特許拒絶査定不服審判
2024-001412
光電子デバイスにおけるひずみ制御
- 審判番号
- 2024-001412
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-564399
- 請求日
- 2024年01月26日
- 審決日
- 2025年10月29日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ローレンス・リバモア・ナショナル・セキュリティ・エルエルシー
- 【請求人代理人】大野 聖二
- 【請求人代理人】大野 浩之
- 【請求人代理人】松野 知紘
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 小澤 尚由
- 審判官 東松 修太郎
- 分類
- P18 .121-Z (H10H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-564399「光電子デバイスにおけるひずみ制御」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年12月19日国際公開、WO2019/241082、令和 3年10月14日国内公表、特表2021-527944〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)6月7日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年6月13日、米国(US))、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和2年12月16日 :翻訳文の提出
令和4年 6月 1日 :手続補正書の提出
令和5年 3月30日付け:拒絶理由通知書
同年 9月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月 2日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月10日 :原査定の謄本の送達)
令和6年 1月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 3月15日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 6月 7日 :意見書の提出
同年 7月 1日付け:前置報告書
以下、2018年(平成30年)6月13日を「優先日」という。
第2 令和6年1月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年1月26日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年1月26日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであって、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和5年9月1日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項7の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項7の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項7】
装置であって、
第1の熱膨張係数を有する半導体材料を含む微細構造半導体デバイスと、
第2の熱膨張係数を有し、前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される膜であって、第2の熱膨張係数が第1の熱膨張係数と異なり、前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす熱膨張係数の不一致を生成する、膜と、
を備え、
前記微細構造半導体デバイスは波長λの光を放つように構成されたレーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され、
前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の減少したdλ/dT、所定の増加したdλ/dT、およびゼロであるdλ/dTのうちの1つを達成するように構成される、装置。」
(2) 本件補正後
「【請求項7】
装置であって、
第1の熱膨張係数を有する半導体材料を含む微細構造半導体デバイスと、
第2の熱膨張係数を有し、前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される膜であって、第2の熱膨張係数が第1の熱膨張係数と異なり、前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす熱膨張係数の不一致を生成する、膜と、
を備え、
前記微細構造半導体デバイスは波長λの光を放つように構成されたレーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され、
前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される、装置。」
2 本件補正の目的
本件補正のうち請求項7についてする補正(以下、単に「請求項7の補正」という。)は、本件補正前の請求項7における「所定の減少したdλ/dT、所定の増加したdλ/dT、およびゼロであるdλ/dTのうちの1つを達成する」との特定事項を、「所定の制御されたdλ/dTを達成する」との特定事項とするものである。ここで、本件補正前の請求項7における「ゼロであるdλ/dT」は、字義どおりdλ/dTの値が0であることを意味すると解されるから、dλ/dTが減少も増加もしないことを意味するものではないといえる。
そして、請求項7の補正により、本件補正後の請求項7に係る発明はdλ/dTが減少も増加もしない構成を含むようになるところ、当該構成は「所定の減少したdλ/dT、所定の増加したdλ/dT、およびゼロであるdλ/dT」のいずれを減縮したものでもないから、請求項7の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、請求項7の補正が、同項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正又は同項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。
