特許拒絶査定不服審判
2025-005553
飲酒検知システム、飲酒検知方法、及びプログラム
- 審判番号
- 2025-005553
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-086430
- 請求日
- 2025年04月10日
- 審決日
- 2026年01月27日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社アイシン
- 【請求人代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 伊藤 幸仙
- 審判官 松本 隆彦
- 分類
- P18 .536-Z (G01N) / P18 .537-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 86430「飲酒検知システム、飲酒検知方法、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年12月 2日出願公開、特開2022-179151〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、令和3年5月21日の出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和6年10月 8日付け:拒絶理由通知書
同年11月26日 :意見書及び手続補正書の提出
令和7年 2月 7日付け:拒絶査定
同年 4月10日 :審判請求書及び手続補正書の提出
第2 令和7年4月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年4月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和6年11月26日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1)本件補正前の請求項1の記載
「 【請求項1】
被験者の皮膚から放散される皮膚ガスを検出するセンサと、
前記センサの検出結果に基づいて前記被験者の飲酒状態に関する情報を生成するための処理を行う制御装置と、
人体における代謝活動に関連する代謝関連ガスとして、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、及びアセトインからなる群から選択された2以上のガスを記憶し、
2以上の前記代謝関連ガスから選択された特定代謝関連ガスを記憶し、
人体における血管運動に関連する血管関連ガスとして、プロピオン酸、ヘキサン酸、及び一酸化窒素からなる群から選択された2以上のガスを記憶し、
2以上の前記血管関連ガスから選択された特定血管関連ガスを記憶する記憶部と、
を備え、
前記センサは、前記2以上の前記代謝関連ガス、及び、前記2以上の前記血管関連ガスを検出し、
前記制御装置は、
前記センサにより検出された前記2以上の前記代謝関連ガスの総放散量に対する前記特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す代謝指標値と、前記センサにより検出された前記2以上の前記血管関連ガスの総放散量に対する前記特定血管関連ガスの放散量の割合を示す血管指標値とに基づいて、前記代謝指標値が予め設定された代謝指標値閾値以上で、かつ、前記血管指標値が予め設定された血管指標値閾値以上である場合に、前記被験者が飲酒状態であると判定し、
前記被験者が飲酒状態であると判定された場合に、前記被験者が飲酒状態であることを示す信号を出力する、
飲酒検知システム。」
(2)本件補正後の請求項1の記載
「 【請求項1】
被験者の皮膚から放散される皮膚ガスを検出するセンサと、
前記センサの検出結果に基づいて前記被験者の飲酒状態に関する情報を生成するための処理を行う制御装置と、
人体における代謝活動に関連する代謝関連ガスとして、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、及びアセトインからなる群から予め選択された2以上のガスを記憶し、
2以上の前記代謝関連ガスから予め選択された1つの特定代謝関連ガスを記憶し、
人体における血管運動に関連する血管関連ガスとして、プロピオン酸、ヘキサン酸、及び一酸化窒素からなる群から予め選択された2以上のガスを記憶し、
2以上の前記血管関連ガスから予め選択された1つの特定血管関連ガスを記憶する記憶部と、
を備え、
前記センサは、前記2以上の前記代謝関連ガス、及び、前記2以上の前記血管関連ガスを検出し、
前記制御装置は、
前記センサにより検出された前記2以上の前記代謝関連ガスの総放散量に対する前記特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す代謝指標値と、前記センサにより検出された前記2以上の前記血管関連ガスの総放散量に対する前記特定血管関連ガスの放散量の割合を示す血管指標値とに基づいて、前記代謝指標値が予め設定された代謝指標値閾値以上で、かつ、前記血管指標値が予め設定された血管指標値閾値以上である場合に、前記被験者が飲酒状態であると判定し、
