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特許異議申立

2024-700084

医用画像処理装置、その制御方法、及びプログラム

審判番号
2024-700084
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-161756
登録番号
7325924
請求日
2024年02月01日
審決日
2024年05月27日
公報発行日
2024年06月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
  • 【異議申立人】廣瀬 朋子
審判長/審判官
  • 審判長 樋口 宗彦
  • 審判官 伊藤 幸仙
  • 審判官 石井 哲
分類
P1651.121-Y (A61B) / P1651.537-Y (A61B) / P1651.536-Y (A61B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7325924号発明「医用画像処理装置、その制御方法、及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7325924号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7325924号(以下「本件特許」という。)に係る出願(以下「本願」という。)は、平成29年8月25日の特許出願であって、令和5年8月4日にその請求項1-6に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年8月15日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1-6に係る特許に対して、令和6年2月1日に特許異議申立人 廣瀬朋子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1-6に係る発明(それぞれ以下「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 拡散強調画像を記憶する記憶手段と、 前記拡散強調画像の座標における拡散係数を取得する第1の取得手段と、 前記拡散強調画像の前記座標における信号値を取得する第2の取得手段と、 前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である第1の基準値と、前記信号値の閾値であって、当該閾値より大きい範囲に腫瘍領域の信号値が含まれる閾値である第2の基準値とを設定する設定手段と、 前記第1の取得手段で取得された前記拡散係数と前記第1の基準値とを比較し、前記第2の取得手段で取得された前記信号値と前記第2の基準値とを比較して、前記信号値が前記第2の基準値より高い座標であり、かつ、前記拡散係数が前記第1の基準値より低い座標を特定することによって、前記拡散強調画像における腫瘍領域を特定する特定手段と を備えることを特徴とする医用画像処理装置。 【請求項2】 前記特定手段は、前記腫瘍領域の大きさを特定し、特定された前記腫瘍領域の大きさの合計値を表示するよう制御すること を特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。 【請求項3】 前記特定手段は、前記特定された前記大きさが所定の値を超えない領域は前記腫瘍領域ではないと特定すること を特徴とする請求項2に記載の医用画像処理装置。 【請求項4】 前記記憶手段に記憶される前記拡散強調画像に含まれる複数のシリーズ画像を特定するシリーズ画像特定手段を更に備え、 前記特定手段は、前記シリーズ画像特定手段で特定されたシリーズ画像ごとに前記腫瘍領域の特定を行うこと を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医用画像処理装置。 【請求項5】 拡散強調画像を記憶する記憶手段を備える医用画像処理装置の制御方法であって、 前記拡散強調画像の座標における拡散係数を取得する第1の取得ステップと、 前記拡散強調画像の前記座標における信号値を取得する第2の取得ステップと、 前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である第1の基準値と、前記信号値の閾値であって、当該閾値より大きい範囲に腫瘍領域の信号値が含まれる閾値である第2の基準値とを設定する設定ステップと、 前記第1の取得ステップで取得された前記拡散係数と前記第1の基準値とを比較し、前記第2の取得ステップで取得された前記信号値と前記第2の基準値とを比較して、前記信号値が前記第2の基準値より高い座標であり、かつ、前記拡散係数が前記第1の基準値より低い座標を特定することによって、前記拡散強調画像における腫瘍領域を特定する特定ステップと を含むことを特徴とする医用画像処理装置の制御方法。 【請求項6】 拡散強調画像を記憶する記憶手段を備える医用画像処理装置で実行可能なプログラムであって、 前記拡散強調画像の座標における拡散係数を取得する第1の取得手段と、 前記拡散強調画像の前記座標における信号値を取得する第2の取得手段と、 前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である第1の基準値と、前記信号値の閾値であって、当該閾値より大きい範囲に腫瘍領域の信号値が含まれる閾値である第2の基準値とを設定する設定手段と、 前記第1の取得手段で取得された前記拡散係数と前記第1の基準値とを比較し、前記第2の取得手段で取得された前記信号値と前記第2の基準値とを比較して、前記信号値が前記第2の基準値より高い座標であり、かつ、前記拡散係数が前記第1の基準値より低い座標を特定することによって、前記拡散強調画像における腫瘍領域を特定する特定手段 として機能させることを特徴とするプログラム。」 第3 異議申立理由の概要 申立人は、証拠として以下の甲第1号証ないし甲第8号証を提出し、以下の異議申立理由(以下「異議申立理由1ないし3」という。)によって、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。 1.異議申立理由 (1)異議申立理由1.特許法第29条第2項(進歩性違反)について 本件発明1ないし6は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第6号証に記載された周知技術、並びに、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきである。 (2)異議申立理由2.特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)について 本件発明1ないし6は、明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たさないから、本件特許は特許法第113条第4号の規定により取消されるべきである。 (3)異議申立理由3.特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)について 本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし6について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定された要件を満たさないから、本件特許は特許法第113条第4号の規定により取消されるべきである。 2.証拠方法 甲第1号証:特開2008-12172号公報 甲第2号証:米国特許出願公開第2017/0071496号明細書 甲第3号証:特開2011-167333号公報 甲第4号証:特開2011-10828号公報 甲第5号証:特開2010-29481号公報 甲第6号証:特開2014-12206号公報 甲第7号証:小竹文雄,”躯幹部拡散強調MRI”,東京医科大学雑誌,2012年1月,第70巻第1号,P.3-12 甲第8号証:特開2016-102号公報 第4 異議申立理由についての判断 1.甲第1ないし8号証の記載事項及び甲第1ないし8号証から認定される発明及び技術事項 (1)甲第1号証 本願の出願前である平成20年1月24日に公開された、特開2008-12172号公報(甲第1号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同様。) ア「【0004】 しかしながらDWI画像では、T2値が大きい組織は、腫瘍でなくても高信号で描出される特徴(いわゆるT2 shine-through)があり(非特許文献4を参照)、読影には注意が必要である。また、DWI画像をMIP(maximum intensity projection)処理する場合には、高信号の正常組織に腫瘍が隠れてしまう場合がある。さらに、b値の異なるDWI画像から作成されるADC画像にてADC値を計測することにより、腫瘍との判別がある程度可能ではあるが、ADC値は見かけの拡散係数であり絶対的な値ではないためADC値だけでは判断できないこと、ADC画像だけでは組織自体の判断がわかりづらいこと、DWIとADCとは別々の画像であるために両者を見比べるのには手間がかかる、といった不具合があった。」 イ「【0012】 ・・・図1に示すMRI装置は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、寝台4、寝台制御部5、RFコイルユニット6a,6b,6c、送信部7、選択回路8、受信部9および計算機システム10を具備する。」 ウ「【0021】 計算機システム10は、インタフェース部11、データ収集部12、再構成部13、記憶部14、表示部15、入力部16および制御部17を有している。」 エ「【0023】 データ収集部12は、受信部9から出力されるディジタル信号を収集する。データ収集部12は、収集したディジタル信号、すなわち磁気共鳴信号データを、記憶部14に格納する。 【0024】 再構成部13は、記憶部14に記憶された磁気共鳴信号データに対して、後処理、すなわちフーリエ変換等の再構成を実行し、被検体P内の所望核スピンのスペクトラムデータあるいは画像データを求める。再構成部13は、DWI画像を生成する機能を備える。 【0025】 記憶部14は、磁気共鳴信号データと、スペクトラムデータあるいは画像データとを、患者毎に記憶する。 【0026】 表示部15は、スペクトラムデータあるいは画像データ等の各種の情報を制御部17の制御の下に表示する。表示部15としては、液晶表示器などの表示デバイスを利用可能である。 【0027】 入力部16は、オペレータからの各種指令や情報入力を受け付ける。入力部16としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスを適宜に利用可能である。 【0028】 制御部17は、図示していないCPUやメモリ等を有しており、本実施形態のMRI装置を総括的に制御する。制御部17は、ADC画像、低ADC値領域画像(低領域画像)、読影用画像およびMIP画像を生成する機能を備える。 