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特許異議申立

2024-700145

樹脂組成物及び多孔フィルム

審判番号
2024-700145
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-073933
登録番号
7329099
請求日
2024年02月19日
審決日
2024年09月30日
公報発行日
2025年01月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】旭化成株式会社
  • 【権利者代理人】青木 篤
  • 【権利者代理人】三橋 真二
  • 【権利者代理人】中村 和広
  • 【権利者代理人】齋藤 都子
  • 【権利者代理人】三間 俊介
  • 【異議申立人】前田 健一
審判長/審判官
  • 審判長 ▲吉▼澤 英一
  • 審判官 細井 龍史
  • 審判官 近野 光知
分類
P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7329099号発明「樹脂組成物及び多孔フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7329099号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第7329099号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7329099号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成29年10月31日に出願された特願2017-210218号の一部を新たに令和4年4月28日に出願した特願2022-73933号であって、令和5年8月8日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年2月19日に前田 健一(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされたものである。その後の手続きは以下のとおり。 令和6年4月26日付け 取消理由通知 同年7月 5日 訂正請求及び意見書の提出(特許権者) 同年同月16日付け 訂正請求があった旨の通知 同年8月20日 意見書の提出(申立人) 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和6年7月5日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「1/2等温結晶化時間が、15分以下であり」とあるのを、「1/2等温結晶化時間が、5分以下であり」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する。 2 一群の請求項について 訂正前の請求項2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし3に対応する訂正後の請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「1/2等温結晶化時間」の上限値を「15分」から「5分」に変更して数値範囲を狭めるものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、「1/2等温結晶化時間が、5分以下」とすることは、本件特許明細書の段落【0035】に記載されていることから、訂正事項1による訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、特許請求の範囲の減縮を目的とすることからみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2で示したとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし3を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。なお、下線は当審で付与した。 「【請求項1】 ポリオレフィン樹脂とセルロースとを含む、樹脂組成物であり、 前記セルロースが、平均長径5μm以下のセルロースであり、 前記セルロースの含有量が、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、0.3~15.0質量部であり、 示差走査熱量計(DSC)の補外結晶化開始温度より4℃高い温度における1/2等温結晶化時間が、5分以下であり、 前記ポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が30~60g/10分であるポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体である、樹脂組成物。 【請求項2】 前記セルロースが、結晶性セルロースである、請求項1に記載の樹脂組成物。 【請求項3】 DSCの降温過程における結晶化ピークの温度が、120℃以上であり、 昇温過程における吸熱エンタルピー(ΔH2)が、樹脂換算で115J/g以上140J/g以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法等及び取消理由通知の概要 1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 (1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする新規性・進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 また、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という 。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第6号証を主引用文献とする新規性・進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 また、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由3(サポ-ト要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 具体的理由の概略は以下のとおり。 「MFRが本件発明1の範囲の下限値である30g/10以外の範囲(30g/10分超60g/10分以下)にあるプロピレン樹脂を用いた樹脂組成物など、本件の実施例14のポリプロピレン樹脂のMFRとセルロースの含有量の組合せ以外の樹脂組成物を用いた場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(申立書の第36ページ) (4)申立理由4(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 具体的理由の概略は以下のとおり。 「本件特許の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を考慮しても、MFRが本件発明1の範囲の下限値である30g/10以外の範囲(30g/10分超60g/10分以下)にあるプロピレン樹脂を用いた樹脂組成物など、本件の実施例14のポリプロピレン樹脂のMFRとセルロースの含有量の組合せ以外の樹脂組成物を用いた場合に、本件発明1-3を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。」(申立書の第36ページ) 2 証拠方法 (1)申立人が提出した証拠方法 申立人は、申立書に添付して、以下の証拠を提出している。 甲第1号証:国際公開第2016/063914号 甲第2号証:スギノマシン社のバイオマスファイバー「BiNFi-s(ビンフィス)」の説明ウェブサイト、出力日 令和5年11月21日 (https://evort.jp/store/sugino/product/binfi-s) 甲第3号証:特開2017-197473号公報 甲第4号証:特開2010-254878号公報 甲第5号証:特開2017-8242号公報 甲第6号証:国際公開第2017/169494号 甲第7号証:中越パルプ工業株式会社のプレスリリース「セルロースナノファイバーのサンプル販売開始」、平成25年3月1日 以下、順に、甲第1号証等を「甲1」等という。 (2)特許権者が提出した証拠方法 特許権者は、意見書に添付して、以下の証拠を提出している。 乙第1号証:「プライムポリプロ ブロックPPグレード」の製品安全データシート、株式会社プライムポリマー、改定日 2009年4月14日、出力日 令和6年7月4日 (https://www.esco-net.com/wcs/escort/Itern File/shiire_shohin/DF004/DFO 0407/DF0040746/DF0040746_DOC_SDS_JPN_INP(04).pdf) 乙第2号証:「プライムポリプロ(射出:耐衝撃)銘柄物性表」、株式会社プライムポリマー、2023年1月、出力日 令和6年7月4日 (https://www.primepolymer.co.jp/content/dam/ mitsuichemical s/sites/primepolymer/documents/common/product/pp/primepp-his_20230106.pdf) 乙第3号証:日本ポリプロ株式会社ウェブサイト「製品情報ノバテックTMPP」、出力日 令和6年6月27日 (https://www.j-polypropylene.com/products/novatee-pp/) 乙第4号証:日本ポリプロ株式会社ウェブサイト「製品情報ノバテックTMPP」の「物性表ダウンロード」からダウンロードされる物性表、出力日 令和6年6月27日 (https://www.j-polypropylene.com/cms/wp-content/uploads/2023/09/Typical-Properties-of-NOVATECJ202404.pdf) 乙第5号証:特開2018-30992号公報 以下、順に、乙第1号証等を「乙1」等という。 3 取消理由通知に記載した取消理由の概要 当審が令和6年4月26日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 以下に述べるように、当審が通知した取消理由通知に記載した取消理由、及び、申立書に記載された申立理由によっては、本件特許発明1ないし3に係る特許は取り消すことはできない。 1 取消理由通知に記載した取消理由について 1-1 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性欠如)及び申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性欠如)について 申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性欠如)は、取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性欠如)と証拠を同じくするものであるから、取消理由1と併せて検討する。 (1)証拠に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項及び甲1発明 (ア)甲1に記載された事項 甲1には、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである(以下、同様。)。 「[請求項1] ポリオレフィン樹脂およびセルロースミクロフィブリルを含むポリオレフィン樹脂組成物であって、該セルロースミクロフィブリルの含有量がポリオレフィン樹脂組成物中の全樹脂成分100質量部に対し、0.5~20質量部であることを特徴とするポリオレフィン樹脂組成物。」 「[0005] 本発明者らは、上記のような状況を鑑み、特に車両用材料としての外板に対して、種々検討を行った。この結果、均一に分散できる安定な複合材料の開発が重要であることがわかった。アウターとインナーとが異なった素材では、剛性差によって、突き抜けなどの問題が発生することから、同一素材であることが重要である。しかも、塗装を簡略化するために、素材の着色が容易であることも重要であることがわかった。 従って、本発明は、軽量化と剛性の両立が可能であって、室温での線熱膨張率が低く、かつ高温での流動性に優れ、しかも外観および着色性に優れたポリオレフィン樹脂組成物、成形品および車両用バックドアを提供することを課題とする。 特に、車両用の外板に使用できるほど表面が滑らかで手触りがよく、一般的な方法での着色が可能であって、塗装を簡略することが可能なポリオレフィン樹脂組成物および成形品を提供することを課題とする。さらに、線熱膨張係数が小さく、異方性も小さいので、安定した複合材料として使用でき、車両用バックドアのアウターパネル、インナーパネルともに同じ素材で製造できるため、剛性差による突き抜けなどの問題が起きにくく、設計の自由度が高いポリオレフィン樹脂組成物および成形品を提供することを課題とする。」 「[0018] ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレンブロック共重合体(プロピレン単独重合体成分または主にプロピレンからなる共重合体成分と、エチレンおよびα-オレフィンから選択されるモノマーの少なくとも1種とプロピレンとを共重合して得られる共重合体とからなる)などが挙げられる。これらのポリプロピレン樹脂は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。」 「[0032] <セルロースミクロフィブリル> セルロースは、主に植物体を支持する主成分として細胞壁に蓄積しており、セルロース30~40分子が束となった約3ナノメートルの超極細幅で、高結晶性のミクロフィブリルを形成して植物体の生命を維持している。本発明では、このようなセルロースのセルロースミクロフィブリルを使用するものである。 [0033] セルロースミクロフィブリルの平均長さ(繊維長)は、0.03~500μmが好ましく、0.05~200μmがより好ましい。また、平均繊維径(直径)は3~150nmが好ましく、4~100nmがより好ましい。アスペクト比は5以上が好ましく、10~1000がより好ましい。なお、アスペクト比は平均長さを平均繊維径で割った値である。 ・・・ [0037] セルロースミクロフィブリルは、例えば、特表平9-509694号公報に記載の方法もしくは、これに準じた方法で製造することができる。また、市販品でも入手できる。例えば、(株)スギノマシンのセルロースナノファイバーのBiNFi-s(ビンフィス)が挙げられる。 [0038] セルロースミクロフィブリルの含有量は、ポリオレフィン樹脂組成物中の全樹脂成分100質量部に対し、0.5~20質量部であり、好ましくは2.5~10質量部である。ここで、全樹脂成分とは、組成物中に含有する樹脂成分であって、セルロースミクロフィブリルは含まない。 セルロースミクロフィブリルの含有量が0.5質量部未満であると、剛性が不足するおそれがあり、20質量部を超えると流動性が不足し、成形に支障をきたすおそれがある。上記のような範囲で含有させることにより、本発明の効果が効果的に奏される。」 「[0060] 以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 [0061] 使用した素材は以下のものである。 ・ポリオレフィン樹脂 ポリプロピレン樹脂(商品名;プライムポリプロJ708UG、プライムポリマー社製) ・セルロースミクロフィブリル セルロースナノファイバーのBiNFi-s(AMa-10002)、(株)スギノマシン製 [0062] (実施例1) 上記ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ708UG、プライムポリマー社製)100質量部に、セルロースミクロフィブリル〔BiNFi-s(AMa-10002)、(株)スギノマシン製〕0.5質量部を疎水化し、これらを二軸押出機内にて混練してポリオレフィン樹脂組成物を得た。 