P104」を乾燥させて成形した粒子)
・ホスフィンオキサイド系光重合開始剤 0.8質量部
(IGM Resin製『Omnirad TPO-L』)
【0123】
[実施例2]
実施例1において、保護層形成用の組成物1に含まれる多官能ウレタンアクリレートオリゴマーAを、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーB(平均官能基数:3、重量平均分子量:4400)に変更し、塗布量を15μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の化粧シートを得た。
【0124】
[実施例3]
実施例1において、保護層形成用の組成物1を、下記の保護層形成用の組成物2に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の化粧シートを得た。
【0125】
<保護層形成用の組成物2>
・多官能ウレタンアクリレートオリゴマーB 30質量部
(平均官能基数:3、重量平均分子量:4400)
・多官能アクリレートモノマーA 30質量部
(ポリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学製『ライトアクリレート 4EG-A』)
・多官能アクリレートモノマーC 20質量部
(ε-カプロラクトンを開環した構造単位を有するモノマー、日本化薬製『KAYARAD HX-220』)
・多官能アクリレートモノマーB 20質量部
(グリセリンジアクリレート、東亞合成製『アロニックス M-920』)
・シワ形成安定剤A 3.0質量部
(シリカ粒子、平均粒子径:8μm)
・シワ形成安定剤B 3.0質量部
(シリカ粒子、平均粒子径:3μm)
・抗ウイルス剤 3質量部
(前記粒子A1と前記粒子A2とを質量比1:1で含む抗ウイルス剤、平均粒子径5μm)
・ホスフィンオキサイド系光重合開始剤 0.8質量部
(IGM Resins製『Omnirad TPO-L』)
【0126】
[実施例4]
実施例1において、シワ形成安定剤Aを、平均粒子径8μmシリカから、平均粒子径10μmアルミナに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の化粧シートを得た。
【0127】
[比較例1~3]
実施例1~3において、保護層形成用の組成物を塗布した後に、LEDから構成されるUV照射装置及びエキシマ光照射装置による紫外線を照射せず、高圧水銀灯による紫外線のみを照射した以外は、実施例1~3と同様にして、比較例1~3の化粧シートを得た。
【0128】
[比較例4]
実施例1において、保護層形成用の組成物1を、下記の保護層形成用の組成物3に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例4の化粧シートを得た。
【0129】
<保護層形成用の組成物3>
・多官能ウレタンアクリレートオリゴマーC 40質量部
(平均官能基数:7、重量平均分子量:1590)
・アクリル酸 10質量部
・多官能アクリレートモノマーD 15質量部
(ジプロピレングリコールジアクリレート、ダイセル・オルネクス製『DPGDA』)
・多官能アクリレートモノマーE 10質量部
(プロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、ダイセル・オルネクス製『EBECRYL 145』)
・多官能アクリレートモノマーF 20質量部
(プロピレンオキサイド変性テトラグリセリンアクリレート、BASF製『PO9105』)
・抗ウイルス剤 3質量部
(前記粒子A1と前記粒子A2とを質量比1:1で含む抗ウイルス剤、平均粒子径5μm)
・ホスフィンオキサイド系光重合開始剤 0.8質量部
(IGM Resins製『Omnirad TPO-L』)
【0130】
[比較例5]
実施例1において、保護層形成用の組成物1を、下記の保護層形成用の組成物4に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例5の化粧シートを得た。
【0131】
<保護層形成用の組成物4>
・多官能ウレタンアクリレートオリゴマーD 40質量部
(平均官能基数:6、重量平均分子量:855)
・多官能アクリレートモノマーE 25質量部
(プロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、ダイセル・オルネクス製『EBECRYL 145』)
・多官能アクリレートモノマーG 35質量部
(ヘキサンジオールジアクリレート、大阪有機化学工業製『ビスコート #230』)
・抗ウイルス剤 3質量部
(前記粒子A1と前記粒子A2とを質量比1:1で含む抗ウイルス剤、平均粒子径5μm)
・ホスフィンオキサイド系光重合開始剤 0.8質量部
(IGM Resins製『Omnirad TPO-L』)
【0132】
[比較例6]
実施例1において、多官能アクリレートモノマーA及びBを、下記の多官能アクリレートモノマーG及びHに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例6の化粧シートを得た。
・多官能アクリレートモノマーG 35部
・多官能アクリレートモノマーH 25部
(ポリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学製『ライトアクリレート 3EG-A』)
【0133】
[比較例7]
実施例1において、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーA、多官能アクリレートモノマーA、及び多官能アクリレートモノマーBを、下記の多官能アクリレートオリゴマーB、多官能アクリレートモノマーE及びGに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例7の化粧シートを得た。
・多官能ウレタンアクリレートオリゴマーB 40部
・多官能アクリルモノマーE 25部
・多官能アクリルモノマーG 35部」
「【0134】
【表1】
[図:0001414206000001.jpg]
【0135】
第1表の結果から、本開示の化粧シートは、抗ウイルス性を効率よく発現し得るとともに、抗ウイルス性の経時的低下を抑制し得ることを確認できる。」
(2)申立理由1(実施可能要件)について
ア 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。以下、この点について検討する。
イ 本件特許【請求項1】の
「第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面を有する化粧シートであって、
前記化粧シートは、前記第1面から前記第2面に向けて、保護層、装飾層及び基材をこの順に有し、
前記保護層は、バインダー樹脂及び抗ウイルス剤を有し、」に関し、上記記載(上記(1)イ)によれば、「第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面を有する化粧シート」において、「前記第1面から前記第2面に向けて、保護層、装飾層及び基材をこの順に有し、前記保護層は、バインダー樹脂及び抗ウイルス剤を有」(【0012】)することが把握される。
この保護層の形成について、
A1「Sdr及びRSm/Rzが上記範囲となる表面形状をシミュレーションで作成」し、「シミュレーションで作成した形状が反映されるように、金属等の型の母材の表面をエッチング又は切削することにより、型を作製」し、「型に保護層形成用の組成物を流し込み、型から前記組成物を取り出すること」、「あるいは、基材上に保護層形成用の組成物を塗布した後、前記型を押し当てて賦型し、前記型を剥離すること」による方法、
A2「基材又は装飾層上に、バインダー樹脂組成物、抗ウイルス剤及びシワ形成安定剤を含む保護層形成用の組成物を塗布、硬化すること」による方法が挙げられている(【0030】)。
ウ 当業者であれば、上記イ記載のA1の方法により、過度の試行錯誤を要することなく、型の表面形状が転写された保護層の表面が、本件発明の条件1及び2を満たすように、型の表面形状をシミュレーションで作成して、本件発明の化粧シートを生産(実施)することができるものといえる。
また、上記イ記載のA2の方法によっても、次の(ア)、(イ)に示す発明の詳細な説明の記載にしたがい、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の化粧シートを生産(実施)することができる。
(ア)実施例の記載(上記(1)エ)において、化粧シートの積層構造と各層の厚さ、保護層の組成物と硬化条件が示されている。
保護層の組成物のうち、「多官能アクリレートモノマー」は、具体的に、製造会社及び製品名が記載されており、その記載にしたがい、モノマーを選択できる。
他方、各組成物中の「多官能ウレタンアクリレートオリゴマー」については、製造会社及び製品名が記載されていないが、平均官能基数と重量平均分子量が記載されており、これらの記載を参考に、平均官能基数と重量平均分子量が該当あるいは近似するものを、ウレタンアクリレートオリゴマーの中から選択することができる。
そして、保護層の表面形状は、測定方法の記載(上記(1)ウ)にしたがい測定できるから、本件発明の条件1及び2を満たすことが確認できるものといえる。
(イ)さらに、当業者であれば、実施例の組成物を参考に、バインダー樹脂組成物を、以下のa~cの記載をもとに適宜変更して、本件発明の条件1及び2を満たすものを得ることができるものといえる。
a バインダー樹脂組成物について、「保護層の耐擦傷性を向上するため、硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましく」、硬化性樹脂としては、「中でも、保護層の耐擦傷性を高め、さらには、シワ形状を形成しやすい電離放射線硬化性樹脂が好ましい。」(【0035】)とされている。
電離放射線硬化性樹脂としては、「電子線硬化性樹脂及び紫外線硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、シワ形状を形成しやすい紫外線硬化性樹脂が好まし」く、「電離放射線硬化性樹脂は、重合性モノマー及び重合性オリゴマーから選ばれる1種以上を用いることができる。」(【0037】)とされる。
b このうち、重合性モノマーについては、「分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好まし」く、「多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられ」(【0038】)ている。
