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特許異議申立

2022-700218

船舶

審判番号
2022-700218
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-209288
登録番号
6934555
請求日
2022年03月15日
審決日
2023年05月08日
公報発行日
2023年08月25日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】三菱造船株式会社
  • 【権利者代理人】松沼 泰史
  • 【権利者代理人】伊藤 英輔
  • 【権利者代理人】橋本 宏之
  • 【権利者代理人】古都 智
  • 【権利者代理人】鎌田 康一郎
  • 【異議申立人】鶴田 春美
審判長/審判官
  • 審判長 一ノ瀬 覚
  • 審判官 筑波 茂樹
  • 審判官 中村 則夫
分類
P1651.121-ZC (B63H)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6934555号発明「船舶」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6934555号の請求項1、2、4~6に係る特許を取り消す。 特許第6934555号の請求項3、7~9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6934555号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和2年12月17日(優先権主張 令和2年8月25日)に出願され、令和3年8月25日にその特許権の設定登録がなされ、令和3年9月15日に特許掲載公報が発行された。その特許についての異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年 3月15日 :特許異議申立人 鶴田春美(以下「申立人」 という。)による請求項1~9に係る特許に 対する特許異議の申立て 同年 6月14日付け:取消理由通知 同年 8月15日 :特許権者による意見書の提出 同年 9月15日付け:申立人に対する審尋 同年10月 7日 :申立人からの回答書の提出 令和5年 1月19日付け:取消理由通知(決定の予告) なお、取消理由通知(決定の予告)に対して、特許権者から意見書等の提出はなかった。 第2 各甲号証 申立人が、令和4年3月15日の特許異議申立書とともに提出した甲第1号証~甲第14号証及び令和4年10月7日の回答書とともに提出した甲第15~20号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲20」という。)は、次のとおりである。 甲1:MAN Energy Solutions社、“Engineering the future two-stroke green-ammonia engine”、表紙、2~17ページ、裏表紙、2019年11月 甲2:Questel Ireland 社、“Research disclosure: Water seal in the vent outlet for ammonia systems on an ammonia fueled engine”、2020年6月9日 甲3:infomarine on-line Worldwide Maritime Directoryのインターネットサイトの印刷物(作成日:2022年3月9日)、“Engineering the future two-stroke green-ammonia engine”、URL:https://www.infomarine.gr/technical-library/engineering-the-future-two-strokegreen-ammonia-engine.html 甲4:AMMONIA ENERGY ASSOCIATIONのインターネットサイトの印刷物(作成日:2022年3月9日)、Trevor Brown、“MAN ammonia engine update”、2020年1月30日、URL:https://www.ammoniaenergy.org/articles/man-ammonia-engine-update/ 甲5:特開平11-19456号公報 甲6:コンセントレーション・ヒート・アンド・モーメンタム社のホームページのうち「熱流体事例>分野別事例>ナノテク・応用物理事例>気泡塔内の流れ解析」のページの印刷物(作成日:不明)、URL:http://www.phoenics.co.jp/jirei/bunya/link/bubble.htm 甲7:特表2013-527788号公報 甲8:特表2013-534866号公報 甲9:特開2017-6883号公報 甲10: 一般財団法人日本海事協会本部情報センター、「2019 冷蔵設備規則 冷蔵設備規則検査要領 揚貨設備規則 揚貨設備規則検査要領 潜水装置規則 潜水装置規則検査要領」、2019冷蔵設備規則4章11~14ページ、2019冷蔵設備規則検査要領4章5ページ、令和元年5月印刷発行 甲11:特開2005-317419号公報 甲12:特開2002-263445号公報 甲13:特開平10-60449号公報 甲14:特開2015-188835号公報 甲15:株式会社岩波書店、「岩波国語辞典第3版第2刷 「蒸気」の項目」、521ページ、裏表紙、1980年7月1日 甲16:Wikipediaのインターネットサイトの印刷物、「飽和水蒸気量」、URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%BD%E5%92%8C%E6%B0%B4%E8%92%B8%E6%B0%97%E9%87%8F 甲17:非営利団体インターネットアーカイブのインターネットサイトの印刷物、「飽和水蒸気量表」、URL: https://web.archive.org/web/20060901205149/http:/cd.tokimec.co.kr/Pdf/hoki/gx04.pdf 甲18:高圧ガス保安協会、「高圧ガス取扱ガイドブック第2次改訂版 液化アンモニア編」、表紙、4ページ、奥付、平成31年3月22日 甲19:職場の安全サイトのホームページのうち「化学物資:アンモニア」のページの印刷物、URL: https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7664-41-7.html 甲20:一般財団法人日本海事協会本部情報センター、「鋼船規則検査要領 GF編 低引火点燃料船」、82ページ、裏表紙、2018年12月25日 第3 取消理由の概要 令和5年1月19日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 (進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 ・請求項1について、甲1及び甲2 ・請求項2について、甲1、甲2及び甲5 ・請求項4、5について、甲1、甲2及び甲11 ・請求項6について、甲1、甲2及び周知の技術(甲11~13) 第4 本件発明 本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 船体と、 アンモニアを貯留可能なアンモニア貯留タンクと、 前記アンモニア貯留タンクに連通する前記アンモニアの流通経路に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、 前記不活性ガス供給装置によって供給された前記不活性ガスとともに、前記流通経路内の前記アンモニアを外部に導くベント管と、 前記ベント管の中途に設けられ、内部に水が貯留されているとともに、前記水の水面下に前記ベント管から前記不活性ガス及び前記アンモニアが導入される処理タンクと、 を備える船舶。 【請求項2】 前記処理タンクは、前記水の水面下に設けられ、前記水の中を下方から上方に浮上する前記不活性ガス及び前記アンモニアの気泡が通過する複数の孔を有した多孔部材を備えている 請求項1に記載の船舶。 【請求項3】 前記処理タンクは、前記水の水面下に、上下方向に交差する面に沿って設けられ、前記水の中を下方から上方に浮上する前記不活性ガス及び前記アンモニアの気泡の流れの経路を屈曲させることで前記経路の長さを増大させる仕切板を備えている 請求項1又は2に記載の船舶。 【請求項4】 前記船体に設けられ、前記処理タンク内から排出される水を貯留する水回収タンクをさらに備える 請求項1から3の何れか一項に記載の船舶。 【請求項5】 前記水回収タンクに貯留された前記水の一部を前記処理タンクに循環させる循環系統をさらに備える 請求項4に記載の船舶。 【請求項6】 前記処理タンクは、前記水の水面よりも上方から、下方に向けて水を噴射する水噴射部を備えている 請求項4又は5に記載の船舶。 【請求項7】 前記水回収タンク内の水に中和処理を施す中和処理部をさらに備える 請求項4から6の何れか一項に記載の船舶。 【請求項8】 前記処理タンク、及び前記水回収タンクの少なくとも一方に、外部から希釈水を導入する希釈水導入系統と、 前記水回収タンクに貯留された前記水の一部を排出する排出系統と、をさらに備える 請求項4から7の何れか一項に記載の船舶。 【請求項9】 前記排出系統に、外部から取り込んだ海水を供給する海水供給部をさらに備える 請求項8に記載の船舶。」 第5 各甲号証の記載 1 甲1 本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲1には、図面とともに、以下の記載がある。{}内に当審の作成した翻訳を示した。以下同じ。 (1)甲1の記載事項 ア 5頁 2パラグラフ 「This paper describes the development, benefits and application of the future ammonia-propulsion solution which includes: the MAN B&W two-stroke engine designed to operate on ammonia, the LFSS, and even two-stroke ammonia-fuelled gensets.」 {このペーパーでは、アンモニアで動作するように設計されたMAN B&Wの2ストロークエンジン、LFSS、さらには2ストロークアンモニア燃料発電セットなど、将来のアンモニア推進ソリューションの開発、利点、適用について説明する。} イ 10頁 1パラグラフ~2パラグラフ 「The two-stroke dual-fuelled ammonia combusting engine The two-stroke ammonia concept is an add-on to the ME engine similar to the previous engine concepts for liquid gas injection propane, ME-LGIP(LPG) [7] and liquid gas injection methanol, ME-LGIM. MAN B&W ME-GI and LGI engines have gained a considerable number of service hours powering vessels at sea, and the ME-LGIP engine introduced in 2019 is already in the order book. The ME-LGIM engine type has been in service for some time and has achieved 50,000 running hours on methanol. The LGIM concept is used as basis for the LGIP engine. The development of the LGIM engine also dealt with some of the challenges related to ammonia, e.g. corrosion, toxicity and low flammability. The same engine concept, already verified at sea, will constitute the core of the ammonia-combusting engine. There will be no visible differences between an ammonia and an ME-LGIP/LGIM engine.」 {2ストロークデュアルフューエルアンモニア燃焼エンジン 2ストロークアンモニアのコンセプトは、これまでの液体ガス噴射プロパンME-LGIP(LPG)[7]や液体ガス噴射メタノールME-LGIMのエンジンコンセプトと同様にMEエンジンに追加されるものである。 MAN B&W ME-GIおよびLGIエンジンは、海上で船舶の動力として相当数のサービス時間を獲得しており、2019年に導入されるME-LGIPエンジンは、すでに受注済みである。ME-LGIMエンジン型は、以前から就航しており、メタノールで5万時間の稼働時間を達成している。LGIMのコンセプトは、LGIPエンジンのベースとして使用される。LGIMエンジンの開発では、アンモニアに関する課題、例えば腐食性、毒性、低燃焼性などにも対処した。すでに海上で検証された同じエンジンコンセプトが、アンモニア燃焼エンジンの中核を構成することになる。アンモニアエンジンとME-LGIP/LGIMエンジンの間に、目に見える違いはない。