特許異議申立
2024-700195
ポリプロピレンフィルム及び蒸着フィルム並びに積層フィルム
- 審判番号
- 2024-700195
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-122558
- 登録番号
- 7344413
- 請求日
- 2024年03月01日
- 審決日
- 2025年03月14日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】フタムラ化学株式会社
- 【権利者代理人】加藤 大輝
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 木原 裕二
- 審判官 岩谷 一臣
- 分類
- P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
結論
結 論
特許第7344413号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7344413号の請求項1~4、6、7に係る特許を維持する。
特許第7344413号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7344413号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和5年7月27日(優先権主張令和4年12月21日)に出願され、令和5年9月5日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和5年9月13日発行)がされ、その後、その特許について、令和6年3月1日に特許異議申立人渡辺陽子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月25日付けで取消理由が通知され、同年7月26日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたものである。
なお、この本件訂正請求について、申立人から意見書は提出されなかった。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルムであって、前記第一表層と前記第二表層は、ともにアンチブロッキング剤を含有し、」と記載されているものを、「第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルムであって、前記ポリプロピレンフィルムが無延伸フィルムであり、前記第一表層と前記第二表層は、ともにアンチブロッキング剤を含有し、」に訂正する。(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~4、6、7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0007】に記載された「第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルムであって、前記第一表層と前記第二表層は、ともにアンチブロッキング剤を含有し、」を、「第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルムであって、前記ポリプロピレンフィルムが無延伸フィルムであり、前記第一表層と前記第二表層は、ともにアンチブロッキング剤を含有し、」に訂正する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0013】を削除する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0016】に記載された「第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルムであって、前記第一表層と前記第二表層は、ともにアンチブロッキング剤を含有し、」を、「第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルムであって、前記ポリプロピレンフィルムが無延伸フィルムであり、前記第一表層と前記第二表層は、ともにアンチブロッキング剤を含有し、」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0020】を削除する。
(7)一群の請求項について
訂正前の請求項2~7は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであり、本件訂正請求は、一群の請求項に対しなされたものである。
また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~7〕について請求されたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1には、「ポリプロピレンフィルム」について、延伸したものか無延伸であるか特定されていなかったものを、「無延伸フィルム」であることを限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、願書に添付した明細書の【0024】に「このポリプロピレンフィルム10は、蒸着フィルムとして用いられる場合には無延伸フィルムとされることが好ましい。」と記載されており、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3~6について
