審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2024-000460

血液から癌を診断する方法

審判番号
2024-000460
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-104360外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年01月12日
審決日
2024年09月10日
公報発行日
2025年02月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-Z (G01N) / P18 .572-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022-104360「血液から癌を診断する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 9月 6日出願公開、特開2022-130598〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 9項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2018年(平成30年)10月24日(パリ条約による優先権主張2017年10月24日、韓国)を国際出願日とする特許出願の一部を、令和4年6月29日に新たな特許出願としたものであって、その手続の概要は次のとおりである。

令和4年 6月29日 :手続補正書、上申書の提出
令和5年 4月 3日付け:拒絶理由通知
令和5年 6月30日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 9月 8日付け:拒絶査定
令和6年 1月12日 :審判請求書、手続補正書提出

第2 補正却下の決定

令和6年1月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

令和6年1月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に、

(補正前)

「【請求項1】
個体から分離された試料と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、前記試料において、BAG2の存在またはレベルを測定する段階と、および前記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較する段階と、を含む、乳癌を除く癌の検出を補助する方法であって、前記試料は、血液、血清、血漿、またはそれらの組み合わせであって、前記BAG2ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1または2のアミノ酸配列を有するものである、方法。」

とあったものを、

(補正後)

「【請求項1】
個体から分離された試料と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、前記試料において、BAG2の存在またはレベルを測定する段階と、および前記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較する段階と、を含む、肺癌、黒色腫または膵臓癌の検出を補助する方法であって、前記試料は、血液、血清、血漿、またはそれらの組み合わせであって、前記BAG2ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1または2のアミノ酸配列を有するものである、方法。」

とする補正事項を含むものである。(下線は合議体が付した。)

2 補正の適否

請求項1に関する上記の補正は、癌の検出を補助する方法の対象が、本件補正前の請求項1に記載された発明では「乳癌を除く癌」であったところ、本件補正により「肺癌、黒色腫または膵臓癌」と特定の癌に減縮するものである。

請求項1に関する上記の補正は、補正前の請求項1に係る発明を限定しており、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。

そこで、本件補正により補正された請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 独立特許要件について

(1)発明の詳細な説明の記載内容

本願の発明の詳細な説明には以下の記載がある。

ア 課題を解決するための手段

「【0004】
一様相は、個体から分離された試料と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、前記試料において、BAG2の存在またはレベルを測定する段階と、前記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較する段階と、を含む癌を診断する方法を提供する。
他の様相は、血液、血清(serum)、血漿(plasma)、またはそれらの組み合わせに存在するBAG2を検出するものであり、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを含む癌診断用キットを提供する。」

イ 発明の効果

「【0005】
一様相による血中BAG2ポリペプチドの存在またはレベルを測定して癌を診断する方法により、癌を診断するために組織を採取した既存の方法に比べ、さらに容易であって正確に癌を診断することができる。
他の様相は、血液から血中BAG2ポリペプチドの存在またはレベルを測定するための癌診断用キットにより、多様な診断機関において、癌診断のために、前記癌診断方法を容易に活用することができる。」

