特許拒絶査定不服審判
2023-014550
半導体デバイスの製造方法
- 審判番号
- 2023-014550
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-102979
- 請求日
- 2023年08月29日
- 審決日
- 2025年02月13日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】信越化学工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人英明国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P18 .121-Z (G03F) / P18 .575-Z (G03F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-102979号「半導体デバイスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和3年9月24日出願公開、特開2021-144249号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年10月10日に出願した特願2017-197004号の一部を令和3年6月22日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和3年 7月20日 :手続補正書の提出
同年10月 1日 :上申書の提出
令和4年 3月30日付け:拒絶理由通知書
同年 7月29日 :意見書・手続補正書の提出
同年11月28日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和5年 2月 2日 :意見書・手続補正書(以下、この手続補正書
でされた補正を「第2次補正」という。)の
提出
同年 5月24日付け:第2次補正の却下の決定・拒絶査定
同年 8月29日 :審判請求書・手続補正書(以下、この手続補
正書でされた補正を「本件補正」という。)
の提出
令和6年 9月12日付け:当合議体による審尋
同年11月18日 :回答書の提出
第2 令和5年8月29日にされた手続補正(本件補正)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年8月29日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についての補正を含むものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及びそれに対応する本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ次の(1)及び(2)に示すとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
(1)本件補正前
「【請求項1】
ペリクル付フォトマスクを用いて露光する工程を有する半導体デバイスまたは液晶ディスプレイの製造方法において、上記ペリクルは、幅が3~4mmであり、チタン又はチタン合金を材料とするペリクルフレームと、シリコン膜又は炭素膜であるペリクル膜とを構成要素として含み、上記露光はEUV露光であることを特徴とする半導体デバイスまたは液晶ディスプレイの製造方法。」
(2)本件補正後
「【請求項1】
ペリクル付フォトマスクを用いて露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法において、上記ペリクルは、幅が3~4mmであり、チタン又はチタン合金を材料とするペリクルフレームと、シリコン膜又は炭素膜であるペリクル膜とを構成要素として含み、上記ペリクルフレームの上端面及び下端面において、その縁部より離間した縁部近傍でペリクルフレームの辺長方向に延在する通気孔の開口部を有さず、上記ペリクルフレームの角部分は開口部を有さず、上記フォトマスクの材料は石英ガラスであり、上記露光はEUV露光であることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。」
2 本件補正の適否についての当合議体の判断
(1)本件補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1において、(i)「半導体デバイスまたは液晶ディスプレイの製造方法」を「半導体デバイスの製造方法」に限定し、(ii)「ペリクルフレーム」の形状について「幅が3~4mmであ」ることに加えて「上記ペリクルフレームの上端面及び下端面において、その縁部より離間した縁部近傍でペリクルフレームの辺長方向に延在する通気孔の開口部を有さず、上記ペリクルフレームの角部分は開口部を有さ」ないことを限定し、(iii)「フォトマスク」の材料について「石英ガラスであ」ることを限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正のうち、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
(2)独立特許要件について
本件補正のうち、請求項1についてする補正の目的は前記(1)のとおりであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりに特定されるものである。
イ 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
(ア)引用文献1について
a 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に発行された特開2016-200616号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当合議体が付したものである。以下同じ。)。
(a)特許請求の範囲の記載
「【請求項2】
線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属からなることを特徴とするペリクル用フレーム。」
「【請求項9】
ペリクル用フレームとして、請求項1~8のいずれか1項に記載のペリクル用フレームを用いたことを特徴とするペリクル。」
「【請求項11】
EUVリソグラフィー用である請求項9に記載のペリクル。」
