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特許拒絶査定不服審判

2024-015542

フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリング

審判番号
2024-015542
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-508312外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年09月27日
審決日
2025年10月14日
公報発行日
2026年04月24日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-Z (G01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-508312「フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリング」拒絶査定不服審判事件〔2020年(令和2年)10月22日国際公開、WO2020/214248、令和4年6月20日国内公表、特表2022-529196〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

1 手続の経緯

本願は、2020年(令和2年)2月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2019年4月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和5年2月24日に手続補正がされ、令和6年1月5日付けで拒絶理由が通知され、同年4月11日に意見書が提出され、同年5月21日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、同年9月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本件発明

本願の請求項1~15に係る発明は、令和5年2月24日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1、請求項11及び請求項15に係る発明は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
フローサイトメトリイベントデータをサブサンプリングする方法であって、
プロセッサの制御下で、
より高い次元空間内のフローサイトメトリイベントデータセットの、第1の複数のイベントのうちの第1のイベントに関連付けられた第1のフローサイトメトリイベントデータを、第1のより低い次元空間内の、前記第1のイベントに関連付けられた第1の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することであって、前記第1のイベントが、正のサブサンプリング要件に関連付けられ、前記第1のより低い次元空間が、第1の複数のビンに関連付けられ、前記第1の変換フローサイトメトリイベントデータが、前記第1の複数のビンのうちの第1のビンに関連付けられる、変換することと、
前記より高い次元空間内の前記フローサイトメトリイベントデータセットの、前記第1の複数のイベントのうちの第2のイベントに関連付けられた第2のフローサイトメトリイベントデータを、前記第1のより低い次元空間内の、前記第2のイベントに関連付けられた第2の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することであって、前記第2のイベントが、前記正のサブサンプリング要件に関連付けられ、前記第2の変換フローサイトメトリイベントデータが、前記第1の複数のビンのうちの第2のビンに関連付けられる、変換することと、
前記第1の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた前記第1のビンと、前記第2の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた前記第2のビンとが異なることを判定することと、
前記第1のイベントに関連付けられた前記第1のフローサイトメトリイベントデータおよび前記第2のイベントに関連付けられた前記第2のフローサイトメトリイベントデータを含む、前記フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータセットを生成することと
を含む、方法。」
「 【請求項11】
前記第1の複数のイベントのうちの第4のイベントに関連付けられた第4のフローサイトメトリイベントデータが負のサブサンプリング要件に関連付けられていることを判定することを含み、
前記生成することが、前記第4のイベントに関連付けられた前記第4のフローサイトメトリイベントデータを含む、前記フローサイトメトリイベントデータセットの前記サブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータセットを生成することを含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。」
「 【請求項15】
実行可能命令を記憶するように構成された非一時的メモリと、
前記非一時的メモリと通信するプロセッサと
を含み、
続きを表示(全11行)
前記プロセッサは、前記実行可能命令によって、
より高い次元空間内のフローサイトメトリイベントデータセットの、第1の複数のイベントのうちの第1のイベントに関連付けられた第1のフローサイトメトリイベントデータを、第1のより低い次元空間内の、前記第1のイベントに関連付けられた第1の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することであって、前記第1のイベントが、正のサブサンプリング要件に関連付けられ、前記第1のより低い次元空間が、第1の複数のビンに関連付けられ、前記第1の変換フローサイトメトリイベントデータが、前記第1の複数のビンのうちの第1のビンに関連付けられる、変換することと、
前記より高い次元空間内の前記第1の複数のイベントのうちの第2のイベントに関連付けられた第2のフローサイトメトリイベントデータを、前記第1のより低い次元空間内の、前記フローサイトメトリイベントデータセットの前記第2のイベントに関連付けられた第2の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することであって、前記第2のイベントが、前記正のサブサンプリング要件に関連付けられ、前記第2の変換フローサイトメトリイベントデータが、前記第1の複数のビンのうちの第2のビンに関連付けられる、変換することと、
前記第1の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた前記第1のビンと、前記第2の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた前記第2のビンとが異なることを判定することと、
前記第1のイベントに関連付けられた前記第1のフローサイトメトリイベントデータおよび前記第2のイベントに関連付けられた前記第2のフローサイトメトリイベントデータを含む、フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータセットを生成することと
を行うようにプログラムされている、
フローサイトメトリイベントデータをサブサンプリングするためのコンピューティングシステム。」

