特許拒絶査定不服審判
2021-001751
患者に光治療を施すための装置
- 審判番号
- 2021-001751
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-026670外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年02月08日
- 審決日
- 2025年10月07日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フォトファーミクス・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】山本 修
- 【請求人代理人】宮前 徹
- 【請求人代理人】小野 達己
- 分類
- P18 .121-WZ (A61N) / P18 .537-WZ (A61N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 26670号「患者に光治療を施すための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月30日出願公開、特開2018-134406号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年) 5月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年5月31日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願2014-513713号の一部を平成30年2月19日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成30年11月19日付け 拒絶理由通知書
令和 元年 5月24日提出 意見書及び手続補正書
同年10月25日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 2月10日提出 意見書及び手続補正書
同年 4月14日付け 拒絶理由通知書
同年 8月27日提出 意見書及び手続補正書
同年 9月29日付け 拒絶査定
令和 3年 2月 8日提出 審判請求書及び手続補正書
同年11月 1日付け 拒絶理由通知書
令和 4年 5月 2日提出 意見書及び手続補正書
同年 9月 7日付け 拒絶理由通知書
令和 5年 3月 8日提出 意見書及び手続補正書
同年 6月29日付け 拒絶理由通知書
令和 6年 1月 4日提出 意見書及び手続補正書
同年 5月 1日付け 拒絶理由通知書
同年11月 5日提出 意見書及び手続補正書
令和 7年 2月26日付け 拒絶理由通知書
同年 8月27日付け 意見書及び手続補正書
第2 本願発明
本願の請求項1~10に係る発明は、令和 7年 8月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「患者に光治療を施すための装置において、
460nm~570nmの範囲中の波長にてピークを発するための少なくとも1つのLED光源であって、前記少なくとも1つのLED光源から放出された光の前記460nm~570nmの範囲中の全体的な放射照度が5.1μW/cm2を超えており、570nmを超えて750nm以下の範囲中にピークを発しない、少なくとも1つのLED光源を含む、装置。」
第3 当審拒絶理由通知における拒絶の理由
1 当審において令和 7年 2月26日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由は、概略、次の理由を含むものである。
(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
本願の発明の詳細な説明によれば、光の様々な波長のレベルは、そのレベルが、標準の屋内照明中に存在する光の同じ波長の同じレベルを超えるとき、「環境より高い」とみなし、「環境より高い」レベルは、約500ルクスより高いレベルであると理解できる。
一方、本願の発明の詳細な説明には、青色~緑色(波長範囲460nm~570nm)の範囲内のいずれかの場所に中心を置く環境より高い強度ピークを含む光の投与は、ドーパミン、セロトニンの活性化し、メラトニンの生成を抑制して、運動関連の神経疾患を患っている患者のためになるはずであると考えられると記載されている。
上記の「青色~緑色(波長範囲460nm~570nm)の範囲中」の「強度ピーク」が「環境より高いレベル」であることは、青色~緑色(波長範囲460nm~570nm)の放射照度が、約500ルクスの標準屋内照明スペクトルの青色~緑色(波長範囲460nm~570nm)の放射照度である58.4μW/cm2を超えることであると理解できるところ、請求項1の「5.1μW/cm2を超える」は、環境と同程度の範囲を含んでいる。
以上のとおり、請求項1-10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
2 令和 7年 2月26日付け拒絶理由通知書で留保した令和 6年 5月 1日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由は、概略、次の理由を含む。
本願発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記引用文献1に記載された発明及び周知の技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特表2010-531810号公報
2.米国特許出願公開第2010/0217358号明細書
3.特表2010-526645号公報
第4 当審の判断
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)本願明細書の記載事項