ウ 発明を実施するための形態

「【0007】
…一様相は、個体から分離された試料と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、前記試料において、BAG2の存在またはレベルを測定する段階と、前記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較する段階と、を含む癌診断方法を提供する。
【0008】
他の具体例において、前記方法は、癌を診断するための情報を提供する方法であって、個体で癌の存在を検出し、個体内に存在する癌を診断するためのものである。
続きを表示(全16行)
個体から分離された試料内にBAG2が存在する場合、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせが前記試料中のBAG2と結合することができる。前記抗体またはポリペプチドは、前記試料中のBAG2の存在を視覚化させるために、例えば、蛍光物質(fluorophore)、発色団(chromophore)、または基質を発色団に転換させることができる酵素で標識されたものでもある。
前記結合反応により、前記試料中のBAG2が、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと複合体を形成することになり、前記複合体から、当業者に知られた方法を利用し、BAG2存在、または必要により、そのレベルを測定することができる。一具体例において、前記複合体を測定する段階は、ウェスタンブロッティング、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、放射線免疫分析(RIA:radioimmunoassay)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、オクタロニー(Ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(rocket)免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法(immunoprecipitation assay)、補体固定分析法(complementfixation assay)、FACS、蛋白質チップ(protein chip)、またはそれらの組み合わせにもよる。
【0009】
前記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較し、前記個体に癌が存在するか否かということを診断することができる。前記対照群は、健康な個体から採取された試料、または必要によっては、多様な類型の乳癌患者平均、非転移性乳癌患者、またはTNBC型ではない乳癌患者から採取された試料でもある。従って、前記対照群から測定されたBAG2レベルは、BAG2レベルの健康な個体から採取された試料、または必要によっては、多様な類型の乳癌患者平均、非転移性乳癌患者、またはTNBC型ではない乳癌患者から採取された試料中のBAG2濃度の平均値を意味するものでもある。前記対照群として使用される試料は、前記診断のための試料と、解剖学的に同一位置で採取したものであり、同一種類のものでもある。例えば、前記試料が、個体の肘窩中間静脈(median cubital vein)から採取された血液であるならば、前記対照群また対照群の肘窩中間静脈から採取された血液でもある。前記健康な個体は、任意の急性または慢性の疾患を病んでいない者であり、少なくとも癌を病んでおらず、望ましくは、乳癌を病んでいない者でもある。
【0010】
前記健康な個体から採取された試料中のBAG2レベルは、BAG2が実質的に存在しないものでもある。従って、対照群を、健康な個体から得られた値として設定する場合、診断対象になる個体において、BAG2の存在が測定されたり、そのレベルが著しく高かったりすると測定されるならば、前記個体は癌を病んでいると疑うことができる。一方、本発明の実施例から分かるように、乳癌患者のうち転移性乳癌患者、特に、TNBC型患者の血液においては、BAG2の存在が測定される確率が高く、平均値が著しく高い。従って、対照群を、多様な類型の乳癌患者平均、非転移性乳癌患者、またはTNBC型ではない乳癌患者から分離された試料として設定する場合、診断対象になる個体において、BAG2のレベルが、前記対照群の場合より高いか、あるいは著しく高いと測定されるならば、前記個体は、転移性乳癌またはTNBC型乳癌を病んでいると疑うことができる。
本明細書において、前記「ポリペプチド」は、「蛋白質」と相互交換的に使用される。
前記試料は、診断の対象になる個体から分離されたものであり、細胞、器官、細胞溶解物、全血、血液、血清、血漿、リンパ、細胞外液、体液、尿、糞便、組織、骨髓、唾液、喀痰、脳脊髄液、またはそれらの組み合わせでもある。
…
【0015】
前記診断方法の対象になる個体は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、鼠(rat)、牛、馬、豚、犬、羊、山羊または猫でもあり、望ましくは、ヒトである。
一具体例において、本発明の診断方法で診断することができる癌は、乳癌、大腸癌、肺癌、肉腫、黒色腫、頭頸部癌、子宮頸部癌、子宮癌、肝臓癌、腎臓癌、膵腸癌及び神経芽細胞種から選択されたものでもある。」

