特許拒絶査定不服審判
2024-013574
発光装置及びこれを用いた電子機器
- 審判番号
- 2024-013574
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-502290
- 請求日
- 2024年08月22日
- 審決日
- 2025年12月18日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【請求人代理人】森 太士
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 横井 亜矢子
- 審判官 小澤 尚由
- 分類
- P18 .121-Z (H10H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-502290「発光装置及びこれを用いた電子機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 9月 1日国際公開、WO2022/181372〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、2022年(令和4年)2月14日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和3年2月24日(以下「優先日」という。))、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 8月 3日 :手続補正書、上申書の提出
令和6年 3月21日付け:拒絶理由通知書
同年 5月15日 :意見書の提出
同年 6月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月11日 :原査定の謄本の送達)
同年 8月22日 :審判請求書の提出
2 本願発明について
(1) 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年8月3日に提出された手続補正書により補正された、次に示す請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
固体発光素子と、第一の蛍光体を含む第一の波長変換体と、第二の蛍光体を含む第二の波長変換体とを備え、出力光を放つ発光装置であって、
前記固体発光素子は、一次光を放ち、
前記第一の波長変換体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して、波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ第一の波長変換光に変換し、
前記第二の波長変換体は、前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光と前記第一の波長変換光とを含む第一の混合光の少なくとも一部を吸収して、700nmを超える波長領域に蛍光ピークを持ち、かつ、波長780nm以上2500nm未満の波長領域内の近赤外線成分を持つ第二の波長変換光に変換し、
前記第一の混合光は、相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であり、
前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む発光装置。」
(2) 本願発明の分説
検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Fまでに分説する。また、参考図として、本願の【図1】を元に部材名を記入したものを掲載する。
<本願明の分説>
A 固体発光素子と、第一の蛍光体を含む第一の波長変換体と、第二の蛍光体を含む第二の波長変換体とを備え、
X 出力光を放つ発光装置であって、
B 前記固体発光素子は、一次光を放ち、
C 前記第一の波長変換体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して、波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ第一の波長変換光に変換し、
D 前記第二の波長変換体は、前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光と前記第一の波長変換光とを含む第一の混合光の少なくとも一部を吸収して、700nmを超える波長領域に蛍光ピークを持ち、かつ、波長780nm以上2500nm未満の波長領域内の近赤外線成分を持つ第二の波長変換光に変換し、
E 前記第一の混合光は、相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であり、
F 前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む
X 発光装置。
<参考図>
[図1]
[図:0001432674000001.jpg]
(3) 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「技術分野
[0001]
本発明は、発光装置及びこれを用いた電子機器に関する。
背景技術
[0002]
従来から、固体発光素子と蛍光体を少なくとも組み合わせてなり、近赤外の光成分を含む出力光を放つ発光装置が知られている。
[0003]
特許文献1には、Cr3+及び/又はNi2+を発光中心とする蛍光体を含む波長変換体と、励起光を放つ半導体チップを備えてなる単純な構造の発光装置が開示されている。この発光装置は、半導体チップが放つ青色光又は赤色光を、波長変換体で波長変換することで、近赤外光を生成するものである。
[0004]
特許文献1の発光装置は、主として、小型で持ち運びが可能な分析装置や分光計、工業用機械におけるセンサ用途、スマートフォン、内視鏡等への応用を意識した、従来光源に替わるオプトエレクトロニクス素子に関するものである。従来光源としては、ハロゲンランプ、赤外レーザー、赤外LED等が知られている。特許文献1の実施例には、発光装置(オプトエレクトロニクス素子)の近赤外の光の出力が50mW未満であると開示されている。