前記被験者が飲酒状態であると判定された場合に、前記被験者が飲酒状態であることを示す信号を出力する、
飲酒検知システム。」
2 補正の適否
本件補正により請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された「代謝関連ガスとして、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、及びアセトインからなる群から選択された2以上のガスを記憶し、2以上の前記代謝関連ガスから選択された特定代謝関連ガスを記憶し、」という特定事項について、本願明細書の段落【0049】、【0053】、【0058】の記載を基に「代謝関連ガス」の「選択」が、「予め選択」されること、「特定代謝関連ガス」の「選択」が「予め選択」されること、および「特定代謝関連ガス」が「1つ」であることに限定して減縮する補正事項を含み、さらに、「血液関連ガス」および「特定血液関連ガス」についても同様の限定を付加する補正事項を含む。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する補正を含むものである。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。
(1)本件補正後の請求項1に係る発明および明細書の記載事項
ア 本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記1(2)に記載したとおりのものである。
イ 本願明細書の記載事項
本願明細書には、本件補正発明に関連する記載として、次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
被験者の皮膚から放散されるガス(皮膚ガス)の成分に基づいて被験者が飲酒状態であるか否かを検知する技術がある。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
皮膚ガスの放散量は、気候的条件や被験者固有の要因(体質、精神状態等)に応じて変動する。従来技術においては、このような様々な要因に起因する皮膚ガスの放散量の変動に対する対処が十分になされていない。そのため、飲酒状態の検知精度を向上させる余地がある。
【0005】
そこで、本開示は、高い精度で飲酒状態を検知可能な飲酒検知システム、飲酒検知方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、被験者の皮膚から放散される皮膚ガスを検出するセンサと、センサの検出結果に基づいて被験者の飲酒状態に関する情報を生成するための処理を行う制御装置と、を備え、センサは、人体における代謝活動に関連する代謝関連ガス及び人体における血管運動に関連する血管関連ガスを検出し、制御装置は、センサにより検出された複数種の代謝関連ガスの総放散量に対する当該複数種の代謝関連ガスから選択された特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す代謝指標値と、センサにより検出された複数種の血管関連ガスの総放散量に対する当該複数種の血管関連ガスから選択された特定血管関連ガスの放散量の割合を示す血管指標値とに基づいて、被験者が飲酒状態であるか否かを判定し、被験者が飲酒状態であると判定された場合に、被験者が飲酒状態であることを示す信号を出力する、飲酒検知システムである。
【0007】
上記構成によれば、気候的条件や被験者固有の要因(体質、精神状態等)に起因する皮膚ガスの放散量の変動による影響を抑制でき、飲酒検知の精度を向上させることができる。
【0008】
また、複数種の代謝関連ガスは、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、及びアセトインからなる群から選択される2以上のガスであってもよい。
【0009】
これにより、有効な代謝指標値を算出でき、高精度な飲酒検知を実現できる。
【0010】
また、複数種の血管関連ガスは、プロピオン酸、ヘキサン酸、及び一酸化窒素からなる群から選択される2以上のガスであってもよい。
【0011】
これにより、有効な血管指標値を算出でき、高精度な飲酒検知を実現できる。」
「 【0030】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る車両1の構成の一例を示す図である。車両1は、飲酒検知システム11及び車両制御システム51を備える。
【0031】
飲酒検知システム11は、被験者(例えば車両1の運転者)の飲酒状態を検知するシステムであり、皮膚ガスセンサ21及び飲酒検知ECU(Electronic Control Unit)22を備える。なお、飲酒状態とは、血中アルコール濃度が予め定められた上限値を超えた状態であり、いわゆる酒気帯び状態又は酒酔い状態に相当する状態である。
【0032】
