特許拒絶査定不服審判
2024-012325
ギヤ機構、ロボット用アーム機構、及びロボット
- 審判番号
- 2024-012325
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2024-501979外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年07月26日
- 審決日
- 2026年03月04日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (F16H) / P18 .537-WZ (F16H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2024-501979「ギヤ機構、ロボット用アーム機構、及びロボット」拒絶査定不服審判事件〔令和 6年 1月 4日国際公開、WO2024/004389〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続きの経緯
本願は、2023年(令和5年)5月10日(優先権主張 令和4年6月29日 令和5年1月24日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下の通りである。
令和6年 1月12日 :手続補正書の提出
令和6年 2月 1日付け:拒絶理由通知書
令和6年 4月 5日 :意見書の提出
令和6年 5月 2日付け:拒絶査定
令和6年 7月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和7年 6月 4日付け:拒絶理由通知書
令和7年 8月 7日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~10にそれぞれ記載された事項により特定される、次のとおりである。
「 【請求項1】
ロボット本体に接続される第1アームとロボット用アーム機構の先端で稼働する部分を含む第2アームとの間に位置する関節部に用いられるギヤ機構であって、
熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂を含有する複数の樹脂製のギヤであって、第1ギヤ、第2ギヤ、及び第3ギヤを含む複数の前記ギヤを備え、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとが互いに噛み合って連動し、
前記第2ギヤと前記第3ギヤとが互いに噛み合って連動し、
複数の前記ギヤの各々において、
23℃における吸水率が0.01%~0.2%の範囲内にあり、
モジュールが0.5~25の範囲内にあり、
ピッチ円直径が1.5mm~3200mmの範囲内にあり、
複数の前記ギヤのうちの前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間のバックラッシュ変動係数は、大気中かつ23℃の環境から水中かつ150℃の環境に変化したときに0.03以下の範囲内にあり、前記第2ギヤと前記第3ギヤとの間のバックラッシュ変動係数は、大気中かつ23℃の環境から水中かつ150℃の環境に変化したときに0.03以下の範囲内にあり、
前記バックラッシュ変動係数は、前記ギヤの膨張係数と温度変化量Δt℃とを用いて膨張係数×Δt℃=膨張寸法変化量により前記ギヤの膨張変動係数を算出し、前記ギヤの吸水率を用いて吸水率=吸水寸法変化量により前記ギヤの吸水変動係数を算出し、算出された前記膨張変動係数と前記吸水変動係数とを足し合わせることで最大変動係数=円周方向の最大バックラッシュ変動係数として算出される、
ギヤ機構。
【請求項2】
請求項1に記載のギヤ機構であって、
複数の前記ギヤの各々において、20℃~30℃における測定温度範囲での流動方向に平行の線熱膨張係数が0.5×10-5/℃~6.0×10-5/℃の範囲内にある、
ギヤ機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のギヤ機構であって、
複数の前記ギヤの少なくとも1つは、繊維状充填剤を含む、
ギヤ機構。
【請求項4】
請求項3に記載のギヤ機構であって、
複数の前記ギヤの少なくとも1つは、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、炭素繊維又はガラス繊維を0~90質量部含有する、
ギヤ機構。
【請求項5】
請求項3に記載のギヤ機構であって、
複数の前記ギヤの少なくとも1つは、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、アラミド繊維を0~20質量部含有する、
ギヤ機構。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のギヤ機構であって、
複数の前記ギヤの少なくとも1つは、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、ポリテトラフルオロエチレンを0~30質量部含有する、
ギヤ機構。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のギヤ機構であって、