(b)発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、超LSIなどの半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除けとして使用されるリソグラフィー用ペリクルに関し、さらに詳細には、極めて短波長の光を用いてリソグラフィーを行い、微細なパターンを形成するのに適した低線膨張係数のペリクル用フレーム及びそれを用いたペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSI等の半導体デバイスや液晶ディスプレイ等を製造する際、半導体ウェハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、このときに用いるフォトマスク或いはレチクル(以下、これらを単に「フォトマスク」と記述する。)にゴミが付着していると、パターンのエッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、得られる製品の寸法、品質、外観等が損なわれるという問題があった。
【0003】
このため、パターンの作製作業は通常クリーンルーム内で行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことは難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミ除けとしてペリクルを貼り付けた後に露光が行われている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル膜上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル膜上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
一般に、ペリクルは光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素樹脂等からなる透明なペリクル膜をアルミニウム、ステンレス、ポリエチレン等からなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布した後、風乾して接着するか(特許文献1参照)、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等の接着剤で接着している(特許文献2,3参照)。さらに、ペリクルフレームの下端には、フォトマスクに貼り付けるための、ポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着剤層、及び粘着剤層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が設けられている。
【0005】
そして、このようなペリクルをフォトマスクの表面に取り付けて、フォトマスクを介して半導体ウエハー或いは液晶用原版に形成されたフォトレジスト膜を露光する場合には、ゴミなどの異物は、ペリクルの表面に付着しフォトマスクの表面には直接付着しないため、フォトマスクに形成されたパターン上に焦点が位置するように露光用の光を照射すれば、ゴミなどの異物の影響を回避することが可能になる。」
「【0012】
一方、フォトマスクの材質については、通常、石英ガラスが使用されることが多く、また、ペリクル膜にはi線用、KrF用、ArF用であれば、ニトロセルロース、酢酸セルロース或いはフッ素樹脂など、EUV用としては、シリコンなど、光源に応じた透明膜が使用される。」
「【0017】
本発明者は、EUV露光技術を使用して、フォトレジスト膜に10nm以下の微細パターンを形成する場合において、ペリクル膜にシワが入ったり、ペリクル用フレームからペリクル膜が剥がれたり、破れたり、割れたり、また、フォトマスク上のパターンを歪ませてしまうという事態に対して、前述したように弾性接着剤で対処するのではなく、ペリクル用フレームにより対処するという新たな課題に取り組み、かかる課題を解決するために鋭意検討を行った結果、EUV露光技術を使用して、フォトレジスト膜に10nm以下の微細なパターンを形成する場合には、その露光時の光エネルギーにより温度上昇が認められるため、従来のように剛性と加工性のみを考慮してペリクル用フレームの材質を選択することは適切でないこと、そしてさらには、物理的特性の1つである線膨張係数に着目して、ペリクル用フレームを構成する材料の線膨張係数を特定の範囲に設定したところ、露光時の光エネルギーによる温度上昇によって生じうるペリクル用フレームの伸縮、歪みを小さく抑えることができ、その結果、上記課題を見事に解決できることを見い出して、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明のペリクル用フレームは、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の材質からなることを特徴とするペリクル用フレームである。
【0019】
また、本発明のペリクル用フレームは、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属からなることを特徴とするペリクル用フレームである。
【0020】
また、本発明のペリクル用フレームは、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下のガラスからなることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明のペリクル用フレームは、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下のセラミックスからなることを特徴とするものである。
【0022】
さらに、本発明のペリクルは、ペリクル用フレームとして、本発明のペリクル用フレームを用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フォトレジスト膜に微細パターンを形成する場合、特にEUV露光技術を使用して、フォトレジスト膜に10nm以下の微細パターンを形成する場合において、露光による光エネルギーによってペリクル用フレームの温度が上昇しても、ペリクル用フレームの伸縮、歪みを小さく抑えることができるため、ペリクル膜にシワが入ったり、ペリクル用フレームからペリクル膜が剥がれたり、破れたり、割れたり、また、フォトマスク上のパターンを歪ませてしまう事態を有効に防止することができる。」
「【0026】
図1は、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の材質からなるペリクル用フレーム3を用いて構成された本発明のペリクル10の一実施形態を示す縦断面図である。このペリクル10では、ペリクル10を貼り付けるフォトマスク5の形状に対応した通常四角枠状(長方形枠状又は正方形枠状)のペリクル用フレーム3の上端面に膜接着剤2を介してペリクル膜1が張設されている。この場合、ペリクル10をフォトマスク5に粘着させるためのマスク粘着剤4がペリクル用フレーム3の下端面に形成され、該マスク粘着剤4の下端面にライナー(図示せず)が剥離可能に貼着される。また、ペリクル用フレーム3に気圧調整用穴(通気口)6が設置されていて、さらにパーティクル除去の目的で除塵用フィルター7が設けられている。
