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特許拒絶査定不服審判

2023-016441

繭糸

審判番号
2023-016441
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-019658
請求日
2023年09月07日
審決日
2026年01月27日
公報発行日
2026年04月24日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】合同会社TGS
審判長/審判官
  • 審判長 植原 克典
  • 審判官 幸田 俊希
  • 審判官 上條 肇
分類
P18 .113-WZ (C07K) / P18 .121-WZ (C07K) / P18 .536-WZ (C07K) / P18 .537-WZ (C07K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第1項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019- 19658「繭糸」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月20日出願公開、特開2020-125274〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成31年 2月 6日の出願であって、令和 4年12月16日付けで拒絶理由通知がなされ、令和 5年 2月28日付け意見書が提出され、同年 6月 9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年 9月 7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、令和 7年 7月15日付けで当審より特許法第17条の2第1項第1号~第3号に基づき、拒絶理由通知の指定期間内に限り特許請求の範囲等について補正をすることができる旨の記載を付して拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知されたところ、同年 9月17日付けで意見書のみが提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1~3に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1~3に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。他の請求項に係る発明も同様。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 セリシンおよびフィブロインを含む繭糸であって、前記セリシンが実質的にセリシン3からなる、繭糸。 【請求項2】 セリシンプロモーターと配列番号1の塩基配列とが作動可能に連結されたDNAを有する遺伝子組換えカイコ。 【請求項3】 請求項2に記載の遺伝子組換えカイコを生育して、繭糸を分離する工程を含む、繭糸の製造方法。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審が当審拒絶理由通知によって通知した拒絶理由のうち理由A,C,Dはそれぞれ以下のとおりである。 1 理由A(新規性・進歩性) 本願発明1は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当するか、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:国際公開第2015/060159号 2 理由C(進歩性) 本願発明2及び本願発明3は、本願出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献3に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献3:特開2018-007569号公報 3 理由D(実施可能要件・サポート要件) 本願の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識から、本願発明1の繭糸を製造するためのカイコや当該カイコによって製造された繭糸を当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造することができるとはいえないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 本願発明の課題は、取り扱い性に優れる新たな性質の繭糸及びその製造方法、並びに当該繭糸を生成する遺伝子組換えカイコを提供することである(【0006】)ところ、本願発明1は、発明の詳細な説明において本願発明の課題を解決できるカイコや繭糸が得られることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 理由A(新規性・進歩性)についての当審の判断 1 引用文献1の記載事項 引用文献1(国際公開第2015/060159号)には、以下のとおり記載されている。 (ア) 「【0003】 カイコ絹糸腺は、形態学的には図1で示すような左右1対の器官であり、それぞれは、前部絹糸腺、中部絹糸腺、及び後部絹糸腺の3つの領域で構成されている。中部絹糸腺細胞内では、絹糸の被覆成分である水溶性のゼラチン様タンパク質、セリシン1(本明細書では、しばしば「Ser1」と略称する)、セリシン2(本明細書では、しばしば「Ser2」と略称する)及びセリシン3(本明細書では、しばしば「Ser3」と略称する)が合成されている(図1)。これらは、合成後に中部絹糸腺内腔中に分泌される。また、後部絹糸腺細胞内では、絹糸の繊維成分であるフィブロインを構成する3つの主要なタンパク質である、フィブロインH鎖(本明細書では、しばしば「Fib H」と略称する)、フィブロインL鎖(本明細書では、しばしば「Fib L」と略称する)、及びp25/FHX(以下、「p25」とする)が合成されている。これら3つのタンパク質は、Fib H:Fib L:p25=6:6:1の比率で複合体(silk fibroin elementary unit;本明細書では、以下「SFEU複合体」と称する。)を形成し、後部絹糸腺内腔中に分泌される。その後、SFEU複合体は中部絹糸腺内腔に移行し、セリシンで被覆され、絹糸として前部絹糸腺から吐糸される(図1:非特許文献1)。したがって、カイコ絹糸腺をタンパク質発現系として利用する場合、中部絹糸腺又は後部絹糸腺で特異的に発現する遺伝子発現系を利用すればよいことになる。実際、これまでに中部絹糸腺を用いた組換えタンパク質発現システムとしてGAL4/UASシステム(非特許文献2)、又はSer1プロモーター及びHr3エンハンサーを組み合わせた系による大量発現方法(非特許文献3)が確立している。」 (イ) 「【0049】 (2)プロモーター プロモーターは、asRNA発現ベクターのasRNAコードDNAに作用して、前記asRNAを発現する必須の構成エレメントである。 【0050】 asRNA発現ベクターに含まれるプロモーターの種類は、asRNAの標的遺伝子によって異なる。例えば、中部絹糸腺で発現するSer1~Ser3の遺伝子を標的遺伝子とする場合には、中部絹糸腺で作動可能なプロモーターを用いる。そのようなプロモーターには、例えば、中部絹糸腺特異的プロモーターの他、ユビキタスに発現可能な過剰発現型プロモーター、構成的活性型プロモーター若しくは時期特異的活性型プロモーター、又は発現誘導型プロモーター等が挙げられる。