特許異議申立
2024-700089
反射防止フィルム、偏光板およびディスプレイ装置
- 審判番号
- 2024-700089
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-537515
- 登録番号
- 7321463
- 請求日
- 2024年02月02日
- 審決日
- 2024年12月20日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】小野 誠
- 【権利者代理人】重森 一輝
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】渡部 崇
- 【権利者代理人】副島 由加里
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 河原 正
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.121-YAA(G02B) / P1651.536-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7321463号発明「反射防止フィルム、偏光板およびディスプレイ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7321463号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7321463号の請求項1、3~14に係る特許を維持する。
特許第7321463号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7321463号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願(特願2020-537515号)は、2019年(令和元年)10月17日(優先権主張 2019年(令和元年)10月17日 韓国、2018年(平成30年)10月17日 韓国)を国際出願日とする出願であって、令和 5年 7月28日にその特許権の設定の登録がされ、令和 5年 8月 7日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、その特許掲載公報発行の日から6月以内である令和 6年 2月 2日に、特許異議申立人 藤江 桂子(以下「異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 6年 5月27日付け:取消理由通知書
令和 6年 8月28日 :特許権者による訂正請求書の提出(この 訂正請求書による訂正の請求を、以下「 本件訂正請求」という。)
令和 6年 8月28日 :特許権者による意見書の提出
令和 6年10月11日 :異議申立人による意見書の提出
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7321463号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~14〕についてなされたものである。
(1) 訂正事項1
請求項1において、「前記低透湿性高分子フィルムは、二軸延伸フィルムであり、」との記載の後に、「前記低透湿性高分子フィルムは、波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であり、」との記載を追加する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~14も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
請求項3において、「請求項1又は2に記載の反射防止フィルム」との記載を、「請求項1に記載の反射防止フィルム」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~14も同様に訂正する。)。
(4) 訂正事項4
請求項4において、「請求項1~3のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」との記載を、「請求項1又は3に記載の反射防止フィルム」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~14も同様に訂正する。)。
(5) 訂正事項5
請求項7において、「請求項1~6のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」との記載を、「請求項1、3~6のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~14も同様に訂正する。)。
(6) 訂正事項6
請求項9において、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が5,000nm以上であり、」との記載を削除する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10~14も同様に訂正する。)。
(7) 訂正事項7
請求項9において、「請求項1~8のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」との記載を、「請求項1、3~8のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10~14も同様に訂正する。)。
(8) 訂正事項8
請求項10において、「請求項1~9のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」との記載を、「請求項1、3~9のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」に訂正する(請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11~14も同様に訂正する。)。
(9) 訂正事項9
請求項11において、「請求項1~10のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」との記載を、「請求項1、3~10のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」に訂正する(請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12~14も同様に訂正する。)。
(10) 訂正事項10
請求項12において、「請求項1~11のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」との記載を、「請求項1、3~11のいずれか一項に記載の反射防止フィルム」に訂正する(請求項12の記載を直接的又は間接的に引用する請求項13~14も同様に訂正する。)。
(11) 訂正事項11
請求項13において、「請求項1~12のいずれか一項に記載の反射防止フィルムおよび偏光子を含む、偏光板」との記載を、「請求項1、3~12のいずれか一項に記載の反射防止フィルムおよび偏光子を含む、偏光板」に訂正する。
(12) 訂正事項12
請求項14において、「請求項1~12のいずれか一項に記載の反射防止フィルムを含む、ディスプレイ装置」との記載を、「請求項1、3~12のいずれか一項に記載の反射防止フィルムを含む、ディスプレイ装置」に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、「低透湿性高分子フィルム」について、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であ」るものに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には、「低透湿性高分子フィルム」について、「具体的には、前記低透湿性高分子フィルムは、波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が5,000nm以上、7,000~50,000nm、または8,000~40,000nmであり得る。」(【0105】)、「前記低透湿性高分子フィルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm未満であれば、反射防止フィルムの部位別の反射率および透光率偏差が大きく、可視光線の干渉によるレインボー現象が発生し得る。」(【0106】)と記載されている。また、本件訂正前の請求項9には、「前記低透湿性高分子フィルムは、波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が5,000nm以上であり」とも記載されている。
そうすると、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が5,000nm以上」とされていた「低透湿性高分子フィルム」について、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」であるものとしても、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されることにはならない。
してみると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~14についても同様である。
オ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1に係る訂正は、訂正要件を満たす。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
上記アに照らせば、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項2に係る訂正は、訂正要件を満たす。
(3) 訂正事項3~5、7~12について
ア 訂正の目的
訂正事項3~5、7~12に係る訂正は、訂正事項2に係る訂正により、請求項2が削除されたことに伴い、訂正前の請求項3、4、7、9、10、11、12、13及び14が、それぞれ「請求項1又は2」、「請求項1~3のいずれか一項」、「請求項1~6のいずれか一項」、「請求項1~8のいずれか一項」、「請求項1~9のいずれか一項」、「請求項1~10のいずれか一項」、「請求項1~11のいずれか一項」、「請求項1~12のいずれか一項」及び「請求項1~12のいずれか一項」の記載を引用するものであったところ、削除された請求項2を除くために、それぞれ「請求項1」、「請求項1又は3」、「請求項1、3~6のいずれか一項」、「請求項1、3~8のいずれか一項」、「請求項1、3~9のいずれか一項」、「請求項1、3~10のいずれか一項」、「請求項1、3~11のいずれか一項」、「請求項1、3~12のいずれか一項」及び「請求項1、3~12のいずれか一項」の記載を引用するものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
上記アに照らせば、訂正事項3~5、7~12に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項3~5、7~12に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 請求項3、4、7、9、10、11及び12の記載をそれぞれ直接的又は間接的に引用する請求項4~14についても同様である。
オ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項3~5、7~12に係る訂正は、訂正要件を満たす。
(4) 訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正により、請求項1に、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であ」ることが記載されたことに伴い、訂正後の請求項1の記載内容との整合を図るために、請求項9において、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が5,000nm以上であり、」との記載を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
上記アに照らせば、訂正事項6に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項6に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10~14についても同様である。
オ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項6に係る訂正は、訂正要件を満たす。
4 まとめ
本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許第7321463号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1、3~14に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい、請求項3以降についても同様とする。また、総称して、「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3~14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
低透湿性高分子フィルム;ハードコート層;および低屈折層を含み、
前記低透湿性高分子フィルムは、30~40℃の温度および90~100%相対湿度の条件で50g/m2・day以下の透湿率を有し、
前記低屈折層は、550nmの波長で1.2~1.8の屈折率を示し、
前記低屈折層は、バインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した無機微粒子を含み、前記無機微粒子は、0.5~100nmの平均直径を有するソリッド型無機ナノ粒子および1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子を含み、
前記低透湿性高分子フィルムは、一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5であり、
前記低透湿性高分子フィルムは、二軸延伸フィルムであり、
前記低透湿性高分子フィルムは、波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であり、
透過(Transmission)モードのX線回折(XRD)により得られた回折像を、17~18°の2θ値で方位角スキャン(Azimuthal Scan)して算出された方位角分布曲線(Azimuthal Angle Distribution Curve)において、ピーク間の間隔の平均が160~200°である、反射防止フィルム。」
「【請求項3】
前記バインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記バインダー樹脂は、光重合性化合物、光反応性官能基を含む含フッ素化合物および反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン(polysilsesquioxane)間の架橋重合体をさらに含む、請求項1又は3に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記光反応性官能基を含む含フッ素化合物は、i)一つ以上の光反応性官能基が置換され、少なくとも一つの炭素に1以上のフッ素が置換された脂肪族化合物または脂環式化合物;ii)1以上の光反応性官能基に置換され、少なくとも一つの水素がフッ素に置換され、一つ以上の炭素がケイ素に置換されたヘテロ(hetero)脂肪族化合物またはヘテロ(hetero)脂環式化合物;iii)一つ以上の光反応性官能基が置換され、少なくとも一つのシリコンに1以上のフッ素が置換されたポリジアルキルシロキサン系高分子;およびiv)1以上の光反応性官能基に置換され、少なくとも一つの水素がフッ素に置換されたポリエーテル化合物;からなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項4に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記ポリシルセスキオキサンに置換される反応性官能基は、アルコール、アミン、カルボン酸、エポキシド、イミド、(メタ)アクリレート、ニトリル、ノルボルネン、オレフィン、ポリエチレングリコール、チオールおよびビニル基からなる群より選ばれた1種以上の官能基を含む、請求項4または5に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記ハードコート層は、光硬化性樹脂を含むバインダー樹脂および前記バインダー樹脂に分散した有機または無機微粒子;を含む、請求項1、3~6のいずれか一項に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層のバインダー樹脂は、数平均分子量10,000以上の高分子量(共)重合体をさらに含む、請求項7に記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
前記低透湿性高分子フィルムは、
前記一方向の引張強度は、前記一方向と垂直方向の引張強度より小さい値を有する、請求項1、3~8のいずれか一項に記載の反射防止フィルム。
【請求項10】
前記低透湿性高分子フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1、3~9のいずれか一項に記載の反射防止フィルム。
【請求項11】
前記反射防止フィルムは、380nm~780nmの波長帯領域で平均反射率が2.0%以下である、請求項1、3~10のいずれか一項に記載の反射防止フィルム。
【請求項12】
前記反射防止フィルムは、
平均反射率偏差が0.2%p以下であり、
透光率偏差が0.2%p以下である、請求項1、3~11のいずれか一項に記載の反射防止フィルム。
【請求項13】
請求項1、3~12のいずれか一項に記載の反射防止フィルムおよび偏光子を含む、偏光板。
【請求項14】
請求項1、3~12のいずれか一項に記載の反射防止フィルムを含む、ディスプレイ装置。」
第4 取消しの理由の概要
(本件訂正請求による訂正前の)本件特許の請求項1~14に係る特許に対して、令和 6年 5月27日付けで特許権者に通知した取消しの理由(以下「取消理由」といい、この通知を「取消理由通知」という。)の概要は、次のとおりである。