【0027】
ペリクル膜の種類については特に制限はなく、例えば、従来エキシマレーザー用に使用されている、非晶質フッ素ポリマー等が用いられる。非晶質フッ素ポリマーの例としては、サイトップ[旭硝子株式会社製:商品名]、テフロン(登録商標)AF[デュポン株式会社製:商品名]等が挙げられる。これらのポリマーは、そのペリクル膜作製時に必要に応じて溶媒に溶解して使用してもよく、例えば、フッ素系溶媒などで適宜溶解することができる。
【0028】
一方、EUV露光用の場合には、ペリクル膜には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンなど、EUV光に対する透過性の高い材料を用いることが好ましい。さらには、前記ペリクル膜を保護する目的で、SiC、SiO2、Si3N4、SiON、Y2O3、YN、Mo、Ru及びRhなどの保護膜を備えてもよい。
【0029】
本発明のペリクル用フレームは、EUV露光による温度上昇の結果生じるペリクル用フレームの伸縮、歪みを小さくするため、該ペリクル用フレームが使用される温度域において、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の材質からなるものである。
【0030】
前記ペリクル用フレームの材質は、その線膨張係数が10×10-6(1/K)以下である限りにおいて特に限定はされず、金属、ガラス、セラミックス等が挙げられる。具体的には、例えば、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金、Fe-Ni-Co-Cr合金、Fe-Co-Cr合金等の金属、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、結晶化ガラス等のガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等のセラミックスが例示される。これらは1種又は2種以上からなるものでもよい。
【0031】
前記材質のうち、特には、インバー(Fe-Ni36)、スーパーインバー(Fe-Ni32-Co5)、ステンレスインバー(Fe-Ni52-Co11-Cr)、コバール(Fe-Ni29-Co17)等の金属、及び石英ガラス(SiO2)、ホウケイ酸ガラス(Na2O-B2O3-SiO2)、ソーダ石灰ガラス(Na2O-CaO-SiO2)等のガラス、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al2O3)等のセラミックスが、本願発明の効果、剛性、加工性等を総合的に勘案すると好ましく、特にインバー、スーパーインバー、石英ガラス、酸化アルミニウムがより好ましい。
【0032】
各種材料の線膨張係数(1/K)の参考値を以下に記す。
インバー:1×10-6
スーパーインバー:0.1×10-6
ステンレスインバー:0.1×10-6
コバール:5×10-6
石英ガラス:0.5×10-6
ホウケイ酸ガラス:5×10-6
ソーダ石灰ガラス:8×10-6
炭化ケイ素:4×10-6
窒化ケイ素:3×10-6
窒化ホウ素:1×10-6
窒化アルミニウム:5×10-6
酸化アルミニウム:6×10-6
アルミニウム:24×10-6
SUS304:17×10-6」
(c)図1
[図:0001421889000001.jpg]
b 引用文献1の記載に基づいて当業者が把握できる事項
(a)引用文献1には、請求項9の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項11に記載されたペリクル(以下「引用文献1ペリクル」という。)が記載されているところ、引用文献1ペリクルは、フォトマスクの表面に取り付けられた上で露光されて半導体デバイスを製造することに用いられることが、【0002】・【0003】・【0005】等の記載からも、また、技術常識からも明らかである。
そうすると、当業者は、引用文献1に基づいて、引用文献1ペリクル、つまり、請求項9の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項11に記載されたペリクルを、フォトマスクの表面に取り付けた上で露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法が記載されていることを把握できるといえる。
(b)引用文献1ペリクルは、EUVリソグラフィー用であるから、当業者であれば、【0012】の記載に照らして、前記(a)の製造方法において、「フォトマスク」の材質については石英ガラスが使用され、またペリクル膜についてはシリコンの透明膜が使用される態様を把握できるといえる。
そして、当業者は、ペリクル膜について、【0026】の記載に照らして、ペリクル用フレームの上端面に膜接着剤を介して張設されている態様を把握できるといえる。
(c)EUVリソグラフィー用のペリクルにおいて、内外の圧力差を緩和するために、ペリクルフレームに通気孔を設けることが技術常識であると認められる(必要があれば、引用文献1の【0026】の記載のほか、特開2002-40629号公報(後記引用文献3)の【0007】・【0008】の記載を参照。)ことから、当業者であれば、引用文献1ペリクルにも、ペリクル用フレームに通気孔が設けられていることを当然に把握できるといえる。
そして、図1からは、ペリクル用フレームの側面を貫通するように通気孔が設けられていることが理解できる。
c 引用発明の認定
前記a及びbによれば、引用文献1には、請求項9の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項11に記載されたペリクルをフォトマスクの表面に取り付けた上で露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ペリクルをフォトマスクの表面に取り付けた上で露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法において、(前記b(a))
前記ペリクルは、EUVリソグラフィー用であり、(請求項11)
ペリクル用フレームとして、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属からなるペリクル用フレームを用いたものである、(請求項9・請求項2)
ペリクルであって、
前記フォトマスクの材質については石英ガラスが使用され、
ペリクル膜についてはシリコンの透明膜が使用され、(前記b(b))
前記ペリクル膜は、ペリクル用フレームの上端面に膜接着剤を介して張設されており、
前記ペリクル用フレームに通気孔が設けられている、(前記b(c))
半導体デバイスの製造方法。」