訂正事項3~6は、いずれも、訂正事項1又は2に係る訂正に伴う、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3~6は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正後の明細書及び特許請求の範囲の記載のとおり、請求項〔1~7〕について訂正を認める。
第3 本件発明
本件特許の請求項1~4、6、7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4、6、7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルムであって、
前記ポリプロピレンフィルムが無延伸フィルムであり、
前記第一表層と前記第二表層は、ともにアンチブロッキング剤を含有し、
前記第一表層の三次元表面粗さにおける算術平均粗さをSRa1(μm)、前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さをSRp2(μm)、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の窒素吸着法により求めた細孔容積をV2(ml/g)、としたときに下記式(i)に示される耐傷付き性の値を満たす
ことを特徴とするポリプロピレンフィルム。
【数1】
[図:0001424570000001.jpg]
【請求項2】
前記第二表層の三次元表面粗さにおける中心面山高さSRp2(μm)と、前記第二表層に含有されるアンチブロッキング剤の前記細孔容積V2(ml/g)とが下記式(ii)に示される与傷付け性の値を満たす請求項1に記載のポリプロピレンフィルム。
【数2】
[図:0001424570000002.jpg]
【請求項3】
JIS Z 8741(1997)に準拠して測定した前記第一表層の光沢度が110%以上である請求項1又は2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記第一表層に表面処理が施されている請求項1又は2に記載のポリプロピレンフィルム。」
「【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリプロピレンフィルムを用いた蒸着フィルムであって、前記ポリプロピレンフィルムの前記第一表層が蒸着面を有し、前記蒸着面に蒸着層が形成されたことを特徴とする蒸着フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の蒸着フィルムを用いた積層フィルムであって、前記蒸着フィルムの前記蒸着層側にポリエステル系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリプロピレン系フィルムから選ばれる基材フィルムが積層されてなることを特徴とする積層フィルム。」
第4 当審の判断
1 取消理由通知書に記載された取消理由の概要
本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1、2には、ポリプロピレンフィルムが「無延伸」であることを記載しておらず、「延伸」されたポリプロピレンフィルムを包含するものであり、請求項1、2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、請求項1又は2の記載を引用する請求項3、4、6、7に係る発明も、同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
<証拠方法>
引用文献1:「OPP(二軸延伸フィルム)はCPP(無延伸フィルム)と比べ何がどう優れているのか?」、[online]、2021年7月27日、株式会社アイエヌジー、[2024年5月28日検索]、インターネット<URL: https://web.archive.org/web/20210727222942/http://www.ing-cdbukuro.com/column/post-19/>参照。
なお、「2021年7月27日」は、インターネットアーカイブであるウェイバックマシン(Wayback Machine)に保存された日。
2 取消理由についての判断
(1)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、次の記載がある。なお、下線は当審において付したものである。「・・・」は省略を示す。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルム及びポリプロピレンフィルムを使用した蒸着フィルム並びに蒸着フィルムを使用した積層フィルムに関し、特に蒸着用途に好適に使用されるポリプロピレンフィルム及び蒸着フィルム並びに積層フィルムに関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであって、蒸着加工や印刷加工が施されるフィルム表面の耐傷付き性能に優れたポリプロピレンフィルム及び蒸着フィルム並びに積層フィルムを提供するものである。」
