特許異議申立
2024-700035
ポリウレタンフォーム
- 審判番号
- 2024-700035
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-520505
- 登録番号
- 7320158
- 請求日
- 2024年01月18日
- 審決日
- 2025年03月19日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社イノアックコーポレーション
- 【異議申立人】佐藤 和弘
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 岡谷 祐哉
- 分類
- P1651.121-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7320158号発明「ポリウレタンフォーム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7320158号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。
特許第7320158号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7320158号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、令和3年10月18日を国際出願日とする特願2023-520505号であって、令和5年7月25日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年8月2日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、令和6年1月18日に特許異議申立人 佐藤 和弘(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされた。
その後の経緯は、次のとおりである。
令和6年 2月15日付け:手続補正指令書(方式)
同年 2月29日 :手続補正書(方式)の提出(特許権者)
同年 3月25日付け:取消理由通知書
同年 5月 7日 :意見書の提出(特許権者)
同年 8月29日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年10月 3日 :面接記録(特許権者)
同年10月 7日 :応対記録(特許権者:最初の応対日)
同年10月18日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
令和7年 1月16日付け:訂正請求があった旨の通知書
同年 2月17日 :意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年10月18日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)ないし(4)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に、「請求項1に記載のポリウレタンフォームであって、」と記載されているものを、
「ポリオール成分、ポリイソシアート発泡剤を含むポリウレタンフォーム組成物から得られるポリウレタンフォームにおいて、
前記ポリオール成分はヒマシ油とセバシン酸との反応物、及び石油由来のポリオールを含み、
ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上であることを特徴とするポリウレタンフォームであって、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「前記ポリオール成分には、前記ポリオール成分100量部中に、ヒマシ油とセバシン酸との反応物を含むヒマシ油ポリオールを15質量部以上含み、」との事項を追加する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「ポリレウレタンフォーム。」と記載されているものを、「ポリウレタンフォーム。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に、「24時間乾燥後吸水率(%)=(24時間放置後のサンプルの重量)/(洗濯前のサンプルの重量)×100」と記載されているものを、「24時間乾燥後吸水率(%)=(24時間放置後のサンプルの重量-洗濯前サンプルの重量)/(洗濯前のサンプルの重量)×100」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1、2について、請求項2は請求項1を引用しているものである。
したがって、訂正前の請求項1、2に対応する訂正後の請求項1、2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正後の請求項2について、特許権者は、当該訂正が認められるときに、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものである。そして、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2の訂正は、訂正前の請求項1の「ポリウレタンフォーム」について、本件明細書に記載された「それらのなかでも、ヒマシ油を原料として製造されたヒマシ油ポリオールは、植物由来ポリオールとして好適な一例である。」(【0013】)、「植物由来ポリオールの量は、ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が24%以上となるように決定されるが、ポリオール成分100質量部中に15質量部以上が好ましく、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上である。」(【0015】)との記載があり、本件明細書の実施例には、ポリオール成分として、ヒマシ油とセバシン酸との反応物を含むヒマシ油ポリオールを用いたものが具体的に記載されていることを根拠に、「前記ポリオール成分には、前記ポリオール成分100量部中に、ヒマシ油とセバシン酸との反応物を含むヒマシ油ポリオールを15質量部以上含み、」を追加することにより、その成分を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(3)訂正事項3による訂正について
