特許異議申立
2023-700923
水性多液型ポリウレタン塗料組成物
- 審判番号
- 2023-700923
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-123214
- 登録番号
- 7235923
- 請求日
- 2023年09月06日
- 審決日
- 2024年01月18日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】関西ペイント株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】秋山 朋毅
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 関根 裕
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.113-Y (C09D) / P1651.121-Y (C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7235923号発明「水性多液型ポリウレタン塗料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7235923号の請求項1~21に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7235923号(以下「本件特許」ともいう。)の請求項1~21に係る特許についての出願は、令和4年8月2日(優先権主張 令和4年4月22日(以下「優先日」という。) 日本国)にされたものであって、令和5年2月28日にその特許権の設定登録がされ、同年3月18日に特許掲載公報が発行され、その後、その全請求項に係る特許に対し、令和5年9月6日に特許異議申立人である秋山朋毅(以下「申立人」という。)によって、特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許の特許請求の範囲の記載
本件特許の請求項1~21に係る発明(以下、請求項の項番により「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~21に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)、触媒化合物(a2)及び水を含む第1成分(A)、並びにポリイソシアネート成分(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物であって、
前記水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)に含まれる水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度40℃以上であり、
触媒化合物(a2)の含有量が、第1成分(A)の樹脂固形分100質量部を基準として0.0001~0.1質量部の範囲内にあり、
ブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度が10N/mm2以上70N/mm2以下であり、乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で20分焼付した塗膜のアセトン抽出塗膜残存率が70%以上である、水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項2】
乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で20分焼付した塗膜のアセトン抽出塗膜残存率が95%以下である、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項3】
前記水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)に含まれる水酸基含有アクリル樹脂が、水酸基価50~250mgKOH/g、酸価5~40mgKOH/gの範囲内である、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項4】
水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)が、自己乳化型エマルションを含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項5】
前記水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)に含まれる水酸基含有アクリル樹脂が、その成分の一部として、水酸基含有重合性不飽和化合物、カルボキシル基含有重合性不飽和化合物、及びエポキシ基含有重合性不飽和化合物を共重合成分とする水酸基含有アクリル樹脂(a1-1)を含む、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項6】
水酸基含有アクリル樹脂(a1-1)の分子量が、10000~18000である、請求項5に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項7】
触媒化合物(a2)が、モリブデン化合物を含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項8】
第2成分(B)が、亜鉛化合物、錫化合物、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物、鉛化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、チタン化合物及びアルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属触媒化合物(d)を含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項9】
亜鉛化合物、錫化合物、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物、鉛化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、チタン化合物及びアルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属触媒化合物(d)及び有機溶剤(c1)を含む第3成分(C)を含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項10】
金属触媒化合物(d)の含有量が、第3成分(C)の総量100質量部を基準として0.10~5.0部の範囲内にある、請求項9に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項11】
金属触媒化合物(d)が錫化合物を含有する、請求項8または9に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項12】