(イ)引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に発行された特開2002-40629号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
a(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、LSI、超LSIなどの半導体素子あるいは液晶表示装置などの製造に用いられ、とりわけ実質的に波長220nm以下の光を用いる露光法に好適なペリクルのペリクル板とペリクルフレームとの接着方法に関する。
【0002】
【従来の技術】LSIや超LSIなどの半導体素子あるいは液晶表示装置の製造においては、パターニングの際に露光原版のパターン形成面にゴミが付着するのを防止するために、ペリクルを露光原版上に載置して露光作業を行うのが一般的である。また、これらの素子や装置の製造に用いられる露光光は、微細化の要求に対して波長は益々短くなってきており、今日ではF2レーザーなど波長220nm以下の露光光を使用する技術が考案されている。
【0003】図7に示すように、ペリクル1は、露光光を透過する材料からなるペリクル膜2をペリクルフレーム3に接着して構成されるのが一般的であるが、従来ではこのペリクル膜2として、厚さ1μm以下の合成樹脂製の薄膜が使用されている。しかし、従来のペリクル膜2では、上記したような短波長の光が照射されると合成樹脂が容易に分解して実用に耐えられないため、上記したような短波長の露光光を用いる露光系では、合成石英ガラスを薄い平板に加工したペリクル板を使用することが検討されている。尚、この合成石英ガラスは、例えば珪素源と酸素源とを気相で反応させてスートと呼ばれる酸化珪素からなる多孔質を成長させ、焼結して得られる実質的に酸化珪素のみからなるガラスである。」
(b)「【0013】また、ペリクルフレームは、上記の合成石英ガラスよりも熱膨張係数の大きな材料から形成されたものであれば、特に制限されるものではない。即ち、合成石英ガラスの線膨張係数は、室温(20℃)で約5.7×10-7(℃-1)であり、この値よりも大きな熱膨張係数を有する材料を所定形状に加工したペリクルフレームを用いる。具体的な材料として、従来よりペリクルフレームとして広く使用されているアルミニウム、チタン、シリコン、ニッケル合金(例えば、登録商標「インバール」;Ni36%、Fe64%)を始めとする各種金属の他、例えばSiO2(46%)/MgO(17%)/Al2O3(16%)を主成分とするセラミックス(例えば、コーニング・インコーポレーテッド製「マコール」;線膨張係数90×10-7(℃-1)(20~300℃での平均値))、SiO2(65%)/CaO(25%)/Al2O3(10%)からなるセラミックス(例えば、旭硝子(株)製「ローテックPタイプ」;同58×10-7(℃-1)などを好適に使用することができる。」
(c)引用文献2には、「とりわけ実質的に波長220nm以下の光を用いる露光法に好適なペリクル」に関する技術的事項が開示されている(【0001】)ところ、「波長220nm以下の光」として具体的に想定されている「F2レーザー」(【0002】)はエキシマレーザーであるから、引用文献2に記載された技術的事項は、エキシマレーザーを用いるペリクルに妥当するものであると認められる。
b 前記aによれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「エキシマレーザーを用いるペリクルにおいて(上記a(c))、従来よりペリクルフレームの材料としてチタンが広く使用されていること。(【0013】)」
(ウ)引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に発行された特開2016-191902号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
a(a)「【0001】
本発明は、半導体デバイス、ICパッケージ、プリント基板、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイ等を製造する際のゴミよけとして使用されるペリクルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIのデザインルールはサブクオーターミクロンへと微細化が進んでおり、それに伴って、露光光源の短波長化が進んでいる。すなわち、露光光源は水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)などに移行しており、さらには主波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet)光を使用するEUV露光が検討されている。・・・
【0005】
このペリクルの基本的な構成は、ペリクルフレームの上端面に露光に使われる光に対し透過率が高いペリクル膜が張設されるとともに、下端面に気密用ガスケットが形成されているものである。気密用ガスケットは一般的に粘着剤層が用いられる。ペリクル膜は、露光に用いる光(水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)等)を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素系ポリマーなどからなるが、EUV露光用では、ペリクル膜として極薄シリコンが検討されている。」
(b)「【0007】
このペリクル閉空間は、密閉空間になるために外部の圧力が変化すると、ペリクル内外の圧力差によってペリクル膜に圧力がかかり、フッ素ポリマー等の樹脂膜の場合は、ペリクル膜の膨らみ、凹みが発生することになる。また、EUV露光においては、露光環境が真空のために露光装置へのマスクの出入り時に真空引きが行われるため、極薄シリコン膜の場合は、少しの圧力差による応力によってシリコン膜が破壊する可能性が高くなる。
【0008】
そこで、このような密閉空間の内外の圧力差を緩和するために、ペリクルフレームには内外をつなぐ通気孔を設けることが一般的であり、この通気孔を通して空気が通るようになっている。例えば、特許文献1には、ペリクルフレームの側部に気圧調整用の通気孔を設けると共に、このペリクルフレームの外側面にこの通気孔を覆ってパーティクルの侵入を防止するフィルタを設けたペリクルが記載されている。
【0009】