} ウ 12頁 1パラグラフ 「Ammonia fuel supply systems The underlying basis for the ammonia low-flashpoint fuel supply system (LFSS) is the LGP LFSS, because it can be redesigned to accommodate the physical properties governing ammonia storage and injection.」 {アンモニア燃料供給システム アンモニア低引火点燃料供給システム(LFSS)の基礎は、アンモニアの貯蔵と注入に関わる物性に対応した再設計が可能であることから、LGP LFSSである。} エ 12頁 4パラグラフ~13頁 3パラグラフ 「Fig.6 shows a complete LGIP fuel supply system with the components needed to supply LGIP to the MAN B&W ME-LGIP engine [7]. In the ammonia fuel supply system, the ammonia returning from the two-stroke engine will be collected in a smaller separate tank in order not to contaminate the ammonia content of the service tank with sealing oil. The sealing oil system provides lubrication of fuel injection components and prevents LPG contamination of the system oil. An emergency vent of NH3 can be carried out by one of the following principles: dilute the concentration of NH3 to below 10 ppm, collect NH3, or extend the vent mast to a safe height. If the combustion of ammonia gives rise to obnoxious smells from the funnel, the option exists to heat up the exhaust gas to obtain a higher buoyancy of the exhaust gas. A solution that is used for LPG combusting engines as well. As an example, Fig.7 shows the ship design and LFSS of an LR1 tanker, the main components will be identical for an ammonia-based propulsion system [7]. Only the volume of the ammonia tanks will be twice that of the LPG tanks.」 {図6は、MAN B&W ME-LGIPエンジン[7]にLGIPを供給するために必要なコンポーネントを備えたLGIP燃料供給システム一式である。 アンモニア燃料供給システムでは、サービスタンク内のアンモニア分をシーリングオイルで汚染しないように、2サイクルエンジンから戻るアンモニアはより小さな別のタンクに回収されることになる。シールオイルシステムは、燃料噴射部品の潤滑を行い、システムオイルのLPG汚染を防止する。 NH3の緊急ベントは、NH3濃度を10ppm以下に下げる、NH3を回収する、ベントマストを安全な高さに延長する、のいずれかの原則で行うことができる。アンモニアの燃焼により煙突から嫌な臭いがする場合は、排ガスを加熱して浮力を高くする方法もある。LPG燃焼エンジンにも使用されている方法である。 例として、図7にLR1タンカーの船形とLFSSを示すが、主要部品は、アンモニアベースの推進システム[7]向けも同じになる。アンモニアタンクの容積がLPGタンクの2倍になるだけである。} (2)甲1の図示事項 ア 図6 「Fig.6:The ammonia LFSS will be a modified low-flashpoint supply system for LGIP engines」{図6:アンモニアLFSSは、LGIPエンジン用の改造された低引火点燃料供給システムになる}という記載とともに、次の図が示されている。 「 [図:0001400430000001.jpg] 」 イ 図7 「Fig.7:Ship design and LFSS for an LR1 tanker - the same design will be applied for an ammonia-propelled vessel」{図7:LR1タンカー用の船体設計とLFSS-同じ設計はアンモニア推進船にも適用される}という記載とともに、次の図が示されている。 「 [図:0001400430000002.jpg] 」 (3)甲1からの認定事項 ア 上記(1)エの「アンモニア燃料供給システムでは、サービスタンク内のアンモニア分をシーリングオイルで汚染しないように、2サイクルエンジンから戻るアンモニアはより小さな別のタンクに回収されることになる。」から、サービスタンクはアンモニアを貯留可能と認められる。 イ 図6から、LFSSにおいて、サービスタンクからMAN B&W ME-LGIPエンジンに至る経路に、窒素が供給される(Nitrogen supplyの矢印)ことが看取できる。 ウ 図6から、LFSSにおいて、MAN B&W ME-LGIPエンジンからサービスタンクに至る経路から分岐して、ノックアウトドラムA(エンジン)(knock-out drum A(engine))を通り、ベント(Vent)に至る経路が看取できる。 エ 図7の船体上の燃料供給室(Fuel preparation room)には、同図の下の右から2番目の円囲いされた機器である窒素パージシステム(Nitrogen purging system)が備えられることが看取できる。 オ 上記(1)エの「NH3の緊急ベントは、NH3濃度を10ppm以下に下げる、NH3を回収する、ベントマストを安全な高さに延長する、のいずれかの原則で行うことができる。」から、アンモニアのベント処理を行うことが認められる。 