特許異議申立
2024-700116
フッ素樹脂組成物、及び、成形体
- 審判番号
- 2024-700116
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-058834
- 登録番号
- 7323831
- 請求日
- 2024年02月09日
- 審決日
- 2025年07月18日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイキン工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】工藤 知江
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 細井 龍史
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7323831号発明「フッ素樹脂組成物、及び、成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7323831号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕、〔13-15〕について訂正することを認める。
特許第7323831号の請求項1~15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7323831号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、令和4年3月31日(優先権主張 令和3年3月31日)を出願日とする出願(特願2022-58834号)であって、令和5年8月1日に特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年2月9日に、特許異議申立人である工藤 知江(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~15)がされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和6年 3月 4日付け 手続補正指令書(方式)(申立人宛て)
同年 3月23日提出 手続補正書(方式)(申立人)
同年 5月31日付け 取消理由通知
同年 8月 5日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月23日 職権訂正(訂正請求書)
同年 9月 2日提出 手続補正書(方式)(特許権者)
同年 9月12日付け 通知書(申立人宛て)
同年10月17日提出 意見書(申立人)
同年11月29日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和7年 2月 3日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月20日付け 通知書(申立人宛て)
同年 3月29日提出 意見書(申立人)
なお、令和7年2月3日に提出された訂正請求書により、令和6年8月5日に提出された訂正請求書は取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
第2 訂正の適否
1 請求の趣旨
特許第7323831号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
令和7年2月3日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は、当審で付した。以下同様。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂Bとを含む粉末であり、見掛密度が0.42g/ml以上1.00g/ml以下であり、フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンであるフッ素樹脂組成物。」と記載されているのを、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂Bとを含む粉末であるフッ素樹脂組成物であり、見掛密度が0.42g/ml以上1.00g/ml以下であり、333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有し、前記フッ素樹脂組成物に対するフッ素樹脂Aの含有量が50質量%以上であり、フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンであるフッ素樹脂組成物。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4~12も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に、
「333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有する請求項1又は2に記載のフッ素樹脂組成物。」と記載されているのを、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂Bとを含む粉末であるフッ素樹脂組成物であり、見掛密度が0.42g/ml以上1.00g/ml以下であり、333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有し、前記フッ素樹脂組成物に対するフッ素樹脂Aの含有量が40質量%以上であり、フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さいフッ素樹脂組成物。」に訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項5~12も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さい請求項1~3のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。」と記載されているのを、
「フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さい請求項1又は2に記載のフッ素樹脂組成物。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項13に、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂Bとを含み、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含み、フッ素樹脂Aはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Bは、99.0質量%以上のテトラフルオロエチレン単位と、1.0質量%以下の変性モノマー単位とを含む変性ポリテトラフルオロエチレンであるフッ素樹脂組成物。」と記載されているのを、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂Bとを含み、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含み、フッ素樹脂Aはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Bは、99.0質量%以上のテトラフルオロエチレン単位と、0.010~0.10質量%の変性モノマー単位とを含む変性ポリテトラフルオロエチレンであり、前記変性モノマーは、パーフルオロオレフィン、パーハロオレフィン、パーフルオロビニルエーテル及びパーフルオロアリルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であるフッ素樹脂組成物。」に訂正する。
請求項13の記載を直接又は間接的に引用する請求項14及び15も同様に訂正する。
(5)独立特許要件について
訂正前の請求項1~15の全てについて特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1~12について、請求項2~12は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~12は一群の請求項である。
