特許異議申立
2024-700027
多層基材、該多層基材を備える多層フィルム、該多層フィルムを備える積層体および該積層体を備える包装材料
- 審判番号
- 2024-700027
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-141727
- 登録番号
- 7331537
- 請求日
- 2024年01月16日
- 審決日
- 2024年10月03日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 【異議申立人】末成 幹生
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第36条第5項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7331537号発明「多層基材、該多層基材を備える多層フィルム、該多層フィルムを備える積層体および該積層体を備える包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7331537号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7331537号の請求項1~5、7、8に係る特許を維持する。
特許第7331537号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7331537号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和元年7月31日の出願であって、令和5年8月15日にその特許権の設定登録がされ、令和5年8月23日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年1月16日 :特許異議申立人弁理士法人朝日奈特許事務所(以下「申立人1」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「申立1」という。)
令和6年2月 8日 :特許異議申立人末成幹生(以下「申立人2」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「申立2」という。)
令和6年4月 1日付け:取消理由通知書
令和6年6月 3日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年7月29日 :特許権者による訂正請求書を補正する手続補正書(方式)の提出(以下、この手続補正書(方式)により補正された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和6年9月 6日 :申立人2による意見書の提出
なお、当審から申立人1、2に対して令和6年8月6日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人1からは応答がなかった。
第2 本件訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「積層フィルムとシーラント層とを備える積層体であって、
前記積層フィルムは、多層基材と、無機酸化物を含む蒸着膜と、バリアコート層とを備え、
当該多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
かつ前記コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1%以上20%以下であり、
前記積層フィルムは、前記コート層上に前記蒸着膜を備え、
前記積層フィルムは、前記蒸着膜上に前記バリアコート層を備え、
前記バリアコート層は、金属アルコキシドの加水分解物または金属アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種を含み、且つ、無機層状化合物は含まないガスバリア性塗布膜からなり、
前記シーラント層がポリプロピレンにより構成され、
前記多層基材は、前記コート層を除き、ポリプロピレンとは異種の樹脂材料により構成される基材を備えない
ことを特徴とする、積層体。」を、
「積層フィルムとシーラント層とを備える積層体であって、
前記積層フィルムは、多層基材と、酸化珪素を含む蒸着膜と、バリアコート層とを備え、
当該多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
かつ前記コート層が、極性基を有する樹脂材料(但し、ポリウレタンを除く)を含み、
前記コート層における前記極性基を有する樹脂材料の含有量は、70質量%以上であり、
前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1%以上20%以下であり、
前記積層フィルムは、前記コート層上に前記蒸着膜を備え、
前記積層フィルムは、前記蒸着膜上に前記バリアコート層を備え、
前記バリアコート層は、金属アルコキシドの加水分解物または金属アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種を含み、且つ、無機層状化合物は含まないガスバリア性塗布膜からなり、
前記シーラント層がポリプロピレンにより構成され、
前記多層基材は、前記コート層を除き、ポリプロピレンとは異種の樹脂材料により構成される基材を備えない
ことを特徴とする、積層体。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5、7、8も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項3に記載された
「前記コート層の前記樹脂材料が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、MXDナイロン、アモルファスナイロンおよびポリウレタンから選択される1以上の樹脂材料である、請求項1または2に記載の積層体。」を、
