特許拒絶査定不服審判
2024-001449
対話生成方法、装置、電子機器及び記憶媒体
- 審判番号
- 2024-001449
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-193407外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年01月26日
- 審決日
- 2025年03月25日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ベイジン バイドゥ ネットコム サイエンス テクノロジー カンパニー リミテッド
- 【請求人代理人】名古屋国際弁理士法人
- 分類
- P18 .536-WZ (G06F) / P18 .537-WZ (G06F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-193407「対話生成方法、装置、電子機器及び記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔令和4年2月16日出願公開、特開2022-28889〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年11月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理日 2021年(令和3年)1月4日 中華人民共和国(CN))を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 9月13日付け:拒絶理由通知書
同年12月20日 :意見書、手続補正書
令和5年 3月23日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 6月27日 :意見書、手続補正書
同年 9月20日付け:拒絶査定
令和6年 1月26日 :審判請求書、手続補正書
同年 5月28日付け:前置報告書
同年 9月18日付け:拒絶理由通知書(以下、当該拒絶理由通知書に係る拒絶理由を「当審拒絶理由」という。)
同年12月24日 :意見書、手続補正書
第2 本願発明
本願の請求項1~15に係る発明は、令和6年12月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 対話生成装置によって実行される対話生成方法であって、
入力文を取得するステップと、
前記入力文に基づいて、現在の対話状態のトラッキングを行うことで、現在の対話状態を更新し、生成対象のタスク型応答文のタイプを決定するステップと、
前記入力文をタスク型の対話応答生成器に入力して、前記タスク型応答文を生成するステップと、
前記タスク型応答文のタイプが特定のタイプである場合、前記タスク型応答文がターゲット応答文であると決定するステップと、
前記タスク型応答文のタイプが特定のタイプではない場合、前記入力文の意図を決定し、前記入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定するステップと、を含み、
前記特定のタイプは、明確化のタイプと、満足のタイプとを含み、
前記入力文の意図は、雑談意図、需要意図、およびタスク意図を含む、
対話生成方法。」
第3 当審拒絶理由の概要
本願についての当審拒絶理由のうち、実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)及び明確性(特許法第36条第6項第2号)についての拒絶理由は、概略、以下のとおりである。
1 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
請求項1に記載の「前記タスク型応答文のタイプが特定のタイプではない場合、前記入力文の意図を決定し、前記入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定するステップ」(以下、「発明特定事項」という。)について、発明の詳細な説明には、「入力文の意図」を「決定」するために必要な技術的事項が記載されておらず、また、この技術的事項は記載を省略できるような技術常識であるとも認められないから、発明の詳細な説明は、前記発明特定事項について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
2 明確性(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1に記載の「需要意図」、「タスク意図」について、これらが具体的にどのような意図を示す文言として用いられているのか、「需要意図」と「タスク意図」は、どのように異なるものなのかが、明確でない。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
(2)請求項1に記載の「入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定する」の意味が不明である。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
第4 本願明細書等の記載
本願の願書に添付された明細書、特許請求の範囲、及び図面には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。以下同様。)。