してみると、請求項7の補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反してされたものである。
3 独立特許要件についての予備的検討
前記2で説示したとおり、請求項7の補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正には該当しないが、本件補正後の請求項7では、「前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす」ことが特定されており、当該ひずみは必然的にdλ/dTの変化をもたらすため、本件補正後の請求項7の「制御されたdλ/dT」には、「dλ/dTが減少も増加もしない構成」は含まないことが暗に特定されていると解することにより、請求項7の補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当すると解する余地もある。そこで、本件補正後の請求項7に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成Dまでに分説する。また、参考図として、本願の【図1】に部材名を記入したものを掲載する。
<本件補正発明の分説>
X 装置であって、
A 第1の熱膨張係数を有する半導体材料を含む微細構造半導体デバイスと、
B 第2の熱膨張係数を有し、前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される膜であって、第2の熱膨張係数が第1の熱膨張係数と異なり、前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす熱膨張係数の不一致を生成する、膜と、
を備え、
C 前記微細構造半導体デバイスは波長λの光を放つように構成されたレーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され、
D 前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される、
X 装置。
<参考図>
[図:0001433477000001.jpg]
(2) 引用文献1の記載事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前に発行された文献である特開平9-283862号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記ウの引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
(ア) 特許請求の範囲
「【請求項1】 光学的活性領域を有する単一共振器モード光エレクトロニクス装置であって、
該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償するように、該光学的活性領域に温度に依存して変化する歪みを印加する歪み印加手段をさらに備えている、単一共振器モード光エレクトロニクス装置。
【請求項2】 前記歪み印加手段は、前記光学的活性領域に2軸圧縮歪みを印加するように構成されている、請求項1に記載の単一共振器モード光エレクトロニクス装置。
【請求項3】 前記歪み印加手段は、温度変化時に前記利得スペクトルピークと前記共振器モードとの間に実質的な一致を維持するように構成されている、請求項1或いは2に記載の単一共振器モード光エレクトロニクス装置。
…(中略)…
【請求項5】 垂直共振器型面発光レーザダイオード、共鳴共振器型発光ダイオード、或いは端面発光型分布帰還レーザダイオードである、請求項1から4のいずれかに記載の単一共振器モード光エレクトロニクス装置。
【請求項6】 前記歪み印加手段は、直接的に或いは間接的に前記光学的活性領域に作用し、該光学的活性領域とは異なる熱膨張係数を有する歪み印加材料で形成されている、請求項1から5のいずれかに記載の単一共振器モード光エレクトロニクス装置。
【請求項7】 前記歪み印加材料は、前記光学的活性領域を含むエッチングされたピラー構造或いはメサ構造を囲む層として設けられていて、該光学的活性領域よりも、使用時に要求される歪み特性を生成する量だけ大きい熱膨張係数を有する、請求項6に記載の単一共振器モード光エレクトロニクス装置。
(後略)」
(イ) 【0001】~【0040】、【図1】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、垂直共振器型面発光レーザダイオード(VCSEL)、共鳴共振器型発光ダイオード(RCLED)、及び端面発光型分布帰還(DFB)レーザダイオードのような、分布ブラッグ反射器(DBR)を組み込んでいる半導体レーザ装置に関する。
…(中略)…
【0004】
【発明が解決しようとする課題】オーム加熱は、上記装置の連続波パワー出力を制限する主要な要因である。VCSELの場合、オーム加熱は、主として、DBRのポテンシャル井戸/障壁構造によって生じる電流に対するDBRの抵抗による。そのような構造は、装置の光学的活性領域の温度を、連続波(continuous wave=cw)動作で100~200℃に達しさせ得る。光学的活性領域の温度が上昇するにつれて、そのバンドギャップは減少し、利得スペクトルのピークが長波長側に急速に移動、すなわちシフトする。
【0005】利得のシフトに加えて、共振器モードが、やはり長波長側に、但しやや遅いレートでシフトする。利得スペクトルのピーク及び共振器モードのシフトの程度は、材料に依存している。例えば、IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol.29,No.6, pp.2013-2021 (1993)には、InGaAsから形成されている光学的活性領域を有するVCSELに対して、0.32nm/℃の利得スペクトルピークのシフト及び0.08nm/℃の共振器モードのシフトが報告されている。