金属触媒化合物(d)の含有量が、ポリイソシアネート成分(b1)の不揮発分100質量部を基準として0.01~1.00質量部の範囲内にある、請求項8または9に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項13】
有機溶剤(b2)が、沸点が140℃以上180℃以下、20℃における水溶解度が1.0g/100g H2O以上20g/100g H2O以下である化合物を含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項14】
有機溶剤(b2)の含有量が、第1成分(A)及び第2成分(B)の樹脂固形分の総量100質量部を基準として40質量部以上70質量部以下である、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項15】
有機溶剤(c1)が、沸点が140℃以上180℃以下、20℃における水溶解度が1.0g/100g H2O以上20g/100g H2O以下である化合物を含有する、請求項9に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項16】
第2成分(B)に含まれる有機溶剤(b2)及び第3成分(C)に含まれる有機溶剤(c1)の合計含有量が、第1成分(A)及び第2成分(B)の樹脂固形分の総量100質量部を基準として40質量部以上70質量部以下である、請求項9に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項17】
透明塗料組成物である、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項18】
第1成分(A)がさらに顔料を含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項19】
被塗物に、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物を塗装する塗装方法。
【請求項20】
前記被塗物が、自動車、産業機械、建設機械、鉄道車両、大型車両、船体、又は建築物建造物、若しくはそれらの部品である、請求項19に記載の塗装方法。
【請求項21】
塗装体の被塗面にすでに形成されている塗膜上或いは塗装体の損傷部にプライマーサーフェイサー及び/又はベース塗料を塗装した下地処理塗膜上に、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物を塗装する、塗装体の補修塗装方法。」
第3 特許異議申立ての理由、証拠方法及び証拠の記載
1 申立人は、後記2の申立理由を主張し、その証拠方法として後記3の甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」等という。)を提出した。
甲1~甲4は、いずれも、本件特許の優先日前に公開されたものである。
2 申立理由
(1)申立理由1(新規性)
本件発明1~8、13、14、17~21は、下記3の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であるから、本件発明1~21に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明1~21は、下記3の甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1~21に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(進歩性)
本件発明1~21は、下記3の甲4に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1~21に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2019-142999号公報
甲第2号証:山口幸男 外2名、「ポリウレタンの物性におよぼすウレタン基の影響」、工業化学雑誌、73巻7号、1970年、1531~1540頁
甲第3号証:特開2021-178911号公報
甲第4号証:特開2020-111723号公報
4 甲号証の記載
(1)甲1には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、水性2液型ポリウレタン塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン塗料は、ウレタン結合によって強靭性と柔軟性を併せもつ物性に優れる塗膜が形成できることから塗料用途に幅広く使用されている。」
「【0013】
本発明の課題は、目的とする塗膜硬度に達するまでに要する乾燥時間が短い塗膜を形成するのに適する水性2液型ウレタン塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記した課題について鋭意検討した。その結果、水性2液型ポリウレタン塗料組成物のうち、水酸基含有樹脂と水を含む側に特定の金属化合物を含ませる態様によって、乾燥時間が短くても硬度に優れた塗膜が形成できることを見出した。」
「【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。ここで、『部』および『%』はそれぞれ『質量部』および『質量%』を意味する。
【0078】
≪アクリル樹脂エマルションの製造≫
製造例1
温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテルを50部入れ、撹拌しながら窒素気流下120℃まで昇温した。120℃に達したところで、表1の第1段階欄に記載のモノマー配合と重合開始剤にt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.5部を予め混合した混合溶液を4時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃の温度に1時間保持した。
【0079】
引き続き120℃の温度を保持したまま、上記フラスコ中に、同表1の第2段階の欄に記載のモノマー配合とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3部を予め混合した混合溶液を1時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃で1.5時間保持してアクリルポリオール溶液を得た。
得られたアクリルポリオール溶液の樹脂不揮発分は77.5%であり、重量平均分子量は20,000であった。続いて、得られたアクリルポリオール溶液から不揮発分が85%になるまでプロピレングリコールモノプロピルエーテルを減圧下で留去した。これを95℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミンでpHを8.0に調整して30分間撹拌した。さらに、撹拌しながら不揮発分が43%となるように脱イオン水を2時間かけて滴下してアクリル樹脂エマルションA1-1を得た。得られたアクリル樹脂エマルションA1-1の重量平均分子量、酸価、水酸基価及び平均粒子径を表1に示す。
【0080】
製造例2