複数の前記ギヤの少なくとも1つは、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、無機フィラー分として炭酸カルシウムを0~35質量部含有する、
ギヤ機構。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のギヤ機構であって、
複数の前記ギヤの少なくとも1つは、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、熱可塑性エラストマーを0~10質量部含有する、
ギヤ機構。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のギヤ機構を備えるロボット用アーム機構。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のギヤ機構を備えるロボット。」
第3 拒絶の理由
令和7年6月4日付けで、当審合議体が通知した拒絶の理由のうちの理由1及び理由3は、以下の通りである。
1 理由1
この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)当業者に周知の定義が存在するとは認められない「バックラッシュ変動係数」について、発明の詳細な説明に記載されている定義が、特許請求の範囲に反映されておらず、請求項1~11に係る発明の範囲にまで拡張ないし一般化することはできない。
(2)発明の詳細な説明には熱可塑性樹脂についてPPS樹脂以外の熱可塑性樹脂を含む場合については記載されていないが、請求項1~11に係る発明はPPS樹脂以外の熱可塑性樹脂を含み得るため、課題解決との関係において請求項1~11に係る発明の範囲にまで拡張ないし一般化することはできない。
2 理由3
この出願の請求項1~11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明(引用文献1に記載されている物質の物性値を確認する引用例として引用例2~4)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開平3-50267号公報
2.「物性カタログ ジュラファイド PPS 6165A4」、[online]、令和3年6月21日、[令和7年5月13日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20210621064207/https://www.polyplastics.com/Gidb/GradeListSelectGradeAction.do?id=2405>
3.「物性カタログ ジュラファイド PPS 6165A6」、[online]、令和3年6月21日、[令和7年5月13日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20210621062003/https://www.polyplastics.com/Gidb/GradeListSelectGradeAction.do?id=2406>
4.「物性カタログ ジュラファイド PPS 6165A7」、[online]、令和3年6月21日、[令和7年5月13日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20210621080017/https://www.polyplastics.com/Gidb/GradeListSelectGradeAction.do?id=2408>
第4 当審合議体の判断
1 理由1について
(1)本願の発明が解決しようとする課題について
本願の発明の詳細な説明によれば、本願の発明が解決しようとする課題(以下「課題」という。)は、「従来、POM(Polyacetal)及びPA(Polyamide)などの汎用性の高い樹脂材料を用いて形成された樹脂製のギヤに関連する技術が知られている。例えば、特許文献1には、歯車の回転伝達誤差による振動及びバックラッシュによる振動を、組立性を損なうことなく低減する低振動歯車及び低振動歯車を用いた複写機、撮像装置が開示されている」(【0002】)が「このような樹脂製のギヤに用いられる樹脂材料に対して、金属を代替できる程度の材料特性が要求される。材料特性は、例えば熱安定性、吸水性、機械的強度、及び寸法安定性などを含む。しかしながら、従来の樹脂材料では、ギヤへの用途に対して十分な材料特性が得られていなかった。結果として、樹脂成形品であるギヤを含むギヤ機構について、バックラッシュなどの評価パラメータが十分に良好に得られていなかった」(【0004】)ため、「本開示は、樹脂製のギヤを用いる場合であってもバックラッシュを安定化可能であるギヤ機構、ロボット用アーム機構、及びロボットを提供することを目的とする」(【0005】)ことである。
(2)上記課題を解決する手段について
本願の発明の詳細な説明には、課題を解決する手段に関し、次の記載がある。なお、下線は当審合議体が付した。以下同様。