【0006】このように、駆動電流が増加するにつれて、利得スペクトルのピークと共振器モードとがそれぞれ異なったレートでシフトするので、それらはトラックしない。この現象は、「利得オフセット」効果として知られている。図1は、VCSELの共振器モードスペクトルと利得スペクトルとの例を示している。光学的活性領域の加熱は、共振器モードを、位置1から位置1aにシフトさせる。同様に、光学的活性領域の加熱は、利得スペクトルピークを、位置2から位置2aにシフトさせる。シフトのレートが異なっているので、共振器モードと利得スペクトルピークとの間にミスマッチが生じて、VCSELのレーザ発振モードの最適利得が減少される。
【0007】さらに、上述の利得オフセット効果は、VCSELでは、より顕著に生じる。これは、VCSELの共振器長が、従来の端面発光型レーザ装置の共振器長に比べて、はるかに短いからである。例えば、VCSELの共振器長が0.1μm~1.0μmであるのに対して、端面発光型レーザの共振器長は数100μmの範囲であり、すなわち、3桁ほど大きい。VCSELのモード間隔は、このように、典型的には光学的活性領域のバンド幅よりも数倍大きく、従って、利得スペクトルの中には、僅かに単一の共振器モードのみが存在する。従って、温度が増加するにつれて、レーザ発振モードは異なった共振器モードに「ホップ」できない。
…(中略)…
【0015】これより、本発明は、単一共振器モード光エレクトロニクス装置のオーム加熱によって生じる上記の問題を低減するためになされたものであり、それを実現する構成を有する単一共振器モード光エレクトロニクス装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明の単一共振器モード光エレクトロニクス装置は、光学的活性領域を有する単一共振器モード光エレクトロニクス装置であって、該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償するように、該光学的活性領域に温度に依存して変化する歪みを印加する歪み印加手段をさらに備えており、そのことによって上記目的が達成される。
【0017】ある実施形態では、前記歪み印加手段は、前記光学的活性領域に2軸圧縮歪みを印加するように構成されている。
【0018】前記歪み印加手段は、温度変化時に前記利得スペクトルピークと前記共振器モードとの間に実質的な一致を維持するように構成され得る。或いは、前記歪み印加手段は、該装置の前記共振器モードと前記利得スペクトルピークとの間に実質的に一定のオフセット或いはミスマッチを維持するように構成され得る。
【0019】本発明の単一共振器モード光エレクトロニクス装置は、垂直共振器型面発光レーザダイオード、共鳴共振器型発光ダイオード、或いは端面発光型分布帰還レーザダイオードであり得る。
【0020】ある実施形態では、前記歪み印加手段は、直接的に或いは間接的に前記光学的活性領域に作用し、該光学的活性領域とは異なる熱膨張係数を有する歪み印加材料で形成されている。
【0021】前記歪み印加材料は、前記光学的活性領域を含むエッチングされたピラー構造或いはメサ構造を囲む層として設けられ得て、該光学的活性領域よりも、使用時に要求される歪み特性を生成する量だけ大きい熱膨張係数を有し得る。好ましくは、前記歪み印加材料の層は、前記ピラー或いはメサ構造への内向きの圧縮歪みの印加を促進するように、外的に制限されている。前記歪み印加材料は、耐温度性ポリマ材料であり得る。
…(中略)…
【0039】上述の全ての実施形態において、光学的活性領域にかかる力は、典型的には約1%迄の圧縮歪みになることが好ましい。装置の温度が増加するにつれて、装置の成長面内に次第に増加していく2軸の圧縮歪みがかかるように歪み印加手段を設けることによって、利得スペクトルピークに対する温度上昇の影響に対応することが可能になる。
【0040】歪み印加手段は、温度変動時に利得スペクトルピークと共振器モードとの間の実質的な一致が維持されるように構成され得るか、或いは、装置の共振器モードと利得スペクトルピークとの間の実質的に一定のオフセット或いはミスマッチを維持するように構成され得る。オフセットは、通常は、共振器モード波長が利得スペクトルピークより僅かに、典型的には約5%以下だけ短くなるようにする。これによって、Japanese Journal of Applied Physics, Vol.32, Part 2, No.11A, pp.L1612-L1624 (1993)に記載されているように、駆動電流増加時に基本トラバースモードの動作を維持する能力が改善される。」
「【図1】
[図:0001433477000002.jpg]
」
(ウ) 【0041】~【0056】、【図2】
「【0041】
【発明の実施の形態】図2(a)を参照すると、VCSEL装置は、n+型半導体基板3、n型下部DBR反射器4、n型障壁層5a、多重量子井戸(MQW)光学的活性領域5、p型障壁層5b、及びp型上部DBR反射器6を備えている。n型障壁層5a、MQW光学的活性領域5、p型障壁層5b、及び上部DBR反射器6は、エッチングされたピラー構造8を形成しており、下部DBR反射器4とともに装置の共振器を規定する。或いは、これらの層は、メサ構造を形成し得る。
【0042】本発明によれば、誘電性の合成ポリマ材料7が、エッチングされたピラー構造8を囲んでおり、光学的活性領域5よりも大きな熱膨張係数を有している。
【0043】VCSEL装置は、通常の電源コンタクトを備えており、本実施形態では、上部DBR反射器6の上の上部環状コンタクト20及び基板3の下側の下部コンタクト22の形態をとっている。
【0044】通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加する。
【0045】図示されていない他の実施形態では、SiO2のような熱膨張係数が小さい材料が材料7の上に設けられて、圧縮歪みの印加方向に垂直な方向に材料7が緩和してしまうことを防ぐ。これによって、ピラー構造8、そして実際には光学的活性領域5、障壁領域5a及び5b、及び上部DBR反射器6のすべてへの、半径方向に内向きの圧縮歪みの印加を促進する。
【0046】上記装置の形成方法は、基板3の上に、n型下部DBR反射器4、n型障壁層5a、MQW光学的活性領域5、p型障壁層5b、及びp型上部DBR反射器6を順にエピタキシャル成長させるプロセスを包含する。その後に、p型上部DBR反射器6、p型障壁層5b、MQW光学的活性領域5、及びn型障壁層5aが選択的にエッチングされて、ピラー構造8を形成する。
