特許拒絶査定不服審判
2024-004606
美容用具
- 審判番号
- 2024-004606
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-121139外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年03月15日
- 審決日
- 2025年10月15日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (A45D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-121139「美容用具」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 1月21日出願公開、特開2021- 6190〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続きの経緯
本願は、令和元年6月28日に出願された特願2019-121139号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和5年 4月27日付け:拒絶理由通知
令和5年 9月4日:意見書、手続補正書の提出
令和5年 12月6日付け:拒絶査定
令和6年 3月15日:審判請求書、手続補正書の提出
令和7年 6月25日付け:拒絶理由通知
令和7年 8月26日:意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 顔面の少なくとも一部と接触可能な接触面を有し、口及び鼻孔を覆った状態で保持される美容用具本体と、
前記接触面に、塗布量20~150g/m2で塗布された薬剤とを備え、
前記薬剤が、酸化銀と、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルと、二価アルコールと、三価アルコールとを含み、
前記三価アルコールの含有率が30~70質量%であり、
水の含有率が25質量%以下であることを特徴とする美容用具。」
第3 拒絶の理由
令和7年6月25日付けで当審が通知した拒絶理由は、次の理由を含むものである。以下では、その概要を示す。
(進歩性)本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献等1に記載された発明、引用文献等2から4に示される技術常識、及び引用文献等5に掲載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等1.特開2019-10377号公報
引用文献等2.浅賀良雄,「化粧品の微生物試験ガイドブック」,第一刷,株式会社 薬事日報社,2019年5月13日,p.11-17,p.27-31,奥付
引用文献等3.谷口康将,外1名,“最小発育阻止濃度(MIC)を基準とした予測式からの化粧品の保存効力の予測”,日本化粧品技術者会誌,2012年,第46巻,第4号,p.295-300,[online],[取得日 2025年6月18日],取得先<https://doi.org/10.5107/sccj.46.295>
引用文献等4.佐藤章弘,「食品・化粧品・医薬品への保存料・防腐剤の最適な配合法」,第1版第1刷,株式会社 技術情報協会,2014年9月30日,p.50-54,p.225-240,奥付
引用文献等5.“エンリッチコンセントレートセラム エイジングケアのための高濃度APPS美容液 CYCLE PLUS”,2018年8月31日,取得日2025年6月18日,取得先<https://web.archive.org/web/20180831030431/http://cycleplus.jp/lineup/en_serum.html>
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献等1の記載及び引用発明
引用文献等1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(1)「【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態のマスク1について、図1~図4を参照しながら説明する。本マスク1は、就寝時等に着用されることにより、顔の美容効果(保湿効果等)やリフトアップ効果を得ることが可能なものである。
【0017】
マスク1は、マスク本体10と、一対の保持部30と、薬剤層40(図3を参照)と、を備えている。以下、保持部30同士を結ぶ方向(図2の左右方向)を幅方向と称し、幅方向に直交する方向(図1及び図2の上下方向)を上下方向と称する。
【0018】