「●理由1(明確性要件)
本件特許発明2~14は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項2~14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
●理由2(進歩性)
本件特許発明1~14は、最先の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(引用文献等一覧)
甲第1号証:特表2018-525667号公報(以下「甲1」といい、他も同様とする。)
甲第2の1号証:YASUSHI SASAKI,「Super Retardation Film “COSMOSHINE SRF(R)”」,[online],2015年10月13日,Display Innovation CHINA 2015/Beijing Summit
甲第2の2号証:佐々木 靖 他2名,「超複屈折フィルム「COSMOSHINE SRF(R)」の開発と応用展開」、第117回プラスチックフィルム研究会●講演要旨集,公益社団法人高分子学会,2018年7月5日,3及び4頁
甲第3の2号証:宮坂 啓象,「高分子フィルムの微細構造と物性」,SEN-I GAKKAISHI(繊維と工業),繊維学会,1985年,Vol.41,No.9,P-285~P-289頁
甲第4号証:早川 章太 他6名,「延伸ポリエステルフィルムの二重配向と結晶変態に関する研究」,高分子論文集,公益社団法人高分子学会,2009年12月,Vol.66,No.12,598~604頁
甲第5号証:「薄膜反射率シミュレーション」,[online],2018年,FILMETRICS,[2023年12月29日検索],インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20181015180132/https://www.filmetricsinc.jp/reflectance-calculator>
甲第6号証:特開2009-98658号公報
甲第7号証:特開2011-102977号公報
甲第8号証:特表2018-521195号公報
甲第9号証:特表2018-524641号公報
甲第10号証:国際公開第2018/012802号(対応する特表2019-508753号公報参照。)
甲第11号証:国際公開第2012/147527号」
(当合議体注:甲1、甲8~甲10のそれぞれが主引用例である。また、甲2-1及び甲2-2においては、登録商標を示す丸付きの「R」を、括弧付きの「(R)」で代用して表記している。以下同様。)
第5 当審の判断
1 理由1(明確性要件)についての判断
(1) 請求項2~14についての判断
上記第2及び第3のとおり、本件訂正請求による訂正により請求項2が削除されたため、本件訂正前の請求項2に係る特許に対する明確性要件に係る取消理由は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
また、本件訂正請求書による訂正により、請求項3~14が、削除された請求項2を引用しない記載となったため、請求項2の記載を引用することを前提とする本件特許発明3~14に対する明確性要件に係る取消理由も解消した。
(2) 請求項4~14についての判断
特許法第36条第6項第2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下、上記観点から、本件特許発明が明確であるか否かについて検討する。
ア 請求項1及び請求項4~6の記載
本件訂正請求書による訂正後の特許請求の範囲の
請求項1には、「前記低屈折層は、バインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した無機微粒子を含み、前記無機微粒子は、0.5~100nmの平均直径を有するソリッド型無機ナノ粒子および1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子を含」む、反射防止フィルム、と記載され、
請求項4には、「前記バインダー樹脂」は、
「光重合性化合物、光反応性官能基を含む含フッ素化合物、および、反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン(polysilsesquioxane)間の架橋重合体をさらに含む」、請求項1又は3に記載の反射防止フィルム、と記載され、
請求項5には、「前記光反応性官能基を含む含フッ素化合物」は、
「i)一つ以上の光反応性官能基が置換され、少なくとも一つの炭素に1以上のフッ素が置換された脂肪族化合物または脂環式化合物;
ii)1以上の光反応性官能基に置換され、少なくとも一つの水素がフッ素に置換され、一つ以上の炭素がケイ素に置換されたヘテロ(hetero)脂肪族化合物またはヘテロ(hetero)脂環式化合物;
iii)一つ以上の光反応性官能基が置換され、少なくとも一つのシリコンに1以上のフッ素が置換されたポリジアルキルシロキサン系高分子;、および、
iv)1以上の光反応性官能基に置換され、少なくとも一つの水素がフッ素に置換されたポリエーテル化合物;
からなる群より選ばれた1種以上を含む」、請求項4に記載の反射防止フィルム、と記載され、
請求項6には、
「前記ポリシルセスキオキサンに置換される反応性官能基」は、
「アルコール、アミン、カルボン酸、エポキシド、イミド、(メタ)アクリレート、ニトリル、ノルボルネン、オレフィン、ポリエチレングリコール、チオールおよびビニル基からなる群より選ばれた1種以上の官能基を含む」、請求項4または5に記載の反射防止フィルム、と記載されている。
なお、下線は合議体が付したものであり、以下同様である。
イ 請求項4の「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン(polysilsesquioxane)」及び請求項6の「前記ポリシルセスキオキサンに置換される反応性官能基」について
(ア) まず、ポリシルセスキオキサンは、式[RSiO1.5]λにより表され、式中、λは重合度であり、Rは有機置換基(H、シロキシ、反応性官能基をさらに含み得る環状または直鎖状の脂肪族基または芳香族基)であるものを意味すること、式[RSiO1.5]λにおける有機置換基RはSiに結合したものであることは技術常識である(例えば、特表2004-516347号公報の【0028】、【0031】~【0032】や、特許権者が令和6年8月28日提出の意見書に添付した参考資料1(シルセスキオキサン(POSS),[online],Merck,[平成6年8月28日検索],インターネット<URL:
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/microelectronics-and-nanoelectronics/silsesquioxanes>)等を参照。)。例えば、特表2004-516347号公報の【0031】~【0032】には、λが6、8、10および12であるポリシルセスキオキサンモノマーとして、以下のものが記載されている。
[図:0001422412000001.jpg]
ここで、化合物中のある原子(例えば水素)又は原子団が、他の原子又は原子団で置き換わる型の反応を「置換」といい、他の原子又は原子団を「置換基」ということは技術常識である。
(イ)a 上記(ア)に基づけば、ポリシルセスキオキサン[RSiO1.5]λにおいては、Rの位置に、反応性官能基等を含む有機置換基が置換により導入されたものも普通であると理解できる。
b また、請求項4の「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」は、「光重合性化合物」及び「光反応性官能基を含む含フッ素化合物」との間で、「低屈折層」の「バインダー樹脂」に含まれる「架橋重合体」を形成するものであるから、「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」は、反応性の構造を有すると考えるのが自然である。
c そうすると、化合物における置換構造については、○○が××に(よって)置換される、と記載されることが通常であるとしても、請求項4の記載及び技術常識に基づけば、請求項4の「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」とは、式[RSiO1.5]λ中の有機置換基Rとして、「1以上」の「反応性官能基」が置換されて導入された(反応性官能基を有する)ポリシルセスキオキサンを意味する、と当業者は理解できる。
(ウ) 仮に、上記(イ)a~cのとおりでないとしても、請求項4の記載及び上記(ア)の技術常識に加えて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0052】の「前記反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンは、表面に反応性官能基が存在して前記低屈折層の機械的物性、例えば耐スクラッチ性を高めることができ」、【0053】の「前記ポリシルセスキオキサンは(RSiO1.5)nで表し、(このとき、nは4~30または8~20)、・・・ケージおよび部分的なケージなどの多様な構造を有し得る。・・・前記反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンに反応性官能基が1以上置換され、ケージ(cage)構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン・・・を使用し得る。」、【0055】の「前記ケージ(cage)構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンのシリコンのうち少なくとも1個以上には反応性官能基が置換され、反応性官能基が置換されなったシリコンには上述した非反応性官能基が置換され得る。」、【0056】の「前記ケージ(cage)構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンのシリコンのうち少なくとも1個に反応性官能基が置換されることにより、前記低屈折層および前記バインダー樹脂の機械的物性を向上させ得、さらに残りのシリコンに非反応性官能基が置換されることにより・・・前記低屈折層および前記バインダー樹脂の耐アルカリ性を向上させることができる。」等の記載を考慮すれば、請求項4の「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」とは、(「ポリシルセスキオキサン」の骨格のシリコンに結合するRとして、)「1以上」の「反応性官能基」が置換されて導入された(、表面に反応性官能基が存在して低屈折層の機械的物性を高めることができる)ポリシルセスキオキサンを意味する、と当業者は理解することができる。
(エ) また、請求項6の「前記ポリシルセスキオキサンに置換される反応性官能基」は、(請求項6において直接又は間接的に引用する)請求項4でいう「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」における上記(イ)c(あるいは(ウ))の「1以上」の「反応性官能基」を意味すると当業者は理解できる。
ウ 請求項5の「化合物i)~iv)」について
(ア) 請求項4の「光反応性官能基を含む含フッ素化合物」は、その記載のとおり、「光反応性官能基」を含み、かつ、「フッ素」を含む化合物であると理解される。
(イ) また、請求項5の「前記光反応性官能基を含む含フッ素化合物」は、化合物i)~iv)「からなる群より選ばれた1種以上を含む」と記載されるのであるから、上記(ア)より、化合物i)~iv)の各々も「光反応性官能基」を含み、かつ、「フッ素」を含む化合物と考えるのが自然である。
以下、請求項5の化合物i)~iv)の各々について順に検討する。
(ウ) 「i)一つ以上の光反応性官能基が置換され、少なくとも一つの炭素に1以上のフッ素が置換された脂肪族化合物または脂環式化合物」について
a 「脂肪族化合物」とは、有機化合物のうち分子内の全ての炭素原子が一列の鎖状につながっているもの、または炭素原子に鎖に枝分かれ構造があっても環式構造を含まないものを意味し、「脂環式化合物」とは、炭素原子が環状に結合した構造をもつ炭素環式化合物のうち、芳香族化合物に属さないものを意味することは技術常識である(例えば、化学大辞典編集委員会編,化学大辞典4,第1版,共立出版社株式会社,1993年6月1日,495~496頁(「脂肪族化合物」),156頁(「脂環式化合物」)や特許権者提出の参考資料2(脂肪族化合物,[online],ウィキペディアフリー百科事典,[平成6年8月28日検索],インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%82%E8%82%AA%E6%97%8F%E5%8C%96%E5%90%88%E7%89%A9>)及び参考資料3(脂環式化合物,[online],ウィキペディアフリー百科事典,[平成6年8月28日検索],
インターネット<URL:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%82%E7%92%B0%E5%BC%8F%E5%8C%96%E5%90%88%E7%89%A9>)を参照。)。
b そうすると、化合物における置換構造については、○○が××に(よって)置換される、と記載されることが通常ではあるものの、
化合物i)の「脂肪族化合物または脂環式化合物」についての、「一つ以上の光反応性官能基が置換され」、「少なくとも一つの炭素に1以上のフッ素が置換され」との記載と、上記(ア)の請求項4の記載及び(イ)の請求項5の記載を合わせ読めば、
化合物i)は、一つ以上の「光反応性官能基」が、(置換基として、)置換されて導入され(すなわち「光反応性官能基」を含み)、かつ、少なくとも一つの炭素に、(置換基として、)1以上の「フッ素」が置換されて導入された(すなわち「フッ素」を含む)、「脂肪族化合物または脂環式化合物」を意味する、と当業者は理解できる。
(エ) 「ii)1以上の光反応性官能基に置換され、少なくとも一つの水素がフッ素に置換され、一つ以上の炭素がケイ素に置換されたヘテロ(hetero)脂肪族化合物またはヘテロ(hetero)脂環式化合物」について
a 技術常識より、ii)の「一つ以上の炭素がケイ素に置換されたヘテロ(hetero)脂肪族化合物またはヘテロ(hetero)脂環式化合物」については、その記載のとおり、(上記(ウ)aの定義による)「脂肪族化合物または脂環式化合物」の骨格をなす一つ以上の炭素が、炭素と異なる(ヘテロ)原子であるケイ素に置換されたものであると理解できる。
b そうすると、化合物ii)について、
化合物ii)の「一つ以上の炭素がケイ素に置換されたヘテロ(hetero)脂肪族化合物またはヘテロ(hetero)脂環式化合物」についての、「1以上の光反応性官能基に置換され」、「少なくとも一つの水素がフッ素に置換され」との記載と、上記(ア)の請求項4の記載及び(イ)の請求項5の記載を合わせ読めば、
化合物ii)は、1以上の「光反応性官能基」が、(置換基として、)置換されて導入され(「光反応性官能基」を含み)、かつ、少なくとも一つの水素が「フッ素」に置換された(「フッ素」を含む)、「一つ以上の炭素がケイ素に置換されたヘテロ(hetero)脂肪族化合物またはヘテロ(hetero)脂環式化合物」を意味する、と当業者は理解できる。
(オ) 「iii)一つ以上の光反応性官能基が置換され、少なくとも一つのシリコンに1以上のフッ素が置換されたポリジアルキルシロキサン系高分子」について
a ポリジアルキルシロキサン系高分子は、Siの側鎖に置換基としてアルキル基が置換(導入)された、下記式Aを繰返単位として有する、シロキサン結合-O-Si-を主骨格に有する高分子であることは技術常識である(例えば、ポリジアルキルシロキサンについて、特許第2584890号公報の(4)~(5)頁に記載の繰返単位が一般式〔II〕で表されるポリジアルキルシロキサンを参照。ポリジアルキルシロキサンのアルキル基をメチル基としたポリジメチルシロキサン(PDMS)ポリマーについて、特許権者が提出した参考資料4(ジメチルポリシロキサン,[online],ウィキペディアフリー百科事典,[平成6年8月28日検索],
インターネット<URL:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%AB_(%E5%8C%96%E5%AD%A6)#%>)を参照。)。
(式A)
R1
|
-Si-0-
|
R2
(但し、R1及びR2は、アルキル基である。)
b そうすると、化合物iii)についても、
化合物iii)の「ポリジアルキルシロキサン系高分子」についての、「一つ以上の光反応性官能基が置換され」、「少なくとも一つのシリコンに1以上のフッ素が置換された」との記載と、上記(ア)の請求項4の記載及び(イ)の請求項5の記載を合わせ読めば、
化合物iii)は、一つ以上の「光反応性官能基」が、(置換基として、)置換されて導入され、かつ、少なくとも一つのシリコンに、(アルキル基に置き換わる)置換基として、1以上の「フッ素」が置換されて導入された、「ポリジアルキルシロキサン系高分子」を意味する、と当業者は理解できる。
(カ) 「iv)1以上の光反応性官能基に置換され、少なくとも一つの水素がフッ素に置換されたポリエーテル化合物」について
a ポリエーテル(化合物)は、一般に、骨格中にエーテル結合(-C-O-C-)を有するポリマーを意味することは技術常識である(例えば、監訳者 三田 達、高分子大辞典、丸善株式会社、平成6年9月20日、1038頁(「ポリエーテル」)や特許権者が提出した参考資料5(エーテル(化学),[online],ウィキペディアフリー百科事典,[平成6年8月28日検索],
インターネット<URL:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%AB_(%E5%8C%96%E5%AD%A6)#%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%AB>
)を参照。)。
b そうすると、化合物iv)についても、
化合物iv)の「ポリエーテル化合物」についての、「1以上の光反応性官能基に置換され」、「少なくとも一つの水素がフッ素に置換された」との記載と、上記(ア)の請求項4の記載及び(イ)の請求項5の記載を合わせ読めば、
化合物iv)は、1以上の「光反応性官能基」が、(置換基として、)置換されて導入され、かつ、少なくとも一つの水素が「フッ素」に置換された「ポリエーテル化合物」を意味する、と当業者は理解できる。