「前記コート層の前記極性基を有する樹脂材料が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、MXDナイロン、およびアモルファスナイロンから選択される1以上の樹脂材料である、請求項1または2に記載の積層体。」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、5、7、8も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項6を削除する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項7に記載された
「前記積層フィルムが、前記蒸着膜上に、バリアコート層をさらに備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。」を、
「前記積層フィルムが、前記蒸着膜上に、バリアコート層をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項8に記載された
「請求項1~7のいずれか一項に記載の積層体を備えることを特徴とする、包装材料。」を、
「請求項1~5及び7のいずれか一項に記載の積層体を備えることを特徴とする、包装材料。」に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~8〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「蒸着膜」に含まれる「無機酸化物」を「酸化珪素」に限定し、「極性基を有する樹脂材料」を「(但し、ポリウレタンを除く)」ものと限定し、また、「コート層」における「極性基を有する樹脂材料の含有量」を「70質量%以上」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1における「蒸着膜」に含まれる「無機酸化物」を「酸化珪素」とする点は、本件特許の明細書の【0046】の記載に基づくものであり、「コート層」における「極性基を有する樹脂材料の含有量」を「70質量%以上」とする点は、本件特許の明細書の【0038】の記載に基づくものである。
また、訂正事項1における「極性基を有する樹脂材料」を「(但し、ポリウレタンを除く)」ものとする点は、「極性基を有する樹脂材料」から「ポリウレタン」を除外するものであり、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
したがって、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「コート層」の「樹脂材料」を「極性基を有する樹脂材料」に限定し、また、「樹脂材料」の選択肢から「ポリウレタン」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項2における「コート層」の「樹脂材料」を「極性基を有する樹脂材料」とする点は、本件特許の明細書の【0038】の記載に基づくものである。
また、訂正事項2における「樹脂材料」の選択肢から「ポリウレタン」を削除する点は、「極性基を有する樹脂材料」から「ポリウレタン」を削除するものであり、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4、5について
訂正事項4、5は、本件訂正前の請求項7、8について、訂正事項3によって請求項6が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、訂正事項3によって削除された請求項6を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4、5は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求が認められたことから、本件特許の請求項1~5、7、8に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~5、7、8を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5、7、8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~5、7、8の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
積層フィルムとシーラント層とを備える積層体であって、
前記積層フィルムは、多層基材と、酸化珪素を含む蒸着膜と、バリアコート層とを備え、
当該多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
かつ前記コート層が、極性基を有する樹脂材料(但し、ポリウレタンを除く)を含み、
前記コート層における前記極性基を有する樹脂材料の含有量は、70質量%以上であり、
前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1%以上20%以下であり、
前記積層フィルムは、前記コート層上に前記蒸着膜を備え、
前記積層フィルムは、前記蒸着膜上に前記バリアコート層を備え、
前記バリアコート層は、金属アルコキシドの加水分解物または金属アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種を含み、且つ、無機層状化合物は含まないガスバリア性塗布膜からなり、
前記シーラント層がポリプロピレンにより構成され、
前記多層基材は、前記コート層を除き、ポリプロピレンとは異種の樹脂材料により構成される基材を備えない
ことを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記コート層の厚さが、0.1μm以上10μm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記コート層の前記極性基を有する樹脂材料が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、MXDナイロン、およびアモルファスナイロンから選択される1以上の樹脂材料である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