訂正事項3による請求項1についての訂正は、「ポリレ」が「ポリ」の誤記であるのは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4による訂正について
訂正事項4による請求項2についての訂正は、以下に述べるように、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
本件明細書の【0040】に「24時間乾燥後吸水率は、2回目脱水コース終了後のサンプルを24時間室温(20~28℃を室温という。)で放置し、その後のサンプルの重量から吸水率を算出した。24時間乾燥後の吸水率は次式による。
24時間乾燥後の吸水率(%)=(24時間放置後のサンプルの重量)/(洗濯前のサンプルの重量)×100
24時間乾燥後の吸水率の値を図3に示す。」と記載されている。
ここで、通常、「吸水率」とは、対象に含まれる水の重さを、対象の重さで除したものであることが技術常識と認められ(例えば、JISK7209:2000 プラスチック-吸水率の求め方の第6頁7.結果の表し方を参照。)、また、本件明細書においても、「洗濯後吸水率」、「脱水後吸水率」についてはそのような計算式により求められるものとなっていることから、上記【0040】の「24時間乾燥後吸水率」の式と同じである請求項2に記載の式は、明りょうでない記載である。
一方、図3の、例えば実施例1を参照すると、「洗濯前」の「重量(g)」は17.45、「24時間乾燥後」の「重量(g)」は17.46、「吸水率(%)」は0.06であることが記載されており、図3の「24時間乾燥後」は、【0040】の「24時間放置後」と同義と解される。
そうすると、上記【0040】の式の右辺に、図3の値を代入すると、
17.46/17.45×100=100.06となり、明らかに0.06と異なる値となる。
そこで、「24時間乾燥後吸水率」について、本件明細書における「洗濯後吸水率」、「脱水後吸水率」と同様に、対象に含まれる水の重さである、「24時間放置後のサンプルの重量」と「洗濯前のサンプルの重量」の差について、対象の重さで除したものとする。すなわち、
24時間乾燥後の吸水率(%)=(24時間放置後のサンプルの重量-洗濯前のサンプルの重量)/(洗濯前のサンプルの重量)×100
とし、右辺に図3の値を代入すると
(17.46-17.45)/17.45×100=0.06となり、図3の値と一致する。
したがって、請求項2の「24時間乾燥後の吸水率(%)」は、「(24時間放置後のサンプルの重量-洗濯前のサンプルの重量)/(洗濯前のサンプルの重量)×100」を意味するものであったと解され、訂正事項4は、請求項2の「24時間乾燥後の吸水率(%)」を明瞭にするものであるといえる。
そして、訂正事項4による請求項2についての訂正は、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 独立特許要件について
特許異議の申立ては、請求項1、2の全てに対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号のいずれかに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、一群の請求項である訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、項番に従い「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1、2を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ポリオール成分、ポリイソシアネート、発泡剤を含むポリウレタンフォーム組成物から得られるポリウレタンフォームにおいて、
前記ポリオール成分は、ヒマシ油とセバシン酸との反応物、及び、石油由来のポリオールを含み、
前記ポリオール成分には、前記ポリオール成分100質量部中に、ヒマシ油とセバシン酸との反応物を含むヒマシ油ポリオールを15質量部以上含み、
ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上であることを特徴とするポリウレタンフォーム。
【請求項2】
ポリオール成分、ポリイソシアネート、発泡剤を含むポリウレタンフォーム組物から得られるポリウレタンフォームにおいて、
前記ポリオール成分は、ヒマシ油とセバシン酸との反応物、及び、石油由来のポリオールを含み、
ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上であることを特徴とするポリウレタンフォームであって、
以下の測定方法で測定された前記ポリウレタンフォームの洗濯後吸水率、脱水後吸水率、24時間乾燥後吸水率は、
前記ポリウレタンフォームがスラブ発泡品の場合、前記洗濯後吸水率が200%未満、前記脱水後吸水率が185%末満、前記24時間乾燥後吸水率が3%未満であり、
