特許異議申立
2023-701318
粘着フィルム
- 審判番号
- 2023-701318
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-044894外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7291502
- 請求日
- 2023年12月14日
- 審決日
- 2024年07月31日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】リンテック株式会社
- 【権利者代理人】IBC一番町弁理士法人
- 【異議申立人】小松 一枝
- 【異議申立人】前田 知子
- 分類
- P1652.113-YAA(C09J) / P1652.121-YAA(C09J) / P1652.536-YAA(C09J) / P1652.537-YAA(C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7291502号発明「粘着フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7291502号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、〔6~10〕について訂正することを認める。
特許第7291502号の請求項1、3~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7291502号の請求項1~10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成31年3月12日に出願され、令和5年6月7日に特許権の設定登録がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年12月14日に特許異議申立人 小松 一枝、及び、前田 知子(以下、両名とも「申立人」という。)によって、請求項1、3~5に係る特許についての特許異議申立てがされ、令和6年3月14日付けで取消理由が通知され(発送は、同年同月19日)、同年5月17日に特許権者から意見書及び訂正の請求(以下この請求による訂正を「本件訂正」という。)が提出され、同年5月28日付けで当審から申立人に訂正請求があった旨の通知がされ(発送は、同年同月30日)、同年6月26日に申立人の一人である、小松 一枝から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7291502号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正事項
本件訂正は次の訂正事項からなる。下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけて測定したずれ量」とあるのを「温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら24時間放置し、24時間放置する前後に測定したずれ量」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に「温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけて測定したずれ量」とあるのを「温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら24時間放置し、24時間放置する前後に測定したずれ量」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7~10も同様に訂正する)。
3 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1について
ア 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~5のうち、請求項2~5は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であるから、本件訂正前の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
イ 訂正の目的
訂正事項1は、粘着フィルムの「ずれ量」の測定条件を、「24時間放置する前後」のものに限定し、その測定条件が明確になるように訂正したものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、及び、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
ウ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項1は、粘着フィルムの「ずれ量」の測定条件を、「24時間放置する前後」のものに限定したものであるから、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
エ 新規事項の追加の有無
訂正事項1の温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら「24時間放置し、24時間放置する前後に」粘着フィルムのずれ量を測定することは、当初明細書の段落【0019】、【0092】に記載されている。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
オ 独立特許要件
本件訂正前の請求項1、3~5は、特許異議の申立てがされた請求項であるから、これらの請求項に対する訂正事項については、いわゆる独立特許要件は課されない。
本件訂正前の請求項2は、特許異議の申立てがされていない請求項であって、かつ、上記イのとおり、当該請求項に係る訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むものであるので、独立特許要件についての検討を要する。
そこで、本件訂正後の請求項2に係る発明の独立特許要件について検討すると、下記第5で述べるように、本件訂正後の請求項1に係る発明(下記第3の「本件発明1」)は、取消理由及び申立理由により特許を受けることができないものでないから、本件訂正後の請求項1を引用する請求項2に係る発明も、取消理由及び申立理由によっては特許を受けることができないとすべきものでない。
また、他に請求項2に係る発明は、特許を受けることができないとすべき理由は見当たらない。
したがって、本件訂正後の請求項2に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるから、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 一群の請求項
本件訂正前の請求項6~10のうち、請求項7~10は、請求項6を直接又は間接的に引用する請求項であるから、本件訂正前の請求項6~10は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
イ 訂正の目的
訂正事項2は、粘着フィルムの「ずれ量」が、「24時間放置する前後」のものに限定し、その測定条件が明確になるように訂正するものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、及び、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
ウ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項2は、粘着フィルムの「ずれ量」が明確になるように、測定条件を、「24時間放置する前後」のものに限定したものであるから、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
エ 新規事項の追加の有無
訂正事項2の温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら「24時間放置し、24時間放置する前後に」粘着フィルムのずれ量を測定することは、当初明細書の段落【0019】、【0092】に記載されている。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
オ 独立特許要件
本件訂正前の請求項6~10は、特許異議の申立てがされていない請求項であって、かつ、上記イのとおり、これらの請求項に係る訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むものであるので、独立特許要件についての検討を要する。
そこで、本件訂正後の請求項6~10に係る発明の独立特許要件について検討すると、下記第5で述べるように、本件訂正後の請求項1に係る発明(下記第3の「本件発明1」)は、取消理由及び申立理由により特許を受けることができないものでないから、本件訂正後の請求項1の発明の発明特定事項を、発明のカテゴリーが異なることを除けば全て包含する、本件補正後の請求項6に係る発明及びそれを直接又は間接的に引用する請求項7~10に係る発明も、取消理由及び申立理由によっては特許を受けることができないとすべきものでない。
また、他に請求項6~10に係る発明は、特許を受けることができないとすべき理由は見当たらない。
したがって、本件訂正後の請求項6~10に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるから、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の規定に適合するものである。
4 小括
上記3(1)~(2)において検討した訂正要件についての判断をまとめると、訂正事項1及び2の訂正は、いずれも訂正要件を満たすものであるから、本件訂正は適法なものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、〔6~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明及び本件明細書の記載
1 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~10のうち、特許異議の申立ての対象である本件特許の請求項1、3~5に係る発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリウレタン系基材と、粘着剤組成物から形成されてなる粘着剤層と、を有する粘着フィルムであって、
前記粘着剤組成物がアクリル系共重合体および架橋剤を含み、
前記アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび前記架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマーを含むモノマー混合物を共重合して得られ、
温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら24時間放置し、24時間放置する前後に測定したずれ量(被着体:SUS板、貼付面積:25mm×25mm)が10mm以下であり、
水貼りで被着体に貼付する用途である、粘着フィルム。
・・・
【請求項3】
前記ポリウレタン系基材がエステル系ポリウレタンである、請求項1または2に記載の粘着フィルム。
【請求項4】
前記ポリウレタン系基材の厚みが100μm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着フィルム。
【請求項5】
前記架橋剤と反応しうる官能基がカルボキシル基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の粘着フィルム。」
2 本件明細書の記載
「【0006】
そこで本発明は、粘着フィルムを曲面形状を有する被着体に水貼りした場合にも粘着剤の露出を抑制できる粘着フィルムを提供することを目的とする。」
「【0010】
本発明の第一実施形態は、ポリウレタン系基材と、粘着剤組成物から形成されてなる粘着剤層と、を有する粘着フィルムであって、粘着剤組成物がアクリル系共重合体および架橋剤を含み、アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマーを含むモノマー混合物を共重合して得られ、温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけて測定したずれ量が10mm以下である。
【0011】
第一実施形態の粘着フィルムによれば、曲面形状を有する被着体に粘着フィルムを水貼りした場合にも粘着剤の露出を抑制でき、外観不良を抑制することができる。
【0012】
第一実施形態の粘着フィルムがかような効果を奏する詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推定される。なお、本発明の技術的範囲は、下記メカニズムによって何ら制限されるものではない。