コート層は、水系エマルジョンまたは溶剤系エマルジョンを用いて形成された層である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
包装材料用途に用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記積層フィルムが、前記蒸着膜上に、バリアコート層をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~5及び7のいずれか一項に記載の積層体を備えることを特徴とする、包装材料。
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~8に係る特許に対して、当審が令和6年4月1日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(進歩性)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、申立人1が提出した下記甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証 国際公開第2014/157652号(以下「申立1甲1」という。)
2 当審の判断
(1)申立1甲1に記載された発明
申立1甲1([0090])には、特に実施例1に着目すると、次の発明(以下「申立1甲1発明」という。)が記載されている。
「面配向係数ΔPを0.011に調整した厚さ20μmのOPPフィルムである基材の一方の面に、シランカップリング剤、アクリルポリオール及びイソシアネート化合物を含む複合物と溶媒とを混合して得られた塗液をグラビアコートし、加熱乾燥することで約0.3μmのウレタン系樹脂からなるアンカーコート層を形成し、次に、電子線加熱方式により、O/Alの比が1.2、厚さ15nmの酸化アルミニウム薄膜を形成し、次いで、テトラエトキシシラン加水分解溶液とポリビニルアルコール/水/イソプロピルアルコール混合溶液を混合することによって溶液を用意し、この溶液をグラビアコートによって塗工することによって厚さ500nmのオーバーコート層を酸化アルミニウム薄膜上に形成して作製したガスバリア積層体。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と申立1甲1発明を対比する。
申立1甲1発明の「面配向係数ΔPを0.011に調整した厚さ20μmのOPPフィルムである」「基材」は本件発明1の「延伸処理が施されて」いる「ポリプロピレン樹脂層」に相当し、以下同様に、「テトラエトキシシラン加水分解溶液とポリビニルアルコール/水/イソプロピルアルコール混合溶液を混合することによって溶液を用意し、この溶液をグラビアコートによって塗工することによって」「酸化アルミニウム薄膜上に」「厚さ500nm」に形成した「オーバーコート層」は「金属アルコキシドの加水分解物または金属アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種を含み、且つ、無機層状化合物は含まないガスバリア性塗布膜からな」る「バリアコート層」に相当する。
申立1甲1発明の「電子線加熱方式により、O/Alの比が1.2、厚さ15nm」に形成した「酸化アルミニウム薄膜」と本件発明1の「酸化珪素を含む」「蒸着膜」とは、無機酸化物を含む蒸着膜の限りで一致する。
申立1甲1発明の「基材」と「アンカーコート層」を合わせたものは、本件発明1の「少なくともポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え」、「前記コート層を除き、ポリプロピレンとは異種の樹脂材料により構成される基材を備えない」「多層基材」に相当する。
申立1甲1発明の「ガスバリア積層体」は、本件発明1の「多層基材と、無機酸化物を含む蒸着膜と、バリアコート層とを備え」、「前記コート層上に前記蒸着膜を備え」、「前記蒸着膜上に前記バリアコート層を備え」る「積層フィルム」に相当する。
申立1甲1発明の「シランカップリング剤、アクリルポリオール及びイソシアネート化合物を含む複合物と溶媒とを混合して得られた塗液をグラビアコートし、加熱乾燥することで約0.3μm」に形成した「ウレタン系樹脂からなる」「アンカーコート層」と、本件発明1の「極性基を有する樹脂材料(但し、ポリウレタンを除く)を含」む「コート層」とは、樹脂材料を含むコート層の限りで一致する。
申立1甲1発明における「基材」と「アンカーコート層」の厚さがそれぞれ「20μm」、「約0.3μm」であるから、申立1甲1発明における両者を合わせた総厚さに対する「アンカーコート層」の厚さの割合は約1.5%と計算でき、本件発明1の「前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1%以上20%以下であ」ることと、コート層の厚さの割合の数値範囲に、1.5%を含む限りにおいて一致する。
以上のことから、本件発明1と申立1甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「積層フィルムは、多層基材と、無機酸化物を含む蒸着膜と、バリアコート層とを備え、
当該多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
かつ前記コート層が、樹脂材料を含み、
前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1.5%を含み、
前記積層フィルムは、前記コート層上に前記蒸着膜を備え、
前記積層フィルムは、前記蒸着膜上に前記バリアコート層を備え、
前記バリアコート層は、金属アルコキシドの加水分解物または金属アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種を含み、且つ、無機層状化合物は含まないガスバリア性塗布膜からなり、
前記多層基材は、前記コート層を除き、ポリプロピレンとは異種の樹脂材料により構成される基材を備えない、積層フィルム。」
[相違点1]