好ましくは中部絹糸腺特異的プロモーターである。中でも中部絹糸腺で特異的かつ大量に発現するタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターは特に好ましい。具体的には、例えば、Ser1~Ser3の遺伝子プロモーター(本明細書では、それぞれ「Ser1プロモーター」、「Ser2プロモーター」、及び「Ser3プロモーター」と称する)が挙げられる。一方、後部絹糸腺で発現するFib H鎖遺伝子を標的遺伝子とする場合には、後部絹糸腺で作動可能なプロモーターを用いる。そのようなプロモーターには、例えば、後部絹糸腺特異的プロモーターの他、ユビキタスに発現可能な過剰発現型プロモーター、構成的活性型プロモーター若しくは時期特異的活性型プロモーター、又は発現誘導型プロモーター等が挙げられる。好ましくは後部絹糸腺特異的プロモーターである。中でも後部絹糸腺で特異的かつ大量に発現するタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターは特に好ましい。具体的には、例えば、フィブロイン構成タンパク質であるFib H、Fib L、又はp25の遺伝子プロモーター(本明細書では、それぞれ「Fib Hプロモーター」、「Fib Lプロモーター」、又は「p25プロモーター」と称する)が挙げられる。 【0051】 プロモーターの由来生物種は、asRNA発現ベクターを導入するカイコの細胞内で作動可能である限り、特に限定はしない。例えば、絹糸虫由来の絹糸腺特異的プロモーターは好適である。一般に、中部絹糸腺特異的プロモーターや後部絹糸腺特異的プロモーターの塩基配列は、絹糸虫間で進化的に高度に保存されているため、asRNAの発現に用いるプロモーターがカイコと異なる絹糸虫由来であってもカイコの細胞内で機能し得るからである(Sezutsu H., et al., 2009, Journal of Insect Biotechnology and Sericology, 78 :1-10)。好適なプロモーターの生物種は、asRNA発現ベクターの宿主となるカイコと分類学上同じチョウ目(Lepidoptera)に属する種、より好ましくは同じカイコガ科(Bombycidae)に属する種、さらに好ましくは、例えばクワコ(Bombyx mandarina)のような同じ属に属する種である。最も好ましくはカイコである。 【0052】 具体例として、以下のプロモーターを利用することができる。中部絹糸腺特異的プロモーターには、配列番号15で示される塩基配列を含むカイコ由来のSer1プロモーター、配列番号16で示される塩基配列を含むカイコ由来のSer2プロモーター、及び配列番号17で示される塩基配列を含むカイコ由来のSer3プロモーター等を利用できる。また、後部絹糸腺特異的プロモーターには、配列番号18で示される塩基配列を含むカイコ由来のFib Hプロモーター、配列番号19で示される塩基配列を含むサクサン由来のFib Hプロモーター、配列番号20で示される塩基配列を含むカイコ由来のFib Lプロモーター、配列番号21で示される塩基配列を含むサクサン由来のFib Lプロモーター、及び配列番号22で示される塩基配列を含むカイコ由来のp25プロモーター等を利用できる。」 (ウ) 「【実施例】 【0097】 <実施例1:Ser1 asRNAによるSer1遺伝子の発現抑制> (目的) 中部絹糸腺特異的タンパク質であるセリシン1(Ser1)の遺伝子発現を、Ser1遺伝子に対するasRNAで抑制できることを立証する。 【0098】 (方法) 1.カイコ中部絹糸腺特異的発現ベクターの作製 カイコ中部絹糸腺特異的に発現可能な発現ベクターとして、Ser1遺伝子に対するasRNA(「Ser1 asRNA」と表記する)を発現するSer1 asRNA発現ベクター、及びSer1遺伝子に対するshRNA(「Ser1 shRNA」と表記する。なお、本明細書におけるshRNAは、ヘアピン構造を有するlong dsRNAも含むものとする。)を発現するSer1 shRNA発現ベクターを作製する。 【0099】 (1)UASバックボーンプラスミドの作製 pAmCyan1-N1(Takara)を鋳型として、AmCyankozakU(配列番号23)及びSV40PCRL(配列番号24)をプライマーペアに用いてPCR増幅し、pZErO-2ベクター(life technologies)へ挿入した。これをAmCyan/pZero2とする。 【0100】 また、pEYFP-N1(clonetech)を鋳型として、EYFPkozakU(配列番号25)及びSV40PCRLをプライマーペアに用いてPCR増幅し、pZErO-2ベクター(life technologies)へ挿入した。これEYFP/pZero2とする。 【0101】 AmCyan/pZero2とEYFP/pZero2をNcoI-NotIで切断し、得られたNcoI-NotI断片をpBac[SerUAS/3xP3EGFP] (Tatematsu K. et al., 2010, Transgenic Research, 19(3):473-87)のNcoI-NotI部位へ挿入することによって、マーカー遺伝子をEGFPからAmCyan又はEYFPへ置換した。これらのプラスミドを、pBac[SerUAS/3xP3AmCyan]又はpBac[SerUAS/3xP3EYFP]とした。 【0102】 (2)Ser1断片のクローニング カイコ白/C系統の5齢6日目の中部絹糸腺から総RNAを抽出した(Isogen ニッポンジーン)。総RNAをoligo dT primer(プロメガ)と逆転写酵素(ReverTra Ace TOYOBO)を用いて逆転写し、cDNAを得た。得られたcDNAを鋳型として、SpeSer1B130U23(配列番号26)及びBlnSer1B1636L23(配列番号27)、並びにBlnSer1B130U23(配列番号28)及びSpeSer1B1636L23(配列番号29)の2種類のプライマーペアを用いてPCRを行い、Ser1の5’側の断片を得た。これらの核酸断片を、5’Ser1SB及び5’Ser1BSとした。 【0103】 また、同様に得られたcDNAを鋳型として、SpeSer1B1531U24(配列番号30)及びBlnSer1B3108L23(配列番号31)、並びにBlnSer1B1531U24(配列番号32)及びSpeSer1B3108L23(配列番号33)の2種類のプライマーペアを用いてPCRを行い、Ser1の3’側の断片を得た。これらの核酸断片を3’Ser1SB及び3’Ser1BSとした。 【0104】 (3)shRNAリンカーの作製 shRNAのループ部分に相当するリンカーを作製した。カイコ白/C系統のゲノムDNAを鋳型とし、プライマーペアにBlnA3intU(配列番号34)及びSpeA3IntL(配列番号35)を用いてアクチン3のイントロンをPCR増幅した。得られた核酸断片をリンカーA3intBSとした。 【0105】 (4)Ser1 asRNA発現ベクターの作製 上記(1)で作製したpBac[SerUAS/3xP3AmCyan]のBlnI部位に5’Ser1SBをBlnIが5’側になるように挿入した。このプラスミドをpBac[SerUAS-5’asSer1/3xP3AmCyan](図3A)とした。pBac[SerUAS-5’asSer1/3xP3AmCyan]は、反復配列領域を含まないSer1遺伝子の5’側領域を標的部位とする5’Ser1 asRNAを発現する5’Ser1 asRNA発現ベクターである。 【0106】 また、pBac[SerUAS/3xP3EYFP]のBlnI部位に3’Ser1SBをBlnIが5’側になるように挿入した。このプラスミドをpBac[SerUAS-3’asSer1/3xP3EYFP](図3B))とした。