特許異議申立
2024-700044
方向性電磁鋼板の製造方法
- 審判番号
- 2024-700044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-566447外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7315857
- 請求日
- 2024年01月22日
- 審決日
- 2024年04月26日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 分類
- P1651.536-Y (C21D) / P1651.537-Y (C21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7315857号発明「方向性電磁鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7315857号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7315857号の請求項1~6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2020年(令和2年)1月16日(優先権主張 平成31年1月16日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和5年7月19日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月27日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、令和6年1月22日に特許異議申立人前田洋志(以下、「申立人」という。)より請求項1~6(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件である。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」~「本件発明6」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
化学組成として、質量%で、
C:0.030~0.100%、
Si:0.80~7.00%、
Mn:0.01~1.00%、
S及びSeの合計:0~0.060%、
酸可溶性Al:0.010~0.065%、
N:0.004~0.012%、
Cr:0~0.30%、
Cu:0~0.40%、
P:0~0.50%、
Sn:0~0.30%、
Sb:0~0.30%、
Ni:0~1.00%、
B:0~0.008%、
V:0~0.15%、
Nb:0~0.20%、
Mo:0~0.10%、
Ti:0~0.015%、
Bi:0~0.010%、を含有し、
残部がFeおよび不純物からなる鋼片を、熱間圧延して熱延鋼板を得る熱延工程と、
前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷延工程と、
前記冷延鋼板に脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍板を得る脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍板に、MgOを含有する焼鈍分離剤を塗布して乾燥させる焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍板に仕上げ焼鈍を行い、仕上げ焼鈍板を得る仕上げ焼鈍工程と、
前記仕上げ焼鈍板の表面から余剰の焼鈍分離剤を除去する焼鈍分離剤除去工程と、
前記仕上げ焼鈍板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と、
を備え、
前記脱炭焼鈍工程では、
酸化度であるPH2O/PH2が0.18~0.80である雰囲気下で、焼鈍温度750~900℃で、10~600秒保持を行い、
前記焼鈍分離剤塗布工程では、
前記焼鈍分離剤がさらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはBiの塩化物の少なくとも1種であるMClを含有し、前記MgOと前記MClとの質量比率であるMCl/MgOを2~40%とし、
前記仕上げ焼鈍工程では、
雰囲気が、水素を含有する場合には、酸化度を0.00010~0.2とし、水素を含有しない不活性ガスからなる場合には、露点を0℃以下とし、
前記絶縁被膜形成工程では、
リン酸塩またはコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜のコーティング液を塗布し、350~600℃で焼付け、前記焼付け後に続けて800~1000℃の温度で熱処理して絶縁被膜を形成する
ことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記熱延工程と前記冷延工程との間に、
前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程、または酸洗を行う熱延板酸洗工程の少なくとも1つを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記脱炭焼鈍工程では、前記冷延鋼板を、アンモニアを含有する雰囲気中で焼鈍する窒化処理を行う
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記冷延工程と前記脱炭焼鈍工程との間、前記脱炭焼鈍工程と前記焼鈍分離剤塗布工程との間、前記焼鈍分離剤除去工程と前記絶縁被膜形成工程との間、または前記絶縁被膜形成工程後のいずれかに、磁区制御処理を行う磁区制御工程を備える
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記焼鈍分離剤除去工程では、水洗後に、体積比濃度が20%未満の酸性溶液を用いて酸洗を行う
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記鋼片が、化学組成として、質量%で、
Cr:0.02~0.30%、
Cu:0.05~0.40%、
P:0.005~0.50%、
Sn:0.02~0.30%、
Sb:0.01~0.30%、
Ni:0.01~1.00%、
B:0.0005~0.008%、
V:0.002~0.15%、
Nb:0.005~0.20%、
Mo:0.005~0.10%、
Ti:0.002~0.015%、及び
Bi:0.001~0.010%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含有する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。」
第3 特許異議申立理由
申立人は、証拠方法として次の甲第1~5号証を提出し、以下の特許異議申立理由により、請求項1~6に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2001-279459号公報
甲第2号証:特開2006-261602号公報
甲第3号証:特開2003-301272号公報
甲第4号証:特開2009-19274号公報
甲第5号証:特開2018-154881号公報
1 申立理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、中間層の種類や形態が何ら特定されていないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1~6に係る発明において、中間層を形成しようとした場合、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要となり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 特許異議申立理由の検討
当審では、以下に示すとおり、上記特許異議申立理由はいずれも採用できないと判断する。
1 申立理由1(サポート要件)
(1)本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明の解決しようとする課題は、「フォルステライト被膜を有さず、かつ、磁気特性(特に鉄損)および被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法を提供すること」(【0014】)であると認められる。
(2)そして、本件明細書には、次の記載がある。