ア 「複数のギヤのうちの一のギヤと他のギヤとの間のバックラッシュ変動係数は、大気中かつ23℃の環境から水中かつ150℃の環境に変化したときに0.3以下の範囲内にある。バックラッシュ変動係数は、大気中かつ23℃の環境から水中かつ150℃の環境に変化したときに、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、さらに好ましくは0.03以下の範囲内にある。本開示において、「バックラッシュ変動係数」は、一例として円周方向バックラッシュjtについての変化量に影響する係数を意味する。」(【0064】)
イ 「このようなバックラッシュ変動係数は以下の方法で算出される。ギヤの膨張係数と、温度変化量Δt℃と、を用いて、膨張係数×Δt℃=膨張寸法変化量によりギヤの膨張変動係数を算出する。加えて、ギヤの吸水率を用いて、吸水率=吸水寸法変化量によりギヤの吸水変動係数を算出する。算出された膨張変動係数と吸水変動係数とを足し合わせることで最大変動係数=円周方向の最大バックラッシュ変動係数を算出する。当該円周方向の最大バックラッシュ変動係数が上記のバックラッシュ変動係数に相当する。」(【0065】)
ウ 「(効果)
以上のような一実施形態に係るギヤ機構10によれば、樹脂製のギヤを用いる場合であってもバックラッシュを安定化可能である。ギヤ機構10は、熱可塑性樹脂を含有し、所定の材料特性及び製品特性を有する複数のギヤを用いて、バックラッシュ変動係数を、大気中かつ23℃の環境から水中かつ150℃の環境に変化したときに0.3以下の範囲内とする。このように、ギヤ機構10は、バックラッシュ変動係数を低減させて評価パラメータとして向上させることが可能である。」(【0088】)
エ 「熱可塑性樹脂がPAS樹脂を含むことで、バックラッシュがさらに安定化する。例えば、PPS樹脂などのPAS樹脂は、耐熱性及び耐薬品性などに優れ、自動車部品、電気電子部品、及び給湯器部品などに幅広く利用されている。このようなPAS樹脂は、熱安定性、吸水率、寸法安定性、及び機械的強度にも優れるので、ギヤ機構10におけるバックラッシュ量を安定にする。例えば、大気中から水中への変化、及び低温から高温への変化の少なくとも一方を含むような大きな環境変化に伴うバックラッシュ変動係数が抑制される。これにより、ロボット用アーム機構1おいて、後述する最大位置ずれ誤差量が低減し位置精度が向上する。加えて、ギヤ機構10における振動・騒音が抑制される。」(【0089】)
オ 「本開示は、一例としてPAS樹脂に対し吸水率及び線熱膨張係数を制御し、バックラッシュの安定化を図るという点で従来技術と比較した有利な効果を奏する。例えば、従来技術では、線熱膨張係数及び吸水率の制限がなく、水中及び高温の少なくとも一方におけるバックラッシュ変動係数は大きくなる。このような場合、環境変化が起きる前の初期の状態でバックラッシュ量を当該変動係数に対して十分に大きくする必要がある。その結果、ギヤの歯厚が減少し、ギヤの耐久性が劣化したり、振動・騒音が増大したりする可能性があった。本開示では、バックラッシュの安定化を図ることでこれらの問題点が解決される。」(【0090】)
カ 「実施例1では、PPS樹脂100質量部に対し、炭素繊維を30質量部含有するギヤについて試験を行った。このとき、材料特性として、線熱膨張係数は2.5×10-5/℃であり、吸水率は0.01%であった。評価パラメータとして、バックラッシュ変動係数は0.01であり、バックラッシュ安定性は◎であり、最大位置ずれ誤差量は0.5mmであり、振動・騒音性は◎であった。」(【0104】)
キ 「実施例2では、PPS樹脂100質量部に対し、炭素繊維を0質量部含有する、すなわちPPS樹脂以外の成分を含有しないギヤについて試験を行った。このとき、材料特性として、線熱膨張係数は4.5×10-5/℃であり、吸水率は0.02%であった。評価パラメータとして、バックラッシュ変動係数は0.03であり、バックラッシュ安定性は〇であり、最大位置ずれ誤差量は1mmであり、振動・騒音性は〇であった。」(【0105】)
ク 「比較例1では、POM樹脂100質量部に対し、炭素繊維を0質量部含有する、すなわちPOM樹脂以外の成分を含有しないギヤについて試験を行った。このとき、材料特性として、線熱膨張係数は1.1×10-4/℃であり、吸水率は0.6%であった。評価パラメータとして、バックラッシュ変動係数は0.61であり、バックラッシュ安定性は△であり、最大位置ずれ誤差量は25.3mmであり、振動・騒音性は△であった。」(【0106】)
ケ 「比較例2では、PA樹脂100質量部に対し、炭素繊維を0質量部含有する、すなわちPA樹脂以外の成分を含有しないギヤについて試験を行った。このとき、材料特性として、線熱膨張係数は1.05×10-4/℃であり、吸水率は2.6%であった。評価パラメータとして、バックラッシュ変動係数は2.61であり、バックラッシュ安定性は×であり、最大位置ずれ誤差量は107.8mmであり、振動・騒音性は×であった。」(【0107】)
(3)検討
請求項1の「熱可塑性樹脂としてポニフェニレンスルフィド樹脂を含有する」との記載は、熱可塑性樹脂はポニフェニレンスルフィド(PPS)樹脂以外の成分を含有しないものに限らず、上記1(1)で例示される「POM(Polyacetal)及びPA(Polyamide)などの汎用性の高い樹脂材料」等のポニフェニレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂を併用したものも含むものである。