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本開示は対話生成方法、装置、電子機器及び記憶媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
(中略)
【0009】
本開示によって提供される対話生成方法、装置、電子機器および記憶媒体は、以下のような有益な効果を有する。
【0010】
まず入力文を取得し、入力文に基づいて、現在の対話状態を更新して、生成対象のタスク型応答文のタイプを決定し、入力文をタスク型の対話応答生成器に入力して、対応するタスク型応答文を生成し、当該タスク型応答文のタイプが指定されたタイプである場合、当該タスク型応答文をターゲット応答文としてもよい。これにより、対話を生成する時、指定されたタイプのタスク型応答文を優先的にターゲット応答文として返すことにより、対話が順調に進むことを保障する前提で、できるだけタスク型応答文を返し、対話システムの性能を改善し、ユーザによりよく、より速い対話体験をもたらすことができる。」
「【0020】
図1は、本開示の実施例によって提供される対話生成方法のフローチャートである。
【0021】
本開示の実施例の対話生成方法は、本開示の実施例によって提供される対話生成装置によって実行されてもよく、当該装置は電子機器に配置されてもよい。説明を簡単にするために、本開示の以下の各実施例では当該対話生成装置は、すべて「生成装置」と省略する。
【0022】
図1に示すように、当該対話生成方法は以下のステップ101~104を含む。
【0023】
ステップ101において、入力文を取得する。
【0024】
入力文は任意の文であってもよく、言語、長さ、形式などに限定されない。例えば、入力文は中国語の文、英語の文などであってもよく、または疑問文、平叙文などであってもよく、音声の文、文字の文などであってもよいが、本開示はこれに対して限定するものではない。
【0025】
ステップ102において、入力文に基づいて、現在の対話状態を更新して、生成対象のタスク型応答文のタイプを決定する。
【0026】
タスク型応答文は複数のタイプがあり、例えば明確化、満足、疑問などであってもよく、本開示はこれに対して限定するものではない。
【0027】
本開示の実施例では、決定された生成対象のタスク型応答文のタイプの精度をさらに向上させるために、まず取得された入力文を口語で理解することができ、これによって入力文のセマンティック理解結果、例えば意図、含まれたワードスロットなどの情報を取得することができる。その後、対話状態のトラッキングによって、現在の対話状態を更新し、生成対象のタスク型応答文のタイプを決定する。
【0028】
例えば、取得された入力文は「明日の上海までの航空券を予約する」である場合、まずそれを口語で理解し、入力文のセマンティック理解結果を取得し、その意図は航空券を予約することであり、目的地は上海であり、対話状態のトラッキングにより、現在の入力文に出発地、出発時間などの情報が含まれないと判断でき、ワードスロットの欠損は存在し、より明確で有用な情報を取得するために、ワードスロットの欠損を明確化することができ、これによって生成対象のタスク型応答文のタイプが明確化タイプと決定することができる。
【0029】
なお、上記の例は単なる例示であり、本開示の実施例では入力文、タスク型応答文タイプに対する限定としてはいけない。
【0030】
ステップ103において、入力文をタスク型の対話応答生成器に入力して、タスク型応答文を生成する。
【0031】
対話応答生成器は、その中に入力された入力文に対して分析でき、これによって対応する応答文を生成する。
(中略)
【0037】
ステップ104において、タスク型応答文のタイプが指定されたタイプである場合、タスク型応答文がターゲット応答文であると決定する。
【0038】
ターゲット応答文は、生成装置が最終的に決定して出力され、入力文に対する返事の文である。」
「【0047】
図2は本開示の別の実施例によって提供される対話生成方法のフローチャートである。
【0048】
ステップ201において、入力文を取得する。
【0049】
ステップ202において、入力文に基づいて、現在の対話状態を更新して、生成対象のタスク型応答文のタイプを決定する。
【0050】
ステップ203において、入力文をタスク型の対話応答生成器に入力して、タスク型応答文を生成する。
【0051】
ステップ204において、タスク型応答文のタイプが指定されていないタイプである場合、入力文の意図を決定する。
【0052】
本開示の実施例では指定されたタイプは明確化のタイプ、満足のタイプであり、それに対応して、指定されていないタイプは明確化のタイプ、満足のタイプの他の任意のタイプに属せず、例えば疑問などのタイプであり、すなわち当該タスク型応答文は、対話タスクがすでに実現され、目的が達成され、または問題が解決されたことなどを明らかにすることができない、本開示の実施例は指定されていないタイプの文のタイプに対して限定するものではない。
【0053】