【0013】
自動車車体などの曲面形状を有する被着体に粘着フィルムを貼付する際には、曲面形状に粘着フィルムが沿うように粘着フィルムを延伸しながら水貼りする。したがってポリウレタン系基材には延伸方向に力が働くが、フィルムが貼り付けられ、フィルムを延伸する力が取り除かれると、ポリウレタン系基材が延伸方向と逆方向に戻ろうとする力が粘着剤層に働く。この際、粘着剤層は水貼りの際に付与される水を含んでいる状態であるが、このような状態で粘着剤層が保持力を維持していないと、上記ポリウレタン系基材から働く力に耐えられず、粘着フィルムの端部で基材の端から粘着剤層が露出してしまう。これに対し、粘着フィルムの温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけて測定したずれ量が10mm以下である場合、水を含んだ状態であっても粘着剤層が保持力を維持できることで、粘着フィルム端部においても、粘着剤層がせん断方向に凝集破壊することがなく、ゆえに、外観不良を抑制することができる。」
「【0018】
[粘着フィルム]
(ずれ量)
ずれ量は、10mm以下であり、好ましくは、5mm以下であり、より好ましくは、2mm以下である。なお、ずれ量の下限は0mmである。ずれ量が10mm以下であることで、粘着剤の露出が顕著に低減される。一方で、ずれ量が10mmを超えると、粘着剤の露出が顕在化する。これにより外観不良となる。
【0019】
なお、ずれ量は、JIS Z0237:2009に規定される保持力に準じて測定する。具体的には幅25mm、長さ125mmに切断した粘着フィルムの粘着剤層表面25mm×25mm分のみを、それ以外の表面部分がSUS板(SUS304鋼板)に接しないようにSUS板に貼付し(粘着フィルムの非貼付部分がSUS板からはみ出すように貼付する)、その後、SUS板を地面に垂直に、かつ上記粘着フィルムがSUS板にぶら下がるように配置して、40℃、相対湿度80%RHで15分間放置する。その後、粘着フィルムに1kgの荷重をかけながら40℃、相対湿度80%RHで24時間放置し、24時間放置する前後の粘着フィルムのずれ量を測定する。
【0020】
ずれ量の制御は、粘着剤組成物における架橋剤と、アクリル系共重合体の架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー由来の構成単位と、の含有比で調整することができる。
【0021】
ここで、架橋剤と、架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー由来の構成単位と、の含有質量比は、架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー由来の構成単位100に対して架橋剤が0.2を超えることが好ましく、0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。なお、架橋剤と、架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー由来の構成単位と、の含有質量比の上限は、粘着性の観点から、架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー100に対して架橋剤が20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが特に好ましい。なお、アクリル系共重合体に占める架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー由来の構成単位の含有量(質量%)は、アクリル系共重合体を構成するモノマー合計量に占める架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマーの含有量(質量%)と実質的に同等である。」
「【0034】
架橋性官能基含有ビニルモノマーにおける官能基は、選択される架橋剤により異なるが、例えば、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基等が挙げられる。中でも、高い凝集力を確保できることから、架橋性官能基含有ビニルモノマーが、カルボキシル基含有ビニルモノマーおよび水酸基含有ビニルモノマーの少なくとも一方から選択される架橋性官能基含有ビニルモノマーであることが好ましく、好適な架橋剤がエポキシ系架橋剤であり、該架橋剤と反応しうるカルボキシル基含有ビニルモノマーであることがより好ましい。すなわち、好適な形態は、架橋剤がエポキシ系架橋剤であり、架橋性官能基(架橋剤と反応しうる官能基)がカルボキシル基である。
【0035】
架橋性官能基含有ビニルモノマーは1種単独であっても、2種以上併用してもよい。
【0036】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、およびオレイン酸などが挙げられる。中でも、重合性の観点から、(メタ)アクリル酸であることが好ましく、アクリル酸であることがより好ましい。
【0037】
水酸基含有ビニルモノマーは、(メタ)アクリロイル基またはビニル基等の不飽和二重結合を有する重合性の官能基を有し、かつ水酸基を有するものであれば特に限定されない。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合性の点からは、水酸基含有ビニルモノマーは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルであることが好ましい。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、および(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどが挙げられる。中でも、架橋性の観点からは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、および(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチルを用いることが好ましく、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルを用いることがより好ましく、アクリル酸2-ヒドロキシエチルを用いることがさらに好ましい。
【0038】
アミド基含有ビニルモノマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0039】
グリシジル基含有ビニルモノマーとしては、特に限定されないが、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0040】
アミド基含有単量体としては、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0041】
ニトリル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0042】
架橋性官能基含有ビニルモノマーは、モノマー混合物中、0.1~20質量%であることが好ましい。架橋性官能基含有ビニルモノマーがこのような範囲にあることで、架橋密度が適当となり粘着性が維持される。架橋性官能基含有ビニルモノマーは、モノマー混合物中、0.5~10質量%であることがより好ましく、1~8質量%であることがさらに好ましい。」
「【0052】
架橋剤は架橋性官能基と反応しうる官能基を有する。例えば、架橋性官能基が水酸基である場合には、架橋剤はイソシアネート系架橋剤であり、架橋性官能基がカルボキシル基である場合には、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤であり、架橋性官能基がアミド基である場合には、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤である。
【0053】
イソシアネート系架橋剤としては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプエート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;およびイソホロンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート;などのジイソシアネート化合物、ならびにジイソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、ジイソシアネート化合物のビウレット体やイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物の二官能型などのイソシアネート誘導体が挙げられる。
【0054】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミンなどが挙げられる。
【0055】
アジリジン系架橋剤としては、例えば、ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカーボキサミド)、トリメチロールプロパントリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ-β-アジリジニルプロピオネート、トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカーボキサミド)、トリエチレンメラミン、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリス-1-(2-メチルアジリジン)フォスフィン、トリメチロールプロパントリ-β-(2-メチルアジリジン)プロピオネートなどが挙げられる。
【0056】
金属キレート系架橋剤には、金属原子がアルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、鉄、スズなどのキレート化合物があるが、性能の点からアルミニウムキレート化合物が好ましい。アルミニウムキレート化合物としては、例えば、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビスオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0057】
本実施形態においては、架橋剤がエポキシ系架橋剤であることが好ましい。エポキシ系架橋剤は、耐加水分解性が高く、水貼りで粘着フィルムで被着体に貼付しても粘着性を発現しやすく、また、屋外環境下に粘着フィルムが暴露されても耐久性が高いため、好ましい。
【0058】
上記架橋剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0059】
架橋剤の添加量は、ずれ量の制御の点から、アクリル系共重合体100質量部に対して、0.01質量部を超えることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上が特に好ましい。また、架橋剤の添加量は、粘着性の観点から、アクリル系共重合体100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下がさらにより好ましく、0.2質量部以下が特に好ましい。」
「【0069】
[粘着フィルムの貼付方法]
本発明の第二実施形態は、上述した形態に係る粘着フィルムの粘着剤層面および被着体の粘着フィルム接触面の少なくとも一方に水系媒体を付与し(工程1)、粘着剤層面を被着体上に接触させ(工程2)ることを有する、粘着フィルムの被着体への貼付方法である。また、当該方法は、工程2の後に必要に応じて水系媒体を除去する(工程3)、工程3を有する。以下、第一実施形態の粘着フィルムを単に粘着フィルムとも称する。
【0070】
工程1では、粘着フィルムの粘着剤層および被着体の粘着フィルム接触面の少なくとも一方に水系媒体を付与する。
【0071】
水系媒体はいわゆる施工液として用いるものである。水系媒体とは水を50質量%以上(上限100質量%)含有されたものを指し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上であり、最も好ましくは水系媒体が水である。
【0072】
水系媒体中に含まれる水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤;界面活性剤を挙げることができる。水に溶解する有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0073】