マスク本体10は、図3に示されるように、肌(顔面)に触れる側の部位である内層10Aと、外気に触れる側の部位である外層10Bと、内層10Aと外層10Bとの間に設けられた中間層10Cと、からなる三層構造を有している。各層10A~10Cは、後述する溶着部12A及び外縁部分を除いて、互いに接着されることなく重ね合わされている。
【0019】
内層10Aは、スパンレース法により形成されたスパンレース不織布からなる。内層10Aは、分割繊維で構成されている。本実施形態では、内層10Aは、65%のポリエチレンテレフタレート及び35%のナイロンで構成されている。この内層10Aの内面に、薬剤層40(図3において斜線で示されている部位)が設けられている。
【0020】
薬剤層40は、内層10Aの内面に塗布された薬剤(肌への美容効果を有する成分を含有するもの)からなる。本実施形態では、薬剤として、保湿剤が用いられている。薬剤層40は、保湿成分、防腐剤及び水を含む。保湿成分としては、グリセリン、コラーゲン、ヒアルロン酸、セラミドまたはスクワランが例示されるが、不織布に塗布して保湿効果を発揮するという観点から、特にグリセリン及び醗酵ヒアルロン酸が好ましい。防腐剤としては、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピルまたはフェノキシエタノールが例示されるが、カビ菌への抵抗性を発揮するという観点から、特にブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルが好ましい。なお、薬剤として、美白剤(ビタミンC誘導体、ハイドロキノン、アルブチン等)、収斂剤(クエン酸、ミョウバン、エタノール等)、皮膚保護剤、皮膚栄養剤等が用いられてもよい。
【0021】
薬剤の内層10Aの内面への塗布量は、20g/m2以上150g/m2以下に設定される。前記塗布量は、40g/m2以上80g/m2以下に設定されることがより好ましい。本実施形態では、前記塗布量は、60g/m2に設定されている。薬剤層40を構成する薬剤は、使用者の呼気による水蒸気を抱水することで保湿効果を更に向上させる観点から、50重量%以上のグリセリンを含む。」
(2)「【0032】
以上に説明したように、本実施形態のマスク1では、一対の耳掛け部30が耳に掛けられたとき(一対の保持部30によってマスク本体10が口及び鼻孔を覆った状態に保持されたとき)に、薬剤層40のうち内側被覆部20の内面に位置する部位が目の下の部位に接触するとともに、薬剤層40のうち外側被覆部22の内面に設けられた部位が目尻及びその近傍の部位に接触する。このため、目尻を含む美容のニーズの高い目元近傍の部位の美容効果が得られる。よって、このマスク1の着用により顔の美容効果が高まる。」
(3)「【0039】
また、本マスク1では、薬剤層40がマスク本体10の内面に設けられているので、就寝中にマスク1を着用した場合であっても、就寝中における薬剤の布団への付着が防止され、また、薬剤の塗布量が20g/m2以上であるので、化粧用マスクのような使用感を得ながら顔の美容効果を得ることができる。
【0040】
さらに、薬剤の塗布量が150g/m2以下であるので、就寝中における布団への薬剤の付着が抑制され、かつ、呼吸のしやすさが確保される。」
上記(1)~(3)を踏まえると、引用文献等1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
(引用発明)
「マスク本体10と、前記マスク本体10の内面に設けられた薬剤からなる薬剤層40と、を備えるマスク1であって、前記薬剤層40は、マスク本体10が口及び鼻孔を覆った状態に保持されたときに、目の下の部位、目尻及びその近傍の部位に接触し、
前記薬剤の前記マスク本体10の内面への塗布量は、20~150g/m2であり、
前記薬剤は、保湿成分、防腐剤及び水を含み、
保湿成分として、50重量%以上のグリセリン、
防腐剤として、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、を含む
化粧用マスクのような使用感で顔の美容効果を得ることが可能なマスク1。」
2 引用文献等2の記載
引用文献等2には、以下の事項が記載されている。
(1)「4 油と水に分配した防腐剤は、他の成分が混入した場合どのように影響されるだろうか
実際に測定してみると、化粧品の重要な構成成分である保湿剤の中にはパラベンの分配に大きな影響を及ぼすものが確認されている。一方、分配に影響のない保湿剤もある。
プロピレングリコール(PG)、ブチレングリコール(BG)など水酸基を2つ有する二価ポリオールはパラベンの水相部への分配量に良い影響を与えることが確認されている。
また、二価ポリオールは一価のエタノールほどではないが、一定濃度以上では単独でも大腸菌などのグラム陰性細菌に防腐力を発揮することが既に知られている。防腐力向上に活用できる情報である。」(第11ページ第1~10行)