【0029】 以上が本実施形態に係るMRI装置の構成である。本実施形態における特徴は、DWI撮像を行った場合における画像処理にある。そこで以下に、この画像処理について詳細に説明する。」 オ「【0030】 (第1の実施形態) 図2は第1の実施形態における制御部17の処理手順を示すフローチャートである。 【0031】 DWI法を使用した診断を実行する必要が生じたならば制御部17は、図2に示す処理を開始する。 【0032】 ステップSa1において制御部17は、DWI撮像を行うように各部を制御する。このDWI撮像は、従来より行われている方法により行うことができる。そしてこのDWI撮像のなかで、再構成部13によって複数スライス分のDWI画像が生成される。図3はDWI画像の一例を示す図である。ステップSa2において制御部17は、DWI画像のそれぞれに関するADC画像を生成する。このADC画像の生成も、従来より行われている方法により行うことができる。ADC画像は、DWI画像における各画素の見かけの拡散係数を画素値として持つ画素を配列した画像である。なおDWI画像において有意な情報を有していない画素(被検体Pの外の領域に対応する画素など)に対応するADC画像の画素は、画素値が「0」にされる。・・・ 【0033】 ステップSa3において制御部17は、閾値を設定する。ここで設定する閾値は、操作者により指定される値としても良いし、デフォルトの値としても良い。 ステップSa4において制御部17は、高いADC値を閾値処理してADC画像を2値化する。すなわち制御部17は、閾値以上である画素値を「0」に、閾値未満である画素値を「1」にそれぞれ置き換えることにより、ADC画像を2値化する。ただし、もともと「0」である画素値は、そのまま「0」とする。・・・ 【0034】 ステップSa5において制御部17は、画素値が「1」である画素に対して、例えば「赤」などのカラー情報を割り付けて、低領域画像を生成する。すなわち低領域画像は、ADC値が閾値未満である領域のみにカラー情報を持った画像となる。ステップSa6において制御部17は、DWI画像に低領域画像を重ねることによって読影用画像を生成する。具体的には例えば、低領域画像においてカラー情報を持つ各画素は、当該カラー情報が表す色で、かつDWI画像における画素値に応じた画素値を持つ画素とし、低領域画像における画素値が「0」である各画素は、DWI画像における画素値に応じた画素値を持つ白黒画素とする。制御部17は、ステップSa4乃至ステップSa6の処理を、DWI撮像を行った複数のスライスのそれぞれに関して行う。従って、複数の読影用画像が生成される。 【0035】 ステップSa7において制御部17は、複数の読影用画像のうちで操作者により選択された1つまたは複数を表示部15に表示させる。制御部17は、操作者の指示に応じて表示させる読影用画像を変更する。複数の読影用画像の全てを並べて表示部15にて表示するようにしても良い。 【0036】 このように読影用画像を表示した状態で制御部17はステップSa8およびステップSa9において、閾値の変更が指定されるか、あるいは読影用画像の確定が指示されるのを待ち受ける。この待ち受け状態にあるときに操作者が入力部16にて閾値の変更を指定する操作を行ったならば、制御部17はステップSa8からステップSa10へ進む。 【0037】 ステップSa10において制御部17は、操作者の指示に応じて閾値を再設定する。そしてこののちに制御部17は、ステップSa10からステップSa4へ戻り、ステップSa4以降を再度実行する。すなわち制御部17は、再設定した閾値を使用して読影用画像を生成し直す。 【0038】 ステップSa8およびステップSa9の待ち受け状態にあるときに操作者が入力部16にて読影用画像の確定を指示したならば、制御部17は・・・ステップSa11において・・・最も新しく生成された読影用画像を保存する。・・・ 【0039】 図6は読影用画像の一例を示す図である。・・・図6において図5に示した2値画像において白く示される領域に相当する領域は、例えば赤く着色されている。例えば円C1の中に存在する高画素値の領域は着色されているが、円C2,C3の中にそれぞれ存在する高画素値の領域は着色されていない。そして、図6に示した画像における画素値はDWI画像の画素値に対応し、着色の有無はADC値が閾値未満であるか否かを表す。腫瘍は、DWI画像における画素値が大きく、かつADC値が小さくなるので、円C1の中に存在する領域のように高画素値でかつ着色された領域が腫瘍である可能性がある。これに対してT2 shine-throughは、DWI画像における画素値が大きいが、ADC値も大きくなるので、円C2,C3の中に存在する領域のように高画素値であるが着色されない領域がT2 shine-throughである可能性がある。このように第1の実施形態で生成される読影用画像によれば、DWI画像が持つ情報とADC画像が持つ情報とを同時に確認しながら読影を行うことが可能であるので、読影を正確かつ簡易に行えるように支援することができる。。」 カ「【図1】 [図:0001411358000001.jpg] 」 キ「【図2】 [図:0001411358000002.jpg] 」 ク「【図6】 [図:0001411358000003.jpg] 」 ケ 上記記載を踏まえると、甲第1号証には、本件特許異議申立書において申立人が甲1発明として認定したとおりの、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「MRI装置が具備する計算機システム10であって、 計算機システム10は、インタフェース部11、データ収集部12、再構成部13、記憶部14、表示部15、入力部16および制御部17を有し、 再構成部13は、DWI画像を生成する機能を備え、 記憶部14は、画像データを患者毎に記憶し、 表示部15は、画像データ等の各種の情報を制御部17の制御の下に表示し、 入力部16は、オペレータからの各種指令や情報入力を受け付け、 制御部17は、MRI装置を総括的に制御するとともに、ADC画像、低ADC値領域画像(低領域画像)、読影用画像およびMIP画像を生成する機能を備え、 DWI法を使用した診断を実行する必要が生じたならば制御部17は、 ステップSa1において、DWI撮像を行うように各部を制御し、再構成部13によって複数スライス分のDWI画像が生成され、 ステップSa2において、DWI画像のそれぞれに関するADC画像を生成し、ADC画像は、DWI画像における各画素の見かけの拡散係数を画素値として持つ画素を配列した画像であり、 ステップSa3において、閾値を設定し、ここで設定する閾値は、操作者により指定される値としても良いし、デフォルトの値としても良く、 ステップSa4において、高いADC値を閾値処理してADC画像を2値化して、閾値以上である画素値を「0」に、閾値未満である画素値を「1」にそれぞれ置き換え、 ステップSa5において、画素値が「1」である画素に対して、カラー情報を割り付けて、低領域画像を生成し、低領域画像は、ADC値が閾値未満である領域のみにカラー情報を持った画像となり、 ステップSa6において、DWI画像に低領域画像を重ねることによって読影用画像を生成し、低領域画像においてカラー情報を持つ各画素は、当該カラー情報が表す色で、かつDWI画像における画素値に応じた画素値を持つ画素とし、低領域画像における画素値が「0」である各画素は、DWI画像における画素値に応じた画素値を持つ白黒画素とすることによって読影用画像が生成され、 読影用画像を表示した状態で操作者が入力部16にて閾値の変更を指定する操作を行ったならば、操作者の指示に応じて閾値を再設定し、再設定した閾値を使用して読影用画像を生成し直し、 読影用画像を表示した状態で操作者が入力部16にて読影用画像の確定を指示したならば、最も新しく生成された読影用画像を保存し、 腫瘍は、DWI画像における画素値が大きく、かつADC値が小さくなるので、高画素値でかつ着色された領域が腫瘍である可能性があり、 DWI画像が持つ情報とADC画像が持つ情報とを同時に確認しながら読影を行うことが可能であるので、読影を正確かつ簡易に行えるように支援することができる、 MRI装置が具備する計算機システム10。」 (2)甲第2号証 本願の出願前である2017年(平成29)年3月16日に公開された、米国特許出願公開第2017/0071496号明細書(甲第2号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。(訳は当審訳である。) ア「[0021] FIG. 7. The block diagram of spatial mapping. For input brain tumor data (e.g., T1-weighted and FLAIR), two intratumor habitats were obtained by using the nonparametric Otsu algorithm from each modality separately (as seen from blue and red dashed curves). The following spatial mapping procedure was conducted by an intersection operation. The visual habitats are shown in the last block with color codes.」 (当審訳:図7は、空間マッピングのブロック図である。入力脳腫瘍データ(例えばT1強調とFLAIR)に対して、ノンパラメトリックオオツアルゴリズムを各モダリティから別々に用いて2つの腫瘍内生息域を得た(青と赤の破線曲線から見て取れる)。以下の空間マッピング手順は交差演算によって行われた。視覚的生息域は最後のブロックにカラーコードで示されている。) イ「 [0081] To examine the spatial clustering of habitats, the combined imaging data sets were divided into four arbitrary habitats - high and low blood flow and high or low cell density. These were then projected back onto the MRI studies. In detail, the nonparametric Otsu segmentation approach [Otsu N (1979). IEEE Trans Syst Man Cybern 9, 62-66] was used for the intratumor segmentation. Given a modality, after setting the number of groups (two groups in this study) to be segmented, the Otsu algorithm iteratively searched for an optimal decision boundary until convergence. As shown in FIG. 7, habitats generally clustered into spatial groups after an intersection operation between two MRI modalities. The choice of modalities and mapping procedure can be varied according to the needs of the specific task. In short, as a tool for brain tumor heterogeneity analysis, the design of the spatial habitat concept gave rise to various opportunities for quantitative measurement (e.g., using these habitats to quantitatively observe tumor evolution progress).」 (当審訳:生息域の空間的なクラスタリングを調べるために、統合された画像データセットを、 血流の高/低と、細胞密度の高/低という4つの任意の生息域に分けた。そしてこれらをMRI検査に投影し直した。具体的には、ノンパラメトリックオオツセグメンテーション法 [Otsu N (1979). IEEE Trans Syst Man Cybern 9, 62-66]を腫瘍内セグメンテーションに用いた。モダリティが与えられ、セグメンテーションするグループ数(本研究では2グループ)を設定した後、 オオツアルゴリズムは収束するまで最適な決定境界を反復探索した。図7に示すように、2つのMRIモダリティ間の交差操作の後、一般的に生息地は空間的グループにクラスタ化された。モダリティとマッピング手順の選択は、特定のタスクのニーズに応じて変えることができる。要するに、 脳腫瘍の不均一性解析のためのツールとして、空間的生息域コンセプトの設計は、定量的測定のための様々な機会をもたらした(例えば、 腫瘍の進化の進行を定量的に観察するためにこれらの生息域を使用する)。) ウ「[0186] The information contained in superimposable magnetic resonance imaging (MRI) images acquired using routine pulse sequences can be combined by a method such as depicted in FIG. 28 so as to permit objective 3D segmentation of the images to identify distinct normal and pathologic regions ("habitats") within organs, tumors and pre-cancerous lesions. This knowledge-driven method can combine information from orthogonal MRI sequences to automatically segment the images into regions corresponding to habitats within organs based on the differential dependence of the relative signal intensity of each habitat on the MRI sequence used. This method will decrease the need for manual interaction to circumscribe regions-of-interest (ROIs) on the images, thereby increasing the speed of analysis. The methodology described here can produce 3D habitat maps of the analyzed organs which can be used for diagnosis, prognostication and evaluation of treatment response. 」 (当審訳:ルーチンのパルスシーケンスを用いて取得された重ね合わせ可能な磁気共鳴画像法 (MRI)画像に含まれる情報は、臓器、腫瘍および前癌病変内の別個の正常領域および病理学的領域(「生息域」)を同定するための画像の客観的な3Dセグメンテーションを可能にするように、図28に描かれているような方法によって組み合わせることができる。この知識駆動型方法は、直交するMRIシーケンスからの情報を組み合わせて、使用したMRIシーケンスに対する各生息域の相対信号強度の差動依存性に基づいて、画像を臓器内の生息域に対応する領域に自動的にセグメント化することができる。この方法によって、画像上に関心領域(ROI)を設定するための手作業の必要性が減少し、解析速度が向上する。ここで説明した方法は、診断、予後予測、治療効果の評価に使用できる解析臓器の3D生息域マップを作成することができる。) エ「[0187] In one embodiment, routine MRI images such as T1-?weighted pre-contrast (with or without fat suppression), T1-weighted post-contrast (with or without fat suppression), T2-weighted pre-contrast, fluid attenuated inversion recovery (FLAIR), and Apparent Diffusion Coefficient of water (ADC) maps are examined Rigid-body and/or elastic image registration can be used to render the images from the different MRI sequences superimposable in 3D prior to performing the analysis. Classification of pixels into clusters at each node in the methodology depicted in FIG. 28 can be based on pixel intensity and this classification may be based on Otsu thresholding [Nobuyuki Otsu (1979). IEEE Trans. Sys., Man., Cyber. 9(1): 62-66] or another suitable method. For this application, a global image thresholding method that segments the image into classes based on the Otsu method was implemented in MATLAB. The histogram-based method determines the thresholds that minimize the weighted within-class variance. Given an array of pixel intensities, the method returns a matching array of cluster indices assigned to each pixel. An example of the use of this method to objectively identify different normal and pathologic tissue in a patient with Glioblastoma multiforme is depicted in FIG. 29. In particular this methodology can identify 3D volumes in the images corresponding to increased immune infiltration into the tumor following response to immunotherapy ("treatment-induced changes" in FIG. 29).」 (当審訳:一実施形態において、T1強調前造影(脂肪抑制あり又は脂肪抑制なし)、T1強調後造影(脂肪抑制あり又は脂肪抑制なし)、T2強調前造影、 FLAIR(fluid attenuated inversion recovery)、及びADC(Apparent Diffusion Coefficient of water)マップなどのルーチンMRI画像が検査される。剛体画像レジストレーション及び/又は弾性画像レジストレーションは、解析を実行する前に、異なるMRIシーケンスからの画像を3Dで重ね合わせ可能にするために使用され得る。図28に描かれた方法論のような各ノードにおけるクラスタヘの画素の分類は、画素強度に基づいて行うことができ、この分類はオオツ閾値処理[Nobuvuki Otsu (1979). IEEE Trans. Sys., Man.. Cvber. 9(1):62-66]または他の適切な方法に基づいて行うことができる。このアプリケーションのために、オオツメソッドに基づいて画像をクラスに分割するグローバル画像閾値処理法がMATLABで実装された。ヒストグラムに基づくこの方法は、 重み付けされたクラス内分散を最小化する閾値を決定する。ピクセル強度の配列が与えられると、このメソッドは各ピクセルに割り当てられたクラスタインデックスのマッチング配列を返す。多形膠芽腫患者の異なる正常組織と病理組織を客観的に識別するためにこの方法を使用した例を図29に示す。特にこの方法は、免疫療法に反応して腫瘍への免疫浸潤が増加した(図29の「治療による変化」)ことに対応する画像中の3Dボリュームを同定することができる。) オ「FIG.7 [図:0001411358000004.jpg] 」 カ「FIG.28 [図:0001411358000005.jpg] 」 (3)甲第3号証 本願の出願前である平成23年9月1日に公開された、特開2011-167333号公報(甲第3号証)には、次の技術事項が記載されている。 「【0023】 神経内科2003.59(6).592-600(名倉博史)「脳梗塞における拡散強調画像」(脳梗塞急性期の治療選択)には、血栓溶解療法を行なう際は、DWI高信号部分は非可逆的変化と考え、MRAやPWIを参考に、血流再開によりどの機能が救出しうるか検討すると記載されている。特に、MR Angiographyで閉塞が確認されPWI異常領域がDWI高信号領域に比べて大きい場合、発症3時間以内であれば血栓溶解療法を選択し、その他は保存療法とされている。