3 原査定における拒絶の理由

原査定の拒絶の理由の概略は、請求項1及び請求項15の「前記第1のイベントが、正のサブサンプリング要件に関連付けられ」という記載について、サブサンプリング要件が正であるということが、発明の詳細な説明を参酌しても、どのような様態を表すか、理解できないから、請求項1、請求項15及び請求項1の記載を引用する請求項2~14に係る発明は明確でなく、本願の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。

4 当審の判断

(1)特許請求の範囲における発明特定事項

本願の請求項1に係る発明は、前記3に記載した事項により特定されるとおりの「フローサイトメトリイベントデータをサブサンプリングする方法」に係る発明である。そして、当該方法は、第3段落~第6段落にそれぞれ記載された4つの工程を含むと特定されたものであり、そのうちの、第3の段落及び第4の段落に記載された「変換する」工程が、それぞれ「正のサブサンプリング要件に関連付けられ」るとする発明特定事項を規定している。なお、第3の段落に記載された「変換する」工程は次のとおりである。

「 より高い次元空間内のフローサイトメトリイベントデータセットの、第1の複数のイベントのうちの第1のイベントに関連付けられた第1のフローサイトメトリイベントデータを、第1のより低い次元空間内の、前記第1のイベントに関連付けられた第1の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することであって、前記第1のイベントが、正のサブサンプリング要件に関連付けられ、前記第1のより低い次元空間が、第1の複数のビンに関連付けられ、前記第1の変換フローサイトメトリイベントデータが、前記第1の複数のビンのうちの第1のビンに関連付けられる、変換すること」

上記「変換する」工程は、「第1のフローサイトメトリイベントデータ」を「第1の変換フローサイトメトリイベントデータ」に変換する工程である。

そして、請求項1に係る記載は、変換前の「第1のフローサイトメトリイベントデータ」について、「フローサイトメトリイベントデータセット」に含まれるものであり、そのうちの「第1のイベントに関連付けられた」データであることを特定している。

さらに、請求項1に係る記載は、「第1のイベント」について、「第1の複数のイベント」に含まれるものであること、及び、「正のサブサンプリング要件に関連付けられ」るものであることを特定している。

ここで、請求項1には、「正のサブサンプリング要件に関連付けられ」る「第1のイベント」がどのようなものであるかを特定する記載がない。また、「正のサブサンプリング要件」という用語自体から、「第1のイベント」がどのようなものであるかが明確であるということもできない。このため、当業者は、「変換する工程」が、どのようなイベントに対して実行されるのかを特定することができないため、特許を受けようとする発明の外縁が不明確となっている。

なお、「正のサブサンプリング要件」を、サブサンプリングされるイベントを特定する要件であると解釈することもできない。請求項1の記載を引用する請求項11には、「フローサイトメトリイベントデータをサブサンプリングする方法」が、「第4のイベント」について「負のサブサンプリング要件に関連付けられていることを判定する」工程を含むことが特定されているが、「前記サブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータセット」は、負のサブサンプリング要件に関連付けられていると判定された「第4のイベントに関連付けられた前記第4のフローサイトメトリイベントデータを含む」ことが特定されている。つまり、「イベント」が「正のサブサンプリング要件に関連」付けられる場合と「負のサブサンプリング要件に関連」付けられる場合のいずれの場合であっても、サブサンプリングされることが特定されている。そうすると、請求項1における「正のサブサンプリング要件」が、サブサンプリングされるイベントを特定する要件でないことは明らかである。

請求項15や、請求項1の記載を引用する請求項2~14についても、同じことがいえる。

(2)発明の詳細な説明の記載事項の参酌

折りたたみ中(クリックで表示)

本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することにより、請求項1~15に係る発明が明確であると理解できるかについて、検討する。