(2)「 以上のことから、化粧品の水溶性原料を全て混合溶解した水溶性全成分中での二価ポリオールの濃度計算値が、その製品の保存効力を診断する上でいろいろ役立つということを示唆している。
具体的な計算式を以下に示す。
ここでは二価ポリオールの配合量ではなくて、その水相における濃度(%)が肝心である。
(A)×100
------------------
水量+(A)+(B)
・菌に防腐効果がある保湿剤(A):プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、さらに一価のエタノールなどの配合量(g)
・菌に防腐効果がない保湿剤(B):グリセリン、エリスリトール、ソルビトール、ポリエチレングリコールなどの配合量(g)」(第15ページ第7~22行)
(3)
「Q2 1,3-ブチレングリコール(BG)は水分活性を下げるから防腐効果があると思っていたが、1,3-BG自体も菌に作用するのか。
A2 1,3-BGは7%以上配合で大腸菌を抑制し、30%以上配合で水分活性を下げて菌を抑制する。
1960年代の文献にプロピレングリコール(PG)がグラム陰性(GN)細菌に効果を示したとの報告があり、それより炭素数が1つ多い1,3-BGはより効果があることがわかっている。
●文献 Prickett.P.S.,J.Pharm.Sci.,50.316.(1961)
Woodford.R.et al.,Am.Cosmet.Perf.,87.2.53.(1972)
PG、BGなどの水酸基(-OH基)が2つ付いている二価ポリオール類は、その水相での濃度が10%~7%程度で大腸菌などのGN細菌に特異的に抑制効果ないし死滅効果が確認されている。しかしグラム陽性菌、真菌には効果を示さない。構造式でいうと、炭素数3のPGは10%以上で、炭素数4のBGは7%以上で、炭素数5のペンチレングリコールは5%以上で、というように炭素数が長くなるにつれて低い濃度でGN細菌に対する抑制効果が増す。
この二価ポリオール類の抑制効果をいかに化粧品に活用できるかが重要となる。
この情報は近年の日本防菌防黴学会誌やフレグランスジャーナル誌などに何度も紹介されている。
一方、BG、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコールなど多くの保湿剤は水酸基の数や炭素数に関係なく全て水分活性(Aw)を下げる作用があり、多量配合すればするほど微生物の増殖抑制効果を示すことがわかっている。水分活性は、水分子を結合する物質が多量に溶けることで水蒸気圧が下がり微生物が水を利用できなくなることを利用した、菌を抑制する作用であり食品の保存技術として古くから研究されている。水分活性0.94以下で緑膿菌を、0.90以下で多くのGN細菌を、0.8以下で酵母を、0.7以下で黄色ブドウ球菌を抑制できるように、乾燥に強い菌も抑制できる。」(第28ページ第22行~第29ページ第24行)
(4)「Q5 グリセリンは防腐効果なしとの情報があるが、一方では防腐剤だと聞いたこともある。どちらが正しいのか。
A5 グリセリンに防腐効果があるというのは、間違った情報である。
グリセリンは防腐剤ではなく、微生物の抑制効果はない。水酸基が3つあり、微生物に対する防腐効果は全くないので誤解のないように。グリセリンはパラベンの分配には全く影響しないが、肌荒れに対する改善効果に優れた化粧品原料である。唯一、GN細菌に効果を示すのは、グリセリンが30%以上配合されて水分活性が極端に下がった場合だけである。」(第30ページ下から第2行~第31ページ第7行)
3 引用文献等3の記載
引用文献等3には、以下の事項が記載されている。
(1)「化粧品では抗菌性原料は組み合わせて使用される場合が多いが,このような場合でもそれぞれの抗菌性原料が相加的に作用していると仮定すれば,それぞれの抗菌性原料に対する抗菌指数の合計値が指標になると考えられる。」(第295ページ右欄第1~5行)
(2)「2.2 抗菌性原料
化粧品に汎用される下記8種類の抗菌性原料を,以下の試験に使用した。(括弧内は略号)
パラオキシ安息香酸メチル(MP),フェノキシエタノール(Phe),1,3―ブチレングリコール(BG),1,2―ペンタンジオール(PD),エタノール(EtOH),ジプロピレングリコール(DPG),1,2―ヘキサンジオール(HD),1,2―オクタンジオール(OD)」(第295ページ右欄下から第3行~第296ページ左欄第5行)
(3)「別の例では,BG,DPG等の多価アルコールを水相に対して8%以上使用した場合が挙げられる。これらの抗菌性原料には,原料自身が有する抗菌作用に加え,水分活性を低下させる効果があるため,予測よりも小さい抗菌指数において保存効力が合格となったものと推察する。」(第299ページ左欄下から第5行~右欄第1行)