前記ポリウレタンフォームがモールド発泡品の場合、前記洗濯後吸水率が100%未満、前記脱水後吸水率が95%未満、前記24時間乾燥後吸水率が10%未満であることを特徴とするポリウレタンフォーム。
洗濯後吸水率の測定方法は、縦型洗濯機を用い、表1に示す1回目洗濯コース、2回目洗濯コース、3回目洗濯コースを、前記ポリウレタンフォームのサンプルについて順に実施し、各洗濯コース終了毎に前記サンプルの重量を測定して吸水率を算出し、3回目洗濯コース終了後の吸水率の値を前記洗濯後吸水率とした。
洗濯後吸水率(%)=(各回の洗濯コース後サンプルの重量-洗濯前サンプルの重量)/
(洗濯前サンプルの重量)×100
脱水後吸水率の測定方法は、3回目洗濯コース終了後に、表1に示す1回目脱水コースと2回目脱水コースを順に行い、各回の脱水コース終了毎に、前記サンプルの重量を測定して吸水率を算出し、2回目脱水コース終了後の吸水率を前記脱水後吸水率とした。
脱水後吸水率(%)=(各回の脱水コース後サンプルの重量-洗濯前サンプルの重星)/(洗濯前サンプルの重量)×100
24時間乾燥後吸水率は、2回目脱水コース終了後の前記サンプルを24時間室温(20~28℃を室温という。)で放置し、その後の前記サンプルの重量から前記24時間乾燥後吸水率を算出した。
24時間乾燥後吸水率(%)=(24時間放置後のサンプルの重量-洗濯前サンプルの重量)/(洗濯前のサンプルの重量)×100
【表1】
[図:0001423457000001.jpg]
」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法等及び取消理由通知の概要
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法
令和6年1月18日に申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証、甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・石油由来炭素は、実施例1,2におけるポリウレタンフォームの原料のうち、石油由来ポリオール、ポリイソシアネート、アミン触媒、整泡剤および金属触媒に含まれている。発明の実施の形態には、石油由来ポリオール、ポリイソシアネート、アミン触媒、整泡剤および金属触媒を使用して実施例におけるポリウレタンフォームを製造することしか記載されていないから、ポリウレタンフォームに含まれる炭素が全てバイオマス由来炭素であるもの、すなわちバイオマス度が100%のポリウレタンフォームは発明の実施の形態に記載されていない。本件特許発明1のバイオマス度を、バイオマス度が58%、57%の実施例1、2のみに基づいて、50%以上100%以下の範囲に拡張できる理由がない。
(3)証拠方法
特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証:特開2017-125191号公報(以下「甲1」という。)
・甲第2号証:特開2011-252039号公報(以下「甲2」という。)
2 取消理由の概要
当審が令和6年8月29日付けで特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由の概要はおおむね次のとおりである。
取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件明細書には、バイオマス度が50%以上であることにより課題を解決する作用機序は記載されていない。また、ポリマーを構成する炭素が石油由来かバイオマス由来かの違いはポリマーの物性に影響しないというのが本願出願時の技術常識であって、ポリウレタンフォームが所定値以上のバイオマス度であることによって、洗濯後の乾燥性が良好になると解することはできない。
取消理由2(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)本件請求項1には「ポリレウレタンフォーム」と記載されているが、一般的な用語でなく、意味するところが不明である。
(2)本件請求項2には「24時間乾燥後吸水率(%)=(24時間放置後のサンプルの重量)/(洗濯前のサンプルの重量)×100」と記載されているが、他の「吸水率」の式と対応しておらず、また、本件明細書の実施例の数値とも整合せず、意味するところが不明である。
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由、及び、申立書に記載した申立理由によっては、本件特許発明1及び2に係る特許は取り消すことはできない。
1 取消理由通知に記載した取消理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 本件発明の課題
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
本件特許発明の課題は、本件明細書の【0005】等から、「洗濯後の乾燥性が良好なポリウレタンフォームの提供」であると認められる。
イ 本件発明1について