まず、「イベント」という用語の定義について検討すると、本願の明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

「【0038】
本明細書で使用される場合、「イベント」または「イベントデータ」は、概して、細胞または合成粒子などの単一の粒子から測定されるデータ(例えば、データの組み立てられたパケット)を指す。典型的には、単一の粒子から測定されるデータは、1つ以上の光散乱パラメータまたは特徴、および蛍光の強度など粒子から検出される蛍光に由来する少なくとも1つの他のパラメータまたは特徴を含む多数のパラメータまたは特徴を含む。したがって、各イベントは、パラメータおよび特徴の測定値のベクトルとして表され得、各測定されたパラメータまたは特徴は、データ空間の1つの次元に対応する。一部の実施形態では、単一の粒子から測定されるデータは、画像データ、電気データ、時間データ、または音響データを含む。イベントは、実験、アッセイ、または測定データに関連付けて識別され得る試料源に関連付けられ得る。」

上記記載に基づけば、請求項1における「第1のイベント」は、特定の、細胞または合成粒子などの単一の粒子の測定を意味するものと理解できる。また、請求項1における「第1のフローサイトメトリイベントデータ」は、特定の、細胞または合成粒子などの単一の粒子から測定されるデータを意味するものと理解できる。

次に、「正のサブサンプリング要件」という用語について検討すると、本願の明細書の発明の詳細な説明には、「正のサブサンプリング要件」を直接定義する記載がないものの、「正のサンプリング要件」及び「負のサンプリング要件」に関して、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。