訂正前の請求項13~15について、請求項14、15は、それぞれ請求項13を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項4によって記載が訂正される請求項13に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項13~15は一群の請求項である。
よって、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12及び訂正前の請求項13~15に対応する訂正後の請求項13~15は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
(7)別の訂正単位とする求めについて
訂正後の請求項3と、訂正後の請求項3の記載を引用する請求項5~12について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
しかしながら、訂正後の請求項5~12は、請求項1及び請求項3を引用しているから、訂正後の請求項1~12は一群の請求項となる。
してみると、別の訂正単位とする求めがされた訂正後の請求項3~12は、その他の一群の請求項に係る訂正とは別の訂正単位として扱うことができないものである。
よって、別の訂正単位とする求めは認められない。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、フッ素樹脂組成物の融点、及びフッ素樹脂Aの含有量を特定することにより、フッ素樹脂組成物をより特定し限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1における、フッ素樹脂組成物の融点、フッ素樹脂Aの含有量は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0024】、【0074】にそれぞれ記載された事項であるから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、上記訂正事項1に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3が引用する請求項から請求項2を削除するとともに、訂正前の請求項3のうち請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消するものであり、かつ、フッ素樹脂Aの含有量と、フッ素樹脂Aの粒子及びフッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さの大小関係を特定してフッ素樹脂組成物をより限定するものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2における、フッ素樹脂Aの含有量、フッ素樹脂Aの粒子及びフッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さの大小関係は、本件明細書の段落【0074】、【0093】及び【0127】にそれぞれ記載された事項であるから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、上記訂正事項2に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項4が引用する請求項から請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、引用請求項の削除であるから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、上記訂正事項3に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項13において、フッ素樹脂Bの組成(変性モノマーの種類及び割合)を特定することで、フッ素樹脂組成物をより特定し限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項4における、フッ素樹脂Bの組成は、本件明細書の段落【0063】~【0065】(モノマーの種類は【0035】も参照。)に記載された事項であるから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、上記訂正事項13に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5号及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕、〔13~15〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求は認められたから、請求項1~15に係る発明(以下、順に「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂Bとを含む粉末であるフッ素樹脂組成物であり、見掛密度が0.42g/ml以上1.00g/ml以下であり、333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有し、前記フッ素樹脂組成物に対するフッ素樹脂Aの含有量が50質量%以上であり、フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンであるフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂組成物は、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含み、全重合単位に対し、前記変性モノマー単位の量が1.0質量%以下である請求項1に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂Bとを含む粉末であるフッ素樹脂組成物であり、見掛密度が0.42g/ml以上1.00g/ml以下であり、333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有し、前記フッ素樹脂組成物に対するフッ素樹脂Aの含有量が40質量%以上であり、フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さいフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さい請求項1又は2に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
安息角が40°未満である請求項1~4のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項6】
平均二次粒子径が5~700μmである請求項1~5のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項7】
低分子量含フッ素化合物の含有量が、前記フッ素樹脂組成物に対し1質量ppm以下である請求項1~6のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項8】
圧縮成形用粉末である請求項1~7のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項9】
下記条件で測定した引張破断強度が10MPa以上である請求項1~8のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
(測定条件)
φ100mmの金型に35gの前記フッ素樹脂組成物を投入し、30MPaの圧力、1分間の条件で圧縮成形し、室温から300℃まで3時間で昇温し、その後300℃から370℃まで4時間で昇温し、370℃で12時間保持した後、300℃まで5時間で降温したのち、室温まで1時間で降温する工程によって焼成した成形体を打ち抜いて作成したダンベルを用いて、ASTM Dl708に準じて測定する。
【請求項10】
下記条件で測定した引張破断歪が150%以上である請求項1~9のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
(測定条件)
φ100mmの金型に35gの前記フッ素樹脂組成物を投入し、30MPaの圧力、1分間の条件で圧縮成形し、室温から300℃まで3時間で昇温し、その後300℃から370℃まで4時間で昇温し、370℃で12時間保持した後、300℃まで5時間で降温したのち、室温まで1時間で降温する工程によって焼成した成形体を打ち抜いて作成したダンベルを用いて、ASTM D1708に準じて測定する。
【請求項11】