本願の発明の詳細な説明(以下「本願明細書」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付与した)。
「【0002】
本発明は、一般に、光を放出する装置に関する。詳細には、本発明は、運動関連の神経疾患を診断するように、および/またはそれに対して治療効果を有するように調整された光を放出する装置に関する。本発明の光治療装置は、患者の眼に光を導くように構成することができる。」
「【0006】
運動関連の神経疾患またはそれらの症状を治療する波長の実施例は、必ずしもこれらに限定されないが光の青色~緑色の波長および光の緑色波長を含み、それらは、また、簡単化のために、それぞれ本明細書で「青色~緑色の光」および「緑色光」と称する。」
「【0008】
発光装置は、可視光(たとえば、青色~緑色の光および/または緑色光、濃い赤色光および/または近赤外放射など)を、1つまたは複数の運動関連の神経疾患またはそれらの症状を治療するレベル(たとえば、強度、光子密度、放射照度など)で放出するように構成することができる。様々な実施形態では、光の1つまたは複数の治癒する力がある波長は、標準的な屋内環境の照明下でそのような波長の対応する、本明細書では「環境レベル」と称するレベルを超えるレベルで、投与することができる。いくつかの実施形態では、光の1つまたは複数の治癒する力がある波長は、標準的な屋内照明下で光のこれらの波長の平均レベルを超えるレベルで投与することができる。これらの平均レベルは、本明細書では「平均環境レベル」と称する。」
「【0016】
様々な実施形態では、発光装置10の光源30は、1つまたは複数の運動関連の神経疾患に対処するように調整された光の1つまたは複数の波長を、環境より高いレベルまたは強度、光子密度または放射照度で放出するように構成される。いくつかの実施形態では、光源30によって放出される光は、運動関連の神経疾患の1つまたは複数の第1期の症状に対処するように調整することができる。また、光源30によって放出される光は、運動関連の神経疾患の1つまたは複数の第2期の症状(たとえば、不安、鬱病、不眠症、過眠症など)に対処するように調整することができる。さらに、光源30によって放出される光は、運動関連の神経疾患の1つまたは複数の第1期の、または第2期の症状を悪化させることができる光の波長を除外する、または少なくとも環境より低い量で含むように調整することができる。」
「【0017】
参考として、光の様々な波長のレベルは、本開示のために、そのレベルが、標準の屋内照明中に存在する光の同じ波長の同じレベルを超えるとき、「環境より高い」と見なす。逆に、本開示のために、光の様々な波長のレベルは、そのレベルが、標準の屋内照明中に存在する光の同じ波長の同じレベルより低いとき、「環境より低い」と見なす。標準の屋内照明は、一般に、いわゆる「白色光」であり、より正確には、強度が50ルクス~500ルクスである「多色光」として言及される。用語「環境(ambient)」は、光の1つまたは複数の波長のレベルの文脈で使用するとき、1つの環境強度(たとえば、50ルクス、500ルクスおよび50ルクス~500ルクスの間の強度など)で特定のタイプの多色光中に存在する光の様々な波長のレベル、2つ以上の環境強度で1つまたは複数のタイプの多色光中に存在する光の様々な波長の平均レベル、あるいは1つまたは複数の源からの多色光の環境強度の範囲の上側端部と下側端部とにおける1つまたは複数の波長の上側および下側レベルを指すことができる。」
「【0021】
約500ルクスでは、標準屋内照明の全体的な放射照度は、3.69×1014photons/cm2/sであり、標準屋内照明の全体的な放射照度は、133.5μW/cm2である。約500ルクスでは、標準屋内照明のスペクトルの青色~緑色の部分は、1.53×1014photons/cm2/sの光子密度および58.4μW/cm2の放射照度を有する。これらの値、さらにまた約500ルクスの強度を有する標準屋内照明中の青色~緑色のより狭い波長範囲の光子密度および放射照度は、次に表中に含まれる。
【0022】
【表2】
[図:0001432288000001.jpg]
」
「【0027】
平均の観点から「環境」を定義することに対する代替として、「環境」光は、強度、光子密度および/または放射照度、またはエネルギーの所定の範囲内の多色光を、そのような範囲内の多色光の様々な帯域幅内の所定のレベルの光とともに、含むことができる。光の様々な波長のレベルは、そのレベルが、所定の環境範囲中の光の同じ波長の同じレベルを超えるとき、「環境より高い」と見なすことができる。逆に、光の様々な波長のレベルは、そのレベルが、その所定の環境範囲中に存在する光の同じ波長の同じレベルより低いとき、「環境より低い」と見なすことができる。本開示のために、「環境」レベルの下側端部は、約50ルクスの多色光中に存在する各波長範囲の所定のレベルを含むことができ、一方、「環境」レベルの上側端部は、約500ルクスの多色光中に存在する様々な波長範囲の所定のレベルを含む。環境のこの定義によれば、環境より低いレベルは、約50ルクスより低いレベルを含むことになるはずであり、一方、環境より高いレベルは、約500ルクスより高いレベルを含むことになるはずである。」
(2)サポート要件について
上記(1)より、本願発明が解決しようとする課題は、運動関連の神経疾患(たとえば、不安、鬱病、不眠症、過眠症など)に対処する光を放出することである。
そして、本願明細書には、上記課題を解決するための手段として、青色~緑色の波長の光を、環境レベルよりも高いレベルで投与すること(【0008】)、環境レベルを示す標準的な屋内環境の照明とは強度が50ルクス~500ルクスである多色光であり、環境より高いレベルは500ルクスよりも高いレベルを含むこと(【0017】及び【0027】)、約500ルクスの強度を有する標準屋内照明中の青色~緑色(460nm~570nm)のより狭い波長範囲の放射照度は、58.4μW/cm2であること(【0021】及び【0022】)が記載されている。