pBac[SerUAS-3’asSer1/3xP3EYFP]は、Ser1遺伝子の3’側に存在する反復配列領域を標的部位とする3’Ser1 asRNAを発現する3’Ser1 asRNA発現ベクターである。3’Ser1 asRNA発現ベクターは、本発明の外因性遺伝子発現増強剤を有効成分として含むasRNA発現ベクターの第2サブユニットに相当する。 【0107】 (5)Ser1 shRNA発現ベクターの作製 5’Ser1 asRNA発現ベクターのBlnI部位にリンカーA3intBSをBlnI部位が5’側になるように挿入し、さらに5’Ser1BSをBlnI部位が5’側になるように挿入した。このプラスミドをpBac[SerUAS-5’dsSer1/3xP3AmCyan](図4A)とした。pBac[SerUAS-5’dsSer1/3xP3AmCyan]は、Ser1遺伝子の5’側領域を標的部位とする5’Ser1 shRNAを発現する5’Ser1 shRNA発現ベクターである。 【0108】 また、3’Ser1 asRNA発現ベクターのBlnI部位にリンカーA3intBSをBlnI部位が5’側になるように挿入し、さらに3’Ser1BSをBlnI部位が5’側になるように挿入した。このプラスミドをpBac[SerUAS-3’dsSer1/3xP3EYFP](図4B)とした。 pBac[SerUAS-3’dsSer1/3xP3EYFP]は、Ser1遺伝子の3’側に存在する反復配列領域を標的部位とする3’Ser1 shRNAを発現する3’Ser1 shRNA発現ベクターである。 【0109】 2.遺伝子組換えカイコの作出 (1)発現ベクターの導入 上記「1.カイコ中部絹糸腺特異的発現ベクターの作製」で作製したSer1 asRNA発現ベクターであるpBac[SerUAS-5’asSer1/3xP3AmCyan]、pBac[SerUAS-3’asSer1/3xP3EYFP]及びSer1 shRNA発現ベクターであるpBac[SerUAS-5’dsSer1/3xP3AmCyan]及びpBac[SerUAS-3’dsSer1/3xP3EYFP]を、それぞれ別個にトランスポゾン転移酵素を発現するヘルパープラスミドpHA3PIG (Tamura T. et al., 2000, Nature Biotechnology, 18, 81-84)と1:1の割合で混合し、産卵後2~8時間のw1-pnd系統のカイコ卵にインジェクションした。インジェクション後の卵は、加湿状態下、25℃で孵化するまでインキュベートした。孵化した幼虫は、25~27℃の飼育室で全齢を人工飼料(シルクメイト原種1-3齢S、日本農産工)で飼育した。 人工飼料は2~3日毎に交換した(Uchino K. et al., 2006, J Insect Biotechnol Sericol, 75:89-97)。羽化後、兄妹交配を行った。得られたF1卵をそれぞれの選抜マーカーである3xP3EYFPマーカー又は3xP3AmCyanマーカーによる眼の蛍光の有無で選抜し、遺伝子組換えカイコ系統を得た。 【0110】 (2)中部絹糸腺GAL4系統との交配 上記「(1)発現ベクターの導入」で得られた各遺伝子組換えカイコ系統を3系統ずつ図5に示すpBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2(Tatematsu K. et al., 2010, Transgenic Research, 19(3):473-87)を有する遺伝子組換えカイコ系統と交配した。ここで、pBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2は、中部絹糸腺特異的にGAL4遺伝子を発現する中部絹糸腺GAL4発現ベクターで、本発明の外因性遺伝子発現増強剤を有効成分として含むasRNA発現ベクターの第1サブユニットに相当する。F1個体において、Ser1 asRNA発現ベクター又はSer1 shRNA発現ベクター(第2サブユニット)、及びpBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2(第1サブユニット)の両方を有する系統を、3xP3EYFPマーカー又は3xP3AmCyanマーカー、及び3xP3DsRed2マーカーによる眼の蛍光の有無で選抜し、Ser1 asRNA又はSer1 shRNAを中部絹糸腺特異的に発現する遺伝子組換えカイコを得た。第2サブユニットを有する遺伝子組換えカイコを3系統ずつ用いたことから、Ser1 asRNA又はSer1 shRNAを中部絹糸腺特異的に発現する遺伝子組換えカイコもそれぞれ3系統ずつ得た。 【0111】 3.Ser1 mRNAの定量 上記「2.遺伝子組換えカイコの作出」で作出したSer1 asRNA又はSer1 shRNAを中部絹糸腺特異的に発現する遺伝子組換えカイコを用いて、各遺伝子組換えカイコの中部絹糸腺におけるSer1遺伝子の発現抑制効果について検証した。 【0112】 各遺伝子組換えカイコの5齢6日目の幼虫から中部絹糸腺を摘出し、ISOGEN(ニッポンジーン)を用いて総RNAを抽出した。総RNAをoligo dT プライマー(プロメガ)と逆転写酵素(ReverTra Ace TOYOBO)を用いて逆転写し、cDNAを調製した。得られたcDNAを鋳型として、Ser1LC3364(配列番号36)とSer1LC3528L(配列番号37)のプライマーペアを用いて、Light Cycler FastStart DNA Master SYBR Green (ロシュ)によりSer1のmRNAの定量的PCRを行った。内部標準にはrp49LCF2(配列番号38)とrp49LCR1(配列番号39)のプライマー対を用いて、同様に定量的PCRを行った。 【0113】 4.Ser1タンパク質量の検証 タンパク質レベルでもSer1タンパク質の合成が抑制されていることを、上記「2.遺伝子組換えカイコの作出」で作出したSer1 asRNA又はSer1 shRNAを中部絹糸腺特異的に発現する遺伝子組換えカイコを用いて確認した。各遺伝子組換えカイコを飼育して、繭を得た後、繭10 mgに対てし1 mLの50 mM Tris-HCl (PH8.0)/8 M 尿素/10 mM DTTを加え、80℃で5分間インキュベートすることにより、繭タンパク質を抽出した。繭タンパク質32.5μLに対し12.5μLのNuPAGE LDS Sample Buffer(インビトロジェン)と5μLのNuPAGE Sample Reducing Agent(インビトロジェン)を加え、70℃で10分間加温してSDS化した。SDS化したサンプルを4% SDS-PAGEゲルを用いて電気泳動した後、EZ stain aqua(ATTO)で染色した。 【0114】 (結果) 上記「3.Ser1 mRNAの定量」の結果を図6に示す。この図は、陰性対照の遺伝子組換えカイコ(図6の第2サブユニットを「-」で示した系統)のSer1 mRNA転写量を1としたときの相対値を表す。5’Ser1 shRNA発現ベクターを有する遺伝子組換えカイコ、3’Ser1 shRNA発現ベクターを有する遺伝子組換えカイコ、5’Ser1 asRNA発現ベクターを有する遺伝子組換えカイコ、及び3’Ser1 asRNA発現ベクターを有する遺伝子組換えカイコのいずれの群もSer1遺伝子に対する発現抑制が確認された。各群における3系統(第2サブユニット1、2、3に相当)のSer1mRNA量の平均相対値を上部に示した。 【0115】 一本鎖RNAで構成され、分子内二本鎖RNA領域を形成しないasRNAのうち、5’Ser1 asRNAを発現する群は、従来説通り、分子内二本鎖RNA領域を形成するshRNAを発現する2群と比較して、Ser1遺伝子の発現抑制効果が非常に低かった。