【0047】その後に、ピラー構造8の周囲の層として、誘電性材料7が、公知のスピンコーティング及びリソグラフィ技法によって堆積される。
【0048】典型的な例では、GaAsのVCSEL装置の基板及び様々な層の構成材料は、以下のようである。
【0049】
基板3 GaAs
反射器4 AlAs/GaAs多層DBR
障壁層5a Al0.5Ga0.5As
光学的活性領域5 3対のIn0.2Ga0.8As量子井戸及
びGaAs障壁層
障壁層5b Al0.5Ga0.5As
反射器6 AlAs/GaAs多層DBR
誘電性材料7 ポリイミド。
」
「【図2】(a)
[図:0001433477000003.jpg]
」
(エ) 【0061】~【0064】
「【0061】
【発明の効果】本発明によれば、光学的活性領域を有する単一共振器モード光エレクトロニクス装置であって、活性領域に、温度に依存して変化する歪みを、光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償するように印加する歪み印加手段が設けられていることを特徴とする、単一共振器モード光エレクトロニクス装置が提供される。
【0062】光エレクトロニクス装置の光学的活性領域に歪みを印加することによって、光学的活性領域のエネルギーギャップが増加し、それによって、光学的活性領域のエネルギーギャップの上述した温度によって生じる減少を、少なくとも部分的に、好ましくは実質的に完全に、補償する。
【0063】従って、この装置は、装置温度の全体的な変化に影響され難く、与えられた共振器モードでの利得を維持することができるために、連続波動作において改善された出力パワーを供給する能力を提供し得る。
【0064】これより、駆動電流或いはオーム加熱効果からは独立して、共振器モードと利得スペクトルのピークとの間に、これまで可能であったよりも有利な関係を維持することができる、単一共振器モード光エレクトロニクス装置を提供することが可能である。」
イ 引用文献1の記載事項から当業者が把握できる事項
引用文献1の【0004】の「光学的活性領域の温度が上昇するにつれて、そのバンドギャップは減少し、利得スペクトルのピークが長波長側に急速に移動、すなわちシフトする。」との記載、【0005】の「利得のシフトに加えて、共振器モードが、やはり長波長側に、但しやや遅いレートでシフトする。」との記載、及び、【0006】の「このように、駆動電流が増加するにつれて、利得スペクトルのピークと共振器モードとがそれぞれ異なったレートでシフトするので、それらはトラックしない。この現象は、「利得オフセット」効果として知られている。」との記載を踏まえると、当業者であれば、引用文献1の【請求項1】において、「該光学的活性領域に温度に依存して変化する歪みを印加する」ことによって、「該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償する」こと、及び、【請求項3】における「温度変化時に前記利得スペクトルピークと前記共振器モードとの間に実質的な一致を維持する」ことは、光学的活性領域に温度に依存して変化する歪み印加することによって、温度上昇時の利得スペクトルピークのシフトのレートを小さくすることを意味することを理解できる。
ウ 引用発明の認定
前記アに摘記した引用文献1の記載事項及び前記イに記載した引用文献1の記載事項から当業者が把握できる事項を総合すると、引用文献1には、【図2】(a)に示されるVCSEL装置である単一共振器モード光エレクトロニクス装置に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「光学的活性領域を有する単一共振器モード光エレクトロニクス装置であって、該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償するように、該光学的活性領域に温度に依存して変化する歪みを印加する歪み印加手段をさらに備えている、単一共振器モード光エレクトロニクス装置であり、(【請求項1】)
前記歪み印加手段は、前記光学的活性領域に2軸圧縮歪みを印加するように構成されており、(【請求項2】)
前記歪み印加手段は、温度変化時に前記利得スペクトルピークと前記共振器モードとの間に実質的な一致を維持するように構成されており、(【請求項3】)
前記単一共振器モード光エレクトロニクス装置は、垂直共振器型面発光レーザダイオード(VCSEL)であり、(【請求項5】・【0001】)
前記歪み印加手段は、直接的に前記光学的活性領域に作用し、該光学的活性領域とは異なる熱膨張係数を有する歪み印加材料で形成され、(【請求項6】)
前記歪み印加材料は、前記光学的活性領域を含むエッチングされたピラー構造を囲む層として設けられていて、該光学的活性領域よりも、使用時に要求される歪み特性を生成する量だけ大きい熱膨張係数を有し、(【請求項7】)
VCSEL装置は、n+型半導体基板3、n型下部DBR反射器4、n型障壁層5a、多重量子井戸(MQW)光学的活性領域5、p型障壁層5b、及びp型上部DBR反射器6を備えており、n型障壁層5a、MQW光学的活性領域5、p型障壁層5b、及び上部DBR反射器6は、エッチングされたピラー構造8を形成しており、下部DBR反射器4とともに装置の共振器を規定し、(【0041】)
誘電性の合成ポリマ材料7が、エッチングされたピラー構造8を囲んでおり、光学的活性領域5よりも大きな熱膨張係数を有しており、(【0042】)
通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加し、(【0044】)
光学的活性領域5は3対のIn0.2Ga0.8As量子井戸及びGaAs障壁層であり、(【0049】)
光学的活性領域に温度に依存して変化する歪みを印加することによって、温度上昇時の利得スペクトルピークのシフトのレートを小さくする、(前記イ)
単一共振器モード光エレクトロニクス装置」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(装置)
構成Xは、「装置」の発明であることを特定するものである。
引用発明の「単一共振器モード光エレクトロニクス装置」は、本件補正発明の「装置」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は「装置」の発明である点で一致する。
(イ) 構成Aの観点(微細構造半導体デバイス)