DWI高信号領域やPWI異常領域を抽出するには、通常、閾値の設定が必要となる。」 (4)甲第4号証 本願の出願前である平成23年1月20日に公開された、特開2011-10828号公報(甲第4号証)には、次の技術事項が記載されている。 「【0052】 このように閾値設定部24は、脳梗塞診断においては、DWIとPWI用の2つの閾値をそれぞれ設定することになる。勿論、DWIとPWIのいずれか一方の3次元画像データを用いる場合は、DWI用又はPWI用のいずれか一方の閾値をそれぞれ設定すれば良い。」 (5)甲第5号証 本願の出願前である平成22年2月12日に公開された、特開2010-29481号公報(甲第5号証)には、次の技術事項が記載されている。 ア「【0015】 前記標準化数値データ作成プログラム7にはサブプログラムとして、腫瘍位置特定プログラム15、腫瘍体積及び/又はXYZ方向の最大径算出プログラム16、腫瘍特徴量算出プログラム17、腫瘍種類特定プログラム18、浸潤の有無検出プログラム19、リンパ節転移の有無検出プログラム20、遠隔転移の有無検出プログラム21、放射性薬剤集積度算出プログラム22、腫瘍の進行度を決定するグレーディングプログラム23等が実装されている。上記腫瘍位置特定プログラム15は、前記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、検出された臓器及びその臓器における検出位置を特定するプログラムであって、任意の空間座標系を適用して正確な腫瘍位置を特定するプログラムである。上記腫瘍体積算出プログラム16は、前記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、当該腫瘍の体積を算出するプログラムであり、画像データから直接算出することもできるが、腫瘍の最大径から間接的に算出することができる。上記腫瘍特徴量算出プログラム17は、モダリティ装置により計測された信号変化、形状、密度、薬剤集積度、さらには前記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、当該腫瘍の密度を算出するプログラムである。上記腫瘍種類特定プログラム18は、前記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、当該腫瘍の種類を特定する(肺がんの場合:腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの可能性を示唆する(良性の可能性が高いか低いかの判定を支援する))プログラムである。上記浸潤の有無検出プログラム19は、上記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、当該腫瘍が上皮基底膜を越えるなど浸潤性を有しているか否かを検出するプログラムである。上記リンパ節転移の有無検出プログラム20は、前記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、当該腫瘍によるリンパ節への転移の有無を検出するプログラムである。上記遠隔転移の有無検出プログラム21は、前記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、当該腫瘍が遠隔転移によって生じた腫瘍であるか否かを検出するプログラムである。例えば、原発腫瘍が肺がんとした場合、脳病変、骨病変、肝臓病変や副腎病変等は遠隔転移と考える。上記放射性薬剤集積度算出プログラム22は、前記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、当該腫瘍における放射性薬剤集積度(SUV)を算出するプログラムである。また、上記グレーディングプログラム23は、前記腫瘍自動検出プログラム6によって腫瘍が検出された場合に、当該腫瘍の進行度を決定するグレーディングプログラムである。」 イ「【0038】 画像マッチングプログラム24(グローバルマッチングプログラム、ローカルマッチングプログラム)を実行することにより過去(第1時期)と現在(第2時期)の経過観察画像データを比較し、数値データ定量比較プログラム25を実行することにより過去(第1時期)と現在(第2時期)の経過観察数値データを比較し、腫瘍特性データ比較プログラム26を実行することにより過去(第1時期)と現在(第2時期)の経過観察特性データを比較する。そして、過去(第1時期)と現在(第2時期)に関する上記経過観察画像データ、上記経過観察数値データ、上記経過観察特性データと、被検者プロフィールデータサーバー4に格納されている被検者のデータ(氏名、ID)とを併せて、経過観察解析データを作成する。」 ウ「【0040】 図5は、入力装置からの命令に従い、被検者のプロフィール、レポート、レポート作成の基礎となった画像データ及び標準化数値データをディスプレイ上に出力表示した結果を示す。ディスプレイ表示例(図5)では、まず、異常病変等の腫瘍の変化、治療の効果の評価などに関するレポートが画面上部に表示され、その下方画面左側に標準化データ格納サーバー31より取得された過去(第1時期)の検査画像データ、数値データを、その下方画面中央に標準化データ格納サーバー31より取得された現在(第2時期)の検査画像データ、数値データを、その下方画面右側に前記経過観察解析支援プログラム9を実行することにより出力された経過観察解析データを表示している。表示形式、表示対象項目に関しては、あらかじめ設定された基準又は入力装置からの命令に従って、所望する形式、項目を、表示することができる。」 (6)甲第6号証 本願の出願前である平成26年1月23日に公開された、特開2014-12206号公報(甲第6号証)には、次の技術事項が記載されている。 ア「【0002】 磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置)には、被検体を複数の領域(以下、ステーション)に分割して撮影(以下、マルチステーション撮影)を行ない、各ステーション位置で撮影した画像(以下、ステーション画像)を画像種毎に合成して、被検体の広範囲の画像を作成する、マルチステーション撮影法を備えているものがある。」 イ「【0024】 全てのステーション位置でT1強調像、T2強調像、プロトン像の撮影が終了したら、下肢から胸部へと順に拡散強調像を取得する。一般的に、拡散強調像は静磁場不均一等に影響されやすい撮影であるため、T1強調像、T2強調像、プロトン像に比べて体軸方向のステーション幅を狭くする必要があり、その結果ステーション数が増加する。図2に示した例の撮影を行った場合には、T1強調像、T2強調像、プロトン像が3ステーション分であるのに対し、拡散強調像が4ステーション分存在する。」 (7)甲第7号証 本願の出願前である平成24年1月30日に公開された、「小竹文雄,”躯幹部拡散強調MRI”,東京医科大学雑誌,2012年1月,第70巻第1号,P.3-12」(甲第7号証)には、次の技術事項が記載されている。 ア「2. 拡散強調像と拡散係数 通常のMRI は組織のプロトン密度を画像化したもので、T1強調像とT2強調像が基本である。拡散強調像は水分子のランダムな拡散運動(Brown 運動)を画像化したもので、T1強調像やT2強調像とは異なる物理現象である。組織は大きく分けて細胞とその間の細胞間隙の2つに分けられる。拡散コントラストを決定するのは主に細胞間隙にある水分子の動きである。悪性腫瘍では細胞数が増加あるいは細胞の大きさが増大して細胞間隙が狭小化し、そこにある水分子の動きが制約されて異常信号となる。他に拡散抑制が認められる状態は脳梗塞などの細胞性浮腫や膿瘍などの粘稠な液体および出血などがある。 拡散強調像のシークエンスはspin echo法をベースにしているため、T2コントラストの影響を受ける。そのため、拡散強調像の信号強度はT2値に比例し、拡散の程度に反比例する。従って、真の拡散運動を求めるにはT2コントラストを除外したADC(見かけの拡散係数)マップが必要となる。拡散運動を数値化したものがADC値で脳梗塞や悪性腫瘍では低値を示し、良性腫瘍では比較的高い値となる。その値は撮影装置や撮影条件でやや異なるが、1.00×10-3mm2/sec 以下の腫瘍性病変は悪性腫瘍の可能性があり、1.30×10-3mm2/sec 以上の場合は良性腫瘍が疑われる。ただし、正常中枢神経は細胞間隙の狭小化と髄鞘の存在のためADC値は灰白質で0.8~0.9×10-3mm2/sec、白質で0.5~0.8×10-3mm2/sec と他の臓器に比べ明らかに低い。その為、悪性脳腫瘍であっても脳梗塞ほど強い異常信号とならないことも多い。 Fig.1は眼窩海綿状血管腫の症例で脂肪抑制T2強調像において腫瘍は強い高信号を呈している。そのため拡散強調像でも信号強度が強く、T2 shine throughと呼ばれている。ADCマップでは低信号となっておらず、ADC 値も1.26×10-3mm2/sec と比較的高い値を呈している。Fig.2は脈絡膜悪性黒色腫の症例で脂肪抑制T2強調像において腫瘍はparamagnetic effect により強い低信号を呈している。そのため拡散強調像では信号強度が低く、T2 related signal lossと呼ばれている。ADCマップでは強い低信号となっており、ADC値は0.30×10-3mm2/sec と非常に低い値を呈している。これらの症例のように拡散強調像の信号強度のみで診断するのは危険で、ADCマップの信号強度やADC値を測定することが必要となる。」(第3頁左欄第16行-第4頁左欄第15行) イ「おわりに 頭頸部や躯幹部の拡散強調像およびADC値について概説した。拡散強調像の問題点として1. MRI禁忌(心臓ペースメーカー、人工内耳、磁性体脳動脈瘤クリップなど)がある。2. 義歯などの金属や空気があると磁化率アーチファクトや像の歪みが生じる。3. リンパ節転移の診断に対し感度は高いが、反応性リンパ節腫大も高信号を呈するため特異度が低いなどがあげられる。しかし、拡散強調像は正常組織と病変のコントラストが良好で、病変の拾い上げ能力が高い。さらにADC値を測定することによって悪性腫瘍と良性腫瘍の鑑別がある程度可能になると思われる。また、撮像時間も短く、通常のルーチン検査法として今後定着すると思われる。」(第11頁左欄第27-40行) (8)甲第8号証 本願の出願前である平成28年1月7日に公開された、特開2016-102号公報(甲第8号証)には、次の技術事項が記載されている。 ア「【0035】 また、例えば、一般的には、腫瘍組織を含む画素のADC値は、正常組織を含む画素のADC値より小さい。尚、腫瘍組織を含む画素のADC値が、正常組織を含む画素のADC値より大きいこともある。組織のADC値の示す傾向については、参考非特許文献1及び、参考非特許文献2のような研究がある。」 イ「【0038】 また、ADCは、組織の見かけ上の拡散係数を示すので、組織が凝縮されることは通常想定されない。従って、ADC値は、物理的に0以上となる。ADC値が負になる場合には、例えば、ADC値の導出元となった拡散強調画像の画素値は、雑音成分を多く含むと考えられ、本来の組織又は病変の画素値を反映していないと考えられる。」 