製造例1において各共重合成分のモノマー組成及び配合量を下記表1に示す内容とする以外は製造例1と同様にしてアクリル樹脂エマルションA1-2を得た。
【0081】
【表1】
[図:0001406726000001.jpg]
【0082】
≪水性2液型クリヤ塗料組成物の製造≫
実施例1
容器に、製造例1で得られた不揮発分が43%のアクリル樹脂エマルションA1-1 85部(不揮発分37部)、「BYK-348」(注3)1部、「BYK-015」(注4)0.5部、「TINUVIN384-2」(注5)1部、「TINUVIN292」(注6)0.5部、「SNシックナー621N」(注7)0.5部(不揮発分0.2部)、モリブデン化合物(注9)0.01部、脱イオン水11.5部を配合し、室温(23℃)で攪拌下、ジメチルエタノールアミンをpH7.6となるまで滴下して主剤(A)を作成した。
別容器に、ポリイソシアネート化合物「バイヒジュールXP2655」(注14)25部、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(注16)15部、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(注17)5部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(注18)5部を配合し、均一になるまで混合して硬化剤(B)を作成した。
前記主剤(A)100部に、硬化剤(B)が50部となるように両者を混合し、不揮発分含有率が40%となるように脱イオン水を加えて攪拌して水性2液型クリヤ塗料組成物No.1を得た。
【0083】
実施例2~14、及び比較例1~5
実施例1において、各成分の配合を表2に示す配合とする以外は実施例1と同様にして、水性2液型クリヤ塗料組成物No.2~19を得た。
【0084】
【表2】
[図:0001406726000002.jpg]
」
「【0087】
注1)「サンニックスGP-600」:商品名、三洋化成工業社製、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、数平均分子量600、水酸基価280mgKOH/g、不揮発分100%、
注2)「サンニックスGP-3000」:商品名、三洋化成工業社製、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、数平均分子量3,000、水酸基価52.6mgKOH/g、不揮発分100%、
注3)「BYK-348」:商品名、ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性シロキサン、重量平均分子量1,500、不揮発分100%、
注4)「BYK-015」:商品名、ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性シロキサン、重量平均分子量2,200、不揮発分100%、
注5)「TINUVIN 384-2」:商品名、BASF社製、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、不揮発分95%、1-メトキシ-2-プロピルアセテート5%、
注6)「TINUVIN 292」:商品名、BASF社製、ヒンダードアミン系光安定剤、不揮発分100%、
注7)「SNシックナー621N」:商品名、サンノプコ社製、非イオン性レオロジーコントロール剤、不揮発分30%、
注8)「ACRYSOL ASE-60」:商品名、ダウ・ケミカル社製、酸価270mgKOH/g、アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤、不揮発分28%、
注9)モリブデン化合物(ナトリウム塩):リンモリブデン酸ナトリウムn水和物、
注10)モリブデン化合物(アンモニウム塩):リンモリブデン酸アンモニウム三水和物、
注11)「XK-614」:商品名、KING INDUSTRIES社製、亜鉛化合物、
注12)「オルガチックスTC-401」:商品名、マツモトファインケミカル社製、チタンテトラアセチルアセトネート、不揮発分65%、
注13)pH7.6となる量を滴下:主剤(A)の成分を全て配合して23℃で攪拌下しながらpH7.6となるまで滴下、
注14)「バイヒジュール XP2655」:商品名、住化コベストロウレタン社製、スルホン酸基を有するヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、NCO含量21%、不揮発分100%、
注15)「デスモジュール N3900」:商品名、住化コベストロウレタン社製、酸基を有さないポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの環化重合体、NCO含量23.5%、不揮発分100%、
注16)ジプロピレングリコールジメチルエーテル:沸点171℃、
注17)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:アセテート系有機溶剤、沸点195.5℃、
注18)ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート:アセテート系有機溶剤、沸点217.4℃。」
「【0093】
注20)仕上がり性:
上記被塗物に、実施例及び比較例で得られた各水性2液型クリヤ塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後塗装板を水平に20分間室温で保った後、電気熱風乾燥器を用いて60℃で30分乾燥して室温まで冷却して、各水性2液型クリヤ塗料組成物がトップコートとして塗装された試験塗板(仕上がり性評価用)を作製した。
各試験塗板(仕上がり性評価用)の外観を光沢度、目視により評価した。」
「【0098】
注21)乾燥性:
<磨き可能時間>
形成された塗膜が磨けるようになる最短の乾燥時間(分)を測定した。
【0099】
具体的には、上記被塗物に、実施例及び比較例で得られた各水性2液型クリヤ塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後室温で水平に20分間静置し、電気熱風乾燥器を用いて60℃で乾燥時間を種々変動させ、同一塗料サンプルについて60℃の乾燥時間が異なる試験塗板(乾燥性評価用)を複数作製した。次いで試験塗板(乾燥性評価用)それぞれについて、下記磨き補修方法(*)を実施し、その中からペーパーキズ残りや光沢低下のない、良好な塗膜状態の試験塗板(乾燥性評価用)を選定した。表中の磨き可能時間は磨き補修後の外観が最良の試験塗板(乾燥性評価用)が要した60℃の乾燥時間(分)であり、この時間が30分以下であると乾燥性に優れており、時間が長くなるほど乾燥性が悪いことを意味する。
(*磨き補修方法)
各試験塗板(乾燥性評価用)を#2000の耐水研磨紙を用いて水研ぎした後、粗磨き用バフに粗磨き用コンパウンドを使って、60秒間ポリッシングし、耐水研磨紙によるペーパーキズを除去し、さらに、仕上げ用バフに仕上げ用コンパウンドを使って60秒間ポリッシングし、バフ磨きキズの除去を行った。
【0100】
<押し込み硬度>
フィッシャースコープ HM2000(FISCHER社)を用いて、上記各試験塗板(仕上がり性評価用)表面に圧子を押し込みその際の押し込み深さと押し込み力から得られるマルテンス硬さ値を評価した。