[0005]
特許文献2には、例えば、ハロゲンランプ等の代替として用いる産業機器用の発光装置が開示されている。この発光装置は、480nm以下の紫外~青の波長領域に強度最大値を持つ光を放つ発光素子と、近赤外の光に変換する蛍光体を少なくとも含む蛍光体を組み合わせて、蛍光スペクトル半値幅の広い近赤外の光成分を含む光を得るものである。特許文献2の実施例には、600mWの紫外線を放つLEDチップを用いる発光装置の近赤外の光の出力が10mWを超えると開示されている。
…(中略)…
発明の概要
[0007]
固体発光素子と蛍光体を少なくとも組み合わせてなり、近赤外と可視の光成分を同時に放つ従来の発光装置は、高出力化と大面積化の両立が困難であるという課題があった。これは、固体発光素子が放つ一次光が、近赤外線の発光成分を放つ波長変換体を、直接照射するために、特に近赤外の光成分の大面積高出力化が困難なためである。
[0008]
具体的には、固体発光素子が放つ一次光は、通常、指向性を持つため、従来の上記発光装置では、指向性を持つ一次光が、専ら波長変換体の被照射面を局所的に照射する。このため、強い一次光が照射される被照射面が小面積化し、前記被照射面を照射する一次光の強度に面内ばらつきが生じやすくなる。強い光が照射された箇所は、波長変換体が含む蛍光体の波長変換に伴うストークス損失によって発熱しやすい。この発熱は蛍光体の温度消光を誘引するため、一次光が高い指向性を持つと、波長変換体の波長変換効率の局所的な低下を招き、その平均的な波長変換効率を下げやすい。また、ストークス損失は、波長変換体が光吸収する波長と蛍光放出する波長の波長差が大きいほど大きくなる。このため、前記一次光が同じとなる条件下では、可視光に変換する蛍光体よりも、近赤外線に変換する蛍光体の方が発熱しやすく、温度消光による効率低下を誘発しやすいものとなる。
[0009]
また、高い指向性を持つ一次光は、波長変換体の被照射面の照射中心部から離れるにつれて、波長変換体に対して斜めに入射する。このため、高い指向性を持つ一次光を用いると、一次光の波長変換体への侵入深さ、又は波長変換体を透過する光路長が長くなり、出力光の色調が不均質となる配光角依存性を持ちやすくなる。
[0010]
本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。本発明は、近赤外と可視の双方の光成分を放つ、人の目による見え方への配慮ができる産業用途に適し、近赤外の光成分の高出力化と光出力面の大面積化を両立する発光装置及びこれを用いた電子機器を提供することを目的とする。
[0011]
本発明は、具体的には、近赤外の光成分の均質高出力化と光出力面の大面積化を両立し、近赤外と可視の双方の光成分を放つ産業用途に適する発光装置を提供することを目的とする。また、本発明は、この発光装置を用いた、検査装置、検知装置、監視装置、分別装置、分析装置、計測装置、評価装置等の各種の電子機器を提供することを目的とする。
[0012]
上記課題を解決するために、本発明の態様に係る発光装置は、固体発光素子と、第一の蛍光体を含む第一の波長変換体と、第二の蛍光体を含む第二の波長変換体を少なくとも組み合わせてなり、出力光を放つ発光装置であって、前記固体発光素子は、一次光を放ち、前記第一の波長変換体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して、波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ第一の波長変換光に変換し、前記第二の波長変換体は、前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光と前記第一の波長変換光とを含む第一の混合光の少なくとも一部を吸収して、700nmを超える波長領域に蛍光ピークを持ち、かつ、波長780nm以上2500nm未満の波長領域内の近赤外線成分を持つ第二の波長変換光に変換し、前記第一の混合光は、相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であり、前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む。
…(中略)…
[0020]
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態に係る発光装置10Aについて説明する。
[0021]
発光装置10Aは、固体発光素子3と、第一の蛍光体1を含む第一の波長変換体1Aと、第二の蛍光体2を含む第二の波長変換体2Aを少なくとも組み合わせてなり、出力光4を放つ発光装置である。
…(中略)…
[0024]
固体発光素子3は、一次光3Bを放つ。また、第一の波長変換体1Aは、一次光3Bの少なくとも一部を吸収して、波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ第一の波長変換光1Bに変換する。
[0025]
第二の波長変換体2Aは、第一の透過一次光3BT1と第一の波長変換光1Bとを含む第一の混合光14の少なくとも一部を吸収して、第二の波長変換光2Bに変換する。第一の混合光14は、第一の波長変換体1Aを透過した一次光3Bである第一の透過一次光3BT1と第一の波長変換光1Bとを含む光である。
[0026]
第一の混合光14は、相関色温度が2500K以上40000K未満、好ましくは3800K以上20000K未満の光色の光である。なお、第一の混合光14の相関色温度の上限や下限の具体的な数値は、上記の数値範囲内であれば特に限定されるものではなく、上限温度を、例えば、5000K、7000K、10000K、15000K等から適宜選択できる。
…(中略)…
[0029]
発光装置10Aでは、このような装置構成により、第二の波長変換体2Aが、固体発光素子3が放つ一次光3Bに直接照射されることがない。