本件明細書には「ヒマシ油を原料として製造されたヒマシ油ポリオールは、植物由来ポリオールとして好適な一例である。」(【0013】)、「ヒマシ油ポリオールは、変性ヒマシ油ポリオール、未変性ヒマシ油ポリオールの何れでもよく、あるいは両方を含んでいてもよい。変性ヒマシ油ポリオールは、ヒマシ油とヒマシ油以外の油脂とのエステル交換反応物、ヒマシ油と油脂脂肪酸とのエステル交換反応物、ヒマシ油と多価アルコールとのエステル交換反応物、ヒマシ油脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応物、ヒマシ油に含まれる水酸基の一部と酢酸などのモノカルボン酸とのエステル化反応物、これらにアルキレンオキサイドを付加重合した反応物、これらに水素を付加した水素添加物等が挙げられる。未変性ヒマシ油ポリオールは、精製ヒマシ油ポリオール、半精製ヒマシ油ポリオール、未精製ヒマシ油ポリオール等が挙げられる。」(【0014】)、「植物由来ポリオールの量は・・・ポリオール成分100質量部中に15質量部以上が好ましく、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上である。」(【0015】)と記載されている。
本件明細書の実施例(【0031】~【0047】、図1)をみると、ポリオール成分を、未変性(精製処理)ヒマシ油ポリオールである植物由来ポリオール1を60質量部、精製ヒマシ油/セバシン酸=2/1モルからなるヒマシ油ポリオールである植物由来ポリオール2を20質量部、石油由来ポリオール3を20.45質量部配合したポリオール組成物から形成されたスラブ発泡品のポリウレタンフォームである実施例1と、実施例1と同じ配合のポリオール組成物から形成されたポリウレタンフォームに対し、除膜処理を行って、セル膜を除去した例である実施例2が示されており、実施例1では、ASTM D6866-20に基づく加速器質量分析法(AMS法)によるバイオマス度が58%、洗濯後吸水率が169.9、脱水後吸水率が137.0、24時間乾燥後吸水率が0.06で、洗濯後乾燥性総合評価「◎」となり、実施例2では、AMS法によるバイオマス度が57%、洗濯後吸水率が136.0、脱水後吸水率が107.2、24時間乾燥後吸水率が0.06で、洗濯後乾燥性総合評価「◎」となっている。
一方、ポリオール成分を石油由来ポリオール3の100質量部とし、植物由来ポリオールを0質量部とした、スラブ発泡品のポリウレタンフォームである比較例1は、AMS法によるバイオマス度が1%、洗濯後吸水率が248.4、脱水後吸水率が193.3、24時間乾燥後吸水率が3.95で、洗濯後乾燥性総合評価「×」となっている。
そうすると、当業者は、ポリウレタンフォームにおいて、ヒマシ油とセバシン酸との反応物、及び、石油由来のポリオールを含み、ポリオール成分には、ポリオール成分100質量部中に、ヒマシ油とセバシン酸との反応物を含むヒマシ油ポリオールを15質量部以上含み、ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上である本件特許発明1により、上記課題を解決できると認識できる。
ウ 本件特許発明2について
(ア)スラブ発泡品について
上記イに記載した事項により、当業者は、ポリウレタンフォームにおいて、ヒマシ油とセバシン酸との反応物、及び、石油由来のポリオールを含み、ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上であり、ポリウレタンフォームがスラブ発泡品の場合に、洗濯後吸水率が200%未満、脱水後吸水率が185%未満、24時間乾燥後吸水率が3%未満である本件特許発明2により、上記課題を解決できると認識できる。
(イ)モールド発泡品について
本件明細書の実施例(【0031】~【0047】、図1)をみると、ポリオール成分を、未変性(精製処理)ヒマシ油ポリオールである植物由来ポリオール1を22質量部、精製ヒマシ油/セバシン酸=2/1モルからなるヒマシ油ポリオールである植物由来ポリオール2を17質量部、石油由来ポリオール1を51質量部、石油由来ポリオール2を10質量部配合したポリオール組成物から形成されたモールド発泡品のポリウレタンフォームである実施例4が示されており、実施例4では、ASTM D6866-20に基づく加速器質量分析法(AMS法)によるバイオマス度が27%、洗濯後吸水率が94.0、脱水後吸水率が87.5、24時間乾燥後吸水率が4.1で、洗濯後乾燥性総合評価「◎」となっている。
一方、ポリオール成分を、石油由来ポリオール1を70質量部、石油由来ポリオール2を10質量部、石油由来ポリオール3を20質量部とし、植物由来ポリオールを0質量部とした、モールド発泡品のポリウレタンフォームである比較例2は、AMS法によるバイオマス度が「-」、洗濯後吸水率が115.6、脱水後吸水率が96.4、24時間乾燥後吸水率が13.7で、洗濯後乾燥性総合評価「×」となっている。
ここで、本件明細書において、ポリウレタンフォームがモールド発泡品の場合にASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上である例そのものは記載されていない。
しかしながら、スラブ発泡品である実施例1、2、比較例1に見られる傾向である、ポリオールに占める植物油ポリオールの割合とバイオマス度とは、一方が高くなると他方も高くなるという相関があることを踏まえると、モールド発泡品である実施例4において、ポリオールに占める植物由来ポリオールの割合を、AMS法によるバイオマス度が50%以上となるように増加させると、洗濯後乾燥性評価は、実施例4と同等か、あるいはさらに向上することが推測される。
そうすると、当業者は、ポリウレタンフォームにおいて、ヒマシ油とセバシン酸との反応物、及び、石油由来のポリオールを含み、ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上であり、ポリウレタンフォームがモールド発泡品の場合に、洗濯後吸水率が100%未満、脱水後吸水率が95%未満、24時間乾燥後吸水率が10%未満である本件特許発明2により、上記課題を解決できると認識できる。
(3)小括