カ 上記ア~オを踏まえると、LFSSにおいて、サービスタンクからMAN B&W ME-LGIPエンジンに至る経路に接続された窒素供給は、窒素ガスとともにアンモニアを外部に導きベント処理を行うためのものであること、また、LFSSが窒素ガス供給のための窒素ガス供給装置を有すること、ベントに至るノックアウトドラムA(エンジン)を通る経路がベント用の配管を備えることは、いずれも明らかである。 (4)甲1発明 上記(1)~(3)を踏まえると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「アンモニアを貯留可能なサービスタンクと、 サービスタンクからMAN B&W ME-LGIPエンジンに至る経路に窒素ガスを供給する窒素ガス供給装置と、 窒素ガス供給装置によって供給された窒素ガスとともに、アンモニアを外部に導くベント用の配管と、 を備えるアンモニア推進船舶。」 2 甲2 本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲2には、図面とともに、以下の記載がある。 (1)甲2の記載事項(2ページ) 「Research disclosure: Water seal in the vent outlet for ammonia systems on an ammonia fueled engine Engines operating on low-flashpoint fuels (LF fuel), including ammonia, are required to vent and purge the LF fuel during stop of LF fuel consumption. For other LF fuels the vented amount of LF fuel from the engine systems are normally of quantities that does not cause concern in terms of safety. However, specifically for venting of ammonia, which is highly toxic, the venting process may result in unacceptable ammonia concentrations in places where people may be working or passing. Therefore there may be a need of a system, additional to the normal venting systems, that can reduce the ammonia concentration at the vent masts. A method for catching the ammonia vapours in a water seal is proposed: The ammonia vapours will be caught in the water to an extent that the ammonia concentrations at the vent outlet will be reduced to a level that will not be of safety concern in any place that people may reside.」 {研究の公開: アンモニア燃料エンジンのアンモニアシステム用ベント出口におけるウォーターシール アンモニアを含む低引火点燃料(LF燃料)を使用するエンジンでは、LF燃料の消費停止時にLF燃料をベント及びパージすることが義務付けられている。他のLF燃料の場合、エンジンシステムからベントされるLF燃料の量は、通常、安全性の観点から懸念されない量である。しかし、特に毒性の強いアンモニアのベント処理は、人が作業する場所や通行する場所に許容できないアンモニア濃度を引き起こす可能性がある。 そのため、通常のベントシステムに加えて、ベントマストでのアンモニア濃度を低減できるシステムが必要とされる場合がある。 アンモニア蒸気を水封で捕集する方法が提案されている。 アンモニア蒸気は水中に捕捉され、排気口でのアンモニア濃度は、人が居住する場所での安全性に問題がないレベルまで低減される。} (2)甲2の図示事項(2ページ) 「 [図:0001400430000003.jpg] 」 (3)甲2からの認定事項 上記(1)の記載事項を踏まえると、図から、ウォーターロック内に水が貯留され、アンモニア蒸気がウォーターロック内の水の水面下に導入されること、アンモニア蒸気はウォーターロック内の水に捕集された後にベントされることが看取できる。 そうすると、ウォーターロックはベントの経路の中途に設けられることは明らかである。 (4)甲2発明 上記(1)~(3)を踏まえると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「アンモニア燃料エンジンにおいて、通常のベントシステムに加えて、ベントマストでのアンモニア濃度を低減するために、アンモニア蒸気を水中に捕集させる方法であって、ベントの経路の中途に設けられたウォーターロックは、内部に水が貯留されているとともに、水の水面下にアンモニア蒸気が導入される方法。」 3 甲5 本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲5には、図面とともに、以下の記載がある。 (1)甲5の記載事項 ア 「【請求項1】希釈用液体中にNH3ガス配管を設置し、該NH3ガス配管の先端部に設けられた噴出ノズルから噴出されるNH3ガスの一部を前記希釈用液体に溶解させるアンモニアガス希釈槽において、前記噴出ノズルから噴出されたNH3ガスの気泡を分裂させる気泡分裂手段を設けたことを特徴とするアンモニアガス希釈槽。」 イ 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】すなわち、NH3ガスは有毒ガスであり、風向きによっては人体にも影響を与える恐れもあるため、未溶解のNH3ガスの排出を抑制するためNH3ガスの噴出量を少なくするとともに大量の水を供給するしかなく、こられより希釈のために相当長時間を要するという問題がある。 【0008】そこで、本発明の課題は、希釈槽内でのNH3ガスの水に対する溶解能力を高めることにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】上記した課題を達成するために、本発明は、希釈用液体中にNH3ガス通流管を設置し、該NH3ガス通流管の先端部に設けられた噴出ノズルから噴出されるNH3ガスの一部を前記希釈用液体に溶解させるアンモニアガス希釈槽において、前記噴出ノズルから噴出されたNH3ガスの気泡を分裂させる気泡分裂手段を設けたものである。 【0010】この場合において、噴出ノズルから噴出されたNH3ガスの気泡を気泡分裂手段で分裂させることにより、気泡を小さくし、拡散させることができる。