4 引用文献等4の記載
引用文献等4には、以下の事項が記載されている。
(1)「1.4 化粧品の組み合わせ特許は容易に作成できる
化粧品分野においては他分野に比べて発明の新規性を訴求しやすい。そのため,他分野では成立しないような既存成分を組み合わせた特許も化粧品においては成立することがある。例えば,単一の防腐剤のみの配合では十分な防腐効果が得られないことも少なくないので,複数の防腐剤を組み合わせて処方設計が行われることがある。」(第51ページ第15~18行)
(2)「3.2 多価アルコール
ジプロピレングリコール,1,3ブチレングリコール,プロピレングリコール,ヘキシレングリコール,1,3プロパンジオールなどの多価アルコールを配合することにより製剤の防腐力は増強効果される。(中略)
多価アルコールの防腐力増強効果には3つのメカニズムが考えられる。実際はこれら3つのメカニズムのどれかではなく3つの相乗・相加効果で防腐力が高まると考えられる。
(1)多価アルコール自身の抗微生物効果
多価アルコールの中には微生物の細胞膜などに作用して抗微生物活性を持つものがある。(中略)
(3)製剤の水分活性低下
製剤中の水分活性を下げることにより微生物の増殖は抑えられる。ジプロピレングリコールなどと異なり,濃グリセリン自身は殺菌性を持たない。よって濃グリセリンを5%や10%配合しても製剤の防腐力向上は望めない。ただし濃グリセリンは吸水作用があるので,製剤自体の水分活性が低下するほど高濃度に配合すると製剤に静菌性を持たせることもできなくはない。場合によっては防腐剤を配合しない製剤の調製も考えられる。」(第53ページ第24行~第54ページ第15行)
(3)「表1 化粧品に配合が認められている防腐剤一覧(化粧品基準別表第3) (中略)フェノキシエタノール(中略)カルバミン酸ヨウ化プロピニル」(第225ページ第10行)
(4)「3.1 水を配合しない
特殊な環境下で生存する一部を除き微生物が増殖するには栄養素の存在や適当な温度のほか,水の存在が不可欠となっている。つまり微生物の育成は水分が減少するに従って阻害され,水分が一定限度以下になれば完全に阻止される。このため食品においては乾燥させることが保存性向上の手段として古くから使われている。化粧品においても水を使わない処方設計は有効な手段の一つである。」(第226ページ第2~6行)
(5)「3.5 多価アルコールを配合する
水酸基など水と水素結合を形成する部位を多く含む化合物を水に溶解させるとこれらの化合物と水素結合を起こした水(結合水)が増える。一般的な微生物が利用できるのは自由に運動できる自由水であり,なんらかの化合物と水素結合を形成している結合水中では微生物の増殖が抑えられる。水分を含むにもかかわらず塩漬けや砂糖漬けにすることで食品の保存効力が向上するのはこのためである。水分の中で自由水の占める割合を示す指標が水分活性で,1950年代に食品分野で導入された考え方である。(中略)化粧品においても同様に水分活性を低下させることで微生物の増殖抑制効果を得ることができるが,食塩や糖類は刺激や感触の問題があるので化粧品では多価アルコール類が用いられることが多い。(中略)化粧品の保存効力向上に効果がある多価アルコールとしては1,3-ブチレングリコール(化粧品表示名称「BG」),ジプロピレングリコール(化粧品表示名称「DPG」)」,1,2-ペンタンジオール(化粧品表示名称「ペンチレングリコール」),1,2-ヘキサンジオール(化粧品表示名称同),1,2-オクタンジオール(化粧品表示名称「カプリリルグリコール」),グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテル(化粧品表示名称「エチルヘキシルグリセリン」)が知られており,いずれも炭素鎖に2つの水酸基を有している構造が特徴である(第227ページ第13~下から第3行)。
(6)「(2)アルコール系化合物
化粧品中に配合されているアルコール系化合物としては,エタノールやイソプロピルアルコールなどの1価アルコール,及びグリコール類などの多価アルコールがあげられる。高濃度(70%)エタノールの抗菌作用は古くから知られており,消毒用として使用されている。一方グリコール類はヒドロトロープ能の高さから溶剤・不凍液として配合され,また水分保持力の高さから保湿剤としても配合されている。」(第234ページ第29~33行)
(7)「(4)無機化合物
金属イオン,特に重金属元素の化合物は,水溶液中でイオン化することにより細胞膜を透過し抗菌力を示すものがある。化粧品でよく用いられるものは銀(Ag)や銅(Cu)などである。」(第235ページ第17~19行)
(8)「第3節 化粧品用銀イオン水を用いた低刺激性化粧品への応用
はじめに
近年,敏感肌のユーザーが増えてきており低刺激性化粧品の開発が必要とされてきている。それらを処方設計する上で防腐剤や抗菌成分の選定が重要となってきている。