一方、Ser1の反復配列領域を標的部位とする3’Ser1 asRNAを発現する群は、asRNAであるにもかかわらず、shRNA以上のSer1遺伝子の発現抑制効果を示した。この結果は、Ser1タンパク質の反復配列領域を標的部位とするasRNAは、他の領域を標的部位とした場合よりも中部絹糸腺においてSer1タンパク質の遺伝子発現を効果的に抑制することを示している。 【0116】 上記「4.Ser1タンパク質量の検証」の結果を図7に示す。各繭タンパク質の位置をSDS-PAGEの右に示した。Ser1タンパク質は選択的スプライシングにより、分子量の異なる2本のバンドとして表れる。第1サブユニットのみを有する遺伝子組換えカイコ系統(UAS -;GAL4 +)、及び第1サブユニットを有さず、第2サブユニットのみを有する遺伝子組換えカイコ系統(UAS 3;GAL4 -)を対照とした。 【0117】 タンパク質レベルでもmRNAレベルの実験と同様の結果が得られた。すなわち、対照以外の全ての遺伝子組換えカイコでSer1タンパク質の合成が抑制されていることが確認された。一方、同じ繭タンパク質であるSer3タンパク質やFib H鎖タンパク質の合成量は対照と同程度であった。これは、Ser1 asRNA発現ベクター又はshRNA発現ベクターから発現するasRNA又はshRNAがSer1遺伝子の発現を特異的に抑制することを示している。」 (エ) 「【0131】 <実施例3:Ser1 asRNA及びFib-H asRNAによるSer1及びFib H鎖の遺伝子発現抑制> (目的) Ser1及びFib Hのそれぞれの遺伝子の反復配列領域に対するasRNAを組み合わせて、同時に発現した場合にもSer1遺伝子とFib H鎖遺伝子の発現を同時に抑制できることを立証する。 【0132】 (方法) 1.カイコ中部絹糸腺及び後部絹糸腺発現ベクターの作製 (1)Fib-H as RNA及びSer1 asRNAの同時発現UASベクター(UAS-3’Ser1-FibH1 asRNA発現ベクター)の作製 pBac[SerUAS-asFibH1/3xP3AmCyan]のBlnI部位に実施例1で調製した3’Ser1SBを挿入しpBac[SerUAS-3’asSer1_asFibH1/3xP3AmCyan](図12A)を作製した。このプラスミドはUASプロモーターの下流に3’Ser1 asRNAコードDNAとFib-H asRNAコードDNAをタンデムに配置した発現ベクター(UAS-3’Ser1-FibH1 asRNA発現ベクター)であって、本発明の外因性遺伝子発現増強剤を有効成分として含むasRNA発現ベクターの第2サブユニットに相当する。 【0133】 (2)中部&後部絹糸腺GAL4発現ベクターの作製 AscI.adU(配列番号46)とAscI.adL(配列番号47)をアニーリングして、AscIアダプターを作製した。図9に示したpBac[BmFibHL-GAL4/3xP3-DsRed]のAscI部位にAscIアダプターを挿入し、pBacFibH-pro GAL4_AscI-BlnI/3xP3DsRed2を作製した。さらにこのプラスミドのAscI-BlnI部位にpBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2のAscI-SpeI断片を挿入して中部及び後部絹糸腺の両方でGAL4遺伝子を発現する中部&後部絹糸腺GAL4発現ベクターであるpBacFibH-pro GAL4_Ser-pro GAL4/3xP3DsRed2(図12B)を作製した。この発現ベクターは、本発明の外因性遺伝子発現増強剤を有効成分として含むasRNA発現ベクターの第1サブユニットに相当する。 【0134】 2.組換えカイコの作出 (1)発現ベクターの導入 中部&後部絹糸腺GAL4発現ベクターであるpBacFibH-pro GAL4_Ser-pro GAL4/3xP3DsRed2とUAS-3’Ser1-FibH1 asRNA発現ベクターであるpBac[SerUAS-3’asSer1_asFibH1/3xP3AmCyan]を、それぞれ別個に実施例1に記載のヘルパープラスミドpHA3PIGと1:1の割合で混合し、産卵後2~8時間のw1-pnd系統のカイコ卵にそれぞれインジェクションした。インジェクション後の卵を加湿状態下、25℃で孵化するまでインキュベートした。孵化した幼虫は25~27℃の飼育室にて全齢を人工飼料(シルクメイト原種1-3齢S、日本農産工)で飼育した。人工飼料は2~3日毎に交換した。羽化後、兄妹交配を行った。得られたF1から、中部&後部絹糸腺GAL4発現ベクターをインジェクションした中部&後部絹糸腺GAL4系統は3xP3 DsRed2マーカーによる眼の蛍光の有無で、またUAS-3’Ser1-FibH1 asRNA発現ベクターをインジェクションしたUAS-3’Ser1-FibH1 asRNA系統は3xP3 AmCyanマーカーによる眼の蛍光の有無で、それぞれ選抜し、遺伝子組換えカイコ系統を得た。 【0135】 (2)中部&後部絹糸腺GAL4系統とUAS-3’Ser1-FibH1 asRNA系統の交配 中部&後部絹糸腺GAL4系統とUAS-3’Ser1-FibH1 asRNA系統を交配した。また、対照用として、実施例1で用いた中部絹糸腺GAL4発現ベクターpBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2を有する遺伝子組換えカイコ系統、又は実施例2で用いた後部絹糸腺GAL4発現ベクターpBac[BmFibHL-GAL4/3xP3-DsRed]を有する遺伝子組換えカイコ系統とSer1-FibH1 asRNA系統とを交配した。F1個体において、中部&後部絹糸腺GAL4系統及びUAS-3’Ser1-FibH1 asRNA系統の両方を有する系統を3xP3DsRed2マーカー及び3xP3AmCyanマーカーによる眼の蛍光の有無で選抜し、Fib-H asRNA及びSer1 asRNAを中部絹糸腺及び/又は後部絹糸腺で同時に発現する遺伝子組換えカイコを得た。 【0136】 3.Ser1タンパク質量及びFib H鎖タンパク質量の検証 上記「2.遺伝子組換えカイコの作出」で作出した遺伝子組換えカイコを用いてSer1タンパク質量及びFib H鎖タンパク質量について検証した。各遺伝子組換えカイコの5齢6日目の幼虫から絹糸腺を摘出し、後部絹糸腺と中部絹糸腺に分離した。後部絹糸腺又は中部絹糸腺を1本あたり5 mLの20 mM Tris-HCl(pH 8.0)/8 M 尿素/2% SDS/25 mM DTTに入れ、一晩、室温で振とうし、絹糸腺タンパク質を抽出した。絹糸腺タンパク質5μLにH2O 27.5 μL、12.5μLのNuPAGE LDS Sample Buffer(インビトロジェン)と5μLのNuPAGE Sample Reducing Agent(インビトロジェン)を加え、70℃で10分間加温しSDS化した。SDS化したサンプルを4% SDS-PAGEゲルを用いて電気泳動した後、CBCで染色した。 【0137】 (結果) 図13に結果を示す。第1サブユニットに後部絹糸腺発現用GAL4ベクターを用いた場合、対照(UAS -;GAL4 +)と比較して中部絹糸腺におけるFib H鎖タンパク質量が減少した。これは、実施例2の結果と一致するまた、第1サブユニットに中部絹糸腺発現用GAL4ベクターを用いた場合、中部絹糸腺におけるSer1タンパク質がほとんど失われた。これは、中部絹糸腺発現用GAL4ベクターにより、中部絹糸腺でSer1 asRNAが発現し、Ser1遺伝子の発現を抑制したことを示している。 一方、第1サブユニットに中部&後部絹糸腺発現用GAL4ベクターを用いた場合、中部及び後部絹糸腺の両方でFib-H asRNAとSer1 asRNAが発現する。