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特許異議申立

2026-700163

研磨布

審判番号
2026-700163
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-215154
登録番号
7734485
請求日
2026年02月24日
審決日
2026年08月20日
公報発行日
2026年09月25日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】ニッタ・デュポン株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人藤本パートナーズ
  • 【異議申立人】後藤 真理子
審判長/審判官
  • 審判長 鈴木 貴雄
  • 審判官 青木 良憲
  • 審判官 藤江 大望
分類
P1651.113-Y (B24B) / P1651.121-Y (B24B) / P1651.536-Y (B24B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7734485号発明「研磨布」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7734485号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1 特許掲載公報発行までの経緯 特許第7734485号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和2年12月24日にされた特許出願であって、令和7年8月28日に特許権の設定の登録がされ、同年9月5日に特許掲載公報が発行された。 2 特許異議の申立て以降の経緯 本件特許に対する特許異議の申立て以降の主な経緯は次のとおりである。 (1)令和8年2月24日 特許異議申立人 後藤 真理子(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て(申立てのために提出された特許異議申立書を以下単に「申立書」という。) (2)令和8年4月30日(発送日:同年5月8日) 取消理由通知書による、本件特許の取消しの理由の通知(以下「取消理由通知」という。) (3)令和8年7月2日 特許権者 ニッタ・デュポン株式会社(以下単に「特許権者」という。)による、意見書(以下「特許権者意見書」という。)の提出 第2 本件発明 本件特許の請求項1~3に係る発明は、願書に添付した(すなわち、特許掲載公報の)請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(各発明を以下「本件発明1」等という。)。 「【請求項1】 研磨布を形成する形成材料として、不織布と、該不織布に含浸された樹脂とを備えた研磨布であって、 Asker-C硬度が80以上であり、 形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である、研磨布。 【請求項2】 圧縮率が5%以下であり、厚みが0.8mm以上3.0mm以下である、請求項1に記載の研磨布。 【請求項3】 前記形成材料の見掛け密度が0.30g/cm3以上0.50g/cm3以下である、請求項1又は2に記載の研磨布。」 第3 申立人が主張する申立ての理由の概要 1 申立書における申立ての理由について 本件特許の請求項1~3に係る特許に対する、申立人による申立ての理由は、概略、以下のとおりと整理することができる。 (1)申立ての理由1:新規性欠如(特許法第29条第1項第3号、同法第113条第2号) ・ 請求項1~2:甲第1号証に記載された発明による新規性欠如 (2)申立ての理由2:進歩性欠如(特許法第29条第2項、同法第113条第2号) ア 請求項1~2:甲第1号証に記載された発明に基づく進歩性欠如 イ 請求項3:甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づく進歩性欠如 (3)申立ての理由3:実施可能要件(特許法第36条第4項第1号、同法第113条第4号) 2 証拠方法 申立人による証拠方法は、書証として申立書に添付して提出された、次の甲第1号証~甲第2号証である。 (1)甲第1号証:特開2019-25549号公報 (2)甲第2号証:特開2017-13149号公報 (以下、甲第1号証、甲第2号証をそれぞれ「甲1」、「甲2」という。) 第4 取消理由通知の概要 本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、取消理由通知(第1の2(2))に記載した本件特許の取消理由は、概略、次のとおりである(詳細は、第5の1に示す。)。 [取消理由:実施可能要件] 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第5 特許権者意見書を踏まえた、取消理由通知に記載した取消理由(実施可能要件:上記第4)についての判断 1 取消理由通知の取消理由の内容 請求項1には、「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」ことが記載される。 