特許異議申立
2024-700036
ガスバリア積層体及び包装袋
- 審判番号
- 2024-700036
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-083019
- 登録番号
- 7332070
- 請求日
- 2024年01月18日
- 審決日
- 2024年09月03日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【権利者代理人】上村 勇太
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 【異議申立人】早川 いづみ
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 西堀 宏之
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7332070号発明「ガスバリア積層体及び包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7332070号の特許請求の範囲を、令和6年6月6日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
特許第7332070号の請求項1~9、11に係る特許を維持する。
特許第7332070号の請求項10に係る特許についての特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7332070号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和4年6月30日を出願日とする特願2022-105772号の一部を令和5年5月19日に新たな特許出願として出願したものであって、令和5年8月15日に特許権の設定登録がされ、令和5年8月23日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 1月18日 :特許異議申立人渡辺陽子(以下「申立人A」という。)による請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「申立A」という。)
令和6年 2月 6日 :特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人B」という。)による請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「申立B」という。)
令和6年 2月16日 :申立Aに対する手続補正書の提出
令和6年 3月 8日 :申立Bに対する手続補正書の提出
令和6年 4月12日付け:取消理由通知書
令和6年 6月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 6月27日 :意見書及び訂正請求書に対する手続補正書の提出
令和6年 8月 6日 :申立人Aによる意見書(以下「意見書A」という。)の提出
令和6年 8月 6日 :申立人Bによる意見書(以下「意見書B」という。)の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年6月6日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第7332070号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記基材は、ポリオレフィンを含む樹脂フィルムを有し」を、
「前記基材は、延伸ポリプロピレンフィルムであり」
に訂正し、
「前記ガスバリア積層体に対してレトルト処理を実施した後、ナノインデンテーション法で測定された前記接着層の硬さは、0.1MPa以上0.9MPa未満である、ガスバリア積層体」を、
「前記基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%以下であり、
前記ガスバリア積層体に対してレトルト処理を実施した後、ナノインデンテーション法で測定された前記接着層の硬さは、0.1MPa以上0.9MPa未満である、ガスバリア積層体。
MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~9、11も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、
「前記基材は、ポリオレフィンを含む樹脂フィルムを有し」を、
「前記基材は、延伸ポリプロピレンフィルムであり」
に訂正し、
「前記ガスバリア積層体に対してレトルト処理を実施した後、ナノインデンテーション法で測定された前記接着層の硬さは、0.1MPa以上0.9MPa未満である、ガスバリア積層体」を、
「前記基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%以下であり、
前記ガスバリア積層体に対してレトルト処理を実施した後、ナノインデンテーション法で測定された前記接着層の硬さは、0.1MPa以上0.9MPa未満である、ガスバリア積層体。
MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)」
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3~9、11も同様に訂正する。)。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7において、
「前記樹脂フィルムと、前記シーラント層とのそれぞれは、ポリオレフィンフィルムであり」を、
「前記シーラント層は、ポリオレフィンフィルムであり」
に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。)。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8において、
「前記樹脂フィルムは、延伸ポリプロピレンフィルムであり、前記シーラント層は、無延伸ポリプロピレンフィルムである」を、
「前記シーラント層は、無延伸ポリプロピレンフィルムである」
に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(6) 一群の請求項