それにより、Ser1遺伝子とFib H鎖遺伝子の両方が同時に、かつ効率的に発現抑制された。 」 (オ) 「【図7】 [図:0001433407000001.jpg] 」 2.引用文献1に記載された発明 引用文献1には、「Ser1 asRNA又はSer1 shRNAを中部絹糸腺特異的に発現する遺伝子組換えカイコ」を飼育して得た繭について、Ser1タンパク質の合成が抑制されていることが確認された一方、同じ繭タンパク質であるSer3タンパク質やFib H鎖タンパク質の合成量は対照と同程度であったことが記載されている(記載事項(ウ)【0114】、【0117】、記載事項(エ)【0137】)。 3.対比・判断 引用文献1には、Ser2タンパク質の合成量について言及はないものの、本願明細書【0031】には、「野生型(w1-pnd系統)と高フィブロイン繭産生カイコ系統の中部絹糸腺を各日齢に摘出し、トライゾル法でRNAを抽出した。これをインビトロジェン社のSuperscript III one step RT-PCR system with platinum taqの酵素反応により、セリシン1(Ser 1)、セリシン2(Ser 2)、及びセリシン3(Ser 3)のmRNAの発現を解析した。リボソーム RNA量を用いてサンプルの標準化を行った。結果を図3~5に示す。図3~5の各日付において、左側が野生型(w1-pnd系統)における発現量を示し、右側が高フィブロイン繭産生カイコ系統における発現量を示す。」と記載され、図4に記載されていることから明らかなように、野生型カイコであっても5日目以降はセリシン2のmRNAが0.01のように痕跡量しか発現していないことが認められるから、引用文献1に記載された「Ser1 asRNA又はSer1 shRNAを中部絹糸腺特異的に発現する遺伝子組換えカイコ」もまた、電気泳動を行った場合にセリシン2のバンドの存在が確認できるレベルであるということはできない。 したがって、引用文献1に記載された繭糸もまた、「セリシンおよびフィブロインを含む繭糸であって、前記セリシンが実質的にセリシン3からなる、繭糸。」に相当し、本願発明1は引用文献1に記載された発明と区別することができず、また、引用文献1に記載された発明から容易になし得るものである。 4.令和7年9月17日付け意見書における主張について 請求人は、「一方、図1右側の請求人が提示する電気泳動像は特願2019-019658の図1を補足するために請求人らが発表した論文(Int.J.Mol.Sci.2022,23,7433.https://doi.org/10.3390/ijms23137433)(提出資料1)のFig.2Cを使用して説明するが、各タンパク質バンドがシャープであり、セリシン1及びセリシン2の量を詳しく見ることができる。この電気泳動像から、セリシン1プロモーターでピエリシンを発現させることにより中部絹糸腺を機能不全化することで得られる繭ではセリシン1とセリシン2が消失していることが明確に分かる。 ところで、タンパク質はSDS-PAGE後、そのゲルを染色、脱色した場合、より高分子のタンパク質の方が色素と多く結合するが、図1左側の引用文献1の図7では、セリシン3はより高分子であるフィブロインH鎖と同等もしくはそれ以上の色素と結合していることから、引用文献1のRNAiによって得られた繭糸にはセリシン3が非常に多く含まれていることが分かる。これに対して、図1右側は野生型繭糸と中部絹糸腺を機能不全化して得られた繭糸の電気泳動像であるが、いずれの繭糸もフィブロインH鎖とセリシン3は100対1以上の量比の差があることが分かる。 従ってセリシン1遺伝子のRNAiと同遺伝子プロモーターでピエリシンを発現した場合に得られるセリシン3とフィブロインからなる繭糸はそのセリシン3とフィブロインの構成比か大きく異なる繭糸であって、これら繭糸はセリシン3とフィブロインの組成によって明瞭に区別することができる。 このことから拒絶理由書に記載されている「当該製造方法によって「繭糸」に反映される物理的性質は、セリシン1とセリシン2が実質的に存在しない、すなわち電気泳動を行った場合にセリシン1及びセリシン2のバンドの存在が確認できないレベルであるというだけであって、引用文献1に記載の「繭糸」もまた、セリシン1とセリシン2がセリシン1及びセリシン2のバンドの存在が確認できないレベルであることに変わりはないのであるから、これらの点で「繭糸」として区別が付くものではない。」との指摘は当たらない。 つまり、請求項1「セリシンおよびフィブロインを含む繭糸であって、モンシロチョウから得られるピエリシン1Aによって中部絹糸腺を機能不全化することで、前記セリシンが実質的にセリシン3からなる、繭糸。」は新規性、進歩性を喪失していない。」と主張する。(主張Aア) また、請求人は、「図1左側は引用文献1の図7であるが、セリシン1遺伝子のRNAiによって繭糸中のセリシン1の量が減少もしくは消失していると主張するものである。しかしながら、この電気泳動像は全体に不鮮明であり、かつタンパク質バンドがブロードであるため、セリシン1の量が減少もしくは消失していると判断するのは難しいと言わざるを得ない。しかもこのセリシン1遺伝子のRNAiであるにも関わらずフィブロインH鎖のバンドの濃さが一定ではないため、セリシン1の減少、消失を正確に把握することはできない。」と主張する。(主張Aイ) 主張Aアについて検討する。 請求人は、当審拒絶理由通知に記載のとおり、拒絶理由通知を受けた後は、拒絶理由通知の指定期間内に限り、特許請求の範囲等について補正をすることができるが(特許法第17条の2第1項第1号~第3号)、当審拒絶理由通知の指定期間内に特許請求の範囲について補正を行わなかった。 よって、本願発明1には、請求人が意見書で主張する「フィブロインH鎖とセリシン3は100対1以上の量比の差がある」ことは特定されておらず、本願発明1は、「セリシンおよびフィブロインを含む繭糸であって、モンシロチョウから得られるピエリシン1Aによって中部絹糸腺を機能不全化することで、前記セリシンが実質的にセリシン3からなる、繭糸。」でもない。 本願発明1は、「セリシンおよびフィブロインを含む繭糸であって、モンシロチョウから得られるピエリシン1Aによって中部絹糸腺を機能不全化することで、前記セリシンが実質的にセリシン3からなる、繭糸。」以外にも様々な製法によって得られ、フィブロインH鎖とセリシン3の量比についても様々な組成の「セリシンおよびフィブロインを含む繭糸であって、前記セリシンが実質的にセリシン3からなる、繭糸。」を包含する。 したがって、「フィブロインH鎖とセリシン3は100対1以上の量比の差がある」ことを基にした主張や、「モンシロチョウから得られるピエリシン1Aによって中部絹糸腺を機能不全化する」ことを前提とした、請求人が提示する電気泳動像を基にした主張は、特許請求の範囲の発明特定事項と対応するものではなく、採用することはできない。 主張Aイについて検討する。 特許請求の範囲の発明特定事項である「実質的にセリシン3からなる」については、発明の詳細な説明に「本明細書において、「実質的にセリシン3からなる」とは、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)において、泳動用色素がゲルの泳動末端側に到達した後ゲルをCBB染色したときに、目視により、セリシン3のバンドの存在を確認でき、且つ、セリシン1及びセリシン2のバンドの存在を確認できないことをいう。」と定義されている一方で、SDSポリアクリルアミドゲルの作成条件やゲルに流すポリペプチドの添加量等は何ら特定されていない。 