エ 実施例

「【0020】
1.実施例1:多様な乳癌株におけるBAG2の発現確認
1-1.乳癌細胞株に係わる転写体(transcriptome)分析
TNBC進行と係わる新規分子的標的を確認するために、本発明者らは、まず、乳癌細胞株において、RNAシーケシングを利用した転写体分析を行った。まず、多様な乳癌細胞株から、該分野に周知されている方法を利用してRNAを抽出し、業体(Theragen)に遺伝体分析を依頼した。その後、乳癌細胞株を、内腔型(MCF-7、T47D、ZR-75B)またはTNBC(MDA-MB-231、Hs578T)に区分し、BAG2の発現量を比較した。
続きを表示(全45行)
その結果、図1及び2に示されているように、BAG2が内腔型細胞株と比較し、特異的にTNBC細胞株で過発現しているということが分かった。
【0021】
1-2.52個乳癌細胞株でのBAG2発現傾向確認
実施例1-1で拡張し、さらに多様な乳癌細胞においてBAG2発現傾向を確認した。乳癌細胞情報は、パブリックマイクロアレイデータセット(GSE41313、Riazet al., 2013)から得た。Riaz et al.に公開された52個の乳癌細胞株において、BAG2発現傾向を確認した結果、図3に示されているように、BAG2が、TNBCにおいて、内腔型に比べ、著しく高く発現するということが分かった(P<0.0001)。
【0022】
1-3.臨床的BAG2発現傾向確認
細胞株で確認したBAG2発現傾向をさらに正確に確認するために、本発明者らは、癌ゲノムアトラス(TCGA:The Cancer Genome Atlas)保存所から得られた乳癌患者のRNAシーケシングデータセット及びマイクロアレイを利用し、乳癌の多様な下位類型において、BAG2発現傾向を分析した。
その結果、図4の(A)及び(B)に示されているように、正常、内腔型A(LumA)、内腔型B(Lum B)及びHER2過多(HER2)の患者と比較し、TNBC患者において、BAG2発現が著しく高いレベルにあるということが分かった。
【0023】
1-4.BAG2発現傾向の実験的確認
公開されたデータベースを利用して分析された前述の傾向性を実験的にさらに確認するために、定量的RT-PCR(quantitative RT-PCR)を行った。
具体的には、検討委員会(IRB:the institutional review board)承認(IRB承認番号:3-2013-0268)後、江南セブランス病院から、乳癌のうち、内腔型12個及びTNBC6個を得た。その後、TRIzol試薬(Invitrogen)を利用し、販売者の指針により、細胞から総RNAを単離した。その後、18rRNAをハウスキーピング遺伝子にし、BAG2検出のためのプライマーを利用し、power SYBR Green PCRMaster Mix及びViia 7 real-time PCR装置(Applied Biosystems)を利用し、定量的RT-PCRを行った。
その結果、図5に示されているように、TNBCにおいて、内腔型に比べ、BAG2が過発現しているということを確認することができた。
【0024】
2.実施例2:BAG2及びカテプシンBの相互作用確認
BAG2が、カテプシンBの調節上位因子として作用しうるか否かということを確認するために、BAG2及びカテプシンBの相互作用いかん、BAG2によるカテプシンBの活性変化を観察した。
【0025】
2-1.BAG2及びカテプシンBの相互作用の蛋白質レベルでの確認
BAG2欠失細胞株を作製するために、まず、BAG2特異的shRNAを、Mission-shRNA(Sigma)から購入した。BAG2特異的shRNAレンチウイルス作製のために、293T細胞を、pLKO-BAG2、またはスクランブルされた対照群pLKO-pGL2に対し、Δ8.9及びVSV-Gをコーディングするパッケージングプラスミドと共に形質注入させた(使用されたBAG2shRNAの標的配列(5’→3’):GTACTAGGATCTAGCATATTT)。形質注入後、36ないし48時間後、ウイルス上澄み液を収集し、0.45μm濾過器を介して濾過した。MDA-MB-231(ATCC)を、6ウェルプレートに、1x105細胞/ウェルに接種(seed)し、ウイルス粒子(particle)及びポリブレン(8ug/ml)で感染させた。感染後、前記ウイルスを含む培地を一般培地に替えた後、前記細胞をプロミシン(2μg/ml)で選択した。製造されたBAG2欠失細胞株をBAG2shRNAにした。
BAG2を過発現させるために、同様に、MDA-MB-231(ATCC)に、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を利用し、販売者の指針により、Myc-tagBAG2発現ベクターを形質注入し、BAG2を過発現する細胞をBAG2 OVにし、BAG2 shRNAにBAG2を形質注入したものを、BAG2回復した細胞として、BAG2救助(rescue)にした。