更に、充填材を含む請求項1~10のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物を圧縮成形及び焼成して得られる成形体。
【請求項13】
融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂Bとを含み、テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含み、フッ素樹脂Aはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Bは、99.0質量%以上のテトラフルオロエチレン単位と、0.010~0.10質量%の変性モノマー単位とを含む変性ポリテトラフルオロエチレンであり、前記変性モノマーは、パーフルオロオレフィン、パーハロオレフィン、パーフルオロビニルエーテル及びパーフルオロアリルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であるフッ素樹脂組成物。
【請求項14】
見掛密度が0.42g/ml以上である請求項13に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項15】
圧縮成形用粉末である請求項13又は14に記載のフッ素樹脂組成物。」
第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の申立理由
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件発明13、15は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物等である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
ア 本件発明1、2、4、6~15は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物等である甲第1号証と、周知技術(甲第3号証~甲第6号証)に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件発明3は、本願の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物等である、甲第1号証と、甲第2号証と、周知技術(甲第3号証~甲第6号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 本件発明3は、本願の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物等である、甲第2号証と、周知技術(甲第3号証~甲第6号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 本件発明5は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物等である、甲第1号証と、甲第7号証と、周知技術(甲第3号証~甲第6号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(明確性要件違反)
本件発明4~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
申立理由の概要は以下のとおり。
本件発明4では、各粒子の「最大直線長さ」の大小関係について規定されているところ、これら各粒子の「最大直線長さ」について、明細書の段落0149に、その測定方法が記載されている。しかし、各粒子の「最大直線長さ」の値は、イレギュラーな形状の粒子の存在や測定方法によって大きく左右され、その結果、各粒子の「最大直線長さ」の大小関係は不定なものといえる。
そうすると、「フッ素樹脂組成物」において、本件発明4で規定される技術的意義は明らかでなく、本件発明4、及び該本件発明4を引用する本件発明5~12は明確でない。
2 証拠方法
(1)申立人による証拠方法
ア 申立書に添付した証拠方法
・甲第1号証:特開2015-108126号公報
・甲第2号証:特開2006-70233号公報
・甲第3号証:特開平6-73189号公報
・甲第4号証:特開平9-241387号公報
・甲第5号証:特開2000-143922号公報
・甲第6号証:国際公開第03/035724号
・甲第7号証:特開平10-251413号公報
・甲第8号証:特開平5-262892号公報
・甲第9号証:特開2016-164216号公報
・甲第10号証:ふっ素樹脂テフロン(R)実用ハンドブック、三井・デュポンフロロケミカル株式会社、1999年8月改訂(当審注:(R)は○にRを意味する。)
イ 令和7年3月29日提出の意見書に添付した証拠方法
・甲第11号証:特開昭63-218319号公報
以下、甲第1号証~甲第11号証を、番号にしたがい「甲1」~「甲11」という。
(2)特許権者による証拠方法
令和6年8月5日提出の意見書に添付した証拠方法は以下のとおりである。
・乙第1号証:実験成績証明書
・乙第2号証:AMS Handbook, Volume 7: Powder Metal Technologies and Applications, ASM International, 1998, p.287-301及び抄訳文
3 当審が通知した令和6年11月29日付け取消理由通知(決定の予告)
当審で通知した取消理由通知(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~15は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び周知技術(甲2、甲4~甲10)に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲2に基づく進歩性欠如)
本件発明1~3、5~15は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明及び周知技術(甲4~甲10)に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明1~15に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1(甲1に基づく進歩性欠如)及び申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)並びに申立理由2(進歩性欠如)ア、イ、エについて
取消理由1及び申立理由1並びに申立理由2は、いずれも甲1に基づくものであるから、併せて検討する。
(1)甲1に記載された発明
甲1の請求項1には、「加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末30重量%以下(但し、0重量%は含まず)と、未加熱フッ素樹脂粉末70重量%以上を混合して混合系フッ素樹脂原料とし、この混合系フッ素樹脂原料を用いて通常の成形条件よりも予備成形圧力が高圧力の成形条件の成形法又は溶融状態のまま加圧し冷却する成形条件の成形法によって混合系フッ素樹脂成形品を得ることを特徴とするフッ素樹脂のリサイクル方法。」、同請求項2には、「前記フッ素樹脂がPTFE樹脂である請求項1記載のフッ素樹脂のリサイクル方法。」と記載されている。
ここで、甲1の請求項1に記載された「混合系フッ素樹脂原料」を構成する「加熱済みフッ素樹脂粉砕物」及び「未加熱フッ素樹脂粉末」における「フッ素樹脂」を、同請求項2に記載された「前記フッ素樹脂がPTFE樹脂」であることを踏まえて整理すると、甲1には、次の発明が記載されていると認める。
「加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末30重量%以下(但し、0重量%は含まない。)と、未加熱フッ素樹脂粉末70重量%以上を混合した混合系フッ素樹脂原料であって、
前記フッ素樹脂がPTFE樹脂である、混合系フッ素樹脂原料。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末」は、甲1の段落【0026】によると、金型に充填し、常温で加圧して予備成形したのち、360℃で5時間焼成し、成形品を作成し、これを旋盤による機械加工してできたテープ状加工屑を冷凍粉砕して得られた再生原料粉末のことである。ここで、甲1の段落【0022】には、成形用の未加熱フッ素樹脂粉末を圧縮成型して予備成形品を形成し、これを樹脂の融点以上(例えば360℃)で一定時間(例えば、4~10時間)焼成することが記載されていることから、上記段落【0026】の360℃で5時間焼成することは、融点以上の温度に加熱したことを意味するものである。