無機酸化物を含む蒸着膜樹脂材料を含むコート層に関して、本件発明1は「酸化珪素を含む」「蒸着膜」であるのに対して、申立1甲1発明は「電子線加熱方式により、O/Alの比が1.2、厚さ15nm」に形成した「酸化アルミニウム薄膜」である点。
[相違点2]
樹脂材料を含むコート層に関して、本件発明1は「極性基を有する樹脂材料(但し、ポリウレタンを除く)を含」む「コート層」であるのに対して、申立1甲1発明は「ウレタン系樹脂からなる」「アンカーコート層」である点。
[相違点3]
本件発明1は「前記コート層における前記極性基を有する樹脂材料の含有量は、70質量%以上であ」るのに対して、申立1甲1発明はそのようなものか不明である点。
[相違点4]
コート層の厚さの割合の数値範囲に、1.5%を含むことに関して、本件発明1は「前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1%以上20%以下であ」るのに対して、申立1甲1発明は「基材」と「アンカーコート層」の厚さがそれぞれ「20μm」、「約0.3μm」であって、「基材」と「アンカーコート層」を合わせた総厚さに対する「アンカーコート層」の厚さの割合が約1.5%と計算できる点。
[相違点5]
本件発明1は「積層フィルムとシーラント層とを備える積層体」であって、「前記シーラント層がポリプロピレンにより構成され」るのに対して、申立1甲1発明は「ガスバリア積層体」であって、シーラント層を備えていない点。
イ 判断
相違点1について検討する。
申立1甲1発明は、「ボイル・レトルト処理においても、OPPフィルム基材に対する酸化アルミニウム薄膜の密着性を維持できるガスバリア積層体・・・を提供することを目的」([0008])としたものであるところ、申立1甲1発明では「酸化アルミニウム薄膜」によって当該技術課題を解決しているものである。そして、申立1甲1には、「酸化珪素」については記載も示唆もされていない。
そうすると、申立1甲1発明の「酸化アルミニウム」を「酸化珪素」に替えることは、当業者といえども想到することはない。
ウ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、申立1甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
(3)本件発明2~5、8について
本件発明2~5、8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、申立1甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1~3、5~8に係る発明は、申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるため、請求項1~3、5~8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(新規性・進歩性)
本件特許の請求項1~3、5~8に係る発明は、申立人1が提出した甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるため、請求項1~3、5~8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、本件特許の請求項1~3、5~8に係る発明は、申立人1が提出した甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1~3、5~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(新規性・進歩性)
本件特許の請求項1~3、5~8に係る発明は、申立人2が提出した甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるため、請求項1~3、5~8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、本件特許の請求項1~8に係る発明は、申立人2が提出した甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(進歩性)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、申立人2が提出した甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5)申立理由5(進歩性)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、申立人2が提出した甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(6)申立理由6(実施可能要件;申立1)
本件特許の発明の詳細な説明の記載が、次の点で、本件特許の請求項1~8に係る発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に適合しないため、請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1~8に係る発明は、多層基材と蒸着膜のほか、バリアコート層、シーラント層も必須の構成としているが、発明の詳細な説明には、多層基材とシリカ蒸着膜を形成した例はあるものの、請求項1~8に係る積層体に関しては、作製されておらず、評価もされていないため、請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に開示された事項だけでは実施することができない。
(7)申立理由7(サポート要件;申立1)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、次の点で発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないため、請求項1~8に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1~8に係る発明は、多層基材と蒸着膜のほか、バリアコート層、シーラント層も必須の構成としているが、発明の詳細な説明には、多層基材とシリカ蒸着膜を形成した例はあるものの、請求項1~8に係る積層体に関しては、作製されておらず、評価もされていないため、請求項1~8に係る発明に係る積層体において、「ポリプロピレンフィルムと蒸着膜との層間の密着性に優れ、高いラミネート強度を有する包装材料を作製することができ、高いガスバリア性を有する、基材」が得られているかどうかを把握することができない。
