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特許拒絶査定不服審判

2024-014947

ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法

審判番号
2024-014947
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-541569
請求日
2024年09月18日
審決日
2026年03月05日
公報発行日
2026年05月29日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】三井化学株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 岡田 吉美
  • 審判官 波多江 進
  • 審判官 野村 伸雄
分類
P18 .575-Z (G03F) / P18 .121-Z (G03F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022-541569「ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 2月10日国際公開、WO2022/030499〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2021年(令和3年)8月3日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和2年8月6日(以下「優先日」という。))、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和5年 8月29日付け:拒絶理由通知書 同年12月20日 :意見書、手続補正書の提出 令和6年 2月 2日付け:拒絶理由通知書(最後) 同年 4月15日 :意見書、手続補正書の提出 同年 6月 6日付け:補正の却下の決定 同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という) (同月18日 :原査定の謄本の送達) 同年 9月18日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和6年9月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和6年9月18日にされた手続補正を却下する。 [補正の却下の決定の理由] 1 本件補正の内容 令和6年9月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてする補正であって、本件補正前(令和5年12月20日にされた手続補正後)の特許請求の範囲の請求項10及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項10の記載は、それぞれ次の(1)及び(2)に示すとおりである。下線は補正箇所を示す。 (1) 本件補正前 「炭素含有率が40質量%以上である炭素系の材料を準備する工程と、 前記炭素系の材料をシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程と、 前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように支持枠に接続する工程と、 前記支持枠の、前記ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、シリコーン系接着剤及びアクリル樹脂接着剤の少なくとも一方である接着剤を付与して原版用接着剤層を形成する工程と、 を含むペリクルの製造方法。」 (2) 本件補正後 「炭素含有率が40質量%以上である炭素系の材料を準備する工程と、 前記炭素系の材料をシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程と、 前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように接着剤層を介すことなく支持枠に接続する工程と、 前記支持枠の、前記ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、シリコーン系接着剤及びアクリル樹脂接着剤の少なくとも一方である接着剤を付与して原版用接着剤層を形成する工程と、 を含むペリクルの製造方法。」 2 本件補正の適否について (1) 本件補正の目的について 本件補正により請求項10についてする補正は、本件補正前の請求項10に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように支持枠に接続する工程」を「接着剤層を介すことなく」支持枠に接続するものに限定するものである。 そして、本件補正前の請求項10に記載された発明と本件補正後の請求項10に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 したがって、本件補正で請求項10についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 (2) 独立特許要件について 前記(1)のとおり、本件補正のうち請求項10についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、本件補正後の請求項10に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。 ア 本件補正発明 (ア) 本件補正発明の認定 本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項10に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 (イ) 本件補正発明の分説 検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のように構成Aから構成Dまでと構成Xに分説する。また、参考図として、本願の【図1】に部材名を記入したものを掲載する。 (構成A) 炭素含有率が40質量%以上である炭素系の材料を準備する工程と、 (構成B) 前記炭素系の材料をシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程と、 (構成C) 前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように接着剤層を介すことなく支持枠に接続する工程と、 (構成D) 前記支持枠の、前記ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、シリコーン系接着剤及びアクリル樹脂接着剤の少なくとも一方である接着剤を付与して原版用接着剤層を形成する工程と、 を含む (構成X) ペリクルの製造方法。 <参考図> [図:0001434776000001.jpg] (ウ) 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載 本願の明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は当合議体による。 a 【技術分野】、【背景技術】、【発明の概要】 「【技術分野】 【0001】 本開示は、ペリクル、露光原版、露光装置、ペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 電子部品、プリント基板、ディスプレイパネル等の物体の表面に感光性の物質を塗布し、パターン状に露光してパターンを形成する技術(フォトリソグラフィー)では、フォトマスクと呼ばれる片面にパターンが形成された透明基板が使用されている。 近年、露光パターンの高精細化が進むにつれて、露光の光源として、DUV(Deep Ultra Violet:遠紫外)光に代えて、より短波長のEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光の利用が拡大している。EUV光を用いる露光方法では、露光光を反射する反射層を備えるフォトマスクが使用されることがある。 【0003】 例えば、特開2020-091310号公報には、23℃で1×10-3Pa以下の雰囲気下で10分放置後の真空時ガス放出量が、ペリクル1個あたり水系1×10-3Pa・L/s以下、測定質量数の範囲が45~100amuである炭化水素系1×10-5Pa・L/s以下、及び測定質量数の範囲が101~200amuである炭化水素系4×10-7Pa・L/s以下であることを特徴とするペリクルが開示されている。 【0004】 また、例えば、国際公開第2018/151056号には、接着層の表面に無機物層を有し、無機物層の質量吸収係数(μm)が、5×103cm2/g~2×105cm2/gの範囲であることを特徴とするペリクルが開示されている。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明者らが検討したところによれば、従来から用いられてきたDUV(DeepUltra Violet:遠紫外)環境下では、DUVの光子エネルギーが水の電離エネルギーに比べて小さいために、水がヒドロキシラジカルなどの酸化剤を生成しないことが判明した。そのため、ペリクルから生じる水のアウトガスによるペリクル膜の劣化は大きな問題とはならないと考えられる。 しかし、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光の露光環境下では、露光雰囲気中に存在する水素ガスがEUV光を吸収することで電離し、水素ラジカル、水素イオン、水素プラズマ等を発生させる。 また、EUV光の露光環境下では、露光雰囲気中に存在する残留水分等がEUV光を吸収することでヒドロキシラジカル、酸素ラジカル等を発生させる。 また、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光の露光環境下では、ペリクル膜は500℃~1000℃程度の高温になることもあり、しかも約100msec周期で加熱及び冷却が繰り返される。 以上により、EUV光の露光環境下では、酸化によるペリクル膜の劣化が容易に進行する。 特に、炭素材料は酸化の影響を受けやすいため、例えばカーボンナノチューブを含むペリクル膜を用いた場合には、酸化によるペリクル膜の劣化がさらに容易に進行する。 【0006】 本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、ペリクル膜の劣化を抑制できるペリクル、露光原版及び露光装置を提供することである。 本開示の他の一実施形態が解決しようとする課題は、ペリクル膜の劣化を抑制できるペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することである。 …(中略)… 【発明の効果】 【0008】 本開示の一実施形態によれば、ペリクル膜の劣化を抑制できるペリクル、露光原版及び露光装置を提供することができる。 本開示の他の一実施形態によれば、ペリクル膜の劣化を抑制できるペリクルの製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することができる。」 b 【発明を実施するための形態】 「【発明を実施するための形態】 …(中略)… 【0011】 ≪ペリクル≫ 本開示のペリクルは、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含むペリクル膜と、ペリクル膜を支持する支持枠と、接着剤を含有する接着剤層と、を含み、23℃、1×10-3Pa以下の雰囲気において、水系のアウトガスの合計量が5.0×10-4Pa・L/sec以下である。 