[0030]
第二の波長変換体2Aに照射される第一の混合光14は、第一の透過一次光3BT1と、第一の波長変換光1Bと、を含む。ここで、第一の波長変換光1Bは、第一の波長変換体1Aによって長波長の光に変換された、一次光3Bよりも低エネルギーの光である。また、第一の透過一次光3BT1は、第一の波長変換体1Aでの波長変換により光子数が減って強度が弱められ、さらに第一の波長変換体1Aによって光拡散された、一次光3Bよりも低強度の光である。そして、第一の透過一次光3BT1の分光分布は、一次光3Bの分光分布に由来する。
[0031]
第二の波長変換体2Aは、散乱された光子からなり、強度が相対的に下がった第一の混合光14によって照射される。ここで、第一の混合光14は、通常、固体発光素子3が放つ一次光3Bよりも、照射面積が大きい。このため、第二の波長変換体2Aでは、入射する光の波長変換に伴い生じる局所的な発熱(ストークス損失による)を抑制できる。
[0032]
第二の波長変換体2Aでは、第二の蛍光体2が、比較的大きなストークス損失をもたらす一次光3Bや光エネルギー密度が大きい一次光3Bで直接に励起されることがない。また、第二の波長変換体2Aでは、指向性を持つ一次光3Bで励起する場合のように、第二の波長変換体2A中の第二の蛍光体2の一部のみが励起されることが抑制される。このため、発光装置10Aでは、第二の波長変換体2Aの全体に亘って光子が均等均質に照射・吸収されて、光出力面が大きくなりやすい。これによって、出力光4が照射する被照射面を大きくすることが容易になる。
[0033]
発光装置10Aでは、第二の波長変換体2Aの全体に亘って光子が均等均質に照射・吸収されやすいため、第二の波長変換体2Aの波長変換に伴う発熱による局所的な温度上昇を抑制できる。また、第二の波長変換体2Aの全体に亘って光子が均等均質に照射・吸収されやすいため、光出力面を大きくでき、被照射面を大面積化することもできる。このため、発光装置10Aは、第二の波長変換体2Aに含まれる第二の蛍光体2の温度消光を抑制し、近赤外線の光成分の高出力化とその光出力面の大面積化に好適な、可視光と近赤外線とを出力し得る発光装置になる。
…(中略)…
[0035]
波長変換型発光素子は、白色LED技術を用いて容易に製造できる。また、相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光を放つ波長変換型発光素子も、白色LED技術を用いて容易に製造できる。例えば、相関色温度が2600K以上12000K未満の光色の光を放つ波長変換型発光素子であれば、白色LEDとして、様々な仕様や形態の製品が市場に数多く出回っており、容易に入手できる。このため、波長変換型発光素子を用いる発光装置は、顧客要望に対して、設計から商品開発や工業生産に至るまでの過程を、少ない工数でスピーディーに対応することが可能である。」
3 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由1(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如) 本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2016-170968号公報(主たる引用文献)
引用文献2.特開2005-49719号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2018-50164号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.国際公開第2012/067028号(周知技術を示す文献)
4 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である引用文献1(特開2016-170968号公報)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(3)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
白色光を出射する白色LEDを有する光源部と、前記光源部とは別体として構成され前記白色LEDからの白色光を赤外光に変換する波長変換部と、を備えたことを特徴とする照明装置。
…(後略)」
イ 背景技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、発明の効果(段落【0001】~【0007】、【図1】~【図3】)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光を出射する照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、倉庫や工場等において、防犯及び監視の目的から監視カメラ等の監視装置を設けることが行われている。このような監視装置は、照明が点灯され照度が高い状況又は日中ではカラー画像での撮影を行い、照明が消灯され照度が低い状況又は夜間では監視物から放射される赤外光を検知して白黒画像での撮影を行う。しかしながら、監視物から放射される赤外光が少ない場合には、監視物を鮮明に撮影できないことがある。そこで、監視装置に赤外光を出射する赤外LEDを組み込んだ照明装置を更に設け、この赤外LEDから出射され監視物によって反射された赤外光を検知することで、監視物の鮮明な画像を得ることが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような照明装置では、赤外LEDから出射される赤外光の輝度が低い上に赤外LEDが使用に伴って劣化しやすいので、赤外光により監視物を十分に照明することができない虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであって、倉庫や工場等において、赤外光により監視物を十分に照明することができる照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の照明装置は、白色光を出射する白色LEDを有する光源部と、前記光源部とは別体として構成され前記白色LEDからの白色光を赤外光に変換する波長変換部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一般的な赤外LEDよりも高い発光強度を有し且つ劣化し難い白色LEDからの白色光を赤外光に変換するので、高輝度な赤外光を長期間に亘って安定的に出射することができる。これにより、倉庫や工場等において、赤外光により監視物を十分に照明することができる。」