イ「【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示す本発明の一実施形態に係るポリプロピレンフィルム10は、第一表層20と第二表層30の少なくとも2層からなり、第一表層20と第二表層30がともにアンチブロッキング剤を含有するように構成される。このポリプロピレンフィルム10は、蒸着フィルムとして用いられる場合には無延伸フィルムとされることが好ましい。無延伸フィルムは、延伸が抑制されてフィルムの配向性が低下することから、白化が生じにくく、ヒートシール強度が高くなる。なお、無延伸フィルムは、製膜時に不可抗力の延伸が加わった場合も含む。
【0025】
ポリプロピレンフィルム10は、主として一方の面に蒸着加工や印刷加工が施されて使用される。特には蒸着加工に適した蒸着フィルムとして好適に用いられる。蒸着フィルムとしてのポリプロピレンフィルム10において、第一表層20は蒸着加工が施される蒸着面21を有し、第二表層30はヒートシール面31を有する。第一表層20及び第二表層30は、いずれもポリプロピレン樹脂を主体として構成される。印刷フィルムとして用いられる場合には、第一表層20は印刷面を有することとなる。
【0026】
ポリプロピレンフィルム10に使用される樹脂原料としてのポリプロピレン樹脂は、石油由来、バイオマス由来、マテリアルリサイクル由来、ケミカルリサイクル由来等の適宜の出発原料から生成された樹脂から適宜選択される。・・・
・・・
【0028】
アンチブロッキング剤は、耐ブロッキング性を付与してポリプロピレンフィルム10の加工性向上を図るための添加剤である。アンチブロッキング剤の種類は特に限定されないが、例えば有機系又は無機系の一方若しくは両方の粒子が適宜使用される。・・・」
ウ「【0032】
三次元表面粗さにおける算術平均粗さ(SRa)は、高さ方向のパラメータであって、粗さ曲面からその中心面上に直行座標軸X,Y軸をおき、中心面に直行する軸をZ軸とし、粗さ曲面と中心面で囲まれた部分の体積を測定範囲で除した値である。三次元表面粗さにおける算術平均粗さは、値が大きいほどフィルム表面が荒れていることを示し、フィルム表面が傷付けられにくくなる傾向を示す。ポリプロピレンフィルム10において、第一表層20は傷付けられる側の層となることから、第一表層20の三次元表面粗さにおける算術平均粗さ(SRa1)は、第一表層20の表面の傷付けられにくさの指標となり、算術平均粗さ(SRa1)が大きい値であるほどポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能は向上するといえる。
【0033】
三次元表面粗さにおける中心面山高さ(SRp)は、高さ方向のパラメータであって、中心面から最大山頂までの高さを表す値である。三次元表面粗さにおける中心面山高さは、値が大きいほど山が高くなることを示すため、値が高いほど擦れあう相手側のフィルム表面が傷付きやすくなる傾向を示す。ポリプロピレンフィルム10において、第二表層30は傷付ける側の層となることから、第二表層30の三次元表面粗さにおける中心面山高さ(SRp2)は、第二表層30が相手方の第一表層20の表面への傷付けやすさの指標となり、中心面山高さ(SRp2)が小さい値であるほどポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能は向上するといえる。
【0034】
アンチブロッキング剤の細孔容積は、アンチブロッキング剤に存在する細かい孔の容積のことであり、アンチブロッキング剤の硬さの指標として用いることができる。この細孔容積は窒素吸着法により求めた値である。アンチブロッキング剤の細孔容積の値が大きいほど、アンチブロッキング剤は柔らかくなり、フィルム表面擦れ合う際に、フィルム表面に傷が生じ難くなる。逆にいえば、細孔容積の値が小さいほど、アンチブロッキング剤が硬くなって、フィルム表面の傷付きが発生しやすくなる。アンチブロッキング剤は、擦れあう相手側のフィルムを傷付ける原因となるフィルム表面の山を構成するものであるから、アンチブロッキング剤が柔らかいほど、相手側のフィルムに傷が付きにくくなると考えられる。このことから、第二表層30に添加されたアンチブロッキング剤の細孔容積は、第二表層30の傷付けやすさの指標ととなり、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)が大きい値であるほどポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能は向上するといえる。
【0035】
これらの指標を用いてポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能を耐傷付き性として式に表すと下記式(i)の左辺のように表すことができる。そして、後述の実施例から、耐傷付き性を式(i)を満たす80以下、より好ましくは55以下とすることにより、ポリプロピレンフィルムの蒸着面のフィルムの擦れによる傷が生じにくくなるのである。
【0036】
【数3】
[図:0001424570000003.jpg]
【0037】
また、本発明では、第二表層30における、中心面山高さ(SRp2)をアンチブロッキング剤の硬さの指標であって窒素吸着法により求めた細孔容積(V2)で除した値を、第一表層20に傷を付けやすくする与傷付け性の指標として設定した。上記した耐傷付き性に加えて、第二表層30の与傷付け性を表す下記式(ii)が満たされることにより、さらにポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能は向上する。与傷付け性は、蒸着加工や印刷加工された後のフィルムの巻き取り時等に生ずる、加工後の耐傷付き性能を示す指標とすることも考えられる。第二表層30の与傷付け性が一定以下であれば、蒸着等の加工の前後におけるフィルムの耐傷付き性能が良好であるといえる。