【0012】 本開示のペリクルは、上記の構成であることで、ペリクル膜の劣化を抑制できる。 上述の通り、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光の露光環境下では、露光雰囲気中、水素ガス、残留水分等がEUVによって露光されることで、水素ラジカル、水素イオン、水素プラズマ、ヒドロキシラジカル、酸素ラジカル等(ラジカル等ともいう)が発生する。また、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光の露光環境下では、ペリクル膜は500℃~1000℃程度の高温になり、加熱及び冷却が繰り返される。 以上により、EUV光の露光環境下では、酸化によるペリクル膜の劣化が容易に進行する。 上記の点は、従来から用いられてきたDUV環境下では、大きな問題とは考えられていなかった点である。 【0013】 本開示のペリクルは、露光装置内にてペリクルから生じる水系のアウトガスの合計量をコントロールすることでラジカル等の発生を抑制し、ペリクル膜の劣化を抑制できる。 「アウトガス」とは、接着剤等のペリクルを構成する各構成部材から放出されるガスを意味する。 また、「水系のアウトガス」は、水に由来したアウトガスを意味する。 「水系のアウトガス」は、四重極質量分析計において1、2、17及び18原子質量単位(即ち、それぞれH、H2、H2O及びOH)のピークとして観察されるアウトガスである。 【0014】 <アウトガスの合計量> 本開示のペリクルは、23℃、1×10-3Pa以下の雰囲気において、水系のアウトガスの合計量が5.0×10-4Pa・L/sec以下である。 水系のアウトガスの合計量が5.0×10-4Pa・L/sec以下であることで、ラジカル等の発生を抑制し、ペリクル膜の劣化を抑制できる。 上記の観点から、水系のアウトガスの合計量は、3.0×10-4Pa・L/sec以下であることが好ましく、1.0×10-4Pa・L/sec以下であることがより好ましい。 水系のアウトガスの合計量は、1.0×10-10Pa・L/sec以上であってもよく、1.0×10-5Pa・L/sec以上であってもよく、5.0×10-6Pa・L/sec以上であってもよい。 …(中略)… 【0019】 <ペリクル膜> 本開示のペリクルは、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含むペリクル膜(本開示において炭素系ペリクル膜ともいう)を含む。 【0020】 従来から、EUV光の露光環境下において、炭素系ペリクル膜を利用することが検討されている。 本発明者らは、露光雰囲気中に存在する水素ガス、水分等がEUV光を吸収することで電離し、水素ラジカル、水素イオン、ヒドロキシラジカル、酸素ラジカル等(ラジカル等ともいう)が発生すること、及び、これらのラジカル等が炭素系ペリクル膜を酸化させるためにペリクル膜が劣化することを見出した。 さらに、本発明者らは、ペリクルから放出されるアウトガスとしては、主として接着剤から放出されるアウトガスの量が多い傾向にあることを見出した。 そのため、本発明者らは、ペリクルを構成する接着剤からのアウトガス量を低減することが重要であると考えた。 炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含むペリクル膜としては、例えばカーボンナノチューブ(本開示において単に「CNT」ともいう)を含むペリクル膜が挙げられる。 炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜は、ペリクル膜を支持する支持枠に接続される場合に、必ずしも接着剤を用いることを要しない。炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜は、接着剤層を介すことなくファンデルワールス力により支持枠に接続することが可能であるためである。 本開示のペリクルにおいて、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含むペリクル膜を用いることで、接着剤の使用量を低減することができる。その結果、水系のアウトガスの合計量を大きく低減し、ペリクル膜の劣化を抑制できる。 【0021】 (炭素系の膜) 本開示におけるペリクル膜は、炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜を含む。 炭素系の膜における炭素含有率が40質量%以上であることで、EUV光の透過率を高めることができる。 上記の観点から、炭素系の膜における炭素含有率は、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、93質量%以上であることがさらに好ましい。 …(中略)… 【0063】 支持枠の材質、形状などは、本開示のペリクル膜を支持可能な枠であれば特に制限されない。 支持枠は、材質として、アルミニウム、チタン、ステンレス、セラミック系材料(例えばシリコン、ガラス等)ポリエチレンなどの樹脂等を含有してもよい。 上記の中でも、支持枠は、水の含有量が多くなくアウトガスの量を抑制できる観点から、材質として、アルミニウム、チタン、ステンレス、シリコン、又はガラスを含有することが好ましく、アルミニウム、チタン、又はシリコンを含有することがより好ましい。 …(中略)… 【0068】 <接着剤層> 本開示のペリクルは、接着剤を含有する接着剤層を含む。 接着剤層の態様としては、例えば、以下の(a)~(c)が挙げられる。 (a)支持枠と原版とを接着させる接着剤層(原版用接着剤層ともいう) (b)支持枠が複数ある場合において、複数の支持枠同士を接着させる接着剤層(支持枠用接着剤層ともいう) (c)ペリクル膜と支持枠とを接着させる接着剤層(膜用接着剤層ともいう) 上述の通り、本開示において、(c)膜用接着剤層は、必ずしも設ける必要はない。 本開示における炭素含有率が40質量%以上である炭素系の膜は、接着剤層を介すことなくファンデルワールス力により支持枠に接続することが可能であるためである。 【0069】 [原版用接着剤層] 原版用接着剤層15は、支持枠14と原版とを接着する層である。図1に示されるように、原版用接着剤層15は、支持枠14のペリクル膜12が固定されていない側の端部に設けられる。原版用接着剤層15は、例えば、両面粘着テープ、シリコーン樹脂粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、無機系接着剤等である。EUV露光時の真空度を保持する観点から、原版用接着剤層15は、アウトガスが少ないものが好ましい。アウトガスの評価方法として、例えば昇温脱離ガス分析装置を用いることができる。 …(中略)… 【0072】 膜用接着剤層13及び原版用接着剤層15は、EUV露光装置内で散乱したEUV光に曝されるため、EUV耐性を有することが好ましい。EUV耐性が低いと、EUV露光中に接着剤の接着性や強度が低下して、露光装置内部で接着剤の剥離や異物発生などの不具合が生じる。EUV光照射による耐性評価は、例えば、XPS測定、EDS分析、RBSなどの組成分析の手法、XPS,EELS,IR測定やラマン分光などの構造解析の手法、エリプソメトリーや干渉分光法、X線反射法等などの厚み評価法、顕微鏡観察、SEM観察やAFM観察などの外観や表面形状評価方法、ナノインデンターや剥離試験による強度及び接着性評価方法などを用いることができる。 …(中略)… 【0074】 (接着剤) 接着剤層に含有される接着剤としては、特に制限はない。 例えば、接着剤は、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、無機系接着剤、両面粘着テープ、又はポリオレフィン系接着剤、水添スチレン系接着剤等が挙げられる。 上記の中でも、接着剤は、塗布加工のしやすさや、硬化加工処理の容易さの観点から、シリコーン樹脂接着剤、アクリル樹脂接着剤、水添スチレン系接着剤及びエポキシ樹脂接着剤からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。 上記の中でも、接着剤は、水系アウトガスの放出量を低減する観点から、シリコーン系接着剤、アクリル樹脂接着剤及び水添スチレン系接着剤からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましい。 上記の中でも、接着剤は、炭化水素系のアウトガスの放出量を低減させ、装置内の汚染を抑制する観点から、アクリル樹脂接着剤であることがさらに好ましい。 本開示において、接着剤は、接着剤のみならず粘着剤も含む概念である。 【0075】 炭素系のペリクル膜の劣化及び損傷に影響を与えうるペリクルから放出される水系アウトガスの量を少なくする観点から、接着剤層の水分含有率は、2.00質量%以下であることが好ましく、1.00質量%以下であることがより好ましく、0.80質量%以下であることがさらに好ましく、0.70質量%以下であることが特に好ましく、0.50質量%以下であることが最も好ましい。 水分含有率の下限に特に制限はないが、例えば、0.01質量%以上とすることができ、0.10質量%以上でも良く、0.30質量%以上でも良い。 以上より、接着剤層の水分含有率は、0.01質量%~2.00質量%であることが好ましく、0.10質量%~2.00質量%であることがより好ましく、0.10質量%~1.00質量%であることがさらに好ましい。 なお、接着剤層の水含有率の測定は、支持枠表面に形成される接着剤層を、幅2.5mm×長さ4cmのサイズの試験片を切り出して、熱重量測定装置にて25℃から200℃まで、昇温速度10℃/minの昇温速度で、加熱したときの重量減少率から求める。 なお、試験片の切り出しは、支持枠を原版又はペリクル膜と接着する前に行ってもよく、接着後に行ってもよい。 接着後に試験片の切り出しは、支持枠より原版又はペリクル膜を剥離し、支持枠上に形成される接着剤層を切り出すことにより行われる。 【0076】 接着剤層は、水系のアウトガスを抑えてペリクル膜の劣化を抑制する観点から、含有水分を抑制する処理を施されることが好ましい。 上記の処理としては、例えば、接着剤を24時間以上真空中に放置して接着剤に含まれる水分を低減する処理、接着剤層に対してコーティングを行う処理等が挙げられる。 接着剤層に対してコーティングを行う方法としては特に制限はないが、接着剤層の表面に形成可能な方法であればよい。例えば、蒸着、スパッタリング等が挙げられる。 …(中略)… 【0108】 <露光原版> 本開示の露光原版は、パターンを有する原版と、上記原版におけるパターンを有する側の面に装着された本開示のペリクルと、を含む。 本開示の露光原版は、本開示のペリクルを備えるので、本開示のペリクルと同様の効果を奏する。 【0109】 本開示のペリクルに原版を装着する方法は、特に限定されない。例えば、原版を支持枠へ直接貼り付けてもよく、支持枠の一方の端面にある原版用接着剤層を介してもよく、機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用して原版と支持枠と、を固定してもよい。 【0110】 ここで、原版としては、支持基板と、この支持基板上に積層された反射層と、反射層上に形成された吸収体層と、を含む原版を用いることができる。吸収体層が光(例えば、EUV光)を一部吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に、所望の像が形成される。反射層は、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜でありうる。吸収体層は、クロム(Cr)や窒化タンタル等、EUV光等の吸収性の高い材料でありうる。」 c 【実施例】 「【実施例】 【0126】 …(中略)… 【0130】 <CNT膜のダメージ評価> 膜面上のダメージ評価(顕微鏡による観察) デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、製品名VHX-6000、スイングヘッドズームレンズVH-ZST)を用いてCNT膜上のEUV照射部の観察を行った。 上記観察は、20倍の倍率で行い、照明条件は同軸落射モード(反射像)、露光時間は0.43msec、ゲインは0dB、ホワイトバランスのプリセットはR=945、G=256,B=590とした。 CNT自立膜の膜面の領域において、256諧調のグレースケール化した場合の輝度が105~115の範囲となり、膜が存在しない穴の部分の輝度が40~50となるように調整した。 EUV照射後のペリクル膜をステージに設置し、EUV照射部が像の中央部に来るようにステージ位置を合わせ、画像を取得した。 【0131】 得られた画像を256諧調のグレースケールに変換した後、EUVが照射されている2.0mm×0.4mmの内部領域のさらに中心の0.5×0.1mmの領域(EUV照射領域輝度測定部)について、グレースケールの輝度を計測した。 次に、EUV照射領域からビームの長辺の向きと垂直方向に1mmほど離れた領域(即ちEUV未照射領域)についてグレースケールの輝度を測定した。 【0132】 同軸落射モード(反射モード)による顕微鏡観察は以下のような特徴があり、CNT膜のダメージ、及び膜減少の評価に適する。 皺及びたわみの無い膜は、CNT膜の厚さが相対的に厚いほど顕微鏡像における反射光強度が高いため輝度も高い。一方、膜の厚さが薄いほど相対的に顕微鏡像の反射光強度が低下するため輝度も低い。 そのため、膜の厚みが均一な膜を反射モードで観察する場合、反射強度が一定となるため、観察した領域の輝度は均一に見える。 一方で、膜減少などによって膜が薄くなった領域が存在する場合、膜が薄くなった領域は周りの領域と比較して反射率が低くなるため、暗い領域として観察され、輝度が低く見える。 以上のことから、酸素ラジカル、水素ラジカルなどの存在によってEUV照射部でCNT膜がエッチングされて膜減少が発生する領域は、反射光強度の低下により暗い領域(即ち輝度の低い領域)として観察される。 一方で、EUV照射部に膜減少が生じていない領域は、反射光強度も変化しないために、外観上の変化は観察されない。 【0133】 例えば、厚さ15nmのCNT膜は反射率が6%である。 上述した顕微鏡での輝度測定において、膜が存在しない領域の輝度が50であり、膜が存在する領域の輝度が110である場合には、輝度6の変化につき反射率が1%変化する。 また、膜の厚みが10nm~20nmの範囲にあるCNT膜の場合、輝度6の変化(即ち反射率1%の変化)は、1nmの膜減少量に相当する。 膜減少量を抑制する観点から、輝度の変化量は5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。 【0134】 【表2】 [図:0001434776000002.jpg] 【0135】 表2に示す通り、EUV露光環境下では、水の分圧が5.0×10-4Pa以下である実験例1及び実験例2は、水の分圧が5.0×10-4Pa超である実験例3及び実験例4と比較して、CNT膜の厚みの減少を抑制できることがわかった。 表2に示す通り、水の分圧が1.0×10-4Paである実験例1は、EUV照射後には照射痕跡は見られなかった。EUV照射部と未照射部の輝度の差は1であり、膜減少も見られなかった。 水の分圧が4.0×10-4Paである実験例2は、EUV照射後には照射痕跡は見られなかった。EUV照射部と未照射部の輝度の差は2であり、膜減少は見られなかった。 水の分圧が8.0×10-4Paである実験例3は、EUV照射後には照射痕跡が観察された。EUV照射部と未照射部の輝度の差は6であり、膜減少が見られた。 水の分圧が100.0×10-4Paである実験例4は、EUV照射後には照射領域に破れが観察された。EUV照射部(穴の領域)と未照射部の輝度の差は58であった。 …(中略)… 【0150】 【表3】 [図:0001434776000003.jpg] 【0151】 表3に示す通り、実施例1~実施例5の構成を含むペリクルは、ペリクル内部へ放出される水系のアウトガスの合計量を5.0×10-4以下に抑えられた。 一方、比較例1の構成を含むペリクルは、ペリクル内部へ放出される水系のアウトガスの合計量を5.0×10-4以下に抑えることができなかった。 上述の通り、水系のアウトガスの合計量を5.0×10-4以下に抑えることで、CNT膜の厚みの減少を抑制できる。 そのため、水系のアウトガスの合計量が5.0×10-4以下に抑えられた実施例1~実施例5のペリクルは、CNT膜の厚みの減少を抑制でき、ペリクル膜の劣化を抑制できることが示された。 また、接着剤層の形成に水分含有率0.06質量%の接着剤を使用した実施例1と、水分含有率2.86質量%の接着剤を使用した実施例3とでは、実施例3よりも実施例1が接着剤層の表面積が大きいにも関わらず、実施例1の構成を含むペリクルのほうが、内部へ放出される水系のアウトガスの合計量が抑えられていることが示された。」 イ 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定 (ア) 引用文献1に記載された事項 原査定で引用された、優先日前に発行された文献である国際公開第2020/008977号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。下線は当合議体が付したものであり、他の文献についても同様である。 a 技術分野、背景技術、発明の概要([0001]~[0008]) 「技術分野 [0001] 本発明は、ペリクル複合体及びその製造方法に関する。 背景技術 [0002] 半導体デバイスの微細化は年々進んでおり、線幅45nm程度のパターンはエキシマ露光によって達成されている。近年、より狭い、例えば線幅32nm程度以下のパターンも求められており、それに応じて露光光をより短波長の極端紫外線(EUV、Extreme Ultra Violet)に変更することが検討されている。 [0003] EUVリソグラフィー法では、露光パターンを反映したフォトマスク(レチクル、ワーキングマスクなど)で反射させたEUVでレジストを露光する。そして前記フォトマスクには、防塵用の保護膜を備えたペリクル複合体が使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2など)。特許文献1及び特許文献2のペリクル複合体はフォトマスクのパターン形成面に設けられるものであり、防塵膜として機能するペリクル膜と、該ペリクル膜の外縁に設けられた枠部とで構成される。ペリクル複合体を枠部側からフォトマスクに接合することで、パターン形成面を埃から保護することが可能となる。また特許文献1のペリクル膜はDLCであり、特許文献2のペリクル膜はグラフェン膜又は黒鉛薄膜であり、これらペリクル膜と枠部とは接着剤で接合されている。 先行技術文献 特許文献 [0004] 特許文献1:WO2014/188710号パンフレット 特許文献2:特開2015-18228号公報 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0005] しかし、上記特許文献1、2のようなペリクル複合体は、アウトガス発生の課題を有する。そこで、本発明はアウトガスの発生を抑制したペリクル複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0006] 本発明者らは、前記課題を解決するために研究を重ねた結果、アウトガスの発生は接着剤に起因すること、そしてペリクル膜を炭素膜とし、該炭素膜の外縁に沿って枠部を設け、炭素膜と枠部の界面に炭素と金属元素を含有する層を形成させることで、接着剤を用いなくても炭素膜と枠部とを接合できることを見出し、本発明を完成した。 [0007] すなわち、本発明は以下の通りである。 [1]ペリクル膜(A)と、該ペリクル膜(A)の外縁に沿って接合されたペリクル枠(B)を有するペリクル複合体であって、 前記ペリクル膜(A)は炭素膜であり、 前記ペリクル枠(B)は、Ni、Fe、Mo、Ti、Mn、Ta、W、及びVよりなる群から選択される金属元素の少なくとも1種を含有し、 前記ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)の界面には、前記金属元素の少なくとも一種と炭素とを含む炭素・金属元素含有層(C)が存在することを特徴とするペリクル複合体。 [2]前記炭素膜のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比が0以上、1.6以下である[1]に記載のペリクル複合体。 [3]前記炭素膜の膜面内方向の電気伝導度が300~25000S/cmである[1]または[2]に記載のペリクル複合体。 [4]前記炭素・金属元素含有層(C)は、炭素と前記金属元素の固溶層又は前記金属元素の炭化物層である[1]~[3]のいずれかに記載のペリクル複合体。 [5]前記ペリクル枠(B)の熱膨張係数が4×10-6/℃以上、25×10-6/℃以下である[1]~[4]のいずれかに記載のペリクル複合体。 [6]前記ペリクル枠(B)の熱膨張係数が4×10-6/℃以上、10×10-6/℃以下である[1]~[5]のいずれかに記載のペリクル複合体。 [7][1]~[6]のいずれかに記載のペリクル複合体の製造方法であって、 炭素膜と、Ni、Fe、Mo、Ti、Mn、Ta、W、及びVよりなる群から選択される金属元素の少なくとも1種を含有する枠部とを積層し、加圧及び加熱することを特徴とするペリクル複合体の製造方法。 発明の効果 [0008] 本発明によれば、アウトガスの発生を抑制してペリクル複合体を得ることができる。」 b 発明を実施するための形態([0009]~[0028]) 「発明を実施するための形態 [0009] ペリクル複合体は、露光パターンを反映したフォトマスクのパターン面を保護するために使用され、ペリクル膜と、該ペリクル膜の外縁に設けられた枠部(ペリクル枠)とで構成される。本発明のペリクル複合体は極端紫外線(EUV、Extreme Ultra Violet)によるリソグラフィー法に使用することが好ましい。本明細書でEUVは、波長が5nm~30nm、好ましくは5nm~13.5nmの光のことを意味する。 [0010] 本発明のペリクル複合体は、ペリクル膜(A)と、該ペリクル膜(A)の外縁に沿って接合されたペリクル枠(B)を有し、前記ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)の界面には炭素・金属元素含有層(C)が存在する。以下、ペリクル膜(A)、ペリクル枠(B)、炭素・金属元素含有層(C)についてそれぞれ説明する。 [0011] (1)ペリクル膜(A) ペリクル複合体の膜部を指し、本発明では、炭素膜である。ペリクル膜の形状は特に限定されず、円形、楕円形、多角形などから適宜選択できる。好ましい形状は、正方形、長方形などの四角形である。ペリクル膜(A)が多角形である場合、その角は尖っていても良く、曲がっていても良いが、曲がっている場合、その曲率半径rは好ましくは1mm~20mmであり、より好ましくは3mm~15mmであり、更に好ましくは5mm~10mmである。ペリクル膜(A)の厚さは、例えば、5nm以上であり、好ましくは8nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、また40nm以下が好ましく、より好ましくは35nm以下であり、更に好ましくは30nm以下である。