構成Aは、「第1の熱膨張係数を有する半導体材料を含む微細構造半導体デバイス」を備えることである。
a 引用発明の「VCSEL装置」は、「n+型半導体基板3、n型下部DBR反射器4、n型障壁層5a、多重量子井戸(MQW)光学的活性領域5、p型障壁層5b、及びp型上部DBR反射器6を備えて[いる]」から、本件補正発明の「半導体デバイス」に相当する。また、一般に、VCSELの共振器長は0.1μm~1.0μm程度であるから(必要があれば、引用文献1の【0007】を参照されたい。)、引用発明の「VCSEL装置」は、本件補正発明でいう「微細構造」であるといえる。
b 引用発明の「光学的活性領域5」は、「3対のIn0.2Ga0.8As量子井戸及びGaAs障壁層」であるから、本件補正発明の「半導体材料」に相当するとともに、引用発明の「VCSEL装置」は、本件補正発明でいう「半導体材料を含む」ものであるといえる。また、引用発明の「光学的活性領域5」が、何らかの値の熱膨張係数を有していることは明らかであるところ、当該熱膨張係数が、本件補正発明の「第1の熱膨張係数」に相当するとともに、引用発明における「光学的活性領域5」は、本件補正発明でいう「第1の熱膨張係数を有する」ものといえる。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、「第1の熱膨張係数を有する半導体材料を含む微細構造半導体デバイス」を「備え[る]」点で一致する。
(ウ) 構成Bの観点(膜)
構成Bは、「第2の熱膨張係数を有し、前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される膜であって、第2の熱膨張係数が第1の熱膨張係数と異なり、前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす熱膨張係数の不一致を生成する、膜」を備えることである。
a 引用発明は、「通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ことから、引用発明の「誘電体の合成ポリマ材料7」は、「歪み印加材料」であることが理解でき、「歪み印加材料」は、「前記光学的活性領域を含むエッチングされたピラー構造を囲む層として設けられてい[る]」から、本件補正発明の「膜」に相当する。
b 引用発明の「誘電体の合成ポリマ材料7」は、「光学的活性領域5より大きな熱膨張係数を有して[いる]」から、前記(イ)bも踏まえると、本件補正発明でいう「第1の熱膨張係数と異な[る]」「第2の熱膨張係数を有する」といえる。
c 引用発明は、「ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ものであるから、引用発明の「誘電体の合成ポリマ材料7」は、本件補正発明でいう「前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される」ものであることは明らかである。
d 引用発明の「2軸圧縮歪み」は、本件補正発明の「ひずみ」に相当する。そして、引用発明は、「装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ものであるから、本件補正発明でいう「前記装置の加熱」「の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす」ものであるといえる。また、引用発明は、「前記歪み印加材料は、」「該光学的活性領域よりも、使用時に要求される歪み特性を生成する量だけ大きい熱膨張係数を有[する]」ものであることから、引用発明における「誘電体の合成ポリマ材料7」は、本件補正発明でいう前記装置の加熱の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす「熱膨張係数の不一致を生成する」ものであるといえる。
e そうすると、本件補正発明と引用発明は、「第2の熱膨張係数を有し、前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される膜であって、第2の熱膨張係数が第1の熱膨張係数と異なり、前記装置の加熱」「の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす熱膨張係数の不一致を生成する、膜と、を備え[る]」点で一致する。
一方、「前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす」ことが、本件補正発明は、前記装置の「冷却」の間におけるものでもあるのに対して、引用発明は、「該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償する」ものであり、「通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ものであるが、装置の冷却の間におけるものであるか不明である点で相違する。
(エ) 構成Cの観点(レーザダイオード)
構成Cは、「前記微細構造半導体デバイスは波長λの光を放つように構成されたレーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され[る]」ことである。
a ここで、構成Cで特定される「微細構造半導体デバイス」が放つ光の「波長λ」について、本願の明細書には、次の記載がある。下線は、強調のために当合議体が付したものである。
「【背景技術】
【0045】
発光ダイオード(LED)およびレーザダイオード(LD)などの光電子デバイスの発光波長は、発光材料系のバンドギャップおよび当該材料の電子および正孔のエネルギー分布の両方によって決定される。…(後略)…」