他方で、上記(2)ア~ケによれば、発明の詳細な説明には、熱可塑性樹脂についてPPS樹脂以外の熱可塑性樹脂を含む場合について、バックラッシュ変動係数を0.03以下にしたことは記載されておらず、このことに関する当業者の技術常識の存在も認められないから、上記(1)のとおりギヤへの用途に対して十分な材料特性が得られていなかったはずのPOM及びPAなどの汎用性の高い樹脂材料等のPPS樹脂以外の熱可塑性樹脂を併用しつつ課題を解決し得ることが裏付けられているとはいえない。
そうすると、課題解決との関係において、発明の詳細な説明に記載されたPPS樹脂以外の成分を含有しない実施例のみをもって、請求項1~10に係る発明の範囲にまで、拡張ないし一般化することはできない。
(4)令和7年8月7日提出の意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、令和7年8月7日提出の意見書の「4.(1)理由1について」において、「加えて、新請求項1において、「熱可塑性樹脂」をPPS樹脂に限定しています。したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であると思料します。」と主張するが、請求項1の「熱可塑性樹脂としてポニフェニレンスルフィド樹脂を含有する」との記載については、上記(3)で検討したとおりであるから、当該主張は、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものではなく、採用することはができない。
(5)理由1についてのまとめ
以上のとおり、本願請求項1~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものともいえない。
よって、本願の特許請求の範囲の請求項1~10は、特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たしていない。
2 理由3について
(1)引用文献1について
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「すなわち本発明は
(A)溶融粘度(温度310℃、剪断速度1200/秒)が1000~5000ポイズの実質上直鎖状のポリアリーレンサルファイド樹脂 100重量部
(B)無機充填剤 5~400重量部
からなる樹脂組成物を形成してなる歯車成形品である。」(2ページ左下欄1~7行)
(イ)「本発明の歯車に用いる組成物において(A) 成分としての基体樹脂はポリアリーレンサルファイド樹脂(以下、PASと略称)であり、繰り返し単位-(Ar-S-)- (ただしArはアリーレン基)で主として構成されたものである。」(2ページ左下欄17行~右下欄1行)
(ウ)「ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を用いた、ポリp-フェニレンサルファイド(以下、PPSと略称)が特に好ましく用いられる。」(3ページ左上欄13~16行)
(エ)「即ち本発明に於いて用いられるPAS(PPS)は上記の如き強度の架橋、分岐構造を形成することのない実質上、直鎖状のPAS(PPS)を主体とするものが好ましいが、一部の分岐又は架橋ポリマーの併用を妨げるものではない。」(3ページ左下欄11~16行)
(オ)「本発明の歯車とは、例えば平歯車、円筒歯車が代表的なものであるが、それ以外にも、カミアイピッチ円が力の伝達方向と同一平面上になく、もしくはピッチツルマキ線がピッチ円筒の軸方向に平行でない歯車類、すなわちハスバ歯車、ヤマバ歯車、スグバカサ歯車、マガリバカサ歯車、ゼロールカサ歯車、ネジ歯車、ハイポイド歯車、ウォーム歯車、条件ウォーム歯車等の歯車類一切を包含する。
これらの歯車等は、電子・電気機器分野、自動車分野、その他一般の機械、機器、雑貨等、各種分野に部品として利用が可能である。
特に使用環境の厳しい複写機等の電子・電気分野や、ウインドシールドワイパー、パワーウインドー、パッシブベルト、ルーフウインドー、バックミラー、カーアンテナ、シートスライド調整装置、リトラクタブルランプ等の駆動用として、自動車での使用に適している。」(5ページ左下欄4行~右下欄1行)
(カ)「[発明の効果]
前述の説明で明らかな様に、本発明の歯車は次の様な効果を有する。
(1) 従来の樹脂歯車に比較し、高温雰囲気下での歯元強度が高いため歯車機構を小型化することができる。そのため、機械設計上の自由度が増す。
(2) 歯車強度が高いため、高温、高負荷の用途に使用できる。例えば自動車分野のウインドシールドワイパー用歯車に応用すると、高負荷を要求されるトラック分野等にも適用できる。
(3) 耐湿性が高く寸法変化が極めて少ないため、高温多湿等の過酷な条件下で使用される歯車に適用できる。
(4) 樹脂歯車の持つ、軽量、易加工性、量産性、耐腐食性、耐摩擦摩耗性、低騒音性等の特徴を合わせもつ。
(5) 金属製歯車に比べ低価格である。」(7ページ左下欄1~19行)