このように、従来のペリクルでは、気圧調整用の通気孔やこの通気孔からパーティクルの侵入を防止するためのフィルタが備えられている。そして、このペリクルの通気孔の開口部は、ペリクルフレームのペリクル膜接着面または粘着剤層設置面に対して垂直な二面に設けられているとともに、フィルタは、ペリクルフレーム外側面の開口部を塞ぐように設置されている。また、空気がフィルタを通る際には、通気速度(通気量)が小さくなるため、特にEUV露光のときのように真空引きを行う場合やペリクル閉空間の内外の僅かな圧力差が問題になるような場合は、少なくともフィルタが設置される側の通気孔開口部の面積を大きくして、フィルタの有効面積を十分に大きくする必要がある。・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、近年では、ペリクルの高さを低くする傾向があり、それに応じてペリクルフレームの外側面の高さも低くなるために、通気孔開口部や更にはフィルタの有効面積を小さくせざるを得ないという問題が生じている。特に、EUV用ペリクルは、その高さを非常に低くすることが要求されているため、従来のようなペリク「ルフレームの外側面にフィルタを設置する方法では、フィルタの有効面積も非常に小さくせざるを得ないという問題が生じている。・・・
【0013】
一方、EUV用ペリクルでは、大気圧下でマスクに装着され、露光装置内では真空下で使用されるために、EUV用ペリクルを露光装置に入れる際にはペリクル閉空間内の空気を排出する必要がある。そして、このときに、フィルタの有効面積が十分に大きくないと、ペリクル閉空間の内外に圧力差が発生して、ペリクル膜が破壊する等の問題が生じる恐れがある。したがって、EUV用ペリクルには十分に大きな通気孔開口部を設けたうえでフィルタを設置する必要があるが、前述したように、EUV用ペリクルの高さが非常に低く制限されているために、従来のようなペリクルフレームの外側面にフィルタを設置する方法では、必要な大きさの通気孔開口部を設けてそこにフィルタを設置することが困難な状況となっている。
【0014】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、その目的は、ペリクルの高さが低く制限されていても、必要な大きさの通気孔開口部および有効面積の大きなフィルタを設けることが可能であり、ペリクル閉空間の内外の圧力差を十分に緩和することが可能なペリクルを提供することである。」
(c)「【0039】
本発明のペリクルフレーム21の母材としては、ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される限り特に制限はなく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金(JIS 5000系,6000系,7000系等)、鉄、鉄系合金、セラミックス(SiC,AlN,Al2O3等)、セラミックス金属複合材料(Al-SiC,Al-AlN,Al-Al2O3等)、炭素鋼、工具鋼、ステンレス鋼、エンジニアリングプラスチック(PE,PA,PEEK等)、炭素繊維複合材料(GFRP,CFRP等)等が挙げられる。中でもアルミニウム及びアルミニウム合金が強度、剛性、軽量、コストの面から好ましい。」
(d)「【0042】
なお、EUV用ペリクルの場合、ペリクルフレームとしてエキシマレーザー用ペリクルと同様の材料を使用することができる。また、ペリクル膜としては多孔部を有する支持部材と、この多孔部により支持された単結晶シリコンのペリクル膜が使用可能である。単結晶シリコンのペリクル膜をペリクルフレームに張設する際には、シリコーン樹脂接着剤を使用することができるが、特に発ガスを抑制したシリコーン樹脂が好適である。一方、ペリクルを露光原版に装着するための粘着層にもシリコーン系粘着剤が使用可能であり、この場合でも発ガスを抑制したシリコーン樹脂が好適である。」
b 前記aによれば、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「ペリクルフレームの母材としては、ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される限り特に制限はなく、(【0039】)
EUV用ペリクルの場合、ペリクルフレームとしてエキシマレーザー用ペリクルと同様の材料を使用することができる(【0042】)」という技術的事項。
(エ)引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に発行された特開2017-78728号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
a(a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除けとして使用されるペリクル、特には、EUV(Extreme Ultra-Violet)光を用いてリソグラフィーを行う際に用いるEUV用ペリクルに関するものである。」
(b)「【0041】
[実施例1]
はじめに、外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmであり、上端面及び下端面の各々の外内両辺縁部がR加工され、これら両端面側の各々の平坦面が、幅4.0mm、コーナー部の内寸R2.0mm、外寸R6.0mmである長方形のアルミニウム合金製ペリクルフレームを機械加工により製作し、表面に黒色アルマイト処理を施した。」
b 【0041】に記載された「アルミニウム合金製ペリクルフレーム」は、以下のとおり、その幅が、平坦面の幅4.0mmに、外内両辺縁部のR加工に対応する幅(この大きさは4.0mmに比べて相当程度小さいものである。)を加えたものであるといえる。
「アルミニウム合金製ペリクルフレーム」の幅(これは、ペリクルフレームという機械加工後の完成品の幅を意味することから、以下「完成品幅」という。)は、まず、当該段落の「上端面及び下端面の各々の外内両辺縁部がR加工され、これら両端面側の各々の平坦面が、幅4.0mm、コーナー部の内寸R2.0mm、外寸R6.0mmである長方形のアルミニウム合金製ペリクルフレーム」の記載からは、「平坦面」の「幅4.0mm」と「外内両辺縁部」の「R加工」に対応する幅の長さとの和であることが理解される。
完成品幅に関しては、上記の記載のほかに、当該段落の「外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmであり、」という記載もあるところ、当該記載は、その文言に照らせば、ひとまずは、完成品である「アルミニウム合金製ペリクルフレーム」に日本語として係っており、そのため、完成品の寸法を意味していると解される。しかしながら、このように解すると、長辺の幅が9mmであり短辺の幅が7mmとなってしまい、ペリクルフレームの幅は4辺とも同じ幅であるという本願出願前の技術常識に整合しないことから、当業者は、そのような理解は不自然であると認識するといえる。しかも、このように解した場合、「外内両辺縁部」に設けられた「R加工」の幅が、例えば長辺では(9mm-4mm)÷2=2.5mmにもなって、「平坦部」の「幅4.0mm」と比べて相当程度大きくなるのであり、このことは、「R加工」が一般に加工品の角を丸くする加工であることに照らせば、やはり、不自然と言わざるを得ない。そうすると、当業者は、上記の「外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmであり、」という記載における寸法は、完成品の寸法ではなく、むしろ、機械加工前の材料の寸法であり、そのため、当該記載には誤記、つまり、「外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmである材料を準備し、」といった誤記があると理解するといえる。