本件訂正前の請求項1及び3~11は、請求項3~11が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的または間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1及び3~11に対応する訂正後の請求項1及び3~11は、一群の請求項である。
本件訂正前の請求項2~11は、請求項3~11が、本件訂正の対象である請求項2の記載を直接的または間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項2~11に対応する訂正後の請求項2~11は、一群の請求項である。
そして、これらの一群の請求項は共通する請求項3~11を有するので、これらの一群の請求項は組み合わされて、訂正前の請求項1~11に対応する訂正後の請求項1~11は一群の請求項であるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~11〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1) 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「前記基材は、延伸ポリプロピレンフィルムであり」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における基材を具体的に特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
また、訂正後の請求項1は、「前記基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%%以下であり、」「MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における基材のMD方向の熱収縮率の範囲を具体的に特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「延伸ポリプロピレンフィルムである基材」については、本件特許明細書の【0027】に基づく訂正である。
また、「基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%%以下」である点については、本件特許明細書の【0122】~【0123】、【0129】~【0134】の【表1】~【表6】、【0136】に基づく訂正であり、「MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)」については、本件特許明細書の【0123】に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当しない。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(2) 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2において、「前記基材は、延伸ポリプロピレンフィルムであり」との記載により、訂正後の請求項2に係る発明における基材を具体的に特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
また、訂正後の請求項2は、「前記基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%%以下であり、」「MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)」との記載により、訂正後の請求項2に係る発明における基材のMD方向の熱収縮率の範囲を具体的に特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「延伸ポリプロピレンフィルムである基材」については、本件特許明細書の【0027】に基づく訂正である。
また、「基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%%以下」である点については、本件特許明細書の【0122】~【0123】、【0129】~【0134】の【表1】~【表6】、【0136】に基づく訂正であり、「MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)」については、本件特許明細書の【0123】に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当しない。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(3) 訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1及び訂正事項2によって、請求項1及び請求項2の基材について「前記基材は、延伸ポリプロピレンフィルムであり」と訂正したことに伴い、請求項1又は2を引用する請求項7において重複する記載を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(4) 訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項1及び訂正事項2によって、請求項1及び請求項2の基材について「前記基材は、延伸ポリプロピレンフィルムであり」と訂正したことに伴い、請求項1又は2を引用する請求項8において重複する記載を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(5) 訂正事項5
訂正事項5は、請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
3 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1~5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~9、11に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9、11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
バリアコートが設けられる基材を有するバリア層と、