皮膚ガスセンサ21は、被験者の皮膚から放散される皮膚ガスを検出する。皮膚ガスセンサ21は、人体における代謝活動に関連する代謝関連ガス、及び人体における血管運動(血管の収縮又は拡張)に関連する血管関連ガスを検出可能なセンサである。
【0033】
代謝関連ガスとしては、例えば、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、アセトイン等が挙げられる。
【0034】
血管関連ガスとしては、例えば、プロピオン酸、ヘキサン酸、一酸化窒素等が挙げられる。
【0035】
図2は、第1実施形態に係る皮膚ガスの検出位置の一例を示す図である。本実施形態に係る皮膚ガスセンサ21による皮膚ガスの検出位置は、被験者の手掌部31であり、特に、母指球部32又は指先部33であることが好ましい。これらの部位においては、毛細血管が多く、通常無毛であり、皮下脂肪が少ないため、皮膚ガスの放散量が多く、皮膚ガスを比較的安定して検出できる。なお、図2においては、指先部33として親指の指先が例示されているが、指先部33は他の指(人差し指、中指、薬指、又は小指)の指先であってもよい。
【0036】
皮膚ガスセンサ21の具体的構成は特に限定されるべきものではないが、例えば、酸化物半導体式センサ、QCM(Quartz Crystal Microbalance)センサ、FET(Field Effect Transistor)センサ、膜型表面応力センサ等が皮膚ガスセンサ21として利用され得る。また、皮膚ガスセンサ21の設置位置は特に限定されるべきものではないが、例えば、ステアリングホイール、シフトレバー等の運転者の手掌部31が接触しやすい部分であることが好ましい。
【0037】
なお、皮膚ガスセンサ21の検出位置、具体的構成、設置位置等は、上記に限定されるものではない。例えば、検出位置は、膝裏部等であってもよい。」
「【0045】
図3は、第1実施形態に係る飲酒検知ECU22の機能構成の一例を示す図である。本実施形態に係る飲酒検知ECU22は、取得部101、代謝指標値演算部102、血管指標値演算部103、判定部104、及び出力部105を有する。これらの機能的構成要素101~105は、飲酒検知ECU22を構成するハードウェア要素(プロセッサ、入出力デバイス、通信デバイス等)とソフトウェア要素(プログラム、ファームウェア等)との協働により構成される。
【0046】
取得部101は、皮膚ガスセンサ21から、被験者の皮膚から放散される皮膚ガスの放散量に関する情報を取得する。本実施形態に係る取得部は、複数種の代謝関連ガスのそれぞれの放散量を示す代謝関連ガス情報と、複数種の血管関連ガスのそれぞれの放散量を示す血管関連ガス情報とを取得する。なお、放散量とは、例えば、所定の単位時間当たりに放散される(皮膚ガスセンサ21により検出される)ガスの量を示す値であり得る。
【0047】
代謝関連ガス情報は、例えば、アセトアルデヒドの放散量、酢酸の放散量、アセトンの放散量、アセトインの放散量等を含む。
【0048】
血管関連ガス情報は、例えば、プロピオン酸の放散量、ヘキサン酸の放散量、一酸化窒素の放散量等を含む。
【0049】
代謝指標値演算部102は、取得部101により取得された代謝関連ガス情報に基づいて代謝指標値を算出する。代謝指標値とは、複数種の代謝関連ガスの総放散量に対する、当該複数種の代謝関連ガスから選択された特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す値である。複数種の代謝関連ガスは、例えば、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、及びアセトインからなる群から選択される2以上のガスである。例えば、複数種の代謝関連ガスをアセトアルデヒド、酢酸、及びアセトンとし、特定代謝関連ガスをアセトンとし、アセトアルデヒドの放散量をA1、酢酸の放散量をA2、アセトンの放散量をA3とするとき、代謝指標値Vmは、下記式(1)のように示される。
【0050】
Vm=A3/(A1+A2+A3) …(1)
【0051】
このような代謝指標値を利用することにより、気候的条件や被験者固有の要因(体質、精神状態等)に起因する皮膚ガスの放散量の変動による影響を抑制でき、飲酒検知の精度を向上させることができる。
【0052】
なお、上記代謝指標値の算出方法は例示であり、複数種の代謝関連ガスの選定、及び特定代謝関連ガスの選定は上記に限定されるものではない。
【0053】
血管指標値演算部103は、取得部101により取得された血管関連ガス情報に基づいて血管指標値を算出する。血管指標値とは、複数種の血管関連ガスの総放散量に対する、当該複数種の血管関連ガスから選択された特定血管関連ガスの放散量の割合を示す値である。複数種の血管関連ガスは、例えば、プロピオン酸、ヘキサン酸、及び一酸化窒素からなる群から選択される2以上のガスである。例えば、複数種の血管関連ガスをプロピオン酸及びヘキサン酸とし、特定代謝関連ガスをヘキサン酸とし、プロピオン酸の放散量をB1、ヘキサン酸の放散量をB2とするとき、血管指標値Vbは、下記式(2)のように示される。
【0054】
