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特許異議申立

2024-700031

高温水蒸気電解水素製造用セル及び高温水蒸気電解水素製造用セルの製造方法

審判番号
2024-700031
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-048711
登録番号
7309642
請求日
2024年01月17日
審決日
2024年05月07日
公報発行日
2024年06月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社東芝
  • 【権利者】東芝エネルギーシステムズ株式会社
  • 【異議申立人】林 尚子
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 粟野 正明
  • 審判官 佐藤 陽一
分類
P1651.113-Y (C25B) / P1651.121-Y (C25B) / P1651.536-Y (C25B) / P1651.537-Y (C25B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7309642号発明「高温水蒸気電解水素製造用セル及び高温水蒸気電解水素製造用セルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7309642号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7309642号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願(特願2020-48711号。以下、「本願」という。)は、令和 2年 3月19日の出願であって、令和 5年 7月 7日にその特許権の設定登録がされ、同年 7月18日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 6年 1月17日に、その請求項1~6(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である林 尚子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1~6に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~6に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明6」といい、総称して「本件特許発明」という。また、以下において、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。 「【請求項1】 電子を伝導可能でありかつガスを通し、セルの主たる強度保持の役割を有する支持層と、ガス及び酸素イオンを通し水を電解する活性層と、酸素イオンを導伝しガスを通さない電解質層と、酸素イオンを結合し酸素分子にする酸素極と、を備えた高温水蒸気電解水素製造用セルであって、 前記支持層は、電気伝導性を有する材料からなる第1成分と、高温強度を維持するための材料からなる第2成分と、ガス透過性を有する気孔と、を有し、 前記第1成分の結晶粒子の、前記第2成分の結晶粒子による被覆率が、10%~55%の範囲内であることを特徴とする高温水蒸気電解水素製造用セル。 【請求項2】 前記第1成分の結晶粒子の平均粒径が0.3μm~10μmの範囲であり、かつ、前記気孔の平均径が1μm~20μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の高温水蒸気電解水素製造用セル。 【請求項3】 前記支持層は、理論相対密度で、80%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高温水蒸気電解水素製造用セル。 【請求項4】 前記第1成分と前記第2成分の熱膨張係数差が1~4×10-6/K以内であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の高温水蒸気電解水素製造用セル。 【請求項5】 前記第1成分の結晶粒子の、前記第2成分の結晶粒子による被覆率が、10%~30%の範囲内であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の高温水蒸気電解水素製造用セル。 【請求項6】 請求項1乃至5の何れか1項記載の高温水蒸気電解水素製造用セルの製造方法であって、 前記支持層の焼結時における昇温速度を調節して、前記第1成分の結晶粒子の、前記第2成分の結晶粒子による被覆率を、10%~55%の範囲内とする ことを特徴とする高温水蒸気電解水素製造用セルの製造方法。