前記バリア層に重なるシーラント層と、
前記バリア層及び前記シーラント層を接着し、2液硬化型のウレタン系接着剤を含む接着層と、
を備えるガスバリア積層体であって、
前記基材は、延伸ポリプロピレンフィルムであり、
前記ガスバリア積層体におけるポリオレフィンの合計質量の割合は、90質量%以上であり、
前記基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%以下であり、
前記ガスバリア積層体に対してレトルト処理を実施した後、ナノインデンテーション法で測定された前記接着層の硬さは、0.1MPa以上0.9MPa未満である、
ガスバリア積層体。
MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)
【請求項2】
バリアコートが設けられる基材を有するバリア層と、
前記バリア層に重なるシーラント層又は最外層と、
前記バリア層と前記シーラント層又は前記最外層とを接着し、2液硬化型のウレタン系接着剤を含む接着層と、
を備えるガスバリア積層体であって、
前記基材は、延伸ポリプロピレンフィルムであり、
前記ガスバリア積層体におけるポリオレフィンの合計質量の割合は、90質量%以上であり、
前記基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%以下であり、
前記ガスバリア積層体に対してレトルト処理を実施した後、ナノインデンテーション法で測定された前記接着層の硬さは、0.1MPa以上0.9MPa未満である、
ガスバリア積層体。
MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)
【請求項3】
前記バリア層は、前記基材と前記バリアコートとの間に位置するアンカーコート層及び蒸着層をさらに有し、
前記アンカーコート層は、前記基材と前記蒸着層との間に位置する、請求項1又は2に記載のガスバリア積層体。
【請求項4】
前記蒸着層の厚さは、5nm以上80nm以下である、請求項3に記載のガスバリア積層体。
【請求項5】
前記レトルト処理の実施前、ナノインデンテーション法で測定された前記接着層の硬さは、1.0MPa以上である、請求項1又は2に記載のガスバリア積層体。
【請求項6】
前記接着層の厚さは、0.5μm以上10μm以下である、請求項1又は2に記載のガスバリア積層体。
【請求項7】
前記シーラント層は、ポリオレフィンフィルムであり、
前記積層体におけるポリオレフィンの合計質量の割合は、92.5質量%以上である、請求項1又は2に記載のガスバリア積層体。
【請求項8】
前記シーラント層は、無延伸ポリプロピレンフィルムである、請求項7に記載のガスバリア積層体。
【請求項9】
前記バリア層に重なる最外層と、
前記最外層及び前記バリア層を接着する第2接着層と、
をさらに備え、
前記接着層は、前記基材と前記シーラント層とを接着し、
前記第2接着層は、前記バリアコートと前記最外層とを接着する、請求項1又は2に記載のガスバリア積層体。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のガスバリア積層体の製袋物である、包装袋。」
第4 取消理由通知の概要
訂正前の請求項1~11に係る発明に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1(実施可能要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明の接着層及び第2接着層は、2液硬化型ウレタン系接着剤を含み、ガスバリア積層体に対してレトルト処理を実施した後、ナノインデンテーション法で測定された硬さが、0.1MPa以上0.9MPa未満というものであるが、本件特許明細書には、当該接着層及び第2接着層の硬さを上記範囲に調整するために、主剤及び硬化剤として、具体的にどのようなものを用いればよいか、これらの配合割合はどのようにすればよいか、2液を混合した後の硬化条件はどのようにすればよいか等についての具体的な指針又は技術常識は記載されていない。また、実施例において用いられている2液型の接着剤についても、具体的な開示はない。
そのため、当業者が本件特許明細書の記載に従ってガスバリア積層体を製造しようとしても、上記範囲の硬さを有する接着層及び第2接着層とするには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものである。
理由2(サポート要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)基材及び最外層のMD方向の熱収縮率の上限値が特定されていない点について
本件発明は基材や最外層がレトルト処理により熱収縮した際に、隣接する接着層及び第2接着層をその熱収縮に追従できるような硬さの範囲に特定するものであるから、接着層及び第2接着層の硬さは、基材や最外層のレトルト処理時の加熱温度や加熱時間に応じて変化する熱収縮率の値に対応すべき硬さとする必要性があるところ、請求項1~11には、MD方向の熱収縮率の上限値が特定されておらず、基材層及び最外層のMD方向の熱収縮率を2%とした実施例に対応する接着層及び第2接着層の硬さの範囲で、どのような熱収縮率であっても「レトルト処理後においてもガスバリア性を良好に発揮する」という課題を解決できるとはいえない。
(2)TD方向熱収縮率が規定されていない点について
レトルト処理の温度範囲においては基材や最外層のTD方向への熱収縮の発生も想定されるため、接着層及び第2接着層は、基材及び最外層のTD方向への収縮にも追従する必要があるところ、TD方向の熱収縮率が規定されない請求項1~11において、「レトルト処理後においてもガスバリア性を良好に発揮する」という課題を解決できるとはいえない。
(3)最外層の加熱温度の不整合について
請求項10の「最外層を120℃で15分間さらした後、前記式(1)で求められる前記最外層のMD方向の熱収縮率が1%以上」について本件特許明細書等にはそのような事項は記載されていない。
第5 当審の判断
1 参考文献(特許権者が令和6年6月6日の意見書に添付して乙第1、3~6号証として提出したもの。)
参考文献1:西尾省治(外2名)、“エージング工程の不要なラミネート用ポリエチレン”、東ソー研究・技術報告、2013年、第57巻、p.45-47
参考文献2:中山雍晴、“架橋反応ハンドブック”、丸善出版株式会社、2013年7月30日、p.157~158