エ 令和6年10月11日付け意見書における異議申立人の主張
(ア) 同意見書において異議申立人は、
「(1)本件訂正発明4」として、
本件訂正発明4の「ポリシルセスキオキサン」の「反応性官能基」が、何によって置換されているのかについては、請求項4に記載がないから、この点において、本件訂正発明4は、明確であるということができない、
本件特許の明細書及び図面の記載を参照しても、本件特許の明細書及び図面には、本件訂正発明4の「ポリシルセスキオキサン」の「反応性官能基」が、何によって置換されているのかについて、一切記載がなく、不明である、
この点は、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても変わらない、
請求項4には、「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」と記載されているのであって、「少なくとも1個以上のシリコンが反応性官能基で置換されたポリシルセスキオキサン」とは記載されていない、
また、「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」という記載を、「少なくとも1個以上のシリコンが反応性官能基で置換されたポリシルセスキオキサン」と理解することには、文章理解上、無理がある、
特許権者が意見書でした主張は、請求項4の文意から著しく離れたものであり、請求項4について、その文意に反する理解を求める点において、かえって本件訂正発明4を不明確にするものである、
「(2)本件訂正発明5」として、
請求項5は、請求項4を引用して記載されたものであるから、本件訂正発明5は、本件訂正発明4と同じ理由により、明確であるということができない、
上記i)に関して、本件訂正発明5の「光反応性官能基を含む含フッ素化合物」の「一つ以上の光反応性官能基」が、何によって置換されているのかについて請求項5に記載がないから、本件訂正発明5は、明確であるということができない、
また、「脂肪族化合物」や「脂環式化合物」が「光反応性官能基」を有しないことは技術常識である、
そうしてみると、上記i)の記載に、(A)何が置換されているのか特定されていない、若しくは(B)何によって置換されているのか特定されていない、又は、(C)上記(A)及び(B)が混在しているという観点からの、何らかの記載不備が存在することは明らかである、
さらに、「少なくとも一つの炭素に1以上のフッ素が置換された」という記載については、日本語として文意の理解が困難であり、そこに、何らかの記載不備が存在することも明らかである、
上記ii)に関して、本件訂正発明5の「ヘテロ(hetero)脂肪族化合物またはヘテロ(hetero)脂環式化合物」は、「1以上の光反応性官能基に置換され、」とされる部分がどこなのか(どこが置換されているのか)について、請求項5に記載がないから、本件訂正発明5は、明確であるということができない、
上記iii)に関して、本件訂正発明5の「ポリジアルキルシロキサン系高分子」の「一つ以上の光反応性官能基」が、何によって置換されているのかについて請求項5に記載がないから、本件訂正発明5は、明確であるということができない、
また、「少なくとも一つのシリコンに1以上のフッ素が置換された」という記載については、日本語として文意の理解が困難であり、そこに、何らかの記載不備が存在することは明らかである。
上記iv)に関して、本件訂正発明5の「ポリエーテル化合物」は、「1以上の光反応性官能基に置換され、」とされる部分がどこなのか(どこが置換されているのか)について、請求項5に記載がないから、本件訂正発明5は、明確であるということができない、
特許権者が意見書でした主張が、請求項5の文意から著しく離れたものであり、請求項5について、その文意に反する理解を求める点において、かえって本件訂正発明5を不明確にするものである点は、請求項4と同様である、
「(3)本件訂正発明6」として、
請求項6は、請求項4又は請求項5を引用して記載されたものであるから、本件訂正発明6は、本件訂正発明4と同じ理由により、又は本件訂正発明4及び本件訂正発明5と同じ理由により、明確であるということができない、
請求項6でいう「前記ポリシルセスキオキサンに置換される反応性官能基」は、請求項4でいう「反応性官能基」のことと理解される、
ところが、請求項4には「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」と記載されている、
「ポリシルセスキオキサン」と「反応性官能基」の置換関係において、請求項4と請求項6との間で整合的な理解が困難であることから、そこに、何らかの記載不備が存在することは明らかである、
請求項6の「前記ポリシルセスキオキサンに置換される反応性官能基」という記載は、反応性官能基のどこがポリシルセスキオキサンに置換されているか特定されていない点においても、明確であるということができない、
特許権者が意見書でした主張が、請求項6の文意から著しく離れたものであり、請求項6について、その文意に反する理解を求める点において、かえって本件訂正発明6を不明確にするものである点は、請求項4と同様である。
「(4)本件訂正発明7~本件訂正発明14」について
請求項7~請求項14は、請求項4~請求項6のいずれかの請求項を引用して記載されたものであるから、本件訂正発明7~本件訂正発明14は、本件訂正発明4~本件訂正発明6と同じ理由により、明確であるということができない、
と主張する。
(イ) しかしながら、本件特許発明4及び本件特許発明6については、上記イで述べたとおりであり、請求項4及び請求項6の記載(あるいは発明の詳細な説明の記載)や技術常識に基づき、当業者は、「反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサン」について明確に理解することができる。
本件特許発明5についても、上記ウで述べたとおりであり、請求項4及び請求項5の記載全体及び技術常識に基づき、当業者は、化合物i)~iv)について明確に理解することができる。
そうすると、本件特許発明4~6及び(請求項4~請求項6のいずれかの請求項を引用して記載された)本件特許発明7~14が不明確であるということはできないから、異議申立人の上記(ア)の主張を採用することはできない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項4~14の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできず、特許を受けようとする発明は明確である。
2 理由2(進歩性)について
(1) 甲1を主引用例とする進歩性(1)
ア 甲1に記載された事項
(ア) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2であるポリエステルフィルム;および
前記ポリエステルフィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層を含む
反射防止フィルム。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート、あるいはポリエチレンナフタレートの一軸延伸フィルム、あるいは二軸延伸フィルムである、
請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記光硬化性コーティング組成物は、光重合性化合物として、(メタ)アクリロイル基またはビニル基を含む単量体またはオリゴマーを含む、
請求項1または2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンを0.5~30重量部で含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記ポリシルセスキオキサンに置換された反応性官能基は、アルコール、アミン、カルボン酸、エポキシド、イミド、(メタ)アクリレート、ニトリル、ノルボルネン、オレフィン、ポリエチレングリコール、チオール、およびビニル基からなる群より選択された1種以上の官能基を含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンは、1個以上の反応性官能基で置換されており、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記光硬化性コーティング組成物は、光反応性官能基を含むフッ素系化合物を追加的に含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記フッ素系化合物に含まれる光反応性官能基は、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル(vinyl)基、およびメルカプト(merapto)基からなる群より選択された1以上の官能基である、
請求項7に記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
前記光反応性官能基を含むフッ素系化合物は、2,000~200,000g/molの重量平均分子量を有する、
請求項7または8に記載の反射防止フィルム。
【請求項10】
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、前記光反応性官能基を含むフッ素系化合物を1~75重量部で含む、
請求項7から9のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項11】
前記無機粒子は、10~100nmの数平均粒径を有する中空シリカ粒子を含む、
請求項1から10のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項12】
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、前記中空シリカ粒子を10~350重量部で含む、
請求項11に記載の反射防止フィルム。
【請求項13】
前記ポリエステルフィルムと低屈折層との間にハードコート層が追加的に介在している、
請求項1から12のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項14】
前記ハードコート層は、眩しさ防止機能、キズ防止機能、帯電防止機能、あるいはこれらのうちの2以上の複合機能を実現する、
請求項13に記載の反射防止フィルム。」
b 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
・・・略・・・
【0002】
本発明は、反射防止フィルムに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、外部に入射する光の反射による眩しさ現象を著しく改善できる低屈折層と複屈折性を有する一方で、光学的歪みによる干渉縞が発生しない基材フィルムを含む反射防止フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
・・・略・・・
【0009】
発明の一実施例によれば、3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2であるポリエステルフィルム;および前記ポリエステルフィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層を含む反射防止フィルムが提供される。
・・・略・・・
【0012】
具体的には、前記ポリエステルフィルムの面内位相差値(Rin)は、3,000~30,000nm内の範囲に調節される。より具体的には、前記面内位相差値(Rin)の下限は4,500nm以上、5,000nm以上、6,000nm以上、あるいは7,000nm以上に調節され、上限は30,000nm以下に調節される。この範囲内で干渉縞の発生を効果的に抑制し、適切な厚さに形成されて取り扱いの容易性を確保することができ、さらに薄型の偏光板および/またはディスプレイ装置を提供することができる。
・・・略・・・
【0014】
また、前記ポリエステルフィルムは、十分な機械的強度および耐水性を維持しながら干渉縞を示さないために、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2の範囲を有する。前記厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が大きいほど、ポリエステルフィルムの等方性を増大させて干渉縞の発生が著しく改善できる。しかし、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が2.0となる完全な一軸性フィルムの場合には、配向方向と直交する方向の機械的強度が低下する問題がある。これにより、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)を上述した範囲に調節して、十分な機械的強度および耐水性を示しつつ、干渉縞が発生しないようにすることができる。
【0015】
前記厚さ方向の位相差値(Rth)は、ポリエステルフィルムの面内に直交する二軸の屈折率(nx、ny)と、厚さ方向の屈折率(nz)、そしてポリエステルフィルムの厚さ(d)を測定して、[(nx+ny)/2-nz]dに代入することにより算出される値である。
・・・略・・・
【0016】
当該位相差値を有するポリエステルフィルムは、本発明の属する技術分野において透明性および熱的、機械的特性に優れていると知られた多様なポリエステル樹脂を延伸加工して得ることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート・・・略・・・などのポリエステル樹脂を適切な条件で延伸加工して、上述した特性を示すポリエステルフィルムを製造することができる。前記ポリエステルフィルムは、一軸延伸フィルムおよび二軸延伸フィルムのいずれでも提供可能であるが、一軸延伸フィルムは干渉縞発生防止の側面では有利であるが、一軸延伸フィルムは上述のように配向方向と直交する方向の機械的強度が劣化する問題があって、二軸延伸フィルムで提供されることが有利である。このような二軸延伸フィルムは、周知の多様なポリエステル樹脂を、80~130℃の温度で1.0~3.5倍の縦延伸倍率および2.5~6.0倍の横延伸倍率の範囲内で延伸加工して提供される。
【0017】
前記特定の位相差値を有するポリエステルフィルムの厚さは、15~300μmの範囲内で適切に調節される。この範囲内で前記反射防止フィルムが十分な機械的強度および耐水性を示しつつ、取り扱いの容易性を有し、さらに薄型の偏光板および/またはディスプレイ装置を提供することができる。
【0018】
・・・略・・・本明細書において、低屈折層という用語は、低い屈折率を有する層を意味することができ、例えば、約1.2~1.6の屈折率を示す層を意味することができる。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0086】
上述のような発明の一実施例では、耐アルカリ性が非常に優れ、耐スクラッチ性および耐衝撃性のような機械的物性はもちろん、眩しさ現象を著しく改善した低屈折層を、薄い厚さにもかかわらず優れた機械的強度および耐水性を示し、干渉縞発生の恐れがない基材フィルムに形成することによって、多様な要求物性を均等に満たす反射防止フィルムを提供する。このような反射防止フィルムは、偏光板の保護フィルムに使用されたり、あるいはその他の部品に使用されることで薄型のディスプレイ装置を提供することができ、さらにディスプレイ装置の眩しさ現象を効果的に防止し、耐久性および寿命をより向上させることができる。
【0087】
発明の一実施例による反射防止フィルムは、耐アルカリ性が非常に優れ、耐スクラッチ性および耐衝撃性のような機械的物性はもちろん、眩しさ現象を著しく改善した低屈折層と、薄い厚さにもかかわらず優れた機械的強度および耐水性を示し、干渉縞発生の恐れがない基材フィルムを含む。これにより、このような反射防止フィルムは、偏光板の保護フィルムに使用されたり、あるいはその他の部品に使用されることで薄型のディスプレイ装置を提供することができ、さらにディスプレイ装置の眩しさ現象を効果的に防止し、耐久性および寿命をより向上させることができる。
【実施例】
【0088】
・・・略・・・
【0089】
実施例1~4および比較例1~4:反射防止フィルムの製造
【0090】
下記表1に記載されている基材フィルムとハードコート組成物および光硬化性コーティング組成物を用いて、次のような方法で反射防止フィルムを製造した。
【0091】
具体的には、基材フィルムにハードコート組成物を#10mayer barでコーティングし、90℃で1分間乾燥した後、150mJ/cm2の紫外線を照射して、5μmの厚さを有するハードコート層(帯電防止ハードコート層または防眩性ハードコート層)を形成した。
【0092】
そして、前記ハードコート層に光硬化性コーティング組成物を#3mayer barでコーティングし、60℃で1分間乾燥した。そして、窒素パージング下、前記乾燥物に180mJ/cm2の紫外線を照射して、110nmの厚さを有する低屈折層を形成することによって、反射防止フィルムを製造した。
【表1】
[図:0001422412000002.jpg]
【0093】
前記表1で、各基材フィルムの製造会社、位相差および透湿度のような物性は、下記表2に記載されている。HD1は、KYOEISHA社の塩タイプの帯電防止ハードコート液(固形分50重量%、製品名:LJD-1000)である。
【0094】
HD2は、ペンタエリスリトールトリアクリレート(分子量:298g/mol)13g、ウレタンアクリレートオリゴマー(306I、Kyoeish社)10g、ウレタンアクリレートオリゴマー(306T、Kyoeish社)10g、溶媒としてイソプロピルアルコール20g、光開始剤(Irgacure184、Ciba社)2g、レベリング剤(Tego glide410)0.5gを均一に混合して製造した組成物に、平均粒径が3μm、屈折率が1.555の球状の有機微粒子であるアクリル-スチレン共重合体(Techpolymer、Sekisui Plastic社)2.3gと、体積平均粒径12nmのナノシリカ分散液(MA-ST、Nissan Chemical社)0.01gを添加して製造した目眩しさ防止ハードコート組成物である。LR1、LR2およびLR3の具体的な成分および組成は、下記表3に記載されている。LR1、LR2およびLR3は、下記表3に記載された成分を記載された組成で混合し、MIBK(methyl isobutyl ketone)およびPGME(propyleneglycol monomethyl ether)を1:1の重量比率で混合した溶媒に、固形分が3重量%となるように希釈して使用した。