(8)申立理由8(明確性;申立1、2)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、次の点で明確でないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないため、請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア(申立1) 請求項1における「前記シーラント層がポリプロピレンにより構成され」との記載について、「ポリプロピレン」には、性状や特性が異なるものが多数含まれているところ、請求項1において「ポリプロピレン」の性状や特性が特定されていないため、請求項1~8に係る発明が明確ではない。
イ(申立2) 請求項7に記載された「前記積層フィルムが、前記蒸着膜上に、バリアコート層をさらに備える」との発明特定事項は、請求項1に記載された「前記積層フィルムは、前記蒸着膜上に前記バリアコート層を備え」との発明特定事項と同じであり、請求項7に係る発明の範囲が不明確である。
(9)申立人1、2が提出した証拠
ア 申立人1が提出した証拠
甲第1号証 国際公開第2014/157652号(申立1甲1)
甲第2号証 特開2001-64423号公報(以下「申立1甲2」という。)
イ 申立人2が提出した証拠
甲第1号証 特開2005-305801号公報(以下「申立2甲1」という。)
甲第2号証 特開平8-245816号公報(以下「申立2甲2」という。)
甲第3号証 特開平11-34212号公報(以下「申立2甲3」という。)
甲第4号証 西村厳夫、“プラスチック資源の活用と循環型社会の実現に向けて~サステナブル化の世界潮流~”、成形加工、一般社団法人プラスチック成形加工学会、2018年、第30巻第11号、577~580ページ(以下「申立2甲4」という。)
甲第5号証 堀田幸一、“この10年間の印刷の科学と技術の進歩と今後の展望 4.グラビア印刷システム”、日本印刷学会誌、2018年、第55巻第5号、358~376ページ(以下「申立2甲5」という。)
甲第6号証 特開2016-87814号公報(以下「申立2甲6」という。)
甲第7号証 特開平11-157021号公報(以下「申立2甲7」という。)
甲第8号証 特開2010-89321号公報(以下「申立2甲8」という。)
甲第9号証 特開2018-130887号公報(以下「申立2甲9」という。)
甲第10号証 特開平10-329286号公報(以下「申立2甲10」という。)
甲第11号証 特開平11-129384号公報(以下「申立2甲11」という。)
甲第12号証 特開2000-233476号公報(以下「申立2甲12」という。)
甲第13号証 特開2002-309022号公報(以下「申立2甲13」という。)
甲第14号証 特開2007-284690号公報(以下「申立2甲14」という。)
2 当審の判断
(1)申立理由1について
上記第4の2(2)で示したとおり、本件発明1と申立1甲1発明とは相違し、当該相違点は実質的なものであるから、本件発明1は申立1甲1発明ではなく、同様に、本件発明2、3、5、7、8は申立1甲1発明ではない。
(2)申立理由2~5について
ア 本件発明の技術的意義について
本件特許の明細書には、本件発明の技術的意義に関して次の記載がある(下線は当審が付した。また、「・・・」は文章の省略を表す。)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来のポリエステルフィルム基材に代えて、ポリプロピレンの延伸フィルム(以下、延伸ポリプロピレンフィルムともいう)を使用することを検討していたところ、延伸ポリプロピレンフィルムの表面に蒸着膜を形成しても、満足するガスバリア性を得ることができないという新たな課題を見出した。
そして、本発明者らが検討を進めたところ、該延伸ポリプロピレンフィルムに蒸着膜を設けた積層フィルムを使用した包装材料では、ポリエステルフィルム基材を使用する従来の積層フィルムには見られない特有の現象、即ち、延伸ポリプロピレンフィルムと蒸着膜との層間で剥離が生じていることを見出し、その現象がガスバリア性を不十分なものとしているとの知見を得た。
【0007】
そして、本発明者らは、延伸ポリプロピレンフィルム表面に、極性基を有する樹脂材料を含むコート層を設けることにより、当該コート層上に形成される蒸着膜の密着性が改善されると共に、ガスバリア性も向上するとの知見を得た。」
「【0034】
(コート層)
本発明の多層基材は、ポリプロピレン樹脂層上に、極性基を有する樹脂材料を含むコート層を備え、該コート層上には高い密着性を有する蒸着膜を形成することができ、ガスバリア性を向上することができる。
・・・」
「【0040】
多層基材の総厚さに対する、コート層の厚さの割合は、1%以上20%以下であることが好ましく、3%以上10%以下であることがより好ましい。
多層基材の総厚さに対する、コート層の厚さの割合を、1%以上とすることにより、蒸着膜の密着性をより向上することができ、ガスバリア性をより向上させることができる。また、包装材料のラミネート強度をより向上することができる。
また、多層基材の総厚さに対する、表面樹脂層の厚さの割合を、20%以下とすることにより、多層基材の加工適性をより向上することができる。また、後述するように、本発明の多層基材と、ポリプロピレンからなるシーラント層との積層体を用いて作製される包装材料のリサイクル適性を向上することができる。」
以上の記載を総合すると、本件発明は、本件発明1の「前記積層フィルムは、多層基材と、酸化珪素を含む蒸着膜と、バリアコート層とを備え、当該多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え」、「かつ前記コート層が、極性基を有する樹脂材料(但し、ポリウレタンを除く)を含み」、「前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1%以上20%以下であり、前記積層フィルムは、前記コート層上に前記蒸着膜を備え」るという発明特定事項を有することにより、延伸ポリプロピレンフィルム表面に設けた、極性基を有する樹脂材料を含むコート層上に形成される蒸着膜の密着性及びガスバリア性をより向上させるという技術的意義を有するものである。