◎:マルテンス硬さ値が20N/mm2以上であり、塗膜硬度は非常に良好、
○:マルテンス硬さ値が10以上で且つ20N/mm2未満であり、塗膜硬度は問題ないレベル、
△:マルテンス硬さ値が5以上で且つ10N/mm2未満であり、塗膜硬度に問題がある、
×:マルテンス硬さ値が5N/mm2以下。」
(2)甲2には、次の記載がある。
ア 1533頁左欄12行~28行
「
[図:0001406726000003.jpg]
」
イ 1534頁右欄10行~14行
「
[図:0001406726000004.jpg]
」
ウ 1534頁右欄の表6
「
[図:0001406726000005.jpg]
」
エ 1535頁右欄の表7、表8
「
[図:0001406726000006.jpg]
」
(3)甲3には、次の記載がある。
「【0006】
上記文献等の記載の、ブロックポリイソシアネート及びアクリルポリオールを用いた水系塗料組成物では、塗布後、80℃程度の焼付温度で乾燥させた場合、塗膜の外観不良(凹凸、濁り)が発生したり、或いは、塗膜の耐溶剤性が不足する場合があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、80℃程度の低温での硬化性、並びに、塗膜としたときの外観及び耐溶剤性に優れる水系塗料組成物及びその製造方法、並びに、前記水系塗料組成物を用いた樹脂膜及びその製造方法を提供する。」
「【0122】
本実施形態の樹脂膜は、後述する実施例に示すように、上記樹脂組成物を80℃で30分間加熱して硬化させてなる膜厚40μmの樹脂膜を、23℃で1週間保存後にアセトン中に23℃で24時間浸漬した際のゲル分率が80質量%以上であることが好ましく、84質量%以上がより好ましく、86質量%以上がさらに好ましい。ゲル分率が上記下限値以上であることで、低温硬化性がより良好なものとすることができる。一方、ゲル分率の上限値は特に限定されないが、例えば100質量%とすることができる。ゲル分率の具体的な測定方法は、例えば、後述する実施例に示す方法を用いることができる。」
「【0147】
[評価1]
(低温硬化性)
得られた水系塗料組成物をポリプロピレン(PP)板上に乾燥膜厚40μmになるよう塗装した後、80℃で30分間加熱乾燥し、樹脂膜を得た。得られた樹脂膜を常温(23℃)で1週間保管し、ゲル分率の測定を行なった。ゲル分率は、樹脂膜をアセトン中に23℃で24時間浸漬した際の未溶解部分質量を浸漬前質量で除した値の百分率(質量%)として求めた。評価基準は以下に示すとおりである。
【0148】
(評価基準)
○:ゲル分率が80質量%以上
△:ゲル分率が60質量%以上80%未満
×:ゲル分率が60質量%未満」
(4)甲4には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、水性多液型ポリウレタン塗料組成物、及びこれを塗装する塗装方法に関する。」
「【0012】
本発明が解決しようとする課題は、短い乾燥時間で硬度に優れた塗膜が得られる水性塗料組成物を提供することである。また、耐水性及び仕上がり性に優れた塗膜が得られる複層塗膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水酸基含有樹脂及び水を含有する第1液、並びに、ポリイソシアネート化合物としてイソシアネート基を3個以上有する分子量350以下のイソシアネート化合物を含む第2液を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物によって、前記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・」
「【0106】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。ここで、『部』および『%』はそれぞれ『質量部』および『質量%』を意味する。
【0107】
アクリル樹脂エマルションの製造
製造例1
温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテルを50部入れ、撹拌しながら窒素気流下120℃まで昇温した。120℃に達したところで、表1の第1段階欄に記載のモノマー配合と重合開始剤にt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.5部を予め混合した混合溶液を4時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃の温度に1時間保持した。引き続き120℃の温度を保持したまま、上記フラスコ中に、同表1の第2段階の欄に記載のモノマー配合とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3部を予め混合した混合溶液を1時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃で1.5時間保持してアクリルポリオール溶液を得た。続いて、得られたアクリルポリオール溶液から不揮発分が85%になるまでプロピレングリコールモノプロピルエーテルを減圧下で留去した。これを95℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミンでpHを8.0に調整して30分間撹拌した。さらに、撹拌しながら不揮発分が50%となるように脱イオン水を2時間かけて滴下してアクリル樹脂の水分散体(エマルション)を得た。得られたアクリル樹脂エマルション(A1-1)の重量平均分子量、酸価、水酸基価及び平均粒子径を下記表1に示す。
【0108】
製造例2、4
製造例1において、各共重合成分のモノマー組成及び配合量を下記表1に示す内容とする以外は製造例1と同様にして、アクリル樹脂エマルション(A1-2)及び(A1-4)を得た。
【0109】
製造例3
温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテルを50部入れ、撹拌しながら窒素気流下120℃まで昇温した。120℃に達したところで、表1の第1段階欄に記載のモノマー配合と重合開始剤t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.5部とを予め混合した混合溶液を4時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃の温度に1時間保持した。引き続き120℃の温度を保持したまま、上記フラスコ中に、同表1の第2段階の欄に記載のモノマー配合とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3部とを予め混合した混合溶液を1時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃で1.5時間保持してアクリルポリオール溶液を得た。続いて、得られたアクリルポリオール溶液から不揮発分が85%になるまでプロピレングリコールモノプロピルエーテルを減圧下で留去した。これを95℃まで冷却し、「ニューコール707SF」(注1)を5部加えて30分間撹拌した。さらに、撹拌しながら不揮発分が50%となるように脱イオン水を2時間かけて滴下してアクリル樹脂エマルション(A1-3)を得た。