【表2】
[図:0001422412000003.jpg]
・・・略・・・
【0096】
(2)OTSUKA ELECTRONICS社のRETS-100により前記基材フィルムの面内位相差値(Rin=|nx-ny|×d)と厚さ方向の位相差値(Rth=[(nx+ny)/2-nz]d)を測定した。・・・略・・・面内位相差値(Rin)を厚さ方向の位相差値(Rth)で割ってRin/Rthを求めた。
【0097】
(3)前記基材フィルムの透湿度・・・略・・・を、Labthink社のwater vapor permeability testerのTSY-T3を用いて、40℃の温度および90%の相対湿度下で測定した。透湿度(WVTS)は、厚さが増加するほど減少するので、厚さ100μmあたりの透湿度を透水性(permeability)と定義し、透水性(permeability)を「厚さ(単位:μm)×透湿度/100」の式で求めて、表2に示した。
【表3】
[図:0001422412000004.jpg]
(単位:g)
【0098】
1)中空シリカ分散液:数平均直径が50nmの中空シリカ粒子がメチルイソブチルケトンに固形分20重量%で分散したTHRULYA4320(触媒化成製品)
【0099】
2)ポリシルセスキオキサン:Hybrid Plastics社のMA0701
【0100】
3)光反応性官能基を含むフッ素系化合物:光反応性官能基を含み、ケイ素を微量含むフッ素系化合物であって、メチルイソブチルケトンに30重量%に希釈したDIC社のRS537
【0101】
4)光開始剤:Ciba社のIrgacure-127
【0102】
試験例:反射防止フィルムの物性の測定
【0103】
1.平均反射率の測定
実施例および比較例で製造した反射防止フィルムの平均反射率を、SolidSpec3700(SHIMADZU)を用いて測定した。
・・・略・・・
【0106】
2.耐スクラッチ性の測定
実施例および比較例で得られた反射防止フィルムの表面を#0000等級のスチールウールに荷重をかけて、24rpmの速度で10回往復しながら擦った。前記スチールウールにかかる荷重を増加させながらLED50Wの天井照明の下で肉眼観察した時、スクラッチの発生しない最大荷重を測定した。前記荷重は、横2cm、縦2cmの面積(2×2cm2)あたりの重量(g)で定義される。
【0107】
3.干渉縞発生有無の評価
実施例および比較例により製造した反射防止フィルムを用いて、基材フィルムのハードコート層が形成されていない面にブラックPETフィルムを貼り付け、肉眼で干渉縞が観察されるか否かを評価した。評価結果、反射防止フィルムにおいて干渉縞が観察されない場合には、下記表4に「良好」と記し、干渉縞が明確に観察される場合には「ひどい」と記した。
【0108】
4.透湿度および透水性評価
実施例および比較例により製造した反射防止フィルムの透湿度・・・略・・・を、Labthink社のwater vapor permeability testerのTSY-T3を用いて40℃の温度下で測定した。・・・略・・・透湿度(WVTS)は厚さが増加するほど減少するので、厚さ100μmあたりの透湿度を透水性(permeability)と定義し、透水性(permeability)を「厚さ(単位:μm)×透湿度/100」の式で求めて、表4に示した。
・・・略・・・
【表4】
[図:0001422412000005.jpg]
【0109】
前記表4を参照すれば、本発明の一実施例による反射防止フィルムは、優れた低反射率および耐スクラッチ性を示しつつ、干渉縞がほとんど発見されない一方で、優れた耐水性も示すことが確認される。」
(イ) 甲1発明
上記(ア)より、甲1には、甲1の請求項1~13の記載を直列的に全て引用する請求項14に係る「反射防止フィルム」の発明として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2であるポリエステルフィルム;および
前記ポリエステルフィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層を含む、
反射防止フィルムであって、
前記ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート、あるいはポリエチレンナフタレートの一軸延伸フィルム、あるいは二軸延伸フィルムであり、
前記光硬化性コーティング組成物は、光重合性化合物として、(メタ)アクリロイル基またはビニル基を含む単量体またはオリゴマーを含み、
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンを0.5~30重量部で含み、
前記ポリシルセスキオキサンに置換された反応性官能基は、アルコール、アミン、カルボン酸、エポキシド、イミド、(メタ)アクリレート、ニトリル、ノルボルネン、オレフィン、ポリエチレングリコール、チオール、およびビニル基からなる群より選択された1種以上の官能基を含み、
前記反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンは、1個以上の反応性官能基で置換されており、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを含み、
前記光硬化性コーティング組成物は、光反応性官能基を含むフッ素系化合物を追加的に含み、
前記フッ素系化合物に含まれる光反応性官能基は、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル基、およびメルカプト基からなる群より選択された1以上の官能基であり、
前記光反応性官能基を含むフッ素系化合物は、2,000~200,000g/molの重量平均分子量を有し、
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、前記光反応性官能基を含むフッ素系化合物を1~75重量部で含み、
前記無機粒子は、10~100nmの数平均粒径を有する中空シリカ粒子を含み、
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、前記中空シリカ粒子を10~350重量部で含み、
前記ポリエステルフィルムと低屈折層との間にハードコート層が追加的に介在し、
前記ハードコート層は、眩しさ防止機能、キズ防止機能、帯電防止機能、あるいはこれらのうちの2以上の複合機能を実現する、
反射防止フィルム。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
a 低屈折層
(a) 甲1発明の「低屈折層」は、「光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である」。
また、甲1発明の「無機粒子」は、「10~100nmの数平均粒径を有する中空シリカ粒子を含」む。
(b) 甲1発明の「無機粒子」に含まれる「10~100nmの数平均粒径を有する中空シリカ粒子」は、本件特許発明1の、「1~200nmの平均直径を有する」とされる、「中空型無機ナノ粒子」に相当する。また、甲1発明の「無機粒子」は、本件特許発明1の、「無機微粒子」に相当する。
(c) 甲1発明の「架橋重合物」は、本件特許発明1の「バインダー樹脂」に相当する。
(d) 上記(a)~(c)より、甲1発明の「低屈折層」は、本件特許発明1の「低屈折層」に相当する。また、本件特許発明1と、甲1発明は、「前記低屈折層は、バインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した無機微粒子を含み、前記無機微粒子は」、「1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子を含」む点で共通する。
b ハードコート層
甲1発明の「ハードコート層」は、本件特許発明1の「ハードコート層」に相当する。
c 低透湿性高分子フィルム
(a) 甲1発明の「ポリエステルフィルム」は、「3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2であ」り、「ポリエチレンテレフタレート、あるいはポリエチレンナフタレートの一軸延伸フィルム、あるいは二軸延伸フィルムであ」る。
(b) 上記(a)より、本件特許発明1の「低透湿性高分子フィルム」と、甲1発明の「ポリエステルフィルム」は、「高分子フィルム」である点で共通する。
d 反射防止フィルム
上記a~cより、甲1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「反射防止フィルム」に相当する。また、本件特許発明1の「反射防止フィルム」と、甲1発明の「反射防止フィルム」は、「高分子フィルム;ハードコート層;および低屈折層を含」む点で共通する。
e 上記a~dより、本件特許発明1と、甲1発明は、
「 高分子フィルム;ハードコート層;および低屈折層を含み、
前記低屈折層は、バインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した無機微粒子を含み、前記無機微粒子は、1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子を含む、反射防止フィルム。」の構成で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1-1-1)
本件特許発明1は、「高分子フィルム」が、「低透湿性」であり、「30~40℃の温度および90~100%相対湿度の条件で50g/m2・day以下の透湿率を有し」、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5であり」、「二軸延伸フィルムであり」、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であり」、「反射防止フィルム」が、「透過(Transmission)モードのX線回折(XRD)により得られた回折像を、17~18°の2θ値で方位角スキャン(Azimuthal Scan)して算出された方位角分布曲線(Azimuthal Angle Distribution Curve)において、ピーク間の間隔の平均が160~200°である」のに対して、甲1発明の「ポリエステルフィルム」は、このような特性を具備するとは特定されていない点。
(相違点1-1-2)
本件特許発明1は、「低屈折層」が、「550nmの波長で1.2~1.8の屈折率を示し」、「無機微粒子」は、「0.5~100nmの平均直径を有するソリッド型無機ナノ粒子」を含むのに対して、甲1発明は、「低屈折層」の550nmの波長での屈折率が不明であり、また、「無微粒子」が前記「ソリッド型無機ナノ粒子」を含むとは特定されていない点。
(イ) 判断
相違点1-1-1について検討する。
a 甲1でいう本発明の課題は、「外部に入射する光の反射による眩しさ現象を著しく改善できる低屈折層と複屈折性を有する一方で、光学的歪みによる干渉縞が発生しない基材フィルムを含む反射防止フィルムを提供する」(【0007】)ことであるところ、甲1発明の「ポリエステルフィルム」は、「3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2であ」り、「ポリエチレンテレフタレート、あるいはポリエチレンナフタレートの一軸延伸フィルム、あるいは二軸延伸フィルムであ」る。
b(a) 甲1の【0092】【表1】及び【0094】【表2】には、実施例1~4の反射防止フィルムの基材フィルム(ポリエステルフィルム)として、Rin:8400nm、Rth:9200nm、Rin/Rth:0.913である、東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を用いること、また、実施例1~4の反射防止フィルムは、「優れた低反射率および耐スクラッチ性を示しつつ、干渉縞がほとんど発見されない一方で、優れた耐水性も示す」こと(【0109】、【0108】【表4】等)が記載されている。
ここで、そのRinの値及び技術常識より、東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」は、ポリエステルフィルムであって、PETの一軸延伸フィルム、あるいは二軸延伸フィルムであることは明らかである。
そうしてみると、上記aで述べた光学特性及び材料の甲1発明の「ポリエステルフィルム」として、低反射率、耐スクラッチ性、干渉縞及び耐水性の点で優れる、上記の実施例1~4で用いられた東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用することまでは、当業者にとって容易といえる。
(b) しかしながら、甲1発明の「ポリエステルフィルム」として、Rth:9200nmである、東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用したとしても、相違点1-1-1に係る構成のうちの「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であり」との構成に至らない。
(c) また、甲1発明の「ポリステルフィルム」に好ましいものとして、反射防止フィルムの基材フィルムとして低反射率、耐スクラッチ性、干渉縞及び耐水性の点で優れる、Rin:8400nm、Rth:9200nm、Rin/Rth:0.913である、市販品の東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用したにもかかわらず、Rthがこれと異なる「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」のポリエステルフィルムとする動機付けがないから、甲1発明の「ポリエステルフィルム」として、東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用するとともに、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」及び「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5」である構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるともいえない。
仮に、甲1発明の「ポリエステルフィルム」を、「3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2」かつ「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」を満たすものとすることを当業者が検討する場合、当業者は、甲1の
「前記ポリエステルフィルムの面内位相差値(Rin)は、3,000~30,000nm内の範囲に調節される。より具体的には、前記面内位相差値(Rin)の下限は4,500nm以上、5,000nm以上、6,000nm以上、あるいは7,000nm以上に調節され、上限は30,000nm以下に調節される。」、「この範囲内で干渉縞の発生を効果的に抑制し、適切な厚さに形成されて取り扱いの容易性を確保することができ、さらに薄型の偏光板および/またはディスプレイ装置を提供することができる。」(【0012】)、
「前記ポリエステルフィルムは、十分な機械的強度および耐水性を維持しながら干渉縞を示さないために、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2の範囲を有する。」、「厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)を上述した範囲に調節して、十分な機械的強度および耐水性を示しつつ、干渉縞が発生しないようにすることができる。」(【0014】)、
「当該位相差値を有するポリエステルフィルムは、本発明の属する技術分野において透明性および熱的、機械的特性に優れていると知られた多様なポリエステル樹脂を延伸加工して得ることができる。」、「二軸延伸フィルムで提供されることが有利である。」、「このような二軸延伸フィルムは、周知の多様なポリエステル樹脂を、80~130℃の温度で1.0~3.5倍の縦延伸倍率および2.5~6.0倍の横延伸倍率の範囲内で延伸加工して提供される。」(【0016】)、
「前記特定の位相差値を有するポリエステルフィルムの厚さは、15~300μmの範囲内で適切に調節される。この範囲内で前記反射防止フィルムが十分な機械的強度および耐水性を示しつつ、取り扱いの容易性を有し、さらに薄型の偏光板および/またはディスプレイ装置を提供することができる。」(【0017】)、
等の記載、示唆に基づき、ポリエステルフィルムのRin、Rth、Rin/Rth、厚み等の具体的な光学的設計を行い、延伸加工によりポリエステル二軸延伸フィルムを製造するところ、甲1には、ポリエステル延伸フィルムの一方向の引張強度、一方向と垂直方向の引張強度及びその比に着目すること、引張強度の比を2.3~5の範囲に設計することは記載も示唆もされていないから、相違点1-1-1に係る「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5」であるとの構成には至らない。
c(a) あるいは、甲1の【0010】(ポリエステルフィルムの機械的強度、耐水性等)、【0012】(Rinの値、干渉縞抑制等)、【0014】及び【0016】(二軸延伸フィルム及びその製造(温度及び縦・横延伸倍率)等)などの記載に接した当業者は、甲1発明の上記aの光学特性及び材料の「ポリエステルフィルム」として、高い面内位相差を有するPETフィルムとして優先日前に周知の、厚み80μmあるいは100μmの、市販品の東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」(甲2-1の「3-1」の表(スライド4枚目)、甲2-2の「表1」(4頁)等参照。)が好ましいと理解する。
そうしてみると、甲1発明の「ポリエステルフィルム」として、上記のSRFフィルムを採用することまでは、甲1発明の具体化を考える当業者にとって容易といえる。
(b) しかしながら、東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」の「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)」が不明である。