また、甲1の段落【0002】には、加熱済みPTFE樹脂成形品の機械加工過程で大量に発生する切削屑・端屑などの廃材の処理が問題となっていること、PTFE樹脂は、溶融時の粘度が高いことから、熱溶融流動性を利用した廃材のリサイクルが不可能であることが記載されており、溶融流動性を有さないことが理解できる。
そうすると、甲1発明の「加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末」は、本件発明1の「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂A」に相当する。
(イ)甲1発明の「未加熱フッ素樹脂粉末」は、甲1の段落【0017】~【0019】には、「未加熱フッ素樹脂」が、焼成していない未使用のフッ素樹脂原料を意味し、市販の重合上がりの成形用の非溶融フッ素樹脂を用いることが可能であること、上記「非溶融フッ素樹脂」が、融点以上に加熱されても、溶融流動性を示さず、溶融流動性によらない成形加工法に使用されるものであることが記載されていることから、焼成していない未使用のフッ素樹脂は、融点以上に加熱されても溶融流動性を有さないことが理解できる。
そうすると、甲1発明の「未加熱フッ素樹脂粉末」と、本件発明1の「融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂B」とは、「融点以上の温度に加熱した履歴のない」「重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂」(以下、「フッ素樹脂α」という。)である限りにおいて一致する。
(ウ)甲1発明の「加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末」及び「未加熱フッ素樹脂粉末」はいずれも粉末であるから、これらの「粉末」と、本件発明1の「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂A」と「融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂B」とを含む「粉末」とは、上記(イ)を受けて、「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂A」と「フッ素樹脂α」とを含む「粉末」である限りにおいて一致する。
(エ)甲1発明の「加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末」及び「未加熱フッ素樹脂粉末」における「フッ素樹脂はPTFE樹脂」であるから、これと、本件発明1の「フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンである」こととは、上記(イ)を受けて、「フッ素樹脂Aとフッ素樹脂αはポリテトラフルオロエチレンである」限りにおいて一致する。
(オ)甲1発明の「混合系フッ素樹脂原料」は、本件発明1の「フッ素樹脂組成物」に相当する。
そして、甲1発明の「混合系フッ素樹脂原料」は、「加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末」と「未加熱フッ素樹脂粉末」とを含み、両者とも粉末であるから、本件発明1の「粉末であるフッ素樹脂組成物」に相当する。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂(フッ素樹脂α)とを含む粉末であるフッ素樹脂組成物であり、フッ素樹脂A及びαはポリテトラフルオロエチレンであるフッ素樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
「融点以上の温度に加熱した履歴のない」「重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂」、すなわちフッ素樹脂αの重合方法が、本件発明1では懸濁重合であるのに対し、甲1発明では不明である点
<相違点1-2>
フッ素樹脂組成物の見掛密度が、本件発明1では「0.42g/ml以上1.00g/ml以下であ」るのに対し、甲1発明では不明である点
<相違点1-3>
フッ素樹脂組成物の融点に関し、本件発明1は「333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有」するのに対し、甲1発明は不明である点
<相違点1-4>
フッ素樹脂組成物に対するフッ素樹脂Aの含有量が、本件発明1では「50質量%以上であ」るのに対し、甲1発明では30重量%以下である点
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-4について検討する。
甲1発明では、加熱済みPTFE樹脂粉末の含有量が30重量%以下であるところ、これを50重量%以上とすることが、当業者にとって容易であるか否かについて検討する。
甲1には、混合系フッ素樹脂原料として、加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末(本件発明1の「フッ素樹脂A」に相当する。)30重量%以下と、未加熱フッ素樹脂粉末(本件発明1の「フッ素樹脂B」に相当する。)70重量%以上を混合してなること(請求項1)、再生原料粉末が30重量%を超えると十分な機械的物性が得られなくなること(【0023】)、実施例では未加熱PTFE樹脂粉末(テフロン7J)を70重量%、加熱済みPTFE樹脂粉末を30重量%の量的比率にてミキサーで2分間混合して、混合系PTFE樹脂原料粉末を調製したことが記載されている。
これらの記載によると、加熱済みPTFE樹脂粉末を含有するとしても30重量%を限度とし、これにより機械的物性を担保していることが窺える。
一方、甲3~甲6は、フッ素樹脂組成物の見掛密度に関する事項が記載されいるだけであって、加熱済みフッ素樹脂と未加熱フッ素樹脂とを混合したフッ素樹脂組成物については記載されていない。
そうすると、当業者が、甲1、甲3~甲6に接したとしても、甲1発明において、加熱済みPTFEの含有量を50重量%以上とすることを想起させることはないといえる。
してみると、相違点1-4に係る発明特定事項は、甲1発明及び甲1の記載、周知技術(甲3~甲6)に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件発明1の効果は、融点以上の温度に加熱した履歴のあるフッ素樹脂Aと融点以上の温度に加熱した履歴のないフッ素樹脂Bとを含むフッ素樹脂組成物において、特定の見掛密度であって、かつ、フッ素樹脂Aの含有量が50質量%以上であるようにすることで、フッ素樹脂Aを含むにもかかわらず、取り扱い性に優れるフッ素樹脂組成物、及び、該フッ素樹脂組成物から得られる成形体を提供すること(【0021】)であるところ、この効果を甲1発明及び甲1、甲3~甲6に記載された事項から、当業者が予測できないものである。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1、甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 令和7年3月29日提出の意見書について
申立人は、令和7年3月29日提出の意見書において、樹脂組成物の成形品において、温度、荷重、速度等の種々使用条件により使用の可否を考慮することは周知であり、再生原料100%で、機械的物性としては優れない成形品であっても、使用条件によっては使用可能と判断可能であること、ガラス繊維等の繊維状補強材を配合して未使用原料100%の成形品と同等以上の機械的物性をえられることも推測でき、実際に甲11では再生原料100%の成形品であっても繊維状補強材の配合により機械的物性の向上がはかれること、再生原料50%以上の例として甲2の比較例2では再生原料80%である試験片(成形品)が示されているから、甲1に記載された発明において、再生原料の含有量を50重量%以上とすることは、当業者が容易に想到しうることである旨主張している。
そこで検討する。
甲1には、上記イに示したとおり、混合系フッ素樹脂原料として、加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末30重量%以下と、未加熱フッ素樹脂粉末70重量%以上を混合してなること(請求項1)、再生原料粉末が30重量%を超えると十分な機械的物性が得られなくなること(【0023】)が記載される一方で、本件発明における、融点以上の温度に加熱した履歴のあるフッ素樹脂を含むにもかかわらず、取り扱い性に優れるフッ素樹脂組成物を提供するといった課題(【0005】)や、該課題を解決するために、見掛密度を特定の範囲内にすること(【0023】)については記載されていない。