よって、タンパク質バンドがブロードであるか否か、電気泳動像の全体的な鮮明さがどの程度であるかにかかわらず、いずれかの「SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)において、泳動用色素がゲルの泳動末端側に到達した後ゲルをCBB染色したときに、目視により、セリシン3のバンドの存在を確認でき、且つ、セリシン1及びセリシン2のバンドの存在を確認できない」ことを満たす繭糸は本願発明1に係る「実質的にセリシン3からなる」を満たすことになる。 したがって、「セリシンおよびフィブロインを含む繭糸であって、前記セリシンが実質的にセリシン3からなる、繭糸。」に様々に含まれる各種の繭糸に引用文献1に記載された繭糸が含まれるという判断に誤りがあるとはいえない。 以上のとおりであるから、請求人の主張はいずれも採用することができない。 第5 理由C(進歩性)についての当審の判断 1 引用文献3の記載事項 引用文献3(特開2018-007569号公報)には、以下のとおり記載されている。 (カ) 「【0025】 本発明の遺伝子により機能が不全化される組織としては、後部絹糸腺、中部絹糸腺、膵島細胞、神経細胞、おしべなどが挙げられる。例えばカイコガでは後部絹糸腺を機能不全化することでフィブロインを欠損したセリシンからなる繭糸の産生が可能になり、中部絹糸腺を機能不全化することで、フィブロインからなる繭糸を産生することができる。膵島細胞の機能不全化は糖尿病モデル動物の作製に有効であり、特定の神経細胞を機能不全化することで、認知症、統合失調症、うつ病、パーキンソン病などの中枢神経系疾患の動物モデルの作製に有効である。また、おしべを機能不全化した植物は、花粉症に有効である。 【0026】 本発明の好ましい実施形態において、カイコガの後部絹糸腺を本発明の遺伝子の発現により機能不全化させると、セリシンからなる繭糸が得られ、セリシンを容易に分離、精製できるので好ましい。本発明の遺伝子を後部絹糸腺で選択的に発現させて後部絹糸腺のみ機能不全化するためには、例えばフィブロイン合成に関与するフィブロインH鎖、フィブロインL鎖、P25のようなフィブロイン関連遺伝子のプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子を導入し、後部絹糸腺でADPリボシル化ドメインを発現させればよい。また、フィブロインからなる繭糸を得る場合には、中部絹糸腺で選択的に発現されるセリシン遺伝子のプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子を導入して、中部絹糸腺を機能不全化させればよい。セリシン、フィブロインの遺伝子は、繭糸を産生する時点で発現されるので、それまでのカイコガの成長に影響せず、繭糸を産生するような成熟した段階になって後部絹糸腺或いは中部絹糸腺が機能不全化しても、繭糸の組成が変化するのみであり、生殖能力には影響しないので、子孫を残すことができる。 【0027】 また、植物に関しては、花粉の産生に関与する遺伝子のプロモーター、おしべで特異的に発現する遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。本発明の遺伝子がおしべで特異的に発現される染色体に安定的に保持されたホモ型の種子植物は、自身では花粉は産生されないが、他の同種植物の花粉により受粉できるので、花粉を産生しない植物の子孫を残すことができる。 【0028】 本発明の遺伝子発現を制御するプロモーターは、テトラサイクリンプロモーターなどの誘導性プロモーター、後部絹糸腺に対するフィブロイン関連遺伝子プロモーター、中部絹糸腺に対するセリシンプロモーター、・・・・などが挙げられる。」 (キ) 「【0035】 本発明の遺伝子は、ADPリボシル化活性を有するポリペプチドをコードするものであり、例えば、配列番号3に記載のピエリシン1AのADPリボシル化ドメインをコードする塩基配列であってもよく、配列番号1に記載のピエリシン1Aの全長をコードする塩基配列であってもよい。さらに、ADPリボシル化活性を有するポリペプチドをコードするものであれば、その配列は、置換、付加、欠失、挿入などにより改変されていてもよい。 【0036】 1若しくは複数の塩基の置換、付加、欠失、挿入などの遺伝子の改変は、PCRによる変異導入法、部位特異的突然変異導入法、自動核酸合成法などの公知の方法に基づき行うことができる。 【0037】 この遺伝子は、宿主となる動物細胞において機能することができるプロモーターの制御下に置くことができる。このようなプロモーターは、宿主細胞で発現可能であれば特に限定されないが、配列番号3の遺伝子の発現産物の細胞毒性により動物の子孫が残せない事態を避けるために、発生後の適当な時期に特定の組織又は細胞タイプで働く特異的プロモーター、誘導性プロモーター、或いはその臓器もしくは組織が障害を受けても子孫を残すことができる臓器/組織特異的に発現する遺伝子のプロモーターが好ましい。本発明の遺伝子又はタンパク質は、全身で発現させると致命的となるので、動物における発現が致命的とならない臓器組織若しくは細胞で発現させることになる。」 2.引用文献3に記載された発明 引用文献3には、フィブロインからなる繭糸を得る場合には、中部絹糸腺で選択的に発現されるセリシン遺伝子のプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子を導入して、中部絹糸腺を機能不全化させればよいこと、セリシン、フィブロインの遺伝子は、繭糸を産生する時点で発現されるので、それまでのカイコガの成長に影響せず、繭糸を産生するような成熟した段階になって後部絹糸腺或いは中部絹糸腺が機能不全化しても、繭糸の組成が変化するのみであり、生殖能力には影響しないので、子孫を残すことができることが記載されている(記載事項(カ)【0026】)。 3.対比・判断 引用文献3には、セリシン遺伝子のプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子を導入して、中部絹糸腺を機能不全化させたカイコガが記載されており、引用文献3に記載された発明と本願発明2とを比較すると、引用文献3に記載された「セリシン遺伝子のプロモーター」、「遺伝子を導入して、中部絹糸腺を機能不全化させたカイコガ」は、それぞれ本願発明2の「セリシンプロモーター」、「遺伝子組換えカイコ」に相当し、引用文献3に記載された「ADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子」は本願発明2の「配列番号1の塩基配列」と「ADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子」である限りにおいて一致する。 したがって、引用文献3に記載された発明は、本願発明2と「セリシンプロモーターとADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子とが作動可能に連結されたDNAを有する遺伝子組換えカイコ」である点で一致し、引用文献3に記載された発明は、ADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子が本願配列番号1の塩基配列からなるものであることが特定されていない点で相違する。 しかしながら、引用文献3には、ADPリボシル化活性を有するポリペプチドをコードするものとして、例えば、配列番号3に記載のピエリシン1AのADPリボシル化ドメインをコードする塩基配列であってもよいことが記載されており、引用文献3配列表配列番号3に記載の867塩基からなるピエリシン1AのADPリボシル化ドメインをコードする塩基配列は、本願配列表配列番号1の867塩基からなるピエリシン1AのADPリボシル化ドメインをコードする塩基配列と完全に一致する。 