参考文献3:国際公開第2015/060147号
参考文献4:特開2022-3650号公報
参考文献5:国際公開第2019/070078号
2 判断
(1) 理由1(実施可能要件)についての判断
本件発明は、2液硬化型のウレタン系接着剤であるから、ポリオールとイソシアネートとの反応により硬化するものであり、主剤・硬化剤の種類・組み合わせは、一定の範囲で限定されたものであるといえる。
そして、2液硬化型の接着剤に関して、接着層の硬度が、接着剤に含まれる材料の割合、樹脂の種類、分子量、乾燥温度、接着剤の反応時間などの条件変更によって調整できることは、技術常識である(例えば、参考文献1のP45左欄第7行~第16行、参考文献2のP265の2.(2)第1行~第6行、参考文献3の[0032]、参考文献4の【0055】、参考文献5の[0047]等も参照。)。
そうすると、当業者が、本件特許明細書の記載に従って本件発明のガスバリア積層体を製造するにあたって、過度の試行錯誤を要するものとはいえず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
(2) 理由2(サポート要件)についての判断
ア 基材及び最外層のMD方向の熱収縮率の上限値が特定されていない点について
本件訂正により、本件発明1、2は「基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%以下であり、」「MD方向の熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(1)」と訂正され、その上限値が特定された。
そして、本件特許明細書の【0136】、【表1】~【表6】における実施例1~36の試験結果では、基材の熱収縮率が2%で、接着層の硬さが0.1MPa以上0.9MPa未満である場合に、低い酸素透過度を実現できガスバリア性を良好に発揮できる結果が示されている。
そうすると、本件発明1、2に特定される構成により、本件特許明細書の記載から把握される課題が解決できることを、当業者であれば認識できる。
よって、本件発明1~9、11は、発明の詳細な説明に記載したものである。
イ TD方向熱収縮率が規定されていない点について
本件発明は、本件特許明細書の【0077】に記載されるように、接着層の硬さを0.1MPa以上0.9MPa未満とすることで、接着層が、レトルト処理、ボイル処理などの加熱処理に伴う基材の伸縮に対して良好に追従でき、バリア層とシーラント層との間における剥離や、冷却時などにおける接着層のクラック発生による損傷発生が抑制できるようになるため、本件特許明細書【0005】の課題である「レトルト処理後においてもガスバリア性を良好に発揮可能なガスバリア積層体及び包装袋の提供」が解決されるものである。
ここで、本件発明における基材の熱収縮率の測定方法についてみると、本件特許明細書の【0122】~【0123】に記載されるように、基材を所定の寸法に切り出した測定サンプルをオーブン内で所定時間加熱し、加熱前後の寸法変化を測定し、この変化の割合に基づいて熱収縮率が算出されている。この寸法変化の測定は、加熱前の測定サンプルに形成した直線と目盛り線とを用いて行われるが、MD方向(直線L1-L2間の寸法変化)に加え、TD方向(直線L3-L4間の寸法変化)をも測定可能となるように形成されている。
そして、延伸ポリプロピレンフィルムからなる基材において、MD方向及びTD方向の両方向で熱収縮が発生することは技術常識であるから、本件発明の基材においても、上記の測定においてTD方向の熱収縮も当然に発生するが、【表1】~【表6】に接着層硬さ別に示される実施例の結果をみると、基材のMD方向の熱収縮率が2.0%であり、接着層の硬さが0.1MPa以上0.9MPa未満である実施例については、比較例と比較して低いOTRを実現できていることが理解できる。すなわち、MD方向のみの熱収縮率を規定することで、接着層が加熱処理に伴う基材の伸縮に対して良好に追従可能となり、本件発明の「レトルト処理後においてもガスバリア性を良好に発揮可能なガスバリア積層体及び包装袋の提供」の課題が解決されるものと認められる。
なお、本件特許明細書の【0075】、【0076】には、基材のMD方向及びTD方向の熱収縮率に関して、下限値が「1%以上」であり、上限値が「例えば、12%以下、11%以下、10%以下、9%以下、8%以下、又は、7%以下である」と、いずれも同様の記載が並列してなされている。これらのことを踏まえれば、本件発明1が、TD方向の熱収縮率がMD方向の熱収縮率と同程度以下となるように設定されるものであることは、当業者であれば当然に理解する事項でもある。
そうしてみると、TD方向における熱収縮率の特定がないとしても、本件発明1、2に特定される構成は、本件特許明細書の記載から把握される課題が解決できることを、当業者であれば認識できる。
よって、本件発明1~9、11は、発明の詳細な説明に記載したものである。
ウ 最外層の加熱温度の不整合について
本件訂正により、本件発明10は削除された。
よって、本件発明10における最外層の加熱温度の記載に起因する取消理由は解消した。
3 申立人の主張について
(1) 理由1(実施可能要件)について(申立A、申立B)
申立人A、Bはそれぞれ意見書A、Bにおいて、2液硬化型のウレタン系接着剤について、ガスバリア積層体に対してレトルト処理を実施した後、ナノインデンテーション法で測定された硬さが、0.1MPa以上0.9MPa未満に調整することが、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものである旨主張している。
しかしながら、上記2(1)のとおり、2液硬化型のウレタン系接着剤であるから、主剤・硬化剤の種類・組み合わせは、一定の範囲で限定されており、また、2液硬化型の接着剤に関して、接着層の硬度が、接着剤に含まれる材料の割合、樹脂の種類、分子量、乾燥温度、接着剤の反応時間などの条件変更によって調整できることは、技術常識であることを踏まえれば、上記の硬さの範囲に調整することが、当業者に対して過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
よって、上記主張を採用することはできない。
(2) 理由2(サポート要件)について
ア 申立人A、Bはそれぞれ意見書A、Bにおいて、第4の理由2(サポート要件)(1)、(3)については、何ら主張をしていない。