【0110】
製造例5
温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテルを50部入れ、撹拌しながら窒素気流下120℃まで昇温した。120℃に達したところで、表1の第1段階欄に記載のモノマー配合と重合開始剤t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.8部とを予め混合した混合溶液を4時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃の温度に1時間保持してアクリルポリオール溶液を得た。続いて、得られたアクリルポリオール溶液から不揮発分が85%になるまでプロピレングリコールモノプロピルエーテルを減圧下で留去した。これを95℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミンでpHを8.0に調整して30分間撹拌した。さらに、撹拌しながら不揮発分が50%となるように脱イオン水を2時間かけて滴下してアクリル樹脂エマルション(A1-5)を得た。
【0111】
【表1】
[図:0001406726000007.jpg]
【0112】
注1)「ニューコール707SF」:商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩。
【0113】
製造例6
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器、窒素導入管及び滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水85部及び「アデカリアソープSR-1025」(商品名、ADEKA社製、乳化剤、有効成分25%)0.8部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、80℃に昇温させた。次いで下記コア部用モノマー乳化物の全量のうちの5%量及び6%過硫酸アンモニウム水溶液2.5部を反応容器内に配合し80℃で15分間保持した。その後、コア部用モノマー乳化物の残部を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行った。次に、下記シェル部用モノマー乳化物を1時間かけて滴下し、1時間熟成した後、5%ジメチルアミノエタノール水溶液3.8部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、固形分35%のアクリル樹脂エマルション(A1-6)を得た。得られたアクリル樹脂エマルションは、コア部は重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(アリルメタクリレート)によって架橋している。
「コア部用モノマー乳化物」:脱イオン水50部、「アデカリアソープSR-1025」3.1部、アリルメタクリレート1部、スチレン10部、メチルメタクリレート28部、エチルアクリレート20部及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート18部を混合攪拌することにより、コア部用モノマー乳化物を得た。
「シェル部用モノマー乳化物」:脱イオン水50部、「アデカリアソープSR-1025」1.8部、6%過硫酸アンモニウム水溶液0.04部、スチレン3部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート10部、メタクリル酸3部、エチルアクリレート3部及びメチルメタクリレート4部を混合攪拌することにより、シェル部用モノマー乳化物を得た。
【0114】
水性多液型ポリウレタン塗料組成物の製造
実施例1
容器に、製造例1で得られた不揮発分50%のアクリル樹脂エマルション(A1-1)70部、「BYK-348」(注4)0.5部、「BYK-015」(注5)1部、「TINUVIN384-2」(注6)1部、「TINUVIN292」(注7)0.5部、「SNシックナー621N」(注8)0.5部(不揮発分0.2部)、脱イオン水26部を配合し、室温で攪拌下、ジメチルエタノールアミンをpH7.6となるまで滴下して第1液(A)を作製した。
別の容器に、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン12.5部、「バイヒジュールXP2655」(注10)12.5部、ジプロピレングリコールジメチルエーテル15部、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート5部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート5部を配合し、均一になるまで混合して第2液(B)を作製した。
前記第1液(A)100部に、第2液(B)が50部となるように両者を混合し、不揮発分含有率が40%となるように脱イオン水を加えて攪拌して水性多液型ポリウレタン塗料組成物(X-1)を得た。
【0115】
実施例2~、及び比較例1~3
実施例1において、各塗料組成物の配合量を表2~表7に示すものとする以外は実施例1と同様にして、水性多液型ポリウレタン塗料組成物(X-2)~(X-26)を得た。
【0116】
【表2】
[図:0001406726000008.jpg]
」
「【0120】
【表6】
[図:0001406726000009.jpg]
」
「【0122】
注2)「サンニックスGP-600」:商品名、三洋化成工業社製、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、数平均分子量600、水酸基価280mgKOH/g、不揮発分100%
注3)「サンニックスGP-3000」:商品名、三洋化成工業社製、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、数平均分子量3000、水酸基価52.6mgKOH/g、不揮発分100%
注4)「BYK-348」:商品名、ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性シロキサン、重量平均分子量1,500、不揮発分100%
注5)「BYK-015」:商品名、ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性シロキサン、重量平均分子量2,200、不揮発分100%
注6)「TINUVIN 384-2」:商品名、BASF社製、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、不揮発分95%、1-メトキシ-2-プロピルアセテート5%、
注7)「TINUVIN 292」:商品名、BASF社製、ヒンダードアミン系光安定剤、不揮発分100%
注8)「SNシックナー621N」:商品名、サンノプコ社製、非イオン性レオロジーコントロール剤、不揮発分30%
注9)pH7.6となる量を滴下:第1液(A)の配合成分を全て配合して23℃で攪拌下しながらpH7.6となるまで滴下