この結果、NH3ガスと水との接触面積を増大させることができ、NH3ガスの水への溶解能力を高くすることができる。」 ウ 「【0015】NH3設備3中の液化NH3タンク5、NH3気化器7、アキュームレータ9等から送られたNH3ガス11は、希釈槽1の内部にかけて設けられているNH3ガス配管13を通り、先端であるヘッダー15に設けられた噴出ノズル17を通して希釈槽1内の水中に噴出される。そして、噴出されたNH3ガス11は気泡19となり、希釈槽1内の水中を上昇する。その上昇過程において、途中に設けられた気泡分裂装置35はラシヒリング又はワイヤメッシュ(ワイヤ製網)で構成されているので、図2に示すように、気泡19が分気泡裂装置35を通過することにより、小さい気泡37に分裂され、水中に拡散される。そして、気泡19が分裂し、拡散することでNH3ガスと水との接触面積が増加し、NH3ガスの水への溶解能力が増加する。また、気泡19が小さいため、希釈用水の水位の変動も小さくなり、ベント管21及びオーバーフロー配管29からの未溶解NH3ガス23の排出が抑制されると同時に、オーバーフロー配管29からはアンモニア水39が排出され、希釈槽1内でのNH3ガスの処理時間も短縮される。」 エ 「【0017】なお、気泡分裂装置35はラシヒリング又はワイヤメッシュ(ワイヤ製網)で構成されているが、これらに代えて多孔板で構成しても良い。」 (2)甲5の図示事項 図1 「 [図:0001400430000004.jpg] 」 (3)甲5に記載された技術的事項 上記(1)及び(2)を踏まえると、甲5には、次の技術的事項(以下「甲5記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「希釈槽内の水中にNH3ガス配管を設置し、該NH3ガス配管の先端部に設けられた噴出ノズルから噴出されるNH3ガスの一部を前記水に溶解させるアンモニアガス希釈槽において、噴出ノズルから噴出されたNH3ガスが水中を上昇する過程の途中に気泡分裂装置を設け、該気泡分裂装置を多孔板で構成し、ベント管21からの未溶解NH3ガスの排出を抑制したアンモニアガス希釈槽。」 4 甲11 本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲11には、図面とともに、以下の記載がある。 (1)甲11の記載事項 「【0007】 図2は特許文献1に記載された方法を実施するプロセスフロー図である。改質器1で生成したアンモニアを含む水素リッチな改質ガスは、配管aからアンモニア除去器2に吹き込まれ、そこで上方から散水ノズル2aで散布する水と接触することにより、含まれているアンモニアが水に吸収されて除去される。アンモニアを除去した改質ガスは配管bを経て固体高分子型燃料電池3に供給され、アンモニアを吸収した水は配管cを経て貯留槽4に排出する。 【0008】 貯留槽4の貯留水は配管dに設けたポンプ5でイオン交換樹脂槽6に供給され、含まれているアンモニアをイオン交換樹脂に吸着させる。そしてアンモニアを除去した水を配管eで前記アンモニア除去器2の散水ノズル2aに循環する。」 (2)甲11の図示事項 図2「 [図:0001400430000005.jpg] 」 (3)甲11に記載された技術的事項 上記(1)及び(2)を踏まえると、甲11には、次の技術的事項(以下「甲11記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「アンモニアを含む水素リッチな改質ガスは、配管aからアンモニア除去器2に吹き込まれ、そこで上方から散水ノズル2aで散布する水と接触することにより、含まれているアンモニアが水に吸収されて除去され、アンモニアを吸収した水は配管cを経て貯留槽4に排出され、アンモニアを除去した水を配管eで前記アンモニア除去器2の散水ノズル2aに循環する装置。」 5 甲12 本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲12には、図面とともに、以下の記載がある。 (1)甲12の記載事項 「【0012】本発明の基本構成は、接続ダクト1、スプリンクラー2、希釈タンク3、排気ファン4から構成される。 【0013】接続ダクト1は、換気用エアダクトの排気ダクトPに着脱自在に接続するダクトであり、漏洩したアンモニアガスは、この接続ダクト1を通し、アンモニアガスが漏洩した設備機器から離れた位置で処理されるものである。図示の接続ダクト1は、開口部に接続フランジ1Aを形成してあり、この接続ダクト1と排気ダクトPとの接続作業を容易にしている。 【0014】スプリンクラー2は、漏洩したアンモニアガスを水に溶解せしめるために散水する。このスプリンクラー2として、特に、一次スプリンクラー2Aと、二次スプリンクラー2Bとを設定している。」 (2)甲12の図示事項 図1「 [図:0001400430000006.jpg] 」 6 甲13 本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲13には、図面とともに、以下の記載がある。 (1)甲13の記載事項 「【0017】第1気液接触塔2で硫化水素及びシアン化水素を除去されたコークス炉ガス中には、なおアンモニアが第1気液接触塔2に送入される前の濃度の40~60%程度が残っているので、第1気液接触塔2の下流側に設置された脱アンモニア工程で、残存アンモニアの除去が行なわれる。 【0018】この脱アンモニア工程は第2気液接触塔3、水蒸気蒸留塔5、熱交換器8及び冷却器9で構成されている。コークス炉ガスは第2気液接触塔3の下部に送入され、塔内を上昇する間に上部から落下してきた水と気液接触して、アンモニアの大部分と炭酸ガスの一部が吸収される。」 (2)甲13の図示事項 図1「 [図:0001400430000007.jpg] 」 7 甲15 本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲15には、以下の記載がある。 「じょうき【蒸気】(1)液体が蒸発(または固体が昇華)してできる気体。特に水蒸気。」(521ページ) 8 甲20 本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲20には、以下の記載がある。 「17.5.6 燃料装置のイナーティング及びパージング -1.燃料装置のイナーティング及びパージングの主な目的は,燃料装置の配管,タンク,機器及び隣接する区域の内部付近又は周囲における燃焼雰囲気の形成を防ぐことである。 -2.燃料装置のイナーティング及びパージングの手順は,ガス雰囲気を含んでいる配管又はタンクに空気が導かれないこと及び燃料装置に隣接する囲壁又は区域内の空気にガスが導かれないことを確保できるものとすること。」