取得された入力文をタスク型の対話応答生成器に入力すると、対応するタスク型応答文を生成でき、タスク型応答文のタイプが指定されていないタイプである場合、当該応答文が現在対話タスクに対する明確な返事ではないと明らかにし、現在の入力文に含まれる対話目的を実現できない。生成された応答文がもっと正確で、合理的になり、ユーザの目的を早く実現できるように、入力文の意図をさらに決定してから、対応する操作を行うことができると理解することができる。
【0054】
ステップ205において、入力文の意図が非雑談的意図である場合、対話履歴のうち入力文に隣接する最初のN個の応答文を取得し、Nは正の整数である。
【0055】
入力文の意図は多様である可能性があり、例えば雑談意図、需要意図、タスク意図などであり、本開示はこれに対して限定するものではない。
【0056】
本開示の実施例では、入力文の意図が非雑談的意図である場合、その意図に対してよりよい返事をするために、生成装置はその前の対話履歴から隣接する応答文を取得することができる。
【0057】
ステップ206において、最初のN個の応答文に基づいて、現在のターゲット応答文を生成する。
【0058】
実際の応用では、Nの異なる数値に応じて、異なる方式でターゲット応答文を生成することができる。
【0059】
通常、対話プロセスにおいて、各入力文の間に一定の連続性と関連性があり、本開示の実施例では、現在の入力文に基づいて、生成されたタスク型応答文が指定されていないタイプの文である場合、各入力文の間の関連性を考慮すると、その前の入力文に対応する応答文に基づいて、現在のターゲット応答文を決定することができ、これによって現在対話が順調に進むのを保障しながら、返された応答文が自然であること保障し、したがってユーザによりよい体験をもたらす。
【0060】
例えば、入力文の意図が非雑談的意図である場合、Nが1である時、対話履歴のうち入力文に隣接する1つ前の応答文に基づいて、ターゲット応答文を決定することができる。
【0061】
具体的に、取得された対話履歴のうち入力文に隣接する1つ前の応答語が明確化のタイプである場合、該応答文がユーザ対話タスクを達成することを目的とし、且つユーザのニーズに応じて応答した文であることを表明し、これによって、それを現在のターゲット応答文とすることができる。
【0062】
例えば、現在の入力文が「ナビゲーションを使用したい」である場合、それをタスク型の対話応答生成器に入力すると、生成されたタスク型の対話応答文が指定されていないタイプの文である時、当該応答文が現在のユーザ対話タスクに対してよい返事をしなかったことを表す。この時、当該対話タスクに対してよい応答をするために、さらに入力文の意 図を決定することができ、当該入力文の「ナビゲーションを使用したい」が非雑談的意図の文である場合、これによって対話履歴において現在の入力文に隣接する1つ前の応答文を選択して取得することができる。対話履歴において前のラウンドの対話における入力文が「北京の天気を調べる」であり、対応する応答文が「いつの天気を調べますか?」である場合、当該応答文は明確化タイプのタスク型応答文であり、対話タスクに対してすでに相応返事した。この時、ユーザ現在の対話タスクにより正確な回答をするために、前のラウンドの明確化タイプのタスク型応答文「いつの天気を調べますか?」を繰り返して選択することができ、これによって現在の意図を再度説明するようにユーザを誘導して、タスクを引き続き達成する。
【0063】
または、取得された対話履歴のうち入力文に隣接する1つ前の応答文が非明確化タイプのタスク型の文である場合、当該応答文がタスク達成を目的とするフローにないことを表明し、この時ユーザの対話タスクをできるだけ達成するために、指定された応答文を選択することができ、例えば包括応答文を現在のターゲット応答文とする。
【0064】
例えば、現在の入力文が「ナビゲーションしたい」であり、非雑談的意図の文であるため、後で対話履歴において現在の入力文に隣接する1つ前の応答文を選択して取得することができる。前のラウンドの対話における入力文が「北京の天気を調べる」であり、対応する応答文が「意味が分かりませんね」である場合、当該応答文は明確化タイプのタスク型応答文ではなく、当該応答語がユーザの対話タスクを達成することに役立たないことを表明する。この時、現在の対話タスクを引き続き達成するために、包括応答文を選択して現在のターゲット応答文とすることができ、例えば「どう返事するか分かりません。」という文を現在のターゲット応答文とする。
【0065】
なお、上記の例は単なる例示であり、本開示の実施例がターゲット応答文を決定することに対する限定としてはいけない。
【0066】
または、Nが1より大きい場合、入力文が非雑談的意図であるため、現在ユーザの入力文が特定のタスクを達成する必要があることを表明し、この時、入力文に含まれる対話タスクに対して返事する必要がある。タスク対話が引き続き進めることを保障するために、履歴対話における明確化タイプのタスク型応答文でターゲット応答文を生成することができる。
【0067】
本開示の実施例では、最初のN個の応答文における明確化タイプのタスク型応答文に基づいて現在のターゲット応答文を決定する時、多様の決定方法、例えばセマンティック類似度、時間間隔などに基づいて決定する方法がある。
【0068】
例えば、セマンティック類似度に基づいてターゲット応答文を決定することができる。最初のN個の応答文のうち入力文とのセマンティック類似度が最も高い明確化タイプのタスク型応答文を、現在のターゲット応答文として決定する。