ウ 一実施形態(段落【0009】~【0014】)
「【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る照明装置について図1乃至図3を参照して説明する。図1に示すように、照明装置1は、光源部2と、光源部2とは別体として構成され光源部2からの光が入射する位置に配置された波長変換部3と、を備える。
【図1】
[図:0001432674000002.jpg]
【図2】
[図:0001432674000003.jpg]
【図3】
[図:0001432674000004.jpg]
【0010】
光源部2は、倉庫や工場等において室内空間を照明する一般照明光源として用いられるものであり、白色光を出射する白色LED21と、白色LED21からの白色光を白色LED21の光軸Ax方向に配光制御する光学部材22と、を有する。白色LED21は、青色光を出射するLEDチップ23と、LEDチップ23からの青色光により励起されて緑色光~赤色光を出射する蛍光体24と、を有し、これらの光を互いに混色させることで白色光を出射する。蛍光体24は、例えば、Eu2+付活シリケート系蛍光体、Eu2+付活窒化物蛍光体、Eu2+付活酸窒化物蛍光体又はEu2+付活硫化物蛍光体により構成される。光学部材22は、図例では、断面視において椀状に形成された反射板により構成され、その底部に白色LED21を配置している。反射板(光学部材)22は、その内面に高い光反射率を有する材料、例えば、アルミニウムや銀により構成された反射面25を有する。なお、光学部材22は、反射板に限定されず、例えば、白色LED21からの白色光を集光するレンズにより構成されていてもよい。
【0011】
波長変換部3は、図例では、断面視において平板状に形成され、光軸Axに直交した状態で反射面25を塞ぐように配置されている。波長変換部3は、図示しない取付構造によって反射板22に取り付けられている。波長変換部3は、基材となる透光性材料31と、透光性材料31の内部に分散された蛍光体32と、を有する。透光性材料31は、例えば、アクリル板やポリカーボネート板により構成される。蛍光体32は、白色LED21からの白色光により励起されて赤外光を出射する蛍光体、例えば、Na5(Yb,Nd)(MoO4)4により構成される。このように構成された波長変換部3は、白色LED21からの白色光を赤外光に変換して出射する。
【0012】
図2に示すように、白色LED21から出射される白色光は、LEDチップ23から出射され波長略450nmにピークを有する青色光と、蛍光体24から出射され波長略560nmにピークを有する緑色光~赤色光と、を含む。この緑色光~赤色光のうち波長域580nm~620nmの光は、蛍光体32を効率良く励起する。
【0013】
一方、図3に示すように、波長変換部3の蛍光体32から出射される赤外光は、波長略985nmに最大ピークを有する。このような赤外光は、蛍光体32が白色LED21から出射される波長域580nm~620nmの光によって効率良く励起されるので、効果的に生み出される。
【0014】
上記のように構成された照明装置1によれば、一般的な赤外LEDよりも高い発光強度を有し且つ劣化し難い白色LED21からの白色光を波長変換部3によって赤外光に変換するので、高輝度な赤外光を長期間に亘って安定的に出射することができる。これにより、照明装置1を倉庫や工場等の室内空間に設置した場合に、室内空間に存在する監視物を赤外光によって十分に照明することができるので、暗所において該監視物から反射されてきた赤外光を監視装置で検知すると広範囲に鮮明な画像を得ることができる。」
エ 第1の変形例(段落【0015】~【0017】、【図4】~【図5】)
「【0015】
次に、上記実施形態の第1の変形例に係る照明装置について図4及び図5を参照して説明する。図4に示すように、照明装置11では、波長変換部3が光源部2に対して着脱自在となっており、図例では、光軸Axに直交する方向にスライド着脱することができるように構成されている。波長変換部3を光源部2の側方にスライドさせて反射面25を露出させると、光源部2からの白色光が外部に照射される。このように波長変換部3をスライド着脱することで、白色光を出射するパターンと赤外光を出射するパターンとの2パターンで照明装置11を使用することができる。これにより、1つの照明装置11を昼間は白色光を出射する一般照明として用い、夜間は赤外光を出射する監視装置用の光源として用いることができる。
【0016】
図5に示すように、波長変換部3のスライド移動は、制御部4により制御される。制御部4は、波長変換部3をスライド移動させる駆動部41と、駆動部41に動作指示を出す指示部42と、を有する。また、制御部4は、指示部42に駆動部41への指示出しタイミングを与えるための人感センサ43及びタイマ44と、駆動部41への指示出しに連動して指示部42により動作制御される監視カメラ等の監視装置45と、を有する。
【0017】