以上によれば、上記したとおり、【0041】に記載された「アルミニウム合金製ペリクルフレーム」は、以下のとおり、その幅が、平坦面の幅4.0mmに、外内両辺縁部のR加工に対応する幅(この大きさは4.0mmに比べて相当程度小さいものである。)を加えたものであると解するのが相当である。
c 前記a及びbによれば、引用文献4には、次の事項(以下「引用文献4技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「EUV用のペリクルにおいて、平坦面の幅4.0mmに、外内両辺縁部のR加工に対応する幅(この大きさは4.0mmに比べて相当程度小さいものである。)を加えたサイズのアルミニウム合金製ペリクルフレームを用いること。」
ウ 本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)本件補正発明の「ペリクル付フォトマスクを用いて露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法において、」及び「半導体デバイスの製造方法。」との特定事項について
引用発明は「ペリクルをフォトマスクの表面に取り付けた上で露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法」であるところ、当該「ペリクル」、「フォトマスク」及び「半導体デバイスの製造方法」は、それぞれ、本件補正発明の「ペリクル」、「フォトマスク」及び「半導体デバイスの製造方法」に相当する。
引用発明は、「ペリクルをフォトマスクの表面に取り付け」ているから、本件補正発明でいう「ペリクル付フォトマスクを用いて」いることになる。
したがって、引用発明は本件補正発明の前記特定事項を満たしている。
(イ)本件補正発明の「上記ペリクルは、幅が3~4mmであり、チタン又はチタン合金を材料とするペリクルフレームと、シリコン膜又は炭素膜であるペリクル膜とを構成要素として含み、上記ペリクルフレームの上端面及び下端面において、その縁部より離間した縁部近傍でペリクルフレームの辺長方向に延在する通気孔の開口部を有さず、上記ペリクルフレームの角部分は開口部を有さず、」との特定事項について
引用発明の「ペリクル用フレーム」、「ペリクル膜」、「通気孔」及び「シリコンの透明膜」は、それぞれ、本件補正発明の「ペリクルフレーム」、「ペリクル膜」、「通気孔」及び「シリコン膜」に相当する。
そして、本件補正発明と引用発明は、「上記ペリクルは、」「ペリクルフレームと、シリコン膜又は炭素膜であるペリクル膜とを構成要素として含」む点で共通する。他方、「ペリクルフレーム」の材料が、本件補正発明は「幅が3~4mmであり、チタン又はチタン合金を材料とする」ものであるのに対して、引用発明は「線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属からなる」ものであり、「ペリクルフレーム」の形状が、本件補正発明は、「上記ペリクルフレームの上端面及び下端面において、その縁部より離間した縁部近傍でペリクルフレームの辺長方向に延在する通気孔の開口部を有さず、上記ペリクルフレームの角部分は開口部を有さ」ないのに対して、引用発明は、「前記ペリクル用フレームに通気孔が設けられている」ものである。
(ウ)本件補正発明の「上記フォトマスクの材料は石英ガラスであり、」との特定事項について
引用発明は、「前記フォトマスクの材質については石英ガラスが使用され」るものであるから、本件補正発明でいう「上記フォトマスクの材料は石英ガラスであ」るものといえる。
したがって、引用発明は本件補正発明の前記特定事項を満たしている。
(エ)本件補正発明の「上記露光はEUV露光である」との特定事項について
引用発明は「ペリクルをフォトマスクの表面に取り付けた上で露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法」に係るものであるところ、「前記ペリクルは、EUVリソグラフィー用であ」るから、引用発明が本件補正発明でいう「上記露光はEUV露光である」ものといえることは、明らかである。
したがって、引用発明は本件補正発明の前記特定事項を満たしている。
エ 一致点及び相違点について
前記ウによれば、本件補正発明と引用発明は、以下の点で一致し、以下の各点で相違する。
【一致点】
「ペリクル付フォトマスクを用いて露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法において、
上記ペリクルは、ペリクルフレームと、シリコン膜又は炭素膜であるペリクル膜とを構成要素として含み、
上記フォトマスクの材料は石英ガラスであり、
上記露光はEUV露光である
半導体デバイスの製造方法。」
【相違点1】
「ペリクルフレーム」の形状について、本件補正発明は「幅が3~4mmであ」り、その「上端面及び下端面において、その縁部より離間した縁部近傍でペリクルフレームの辺長方向に延在する通気孔の開口部を有さず」、その「角部分は開口部を有さ」ないのに対して、引用発明は「前記ペリクル用フレームに通気孔が設けられている」点。
【相違点2】
「ペリクルフレーム」の材料について、本件補正発明は「チタン又はチタン合金を材料とする」のに対して、引用発明は「線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属からなる」点。
オ 判断
(ア)相違点2について
事案に鑑み、相違点2より判断する。
引用発明が備える「ペリクル用フレーム」は、「EUVリソグラフィー用」のペリクルに用いるものであるとともに、「線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属からなる」ものである。そして、引用文献1の【0030】には、このような「線膨張係数」を満たす「金属」として、「Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金、Fe-Ni-Co-Cr合金、Fe-Co-Cr合金等の金属」が例示されているところ、これらはあくまで例示であるから、当業者は、「線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属」という条件を満たす範囲において、その他の金属も適宜選択することができる。その際、引用文献3技術的事項のとおり、「ペリクルフレームの母材としては、ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される限り特に制限はな」いこと、さらに、「EUV用ペリクルの場合、ペリクルフレームとしてエキシマレーザー用ペリクルと同様の材料を使用することができる」ことが知られているから、当業者であれば、上記の条件を満たす金属として、「ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される」ものや「エキシマレーザー用ペリクルと同様の材料」を適宜選択できるといえる。