「【0075】
方法400がブロック404で開始した後、方法400はブロック408に進み、コンピューティングシステムは、より高い次元空間内のフローサイトメトリイベントデータセットの、第1の複数のイベントのうちの第1のイベントに関連付けられた第1のフローサイトメトリイベントデータを、第1のより低い次元空間内の、第1のイベントに関連付けられた第1の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することができる。第1のイベントは、正のサブサンプリング要件に関連付けられ得る。例えば、第1のフローサイトメトリイベントデータを含むフローサイトメトリイベントデータをサブサンプリングするとき、サブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータは、第1のフローサイトメトリイベントデータを含まない場合がある。第1のより低い次元空間は、第1の複数のビンに関連付けられ得る。第1の変換フローサイトメトリイベントデータは、第1の複数のビンのうちの第1のビンに関連付けられ得る。コンピューティングシステムは、サブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータを生成するときに、第1のフローサイトメトリイベントデータが含まれるべきであることを(例えば、データ構造内で)示すことができる。
【0076】
一部の実施形態では、コンピューティングシステムは、第1のフローサイトメトリイベントデータを含むフローサイトメトリイベントデータを受信することができる。コンピューティングシステムは、第1の複数のイベントのうちの第1のイベントの第1のフローサイトメトリイベントデータが正のサブサンプリング要件に関連付けられていることを判定することができる。コンピューティングシステムは、第1の変換フローサイトメトリイベントデータが第1の複数のビンのうちの第1のビンに関連付けられていることを判定することができる。」
「【0080】
方法400は、ブロック412に進み、コンピューティングシステムは、より高い次元空間内のフローサイトメトリイベントデータセットの、第1の複数のイベントのうちの第2のイベントに関連付けられた第2のフローサイトメトリイベントデータを、第1のより低い次元空間内の、第2のイベントに関連付けられた第2の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することができる。第2のイベントは、正のサブサンプリング要件に関連付けられ得る。第2の変換フローサイトメトリイベントデータは、第1の複数のビンのうちの第2のビンに関連付けられ得る。一部の実施形態では、第2のフローサイトメトリイベントデータを変換するために、コンピューティングシステムは、第2の次元削減関数を使用して第1のフローサイトメトリイベントデータを変換することができる。第1の次元削減関数および第2の次元削減関数は、同一であり得る。
【0081】
一部の実施形態では、コンピューティングシステムは、第2のフローサイトメトリイベントデータを含むフローサイトメトリイベントデータを受信することができる。コンピューティングシステムは、第1の複数のイベントのうちの第2のイベントの第2のフローサイトメトリイベントデータが正のサブサンプリング要件に関連付けられていることを判定することができる。コンピューティングシステムは、第2の変換フローサイトメトリイベントデータが第1の複数のビンのうちの第2のビンに関連付けられていることを判定することができる。」
「【0088】
一部の実施形態では、コンピューティングシステムは、より高い次元空間内のフローサイトメトリイベントデータセットの、第1の複数のイベントのうちの第3のイベントに関連付けられた第3のフローサイトメトリイベントデータを、第1のより低い次元空間内の第3のイベントに関連付けられた第3の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することができる。第3のイベントは、正のサブサンプリング要件に関連付けられ得る。第3の変換フローサイトメトリイベントデータは、第1の複数のビンのうちの第3のビンに関連付けられ得る。プロセッサは、実行可能命令によって、第3の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた第3のビンが、第1の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた第1のビンであるか、または第2の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた第2のビンであることを判定するようにプログラムすることができる。第3のフローサイトメトリイベントデータは、フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータ内にない場合がある。コンピューティングシステムは、第1の複数のビンのうちの第3のビンに基づいて、第3の変換フローサイトメトリイベントデータの第3の記述子を決定することができる。第3のビンに関連付けられた第3の変換フローサイトメトリイベントデータの第3の記述子は、第1の複数のビンのうちの第3のビンの第3のビン番号であり得る。コンピューティングシステムは、第3のビン、第3の記述子、および/または第3のビン番号がメモリデータ構造内にないことを判定することができる。
【0089】
一部の実施形態では、コンピューティングシステムは、第1の複数のイベントのうちの第4のイベントに関連付けられた第4のフローサイトメトリイベントデータが、負のサブサンプリング要件に関連付けられていることを判定することができる。コンピューティングシステムは、第4のイベントに関連付けられた第4のフローサイトメトリイベントデータを含む、フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータセットを生成することができる。コンピューティングシステムは、複数の対象細胞を定義する複数のゲートを受信することができる。第4のフローサイトメトリイベントデータは、複数の対象細胞のうちの1つの対象細胞に関連付けられ得る。第4のフローサイトメトリイベントデータは、選別された細胞に関連付けられ得る。
【0090】
一部の実施形態では、コンピューティングシステムは、より高い次元空間内のフローサイトメトリイベントデータセットの、第2の複数のイベントのうちの第2のイベントに関連付けられた第2のフローサイトメトリイベントデータを、第1のより低い次元空間内の、第2の複数のイベントのうちの第2のイベントに関連付けられた第2の変換フローサイトメトリイベントデータに変換することができる。第2の複数のイベントのうちの第2のイベントは、正のサブサンプリング要件に関連付けられ得る。第2の複数のイベントのうちの第2のイベントに関連付けられた第2の変換フローサイトメトリイベントデータは、第1の複数のビンのうちの第2のビンに関連付けられ得る。第2の複数のイベントのうちの第2のイベントに関連付けられた第2の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた第2のビン、および、第1の複数のイベントのうちの第1のイベントに関連付けられた第1の変換フローサイトメトリイベントデータに関連付けられた第1のビンは、同一であり得る。コンピューティングシステムは、第2の複数のイベントのうちの第2のイベントに関連付けられた第2のフローサイトメトリイベントデータを含む、フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータセットを生成することができる。」

段落【0075】の記載に基づけば、「第1のイベント」が「正のサブサンプリング要件に関連付けられ得る」ことにより、「サブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータ」に「第1のフローサイトメトリイベントデータを含まない場合」が生じることが理解できる。しかし、第1のフローサイトメトリイベントデータを含まない場合となる要件、或いは、第1のフローサイトメトリイベントデータを含む場合となる要件について、何ら記載も示唆もないため、「正のサブサンプリング要件に関連付けられ」る「第1のイベント」がどのようなものであるかを特定することができない。