ペリクル膜(A)の面積は、例えば100mm2以上であり、好ましくは400mm2以上であり、より好ましくは900mm2以上であり、更に好ましくは100cm2以上、特に好ましくは120cm2以上、最も好ましくは150cm2以上であり、上限は特に限定されないが、2500cm2以下であってもよい。ペリクル膜(A)の形状は特に限定されないが、長方形又は正方形であることが好ましく、一辺の長さは例えば10mm以上であり、好ましくは20mm以上であり、より好ましくは30mm以上であり、更に好ましくは10cm以上、特に好ましくは15cm以上、最も好ましくは20cm以上であり、上限は特に限定されないが、例えば50cm以下であってもよい。 [0012] 炭素膜とは、実質的に炭素原子から構成される膜を意味し、本発明では前記ペリクル膜の構成部材として使用される。 …(中略)… [0019] (2)ペリクル枠(B) ペリクル枠(B)はペリクル膜の外縁に沿って接合される枠部である、ペリクル複合体でフォトマスクを覆う為に使用される。ペリクル枠(B)は、露光装置内とペリクル複合体内の気圧を一定にするため、通気孔を有していてもよい。ペリクル枠(B)の形状は、ペリクル膜(A)と同様、円形、楕円形、多角形などから適宜選択でき、好ましい形状は、正方形、長方形などの四角形である。ペリクル枠の厚みは、例えば0.1~10mmである。 [0020] 本発明では、後述する通り、ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)の界面に、炭素膜の炭素と、ペリクル枠に含まれる金属元素との両方を含む炭素・金属元素含有層(C)が形成することで、ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)を接合している。このような層(C)を形成できる金属元素としては、Ni、Fe、Mo、Ti、Mn、Ta、W、及びVが挙げられる。Fe、Mo、Mn、Ta、W、Ti及びVは、炭素膜と金属炭化物を形成することができる元素であり、またNi及びFeは炭素を溶解(固溶)又は炭素に溶解できる元素である。 [0021] ペリクル枠(B)は、Ni、Fe、Mo、Ti、Mn、Ta、W、及びVよりなる群から選択される金属元素の少なくとも1種を含有しており、ペリクル枠(B)は前記金属元素の純金属(純度は例えば99質量%以上)であってもよいし、前記金属元素の少なくとも1種を含む合金(合金のマトリックスは、前記金属元素であってもよいし、前記金属元素以外の元素であってもよい)であってもよく、いずれの場合であっても、ペリクル枠(B)中の前記金属元素の合計は10質量%以上であることが好ましい。ペリクル枠(B)は、Ni、Ti及びFeの少なくとも1種を含むことが好ましい。 …(中略)… [0024] (3)炭素・金属元素含有層(C) 本発明のペリクル複合体では、ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)の界面に、炭素膜の炭素と、ペリクル枠に含まれる金属元素との両方を含む炭素・金属元素含有層(C)が形成されている。このような層(C)を形成することで、ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)を接合できる。ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)が良好に接合されている場合には、ペリクル膜(A)上にテープを貼り付け、剥離試験を行う際、両者の界面での破壊よりもペリクル膜(A)自体の破壊が生じやすい。よって、界面の接合強度の大小は、前記ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)の界面で剥離する面積割合によって評価できる。 [0025] 炭素・金属元素含有層(C)は、炭素膜中の炭素が前記金属元素に固溶した層又は前記金属元素が炭素に固溶した層であってもよいし、前記金属元素の炭化物層であってもよく、これらの状態は、EDXで金属元素と炭素との混合層が存在していることによって確認できる。 [0026] (4)ペリクル複合体の製造方法 本発明のペリクル複合体は、炭素膜と前記ペリクル枠(B)とを積層し、加圧及び加熱することで製造できる。加圧の方法としては、炭素膜とペリクル枠(B)を積層したものに、必要に応じて黒鉛等のスペーサーを介して、おもり又はプレス板などを用いて加圧する方法が挙げられ、プレス圧は例えば150Pa以上であり、より好ましくは200Pa以上であり、上限は特に限定されないが、例えば700Pa以下であってもよい。また加熱温度は、例えば700℃以上であり、好ましくは750℃以上であり、また1500℃以下が好ましく、より好ましくは1400℃以下である。加圧及び加熱時間は、30分以上が好ましく、より好ましくは1時間以上であり、例えば3時間以下であってもよい。 …(後略)」 c 実施例([0029]~[0049]) 「実施例 …(中略)… [0035] (v)炭素膜とペリクル枠の接合界面の材質評価 炭素膜とペリクル枠の接合界面の材質は、炭素膜とペリクル枠の複合体を切断した断面を、分析型走査電子顕微鏡であるSEM-EDS(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive x-ray Spectroscopy、日本電子株式会社製、JSM-7100F)によって分析して評価した。炭素膜とペリクル枠の界面に、炭素と金属元素の混合層が確認される場合に、金属元素と炭素が固溶体を形成している、もしくは金属元素の炭化物を形成していると判断した。評価用試料の作製手順は以下の通りである。レーザーカットして得られた一辺40mm、膜厚2μm又は3μmの正方形の炭素膜を、一辺45mm、幅10mm、厚さ0.2mmの正方形の金属枠(ペリクル枠)の上に中心を合わせて置いた。前記金属枠上の炭素膜の上に、一辺40mm、厚さ1mmの正方形のシート状黒鉛を置き、更にその上に一辺40mm、高さ60mmの直方体のSUS製のおもりを置いた。金属枠、炭素膜、シート状黒鉛、おもりをこの順に重ねたものを、真空下で加熱し、所定温度(780~1300℃。各実施例における具体的な温度は表1に示す。)に到達後、1時間保持した。冷却後、シート状黒鉛とおもりを取り除き、炭素膜と金属枠で形成される複合体を得た。得られた複合体を幅10mmに切断して、その断面を研磨し、炭素膜と金属枠の接合界面の材質を分析した。 …(中略)… [0040] 製造例1:ポリイミド膜の作製 ピロメリット酸二無水物、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンをモル比で2:1:1の割合で混合したポリアミド酸の17.0質量%のジメチルホルムアミド溶液を、厚さ5mmのガラス板上に塗布した。得られた溶液を塗布したガラス板を、加熱し、125℃で60秒、さらに加熱し、250℃で60秒、さらに加熱し、450℃で60秒処理し、ガラス板上にポリイミド膜を形成した。ガラス板上のポリイミド膜を剥離し、膜厚4μmのポリイミド膜を得た。 [0041] 製造例2:炭素質膜の作製 製造例1で得られたポリイミド膜を、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で950℃まで昇温し、15分間保った後に自然冷却させ、炭素質膜を作製した。得られた炭素質膜の膜厚は3μmであった。ラマンスペクトルにおけるD/Gバンド強度比は1.1であった。上記(iii)の方法で測定した炭素質膜の電気伝導度は300S/cmであった。 [0042] 製造例3:グラファイト膜の作製 製造例2で得られた炭素質膜を、アルゴン雰囲気下、10℃/分の速度で2800℃まで昇温し、60分間保った後に自然冷却させ、グラファイト膜を作製した。グラファイト膜の膜厚は2μmであった。ラマンスペクトルにおけるD/Gバンド強度比は0であった。上記(iii)の方法で測定したグラファイト膜の電気伝導度は20000S/cmであった。 [0043] 実施例1 炭素膜として、製造例3で得られたグラファイト膜を用い、ペリクル枠として純ニッケル(純度:99.9%)を用いて、上記(v)~(ix)に従って、ペリクル複合体の評価を行った。なお、ペリクル複合体作製時に、炭素膜とペリクル枠との接触面にかかる荷重は250Paであった。 [0044] その結果、炭素膜とペリクル枠の接合界面には、炭素とニッケルの両者を含む層(ニッケルの性質から考えて炭素とニッケルの固溶体層であると考えられる)が確認され、炭素膜とペリクル枠の接合強度は、熱処理しないものも、熱処理したものも、共にBの評価であり、炭素膜とペリクル枠は接合していた。また熱処理後の炭素膜の外観にはほぼ変化がなく、またアウトガス評価における重量減少率はほぼ0%(評価:○)であった。 [0045] 実施例2~5、比較例1 炭素膜、ペリクル枠、接合条件を表1に記載の通り変更した以外は実施例1と同様にしてペリクル複合体を評価した。なお、実施例2のペリクル枠の材質は純Ti(純度は約99.5質量%)であり、実施例3のAg-Tiは田中貴金属社製、TKC-661であり、比較例1のペリクル枠の材質は純Cuである。 [0046] 比較例2、3 炭素膜、ペリクル枠を表1に記載の通りとし、炭素膜とペリクル枠を、エポキシ樹脂系接着剤を用いて貼り合わせ、100℃、1時間加熱して接着した以外は実施例1と同様にしてペリクル複合体を評価した。 [0047] 実施例及び比較例の条件及び結果を表1に示す。 [0048] [表1] [図:0001434776000004.jpg] [0049] ペリクル枠として、本発明で特定する所定の金属を含有した実施例1~5では、加熱圧着により、炭素膜とペリクル枠の界面に、炭素及び金属元素を含有する層が形成されており、アウトガスを発生することなく炭素膜とペリクル枠を接合することができた。炭素膜とペリクル枠の界面層については、実施例1、5ではNiの性質から炭素とNiの固溶体層が形成していると考えられ、また実施例2、3ではTiの性質からTi炭化物層が形成していると考えられ、更に実施例4ではFeの性質から炭素とFeの固溶体層及び/又はFeの炭化物層が形成していると考えられる。一方、ペリクル枠としてCuを用いた比較例1では、炭素膜とペリクル枠の界面に炭素とCuの両方を含む層は確認できず、接合が不十分だった。また、接着剤を用いて炭素膜とペリクル枠を接合した比較例2、3では、良好に接合できたものの、接合時にアウトガスが発生した。」 (イ) 引用発明の認定 前記(ア)の引用文献1に記載された事項を総合すると、引用文献1には、ペリクル複合体の製造方法に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(引用発明の認定に用いた段落番号を参考までに括弧内に付してある。以下同様。)。 <引用発明> 「ペリクル複合体の製造方法であって、([0007]) ペリクル複合体は、ペリクル膜(A)と、該ペリクル膜(A)の外縁に沿って接合されたペリクル枠(B)を有するものであり、([0007]) 前記ペリクル膜(A)は炭素膜であり、([0007]) 前記ペリクル枠(B)は、Ni、Fe、Mo、Ti、Mn、Ta、W、及びVよりなる群から選択される金属元素の少なくとも1種を含有するものであり、([0007]) 前記ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)の界面には、前記金属元素の少なくとも一種と炭素とを含む炭素・金属元素含有層(C)が存在するものであり、([0007]) 炭素・金属元素含有層(C)は、炭素膜中の炭素が前記金属元素に固溶した層若しくは前記金属元素が炭素に固溶した層又は前記金属元素の炭化物層であり、[0025] ピロメリット酸二無水物、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンをモル比で2:1:1の割合で混合したポリアミド酸の17.0質量%のジメチルホルムアミド溶液を、厚さ5mmのガラス板上に塗布し、得られた溶液を塗布したガラス板を、加熱し、125℃で60秒、さらに加熱し、250℃で60秒、さらに加熱し、450℃で60秒処理し、ガラス板上にポリイミド膜を形成し、[0040] 得られたポリイミド膜を、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で950℃まで昇温し、15分間保った後に自然冷却させ、炭素質膜を作製し、[0041] 得られた炭素質膜を、アルゴン雰囲気下、10℃/分の速度で2800℃まで昇温し、60分間保った後に自然冷却させ、グラファイト膜を作製し、[0042] 炭素膜と、Ni、Fe、Mo、Ti、Mn、Ta、W、及びVよりなる群から選択される金属元素の少なくとも1種を含有する枠部とを積層し、加圧及び加熱するものであって、([0007]) ペリクル膜を炭素膜とし、該炭素膜の外縁に沿って枠部を設け、炭素膜と枠部の界面に炭素と金属元素を含有する層を形成させることで、接着剤を用いなくても炭素膜と枠部とを接合でき、([0006]) アウトガスの発生を抑制してペリクル複合体を得ることができる、([0008]) ペリクル複合体の製造方法」 ウ 技術常識の認定 (ア) 技術常識A~C a 引用文献4に記載された事項 原査定で引用された、本願の優先日前に発行された文献である国際公開第2018/008594号(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。 (a) 技術分野([0001]) 「技術分野 [0001] 本発明は、半導体デバイス等をリソグラフィ技術により製造する際に使用するフォトマスクまたはレチクル(以下、これらを総称して「フォトマスク」ともいう)及び、塵埃が付着することを防ぐフォトマスク用防塵カバーであるペリクル等に関する。特に、本発明は、極端紫外光(Extreme Ultraviolet:EUV)リソグラフィ用の極薄膜であるペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、及びその製造方法、並びにこれらを用いた露光原版、半導体装置の製造方法に関する。」 (b) 発明の概要([0012]~[0040]) 「発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0012] 上記先行文献に比してさらにEUV透過性が高く耐熱性に優れたペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルを提供する。また、これらを以て高い精度のEUVリソグラフィが可能な、露光原版、半導体装置の製造方法を提供する。 課題を解決するための手段 [0013] 上記の課題を解決するため、支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜であって、ペリクル膜は、厚さが200nm以下であり、ペリクル膜は、カーボンナノチューブシートを含み、カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、バンドルは径が100nm以下であり、カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向している、露光用ペリクル膜が提供される。 …(中略)… [0026] 本発明の一実施形態において、上記のペリクル膜と、ペリクル膜を支持する支持枠と、を有するペリクルが提供されてもよい。 …(中略)… [0039] 本発明の一実施形態において、カーボンナノチューブの分散液からカーボンナノチューブシートを製造し、得られたカーボンナノチューブシートを、開口部を有する支持枠にその開口面を覆うように接続すること、を含むペリクルの製造方法が提供される。 …(後略)」 (c) 発明を実施するための形態([0042]~[0186]) 「発明を実施するための形態 …(中略)… [0123] [実施形態3] 実施形態3は、支持枠として第1の枠体、第2の枠体を用いず、支持枠209でペリクル膜202を支持する形態である。図12を用いて、本発明に係るペリクル20の製造方法を説明する。 [図:0001434776000005.jpg] [0124] シリコンウェハやガラス、金属、ポリマーフィルム等の化学気相成長用基板上にカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブバルク構造体でもよい)を形成する。得られたカーボンナノチューブを、水や有機溶媒などの液体の液面に浮かせることで化学気相成長用基板から剥離する。液面に浮いたカーボンナノチューブの膜を、接着剤などを塗布した支持枠で掬い取ることで、支持枠に固定する。得られたカーボンナノチューブの膜がペリクル膜202となる。 …(中略)… [0129] [保護層] EUVリソグラフィ用のペリクル膜には、水素ラジカル耐性(すなわち、還元耐性)と酸化耐性が必要であることから、水素ラジカルや酸化からカーボンナノチューブを保護するための保護層を設けてもよい。保護層106は、カーボンナノチューブシートに接するように設けることができる。たとえば、ペリクル膜102、202の露光原版側の面に設けられてもよいし、ペリクル膜102と基板100との間に設けてもよいし(図9(a))、ペリクル膜102、202の上に積層させて最上面の層としてもよいし、これらを組み合わせてもよい。水素ラジカルはペリクル膜の両面に発生しうるから、上記を組み合わせること、すなわち、保護層106を、ペリクル膜102、202の露光原版側の面に形成し、さらにペリクル膜102、202の上にも積層させて最上面の層とすることが、好ましい。 …(中略)… [0144] [膜接着剤層] 膜接着剤層は、支持枠209とペリクル膜202とを別個に製造した場合に、これらを接着するための層である。膜接着剤層は、例えばアクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、シリコン樹脂接着剤、無機系接着剤等からなる層でありうる。EUV露光時の真空度を保持する観点から、膜接着剤層は、アウトガスが少ないものが好ましい。アウトガスの評価方法として、例えば昇温脱離ガス分析装置を用いることができる。 [0145] また、ペリクル膜を支持枠に固定する方法は特に制限されず、ペリクル膜を支持枠へ直接貼り付けてもよく、支持枠の一方の端面にある膜接着剤層を介してもよく、機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用してペリクル膜と支持枠とを固定してもよい。 …(中略)… [0147] [原版用接着剤層] 原版用接着剤層は、ペリクルと原版とを接着する層である。原版用接着剤層は、ペリクルのペリクル膜が張架されていない側の端部に設けられてもよい。原版用接着剤層は、例えば、両面粘着テープ、シリコン樹脂粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、無機系接着剤等である。EUV露光時の真空度を保持する観点から、原版用接着剤層は、アウトガスが少ないものが好ましい。アウトガスの評価方法として、例えば昇温脱離ガス分析装置を用いることができる。 …(後略)」 b 引用文献11に記載された事項 本審決において新たに引用する、優先日前に発行された文献である特開2020-91310号公報(以下「引用文献11」という。)には、次の事項が記載されている。なお、引用文献11は、本願の明細書の【0003】に記載されている文献である。 (a) 技術分野(【0001】) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、LSI、超LSIなどの半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除けとして使用されるペリクルに関する。」 (b) 背景技術(【0002】~【0007】) 「【背景技術】 …(中略)… 【0006】 EUVリソグラフィにおいて、露光中に発生するアウトガス成分が露光装置内の反射ミラーやマスクの表面に吸着し、反射率を低下させることや、アウトガス成分が装置内壁面に吸着してしまう汚染が問題になっている。これまでに、マスク粘着剤に低アウトガス性のペリクル用接着剤を用いたペリクルが開発されている(特許文献1)。しかしながら、実際はペリクル全体からのアウトガスを低減させることが重要であり、このため、ペリクル用接着剤の開発だけではペリクル全体のアウトガス対策としては不十分であった。 …(後略)」 (c) 発明の概要(【0008】~【0012】) 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ペリクル全体から発生するアウトガスを可及的に低減することができ、該アウトガス成分が露光装置内の反射ミラーやマスクの表面に吸着し、反射率が低下することや、アウトガス成分が装置内壁面に吸着して汚染が生じることを防ぐことができるペリクルを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者は、ペリクル全体を、常温で1×10-3Pa以下の雰囲気下で10分放置後の真空時ガス放出量が、ペリクル1個あたり水系1×10-3Pa・L/s以下、測定質量数の範囲が45~100amuである炭化水素系1×10-5Pa・L/s以下、及び測定質量数の範囲が101~200amuである炭化水素系4×10-7Pa・L/s以下とすることにより、ペリクル全体から発生するアウトガス成分が露光装置内の反射ミラーやマスクの表面に吸着することで反射率が低下すること、及び、アウトガス成分が装置内壁面に吸着して汚染が生じることを防ぐことができることを見出し、本発明をなすに至ったものである。 【0010】 従って、本発明は、下記のペリクルを提供する。 1.23℃で1×10-3Pa以下の雰囲気下で10分放置後の真空時ガス放出量が、ペリクル1個あたり水系1×10-3Pa・L/s以下、測定質量数の範囲が45~100amuである炭化水素系1×10-5Pa・L/s以下、及び測定質量数の範囲が101~200amuである炭化水素系4×10-7Pa・L/s以下であることを特徴とするペリクル。 2.上記ペリクルが、ペリクル膜とペリクルフレームとから構成され、該ペリクル膜が接着剤又は粘着剤を介して上記ペリクルフレームの上端面に設けられる上記1記載のペリクル。 3.上記ペリクル膜を上記ペリクルフレームの上端面に設けた後、ペリクル全体を加温減圧下に晒すようにした上記2記載のペリクル。 4.上記ペリクル膜を上記ペリクルフレームの上端面に設けた後、ペリクル全体をガス不透過膜でコーティングするようにした上記2又は3記載のペリクル。 【発明の効果】 【0011】 本発明のペリクルによれば、ペリクル全体から発生するアウトガスを可及的に低減することができるものであり、該アウトガス成分が露光装置内の反射ミラーやマスクの表面に吸着し、反射率が低下することや、アウトガスが装置内壁面に吸着して汚染が生じることを防ぐことができる。 …(後略)」 (d) 発明を実施するための形態(【0013】~【0034】) 「【発明を実施するための形態】 【0013】 以下、本発明につき、更に詳しく説明する。 本発明のペリクルは、その構造上、特に制限はないが、通常は、ペリクル膜とペリクルフレームとから構成される。 …(中略)… 【0016】 上記ペリクルフレームの下端面(マスク側)には粘着剤を塗布することができる。一般的に、この粘着剤は、ペリクルフレーム端面の周方向全周に亘って、ペリクルフレーム幅と同じ又はそれ以下の幅に形成される。