(c) また、甲1発明の「ポリステルフィルム」として、市販品の「COSMOSHINE SRF(R)」を好ましいものとして採用したにもかかわらず、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」のポリエステルフィルムとする動機付けがないから、甲1発明の「ポリエステルフィルム」として、厚み80μmあるいは100μmの東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」を採用するとともに、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」及び「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5」である構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるともいえない。
仮に、甲1発明の「ポリエステルフィルム」について、「3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2」かつ「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」を満たすものとすることを当業者が検討したとしても、甲1、甲2-1あるいは甲2-2には、ポリエステル延伸フィルムの一方向及び一方向と垂直方向の引張強度の比に着目すること、引張強度の比を2.3~5の範囲に設計することは記載も示唆されていないから、相違点1-1-1に係る「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5であ」るとの構成には至らない。
d さらに、反射防止フィルムの基材フィルムとして用いられる、ポリエステル延伸フィルムにおいて、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比」に着目し、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比」を「2.3~5」とすることは、異議申立人が提出した甲2-3~甲10や、令和6年10月11日提出の意見書に添付した参考資料1(特開2011-112928号公報)、参考資料2(国際公開第2017/142035号)、参考資料3(特公平4-73123号公報)、参考資料4(特開2011-107198号公報)、参考資料5(特開2015-141260号公報)及び参考資料6(国際公開第2016/167221号)には記載も示唆もされておらず、また、優先日前の周知の技術であるとも当業者の技術常識であるともいうことができない。
してみると、甲1発明において、相違点1-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
e 令和6年10月11日提出の意見書における異議申立人の主張について
(a) 同意見書の9~12頁において、甲1発明に基づく進歩性欠如について異議申立人は、
甲第1号証の【0012】及び【0016】の記載に接した当業者ならば、甲1発明の「ポリエステルフィルム」に相応しい周知技術として、「TA015」と表記された基材フィルムや、東洋紡株式会社製の超複屈折フィルム「COSMOSHINE SRF」のような、高い面内位相差を有するPETフィルム(以下「高複屈折PETフィルム」という。)を直ちに想起する、
面内位相差は、PETフィルムの厚さに比例して高くなるものであるから、高複屈折PETフィルムの厚さを厚く設計する(厚い原反から同様に作成する)ことは、高い面内位相差を確保するための数値範囲の好適化にすぎない、
そして、このようにしてなる高複屈折PETフィルムが、相違点1-1-1に係る構成をすべて具備することは明らかである、
【0094】の【表2】に記載のTA015は、厚さ80μmでRthが9200nmとされているから、例えば、厚い原反から同様に作成された厚さ100μmの高複屈折PETフィルムのRthは優に10,000nmを超える(11,500nmと計算される)ところである、
Rthが10,000nm以上の高複屈折PETフィルムは、ごくありふれたものである、
と主張する。
(b) しかしながら、延伸フィルムの引張強度等の機械的特性は、フィルム材料、延伸加工条件(MD、TD方向の延伸倍率、逐次、同時延伸、延伸温度、延伸速度)及び熱緩和条件(緩和温度、緩和時間)等に依存することが技術常識であるところ、高い面内位相差を有するPETフィルム(高複屈折PETフィルム)であるからといって、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比」が「2.3~5」になるとはいえない。
(c) 一方、「MD」方向の「Tensile Strength」が83MPa、「TD」方向の「Tensile Strength」が321MPa(甲2-1参照)である、東洋紡株式会社製の超複屈折フィルム「COSMOSHINE SRF(R)」は、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比」が「2.3~5」であるとの要件を満たす(321(MPa)/83(MPa)は、約3.9である。)とはいえる。また、異議申立人が主張するとおり、Rthが10,000nm以上の高複屈折PETフィルムは、ごくありふれたものである。
しかしながら、甲1発明の「ポリエステルフィルム」として、東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」が相応しいといえたとしても、より高い面内位相差を得るために、採用した市販品である東洋紡株式会社製の東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」の厚さを厚くしようと当業者は考えることはない。より高い面内位相差のポリエステル(PET)フィルムが好ましいのであれば、上記b(c)及びc(c)で述べたように、当業者は、甲1の記載、示唆に基づき、ポリエステルフィルムの具体的なRin、Rth、Rin/Rth、厚み等の光学的設計を行い、延伸加工により製造するのであり、このようにして得られた高い面内位相差を有する二軸延伸ポリエステル(PET)フィルムが、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比」が「2.3~5」との要件を満たすとはいえない。
甲1の【0094】【表2】に記載の「TA015」フィルムを、甲1発明の「ポリエステルフィルム」として好適なものとして検討しても、上記結論は同じである。
(d) 以上のとおりであるから、上記の異議申立人の主張を採用することはできない。
f 小括
したがって、甲1発明において、相違点1-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるということはできないから、相違点1-1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ウ 本件特許発明3~14について
本件特許発明3~14は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記イ(イ)のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明3~14についても、同様な理由により、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(2) 甲1を主引用例とする進歩性(2)
ア 甲1実施例1発明
上記(1)ア(ア)の甲1の【0088】~【0109】の記載から、甲1には、「実施例1」により製造した「反射防止フィルム」の発明として、次の発明(以下「甲1実施例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 基材フィルムを、Rinが8400nm、Rthが9200nm、Ri/Rthが0.913、透湿度が6.36g/m2*day、透水性が5.1である、TOYOBO社製「TA015(厚さ:80μm)」とし、(【0091】、【0092】【表1】、【0094】【表2】)
ハードコート組成物HD1は、KYOEISHA社の塩タイプの帯電防止ハードコート液(固形分50重量%、製品名:LJD-1000)であり、(【0091】、【0092】【表1】、【0093】)
光硬化性コーティング組成物LR1は、中空シリカ分散液(数平均直径が50nmの中空シリカ粒子がメチルイソブチルケトンに固形分20重量%で分散したTHRULYA4320(触媒化成製品)250g、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート37g、ポリシルセスキオキサン(Hybrid Plastics社のMA0701)3g、光反応性官能基を含むフッ素系化合物(光反応性官能基を含み、ケイ素を微量含むフッ素系化合物であって、メチルイソブチルケトンに30重量%に希釈したDIC社のRS537)13.3g及び光開始剤(Ciba社のIrgacure-127)6gを混合し、MIBKおよびPGMEを1:1の重量比率で混合した溶媒に、固形分が3重量%となるように希釈して使用し、(【0091】、【0092】【表1】、【0094】、【0097】【表3】、【0098】、【0099】、【0100】、【0101】)
基材フィルムにハードコート組成物HD1をコーティングし、90℃で1分間乾燥した後、紫外線を照射して、5μmの厚さを有するハードコート層を形成し、(【0091】)
前記ハードコート層に光硬化性コーティング組成物LR1をコーティングし、60℃で1分間乾燥し、窒素パージング下、前記乾燥物に紫外線を照射して、110nmの厚さを有する低屈折層を形成することによって製造した、反射防止フィルムであって、(【0092】)
平均反射率が~1.5%、耐スクラッチ性が300g/(2*2cm2)、干渉縞発生有無の評価が良好、反射防止フィルムの総厚さが85.1μm、透水性が8.66であり、(【0108】)
優れた低反射率および耐スクラッチ性を示しつつ、干渉縞がほとんど発見されない一方で、優れた耐水性も示す、(【0109】)
反射防止フィルム。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲1実施例1発明を対比する。
a 低屈折層
(a) 甲1実施例1発明の「低屈折層」は、「光硬化性コーティング組成物LR1」の組成及びその形成工程からみて、「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート」、「ポリシルセスキオキサン」及び「光反応性官能基を含むフッ素系化合物」を硬化させた樹脂(以下「硬化樹脂」という。)と、「硬化樹脂」中に分散させた「数平均直径が50nmの中空シリカ粒子」を含む、ということができる。
(b) 甲1実施例1発明の「数平均直径が50nmの中空シリカ粒子」は、本件特許発明の、「1~200nmの平均直径を有する」とされる、「中空型無機ナノ粒子」に相当する。また、甲1実施例1発明の「中空シリカ粒子」は、本件特許発明1の、「無機微粒子」に相当する。
(c) 甲1実施例1発明の硬化樹脂(上記(a))は、本件特許発明1の「バインダー樹脂」に相当する。
(d) 上記(a)~(c)より、甲1実施例1発明の「低屈折層」は、本件特許発明1の「低屈折層」に相当する。また、本件特許発明1と、甲1実施例1発明は、「前記低屈折層は、バインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した無機微粒子を含み、前記無機微粒子は」、「1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子を含」む点で共通する。
(e) 甲1実施例1発明の「反射防止フィルム」は、「ハードコート層に」、「110nmの厚さを有する低屈折層を形成」し、「平均反射率」を「~1.5%」としたものである。
そうすると、甲1実施例1発明が、本件特許発明1の、「前記低屈折層は、550nmの波長で1.2~1.8の屈折率を示し」との構成を具備することは技術常識から明らかなことである(甲1の【0018】の「本明細書において、低屈折層という用語は、低い屈折率を有する層を意味することができ、例えば、約1.2~1.6の屈折率を示す層を意味することができる。」との記載からも確認できることである。)。
b ハードコート層
甲1実施例1発明の「ハードコート層」は、本件特許発明1の「ハードコート層」に相当する。
c 低透湿性高分子フィルム
甲1実施例1発明の「基材フィルム」である、TOYOBO社製「TA015(厚さ:80μm)」は、「Rinが8400nm、Rthが9200nm、Ri/Rthが0.913、透湿度が6.36g/m2*day」である。
甲1実施例1発明の、TOYOBO社製「TA015(厚さ:80μm)」の「透湿度」(定義については甲1の【0108】参照。)からみて、甲1実施例1発明のTOYOBO社製「TA015(厚さ:80μm)」は、本件特許発明1の、「30~40℃の温度および90~100%相対湿度の条件で50g/m2・day以下の透湿率を有し」とされる、「低透湿性高分子フィルム」に相当する。
d 反射防止フィルム
上記a~cより、甲1実施例1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「反射防止フィルム」に相当し、甲1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「反射防止フィルム」の、「低透湿性高分子フィルム;ハードコート層;および低屈折層を含」むとの構成を具備する。
e 上記a~dより、本件特許発明1と、甲1実施例1発明は、
「 低透湿性高分子フィルム;ハードコート層;および低屈折層を含み、
前記低透湿性高分子フィルムは、30~40℃の温度および90~100%相対湿度の条件で50g/m2・day以下の透湿率を有し、
前記低屈折層は、550nmの波長で1.2~1.8の屈折率を示し、
前記低屈折層は、バインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した無機微粒子を含み、前記無機微粒子は、1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子を含む、反射防止フィルム。」の構成で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1’-1-1)
本件特許発明1は、「低透湿性高分子フィルム」が、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5であり」、「二軸延伸フィルムであり」、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であり」、「反射防止フィルム」が、「透過(Transmission)モードのX線回折(XRD)により得られた回折像を、17~18°の2θ値で方位角スキャン(Azimuthal Scan)して算出された方位角分布曲線(Azimuthal Angle Distribution Curve)において、ピーク間の間隔の平均が160~200°である」のに対して、甲1実施例1発明は、TOYOBO社製「TA015(厚さ:80μm)」の「Rinが8400nm、Rthが9200nm、Ri/Rthが0.913」であるものの、上記特性を具備するとは特定されていない点。
(相違点1’-1-2)
「無機微粒子」が、本件特許発明1は、「0.5~100nmの平均直径を有するソリッド型無機ナノ粒子」を含むのに対して、甲1実施例1発明は、前記「ソリッド型無機ナノ粒子」を含まない点。
(イ) 判断
相違点1’-1-1について検討する。
a 甲1でいう本発明の課題は、上記(1)イ(イ)aで述べたとおりであるところ、甲1実施例1発明は、甲1の請求項1に記載された、「3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2」の構成を満足する「基材フィルム」の一具体例として、市販品のTOYOBO社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用したものと理解できる。
しかしながら、甲1実施例1発明において、基材フィルムとして、Rin:8400nm、Rth:9200nm、Rin/Rth:0.913である、市販品のTOYOBO社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用しながらも、Rthがこれと異なる「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」のポリエステルフィルムとする動機付けがない。仮に、甲1実施例1発明の「基材フィルム」について、「3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2」かつ「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」を満たすものを設計、製造しようと当業者が検討するとしても、甲1、甲2-1あるいは甲2-2には、ポリエステル(PET)延伸フィルムの一方向及び一方向と垂直方向の引張強度の比に着目し、引張強度の比を2.3~5の範囲に設計することは記載も示唆されていないから、相違点1’-1-1に係る「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5」であるとの構成には至らないことは、上記(1)イ(イ)b(c)で述べたとおりである。
b 令和6年10月11日提出の意見書における異議申立人の主張について
(a) 同意見書の13頁において、甲1実施例1発明に基づく進歩性欠如について異議申立人は、
甲1実施例発明のTA015は、甲第1号証の請求項1に記載された「3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2であるポリエステルフィルム」の一具体例として示されたものである、
面内位相差は、PETフィルムの厚さに比例して高くなるものであるから、高複屈折PETフィルムの厚さを厚く設計する(厚い原反から同様に作成する)ことは、高い面内位相差を確保するための数値範囲の好適化にすぎない、
そして、このようにしてなる高複屈折PETフィルムが、相違点1’-1-1に係る構成をすべて具備することは、甲1発明の場合と同様に明らかである、と主張する。
(b) しかしながら、上記aや上記(1)イ(イ)b及びeで述べたとおりであるから、上記の異議申立人の主張を採用することはできない。
c 小括
したがって、甲1実施例1発明において、相違点1’-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるということはできないから、相違点1’-1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ウ 本件特許発明3~14について