したがって、引用文献3に接した当業者であれば、セリシン遺伝子のプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子を導入して、中部絹糸腺を機能不全化させたカイコガを作製するにあたって、ADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子として同じ引用文献3に記載されたピエリシン1AのADPリボシル化ドメインをコードする塩基配列として、引用文献3の配列番号3に記載のものすなわち、本願配列番号1の塩基配列からなるものを選択することにより本願発明2をなすことに困難性を見いだすことはできない。 本願発明3は本願発明2に係るカイコを生育して、繭糸を分離する工程を含む、繭糸の製造方法であるが、引用文献3に記載された発明において、繭糸を産生することも記載されているから、同様に当業者にとって容易になしうることである。 4.令和7年9月17日付け意見書における主張について 請求人は、「後部絹糸腺あるいは中部絹糸腺でモンシロチョウ由来のピエリシンを発現することでそれぞれの絹糸腺の機能を不全化することは謂わばトンネルという構造物を想定すれば大きく異なることがより解りやすいと言える。絹糸腺というトンネルの出発点に相当する後部絹糸腺を機能不全化しても中部絹糸腺以降への影響はないだろうと想定されたが、トンネルの中央部に相当する中部絹糸腺を機能破壊することで後部絹糸腺から管腔内に分泌されたフィブロインがその中部絹糸腺を経て前部絹糸腺へと送り出されて吐糸口から糸が出るのかは全く不明であった。またカイコは糸を吐くのは繭を作るためだけではなく脱皮の際の足場を作るためにも重要であり糸を吐かなければ脱皮することができない。一方、カイコが糸を吐く理由は大量の桑葉を摂食することによって体内に多量に蓄積したアミノ酸を体外に排出するためでもある。このことから中部絹糸腺を機能不全化することでカイコを育成できるかは実際にやってみないとわからなかった。」と主張する(主張Cア)。 また、請求人は、「拒絶理由で請求人は自らの引用文献3(特開2018-007569号公報)で、「フィブロインからなる繭糸を得る場合には、中部絹糸腺で選択的に発現されるセリシン遺伝子のプロモーターの制御下にADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子を導入して、中部絹糸腺を機能不全化させればよい。セリシン、フィブロインの遺伝子は、繭糸を産生する時点で発現されるので、それまでのカイコガの成長に影響せず、繭糸を産生するような成熟した段階になって後部絹糸腺或いは中部絹糸腺が機能不全化しても、繭糸の組成が変化するのみであり、生殖能力には影響しないので、子孫を残すことができる。」と記載していることで進歩性を喪失していると指摘している。 しかし、カイコが糸を吐くのは脱皮を繰り返して成長すること、体内に蓄積したアミノ酸を体外に排出することで蛹そして蛾へと変態することができるのであって、引用文献3に記載した中部絹糸腺を機能を不全化しても繭糸の組成が変化するのみであり、生殖能力には影響しないので、子孫を残すことができるという記載は類推というよりもあえて言えば科学的に誤った記述であった。」と主張する(主張Cイ)。 主張Cアについて検討する。 引用文献3には、請求人が主張する、「トンネルの中央部に相当する中部絹糸腺を機能破壊することで後部絹糸腺から管腔内に分泌されたフィブロインがその中部絹糸腺を経て前部絹糸腺へと送り出されて吐糸口から糸が出」ない可能性については何ら記載されておらず、そのようなことが本願出願日当時の当業者にとって技術常識であったことを示す具体的な証拠は何ら示されていない。 そして、引用文献3には、「配列番号3の遺伝子の発現産物の細胞毒性により動物の子孫が残せない事態を避けるために、発生後の適当な時期に特定の組織又は細胞タイプで働く特異的プロモーター、誘導性プロモーター、或いはその臓器もしくは組織が障害を受けても子孫を残すことができる臓器/組織特異的に発現する遺伝子のプロモーターが好ましい。本発明の遺伝子又はタンパク質は、全身で発現させると致命的となるので、動物における発現が致命的とならない臓器組織若しくは細胞で発現させることになる。」(【0037】)、「セリシン、フィブロインの遺伝子は、繭糸を産生する時点で発現されるので、それまでのカイコガの成長に影響せず、繭糸を産生するような成熟した段階になって後部絹糸腺或いは中部絹糸腺が機能不全化しても、繭糸の組成が変化するのみ」(【0026】)であると記載されているから、このような引用文献3の記載に接した当業者は、同じ引用文献3に記載されたピエリシン1AのADPリボシル化ドメインをコードする塩基配列として、引用文献3の配列番号3に記載のもの、すなわち、本願配列番号1の塩基配列からなるものを選択した上で、本願発明2に係る「セリシンプロモーターとADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子とが作動可能に連結されたDNAを有する遺伝子組換えカイコ」を得ようとする強い動機付けを抱くものと解される。 さらに、本願発明2は、「セリシンプロモーターと配列番号1の塩基配列とが作動可能に連結されたDNAを有する遺伝子組換えカイコ。」であって、吐糸口からフィブロインのみの繭糸を吐くことは発明特定事項ではないから、当該主張は特許請求の範囲に基づくものではなく、仮に請求人が主張するように「トンネルの中央部に相当する中部絹糸腺を機能破壊することで後部絹糸腺から管腔内に分泌されたフィブロインがその中部絹糸腺を経て前部絹糸腺へと送り出されて吐糸口から糸が出」ないとしても、本願発明2が引用文献3記載の発明から容易になし得たものであるかを左右しない。 主張Cイについて検討する。 引用文献3には、請求人が主張する、「カイコが糸を吐くのは脱皮を繰り返して成長すること、体内に蓄積したアミノ酸を体外に排出することで蛹そして蛾へと変態することができるのであって、引用文献3に記載した中部絹糸腺を機能を不全化しても繭糸の組成が変化するのみであり、生殖能力には影響しないので、子孫を残すことができるという記載は類推というよりもあえて言えば科学的に誤った記述で」ある可能性については何ら記載されておらず、そのようなことが本願出願日当時の当業者にとって技術常識であったことを示す具体的な証拠は何ら示されていない。 そして、引用文献3に記載された中部絹糸腺を機能を不全化しても繭糸の組成が変化するのみであり、生殖能力には影響しないので、子孫を残すことができるという記載が科学的に正しかったことは、本願明細書【0027】【0028】に「G0世代どうしの交配で得られるG1世代卵の中で、気管形成期以降に神経においてEGFPを発現している個体を選抜した。選抜したEGFP陽性個体を交配し、得られる子孫の中で特に強いEGFP蛍光の形質を持ち、高フィブロイン繭を作る系統を選抜した(G2世代)。」と記載されているとおりである。 したがって、請求人が主張するような、中部絹糸腺を機能を不全化することにより、生殖能力に影響が及び、子孫を残すことができない可能性が仮にあったとしても、上記の強い動機付けを打ち消してまで、本願発明2に係る「セリシンプロモーターとADPリボシル化ドメインをコードする遺伝子とが作動可能に連結されたDNAを有する遺伝子組換えカイコ」の作出を断念するほどの具体的な事情があったとは認められない。 したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。 第6 理由D(実施可能要件、サポート要件)についての当審の判断 1.合議体の判断 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる、すなわちその発明を製造ないし使用することができる記載がなければならない。 