Vb=B2/(B1+B2) …(2)
【0055】
このような血管指標値を利用することにより、気候的条件や被験者固有の要因(体質、精神状態等)に起因する皮膚ガスの放散量の変動による影響を抑制でき、飲酒検知の精度を向上させることができる。
【0056】
なお、上記血管指標値の算出方法は例示であり、複数種の血管関連ガスの選定、及び特定血管関連ガスの選定は上記に限定されるものではない。
【0057】
判定部104は、代謝指標値演算部102により算出された代謝指標値及び血管指標値演算部103により算出された血管指標値に基づいて被験者が飲酒状態であるか否かを判定する。
【0058】
図4は、第1実施形態に係る判定部104による飲酒状態の判定方法の一例を示す図である。本実施形態に係る判定部104は、代謝指標値Vm及び血管指標値Vbが所定範囲内であるか否かに基づいて被験者が飲酒状態であるか否かを判定する。判定部104は、例えば、代謝指標値Vmが予め定められた閾値Vmt以上であり、且つ血管指標値Vbが予め定められた閾値Vbt以上である場合、すなわち図4に例示するグラフにおいて、点(Vb,Vm)が領域R1内にある場合に、被験者は飲酒状態であると判定する。なお、図4に示す所定範囲(領域R1)は単なる例示であり、当該所定範囲はこれに限定されるものではない。
【0059】
出力部105は、判定部104により被験者の飲酒状態が検知された場合に、飲酒検知信号(飲酒情報)を車両制御ECU65に出力する。
【0060】
図5は、第1実施形態に係る飲酒検知システム11における処理の一例を示すフローチャートである。先ず、取得部101が皮膚ガスセンサ21から代謝関連ガス情報及び血管関連ガス情報を取得する(S101)。これらの皮膚ガスに関する情報の取得は、例えば、運転者が車両1の走行を開始する前に、皮膚ガスセンサ21が設置された所定のユニット(例えばステアリングホイール、シフトレバー等)に手掌部31を接触させること等により行われる。
【0061】
代謝指標値演算部102は、取得された代謝関連ガス情報に基づいて代謝指標値Vmを算出し(S102)、血管指標値演算部103は、取得された血管関連ガス情報に基づいて血管指標値Vbを算出する(S103)。判定部104は、算出された代謝指標値Vm及び血管指標値Vbが所定範囲(例えば図4における領域R1)内にあるか否かを判定する(S104)。
【0062】
代謝指標値Vm及び血管指標値Vbが所定範囲内にない場合(S104:No)、判定部104は被験者が飲酒状態でないと判定し、本ルーチンは終了する。この場合、例えば、車両1は通常通り走行可能となる。
【0063】
代謝指標値Vm及び血管指標値Vbが所定範囲内にある場合(S104:Yes)、判定部104は被験者が飲酒状態であると判定し(S105)、出力部105は飲酒検知信号を車両制御ECU65に出力する(S106)。この場合、車両制御システム51(車両制御ECU65)は、例えば車両1の走行の禁止、乗員(運転者)への警告の発信等の危険回避処理を実行する。
【0064】
上記実施形態によれば、気候的条件や被験者固有の要因(体質、精神状態等)に起因する皮膚ガスの放散量の変動による影響を抑制でき、飲酒検知の精度を向上させることができる。」
「図1
[図:0001433943000001.jpg]
」
「図3
[図:0001433943000002.jpg]
」
「図4
[図:0001433943000003.jpg]
」
「図5
[図:0001433943000004.jpg]
」
(2)実施可能要件
ア 本願の明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明に対応する実施形態として、上記2(1)イで摘記したように【0030】~【0037】、【0045】~【0064】の記載が存在し、図面には、これらの記載に関連する図として、図1、3~5が存在する。しかし、これらの記載は、「アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、及びアセトインからなる群から予め選択された2以上のガスを」「代謝関連ガス」とし、「2以上の前記代謝関連ガスから予め選択された1つ」を「特定代謝関連ガス」とし、「プロピオン酸、ヘキサン酸、及び一酸化窒素からなる群から予め選択された2以上のガスを」「血管関連ガス」とし、「2以上の前記血管関連ガスから予め選択された1つ」を「特定血管関連ガス」とした際に、「前記2以上の前記代謝関連ガスの総放散量に対する前記特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す代謝指標値と、前記センサにより検出された前記2以上の前記血管関連ガスの総放散量に対する前記特定血管関連ガスの放散量の割合を示す血管指標値とに基づいて、前記代謝指標値が予め設定された代謝指標値閾値以上で、かつ、前記血管指標値が予め設定された血管指標値閾値以上である場合に、」被験者が実際に飲酒状態であることを判定したことを示すものではない。