駆動部41は、例えば、ラックアンドピニオン機構を有し、指示部42からの指示に従って波長変換部3を光源部2に着脱する。指示部42は、マイコン等を有し、例えば、人感センサ43が人を検知しているときには波長変換部3を光源部2から取り外し、人感センサ43が人を検知していないときには波長変換部3を光源部2に装着するよう駆動部41に指示を出す。また、指示部42は、例えば、タイマ44に予め設定された時刻が来たときに、波長変換部3を光源部2に着脱するよう駆動部41に指示を出す。更に、指示部42は、波長変換部3が光源部2に装着されているときには監視物からの赤外光を検知して白黒画像での撮影を行い、且つ波長変換部3が光源部2から取り外されているときにはカラー画像での撮影を行うように監視装置45に指示を出す。なお、波長変換部3のスライド移動は、このような自動制御に限定されず、手動で行われてもよい。」
「【図4】
[図:0001432674000005.jpg]
【図5】
[図:0001432674000006.jpg]
」
オ 第2の変形例(段落【0018】、【図6】)
「【0018】
次に、上記実施形態の第2の変形例に係る照明装置について図6を参照して説明する。照明装置12では、波長変換部3の光出射面33を覆うようにしてフィルタ5が設けられている。フィルタ5は、可視光を反射させて赤外光を透過させる赤外光透過フィルタにより構成されている。このようにすることで、波長変換部3において波長変換しきれなかった光源部2からの白色光(可視光)が、外部に漏れなくなる。これにより、例えば、照明装置12を人工光により植物を育成する植物工場に設置して、夜間に監視装置用の光源として用いた場合に、照明装置12から漏れ出した可視光によって植物の生育に悪影響が出るのを防止することができる。
【図6】
[図:0001432674000007.jpg]
」
(2) 引用文献1に記載された事項から当業者が把握できる事項
ア 【0010】の記載及び図1より、当業者は、次の事項を把握することができる。
LEDチップ23の周囲に蛍光体24を含む部材が配置されていること。
イ 【0018】の「照明装置12では、波長変換部3の光出射面33を覆うようにしてフィルタ5が設けられている…(中略)…このようにすることで、波長変換部3において波長変換しきれなかった光源部2からの白色光(可視光)が、外部に漏れなくなる」との記載から、フィルタ5を設けない場合に波長変換部3において波長変換しきれなかった光源部2からの白色光が外部に漏れないのであれば、フィルタ5を設ける必要がないから、当業者は、フィルタ5を有していない【図1】~【図3】で示される一実施例に係る照明装置1においては、波長変換部3において波長変換しきれなかった光源部2からの白色光が、外部に漏れることを把握することができる。この理解は、引用発明の波長変換部3は、その基材が透光性材料31であり、蛍光体32による波長変換以外には白色光を吸収する要素が存在しないことと、蛍光体の波長変換にあたり、変換効率は一般に100%を下回ることや、蛍光体の吸収スペクトルには波長依存性があるという技術常識からみて、引用発明の波長変換部3で波長変換されなかった白色光の一部は波長変換部を透過すると考えるのが自然であることからも首肯できる。
(3) 引用発明の認定
前記(1)に摘記した引用文献1に記載された事項と、前記(2)の引用文献1に記載された事項から当業者が把握できる事項を総合すると、引用文献1には、【図1】~【図3】で示される一実施形態に係る照明装置1に関する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「赤外光を出射する照明装置1であって、(【0001】)
照明装置1は、光源部2と、光源部2とは別体として構成され光源部2からの光が入射する位置に配置された波長変換部3と、を備え、(【0009】)
光源部2は、倉庫や工場等において室内空間を照明する一般照明光源として用いられるものであり、白色光を出射する白色LED21と、白色LED21からの白色光を白色LED21の光軸Ax方向に配光制御する光学部材22と、を有し、(【0010】)
白色LED21は、青色光を出射するLEDチップ23と、LEDチップ23からの青色光により励起されて緑色光~赤色光を出射する蛍光体24と、を有し、これらの光を互いに混色させることで白色光を出射し、(【0010】)
波長変換部3は、基材となる透光性材料31と、透光性材料31の内部に分散された蛍光体32と、を有し、(【0011】)
蛍光体32は、白色LED21からの白色光により励起されて赤外光を出射する蛍光体により構成され、(【0011】)
このように構成された波長変換部3は、白色LED21からの白色光を赤外光に変換して出射し、(【0011】)
白色LED21から出射される白色光は、LEDチップ23から出射され波長略450nmにピークを有する青色光と、蛍光体24から出射され波長略560nmにピークを有する緑色光~赤色光と、を含み、(【0012】)
波長変換部3の蛍光体32から出射される赤外光は、波長略985nmに最大ピークを有し、(【0013】)
LEDチップ23の周囲に蛍光体24を含む部材が配置されており、(前記(2)ア)
波長変換部3において波長変換しきれなかった光源部2からの白色光が、外部に漏れる、(前記(2)イ)
照明装置1。」
5 引用文献2等に記載された事項及び技術常識の認定
(1) 引用文献2に記載された事項
本審決において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特開2019-19152号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
「【0091】
照明装置としては、白色LEDを光源として用いる電球型照明、直管型照明、シーリングライト、スポットライト、ダウンライト、投光灯、街路灯、デスクライト等が挙げられる。
また、照明装置の白色の種類は特に限定されるものではなく、電球色(色温度2600~3250K)、温白色(色温度3250~3800K)、白色(色温度3800~4500K)、昼白色(色温度4600~5500K)、昼光色(色温度5700~7100K)といった色の照明装置が使用される。上記色温度の区分はJIS Z 9112の基準に拠っている。」
(2) JIS Z 9112