【0038】
【数4】
[図:0001424570000004.jpg]
【0039】
ポリプロピレンフィルム10では、後述の実施例に示されるように、与傷付け性の値が式(ii)を満たす2.6以下、より好ましくは2.5以下であることにより、第二表層30が擦れあう相手方(第一表層20)のフィルム表面(蒸着面21)をより傷付けにくくすることができる。与傷付け性の値が低い値であれば、加工後のフィルムにおいても耐傷付き性能が良好となるため、商品価値の低下を抑制することができ経済的に資することができるといえる。
【0040】
ここで、本発明のポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能を評価するため、スクラッチヘーズを用いることとした。スクラッチヘーズとは、フィルム同士を擦りあわせた際のフィルム表面の耐傷付き性(耐スクラッチ性)を示す指標であり、擦りあわせた後のフィルムのヘーズと擦りあわせる前のフィルムのヘーズとの差から求めた値である。ヘーズは、JIS K 7136(2000)に準拠して測定されるフィルムの透明性を表す指標であり、数値が低いほど透明性に優れることを示す。したがって、スクラッチヘーズの値が高いほど、擦りあわせによりフィルム表面が多く傷付いて透明性が損なわれた状態となるため、フィルムの耐傷付き性能が不十分であることを表す。これに対し、スクラッチヘーズが低い値であれば、擦りあわせによるフィルム表面の傷付きが少なく透明性が損なわれていないため、耐傷付き性能に優れていることを表す。」
エ「【実施例】
【0050】
[ポリプロピレンフィルムの作製]
試作例1~29のポリプロピレンフィルムの作製に際し、後述する各材料を所定の配合割合(重量%)に基づいて混練、溶融してTダイ法にて共押出し、冷却ロールで冷却させた後、第一表層にコロナ放電処理を施して無延伸ポリプロピレンフィルムを製膜した。試作例1~6のフィルムは第一表層(蒸着面)と第二表層(ヒートシール面)からなる2層のフィルムであり、試作例7~29は第一表層(蒸着面)と中間層と第二表層(ヒートシール面)からなる3層のフィルムである。・・・」
オ「【0094】
[スクラッチヘーズの測定]
擦りあわせる前のフィルムのヘーズ(%)を、JIS K 7136(2000)に準拠し、ヘーズメーター「NDH-4000(日本電色工業株式会社製)」を用いて測定した。次に、試作例ごとに試験片を3つずつ用意して、摩擦測定器「FRICTION TESTER TR(株式会社東洋精機製作所製)」を使用し、JIS K 7125(1999)を参考に、試験テーブル側に試験片の第二表層を、滑り片側に第一表層を設置し、滑り片を1度滑らせ、第一表層と第二表層を擦り合わせた。・・・
【0095】
続いて、擦りあわせた滑り片側のフィルムのヘーズを10箇所測定し、最大値(最大ヘーズ)を読み取った。ここで、擦りあわせる前に測定したフィルムのヘーズをH1(%)、擦り合わせた後の試験片3個の最大ヘーズの平均値をH2(%)とし、スクラッチヘーズ(ΔH=H2-H1)を求めた。得られたスクラッチヘーズの値が10%以下の場合を「優(◎)」、11%以下の場合を「良(○)」、11%より大きい場合を「不可(×)」として評価した。」
カ「【0102】
[結果と考察]
表6に示す試作例1~6の2層からなるフィルムについて、試作例1~5のフィルムがスクラッチヘーズ、光沢度のいずれも良好であった。試作例6のフィルムは、試作例5のフィルムに対して第一表層に含まれるアンチブロッキング剤の含有量を変更したものである。試作例6と試作例5とを比較すると、試作例6では試作例5より第一表層の算術平均粗さ(SRa1)が減少したため、耐傷付き性が低下し、スクラッチヘーズが大きくなったと考えれる(当審注:原文の表現のまま)。
・・・
【0105】
表7に示す試作例7~13の3層からなるフィルムは、それぞれ第二表層のアンチブロッキング剤の含有量を変更したものである。試作例7~10から理解されるように、アンチブロッキング剤の含有量に比例して第二表層の中心面山高さ(SRp2)が増加することから、耐傷付き性、与傷付け性の数値が大きくなり、併せてスクラッチヘーズの数値が上昇する傾向がみられた。そのうち、試作例10,11では、耐傷付き性や与傷付け性の値が高く、スクラッチヘーズが極端に悪化した。
【0106】
また、試作例12,13は試作例7,11から第二表層のアンチブロッキング剤の種類を変更したフィルムである。この試作例12,13においても、アンチブロッキング剤の含有量に比例して第二表層の中心面山高さ(SRp2)が増加し、耐傷付き性、与傷付け性の数値が大きくなり、併せてスクラッチヘーズの数値が上昇する傾向がみられた。しかしながら、試作例11と試作例13とを比較すると、アンチブロッキング剤の含有量が等しい場合でも、試作例13のようにアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)が大きいと耐傷付き性、与傷付け性の数値が改善されるため、スクラッチヘーズの数値の上昇が抑制されて、良好な耐傷付き性能が得られたと考えられる。
【0107】