得られたポリオレフィン樹脂組成物を射出成形機(商品名:ROBOSHOTα-30C、FANUC CORPORATION製)にて10mm×80mm×厚さ4mmのシートに成形した。 [0063] (実施例2~12および比較例1~3) ポリオレフィン樹脂組成物を下記表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~12および比較例1~3のポリオレフィン樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にして10mm×80mm×厚さ4mmのシートに成形した。 [0064] [成形品の評価方法] 上記実施例1~12および比較例1~3で調製したポリオレフィン樹脂組成物の各成形品(シート)に対して下記項目の評価を行った。結果を下記表1に示す。 [0065] <曲げ弾性率(剛性)> 上記実施例1~12および比較例1~3で作製したシート 射出成形機(ROBOSHOTα-30C、FANUC CORPORATION製)を用いて、成形により得られた厚さ4mm×幅10mm×80mmの各シートを、JIS-K7171に準拠して試験速度:2mm/min、支点間距離:64mm、測定温度:25℃の条件で測定を行った。 [0066] 以下に曲げ弾性率の評価基準を示す。 A:2.2GPa以上 B:2.0GPa以上2.2GPa未満 C:2.0GPa未満 [0067] <流動性> 測定装置は(株)東洋精機製作所製のCAPIROGRAPH1C(キャピログラフ)、を用いて、JIS K 7199(1999)に準じて、以下の条件で測定を行った。 ・温度:190℃(保温チャンバー使用) ・ダイス:長さ=20mm、径=2mm ・見かけのせん断速度=2,430mm/s ・サンプル質量:15~20g [0068] 以下に曲げ流動性の評価基準を示す。 A:500Pa・sec未満 B:500Pa・sec以上800Pa・sec以下 C:800Pa・secを超える [0069] <線熱膨張係数> 上記の曲げ試験片から片刃により、長さ10mm、1辺5mmの角柱状の試験片を切削し、これを、JIS K 7197に準じて、0~50℃の条件で測定を行い、25℃での線熱膨張係数を求めた。 [0070] 以下に線熱膨張係数の評価基準を示す。 A:75ppm/K未満 B:75ppm/K以上85ppm/K以下 C:85ppm/Kを超える [0071] 得られた結果を、まとめて下記表1に示す。 [表1] [図:0001418240000001.jpg] 」 (イ)甲1に記載された発明 甲1の請求項1の実施態様である実施例1~11に着目して整理すると、以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ708UG、プライムポリマー社製)100質量部に、セルロースミクロフィブリル〔BiNFi-s(AMa-10002)、(株)スギノマシン製〕0.5~16.5質量部を疎水化し、これらを二軸押出機内にて混練して得られたポリオレフィン樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。) イ 甲3に記載された事項 甲3には、次の事項が記載されている。 「【0045】 はじめに、以下の例では、セルロースとして、以下の素材を用いた。 (繊維状セルロース) 未変性の繊維状セルロースとしては、以下の成分(A1)~(A5)を用いた。 (A1)BiNFi-s WMa-10002:微小繊維状セルロース、スギノマシン社製(2質量%分散液の粘度:3000mPa・s、平均繊維径:30nm、平均繊維長:1800nm、平均アスペクト比:60) (A2)BiNFi-s FMa-10002:微小繊維状セルロース、スギノマシン社製(2質量%分散液の粘度:700mPa・s、平均繊維径:20nm、平均繊維長:550nm、平均アスペクト比:27.5) (A3)BiNFi-s AMa-10002:微小繊維状セルロース、スギノマシン社製(2質量%分散液の粘度:2500mPa・s、平均繊維径:30nm、平均繊維長:550nm、平均アスペクト比:18.3) (A4)BiNFi-s BMa-10002:微小繊維状セルロース、スギノマシン社製(2質量%分散液の粘度:7000mPa・s、平均繊維径:30nm、平均繊維長:2100nm、平均アスペクト比:70) (A5)BiNFi-s IMa-10002:微小繊維状セルロース、スギノマシン社製(2質量%分散液の粘度:7500mPa・s、平均繊維径:40nm、平均繊維長:2300nm、平均アスペクト比:57.5)」 ウ 甲4に記載された事項 甲4には、次の事項が記載されている。 「【0085】 (B)ポリオレフィン系樹脂 (B-1)ポリプロピレン樹脂(ホモポリマー、プライムポリマー製J108M、MFR45g/10分(230℃、21.2N)、融点169℃) (B-2)ポリプロピレン樹脂(ブロックポリマー、プライムポリマー製J708UG、MFR45g/10分(230℃、21.2N)、融点169℃)」 エ 乙1に記載された事項 [図:0001418240000002.jpg] [図:0001418240000003.jpg] [図:0001418240000004.jpg] [図:0001418240000005.jpg] [図:0001418240000006.jpg] [図:0001418240000007.jpg] オ 乙2に記載された事項 [図:0001418240000008.jpg] カ 乙3に記載された事項 [図:0001418240000009.jpg] [図:0001418240000010.jpg] [図:0001418240000011.jpg] [図:0001418240000012.jpg] [図:0001418240000013.jpg] キ 乙4に記載された事項 [図:0001418240000014.jpg] [図:0001418240000015.jpg] [図:0001418240000016.jpg] ク 乙5に記載された事項 「【0087】 (2)ポリプロピレン樹脂(Y) ポリプロピレン樹脂(Y)として、以下のポリプロピレン樹脂を用いた。 (Y-1):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)FY6H」、MFR=1.9g/10分、Tm=165℃、g’=1.00 (Y-2):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)EA9HD」、MFR=0.4g/10分、Tm=165℃、g’=1.00 (Y-3):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)FL1105F」、MFR=3.5g/10分、Tm=165℃、g’=1.00 (Y-4):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)FL4」、MFR=4.2g/10分、Tm=164℃、g’=1.00 (Y-5):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)SA3A」、MFR=11g/10分、Tm=161℃、g’=1.00」 (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 a 甲1発明の「ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ708UG、プライムポリマー社製)」は、甲4の【0085】に、「ポリプロピレン樹脂(ブロックポリマー、プライムポリマー製J708UG、MFR45g/10分(230℃、21.2N)、融点169℃)」と記載されていることから、本件特許発明1の「MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が30~60g/10分であるポリプロピレン共重合体」である「ポリオレフィン樹脂」に相当する。 b また、甲1発明の「セルロースミクロフィブリル〔BiNFi-s(AMa-10002)、(株)スギノマシン製〕」は、甲3の【0045】に、「(A3)BiNFi-s AMa-10002:微小繊維状セルロース、スギノマシン社製(2質量%分散液の粘度:2500mPa・s、平均繊維径:30nm、平均繊維長:550nm、平均アスペクト比:18.3)」と記載されている。 