よって、本件特許発明1、2は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1、2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
2 取消理由通知に記載した取消理由2(明確性)について
本件特許の請求項1、2の記載は、上記第3のとおりである。
(1)請求項1について
請求項1の「ポリレ」は訂正事項3により「ポリ」に訂正され、明確になった。
(2)請求項2について
上記第2の3(4)で述べたとおり、訂正事項4により請求項2が「24時間乾燥後吸水率(%)=(24時間放置後のサンプルの重量-洗濯前サンプルの重量)/(洗濯前のサンプルの重量)×100」に訂正され、明確になった。
したがって、本件特許発明1、2は明確であるといえる。
3 申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)について
(1)引用文献に記載された事項及び発明
ア 甲1に記載された事項及び発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
「【0019】
・・・
本発明の実施例に使用した配合剤は次の通りである。
・ポリオール成分:OH末端ウレタンプレポリマー
分子量3000官能基数3のポリプロピレングリコール(PPG)/TDI=2モル/1モル混合液を金属触媒の存在下において、80℃で約2時間反応させて合成された末端水酸基であるポリウレタンプレポリマー 水酸基価 36.3 粘度5000mPa・s(25℃)
・ポリオール成分:URIC HF-2050 ヒマシ油系ポリエステルポリオール 水酸基価 90 伊藤製油株式会社製
・ポリオール成分:アクトコール T-3000S 分子量3000官能基数3のPPG 水酸基値56 三井化学SKCポリウレタン株式会社製
・整泡剤:NIAX SILICONE L-636S 反応型シリコーン整泡剤 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製
・発泡剤:水
・難燃剤:FYROL A300TB含ハロゲンりん酸エステル化合物 ICL-IP製・難燃剤:DG580 大八化学工業株式会社製」
「【0020】
・アミン触媒:TEDA-L33 トリエチレンジアミンのDPG溶液(33%含有) 東ソー株式会社製
・スズ触媒:ネオスタンU-28 日東化成株式会社製
・顔料:UT BLACK4903 山陽色素株式会社製
・イソシアネート成分:コスモネートT-80 トリレンジイソシアネート 三井化学SKCポリウレタン株式会社
・撥水剤:PW380 出光興産株式会社製
NCOインデックス イソシアネートインデックス
イソシアネート基と反応しうるポリオール化合物中の全活性水素基濃度に対するポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基濃度の当量比。」
「【0022】
実施例1~5及び比較例1~3
ボックスに均一に流し込み、反応硬化後、ブロック状のポリウレタンフォームを得た。得られたブロック状ポリウレタンフォームの性状を表1に追記する。」
「【0023】
【表1】
[図:0001423457000002.jpg]
」
「【0028】
比較例4、比較例5、実施例11、実施例12
表3に示した配合剤及び配合量を均一に混合し、上記実施例と同様の方法によって250mm×250mm×250mmのブロック状のポリウレタンフォームを得た。得られたポリウレタンフォームの性状を表3に追記する。
【0029】
【表3】
[図:0001423457000003.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
甲1の実施例3に着目すると、甲1には下記の発明が記載されている。
「ポリオール成分である、分子量3000官能基数3のポリプロピレングリコール(PPG)/TDI=2モル/1モル混合液を金属触媒の存在下において、80℃で約2時間反応させて合成された末端水酸基であるポリウレタンプレポリマー(水酸基価36.3 粘度5000mPa・s(25℃))20質量部、及び、
ヒマシ油系ポリエステルポリオール「URIC HF-2050」(水酸基価90 伊藤製油株式会社製)80質量部、
イソシアネート成分であるトリレンジイソシアネート(「コスモネートT-80」、三井化学SKCポリウレタン株式会社製)57.55質量部、
発泡剤である水4.9質量部、
整泡剤である反応型シリコーン整泡剤(「NIAX SILICONE L-636S モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)3.5質量部、
アミン触媒(「TEDA-L33」 トリエチレンジアミンのDPG溶液(33%含有) 東ソー株式会社製)1.10質量部、
スズ触媒(「ネオスタンU-28」 日東化成株式会社製)0.24質量部、
顔料(「UT BLACK4903」 山陽色素株式会社製)4質量部、
をボックスに均一に流し込み、反応硬化後に得られたブロック状のポリウレタンフォーム。」(以下「甲1発明」という。)
イ 甲2に記載された事項
甲2には以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
軟質ポリウレタンフォーム製造用ポリオール成分であって、ポリオール成分中に下記ポリオール(Z)を含有する軟質ポリウレタンフォーム製造用ポリオール成分(A)。
ポリオール(Z):植物由来組成物にプロピレンオキサイドを付加したポリオールであって末端水酸基の1級水酸基率が30~100%のポリオール(Z1)、
植物由来組成物及び/又は(Z1)と2価のカルボン酸とをポリエステル化したポリオール(Z2)、