【0069】
例えば、入力文が「今日はいい天気ですね」であり、Nが3である場合、取得された最初の3つの応答文は「何を調べたいですか?」、「天気を調べたいですか?それとも時間を調べたいですか?」、「いつの天気を調べますか?」である可能性があり、この3つの応答文はすべて明確化タイプのタスク型文であり、この3つの応答文と入力文とのセマンティック類似度をそれぞれ算出し、「いつの天気を調べますか?」と入力文とのセマンティック類似度が最も高いことを得て、これによって「いつの天気を調べますか?」を現在のターゲット応答文とすることができる。
【0070】
なお、上記の例は単なる例示であり、本開示の実施例がターゲット応答文を決定することに対する限定としてはいけない。
【0071】
または、時間間隔に応じてターゲット応答文を決定してもよい。最初のN個の応答文のうち入力文との時間間隔が最も短い明確化タイプのタスク型応答文を、現在のターゲット応答文として決定してもよい。
【0072】
例えば、Nが3であり、且つ入力文が「こんなにいい天気なら、何をするのに適していますか?」である場合、時間の順序によって、順次取得されたその前の3つの応答文は「天気を調べたいですか?それとも時間を調べたいですか?」、「いつの天気を調べますか?」、「天気がいいですね」であり、「天気がいいですね」は入力文との時間間隔が最も短い明確化タイプのタスク型応答文であるため、「天気がいいですね」を現在のターゲット応答文とすることができる。
【0073】
なお、上記の例は単なる例示であり、本開示の実施例がターゲット応答文を決定することに対する限定としてはいけない。
【0074】
本開示の実施例では、まず取得された入力文に基づいて、現在の対話状態に対してトラッキングして、生成対象のタスク型応答文のタイプを決定し、その後、入力文をタスク型の対話応答生成器に入力して、タスク型応答文を生成し、タスク型応答文のタイプが指定されていないタイプである場合、さらに入力文の意図を決定する。入力文の意図が非雑談的意図である場合、対話履歴のうち入力文に隣接する最初のN個の応答文を取得し、最初のN個の応答文に基づいて、対応する方式を選択して現在のターゲット応答文を生成する。これにより、タスク型の対話応答生成器によって生成されたタスク型応答文が指定されていないタイプであり、且つ入力文が非雑談的意図である場合、対話履歴のうち入力文に隣接する1つ前の応答文または複数の応答文に基づいて現在のターゲット応答文を生成し、これによって対話がタスク達成を目的として引き続き進んでいくように保障でき、タスク満足率を向上させるだけでなく、返された応答文が自然であり、ユーザがよい対話体験を取得できるようにすることができる。
【0075】
上記実施例では、指定されていないタイプのタスク型応答文を取得した時、さらに入力文の意図を決定し、非雑談的意図の入力文に対して、対話履歴のうちそれに隣接する応答文に基づいて、対応するターゲット応答文を生成することができる。実際の応用では、入力文は雑談意図の文である可能性があり、この時、対話をよりスムーズにしながら、無意味な対話の継続を回避するために、現在の対話をさらに判断することができ、これによって対応するターゲット応答文を決定する。以下、図3と併せて入力文が雑談意図である状況に対して詳細に説明する。」
「【図1】
[図:0001425278000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001425278000002.jpg]
」
第5 当審の判断
1 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
本願発明の「前記タスク型応答文のタイプが特定のタイプではない場合、前記入力文の意図を決定し、前記入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定するステップ」について、発明の詳細な説明には、「入力文の意図」を「決定」するために必要な技術的事項が記載されておらず、また、この技術的事項は記載を省略できるような技術常識であるとも認められないから、発明の詳細な説明は、前記発明特定事項について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
発明の詳細な説明の段落【0051】~【0057】、【図2】のステップ204~206の記載によると、タスク型応答文のタイプが指定されていないタイプである場合(明確化のタイプ、満足のタイプなどではなく、例えば、疑問のタイプである場合)、入力文の意図(雑談意図、需要意図、タスク意図など)を決定し、当該意図が非雑談的意図である場合、入力文に隣接する最初のN個の対話履歴から、隣接する応答文を取得してターゲット応答文を生成するものであって、段落【0061】、【0062】には、その具体例として、「ナビゲーションを使用したい」との入力文である場合、「いつの天気を調べますか?」をタスク型応答文として選択することが記載されているといえる。
しかしながら、発明の詳細な説明は、以下の(1)~(3)の点において、請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