【0026】
前記各細胞をPBSで洗浄して溶解させた後、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を介して分離させ、PVDF膜(Millipore)に移動させ、図6に表示された各抗体を利用して免疫ブロットすることにより、各蛋白質を検出した。特に、CTSB抗体は、前形態(pro-form)及び成熟した形態のCTSB(SC(single chain)及びDC(double chain))をいずれも認知するので、分子量で区分することができる。
その結果、図6(A)に示されているように、BAG2欠失細胞においては、切断されたカスパーゼ3が発現し、カスパーゼ3の活性型が増加しているということが分かったが、それは、BAG2の回復によって減少した。また、BAG2欠失細胞においては、一本鎖(SC)カテプシンBも増加したと観察されたが、それは、カスパーゼ3と同様に、BAG2の回復によって減少した。従って、BAG2がプロカテプシンBにおいて成熟した形態である一本鎖カテプシンBに転換されることを妨害するメカニズムに関与するということが分かる。
【0027】
2-2.BAG2のCTSB活性に対する影響力確認
CTSB調節に対するBAG2の影響力をさらに確実なものにするために、BAG2存在いかんによるCTSBの活性変化を観察した。
具体的には、前記実施例3-1でのように、BAG2欠失MCF10CA1a細胞を作製し、BAG2発現ベクターを形質注入し、BAG2を過発現させるか、あるいはBAG2欠失細胞において、BAG2発現を回復させた。成熟したCTSBは、Arg-Argを含む合成ペプチドを基質にするので、その後、蛍光形成カテプシンB基質(200μMAc-RR-AFC,Abcam)と販売者との指針により、準備された細胞試料を、27℃で1時間インキュベーションした。蛍光測定は、多重プレート検出器であるWallac 1440 Victor2(PerkinElmer)上で行い、相対的な蛍光ユニットを355nmの励起波長を利用し、460nmで測定した。
その結果、図6(B)に示されているように、BAG2欠失MCF10CA1a細胞に、BAG2をさらに導入した結果、BAG2不在のCTSB活性が増大することが観察され、BAG2が、CTSB成熟型への変換を抑制し、結果として、CTSB活性を低下させるということが分かる。従って、BAG2は、CTSBと相互作用し、CTSB成熟型への変換を抑制し、カスパーゼ3媒介された細胞死滅の阻害に関与するということが分かる。
【0028】
実施例3.血中BAG2のCTSB存在確認
3-1.TNBC細胞のBAG2及びCTSBの分泌いかん確認
BAG2及びCTSBが、TNBC細胞内に存在するだけではなく、細胞外に分泌されもするかということを確認した。
具体的には、TNBC細胞として、Hs578T、MDA-MB-231及びMCF10ACa1に、実施例2-1のように、BAG2が欠失された細胞を作製した後、各細胞を条件培地DMEM(Cat.LM001-05、WELGENE)で培養し、細胞が採取されないように注意を払いながら、その上澄み液を採取した後、実施例2-1のように免疫ブロットした。蛋白質総量を示すために、一部を販売者の指針により、クマシブルー染色(ELT006、ELBIO)した。
また、前記培地から得られた試料のうち一部は、プロカテプシンB quantikine ELISAキット(R&Dシステム)を利用し、販売者の指針によって分析し、BAG2過発現された細胞株であるMCF10AT1を培養した培地において、BAG2及びCTSBの存在いかんを再確認した。
その結果、図7ないし図9から分かるように、BAG2が発現されるTNBC細胞を培養した培地内に、BAG2及びCTSBがいずれも観察された。特に、CTSBは、プロ-CTSBとしてBAG2発現と傾向性が同一に示された。
【0029】
3-2.血中でのBAG2及びCTSBの分泌いかん確認
BAG2が細胞外に分泌されるということを確認したので、さらに、血中に分泌され、血液でにおいても検出されるか否かということを確認した。
具体的には、健康な支援者(N=17)の血清、及び悪性乳癌患者(N=76)の血清を採取した。前述の得られた血清を、ヒトBAG2ELISAキット(MyBiosource)を利用して販売者の指針によって分析した。
その結果、図10から分かるように、乳癌患者の血清において、健康な支援者と比較し、BAG2が血中において著しい程度に検出されるということが分かる。
前記実施例において、P値は、垂直両側スチューデントt-検定(unpaired two-tailed Student’s t-test)を利用し、3回の独立した実験から平均+_SDで示した。…」