化粧水,乳液,クリームといった水を少なからず含有する化粧料には,化粧料の調合や生産時に微生物が混入する1次汚染の他,消費者が使用中に混入する2次汚染が生じることから,微生物の繁殖による変質を防止する為に防腐剤や抗菌成分が用いられている。
従来より防腐剤としては,パラオキシ安息香酸エステル類やフェノキシエタノール,また抗菌成分としては,1,3-ブチレングリコールやペンチレングリコール等のグリコール類及びエタノールなどが単独または複数組み合わせて用いられている。近年は、安全性志向の高まりにより,低刺激性を謳った化粧品が望まれる傾向であり,一部のユーザーに対して刺激性を有するパラベン類やフェノキシエタノールを減らした製品作りが求められている。近年多様(審決注。「多用」の誤記と認められる。)されているグリコール類単独では防菌効果を充分に発揮できないばかりでなく,化粧料の使用時にべとつき感が出てしまう。また一般的に安全性の高いと考えられるエタノールであっても,使用者によっては赤い発疹を起こすなど,刺激性が充分に低いとはいえない。
そこで近年は,皮膚刺激性を低下させる目的で,天然由来成分などを上記の合成系成分とともに用いる試みが行われている。しかしながら,これらの天然系の抗菌成分は,ロットぶれや充分な防菌効果を発揮するだけ配合した場合,着色が激しかったり,経時変化による着色や不所望の香りが生じるという問題があった。また,比較的低刺激性といえども,ある程度の皮膚刺激性があり,多量に配合した場合に問題となる場合がある。
1.Ag-P水の開発
銀は,銀食器等としても使用されており安全性が高く,抗菌性は古くから知られている。そこで化粧品で使用出来る銀イオン水の開発を行った。
銀は従来反応性が高く,製剤の変色が付き物でなかなか化粧品原料としては難しい物質であった。また銀がコロイド状では,接触面しか抗菌活性がなく,流動性のある製剤では沈降等で全体に抗菌活性が得られなかった。
そこで化粧品で求められる特性は,安全性が高く,保湿作用があり,においや色が無く,配合した際に経時での製剤の変色がおこりにくく,持続的に抗菌活性があり,低価格で安定供給可能な原料である。
Ag-P水の組成(表示名称)は,水,酸化銀,ホウケイ酸(Ca/Na)からなる銀イオン水(銀濃度3.5~4.5ppm毎LOT原子吸光光度法にて確認)であり,上記の特性を兼ね備えている。酸化銀はイオン化することが可能で,幅広く抗菌活性が得られる。また安定化させる目的でホウケイ酸(Ca/Na)を配合しており,共に鉱石由来の天然原料である。
銀は非常に低濃度で抗菌活性がある物質で,製剤中に0.4ppm含有しておれば製剤の抗菌や肌での抗菌目的に効果がある。」(第237ページ第1~30行)
(9)「化粧品で使用出来る安定的な銀イオン水(Ag-P水)を開発するのに3年かかり,現在販売から4年経過しているが,皮膚トラブルや製剤トラブルの報告は一度もなく,毎年様々な化粧品に配合され,着実に実績が増えている。」(第240ページ第6~7行)
5 引用文献等5の記載
引用文献等5には、次の事項が掲載されている。
(1)「Point.1 朝晩のお手入れに。化粧水でお肌を整えた後、手のひらに適量(100円大)を取り、顔全体にやさしくなじませてください。さらに適量を取り、気になる部分に重ねづけしてください。その後、乳液・クリームをお使いください。」
(2)「全成分表示 [エッセンス]水、グリセリン、BG、ジグリセリン、ペンチレングリコール、(中略)、酸化銀、フェノキシエタノール、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル」
上記(1)~(2)より、引用文献等5には、次の技術的事項(3)が掲載されていると認められる。
(3)顔面に適用する化粧品において、酸化銀、フェノキシエタノール、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルといった複数の抗菌剤(上記3(2)、4(3)、(7)~(9)等参照。)を用いること
6 技術常識
上記引用文献等2から4の記載より以下の(1)~(6)の技術常識が認められる。
(1)化粧品では、抗菌性原料が組み合わせて使用される場合が多いこと(上記3(1)、上記4(1))
(2)1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコールが菌に防腐効果がある保湿剤であること(上記2(2)、上記3(2)、及び上記4(2)、(5)、(6))
(3)ブチレングリコール、ジプロピレングリコールは、水相に対して7~10%以上使用すると抗菌性が向上し、多量に配合すると水分活性を低下させることで微生物の増殖抑制効果を示すこと(上記2(1)~(3)、上記3(2)及び(3)、上記4(2)、(5)及び(6))