「代謝指標値」及び「血管指標値」により被験者が実際に飲酒状態であるか否かを判定できることが裏付けられているといえるためには、非飲酒状態と飲酒状態において、「アセトアルデヒド」、「酢酸」、「アセトン」、「アセトイン」の皮膚から放散量の各ガス間での相対的な変化傾向、及び、非飲酒状態と飲酒状態において、「プロピオン酸」、「ヘキサン酸」、「一酸化窒素」の皮膚から放散量の各ガス間での相対的な変化傾向について、各組み合わせにおいて差があり、それが統計的学に有意であることが示される必要がある。具体的に言えば、飲酒状態において、「代謝関連ガス」の中で「特定代謝関連ガス」が、他の「代謝関連ガス」よりも有意に増加することと「血管関連ガス」の中で「特定血管関連ガス」が、他の「血管関連ガス」よりも有意に増加することが明細書において示される必要がある。例えば、「酢酸」と「アセトン」が「代謝関連ガス」として選択され、「酢酸」が「特定代謝関連ガス」であるとした場合、飲酒状態において、「酢酸」と「アセトン」が同じ割合(例えばα倍)で(非飲酒状態に比べて)増加すると仮定すると、
・「非飲酒状態の代謝指標値」=「非飲酒状態の酢酸の放散量」/(「非飲酒状態の酢酸の放散量」+「非飲酒状態のアセトンの放散量」)
・「飲酒状態の代謝指標値」=「飲酒状態の酢酸の放散量」/(「飲酒状態の酢酸の放散量+飲酒状態のアセトンの放散量)=α*「非飲酒状態の酢酸の放散量」/(α*「非飲酒状態の酢酸の放散量」+α*「非飲酒状態のアセトンの放散量」)=「非飲酒状態の酢酸の放散量」/(「非飲酒状態の酢酸の放散量」+「非飲酒状態のアセトンの放散量」)=「非飲酒状態の代謝指標値」
となり、「代謝指標値」が実際の飲酒状態の判定に役立たないといえる。
しかし、発明の詳細な説明には、非飲酒状態と飲酒状態における各ガス間の放散量の相対的な変化傾向についてのデータだけでなく、各ガスの放散量についてのデータすら開示されていない。
イ また、非飲酒状態と飲酒状態における各ガス間の放散量の相対的な変化傾向が、各組み合わせにおいて差があり、それが統計的学に有意であることが、本願の出願時において、技術常識であったとは認められないので、上記アで説示した明細書において示される必要があるとした事項が、発明の詳細な説明に記載がなくとも当業者が認識しうる程度の技術事項であるともいえない。
ウ そうすると、本件補正発明を実施するためには、各ガスについて、非飲酒状態と飲酒状態における放散量の相対的な変化傾向の差を統計的に十分な数の被験者において、実験して確認し、適切な閾値を設定する必要があり、これは当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を要するものである。
エ さらに、本件補正発明は、「特定代謝関連ガス」の選択基準は不定であり、明細書においても特定の基準に基づいて選択されることを説明するような記載は存在しないから、例えば、「代謝関連ガス」として2つのガスが選択された場合、「特定代謝関連ガス」として、「代謝関連ガス」として選択された2つのガスの一方が選択される場合と他方が選択される場合を含むものである。そうすると、「前記2以上の前記代謝関連ガスの総放散量に対する前記特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す代謝指標値」は、一方のガスを選択した場合の値をa(=ガスA/(ガスA+ガスB))とすると、他方のガスを選択した場合の値bは、b=ガスB/(ガスA+ガスB)=(ガスA+ガスB)/(ガスA+ガスB)-ガスA/(ガスA+ガスB)=(1-a)となる。aの代謝指標閾値をαとすると、「前記代謝指標値が予め設定された代謝指標値閾値以上」であることは、a≧αで表されるが、この式を変形すると、b≦-α+1となり、他方のガスからみれば、予め定められた閾値(-α+1)以下を意味することになり、特定代謝関連ガスとして一方のガスを選択した場合が技術的に正しいとすると、特定代謝関連ガスとして他方のガスを選択した場合には、「代謝指標値」について「予め設定された代謝指標値以上」を基準とすることは技術的に正しくない。本件補正発明は、このように矛盾するものを含み、この矛盾を解消することについても発明の詳細な説明において説明が記載されていない。
エ 以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明は、本件補正発明の「人体における代謝活動に関連する代謝関連ガスとして、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、及びアセトインからなる群から予め選択された2以上のガスを記憶し、
2以上の前記代謝関連ガスから予め選択された1つの特定代謝関連ガスを記憶し、
人体における血管運動に関連する血管関連ガスとして、プロピオン酸、ヘキサン酸、及び一酸化窒素からなる群から予め選択された2以上のガスを記憶し、