「所定の工程を適切に組み合わせることで、フォルステライト被膜を有さず、かつ、磁気特性および被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板を製造できることを見出した。」(【0016】)
「C含有量は低い方が好ましいが、工業生産における生産性や製品の磁気特性を考慮した場合、C含有量の実質的な下限は0.030%である。」(【0030】)
「シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が0.80%未満であれば、仕上げ焼鈍時にγ変態が生じて、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。したがって、Si含有量は0.80%以上である。」(【0031】)
「マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。また、Mnは、S又はSeと結合して、MnS、又は、MnSeを生成し、インヒビターとして機能する。Mn含有量が0.01~1.00%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。したがって、Mn含有量は、0.01~1.00%である。」(【0032】)
「上記の目的のため、脱炭焼鈍では、酸化度であるPH2O/PH2が0.18~0.80である雰囲気下で、焼鈍温度750~900℃で、10~600秒保持を行う。・・・(略)・・・酸化度(PH2O/PH2)が、0.18未満であると、外部酸化型の緻密な酸化珪素(SiO2)が急速に形成され、炭素の系外への放散が阻害されるため、脱炭不良が生じ、仕上げ焼鈍後の磁性が劣化する。・・・(略)・・・また、焼鈍温度が750℃未満であると、脱炭速度が遅くなり生産性が低下するだけでなく、脱炭不良が生じ、仕上げ焼鈍後の磁性が劣化する。一方、900℃超であると一次再結晶粒径が所望のサイズを超えてしまうため、仕上げ焼鈍後の磁性が劣化する。また、保持時間が10秒未満であると、脱炭を充分に行うことができないため、仕上げ焼鈍後の磁性が劣化する。一方、600秒超であると一次再結晶粒径が所望のサイズを超えてしまうため、仕上げ焼鈍後の磁性が劣化する。」(【0058】~【0059】)
「本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、焼鈍分離剤として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはBiの塩化物の少なくとも1種であるMClを含有する焼鈍分離剤を用いる。・・・(略)・・・MCl/MgOが2%未満では、フォルステライト被膜の形成を十分に抑制することができずに、粗大なMg複合酸化物が残存することがある。方向性電磁鋼板を変形させる際にはMg複合酸化物に局所的な応力集中が起こりやすく、結果として被膜密着性が損なわれることがある。」(【0065】~【0066】)
すなわち、所定の工程を適切に組み合わせ、C含有量の下限を0.030%とし、Si含有量を0.80%以上とし、Mn含有量を0.01~1.00%とし、脱炭焼鈍時のPH2O/PH2を0.18以上とし、焼鈍分離剤のMCl/MgOを2%以上とすることで、上記(1)の課題を解決し得ると記載されている。
(3)また、本件明細書の実施例の記載(【0092】~【0115】)によれば、少なくとも、熱延工程、冷延工程、脱炭焼鈍工程(以上、【0093】、【0094】参照。)、焼鈍分離剤塗布工程(【0097】参照。)、仕上げ焼鈍工程(【0098】参照。)、焼鈍分離剤除去工程(【0099】参照。)及び絶縁被膜形成工程(【0100】参照。)を備え、次のア~オの条件を満たす、発明例B1~B44の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記(1)の課題を解決し得るものである。
ア 鋼について、化学組成として、質量%で、
C:0.030~0.100%、
Si:0.80~7.00%、
Mn:0.01~1.00%、
S及びSeの合計:0~0.060%、
酸可溶性Al:0.010~0.065%、
N:0.004~0.012%、
Cr:0~0.30%、
Cu:0~0.40%、
P:0~0.50%、
Sn:0~0.30%、
Sb:0~0.30%、
Ni:0~1.00%、
B:0~0.008%、
V:0~0.15%、
Nb:0~0.20%、
Mo:0~0.10%、
Ti:0~0.015%、
Bi:0~0.010%、を含有し、
残部がFeおよび不純物からなるものとすること。
イ 脱炭焼鈍工程では、酸化度であるPH2O/PH2が0.18~0.80である雰囲気下で、焼鈍温度750~900℃で、10~600秒保持を行うこと。
ウ 焼鈍分離剤塗布工程では、焼鈍分離剤がさらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはBiの塩化物の少なくとも1種であるMClを含有し、前記MgOと前記MClとの質量比率であるMCl/MgOを2~40%とすること。
エ 仕上げ焼鈍工程では、雰囲気が、水素を含有する場合には、酸化度を0.00010~0.2とし、水素を含有しない不活性ガスからなる場合には、露点を0℃以下とすること。
オ 絶縁被膜形成工程では、リン酸塩またはコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜のコーティング液を塗布し、350~600℃で焼付け、焼付け後に続けて800~1000℃の温度で熱処理して絶縁被膜を形成すること。
(4)そして、本件発明1は、上記(3)の工程を全て含み、上記(3)のア~オの条件を全て満たすものである。
(5)そうすると、請求項1及びそれを引用する請求項2~6に係る発明は、上記(1)の課題を解決し得るものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
(6)なお、申立人は、「中間層」の種類や形態は被膜密着性に影響を及ぼすから、「中間層」の種類や形態が特定されていない本件発明1~6は、サポート要件を満たしていないと主張している(特許異議申立書第9頁第5行~第12頁第4行)。
(7)しかしながら、上記(1)~(5)で検討したとおり、「中間層」の種類や形態にかかわらず、本件発明1~6は、上記(1)の課題を解決し得るものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
(8)すなわち、本件発明1~6の製造方法によって形成された「中間層」を含む方向性電磁鋼板は、上記(1)の課題を解決し得るものであるといえる。
(9)また、「中間層」の種類や形態によっては、上記(1)の課題解決に悪影響を与えるとの疑義が生じる程度の根拠も示されていない。
(10)よって、申立人の主張は採用できない。
2 申立理由2(実施可能要件)
(1)本件発明1~6は、上記第2で摘記したとおりのものである。
(2)そして、本件明細書の実施例の記載(【0092】~【0115】)において、製造方法である本件発明により方向性電磁鋼板を製造したことが示されており、本件発明1~6の発明特定事項に、当業者にとって期待し得る程度を超える試行錯誤が必要な事項は存在しない。
(3)よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~6について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
(4)なお、申立人は、本件発明1~6では「中間層」の種類や形態が特定されていないから、「中間層」を形成しようとした場合、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤等が必要となるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~6について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張している。
(5)しかしながら、本件発明1~6は、「中間層」について何ら特定されておらず、その存在も任意であるし、仮に存在したとしても、いかなる種類や形態のものでも包含されるものである。
(6)したがって、本件発明1~6を実施するにあたり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤等が必要であるとはいえない。
(7)よって、申立人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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