そうすると、甲1発明の「セルロースミクロフィブリル」は、平均長径が550nmで5μm以下であるから、本件特許発明1の「平均長径5μm以下のセルロース」に相当する。 c 甲1発明において、ポリプロピレン樹脂とセルロースミクロフィブリルとの合計100質量部に対するセルロースミクロフィブリルの含有量について計算すると、最小で0.5質量部(=0.5/(100+0.5)、実施例1)、最大で14.2質量部(=16.5/(100+16.5)、実施例11)となる。 そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「前記セルロースの含有量が、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、0.3~15.0質量部」である要件を満たす。 よって、両者は、以下の点で一致、以下の点で相違する。 <一致点> ポリオレフィン樹脂とセルロースとを含む、樹脂組成物であり、 前記セルロースが、平均長径5μm以下のセルロースであり、 前記セルロースの含有量が、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、0.3~15.0質量部であり、 前記ポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が30~60g/10分であるポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体である、樹脂組成物。 <相違点1-1> 樹脂組成物の「示差走査熱量計(DSC)の補外結晶化開始温度より4℃高い温度における1/2等温結晶化時間」(以下、「1/2等温結晶化時間」という。)が、本件特許発明1は「5分以下」であるのに対し、甲1発明は不明である点 (イ)相違点の検討 上記<相違点1-1>について検討する。 a 新規性について a-1 まず、甲1には、「1/2等温結晶化時間が、5分以下であ」ることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。 a-2 次に、甲1発明が、「1/2等温結晶化時間が、5分以下であ」ることを満たすか否かを、甲1発明で使用されている材料や製造条件等から検討する。 (a)本件特許明細書の段落【0036】には、「1/2等温結晶化時間を制御するには、例えば、上記のような平均長径5μm以下のセルロースを配合すること等が挙げられる。 また、平均長径5μm以下の微細なセルロースを、凝集させることなく樹脂中へ分散させることにより、1/2等温結晶化時間を15分以下とすることができる。そのためには、例えば上記のようにバイオミキサー等でセルロースを水中に微細に分散させたスラリーと、樹脂パウダーを十分に混合し、更にミキサー、押出機等で混練することが好ましい。このような混合物を調製することにより、1/2等温結晶化時間を15分以下に制御することができる。」と記載されているものの、1/2等温結晶化時間を「5分以下」とするための一般的な条件については記載されていない。一方、本件特許明細書の実施例9~15において、1/2等温結晶化時間を「5分以下」となっているものが示されている。 (b)そこで、本件特許明細書の実施例がどのようなポリオレフィン樹脂を使用しているか確認する。 実施例9、12、13、15の樹脂は、<PP-1>である日本ポリプロ(株)製MFR0.4g/10分、密度910kg/m3のノバテックPPのペレットを使用している(段落【0062】)。ここで、乙4である日本ポリプロ株式会社ウェブサイト「製品情報 ノバテックTMPP」の「物性表ダウンロード」からダウンロードされる物性表)には、ノバテックPPのグレード「EA9HD」について、MFR0.4g/10分、密度0.90904g/cm3、引張弾性率1800MPa、シャルピー衝撃強度(23℃)10kJ/m2であること、「EA9HD」の高剛性バージョンである「EA9FTD」について、MFR0.44g/10分、密度0.904g/cm3、引張弾性率2150MPa、シャルピー衝撃強度(23℃)10kJ/m2であることが記載されている。このEA9HDについて、乙5の段落【0087】には、「(Y-2):長鎖分岐を有しないプロピレン単独重合体、日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテック(登録商標)EA9HD」、MFR=0.4g/10分、Tm=165℃、g’=1.00」と記載されている。 そうすると、本件特許明細書の実施例9、12、13、15の<PP-1>は、本件特許明細書に明記されていないものの、MFR、密度の値が同一であることを勘案すると、乙4及び乙5に記載されるEA9HDに相当し、「ポリプロピレン単独重合体」であると理解する。 一方、甲1発明の樹脂は、「ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ708UG、プライムポリマー社製)」であるところ、甲4の段落【0085】に「(B-2)ポリプロピレン樹脂(ブロックポリマー、プライムポリマー製J708UG、MFR45g/10分(230℃、21.2N)、融点169℃)」と記載され、また、乙1である「プライムポリプロブロックPPグレード」の製品安全データシートには、「プロピレン・エチレンコポリマー」と記載され、「本製品安全データシートを適用するグレード」に続く乙2のプライムポリプロ(射出:耐衝撃)銘柄物性表において、「J708UG」と記載されている。したがって、甲1発明の「ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ708UG、プライムポリマー社製)」は、「プロピレン・エチレンブロックコポリマー」であることが理解できる。 そうすると、本件特許明細書の実施例9、12、13、15の樹脂は、「ポリプロピレン単独重合体」、すなわちホモポリマーであるのに対し、甲1発明の樹脂は、「プロピレン・エチレンブロックコポリマー」、すなわちコポリマーである。 ところで、ポリプロピレン樹脂において、コポリマーの結晶性はホモポリマーよりも低いこと、すなわち、コポリマーの結晶化時間がホモポリマーの結晶化時間よりも長いことは技術常識である。そうすると、甲1発明の「プライムポリプロJ708UG」を使用したものは、本件特許明細書の比較例8である「ポリプロピレン単独重合体」のみを使用した、1/2等温結晶化時間「6.5分」よりも長くなるものと理解する。 (c)ついで、セルロースの樹脂中への分散性に影響を及ぼす樹脂組成物の混練条件について見てみる。 本件特許明細書の段落【0062】では、ノバテックPPのペレットを、ドライアイスで冷却しながら、大阪ケミカル(株)製アブソルートミルABS-Wで10,000rpm以上の回転速度で30分以上ミキシングし、粉末化し、樹脂パウダーを得ている。そして、同段落【0072】においては、「スラリーと樹脂パウダーの混練条件について、「表1A及び表1Bに記載のとおりの組成で、上記セルロース10質量%を含むスラリー(もしくはスラリー混合物)と、ポリオレフィン樹脂パウダーとを十分に混合し混合物を得た。上記混合物を80℃で1時間、オーブンで乾燥した。乾燥した混合物を東洋精機製ラボプラストミル型番4C150で、ポリエチレンの場合には145℃、50rpmで20分間混練し、ポリプロピレンの場合には、180℃、50rpmで20分間混練した。」ことが記載されている。 一方、甲1発明においては、「二軸押出機内にて混練」することしか記載されておらず、具体的な混練条件については記載されていない。 (d)あらためて甲1発明の材料と樹脂組成物の混練条件を見てみると、甲1発明は、ポリプロピレン樹脂として、「ポリプロピレン単独重合体」の1/2等温結晶化時間よりも長くなることが想定される「プロピレン・エチレンブロックコポリマー」を使用し、セルロースと樹脂の具体的混練条件については何ら記載されていない。 してみると、甲1発明に係るポリオレフィン樹脂組成物の1/2等温結晶化時間が「5分以下」となるとまではいえない。 a-3 よって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。 