通常、水貼りの施工液には、被着体およびフィルム間の滑り性を向上させる目的で、界面活性剤が含有される。界面活性剤としては、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硝酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩などの陰イオン系界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルジメチルベンジルアンモニウム塩、Nメチルビスヒドロキエチルアミン脂肪酸エステル・塩酸塩などの陽イオン系界面活性剤、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどの両性界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグリコシドなどの非イオン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は1種単独で、または、2種以上を併用して用いることができる。界面活性剤の施工液中の含有量は、通常0.1~1質量%である。
【0074】
水系媒体が付与されるのは、粘着フィルムの粘着剤層面および被着体の粘着フィルム接触面のいずれか一方であってもよいし、双方であってもよい。気泡抜けやしわ生成を抑制する観点からは、粘着剤層面および被着体の粘着フィルム接触面の双方に水系媒体を付与することが好ましい。粘着剤層面および/または被着体の粘着フィルム接触面に水系媒体を付与する方法としては、噴霧器を用いて水系媒体を接触面に噴霧する方法や、貯留してある水系媒体に接触面を接触させる方法などが挙げられるが、施工性を考慮すると、噴霧器を用いて水系媒体を接触面に噴霧する方法が好ましい。
【0075】
工程2では、粘着剤層面を被着体上に接触させる。すなわち、被着体に粘着フィルムの粘着剤層面を合わせる。この際、剥離ライナーは除去される。水系媒体(施工液)を介して、被着体に対して粘着フィルムを滑らせながら、粘着フィルムの施工位置を調整することができる。
【0076】
工程3では、水系媒体を除去して、被着体に粘着フィルムを貼付する。
【0077】
被着体と粘着フィルムとの間に存在する水系媒体を除去する(排出する)方法としては、スキージでフィルム表面を順次均一に擦りつけて、水系媒体を押し出して除去する方法が挙げられる。この工程において、粘着フィルムと被着体の間に生じた気泡を押し出し、粘着フィルムに生じたしわを伸ばすことができる。」
「【実施例】
【0082】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「重量部」あるいは「重量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
【0083】
(実施例1)
(ポリウレタン系基材)
厚さ150μmのエステル系ポリウレタン樹脂フィルムを用いた。
【0084】
(粘着剤層)
還流器および攪拌機を備えたフラスコに、アクリル酸ブチル95質量部、アクリル酸5質量部、過酸化物系開始剤およびトルエン(溶剤)を混合し、窒素置換を行いながら加温し、重合を行って、アクリル系共重合体を得た(重量平均分子量Mw=500,000)。
【0085】
上記アクリル系共重合体固形分100質量部、およびエポキシ系架橋剤(商品名:TETRAD-X、三菱ガス化学社製)0.02質量部(アクリル酸由来の構成単位100に対して0.4(質量比))を混合して粘着剤組成物を得た。
【0086】
粘着剤組成物を剥離紙(厚さ170μm)にナイフコーターを用いて乾燥後膜厚が25μmとなるように塗工した。ポリウレタン系基材に粘着剤層を貼付後、24時間静置して粘着フィルムを得た。
【0087】
(実施例2)
粘着剤組成物中のエポキシ系架橋剤量を0.02質量部から0.1質量部(アクリル酸由来の構成単位100に対して2(質量比))に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粘着フィルムを得た。
【0088】
(実施例3)
粘着剤組成物中のエポキシ系架橋剤量を0.02質量部から0.2質量部(アクリル酸由来の構成単位100に対して4(質量比))に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粘着フィルムを得た。
【0089】
(実施例4)
粘着剤組成物中のエポキシ系架橋剤量を0.02質量部から1質量部(アクリル酸由来の構成単位100に対して20(質量比))に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粘着フィルムを得た。
【0090】
(比較例1)
粘着剤組成物中のエポキシ系架橋剤量を0質量部(エポキシ系架橋剤を添加しない)としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着フィルムを得た。
【0091】
(比較例2)
粘着剤組成物中のエポキシ系架橋剤量を0.02質量部から0.01質量部(アクリル酸由来の構成単位100に対して0.2(質量比))に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粘着フィルムを得た。
【0092】
(ずれ量の測定)
ずれ量は、JIS Z0237:2009に規定される保持力に準じて測定した。実施例および比較例で得られた粘着フィルムを25mm×125mmのサイズに裁断し、剥離ライナーを剥がして、上記粘着フィルムの粘着剤層表面25mm×25mm分のみを、それ以外の表面部分がSUS板に接しないように上記SUS板に貼付した(粘着フィルムの非貼付部分がSUS板からはみ出すように貼付した)。その後、SUS板を地面に垂直に、かつ上記粘着フィルムがSUS板にぶら下がるように配置して、40℃、相対湿度80%RHで15分間放置した。その後、粘着フィルムに1kgの荷重をかけながら40℃、相対湿度80%RHで24時間放置し、24時間放置する前後の粘着フィルムのずれ量を測定した。なお、24時間の放置の間に落下したものについては「落下」とした。結果を表1に示す。
【0093】
(評価:外観試験)
曲面部を有する自動車車体のフィルム貼付面および粘着フィルムの粘着剤層面に施工液(界面活性剤の濃度0.1質量%水溶液)を噴霧器を用いて噴霧した後、車体に粘着剤層面を貼付した。フィルムを延伸しながら曲面部に追従させ、位置決めを行った。位置決め後、スキージを用いて施工液をフィルム外に排出した。1日標準環境下に静置後、外観を目視により評価し、以下の評価基準にしたがって評価した。
【0094】
◎:端部からの粘着剤のはみだしがない、
○:端部からごくわずかに粘着剤のはみだしがある、
×:端部から粘着剤のはみだしが観察される。
【0095】
(評価:定荷重試験)
粘着フィルムから幅25mm、長さ100mmの試験片を切り出し、試験片の一方の端部から50mmの粘着剤層面をSUS板に対してローラ圧着しながら貼付し、貼付直後から24時間、23℃、50%RHの標準環境下に放置した後、SUS板を試験片が貼付された面を下側に向けて水平に配置し、試験片の他方の端部に、試験片が鉛直方向に剥離するように質量50gのおもりを取り付け、その状態を24時間維持した後、試験片がSUS板の表面から剥離される距離(剥離距離、mm)を測定した。
【0096】
○:0~25mm以下、
△:25mmを超え49mm以下
×:49mm以上
【0097】
【表1】
[図:0001416477000001.jpg]
【0098】
以上の結果より、実施例1~4の粘着フィルムは、被着体に水貼り後にも粘着剤層の露出が抑制され、外観に優れたものであった。」
第4 特許異議申立ての理由等の概要及び証拠方法について
1 申立人は、特許異議の申立てにおいて、下記4の甲第1号証~甲第9号証(以下「甲1」~「甲9」ともいう。)を提出し、下記2(1)~(5)の新規性欠如(以下「申立理由1」ともいう。)、進歩性欠如(以下「申立理由2」ともいう。)、実施可能要件違反(以下「申立理由3」ともいう。)、サポート要件違反(以下「申立理由4」ともいう。)、及び明確性要件違反(以下「申立理由5」ともいう。)を主張した。
2 特許異議申立て理由等の概要
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件発明1、3~5は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」ともいう。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、本件発明1、3~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1、3~5は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1、3~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)
本件明細書の記載は、当業者が本件発明1、3~5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件発明1、3~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件発明1、3~5についての特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件発明1、3~5に係る特許は、同法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(明確性要件違反)
本件発明1、3~5についての特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件発明1、3~5に係る特許は、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 当審が通知した取消理由の概要
令和6年3月14日付けの取消理由通知の概要は次のとおりである。
取消理由1:(サポート要件違反)本件発明1、3~5についての特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件発明1、3~5に係る特許は、同法第36条第6項1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(前記2(4)の申立理由4を一部採用)
取消理由2:(明確性要件違反)本件発明1、3~5についての特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件発明1、3~5に係る特許は、同法第36条第6項2号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(前記2(3)の申立理由5を全部採用)
4 証拠方法の一覧
申立人は、次の甲第1号証~甲第9号証を提出した。甲第1号証~甲第9号証を、以下「甲1」~「甲9」ともいう。
甲第1号証:特許第6121822号公報
甲第2号証:特開2018-115278号公報
甲第3号証:特開平7-32528号公報
甲第4号証:特許第5174204号公報
甲第5号証:特開2012-207194号公報
甲第6号証:特開2003-327933号公報
甲第7号証:特開2001-272541号公報
甲第8号証:中前勝彦「粘着と粘着剤」高分子、30巻、9月号(1981年)
甲第9号証:浦濱圭彬ら「粘着剤組成物の力学的性質の研究 第2報 アクリル系粘着剤分子分布の力学的性質に及ぼす影響の研究」日本接着学会誌、vol.54、No.1(2018)
第5 甲号証の記載
1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】
乗物の窓板に貼り付けられて該窓板を保護するための保護シートであって、
基材と、該基材の一方の表面に設けられた粘着剤層とを含み、
前記粘着剤層は、式(1):
CH2=C(R1)COOR2(1);
におけるR2がC6-16の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートを30重量%以上含み、かつR2がC1-3の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートを30重量%以上含み、さらにアルキル(メタ)アクリレート100重量部に対して2~20重量部の水酸基含有モノマーを含む組成のモノマー混合物の共重合体と、架橋剤と、を含む粘着剤組成物を用いて形成されたアクリル系粘着剤層であり、
前記粘着剤層はさらに貼付け助剤を含み、該貼付け助剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン系界面活性剤および親水性ポリマーから選択される1種または2種以上を含み、
以下の条件:
(A)ガラス板の表面に水を付与し、該ガラス板の表面と前記粘着剤層との間に介在する水を前記保護シートの貼付け範囲外に押し出しながら該保護シートを前記ガラス板に圧着する水貼り方式で前記ガラス板に貼り付けた場合において、30分後剥離強度(S1)が0.10N/20mm未満である;および