本件特許発明3~14は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記イ(イ)のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明3~14についても、同様な理由により、甲1に記載された発明、甲1に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
エ 上記ア~ウにおいては、甲1の「実施例1」により製造した「反射防止フィルム」の発明に基づき、甲1実施例1発明を認定して、対比、判断を行ったが、これに替えて、甲1の実施例2、実施例3あるいは実施例4に基づき引用発明を認定し、対比、判断を行っても結論は同じである。
(3) 甲8を主引用例とする進歩性(3)
ア 甲8実施例5発明
甲8の【0117】(「製造例1:ハードコートフィルム1(HD1)の製造」)、【0119】~【0120】【表1】、【0122】(「低屈折層製造用光硬化性コーティング組成物の組成」について)、【0124】(「1.平均反射率の測定」について)及び【0127】【表3】(実施例5の「反射率(%)」について)等の記載から理解される、実施例5の「反射防止フィルム」の発明を、甲8実施例5発明という。
イ 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と、甲8実施例5発明とを対比すると、両者は、以下の点において少なくとも相違する。
(相違点8-1-1)
本件特許発明1は、「高分子フィルム」が「低透湿性」であり、「30~40℃の温度および90~100%相対湿度の条件で50g/m2・day以下の透湿率を有し」、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5であり」、「二軸延伸フィルムであり」、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であり」、「反射防止フィルム」が、「透過(Transmission)モードのX線回折(XRD)により得られた回折像を、17~18°の2θ値で方位角スキャン(Azimuthal Scan)して算出された方位角分布曲線(Azimuthal Angle Distribution Curve)において、ピーク間の間隔の平均が160~200°である」のに対して、甲8実施例5発明は、「トリアセチルセルロースフィルム」及び「反射防止フィルム」が、このような特性を具備するとは特定されていない点。
(イ) 判断
相違点8-1-1について検討する。
a 甲8実施例5発明において、TACフィルムに替えて、高い面内位相差を有するPETフィルムとして優先日前に周知の、厚み80μmあるいは100μmの、市販品の東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」、あるいは、甲1の記載の、市販品の東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用することまでは、耐水性を考慮する当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
しかしながら、甲8実施例5発明において、TACフィルムに替えて、市販品の、東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」あるいは東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用できたとしても、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」及び「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5」である構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるということができないことは、上記(1)イ(イ)b~dで述べたとおりである。
b 令和6年10月11日提出の意見書における異議申立人の主張について
(a) 同意見書の14~16頁において、甲8実施例5発明に基づく進歩性欠如について異議申立人は、
甲8の【0002】や【0015】の記載からみて、甲8実施例5発明の「反射防止フィルム」はディスプレイ装置用途又は偏光板用途のものと理解されるところ、同【0114】には、反射防止フィルムの基材材料として、TACの他にPETが例示され、厚さが10~300μmであってもよいことが記載されている、
当業者ならば、偏光板保護フィルム用途又はディスプレイ用途のPETフィルムに相応しい周知技術として、「TA015」や、東洋紡株式会社製の超複屈折フィルム「COSMOSHINE SRF」のような、高い面内位相差を有するPETフィルム(高複屈折PETフィルム)を直ちに想起する、
面内位相差は、PETフィルムの厚さに比例して高くなるものであるから、高複屈折PETフィルムの厚さを厚く設計する(厚い原反から同様に作成する)ことは、高い面内位相差を確保するための数値範囲の好適化にすぎない、
そして、このようにしてなる高複屈折PETフィルムが、相違点8-1-1に係る構成をすべて具備することは、甲1発明の場合と同様に明らかである、と主張する。
(b) しかしながら、上記a及び上記(1)イ(イ)eで述べたとおりであるから、上記の異議申立人の主張を採用することはできない。
c 小括
したがって、甲8実施例5発明において、相違点8-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるということはできないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲8に記載された発明、甲8に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ウ 本件特許発明3~14について
本件特許発明3~14は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記イ(イ)のとおり、本件特許発明1は、甲8に記載された発明、甲8に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明3~14についても、同様な理由により、甲8に記載された発明、甲8に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
エ 上記ア~ウにおいては、甲8の実施例5に基づき甲8実施例5発明を認定し、対比、判断を行ったが、これに替えて、甲8の実施例6、実施例9あるいは実施例1~4、7、8、10のいずれかの実施例や、特許請求の範囲の請求項24に係る反射防止フィルムの発明に基づき引用発明を認定し、対比、判断を行っても結論は同じである。
(4) 甲9を主引用例とする進歩性(4)
ア 甲9実施例1発明
甲9の【0150】~【0151】【表1】(製造例1の防眩ハードコーティング組成物、8BR-500、PETA、103BQ、MA-ST等)、【0154】(製造例6の低屈折層製造用樹脂組成物(LR1)の組成、ポリシルセスキオキサン(MA0701)、中空シリカ(Thrulya 4320、触媒化成社)等)、【0155】(実施例の反射防止フィルムの製造)及び【0158】(「3.平均反射率測定」)、【0163】【表3】(実施例1)の記載から理解される、「実施例1」の「防眩/反射防止フィルム」の発明を、甲9実施例1発明という。
イ 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と、甲9実施例1発明を対比すると、両者は、以下の点において少なくとも相違する。
(相違点9-1-1)
本件特許発明1は、「高分子フィルム」が「低透湿性」であり、「30~40℃の温度および90~100%相対湿度の条件で50g/m2・day以下の透湿率を有し」、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5であり」、「二軸延伸フィルムであり」、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であり」、「反射防止フィルム」が、「透過(Transmission)モードのX線回折(XRD)により得られた回折像を、17~18°の2θ値で方位角スキャン(Azimuthal Scan)して算出された方位角分布曲線(Azimuthal Angle Distribution Curve)において、ピーク間の間隔の平均が160~200°である」のに対して、甲9実施例1発明は、「トリアセチルセルロースフィルム」及び「防眩/反射防止フィルム」が、このような特性を具備するとは特定されていない点。
(イ) 判断
相違点9-1-1について検討する。
a 甲9実施例1発明において、基材としてTACフィルムが用いられているところ、これに替えて、高い面内位相差を有するPETフィルムとして優先日前に周知の、厚み80μmあるいは100μmの、市販品の東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」、あるいは、甲1の記載の、市販品の東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用することまでは、耐水性を考慮する当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
しかしながら、甲9実施例1発明において、TACフィルムに替えて、市販品の、東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」あるいは東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用できたとしても、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」及び「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5」である構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるということができないことは、上記(1)イ(イ)b~dで述べたとおりである。
b 令和6年10月11日提出の意見書における異議申立人の主張について
(a) 同意見書の16~18頁において、甲9実施例1発明に基づく進歩性欠如について異議申立人は、
甲9の【0031】~【0032】、【0147】~【0148】の記載からみて、甲9実施例1発明の「防眩/反射防止フィルム」はディスプレイ用途又は偏光板保護フィルム用途のものと理解されるところ、同【0139】には、「前記基材の具体的な種類や厚さは特に限定されるものではなく、低屈折層または反射防止フィルムの製造に使用されるものとして知られている基材を特に制限なしに使用することができる。」ことが記載されている、
当業者ならば、偏光板保護フィルム用途又はディスプレイ用途の光学フィルムに相応しい周知技術として、「TA015」や、東洋紡株式会社製の超複屈折フィルム「COSMOSHINE SRF」のような、高い面内位相差を有するPETフィルム(高複屈折PETフィルム)を直ちに想起する、
面内位相差は、PETフィルムの厚さに比例して高くなるものであるから、高複屈折PETフィルムの厚さを厚く設計する(厚い原反から同様に作成する)ことは、高い面内位相差を確保するための数値範囲の好適化にすぎない。
そして、このようにしてなる高複屈折PETフィルムが、相違点9-1-1に係る構成をすべて具備することは、甲1発明の場合と同様に明らかである、
と主張する。
(b) しかしながら、上記a及び上記(1)イ(イ)eで述べたとおりであるから、上記の異議申立人の主張を採用することはできない。
c 小括
したがって、甲9実施例1発明において、相違点9-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるということはできないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲9に記載された発明、甲9に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ウ 本件特許発明3~14について
本件特許発明3~14は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記イ(イ)のとおり、本件特許発明1は、甲9に記載された発明、甲9に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件特許発明3~14についても、同様な理由により、甲9に記載された発明、甲9に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
エ 上記ア~ウにおいては、甲9の実施例1に基づき甲9実施例1発明を認定し、対比、判断を行ったが、これに替えて、甲9の実施例2~6のいずれかの実施例や、特許請求の範囲に係る発明に基づいて、引用発明を認定し、対比、判断を行っても結論は同じである。
(5) 甲10を主引用例とする進歩性(5)
ア 甲10実施例6発明
甲10の35頁23行~36頁24行(対応する公表公報の【0196】(以下、単に段落番号のみ表記する。)~【0201】【表1】(ハードコート組成物、低屈折層製造用光硬化性コーティング組成物、中空状シリカナノ粒子(直径範囲:約40nm~68nm)、ソリッド状シリカナノ粒子(直径範囲:約14~17nm)等))、37頁22~26行(【0207】(「1.反射防止フィルムの平均反射率の測定」))及び39頁最初の表(【0210】【表2】(実施例6の「平均反射率(%)」「0.65」))から理解される、「実施例6」の「反射防止フィルム」の発明を、甲10実施例6発明という。
イ 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と、甲10実施例6発明を対比すると、両者は、以下の点で少なくとも相違する。
(相違点10-1-1)
本件特許発明1は、「高分子フィルム」が「低透湿性」であり、「30~40℃の温度および90~100%相対湿度の条件で50g/m2・day以下の透湿率を有し」、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5であり」、「二軸延伸フィルムであり」、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であり」、
「反射防止フィルム」が、「透過(Transmission)モードのX線回折(XRD)により得られた回折像を、17~18°の2θ値で方位角スキャン(Azimuthal Scan)して算出された方位角分布曲線(Azimuthal Angle Distribution Curve)において、ピーク間の間隔の平均が160~200°である」のに対して、甲10実施例6発明は、「トリアセチルセルロースフィルム」及び「反射防止フィルム」が、このような特性を具備するとは特定されていない点。
(イ) 判断
相違点10-1-1について検討する。
a 甲10実施例6発明においては、基材としてTACフィルムが用いられるところ、これに替えて、これに替えて、高い面内位相差を有するPETフィルムとして優先日前に周知の、厚み80μmあるいは100μmの、市販品の東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」、あるいは、甲1の記載の、市販品の東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用することまでは、耐水性を考慮する当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
しかしながら、甲10実施例6発明において、TACフィルムに替えて、市販品の、東洋紡株式会社製「COSMOSHINE SRF(R)」あるいは東洋紡株式会社製「TA015(厚さ:80μm)」を採用するとともに、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」及び「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5」である構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるということができないことは、上記(1)イ(イ)b~dで述べたとおりである。
b 令和6年10月11日提出の意見書における異議申立人の主張について
(a) 同意見書の18~20頁において、甲10実施例6発明に基づく進歩性欠如について異議申立人は、
甲10の1頁10~13行(【0002】)の記載からみて、甲10実施例6発明の「反射防止フィルム」は、ディスプレイ用途のものと理解されるところ、同19頁10~14行(【0110】及び同28頁10~12行(【0141】)の記載からみて、甲10実施例6発明の基材の種類は、特に限定されず、低屈折層または反射防止フィルムの製造に使用されると知られた基材を大きな制限なく使用することができる、
当業者ならば、偏光板保護フィルム用途又はディスプレイ用途の光学フィルムに相応しい周知技術として、「TA015」や、東洋紡株式会社製の超複屈折フィルム「COSMOSHINE SRF」のような、高い面内位相差を有するPETフィルム(高複屈折PETフィルム)を直ちに想起する、
面内位相差は、PETフィルムの厚さに比例して高くなるものであるから、高複屈折PETフィルムの厚さを厚く設計する(厚い原反から同様に作成する)ことは、高い面内位相差を確保するための数値範囲の好適化にすぎない、
そして、このようにしてなる高複屈折PETフィルムが、相違点10-1-1に係る構成をすべて具備することは、甲1発明の場合と同様に明らかである、
と主張する。
(b) しかしながら、上記a及び上記(1)イ(イ)eで述べたとおりであるから、上記の異議申立人の主張を採用することはできない。
c 小括
したがって、甲10実施例6発明において、相違点10-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるということはできないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲10に記載された発明、甲10に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ウ 本件特許発明3~14について