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術は、発光デバイスの温度に対する発光波長応答の制御を容易にする。発光ダイオード(LED)とレーザダイオード(LD)は、外部環境および自己発熱によって引き起こされる温度変化による固有の波長シフトを示す。温度が上昇するかまたは低下すると、バンドギャップエネルギー、および電子および正孔のエネルギー分布の両方における変化のために、発光波長はそれに応じて減少するかまたは増加する。発光波長の温度非感受性が非常に望ましい用途がいくつかあるが、LEDもしくはLDの波長温度係数(dλ/dT)を直接設計することは、当該係数が、これらのデバイスを作るために使用される材料の固有の物理的特性から生じるので困難である。本技術は、dλ/dTの設計を容易にする手法を提供する。この手法は、デバイスの温度が変化すると様々な段階のひずみが下にあるLEDもしくはLDで発生するように、熱膨張係数が下にあるLBD/LDチップに対して一致しないコーティングを塗布することに依存する。ひずみは、デバイスの有効なバンドギャップエネルギー(したがって発光波長)を調整することもできるので、外部のひずみを誘発するコーティングは、温度による波長シフトを補償する(結果的にdλ/dTを低減させる)か、または当該波長シフトを強める(結果としてdλ/dTを増加させる)ように作用することができる。コーティング材料および形状を適切に選択することにより、dλ/dTに対する完全制御を達成することができる。」
「【0011】
本技術は代替の方法を提供する。高ひずみ用のコーティングを設計する代わりに、コーティング層は、下にある半導体と一致しない熱膨張係数を有するように選択される。したがって、製造されたLDもしくはLEDが(意図的もしくは非意図的に)加熱されるかまたは冷却されると、ひずみは、バンドギャップに対する温度の影響を弱めるかまたは補完するように作用することができる。これにより、波長と温度(dλ/dT)との関係を制御する追加の方法が可能になる。形状とCTEとの不一致を適切に選択することで、dλ/dTが制御されたLDおよびLEDを製造することができる。…(後略)…」
「【0019】
熱膨張係数が一致しないコーティングは、デバイスの温度が変化すると様々な段階のひずみが下にあるLEDもしくはLDで発生するように、下にある発光ダイオード(LED)もしくはレーザダイオード(LD)に塗布される。ひずみは、デバイスの有効なバンドギャップエネルギー(したがって発光波長)を調整することもできるので、外部のひずみを誘発するコーティングは、温度による波長シフトを補償する(結果的にdλ/dTを低減させる)か、または当該波長シフトを強める(結果としてdλ/dTを増加させる)ように作用することができる。コーティング材料および形状を適切に選択することにより、dλ/dTに対する完全制御を達成することができる。」
以上の記載からみて、構成Cで特定される「微細構造半導体デバイス」が放つ光の「波長λ」は、「発光材料系のバンドギャップおよび当該材料の電子および正孔のエネルギー分布の両方によって決定される」ものと解するのが相当である。
ここで、本件補正発明の「微細構造半導体デバイス」は、「レーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され[る]」ところ、このうち、レーザダイオードの発振波長は、半導体材料である発光層の発光波長と、共振器モードにより決定されることが技術常識であるが、「微細構造半導体デバイス」が「レーザダイオード」の場合についても、構成Cで特定される「微細構造半導体デバイス」が放つ光の「波長λ」は、「発光材料系のバンドギャップおよび当該材料の電子および正孔のエネルギー分布の両方によって決定される」もの、すなわち、半導体材料である発光層の発光波長と解するのが相当である。このことは、本願の明細書において、「波長λ」と共振器モードの関係について何ら言及がされていないことからも明らかである。
以上を前提に、構成Cの対比を行う。
b 引用発明の「VCSEL装置」は、前記(イ)aで説示したとおり本件補正発明の「微細構造半導体デバイス」に相当するとともに、「レーザダイオード」に相当するから、本件補正発明でいう「レーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され[る]」ものである。
c 引用発明の「該光学的活性領域の利得スペクトルピーク」は、「光学的活性領域」の発光波長を意味することが明らかであるところ、前記aを踏まえると、引用発明の「該光学的活性領域の利得スペクトルピーク」は、本件補正発明の「波長λ」に相当し、引用発明の「VCSEL装置」は、本件補正発明でいう「波長λを放つように構成された」ものといえる。
d 前記b及びcの検討を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「前記微細構造半導体デバイスは波長λの光を放つように構成されたレーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され[る]」で一致する。
(オ) 構成Dの観点(制御されたdλ/dT)
構成Dは、「前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される」ことである。
a 前記(ウ)dで説示したとおり、引用発明は、本件補正発明でいう「前記装置の加熱」「の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみ」をもたらすものである。
b 引用発明は、「光学的活性領域に温度に依存して変化する歪みを印加することによって、温度上昇時の利得スペクトルピークのシフトのレートを小さくする」ものであるから、前記(エ)cを踏まえると、本件補正発明でいう、前記装置の加熱の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみが「所定の」「dλ/dTを達成するように構成される」ものであるといえる。さらに、引用発明は、「前記歪み印加手段は、温度変化時に前記利得スペクトルピークと前記共振器モードとの間に実質的な一致を維持するように構成されて[いる]」ものであるから、前記所定のdλ/dTは、本件補正発明でいう「制御された」ものであるといえる。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、「前記装置の加熱」「の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される」点で共通する。
一方、「所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される」「前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみ」が、本件補正発明は、前記装置の「冷却」の間におけるものでもあるのに対して、引用発明は、「該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償する」ものであり、「通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ものであるが、装置の冷却の間におけるものであるか不明である点で相違する。