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として下記5の甲第1号証~甲第5号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(新規性) (1)申立理由1-1 本件特許発明1は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由1-2 本件特許発明1~5は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(進歩性) (1)申立理由2-1 本件特許発明1~6は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2-2 本件特許発明1~6は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許発明の活性層や酸素極について、発明の詳細な説明に形式的には記載されているものの、実質的に記載されていない点で、請求項に記載されている事項が、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない場合に該当する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 4 申立理由4(実施可能要件) (1)申立理由4-1 本件特許発明1~6に係る「被覆率」の求め方が、発明の詳細な説明に明確に説明されていない。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1~6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由4-2 本件特許発明1~6を構成する活性層や酸素極の作り方が、発明の詳細な説明に具体的に記載されておらず、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明1に係るセルを作ることができず、本件特許発明6に係る方法によりセルを作ることもできない。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1~6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 5 証拠方法 甲1:特開2017-22111号公報 甲2:特開2014-26720号公報 甲3:特開2018-41659号公報 甲4:特開2018-63871号公報 甲5:特開2018-154864号公報 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、当審は、上記第3の1~4のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 申立理由1-1(新規性)、申立理由2-1(進歩性)について (1)甲1に記載された発明 本願の出願前に公知となった甲1(発明の名称:「積層体」)の【請求項1】、【請求項3】、【請求項5】、【0007】、【0008】、及び【0019】の記載を総合勘案し、特に、「水素極層」、「水素極支持基板」、「水素極機能層」、及び「酸素極層」を有する「固体酸化物形電解セル(SOEC)」の態様に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「水素極層および固体電解質層を有し、 固体電解質層は酸化物イオン伝導性材料を主成分として含み、 水素極層は安定化ジルコニアと酸化ニッケルを含み、 水素極層の断面において、固体電解質層との界面から3μmまでの領域で且つ幅10μmの区画内での安定化ジルコニアと酸化ニッケルとの合計境界長さの10区画間の平均値が25μm以上であり且つ標準偏差が10μm以下である積層体を含み、 水素極層が水素極支持基板と水素極機能層からなり、 水素極機能層が固体電解質層に接している固体酸化物形電解セル用電極支持型ハーフセルの固体電解質層の水素極機能層とは反対側の表面上に、酸素極層が形成されている、 固体酸化物形電解セル用電極支持型単セル。」(以下、「甲1発明」という。) (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1【0019】の「SOECでは、水素極は水と電子から酸化物イオンと水素が生成するためカソードに相当し、酸素極は酸化物イオンから酸素と電子が生成するためアノードに相当する。SOFCはSOECとしても利用することができるので、以下では主にSOFCにつき代表的に説明する。なお、SOFCの燃料極はSOECの水素極に、SOFCの空気極はSOECの酸素極に相当する。」との記載、同じく【0020】の「本発明に係る積層体の燃料極層、即ち、SOFC用燃料極支持型ハーフセルおよびSOFC用燃料極支持型単セルの燃料極支持基板と燃料極機能層、並びに、SOFC用固体電解質支持型単セルの燃料極層は、一般的に、安定化ジルコニアと酸化ニッケルを含む多孔質体である。」との記載及び本願出願時の技術常識からすると、甲1発明における「水素極支持基板」は、本件特許発明1の「電子を伝導可能でありかつガスを通し、セルの主たる強度保持の役割を有する支持層」に相当し、同様に、甲1発明の「水素極機能層」は、本件特許発明1の「ガス及び酸素イオンを通し水を電解する活性層」に相当する。 (イ)甲1発明の「固体電解質層」は、本件特許発明1の「酸素イオンを導伝しガスを通さない電解質層」に相当する。 (ウ)甲1発明の「酸素極層」は、本件特許発明1の「酸素イオンを結合し酸素分子にする酸素極」に相当する。 (エ)甲1発明の「水素極支持基板と水素極機能層からな」る「水素極層」が含む「酸化ニッケル」は、本件特許発明1の「支持層」が有する「電気伝導性を有する材料からなる第1成分」に相当し、同様に、甲1発明の「水素極層」が含む「安定化ジルコニア」は、本件特許発明1の「支持層」が有する「高温強度を維持するための材料からなる第2成分」に相当する。 (オ)上記(ア)に摘記した甲1【0019】、【0020】の記載及び本願出願時の技術常識によれば、甲1発明の「水素極支持基板」と、本件特許発明1の「支持層」とは、「ガス透過性を有する気孔」を有している点で共通する。 (カ)甲1発明の「固体酸化物形電解セル用電極支持型単セル」と、本件特許発明1の「高温水蒸気電解水素製造用セル」とは、「電解水素製造用セル」である点で共通する。 (キ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、 「電子を伝導可能でありかつガスを通し、セルの主たる強度保持の役割を有する支持層と、ガス及び酸素イオンを通し水を電解する活性層と、酸素イオンを導伝しガスを通さない電解質層と、酸素イオンを結合し酸素分子にする酸素極と、を備えた電解水素製造用セルであって、 前記支持層は、電気伝導性を有する材料からなる第1成分と、高温強度を維持するための材料から成る第2成分と、ガス透過性を有する気孔と、を有する電解水素製造用セル。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1は、「支持層」が有する「第1成分の結晶粒子の、」「第2成分の結晶粒子による被覆率が、10%~55%の範囲内である」のに対して、甲1発明の「水素極支持基板」が含む「酸化ニッケル」及び「安定化ジルコニア」が結晶粒子であるか否か不明であるのに加えて、仮に結晶粒子であるとしても、「酸化ニッケル」の結晶粒子の、「安定化ジルコニア」の結晶粒子による被覆率が「10%~55%の範囲内である」か否か不明である点。 <相違点2> 本件特許発明1は、高温水蒸気を電解して水素を発生させる「高温水蒸気電解水素製造用セル」に係るものであるのに対して、甲1発明は、電解して水素を発生させるための原料が「高温水蒸気」であるか否か不明である点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、まず、上記相違点1について検討する。 (ア)甲1の記載及び本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1発明の「水素極支持基板」が含む「酸化ニッケル」及び「安定化ジルコニア」が、それぞれ「結晶粒子」を構成し、さらに「酸化ニッケルの結晶粒子の、安定化ジルコニアの結晶粒子による被覆率が10%~55%の範囲内である」といえる根拠を何ら見出せない。 (イ)この点、申立人は、特許異議申立書第16頁第3行~第17頁第1行において、以下のa~cの点を根拠として、上記相違点1は実質的な相違点ではないと主張している。 a 本件明細書【0022】、【0023】、【0025】~【0027】、及び【0035】の記載によれば、「被覆率が10%から55%の範囲内である本件発明1に係る試料の、1000℃以上の昇温速度は、10℃/hよりも大きく60℃/h以下の範囲である」こと。 b 「甲1には酸化ニッケルと安定化ジルコニアを重量比で6:4になるように調合してシートを作製し(段落0081)、焼成し(段落0091)、焼成温度に至るまでの加熱速度を0.05℃/分以上4℃/分以下程度とすることが記載されて」(段落0078)おり、「単位を換算すると0.05℃は3℃/hであり、4℃/分は240℃/hであるから、加熱速度3℃/h以上240℃/h以下の範囲が甲1に記載されて」おり、「この加熱速度の範囲は甲3や甲4にも記載されており、本技術分野において周知技術である」こと。 c 「甲1の加熱速度の範囲のうち10℃/hよりも大きく60℃/hの範囲を選択すれば、甲1発明の被覆率は10%から55%の範囲」となり、「この被覆率の範囲は本件発明1と一致する」こと。 (ウ)そこで、上記(イ)の主張について検討する。 a まず、本件明細書に具体的に記載された実施例について、「被覆率が10%から55%の範囲内である」「試料」が、「1000℃以上の昇温速度は、10℃/hよりも大きく60℃/h以下の範囲で」焼結されたものであるといえるとしても、そのことから直ちに、甲1発明を含む上記実施例以外の試料についても、「1000℃以上の昇温速度は、10℃/hよりも大きく60℃/h以下の範囲で」焼結すれば、必ず「被覆率が10%から55%の範囲内」となるとはいえないことは、明らかである。 b また、仮に、「1000℃以上の昇温速度は、10℃/hよりも大きく60℃/h以下の範囲で」焼結すれば、必ず「被覆率が10%から55%の範囲内」となるとの前提に立つとしても、上記(イ)bのとおり、甲1の加熱速度の範囲は、本件特許発明に係る昇温速度の範囲よりも広く、完全に包含されるものではなく、また、甲1には、加熱速度を「10℃/hよりも大きく60℃/h以下」とすることが具体的に記載されているわけでもないから、この点からも、甲1発明の「被覆率が10%から55%の範囲内」となるとはいえない。 c したがって、いずれにしても、申立人による上記(イ)の主張は採用しない。 (エ)よって、上記相違点1は、実質的な相違点である。 (オ)次に上記相違点1の容易想到性について検討する。 a 甲1の記載を参照しても、甲1発明における「酸化ニッケル」(本件特許発明1の「第1成分」に対応)の、「安定化ジルコニア」(本件特許発明1の「第2成分」に対応)による被覆率に関する記載は見当たらない。 b そうすると、甲1発明において、上記被覆率に着目して、これを「10%から55%の範囲内」とする動機付けがあるとはいえない。 c この点、申立人は、特許異議申立書第17頁第2行~第18頁下から10行において、相違点1に係る技術的事項が「数値限定を用いて発明を特定しようとする、いわゆる数値限定発明である」ことを前提として、本件特許発明1は、数値限定発明の進歩性の要件を充足していないため、進歩性を有しない旨縷々主張しているが、上記aのとおり、甲1発明は、上記被覆率に何ら注目したものではないため、本件特許発明1と甲1発明とは、この点でそもそもの技術思想を異にするものであり、上記主張は、前提を欠くものと言わざるを得ないから、採用しない。 (カ)したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 ウ 小括 よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件特許発明2~6について 本件特許発明2~5は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えた「高温水蒸気電解水素製造用セル」に係るものであり、また、本件特許発明6は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えた「高温水蒸気電解水素製造用セル」を製造する方法に係るものであるから、上記(2)ウのとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、同様に、本件特許発明2~6は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由1-1(新規性)、申立理由2-1(進歩性)についてのまとめ したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、本件特許発明1~6は、同法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1、申立理由2-1によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1-2(新規性)、申立理由2-2(進歩性)について (1)甲2に記載された発明 本願の出願前に公知となった甲2(発明の名称:「燃料電池セル」)の【請求項1】、【請求項3】、【請求項6】、及び【請求項7】の記載を総合勘案すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。 「ニッケルと酸素イオン伝導性物質であるイットリア安定化ジルコニアとを含む燃料極と、 空気極と、 前記燃料極および前記空気極の間に配置される固体電解質層と、 を備え、 前記燃料極は、断面において、ニッケルの粒子と前記イットリア安定化ジルコニアの粒子との接合長さの平均値が0.4μm以上かつ0.9μm以下である領域を有する、 燃料電池セルであって、 インレンズ二次電子検出器を用いたFE-SEMによって前記燃料極の断面の1視野を観察した場合に、ニッケル粒子とイットリア安定化ジルコニアの粒子との全接合箇所のうち前記接合長さの平均値以上の接合長さを有する接合箇所の割合は、25.9%以上かつ48.9%以下であり、 前記1視野において、気孔が占める割合は、10%以上かつ40%以下である、 燃料電池セル。」(以下、「甲2発明」という。) (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明の「固体電解質層」は、本件特許発明1の「酸素イオンを導伝しガスを通さない電解質層」に相当する。 (イ)甲2発明の「燃料電池セル」と、本件特許発明1の「高温水蒸気電解水素製造用セル」とは、電気化学反応を利用したセルである点で共通する。 (ウ)そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、 「酸素イオンを導伝しガスを通さない電解質層を備えた電気化学反応を利用したセル。」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点3> 電気化学反応を利用したセルについて、本件特許発明1は、「電解質層」に加えて、「電子を伝導可能でありかつガスを通し、セルの主たる強度保持の役割を有する支持層」と、「ガス及び酸素イオンを通し水を電解する活性層」と、「酸素イオンを結合し酸素分子にする酸素極」と、を備えた「高温水蒸気電解水素製造用セル」であって、「前記支持層は、電気伝導性を有する材料からなる第1成分と、高温強度を維持するための材料からなる第2成分と、ガス透過性を有する気孔と、を有し」、「前記第1成分の結晶粒子の、前記第2成分の結晶粒子による被覆率が、10%~55%の範囲内である」「高温水蒸気電解水素製造用セル」であるのに対して、甲2発明は、「燃料電池セル」であって、上記「支持層」、「活性層」、及び「酸素極」を備えておらず、「高温水蒸気電解水素製造用」のものではない点。 