2以上の前記血管関連ガスから予め選択された1つの特定血管関連ガスを記憶する記憶部と、」「前記センサにより検出された前記2以上の前記代謝関連ガスの総放散量に対する前記特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す代謝指標値と、前記センサにより検出された前記2以上の前記血管関連ガスの総放散量に対する前記特定血管関連ガスの放散量の割合を示す血管指標値とに基づいて、前記代謝指標値が予め設定された代謝指標値閾値以上で、かつ、前記血管指標値が予め設定された血管指標値閾値以上である場合に、前記被験者が飲酒状態であると判定」する「制御装置」について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)サポート要件
ア 本願の明細書の発明の詳細な説明の記載全体、特に段落【0004】~【0005】の記載から、本件補正発明が解決しようとする課題は、「高い精度で飲酒状態を検知可能な飲酒検知システムを提供すること」と認められる(下線は当審において強調のために付した)。
イ 本願の明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明に対応する実施形態として、上記2(1)イで摘記したように【0030】~【0037】、【0045】~【0064】の記載が存在し、図面には、これらの記載に関連する図として、図1、3~5が存在する。しかし、これらの記載は、「アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、及びアセトインからなる群から予め選択された2以上のガスを」「代謝関連ガス」とし、「2以上の前記代謝関連ガスから予め選択された1つ」を「特定代謝関連ガス」とし、「プロピオン酸、ヘキサン酸、及び一酸化窒素からなる群から予め選択された2以上のガスを」「血管関連ガス」とし、「2以上の前記血管関連ガスから予め選択された1つ」を「特定血管関連ガス」とした際に、「前記2以上の前記代謝関連ガスの総放散量に対する前記特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す代謝指標値と、前記センサにより検出された前記2以上の前記血管関連ガスの総放散量に対する前記特定血管関連ガスの放散量の割合を示す血管指標値とに基づいて、前記代謝指標値が予め設定された代謝指標値閾値以上で、かつ、前記血管指標値が予め設定された血管指標値閾値以上である場合に、」被験者が実際に飲酒状態であることを判定したことを示すものではない。また、上記(2)アで説示したように、発明の詳細な説明には、非飲酒状態と飲酒状態における各ガス間の放散量の相対的な変化傾向についてのデータだけでなく、各ガスの放散量についてのデータすら開示されていない。
ウ そして、「アセトアルデヒド」、「アセトン」のような本件補正発明において特定される一部のガスの放散については、飲酒状態と関連があることは、本願の出願時に周知であったと認められるものの、これらガス及び本件補正発明で特定される他のガス(「酢酸」、「アセトイン」、「プロピオン酸」、「ヘキサン酸」、及び「一酸化窒素」)について、非飲酒状態と飲酒状態における各ガス間の放散量の相対的な変化傾向が、各組み合わせにおいて差があり、それが統計的学に有意であることが、本願の出願時において、技術常識であったとは認められない。
エ してみると、「前記センサにより検出された前記2以上の前記代謝関連ガスの総放散量に対する前記特定代謝関連ガスの放散量の割合を示す代謝指標値と、前記センサにより検出された前記2以上の前記血管関連ガスの総放散量に対する前記特定血管関連ガスの放散量の割合を示す血管指標値とに基づいて、前記代謝指標値が予め設定された代謝指標値閾値以上で、かつ、前記血管指標値が予め設定された血管指標値閾値以上である場合に、前記被験者が飲酒状態であると判定」する「制御装置」によって、高い精度で飲酒状態を検知するという上記課題を解決できることを発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できたとはいえない。
オ さらに、上記(2)ウで説示したように、本件補正発明は、矛盾する態様を含むものであるから、本件補正発明が、その範囲全体にわたって、上記課題を解決できるものではないことは明らかである。
カ よって、本件補正発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らしその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
(4)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、審判請求書の請求の理由において、以下の主張をしている。
「段落0058、図4は、「代謝指標値Vmが予め定められた閾値Vmt以上」、かつ、「血管指標値Vbが予め定められた閾値Vbt以上」の場合に「被験者は飲酒状態であると判定する」ことを示すものであるから、「「領域R1内にある場合に、被験者は飲酒状態であると判定する」ということが単に模式的に示されている」のではなく、「代謝指標値Vmが予め定められた閾値Vmt以上」、かつ、「血管指標値Vbが予め定められた閾値Vbt以上」の場合に「被験者は飲酒状態であると判定する」という具体的な情報処理の内容を示すものです。