そうすると、甲1において、取り扱い性の観点で、再生原料粉末の含有量を調整することはもちろんのこと、仮に該再生原料粉末の含有量を調整するとしても、30重量%より多くすることについては想定していないと認められる。
してみると、甲1に記載された発明を出発点として、再生原料粉末の含有量を30重量%を超えて、50質量%以上にすることは、当業者が想起しえないといえる。
そして、申立人は、甲2の比較例2の加熱済の非溶融フッ素樹脂の含有量が80重量%である試験片(成形品)や甲11の繊維状補強材とともに再生原料の含有量が100%である成形品を例にあげて、再生原料の含有量を50重量%以上とすることの容易性を主張するも、そのような成形品の存在は取り扱い性とは無関係であるから、甲1に記載された発明において、再生原料粉末の含有量を調整する動機付けとはならないものである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであり、上記(2)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、上記(2)アと同様の相当関係を有するから、本件発明3と甲1発明とは、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂(フッ素樹脂α)とを含む粉末であるフッ素樹脂組成物であり、フッ素樹脂A及びαはポリテトラフルオロエチレンであるフッ素樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1’>
「融点以上の温度に加熱した履歴のない」「重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂」、すなわちフッ素樹脂αの重合方法が、本件発明3では懸濁重合であるのに対し、甲1発明では不明である点
<相違点1-2’>
フッ素樹脂組成物の見掛密度が、本件発明3では「0.42g/ml以上1.00g/ml以下であ」るのに対し、甲1発明では不明である点
<相違点1-3’>
フッ素樹脂組成物の融点が、本件発明3では「333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有するのに対し、甲1発明では不明である点
<相違点1-4’>
フッ素樹脂組成物に対するフッ素樹脂Aの含有量が、本件発明3では「40質量%以上であ」るのに対し、甲1発明では30重量%以下である点
<相違点1-5>
本件発明3が、「フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さい」のに対し、甲1発明がそのような特定を有しない点
イ 判断
事案に鑑みて、相違点1-4’について検討するも、上記(2)イと同様の理由により、甲1、甲3~甲6に接したとしても、甲1発明において、加熱済みPTFEの含有量を40重量%以上とすることを想起させることはないといえるから、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、申立書において、本件発明3は、甲1、甲2及び周知技術(甲3~甲6)に基づいて、当業者が容易に想到しうることを主張しているが、上記(2)に記載のとおり、甲1には再生原料の含有量を50重量%以上とすることが記載も示唆もされていないから、これらを組み合わせても、当業者が相違点1-4’に係る構成を容易に想到しえないものであり、当該主張は採用できない。
(5)本件発明4~12について
本件発明4~12は、本件発明1を引用するものであり、上記(2)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様に、本件発明5~12は、本件発明3を引用するものであり、上記(4)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、申立書において、本件発明5は、甲1、甲7及び周知技術(甲3~甲6)に基づいて、当業者が容易に想到しうることを主張しているが、上記(2)、(4)に記載のとおり、甲1には再生原料の含有量を50重量%以上とすることが記載も示唆もされていないから、これらを組み合わせても、当業者が相違点1-4又は相違点1-4’に係る構成を容易に想到しえないものであり、当該主張は採用できない。
(6)本件発明13について
ア 対比
最初に、本件発明13は、「共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位」との特定があるが、この「変性モノマー単位」は「共重合可能な変性モノマー」が重合することで形成される単位であるから、「共重合可能な変性モノマー」の仕込み量と実質的に相違しないものと解される。
そこで、「共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位」の含有割合は、「共重合可能な変性モノマー」の仕込み量の含有割合と解する。
そして、本件発明13と甲1発明を対比すると、上記(1)アと同様の相当関係を有するから、本件発明13と甲1発明とは、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂(フッ素樹脂α)とを含む粉末であるフッ素樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1”>
「融点以上の温度に加熱した履歴のない」「重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂」、すなわちフッ素樹脂αの重合方法が、本件発明13では懸濁重合であるのに対し、甲1発明では不明である点
<相違点1-6>
本件発明13の「フッ素樹脂組成物」が「テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含み、フッ素樹脂Aはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Bは、99.0質量%以上のテトラフルオロエチレン単位と、0.010~0.10質量%以下の変性モノマー単位とを含む変性ポリテトラフルオロエチレンであり、前記変性モノマーは、パーフルオロオレフィン、パーハロオレフィン、パーフルオロビニルエーテル及びパーフルオロアリルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲1発明の「混合系フッ素樹脂原料」が「加熱済みフッ素樹脂粉砕物からなる再生原料粉末」及び「未加熱フッ素樹脂粉末」であって、上記「フッ素樹脂」がPTFE樹脂である点
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-6について検討する。
(ア)甲1に基づく新規性の検討
甲1には、PTFE共重合樹脂が0.010~0.10質量%の共単量体を含有することが記載されていないから、相違点1-6は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
(イ)甲1に基づく進歩性の検討
甲1の段落【0018】、【0019】には、「未加熱フッ素樹」(当審注:本件発明13の「フッ素樹脂B」に相当する。)が市販の重合上がり(いわゆる、バージン)の成形用の非溶融フッ素樹脂であり、該非溶融フッ素樹脂はPTFE樹脂であり、それ以外にも、CnF2n+1C=CF2(n=1~12)(当審注:「パーフルオレフィン」に該当する。)、CnF2n+1O〔CF(CF3)CF2O〕mCF=CF2(n=1~5、m=0~10)(当審注:「パーフルオロビニルエーテル」に該当する。)、ClCF=CF2(当審注:「パーハロオレフィン」に該当する。)等の共単量体を含有するPTFE共重合樹脂であること、共単量体が少量(2%未満)であっても、成形性、耐クリープ性、透明性を向上させることが記載されているにとどまり、それを確認した実施例はない。
そうすると、変性モノマー単位を0.01~0.1%とすることにより、見掛密度、取扱い性、引張特性に優れたものとすることが動機付けられるとはいえない。