b 進歩性について 甲1及び甲2ないし7には、1/2等温結晶化時間が「5分以下」とすることについて何ら記載も示唆もされていない。 本件特許発明1は、フィルター用途や電池用セパレータ用途において求められる「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物を提供すること」(本件特許明細書の段落【0004】~【0007】)を課題とするものである。そして、ポリプロピレン樹脂である<PP-1>のみを使用した比較例8は、1/2等温結晶化時間が「6.5分」で「5分」超であり、通気度が510秒、多孔フィルムの突刺し強度が180gであるのに対し、同じ<PP-1>を使用し、平均長径5μm以下の微細なセルロースを、凝集させることなく樹脂中へ分散させた本件特許明細書の実施例9、12、13、15は、1/2等温結晶化時間が「5分以下」となり、比較例よりも通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムが得られている。 一方、甲1発明の課題は、「軽量化と剛性の両立が可能であって、室温での線熱膨張率が低く、かつ高温での流動性に優れ、しかも外観および着色性に優れたポリオレフィン樹脂組成物、成形品および車両用バックドアを提供すること」であり、本件特許発明1のように、「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物を提供すること」を課題とするものではない。 そして、甲1ないし甲7には、「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物」と「1/2等温結晶化時間」との関係性について、何ら記載も示唆もされていない。 そうすると、甲1発明は、「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物を提供すること」を課題とするものではなく、ましてや甲1ないし甲7には、「1/2等温結晶化時間が、5分以下」とすることについて記載も示唆もされていないのであるから、甲1発明において、「1/2等温結晶化時間が、5分以下」とすることは動機付けられない。 そして、本件特許発明1は、「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物を提供する」という効果を奏するもので、甲1及び甲2ないし甲7を参酌しても、当該効果を当業者が予測し得るものとはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1ないし甲7の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (ウ)小括 上記検討したように、本件特許発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明及び甲1ないし甲7の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 イ 本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を直接引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2及び3は甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明及び甲1ないし甲7の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (3)申立人の主張について ア 申立人の主張 申立人は、令和6年8月20日付け意見書の第3~4ページにおいて、以下の主張を行っている。 「・・・まず、本件明細書には、訂正発明を含む発明全般について、1/2等温結晶化時間を短くするための具体的な制御方法は、平均長径5μm以下のセルロースを(ポリオレフィン樹脂に)配合すること(制御方法1)と、凝集させることなく(ポリオレフィン)樹脂中へ分散させるために、「セルロースを水中に微細に分散させたスラリー」と、(ポリオレフィン)樹脂パウダーを押出機等で混錬すること(制御方法2)との2点のみである(【0036】)。 ・・・略・・・ よって、甲1発明は、1/2等温結晶化時間以外の訂正発明に規定する要件を全て満たしており、また、本件明細書に記載する1/2等温結晶化時間を短く制御するための具体的な方法の全て(上記制御方法1及び2)を実施するものである点で、本件の実施例14と同様であり、甲1発明のポリオレフィン樹脂組成物は、依然として、1/2等温結晶化時間が「5分以下」を満たす蓋然性が高い。」 そこで、上記主張について検討する。 まず、上記制御方法1及び制御方法2は、あくまでも1/2等温結晶化時間が「15分以下」とするための一般的指針として記載されているのであって、制御方法1及び制御方法2を満たせば、1/2等温結晶化時間が自ずと「15分以下」、さらには「5分以下」となるものではない。 そして、上記(2)ア(イ)aで説示したように、甲1発明は、使用されている材料や製造条件等を基に検討しても、1/2等温結晶化時が5分以下を満たすものとはいえないものであった。 よって、申立人の主張は首肯できない。 (4)取消理由1及び申立理由1についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし3は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。 2 取消理由に採用しなかった申立理由について 2-1 申立理由2(甲6に基づく新規性・進歩性) (1)証拠に記載された事項等 ア 甲6に記載された事項及び甲6に記載された発明 (ア)甲6に記載された事項 甲6には、おおむね次の事項が記載されている。 「請求の範囲 [請求項1] 下記成分(A)~(C)を含む樹脂組成物。 (A)熱可塑性樹脂 35~96質量% (B)難燃剤及び難燃助剤からなる群より選ばれる1種以上である難燃化成分 3~60質量% (C)平均繊維径3~200nmのナノセルロース 0.5~20質量% [請求項2] 前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。 [請求項3] 前記(A)熱可塑性樹脂がポリプロピレンである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。 [請求項4] 前記(A)熱可塑性樹脂がブロックポリプロピレンである、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。 [請求項5] 前記(A)熱可塑性樹脂のASTM規格D1238によるメルトフローレートが4~30g/10分である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。」 「[0008] 本発明の目的は、バイオマス材料の利用により環境特性に優れ、剛性、難燃性が高く、成形外観に優れた、新規な難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することである。」 「[0071] (C)ナノセルロース 成分(C)のナノセルロースは、平均繊維径が3~200nmであるセルロースである。」 「[0090] 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 [0091] 実施例1~10及び比較例1~19 表1~4に示すように、各成分を所定の割合で配合して樹脂組成物を調製した。このとき、得られた樹脂組成物100質量部に対して、酸化防止剤としてイルガノックス1010(BASF社)0.2質量部、アデカスタブ2112(株式会社ADEKA)0.1質量部を配合した。 この組成物を押出機(機種名:PCM-30、株式会社池貝)に供給し、210~260℃で溶融混練し、ペレット化した。 [0092] 得られたペレットを、80℃で12時間乾燥させた後、射出成形機(型式:IS100N、東芝機械株式会社)により、シリンダー温度210~260℃、金型温度40℃の条件で射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用いて以下に示す各物性を評価した。