イ 一致点1及び相違点1
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の(ア)に示す一致点1において一致し、後記(イ)に示す相違点1において相違すると認められる。
(ア) 一致点1
「装置であって、
第1の熱膨張係数を有する半導体材料を含む微細構造半導体デバイスと、
第2の熱膨張係数を有し、前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される膜であって、第2の熱膨張係数が第1の熱膨張係数と異なり、前記装置の加熱の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす熱膨張係数の不一致を生成する、膜と、
を備え、
前記微細構造半導体デバイスは波長λの光を放つように構成されたレーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され、
前記装置の加熱の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される、装置」である点。
(イ) 相違点1
「所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される」「前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみ」が、本件補正発明は、装置の「冷却」の間におけるものでもあるのに対して、引用発明は、「該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償する」ものであり、「通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ものであるが、装置の冷却の間におけるものであるか不明である点。
(4) 判断
ア 相違点1について
引用発明は、「通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ものであるが、引用発明の「光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償するように、該光学的活性領域に温度に依存して変化する歪みを印加する」における、「温度によって生じる変化」という概念に高温から低温への変化が含まれることは、当業者にとって自明である。そうすると、引用発明において、「装置の温度が上昇[する]」際に加えて、装置の温度が下降する際、すなわち、前記相違点1に係る本件補正発明でいう「装置の冷却の間」においても、「所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される」「前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみ」をもたらすようにすることにより、前記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば適宜なし得る設計変更にすぎない。
イ 相違点についての検討のまとめ
前記アにおいて検討したとおり、引用発明において、前記相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張の内容
請求人は、引用発明は、温度による共振器モードの変化を制御することが可能又は望ましいことを教示しているのではなく、共振器モードとのミスマッチ(又はマッチ)を実質的に一定に維持するように、温度による利得スペクトルピークの変動に作用することを教示していること、及び、利得スペクトルピークの変化を補償するために熱膨張係数の不一致を使用する機能を開示していることから、温度に対するレーザー又は発光ダイオードの波長の変動を制御する可能性に対して効果的に反対教示している旨、主張している。
(イ) 請求人の主張についての検討
前記(3)ア(エ)aで説示したように、本件補正発明における「レーザダイオードおよび発光ダイオード」である「微細構造半導体デバイス」が放つ光の「波長λ」は、「微細構造半導体デバイス」が「レーザダイオード」の場合についても、「発光材料系のバンドギャップおよび当該材料の電子および正孔のエネルギー分布の両方によって決定される」ものと解することが相当であり、この結果、引用発明の「該光学的活性領域の利得スペクトルピーク」が、本件補正発明の「波長λ」に相当することも、前記同cで説示したとおりである。
そして、前記(3)ア(オ)bで説示したとおり、引用発明は、「光学的活性領域に温度に依存して変化する歪みを印加することによって、温度上昇時の利得スペクトルピークのシフトのレートを小さくする」ものであり、「前記歪み印加手段は、温度変化時に前記利得スペクトルピークと前記共振器モードとの間に実質的な一致を維持するように構成されて[いる]」ものであるから、本件補正発明でいう、前記装置の加熱の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみが「所定の制御されたdλ/dTを達成するように構成される」ものであるといえ、この点において本件補正発明と引用発明は相違しない。
したがって、請求人の主張は当たらない。
(5) 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、請求項7の補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記2及び前記3のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反してされたものであるか、又は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項7(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
ここで、検討の便宜上、本願発明の構成を次のとおり分説する。
<本願発明の分説>
X 装置であって、
A 第1の熱膨張係数を有する半導体材料を含む微細構造半導体デバイスと、