参考までに、引用文献2の【0091】に記載のJIS Z 9112は、次のとおりである(当合議体が、令和7年11月13日に、https://kikakurui.com/z9/Z9112-2019-01.htmlより取得したものである。)。
「
[図:0001432674000008.jpg]
」
(3) 技術常識1の認定
前記(1)に摘記した引用文献2に記載された事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識(以下「技術常識1」という。)であったと認められる。
<技術常識1>
「白色LEDを光源とした照明装置の色温度は、2600~7100Kであること。」
6 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 構成Xの観点(発光装置)
(ア) 構成Xは、「出力光を放つ発光装置」の発明であることを特定するものである。
(イ) 引用発明の「照明装置1」は、「赤外光を出射する」ものであるから、引用発明の「赤外光」は、本願発明の「出力光」に相当する。したがって、「発光装置」の発明である本願発明と、「照明装置1」の発明である引用発明は、「出力光を放つ発光装置」の発明である点において一致する。
イ 構成Aの観点(固体発光素子、第一及び第二の波長変換体)
(ア) 構成Aは、「固体発光素子と、第一の蛍光体を含む第一の波長変換体と、第二の蛍光体を含む第二の波長変換体と」を備えることである。
(イ) 引用発明における「光源部2」が有する「白色LED21」が有する、「LEDチップ」、「蛍光体24」及び「蛍光体24を含む部材」(以下「蛍光体含有部材」という。)は、それぞれ本願発明の「固体発光素子」、「第一の蛍光体」及び「第一の波長変換体」に相当する。
(ウ) 引用発明における「蛍光体32」及び「波長変換部3」は、それぞれ本願発明の「第二の蛍光体」及び「第二の波長変換体」に相当する。
(エ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「固体発光素子と、第一の蛍光体を含む第一の波長変換体と、第二の蛍光体を含む第二の波長変換体と」を備える点。
ウ 構成Bの観点(固体発光素子は、一次光を放つこと)
(ア) 構成Bは、「固体発光素子は、一次光を放[つ]」ことである。
(イ) 引用発明における「LEDチップ」が「青色光を出射する」ことを踏まえれば、引用発明の「青色光」は、本願発明の「一次光」に相当する。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「固体発光素子は、一次光を放[つ]」点。
エ 構成Cの観点(第一の波長変換光について)
(ア) 構成Bは、「前記第一の波長変換体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して、波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ第一の波長変換光に変換[する]」ことである。
(イ) 引用発明の「緑色光~赤色光」は、引用発明の「蛍光体24」が「LEDチップ23からの青色光により励起されて」「出射する」ものであるから、本願発明の「第一の波長変換光」に相当する。また、引用発明の「緑色光~赤色光」は、「波長略560nmにピークを有する」ものであるから、本願発明でいう「波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ」ものであるといえる。そして、前記ウ(イ)も踏まえると、引用発明の「蛍光体24」を含む蛍光体含有部材は、本願発明でいう「前記一次光の少なくとも一部を吸収して、波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ第一の波長変換光に変換[する]」ものであるといえる。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記第一の波長変換体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して、波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ第一の波長変換光に変換[する]」点。
オ 構成Dの観点(第二の波長変換光について)
(ア) 構成Bは、「前記第二の波長変換体は、前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光と前記第一の波長変換光とを含む第一の混合光の少なくとも一部を吸収して、700nmを超える波長領域に蛍光ピークを持ち、かつ、波長780nm以上2500nm未満の波長領域内の近赤外線成分を持つ第二の波長変換光に変換[する]」ことである。
(イ) 引用発明の「白色光」は、「LEDチップ23から出射され波長略450nmにピークを有する青色光と、蛍光体24から出射され波長略560nmにピークを有する緑色光~赤色光と、を含[む]」ものであるから、本願発明の「第一の混合光」に相当する。そして、引用発明の「白色光」が含む「LEDチップ23から出射され波長略450nmにピークを有する青色光」は、蛍光体含有部材を透過してきたものであることが理解できるから、前記ウ(イ)も踏まえると、本願発明の「前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光」に相当する。したがって、前記エ(イ)も踏まえると、引用発明の「白色光」は、本願発明でいう「前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光と前記第一の波長変換光とを含む」ものであるといえる。
(ウ) 引用発明の「赤外光」は、「蛍光体32」が「白色LED21からの白色光により励起されて」「出射する」ものであるから、本願発明の「第二の波長変換光」に相当する。また、引用発明の「赤外光」は、「波長略985nmに最大ピークを有[する]」ことから、本願発明でいう「700nmを超える波長領域に蛍光ピークを持ち、かつ、波長780nm以上2500nm未満の波長領域内の近赤外線成分を持つ」ものであるといえる。