多官能性(メタ)アクリレートモノマーは、「Sdr及びRSm/Rzを上記範囲にしやすくするため、(メタ)アクリロイル基と(メタ)アクリロイル基との間に一定の距離を有するものが好ましい」とされ、(メタ)アクリロイル基と(メタ)アクリロイル基との間に一定の距離を有する多官能性(メタ)アクリレートモノマーとして、アルキレンオキサイド変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマー、及び、カプロラクトン変性された多官能性(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも1種以上のモノマーが挙げられる(【0040】)。
また、「多官能グリセリン(メタ)アクリレートモノマーを含むことにより、保護層の柔軟性を高め、化粧シートの耐擦傷性を高めやすくできる。」とされる(【0043】)。
c 重合性オリゴマーについては、「電離放射線硬化性樹脂は、多官能性(メタ)アクリレートモノマー等の重合性モノマーと、多官能性(メタ)アクリレートオリゴマー等の重合性オリゴマーとを併用することが好まし」く、「重合性オリゴマーは、重合性モノマーに比べてシワを形成しにくい。このため、重合性モノマーにと重合性オリゴマーとを併用すると、シワの起点が減ると考えられる。そして、シワの起点が減ると、個々のシワの標高差は大きくなる傾向がある。このため、重合性モノマーにと重合性オリゴマーとを併用することにより、Rzを大きくしやすくなり、条件2を満たしやすくなる。ただし、重合性オリゴマーの量を増やし過ぎると、シワの起点が減り、表面積を増やしにくくなるため、条件1を満たしにくくなる。このため、重合性モノマーと重合性オリゴマーとの質量比は、5:5~9:1であることが好ましく、6:4~8:2であることがより好ましい。」(【0045】)とされる。
「重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有するオリゴマーが挙げられ」、「多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーとして」、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」等が例示される(【0046】)。
また、「重合性オリゴマーの官能基数は、下限は2以上が好ましく、上限は8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。重合性オリゴマーの官能基数が前記範囲であると、上記形状を得やすく、かつ、化粧シートの強度を良好にしやすくできる。」「重合性オリゴマーの重量平均分子量は、1,500以上7,500以下が好ましく、1,700以上5,000以下がより好ましく、2,000以上4,500以下が更に好ましい。ここで、重量平均分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。重合性オリゴマーの重量平均分子量が前記範囲であると、上記形状を得やすく、かつ、化粧シートの強度を良好にしやすくできる。」(【0048】)と記載されている。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、実施例1~4の「多官能ウレタンアクリレートオリゴマー」は、「イソシアネート」と「ポリオール」から成るウレタン結合を有するオリゴマー骨格と呼ばれるものに、アクリロイル基を複数付加した構造的特徴を標記したものであるところ、上記「イソシアネート」と「ポリオール」には、いずれも膨大な数の種類が存在し、あらゆる種類のイソシアネート化合物とあらゆる種類のポリオール化合物とを組み合わせて、本件発明を満足するための適切な多官能ウレタンアクリレートオリゴマーを見出すためには、当業者といえども過度な試行錯誤を強いられることとなり、実施可能要件違反が存在する旨主張する(特許異議申立書14~16頁)。
(イ)しかし、上記ウ(ア)で述べたように、発明の詳細な説明の実施例の記載には、「多官能ウレタンアクリレートオリゴマー」について、製造会社及び製品名が示されていないが、平均官能基数と重量平均分子量が記載されており、当業者であれば、これらの記載を参考に、平均官能基数と重量平均分子量が該当あるいは近似するウレタンアクリレートオリゴマーの、限定した中から選択することができるから、申立人がいうような、膨大な数の「イソシアネート」と「ポリオール」の組み合わせの中から選択するのではなく、過度な試行錯誤を強いられるものではない。
(ウ)申立人は、本件発明を満足するための適切な多官能ウレタンアクリレートオリゴマーを見出すためには、当業者といえども過度な試行錯誤を強いられることになると主張するが、実施例に記載された平均官能基数と重量平均分子量を満たす多官能ウレタンアクリレートオリゴマーが、本件発明を満足しないことを示しておらず、「多官能ウレタンアクリレートオリゴマー」が実施例に特定して記載されていないことのみをもって、本件発明を満足するための適切な多官能ウレタンアクリレートオリゴマーを見出すことに、過度な試行錯誤が強いられるとすることは、根拠が乏しいものといえる。
(エ)よって、申立人の上記主張は採用できない。