イ 上記ア(ア)~(エ)から、歯車成形品は、溶融粘度(温度310℃、剪断速度1200/秒)が1000~5000ポイズの直鎮状のPAS(PPS)の100重量部、無機充填剤5~400重量部を含む樹脂組成物を成形してなるものであることがわかる。
ウ 「歯車」とは「車の周囲に歯を切り、そのかみ合わせによって一方の軸から他方の軸に動力を伝える装置。」(広辞苑第7版)を意味することをふまえれば、上記イの歯車成型品を使用した上記ア(オ)の「駆動用」としての利用は、複数の歯車で一方の軸から他方の軸に動力を伝える駆動用の装置としての利用であることが理解できる。
エ 以上を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「溶融粘度(温度310℃、剪断速度1200/秒)が1000~5000ポイズの直鎮状のPAS(PPS)の100重量部、無機充填剤5~400重量部を含む樹脂組成物を成形してなる歯車成形品を使用して、複数の歯車で一方の軸から他方の軸に動力を伝える駆動用の装置。」
(2)引用文献2について
ア 引用文献2の記載事項
[図:0001434712000001.jpg]
イ 上記アの「6165A4」は、直鎖状PPSである(参考:
[図:0001434712000002.jpg]
[online]、平成25年6月9日、[令和7年5月13日検索]、
インターネット<URL:
https://web.archive.org/web/20130609171300/http://www.polyplastics.com/Gidb/GradeListDownloadAction.do?brandSelected=4.2>)。
ウ 上記ア及びイから、直鎖状PPS100重量部に対し、GF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)を約186重量部配合したものは、溶融粘度(310℃、1000/sec)が400Pa・sであり、23℃における吸水率は0.01%、流動方向の線膨張係数は1×10-5/℃であることがわかる。
エ したがって、引用文献2には、次の技術事項(以下、「技術事項2」という。)が記載されていると認められる。
[技術事項2]
「直鎖状PPS100重量部に対し、GF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)を約186重量部配合し、溶融粘度(310℃、1000/sec)は400Pa・s、23℃における吸水率は0.01%、流動方向の線膨張係数は1×10-5/℃であるPPS。」
(3)引用文献3について
ア 引用文献3の記載事項
[図:0001434712000003.jpg]
イ 上記アの「6165A6」は、直鎖状PPSである(参考:
[図:0001434712000004.jpg]
[online]、平成25年6月9日、[令和7年5月13日検索]、
インターネット<URL:
https://web.archive.org/web/20130609171300/http://www.polyplastics.com/Gidb/GradeListDownloadAction.do?brandSelected=4.2>)。
ウ 上記ア及びイの記載から、直鎖状PPS100重量部に対し、GF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)を約186重量部配合したものは、溶融粘度(310℃、1000/sec)は345Pa・s、23℃における吸水率は0.01%、流動方向の線膨張係数は1×10-5/℃であることがわかる。
エ したがって、引用文献3には、次の技術事項(以下、「技術事項3」という。)が記載されていると認められる。
[技術事項3]
「直鎖状PPS100重量部に対し、GF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)を約186重量部配合し、溶融粘度(310℃、1000/sec)が345Pa・sであり、23℃における吸水率は0.01%、流動方向の線膨張係数は1×10-5/℃であるPPS。」
(4)引用文献4について
ア 引用文献4の記載事項
[図:0001434712000005.jpg]
イ 上記アの「6165A7」は、直鎖状PPSである(参考:
[図:0001434712000006.jpg]
[online]、平成25年6月9日、[令和7年5月13日検索]、
インターネット<URL:
https://web.archive.org/web/20130609171300/http://www.polyplastics.com/Gidb/GradeListDownloadAction.do?brandSelected=4.2>)。
ウ 上記ア及びイの記載から、直鎖状PPS100重量部に対し、GF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)を約150重量部配合したものは、溶融粘度(310℃、1000/sec)が270Pa・s、23℃における吸水率は0.01%、流動方向の線膨張係数は1×10-5/℃であることがわかる。
エ したがって、引用文献4には、次の技術事項(以下、「技術事項4」という。)が記載されていると認められる。
[技術事項4]