本件特許発明3~14は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記イ(イ)のとおり、本件特許発明1は、甲10に記載された発明、甲10に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件特許発明3~14についても、同様な理由により、甲10に記載された発明、甲10に記載された技術的事項及び優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
エ 上記ア~ウにおいては、甲10の実施例6に基づき甲10実施例6発明を認定し、対比、判断を行ったが、これに替えて、甲10の実施例1~5のいずれかの実施例や、特許請求の範囲に係る反射防止フィルムの発明に基づき引用発明を認定し、対比、判断を行っても結論は同じである。
第6 令和 6年 5月27日付けの取消理由通知書において採用しなかった異議申立書理由について
1 明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)
(1) 異議申立人は、特許異議申立書157~160頁において、「理由2(明確性要件違反)」として、
「(1)引張強度」、
本件発明(本件発明1~本件発明14)の「低透湿性高分子フィルム」は、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比」が「2.3~5」の範囲内にあるとされているが、本件特許の明細書には、「引張強度」をどのような条件で測定したのかについて、全く記載がない、
引張強度は、試験片の大きさ、形状、引張速度、チャック間距離などといった測定条件によって、異なる結果が得られ、引張強度においても種々の測定条件が許容されていることから、これが明らかでなければ引張強度が明確であるとはいえない、
したがって、特許請求の範囲に引張強度を記載する場合には、少なくとも発明の詳細な説明において測定条件が明示される必要があり、場合によっては、特許請求の範囲にも測定条件が記載される、
また、引張強度については、同一の測定条件であっても再現性が高くない、及び応力-ひずみ曲線が非線形であるという事情があるため、学会発表などにおいては、甲第2の1号証のスライド4の表や甲第2の2号証の4頁の表1のように「代表値」であることが明示され、保証値とはされない、
なお、当業者であれば測定結果に変動が生じないように測定条件を設定するという考え方もあるかもしれないが、すでに述べたとおり、引張強度については種々の測定条件が許容されており、どの測定条件が正しいというわけではない、
以上の理由により、本件発明は明確であるということができない、
「(4)低屈折層の屈折率」、
本件発明において、低屈折層の屈折率が特定されていない、
しかも、本件特許の明細書の【0015】では、「低屈折層は低い屈折率を有する層を意味し」としつつ、「1.8」という、ポリエチレンテレフタレートなど通常の樹脂フィルムの屈折率よりも明らかに大きな値(低屈折層として機能し得ない値)が例示されている、
同様に、本件発明において、低屈折層の厚さも特定されておらず、しかも、本件発明の中空型無機ナノ粒子の平均粒径は最大200nmであってもよいとされ、低屈折層も相当程度厚くて良いものと理解される、
これら事情を勘案すると、本件発明の「低屈折層」とは、どのようなものなのか、不明といわざるを得ない、
したがって、本件発明は、明確であるということができない、
「(5)平均反射率偏差及び透光率偏差」、
本件発明12の「反射防止フィルム」は、「平均反射率偏差が0.2%p以下であり」、「透光率偏差が0.2%p以下である」、
本件特許の明細書の【0141】~【0145】の記載を参照しても、平均反射率及び透光率を測定したポイントの面積が不明である、
平均反射率及び透光率を測定したポイントの面積が大きければ、測定される「平均反射率偏差」及び「透光率偏差」の大きさは小さくなる(より広い範囲を測定すれば、測定値は平均化される。)、
他方、平均反射率及び透光率を測定したポイントの面積が小さければ、「平均反射率偏差」及び「透光率偏差」の大きさは大きくなる、
例えば、本件特許の明細書の【0087】には、本件特許のハードコート層は、粒径10μmの有機微粒子を含んでもよいことが記載されている、
そして、平均反射率及び透光率を測定したポイントの面積が小さければ、平均反射率及び透光率を測定したポイントに有機微粒子が含まれたり、含まれなかったりする結果、「平均反射率偏差」及び「透光率偏差」の大きさが極端に大きくなる。
以上のような事情を勘案すると、本件発明12は、明確であるということができず、本件発明13及び本件発明14についても、同様である、
と主張する。
(2) 明確性要件違反についての合議体の判断
ア 「引張強度」について
(ア) 本件特許発明においては、「低透湿性高分子フィルム」が「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比」が「2.3~5」の範囲内にある、とされるところ、「一方向の引張強度」及び「前記一方向と垂直方向の引張強度」の測定値が、試験片の大きさ、形状、引張速度、チャック間距離等の測定条件に依存したとしても、両者が同じ測定条件で測定されてさえいれば、「一方向の引張強度」に対する「前記一方向と垂直方向の引張強度」の比(「一方向と垂直方向の引張強度」/「一方向の引張強度」)として求めた場合には、比を取ることにより測定値の測定条件依存性が分母と分子である程度打ち消され、「一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比」においては測定条件の依存性がほぼなくなる、と当業者は理解できる。
また、「引張強度」は、樹脂フィルムの強度を表す物性値として普通に用いられているものであり、JIS K 7161-1:2014(ISO 527-1:2012) プラスチック-引張特性の求め方-第1部:通則」や「JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995)プラスチック-引張特性の試験方法-第3部:フィルム及びシートの試験条件」など、当業者であれば通常採用する規格に準拠して測定を行うことや、測定値の信頼性を高めるため、複数の試験片を用いて試験を複数回行い、その算術平均値を取ることも、当業者の技術常識である。
(イ) してみると、発明の詳細な説明に「引張強度」の測定条件の記載がない、あるいは、特許請求の範囲に「引張強度」の測定条件の記載がない、引張強度については、同一の測定条件であっても再現性が高くなく、保証値とはされないからといって、「引張強度の比」の数値範囲により特定する本件特許の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
イ 「低屈折層の屈折率」について
(ア) 本件特許発明の「反射防止フィルム」は、「低透湿性高分子フィルム;ハードコート層;および低屈折層を含み」、「前記低屈折層は、550nmの波長で1.2~1.8の屈折率を示し」、「前記低屈折層は、バインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した無機微粒子を含み、前記無機微粒子は、0.5~100nmの平均直径を有するソリッド型無機ナノ粒子および1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子を含み」、「前記低透湿性高分子フィルムは、一方向の引張強度に対する前記一方向と垂直方向の引張強度の比は2.3~5であり」、「前記低透湿性高分子フィルムは、二軸延伸フィルムであり」、「前記低透湿性高分子フィルムは、波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上であ」ると特定されるところ、
当業者は、これらの事項から、「低屈折層」について、「550nmの波長で1.2~1.8」の範囲内の「屈折率」であって、かつ、「低透湿性高分子フィルム」、「ハードコート層」及び「低屈折層」を含む「反射防止フィルム」としての反射防止特性を与えることができる「屈折率」と、「厚み」を有するもの、と理解することができる。
(イ) そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0015】に「低屈折層は低い屈折率を有する層を意味し」としつつ、「1.8」という、ポリエチレンテレフタレートなど通常の樹脂フィルムの屈折率よりも明らかに大きな値(低屈折層として機能し得ない値)が例示される、あるいは、本件発明において、低屈折層の厚さも特定されておらず、しかも、本件発明の中空型無機ナノ粒子の平均粒径は最大200nmであってもよいとされ、低屈折層も相当程度厚くて良いものと理解される、からといって、特許請求の範囲の「低屈折層」及び「低屈折層の屈折率」という記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
ウ 「平均反射率偏差及び透光率偏差」について
(ア) 本件特許発明12の「0.2%p以下」とされる「平均反射率偏差」について、発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、
「Solidspec 3700(SHIMADZU)装備の反射率」「モードを用いて380~780nm波長領域で平均反射率を測定」し(本件特許明細書の【0141】(2.平均反射率の評価))、「反射防止フィルムに対して任意のポイントを20個を選定し、それぞれのポイントに対して前記2.平均反射率の評価方法で平均反射率を測定し」、「測定された20個のポイントの平均反射率の算術平均値を求め」、「各ポイントで平均反射率と前記算術平均値との間の差(絶対値)を平均反射率偏差と定義し、各20個のポイントでそれぞれ平均反射率偏差を計算し」、「20個の平均反射率偏差のうち最も大きい値を有する平均反射率偏差」とする(同【0142】(3.平均反射率の偏差評価)と理解でき、
また、本件特許発明12の「0.2%p以下」とされる「透光率偏差」について、発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、
「反射防止フィルムをSolidspec 3700(SHIMADZU)装備の透過率」「モードを用いて380~780nm波長領域で平均透光率を測定」し、「測定された20個のポイントの透光率の算術平均値を求め」、「各ポイントで透光率と前記算術平均値との間の差(絶対値)を透光率偏差と定義し、各20個のポイントで透光率偏差を計算し」、「20個の透光率偏差のうち最も大きい値を有する透光率偏差」とする(同【0143】~【0145】(「4.透光率偏差の評価」)理解できる。
(イ) そうすると、使用する「Solidspec 3700(SHIMADZU)」装備の反射率モードによる平均反射率の偏差評価あるいは透過率モードによる透光率偏差の評価に際しては、反射防止フィルム上の選定された各ポイント(各部位)における平均反射率あるいは(平均)透光率を正しく測定できるようにサンプリングを行うポイントの面積を設定すればよく、仮に、粒子の存在が平均反射率あるいは(平均)透光率の測定に影響を与える時には、正しく測定できるように、ポイントの面積等サンプリング条件を設定し直せばよいと、当業者は理解できる。
(ウ) してみると、本件特許の明細書の【0141】~【0145】の記載を参照しても平均反射率及び透光率を測定したポイントの面積が不明である、からといって、本件特許の請求項12の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。請求項12の記載を引用する請求項13、14の記載についても同様である。
2 実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)
(1) 異議申立人は、特許異議申立書161~162頁において、「理由3(実施可能要件違反)」について、
「(1)発明の効果」、
本件特許の明細書の【0123】の記載からみて、本件発明(当合議体注:特許異議申立書2頁によれば、本件特許の請求項1~14に係る発明(本件特許発明1~14)を総称したもの。)は、「低い反射率および透光率偏差を有し、かつ高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を高めることができる反射防止フィルム、前記反射防止フィルムを含む偏光板、および前記反射防止フィルムを含むディスプレイ装置を提供することができる。」と理解される、
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「低い反射率偏差」、「低い透光率偏差」、「高い耐スクラッチ性」及び「高い防汚性」がどのようにして達成されるのか、不明である、
例えば、本件特許の明細書の【0023】には、「ピーク間の間隔の平均が160~200°である反射防止フィルムは、反射防止フィルムの全体で類似の反射率および透光率が示されて反射率および透光率の偏差が少ないだけでなく、高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現すること」ができるとされている、
しかしながら、「耐スクラッチ性」が「低屈折層」や「ハードコート層」によって得られるものであること、及び「防汚性」が「低屈折層」によって得られるものであることは、技術的にみて明らかである、
本件特許の発明の詳細な説明には、「低い反射率偏差」、「低い透光率偏差」、「高い耐スクラッチ性」及び「高い防汚性」を達成する手段について、明確かつ十分な説明が記載されているということができない、
「(2)平均反射率偏差及び平均透過率偏差」、
本件発明12の「反射防止フィルム」は、「平均反射率偏差が0.2%p以下であり」、「透光率偏差が0.2%p以下である」、
本件特許の明細書の【0023】には、「ピーク間の間隔の平均が160~200°である反射防止フィルムは、反射防止フィルムの全体で類似の反射率および透光率が示されて反射率および透光率の偏差が少ない」ことが記載されている、
【0133】の【表2】及び【0147】の【表3】からは、「反射防止フィルム」の「平均反射率偏差」及び「透光率偏差」が、ハードコート層及び低屈折層の種類には左右されず、ひとえに「ピーク間の間隔の平均」が大きいか否か(面内方向の位相差が大きいか否か)に依存することが理解できる、
しかしながら、「平均反射率偏差」及び「透光率偏差」が、「ハードコート層」及び「低屈折層」にも左右される(例:低屈折層の膜厚のばらつきに左右される)ことは技術的にみて明らかである。それにもかかわらず、発明の詳細な説明の【0131】及び【0132】には、ハードコート層及び低屈折層を常法により製造したことしか記載されていない、
仮に、本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が本件発明12の「平均反射率偏差が0.2%p以下であり」、「透光率偏差が0.2%p以下である」という要件を満たすハードコート層及び低屈折層を作ることができないならば、本件出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない、
本件発明13及び本件発明14についても、同様である、
この点については、特許権者の釈明が必要と考える、
と主張する。
(2) 実施可能要件違反についての合議体の判断
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、以下の記載がある。
「【0005】
前記ARコーティングを用いたフィルムとしては光透過性基材フィルム上にハードコート層(高屈折率層)、低反射コーティング層などが積層された多層構造のものが商用化されている。しかし、従来のARコーティングを用いた反射防止フィルムはフィルムの部位別の反射率および透光率偏差が大きいという問題がある。また、上記のように多数の層を形成させる方法は各層を形成する工程を別に行うため、層間密着力(界面接着力)が弱く耐スクラッチ性が劣る短所がある。
【0006】
また、従来には反射防止フィルムに含まれる低屈折層の耐スクラッチ性を向上させるためにはナノメートルサイズの多様な粒子(例えば、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどの粒子)を添加する方法が主に試みられた。しかし、上記のようにナノメートルサイズの粒子を使用する場合、低屈折層の反射率を低くし、かつ耐スクラッチ性を同時に高めることは難しい限界があり、ナノメートルのサイズの粒子によって低屈折層表面が有する防汚性が大きく低下した。
【0007】
これにより、外部から入射される光の絶対反射量を減らしながらフィルムの部位別の反射率および透光率の偏差を減らし、表面の耐スクラッチ性と共に防汚性を向上させるための多くの研究がなされているが、これに伴う物性改善の程度は不十分な実情である。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低い反射率および透光率偏差を有し、かつ高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を高めることができる反射防止フィルムを提供する。」
「【0023】
そこで、本発明者らは反射防止フィルムに関する研究を行って、透過モードのX線回折によって得られた回折像を、17~18°の2θ値で方位角スキャン(Azimuthal Scan)して算出された方位角分布曲線において、ピーク間の間隔の平均が160~200°である反射防止フィルムは、反射防止フィルムの全体で類似の反射率および透光率が示されて反射率および透光率の偏差が少ないだけでなく、高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を有することを実験により確認して発明を完成した。」
「【0029】
前記ピーク間の間隔の平均が上述した範囲を満足することにより、反射防止フィルムのすべての部分で類似の反射率および透光率が示され、低い反射率および透光率偏差を有する反射防止フィルムを実現することができ、スクラッチまたは防汚性の向上も共に実現することができる。」
「【発明の効果】
【0123】
本発明によれば、低い反射率および透光率偏差を有し、かつ高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を高めることができる反射防止フィルム、前記反射防止フィルムを含む偏光板、および前記反射防止フィルムを含むディスプレイ装置を提供することができる。」
イ また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0126】~【0148】には、実施例として、