(4)微生物を抑制する上で、水分活性を低下させることで微生物が水を利用できないようにすることが効果的であり、水を配合しないことも手段の1つであること(上記2(3)及び(4)、上記3(3)、上記4(2)、(4)~(5))
(5)グリセリンは微生物の抑制効果はないものの多量配合(30%以上)されると水分活性を下げる効果があること(上記2(4)、上記4(2))
(6)銀の抗菌性は古くから知られており、酸化銀を抗菌剤として用いた化粧品も知られていること(上記4(7)~(9))
第5 対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
引用発明の「化粧用マスクのような使用感で顔の美容効果を得ることが可能なマスク1」及び「マスク1」は、本願発明の「美容用具」に相当し、引用発明の「マスク本体10」は、本願発明の「美容用具本体」に相当する。
引用発明の「前記マスク本体10の内面に設けられた薬剤からなる薬剤層40」は、「目の下の部位、目尻及びその近傍の部位に接触」するものであるから、本願発明の「顔面の少なくとも一部と接触可能な接触面」に相当する。また、引用発明は、「マスク本体10が口及び鼻孔を覆った状態に保持されたときに、目の下の部位、目尻及びその近傍の部位に接触」するものであり、すなわち、「目の下の部位、目尻及びその近傍の部位に接触」し、「口及び鼻孔を覆った状態に保持され」る「マスク本体10」といえるから、本願発明の「顔面の少なくとも一部と接触可能な接触面を有し、口及び鼻孔を覆った状態で保持される美容用具本体」に相当する。
引用発明の「前記薬剤の前記マスク本体の内面への塗布量は、20~150g/m2であ」る構成は、本願発明の「前記接触面に、塗布量20~150g/m2で塗布された薬剤とを備え」る構成に相当する。
引用発明の「前記薬剤は、保湿成分、防腐剤及び水を含み、保湿成分として、50重量%以上のグリセリン、防腐剤として、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、を含む」構成は、グリセリンは三価アルコールであるから、本願発明の「前記薬剤が、酸化銀と、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルと、二価アルコールと、三価アルコールとを含み、前記三価アルコールの含有率が30~70質量%であり、水の含有率が25質量%以下である」構成と、「前記薬剤が、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルと、三価アルコールとを含み、前記三価アルコールの含有率が30~70質量%であり、水」を含有する点で共通する。
してみると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致し、相違する。
(一致点)
「 顔面の少なくとも一部と接触可能な接触面を有し、口及び鼻孔を覆った状態で保持される美容用具本体と、
前記接触面に、塗布量20~150g/m2で塗布された薬剤とを備え、
前記薬剤が、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルと、三価アルコールとを含み、
前記三価アルコールの含有率が30~70質量%であり、
水を含有する美容用具。」
(相違点1)
本願発明は、薬剤が、「二価アルコール」を含み、「水の含有率が25質量%以下である」のに対し、引用発明は、薬剤が二価アルコールを含有する点が明らかでなく、水の含有率も明らかでない点。
(相違点2)
本願発明は、薬剤が、「酸化銀と、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル」を含むのに対し、引用発明は、薬剤がブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルは含むものの、酸化銀を含まない点。
第6 判断
1 相違点について
上記相違点1について、検討する。
引用発明は、防腐剤としてブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルを含むものであり、防腐性を高めるといった課題もあると認められる。そして、化粧品では、抗菌性原料が組み合わせて使用される場合が多いこと(前記 第4 6(1))、微生物を抑制する上で、水分活性を低下させることで微生物が水を利用できないようにすることが効果的であり、水を配合しないことも手段の1つであること(前記 第4 6(4))を踏まえると、引用発明には、ほかの抗菌性原料を加える動機があり、また、水分活性を低下させることや水の含有率を設計変更する動機があるといえる。