してみると、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、上記相違点1-6に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、本件発明13の効果は、加熱済みフッ素樹脂と未加熱のフッ素樹脂とを含むフッ素樹脂組成物において、未加熱のフッ素樹脂が変性モノマー単位を含むことで、取り扱い性に優れるフッ素樹脂組成物、及び、該フッ素樹脂組成物から得られる成形体を提供することであるところ、この効果を甲1発明及び甲1、甲3~甲6に記載された事項から、当業者が予測できないものである。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明13は、甲1発明及び甲1、甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件発明14、15について
本件発明14は、本件発明13を引用するものであり、上記(6)イ(イ)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明15は、本件発明13を引用するものであり、上記(6)イ(ア)と同様の理由により、甲1発明ではないし、上記(6)イ(イ)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8)小括
本件発明13,15は、甲1に記載された発明ではないし、本件発明1~15は、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
2 取消理由2(甲2に基づく進歩性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)ウについて
取消理由2及び申立理由2は、いずれも甲2に基づくものであるから、併せて検討する。
(1)甲2に記載された発明
甲2の請求項1には、「加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂が、未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂に含まれる混合系の非溶融加工性フッ素樹脂であって、
(1)加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂が、未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂の微細体よりも最大直線長さが大きい形状の微細体若しくはそれらの形状を含む微細体であって、
(2)混合系の非溶融加工性フッ素樹脂が、未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂の65%以上の引張り強度にされていること、を特徴とする混合系の非溶融加工性フッ素樹脂。」と記載されている。
ここで、甲2の請求項1において、混合系の非溶融加工性フッ素樹脂に着目すると、甲2には、次の発明が記載されている。
「加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂が、未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂に含まれる混合系の非溶融加工性フッ素樹脂。」(以下「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「加熱済の非溶融フッ素樹脂」は、甲2の段落【0012】によると、成形加工法において、融点付近若しくは融点以上(融点以上が一般的)に加熱される工程を含む成形品加工法から排出される切削屑・端屑の廃材等のフッ素樹脂であること、同【0020】によると、常温において成形圧力30MPaで予備成形し、360℃で10時間焼成して機械加工用素材を形成し、この機械加工用素材を機械加工して、その際にでた加工クズを採取して冷凍粉砕して調製したことが記載されていることから、上述の360℃で10時間焼成することは、融点以上の温度に加熱したことを意味するものである。
そうすると、甲2発明の「加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂」は、本件発明1の「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂A」に相当する。
(イ)甲2発明の「未加熱の非溶融フッ素樹脂」は、甲2の段落【0011】によると、例えば、市販の重合上がり(いわゆる、バージン)の成形用の非溶融フッ素樹脂粉末を用いることが記載されている。
そうすると、甲2発明の「未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂」と本件発明1の「融点以上の温度に加熱した履歴のない懸濁重合で重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂B」とは、「融点以上の温度に加熱した履歴のない」「重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂」(以下、「フッ素樹脂β」という。)である限りにおいて一致する。
(ウ)甲2発明の「加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂」、「未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂」は、甲2の段落【0012】、【0011】の記載から見て、前者が粉砕物、後者が粉末であることから、甲2発明の「混合系の非溶融加工性フッ素樹脂」は、粉砕物としての「加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂」と粉末としての「未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂」とを含む「粉末」であるといえる。
そうすると、甲2発明の「加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂」と「未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂」とを含む「粉末」と、本件発明1の「フッ素樹脂A」及び「フッ素樹脂B」とを含む「粉末」とは、上記(イ)を受けて、「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂A」と「フッ素樹脂β」とを含む「粉末」である限りにおいて一致する。
(エ)甲2の段落【0011】には、「非溶融フッ素樹脂」が、代表的にはPTFE樹脂であることが記載されているから、甲2発明の「加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂」及び「未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂」と、本件発明1の「フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンである」こととは、上記(イ)を受けて、「フッ素樹脂Aとフッ素樹脂βはポリテトラフルオロエチレンである」限りにおいて一致する。
(オ)甲2発明の「混合系の非溶融加工性フッ素樹脂」は、本件発明1の「フッ素樹脂組成物」に相当する。
そして、甲2発明の「混合系の非溶融加工性フッ素樹脂」は、「加熱済の非溶融フッ素樹脂」と「未加熱の非溶融フッ素樹脂」とを含み、上記(ウ)によると、両者とも粉末であるといえるから、本件発明1の「粉末であるフッ素樹脂組成物」に相当する。
以上から、本件発明1と甲2発明とは、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂(フッ素樹脂β)とを含む粉末であるフッ素樹脂組成物であり、フッ素樹脂A及びβはポリテトラフルオロエチレンであるフッ素樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
「融点以上の温度に加熱した履歴のない」「重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂」、すなわちフッ素樹脂βの重合方法が、本件発明1では懸濁重合であるのに対し、甲2発明では不明である点
<相違点2-2>
フッ素樹脂組成物の見掛密度が、本件発明1では「0.42g/ml以上1.00g/ml以下であ」るのに対し、甲2発明では不明である点
<相違点2-3>
フッ素樹脂組成物の融点に関し、本件発明1は「333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有」するのに対し、甲2発明は不明である点