結果を表1~4に示す。 [0093](引張弾性率) 引張弾性率は、ASTM D638に準拠して測定した。 [0094](限界酸素指数) 限界酸素指数(LOI)は、JIS K7201-2に準拠して測定した。 [0095](アイゾット衝撃強度) 使用した成分(A)のアイゾッド(IZOD)衝撃強度は、ASTM D256に準拠して、肉厚1/8インチ(1/20.3cm)の試験片を用いて23℃で測定した。 [0096](表面外観) 表面外観は、寸法8×8×0.3cmの試験片の一方の表面を観察し、0.1mm以上の寸法の凹みが20個未満存在する場合を「OK」とし、20個以上存在する場合を「NG」と評価した。 [0097](分散状態) 試験片における材料の分散状態を評価した。試験片を液体窒素中に1分間浸漬し凍結させてから、折り曲げて破断し、その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍で観察し、凝集物が見られない場合を「OK」とし、凝集物がみられる場合を「NG」と評価した。 [0098] [図:0001418240000017.jpg] ・・・ [0102] 表1~4に記載の各成分は以下のとおりである。 [成分(A)] ・樹脂1:ホモポリプロピレン(E-105GM、MFR(230℃、2.16kg)=0.5g/10min、IZOD衝撃強度=7kJ/m2、株式会社プライムポリマー) ・樹脂2:ブロックポリプロピレン(J-966HP、MFR(230℃、2.16kg)=30g/10min、IZOD衝撃強度=60kJ/m2、株式会社プライムポリマー) [0103][成分(B)] ・難燃剤1:ピロリン酸ピペラジン(FP2050、融点なし、株式会社ADEKA) ・難燃剤2:リン酸エステル(PX-200、融点96℃、大八化学工業株式会社) ・難燃剤3:ポリリン酸アンモニウム(TERRAJU C-30、融点なし、ブーデンハイム社) ・難燃剤4:水酸化マグネシウム(キスマ5AC、融点なし、協和化学工業株式会社) ・難燃剤5:ポリホウ酸ナトリウム(融点なし、株式会社SOUFA) ・難燃剤6:エチレンビス(ペンタブロモフェニル)(サイテックス8010、融点350℃、アルベマール社) ・難燃助剤:三酸化アンチモン(PATOX-M、融点なし、日本精鉱株式会社) 尚、「融点なし」は、押出機のシリンダー温度である210~260℃では溶融又は分解しないことを意味する。 [0104][成分(C)] ・ナノセルロース A(CNF-10、平均繊維径30nm、中越パルプ工業) ・セルロースファイバー(SW-10、平均繊維径25μm、セライト社) ・ナノセルロース B(KY-100G、平均繊維径100nm、ダイセルファインケム) [成分(D)] ・テルペンフェノール(YSポリスターT130(水酸基価60)、ヤスハラケミカル株式会社) [0105] 熱可塑性樹脂であるポリプロピレンに対して、ナノセルロース及び/又はテルペン系樹脂を配合した樹脂組成物では、難燃性(LOI)は向上しなかった。 しかし、溶融しない難燃剤(難燃剤1、3~6)をナノセルロースと共に配合した樹脂組成物では、樹脂中への難燃剤の分散性は良好で、樹脂組成物の難燃性は向上した。 また、溶融する難燃剤(難燃剤2)でも、ナノセルロースを配合しない場合は、ポリプロプレンとの親和性が低く混練できなかったが(比較例10)、ナノセルロースを併用することにより、混錬可能となり、難燃性が向上した。 μmオーダーの寸法を有するセルロースファイバーを配合した樹脂組成物では、弾性率は向上するものの、樹脂組成物中への難燃剤の分散性が悪く、難燃性は向上しなかった。」 (イ)甲6に記載された発明 甲6の請求項1の実施態様である実施例1に着目して整理すると、以下の発明が記載されていると認められる。 「下記成分(A)~(C)を配合して樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物100質量部に対して、酸化防止剤としてイルガノックス1010(BASF社)0.2質量部、アデカスタブ2112(株式会社ADEKA)0.1質量部を配合し、この組成物を押出機(機種名:PCM-30、株式会社池貝)に供給し、210~260℃で溶融混練してして得られたペレット。 (A)熱可塑性樹脂であるブロックポリプロピレン(J-966HP、MFR(230℃、2.16kg)=30g/10min、IZOD衝撃強度=60kJ/m2、株式会社プライムポリマー)70質量%、 (B)難燃剤であるピロリン酸ピペラジン(FP2050、融点なし、株式会社ADEKA)20質量%、 (C)ナノセルロース A(CNF-10、平均繊維径30nm、中越パルプ工業)」(以下、「甲6発明」という。) イ 甲7に記載された事項 [図:0001418240000018.jpg] [図:0001418240000019.jpg] [図:0001418240000020.jpg] [図:0001418240000021.jpg] (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲6発明とを対比する。 甲6発明の「(A)「ブロックポリプロピレン(J-966HP、MFR(230℃、2.16kg)=30g/10min、IZOD衝撃強度=60kJ/m2、株式会社プライムポリマー)」は、本件特許発明1の「MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が30g/10分であるポリプロピレン共重合体」である「ポリオレフィン樹脂」に相当する。 甲6発明の「ナノセルロース A(CNF-10、平均繊維径30nm、中越パルプ工業)」は、本件特許発明1の「セルロース」に相当する。 また、甲6発明の「ペレット」は樹脂組成物を含むものであるから、本件特許発明1の「樹脂組成物」に相当する。 よって、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> ポリオレフィン樹脂とセルロースとを含む、樹脂組成物であり、 前記ポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が30g/10分であるポリプロピレン共重合体である、樹脂組成物。 <相違点6-1> 前記セルロースの平均長径が、本件特許発明1は「5μm以下」であるのに対し、甲6発明は不明である点 <相違点6-2> ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対する前記セルロースの含有量が、本件特許発明1は「0.3~15.0質量部」であるのに対し、甲6発明は不明である点 <相違点6-3> 樹脂組成物の1/2等温結晶化時間が、本件特許発明1は「5分以下」であるのに対し、甲6発明は不明である点 (イ)相違点の検討 a 新規性について <相違点6-1>について 甲7は、中越パルプ工業社の「セルロースナノファイバーのサンプル販売開始」と題するプレスリリースであるところ、甲7の第2ページには、「セルロースナノファイバーは、すべての植物の基本骨格物質です。直径が100nm以下で、長さが直径の100倍程度以上の極細繊維状物質であり、セルロースを解繊処理等して得ることができます。」と記載されている。 甲6発明の「ナノセルロース A」は、平均繊維径30nmであるところ、甲7の上記記載を参酌すると、長さは、3μm程度以上(30nm×100倍程度以上)という値が算出される。しかしながら、甲7の上記記載はあくまでも「セルロースナノファイバー」の一般的な長さと直径の関係を目安として示したものにすぎず、甲6発明で用いられた「ナノセルロースA」の平均長径が5μm以下であることを示す証拠であるとはいえない。 そうすると、甲6発明の「ナノセルロース A」の平均長径が「5μm以下」であるとはいえない。 <相違点6-3>について a-1 まず、甲6には、「1/2等温結晶化時間が、5分以下であ」ることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。 a-2 次に、甲6発明が、「1/2等温結晶化時間が、5分以下であ」ることを満たすか否かを、甲6発明で使用されている材料や製造条件等から検討する (a)まず、上記「<相違点6-1>について」で検討したように、甲6発明の「ナノセルロース A」の平均長径が「5μm以下」であるとはいえないものである。 