しかるに、チタンないしチタン合金がペリクルフレームとして使用されることは公知であり、これがエキシマレーザー用のペリクルフレームとして使用されることも公知である(引用文献2技術的事項を参照。)し、これらは、周知の技術的事項でもある(引用文献2技術的事項のほか、チタンないしチタン合金が、ペリクルフレームとして使用されることについては、例えば、特開2009-25559号公報(以下「周知文献1」という。)の【0001】・【0005】・【0015】~【0017】、特開2010-107986号公報(以下「周知文献2」という。)の【請求項1】・【請求項7】・【0006】、特開2012-212043号公報(以下「周知文献3」という。)の【0001】・【0028】、国際公開第2013/141325号(以下「周知文献4」という。)の[0001]・[0047]、国際公開第2017/030109号(以下「周知文献5」という。)の[0001]・[0008]・[0020]を参照。さらに、これらが、エキシマレーザー用のペリクルフレームとして使用されることについては、例えば、周知文献1の【0005】、周知文献2の【0006】、周知文献5の[0008]を参照。)。
そして、チタンは、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属であるし、また、チタンを使用する際にこれをチタン合金として使用することはごく一般的であるところ、チタン合金について、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下のものが、通常に存在すると認められる。
さらに、ペリクルフレームを軽量とすることは、周知の技術的課題である(例えば、特開2009-3111号公報(以下「周知文献6」という。)の【0001】・【0021】、特開2006-284927号公報(以下「周知文献7」という。)の【0001】・【0005】を参照。)といえるところ、チタン又はチタン合金は、ペリクルフレームとして用いられる金属としては比較的軽量なものであるといえる。
そうすると、引用発明の「EUVリソグラフィー用」のペリクルに用いる「ペリクル用フレーム」を構成する「線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属」として、チタン又はチタン合金を選択することは、当業者が適宜なし得たことであるというべきである。
(イ)相違点1について
a 引用発明から出発した当業者が相違点1に係る本件補正発明の構成に至るためには、(i)引用発明の「ペリクル用フレーム」の幅を「3~4mm」にした上で、(ii)当該「ペリクル用フレーム」に設けられた「通気孔」を、当該「ペリクルフレーム」の「上端面及び下端面において、その縁部より離間した縁部近傍でペリクルフレームの辺長方向に延在する」「通気孔の開口部」を有さないようにするとともに、当該「ペリクルフレーム」の「角部分」に存在する「開口部」を有さないようにすれば足りる。
b そこで、まず(ii)についてみると、引用発明は、「前記ペリクル用フレームに通気孔が設けられている」ものであるところ、引用発明の技術的意義は、EUV露光技術を使用する場合において、露光による光エネルギーによってペリクル用フレームの温度が上昇しても、ペリクル用フレームの伸縮、歪みを小さく抑える(【0023】)ために、ペリクル用フレームとして線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属を用いること(【0019】)にあることから、ペリクル用フレームに設けられた「通気孔」の位置が特に限定されないことは明らかである。そして、引用発明を開示する引用文献1には、図1が記載されており、前記イ(ア)b(c)で認定したとおり、当該図1では、ペリクル用フレームの側面を貫通するように通気孔が設けられていると解される。また、引用文献1には、ペリクル用フレームの角部分に開口部を設けることは記載されていないし、この部分に開口部を設けることが技術常識であって当然ともいえない。
そうすると、引用発明から出発した当業者が、その「ペリクル用フレーム」の「通気孔」を、上記のとおり、ペリクル用フレームの側面を貫通するように設けるとともに、当該「ペリクル用フレーム」の角部分に開口部を設けないようにすることは、適宜なし得たことである。
c 次に(i)についてみると、引用発明は、「前記ペリクル膜は、ペリクル用フレームの上端面に膜接着剤を介して張設されて」いるものであることから、ペリクル用フレームの幅がこの張設の可否に影響するのが明らかであり、しかも大きすぎると無駄であるのも明らかである。そうすると当業者であれば、当該幅として、ペリクル膜を膜接着剤を介して張設するのに必要十分な幅を選択することが当然である。そして、相違点1に係る本件補正発明の幅の値である「3~4mm」という値は、引用文献4技術的事項のように、EUV用のペリクルフレームにおいて、平坦面の幅4.0mmに、外内両辺縁部のR加工に対応する幅(この大きさは4.0mmに比べて相当程度小さいものである。)を加えたサイズのものが公知であることにも照らせば、当業者が選択できないものとは言えない。
そうすると、引用発明から出発した当業者が、その「ペリクル用フレーム」の幅を「3~4mm」とすることは、当業者が適宜設計し得た事項にすぎないというべきである。
d 以上のとおり、引用発明から出発した当業者は、相違点1に係る本件補正発明の構成に容易に至る。
カ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の奏する効果は、(i)露光による光エネルギーによってペリクルフレームの温度が上昇しても、ペリクルフレームの伸縮、歪みを小さく抑えることができ、ペリクル膜にシワや破損を発生させないこと、(ii)加工性に優れるため歩留りの向上が見込め、通気部の面積を大きくとることもでき、更には、ペリクル剥離時などに破損する危険性も少ないこと、(iii)軽量であるため最新のEUV露光技術に適用可能であることにある(本件補正後の明細書及び図面(以下「本件補正明細書等」という。)の【0025】)が、以下のとおり、本件補正発明の構成が奏するものとして、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項、引用文献2技術的事項~引用文献4技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が予測し得ない顕著なものとはいえない。