(2)解決しようとする課題と発明の詳細な説明の記載

上記(1)アの本願の発明の詳細な説明の段落【0004】【0005】の記載から、本件補正発明の課題は、個体から分離された血清とBAG2ポリペプチドに特異的に結合する抗体を接触させて形成される複合体から測定されたBAG2のレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較することで、肺癌、黒色腫または膵臓癌の検出(診断)を補助する方法の提供であると認められる。

そして、発明の詳細な説明には、上記の課題を達成する唯一の具体物として、実施例3において、TNBC(三重陰性乳癌)細胞株においてBAG2が細胞外に分泌されたこと、悪性乳癌患者血清においてBAG2が検出されたことが記載されているものの(段落【0028】~【0029】)、それ以外の癌については、例えば段落【0015】において「…本発明の診断方法で診断することができる癌は、乳癌、大腸癌、肺癌、肉腫、黒色腫、頭頸部癌、子宮頸部癌、子宮癌、肝臓癌、腎臓癌、膵腸癌及び神経芽細胞種から選択されたものでもある。」旨が一般的に記載されるにとどまっている。

また、TNBC(三重陰性乳癌)細胞株においてBAG2が細胞外に分泌されたこと、悪性乳癌患者血清においてBAG2が検出されたことについて、その発現に至る機序、分泌され血清中にて検出されるに至る機序について、発明の詳細な説明には具体的に何ら記載されていない。

(3)請求人の主張

折りたたみ中(クリックで表示)

請求人は審判請求書において、「…出願人は、本願の発明の詳細な説明から乳癌だけでなく他の癌(肺癌、黒色腫または膵臓癌)についてもBAG2との関係から同様に検出可能であることがわかるように記載されているものと考えております。本願明細書には、主に血清中のBAG2と乳癌の診断との関係について記載されておりますが、肺癌、黒色腫または膵臓癌についても本発明の診断方法で診断することができるものと記載されております(本願明細書0015)。本書に添付の参考資料1~4からも、BAG2との関連により乳癌だけでなく肺癌、黒色腫または膵臓癌を含む癌が検出/診断され得ることが示されています。特に、参考資料3は、膵臓癌、肺癌、および黒色腫を含む腫瘍を有するマウスの血液由来の血清における腫瘍由来分泌BAG2発現レベルの違いを示します。…」と主張し、参考資料1~4(公知日不明)を添付した。参考資料1~4の概要は以下のとおりである。

参考資料1の概要

「他の乳癌タイプならびにTNBCは、血液サンプル中のBAG2の存在またはレベルを測定することで診断できます。76人の乳癌患者からの臨床データでは、TNBC患者を含むすべてのタイプの患者…が、健康な人と比較して血中のBAG2のレベルが有意に増加していました。インビトロおよびインビボでの研究では、細胞内のBAG2のmRNA発現とタンパク質レベルは、血中の分泌されたBAG2のレベルとの相関において有意ではありませんでした。BAG2はすべてのタイプの乳がんの血液サンプルで検出されることが確認されています。細胞内BAG2の発現工程と分泌系は異なる調節機構を持っている可能性があります。」

参考資料2の概要

「さまざまな種類の腫瘍でBAG2が血中に分泌されるかどうかを調べました。具体的には、血清は、韓国の健康なボランティア(N=11)と卵巣癌患者(N=47)から収集され、米国の健康なボランティア(N=17)、多発性骨髄腫患者(N=14)、および急性骨髄性白血病患者(N=7)から収集されました。得られた血清は、Medpactoが産生する抗BAG2抗体である3B5-3G8抗体を組み合わせて分析されました。その結果、左の図に示されるとおり、健康なボランティアと比較して、さまざまな腫瘍タイプの癌患者の血清で有意なレベルのBAG2が検出されました。…」