ここで、本願発明1は、 「セリシンおよびフィブロインを含む繭糸であって、前記セリシンが実質的にセリシン3からなる、繭糸。」 によって特定されるものである。 したがって、本願発明1の繭糸を当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造することができるというためには、上記条件を全て満たす繭糸を、当業者が出願時の技術常識を参酌しながら製造できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていなければならない。 発明の詳細な説明の記載には、Ser1プロモーター(-1196~-1)と、サイポウイルスH1およびC末端にFLAGをつけたピエリシン1A(P1A:アミノ酸番号2-269、この塩基配列は配列番号1)融合配列と、インビトロジェンpIZ/V5-His由来のpolyA付加シグナルの部分をpBacMCS[UAS-SV40, 3xP3-EGFP]のBln Iサイトにin fusion 法により挿入し、pBacMCS[Ser1pro-H1/P1A/FLAG, 3xP3-EGFP]を得、産卵後3-8時間のw1-pndの卵の胚発生域に、200μg/μLのドナープラスミドとピギーバック発現用ヘルパープラスミドを含むリン酸緩衝液(pH7.0)を、フェムトジェット装置(エッペンドルフ社製)を用いて注入した(G0世代)こと、G0世代どうしの交配で得られるG1世代卵の中で、気管形成期以降に神経においてEGFPを発現している個体を選抜したこと、選抜したEGFP陽性個体を交配し、得られる子孫の中で特に強いEGFP蛍光の形質を持ち、高フィブロイン繭を作る系統を選抜した(G2世代)こと、この系統について、マーカーのEGFP蛍光の強さからホモ系統を選抜して、以後同系交配を繰り返すことにより、高フィブロイン繭を作る遺伝子組換えカイコを作出したことが記載されている(【0026】~【0028】)。 すなわち発明の詳細な説明の実施例1に、「5齢幼虫を新聞紙に包み、室温で静置し、5日後に繭を回収して、実施例1の繭糸を得」、SDS-PAGE(5~20%グラジエントゲル)で分離しフィブロインとセリシン3が含まれた繭であることが示された遺伝子組換えカイコは、単にSer1プロモーターと、ピエリシン1Aをカイコに導入して遺伝子組換えを行い(G0世代)、G0世代どうしの交配で得られるホモ系統G1世代ではない。 G0世代どうしの交配で得られるG1世代卵の中で、気管形成期以降に神経においてEGFPを発現している個体を選抜したこと、選抜したEGFP陽性個体を交配し、得られる子孫の中で特に強いEGFP蛍光の形質を持ち、高フィブロイン繭を作る系統を選抜し(G2世代)マーカーのEGFP蛍光の強さからホモ系統を選抜して、以後同系交配を繰り返したことによって得られた遺伝子組換えカイコが上記実質的にセリシン3からなるセリシンおよびフィブロインを含む繭糸を産生したことを示すのみであって、単にSer1プロモーターと、ピエリシン1Aをカイコに導入して遺伝子組換えを行い(G0世代)、G0世代どうしの交配で得られるホモ系統G1世代がそもそも吐糸できたか、セリシン1、セリシン2、セリシン3の割合がどのような繭糸を産生したかは示されておらず、セリシンが実質的にセリシン3からなる繭糸をホモ系統G1世代が産生していたことをうかがわせる記載もない。 そして、ピエリシン1Aが導入されたカイコの中部絹糸腺組織の各細胞のうちどの細胞群においてピエリシン1Aによるアポトーシスが生じ、どのように又はどの程度機能不全が生じるかは単にSer1プロモーターによって誘導されるだけでは制御できるものではなく、さまざまな程度に中部絹糸腺組織が破壊されたカイコが得られる中で、実際に人為選択においてどの個体が交配親に選択されるかによって左右されることとなり、それらの中で特に強いEGFP蛍光の形質を持ち、高フィブロイン繭を作る系統を選抜する操作(G2世代)や、同系交配を繰り返す操作は、オスのカイコとメスのカイコの間に交配に伴う遺伝子の組換えが生じるため、再現性があるとはいえない。 よって、発明の詳細な説明の実施例1に、「5齢幼虫を新聞紙に包み、室温で静置し、5日後に繭を回収して、実施例1の繭糸を得」、SDS-PAGE(5~20%グラジエントゲル)で分離しフィブロインとセリシン3が含まれた繭であることが示された遺伝子組換えカイコと同一ないし同等の遺伝子組換えカイコを、発明の詳細な説明の記載のみから得られるということもできない。 そうすると、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識から、本願発明1の繭糸を製造するためのカイコや当該カイコによって製造された繭糸を当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造することができるとはいえないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 本願発明の課題は、取り扱い性に優れる新たな性質の繭糸及びその製造方法、並びに当該繭糸を生成する遺伝子組換えカイコを提供することである(【0006】)ところ、本願発明1は、発明の詳細な説明において本願発明の課題を解決できるカイコや繭糸が得られることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2.令和7年9月17日付け意見書における主張について 請求人は、「それに対してピエリシンを発現することで組織・器官を機能不全化することは完全な遺伝子発現の消失であり、RNAiのような「選抜」は必要ではなく、単にヘテロ接合体同士の交配でホモ接合体を得るだけでよい。」と主張する(主張Dア)。 主張Dアについて検討する。 発明の詳細な説明には、単にSer1プロモーターと、ピエリシン1Aをカイコに導入して遺伝子組換えを行い(G0世代)、G0世代どうしの交配で得られるホモ系統G1世代は選抜するまでもなく、どの個体も吐糸でき、セリシン1、セリシン2、セリシン3のうち実質的にセリシン3からなる繭糸を産生できていたことは示されておらず、そのようなことをうかがわせる事情も見出せない。 そして、発明の詳細な説明の実施例1に、「5齢幼虫を新聞紙に包み、室温で静置し、5日後に繭を回収して、実施例1の繭糸を得」、SDS-PAGE(5~20%グラジエントゲル)で分離しフィブロインとセリシン3が含まれた繭であることが示された遺伝子組換えカイコは、得られる子孫の中で特に強いEGFP蛍光の形質を持ち、高フィブロイン繭を作る系統を選抜した(G2世代)こと、この系統について、マーカーのEGFP蛍光の強さからホモ系統を選抜して、以後同系交配を繰り返したことによって得られた個体であることが明記されている。 したがって、ピエリシンを発現することで組織・器官を機能不全化することはただちに完全な遺伝子発現の消失となることを裏付ける発明の詳細な説明の記載や出願日当時の技術常識はないし、RNAiのような「選抜」は必要ではないとの主張も発明の詳細な説明の記載と整合しない。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、本願発明1~3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許請求の範囲の請求項1の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が、請求項1に係る発明について、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-016441

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