イ 引用文献に記載された発明
(ア)申立1甲2に記載された発明
申立1甲2には、特に請求項1、5、7、8を引用する請求項12に記載の包装材料に着目すると、次の発明(以下「申立1甲2発明」という。)が記載されている。
「蒸着フィルムの無機酸化物の蒸着薄膜層又は被膜層上に接着剤を介してヒートシール層を積層した包装材料であって(【請求項12】)、
蒸着フィルムが、プラスチック材料からなるプラスチック基材の少なくとも片面に、実質的に反応基を有するシリコーン、ポリオールおよびイソシアネート化合物を少なくとも含む複合物からなるプライマー層、厚さ5~300nmの無機酸化物からなる蒸着薄膜層を順次積層し(【請求項1】)、
前記プライマー層の厚さが、0.01~2μmの範囲であり(【請求項5】)、
前記蒸着フィルムの無機酸化物の蒸着薄膜層に被膜層を積層し(【請求項7】)、
前記被膜層が水性高分子を金属アルコキシド及び/又はその加水分解物からなる(【請求項8】)、
包装材料。」
(イ)申立2甲1に記載された発明
申立2甲1には、特に請求項1、5~8を引用する請求項9に記載の帯電防止性ガスバリア積層体に着目すると、次の発明(以下「申立2甲1発明」という。)が記載されている。
「プラスチックフィルム基材(A)の片面に、酸価が1以上300以下、分子量300以上100万以下の帯電防止性樹脂を塗布して、23℃、50%RH(相対湿度)雰囲気下での固有表面抵抗値が1×1013Ω/□以下となる帯電防止層(B)を形成するとともに、プラスチックフィルム基材(A)の他の面にガスバリア層(C)、またはガスバリア層(C)と保護層(D)が形成された積層体であって、該積層体の帯電防止層(B)とガスバリア層(C)、または保護層(D)を対向させた2枚の積層体を30℃、4.9×106Paの圧力下で1時間加圧保持した後の帯電防止層(B)の固有表面抵抗値が加圧保持前の100倍以下、またはガスバリア層(C)、及び/又は保護層(D)の上記加圧保持後の固有表面抵抗値が加圧保持前の1/100以下となるとともに酸素透過度が25fmol/m2/s/Pa以下である帯電防止性ガスバリア積層体であって(【請求項1】)、
ガスバリア層(C)が酸化珪素、酸化アルミニウム、ダイアモンド状炭素、及びこれらの混合物からなる物理蒸着膜、又は、化学蒸着膜であり(【請求項5】)、
プラスチックフィルム基材(A)とガスバリア層(C)の間に、アンカーコート層を設けてなり(【請求項6】)、
アンカーコート層が、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、イソシアネート基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、及びカルボジイミド基含有樹脂から選ばれる1種以上の樹脂からなり(【請求項7】)、
プラスチックフィルム基材(A)がポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、および生分解性樹脂の少なくとも1種類以上の樹脂であり(【請求項8】)、
ガスバリア層(C)、又は保護層(D)表面に印刷層を形成し、当該印刷層の表面にヒートシール層を形成してなる帯電防止性ガスバリア積層体(【請求項9】)。」
(ウ)申立2甲2に記載された発明
申立2甲2には、特に実施例12(【0034】、【0035】、【表3】、【表4】)の酸素バリヤー性ポリオレフィンフィルムに着目すると、次の発明(以下「申立2甲2発明」という。)が記載されている。
「PVA水溶液に水性イソシアネートをPVA/水性アンカー剤の混合割合を96/4となるように混合し、コーティング水溶液を調整し(【0034】)、
厚さ25μmのOPPのコロナ処理面に塗布重量0.3g/m2でコーティング水溶液を塗布、乾燥し、このフィルムに、酸化珪素を蒸着し、この蒸着フィルムと厚さ25μmのコポリマータイプCPPをイソシアネート系接着剤でドライラミネートした(【0035】、【表3】)酸素バリヤー性ポリオレフィンフィルム。」
(エ)申立2甲3に記載された発明
申立2甲3には、特に請求項2、4を引用する請求項6に記載のバリアー性ラミネートフィルムにおいて、【0014】の「アンカー処理を施しておいても構わない。すなわち、高分子フィルムから成る基材上に、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル等の少なくとも一種以上から成る樹脂をトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アルコール等の溶剤に分散、溶解させてたワニスや各種のエマルジョンをグラビアコート、ロールロート、ディップコート、ブレードコート等の公知のコーティング方法でコート後、溶剤を加熱乾燥させて基材上に0.05μm~数μmの薄膜層を形成させる。」の記載を参照し、蒸着膜が酸化珪素から成るものに着目すると、次の発明(以下「申立2甲3発明」という。)が記載されている。
「高分子フィルムから成る基材上に、無機化合物からなる蒸着膜を第一層とし、水溶性高分子と、(a)一種以上の金属アルコキシド及びその加水分解物叉は(b)塩化錫の少なくとも一方を含む水溶液、或いは水/アルコール混合溶液を主剤とすコーティング剤を塗布し、加熱乾燥して成るガスバリアー性被覆膜を第二層としたバリアー性フィルムとバリアー性シーラントフィルムとを接着剤を介して重ね合わせて成るラミネートフィルムであって、前記接着剤が無溶剤であるバリアー性ラミネートフィルムであって(【請求項2】)、
前記蒸着膜が、酸化珪素から成り(【請求項4】)、
前記高分子フィルムから成る基材上に、樹脂をコートして薄膜層を形成し、無機化合物からなる蒸着層を設けたバリアー性ラミネートフィルム(【請求項6】、【0014】)。」
ウ 本件発明1について