ペリクルフレーム端面の切欠部により通気部を設ける場合は、突起部上のみに粘着剤を設けてもよい。この粘着剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤が好適に使用できる。特には耐熱性の観点から、シリコーン粘着剤を用いることが好適である。これらに用いる粘着剤は、必要に応じて任意の形状に加工されてもよい。 …(中略)… 【0019】 ペリクル膜は、上記ペリクルフレームの上端側の接着剤又は粘着剤を介して装着される。このペリクル膜の材質としては、特に制限はないが、露光光源の波長における透過率が高く耐光性の高いものが好ましい。例えば、EUV露光に対しては極薄シリコン膜や炭素膜等が用いられる。 …(中略)… 【0022】 本発明のペリクルにおいては、常温(23℃)で1×10-3Pa以下の雰囲気下で10分放置後の真空時ガス放出量が、ペリクル1個あたり水系1×10-3Pa・L/s以下、測定質量数の範囲が45~100amuである炭化水素系1×10-5Pa・L/s以下、及び測定質量数の範囲が101~200amuである炭化水素系4×10-7Pa・L/s以下とするものである。 …(中略)… 【0031】 本発明の目的であるアウトガス低減のために、上記のように所定条件下で水系・炭化水素系の各成分のガス放出量が上記範囲を満たす本発明のペリクルを得るためには、上述した構造を有するペリクルを完成した後、加熱減圧により脱ガス処理を実施することができ、あるいはペリクル全体をSiONや金属膜等のガス不透過膜によりコーティングしてもよい。なお、これらの脱ガス処理の実施やガス不透過膜を配設することは本発明のペリクルでは必須の構成要素ではない。 …(中略)… 【0034】 このようにして得られた本発明のペリクルは、ペリクル全体から発生するアウトガスを十分に低減し得るものであり、該アウトガス成分が露光装置内の反射ミラーやマスクの表面に吸着し、反射率が低下することや、アウトガスが装置内壁面に吸着して汚染が生じることを防ぐことができる、LSI、超LSI等の半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除け部材として有用である。」 (d) 実施例(【0035】~【0044】) 「【実施例】 【0035】 以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。 【0036】 [実施例1] インバー製のペリクルフレーム(外形サイズ150×118×1.5mm、フレーム幅4mm)を洗浄した。シリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製X-40-3264)100質量部に対して、触媒(信越化学工業(株)製PL-56)を0.5質量部加え、調合した。上記ペリクルフレームの下端面に上記シリコーン粘着剤を塗布した。さらに、上記ペリクルフレームの上端面にも同様のシリコーン粘着剤を塗布した。その後、上記ペリクルフレームを90℃,12時間の条件で加熱し、粘着剤を硬化させた。続いて、ペリクル膜として極薄シリコン膜を上記ペリクルフレーム上端面の粘着剤に圧着させ、ペリクルを完成させた。完成したペリクルを6インチサイズのクロムマスク(以下、「Crマスク」という。)に貼り付けた。ペリクルからの真空時ガス放出量及びチャンバー汚染の有無を下記の方法に従って確認した。 …(中略)… 【0039】 [実施例2] インバー製のペリクルフレーム(外形サイズ150×118×1.5mm、フレーム幅4mm)を洗浄した。アクリル粘着剤(綜研化学(株)製SK-1495)100質量部に対して、硬化剤(綜研化学(株)L-45)を0.1質量部加え、調合した。上記ペリクルフレームの下端面に上記アクリル粘着剤を塗布し、100℃16時間加熱し、粘着剤を硬化させた。続いて、シリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製X-40-3264)100質量部に対して、触媒(信越化学工業(株)製PL-56)を0.5質量部加え、調合した。上記ペリクルフレームの上端面に上記シリコーン粘着剤を塗布し、該ペリクルフレームを90℃12時間加熱し、粘着剤を硬化させた。その後、上記ペリクルフレームを90℃、1.0×10-2Paの真空排気装置(メガトラスト製「Z106-VAC07」)に12時間放置し、脱ガス処理を実施した。上記ペリクルフレームを温度が室温に戻った後、ペリクル膜として極薄シリコン膜を、上記ペリクルフレームの上端面の粘着剤に圧着させ、ペリクルを完成させた。 完成したペリクルを6インチサイズのCrマスクに貼り付けた。ペリクルからの真空時ガス放出量およびチャンバー汚染の有無を確認した。 …(中略)… 【0040】 [実施例3] インバー製のペリクルフレーム(外形サイズ150×118×1.5mm、フレーム幅4mm)を洗浄した。アクリル粘着剤(綜研化学(株)製SK-1495)100質量部に対して、硬化剤(綜研化学(株)L-45)を0.1質量部加え、調合した。上記ペリクルフレームの下端面に上記アクリル粘着剤を塗布し、粘着剤の平坦加工を行い、100℃12時間加熱して、粘着剤を硬化させた。続いて、シリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製X-40-3264)100質量部に対して、触媒(信越化学工業(株)製PL-56)を0.5質量部加え、調合した。上記ペリクルフレーム上端面に上記シリコーン粘着剤を塗布し、粘着剤の平坦加工を行い、該ペリクルフレームを90℃12時間加熱し、粘着剤を硬化させた。その後、上記ペリクルフレームの両端面の粘着剤には離型剤付PETを貼り付けて接着面を保護した。その後、CVD装置を用いてペリクル全体をSiON層でコーティングした。次いで、膜粘着剤の接着面を保護していたPETを取り除いた後、ペリクル膜として極薄シリコン膜を、上記ペリクルフレーム上端面の粘着剤に圧着させ、ペリクルを完成させた。完成したペリクルを6インチサイズのCrマスクに貼り付けた。ペリクルからの真空時ガス放出量およびチャンバー汚染の有無を確認した。 …(後略)」 c 技術常識A~Cの認定 前記a、bの引用文献4、11の摘記事項に例示されるように、次に示す技術事項は、いずれも優先日前において技術常識であると認められる(以下「技術常識A」~「技術常識C」という。)。 <技術常識A> 「ペリクル膜及びペリクル枠を有するペリクルを接着剤等により原版に固定してペリクルを用いること。」 <技術常識B> 「炭素系材料のペリクル膜及びペリクル枠を有するペリクルにおいて、ペリクル枠のペリクル膜が設けられていない側の端部に設ける原版用接着剤層として、両面粘着テープ、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、無機系接着剤等が挙げられ、とりわけシリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤が挙げられること。」 <技術常識C> 「露光中に発生するアウトガス成分が露光装置内の反射ミラーやマスクの表面に吸着してこれらの反射率が低下することやアウトガス成分が装置内壁面に吸着して汚染が生じることを防ぐことの観点、及び、EUV露光時の真空度を保持する観点から、原版用接着剤層は、アウトガスが少ないものが好ましいこと。」 (イ) 技術常識D~F a 引用文献12に記載された事項 本審決において新たに引用する、優先日前に発行された文献である国際公開第2019/025082号(以下「引用文献12」という。)には、次の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語訳は、対応する特表2020-529036号公報によるものである。 「[0008] It has been found that the lifetime of known pellicles, such as pellicles comprising freestanding graphene membranes or other carbon-based membranes, is limited. (自立グラフェン膜又は他の炭素系膜を含むペリクルのような既知のペリクルの寿命は限られていることがわかっている。) [0009] It has also been found that known pellicles may be etched in an atmosphere which contains free radical species, such as H* and HO*, and thereby can degrade over time with use. Since pellicles are very thin, the reaction with the free radical species can weaken the pellicle and ultimately cause it to fail. (また、既知のペリクルは、H*及びHO*のようなフリーラジカル種を含む雰囲気でエッチングされる場合があるので、使用に伴って経時的に劣化し得ることがわかっている。ペリクルは極めて薄いので、フリーラジカル種との反応によってペリクルが弱化し、最終的に機能しなくなる恐れがある。)」 b 引用文献13に記載された事項 本審決において新たに引用する、優先日前に発行された文献である国際公開第2015/045414号(以下「引用文献13」という。)には、次の事項が記載されている。 「[0071] (水分・残留溶媒量) 樹脂薄膜に含まれる水分は、できる限り低減されていることが望ましい。水分子に対してEUV光等の露光光が照射されると、水分子を構成する酸素原子や水素原子がイオン化したりラジカルを生じたりする。そのため、樹脂薄膜内部に吸着水が数多く存在すると、それらの水分子がEUV光等の露光光を吸収した結果、樹脂薄膜の劣化を促進させる要因となる。また、樹脂薄膜内の水分子が超高真空中でアウトガスとなって放出されると、その水分子がEUVを吸収し、イオンやラジカル種となって露光装置内の部材を劣化させる要因となる。」 c 技術常識Dの認定 前記(ア)bの引用文献11の摘記事項及び前記a、bの引用文献12、13の摘記事項から理解できるように、次の技術事項は優先日における技術常識であると認められる(以下「技術常識D」という。)。 <技術常識D> 「露光中に発生する低減すべきアウトガスには、水系アウトガスが含まれること。」 d 技術常識Eの認定 前記(ア)aの引用文献4の摘記事項([0129])や前記aの引用文献12の摘記事項に見られるように、次の技術事項は優先日における技術常識であると認められる(以下「技術常識E」という。)。 <技術常識E> 「EUVリソグラフィ用の炭素系ペリクル膜は、水素ラジカル(H*)、水酸基ラジカル(HO*)や酸素ラジカル(O*)などのフリーラジカルにより劣化すること。」 e 技術常識Fの認定 前記dの引用文献13の摘記事項に見られるように、次の技術事項は優先日における技術常識であると認められる(以下「技術常識F」という。)。 <技術常識F> 「アウトガス中の水分子がEUVを吸収し、ラジカル種となって露光装置内の部材を劣化させる要因となること。」 エ 対比 (ア) 対比分析 本件補正発明と引用発明を対比する。 a 構成Xの観点 構成Xは、「ペリクルの製造方法」の発明であることを特定するものである。 (a) 引用発明の「ペリクル複合体」は、本件補正発明の「ペリクル」に相当する。 (b) したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Xの点である次の点において一致する。 「ペリクルの製造方法」の発明である点。 b 構成Aの観点 構成Aは、「炭素含有率が40質量%以上である炭素系の材料を準備する工程」を含むことである。 (a) 引用発明は、「ピロメリット酸二無水物、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンをモル比で2:1:1の割合で混合したポリアミド酸の17.0質量%のジメチルホルムアミド溶液を、厚さ5mmのガラス板上に塗布し、得られた溶液を塗布したガラス板を、加熱し、125℃で60秒、さらに加熱し、250℃で60秒、さらに加熱し、450℃で60秒処理し、ガラス板上にポリイミド膜を形成し、得られたポリイミド膜を、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で950℃まで昇温し、15分間保った後に自然冷却させ、炭素質膜を作製し、得られた炭素質膜を、アルゴン雰囲気下、10℃/分の速度で2800℃まで昇温し、60分間保った後に自然冷却させ、グラファイト膜を作製[する]」ものであるところ、当該ポリアミド酸、ポリイミド膜、炭素質膜、グラファイト膜の炭素含有率はいずれも40%以上であることは明らかであるから、これらはいずれも、本件補正発明の「炭素含有率が40質量%以上である炭素系の材料」に相当する。 (b) したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Aの点である次の点において一致する。 「炭素含有率が40質量%以上である炭素系の材料を準備する工程」を含む点。 c 構成Bの観点 構成Bは、「前記炭素系の材料をシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程」を含むことである。 (a) 引用発明における「ペリクル膜(A)」は、本件補正発明における「ペリクル膜」に相当する。 (b) 引用発明は、「ピロメリット酸二無水物、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンをモル比で2:1:1の割合で混合したポリアミド酸の17.0質量%のジメチルホルムアミド溶液を、厚さ5mmのガラス板上に塗布し、得られた溶液を塗布したガラス板を、加熱し、125℃で60秒、さらに加熱し、250℃で60秒、さらに加熱し、450℃で60秒処理し、ガラス板上にポリイミド膜を形成し、得られたポリイミド膜を、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で950℃まで昇温し、15分間保った後に自然冷却させ、炭素質膜を作製し、得られた炭素質膜を、アルゴン雰囲気下、10℃/分の速度で2800℃まで昇温し、60分間保った後に自然冷却させ、グラファイト膜を作製[する]」ものであるところ、当該「グラファイト膜」は「ペリクル膜(A)」である「炭素膜」であることが理解できるから、引用発明は、本件補正発明でいう「ペリクル膜を製造する工程」を含むものであるといえる。 (c) 引用発明の「ペリクル膜(A)」である「炭素膜」、すなわち、前記(b)の「グラファイト膜」が、本件補正発明でいう「シート状」であることは、当業者には自明のことである。そして、前記bで説示したことも考慮すれば、引用発明における「炭素膜」である「グラファイト膜」は、本件補正発明でいう「前記炭素系の材料をシート状に成膜して」製造されるものであることもまた当業者には自明のことである。 (d) したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Bの点である次の点において一致する。 「前記炭素系の材料をシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程」を含む点。 d 構成Cの観点 構成Cは、「前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように接着剤層を介すことなく支持枠に接続する工程」を含むことである。 (a) 引用発明における「ペリクル枠(B)」は、本件補正発明における「支持枠」に相当する。そして、引用発明における「ペリクル枠(B)」は、「該ペリクル膜(A)の外縁に沿って接合された」ものであり、「枠」状であることが理解されるから、本件補正発明でいう「開口部を有する」ものであるといえる。 (b) 引用発明は、「炭素膜と、Ni、Fe、Mo、Ti、Mn、Ta、W、及びVよりなる群から選択される金属元素の少なくとも1種を含有する枠部とを積層し、加圧及び加熱[する]」ものであり、当該加圧及び加熱により、「炭素膜と枠部の界面に炭素と金属元素を含有する層を形成させることで、接着剤を用いなくても炭素膜と枠部とを接合でき[る]」ものである。したがって、当該「炭素膜と、Ni、Fe、Mo、Ti、Mn、Ta、W、及びVよりなる群から選択される金属元素の少なくとも1種を含有する枠部とを積層し、加圧及び加熱[する]」ことは、本件補正発明における「前記ペリクル膜を、」「支持枠に接続する工程」に相当するといえる。 (c) 引用発明における「ペリクル枠(B)」は、「該ペリクル膜(A)の外縁に沿って接合された」ものであるから、前記(a)及び(b)も考慮すれば、引用発明は、本件補正発明でいう「前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように」「支持枠に接続する」ものであるといえる。 (d) 引用発明においては、「炭素・金属元素含有層(C)は、炭素膜中の炭素が前記金属元素に固溶した層若しくは前記金属元素が炭素に固溶した層又は前記金属元素の炭化物層であ[る]」から、互いに接合する部材を構成する元素の化合物の層であって、通常このような層は「接着剤層」とは呼ばれないものである(「接着剤」という学術用語の意味については、後記の化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 5」(共立出版、縮刷版第36刷、1997年9月20日発行)360-361ページ「接着剤」の項目参照)。そして、引用発明は「炭素膜と枠部の界面に炭素と金属元素を含有する層を形成させることで、接着剤を用いなくても炭素膜と枠部とを接合でき[る]」ものである。したがって、引用発明は、本件補正発明でいう「前記ペリクル膜を、」「接着剤層を介すことなく支持枠に接続する」ものといえる。 「化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 5」(共立出版、縮刷版第36刷、1997年9月20日発行)360-361ページ「接着剤」の項目 [図:0001434776000006.jpg] 」 (e) 前記(c)及び(d)をまとめると、本件補正発明と引用発明は、構成Cの点である次の点において一致する。 「前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように接着剤層を介すことなく支持枠に接続する工程」を含む点。 e 構成Dの観点 構成Dは、「前記支持枠の、前記ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、シリコーン系接着剤及びアクリル樹脂接着剤の少なくとも一方である接着剤を付与して原版用接着剤層を形成する工程」を含むことである。 (a) 引用発明は、当該原版用接着剤層を形成する工程を含むものではない。 (b) そうすると、構成Dの点における本件補正発明と引用発明の相違点は、次に示すとおりである。 本件補正発明においては、「前記支持枠の、前記ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、シリコーン系接着剤及びアクリル樹脂接着剤の少なくとも一方である接着剤を付与して原版用接着剤層を形成する工程」を含むのに対して、 引用発明においては、当該原版用接着剤層を形成する工程を含むものではない点。 (イ) 一致点及び相違点 前記(ア)の対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。 a 一致点 「炭素含有率が40質量%以上である炭素系の材料を準備する工程と、 前記炭素系の材料をシート状に成膜してペリクル膜を製造する工程と、 前記ペリクル膜を、開口部を有する支持枠の前記開口部を覆うように接着剤層を介すことなく支持枠に接続する工程と、 を含むペリクルの製造方法」の発明である点。 b 相違点 本件補正発明においては、「前記支持枠の、前記ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、シリコーン系接着剤及びアクリル樹脂接着剤の少なくとも一方である接着剤を付与して原版用接着剤層を形成する工程」を含むのに対して、 引用発明においては、当該原版用接着剤層を形成する工程を含むものではない点。 オ 相違点についての判断 前記相違点について検討する。 (ア) 「ペリクル膜及びペリクル枠を有するペリクルを接着剤等により原版に固定してペリクルを用いること」は、技術常識であって(前記「技術常識A」)常套手段にすぎない。したがって、引用発明において、ペリクル枠(B)の、ペリクル膜(A)が設けられていない側の端部に接着剤層を設ける工程を含むようにすること、すなわち、相違点に係る本件補正発明でいう「前記支持枠の、前記ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、」「接着剤を付与して原版用接着剤層を形成する工程」を含むよう構成することは、当業者には自明のことである。 (イ)a この工程を実施するに当たっては、原版用接着剤層の具体的接着剤を決定する必要があるから、次に引用発明において当業者が原版用接着剤層としてどのような接着剤を用いようとするかについて検討する。 b まず、「炭素系材料のペリクル膜及びペリクル枠を有するペリクルにおいて、ペリクル枠のペリクル膜が設けられていない側の端部に設ける原版用接着剤層として、両面粘着テープ、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、無機系接着剤等が挙げられ、とりわけシリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤が挙げられること」は技術常識である(前記「技術常識B」)。 c シリコーン系粘着剤及びアクリル系粘着剤は、原版用接着剤として最も代表的なものであって、ごく一般的なものにすぎないから、これを選択することは、当業者にはごく自然な選択であって、このような選択に進歩性は認められない。 d(a) そして、引用発明は、「アウトガスの発生を抑制してペリクル複合体を得る」ことを目的とするものであり、さらに、「露光中に発生するアウトガス成分が露光装置内の反射ミラーやマスクの表面に吸着してこれらの反射率が低下することやアウトガス成分が装置内壁面に吸着して汚染が生じることを防ぐことの観点、及び、EUV露光時の真空度を保持する観点から、原版用接着剤層は、アウトガスが少ないものが好ましいこと」は技術常識であり(前記「技術常識C」)、さらにまた、「露光中に発生する低減すべきアウトガスには、水系アウトガスが含まれること」も技術常識である(前記「技術常識D」)。 (b) そうすると、「アウトガスの発生を抑制してペリクル複合体を得る」ことを目的とする引用発明において、接着剤として公知の原版用接着剤(両面粘着テープ、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、無機系接着剤)の中から、水系を含むアウトガスが少ないものを選択して好適化することは、当業者には自明の設計指針にすぎない。 (c) したがって、原版用接着剤に用いる接着剤として、アウトガス、とりわけ水系アウトガスが少ないものを選択して好適化し、シリコーン系粘着剤又はアクリル系粘着剤を選択することは、当業者が容易に想到し得たことである。 (ウ) 以上のとおりであるから、引用発明において、ペリクル枠の、前記ペリクル膜が接続される側とは反対側の開口部における面に対して、シリコーン系粘着剤又はアクリル系粘着剤を原版用接着剤層として形成することとして、相違点に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 カ 進歩性の評価についてのまとめ 前記オにおいて検討したとおり、引用発明において、相違点に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。 なお、原版用接着剤を設けることは常套手段であり、シリコーン系粘着剤及びアクリル系粘着剤は、原版用接着剤として最も代表的なものであって、ごく一般的なものにすぎないものであり、原版用接着剤としてアウトガス、とりわけ水系アウトガスが少ないものを選択することも当業者には自明の設計指針であるから、仮に原版用接着剤としてシリコーン系粘着剤又はアクリル系粘着剤を用いることにより「炭素系のペリクル膜の劣化を抑制できる」というメリットを新たに発見したとしても、そもそも進歩性を認める余地はない。 しかも、本件補正発明が奏する「ペリクル膜の劣化を抑制できる」との効果について検討すると、「EUVリソグラフィ用の炭素系ペリクル膜は、水素ラジカル(H*)、水酸基ラジカル(HO*)や酸素ラジカル(O*)などのフリーラジカルにより劣化すること」及び「アウトガス中の水分子がEUVを吸収し、ラジカル種となって露光装置内の部材を劣化させる要因となること」はそれぞれ技術常識であるから(前記「技術常識E」及び「技術常識F」)、水系アウトガスを少なくすることによりペリクル膜の劣化を抑制できることは、当業者が推論できることであるから、本件補正発明の構成が奏する効果として当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果であるとは認められない。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 キ 請求人の主張について 以下、(ア)~(ウ)において請求人の主張について検討するが、請求人の主張はいずれも採用できない。 (ア) 請求人の主張その1 a 請求人は、引用発明は接着剤を用いないことを特徴とするものであり、接着剤を用いた場合には所望の効果が得られなくなるから、引用発明に原版用接着剤層を設けることには阻害要因がある旨を主張している。 b しかしながら、引用発明はペリクル膜(A)とペリクル枠(B)を接着剤を用いることなく接合することを目的とする発明であって、ペリクル枠(B)と原版との接合において接着剤を用いない技術事項を開示するものではないから、ペリクル枠(B)と原版との接合に接着剤を用いることを妨げるものではない。したがって、請求人の主張する阻害要因はないというべきである。 (イ) 請求人の主張その2 a 請求人は、引用文献4に記載された複数の接着剤の種類は、例示列挙であり、その例示列挙の中でもシリコーン系接着剤及びアクリル樹脂接着剤が原版用接着剤層に特に好ましいことは記載されておらず、実施例等での具体的態様も記載されていない旨、したがって、引用文献4の記載を基に、複数の接着剤の種類の例示列挙の中から、シリコーン系接着剤及びアクリル樹脂接着剤を原版用接着剤層のための接着剤として選択することは、選択の余地がある旨、さらに、引用発明に引用文献4の記載を適用する動機づけはない旨を主張している。 b しかしながら、前記オ(イ)dにおいて説示したとおり、引用発明は、「アウトガスの発生を抑制してペリクル複合体を得る」ことを目的とするものであり、さらに、「露光中にアウトガス成分が露光装置内の反射ミラーやマスクの表面に吸着してこれらの反射率が低下することやアウトガス成分が装置内壁面に吸着して汚染が生じることを防ぐことの観点、及び、EUV露光時の真空度を保持する観点から、原版用接着剤層は、アウトガスが少ないものが好ましいこと」は技術常識(前記「技術常識C」)であり、さらにまた、「露光中に発生する低減すべきアウトガスには、水系アウトガスが含まれること」も技術常識である(前記「技術常識D」)から、「アウトガスの発生を抑制してペリクル複合体を得る」ことを目的とする引用発明において、接着剤として公知の原版用接着剤(両面粘着テープ、シリコン樹脂粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、無機系接着剤等)の中から、水系を含むアウトガスが少ないものを選択して好適化することは、当業者には自明の設計指針にすぎない。したがって、引用発明に引用文献4の記載を適用する動機づけはない旨の請求人の主張は、採用できない。 c また、そもそも、引用文献11には原版用接着剤としてアクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤のみが例示されているように、これらの接着剤は原版用接着剤として最も代表的なものであって、ごく一般的なものにすぎないものであり、原版用接着剤としてアウトガス、とりわけ水系アウトガスが少ないものを選択することも当業者には自明の設計指針であるから、原版用接着剤としてアクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤を選択することは、ごく自然な選択であり、仮に原版用接着剤としてシリコーン系粘着剤又はアクリル系粘着剤を用いることにより「炭素系のペリクル膜の劣化を抑制できる」というメリットを新たに発見したとしても、原版用接着剤としてアクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤を選択したことには、そもそも進歩性は認められない。 (ウ) 請求人の主張その3 a 請求人は、引用発明において、ペリクル膜(A)とペリクル枠(B)の界面に存在する炭素・金属元素含有層(C)は、接着剤層であるとみなすこともでき、接着剤層を介すことなく支持枠に接続されている本件補正発明とは相違する旨を主張している。 b しかしながら、引用発明における炭素・金属元素含有層(C)は、「炭素膜中の炭素が前記金属元素に固溶した層若しくは前記金属元素が炭素に固溶した層又は前記金属元素の炭化物層」、すなわち、互いに接合される部材であるペリクル膜(A)とペリクル枠(B)を構成する元素の化合物の層であり、このような層は「接着剤層」とはいわないのが通常の理解である(このことは、引用発明が「接着剤を用いなくても炭素膜と枠部とを接合でき[る]」ものである」ことからも理解できる。)。 c また、以下に摘記する本願の明細書の【0074】をみても、接着剤に関して前記通常の理解とは異なる特段の定義はなされていないから、引用発明における炭素・金属元素含有層(C)は接着剤層であるとみなすこともできるとの請求人の主張は根拠のないものである。 「【0074】 (接着剤) 接着剤層に含有される接着剤としては、特に制限はない。 例えば、接着剤は、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、無機系接着剤、両面粘着テープ、又はポリオレフィン系接着剤、水添スチレン系接着剤等が挙げられる。 上記の中でも、接着剤は、塗布加工のしやすさや、硬化加工処理の容易さの観点から、シリコーン樹脂接着剤、アクリル樹脂接着剤、水添スチレン系接着剤及びエポキシ樹脂接着剤からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。 上記の中でも、接着剤は、水系アウトガスの放出量を低減する観点から、シリコーン系接着剤、アクリル樹脂接着剤及び水添スチレン系接着剤からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましい。 上記の中でも、接着剤は、炭化水素系のアウトガスの放出量を低減させ、装置内の汚染を抑制する観点から、アクリル樹脂接着剤であることがさらに好ましい。 本開示において、接着剤は、接着剤のみならず粘着剤も含む概念である。」 d 本件補正発明については、補正により、明細書の発明の詳細な説明に記載されているように「接着剤層を介すことなくファンデルワールス力により支持枠に接続する」という限定をできたものであるところ、請求人はこのような限定をせず、審判請求書において「本願発明では、ペリクル膜は、接着剤層を介すことなく、例えばファンデルワールス力により支持枠に接続されている。」と主張するものであり、請求人の主張は、客観的に見ると、意見書の主張だけで、「接着剤」という用語の通常の意味を変えて、「接着剤層を介すことなく支持枠に接続すること」の概念に「ファンデルワールス力により支持枠に接続すること」以外も含めることを図るものであり、しかもその外延が不明確となる主張であるから、特許請求の範囲の記載に基づく主張ではなく、採用することはできない。 ク 独立特許要件(進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明は、同法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって、本件補正により特許請求の範囲についてする補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものである。 3 本件補正の却下の決定の理由のむすび 前記2(2)において検討したとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正で特許請求の範囲についてする補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものである。 したがって、本件補正は、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。 よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記1(1)の本件補正前の請求項10に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由2(進歩性)の概要は、次のとおりである。 理由2(進歩性) 本願発明は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献等に記載された発明に基いて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 <引用文献等一覧> 1.国際公開第2020/008977号 4.国際公開第2018/008594号(周知技術を示す文献) 5.国際公開第2016/043301号(周知技術を示す文献) 6.国際公開第2016/043292号(周知技術を示す文献) 3 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定 各引用文献に記載された事項並びに引用発明及び技術常識の認定は、前記第2の2(2)イ及びウにおいて示したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、本件補正発明から「接着剤層を介すことなく」との限定を省いたものである。 そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、当該発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の2(2)において説示したとおり、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、同法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-014947

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