(1)タスク型応答文のタイプが指定されていないタイプである場合(明確化のタイプ、満足のタイプなどではなく、例えば、疑問のタイプである場合)に、どのように入力文の意図(雑談意図、需要意図、タスク意図など)を決定するのか、「入力文の意図」を決定するための具体的な方法が記載も示唆もされておらず、技術常識を考慮しても、入力文の意図が、雑談意図、需要意図、タスク意図、非雑談的意図等であると決定することを、当業者が実施することができるとはいえない。
この点、段落【0027】、【0028】等には、対話状態のトラッキングによって、ワードスロットの欠損を明確化し、入力文の意図などの情報を取得することができる旨記載されているが、当該記載は、明確化タイプ(指定されたタイプ)を決定する際の方法であって、指定されていないタイプの場合において、雑談意図、需要意図、タスク意図を決定する際にも同様の方法を採用可能であるのか、採用可能である場合、具体的にどのようにしてかかる意図を決定するのか、本願出願時の技術常識を考慮しても想定できない。
(2)そもそも、発明の詳細な説明が、「意図」の定義を明確に示すものとなっておらず、雑談意図、需要意図、タスク意図を示す入力文は、具体的にどのような入力文であるのか、指定されたタイプである明確化のタイプや満足のタイプの入力文と、どのような点において異なるのか(特許請求の範囲の記載に即していえば、「雑談意図、需要意図、およびタスク意図を含む」「入力文の意図」が「決定」されるような「入力文」は、「特定のタイプ」であることにより「ターゲット応答文であると決定」されるような「タスク型応答文」を「生成」するような「入力文」と、どのような点において異なるのか)について、当業者が理解できるように、記載したものとなっていない。
例えば、段落【0062】には、「当該入力文の「ナビゲーションを使用したい」が非雑談的意図の文である場合」と記載されていることから、本願発明では、「ナビゲーションを使用したい」との入力文は、指定されたタイプである明確化タイプや満足タイプではない場合であることを前提として、非雑談的意図と決定されるものと解される。
しかしながら、上記(1)で述べたとおり、発明の詳細な説明には、入力文の意図を決定するための具体的な方法が何ら記載されていない上、そもそも、明確化タイプ、雑談意図、需要意図、タスク意図などに対応する入力文として、具体的にどのような入力文が想定されており、それぞれどのような点において異なるのか、について、当業者が理解できるように発明の詳細な説明が記載されていない。
加えて、上記入力文の「ナビゲーションを使用したい」は、段落【0028】に記載の入力文の「明日の上海までの航空券を予約する」(明確化タイプ)とは異なる、どのようなタイプとしてどのように決定されるのか(【図2】のステップ202)について、発明の詳細な説明には一切記載がなく、この場合、対話応答生成器によって生成されるタスク型応答文はどのような応答文となるのか(【図2】のステップ203)についても明らかではなく、また、指定されたタイプ(明確化タイプや満足タイプ)ではないことからターゲット応答文とされないにも関わらず、対話応答生成器によってタスク型応答文を生成すること(【図2】のステップ203)の技術的意義も不明であり、さらに、上記(1)で述べたとおり、かかる入力文「ナビゲーションを使用したい」からどのようにして「入力文の意図」を決定するのかも不明である。
これらの点は、記載を省略できるような技術常識であるとも認められない。
(3)段落【0002】の記載によると、本願発明は、「速く、正確に対話を生成する」ことを課題としているところ、発明の詳細な説明は、前記課題の解決手段としての前記発明特定事項の内容を把握できるように記載されたものとなっておらず、その観点からも、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
この点、段落【0062】には、「ナビゲーションを使用したい」との入力文を非雑談的意図とし、その前の対話履歴を取得することによって「いつの天気を調べますか?」との応答文を繰り返して選択することが記載されている。
しかしながら、ユーザからの「ナビゲーションを使用したい」との入力文に対して、「いつの天気を調べますか」との応答は全く不自然であって、かつ、前の応答と同じ応答にすぎないから、それに対するユーザの返答は予想できるものではない(ユーザは音声認識に失敗したと解して「ナビゲーションを使用したい」との入力を繰り返すだけかもしれない)。このような全く不自然な応答を生成し、それに対するユーザの再度の入力も予想できないところ、なにゆえ、「速く、正確に対話を生成する」(段落【0002】)という本願発明の課題を解決することにつながるのか、その根拠が理解できない。同段落【0062】には、「「いつの天気を調べますか?」を繰り返して選択することができ、これによって現在の意図を再度説明するようにユーザを誘導して、タスクを引き続き達成する」と記載されているが、ユーザが再度「ナビゲーションを利用したい」と説明したとしても、かかる2回目の入力によって、1回目の入力とは異なり正確な応答ができるとする根拠は何ら見いだすことができないから、このような会話生成方法が、上記課題を解決しているとはいえない。