「直鎖状PPS100重量部に対し、GF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)を約150重量部配合し、溶融粘度(310℃、1000/sec)が270Pa・sであり、23℃における吸水率は0.01%、流動方向の線膨張係数は1×10-5/℃であるPPS。」
(5)請求項1について
ア 対比
本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)と引用発明を対比する。
引用発明の「直鎖状のPAS(PPS)」は、本件発明1の「ポリフェニレンスルフィド樹脂」に相当するから、引用発明の「溶融粘度(温度310℃、剪断速度1200/秒)が1000~5000ポイズの直鎮状のPAS(PPS)の100重量部、無機充填剤5~400重量部を含む樹脂組成物を成形してなる」ことは、本件発明1の「熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂を含有する」「樹脂製」に相当する。
引用発明の「歯車」は、本件発明1の「ギヤ」に相当する。
引用発明の「駆動用の装置」は、本件発明1の「ギヤ機構」に相当するから、引用発明の「複数の歯車で一方の軸から他方の軸に動力を伝える駆動用の装置」は、本件発明1の「ロボット本体に接続される第1アームとロボット用アーム機構の先端で稼働する部分を含む第2アームとの間に位置する関節部に用いられるギヤ機構であって、」「第1ギヤ、第2ギヤ、及び第3ギヤを含む複数の前記ギヤを備え、前記第1ギヤと前記第2ギヤとが互いに噛み合って連動し、前記第2ギヤと前記第3ギヤとが互いに噛み合って連動」するギヤ機構と、「複数のギヤを備えるギヤ機構」の限りで一致する。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
<一致点1>
「熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂を含有する複数の樹脂製ギヤを備えるギヤ機構。」
<相違点1>
「複数のギヤを備えるギヤ機構」に関し、本件発明1は「ロボット本体に接続される第1アームとロボット用アーム機構の先端で稼働する部分を含む第2アームとの間に位置する関節部に用いられるギヤ機構であって、」「第1ギヤ、第2ギヤ、及び第3ギヤを含む複数の前記ギヤを備え、前記第1ギヤと前記第2ギヤとが互いに噛み合って連動し、前記第2ギヤと前記第3ギヤとが互いに噛み合って連動」する機構であるのに対し、引用発明では、「複数の歯車で一方の軸から他方の軸に動力を伝える駆動用の装置」である点。
<相違点2>
「熱可塑性樹脂」の物性に関し、本件発明1は、「複数の前記ギヤの各々において、23℃における吸水率が0.01%~0.2%の範囲内にあり、」「複数の前記ギヤのうちの前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間のバックラッシュ変動係数は、大気中かつ23℃の環境から水中かつ150℃の環境に変化したときに0.03以下の範囲内にあり、前記第2ギヤと前記第3ギヤとの間のバックラッシュ変動係数は、大気中かつ23℃の環境から水中かつ150℃の環境に変化したときに0.03以下の範囲内にあり、前記バックラッシュ変動係数は、前記ギヤの膨張係数と温度変化量Δt℃とを用いて膨張係数×Δt℃=膨張寸法変化量により前記ギヤの膨張変動係数を算出し、前記ギヤの吸水率を用いて吸水率=吸水寸法変化量により前記ギヤの吸水変動係数を算出し、算出された前記膨張変動係数と前記吸水変動係数とを足し合わせることで最大変動係数=円周方向の最大バックラッシュ変動係数として算出される」のに対し、引用発明の「直鎖状のPAS(PPS)」の特性は、明らかではない点。
<相違点3>
「ギヤ」の諸元に関し、本件発明1では、「モジュールが0.5~25の範囲内にあり、ピッチ円直径が1.5mm~3200mmの範囲内」であるのに対し、引用発明の「歯車」のピッチは不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1について
まず始めに、相違点1に係る本件発明1の構成の「ロボット本体に接続される第1アームとロボット用アーム機構の先端で稼働する部分を含む第2アームとの間に位置する関節部に用いられる」という用途について検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、ギヤ機構の用途について周知のものが多数列挙されており(【0048】【0073】【0075】【0110】)、本件発明1の用途は、それら多数列挙されているうちの一実施形態として記載されている、「ロボット本体などに接続される第1アームA1と、ロボット用アーム機構1の先端で稼働する部分を含む第2アームA2と、を有する。ロボット用アーム機構1は、第1アームA1と第2アームA2との間に位置する関節部Jにギヤ機構10を有する」(【0075】)ものであって、「ギヤ機構10は、第1ギヤ11及び第2ギヤ12の2つのギヤを有する」もの(【0110】)にとどまる。