<相違点2-4>
フッ素樹脂組成物に対するフッ素樹脂Aの含有量が、本件発明1では「50質量%以上であ」るのに対し、甲2発明では不明である点
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-4について検討する。
甲2には、混合系の量的な例示として、未加熱の成形用溶融フッ素樹脂(本件発明1の「フッ素樹脂B」に該当)90~50重量部、加熱済の非溶融フッ素樹脂(本件発明1の「フッ素樹脂A」に該当)10~40重量部、未加熱の微粉状の非溶融フッ素樹脂0~4重量部の混合系であること(【0018】)、実施例4では成形用のPTFE樹脂粉末(商品名:テフロン7J)59%、加熱済のPTFE粉砕粒子の変形化処理粒子(平均粒子径が50ミクロンメータ)40%と、PTFE樹脂微粉末(商品名:K-10J、三井デュポンフロロケミカル(株)製)1%との混合系からなること、実施例5では、重合上がりの成形用PTFE樹脂粉末(商品名:ホリフロンM-12)60%と、加熱済のPTFE粉砕粒子の変形化処理粒子(平均粒子径が30ミクロンメータ)40%との混合系からなることが記載されている。
これらの記載によると、未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂(フッ素樹脂B)と加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂(フッ素樹脂A)との総計において、加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂(フッ素樹脂A)を最大でも40%程度(実施例4では約40.4%≒40×100/(40+59))を含有することが把握できる。
一方、甲3~甲6は、フッ素樹脂組成物の見掛密度に関する事項が記載されているだけであって、加熱済みフッ素樹脂と未加熱フッ素樹脂とを混合したフッ素樹脂組成物については記載されていない。
そうすると、当業者が、甲2、甲3~甲6に接したとしても、甲2発明において、加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂の含有量を50重量%以上とすることを想起させることはないといえる。
してみると、相違点2-4に係る発明特定事項は、甲2発明及び甲2の記載、周知技術(甲3~甲6)に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件発明1の効果は、融点以上の温度に加熱した履歴のあるフッ素樹脂Aと融点以上の温度に加熱した履歴のないフッ素樹脂Bとを含むフッ素樹脂組成物において、特定の見掛密度であって、かつ、フッ素樹脂Aの含有量が50質量%以上であるようにすることで、フッ素樹脂Aを含むにもかかわらず、取り扱い性に優れるフッ素樹脂組成物、及び、該フッ素樹脂組成物から得られる成形体を提供すること(【0021】)であるところ、この効果を甲2発明及び甲2~甲6に記載された事項から、当業者が予測できないものである。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 令和7年3月29日提出の意見書について
申立人は、令和7年3月29日提出の意見書において、甲2には、混合系の量的な例示として、未加熱の成形用溶融フッ素樹脂(フッ素樹脂B)90~50重量部、加熱済の非溶融フッ素樹脂(フッ素樹脂A)10~40重量部、未加熱の微粉状の非溶融フッ素樹脂0~4重量部の混合系であること、これ以外の量的比率であることが可能であること(【0018】)が記載されているから、加熱済の非溶融フッ素樹脂の量的比率は10~40重量部以外でもよいといえるし、実施例4では加熱済の非溶融フッ素樹脂(フッ素樹脂A)を約40.4%を含有すること、比較例2では加熱済の非溶融フッ素樹脂を80質量%含有するものが記載されており、甲11ではPTFEの再生原料を100%含有できることが記載されているから、甲2に記載された発明において、加熱済の非溶融フッ素樹脂の含有量を50重量%以上とすることは、当業者が容易に想到しうることである旨主張している。
そこで検討する。
甲2には、上記イに示したとおり、加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂(フッ素樹脂A)を最大でも40%程度を含有すること(【0018】)が記載される一方で、本件発明における、融点以上の温度に加熱した履歴のあるフッ素樹脂を含むにもかかわらず、取り扱い性に優れるフッ素樹脂組成物を提供するといった課題(【0005】)や、該課題を解決するために、見掛密度を特定の範囲内にすること(【0023】)については記載されていない。
そうすると、甲2において、取り扱い性の観点で、加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂の含有量を調整することはもちろんのこと、仮に該再生原料粉末の含有量を調整するとしても、40重量%程度より多くすることについては想定していないと認められる。
してみると、甲2に記載された発明を出発点として、加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂の含有量を40重量%より多くして、さらに50質量%以上にすることを、当業者が想起することはないといえる。
そして、申立人は、比較例2の加熱済の非溶融フッ素樹脂の含有量が80重量%である試験片(成形品)や甲11の繊維状補強材とともに再生原料の含有量が100%である成形品を例にあげて、再生原料の含有量を50重量%以上とすることの容易性を主張するも、そのような成形品の存在は取り扱い性とは無関係であるから、甲2に記載された発明において、再生原料粉末の含有量を調整する動機付けとはならないものである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであり、上記(2)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲2発明とを対比すると、上記(2)アと同様の相当関係を有するから、本件発明3と甲2発明とは、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂(フッ素樹脂α)とを含む粉末であるフッ素樹脂組成物であり、フッ素樹脂A及びαはポリテトラフルオロエチレンであるフッ素樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1’>
「融点以上の温度に加熱した履歴のない」「重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂」、すなわちフッ素樹脂αの重合方法が、本件発明3では懸濁重合であるのに対し、甲2発明では不明である点
<相違点2-2’>
フッ素樹脂組成物の見掛密度が、本件発明3では「0.42g/ml以上1.00g/ml以下であ」るのに対し、甲2発明では不明である点
<相違点2-3’>
フッ素樹脂組成物の融点が、本件発明3では「333℃未満の温度領域に1つ以上、333~360℃の温度領域に1つ以上の融点を有するのに対し、甲2発明では不明である点
<相違点2-4’>
フッ素樹脂組成物に対するフッ素樹脂Aの含有量が、本件発明3では「40質量%以上であ」るのに対し、甲2発明では不明である点
<相違点2-5>
本件発明3が、「フッ素樹脂A及びBはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さい」のに対し、甲2発明がそのような特定を有しない点
イ 判断
事案に鑑みて、相違点2-5について検討する。
甲2には、加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂(フッ素樹脂A)が、未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂(フッ素樹脂B)の微細体よりも最大直線長さが大きい形状の微細体若しくはそれらの形状を含む微細体であること(請求項1)、加熱済の非溶融フッ素樹脂の微細体が、その最大直線長さLにおいて、重合上がり非溶融フッ素樹脂粒子よりも大きい場合に本発明の効果をもたらす非加成性が生じること(【0015】)が記載されている。
他方、本件発明3は、「フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さい」ことが特定されている。