B 第2の熱膨張係数を有し、前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される膜であって、第2の熱膨張係数が第1の熱膨張係数と異なり、前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす熱膨張係数の不一致を生成する、膜と、
を備え、
C 前記微細構造半導体デバイスは波長λの光を放つように構成されたレーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され、
D’ 前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の減少したdλ/dT、所定の増加したdλ/dT、およびゼロであるdλ/dTのうちの1つを達成するように構成される、
X 装置。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由のうち理由1(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如) 本願発明は、その優先日前に発行された下記の引用文献1~3に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開平9-283862号公報(主たる引用文献)
引用文献2.特開2010-232502号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.米国特許出願公開第2013/0334541号明細書(周知技術を示す文献)
3 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
引用文献1の記載事項及び引用発明の認定は、前記第2の3(2)において示したとおりである。
4 対比・判断
(1) 対比
ア 対比分析
(ア) 構成X、構成A~構成Cについて
本願発明における構成X、構成A~構成Cと引用発明との対比は、前記第2の3(3)ア(ア)~(エ)において示したのと同様である。
(イ) 構成D’の観点(dλ/dT)
構成D’は、「前記装置の加熱および冷却の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の減少したdλ/dT、所定の増加したdλ/dT、およびゼロであるdλ/dTのうちの1つを達成するように構成される」ことである。
a 前記第2の3(3)ア(ウ)dで説示したのと同様に、引用発明は、本願発明でいう「前記装置の加熱」「の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみ」をもたらすものである。
b 引用発明は、「温度上昇時の利得スペクトルピークのシフトのレートを小さくする」ものであるから、本願発明でいう「所定の減少したdλ/dTを達成する」ものであるといえる。
c したがって、本願発明と引用発明は、「前記装置の加熱」「の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の減少したdλ/dT」「を達成するように構成される」点で共通する。
一方、「所定の減少したdλ/dT、所定の増加したdλ/dT、およびゼロであるdλ/dTのうちの1つを達成するように構成される」「前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみ」が、本願発明は、前記装置の「冷却」の間におけるものでもあるのに対して、引用発明は、「該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償する」ものであり、「通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ものであるが、装置の冷却の間におけるものであるか不明である点で相違する。
イ 一致点2及び相違点2
前記アの対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の(ア)に示す一致点2において一致し、後記(イ)に示す相違点2において相違すると認められる。
(ア) 一致点2
「装置であって、
第1の熱膨張係数を有する半導体材料を含む微細構造半導体デバイスと、
第2の熱膨張係数を有し、前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料に固着される膜であって、第2の熱膨張係数が第1の熱膨張係数と異なり、前記装置の加熱の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみをもたらす熱膨張係数の不一致を生成する、膜と、
を備え、
前記微細構造半導体デバイスは波長λの光を放つように構成されたレーザダイオードおよび発光ダイオードからなる群から選択され、
前記装置の加熱の間における前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみは所定の減少したdλ/dT、所定の増加したdλ/dT、およびゼロであるdλ/dTのうちの1つを達成するように構成される、装置」である点。
(イ) 相違点2
「所定の減少したdλ/dT、所定の増加したdλ/dT、およびゼロであるdλ/dTのうちの1つを達成するように構成される」「前記微細構造半導体デバイスの前記半導体材料のひずみ」が、本願発明は、装置の「冷却」の間におけるものでもあるのに対して、引用発明は、「該光学的活性領域の利得スペクトルピークにおける温度によって生じる変化を少なくとも部分的に補償する」ものであり、「通常の動作中には、装置の温度が上昇して、ピラー構造8に隣接する誘電体材料7が拡張させられて、MQW光学的活性領域5の成長面に、次第に増加する2軸圧縮歪みを印加[する]」ものであるが、装置の冷却の間におけるものであるか不明である点。
(2) 判断
前記相違点2は、前記相違点1と実質的に同じである。そうすると、引用発明において、前記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、前記第2の3(4)アで説示したのと同様の理由により、当業者であれば適宜なし得る設計変更にすぎない。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-001412