(B)前記水貼り方式で前記ガラス板に貼り付けた場合において、48時間後剥離強度(S2)が0.05N/20mm以上である;
を満たす、乗物窓板用保護シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車その他の乗物(vehicle)の窓板に貼り付けられて該窓板を保護するための乗物窓板用保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の保管や流通等の過程において、その外装塗膜を損傷や塵埃の付着等から守るために、該塗膜に塗膜保護シートを貼り付けて保護する技術が知られている。かかる目的に使用される塗膜保護シートは、一般に、非多孔質のプラスチックフィルム(基材)とその片面に設けられた粘着剤層とを有し、該粘着剤層を介して自動車の塗膜表面に接着されることで保護目的を達成し得るように構成されている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような需要があるにもかかわらず、自動車の保管や流通等の過程で窓板を保護するための粘着シートの利用は未だ広まっていない。その一因として、一般に自動車のフロントウィンドウガラス(windshield)やリアウィンドウガラスは複雑な三次元形状を有するため、その表面に二次元形状の粘着シートを適切に貼り付けることが困難であり、あるいは適切に貼り付けるための作業に手間や時間を要することが考えられる。粘着シートが窓板に適切に貼り付けられていないと、貼付け後の自動車を保管または移送する間に上記粘着シートが風に煽られて剥がれ本来の保護目的を果たせなくなる、貼付け時に生じたシワから雨水等が入り込むことにより窓板に跡がついて商品価値が低下する、等の不都合が生じ得る。
また、自動車以外の乗物、例えば新幹線等の鉄道車両や航空機等においても同様に、その保管や流通等の過程における窓板の損傷を防止することが望まれる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主要な目的は、自動車その他の乗物の窓板の保護に適した乗物窓板用保護シートを提供することである。」
「【0008】
30分後剥離強度(S1)が低い保護シートは、窓板への貼付け性が良いので好ましい。例えば、より短い作業時間で窓板への適切な貼り付け状態を実現することができる。より具体的には、例えば、上記保護シートを水貼り方式によって窓板(被着体)に貼り付ける際に、該保護シートの粘着剤層を窓板の面方向に滑らせやすい。すなわち、粘着剤層の位置を窓板の面方向にずらす際の抵抗が少ない。このため、仮に保護シートの一部にシワが発生しそうになっても、そのシワを伸ばしながら該保護シートを窓板の表面形状に沿わせて適切に貼り付けることができる。また、保護シートを貼り付ける際に粘着剤層と窓板との間に気泡が生じても、その気泡を保護シートの面方向に移動させて該保護シートの端から抜き出しやすい。窓板表面が三次元形状の曲面である場合や、保護シートのサイズが比較的大きい場合には、保護シートの貼付時にシワや気泡が生じやすくなる傾向にあるため、上記30分後剥離強度(S1)を低く抑えることが特に有意義である。
【0009】
48時間後剥離強度(S2)が高い保護シートは、該保護シートの貼付け完了後において窓板表面からの浮きを生じにくい。すなわち、浮き防止性に優れる。浮き防止性に優れた保護シートは、例えば、上記保護シートを貼り付けた窓板が屋外で保存される場合や、上記保護シートを貼り付けた窓板を備えた乗物が外気に曝された状態で高速で移送される場合等にも、該保護シートが風に煽られて窓板上から吹き飛んでしまう事態を生じにくいので好ましい。
【0010】
ここに開示される保護シートの粘着剤層としては、アクリル系ポリマーをベースポリマーとして含む粘着剤層(アクリル系粘着剤層)を好ましく採用し得る。一般にアクリル系ポリマーは、耐候性が良いという特長を有する。したがって、アクリル系粘着剤層を有する保護シートは、該保護シートが窓板に貼り付けられた乗物(例えば自動車)が屋外で保管される場合等にも粘着剤の劣化が少なく、長期間に亘って良好な保護性能を発揮するものとなり得る。」
「【0015】
ここに開示される保護シートは、粘着剤層の厚さTAが1μm以上であることが好ましい。基材の厚さTBが20μm以上300μm以下であることが好ましい。粘着剤層の厚さTAは、該粘着剤層の厚さTAと上記基材の厚さTBとの合計厚さ(TA+TB;典型的には保護シート全体の厚さに相当する。)の3%以上であることが好ましい。」
「【0025】
基材としてのプラスチックフィルム(以下、フィルム基材ともいう。)を構成する樹脂材料は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等であり得る。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合、それらの樹脂は、ブレンドして用いてもよく、別々に(例えば、多層構造のプラスチックフィルムにおいて互いに異なる層を構成する材料として)用いてもよい。」
「【0040】
主モノマーであるアルキル(メタ)アクリレートと共重合性を有する副モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系ポリマーの凝集力を高めたりするために役立ち得る。アクリル系ポリマーの凝集力を高めることは、粘着剤の再剥離性の向上に有利に寄与し得る。副モノマーとしては、例えば以下のような官能基含有モノマー成分を、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
カルボキシル基含有モノマー:例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸およびその無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)。
水酸基含有モノマー:例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール類。
アミド基含有モノマー:例えば(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド。
アミノ基含有モノマー:例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
エポキシ基を有するモノマー:例えばグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
シアノ基含有モノマー:例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル。
ケト基含有モノマー:例えばジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート。
窒素原子含有環を有するモノマー:例えばN-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルモルホリン。
アルコキシシリル基含有モノマー:例えば3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン。」
「【0047】
上記アクリル系粘着剤組成物は、ベースポリマーとしての上記アクリル系ポリマーに加えて、架橋剤をさらに含むことができる。架橋剤の種類は特に制限されず、粘着剤分野で通常使用される各種架橋剤のなかから、例えば上記副モノマーの架橋性官能基の種類に応じて適宜選択して使用することができる。具体例としては、イソシアネート系架橋剤、シラン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。粘着性と凝集力とのバランスの良い粘着剤層を形成しやすいことから、イソシアネート系架橋剤を好ましく使用し得る。上記粘着剤組成物に含まれる架橋剤の量は特に限定されず、目的とする凝集力やゲル分率が得られるように設定することができる。通常は、上記アクリル系ポリマー100重量部に対して1~10重量部(好ましくは1.5~6重量部、より好ましくは2~5重量部、例えば2.5~4重量部)とすることが適当である。」
「【0077】
ここに開示される乗物窓板用保護シートの貼付けは、貼付け作業時において被着体の表面と粘着剤層との間に水を介在させる手法(水貼り方式)によって好ましく行うことができる。例えば、窓板の表面に水(貼付水)を付与し、その窓板に保護シートを圧着しつつ上記貼付水を保護シートの貼付け範囲外に押し出す手法を好ましく採用し得る。上記貼付水を用いることにより、貼付け過程において、被着体表面に対する粘着剤層のすべり性を向上させ得る。このことによって、保護シートの貼付け時に生じるシワを防止または軽減することができ、該保護シートを適切に貼り付けることが容易となり得る。上記貼付水として使用する水に特に制限はなく、例えば水道水、イオン交換水等の任意の水を用いることができる。このような水に適量の界面活性剤を含有させた貼付水を用いてもよい。ここに開示される保護シートは、S1が低く抑えられていることにより、界面活性剤を含まない貼付水を用いる場合にも、窓板の表面に効率よくかつ適切に貼り付けられ得る。なお、後述する実施例に記載の剥離強度測定では、イオン交換水からなる貼付水を使用した。」
「【0078】
ここに開示される技術の好ましい一態様に係る乗物窓板用保護シートは、後述する実施例に記載の方法で行われる剥離強度測定において、30分後剥離強度(S1)が0.10N/20mm未満である。より高い貼付け性を得る観点から、S1が0.07N/20mm以下であることが好ましく、0.05N/20mm以下であることがより好ましい。粘着剤層が貼付け助剤を含まない態様では、S1を0.05N/20mm以下とすることが特に有意義である。S1の下限は特に制限されないが、貼付け過程における保護シートの位置ずれ防止性(すなわち、保護シートの位置決め性)等の観点からは、S1が0.005N/20mm以上(例えば0.01N/20mm以上)の保護シートが有利である。」
「【0100】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体的実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。また、以下の説明中の各特性は、それぞれ次のようにして測定または評価した。
【0101】
[粘着剤層の厚さ測定]
各例に係る粘着シートから剥離ライナーを剥がし、1/10000ダイヤルゲージを使用して該粘着シートの総厚(粘着剤層と基材との合計厚さ)を5点測定し、それらの算術平均値を求めた。次いで、上記粘着シートの粘着剤層をトルエンで膨潤させて基材から掻き落とすことにより、基材の表面を露出させた。露出した基材の厚さを1/10000ダイヤルゲージにより5点測定して、それらの算術平均値を求めた。上記粘着シートの総厚の平均値と上記基材の厚さの平均値との差を粘着剤層の厚さ(平均厚さ)とした。
【0102】
[貼付け性評価]
(1.自動車のフロントウィンドウガラスに対する貼付け性)
各例に係る粘着シートを、トヨタ自動車株式会社製の車種名「86」(2012年式)のフロントウィンドウガラスを平面上に投影した形状と相似形状であって該フロントガラスの面積の70%に相当するサイズに打ち抜いた。上記打ち抜きは剥離ライナーごと行った。また、上記粘着シートの向きは、該粘着シートを構成する基材のMDが上記フロントウィンドウガラスの横方向(左右方向)と一致する向きとした。そして、被着体としての上記フロントウィンドウガラスに上記粘着シートを、該フロントウィンドウガラスの外端から上記粘着シートの外端までの距離が概ね均等となるようにして、以下の水貼り方式により貼り付けた。
すなわち、上記フロントウィンドウガラスの表面にイオン交換水(貼付水)を塗付した。上記粘着シートから剥離ライナーを剥がして粘着剤層を露出させ、上記イオン交換水で濡れた状態のフロントガラスの左側辺付近かつ該フロントウィンドウガラスの上下方向の中央付近に貼り合わせて位置決めした。次いで、その粘着シートの背面にスキージーを当て、該スキージーを粘着シートの背面に沿って滑らせながら当該粘着シートをフロントウィンドウガラスの表面形状に追従させつつ該フロントウィンドウガラスに押し当てていき、空気と水を押し出すようにして粘着シート全体をフロントウィンドウガラスの表面に貼り付けた。なお、上記空気と水を押し出す操作は、上記空気と水を抜き出す(または扱き出す)操作としても把握され得る。
この貼付け性試験では、上記位置決めを行ってから粘着シートの貼付けを完了するまでの作業時間を5分以内に制限した。その後、貼り付けられた粘着シートにおけるシワの有無および気泡の有無を目視により観察し、以下の3段階で貼付け性を評価した。
○(良):シワ、気泡ともに存在が認められなかった。
△(可):シワの存在は認められないが、気泡の存在が認められた。
×(不良):シワ、気泡ともに存在が認められた。
【0103】