参考資料3の概要

「異種移植のインビボモデルです。ヒト癌細胞株を移植したマウスの血液中のBAG2の分泌レベルが調べられました。この図は、急性骨髄性白血病、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、および黒色腫を含む腫瘍を有するマウスの血液由来の血清における腫瘍由来分泌BAG2発現レベルの違いを示します。BAG2レベルは、抗BAG2、3B5-3G8抗体の組み合わせのサンドイッチELISA結果を使用して観察されました。BAG2タンパク質は、急性骨髄性白血病(HL-60およびHEL92.1.7);卵巣癌(SKOV3);膵臓癌(PANC-1およびMia-PaCa-2);肺癌(NCI-H460);黒色腫(A375);びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)細胞株(dhl6)を有するマウスの血清で高度に検出されました。さらに、急性骨髄性白血病(KG-1);卵巣癌(OVCAR3);膵臓癌(AsPC-1);肺癌(A549)を有するマウスでは、BAG2タンパク質の分泌は 低いものでした。非腫瘍移植マウスも血中のBAG2は検出されませんでした。…」

参考資料4の概要

「6つの異なる癌タイプのそれぞれのうち3つの細胞株でBAG2タンパク質の分泌が調べられました。同じ腫瘍タイプでも、BAG2タンパク質の分泌は細胞の特性に応じて異なる方法で調節され得ます。図は、抗BAG2、2A11-3F12、および9B12-3G8抗体の組み合わせのサンドイッチELISA結果を使用して観察された、乳癌、膵臓癌、多形性膠芽腫、胃癌、卵巣癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を含むがん細胞株におけるBAG2の発現パターンの違いを示します。BAG2タンパク質は乳癌細胞株(MDA-MB-231および Hs578T)、膵臓癌細胞株(SNU2564およびPANC1)、多形性膠芽腫(GBM)細胞株(U251MGおよびT98G)、胃癌細胞株(SNU1およびSNU484)、卵巣癌細胞株(SKOV3および A2780)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞株(SU-DHL4およびSU-DHL6)で高度に分泌されました。対照的に、T47D、SNU2469、A172、SNU620、OVCAR3、およびU2932細胞株では、BAG2タンパク質はほとんど分泌されませんでした。」

(4)判断

ア サポート要件の判断規範

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 上記(2)で述べたように、本願の発明の詳細な説明に記載の実施例には、TNBC細胞株におけるBAG2の発現を確認し、悪性乳癌患者血清中にてBAG2が検出されたことは記載されているものの、実施例や、その他発明の詳細な説明には、肺癌、黒色腫、膵臓癌においてBAG2の発現を確認し、これらの癌患者血清中にてBAG2が検出されたことの記載はないし、TNBC細胞株においてBAG2が発現に至る機序、細胞外分泌に至る機序、悪性乳癌患者血清においてBAG2が検出される機序等について、具体的に何ら記載されていない。

ウ してみれば、本願の特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでない。

エ また、癌は、発生する組織や細胞が、例えば、扁平上皮癌、腺癌等、多岐にわたり、それぞれの癌によって、その細胞特性や、癌化の機序、増殖スピードが異なる。そして、タンパク質の発現、細胞外分泌系の制御、調節に関わる分子機構は、それぞれの細胞内で複雑に制御されており、その詳細な実態については、出願日当時分かっていないことが多いことは、技術常識である。

このことは、本願実施例(実施例1、図3-5)において、TNBC細胞と内腔型細胞など細胞種によりBAG2発現状態に差が見られることや、請求人が参考資料1にて「…細胞内BAG2の発現工程と分泌系は異なる調節機構を持っている可能性があります…」、参考資料4にて「…同じ腫瘍タイプでも、BAG2タンパク質の分泌は細胞の特性に応じて異なる方法で調節され得ます…」と述べているとおりである。

オ このような技術常識を参酌すると、TNBC細胞株におけるBAG2の発現を確認し、悪性乳癌患者血清中にてBAG2を検出したという本願実施例の記載からは、悪性乳癌患者から分離された血清とBAG2ポリペプチドに特異的に結合する抗体を接触させて形成される複合体から測定されたBAG2のレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較することで、乳癌の検出を補助(診断)することができることは、当業者が認識できる程度に記載されていると認められるものの、組織が異なり、細胞種や発生メカニズムの異なる可能性のある肺癌、黒色腫、膵臓癌においても、その細胞内でTNBC細胞株同様にBAG2が発現し、血清中で検出され、肺癌、黒色腫、膵臓癌の検出を補助(診断)することができることは、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。