また、甲6発明のポリプロピレン樹脂は、「ブロックポリプロピレン」である。 (b)次いで、セルロースの樹脂中への分散性に関係する樹脂組成物の混練条件について見てみると、本件特許明細書の段落【0062】では、ノバテックPPのペレットを、ドライアイスで冷却しながら、大阪ケミカル(株)製アブソルートミルABS-Wで10,000rpm以上の回転速度で30分以上ミキシングし、粉末化し、樹脂パウダーを得ている。そして、同段落【0072】においては、「スラリーと樹脂パウダーの混練条件について、「表1A及び表1Bに記載のとおりの組成で、上記セルロース10質量%を含むスラリー(もしくはスラリー混合物)と、ポリオレフィン樹脂パウダーとを十分に混合し混合物を得た。上記混合物を80℃で1時間、オーブンで乾燥した。乾燥した混合物を東洋精機製ラボプラストミル型番4C150で、ポリエチレンの場合には145℃、50rpmで20分間混練し、ポリプロピレンの場合には、180℃、50rpmで20分間混練した。」ことが記載されている。 一方、甲6発明においては、「押出機(機種名:PCM-30、株式会社池貝)に供給し、210~260℃で溶融混練」することしか記載されていない。 (c)あらためて甲6発明の材料と樹脂組成物の混練条件を見てみると、甲6発明は、平均長径が「5μm以下」とはいえないセルロースを使用し、ポリプロピレン樹脂として、「ポリプロピレン単独重合体」の1/2等温結晶化時間よりも長くなることが想定される「プロピレン・エチレンブロックコポリマー」を使用し、さらに、セルロースと樹脂の具体的混練条件も本件特許発明の実施例とも異なっている。 a-3 そうすると、甲6発明に係る樹脂組成物の1/2等温結晶化時間が「5分以下」となるとはいえない。 よって、本件特許発明1は、相違点6-2について検討するまでもなく、甲6発明ではない。 b 進歩性について <相違点6-3>について 甲6及び甲1ないし甲5、甲7には、1/2等温結晶化時間が「5分以下」とすることについて記載も示唆もされていない。 本件特許発明1は、フィルター用途や電池用セパレータ用途において求められる「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物を提供すること」(本件特許明細書の段落【0004】~【0007】)を課題とするものである。 一方、甲6発明の課題は、「バイオマス材料の利用により環境特性に優れ、剛性、難燃性が高く、成形外観に優れた、新規な難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供すること」であり、本件特許発明1のように、「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物」を課題とするものではない。 そうすると、甲6発明において、甲1ないし甲7を参酌しても、「1/2等温結晶化時間が、5分以下」とすることを動機付ける記載や示唆もなく、当業者が容易に想到し得ることはできない。 そして、本件特許発明1は、「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物を提供する」という効果を奏するもので甲1ないし甲7を参酌しても、当該効果を当業者が予測し得るものとはいえない。 よって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲6発明及び甲1ないし甲7の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (ウ)小括 上記検討したように、本件特許発明1は、甲6に記載された発明とはいえないし、甲6に記載された発明及び甲1ないし甲7の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 イ 本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を直接引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2及び3は甲6に記載された発明とはいえないし、また、甲6に記載された発明及び甲1ないし甲7の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (3)申立理由2についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし3は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。 2-2 申立理由3(サポ-ト要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件特許発明の課題 本件特許発明の課題は、フィルター用途や電池用セパレータ用途において求められる「通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物を提供すること」(本件特許明細書の段落【0004】~【0007】)であるものと認められる。 (3)検討 ア そこで、上記(1)の判断基準に沿って、本件特許発明が、サポート要件に適合するか否か検討する。 イ 本件特許明細書を見てみると、その段落【0008】には、「本発明では上記問題の解決のため、前記課題を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン樹脂に微細なセルロースを添加された樹脂組成物は、セルロースが均一にポリオレフィン樹脂を含む組成物中に分散され、通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載され、その段落【0009】には、「すなわち、本発明は以下に関する。 [1] ポリオレフィン樹脂とセルロースとを含む、樹脂組成物であり、 前記セルロースが、平均長径5μm以下のセルロースであり、 前記セルロースの含有量が、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、0.05~15.0質量部であり、 示差走査熱量計(DSC)の補外結晶化開始温度より4℃高い温度における1/2等温結晶化時間が、15分以下である、樹脂組成物。」と記載されている。 そして、同段落【0019】には、「[セルロース] 本実施形態の樹脂組成物は、平均長径5μm以下のセルロースを、組成物中に0.05~15.0質量部含む。・・・略・・・平均長径が5μm超過のセルロースを樹脂組成物中に含むことにより、フィルム、シート、部品等の成形後に引張破断強度が低下する傾向にある。その理由としては、製品に応力がかけられた場合、大きい粒子が、粒子の端部を起点として破断が起きるためと考えられる。粒子が5μm以下の場合にはポリオレフィン分子がセルロースに絡み、フィルム、シート、部品等の破断強度に優れる傾向にある。・・・略・・・また、本実施形態におけるセルロースは、ポリオレフィンの結晶化の際に核として作用することにより、結晶化速度、結晶化度を向上させると考えられる。結晶化速度が向上することにより、微細な結晶の数が増えることになる。多孔化工程において、微細な結晶を起点として穴が生成することにより、比較的小さい穴を多量に発生することになる。また、結晶化度が向上することは、フィルムが硬くなるということであり、突刺し強度の向上につながる。」と記載され、段落【0036】には、「1/2等温結晶化時間を制御するには、例えば、上記のような平均長径5μm以下のセルロースを配合すること等が挙げられる。また、平均長径5μm以下の微細なセルロースを、凝集させることなく樹脂中へ分散させることにより、1/2等温結晶化時間を15分以下とすることができる。そのためには、例えば上記のようにバイオミキサー等でセルロースを水中に微細に分散させたスラリーと、樹脂パウダーを十分に混合し、更にミキサー、押出機等で混練することが好ましい。このような混合物を調製することにより、1/2等温結晶化時間を15分以下に制御することができる。」と記載されている。 