そして、このような不自然な応答を生成することが、前記発明特定事項で特定されているように「前記入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定する」ものとも認められないから、発明の詳細な説明には「前記入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定する」ことについて、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
また、段落【0064】に記載の入力文「ナビゲーションしたい」に対する応答文「どう返事するかわかりません」、段落【0069】に記載の入力文「今日はいい天気ですね」に対する応答文「いつの天気を調べますか?」、段落【0072】に記載の入力文「こんなにいい天気なら、何をするのに適していますか?」に対する応答文「天気がいいですね」についても同様に不自然な応答であって、「前記入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定する」しているものとも認められず、「速く、正確に対話を生成する」(段落【0002】)という本願発明の課題を解決するものとも認められない。
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
2 明確性(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1に記載の「需要意図」、「タスク意図」について、これらが具体的にどのような意図を示す文言として用いられているのか、「需要意図」と「タスク意図」は、どのように異なるものなのかが、明確でない。
発明の詳細な説明を参酌しようにも、上記1(1)及び(2)に示したとおり、そもそも発明の詳細な説明に記載されておらず、これらがどのような「意図」を示す文言として用いられているかを示す記載が見当たらない。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
(2)請求項1に記載の「入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定する」の意味が不明である。発明の詳細な説明を参酌しようにも、上記1に示したとおり、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとなっていない。とりわけ、上記1(3)に示したとおり、そもそも発明の詳細な説明には、段落【0002】に記載された課題を解決できるように「入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定する」ことを明確に示す記載が見当たらないから、発明の詳細な説明を参酌し、技術常識を考慮したとしても、課題解決手段としての「入力文の意図」に基づく「ターゲット応答文」の「決定」とは何かが、明確でない。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
3 請求人の主張について
(1)実施可能要件について
ア 上記1(1)について
請求人は、令和6年12月24日提出の意見書において、発明の詳細な説明の段落【0025】~【0028】、【0051】~【0075】の記載を根拠として、本願発明は、入力文の意図がタスク型の対話応答生成器の指定されたタイプの文から直接決定できない(すなわち、指定されていないタイプ)場合、セマンティック解析、コンテキスト、及び対話履歴を結合して、入力文の意図をさらに明確にするものであり、具体的には、対話履歴のうち現在の入力文に隣接する最初のN個の応答文を取得し、これらの履歴文の情報(例えばセマンティック類似度、時間間隔)に基づいて現在のターゲット応答文を生成することで、入力文の意図が実質的に決定されるものであるから、当業者であれば、これらの段落の記載に基づき、タスク型応答文のタイプが指定されていないタイプである場合に入力文の意図を決定する方法を実施できる旨主張する。
しかしながら、上記段落のいずれにも、入力文の意図がタスク型の対話応答生成器の指定されたタイプの文から直接決定できない(すなわち、指定されていないタイプ)場合、セマンティック解析、コンテキスト、及び対話履歴を結合して、入力文の意図をさらに明確にすることは記載されていない。
請求人が根拠として例示する上記段落【0025】~【0028】には、入力文のセマンティック理解結果を取得することが記載されているが、これは、上記段落【0025】に「ステップ102において、入力文に基づいて、現在の対話状態を更新して、生成対象のタスク型応答文のタイプを決定する」と記載されているように、生成対象のタスク型応答文のタイプを決定するための処理(図1のステップ102)について記載したものであって、決定されたタイプが指定されていないタイプである場合における、入力文の意図を決定するための処理(図2のステップ204)として記載されたものではない。
また、発明の詳細な説明には「コンテキスト」なる用語は記載されておらず、上記段落【0051】~【0075】には「対話履歴」や「セマンティック類似度」に関する記載があるが、これらの記載は、入力文の意図が非雑談的意図である場合において、その前の対話履歴から隣接する応答文を取得する処理(図2のステップ205~206)について記載したものであり、「履歴文の情報(例えばセマンティック類似度、時間間隔)に基づいて現在のターゲット応答文を生成する」ことが記載されているにしても、これはあくまでも応答文を生成する処理であって入力文の意図を決定する処理ではなく、「入力文の意図が実質的に決定される」処理(図2のステップ204)が記載されているとはいえない。