カ さらに、請求人が提示した参考資料1~4は、公知日が不明であり、本願出願日当時、BAG2が肺癌、黒色腫、膵臓癌において発現され、血液、血清、血漿中にて検出されることが技術常識であることを示すものとは認められない。一般に、出願日後に実験して初めて明らかになった事項を当初明細書に記載されていたものとすることは、先願主義に悖るものであって、認めることができない。

キ よって、肺癌、黒色腫、膵臓癌の検出の補助については、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。

ク そうすると、発明の詳細な説明のTNBC細胞株におけるBAG2の発現を確認し、悪性乳癌患者血清中にてBAG2を検出されたという本願実施例や、その他本願発明の詳細な説明の記載だけでは、本件出願時の技術常識を参酌しても、肺がん、黒色腫、膵臓癌に係る本願発明において「個体から分離された血清とBAG2ポリペプチドに特異的に結合する抗体を接触させて形成される複合体から測定されたBAG2のレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較することで、癌の検出を補助する」という課題を解決できると当業者において認識できる程度に記載しているとはいえない。

したがって、本願発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和5年6月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1.に(補正前)として記載のとおりのものである。

第4 原査定の概要

拒絶査定の理由は、概略、次のとおりのものである。

請求項1、8には、対象となる癌として乳がんを除く癌が包括的に記載されている。

他方、発明の詳細な説明の実施例(特に、段落0029等)には、血清中のBAG2と乳癌の診断との関連が記載されているものの、その他の癌については具体的な記載がなく、乳癌以外の癌については実際に検討してみなければ、把握することが困難であることが出願時の技術常識である。

したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1-10に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない。

第5 判断

第2の3.で述べたとおり、本件補正発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえないところ、本願発明は本件補正発明を態様として明らかに含むものであるから、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-000460

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ根拠条文の審決955件(特許法36条6項1号)
  • 2019-007047拒絶査定不服審判 / 2020-03-30 / 請求不成立ウェルネスを維持するか、または向上するための方法およびシステム
    共通の条文: 特許法36条6項1号
  • 2025-005553拒絶査定不服審判 / 2026-01-27 / 請求不成立飲酒検知システム、飲酒検知方法、及びプログラム
    共通の条文: 特許法36条6項1号
  • 2020-012091拒絶査定不服審判 / 2021-08-16 / 請求不成立癌のバイオマーカーとしてのPD-ECGF
    共通の条文: 特許法36条6項1号
  • 2019-014089拒絶査定不服審判 / 2020-06-17 / 請求不成立システム生物学的アプローチによる療法
    共通の条文: 特許法36条6項1号
  • 2018-007860拒絶査定不服審判 / 2020-03-09 / 請求不成立検便具
    共通の条文: 特許法36条6項1号
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)722件(537・G01N、572・G01N、575・G01N)
  • 2025-003854拒絶査定不服審判 / 2026-02-03 / 請求不成立生体組織成分の検出方法、装置及びウェアラブル機器
    共通の審決分類: 537・G01N、572・G01N、575・G01N
  • 2024-007929拒絶査定不服審判 / 2025-07-23 / 請求不成立疑似インビボ条件での治療用タンパク質の選択
    共通の審決分類: 537・G01N、572・G01N、575・G01N
  • 2023-018271拒絶査定不服審判 / 2024-09-30 / 請求不成立染色用のプロセス記録スライド及びそれを使用する方法
    共通の審決分類: 537・G01N、572・G01N、575・G01N
  • 2023-008549拒絶査定不服審判 / 2024-04-02 / 請求不成立表面検査装置
    共通の審決分類: 537・G01N、572・G01N、575・G01N
  • 2019-009878拒絶査定不服審判 / 2020-04-21 / 請求不成立走査型顕微鏡撮像のための運動方略
    共通の審決分類: 537・G01N、572・G01N、575・G01N

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存