してみると、引用発明の「前記薬剤の前記マスク本体の内面への塗布量は、20~150g/m2であり、前記薬剤は、保湿成分、防腐剤及び水を含み、保湿成分として、50重量%以上のグリセリン、防腐剤として、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、を含む」との条件を満たした上で、引用発明の保湿剤として、上述した技術常識に基づいて、菌に防腐効果がある保湿剤として知られる二価アルコール(前記 第4 6(2))を、抗菌性を向上させるために水相に対して7~10%以上使用すること(前記 第4 6(3))、微生物を抑制できるように水分活性を低下させるために(前記 第4 6(3)~(5))、二価アルコールの含有率、グリセリンの含有率、及び水の含有率の最適化又は好適化を試み、本願発明で特定される前記二価アルコールを含み、「水の含有率が25質量%以下である」程度の数値範囲とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
上記相違点2について、検討する。
銀の抗菌性は古くから知られており、酸化銀を抗菌剤として用いた化粧品も知られていることは、技術常識(前記第4 6(6))である。
また、顔面に適用する化粧品において、酸化銀、フェノキシエタノール、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルといった複数の抗菌剤を用いることも公知である(上記第4 5(3))。
上記相違点1の検討で上述したとおり、化粧品では複数の抗菌性原料が組み合わせて使用される場合が多いとの技術常識を踏まえれば、防腐剤を用いている引用発明にほかの防腐剤を組み合わせる動機があるといえ、引用発明に、引用文献等4に示される技術常識及び引用文献等5に掲載された技術的事項である抗菌剤として用いられる酸化銀を加え、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者にとって容易である。
したがって、引用発明を、引用文献等2から4に示される技術常識、引用文献等5に掲載された技術的事項に基づいて、本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。
2 本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果は、引用発明、引用文献等2から4に示される技術常識、引用文献等5に掲載された技術的事項から、当業者が予測できる範囲のものであって、格別顕著なものではない。
3 請求人の主張について
請求人は、令和7年8月26日付け意見書において「これに対して、引用文献等1には、補正後の本願請求項1に記載の薬剤が記載されていません。具体的には、本拒絶理由で相違点として認められていますように、引用文献等1には、薬剤が二価アルコールを含有すること、水の含有率が25質量%以下であること、及び、薬剤が酸化銀を含むことは少なくとも記載されていません。引用文献等1に記載の発明において、口や鼻孔を覆った状態で使用する際に呼吸がしにくくなる等の課題を解決するために、薬剤の塗布量を増やすのではなく、薬剤の塗布量を150g/m2以下に抑えて、就寝中のような長時間にわたって使用することができるようにしても、このような場合により求められることを本願発明に至る際に見出した防腐性をより高めるために、前記薬剤として、補正後の本願請求項1に記載の薬剤を選択することを、引用文献等2~4に基づく技術常識からは、当業者であっても容易に導き出すことはできないものと思料致します。また、引用文献等5は、酸化銀とブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルを配合する美容液が公知であることを認定するための引例であって、引用文献等5に記載の事項を参照しても、前記薬剤として、補正後の本願請求項1に記載の薬剤を選択することを当業者であっても容易に導き出すことはできないものと思料致します。」と主張している。
しかしながら、引用文献等1には、薬剤層が防腐剤を含むことが記載されており、引用発明が、十分な防腐性を付与することも課題として内在していることは当業者が把握できる事項である。そして、引用発明の防腐性をより高めるために、二価アルコールを加えること、水の含有率を下げること、酸化銀を加えることが、引用文献等2から4に示される技術常識、引用文献等5に掲載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであることは上述したとおりである。
よって、請求人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献等2から4に示される技術常識、及び引用文献等5に掲載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-004606