また、段落【0076】、【0080】、【0081】、【0088】、【0089】、【0090】の記載は、イベントが、「正」又は「負」のサブサンプリング要件に関連付けられることを示すにとどまるものであるため、これらの記載を参酌したとしても、「正のサブサンプリング要件に関連付けられ」る「第1のイベント」がどのようなものであるかを特定することができない。

したがって、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、請求項1~15に係る発明が明確であるということはできない。

(3)技術常識の参酌

当該分野の技術常識を参酌することにより、請求項1~15に係る発明が明確であると理解できるかについて、検討する。

本願の明細書の【技術分野】に係る段落【0001】の記載に基づけば、本願の請求項1~15に係る発明は、「自動粒子評価の分野」、より具体的には、「試料分析および粒子特性評価方法」の技術分野に属するものといえる。

また、本願の明細書の【背景技術】に係る段落【0002】には、「粒子またはその成分は、典型的には、検出を容易にするために蛍光色素で標識される。多数の異なる粒子または成分は、スペクトル的に異なる蛍光色素を使用して、異なる粒子または成分を標識することによって同時に検出することができる。蛍光色素標識抗体または他の蛍光プローブで種々の細胞タンパク質または他の成分を標識することから生じる光散乱特性および蛍光放射によって、異なる細胞型を識別することができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、当該技術分野において、細胞の測定、つまり、請求項1~15に係る発明における「イベント」は、「スペクトル的に異なる蛍光色素を使用」して、「種々の細胞タンパク質または他の成分を標識することから生じる光散乱特性および蛍光放射」を検出することであり、細胞の測定、つまり、「イベント」によって、「異なる細胞型を識別」することができるものである。

しかし、異なる細胞型を識別することができる「イベント」において、どの「イベント」が、「正のサブサンプリング要件に関連」する「イベント」であり、どの「イベント」が、「正のサブサンプリング要件に関連」する「イベント」であるかが、当該技術分野において自明であったということはできない。

また、本願の明細書の段落【0065】には、次の記載がある。なお、下線は合議体が付した。

「フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリング
本明細書に開示されるものは、希少イベントおよび集団が結果として生じるサブセットに適切に表されるように、希少イベントおよび集団を秤量することを可能にする、システム、デバイス、コンピュータ可読媒体、およびデータセット(例えば、大規模なより高い次元データセット)をサブサンプリングするための方法を含む。一部の実施形態では、データセット全体を保存することが非所望である場合に、全ての集団(例えば、希少細胞および集団を含む全ての集団)を保存するデータセットのサブセットは、データセットまたはサブサンプリングされたデータセットのサブセットに表され得る。一部の実施形態では、サブセットまたはサブサンプリングされたデータセットは、希少サブ集団からの代表的な試料を保存する。一部の実施形態では、データセットは、(例えば、希少細胞または対象細胞に対応する)希少イベントまたは対象イベントを破棄することなくサブサンプリングされ得る。システムは、一般的なイベントをより積極的に破棄しながら、希少イベントを自動的に検出し、保存する。」

当該記載に基づけば、一部の実施形態として、「希少イベント」又は「対象イベント」をサブサンプリングすることが開示されているといえる。しかし、「希少イベント」又は「対象イベント」をサブサンプリングすることが技術常識であったとしても、「正のサブサンプリング要件に関連付けられ」る「第1のイベント」の範囲を特定することができないため、「変換する工程」が、どのようなイベントに対して実行されるのかを特定することができない。

仮に、本願の請求項1~15に係る発明が、「希少イベント」又は「対象イベント」をサブサンプリングすることを目的とするものに限定されており、「正のサンプリング要件」が「希少イベント」又は「対象イベント」であることを要件とするものであることが特定されていたとしても、どのような細胞の測定を、「希少」又は「対象」イベントと考えるかによって、「正のサンプリング要件」の範囲が変化することは明らかである。そうすると、仮に、請求項1~15に係る発明の目的が「希少イベント」又は「対象イベント」をサブサンプリングすることに特定されていたとしても、「第1のイベント」の外縁を特定することができないため、「変換する工程」が、どのようなイベントに対して実行されるのかを特定することができない。