表8に示す試作例14~18の3層からなるフィルムは、それぞれ第一表層のアンチブロッキング剤の含有量を変更したものである。試作例14,15から理解されるように、アンチブロッキング剤の含有量に比例して第一表層の算術平均粗さ(SRa1)が増加し、耐傷付き性の数値が小さくなり、スクラッチヘーズが低下して良好な耐傷付き性能が得られる傾向がみられた。また、アンチブロッキング剤の含有量に比例して第一表層の光沢度の低下が見られた。試作例16,17のようにアンチブロッキング剤の種類を変更した場合も同様の傾向がみられた。なお、試作例18は、試作例9に対して第一表層のアンチブロッキング剤の含有量を減少させたフィルムであり、試作例9より第一表層の算術平均粗さ(SRa1)が低下して耐傷付き性の数値が大きくなり、スクラッチヘーズの数値が上昇して耐傷付き性能が悪化する傾向がみられた。
・・・
【0112】
以上から、本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、耐傷付き性の値が80以下であることを満たすフィルムとすると、スクラッチヘーズが良好となることが示された。そして、与傷付き性の値が2.6以下であることを満たすフィルムとすると、相対する面への傷付けを抑制することができることが示された。なお、これら試作例をみると、第一表層や第二表層では、材料の構成が一致しても算術平均粗さ(SRa1)や第二表層の中心面山高さ(SRp2)が異なり、同一の構成であっても同等の表面粗さが得られるわけではないことが示されたため、フィルムの耐傷付き性能を示す指標として、これらの三次元表面粗さを用いることの有意性も示されたということができる。」
(2)判断
ア 本件発明は、パラメータ発明に関するものであるところ、このような発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者が認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解される(平成17(行ケ)10042号〔偏光フィルムの製造法事件(パラメータ特許事件)〕)ところ、かかる観点から以下検討する。
イ 本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)アからみて、第一表層と第二表層の少なくとも2層からなるポリプロピレンフィルム及びこれを使用した蒸着フィルム並びに蒸着フィルムを使用した積層フィルムに関し(【0001】)、蒸着加工や印刷加工が施されるフィルム表面の耐傷付き性能に優れたポリプロピレンフィルム及び蒸着フィルム並びに積層フィルムを提供すること(【0006】)である。
ウ この課題を解決する手段について、発明の詳細な説明の記載より次の事項が把握される。
(ア)第一表層の算術平均粗さ(SRa1)に関して
上記(2)ウの【0032】の記載から、「三次元表面粗さにおける算術平均粗さは、値が大きいほどフィルム表面が荒れていることを示し、フィルム表面が傷付けられにくくなる傾向を示す」ことになるから、「第一表層20の三次元表面粗さにおける算術平均粗さ(SRa1)は、第一表層20の表面の傷付けられにくさの指標となり、算術平均粗さ(SRa1)が大きい値であるほどポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能は向上する」こと。
(イ)第二表層の中心面山高さ(SRp2)に関して
同じく【0033】の記載から、「三次元表面粗さにおける中心面山高さは、値が大きいほど山が高くなることを示すため、値が高いほど擦れあう相手側のフィルム表面が傷付きやすくなる傾向を示す」ことになるから、「第二表層30の三次元表面粗さにおける中心面山高さ(SRp2)は、第二表層30が相手方の第一表層20の表面への傷付けやすさの指標となり、中心面山高さ(SRp2)が小さい値であるほどポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能は向上する」こと。
(ウ)第二表層のアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)に関して
同じく【0034】の記載から、「アンチブロッキング剤の細孔容積の値が大きいほど、アンチブロッキング剤は柔らかくなり、フィルム表面擦れ合う際に、フィルム表面に傷が生じ難くな」り、逆に、「細孔容積の値が小さいほど、アンチブロッキング剤が硬くなって、フィルム表面の傷付きが発生しやすくなる」ことから、「第二表層30に添加されたアンチブロッキング剤の細孔容積は、第二表層30の傷付けやすさの指標となり、アンチブロッキング剤の細孔容積(V2)が大きい値であるほどポリプロピレンフィルムの耐傷付き性能は向上する」こと。
エ 上記ウ(ア)~(ウ)からは、上記アの「フィルム表面の耐傷付き性能に優れた」ものとするという本件発明の課題と、「第一表層20の三次元表面粗さにおける算術平均粗さ(SRa1)」、「第二表層30の三次元表面粗さにおける中心面山高さ(SRp2)」及び「アンチブロッキング剤の細孔容積の値(V2)」との間に技術的な関連があることが理解できる。
オ さらに、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者が認識できる程度に、具体例を開示して記載されているかについて検討する。
上記(1)エの実施例(試作例1~29)の記載から、次のことが確認できる。
(ア)実施例(試作例1~29)のポリプロピレンフィルムは、第1表層と第2表層の少なくとも2層を、無延伸ポリプロピレンフィルムで構成したものであること。