注10)「バイヒジュール XP2655」:商品名、住化コベストロウレタン社製、スルホン酸基を有するヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、NCO含量21%、不揮発分100%
注11)「バイヒジュール 304」:商品名、住化コベストロウレタン社製、エチレンオキサイド基を有するヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、NCO含量18%、不揮発分100%
注12)「デスモジュール N3900」:商品名、住化コベストロウレタン社製、疎水性ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの環化重合体、NCO含量23.5%、不揮発分100%
注13)亜鉛化合物:「K-KAT XK-614」:商品名、KING INDUSTRIES社製
注14)錫化合物:ジブチル錫ジラウレート
注15)モリブデン化合物:モリブデン化合物(アンモニウム塩):リンモリブデン酸アンモニウム三水和物
【0123】
評価試験
上記表2~7に、後述する評価試験の結果を記載する。本発明においては、全ての性能に優れていることが重要であり、いずれか1つに不合格「D」の評価がある場合は不合格である。
<被塗物>
自動車車体用クリヤー塗料が塗装された塗装板を、#800耐水ペーパーで研磨、脱脂した。これを水平に置いて25℃、相対湿度40%の条件下で市販の水性着色ベース塗料組成物「レタンWBエコベース」(商品名、関西ペイント社製自動車補修用水性メタリックベース塗料)を均一になるように3段階に分けて塗り重ね塗装をして全体膜厚が15μmの着色ベース塗膜を得た。各段階の塗装後は溶媒が揮発して光沢が低くなるまで(具体的には光沢度25程度となるように)エアブローをした。このメタリック色の着色ベース塗膜が形成された板を被塗物(V)とした。
【0124】
<磨き可能時間>
上記被塗物(V)に、実施例及び比較例で得られた塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後室温で水平に20分間静置し、電気熱風乾燥器を用いて60℃で乾燥時間を20分、30分、40分と変動させ、同一塗料サンプルについて60℃の乾燥時間が異なる試験塗板(乾燥性評価用)を複数作製した。次いで試験塗板(乾燥性評価用)それぞれについて、下記磨き補修方法(*)を実施し、その中からペーパーキズ残りや光沢低下のない、良好な塗膜状態の試験塗板(乾燥性評価用)を選定した。評価としては、A、B、Cが合格で、Dが不合格である。
A:乾燥時間20分以上の試験塗板で磨き補修が可能である。
B:乾燥時間30分以上の試験塗板で磨き補修が可能である。
C:乾燥時間40分の試験塗板で磨き補修が可能である。
D:乾燥時間40分の試験塗板で磨き補修が不可能である。
(*磨き補修方法)
各試験塗板(乾燥性評価用)を#2000の耐水研磨紙を用いて水研ぎした後、粗磨き用バフで粗磨き用コンパウンドを使って、60秒間ポリッシングし、耐水研磨紙によるペーパーキズを除去し、さらに、仕上げ用バフで仕上げ用コンパウンドを使って60秒間ポリッシングし、バフ磨きキズの除去を行った。」
「【0127】
<仕上がり性>
上記被塗物(V)に、実施例及び比較例で得られた塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後塗装板を水平に20分間室温で保った後、電気熱風乾燥器を用いて60℃で30分乾燥して室温まで冷却して、水性多液型塗料組成物がトップコートとして塗装された試験塗板(仕上がり性評価用)を作製し、ムラ、チヂミ、ワキ、平滑性、ツヤ感等の塗膜外観を目視観察し、評価した。評価としては、A、B、Cが合格で、Dが不合格である。
A:塗膜の外観が非常に良好である。
B:ムラ、ワキ、チヂミほとんど認められず、平滑性、ツヤ感が良好である。
C:平滑性の低下、ツヤビケがわずかに認められるが、ムラ、ワキ、チヂミはほとんど認められず、実用上問題ないレベルである。
D:ムラ、ワキ、チヂミ、ツヤビケが著しく発生し、明らかに問題がある。
【0128】
<塗膜硬度>
フィッシャースコープ HM2000(FISCHER社)を用いて、上記仕上がり性評価用試験塗板の表面に圧子を押し込み、その際の押し込み深さと押し込み力から得られるマルテンス硬さ値を評価した。
A:マルテンス硬さ値が20N/mm2以上である。
B:マルテンス硬さ値が10N/mm2以上で且つ20N/mm2未満である。
C:マルテンス硬さ値が5N/mm2以上で且つ10N/mm2未満である。
D:マルテンス硬さ値が5N/mm2未満である。」
第4 当審の判断
1 申立理由1、2(甲1を主引例とした新規性及び進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1(前記第3の4(1)参照。)の【0084】の【表2】に示された「実施例1」に着目し、同【0081】の【表1】の「アクリル樹脂エマルション」「A1-1」の不揮発分43[%]を参照し、さらに同【0082】及び【0083】の「実施例1」の「水性2液型クリヤ塗料組成物の製造」の記載を参酌すれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「主剤(A)成分として、水酸基含有樹脂エマルション成分(a1)である不揮発分43重量%のアクリル樹脂エマルションA1-1を85重量部と、シリコン系表面調整剤を1.5重量部と、紫外線吸収剤及び光安定剤を1.5重量部と、レオロジーコントロール剤を0.5重量部と、モリブデン化合物(a2)を0.01重量部と、溶媒として脱イオン水を11.5重量部と、pH調整剤と、
硬化剤(B)成分として、ポリイソシアネート成分(b1)を25重量部と、有機溶剤(b2)を25重量部とからなり、
乾燥性について、磨き可能時間が20分であり、押し込み硬度が◎である水性2液型クリヤ塗料組成物No.1。」
(2)対比・判断
ア 本件発明1
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「主剤(A)成分として、水酸基含有樹脂エマルション成分(a1)である不揮発分43重量%のアクリル樹脂エマルションA1-1を85重量部と、」「モリブデン化合物(a2)を0.01重量部と、溶媒として脱イオン水を11.5重量部」は、本件発明1の「水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)、触媒化合物(a2)及び水を含む第1成分(A)」に相当する。
甲1発明の「硬化剤(B)成分として、ポリイソシアネート成分(b1)を25重量部と、有機溶剤(b2)を25重量部」は、本件発明1の「ポリイソシアネート成分(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)」に相当する。
甲1発明の「モリブデン化合物(a2)を0.01重量部」の、「アクリル樹脂エマルションA1-1を85重量部」の「不揮発分43重量%」を100質量部としたときの質量部は、0.01×100/(85×43/100)≒0.027質量部であるから、本件発明1の「第1成分(A)の樹脂固形分100質量部を基準として0.0001~0.1質量部の範囲内」を充足する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)、触媒化合物(a2)及び水を含む第1成分(A)、並びにポリイソシアネート成分(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物であって、