また、本件明細書において多数列挙されている用途のうち、作用効果に関する試験が行われたものは、「試験では、ギヤとして、モジュール1、ピッチ円直径31mmの平歯車を用いた」(【0100】)ものであり、本件発明1の「ロボット本体に接続される第1アームとロボット用アーム機構の先端で稼働する部分を含む第2アームとの間に位置する関節部に用いられるギヤ機構であって、」、「第1ギヤ、第2ギヤ、及び第3ギヤを含む複数の前記ギヤを備え、前記第1ギヤと前記第2ギヤとが互いに噛み合って連動し、前記第2ギヤと前記第3ギヤとが互いに噛み合って連動」したものに適用したものではない。
さらに、本件発明1の「ロボット本体に接続される第1アームとロボット用アーム機構の先端で稼働する部分を含む第2アームとの間に位置する関節部に用いられるギヤ機構であって、」、「第1ギヤ、第2ギヤ、及び第3ギヤを含む複数の前記ギヤを備え、前記第1ギヤと前記第2ギヤとが互いに噛み合って連動し、前記第2ギヤと前記第3ギヤとが互いに噛み合って連動」するものは周知であるところ、その第1~3ギヤの形状等の諸元は様々であることが本件出願時の当業者の技術常識である(例:特開2020-124776号公報、特開2015-140876公報)。
そうすると、本件発明1の上記「ロボット本体に接続される第1アームとロボット用アーム機構の先端で稼働する部分を含む第2アームとの間に位置する関節部に用いられる」という用途に係る特定は、明細書及び図面の記載並びに本件出願時の技術常識を考慮しても、その用途に特に適した「ギヤ機構」の構造や形状等の特徴を意味するものとは認められない。
これを前提として、以下、相違点1について検討する。
引用発明の「複数の歯車」は、「例えば平歯車、円筒歯車が代表的なものであるが、それ以外にも、カミアイピッチ円が力の伝達方向と同一平面上になく、もしくはピッチツルマキ線がピッチ円筒の軸方向に平行でない歯車類、すなわちハスバ歯車、ヤマバ歯車、スグバカサ歯車、マガリバカサ歯車、ゼロールカサ歯車、ネジ歯車、ハイポイド歯車、ウォーム歯車、条件ウォーム歯車等の歯車類一切を包含する」(上記(1)ア(オ))こと及び「電子・電気機器分野、自動車分野、その他一般の機械、機器、雑貨等、各種分野に部品として利用が可能である」(上記(1)ア(カ))ことが予定されているものである。
そして、相違点1に係る本件発明1の「第1ギヤ、第2ギヤ、及び第3ギヤを含む複数の前記ギヤを備え、前記第1ギヤと前記第2ギヤとが互いに噛み合って連動し、前記第2ギヤと前記第3ギヤとが互いに噛み合って連動」するものは、ギヤ機構として慣用されているものであるし、念のため、上記「ロボット本体に接続される第1アームとロボット用アーム機構の先端で稼働する部分を含む第2アームとの間に位置する関節部に用いられる」という用途に限ってみても、周知のものである(例:特開2020-124776号公報、特開2015-140876公報)。
そうすると、引用発明1のギヤ機構を上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、引用発明1を具体化するにあたり、当業者が設計上適宜になし得たことであり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
(イ)相違点2について
直鎖状のPPSに係る上記技術事項2~4によれば、これらの溶融粘度は、直鎖状PPS並びにGF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)からなるものの値であり、かつ、溶融粘度の条件における剪断速度が本件発明1よりも低いものではあるが、一般には、剪断速度が速いと溶融粘度の値は小さくなる一方、GF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)の配合量を増せば溶融粘度の値は大きくなるから、上記技術事項2~4の直鎖状PPSそのものの溶融粘度は、引用発明の範囲内にあるものと考えられる。
そして、上記技術事項2~4によれば、このような溶融粘度の直鎖状PPSに、GF(ガラス繊維)及びMD(鉱物粉末)、すなわち無機充填剤を添加すると、23℃における吸水率は0.01%、流動方向の線膨張係数は1×10-5/℃であるところ、本件発明1の「前記バックラッシュ変動係数は、前記ギヤの膨張係数と温度変化量Δt℃とを用いて膨張係数×Δt℃=膨張寸法変化量により前記ギヤの膨張変動係数を算出し、前記ギヤの吸水率を用いて吸水率=吸水寸法変化量により前記ギヤの吸水変動係数を算出し、算出された前記膨張変動係数と前記吸水変動係数とを足し合わせることで最大変動係数=円周方向の最大バックラッシュ変動係数として算出される」との特定事項に沿ってバックラッシュ変動係数について計算をすると、1×10-5×(150-23)+0.01=約0.01となる。
以上によれば、引用発明のような「溶融粘度(温度310℃、剪断速度1200/秒)が1000~5000ポイズの直鎮状のPAS(PPS)の100重量部、無機充填剤5~400重量部を含む樹脂組成物を成形してなる歯車成形品」であれば、バックラッシュ変動係数が約0.01であるものが予定されているといえる。