(第82ページ第15~19行) 第6 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1 本件発明1 (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 後者の「サービスタンク」は、アンモニアを貯留可能なものであるから、前者の「アンモニア貯留タンク」に相当する。 後者の「サービスタンクからMAN B&W ME-LGIPエンジンに至る経路」は、当該エンジンがアンモニアを燃料とするものであることを考慮すると、アンモニアを流通させる経路であるから、前者の「前記アンモニア貯留タンクに連通する前記アンモニアの流通経路」に相当する。 後者の「窒素ガス」及び「窒素ガス供給装置」は、前者の「不活性ガス」及び「不活性ガス供給装置」に相当する。 後者の「ベント用の配管」は、前者の「ベント管」に相当する。そして、後者が、サービスタンクからMAN B&W ME-LGIPエンジンに至る経路に窒素ガスを供給するものであるから、後者の「アンモニアを外部に導くベント用の配管」は、前者の「前記流通経路内の前記アンモニアを外部に導くベント管」に相当する。 後者の「アンモニア推進船舶」は、前者の「船舶」に相当し、船舶が「船体」を備えることは自明である。 そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「船体と、 アンモニアを貯留可能なアンモニア貯留タンクと、 前記アンモニア貯留タンクに連通する前記アンモニアの流通経路に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、 前記不活性ガス供給装置によって供給された前記不活性ガスとともに、前記流通経路内の前記アンモニアを外部に導くベント管と、 を備える船舶。」 [相違点1] 船舶について、本件発明1では、「前記ベント管の途中に設けられ、内部に水が貯留されているとともに、前記水の水面下に前記ベント管から前記不活性ガス及び前記アンモニアが導入される処理タンク」を備えるのに対し、甲1発明では、そのような構成を有しない点。 (2)判断 上記相違点1について検討する。 ア 甲2発明は、「通常のベントシステムに加えて」ベントマストでのアンモニア濃度を低減するために、アンモニア蒸気を水中(ウォーターロック)に捕集させる方法に関するものである。 ここで、「通常のベントシステム」について、甲2には「アンモニアを含む低引火点燃料(LF燃料)を使用するエンジンでは、LF燃料の消費停止時にLF燃料をベント及びパージすることが義務付けられている。」(上記2(1)参照)と記載され、義務としてベント及びパージすることから、当業者であれば、甲2発明における「通常のベントシステム」は、パージを行うことが前提になっているか、少なくともパージを行うものをも含むと理解するものと認められる。 また、甲20には、「燃料装置の・・・パージングの主な目的は、・・・燃焼雰囲気の形成を防ぐことである。」、「燃料装置の・・・パージングの手順は、ガス雰囲気を含んでいる配管又はタンクに空気が導かれないこと・・・」と記載され、パージは燃焼雰囲気の形成を防ぐため配管等に空気が導かれないようにして行うことから、パージの際に、不活性ガスを用いることは当業者が当然に行うことと認められる。 そうすると、甲2発明の「通常のベントシステム」は、甲1発明の「窒素ガスとともに、アンモニアを外部に導くベント」に対応する構成といえるところ、甲2発明は、「不活性ガスとともに、アンモニアを外部に導くベント」の下流に、アンモニア濃度を低減するためにウォーターロックを備える方法を含むものである。 イ ここで、甲1には、上記「第5 1(1)エ」に示すとおり、ベントにあたりアンモニア濃度を下げるという課題が記載されていることを踏まえると、甲1発明の「窒素ガスとともに、アンモニアを外部に導くベント」の下流に、アンモニア濃度を下げる手段を追加する動機付けは十分認められる。したがって、甲1発明に甲2発明のウォーターロックを追加して上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 本件発明1が奏する作用効果も、甲1発明及び甲2発明から当業者が予測できる範囲内のものであり、格別なものとはいえない。 エ よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 オ 特許権者は、令和4年8月15日付けの意見書において、(ア)甲2に記載される技術的事項は、アンモニアのベント(排出)処理において、「アンモニア蒸気」を水中に捕捉させるもので、この「アンモニア蒸気」は、アンモニアガスが空気中の水分と反応して霧状になったものであること、(イ)甲1に仮に甲2の技術的事項を適用したとしても、そのまま当該技術事項を採用すれば、「窒素パージシステム」を利用せずともベントマスト内でアンモニア蒸気を水中に捕捉させれば緊急ベントの目的は達成できることを主張する。 カ 上記特許権者の主張について検討すると、(ア)について、甲2には「アンモニア蒸気」が空気中の水分と反応して霧状になったものであることは記載されておらず、また、「蒸気」は、「液体が蒸発(又は固体が昇華)してできる気体」を意味するから(甲15参照)、甲2の「アンモニア蒸気」が空気中の水分と反応して霧状になったものであるという特許権者の主張は採用できない。また、(イ)について、上記ア及びイで説示したとおりであり、特許権者の主張は採用できない。 2 本件発明2 本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違するほか、次の点で相違する。 [相違点2] 本件発明2は「前記処理タンクは、前記水の水面下に設けられ、前記水の中を下方から上方に浮上する前記不活性ガス及び前記アンモニアの気泡が通過する複数の孔を有した多孔部材を備えている」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。 相違点2について検討する。 甲1発明及び甲2発明と甲5記載の技術的事項は、アンモニアガスの濃度低下又は除去に関するものとして技術分野が関連するとともに、ベント管からのアンモニアガスの排出を抑制するものとして解決しようとする課題が共通する。 そうすると、甲1発明において、甲2発明を付加する際に、甲5記載の技術的事項を採用し、上記相違点2に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 よって、本件発明2は、甲1発明、甲2発明及び甲5記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 本件発明4、5 本件発明5と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違するほか、次の点で相違する。 [相違点3] 本件発明5は、「前記船体に設けられ、前記処理タンク内から排出される水を貯留する水回収タンクをさらに備え、前記水回収タンクに貯留された前記水の一部を前記処理タンクに循環させる循環系統をさらに備える」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。 