(2.ポリカーボネート板に対する貼付け性)
各例に係る粘着シートを、上述した自動車のフロントウィンドウガラスへの貼付け性試験と同じ形状に打ち抜いた。上記粘着シートの全体を貼り付け得るサイズの長方形平板状のポリカーボネート板(PC板)を、垂直方向の曲率半径が3000mm、水平方向の曲率半径が15000mmの三次元形状に成形した。このように成形されたPC板に、上記で打ち抜いた粘着シートを、上記と同様の水貼り方式により貼り付けた。
この貼付け性試験では、最初にPC板上への粘着シートの位置決めを行ってから該粘着シートの貼付けを完了するまでの作業時間を5分以内に制限した。その後、貼り付けられた粘着シートにおけるシワの有無および気泡の有無を目視により観察し、以下の3段階で貼付け性を評価した。
○(良):シワ、気泡ともに存在が認められなかった。
△(可):シワの存在は認められないが、気泡の存在が認められた。
×(不良):シワ、気泡ともに存在が認められた。
【0104】
[浮き防止性評価]
(1.自動車のフロントウィンドウガラスに対する浮き防止性)
上記貼付け性試験により粘着シートをフロントウィンドウガラスに貼り付けてから24時間経過後に、該粘着シートの外周端が上記フロントウィンドウガラスの表面から浮いている箇所があるかどうかを目視により観察し、以下の2段階で浮き防止性を評価した。
○(良):浮いている箇所は認められなかった。
△(可):若干浮いている箇所があるが、実用上問題のない程度であった。
×(不良):明らかに浮いている箇所が認められた。
【0105】
(2.ポリカーボネート板に対する浮き防止性)
上記貼付け性試験により粘着シートをPC板に貼り付けてから24時間経過後に、該粘着シートの外周端が上記PC板の表面から浮いている箇所があるかどうかを目視により観察し、以下の2段階で浮き防止性を評価した。
○(良):浮いている箇所は認められなかった。
△(可):若干浮いている箇所があるが、実用上問題のない程度であった。
×(不良):明らかに浮いている箇所が認められた。
【0106】
[剥離強度測定]
(1.ガラス板に対する剥離強度)
各例に係る粘着シートを、該粘着シートを構成する基材のMDを縦方向として、幅20mmの帯状に剥離ライナーごと裁断して測定サンプルを調製した。上記測定サンプルから剥離ライナーを剥がし、23℃、50%RHの環境下にて、以下の水貼り方式により、被着体としてのガラス板に貼り付けた。
すなわち、日本板硝子製のグリーンガラス(縦150mm、横75mm、厚さ4mmの長方形平板状のガラス板)の表面にイオン交換水(貼付水)を塗付した。上記測定サンプルから剥離ライナーを剥がして粘着剤層を露出させ、その長手方向の一端を上記イオン交換水で濡れた状態のガラス板に貼り合わせて位置決めした。次いで、その測定サンプルの背面にスキージーを当て、該スキージーを粘着シートの背面に沿って滑らせながら上記測定サンプルをガラス板の表面に押し当てていき、空気と水を押し出すようにして上記測定サンプルをガラス板の表面に貼り付けた。スキージーを滑らせる方向および回数は、上記測定サンプルの長手方向に沿って1回とした。
このようにしてガラス板に貼り付けた測定サンプルを23℃、50%RHの環境下に30分間保持した後、同環境において、万能引張圧縮試験機(装置名「引張圧縮試験機、TG-1kN」ミネベア(株)製)を使用して、JIS Z0237に準じて、引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で剥離強度(N/20mm)を測定した。測定は2回行い、それらの算術平均値を30分後剥離強度(S1)とした。
【0107】
また、上記と同様の水貼り方式により上記ガラス板に貼り付けた測定サンプルを23℃、50%RHの環境下に48時間保持した後、同様にして剥離強度(N/20mm)を測定した。測定は2回行い、それらの算術平均値を48時間後剥離強度(S2)とした。
【0108】
また、上記と同様の水貼り方式により上記ガラス板に貼り付けた測定サンプルを50℃の環境下に7日間保持し、次いで23℃、50%RHの環境下に1時間保持した後、同様にして剥離強度(N/20mm)を測定した。測定は2回行い、それらの算術平均値を50℃7日後剥離強度(S3)とした。
【0109】
(2.ポリカーボネート板に対する剥離強度)
ガラス板に代えてPC板(縦150mm、横75mm、厚4mmの長方形平板状)を被着体に用いた点以外は上記と同様にして、該PC板に上記測定サンプルを水貼り方式により貼り付けた。これを23℃、50%RHの環境下に48時間保持した後、同様にして剥離強度(N/20mm)を測定した。測定は2回行い、それらの算術平均値をPC板に対する48時間後剥離強度とした。
【0110】
[重量平均分子量(Mw)]
重量平均分子量Mwは、東ソー社製のGPC測定装置、商品名「HLC-8120GPC」を用いて下記の条件にて測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した。
[GPC測定条件]
・サンプル濃度:約2.0g/L(テトラヒドロフラン溶液)
・サンプル注入量:20μL
・カラム:商品名「TSKgel,SuperAWM-H+superAW4000+superAW2500」(東ソー(株)製)
・カラムサイズ:各6.0mmI.D.×150mm
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流量:0.4mL/min
・検出器:示差屈折計(RI)
・カラム温度(測定温度):40℃
【0111】
<例1>
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた反応容器に、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)50部、エチルアクリレート(EA)50部、メチルメタクリレート(MMA)5部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)5部およびトルエンを入れ、窒素ガスを導入しながら1時間以上緩やかに攪拌した。その後、系を60℃に昇温し、重合開始剤としてのジベンゾイルパーオキサイド(BPO)(日本油脂製、商品名「ナイパーBW」)0.2部を投入し、系を60℃付近に保って12時間重合反応を行った。このようにしてアクリル系ポリマーのトルエン溶液(A)(固形分50%)を調製した。このアクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は65×104であった。
【0112】
上記アクリル系ポリマーのトルエン溶液(A)に、該アクリル系ポリマー100部に対して3部のイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」)と、架橋促進剤としてのジオクチルスズジラウレート(東京ファインケミカル製、商品名「エンビライザーOL-1」)0.1部と、最終的な固形分が20%となる分量のトルエンとを加え、充分に攪拌して、本例に係る粘着剤組成物を調製した。
【0113】
ランダムポリプロピレン(日本ポリプロ社製、商品名「ウインテック WFW4」)をフィルム成形機にて溶融混練し、該成形機のTダイから押し出して、厚さ50μmのフィルムを成形した。このフィルム(基材)の一方の表面にコロナ処理を施した。そのコロナ処理面に上記粘着剤組成物を直接塗付し、80℃で3分間加熱して乾燥させて、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。このようにして本例に係る粘着シートを作製した。
・・・
【0125】
【表1】
[図:0001416477000002.jpg]
・・・
【0127】
表1に示されるように、30分後剥離強度(S1)が0.10N/20mm未満であり、かつ48時間後剥離強度(S2)が0.05N/20mm以上である例1~19の粘着シートは、水貼り方式により上記フロントウィンドウガラスに貼り付けられた場合において、実用上問題のない貼付け性および浮き防止性を示した。なかでも、貼付け助剤を含みかつS2が0.1N/20mm超である例6~9、例11~12および例14~18に係る粘着シートは、貼付け性と浮き防止性とを高レベルで両立するものであった。また、貼付け助剤を用いない場合にも、S1が0.05N/20mm以下であり、かつ48時間後剥離強度(S2)が0.05N/20mm以上である例3,4の粘着シートでは良好な結果が得られた。」
2 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【0007】
そこで本発明の目的は、施工の際に粘着剤層が露出せず、粘着剤が本来有する粘着性が保持される粘着フィルムを提供することである。また、本発明の他の目的は、被着体にフィルムを水貼りした場合に、施工液が流れ落ちにくい粘着フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材、粘着剤層および粘着剤層に隣接する水溶性フィルムをこの順に含む粘着フィルムであって、該水溶性フィルムが最表層に配置される、粘着フィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、施工の際にも水溶性フィルムが粘着剤層上に配置されているために、粘着剤層が露出せず、粘着性が保持される。また、被着体にフィルムを水貼りした場合であっても、施工液が被着体上で留まりやすく、施工液が流れ落ちて部分的に接着されることに起因する水残りの発生が少ない。」
「【0023】
(基材)
基材を形成する材料としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。第一実施形態の粘着フィルムにおいて、水溶性フィルムが施工液と接触することで、水溶性フィルム中の水溶性高分子が溶解し、施工液の粘度が上昇する。このため、施工液が被着体から流れ落ちにくい。この点において、液状の施工液を塗布した際に流れ落ちが発生しやすい曲面形状を有する被着体に第一実施形態の粘着フィルムを適用すると、フィルム全体を均一に被着体に貼付することができ、施工液排出前に部分的に粘着することで水残りが発生することを低減することができる。したがって、本発明の効果がより発揮されやすいことから、第一実施形態の粘着フィルムの被着体が曲面を有する被着体(例えば、自動車車体)であることは好ましい形態である。被着体が曲面を有する被着体である場合、曲面性の高い部位にフィルム中の基材が追従延伸することが必要とされる。したがって、基材としては、曲面追従性の高いものであることが好ましく、具体的には、20℃における3%モジュラス強度(以下、単にモジュラス強度とも称する)が30N/25mm以下である基材であることが好ましく、3%モジュラス強度が25N/25mm以下であることがより好ましい。なお、3%モジュラス強度の下限は特に限定されないが、通常、5N/25mm以上である。また、曲面追従性が高いことから、基材の材料としては、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンであることが好ましく、ポリウレタンであることがより好ましい。」
3 甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【0004】そこで、本発明は、車両のデザインを損なうことなく、容易でかつコストを抑えることができる車両の塗膜保護方法を提供することを目的とする。また、本発明は、車両のデザインを損なうことなく、装着が容易で軽量、しかも耐久性を有する車両の塗膜保護材を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記した課題を解決するため、本発明者らは、粘着フィルムに着目して鋭意検討した結果、以下の発明を完成した。すなわち、塗装された車両表面に、透明粘着剤層を有する透明プラスチックフィルム(以下、単にフィルムという)を被着することを特徴とする車両の塗膜保護方法を創作した。また、車両表面に沿って被着可能なフィルム、透明性粘着剤層及び剥離シートの順に積層されてなることを特徴とする車両の塗膜保護材を創作した。
【0006】前記車両とは、自動車のみならず産業車両並びに産業機械を含むものとする。
【0007】前記透明粘着剤層は、前記フィルムを車両に感圧接着させるためのものであり、フィルムの片面に形成されている。かかる粘着剤としては、初期付着力が100~1000g/cmであり、老化後の付着力が700g/cm以上であることが好ましい。具体的には、天然ゴム、ウチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソブチレン、アクリル樹脂、ポリビニルエーテル、ポリイソブチルエーテル等の公知の樹脂が単独で、また主成分として使用でき、これらの樹脂のうち、アクリル系共重合樹脂が透明性、耐久性、耐候性の点で好ましい。さらに、上記樹脂に粘着剤付与剤としてロジン、ロジンエステル、クマロン樹脂、テルペン樹脂、炭化水素樹脂等が、また軟化剤として脂肪酸エステル、動植物油脂、ワックス、石油重質留分が上記樹脂との相溶性によて適宜必要に応じて併用される。これ以外に充填剤、老化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤等も配合することができる。