そもそも、特許請求の範囲の記載によれば、「前記入力文の意図」、つまり、「タスク型応答文のタイプが特定のタイプでない場合」に「決定」される「入力文の意図」、に基づいて「ターゲット応答文を決定」するのであるから、「現在のターゲット応答文を生成することで、入力文の意図が実質的に決定される」旨の主張は、本願発明が実施可能要件を満たすことの説明になっていない。
したがって、請求人が主張する上記段落のいずれの記載を参照しても、「対話履歴」から応答文を生成する前段階の処理として、そもそも、どのような処理によって入力文の意図が「非雑談的意図である」と決定するのか、その技術事項が明らかではなく、技術常識を参酌しても自明であるともいえない。また、入力文の意図を、雑談意図、需要意図、タスク意図と決定するための技術事項についても同様に明らかではなく自明でもない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
イ 上記1(2)について
請求人は、同意見書において、発明の詳細な説明には「意図」を明確に定義していないものの、セマンティック解析、コンテキスト、及び対話履歴を結合して、入力文の意図を実質的に決定する方法が開示されているので、当業者であれば、本願発明を実施可能である旨主張する。
しかしながら、上記アで検討したとおり、発明の詳細な説明には、セマンティック解析、コンテキスト、及び対話履歴を結合して、入力文の意図を実質的に決定するための具体的な技術事項について何ら記載されておらず、技術常識を参酌しても自明であるともいえないから、請求人の上記主張は前提を欠くものであり採用できない。
ウ 上記1(3)について
請求人は、同意見書において、段落【0062】、【0064】~【0069】の記載を根拠として、「ナビゲーションしたい」との入力があり、対話履歴のうち前のラウンドの対話における入力文が「北京の天気を調べる」である場合、対応する応答文が「いつの天気を調べますか?」であると、システムは「いつの天気を調べますか?」との応答文を繰り返し出力するので、単なる繰り返しではあるものの、ユーザに対し、現在の対話タスクに対し最大限正確な回答をするとともに、現在の意図を話すように誘導できるので、発明の詳細な説明には、「対話を迅速かつ正確に生成する」との課題を解決可能な発明が開示されている旨主張する。
しかしながら、「ナビゲーションしたい」との入力文に対して、前回の応答文と同じ応答文である「いつの天気を調べますか?」を繰り返しても、それに対するユーザの再度の入力は予想できず、現在の意図を話すように誘導できるとする根拠も見出せないから、かかる繰り返しの応答により「速く、正確に対話を生成する」(段落【0002】)という本願発明の課題を解決することができるとはいえない。
また、請求人は、システムは、セマンティック解析、対話状態のトラッキングなどのステップにより入力文の意図カテゴリを迅速に判断し、対応する応答文を生成することができるとも主張しているが、上記アで検討したとおり、発明の詳細な説明には、セマンティック解析、対話状態のトラッキングなどのステップにより入力文の意図カテゴリを判断することは記載されていない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(2)明確性について
請求人は、同意見書において、発明の詳細な説明には、タスク型応答文のタイプが指定されていないタイプである場合に入力文の意図を決定する方法が実質的に開示されており、「需要意図」及び「タスク意図」の意味は、発明の詳細な説明の記載から明らかであるとともに、「入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定する」との処理は、段落【0059】~【0075】等の記載から明らかである旨主張する。
しかしながら、上記(1)アで検討したとおり、発明の詳細な説明には、入力文の意図を決定する方法が実質的に開示されておらず、発明の詳細な説明にも「需要意図」及び「タスク意図」とは具体的にどのような「意図」であって、どのような点で異なるのか何ら記載されていないから、発明の詳細な説明の記載を参照しても、さらに技術常識に鑑みても、請求項1に記載の「入力文の意図に基づいてターゲット応答文を決定する」処理が明らかであるとはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
4 まとめ
上記1~3で検討したとおり、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、また、請求項1に係る発明は不明確である。
請求項1と同様の記載がある請求項7に係る発明、及び請求項1、7を引用する請求項2~6、8~15に係る発明についても同様である。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、請求項1と同様の記載がある請求項7に係る発明、及び請求項1、7を引用する請求項2~6、8~15に係る発明についても同様である。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-001449