相違点3について検討する。 甲1発明及び甲2発明と甲11記載の技術的事項は、アンモニアガスの濃度低下又は除去に関するものとして技術分野が関連する。 そうすると、甲1発明において、甲2発明を付加する際に、甲11記載の技術的事項を採用し、上記相違点3に係る本件発明5の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。 よって、本件発明5は、甲1発明、甲2発明及び甲11記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本件発明4の構成を全て含み、さらに構成を付加したものである本件発明5が、当業者が容易に発明をすることができたのであるから、本件発明4も同様に、甲1発明、甲2発明及び甲11記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 本件発明6 本件発明6と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1及び相違点3で相違するほか、次の点で相違する。 [相違点4」 本件発明6は「前記処理タンクは、前記水の水面よりも上方から、下方に向けて水を噴射する水噴射部を備えている」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。 甲11の段落【0002】及び図2、甲12の段落【0014】及び図1、甲13の段落【0018】及び図1に示されるように、アンモニアガスの除去において上方から下方に向けて水を噴射する水噴射により行うことは周知の技術(以下「周知技術」という。)である。 甲1発明及び甲2発明と周知技術は、アンモニアガスの濃度低下又は除去に関するものとして、技術分野が関連する。 そうすると、甲1発明において、甲2発明を付加する際、周知技術を採用し、本件発明6の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 よって、本件発明6は、甲1発明、甲2発明及び甲11記載の技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1 本件発明3 (1)対比・判断 本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違する(「第6 1(1)」参照)ほか、次の点で相違する。 [相違点5] 本件発明3は、「前記処理タンクは、前記水の水面下に、上下方向に交差する面に沿って設けられ、前記水の中を下方から上方に浮上する前記不活性ガス及び前記アンモニアの気泡の流れの経路を屈曲させることで前記経路の長さを増大させる仕切板を備えている」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。 相違点5について検討する。 相違点5に関連するものとして、甲6には、気泡塔内の流れ解析に関し、以下の記載がある。 「スパージャー"(ガスを吹き込むための分散管)からガス噴出開始時の液面の挙動を『PHOENICS 二相流モデル』を使用して解析した。ガス噴出開始時は、”ダウンカマー”(*)側にも多少ガスが漏れ、液面を上昇させるが、時間が進むと中心部からのみ気泡が上昇し、ダウンカマーから液が下降するようになる様子をアニメーションで表現した。 (*): 棚板(トレイ)による気相の流れを妨げず、一部気泡を巻き込んで流入する液相主体の流れを落ち着かせ、ゆとりを持って気相分離して液相のみを下の段に送り届けられる構造)」 しかしながら、甲6は、公知日が不明であり、優先日前に公知になったということができない。仮に優先日前に公知であったとしても、甲6は、棚板(トレイ)に関する具体的な構成が不明で、上下方向に交差する面に沿って設けられ、気泡の流れの経路を屈曲させることで前記経路の長さを増大させる仕切板が開示されているとはいえない。 また、その他の甲号証を見ても、相違点5に係る発明特定事項を示す証拠は見いだせない。 そうすると、甲1発明において、相違点5に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 してみれば、本件発明3は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)申立人の主張について 申立人は、異議申立書第22ページ第10~19行において、甲6の「棚板(トレイ)による気相の流れを妨げず」との記載から、棚板(トレイ)を設けることで、気相の流れが妨げられることが理解できること、棚板(トレイ)は、板状であって本件発明3の「仕切板」に相当すること、当該仕切板を上下方向に交差する面に沿ってアンモニアの気泡の流れの経路を屈曲させるように設けることは、アンモニアガスを水に溶解させる必要性と、当該必要性からアンモニアガスの滞留時間を長くしようとすることを考慮すれば、当業者が適宜設定した構成であることを主張する。 しかしながら、甲6には、「棚板(トレイ)による気相の流れを妨げず」と記載されるにすぎず、この記載から、申立人の主張する構成が容易であるということはできないから、申立人の主張は採用できない。 2 本件発明7 (1)対比・判断 本件発明7と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1及び相違点3で相違する(「第6 3」参照)ほか、次の点で相違する。 [相違点6] 本件発明7は、「前記水回収タンク内の水に中和処理を施す中和処理部をさらに備える」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。 相違点6について、検討する。 甲10の冷蔵設備規則第13ページ第9~16行には、漏洩した液体アンモニアを迅速に回収できるよう、ガス吸収水タンクを設置すること、タンクは、少なくとも1つの冷凍装置に充填されている冷凍装置に充填されている冷媒を吸収した水をすべて回収できる容量とすること、ガス吸収水タンクからのオーバーフローを希釈又は中和してから直接船外に排出することが記載されている。 しかしながら、甲10において、回収する対象は漏洩した液体アンモニアであり、また、ガス吸収水タンクやその関連設備の具体的構成は特定されておらず、処理タンクや水回収タンクを有するか否か、水回収タンク内の水に中和処理を施すのか否かは不明である。 また、その他の甲号証を見ても、相違点6に係る発明特定事項を示す証拠は見いだせない。 そうすると、甲1発明において、甲2発明を付加する際に、甲11記載の技術的事項を採用し、「前記船体に設けられ、前記処理タンク内から排出される水を貯留する水回収タンクをさらに備え」るものとした(上記「第6 3」参照)上で、さらに相違点6に係る発明特定事項、すなわち、「前記水回収タンク内の水に中和処理を施す中和処理部をさらに備える」とすることが、当業者が容易に想到し得たものではない。 