トリメチロールプロパントリアクリレート100g、中空型シリカナノ粒子(直径範囲:約42nm~66nm)283g、ソリッド型シリカナノ粒子(直径範囲:約12nm~19nm)59g、第1含フッ素化合物115g、第2含フッ素化合物15.5g及び開始剤10gをMIBK溶媒に希釈して低屈折層形成用コート液(C1)(【0129】)を製造し、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100g、中空型シリカナノ粒子(直径範囲:約51nm~72nm)143g、ソリッド型シリカナノ粒子(直径範囲:約12nm~19nm)29g、含フッ素化合物56g及び開始剤3.1gを、MIBK溶媒に固形分濃度3.5重量%になるように希釈して低屈折層形成用コート液(C2)(【0130】)を製造し、
引張強度比が2.3~4.2の低透湿性高分子フィルム(厚さ80μm)上にハードコート層形成用コート液(B1~B3)(【0127】【表1】)を#12番mayer barでコートした後60℃の温度で2分乾燥し、UV硬化してハードコート層(厚さ5μm)を形成し、UVランプとしてH bulbを用い、窒素の雰囲気下で硬化反応(硬化時照射されたUV光量は100mJ/cm2)を行い、ハードコート層上に低屈折層形成用コート液(C1~C2)を#4 mayer barで厚さが約110~120nmになるようにコートし、40℃の温度で1分間乾燥および硬化(硬化時には窒素パージ下で乾燥されたコート液に252mJ/cm2の紫外線を照射)して、低屈折層を形成して(【0131】~【0133】【表2】)、実施例1~5の「反射防止フィルム」を製造すること、
実施例1~5の「反射防止フィルム」の、透過モードのX線回折(XRD)により得られた回折像を17~18°の2θ値で方位角スキャンして算出された方位角分布曲線において、ピーク間の間隔の平均(【0134】~【0139】、図1~図2)が169~181°、平均反射率(【0141】)が1.05~1.13%、平均反射率偏差(【0142】)が0.03~0.11%p、透光率偏差(【0143】~【0145】)が0.02~0.15%pを示し、
引張強度比が1.0~1.9の低透湿性高分子フィルムを用いて同様に得られた、
ピーク間の間隔の平均が46.5~103.3°、平均反射率が0.99~1.55%、平均反射率偏差が0.25~0.35%p、透光率偏差が0.22~0.32%pである比較例1~5の反射防止フィルムと比較して、平均反射率偏差および透光率偏差が顕著に低いことが確認できた(【0147】【表3】【0148】)ことが、具体的に開示されている。
そして、上記の材料、組成(比)の低屈折層形成用コート液(C1~C2)を用いて形成された、中空型シリカナノ粒子、ソリッド型シリカナノ粒子(及びフッ素化合物)を含む低屈折層をハードコート層上に有し、低透湿性高分子フィルムの引張強度比が2.3~4.2であり、透過モードのX線回折(XRD)により得られた回折像を17~18°の2θ値で方位角スキャンして算出された方位角分布曲線において、ピーク間の間隔の平均が169~181°である「実施例1~5の反射防止フィルム」において、上記の低反射率偏差及び低透光率偏差だけでなく、中空型シリカナノ粒子(及びソリッド型シリカナノ粒子)を使用することにより、低屈折層の反射率を低くし、かつ耐スクラッチ性を同時に高めながら、防汚性が低下しないものとできることは、上記アで挙げた本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0005】~【0007】、【0023】、【0029】、【0123】等の記載から理解できることである。
また、実施例の低透湿性高分子フィルム(厚さ80μm)については、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」であるか否かは不明であるが、厚さ方向のレターデーション(Rth)は、低透湿性高分子フィルムの屈折率nx、ny及びnzや厚みにより調整可能であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0099】~【0101】等の記載に基づき、透湿性高分子フィルムの製造過程での延伸比、延伸温度、延伸後の冷却速度及び工程温度や厚みなどの調整により、「低透湿性高分子フィルム」の「引張強度の比は2.3~5であり」、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上」である本件特許発明(反射防止フィルム)について、当業者に期待し得る程度を越える過度の試行錯誤の要することなく製造、実施することができると認められる。
ウ そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明(本件特許発明1、3~14)について、当業者が実施しうる程度に明確かつ十分に記載されていない、ということはできない。
エ 以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明(本件特許発明1、3~14)を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。
したがって、異議申立人の主張を採用することはできない。
3 サポート要件違反
(1) 異議申立人は、特許異議申立書163~164頁において、「理由4(サポート要件違反)」として、
本件発明1~本件発明12の発明の課題は、本件特許の明細書の【0008】に記載されたとおりの、「低い反射率および透光率偏差を有し、かつ高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を高めることができる反射防止フィルムを提供する」ことにあると理解される、
しかしながら、本件発明の範囲に、「低い反射率偏差」、「低い透光率偏差」、「高い耐スクラッチ性」及び「高い防汚性」を同時に実現できない発明が含まれていることは、以下の例からみても、明らかである、
「(A)本件特許の明細書の【0006】には、ナノメートルのサイズの粒子によって低屈折層表面が有する防汚性が大きく低下することが記載されている。しかしながら、本件発明は、「0.5~100nmの平均直径を有するソリッド型無機ナノ粒子」及び「1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子」の分量に制限がない発明である。また、請求項1は、「前記無機微粒子は、0.5~100nmの平均直径を有するソリッド型無機ナノ粒子および1~200nmの平均直径を有する中空型無機ナノ粒子を含み」と、いわゆるオープンクレーム形式で記載されているから、本件発明は、他の無機微粒子を含んでもよいものと理解される。」、
「(B)本件特許の明細書の【0039】には、光重合性化合物の含有量が10重量%未満のとき低屈折層の耐スクラッチ性および防汚性が低下することが記載されている。しかしながら、本件発明は、光重合性化合物の含有量に制限がない発明である。」、
「(C)本件特許の明細書の【0045】及び【0047】には、光反応性官能基を含む含フッ素化合物の重量平均分子量が小さかったり光重合性化合物に対する分量が小さかったり大きかったりすると防汚性及び/又は耐スクラッチ性が低下することが記載されている。しかしながら、本件発明4~本件発明14は、光反応性官能基を含む含フッ素化合物の重量平均分子量や分量に制限がない発明である。」、
「(D)本件特許の明細書の【0051】には、光反応性官能基を含む含フッ素化合物のケイ素の含有量が大きいと防汚性が低下することが記載されているが、本件発明4~本件発明14は、ケイ素の含有量に制限がない発明である。」、
「(E)本件特許の明細書の【0005】には、多層構造の反射防止膜は、耐スクラッチ性が劣ることが記載されている。しかしながら、請求項1は、「低透湿性高分子フィルム;ハードコート層;および低屈折層を含み」と、いわゆるオープンクレーム形式で記載されているから、本件発明は、反射防止膜が多層構造である反射防止フィルムであってもよいものと理解される。」、
「(F)本件特許の明細書の【0062】には、バインダー樹脂のうち光重合性化合物に由来した部分に対してポリシルセスキオキサンに由来した部分の含有量が大きい場合には耐スクラッチ性が低下することが記載されている。しかしながら、本件発明4~本件発明14は、上記含有量に制限がない発明である。」、
「(G)本件特許の明細書の【0073】には、低屈折層のバインダー樹脂に含まれる無機微粒子の分量が大きい場合には耐スクラッチ性が低下することが記載されている。しかしながら、本件発明は、無機微粒子の分量に制限がない発明である。」、
本件発明1、3~本件発明14は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができない、と主張する。
(2) サポート要件違反についての合議体の判断
ア 異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0006】、【0039】、【0045】、【0047】、【0051】、【0005】、【0062】、【0073】等の記載を根拠にして、本件発明の範囲に「低い反射率偏差」、「低い透光率偏差」、「高い耐スクラッチ性」及び「高い防汚性」を同時に実現できない発明が含まれていることを主張するが、本件特許明細書の【0005】~【0007】、【0023】、【0029】や実施例等の記載に基づけば、当業者は、本件特許発明(本件特許発明1、3~14)の構成により、上記の課題を解決できると認識できるから、サポート要件を満たしていないということはできない。
イ そうすると、本件特許発明(本件特許発明1、3~14)は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
したがって、上記主張は採用できない。
第7 令和6年10月11日に異議申立人が提出した意見書で主張する新たな取消理由について
1 令和6年10月11日に異議申立人が提出した意見書7~9頁の「2-3 訂正に起因する取消理由(委任省令違反及び実施可能要件違反)」において、異議申立人は、
本件訂正発明(本件訂正発明1~本件訂正発明14)は、「前記低透湿性高分子フィルムは、波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上あり」という構成を具備する、
しかしながら、本件特許の明細書の【0131】~【0148】に記載された実施例において、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)」は確認されていない、
【0108】及び【0109】では、厚さ方向のレターデーションを589nmで測定するとされており、整合性が取れていない、
【0106】の記載は、単なる願望記載と解し得るものであり、この点は、【0106】の記載それ自体が技術的にみて正しいとはいえないことからも明らかである、
すなわち、特許権者は、【0106】に「前記低透湿性高分子フィルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm未満であれば、反射防止フィルムの部位別の反射率および透光率偏差が大きく、可視光線の干渉によるレインボー現象が発生し得る。」と記載されていることを根拠に、「低透湿性高分子フィルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)を10,000nm以上に制御することにより、反射率及び透光率偏差を低く制御しつつ、レインボー現象を共に抑制する本件発明の効果は(【0106】)、甲1及び甲2-1等には記載も示唆もされておらず、当業者が甲1等から予測し得たものではない。」と主張している、
しかしながら、Rthが10,000nm以上であっても、レインボー現象は発生し得るし、10,000nm未満であっても、レインボー現象を抑止し得る、
例えば、参考資料1では、面内方向位相差Re、厚み方向位相差Rth及び両者の比の最適化により、Rthが10,000nm未満であっても、虹ムラを解消している(【請求項1】、【0083】、及び【0098】【表1】)。参考資料2では、Rthが10,000nm以上であっても、Re/Rthが小さければ、虹ムラが発生する例が示されている([0036]、[0352]、[0358][表2]の実施例10及び[0359][表3]の実施例16)。参考資料3では、厚さ100μmでRthが13,500nmと計算されるサンプルIIで虹ムラは観察されないが、厚さ100μmでRthが17,000nmと計算されるサンプルIでは虹ムラが観察されることが示されている(第5欄26行~第6欄1行、第7欄5~22行)、
また、本件特許の明細書には、「前記低透湿性高分子フィルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm未満であれば」、「反射防止フィルムの部位別の反射率および透光率偏差が大きく、可視光線の干渉によるレインボー現象が発生し得る」ことについて、その機序が何ら、説明されていない。そればかりか、実施例・比較例における裏付けもない(そもそも、実施例においてRthが測定されていないことは、すでに述べたとおりである。)、
後で述べるとおり、Rthが10,000以上の高複屈折PETフィルムは、ごくありふれたものにすぎないところであるが、以上の事情にかんがみると、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえないものである(特許法第36条第4項第1号の委任省令要件違反)、
また、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明の反射防止フィルムを作ることができるように記載されているということもできない(実施可能要件違反)、
例えば、実施例の低透湿性高分子フィルムの厚さ(80μm)でRthを10,000nm以上とすることが、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いるものであることは、次の対談記事からみても明らかである、
https://voice.toyobo.co.jp/category/seihin/20240426-01/
と主張する。
2 合議体の判断
(1) 「厚さ方向のレターデーション(Rth)」の測定波長について
本件訂正後の請求項1には、「前記低透湿性高分子フィルムは、波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm以上あり」と記載されるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0105】には、「前記低透湿性高分子フィルムは、波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)が5,000nm以上・・・であり得る。」と記載され、「厚さ方向のレターデーション」の測定方法及び測定装置について、同【0107】には、「厚さ方向のレターデーションは通常知られている測定方法および測定装置により確認することができる。例えば、厚さ方向のレターデーションの測定装置としてはAXOMETRICS社製の商品名「エクソスケン(AxoScan)」などが挙げられる。」と記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0108】及び【0109】に厚さ方向のレターデーションを波長589nmで測定することが例として記載されていたとしても、当業者は、請求項1及び【0105】の記載のとおり、「厚さ方向のレターデーション(Rth)」は「波長550nm」で測定されたものであると理解するし、当業者であれば、「波長550nmで測定される厚さ方向のレターデーション(Rth)」は、AXOMETRICS社製の商品名「エクソスケン(AxoScan)」など、通常知られている厚さ方向のレターデーションの測定装置を用いて、通常知られている測定方法により、「低透湿性高分子フィルム」の「波長550nm」の光を用いて測定できると理解する。
してみると、「厚さ方向のレターデーション(Rth)」の測定波長について整合性がとれていない、とはいえない。
(2) 【0106】の記載について
本件特許明細書の【0106】に、「前記低透湿性高分子フィルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)が10,000nm未満であれば、反射防止フィルムの部位別の反射率および透光率偏差が大きく、可視光線の干渉によるレインボー現象が発生し得る。」と記載されるところ、異議申立人による参考資料1、参考資料2及び参考資料3に記載のフィルムはその引張強度比が不明であるし、参考資料1~3に記載のフィルム間でも、面内方向位相差Re、厚み方向位相差Rth及びReとRthの比等がそれぞれ異なるから、参考資料1~3に、Rthが10,000nm以上であってもレインボー現象は発生し得ること、10,000nm未満であってもレインボー現象を抑止し得ることが示されているからといって、本件特許明細書の【0106】の記載は単なる願望記載と解し得るものである、記載それ自体が技術的にみて正しいといえない、ということはできない。
(3) 委任省令要件違反について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明の属する技術分野(【0002】)、発明が解決しようとする課題(【0003】~【0008】)及び課題解決手段(【0011】、【0023】~【0024】、【0029】等)が記載されている。
してみると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえないものであると、いうことはできない。
(4) 実施可能要件違反について
異議申立人は、SRFの開発に関する対談記事を根拠に、実施例の低透湿性高分子フィルムの厚さ(80μm)でRthを10,000nm以上とすることが、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いるものであると主張するが、SRFは、引張強度の比が2.3~5とすることを目指したものでもなく、また、本件特許発明(反射防止フィルム)の低透湿性高分子フィルムの厚さが実施例の80μmに限られるわけでもない(【0110】によれば、「10~300μmであり得る」。)。
そして、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許発明1、3~14を、当業者に期待し得る程度を越える過度の試行錯誤の要することなく実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであることは、上記「第6」2(2)で述べたとおりである。
第8 むすび
請求項1、3~14に係る特許は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700089