そうすると、本件発明3のフッ素樹脂Aとフッ素樹脂Bにおける粒子の最大直線長さの大小関係と、甲2のフッ素樹脂Aとフッ素樹脂Bにおける粒子の最大直線長さの大小関係とが逆になっている。
一方、甲3~甲6は、フッ素樹脂組成物の見掛密度に関する事項が記載されているだけにすぎず、加熱済みフッ素樹脂と未加熱フッ素樹脂とを混合したフッ素樹脂組成物については記載されていない。
そうすると、当業者が、甲2~甲6に接したとしても、甲2に記載された発明において、フッ素樹脂Aとフッ素樹脂Bにおける粒子の最大直線長さの大小関係を逆にすることを想起することはないといえる。
してみると、相違点2-5に係る発明特定事項は、甲2発明及び甲2の記載、周知技術(甲3~甲6)に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件発明3の効果は、加熱済みフッ素樹脂と未加熱のフッ素樹脂とを含むフッ素樹脂組成物において、特定の見掛密度であって、加熱済みフッ素樹脂の含有量が40質量%以上であって、フッ素樹脂Aとフッ素樹脂Bの最大直線長さの大小関係を特定することで、取り扱い性に優れるフッ素樹脂組成物、及び、該フッ素樹脂組成物から得られる成形体を提供することであるところ、この効果を甲2発明及び甲2~甲6に記載された事項から、当業者が予測できないものである。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明3は、甲2発明及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明5~12について
本件発明1を引用する本件発明5~12は、上記(2)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様に、本件発明3を引用する本件発明5~12は、上記(4)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明13について
ア 対比
本件発明13と甲2発明を対比すると、上記(2)アと同様の相当関係を有し、以下に示す一致点、相違点を有する。
すなわち、本件発明13と甲2発明とは、
「融点以上の温度に加熱した履歴のある溶融流動性を示さないフッ素樹脂Aと、融点以上の温度に加熱した履歴のない重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂(フッ素樹脂β)とを含む粉末であるフッ素樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1”>
「融点以上に加熱した履歴のない」「重合された溶融流動性を示さないフッ素樹脂」、すなわちフッ素樹脂βの重合方法が、本件発明13では懸濁重合であるのに対し、甲2発明では不明である点
<相違点2-6>
本件発明13の「フッ素樹脂組成物」が「テトラフルオロエチレン単位、及び、テトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含み、フッ素樹脂Aはポリテトラフルオロエチレンであり、フッ素樹脂Bは、99.0質量%以上のテトラフルオロエチレン単位と、0.010~0.10質量%以下の変性モノマー単位とを含む変性ポリテトラフルオロエチレンであり、前記変性モノマーは、パーフルオロオレフィン、パーハロオレフィン、パーフルオロビニルエーテル及びパーフルオロアリルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲2発明の「混合系の非溶融加工性フッ素樹脂」が「加熱済の非溶融加工性フッ素樹脂」及び「未加熱の非溶融加工性フッ素樹脂」である点
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-6について検討する。
甲2の段落【0011】には、混合系の非溶融加工性フッ素樹脂(当審注:本件発明13の「フッ素樹脂B」に相当する。)が(1)前記非溶融加工性フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなること、(2)前記非溶融加工性フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂共重合樹脂からなること等を備えること(請求項3)、非溶融フッ素樹脂として、PTFE樹脂及びCnF2n+1C=CF2(n=1~12)(当審注:「パーフルオレフィン」に該当する。)、CnF2n+1O〔CF(CF3)CF2O〕mCF=CF2(n=1~5、m=0~10)(当審注:「パーフルオロビニルエーテル」に該当する。)、ClCF=CF2(当審注:「パーハロオレフィン」に該当する。)等の共単量体とのPTFE共重合樹脂であること、共単量体が少量(2%未満)であっても、成形性、耐クリープ性、透明性を向上させることが記載されているにとどまり、それを確認した実施例はない。
そうすると、変性モノマー単位を0.01~0.1%とすることにより、見掛密度、取扱い性、引張特性に優れたものとすることが動機付けられるとはいえない。
してみると、甲2に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、上記相違点2-6に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、本件発明13の効果は、加熱済みフッ素樹脂と未加熱のフッ素樹脂とを含むフッ素樹脂組成物において、未加熱のフッ素樹脂が変性モノマー単位を含むことで、取り扱い性に優れるフッ素樹脂組成物、及び、該フッ素樹脂組成物から得られる成形体を提供することであるところ、この効果を甲2発明及び甲2~甲6に記載された事項から、当業者が予測できないものである。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明13は、甲2発明及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件発明14、15について
本件発明14、15は、本件発明13を引用するものであり、上記(6)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8)小括
本件発明1~3、5~15は、甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
3 申立理由3(明確性要件違反)
本件発明4には、「フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さい」ことが特定されている。
ここで、「最大直線長さ」に着目すると、本件明細書には以下の記載がある。
「【0093】
第1及び第2のフッ素樹脂組成物においては、フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さが、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さいことが好ましい。フッ素樹脂A及びBの粒子の最大直線長さが上記関係にあると、フッ素樹脂組成物の見掛密度を高くすることができ、取り扱い性が一層向上する。また、フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さを増大させるための変形化処理を行う必要がないので、フッ素樹脂組成物の製造コストを低減することができる。」
「【0127】
・・・
見掛密度が一層高く、取り扱い性に一層優れるフッ素樹脂組成物を容易に得る点では、フッ素樹脂Aの粒子の最大直線長さを、フッ素樹脂Bの粒子の最大直線長さより小さくすることが好ましい。」
「【0149】
(最大直線長さ)
二次粒子100個以上をSEM画像を用いて観察し、二次粒子の長径をそれぞれ測定した。その中で最も大きい長径を最大直線長さとした。」
これらの記載によると、「最大直線長さ」は、SEM画像中の二次粒子を観察し、その中で最も大きい長径のことであるから、「最大直線長さ」の定義が記載されており、また「最大直線長さ」の測定方法もSEM画像の観察によることが記載されているから、「最大直線長さ」については明確に理解できる。
そうすると、「最大直線長さ」の特定に関して不明確な点がないことから、「最大直線長さ」の大小関係も明確である。
してみると、申立理由3には理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~15に係る特許は、当審において通知した令和6年11月29日付け取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700116