してみれば、本件発明7は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)申立人の主張について 申立人は、異議申立書34ページ第17~28行において、甲10は、アンモニアガスを吸収したタンクの水を船外排出するために当該水の希釈又は中和の必要性を記載しており、このような必要性は、海洋汚染を防ぐため、船舶内において発生される汚染水は、排水が可能な程度に処理する必要があるから当然であり、アンモニアガスを溶解した水であれば、その濃度を低くするべく希釈をするか、酸性成分で中和をすることは当業者であれば至極当然帰結する構成である旨を主張する。 しかしながら、上述したとおり、甲1発明において、甲10に記載された事項に基いて、相違点6に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 3 本件発明8 (1)対比・判断 本件発明8と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1及び相違点3で相違する(「第6 3」参照)ほか、次の点で相違する。 [相違点7] 本件発明8は、「前記処理タンク、及び前記水回収タンクの少なくとも一方に、外部から希釈水を導入する希釈水導入系統と、前記水回収タンクに貯留された前記水の一部を排出する排出系統と、をさらに備える」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。 相違点7について検討する。 甲7の段落【0002】~【0004】、【0043】及び【0064】、甲8の段落【0002】~【0004】、【0034】及び【0036】、甲9の段落【0002】~【0004】、【0064】には、エンジンでの燃焼で生じる排ガスを浄化し、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)等を低減させるスクラバにおいて、水循環経路の途中で希釈水を加えるようにすること、バッファ・タンク内の水を外部に排出することが記載されている。 しかしながら、上記甲7~甲9が浄化の対象とするエンジンでの燃焼で生じる排ガスであり、甲1発明、甲2発明、甲11記載の技術事項が対象とするアンモニアとは、ガスの種類が異なるところ、エンジンでの燃焼で生じる排ガスを浄化するスクラバの技術をアンモニアの処理に転用することが、当業者にとって容易であるという証拠もない。 また、甲10の冷蔵設備規則第13ページ第9~16行には、漏洩した液体アンモニアを迅速に回収できるよう、ガス吸収水タンクを設置すること、タンクは、少なくとも1つの冷凍装置に充填されている冷凍装置に充填されている冷媒を吸収した水をすべて回収できる容量とすること、ガス吸収水タンクからのオーバーフローを希釈又は中和してから直接船外に排出することが記載されている。 しかしながら、甲10において、回収する対象は漏洩した液体アンモニアであり、また、ガス吸収水タンクやその関連設備の具体的構成は特定されておらず、処理タンクや水回収タンクを有するか否か、水回収タンク内の水に中和処理を施すのか否かは不明である。 また、その他の甲号証を見ても、相違点7に係る発明特定事項を示す証拠は見いだせない。 そうすると、甲1発明において、甲2発明を付加する際に、甲11記載の技術的事項を採用し、「前記船体に設けられ、前記処理タンク内から排出される水を貯留する水回収タンクをさらに備え」るものとした(上記「第6 3」参照)上で、さらに相違点7に係る発明特定事項、すなわち「前記処理タンク、及び前記水回収タンクの少なくとも一方に、外部から希釈水を導入する希釈水導入系統と、前記水回収タンクに貯留された前記水の一部を排出する排出系統と、をさらに備える」とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。 してみれば、本件発明8は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)申立人の主張について 申立人は、異議申立書第37ページ第20~22行において、甲7~甲9には、流体ループのいずれかに希釈水を加え、バッファ・タンクの内部の水を外部に排出する経路が記載されている旨を主張する。 また、申立人は、異議申立書第37ページ第7~18行において、甲10は、アンモニアガスを吸収したタンクの水を船外排出するために当該水の希釈又は中和の必要性を記載しており、このような必要性は、海洋汚染を防ぐため、船舶内において発生される汚染水は、排水が可能な程度に処理する必要があるから当然であり、アンモニアガスを溶解した水であれば、その濃度を低くするべく希釈をするか、酸性成分で中和をすることは当業者であれば至極当然帰結する構成である旨を主張する。 しかしながら、上述したとおり、甲1発明において、甲7~甲9又は甲10に記載された事項に基いて、相違点7に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 4 本件発明9 本件発明9は、本件発明8の全ての構成を含み、さらに別の構成を付加したものであるから、本件発明8が、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明9についても当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第8 まとめ 以上のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2は、甲1発明、甲2発明及び甲5記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4、5は、甲1発明、甲2発明及び甲11記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲1発明、甲2発明、甲11記載の技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2、4~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件発明1、2、4~6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件発明3、7~9に係る特許については、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明3、7~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700218

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