すなわち、上記記載から、「ポリオレフィン樹脂に平均長径5μm以下の微細なセルロースを」、「凝集させることなく」「樹脂中へ0.05~15.0質量部分散させること」、その結果として、「1/2等温結晶化時間を15分以下」とすることができること、そして、「当該セルロースは、ポリオレフィンの結晶化の際に核として作用することにより、結晶化速度、結晶化度を向上させ、結晶化速度が向上することにより、フィルムが硬くなって、突刺し強度の向上につながると共に、微細な結晶の数が増え、多孔化工程において、微細な結晶を起点として穴が生成することにより、比較的小さい穴を多量に発生し通気性が向上することができる」という作用機序を読み取ることができる。 ウ ついで、ポリプロピレン樹脂を用いた本件特許明細書の実施例を見てみると、比較例7は、ポリプロピレン樹脂に平均長径5μm以下の微細なセルロースを配合したものであるが、1/2等温結晶化時間が「7.3分」と5分以上であり、通気性が118秒、突刺し強度が185gと通気性と突刺し強度が共に劣っているのに対し、同じくポリプロピレン樹脂に平均長径5μm以下の微細なセルロースを配合した実施例9~15は、1/2等温結晶化時間が「1.4~2.8分」と5分以下であり、通気性が280~410秒、突刺し強度(346~405g)を示し、通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムが得られている。 エ 上記イで示した作用機序と上記ウで示した実施例・比較例の結果を鑑みると、「ポリオレフィン樹脂とセルロースとを含む、樹脂組成物であり、 前記セルロースが、平均長径5μm以下のセルロースであり、 前記セルロースの含有量が、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、0.05~15.0質量部であり、 1/2等温結晶化時間が、5分以下であり、 前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体である」という技術的事項により、本件特許発明の課題が解決し得るものと認められる。 そして、本件特許発明1ないし3は、当該技術的事項を備えるものであるから、本件特許発明の課題を解決できるものといえる。 オ よって、本件特許発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 (4)申立人の主張について 申立人は、申立書の第36ページにおいて、概略、以下の主張を行っている。 「MFRが本件発明1の範囲の下限値である30g/10以外の範囲(30g/10分超60g/10分以下)にあるプロピレン樹脂を用いた樹脂組成物など、本件の実施例14のポリプロピレン樹脂のMFRとセルロースの含有量の組合せ以外の樹脂組成物を用いた場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」 そこで、上記主張について検討する。 まず、上記(3)で説示したように、「ポリオレフィン樹脂とセルロースとを含む、樹脂組成物であり、 前記セルロースが、平均長径5μm以下のセルロースであり、 前記セルロースの含有量が、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、0.05~15.0質量部であり、 1/2等温結晶化時間が、5分以下であり、 前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体である」という技術的事項により、本件特許発明の課題が解決し得るものと認められるものである。すなわち、ポリプロピレン樹脂のMFRは、本件特許発明の課題を解決するために必須の発明特定事項とは認められない。 そして、申立人は、30g/10分超60g/10分以下にあるプロピレン樹脂を用いた樹脂組成物が本件特許発明の課題を解決し得ない可能性を指摘するにとどまり、具体的な証拠をもってサポート要件に適合しないことを立証するものではない。 よって、申立人の上記主張は首肯できない。 (5)申立理由3についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由3によっては取り消すことはできない。 2-3 申立理由4(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、物の発明の場合には、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 (2)検討 ア そこで、上記(1)の判断基準に沿って、本件特許に係る出願が、実施可能要件に適合するか否か検討する。 イ 樹脂組成物に使用されるポリプロピレン樹脂については、本件特許明細書の段落【0016】~【0018】に記載され、セルロースについては、同段落【0019】~【0033】に記載されている。 そして、同段落【0036】には、「1/2等温結晶化時間を制御するには、例えば、上記のような平均長径5μm以下のセルロースを配合すること等が挙げられる。 また、平均長径5μm以下の微細なセルロースを、凝集させることなく樹脂中へ分散させることにより、1/2等温結晶化時間を15分以下とすることができる。そのためには、例えば上記のようにバイオミキサー等でセルロースを水中に微細に分散させたスラリーと、樹脂パウダーを十分に混合し、更にミキサー、押出機等で混練することが好ましい。このような混合物を調製することにより、1/2等温結晶化時間を15分以下に制御することができる。」と、「1/2等温結晶化時間を制御する一般的指針が示されている。 ウ また、【実施例】においては、ポリプロピレン樹脂に平均長径5μm以下の微細なセルロースを配合した実施例9~15が示されており、「表1A及び表1Bに記載のとおりの組成で、上記セルロース10質量%を含むスラリー(もしくはスラリー混合物)と、ポリオレフィン樹脂パウダーとを十分に混合し混合物を得た。上記混合物を80℃で1時間、オーブンで乾燥した。乾燥した混合物を東洋精機製ラボプラストミル型番4C150で、ポリエチレンの場合には145℃、50rpmで20分間混練し、ポリプロピレンの場合には、180℃、50rpmで20分間混練した。」と、セルロースを、凝集させることなく樹脂中へ分散させる具体的な混練条件が記載され、実際に、実施例9~15は、1/2等温結晶化時間を5分以下に制御できている。 エ そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし3を実施することができるものといえる。 (3)申立人の主張について 申立人は、申立書の第36ページにおいて、以下の主張を行っている。 「本件特許の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を考慮しても、MFRが本件発明1の範囲の下限値である30g/10以外の範囲(30g/10分超60g/10分以下)にあるプロピレン樹脂を用いた樹脂組成物など、本件の実施例14のポリプロピレン樹脂のMFRとセルロースの含有量の組合せ以外の樹脂組成物を用いた場合に、本件発明1-3を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。」 しかしながら、MFRが30g/10分超60g/10分以下の場合も、実施例14を参考に、ポリプロピレン樹脂とセルロースとの混練条件を適宜設定して、セルロースを、ポリプレピレン樹脂に凝集させることなく分散させて1/2等温結晶化時間を5分以下とすることは、当業者の通常の試行錯誤の範囲で行い得るものと認められる。 よって、申立人の主張は首肯できない。 (4)申立理由4についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由4によっては取り消すことはできない。 第6 むすび 上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、当審が通知した取消理由通知及び申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 さらに、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700145

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