(エ) そして、引用発明の「波長変換部3」が有する「蛍光体32」は、「白色LED21からの白色光により励起されて赤外光を出射する蛍光体により構成され[る]」ものであるから、前記(イ)及び(ウ)も踏まえると、引用発明の「波長変換部3」は、本願発明でいう「前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光と前記第一の波長変換光とを含む第一の混合光の少なくとも一部を吸収して、700nmを超える波長領域に蛍光ピークを持ち、かつ、波長780nm以上2500nm未満の波長領域内の近赤外線成分を持つ第二の波長変換光に変換[する]」ものであるといえる。
(オ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記第二の波長変換体は、前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光と前記第一の波長変換光とを含む第一の混合光の少なくとも一部を吸収して、700nmを超える波長領域に蛍光ピークを持ち、かつ、波長780nm以上2500nm未満の波長領域内の近赤外線成分を持つ第二の波長変換光に変換[する]」点。
カ 構成Eの観点(相関色温度)
(ア) 構成Eは、「前記第一の混合光は、相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であ[る]」ことである。
(イ) 引用発明の「白色光」は、「光源部2」が有する「白色LED21」が「出射する」ものであり、「光源部2は、倉庫や工場等において室内空間を照明する一般照明光源として用いられるものであ[る]」ものの、その相関色温度は不明であるから、本願発明と引用発明は、次の点において相違する。
前記第一の混合光について、本願発明は、「相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であ[る]」のに対し、
引用発明は、「光源部2」が有する「白色LED21」が「出射する」ものであり、「光源部2は、倉庫や工場等において室内空間を照明する一般照明光源として用いられるものであ[る]」ものの、その相関色温度は不明である点。
キ 構成Fの観点(出力光)
(ア) 構成Fは、「前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む」ことである。
(イ)a 引用発明である「照明装置1」は、「赤外光を出射する」ものであるが、引用発明は、「波長変換部3において波長変換しきれなかった光源部2からの白色光が、外部に漏れる」ものであるから、引用発明である「照明装置1」から出射される光は、「白色光」を含むものである。そして、引用発明である「照射装置1」から外部に漏れる「白色光」に含まれる「緑色光~赤色光」は、「波長変換部3」を通過したものであることが理解できるから、前記エ(イ)も踏まえると、引用発明の「外部に漏れる」「波長変換部3において波長変換されなかった白色光」に含まれる「緑色光~赤色光」は、本願発明の「透過第一の波長変換光」に相当するとともに、前記イ(ウ)も踏まえると、本願発明でいう「前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である」といえる。
b ここで、本願発明の「出力光」が「透過第一の波長変換光」「を含む」点について検討すると、本願発明においては、「出力光」に含まれる「透過第一の波長変換光」の発光強度や色温度等は何ら特定されていない。したがって、本願発明の「出力光」が「透過第一の波長変換光」「を含む」とは、本願発明の「発光装置」が「透過第一の波長変換光」を積極的に利用するものであることまでは要せず、字句どおり出力光が透過第一の波長変換光を含んでいれば足りると解するのが相当である(なお、本願明細書の[0109]には、「比較的長波長側の近赤外の波長変換光を放つ蛍光体を用いる発光装置10Aは、人の目に見える780nmよりも短波長の可視光成分を出力するリスクが下がる。このため、これらの発光装置10Aは、上記可視光成分を出力しないものにすると、出力光4の存在を人に悟られることが不都合な監視用等の用途に望ましくなる。」との記載もあり、これは引用発明と同様にもっぱら近赤外の波長変換光を出力する発光装置を意図した態様である。)。
c 以上a及びbによれば、引用発明である「照明装置1」から出射される光は、本願発明でいう「前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光」「を含む」ものであるといえる。
(ウ) 引用発明は、「波長変換部3の蛍光体32から」「赤外光」が「出射される」ものであるから、前記オ(ウ)も踏まえると、引用発明である「照明装置1」から出射される光は、本願発明でいう「前記第二の波長変換光の光成分」「を含む」ものであるといえる。
(エ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む」点。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のア及びイに示すとおりである。
ア 一致点
「固体発光素子と、第一の蛍光体を含む第一の波長変換体と、第二の蛍光体を含む第二の波長変換体とを備え、出力光を放つ発光装置であって、
前記固体発光素子は、一次光を放ち、
前記第一の波長変換体は、前記一次光の少なくとも一部を吸収して、波長380nm以上780nm未満の可視の波長範囲内に蛍光ピークを持つ第一の波長変換光に変換し、
前記第二の波長変換体は、前記第一の波長変換体を透過した前記一次光である第一の透過一次光と前記第一の波長変換光とを含む第一の混合光の少なくとも一部を吸収して、700nmを超える波長領域に蛍光ピークを持ち、かつ、波長780nm以上2500nm未満の波長領域内の近赤外線成分を持つ第二の波長変換光に変換し、