しかしながら、下記(1)~(3)のとおり、「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」研磨布を、どのようにして新規に生産することができるようになったのか、技術常識に照らしても、発明の詳細な説明において、当業者がその実施(生産)をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明及び請求項1の記載を引用する請求項2~3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (1)本件特許の発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、当該四分位範囲の数値範囲を満足する研磨布として実施例1~5が示されている。また、本件特許に係る研磨布の原料となる不織布及び当該不織布に含浸される樹脂による製造方法に関して、次の記載がある。 「【0038】 前記不織布を構成する繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等が挙げられる。 【0039】 前記不織布の目付けは、好ましくは200g/m2以上600g/m2以下である。前記不織布の目付けが200g/m2以上であることにより、硬度が高くなりやすくなり、その結果、被研磨物の端部ダレが生じ難くなるという利点を有する。また、前記不織布の目付けが200g/m2以上600g/m2以下であることにより、研磨面に空隙部分を適度な割合で有しやすくなり、その結果、研磨屑等による空隙の目詰まりによって研磨性能が変動するのを抑制しやすくなるといった利点を有する。 【0040】 前記樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂等が挙げられる。 【0041】 本実施形態に係る研磨布で研磨する被研磨物としては、シリコンウェハ等が挙げられる。 【0042】 本実施形態に係る研磨布は、上記の如く構成されているが、次に、本実施形態に係る研磨布の製造方法について説明する。 【0043】 以下、本実施形態に係る研磨布の製造方法について、ウレタン樹脂を不織布に湿式含浸し、さらに、ウレタン樹脂を不織布に乾式含浸するといった二段階含浸処理を行う方法を例に挙げて説明する。 【0044】 湿式含浸では、ウレタン樹脂を水溶性有機溶媒に溶解させて第1の含浸液を得る。 水溶性有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。 なお、第1の含浸液は、充填剤を含有してもよい。該充填剤としてはカーボンブラック等が挙げられる。また、第1の含浸液は、分散安定剤を含有してもよい。該分散安定剤としては、界面活性剤等が挙げられる。 【0045】 次に、第1の含浸液に不織布を漬け、第1の含浸液に漬けた不織布を水に漬ける。これにより、不織布に付着した第1の含浸液のうち水溶性有機溶媒が水に置換されて、ウレタン樹脂が凝固し、不織布の表面でウレタン樹脂が付着する。 【0046】 乾式含浸では、末端基としてイソシアネート基を有するプレポリマーと、活性水素を有する有機化合物たる硬化剤と、有機溶媒とを混合して、第2の含浸液を得る。 前記有機溶媒としては、メチルエチルケトン、アセトン、アルコール、酢酸エチルなどが挙げられる。 【0047】 そして、湿式含浸した不織布を第2の含浸液に漬け、第2の含浸液に漬けた不織布を乾燥炉で加熱する。これにより、有機溶媒が蒸発され、プレポリマーと硬化剤とが硬化反応してウレタン樹脂が形成され、その結果、不織布の表面にさらなるウレタン樹脂が付着する。」 (2)甲1の記載事項 本件特許出願前に公開された甲1は、本件特許の特許権者(ニッタ・デュポン株式会社)と同一の者(ニッタ・ハース株式会社、特許出願の出願人の識別番号、及び、特許権者のホームページに掲載の、2020年社名変更との記事に基づく。)による特許出願の公開特許公報であるが、甲1の発明の詳細な説明には、研磨布の原料となる不織布及び当該不織布に含浸される樹脂による製造方法について、本件特許の発明の詳細な説明と概略同様のことが既に記載されていた。 (3)取消理由通知において記載した判断 上記(1)の開示内容は、形成材料として、不織布と、該不織布に含浸された樹脂とを備えた研磨布の、一般的な材料及び製造方法が記載されるにとどまり(上記(2))、従前からどのような点を改良して、実施例1~5に示されるような当該「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」研磨布を生産することができるようになったのか、理解することができない。 すなわち、本件特許により「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」研磨布を生産できるようになったのであれば、甲1に開示される製造方法(上記(2))とは異なる製造方法が、本件特許の発明の詳細な説明に開示されるべきであるところ、そのような記載は見当たらず、また、当該四分位範囲を満たす研磨布を生産する手法が、本件特許の出願時において技術常識であったことを裏付ける事実も見いだすことができない。 2 特許権者意見書での説明 特許権者は、特許権者意見書において、本件明細書の記載から、当業者の技術常識に基づき、請求項1~3に係る発明における「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」研磨布を実施(生産)することができるのかについて、四分位範囲は不織布の縦交絡によるムラを示すパラメータであることを前提に、以下の旨を説明している。 (1)本件特許に係る研磨布を当業者が生産しようとした場合、 ア 研磨布の厚み イ 形成材料の見掛け密度 ウ 乾燥炉での加熱工程(本件明細書の段落【0047】) を検討することになる。 (2)上記アについて、当業者の技術常識によれば、厚みが大きくなると、加熱時の溶媒蒸発効率が低下し、不織布の凝集が偏在化することが把握できる。一方で、厚みが小さくなると、溶媒蒸発が急速になりすぎ、溶媒蒸発時の樹脂流動性が著しく低下することが把握できる。すなわち、研磨布の厚みは、不織布の縦交絡によるムラに影響を及ぼす。 (3)上記イについて、当業者の技術常識によれば、密度が大きくなると、繊維間の隙間を樹脂が覆い隠す部位が多くなり、樹脂の偏在化及び樹脂で覆い隠すことから、不織布の縦交絡によるムラに影響を及ぼす。 (4)上記ウについて、本件明細書の段落【0047】では、「そして、湿式含浸した不織布を第2の含浸液に漬け、第2の含浸液に漬けた不織布を乾燥炉で加熱する。これにより、有機溶媒が蒸発され、プレポリマーと硬化剤とが硬化反応してウレタン樹脂が形成され、その結果、不織布の表面にさらなるウレタン樹脂が付着する。」と記載される。 すなわち、当業者であれば本件明細書の記載から、不織布に樹脂を含浸した後に「含浸液に漬けた不織布を乾燥炉で加熱する」工程において、加熱温度をコントロールすることにより、当該不織布内での樹脂の移動量をコントロールでき、有機溶媒の蒸発速度を変化させることができる。そして、蒸発速度が変化すると、不織布に含浸している含浸液の樹脂濃度が変化し、当該含浸液の粘度が変化し、この結果、不織布内における当該含浸液の移動量、すなわち、当該不織布中の樹脂の移動量が変化することとなる。 なお、ここでは、一例として二段階含浸処理を行う方法(本件明細書の段落【0047】)の乾式含浸について説明したが、一段階含浸処理などにおいても同様のメカニズムであることは、当業者であれば当然に把握できる。 (5)以上より、当業者であれば、本件明細書の記載から、当業者の技術常識に基づき、請求項1~3に係る発明を実施(生産)できるものであり、実施可能要件を満たすものである。 3 特許権者意見書を踏まえた当審の判断 (1)請求項1における「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」との記載に関し、発明の詳細な説明の段落【0012】及び【0015】~【0020】には、次の説明がある。 「【0012】 本実施形態に係る研磨布は、該研磨布を形成する形成材料として、不織布と、該不織布に含浸された樹脂とを備える。」 「【0015】 本発明者らは、鋭意検討した結果、研磨布の厚み方向における画像解析で得られる縦存在比率の平均値が、硬度に比例するという知見を得た。そして、この知見から、測定範囲を100μm幅に絞り、縦存在比率を所定の範囲に規定することで、微細な硬度のばらつきを抑制できることを見出した。 【0016】 すなわち、本実施形態に係る研磨布は、形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である。前記縦存在比率における平均値の四分位範囲は、好ましくは10.0以下であり、より好ましくは9.0以下である。なお、前記縦存在比率における平均値の四分位範囲が上記の範囲を満たす場合とは、1つの研磨布に対して重ならない2箇所の領域(N=2)で測定し、いずれの領域においても上述の範囲を満たす場合である。 【0017】 形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲は、以下のようにして求めることができる。 【0018】 まず、研磨布の表面に垂直なスライス面(横断面)に対して、2000μm×2000μmの視野で測定領域を撮影し、当該測定領域において、100μm×100μmの小領域を複数箇所抽出する。例えば、1.3mm厚の研磨布であれば、1200μm(研磨布表面に平行方向)×1200μm(研磨布表面に垂直方向、すなわち、研磨布の厚み方向)の測定領域において、100μm×100μmの小領域を144箇所抽出する。このとき、厚み方向における測定領域は、研磨布の厚みに依存する。 【0019】 そして、研磨布の表面から裏面にかけて並んだ縦列の存在比率を算術平均したものを「100μm幅の縦存在比率における平均値」とする。なお、本測定では、1つの測定で研磨布の横断面を100μm間隔で17枚撮影し、「100μm幅の縦存在比率における平均値」は、12列×17枚=204列分の縦存在比率の平均値となり、1つの研磨布に対して重ならない2箇所の領域(N=2)で測定した。 【0020】 なお、100μm×100μmの各小領域における形成材料の存在比率とは、100μm×100μmの各小領域において、各小領域の面積全体を100%としたときにおける、形成材料が存在する部分の面積の割合を意味する。」 (2)上記(1)の発明の詳細な説明を例にすると、「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」ためには、研磨布の表面に垂直なスライス面(横断面)に対して、一例では1.3mm厚の研磨布の表面に垂直な1200μm×1200μmの面を測定領域とし、100μm×100μmの小領域を144箇所抽出し、研磨布の表面から裏面にかけて並んだ縦列の存在比率を算術平均したものを12列分得るとともに、1つの測定において100μm間隔で17枚を撮影することで、12列×17枚=204列分の「100μm幅の縦存在比率における平均値」を得ることから、その四分位範囲を一定の値以下とすること、すなわち、ばらつきを小さくするためには、 ア 同一のスライス面(横断面)内の「100μm幅の縦存在比率における平均値」のばらつきと イ 異なるスライス面(横断面)内の「100μm幅の縦存在比率における平均値」のばらつきと をともに小さくする必要がある。 (3)そして、具体的な製造方法については、特許権者の説明の上記2(1)アに関して、研磨布の厚みを調整することで、上記2(2)及び2(4)の作用機序に基づき、上記2(1)ウの加熱工程における有機溶媒の蒸発の速度と樹脂の移動量を制御でき、縦存在比率を調整できることを、当業者であれば技術常識から把握できる。 また、特許権者の説明の上記2(1)イに関して、形成材料の見掛け密度を調整することで、上記2(3)及び2(4)の作用機序に基づき、樹脂の含浸及び上記2(1)ウの加熱工程に際しての樹脂の付着量を制御でき、縦存在比率を調整できることを、当業者であれば技術常識から把握できる。 そのため、当業者であれば、研磨布の表面に垂直なスライス面における、「100μm幅の縦存在比率における平均値」のばらつきを抑制するとの契機があれば、研磨布の表面から裏面に延在する縦列の、100μm間隔で12×17=204列での各配置関係を踏まえて、例えば、縦列の延在方向と直交する研磨布の表面に平行な面内における12×17か所での存在比率のばらつきを抑制し、その結果として各縦列の縦存在比率における平均値のばらつきを抑制するように、製造工程等をコントロールしようと調整する程度のことは適宜なし得る事項の範疇であるといえるから、縦列の方向に直交する研磨布の表面に平行な面内でのばらつきを抑制する調整によって、不織布内での樹脂の存在状態をコントロールすることを、当業者が実施できないとまではいえない。そうすると、「100μm幅の縦存在比率における平均値」のばらつき改善については、実施不可能であるとまではいえない。 (4)以上のことから、本件特許の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に照らして検討しても、(多少の試行錯誤は要するといえるものの、)本件発明1~3につき当業者が過度の試行錯誤を要して実施できないと認めるに足りる事情は見出せない。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たさないとはいえない。 第6 取消理由通知で採用しなかった申立ての理由について 申立人の申立書による申立ての理由(上記第3)のうち、取消理由通知にて採用しなかった理由について、以下検討する。 1 申立ての理由1:甲1に記載された発明による新規性欠如(上記第3の1(1)) (1)本件発明1について ア 甲1に記載された発明 甲1は、本件特許出願前(優先日前)に公開され、本件特許の特許権者と同一の者による特許出願の公開特許公報であって、甲1(請求項1、段落【0011】~【0013】、【0021】、【0036】~【0038】、実施例1~2)には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「研磨布を形成する形成材料として、不織布と、該不織布に含浸された樹脂とを備えた研磨布であって、 Asker-C硬度が80以上であり、 厚み100μmから厚み600μmまでにおける形成材料の存在比率の、最大値と最小値との差が3.6以下であり、四分位範囲が3.4以下である、研磨布。」 ここで、厚み100μmから厚み600μmまでにおける形成材料の存在比率の「四分位範囲が3.4以下」である点は、段落【0037】の表1に示される、一方の表面からの各厚み(μm)の位置における形成材料の存在比率(%)の、各実施例の6点の数値のうち、大きい方から2番目の値を75%値と仮定し、小さい方から2番目の数値を25%値と仮定し、その差を、存在比率の四分位範囲として近似した。 この場合、実施例1は、四分位範囲が「1.3」(=34.6(厚み200μmの存在比率)-33.3(厚み300μmの存在比率))であり、実施例2の四分位範囲が「3.4」(=34.4(厚み100又は500μmの存在比率)-31.0(厚み200μmの存在比率))である。 (なお、申立書17~18ページにおいては、実施例1に基づく甲発明1では「1.3」、実施例2に基づく甲発明2では「2.6」と記載されるが、その算出根拠は不明であった。) イ 本件発明1と甲1発明との対比 (ア)相当関係 本件発明1(上記第2)と甲1発明(上記第6の1(1))とを対比すると、両者の発明特定事項には、次の相当関係がある。 a 甲1発明における「研磨布」、「不織布」、「樹脂」、「Asker-C硬度が80以上であ」ることは、本件発明1における「研磨布」、「不織布」、「樹脂」、「Asker-C硬度が80以上であ」ることにそれぞれ相当する。 b 甲1発明における「厚み100μmから厚み600μmまでにおける形成材料の存在比率の、最大値と最小値との差が3.6以下であり、四分位範囲が3.4以下である」ことと本件発明1の「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」ことは、形成材料の存在比率のばらつきを抑制するために、形成材料の存在比率の四分位範囲が特定の値以下であることに限り相当する。 (イ)一致点及び相違点 上記(ア)より、本件発明1と甲1発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。 [一致点] 「研磨布を形成する形成材料として、不織布と、該不織布に含浸された樹脂とを備えた研磨布であって、 Asker-C硬度が80以上であり、 形成材料の存在比率の四分位範囲が特定の値以下である、研磨布。」 [相違点] 形成材料の存在比率の四分位範囲について、本件発明1は、「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下である」としているのに対し、甲1発明は「厚み100μmから厚み600μmまでにおける形成材料の存在比率の、最大値と最小値との差が3.6以下であり、四分位範囲が3.4以下である」とし、「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲」は不明である点。 (ウ)判断 本件発明1と甲1発明とでは、形成材料の存在比率のばらつきの程度を評価する点は一致するものの、そのばらつきの程度を評価するための存在比率の統計処理の対象(空間の方向の違いを含む)が異なるもの(すなわち、本件発明1においては、形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の、例えば12×17=204列における四分位範囲であり、甲1発明では、研磨布に平行な6面の存在比率から算出した最大値と最小値との差や四分位範囲)であり、両者の数値を単純に比較して本件発明1が甲1発明と同一であると解することはできないし、甲1発明の不織布が、平行な6面の存在比率からみて所定のばらつきの範囲に抑えられたものであったとしても、本件発明1にて特定されるような、形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値が、所定のばらつきの範囲に抑えられたものであるとまで断定することはできない。 なお、申立人は申立書21ページにおいて、甲1の実施例1の研磨布の断面のSEM画像である図4によれば、100μmごとに形成材料の存在比率の平均をとった場合に、縦存在比率と横存在比率とで、大きな差がないことが示唆されているといえる旨を主張する。 しかしながら、本件発明1の小領域に基づく縦存在比率と、甲1発明の6つの面に基づく横存在比率とでは、存在比率の算出方法が全く異なるのみならず、甲1の図4等を参照しても、当該相違点に係る本件発明1の構成、すなわち「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲が10.5以下」であることを看取することができないから、本件発明1が甲1に記載されているとまでは認められない。また、その他に甲1における「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲」を推認できる根拠もない。 したがって、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、請求項1の記載を引用するものであるから、上記(1)と同様に、甲1発明であるとはいえない。 (3)小括 以上のとおり、本件発明1~2は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明であるとはいえないから、本件特許の請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 2 申立ての理由2:甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項による進歩性欠如(上記第3の1(2)) (1)本件発明1について 本件発明1と甲1発明と対比すると、少なくとも上記相違点(上記1(1)イ(イ))で相違する。 そして、上記1(1)イ(ウ)に示したとおり、本件発明1と甲1発明とでは、形成材料の存在比率のばらつきを評価する点は一致するものの、そのばらつきの程度を評価するための存在比率の統計処理の対象(空間の方向の違いを含む)が異なるものであり、甲1発明に基づいて、「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲」を評価すること、さらには、相違点に係る本件発明1の数値範囲となるように「形成材料の100μm幅の縦存在比率における平均値の四分位範囲」の値を最適化・好適化することを、当業者が容易に想到し得たということはできない。 また、甲2は特定の数値範囲の見掛け密度を有する研磨パッドを開示するものであって、上記相違点に係る構成を開示又は示唆するものではない。そのため、甲2を参照しても、甲1発明において相違点に係る本件発明1の数値範囲を当業者が容易に想到し得たということはできない。 (2)本件発明2~3について 本件発明2~3は、請求項1の記載を引用するものであるから、上記(1)と同様に、当業者が容易に想到し得たということはできない。 (3)小括 以上のとおり、本件発明1~3は、甲1記載の発明及び甲2記載の事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 第7 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1~3に係る特許は、当審から通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2026-700163

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