オ 以上より、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許を実施するに際して過度の試行錯誤を要するものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定の要件を満たすものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものではない。
(3)申立理由2(サポート要件)について
ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この点について検討する。
イ 本件発明の解決しようとする課題は、「抗ウイルス性を効率よく発現し得るとともに、抗ウイルス性の経時的低下を抑制し得る化粧シートを提供すること」(上記(1)ア)である。
ウ 発明の詳細な説明の記載によると、本件発明の化粧シートは、最表面である第1面から反対側の第2面に向けて、「保護層、装飾層及び基材をこの順に有し、前記保護層は、バインダー樹脂及び抗ウイルス剤を有」するものである。
ここで、抗ウイルス剤が添加された保護層の表面積が大きい方が、ウイルスと抗ウイルス剤が接触する可能性が大きくなることが明らかであり、平坦な表面よりも、多数の凹凸による斜面を含む表面の方の表面積が大きくなることは、図形上、明らかである。
さらに、保護層の表面に人の手足や清掃用具等の物体が触れる場合、「保護層の凹凸の標高差が大きいほど、保護層の凹部に物体は接触しにくい。また、保護層の凹凸の間隔が狭いほど、保護層の凹部に物体は接触しにくい」(段落【0021】)ことも明らかである。
これらより、「平滑な面を基準とした第1面の表面積の増加割合」を示す「Sdr」が大きいほど、平坦な表面より表面積が増加することを意味し、ウイルスと抗ウイルス剤が接触する可能性が大きくなることから、「Sdr」の増加と、「抗ウイルス性を効率よく発現」することに相関があることが予測できる。
また、「粗さ曲線要素の平均長さ」、すなわち凹凸の斜面の長さを示す「RSm」が小さいほど、凹凸の間隔が狭いことを意味し、凹凸の「最大高さ」を示す「Rz」が大きいほど、凹部への標高差が大きいことを意味し、いずれも凹部に物体は接触しにくくなる。これらより、「RSm」の減少、「Rz」の増加は、「抗ウイルス性の経時的低下を抑制」することに相関があることが予測できる。
さらに、実施例1~4、比較例1~7の結果より、「Sdr」が0.500以上であれば、初期の抗ウイルス性が高く、「抗ウイルス性を効率よく発現」できることが確認できる。
同様に、「RSm/Rz」が5.5以下であれば、抗ウイルス性の経時安定性が高く、「抗ウイルス性の経時的低下を抑制」できることが確認できる。
そうすると、「Sdr」と「RSm/Rz」に係る構成を備える本件発明は、上記イの課題を解決すると認識できるものである。すなわち、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、サポート要件に係る次のa、bを主張する(特許異議申立書21頁)。
a 発明の詳細な説明には、本件発明に係る保護層を構成する肝心の「ウレタンアクリレートオリゴマー」についての具体的な樹脂材料が開示されていない。したがって、発明の詳細な説明は本件発明を実現するための具体的な技術手段を欠いており、請求項において発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえない。
b 展開面積比であるSdrはISOで国際標準として規定されており、Rz(最大高さ)、RSm(曲線要素の平均長さ)はいずれもJISに規定されているものの、いずれも表面形状を表す特殊なパラメータであって、当業者といえども、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるともいえない。
(イ)上記aの主張については、上記(2)エ(イ)で述べたように、「ウレタンアクリレートオリゴマー」の平均官能基数と重量平均分子量が記載されており、当業者であれば、これらの記載を参考に、平均官能基数と重量平均分子量が該当あるいは近似するものを、ウレタンアクリレートオリゴマーの中から選択することができるから、申立人がいうような、発明の詳細な説明は本件発明を実現するための具体的な技術手段を欠いているということはない。
(ウ)また、上記bの主張についても、上記ウで述べたように、発明の詳細な説明の記載から、「Sdr」の増加と、「抗ウイルス性を効率よく発現」することに、また、「RSm」の減少、「Rz」の増加と、「抗ウイルス性の経時的低下を抑制」することに、それぞれ相関があり、実施例及び比較例の結果から、本件発明の「Sdr」、「RSm/Rz」、「RSm」、「Rz」の条件を満たす化粧シートは、本件発明の課題を解決できることが確認されている。
(エ)よって、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。
オ 以上より、本件発明は、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たすものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものではない。
5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700208