(Z2)にプロピレンオキサイドを付加したポリオールであって末端水酸基の1級水酸基率が30~100%のポリオール(Z3)並びに
(Z1)~(Z3)にエチレンオキサイドを付加したポリオール(Z4)
からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオールであって、平均官能基数が2~6であり、水酸基価が15~180mgKOH/gであるポリオール。」
「【0009】
ポリオール(Z1)は、植物由来組成物にプロピレンオキサイドを付加したポリオールであって末端水酸基の1級水酸基率が30~100%のポリオールである。
植物由来組成物は、ヒマシ油、大豆油、とうもろこし油及びパーム油が含まれ、食料として消費されない及び臭気が低い観点から、好ましくはヒマシ油である。」
「【0024】
ポリオール(Z2)は、植物由来組成物及び/又は(Z1)と2価のカルボン酸とをポリエステル化したポリオールである。
【0025】
(Z2)において、植物由来組成物は上述したものと同様のものが含まれ、好ましいものも同様である。
【0026】
(Z2)において、2価のカルボン酸としては、炭素数4~36のアルカンジカルボン酸(例えばコハク、アジピン及びセバシン酸)及びアルケニルコハク酸(例えばドデセニルコハク酸);炭素数6~40の脂環式ジカルボン酸〔例えばダイマー酸(2量化リノール酸)〕;炭素数4~36のアルケンジカルボン酸(例えばマレイン、フマル、シトラコン及びメサコン酸);炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸(フタル、イソフタル、テレフタル及びナフタレンジカルボン酸等);並びにこれらのエステル形成性誘導体〔例えば、無水物、低級アルキル(炭素数1~4)エステル(メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル等)等〕;等が挙げられる。」
「【0034】
本発明において、ポリオール成分(A)中には、ポリオール(Z)以外の活性水素成分(A1)を含有してもよく、(A1)としては、例えば(Z)以外のポリオール、モノオール、アミン及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0035】
(A1)のうち、(Z)以外のポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びその他のポリオールが挙げられる。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリオール成分である、分子量3000官能基数3のポリプロピレングリコール(PPG)/TDI=2モル/1モル混合液を金属触媒の存在下において、80℃で約2時間反応させて合成された末端水酸基であるポリウレタンプレポリマー(水酸基価36.3 粘度5000mPa・s(25℃))」、「ヒマシ油系ポリエステルポリオール「URIC HF-2050」(水酸基価90 伊藤製油株式会社製)」は、本件特許発明1の「ポリオール成分」に相当する。
また、甲1発明の「ヒマシ油系ポリエステルポリオール「URIC HF-2050」(水酸基価90 伊藤製油株式会社製)」と本件特許発明1の「ヒマシ油とセバシン酸との反応物」、「ヒマシ油とセバシン酸との反応物とを含むヒマシ油ポリオール」とは、「ヒマシ油由来ポリオール」である限りにおいて一致する。
さらに、甲1発明の「ポリオール成分である、分子量3000官能基数3のポリプロピレングリコール(PPG)/TDI=2モル/1モル混合液を金属触媒の存在下において、80℃で約2時間反応させて合成された末端水酸基であるポリウレタンプレポリマー(水酸基価36.3 粘度5000mPa・s(25℃))」は、本件特許発明1の「石油由来のポリオール」に相当する。
加えて、甲1発明の「イソシアネート成分であるトリレンジイソシアネート(「コスモネートT-80」、三井化学SKCポリウレタン株式会社製)」は、本件特許発明1の「ポリイソシアネート」に相当する。
甲1発明の「発泡剤である水」は、本件特許発明1の「発泡剤」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
「ポリオール成分、ポリイソシアネート、発泡剤を含むポリウレタンフォーム組成物から得られるポリウレタンフォームにおいて、
前記ポリオール成分は、ヒマシ油由来ポリオールを含むことを特徴とするポリウレタンフォーム。」
<相違点1>
ヒマシ油由来ポリオールに関し、本件特許発明1は、「前記ポリオール成分は、ヒマシ油とセバシン酸との反応物」を含むのに対し、甲1発明は、「ヒマシ油系ポリエステルポリオール「URIC HF-2050」(水酸基価90 伊藤製油株式会社製)」を含むものである点
<相違点2>
本件特許発明1は、「前記ポリオール成分には、前記ポリオール成分100質量部中に、ヒマシ油とセバシン酸との反応物を含むヒマシ油ポリオールを15質量部以上含」むのに対し、甲1発明は、「ポリオール成分100質量部中に、ヒマシ油系ポリエステルポリオール「URIC HF-2050」(水酸基価90 伊藤製油株式会社製)を80質量部含む」ものである点
<相違点3>
本件特許発明1は、「石油由来ポリオール」を含むのに対し、甲1発明は、「ポリオール成分である、分子量3000官能基数3のポリプロピレングリコール(PPG)/TDI=2モル/1モル混合液を金属触媒の存在下において、80℃で約2時間反応させて合成された末端水酸基であるポリウレタンプレポリマー(水酸基価36.3 粘度5000mPa・s(25℃))」を含むものである点
<相違点4>