前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む発光装置」である点。
イ 相違点
<相違点1>
前記第一の混合光について、
本願発明は、「相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であ[る]」のに対し、
引用発明は、「光源部2」が有する「白色LED21」が「出射する」ものであり、「光源部2は、倉庫や工場等において室内空間を照明する一般照明光源として用いられるものであ[る]」ものの、その相関色温度は不明である点。
7 判断
(1) 相違点1について
ア 引用発明の「白色LED21」を有する「光源部2」は、「倉庫や工場等において室内空間を照明する一般照明光源として用いられるものであ[る]」ところ、前記5(2)で技術常識1として認定したとおり、「白色LEDを光源とした照明装置の色温度は、2600~7100Kであること」は技術常識であることを踏まえれば、引用発明の「光源部2」が有する「白色LED21」が出射する「白色光」の色温度を2600~7100Kとすることは、ごく普通の設計事項にすぎない。
イ ここで、相違点1に係る本願発明の「前記第一の混合光は、相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であ[る]」ことの技術上の意義について本願明細書の記載を確認すると、[0026]及び[0035]に、単に第一の混合光14の相関色温度が2500K以上40000K未満であることが記載されているにとどまる。また、相違点1に係る本願発明で特定される「2500K以上40000K未満」との値は、前記技術常識1と比較してその範囲は極めて広いものである。なお、第一の混合光の色温度を特定することは、出力光の色温度を特定することにはならないことはいいうまでもない。
以上によれば、相違点1に係る本願発明の「前記第一の混合光は、相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であ[る]」ことに格別の技術上の意義は認められないというほかない。
ウ したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の「前記第一の混合光は、相関色温度が2500K以上40000K未満の光色の光であ[る]」構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項の域を出るものではなく、当業者が容易になし得たことである。
(2) 相違点1のまとめ
前記(1)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び技術常識1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 出力光が透過第一の波長変換光の光成分を含むことについて予備的検討
前記6(1)キ(イ)bで検討したとおり、本願発明の「発光装置」は、「透過第一の波長変換光」を積極的に利用するものであることまでは要しないが、ここでは、本願発明の「発光装置」が、「透過第一の波長変換光」を積極的に利用するものであるとして予備的に検討する。
この点、引用文献1の前記4(1)エ及び同オの記載からすると、引用発明は、意図的に又は積極的に白色光を赤外光と同時に照射するものではないといえる。しかしながら、励起光によって励起される近赤外蛍光体を有する発光装置において、可視光と赤外光を同時に照射することは、本願優先日前の周知技術であるから(必要であれば、特表2020-524392号公報(【0007】~【0009】等)、本願明細書の[0005]に挙げられている国際公開第2019/240150号([0048]~[0049]、[図6]等)参照。)、引用発明である「照明装置1」が可視光と赤外光を同時に照射するようにすること、すなわち、本願発明でいう「前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む」構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであるともいえる。
8 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
請求人は、引用発明の技術思想は、白色光と赤外光を同時に出射するものではなく、白色LED21からの白色光の全てを波長変換部3で波長変換することにより、高輝度な赤外光を長期間にわたって安定的に出射するというものであるから、引用発明から出発して、本願発明の「前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む」という発明特定事項に到達する動機付けは存在しないことを主張している。
(2) 請求人の主張についての検討
前記4(2)イで説示したとおり、引用発明の照明装置1は、波長変換部において波長変換しきれなかった光源部2からの白色光が、外部に漏れるものであり、本願発明の「前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む」との特定事項において、本願発明と引用発明が相違しないことは、前記6(1)キ(イ)で説示したとおりである。
また、本願発明の「発光装置」が、「透過第一の波長変換光」を積極的に利用するものであるとしても、引用発明に対して、励起光によって励起される近赤外蛍光体を有する発光装置において、可視光と赤外光を同時に照射するという周知技術を適用し、本願発明でいう「前記出力光は、少なくとも前記第一の波長変換光が前記第二の波長変換体を透過した光成分である透過第一の波長変換光と前記第二の波長変換光の光成分とを含む」構成とすることが容易であることは、前記7(3)で説示したとおりである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
9 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-013574