ウ「【0054】 続いて、操作部120は、カットオフ拡散係数(カットオフADC)を指定する入力を受け付け、設定部143は、操作部120からのカットオフ拡散係数を設定する(S106)。カットオフ拡散係数は、例えば、単純に0以上の値が指定されてもよいし、ユーザが観察を希望する組織又は病変に応じて、値が指定されてもよい。 【0055】 続いて、画像導出部141は、例えば、ADCマップを参照し、カットオフADC値より大きいADC値を有する画素を抽出する。画像導出部141は、抽出された画素において、b値=bxの場合の仮想拡散強調画像Ixを導出(例えば算出)する(S107)。仮想拡散強調画像Ixの画素値は、画素毎(例えば512×512個の画素毎)に異なる。」 エ「【0062】 図4の処理によれば、MRI装置200により撮像された複数の拡散強調画像から、仮想拡散強調画像を導出できる。この場合、カットオフADC値以下の画素では、仮想拡散強調画像が導出されない。従って、例えば、拡散状態を示すADC値として物理的に有り得ない値を有する各画素を除外して、仮想拡散強調画像を導出できる。また、例えば、ユーザ所望のADC値を有する各画素における仮想拡散強調画像を導出できる。カットオフADC値は、例えば、観察対象の組織や病変を考慮して、操作部120を介して指定される。」 オ「【0139】 画像処理装置100によれば、カットオフADCを設定することで、観察対象外の組織又は病変を表示から除外して、仮想拡散強調画像を導出できる。例えば、カットオフADC値を0以上の値に設定することで、拡散係数が組織の拡散を示していない画素(例えば雑音成分が多く、組織の表示精度が低いと推定される画素)を意識的に除外して、仮想拡散強調画像を導出できる。従って、組織の拡散状態の表示精度を向上でき、仮想拡散強調画像の表示精度を向上できる。よって、仮想拡散強調画像における腫瘍組織の明瞭性を向上でき、仮想拡散強調画像を用いた診断の信頼性を向上できる。」 カ「【0153】 この構成によれば、拡散係数が組織の拡散を示していない画素(例えば雑音成分が多く、組織の表示精度が低いと推定される画素)を意識的に除外して、仮想拡散強調画像を導出できる。従って、仮想拡散強調画像における組織の拡散状態の表示精度を向上でき、仮想拡散強調画像の表示精度を向上できる。よって、仮想拡散強調画像における腫瘍組織の明瞭性を向上でき、仮想拡散強調画像を用いた診断の信頼性を向上できる。」 2.<異議申立理由1>特許法第29条第2項(進歩性違反)について (1)本件発明1と甲1発明との対比・判断について ア 対比 甲1発明を本件発明1と対比する。 (ア)甲1発明において、「DWI画像」は「拡散強調画像」を意味するから、ステップSa1で再構成部13で生成される「DWI画像」の画像データを「記憶」する「記憶部14」は、、本件発明1における『拡散強調画像を記憶する記憶手段』に相当する。 (イ)甲1発明において、ステップSa2で「DWI画像」に関して生成した「ADC画像」は、「DWI画像における各画素の見かけの拡散係数」を画素値として持つから、甲1発明における「ADC画像」が持つ「DWI画像(拡散強調画像)における各画素(座標)の見かけの拡散係数」は、本件発明1における『前記拡散強調画像の座標における拡散係数』に相当する。 そうすると、甲1発明は、ステップSa4でADC値を閾値処理してADC画像を2値化するところ、その前提として、「ADC画像」が持つ「DWI画像(拡散強調画像)における各画素(座標)の見かけの拡散係数」を取得する必要があるから、甲1発明は、本件発明1における『前記拡散強調画像の座標における拡散係数を取得する第1の取得手段』に相当する構成を有している。 (ウ)甲1発明は、ステップSa4で「ADC値を閾値処理してADC画像を2値化して得た低領域画像」を、ステップSa6で「DWI画像」に「重ねることによって読影用画像を生成」し、「低領域画像においてカラー情報を持つ各画素」は、「当該カラー情報が表す色で、かつDWI画像における画素値に応じた画素値を持つ」ところ、「DWI画像(拡散強調画像)における画素値」は、本件発明1における『前記拡散強調画像の前記座標における信号値』に相当する。 そうすると、甲1発明は、本件発明1における『前記拡散強調画像の前記座標における信号値を取得する第2の取得手段』に相当する構成を有している。 (エ)甲1発明は、ステップSa3で「閾値」を「設定」し、ステップSa4でADC値(拡散係数)を閾値処理してADC画像を2値化し、閾値以上である画素値を「0」に、閾値未満である画素値を「1」にそれぞれ置き換え、ステップSa5で画素値が「1」である画素に対して、カラー情報を割り付けて、ADC値が閾値未満である領域のみにカラー情報を持った低領域画像を生成し、ステップSa6でDWI画像に低領域画像を重ねることによって読影用画像を生成しているところ、ここで「閾値」とは、低領域画像においてカラー情報を持つ領域となるか、持たない領域となるかの基準となるADC値を意味する。 さらに、甲1発明において、「腫瘍は、DWI画像における画素値が大きく、かつADC値が小さくなるので、」読影用画像では「高画素値でかつ着色された領域が腫瘍である可能性があ」るところ、着色された領域となる低領域画像においてカラー情報を持つ領域となるか、持たない領域となるかの基準となるADC値は、本件発明1における『前記拡散係数が腫瘍領域に相当する拡散係数であるか否かを判定するための第1の基準値』に相当する。 そうすると、甲1発明は、本件発明1における『第1の基準値』を『設定する設定手段』に相当する構成を有している。 (オ)上記「(エ)」及び、本件発明1の「腫瘍領域」が本願明細書の段落【0025】の記載「腫瘍領域とは、腫瘍の可能性が高い領域を指す」より、腫瘍の可能性が高い領域を指すこと、とを踏まえると、本件発明1における『前記第1の取得手段で取得された前記拡散係数と前記第1の基準値とを比較し、前記第2の取得手段で取得された前記信号値と前記第2の基準値とを比較して、前記拡散係数及び前記信号値の両方が腫瘍領域に相当する座標を特定することによって、前記拡散強調画像における腫瘍領域を特定』することと、甲1発明において、「閾値」を「設定」し、ADC値(拡散係数)を閾値処理してADC画像を2値化し、閾値未満である画素値を「1」に置き換え、画素値が「1」である画素に対してカラー情報を割り付けて、ADC値が閾値未満である領域のみにカラー情報を持った低領域画像を生成し、DWI画像に低領域画像を重ねることによって読影用画像を生成し、読影用画像において高画素値でかつ着色された領域が腫瘍である可能性があると示すこととは、『前記第1の取得手段で取得された前記拡散係数と前記第1の基準値とを比較し、』『前記拡散係数』『が前記第1の基準値より低い座標を特定することによって、前記拡散強調画像における腫瘍領域を特定する』点で共通する。 (カ)甲1発明における「MRI装置が具備する計算機システム10」は、本件発明1における『医用画像処理装置』に相当する。 以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 拡散強調画像を記憶する記憶手段と、 前記拡散強調画像の座標における拡散係数を取得する第1の取得手段と、 前記拡散強調画像の前記座標における信号値を取得する第2の取得手段と、 第1の基準値を設定する設定手段と、 を備え、 前記第1の取得手段で取得された前記拡散係数と前記第1の基準値とを比較し、前記拡散係数が前記第1の基準値より低い座標を特定することによって、前記拡散強調画像における腫瘍領域を特定する医用画像処理装置。 (相違点1) 本件発明1では、「第1の基準値」が、「前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である」のに対し、甲1発明では、ADC画像を2値化するための閾値であり、その閾値は操作者により指定される値としても良いし、デフォルトの値としても良いが、その閾値がどのような規則を基に設定された値であるのかについて明示が無い点。 (相違点2) 上記一致点における「前記第1の取得手段で取得された前記拡散係数と前記第1の基準値とを比較し、前記拡散係数が腫瘍領域に相当する座標を特定することによって、前記拡散強調画像における腫瘍領域を特定すること」が、本件発明1は、「信号値の閾値であって、当該閾値より大きい範囲に腫瘍領域の信号値が含まれる閾値である第2の基準値」「を設定する設定手段」と、「前記第1の取得手段で取得された前記拡散係数と前記第1の基準値とを比較し、前記第2の取得手段で取得された前記信号値と前記第2の基準値とを比較して、前記信号値が前記第2の基準値より高い座標であり、かつ、前記拡散係数が前記第1の基準値より低い座標を特定することによって、前記拡散強調画像における腫瘍領域を特定する特定手段」とをさらに備えることにより、第1の基準値のみならず第2の基準値をも用いて拡散強調画像における腫瘍領域を特定することがなされるのに対し、甲1発明は、上記第2の基準値を設定する設定手段を備えておらず、読影用画像において、DWI画像に基づく画素値が高画素値でかつ着色された領域を腫瘍領域と特定することがなされる点。 イ 上記各相違点についての判断 事案に鑑み、相違点1について検討する。 (ア)a 上記「1.(7)」より、甲第7号証には、「ADC値で脳梗塞や悪性腫瘍では低値を示し、良性腫瘍では比較的高い値となる」(第3頁右欄第14-15行)こと、「1.00×10-3mm2/sec 以下の腫瘍性病変は悪性腫瘍の可能性があり、1.30×10-3mm2/sec 以上の場合は良性腫瘍が疑われる」(第3頁右欄第16-19行)こと、及び「ADC値を測定することによって悪性腫瘍と良性腫瘍の鑑別がある程度可能になると思われる」(第11頁左欄第37-39行)こと、が開示されている。上記甲第7号証の開示内容より、ADC値に閾値を設け、その設けた閾値以下のADC値以下の領域には悪性腫瘍の可能性があることが、本願出願前に公知であると認められる。 b しかしながら、甲第7号証には、「正常中枢神経は細胞間隙の狭小化と髄鞘の存在のためADC値は灰白質で0.8~0.9×10-3mm2/sec、白質で0.5~0.8×10-3mm2/sec と他の臓器に比べ明らかに低い」(第3頁右欄第19-22行)こと、及び「Fig.1は眼窩海綿状血管腫の症例で脂肪抑制T2強調像において腫瘍は強い高信号を呈している。そのため拡散強調像でも信号強度が強く、T2 shinethroughと呼ばれている。ADCマップでは低信号となっておらず、ADC 値も1.26×10-3mm2/sec と比較的高い値を呈している。Fig.2は脈絡膜悪性黒色腫の症例で脂肪抑制T2強調像において腫瘍はparamagnetic effect により強い低信号を呈している。そのため拡散強調像では信号強度が低く、T2 related signal lossと呼ばれている。ADCマップでは強い低信号となっており、ADC値は0.30×10-3mm2/sec と非常に低い値を呈している。」(第4頁左欄第1-12行)ことも開示されており、これらの開示より、ADC値が低くても正常な組織(正常中枢神経)があること、ADC値が高くても腫瘍(眼窩海綿状血管腫)があること、が本願出願前に公知であると認められる。 (イ)上記「1.(8)」より、甲第8号証には、「腫瘍組織を含む画素のADC値は、正常組織を含む画素のADC値より小さい」(【0035】)こと、「ADC値は、物理的に0以上となる。ADC値が負になる場合には、例えば、ADC値の導出元となった拡散強調画像の画素値は、雑音成分を多く含むと考えられ、本来の組織又は病変の画素値を反映していないと考えられる」(【0038】)こと、「カットオフ拡散係数は、例えば、単純に0以上の値が指定されてもよいし、ユーザが観察を希望する組織又は病変に応じて、値が指定されてもよい」(【0054】)こと、「画像導出部141は、例えば、ADCマップを参照し、カットオフADC値より大きいADC値を有する画素を抽出する」(【0055】)こと、及び「カットオフADC値を0以上の値に設定することで、拡散係数が組織の拡散を示していない画素(例えば雑音成分が多く、組織の表示精度が低いと推定される画素)を意識的に除外して、仮想拡散強調画像を導出できる」(【0139】)ことが、開示されている。上記甲第8号証の開示内容より、「カットオフADC値を0以上の値に設定することで、拡散係数が組織の拡散を示していない画素(例えば雑音成分が多く、組織の表示精度が低いと推定される画素)を意識的に除外して、仮想拡散強調画像を導出できる」ことが、本願出願前に公知であると認められる。 (ウ)上記「(ア)及び(イ)」より、甲第7号証及び甲第8号証には、ADC値の閾値を「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値」とする技術は開示されていない。つまり、ADC値の閾値の設定範囲に、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数」という制限を設けること(や、もうひとつの制限である「腫瘍領域の拡散係数」に対し「当該拡散係数より小さい」との条件を設けること)について開示されていない。 したがって、甲第7号証及び甲第8号証に触れた当業者が、甲1発明においてADC画像を2値化するための閾値を、上記相違点1に係る「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値」に設定することを、容易になしえたということはできない。 (エ)また、ADC値(拡散係数)の閾値の設定について、上記相違点1に係る「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値」に設定することは、甲第2号証ないし甲第6号証にも開示も示唆もされていないし、また本願の出願前において周知の技術であるとも認められないし、そのような閾値の設定をする動機も見当たらない。 (オ)そうすると、他の甲号証を参照しても、上記相違点1の構成が記載されていないのであるから、甲1発明に、甲第2ないし8号証に開示された事項を組み合わせても、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならず、そして、相違点1の構成にあえてする動機があるともいえない。 ウ 申立人の主張について (ア)申立人は、令和6年2月1日提出の特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)において、上記相違点1(異議申立書における「相違点2」)について以下の旨主張をしている。 <申立人の主張の要旨> 『拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域』とは、”腫瘍領域における拡散現象”以外の原因によって高信号を呈している領域を意味しているとも、一応解釈しうる。このような解釈をも踏まえて検討を行うと、甲第7号証において、悪性腫瘍領域における拡散現象以外の原因によって高信号(異常信号)を呈している領域を除外して、悪性腫瘍領域での真の拡散運動を求めるために、ADC(見かけの拡散係数)マップを用いることは、本件発明1において、『拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される』領域を除外するために、拡散係数の閾値である『第1の基準値』を設定することに相当し、甲第8号証において、拡散係数が組織の拡散を示していない画素を意識的に除外して仮想拡散強調画像を導出するためにカットオフADC値を設定することは、本件発明1において、『拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される』領域を除外するために、拡散係数の閾値である『第1の基準値』を設定することに相当し、 甲1発明において、第1の基準値を決定するに当たり、「前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域」上記甲第7号証及び甲第8号証の開示技術をもとに、『拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される』領域とすることで上記相違点2(当審注:上記相違点1に相当)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。」(異議申立書第37頁第11行-第39頁第29行参照。) (イ)しかしながら、上記「イ」で説示したとおり、ADC画像を2値化するための閾値を、上記相違点1に係る「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値」に設定する技術は甲第2ないし8号証には開示されておらず、また本願の出願前において周知であるとも認められない。 (ウ)したがって、上記申立人の主張は採用することができない。 エ 本件発明1の効果について 本件発明1の効果は、「拡散強調画像において腫瘍の領域を適切に特定する補助を行うことが可能となる」(【0056】)というものであり、上記相違点1及び2に係る発明特定事項を備えることにより、拡散強調画像において腫瘍の領域を適切に特定する補助を行う機能がさらに向上されていると認められることから、甲第1ないし8号証に記載された発明及び周知技術から当業者が予測しうる程度の効果にすぎないということはできない。 オ 小括 以上のことから、相違点2について論ずるまでもなく本件発明1は甲1発明、並びに甲第2ないし8号証に開示された技術又は周知技術から、当業者が容易になしえたことであるとはいえない。 (2)本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本願の請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、甲1発明とは、上記相違点1及び2で少なくとも相違する。 相違点1については、上記「(1)イ」で検討したとおりであるから、本件発明2ないし4についても、上記「(1)」と同じ理由により、甲1発明及び甲第2ないし8号証に開示された技術又は周知技術から、当業者が容易になしえたことであるとはいえない。 (3)本件発明5について 本件発明5は、本件発明1の「医用画像処理装置」を「医用画像処理装置の制御方法」として、そのカテゴリーを変更した発明であり、本件発明5の発明特定事項は本件発明1の発明特定事項である各手段を各ステップへとそれぞれ変更したものであり、その内容は共通することから、上記「(1)」と同じ理由により、甲1発明及び甲第2ないし8号証に開示された技術又は周知技術から、当業者が容易になしえたことであるとはいえない。 (4)本件発明6について 本件発明6は、本件発明1の「医用画像処理装置」を「医用画像処理装置で実行可能なプログラム」として、そのカテゴリーを変更した発明であり、発明特定事項は本件発明1と共通することから、上記「(1)」と同じ理由により、甲1発明及び甲第2ないし8号証に開示された技術又は周知技術から、当業者が容易になしえたことであるとはいえない。 (5)小括 以上のことから、本件発明1ないし6を、甲1発明及び甲第2ないし8号証に開示された技術又は周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立人の特許法第29条第2項についての異議申立理由は、理由がない。 3.<異議申立理由2>特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)について (1)申立人は、異議申立書において、 「請求項1では、『第1の基準値』を特定するための要件に関して、「前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される」と規定されているが、この「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」を“推測”する主体又は手法が請求項1では特定されていないことから、『第1の基準値』を一意に特定することができず、その結果、請求項1に係る発明が不明確となっている。 具体的には、本件特許明細書の段落【0035】では、『第1の基準値』はユーザにより指定される値としてもよいしデフォルトの値としてもよいと記載されていることから、この『第1の基準値』を設定する主体はユーザ又はデフォルト値の設定者であると考えられるが、その場合は、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」であると“推測”する主体も自ずとユーザ又はデフォルト値の設定者となる。この場合に、請求項1の『第1の基準値』とは、 (1)このユーザ等が「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」であると“推測”して設定した値であれば十分であり、真に(客観的に)「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」とそれ以外の「腫瘍領域」の間の閾値と一致していることまでは必要ないのか、それとも、 (2)ユーザ等が「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」であると“推測”して設定した値では不十分であり、真に(客観的に)「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」とそれ以外の「腫瘍領域」の間の閾値と一致していることが必要であるのか が、請求項1の記載からは明らかではない。 もし、請求項1の『第1の基準値』の解釈として前者、すなわち、 (1)ユーザ等が「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」であると“推測”して設定した値であれば十分である、 との解釈を採用した場合、それを設定するユーザ等の主観的な意志や目的が本件発明1の発明特定事項として含まれることになるから、本件発明1の技術的範囲を客観的に定めることができず、 その結果、本件発明1は不明確となる。