イ 相違点についての判断 (ア)本願出願時の技術常識によれば、電解水素製造用セルと、燃料電池セルとは、電気化学反応を利用したものであって、構造上の共通点はあるものの、前者が水を電気分解して水素を発生させるのに対して、後者は燃料ガスと酸素とが反応して水が生成する際に発生するエネルギーを利用するものであるから、両者は異なる原理によって動作するものと認められる。 (イ)この点、申立人は、特許異議申立書第21頁第9~19行において、「高温水蒸気電解水素製造用セルの構造が、燃料電池セルの構造と同じであることは当業者の技術常識である」こと、及び甲1【0019】の「SOFCはSOECとしても利用することができる」、「SOFCの燃料極はSOECの水素極に、SOFCの空気極はSOECの酸素極に相当する」との記載を根拠として、「本件発明1のセルは高温水蒸気電解水素製造用セルであるのに対し、甲2発明のセルが燃料電池セルである点は、実質的な相違点でない」と主張しているが、両者のセルの構造が共通しているからといって、上記(ア)のとおり、異なる原理によって動作するセルを同一のものと評価することはできないから、このような主張は採用しない。 (ウ)また、申立人は、特許異議申立書第21頁下から10行~第24頁下から3行において、甲2の図2に示された「燃料極活性層に断面のSEM画像」(【0009】、【図2】)から「第1成分の結晶粒子の、第2成分の結晶粒子による被覆率」を算出した結果、当該被覆率が29.5%であることを根拠として、「活性層が支持層と同様の材料の場合、相違点3(当審注:被覆率が10%~55%の範囲内であるか否かの点)に係る技術的事項と一致」し、「従って相違点3は実質的な相違点ではない」と主張している。 しかしながら、甲2の図2に示された断面のSEM画像自体は、燃料電池セルにおける「燃料極活性層」に係るものであって、本件特許発明1の高温水蒸気電解水素製造用セルにおける「支持層」に係るものではないし、また、仮に、甲2の燃料電池セルにおける「燃料極集電層」が図2に示された断面のSEM画像に係る「燃料極活性層」と同様の組織になっているとしても、上記「燃料極集電層」は本件特許発明1の高温水蒸気電解水素製造用セルにおける「支持層」ではないから、甲2の上記「燃料極活性層」又は「燃料極集電層」と、本件特許発明1の上記「支持層」とを同様の層として対比することは、その前提において失当であると言わざるを得ない。 さらに、仮に、そのような対比が可能であるとの前提に立つとしても、特許異議申立書第23頁に示された図から被覆率を算出するための20個の結晶粒子を選択する基準や、選択された20個の結晶粒子から被覆率を算出する過程が不明であることからすると、算出された被覆率である29.5%の値にも疑義があると言わざるを得ない。 したがって、いずれにしても、上記主張は採用しない。 (エ)したがって、上記相違点3は、実質的な相違点である。 (オ)次に上記相違点3の容易想到性について検討する。 a 甲2には、甲2発明に係る「燃料電池セル」を本件特許発明1の「高温水蒸気電解水素製造用セル」のような電解水素製造用セルに用いることや、替えることについての記載も示唆も見当たらない。 b そうすると、甲1【0019】の「SOFCはSOECとしても利用することができる」、「SOFCの燃料極はSOECの水素極に、SOFCの空気極はSOECの酸素極に相当する」との記載や、燃料電池セルと電解水素製造用セルとは構造上共通する部分があるとの技術常識を考慮しても、甲2発明において、これを「高温水蒸気電解水素製造用セル」に替える動機付けがあるとはいえない。 c したがって、甲2発明において、上記相違点3に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 ウ 小括 よって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件特許発明2~6について 本件特許発明2~5は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えた「高温水蒸気電解水素製造用セル」に係るものであり、また、本件特許発明6は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えた「高温水蒸気電解水素製造用セル」を製造する方法に係るものであるから、上記(2)ウのとおり、本件特許発明1が、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、同様に、本件特許発明2~6は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由1-2(新規性)、申立理由2-2(進歩性)についてのまとめ したがって、本件特許発明1~5は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、本件特許発明1~6は、同法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-2、申立理由2-2によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(サポート要件)について (1)本件明細書【0009】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「高温での安定性が高く、かつ、電子伝導性に優れた高温水蒸気電解水素製造用セル及び高温水蒸気電解水素製造用セルの製造方法を提供すること」にあると認められる。 (2)そして、本件明細書【0010】、【0013】~【0021】の記載によれば、「高温水蒸気電解水素製造用セル」として、「電子を伝導可能でありかつガスを通し、セルの主たる強度保持の役割を有する支持層と、ガス及び酸素イオンを通し水を電解する活性層と、酸素イオンを導伝しガスを通さない電解質層と、酸素イオンを結合し酸素分子にする酸素極と、を備えた」ものを採用し、さらに、「前記支持層は、電気伝導性を有する材料からなる第1成分と、高温強度を維持するための材料からなる第2成分と、ガス透過性を有する気孔と、を有し」、「前記第1成分の結晶粒子の、前記第2成分の結晶粒子による被覆率が、10%~55%の範囲内」とすること(以下、「課題解決手段」という。)によって、上記(1)の課題を解決できることを当業者であれば十分認識できるといえる。また、このことは、本件明細書【0022】~【0036】に記載された実施例によっても実証されている。 (3)一方、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~6は、上記課題解決手段に対応する発明特定事項を備えたものであるから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。 (4)この点、申立人は、特許異議申立書第26頁下から11行~第27頁第17行において、発明の詳細な説明には、活性層や酸素極について形式的な記載があるのみで実質的な説明がないことを根拠として、特許・実用新案審査基準の「サポート要件違反の類型(1)の、請求項に記載されている事項が、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない場合に該当するため、請求項1の記載、及び、請求項1を引用する請求項2-6の記載はサポート要件を満たしていない」と主張しているが、本件明細書【0010】には、活性層及び酸素極について記載されており、また、本願出願時の技術常識を考慮すれば、活性層及び酸素極が具体的にどのようなものであるかは、当業者であれば理解できるといえるから、「請求項に記載されている事項が、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない場合に該当する」とはいえない。 したがって、このような主張は採用しない。 (5)申立理由3(サポート要件)についてのまとめ よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由4(実施可能要件)について (1)申立理由4-1について ア 本件明細書には、本件特許発明1~6に係る「被覆率」について、以下の記載がある。 (ア)「【0018】 本実施形態において、支持層101は、以下に示す被覆率が10%から55%の範囲内となるように構成されている。 被覆率(%)=(第1成分が第2成分と接触している長さ/第1成分結晶粒の周囲長さ)×100 【0019】 上記のように、被覆率を10%から55%の範囲内とすることにより、支持層101の電気伝導度を高める(電気抵抗を低くする)ことができる。」 (イ)「【0029】 また、被覆率は、以下のようにして評価した。 まず、セル断面を鏡面研磨後、SEM(走査型電子顕微鏡)にて、組織観察を行い、典型的な粒子径を有する第1成分の結晶粒子を20個選択する。その粒子の周囲の長さを測定した(長さA)。 【0030】 次に、第1成分の粒子に接触している第2成分の粒子(こちらが重元素なので明るく見えて容易に識別可能)の長さを測定した(長さB)。 【0031】 被覆率は、 被覆率=B÷A×100 により算出し、20個の粒子に対してこれを求め平均した値を求めた。」 イ そこで、本件明細書の上記記載及び本願出願時の技術常識から、「(第1成分が第2成分と接触している長さ/第1成分結晶粒の周囲長さ)×100」と定義される「被覆率(%)」を算出することができるか否かについて、以下検討する。 (ア)上記ア(イ)に摘記したとおり、本件明細書【0029】~【0031】の記載によれば、上記「被覆率(%)」は、 a セル断面を鏡面研磨後、SEM(走査型電子顕微鏡)にて、組織観察を行い、典型的な粒子径を有する第1成分の結晶粒子を20個選択し、 b 選択した20個の粒子それぞれの周囲の長さ(長さA)を測定し、 c 次に、選択した20個の第1成分の粒子のそれぞれに接触している第2成分の粒子の長さ(長さB)を測定し、 d B÷A×100の式により算出し、20個の粒子に対してこれを求め平均した値、 として算出されるものであることが理解できる。 (イ)そして、上記(ア)aのとおり、被覆率を算出するために20個選択される「第1成分の結晶粒子」については、「典型的な粒子径を有する」ものとしか記載されていないため、この記載のみからは、組織観察のためのSEM画像において、どのように「典型的な粒子径を有する」「第1成分の結晶粒子」を選択すればよいのかは、明らかでない。 (ウ)しかしながら、本願出願時の技術常識を踏まえると、本件明細書に具体的な記載がなくても、「典型的な粒子径を有する」「第1成分の結晶粒子」といえば、SEM画像から認識される「第1成分の結晶粒子」のうち、極端に小さい又は大きい粒子径のものを除いた平均的な粒子径のものを意味することは、明らかであり、また、そのような「典型的な粒子径を有する」「第1成分の結晶粒子」の中から第2成分の粒子との接触の程度について極端に小さい又は大きいものが含まれないように配慮しつつ20個を選択することは、当業者が当然に配慮すべき事項であるといえる。 (エ)そうすると、上記(ウ)のとおりの配慮をしつつ、典型的な粒子径を有する第1成分の結晶粒子を20個選択することは可能であるといえ、それに続いて、上記(ア)b~dの手順を経て、被覆率(%)の値を算出することも、十分可能であるといえる。 (オ)この点、申立人は、特許異議申立書第27頁下から10行~第29頁第10行において、「本件発明1に係る被覆率は、どの結晶粒子を選択したかによって決まる人為的な数値である」にもかかわらず、被覆率の求め方が発明の詳細な説明に明確に説明されておらず、また、(甲2の図2に示された)実物の断面画像を使って被覆率を求めても、選択する結晶粒子が変わると求められる被覆率が大きく変化することを根拠として、「「物の発明」及び「物を生産する方法の発明」について本件は発明の詳細な説明に明確に説明されていないため、本件発明1、本件発明1を引用する本件発明2-5、及び、本件発明6について実施可能要件を満たしていない」と主張している。 しかしながら、本願出願時の技術常識を踏まえれば、本件明細書【0029】~【0031】に記載された各手順を経て、被覆率を算出できることは、上記(ウ)、(エ)において検討したとおりであるから、このような主張は採用しない。 ウ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、被覆率の算出について、当業者が本件特許発明1~6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (2)申立理由4-2について ア 申立人が特許異議申立書第29頁第11行~第30頁第4行において主張しているように、本件明細書には、本件特許発明に係る「高温水蒸気電解水素製造用セル」を構成する「活性層」及び「酸素極」の作り方が具体的に記載されていない。 イ しかしながら、甲5【0030】~【0032】の以下の記載や、本願出願時の技術常識を考慮すれば、本件特許発明に係る「高温水蒸気電解水素製造用セル」を構成する「活性層」及び「酸素極」の作り方を当業者が理解することは、十分可能であるといえる。 甲5の記載事項(下線は、当審が付したものである。) 「【0030】 そして、水素極基体101の前駆体上に、水素極活性層102となるNiOとGDCの混合物の膜と、電解質層13となるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の膜と、反応防止層14となるGDCの膜を、スプレーコーティング法により順次、形成する。これにより、水素極基体101の前駆体、水素極活性層102、電解質層13、反応防止層14の順に積層された未焼成の積層体が形成される。ここでは、水素極活性層102は、複合化されていない酸化ニッケル(NiO)とセリア(GDC)の混合粉末を用いて、作製される。 【0031】 その後、1200℃以上、1600℃以下の範囲内で、当該積層体の焼成(いわゆる仮焼)を行う。水素極基体101の前駆体、水素極活性層102、電解質層13、反応防止層14のそれぞれが所定の強度となり、且つ各層の間が所定の強度で密着するまで焼成する。【0032】 そして、仮焼された積層体のうち反応防止層14上に、酸素極15となるLa(Sr)Co(Fe)O3-δを、スプレーコーティング法により形成する。そして、900℃以上、1300℃以下の範囲内で、酸素極15が反応防止層14に強固に結合されるように焼成(いわゆる焼結)を行う。これにより、水素極基体101、水素極活性層102、電解質層13、反応防止層14及び酸素極15の順に積層された焼結体としてのSOEC1が得られる。このように作製された水素極基体101中の複合化したNiO/GDC粒子は、焼成によって、NiO粒子とGDC粒子とがより強固に結合(焼結)した状態となる。」 ウ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、活性層及び酸素極について、当業者が本件特許発明1~6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (3)申立理由4-1、申立理由4-2(実施可能要件)についてのまとめ 以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1~6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由4-1、申立理由4-2によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700031

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