そして、同(2)については、意見書A、意見書Bにおいて、延伸ポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率が、MD方向の熱収縮率よりも高い材料が存在することが周知技術であるため、TD方向の熱収縮率を規定しない本件発明はサポート要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、上記2(2)イのとおり、本件発明1、2が、MD方向のみの熱収縮率を規定することで、接着層が加熱処理に伴う基材の伸縮に対して良好に追従可能となり、本件発明の課題が解決されるものであるし、TD方向の熱収縮率がMD方向の熱収縮率と同程度以下となるように設定されたものであることも、当業者であれば当然に理解する事項である。
よって、上記主張を採用することはできない。
イ 申立人Aは意見書Aにおいて、訂正事項1、2の「前記基材を150℃で15分間さらした後、下記式(1)で求められる前記基材のMD方向の熱収縮率が1%以上2.0%以下であり、」の訂正について、請求項1、2の「基材を150℃で・・・」との記載は、本件特許明細書の【0123】「(e)所定の温度(150℃又は160℃) に加熱したオーブン内のガラス板上に、・・・」の記載を根拠としていると認められるが、「150℃」で加熱された後に測定されたものであるかどうかは定かではないため、実施例の裏付けを伴って、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであるとはいえない旨主張している。
しかしながら、本件特許明細書の【0123】の記載からみて、温度条件としては150℃または160℃のいずれかであり、特許請求の範囲において150℃で特定される点を考慮すれば、実施例における温度条件は150℃であることは自明であるといえ、「基材を150℃で・・・」については、発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、上記主張を採用することはできない。
第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由(サポート要件(申立A、申立B))
(1)【表1】の実施例3~6のOTRの値の方が、【表2】の比較例4~6のOTRの値よりも大きく、実施例3~6のガスバリア性は比較例4~6よりも劣っている。そのため、実施例3~6は、請求項1、2に係る発明の発明特定事項のすべてを充足するにもかかわらず、課題を解決できているとはいえない比較例相当の具体例といえるから、請求項1、2に係る発明は、課題を解決できない具体的態様を包含するものであり、サポート要件を充足しない。
(2)請求項1、2に係る発明では、レトルト処理の条件について特定されておらず、実施例のレトルト処理条件(130℃、60分)以外の場合には、課題を解決できない態様を包含する蓋然性が高いものであるから、サポート要件を充足しない。
(3)実施例において用いられている接着剤について、2液型ではあるもののウレタン系接着剤であるかどうかは特定がなく不明であるため、2液硬化型のウレタン系接着剤を含む接着層の硬さを特定範囲とすることによる課題解決は、実施例による裏付けを伴うものではないため、サポート要件を充足しない。
(4)請求項5に係る発明のレトルト処理の実施前の接着層硬さについて、実施例及び比較例では、レトルト処理前の接着層の硬さは測定されておらず、サポート要件を充足しない。
2 当審の判断
本件発明が解決しようとする課題は【0005】に記載のとおり、「レトルト処理後においてもガスバリア性を良好に発揮可能なガスバリア積層体及び包装袋」を提供することである。そして、本件発明1、2の構成により、当該課題が解決できることを当業者が認識できるものである。よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
以下、上記1の申立理由について検討する。
(1)【表1】における実施例3~6と、【表2】における比較例4~6とでは、バリアコートに用いるコーティング液が異なるものであり、コーティング液が共通である実施例と比較例とを比較すれば、【表1】~【表6】の全ての実験結果において、実施例のOTRは比較例のOTRよりも小さい値となっている。
そうしてみると、本件発明1、2に特定される接着層の硬さの構成により、本件特許明細書の記載から把握される課題が解決できることを当業者であれば認識できるものである。
(2)実施例のレトルト処理条件(130℃、60分)は、本件特許明細書【0021】に記載される一般的なレトルト処理条件の範囲に包含されるものである。
そして、本件発明は、MD方向の熱収縮率が1%以上2.0%以下となる基材を用い、レトルト処理後の接着層硬さを0.1MPa以上0.9MPa未満とすることで、接着層が、レトルト処理、ボイル処理などの加熱処理に伴う基材の伸縮に対して良好に追従するものであり、レトルト処理の条件が特定の有無に関係なく、本件特許明細書の記載から把握される課題が解決できることを当業者であれば認識できるものである。
(3)実施例の接着剤がウレタン系接着剤であるかどうかの明記はないが、本件特許明細書【0072】の「2液硬化型のウレタン系接着剤を好ましく用いることができる。」との記載と、本件発明において2液硬化型のウレタン系接着剤が特定される点を考慮すれば、実施例における接着剤がウレタン系接着剤であることは自明である。
(4)実施例の接着剤のレトルト処理前の接着層硬さについて明記はないが、本件特許明細書【0077】には、「レトルト処理の実施前における接着層30の硬さは特に限定されないが、例えば1.0MPa以上である」との記載があることから、実施例における接着剤のレトルト処理前の硬さが1.0MPa以上であることは自明である。
第7 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~9、11係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~9、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正により、請求項10に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700036