また、このように解釈した場合は、『第1の基準値』は、ユーザ等が自由に定めることができるものであると解釈できるため、例えば「前記拡散係数の閾値であって、任意の第1の基準値」と表現すれば足りることになるから、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である」という形容句は、本件発明1の発明特定事項としてほぼ意味をなさないこととなる。さらに、『第1の基準値』の要件の一つとなっている「高信号」との用語について、その範囲や比較対象(何に対して高信号であるのか)が請求項1において特定されていないことも、本件発明1を不明確とすることに拍車をかけている。 一方で、請求項1の『第1の基準値』の解釈として後者、すなわち、 (2)ユーザ等が「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」であると“推測”して設定した値では不十分であり、真に(客観的に)「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」とそれ以外の「腫瘍領域」の間の閾値と一致していることが必要である、 との解釈を採用した場合、 請求項1の『推測される』との用語の意義は不明確となり、その結果、本件発明1は不明確となる。 さらに、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」であると“推測”する主体が第三者であると解釈した場合、 第三者の意志や目的は多様であるため、当然のことながら、本件特許発明1の技術的範囲を客観的に定めることができず、その結果、本件特許発明1は不明確となる。 したがって、前述したいずれの解釈によっても、本件特許の請求項1に係る発明は不明確である。 また、同様の発明特定事項を有する請求項5及び請求項6に係る発明も不明確である。 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、請求項5、及び請求項6に係る発明は不明確である。また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、請求項3、及び請求項4に係る発明も、同じ理由で不明確である。」 旨主張する(異議申立書第41頁第32行-第45頁第15行) (2)上記申立人の主張について検討する。 ア 本願の請求項1では、「第1の基準値」は、上記「第2」より、以下のように記載されている。 「前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である第1の基準値」 イ 上記「ア」から、文章構成上、上記記載における「閾値(である第1の基準値)」については、以下のように規定されているものと理解される。 (ア)規定1:「拡散係数の閾値」である。 (イ)規定2:「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値」である。 ウ 上記「イ(イ)」より、上記「閾値」は、下記(ア)と(イ)の間に設定された拡散係数の閾値であると理解される。 (ア)拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数 (イ)当該拡散係数(当審注:上記(ア)の拡散係数)より小さい腫瘍領域の拡散係数 エ 上記「ウ(ア)」より、上記「ウ(ア)」の拡散係数を規定する領域の座標は、下記(ア)ないし(ウ)の条件を満たす座標であると理解される。 (ア)拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される座標 (イ)前記拡散強調画像において高信号を呈している座標 (ウ)当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標 オ 上記「エ」における「座標」の例は、本願の明細書の段落【0026】及び【図4】に以下のように記載されている。(下線は当審で付与した) 「【0026】 例えば図4に拡散強調画像401とADC画像402とを示す。拡散強調画像401とADC画像402とは座標の対応関係がある。ここで、図4に示す座標410の信号値は拡散強調画像において高信号を呈しており、この座標410に対応している座標420のADC値は、基準値より高い値を示している。したがって、本実施形態では、座標410の高信号は腫瘍領域ではなく、拡散現象以外の原因によって高信号を呈しているものと推測ができる。そのため、座標410は腫瘍領域として特定しない。」 「【図4】 [図:0001411358000006.jpg] 」 カ 上記「オ」より、上記「エ(ア)ないし(ウ)」の条件を満たす座標は、座標410であると認められる。よって、上記「エ」の記載内容を含む上記「ア」の「第1の基準値」の記載も、本願の明細書及び図面を参酌することにより理解することができる。 キ 申立人は上記「エ」の記載における「推測」をする主体又は手法が請求項1では特定されていないことから、『第1の基準値』を一意に特定することができない旨主張しているが、上記「エ(ア)」における「推測」は、本願出願前の技術常識である、以下の(ア)ないし(ウ) (ア)腫瘍領域では、拡散強調画像で異常信号(高信号)を呈すること(上記「1.(7)ア」参照。) (イ)DWI画像(拡散強調画像)では、腫瘍でなくても高信号で描出される組織(T2が大きい組織)があること(上記「1.(1)ア」参照。) (ウ)ADC画像では腫瘍組織を含む画素のADC値は正常組織を含む画素のADC値より小さいこと(上記「1.(8)ア」参照。) より、上記「エ(イ)及び(ウ)」となる領域では、上記「エ(ア)」と当然「推測」されるという意味の「推測」であることから、「推測」の主体により上記「エ」の記載が不明確となるというものではない。よって、上記申立人の主張は採用することができない。 ク 以上のことから、本願の請求項1の記載は明確ではないとはいえず、よって本願の請求項1に係る発明である本件発明1も明確でないとはいえない。また、本願の請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし4も同様の理由で明確でないとはいえない。さらに、上記「ア」の記載と同一の記載により「第1の基準値」を規定する本件発明5及び6も同様の理由で明確でないとはいえない。 (3)小括 以上のことから、本件発明1ないし6は、明確でないとはいえないから、申立人の特許法第36条第6項第2号についての異議申立理由は、理由がない。 4.<異議申立理由3>特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)について (1)申立人は、異議申立書において、 「本件特許の請求項1には、『前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である第1の基準値』と記載されている。 この記載によると、『第1の基準値』は、少なくとも、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、 当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数」の下限値が定まらなければ決定できない。 しかしながら、この「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」について、本件特許明細書の段落【0025】には、「拡散強調画像において高信号(閾値より値が大きい)領域には、腫瘍領域と拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域とが含まれている」と記載されており、段落【0034】には、「DWIの高信号(閾値より大きい信号値)の領域には、腫瘍領域以外にも拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域が含まれている」と記載されているものの、具体的にどのような領域が「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」に当たるのかについてについて何ら具体的に記載されていない。 他方で、技術常識によれば、拡散強調画像において高信号を呈するのは、がんなど細胞密度が高い組織である場合以外にも、粘稠度が高い場合や細胞毒性浮腫(細胞浮腫)が起きたとき、また、いわゆる T2 Shine Through による場合があるが、いずれの場合も拡散現象によるものであり、 「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」がどのような領域であるのかが自明ともいえない。(必要であればhttps://radiographica.com/mri-dwi/を参照されたい。) 同様に、甲第7号証にも、拡散強調画像に関して、「拡散強調像は水分子のランダムな拡散運動 Brown運動)を画像化したもので、T1強調像やT2強調像とは異なる物理現象である。組織は大きく分けて細胞とその間の細胞間隙の2つに分けられる。拡散コントラストを決定するのは主に細胞間隙にある水分子の動きである。悪性腫瘍では細胞数が増加あるいは細胞の大きさが増大して細胞間隙が狭小化し、そこにある水分子の動きが制約されて異常信号となる。他に拡散抑制が認められる状態は脳梗塞などの細胞性浮腫や膿瘍などの粘稠な液体および出血などがある。」と説明されている。つまり、悪性腫瘍は当然のことながら水分子の動きが制約されるため、拡散強調画像においては拡散現象によって高信号(異常信号)となるが、その他にも、脳梗塞などの「細胞性浮腫」や、膿瘍などの「粘稠な液体」、あるいは「出血」などにおいても拡散抑制が生じ得るため、拡散強調画像においては拡散現象によって高信号となることがある。このように、本来は除外すべき「細胞性浮腫」、「粘稠な液体」、「出血」などであっても、拡散強調画像において高信号となる原因は、いずれも拡散現象である。 すなわち、拡散強調画像とは、そもそも、水分子のブラウン運動による拡散現象を画像化したものであるから、拡散現象以外の原因によって高信号を呈することは、前述した技術常識を踏まえると考えられない。また、本件特許明細書の段落【0003】にも、拡散強調画像に関して、「拡散強調画像では、水分子のブラウン運動による拡散現象がもともと無いか、逆に水分子が細胞間を自由に拡散している場所は低信号、弱い拡散現象が存在する場所は高信号となる。悪性腫瘍の拡散現象の弱くその速度は小さいことから、 拡散強調画像において悪性腫瘍は高信号となって表示されることを利用した仕組みである。」と記載されているが、拡散強調画像において高信号を呈するのは「弱い拡散現象が存在する場所」としか説明されていない。 そうすると、本件特許発明1において、『前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である第1の基準値』を設定するにあたり、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数」の下限値どのような値とすればよいかを当業者が理解できるとはいえない。 よって、本件特許明細書の詳細な説明は、本件特許発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 また、同様の発明特定事項を有する請求項5及び請求項6に係る発明についても同様である。 