【0008】前記フィルムは、前記車両コーナー部に貼着して塗膜を保護する本体である。かかるフィルムの厚みは、貼着作業性、外観上の見栄え等により1~1000μmが適当であり、特に100~500μmが好ましい。またかかるフィルムの引っ張り強度としては、塗装表面を外部からの衝撃より保護するために7kg/cm/厚み300μm以上が好ましい。また、フィルムは、貼着作業性上、車両の3次曲面に追従でき、かつ外部からの力を緩和し塗装表面を保護できるようにより柔軟で復元性に富む材料とする。
【0009】具体的には、ポリウレタン、ポリイミド、ナイロン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、可塑化塩化ビニル樹脂等の透明のフィルムが使用できる。好ましくは、柔軟性、耐久性、透明性及び復元性に富んだポリウレタン樹脂を主成分とするフィルムである。
・・・
【0011】上記3層から構成された塗膜保護材は、通常使用時、すなわち、貼着時に剥離シートを粘着剤層から剥がして、車両の保護部位の端部からフィルムを合わせてゴムローラ又はスキージー等で順次圧着していく。なお、貼着時には、1%以下の界面活性剤を有した水を用いて水貼りすると塗装面と粘着剤層との間の空気を排除して、気泡の形成を防止して見栄えを向上させることができる。」
4 甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「【請求項2】
中間樹脂層(A)と、表裏面層としての感圧接着剤層(B)とを有する透明両面粘着シートであって、各層はいずれも、1種類以上の(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体をベース樹脂とする層であり、
温度範囲0℃~100℃の全温度領域において、周波数1Hzにおける、中間樹脂層(A)の貯蔵剪断弾性率(G’(A))が、感圧接着剤層(B)の貯蔵剪断弾性率(G’(B))より高く、且つ、シート全体の押込硬度(アスカーC2硬度)が10~80であって、
且つ、垂直に立設したSUS板に、貼着面積が15mm×20mmとなるように透明両面粘着シートの片面を貼着させ、60℃の雰囲気下で15分養生させた後、前記透明両面粘着シートに4.9Nの錘を垂直方向に掛けて60分間静置した後の粘着位置のズレ量が1mm以上15mm未満であることを特徴とする透明両面粘着シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパソコン、モバイル端末(PDA)、ゲーム機、テレビ(TV)、カーナビ、タッチパネル、ペンタブレットなど、LCD、PDP又はELなどの画像表示パネルを用いた平面型画像表示装置において、画像表示パネルや、保護パネル、タッチパネル等の画像表示装置構成部材を貼り合わせるのに好適に用いることができる透明両面粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、あらゆる分野において、部材を接着して一体化する為に粘着シートが広く用いられている。粘着シートによる接合は、液状の接着剤を塗布又は充填して乾燥する接合方法と比較して、簡便であるというメリットがあるものの、凹凸部などの形状をもった構造体に被着させる際に、作業性や段差への追随性の他、長期的な信頼性などの面において劣ることがあった。
・・・
【0013】
粘着シートによって2つの画像表示構成部材を貼着して一体化させる場合、例えば液晶パネルとタッチパネルや保護パネルとを貼着して一体化させる場合、粘着シートの表面は、ガラスなどの表面に比べて凹凸を有しており、このような凹凸を有する粘着シートが、そのままの状態で液晶パネルやタッチパネルに貼り合わされると、粘着シート表面の凹凸によって液晶パネルやタッチパネルの表面に圧迫痕やムラを生じ、これが外観不良の原因となることがあった。このような外観不良を改善するためには、粘着シートを被着体に貼り合わせた際に、粘着シート表面が被着体の表面状態に追随して平坦化するような柔軟性を有することが必要である。
【0014】
そこで、本発明の課題は、被着体へ貼合する際に、印刷部位による段差や凹凸への追随性に優れているばかりか、被着体の表面状態への追随性にも優れており、しかも裁断加工性等の作業性にも優れた、新たな透明両面粘着シートを提供することにある。」
「【0028】
(粘着界面のせん断ズレ量)
本粘着シートは、垂直に立設したSUS板に、貼着面積が15mm×20mmとなるように透明両面粘着シートの片面を貼着させ、60℃の雰囲気下で15分養生させた後、前記透明両面粘着シートに4.9Nの錘を垂直方向に掛けて60分間静置した後の、粘着位置のズレ量が1mm以上15mm未満であることが好ましい。
ズレ量が1mm以下のものは、凝集力が高く表面が硬質である傾向があり、前述した凹凸面への追随性が損なわれたり、容易に圧迫変形しうる被着体(例えば、液晶セルや抵抗膜方式タッチパネルなど)へ貼着した際、厚みムラ転写等の外観不良を起こしたりする虞があり好ましくない。他方、ズレ量が15mm以上のもの、若しくは1時間以内に落下するものは、保持力が弱く柔軟すぎる傾向があり、粘着シートを取り回す際のハンドリング性や裁断性のほか、粘着シートもしくは貼合後の部材保管時にクリープ変形を起こす虞があり、好ましくない。
これらの観点より、上記のズレ量は、より好ましくは1.5mm以上或いは10mm以下であり、中でも2mm以上或いは8mm以下であるのが好ましい。」
「【0077】
<実施例6>
ウレタンアクリレート(ダイセルサイテック社製EB270)1kgに対し、光重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンの2量体(チバ社製イルガキュア127)を20g添加して中間樹脂層用組成物を調製し、これを工程用剥離フィルム(三菱樹脂株式会社製「T-100」、厚み100μm)に、厚さ80μmとなるようアプリケータにて塗布し、高圧水銀ランプにて600mJの紫外線を照射して前記中間樹脂層用組成物を架橋させて、厚さ80μmの中間樹脂層(A-7)を作製した。
【0078】
次に、ブチルアクリレート(Tg-56℃)50質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(Tg-70℃)47質量部及びアクリル酸(Tg106℃)3質量部をランダム共重合してなるアクリル酸エステルポリマー(Mw=58万)1kgに対し、架橋剤としてノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学社製「V#260」)を20g、及び架橋開始剤として4-メチルベンゾフェノン5gを添加して、感圧接着剤層用粘着組成物を調製した。
次いで、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製「MRA75」、厚み75μm)に、前記感圧接着剤層用粘着組成物を厚さ35μmとなるようアプリケータにて塗工した後、この粘着面に、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製「E7006」、厚み38μm)を被覆した。このポリエチレンテレフタレートフィルム越しに、表裏両側から高圧水銀ランプにて1000mJの紫外線を照射して前記感圧接着剤層用粘着組成物を架橋させて厚さ35μmの感圧粘着剤層形成用積層(B-3)を作製した。
また、塗工基材を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂製「MRF50」厚み50μm)に変えた以外は、上記感圧粘着剤層(B-3)と同様に感圧粘着剤層(B-3’)を作製した。
【0079】
中間樹脂層(A-7)のPETフィルムを剥離除去するとともに、感圧粘着剤層形成用積層シート2及び2’における感圧粘着剤層(B-3)及び(B-3’)の一側のPETフィルムを剥がして、露出した粘着面を(A-7)の両表面にラミネータにて順次貼合し多層粘着シート(厚み150μm;B-3/A-7/B-3’=35/80/35)を作製した。
・・・
【0085】
[評価]
実施例4~7・比較例5~8で得られた透明両性粘着シートを次のように評価した。なお、貯蔵弾性率、押込硬度、加工性および信頼性については、実施例1~3・比較例1~4と同様の方法で評価した。
【0086】
(保持力)
透明両面粘着シートを50mm×100mmに裁断し、片面の剥離フィルムを剥がし、該透明両面粘着シートの該片面が、裏打用のPETフィルム(厚さ38μm)に重なるようにハンドローラで貼着し、これを巾15mm×長さ100mmの短冊状に裁断して試験片とした。
次に、残る剥離フィルムを剥がして、SUS板(120mm×50mm×厚さ1.2mm)に対して、試験片が20mmの長さだけ重なるようにしてハンドローラで貼着した。この時、透明両面粘着シートとSUS板の貼着面積は15mm×20mmとなる。
その後、試験片を60℃の雰囲気下で15分養生させた後、試験片に4.9Nの錘を垂直方向に取り付けて掛けて60分間静置し後、SUSと試験片との貼着位置が下方にズレた長さ(mm)、すなわちズレ量を測定した。
・・・
【0088】
【表2】
[図:0001416477000003.jpg]
」
「【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例において、ズレ量を測定するために用いた装置の概略図である。
・・・
【図1】
[図:0001416477000004.jpg]
」
5 甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
「【請求項1】
1種類以上の(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体をベース樹脂とし、シート全体の押込硬度(アスカーC2硬度)が10~80であって、かつ、
垂直に立設したSUS板に、貼着面積が15mm×20mmとなるように透明両面粘着シートの片面を貼着させ、60℃の雰囲気下で15分養生させた後、前記透明両面粘着シートに4.9Nの錘を垂直方向に掛けて60分間静置した後の、粘着位置のズレ量が1mm以上15mm未満であることを特徴とする透明両面粘着シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパソコン、モバイル端末(PDA)、ゲーム機、テレビ(TV)、カーナビ、タッチパネル、ペンタブレットなど、LCD、PDP又はELなどの画像表示パネルを用いた平面型画像表示装置において、画像表示パネルや、保護パネル、タッチパネル等の画像表示装置構成部材を貼り合わせるのに好適に用いることができる透明両面粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、あらゆる分野において、部材を接着して一体化する為に粘着シートが広く用いられている。粘着シートによる接合は、液状の接着剤を塗布又は充填して乾燥する接合方法と比較して、簡便であるというメリットがあるものの、凹凸部などの形状をもった構造体に被着させる際に、作業性や段差への追随性の他、長期的な信頼性などの面において劣ることがあった。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
粘着シートによって2つの画像表示構成部材を貼着して一体化させる場合、例えば液晶パネルとタッチパネルや保護シートとを貼着して一体化させる場合、粘着シートの表面は、ガラスなどの表面に比べて凹凸を有しており、このような凹凸を有する粘着シートが、そのままの状態で液晶パネルやタッチパネルに貼り合わされると、粘着シート表面の凹凸によって液晶パネルやタッチパネルの表面に圧迫痕やムラを生じ、これが外観不良の原因となることがあった。このような外観不良を改善するためには、粘着シートを被着体に貼り合わせた際に、粘着シート表面が被着体の表面状態に追随して平坦化するような柔軟性を有することが必要である。
【0014】
そこで、本発明の課題は、被着体へ貼合する際に、印刷部位による段差や凹凸への追随性に優れているばかりか、被着体の表面状態への追随性にも優れており、しかも裁断加工性等の作業性にも優れた、新たな透明両面粘着シートを提供することにある。」
「【0022】
(粘着界面のせん断ズレ量)
本粘着シートは、垂直に立設したSUS板に、貼着面積が15mm×20mmとなるように透明両面粘着シートの片面を貼着させ、60℃の雰囲気下で15分養生させた後、前記透明両面粘着シートに4.9Nの錘を垂直方向に掛けて60分間静置した後の、粘着位置のズレ量が1mm以上15mm未満であることが重要である。