本件特許発明1は、「ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上である」のに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点
事情に鑑み、相違点1について検討する。
甲1には、分子量3000の3官能ポリプロピレンポリオールを用いたOH末端ウレタンプレポリマーとヒマシ油系ポリオールからなるポリオール成分は良好な止水性を示すポリウレタンフォームを形成すること(【0012】)、また、ヒマシ油系ポリエステルポリオールを用いる例(【0019】)が記載されているにとどまり、ヒマシ油とセバシン酸の反応物について記載も示唆もされておらず、ましてやこれを用いることにより洗濯後の乾燥性が良好となることについて何ら記載されていない。
また、甲1発明の「ヒマシ油系ポリエステルポリオール」が「ヒマシ油とセバシン酸との反応物」であることを示す技術常識も見当たらない。
そして、本件明細書には、実施例1、2、4が記載されており、洗濯後の乾燥性が良好となることを具体的に確認できる。
一方、甲2には、ポリウレタンフォームの製造において、「植物由来組成物及び/又は(Z1)と2価のカルボン酸とをポリエステル化したポリオール(Z2)」を用いること(【請求項1】)、「植物由来組成物」としてヒマシ油が好ましいこと(【0009】)、が記載されている。
そして、甲2には、「2価のカルボン酸」として「セバシン酸」を用いることが記載されているものの、多数の化合物の中から、例として記載されているにすぎず、「2価のカルボン酸」として「セバシン酸」を用いることが好ましいこと等について記載されていない。
さらに、甲1には、技術分野について「自動車、住宅、建築、OA機器の分野において使用される止水性シーリング材に関し、特に耐熱性に優れたポリウレタンフォームからなるシーリング材に関する。」(【0001】)と記載され、課題について「熱分解性が高いポリウレタンフォームでありながら高温環境下でも使用でき、従来のものよりも低密度でありながら高耐熱性、高止水性を有する、防水付与剤を使用しないポリウレタンフォームよりなるシーリング材を提供するもの」(【0008】)と記載されている。
また、甲2には、技術分野について「軟質ポリウレタンフォーム製造用ポリオール成分及びこれを用いた軟質ポリウレタンフォームの製造方法に関するものである。」(【0001】)、課題について「反発弾性を向上させることができる軟質ポリウレタンフォーム製造用ポリオール成分を提供すること」、「ソファ、自動車用シート、車両用インストルメントパネルに好適な軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供すること」(【0005】)と記載されている。
そうすると、甲1、甲2には課題、技術分野について共通性がない。
したがって、甲1発明において、甲2の記載を基に、「ヒマシ油系ポリエステルポリオール」として「ヒマシ油とセバシン酸との反応物」を用いることが動機付けられるとはいえない。
そして、甲1、甲2の課題、技術分野は、洗濯とは相違するものだから洗濯性についての効果が予測できない。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものとも認められない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリオール成分:OH末端ウレタンプレポリマー、ポリオール成分:URIC HF-2050 ヒマシ油系ポリエステルポリオール」は、本件特許発明2の「ポリオール成分」に相当する。
甲1発明の「イソシアネート成分:コスモネートT-80」は、本件特許発明2の「ポリイソシアネート」に相当する。
甲1発明の「発泡剤:水」は、本件特許発明2の「発泡剤」に相当する。
甲1発明の「ポリオール成分:OH末端ウレタンプレポリマー」は、本件特許発明1の「石油由来のポリオール」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
「ポリオール成分、ポリイソシアネート、発泡剤を含むポリウレタンフォーム組成物から得られるポリウレタンフォームにおいて、
前記ポリオール成分は、石油由来のポリオールを含むことを特徴とするポリウレタンフォーム。」
<相違点1’>
本件特許発明2は、「前記ポリオール成分は、ヒマシ油とセバシン酸との反応物」を含むのに対し、甲1発明は、「ポリオール成分:URIC HF-2050 ヒマシ油系ポリエステルポリオール」を含むものである点
<相違点3>
本件特許発明2は、「ASTM D6866-20によって測定されるバイオマス度が50%以上である」のに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点
<相違点4>
本件特許発明2は、「ポリウレタンフォームの洗濯後吸水率、脱水後吸水率、24時間乾燥後吸水率」について特定されるのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点
事情に鑑み、相違点1’について検討する。
上記アにおいて示したのと同様に、その余の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1発明、及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものとも認められない。
甲1の実施例4、12に着目して甲1発明を認定した場合についても、上記ア、イにおいて示したのと同様に、本件特許発明1、2は、甲1発明、及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものとも認められない。
ウ 小括