すなわち、(i)の効果は、引用発明も奏する効果にすぎない。(ii)の効果は、ペリクルフレームの材料として非金属ではなく金属を用いた効果と解される(同【0016】・【0067】・【0068】)ところ、引用発明も「金属」を用いていることから、結局、引用発明も奏する効果にすぎない。(iii)の効果は、チタン又はチタン又はチタン合金がペリクルフレームとして用いられる金属としては比較的軽量なものであることは、その密度に照らせば、当業者が予測し得たものといえる。
(3)請求人の主張
ア 請求人は、引用発明から出発した当業者がその「ペリクル用フレーム」としてチタンを選択することはない旨主張し、その根拠として、引用発明は、「フォトマスク」として「石英ガラス」が使用されているところ、このときに「ペリクル用フレーム」の材料としてチタンを用いると、チタンと石英ガラスは熱膨張係数が異なることから、当業者は、フォトマスクに機械的なたわみが生じるおそれがあると理解することを挙げる。
しかしながら、引用発明は、前記オ(イ)で説示したとおり、EUV露光技術を使用する場合において、露光による光エネルギーによってペリクル用フレームの温度が上昇しても、ペリクル用フレームの伸縮、歪みを小さく抑えるために、ペリクル用フレームとして線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属を用いることに技術的意義を有することから、石英ガラスが「フォトマスク」であることに合わせて何らかの課題が生じるかはさておくとしても、それをもって、引用発明から出発した当業者が、「ペリクル用フレーム」の材料としてチタンを採用することが妨げられるとはいえない。
さらに、請求人は、引用文献2技術的事項にはペリクルフレームの材料としてチタンが広く使用されていることが記載されているとしても、エキシマレーザーを用いるペリクルに係るものであり、それよりも光エネルギーが大きなEUV露光を前提とする引用発明に対して、当業者が引用文献2技術的事項を適用するはずがない旨も主張するが、請求人がチタンを適用しないとする根拠がチタンの熱膨張係数の値にとどまる以上、上記の説示と同様の議論が成り立つ。
イ 請求人は、引用文献4技術的事項の認定の根拠となる引用文献4の【0041】には、本件補正発明でいう「幅が3~4mm」であるペリクルフレームは開示されていない旨主張し、その根拠として、要するに、(i)当該段落の「はじめに、外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmであり、上端面及び下端面の各々の外内両辺縁部がR加工され、これら両端面側の各々の平坦面が、幅4.0mm、コーナー部の内寸R2.0mm、外寸R6.0mmである長方形のアルミニウム合金製ペリクルフレームを機械加工により製作し、表面に黒色アルマイト処理を施した。」の記載における「外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mm」の記載は、完成したペリクルフレームの寸法を意味しており、そこから、ペリクルフレームの幅は、(外寸-内寸)÷2によって、長辺が「9mm」であり、短辺が「7mm」であることが分かること、(ii)上記記載における「幅4.0mm」の記載は、両端面側の「平坦面」の幅を意味しており、上記(i)の長辺の「9mm」及び短辺の「7mm」との差は「外内両辺縁部」に設けられた「R加工」の幅を意味すること、を挙げるようである。
しかしながら、前記(2)イ(エ)bで説示したとおり、請求人が主張するように解することは不自然と言わざるを得ない。
また、仮に請求人が主張するとおりであるとしても、前記(2)オ(イ)で説示したとおり、当業者であれば、引用発明の「ペリクル用フレーム」の幅として、ペリクル膜を膜接着剤を介して張設するのに必要十分な幅を選択することが当然であるのであり、その結果として、本件補正発明でいう「幅が3~4mm」の値に至ることに格別の困難はない。
ウ 請求人は、本件補正発明のように、ペリクルフレームの幅を3~4mmとすることにより、貼り付けの位置ずれに対する裕度を広くすることができるとか、ペリクル膜が枠状のシリコン基板を有することにより重量が増し露光時にペリクルフレームからペリクル膜が脱落する可能性が高まるが、ペリクル膜を接着する面積を増やすことができるので前記脱落を抑制できる効果がある旨主張する。
しかしながら、そのような効果は、本件補正明細書等には記載されていないし、その点をさておくとしても、引用発明は、「前記ペリクル膜は、ペリクル用フレームの上端面に膜接着剤を介して張設されて」いるものであり、ペリクル用フレームの幅が「ペリクル膜」の接着性に影響することは当業者にとって明らかであることから、当該効果は、引用発明に基づいて当業者が予測し得たものにすぎない。
(4)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項、引用文献2技術的事項~引用文献4技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年7月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[補正の却下の決定の理由]1(1)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項については、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「上記ペリクルフレームの上端面及び下端面において、その縁部より離間した縁部近傍でペリクルフレームの辺長方向に延在する通気孔の開口部を有さず、上記ペリクルフレームの角部分は開口部を有さず、」及び「上記フォトマスクの材料は石英ガラスであり、」との限定事項を削除するとともに、「半導体デバイスの製造方法」を「半導体デバイスまたは液晶ディスプレイの製造方法」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおり、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項、引用文献2技術的事項~引用文献4技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項、引用文献2技術的事項~引用文献4技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-014550