(イ)上記ウ、エで述べた、第一表層の算術平均粗さ(SRa1)、第二表層の中心面山高さ(SRp2)及び第二表層のアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)と、フィルム表面の耐傷付き性、又は与傷付け性との関係は、実施例(試作例1~29)の結果からも確認できること。
(ウ)さらに、耐傷付き性(式(i))の値が「80以下」であるフィルムは、いずれもスクラッチヘーズが良好であること、また、与傷付き性(式(ii))の値が「2.6」を超えると、スクラッチヘーズが良好でないこと。
カ そうすると、当業者は、実施例(試作例1~29)の記載から、第1表層と第2表層の少なくとも2層を、無延伸ポリプロピレンフィルムで構成したポリプロピレンフィルムにおいて、耐傷付き性に係る式(i)の値が「80以下」の範囲、与傷付き性に係る式(ii)の値が「2.6」を超えない範囲であれば、所望の効果ないし性能が得られると認識できるといえる。
キ 本件発明1、2には、上記カの事項がそれぞれ特定されており、本件発明1~4、6、7は、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、サポート要件に係る上記取消理由には理由がない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由
申立人は、取消理由通知に記載した取消理由のほか、次の理由を申し立てている。
ア 実施可能要件
(ア)第一表層又は第二表層の表面粗さを所望の値とするために必要な条件が実施例を含めた発明の詳細な説明には十分開示されているとはいえず、本件発明のフィルムを製造するためには、過度の試行錯誤を要するものである。
(イ)ポリプロピレン等のフィルムは、延伸、無延伸でその表面性状が変化することは周知であるところ、延伸フィルムにおける第一表層及び第二表層の表面粗さをどのように調整し、耐傷付き性の値を調整するかは一切開示がないから、本件発明のフィルムを製造するには、過度の試行錯誤を要するものである。
(ウ)実施例ではすべて第一表層、第二表層にポリエチレンを含んでおり、これによって樹脂の結晶性等の特性が異なることは技術常識であるところ、ポリエチレンを含まずプロピレン系樹脂のみを樹脂成分とする場合について、第一表層、第二表層の表面粗さをどのように調整し、耐傷付き性の値を調整することができるのかについて一切開示がないから、本件発明のフィルムを製造するには、過度の試行錯誤を要するものである。
イ サポート要件
ポリエチレンを含まないプロピレン系樹脂のみを樹脂成分とする場合について、実施例による裏付けがなく、また、課題解決を認識できるような記載もないから、本件発明のフィルムにおいてポリエチレンを含まないものについては、サポート要件を充足しない。
(2)上記申立理由についての判断
ア 上記(1)アの申立理由について
まず、(ア)、(ウ)に関し検討するに、「ポリプロピレンフィルム」に係る物の発明である本件発明について、当業者は、発明の詳細な説明の記載、特に実施例の記載に加え、優先権主張日当時の技術常識に基づいて、本件発明に係る「ポリプロピレンフィルム」を製造し、使用することができものといえる。この点、製造条件や、ポリエチレンの配合の有無によって第一表層の算術平均粗さ(SRa1)、第二表層の中心面山高さ(SRp2)及び第二表層のアンチブロッキング剤の細孔容積(V2)の各々の具体的な数値が変化することは確かにそのとおりであるが、それによって本件発明における式(i)を充足するか否かは直ちにわかるものであり、この式を満足させるために過度の試行錯誤が必要であるとは認められない。
また、本件訂正により、フィルムが無延伸のものと特定されたため、(イ)に関する主張の前提は消滅した。
そうすると、申立人が主張する上記(1)アの各事項は、記載されていないと本件発明が実施できないというものではなく、申立人の実施可能要件に係る上記主張は採用できない。
イ 上記(1)イの申立理由について
樹脂原料へのポリエチレンの配合は、「耐熱性や剛性等を向上させる」(本件明細書の【0029】)ため、添加剤のうち核剤として配合するもので、樹脂原料全量からみて微量の添加であることが明らかである、また、核剤として、「例えば、脂肪酸金属塩、カルボン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、ロジン金属塩、タルク、マイカ、ソルビトール誘導体、高密度ポリエチレン樹脂等を使用することができる。」(同【0030】)とされることからみて、ポリエチレンを含有しないと本件発明の課題が解決できないとは認識できず、申立人のサポート要件に係る上記主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~4、6、7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~4、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項5に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項5が本件訂正により削除されたことによりその対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700195