ズレ量が1mm以下のものは、凝集力が高く表面が硬質である傾向があり、前述した凹凸面への追随性が損なわれたり、容易に圧迫変形しうる被着体(例えば、液晶セルや抵抗膜方式タッチパネルなど)へ貼着した際、厚みムラ転写等の外観不良を起こしたりするおそれがあるため、好ましくない。他方、ズレ量が15mm以上のもの、若しくは1時間以内に落下するものは、保持力が弱く柔軟すぎる傾向があり、粘着シートを取り回す際のハンドリング性や裁断性のほか、粘着シートもしくは貼合後の部材保管時にクリープ変形を起こすおそれがあるため、好ましくない。
これらの観点より、上記のズレ量は、より好ましくは1.5mm以上或いは10mm以下であり、中でも2mm以上或いは8mm以下であるのが好ましい。
【0023】
本粘着シートにおいて、粘着界面のせん断ズレ量を調整するには、単層構成における粘着組成物若しくは積層構成における表面接着層を形成する組成物の、被着体に対する接着力や凝集力を調整すればよい。
具体的には、せん断ズレ量を小さく抑えるには、例えば被着体と粘着界面を形成するベースポリマー中の極性成分を増やしたり、オリゴマーによって被着体への濡れ性や接着力を高めたりする他、ベースポリマーとなるアクリル酸エステル共重合体中の高凝集成分を増やしたり、接着性を損なわない程度にベースポリマーの架橋度を高めたりするなどして、凝集力を高めて変形しにくくすればよい。
逆にせん断ズレ量を大きくするには、例えばベースポリマーとなるアクリル酸エステル共重合体中の高凝集成分量を減らしたり、架橋度を下げて変形しやすくしたりする他、タッキファイヤー等を添加して所定の温度域で流動性を付与したりすればよい。」
「【0061】
<実施例3>
ウレタンアクリレート(ダイセルサイテック社製EB270)1kgに対し、光重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンの2量体(チバ社製イルガキュア127)を20g添加して中間樹脂層用組成物を調製し、これを工程用剥離フィルム(三菱樹脂株式会社製「T-100」、厚み100μm)に、厚さ80μmとなるようアプリケータにて塗布し、高圧水銀ランプにて600mJの紫外線を照射して前記中間樹脂層用組成物を架橋させて、厚さ80μmの中間樹脂層(A-3)を作製した。
【0062】
次に、ブチルアクリレート(Tg-56℃)50質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(Tg-70℃)47質量部及びアクリル酸(Tg106℃)3質量部をランダム共重合してなるアクリル酸エステルポリマー(Mw=58万)1kgに対し、架橋剤としてノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学社製「V#260」)を20g、及び架橋開始剤として4-メチルベンゾフェノン5gを添加して、感圧接着剤層用粘着組成物を調製した。
次いで、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製「MRA75」、厚み75μm)に、前記感圧接着剤層用粘着組成物を厚さ35μmとなるようアプリケータにて塗工した後、この粘着面に、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製「E7006」、厚み38μm)を被覆した。このポリエチレンテレフタレートフィルム越しに、表裏両側から高圧水銀ランプにて1000mJの紫外線を照射して前記感圧接着剤層用粘着組成物を架橋させて厚さ35μmの感圧粘着剤層形成用積層(B-2)を作製した。
また、塗工基材を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂製「MRF50」厚み50μm)に変えた以外は、上記感圧粘着剤層(B-2)と同様に感圧粘着剤層(B-2’)を作製した。
【0063】
中間樹脂層(A-3)のPETフィルムを剥離除去するとともに、感圧粘着剤層形成用積層シート2及び2’における感圧粘着剤層(B-2)及び(B-2’)の一側のPETフィルムを剥がして、露出した粘着面を(A-3)の両表面にラミネータにて順次貼合し多層粘着シート(厚み150μm;B-2/A-3/B-2’=35/80/35)を作製した。
・・・
【0074】
(保持力)
透明両面粘着シートを50mm×100mmに裁断し、片面の剥離フィルムを剥がし、該透明両面粘着シートの該片面が、裏打用のPETフィルム(厚さ38μm)に重なるようにハンドローラで貼着し、これを巾15mm×長さ100mmの短冊状に裁断して試験片とした。
次に、残る剥離フィルムを剥がして、SUS板(120mm×50mm×厚さ1.2mm)に対して、試験片が20mmの長さだけ重なるようにしてハンドローラで貼着した。この時、透明両面粘着シートとSUS板の貼着面積は15mm×20mmとなる。
その後、試験片を60℃の雰囲気下で15分養生させた後、試験片に4.9Nの錘を垂直方向に取り付けて掛けて60分間静置し後、SUSと試験片との貼着位置が下方にズレた長さ(mm)、すなわちズレ量を測定した。
・・・
【0076】
【表1】
[図:0001416477000005.jpg]
」
「【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例において、ズレ量を測定するために用いた装置の概略図である。
・・・
【図1】
[図:0001416477000006.jpg]
」
6 甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
「【請求項1】 フィルム基材の片面に、粘着付与剤の存在下に乳化重合させて得られ、ゲル分率が50%以上であり、平均粒子径が300nm以下のアクリル系エマルジョン型粘着剤を用いて粘着剤層を設けてなる粘着シートであって、(a)粘着剤層の厚さ20μm、シート形状25mm×25mm、試験板SUS380及び40℃の乾燥条件下で、荷重9.8Nで測定した70000秒後のシートのズレ量が300μm以下である保持力を有し、かつ(b)60℃の温水中に24時間浸漬した後のシートのヘイズ値が7.00以下である耐水白化性を有することを特徴とする粘着シート。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は粘着シートに関し、さらに詳しくは、フィルム基材の片面にアクリル系エマルジョン型粘着剤を用いて形成された粘着剤層を有し、環境にやさしく、かつ極性の低いポリオレフィンなどの被着体に対しても良好な接着性能を有すると共に、耐粘着剤はみ出し性(保持力)及び耐水性に優れる粘着シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、粘着シートは、通常の接着剤のように実用的な接着力を得る為高い圧力又はエネルギーを必要とせず、指圧程度の圧力で貼合わせると直ちに実用に耐える接着力を発揮する(感圧性タック)という使用上の簡便さや、使用に当たり良好な作業性などを有することから、多くの分野において用いられている。
【0003】この粘着シートの用途としては、例えば包装・結束用、事務・家庭用、接合用、塗装マスキング用、表面保護用、防食・防水用、シーリング用、電気絶縁用、電子機器・光学部品用、医療・衛生材用、識別・装飾用、ラベル用などを挙げることができる。この粘着シートは、一般に基材シートと、その表面に形成された粘着剤層と、必要に応じて粘着剤層上に設けられる剥離シートから構成されており、使用に際しては、剥離シートが設けられている場合には、該剥離シートを剥がし、粘着剤層を被着体に当接させて貼付することが行われている。
【0004】前記粘着剤層を構成する粘着剤としては例えばアクリル系、ウレタン系、ゴム系、シリコーン系などがあるが、これらの中で、粘着力、保持力、耐候性、耐熱性などの性能の点から、アクリル系粘着剤が多用されている。このアクリル系粘着剤としては、従来溶剤型のものが主として用いられてきたが、近年、塗工時における有機溶剤の揮発が環境衛生や安全面で問題となっていた。
【0005】これに対し、エマルジョン型のものは、環境、衛生、安全面については特に問題がなく、また高濃度化による高速塗工及び脱溶剤による低コスト化が可能であることから、最近では、溶剤型に代えて、エマルジョン型のものが使用されるようになってきた。ところで、前記アクリル系エマルジョン型粘着剤においては、ポリオレフィンなどの極性の低い被着体に対しては、該被着体への接着性を向上させるために凝集力を犠牲にし、被着体への濡れ性を高めた粘着剤が多く使われている。このような凝集力の低いアクリル系粘着剤は、スリット後や抜き加工後などにおいて粘着剤のはみ出しが生じやすく、特に夏場などでは、その傾向が強い。また、ポリオレフィンなどに対して接着性能を向上させるには、粘着付与剤が通常添加される。しかしながら、この場合、乳化された粘着付与剤がアクリル系樹脂乳化液中にブレンドされるため、乳化剤が多く存在するようになり、その結果アクリル系粘着剤の耐水性が低下するのを免れないという問題が生じていた。
・・・
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記の好ましい性質を有する粘着シートを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、アクリル系エマルジョン型粘着剤として、ある値以上のゲル分率及びある値以下の平均粒子径を有する粘着剤を用いて得られ、かつ特定の保持力及び耐水白化性を有する粘着シートが、その目的に適合し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。」
「【0017】本発明の粘着シートにおいては、粘着剤層の厚さ20μm、シート形状25mm×25mm、試験板SUS380及び40℃の乾燥条件下で、荷重9.8Nで測定した70000秒後のシートのズレ量が300μm以下である保持力を有している。このシートのズレ量が300μmを超えると保持力が不充分となり、所望の耐粘着剤はみ出し性が得られず、例えばスリット後や抜き加工後の粘着剤のはみ出しが生じる原因となる。70000秒後の好ましいシートのズレ量は200μm以下であり、特に150μm以下が好適である。なお、前記保持力の測定方法を以下に示す。」
「【0043】
【実施例】次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、各例で得られた粘着シートの諸特性は、以下に示す要領に従って求めた。
・・・
【0046】(3)保持力
試料のエマルジョンを剥離紙上に乾燥後厚さ20μmになるように塗布し、90℃で1分間乾燥させた後、50μmの金属蒸着されたPETフィルムに貼り合わせ粘着シートを作製する。該粘着シートを、ステンレス板(SUS380)の試験板に張り付け面積が25mm×25mmになるように貼付し、40℃乾燥の条件下で9.8Nの荷重をかけて、JIS Z 0237の保持力の測定法に準じて、70000秒後のフィルムのズレ量を測定する。
・・・
【0048】実施例1
(1)乳化重合
イオン交換水125重量部、アニオン性の反応性乳化剤「ラテムルS-180A」(花王(株)社製)3重量部、第二リン酸ナトリウム0.3重量部、過硫酸アンモニウム0.5重量部、アクリル酸2-エチルヘキシル42重量部、アクリル酸n-ブチル53重量部、アクリル酸3重量部、ジアセトンアクリルアミド2重量部及び粘着付与剤「ベンセルD-125」(荒川化学社製、重合ロジンエステル系)18重量部からなる混合液を、高圧ホモジナイザーにより乳化処理して、平均粒子径250nmの乳化液を調製した。次いで、この乳化液を80℃で8時間加熱して乳化重合を行い、アクリル系樹脂エマルジョンを得た。
【0049】(2)粘着剤の調製
上記(1)で得たアクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し、外部架橋剤であるアジピン酸ヒドラジド0.45重量部を添加し、アクリル系エマルジョン型粘着剤を調製した。このアクリル系エマルジョン型粘着剤のゲル分率は62%であり、平均粒子径は200nmであった。
【0050】(3)粘着シートの作製
上記(2)で調製したアクリル系エマルジョン型粘着剤を、剥離シート「SP-8LK2」(リンテック社製)上に乾燥後の厚さが20μmになるように塗布し、90℃で1分間乾燥させたのち、厚さ50μmのPETフィルムに貼り合わせて、粘着シートを作製した。この粘着シートについて、粘着力、耐粘着剤はみ出し性、保持力及び耐水白化性を求めた。これらの結果を第1表に示す。
・・・
【0060】
【表1】
[図:0001416477000007.jpg]
」
7 甲7の記載
甲7には、次の記載がある。
「【請求項1】偏光板と粘着剤層Aと光学補償フィルム及び粘着剤層Bを含む光学補償フィルム付き偏光板であって、前記粘着剤層Aをステンレス(SUS304)板の鏡面仕上げ面に、縦10mm、横10mmの面積を貼り付け、50℃の雰囲気下で200gの荷重を掛け、1時間後の粘着剤層Aのクリープ量が70μm以上であることを特徴とする光学補償フィルム付き偏光板。