触媒化合物(a2)の含有量が、第1成分(A)の樹脂固形分100質量部を基準として0.0001~0.1質量部の範囲内にある、水性多液型ポリウレタン塗料組成物。」
<相違点1-1>
本件発明1は「水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)に含まれる水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度40℃以上」であるのに対し、甲1発明は定かでない点。
<相違点1-2>
本件発明1は「ブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度が10N/mm2以上70N/mm2以下」であるのに対し、甲1発明は、磨き可能時間が20分であり、押し込み硬度が◎であるものの、60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度は定かでない点。
<相違点1-3>
本件発明1は「乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で20分焼付した塗膜のアセトン抽出塗膜残存率が70%以上」であるのに対し、甲1発明は定かでない点。
事案に鑑み、まず、相違点1-2について検討する。甲1発明の「押し込み硬度が◎」について、甲1発明を認定した甲1(前記第3の4(1)参照。)の【0100】には、各試験塗板(仕上がり性評価用)表面に圧子を押し込みその際の押し込み深さと押し込み力から得られるマルテンス硬さ値が「20N/mm2以上であり、塗膜硬度は非常に良好」であることを意味し、同【0093】には、試験塗板(仕上がり性評価用)は「被塗物に、実施例及び比較例で得られた各水性2液型クリヤ塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後塗装板を水平に20分間室温で保った後、電気熱風乾燥器を用いて60℃で30分乾燥して室温まで冷却して」作製したものであることが記載されている。
すなわち、甲1発明の「押し込み硬度が◎」は、「60℃で30分乾燥」した押し込み硬度が「20N/mm2以上」であることを意味するが、「60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度が10N/mm2以上70N/mm2以下」であるかどうかは不明というほかない。
そうすると、相違点2は実質的な相違点である。
そして、60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度に着目していない甲1発明に基づいて、「60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度が10N/mm2以上70N/mm2以下」との構成を想到することは、当業者が容易になし得たことともいえない。
また、甲2(前記第3の4(2)イ参照。)には、「ポリウレタンのゲル分率はほとんど95%以上で溶媒の種類による変動は小さ」いことが記載され、甲3(前記第3の4(3)参照。)の【0122】には「樹脂組成物を80℃で30分間加熱して硬化させてなる膜厚40μmの樹脂膜を、23℃で1週間保存後にアセトン中に23℃で24時間浸漬した際のゲル分率が80質量%以上であることが好ましく、84質量%以上がより好ましく、86質量%以上がさらに好ましい。ゲル分率が上記下限値以上であることで、低温硬化性がより良好なものとすることができる。」ことが記載されている。しかしながら、これらの記載は、「60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度が10N/mm2以上70N/mm2以下」である証拠とはならない。
本件発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、本件発明1で特定される構成を備えることにより、各成分の貯蔵安定性が良好で且つ適度なポットライフを備えており、常温乾燥や強制乾燥などの穏和な乾燥条件でも短時間で硬度に優れた塗膜を形成することができるものである。
してみると、相違点1-1及び相違点1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。また、本件発明1は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2~21
本件発明2~21は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明2~21は、前記アに示した理由と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、
(ア)甲1には実施例3として、磨き可能時間が15分のものも存在しており、硬化性が実施例1よりよい実施例3の塗料は、マルテンス硬度が10~70N/mm2を満足する可能性が高い(特許異議申立書の15頁最終行~16頁2行参照。)、
(イ)甲1には、アセトン抽出塗膜残存率についての記載はないが、アセトン抽出塗膜残存率は、ゲル分率と同意義であり、通常ウレタンのゲル分率は95%以上である(同16頁12行~14行参照。)、との趣旨の主張をしている。
しかしながら、前記(ア)について、前記実施例3の「水性2液型クリヤ塗料組成物No.3」の「アクリル樹脂エマルションA1-1」の樹脂固形分100質量部を基準とした質量部は、計算すると0.1×100/(85×43/100)≒0.27質量部であり、本件発明1の「第1成分(A)の樹脂固形分100質量部を基準として0.0001~0.1質量部の範囲内」を充足しないものである。そして、甲1の【0084】の【表2】によれば、前記実施例3の「水性2液型クリヤ塗料組成物No.3」と比較して、その「モリブデン化合物(a2)」の添加量を減らした実施例1の「水性2液型クリヤ塗料組成物No.1」等は、磨き可能時間が15分よりも長い20分となっていることを考慮すれば、前記実施例3の「水性2液型クリヤ塗料組成物No.3」の「アクリル樹脂エマルションA1-1」の樹脂固形分100質量部を基準とした質量部を、0.0001~0.1質量部の範囲内まで減少させる動機付けは見当たらないし、仮に、そのように減少させたとしても、「モリブデン化合物(a2)」の添加量を減少させた水性2液型クリヤ塗料組成物が、マルテンス硬度が10~70N/mm2を満足するか否かも不明であるから、本件発明1は、前記実施例3の「水性2液型クリヤ塗料組成物No.3」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そうすると、前記(イ)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 申立理由3(甲4を主引例とした進歩性欠如)について
(1)甲4に記載された発明