なお、本件特許の審判段階において通知された令和4年12月20日付の第3回拒絶理由通知では、上記とおおよそ同じ理由で、実施可能要件違反の拒絶理由が指摘されている。これに対して、 特許権者は、令和5年2月16日付の手続補正書にて特許請求の範囲の範囲を補正した上で、同日付の意見書にてこの実施可能要件違反の拒絶理由が解消した旨を主張している。しかしながら、そもそも拡散強調画像は水分子のブラウン運動による拡散現象を画像化したものであり、拡散現象以外の原因によって高信号を呈することは技術常識を踏まえると考えられないといった趣旨の実施可能要件違反の拒絶理由に対して、特許権者は具体的な主張や反論は行っていない。つまり、上記意見書での特許権者の主張は、「補正後の請求項1に係る発明では、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」は、本願の明細書の段落0026等に記載されているように、拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における拡散係数が基準値より高い座標の領域であることが明確であると考えます。」といったものに留まり、何故、補正後の請求項1に係る発明について、実施可能要件違反の拒絶理由が解消しているのかが詳しく説明されていない。 このため、第3回拒絶理由通知で指摘された実施可能要件違反に相当する無効理由は、本件特許について依然として残っていると考えられる。したがって、本異議申立てでは、本件特許の実施可能要件についての再審理を求める。 なお、【理由1:進歩性】における「(b)相違点2について」の欄において、本件特許の請求項1における「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」とは、“腫瘍領域における拡散現象”以外の原因によって高信号を呈している領域を意味しているとも一応解釈し得ると述べたが、このような解釈は、進歩性の検討にあたり技術常識を踏まえて請求項の用語の意義を善解したものであり、この解釈によって実施可能要件違反の無効理由が存在しないことを認めるものではない。また、もし、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」を、“腫瘍領域における拡散現象”以外の原因によって高信号を呈している領域と解釈して、実施可能要件違反の無効理由が存在しないとするのであれば、前述したとおり、【理由1:進歩性】の無効理由の存在がより明確なることを付言する。 以上のとおりであるから、本件特許明細書の詳細な説明は、本件特許の請求項1、請求項5、及び請求項6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、請求項3、及び請求項4に係る発明も同様である。」 旨主張する(異議申立書第45頁第16行-第48頁第21行) (2)上記申立人の主張について検討する。 ア 本件発明1の「前記拡散係数の閾値であって、拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数と、当該拡散係数より小さい腫瘍領域の拡散係数との間に設定された閾値である第1の基準値」については、上記「2.(2)」で検討したとおりであり、上記「第1の基準値」における「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される」「座標」についても、上記「2.(2)エないしキ」で検討したとおりであり、本願明細書及び図面(上記「2.(2)オ」参照。)に開示されている。 イ 上記「第1の基準値」である閾値の設定が、本願の発明の詳細な説明の記載を基に当業者がその実施をすることができるかについて検討する。 (ア)上記「第1の基準値」である「拡散係数の閾値」を決定するには、以下の条件a及びbの拡散係数の間の値となる拡散係数の数値が必要となる。 a 拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数 b 当該拡散係数(当審注:上記aの拡散係数)より小さい腫瘍領域の拡散係数 (イ)上記「(ア)a」について検討する。上記「(ア)a」の条件を満たす拡散係数は、拡散強調画像(DWI画像)とADC画像とにおいて、測定対象の同一位置を示す「座標」で、その「座標」における信号値を示す画素輝度が共に高輝度である(すなわち高信号値)「座標」における拡散係数(ADC値)であり、本願の発明の詳細な説明の段落【0026】(上記「3.(2)オ」参照。)にもその実施態様が開示されている。 拡散強調画像(DWI画像)とADC画像については、当業者ならば公知のMRI機器を操作して測定対象(患者等)から過度の負担なく入手することができ、入手した拡散強調画像(DWI画像)とADC画像を測定対象の同一位置が同一座標となるよう位置合わせすることも、当業者ならば公知の画像処理手法を用いて過度の負担なく行いうることであり、その位置合わせした拡散強調画像(DWI画像)とADC画像において、画素輝度が共に高輝度である(すなわち高信号値)「座標」を見つけ出し、その「座標」における拡散係数(ADC値)を求めることも、当業者ならば、公知の画像処理手法を用いて過度の負担なく行いうることである。 なお、上記「(ア)a」の条件における「当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標」については、上記「第1の基準値」である「拡散係数の閾値」が、上記条件a及びbの拡散係数の間の値となることから、当然達成される条件にすぎない。 よって、上記「(ア)a」については、当業者ならば本願の発明の詳細な説明を基に過度の負担なく決定しうる値であると認められる。 (ウ)上記「(ア)b」について検討する。腫瘍領域の拡散係数については、ADC値として、それを臨床的・統計的に決定する手法が本願出願前に公知であり、例えば甲第7号証(上記「1.(7)ア」参照。)にも「眼窩海綿状血管腫」は「1.26×10-3mm2/sec」であり、「脈絡膜悪性黒色腫」は「0.30×10-3mm2/sec」であり、「1.00×10-3mm2/sec 以下の腫瘍性病変は悪性腫瘍の可能性があ」ると結論づけることも開示されている。よって、腫瘍領域の拡散係数については、従来公知の手法によって当業者が過度の負担なく入手することができる数値であるといえることから、上記「(ア)b」については、当業者ならば甲第7号証にも開示されている本願出願前に公知の対象部位毎の腫瘍領域の拡散係数を基に過度の負担なく決定しうる値であると認められる。 (エ)そして、腫瘍領域の拡散係数については、上記「(ウ)」でも示した甲第7号証に開示されているように、測定対象部位の腫瘍の種類によって値がそれぞれ異なることは本願出願前に公知であることから、測定対象部位を基に、入手した拡散強調画像(DWI画像)とADC画像と、測定対象部位の腫瘍の公知の拡散係数と、から、上記「(ア)a及びb」の数値を見出して、上記「第1の基準値」である「拡散係数の閾値」を決定することは、当業者ならば本願出願前の技術常識を基に過度の負担なく行いうることであると認められる。 (オ)以上のことから、上記「第1の基準値」である閾値の設定は、本願の発明の詳細な説明の記載を基に当業者がその実施をすることができると認められる。 ウ 申立人は、「第1の基準値」は「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される、前記拡散強調画像において高信号を呈している座標であり、かつ、当該座標における前記拡散係数が基準値より高い座標の領域の拡散係数」(上記「イ(ア)a」)の下限値が定まらなければ決定できず、当該下限値をどのような値とすればよいかを、本願の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から当業者が理解できるとはいえないから、本願の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨主張する。 しかしながら、上記「イ(ア)a」の拡散係数が、下限値でなければいけないという規定は、本件発明1においてはなされておらず、また、下限値でなければ「第1の基準値」である閾値の設定ができないということもないことから、上記「イ」で検討したとおり、上記「第1の基準値」である閾値の設定は、本願の発明の詳細な説明の記載を基に当業者がその実施をすることができると認められる。 よって申立人の上記主張は採用することができない。 エ また、申立人は、上記主張において、拡散強調画像において高信号となる原因は拡散現象であり、第1の基準値の設定における「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」が自明でない旨主張するが、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域」という記載は、上記「3.(2)エ(ア)」の「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される座標」の一部であり、「拡散現象以外の原因によって高信号を呈している領域と推測される座標」については、上記「3.(2)オないしキ」で説示したとおり明確でないとはいえないことから、上記申立人の主張は採用することができない。 オ なお、申立人が求める、本件特許の実施可能要件についての再審理は、異議申立理由3についての検討(上記「ア及びイ」参照。)を行うことにより、実質的に検討されたものと認められる。 カ 以上のことから、本願の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。 また、本願の請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし4も同様の理由で、本願の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。 さらに、上記「ア」の記載と同一の記載により「第1の基準値」を規定する本件発明5及び6も同様の理由で、本願の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。 (3)小括 以上のことから、本願の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし6を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえないから、申立人の特許法第36条第4項第1号についての異議申立理由は、理由がない。 5.まとめ 以上のとおりであるので、上記「第3」に示した異議申立理由1ないし3は、いずれも理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、申立人が特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700084

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