よって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許発明1及び2に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。
(3)申立書の主張について
申立人は、申立書の11~12頁において、甲1発明のヒマシ油系ポリエステル系ポリオールのうち、甲2のヒマシ油とセバシン酸とをポリエステル化したポリオールを採用することは、均等物による置換にすぎず、設計変更等に相当する旨主張する。
しかしながら、(2)アで述べたように、甲1にはヒマシ油とセバシン酸とをポリエステル化したポリオールは記載されていない。
また、甲1における「ヒマシ油系ポリエステルポリオール」は「熱分解性が高いポリウレタンフォームでありながら高温環境下でも使用でき、従来のものよりも低密度でありながら高耐熱性、高止水性を有する、防水付与剤を使用しないポリウレタンフォームよりなるシーリング材を提供するもの」(【0008】)のために用いられ、甲2における「植物由来組成物及び/又は(Z1)と2価のカルボン酸とをポリエステル化したポリオール」である「ポリオール(Z2)」は「反発弾性を向上させることができる軟質ポリウレタンフォーム製造用ポリオール成分を提供すること」、「ソファ、自動車用シート、車両用インストルメントパネルに好適な軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供すること」(【0005】)のために用いられているから、これらが均等物であるとはいえない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
4 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
サポート要件の判断基準は、上記1(1)に示したとおりである。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
本件特許発明の課題は、本件明細書の【0005】等から、「洗濯後の乾燥性が良好なポリウレタンフォームの提供」であると認められる。
そして、上記1(2)に示したとおり、本件特許発明1、2は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1、2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)申立書の主張について
甲1の比較例1のポリウレタンフォームは、ポリオール成分のすべてがバイオマス由来のものであるが、甲1の比較例1のポリウレタンフォームを作成し、本件明細書と同様にASTM D6866-22に準拠したバイオマス度の測定を行ったところ、バイオマス度は62%であった。
そうすると、ポリオール成分のすべてがバイオマス由来のものである甲1の比較例1のポリウレタンフォームでさえバイオマス度は62%しかないのだから、本件特許発明1のバイオマス度が58%、57%の実施例1、2のみに基づいて、50%以上100%以下の範囲に拡張できる理由がない旨主張する。
上記主張について検討する。
上記1に示したように、本件特許発明はサポート要件を満たす。
そして、本件明細書において、イソシアネートがバイオマス由来であることは明細書に記載されておらず、バイオマス度には自ずと上限があることは技術常識である。
このことは、本件特許発明1に「50%以上」と記載され、100%以下とは記載されていないこととも整合する。
そうすると、申立人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用することはできない
(4)令和7年2月17日付け意見書の「異議申立人の意見」について
申立人は、上記意見書において、新たに甲4~甲7を提出し、以下の意見(1)及び意見(2)を主張する。
これらの理由は、特許異議申立てに記載した理由ではなく、訂正の請求の内容に付随して生じる理由ではないが、念のため、検討する。
意見(1)
申立人は、本件特許発明1について、本件課題の「洗濯後の乾燥性が良好なポリウレタンフォームの提供」を解決するためには、「洗濯後の乾燥性が良好であること」の前提に、「洗濯時の外力でポリウレタンフォームが破壊しないこと」が暗黙のうちに存在すること、そして、本件の発明の詳細な説明には、ヒマシ油とセバシン酸との反応物がポリオール成分に20質量%を超えて含まれるポリウレタンフォームの具体例が記載されておらず、ヒマシ油とセバシン酸との反応物の割合が大きくなると、ポリウレタンフォームは脆くなるため、「洗濯後の乾燥性が良好であること」の前提である洗濯時に破壊しないことを当業者が認識できず、サポート要件を満たしていない旨主張する。
意見(2)
申立人は、本件特許発明2について、上記アと同様に、サポート要件を満たしていない旨主張する。
上記主張について検討する。
意見(1)について
ポリオール成分に占めるヒマシ油とセバシン酸との反応物の割合が大きくなるとポリウレタンフォームが脆くなること、また、脆くなることによって、洗濯時の外力でポリウレタンフォームが破壊することについて、具体的な根拠等については示されておらず、また、これらが出願時の技術常識であったとも認められない。
そうすると、申立人の意見(1)は採用することはできない。
意見(2)について
上記意見(1)についてと同様に、申立人の意見(2)は採用することはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、当審が通知した取消理由通知(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700035