なお、本願の明細書の段落【0072】には「ランダムにデータをサンプリングする場合、希少集団は排除され得る。」という記載があり、段落【0075】には「第1の変換フローサイトメトリイベントデータは、第1の複数のビンのうちの第1のビンに関連付けられ得る。コンピューティングシステムは、サブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータを生成するときに、第1のフローサイトメトリイベントデータが含まれるべきであることを(例えば、データ構造内で)示すことができる。」という記載がある。しかしながら、これらの記載を参酌したとしても、「変換する工程」が、どのようなイベントに対して実行されることになるのかを特定することができない。

したがって、当該分野の技術常識を参酌したとしても、請求項1~15に係る発明が明確であるということはできない。

(4)審判請求人の主張について

審判請求人は、審判請求の理由において、段落【0065】~【0091】に言及し、「明細書の記載内容を考慮して本願の特許請求の範囲を読んだ当業者であれば、『サブサンプリング要件が正であるということ』がどのような様態を表しているかを明確に理解できる。」と主張している。

しかし、前記(2)において検討したとおり、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、請求項1~15に係る発明が明確であるということはできない。

審判請求人が主張するとおり、「本願の請求項1に係る方法の目的の一つは、対象でないイベントを破棄する一方で対象であるこれらのイベントを保持することにより、データイベントをサブサンプリングすること」であるとしても、前記(1)に記載したとおり、請求項1及び請求項11には、「イベント」が「正のサブサンプリング要件に関連」付けられる場合と「負のサブサンプリング要件に関連」付けられる場合のいずれの場合であっても、サブサンプリングされることが特定されているから、上記目的に基づいたとしても、「正のサブサンプリング要件」が、「イベントデータが含んで(即ち、そのような要件にとって正である)サブサンプリングされるべきであるための基準に関連すること」と理解することはない。また、「サブサンプリング」の用語は、一般的な意味で使用され、明細書中で説明されているにすぎないから、仮に、上記目的が、本願の請求項1~15に係る発明の目的であることが特定されていたとしても、サブサンプリングされるイベントのうち、「正のサブサンプリング要件」に関連するイベントの態様が明確であるということはできない。

以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することができない。

(5)補正案について

審判請求人は、審判請求書において、「明確化を図るための補正を行うことに吝かではない」として、請求項1の「前記第1のイベントが、正のサブサンプリング要件に関連付けられ、」を「前記第1のイベントが、イベントデータがサブサンプリングされるべきであることを示す正のサブサンプリング要件に関連付けられ、」に変更し、請求項11の「前記第1の複数のイベントのうちの第4のイベントに関連付けられた第4のフローサイトメトリイベントデータが負のサブサンプリング要件に関連付けられていることを判定することを含み、」を「前記第1の複数のイベントのうちの第4のイベントに関連付けられた第4のフローサイトメトリイベントデータが、イベントデータがサブサンプリングされるべきでないことを示す負のサブサンプリング要件に関連付けられていることを判定することを含み、」に変更する補正案を提示している。

しかし、審判請求人が提示する補正案が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと理解することができない。特に、明細書の段落【0089】には、「一部の実施形態では、コンピューティングシステムは、第1の複数のイベントのうちの第4のイベントに関連付けられた第4のフローサイトメトリイベントデータが、負のサブサンプリング要件に関連付けられていることを判定することができる。コンピューティングシステムは、第4のイベントに関連付けられた第4のフローサイトメトリイベントデータを含む、フローサイトメトリイベントデータのサブサンプリングされたフローサイトメトリイベントデータセットを生成することができる。」(下線は合議体が付した。)との記載がある。「正のサブサンプリング要件」がサブサンプリングされるべきであることを示すことや、「負のサブサンプリング要件」がサブサンプリングされるべきでないことを示すことを、願書に最初に添付した明細書等から読み取ることができない。

そうすると、補正要件を満たさない補正案に基づく審判請求人の主張を参酌することはできない。

(6)まとめ

以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、本願の発明の詳細な説明の記載や技術常識を勘案したとしても、特許を受けようとする発明を明確に記載したものということができない。

5 むすび

以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2024-015542

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