一方、本願発明は、「光の前記460nm~570nmの範囲中の全体的な放射照度が5.1μW/cm2を超え」るものであって、本願発明が放出する光の放射照度は、環境レベルである58.4μW/cm2以下の放射照度を含んでいる。
そして、本願明細書には、460nm~570nmの範囲中の放射照度が環境レベルの光を投与することによって上記課題を解決できることは記載されていないし、そのような技術常識もない。
したがって、本願発明は、発明の課題を解決しないものを含んでいるから、発明の詳細な説明に記載したものでない。
2 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。
「【0117】
光パルスあるいはフラッシュは、網膜内のドーパミンを増加させることがわかっている。更なる実施例では、患者の眼に光パルス治療を行って、患者の視神経伝達物質を調整するのに十分な条件下で患者の眼をある時間光に露出させるようにするステップを具える、神経及び/又は精神神経疾患の治療及び/又は予防方法が提供されている。この方法の一実施例では、光パルスあるいはフラッシュを、1秒乃至20分の間に、1秒間に1パルス乃至20分間に1パルス当てる。強度は、例えば、最大20,000ルクスでよい。広いスペクトルの白色光を用いることができるが、青及び緑のスペクトルも使用することができる。光線療法は、開いている眼に、一般的に、好適な光ボックスあるいはその他の発光デバイスを用いて行う。」
(2)引用発明
上記(1)の事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「患者の目をある時間光に露出させるステップを具える、神経疾患の治療方法を行う際に用いる光ボックスあるいはその他の発光デバイスであって、
強度は最大20,000ルクスであり、青及び緑のスペクトルを使用する、光ボックスあるいはその他の発光デバイス。」
(3)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
(a)引用発明の「患者の目をある時間光に露出させるステップを具える、神経疾患の治療方法」は、本願発明の「患者に光治療を施す」ことに相当するから、引用発明の「神経疾患の治療方法を行う際に用いる光ボックスあるいはその他の発光デバイス」は、本願発明の「患者に光治療を施すための装置」に相当する。
(b)光のスペクトルにおいて460nm~570nmの波長の光が青色又は緑色の可視光であることは技術常識であるから、引用発明の「光ボックスあるいはその他の発光デバイス」が「青及び緑のスペクトルを使用する」ことは、本願発明の「460nm~570nmの範囲中の波長にてピークを発する」「光源」を含むことに相当するといえる。
してみれば、本願発明と引用発明は、
「患者に光治療を施すための装置において、
460nm~570nmの範囲中の波長にてピークを発する光源を含む装置」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
光源において、本願発明は「少なくとも1つのLED光源を含む」のに対し、引用発明の光ボックスあるいはその他の発光デバイスはLED光源に特定されていない点。
(相違点2)
本願発明は「前記少なくとも1つのLED光源から放出された光の前記460nm~570nmの範囲中の全体的な放射照度が5.1μW/cm2を超え」るのに対し、引用発明は光ボックスあるいはその他の発光デバイスの強度が最大20,000ルクスである点。
(相違点3)
本願発明は「570nmを超えて750nm以下の範囲中にピークを発しない」のに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
(4)判断
上記相違点1及び相違点2について検討する。
光治療に用いる光源としてLED光源を用いることは、例えば引用文献2の段落[0061]、[0066]や引用文献3の段落【0038】、【0042】等に記載されているように周知の事項であり、引用発明を実施するに際し、光ボックスあるいはその他の発光デバイスをLED光源とすることは当業者が容易になし得たことである。
また、波長555nmにおいて1ルクスの光の放射照度は0.146μW/cm2に等しく、引用発明の最大強度20,000ルクスの光は2920μW/cm2となるから、引用発明を実施するに際し、光源の放射照度を本願発明の5.1μW/cm2を超えた範囲とすることも当業者が容易になし得たことである。
上記相違点3について検討する。
引用発明は青及び緑のスペクトルを使用するものであるから、それ以外の波長は必要でなく、黄色又は赤色の照度を有さないと解される。
してみれば、相違点2は実質的な相違点ではない。
また、仮に相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用発明を実施するに際し、必要のない波長である570nmを超えて750nm以下の範囲中にピークを発しない光源を採用することは当業者が容易になし得たことである。
(5)効果の検討
本願発明の奏する効果は、引用発明及び周知の事項から、当業者が予測できる範囲のものであって、格別顕著なものではない。
第5 むすび
前記第4の1のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、前記第4の2のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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