甲4(前記第3の4(4)参照。)の実施例のうち、第1液(A)に硬化触媒を含む【0120】の【表6】に示された「実施例23」に着目し、同【0111】の【表1】の「アクリル樹脂エマルション」「A1-1」の樹脂固形分50[%]を参照し、さらに同【0114】及び【0115】の「水性多液型ポリウレタン塗料組成物の製造」の記載を参酌すれば、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲4発明)
「第1液(A)として、水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)である樹脂固形分50重量%のアクリル樹脂エマルションA1-1を70重量部と、シリコン系表面調整剤及びシリコン系消泡剤を1.5重量部と、紫外線吸収剤及び光安定剤を1.5重量部と、非イオン性増粘剤を0.5重量部と、硬化触媒であるモリブデン化合物を0.2重量部と、溶媒である脱イオン水を26重量部と、pH調整剤と、
第2液(B)として、ポリイソシアネート(b1)を25重量部と、有機溶剤(b2)を55重量部とからなり、
塗装作業性について、磨き可能時間がAであり、塗膜性能について、塗膜硬度がAである水性多液型クリヤ塗料組成物No.X-23。」
(2)対比・判断
ア 本件発明1
本件発明1と甲4発明を対比すると、甲4発明の「第1液(A)として、水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)である樹脂固形分50重量%のアクリル樹脂エマルションA1-1を70重量部と、」「硬化触媒であるモリブデン化合物を0.2重量部と、溶媒である脱イオン水を26重量部」は、本件発明1の「水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)、触媒化合物(a2)及び水を含む第1成分(A)」に相当する。
甲4発明の「第2液(B)として、ポリイソシアネート(b1)を25重量部と、有機溶剤(b2)を55重量部」は、本件発明1の「ポリイソシアネート成分(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)」に相当する。
甲4発明の「硬化触媒であるモリブデン化合物を0.2重量部」の、「アクリル樹脂エマルションA1-1を70重量部」の「樹脂固形分50重量%」を100質量部としたときの質量部は、0.2×100/(70×50/100)≒0.57質量部である。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)、触媒化合物(a2)及び水を含む第1成分(A)、並びにポリイソシアネート成分(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物である、水性多液型ポリウレタン塗料組成物。」
<相違点4-1>
本件発明1は「水酸基含有アクリル樹脂エマルション成分(a1)に含まれる水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度40℃以上」であるのに対し、甲4発明は定かでない点。
<相違点4-2>
本件発明1は「触媒化合物(a2)の含有量が、第1成分(A)の樹脂固形分100質量部を基準として0.0001~0.1質量部の範囲内」であるのに対し、甲4発明は、「硬化触媒であるモリブデン化合物」が、「アクリル樹脂エマルションA1-1」の樹脂固形分100質量部を基準として約0.57質量部である点。
<相違点4-3>
本件発明1は「ブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度が10N/mm2以上70N/mm2以下」であるのに対し、甲4発明は、塗装作業性について、磨き可能時間がAであり、塗膜性能について、塗膜硬度がAであるものの、60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度は定かでない点。
<相違点4-4>
本件発明1は「乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で20分焼付した塗膜のアセトン抽出塗膜残存率が70%以上」であるのに対し、甲4発明は定かでない点。
事案に鑑み、相違点4-3について検討する。甲4発明の「塗膜性能について、塗膜硬度がA」とは、甲4発明を認定した甲4(前記第3の4(4)参照。)の【0128】に「仕上がり性評価用試験塗板の表面に圧子を押し込み、その際の押し込み深さと押し込み力から得られるマルテンス硬さ値を評価した。」及び「A:マルテンス硬さ値が20N/mm2以上である。」と記載され、その「仕上がり性評価用試験塗板」とは、同【0127】に「被塗物(V)に、実施例及び比較例で得られた塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後塗装板を水平に20分間室温で保った後、電気熱風乾燥器を用いて60℃で30分乾燥して室温まで冷却して」作製したものであることが記載されている。
すなわち、甲4発明の「塗膜性能について、塗膜硬度がA」は、「60℃で30分乾燥」した押し込み硬度が「20N/mm2以上」であることを意味するが、「60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度が10N/mm2以上70N/mm2以下」であるかどうかは不明というほかない。
そうすると、相違点4-3は実質的な相違点である。
そして、60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度に着目していない甲4発明に基づいて、「60℃で20分焼付した塗膜のマルテンス硬度が10N/mm2以上70N/mm2以下」との構成を想到することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
本件発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、本件発明1で特定される構成を備えることにより、各成分の貯蔵安定性が良好で且つ適度なポットライフを備えており、常温乾燥や強制乾燥などの穏和な乾燥条件でも短時間で硬度に優れた塗膜を形成することができるものである。
してみると、前記相違点4-1、相違点4-2及び相違点4-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~21
本件発明2~21は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明2~21は、前記アに示した理由と同様の理由により、甲4発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
3 小括
前記1、2のとおり、申立理由1~3は、いずれも理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、異議申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~21に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700923