申立1甲2発明、申立2甲1発明、申立2甲2発明、申立2甲3発明のいずれも、本件発明1の発明特定事項のうち「前記積層フィルムは、多層基材と、酸化珪素を含む蒸着膜と、バリアコート層とを備え、当該多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え」、「かつ前記コート層が、極性基を有する樹脂材料(但し、ポリウレタンを除く)を含み」、「前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1%以上20%以下であり、前記積層フィルムは、前記コート層上に前記蒸着膜を備え」るという構成を有しておらず、また、提出されたいずれの証拠にも、そのような構成とすることにより、延伸ポリプロピレンフィルム表面に設けた、極性基を有する樹脂材料を含むコート層上に形成される蒸着膜の密着性及びガスバリア性をより向上させることについて記載も示唆もされていない。
そうすると、申立1甲2発明、申立2甲1発明、申立2甲2発明、申立2甲3発明において、「前記積層フィルムは、多層基材と、酸化珪素を含む蒸着膜と、バリアコート層とを備え、当該多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え」、「かつ前記コート層が、極性基を有する樹脂材料(但し、ポリウレタンを除く)を含み」、「前記多層基材の総厚さに対する、前記コート層の厚さの割合が、1%以上20%以下であり、前記積層フィルムは、前記コート層上に前記蒸着膜を備え」るものとすることは、当業者が容易に想到できたものではない。
よって、本件発明1は、
申立1甲2発明ではなく、また、申立1甲2発明に基いて当業者が容易に発明できたものではなく、
申立2甲1発明ではなく、また、申立2甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではなく、
申立2甲2発明に基いて当業者が容易に発明できたものではなく、
申立2甲3発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
エ 本件発明2~5、7、8について
本件発明2~5、7、8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記ウと同様の理由により、
本件発明2、3、5、7、8は、申立1甲2発明ではなく、また、申立1甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、
本件発明2、3、5、7、8は、申立2甲1発明ではなく、また、本件発明2~5、7、8は、申立2甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、
本件発明2~5、7、8は、申立2甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、
本件発明2~5、7、8は、申立2甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由6について
バリアコート層については、発明の詳細な説明の【0051】~【0071】に、シーラント層については、発明の詳細な説明の【0074】~【0077】にそれぞれ記載されている。また、積層体において、バリアコート層やシーラント層を備えたものとすることは、例示するまでもなく周知技術である。
そうすると、多層基材と蒸着膜を備えた積層体において、当該記載及び出願時の技術常識に基づいて、バリアコート層、シーラント層を備えたものとすることは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実施できたものである。
よって、申立人1の主張は採用できない。
(4)申立理由7について
本件発明の解決しようとする課題は、「蒸着膜との層間の密着性に優れると共に高いガスバリア性を有する、基材を提供すること」(【0008】;以下「本件課題」という。)である。
発明の詳細な説明の「本発明の多層基材は、ポリプロピレン樹脂層上に、極性基を有する樹脂材料を含むコート層を備え、該コート層上には高い密着性を有する蒸着膜を形成することができ、ガスバリア性を向上することができる。」(【0034】)との記載によると、多層基材が、ポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え、コート層が、極性基を有する樹脂材料を含む積層体は本件課題を解決できると当業者であれば認識できる。
そして、本件発明1は、本件課題を解決できると認識できる、多層基材が、ポリプロピレン樹脂層とコート層とを備え、コート層が、極性基を有する樹脂材料を含むことをさらに限定したものであるから、本件発明1~5、7、8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、申立人1の主張は採用できない。
(5)申立理由8について
ア 上記1(8)アについて
「ポリプロピレン」は、一般に「合成樹脂の一つ。プロピレンの重合体。熱可塑性で軽く、丈夫で耐熱性、・透明度・耐薬品性にすぐれる。各種成型品・フィルム・繊維などに使用。PP」[広辞苑第六版]を意味するから、その意味は明確である。
イ 上記1(8)イについて
請求項7における「前記積層フィルムが、前記蒸着膜上に、バリアコート層をさらに備える」の記載について、その意味は明確である。
なお、特許法第36条第5項においては、「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」と規定されている。
ウ 小括
よって、申立人1、2の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~5、7、8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~5、7、8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項6は、本件訂正により削除されたため、請求項6に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700027