したがって、請求項1の代謝関連ガスと血管関連ガスの測定に基づく飲酒状態の判定方法は、明細書に実態として記載されたものであるので、請求項1に係る発明は明細書に記載されたものです。
また、明細書には、代謝関連ガスと血管関連ガスとを測定し、測定されたガス放散量をどのように処理すれば飲酒状態を表す指標を得ることができるのかについて、実際的な飲酒状態判定手順が、例えば、段落0049~0051、0053~0055に数式とともに示されているので、明細書には、請求項1に係る発明を実施することができるように記載されています。したがって、本願の明細書には、実際に飲酒状態が判定できることが開示されていると言えます。」
イ 主張についての判断
本件補正発明が解決しようとする課題は、上記(3)アで認定したとおり「高い精度で飲酒状態を検知可能な飲酒検知システムを提供すること」である。ここで「高い精度で」検知することを課題とすることから、「飲酒状態を検知可能」とは、皮膚から放散されるガスが、ある条件にあるときに飲酒状態であるとすること、つまり、実際の飲酒状態であるか否かに関係なく飲酒状態とすることを意味するのではなく、被験者が実際に飲酒を行った状態(飲酒状態)を検知できることを意味すると解される。、本件補正発明が、上記課題を解決できると当業者が認識できるためには、判定の具体的な情報処理が示されるだけでは不十分であり、実際の飲酒状態と皮膚から放散されるガスとの関連が具体的なデータをもって裏付けられる必要がある。しかし、上記(2)アおよび上記(3)イで説示したように、本願の明細書の発明の詳細な説明においては、本件補正発明が実際に被験者の飲酒状態を判定できることを裏付ける具体的なデータが開示されていない。そして、非飲酒状態と飲酒状態における各ガス間の放散量の相対的な変化傾向が、各組み合わせにおいて差があり、それが統計的学に有意であることが、本願の出願時において、技術常識であったとは認められない。
そうすると、本件補正発明は、本願の明細書の発明の詳細な説明において、上記課題を解決するものとして記載されているとはいえず、請求人の上記主張は採用することはできない。
(5)小括
上記(2)及び(3)のとおり、本件補正発明について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなく、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~7に係る発明は、令和6年11月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1(1)に記載されたとおりのものである。
第4 原査定における拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由2及び3の概要は、以下のとおりである。
(理由2)本願は、本願発明が、発明の詳細な説明に記載したものでないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(理由3)本願は、発明の詳細な説明が、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第5 当審の判断
(1)理由2(サポート要件)について
本願発明は、上記第2[理由]2で述べたとおり、本件補正発明における「代謝関連ガス」、「特定代謝関連ガス」、「血液関連ガス」、「特定血液関連ガス」に係る限定事項を削除して拡張したものであるから、本件補正発明を包含するものである。
そして、上記第2[理由]2(3)で述べたとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明の課題が解決できると当業者が認識できる程度の記載ないし示唆があると解すことはできないから、これと同じ理由により、発明の詳細な説明は、本願発明の課題が解決できると当業者が認識できる程度の記載ないし示唆があると解すことはできない。
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(2)理由3(実施可能要件)について
本願発明は、上記第2[理由]2で述べたとおり、本件補正発明における「代謝関連ガス」、「特定代謝関連ガス」、「血液関連ガス」、「特定血液関連ガス」に係る限定事項を削除して拡張したものであるから、本件補正発明を包含するものである。
そして、上記第2[理由]2(2)で述べたとおり、発明の詳細な説明は、本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、これと同じ理由により、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、請求項1に係る発明が、明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許請求の範囲の記載が同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-005553