また、引用発明は、「さらに本発明の成分(A)として、その目的に支障のない範囲でPASの他に、他の熱可塑性樹脂を補助的に少量併用することも可能である。ここで用いられる他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な熱可塑性樹脂であればいずれのものでもよい。例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸とジオールあるいはオキシカルボン酸などからなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂などをあげることができる。またこれらの熱可塑性樹脂は2種以上混合して使用することもできる。」(3ページ右下欄9行~4ページ左上欄5行)であるところ、例えばポリエチレンテレフタレートの吸水率は約0.1%であり、ポリアミドは1%以上であるから、併用される熱可塑性樹脂の種類や量によりバックラッシュ変動係数は大きくなることが予想される。
そうすると、引用発明は、バックラッシュ変動係数は0.01のもののみならず、0.03以下のものも予定されているといえる。
そして、噛み合う歯車の物性をあえて変える必要も認められないから、複数の歯車の各々の物性を同様のものとすることは、当業者が設計上適宜になし得たことである。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
(ウ)相違点3について
歯車の諸元を特定する値として「モジュール」や「ピッチ円直径」は、周知のものである(例:特開2016-121768号公報【0089】、特開2002-122215号公報【0013】【0022】、特開平8-25500号公報【0063】~【0072】)。
そして、このような諸元における数値範囲の最適化又は好適化は、設計的事項にすぎず、また、本件明細書(【0057】【0100】)を参酌しても、モジュールの下限0.5及び上限25並びにピッチ円直径の下限1.5mm及び上限3200mmを境に、当業者が予測しえない異質な効果や引用発明が奏する効果と同質ではあるが当業者が予測し得ない顕著な効果を奏することが記載又は示唆されているわけではないから、相違点3に係る本件発明1の「モジュール」及び「ピッチ円直径」の数値範囲について臨界的意義があるとはいえない。
したがって、引用発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が設計上適宜になし得たことであり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
(エ)本件発明1が奏する効果について
本件発明1が奏する効果は、「バックラッシュを安定化可能である」(【0017】)というものであるところ、本件明細書の「熱可塑性樹脂がPAS樹脂を含むことで、バックラッシュがさらに安定化する。例えば、PPS樹脂などのPAS樹脂は、耐熱性及び耐薬品性などに優れ、自動車部品、電気電子部品、及び給湯器部品などに幅広く利用されている。このようなPAS樹脂は、熱安定性、吸水率、寸法安定性、及び機械的強度にも優れるので、ギヤ機構10におけるバックラッシュ量を安定にする。例えば、大気中から水中への変化、及び低温から高温への変化の少なくとも一方を含むような大きな環境変化に伴うバックラッシュ変動係数が抑制される。」(【0089】)との記載によれば、前記効果は、PPS樹脂が本来的に備える熱安定性、吸水率、寸法安定性及び機械的強度に優れるという性状によるものであるから、同じようにPPS樹脂を用いた引用発明も当然奏する効果であり、かつ、引用発明は「耐湿性が高く寸法変化が極めて少ないため、高温多湿等の過酷な条件下で使用される歯車に適用できる。」(上記(1)ア(カ))という効果に着目したものでもある。
そうすると、上記相違点1~3を総合してみても、本件発明1が奏する効果は、当業者が予測し得た範囲内のものである。
(6)令和7年8月7日提出の意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、令和7年8月7日提出の意見書「(3)理由3について」において、「本願発明は、複数組のギヤ間の各々で、樹脂製のギヤを用いる場合であってもバックラッシュを安定化可能である(明細書の段落[0088]などご参照。)という引例と比較した有利な効果を奏します。」及び「例えば、引用文献1に記載の発明が解決しようとする課題は、高温雰囲気下での歯元強度が不十分であり、より過酷な条件(高温・高負荷)でも使用可能な樹脂製歯車を提供することにあり、ロボット用アーム機構に必要とされる位置精度の向上とは無関係です。」と主張するが、上記(5)イ(エ)のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
(7)理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1~10は、特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たしておらず、また、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用発明に記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-012325