【請求項2】請求項1に記載の測定方法にしたがった測定において、粘着剤層Bのクリープ量が70μm未満である請求項1に記載の光学補償フィルム付き偏光板。」
「【0010】本発明の光学補償フィルム付き偏光板によれば、粘着剤層Aのクリープ量を70μm以上とすることにより、バックライト等から発生する熱によって発生する偏光板及び光学補償フィルムの寸法変化の差によって発生する応力を緩和できる。
【0011】また、50℃の雰囲気下における粘着剤層Bのクリープ量を70μm未満とすることにより、偏光板の寸法変化によって発生する応力で光学補償フィルムが変形して位相差が発生することを防止でき、LCDパネルの表示ムラを改善できる。」
「【0012】
【発明の実施の形態】以下図面を用いて説明する。図1は本発明の光学補償フィルム付き偏光板の一実施形態である。図1に示すように、本発明による偏光板の基本的な構成は、偏光板1と、粘着剤層A2と、光学補償フィルム3及び粘着剤層B4を液晶パネル5に接着させる、及び/または液晶パネル5の他方の面にも、偏光板11と、粘着剤層A12と、光学補償フィルム13及び粘着剤層B14を液晶パネル5に接着させる。粘着剤層A2,12は例えばアクリル系粘着剤を厚さ10μm~40μmの範囲で塗布したものである。粘着剤層B4,14は例えばアクリル系粘着剤を厚さ10μm~40μmの範囲で塗布したものである。光学補償フィルム3,13は、例えば富士写真フィルム社製WV A02B等がある。」
「【0046】
【実施例】以下実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【0047】(クリープ量の測定法)図2(A)~(B)に示すとおり、ステンレス(SUS304)板20の鏡面仕上げ面に、本発明の基材22の粘着剤層21を向けて貼り付けた。貼り付け面積は、縦aが10mm、横bが10mmとした。初期接着圧力は5kg/cm2とした。その後、接着圧力を除き、50℃の雰囲気下で200gの荷重Wを掛け、1時間後の粘着剤層Aのクリープ量を測定した。
【0048】(液晶パネルの評価方法)下記の実施例及び比較例で得られたLCDパネルを点灯して全面を黒表示とし、1時間放置後に表示ムラの有無を5段階で目視で観察した。数字が大きいほどムラの少ないことを示す。評価は5人で実施し、最高点と最低点を除いた平均で評価した。
【0049】(実施例1)厚さ80μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素とヨウ化カリウム配合の染色浴(30℃)に浸漬して染色処理と5倍の延伸処理をした後、乾燥した。次に、前記ヨウ素染色後のポリビニルアルコールフィルムの両側に、保護フィルムとして厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムを接着剤で接着し、偏光板を得た。
【0050】光学補償フィルムとしては、富士写真フィルム社製"WV A02B"を用いた。これは、トリアセチルセルロースフィルムと液晶を配向させた層からなるフィルムである。
【0051】これらを所定の軸角度、サイズに切断し、図1に示すようにTFT-LCDセルの両面に粘着剤A,Bを介して貼り合わせた。
【0052】粘着剤Aはアクリル酸イソオクチル100重量部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.1重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.5重量部をモノマー濃度50重量%となるように酢酸エチルに溶解し、60℃で8時間重合したポリマー溶液の固形分100重量部に対して0.2重量部のイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン工業株式会社製)を加えて粘着剤シロップとし、乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布した。50℃におけるクリープ量は90μmであった。
【0053】粘着剤Bは、アクリル酸ブチル100重量部、アクリル酸5重量部、過酸化ベンゾイル0.5重量部をモノマー濃度50重量%となるように酢酸エチルに溶解し、60℃で8時間重合したポリマー溶液の固形分100重量部に対して1重量部のイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン工業株式会社製)を加えて粘着剤シロップとし、乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布した。50℃におけるクリープ量は60μmであった。
【0054】得られた液晶パネルの評価結果は、後の表1に示す。
【0055】(実施例2)粘着剤A,Bともに50℃におけるクリープ量が90μmのアクリル系粘着剤(実施例1で用いた粘着剤A)を用いたほかは実施例1に準じた。
・・・
【0059】
【表1】
[図:0001416477000008.jpg]
【0060】表1から明らかなとおり、粘着剤Aの50℃におけるクリープ量が70μm以上のときに評価結果が3.6以上となり、表示ムラが少なくなることが確認できた。さらに粘着剤Aの50℃におけるクリープ量が70μm以上、かつ粘着剤Bの50℃におけるクリープ量が70μm未満である場合は、評価結果が4.7以上、表示ムラがさらに少なくなることが確認できた。」
「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光学補償フィルム付き偏光板の一実施形態の概略断面図。
【図2】(A)~(B)は本発明のクリープ量の測定法を示す説明図。
【符号の説明】
1,11 偏光板
2,12 粘着剤層A
3,13 光学補償フィルム
4,14 粘着剤層B
5 液晶パネル
20 ステンレス(SUS304)
21 粘着剤層
22 本発明の基材
【図1】
[図:0001416477000009.jpg]
【図2】
[図:0001416477000010.jpg]
[図:0001416477000011.jpg]
」
8 甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
(1)「
[図:0001416477000012.jpg]
」(第669頁)
(2)「
[図:0001416477000013.jpg]
」(第670頁)
9 甲9の記載
甲9には、次の記載がある。
「
[図:0001416477000014.jpg]
[図:0001416477000015.jpg]
」(第17頁)
第6 当審の判断
1 前記第4、3の取消理由通知に記載した取消理由1(サポート要件違反)について
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0006】の記載から、「粘着フィルムを曲面形状を有する被着体に水貼りした場合にも粘着剤の露出を抑制できる粘着フィルムを提供すること」であると認められる。
そして、本件明細書の段落【0013】には、「自動車車体などの曲面形状を有する被着体に粘着フィルムを貼付する際には、曲面形状に粘着フィルムが沿うように粘着フィルムを延伸しながら水貼りする。したがってポリウレタン系基材には延伸方向に力が働くが、フィルムが貼り付けられ、フィルムを延伸する力が取り除かれると、ポリウレタン系基材が延伸方向と逆方向に戻ろうとする力が粘着剤層に働く。この際、粘着剤層は水貼りの際に付与される水を含んでいる状態であるが、このような状態で粘着剤層が保持力を維持していないと、上記ポリウレタン系基材から働く力に耐えられず、粘着フィルムの端部で基材の端から粘着剤層が露出してしまう。これに対し、粘着フィルムの温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけて測定したずれ量が10mm以下である場合、水を含んだ状態であっても粘着剤層が保持力を維持できることで、粘着フィルム端部においても、粘着剤層がせん断方向に凝集破壊することがなく、ゆえに、外観不良を抑制することができる。」と記載されており、粘着剤層が、水を含んだ状態でも所定の保持力を維持できることによって、上記発明の課題を解決できることが読み取れる。
また、本件明細書の段落【0082】~【0089】、【0092】、表1には、実施例1~4として、温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけて24時間放置し、24時間放置する前後に測定した粘着フィルムのずれ量(被着体:SUS板、貼付面積:25mm×25mm)が10mm以下のものが記載されており、それらのものは、水貼りを行ったときの外観が「〇」、「◎」であることが記載されており、このような特定の条件で測定されたずれ量が、10mm以下の粘着フィルムは、水を含んだ状態でも所定の保持力が維持できることが示されている。
そして、本件発明1は、本件訂正により、「ずれ量」の測定が、「24時間放置する前後に」行われることが限定され、保持力に関する発明特定事項として、「温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら24時間放置し、24時間放置する前後に測定したずれ量(被着体:SUS板、貼付面積:25mm×25mm)が10mm以下」という発明特定事項を含むこととなった。
そうすると、本件発明1は、実施例で裏付けられた、特定の測定条件で測定した粘着フィルムのずれ量が10mm以下という発明特定事項を全て含んでいるから、本件発明1は、上記課題を解決できることが当業者であれば読み取れる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
また、本件発明1を引用する本件発明3~5についても同様である。
2 前記第4、3の取消理由通知に記載した取消理由2(明確性要件違反)について
本件発明1には、本件訂正により、「ずれ量」が、24時間放置する前後の粘着フィルムのずれ量であることが特定されたから、本件発明1の「ずれ量」は明確である。
よって、本件発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明3~5についても同様のことがいえる。
3 取消理由通知に採用しなかった申立理由1、2(新規性欠如、進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の段落【0111】~【0113】、表1に記載された、例1の粘着シートに着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
(甲1発明)
「2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)50部、エチルアクリレート(EA)50部、メチルメタクリレート(MMA)5部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)5部およびトルエンを入れ、重合開始剤としてのジベンゾイルパーオキサイド(BPO)(日本油脂製、商品名「ナイパーBW」)0.2部を投入し、重合反応を行って調製した重量平均分子量(Mw)が65×104であるアクリル系ポリマーのトルエン溶液(A)(固形分50%)に、当該アクリル系ポリマー100部に対して3部のイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」)と、架橋促進剤としてのジオクチルスズジラウレート(東京ファインケミカル製、商品名「エンビライザーOL-1」)0.1部と、最終的な固形分が20%となる分量のトルエンとを加えて得られた粘着剤組成物を、ランダムポリプロピレンからなる厚さ50μmのフィルム(基材)の一方の表面にコロナ処理を施し、そのコロナ処理面に上記粘着剤組成物を直接塗付し、80℃で3分間加熱して乾燥させて、厚さ10μmの粘着剤層を形成した粘着シート。」
(2)対比
甲1発明と本件発明1を対比する。
甲1発明の「ランダムポリプロピレンからなる厚さ50μmのフィルム(基材)」、「粘着剤組成物」、「粘着剤層」、「粘着シート」はそれぞれ、本件発明1の「基材」、「粘着剤組成物」、「粘着剤層」、「粘着フィルム」に相当する。
また、甲1発明の「2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)」、「エチルアクリレート(EA)」及び「メチルメタクリレート(MMA)」は、本件発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」に相当する。
さらに、甲1発明の「2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)」、「エチルアクリレート(EA)」、「メチルメタクリレート(MMA)」及び「2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)」を重合反応させて調製した「アクリル系ポリマー」は、本件発明1の「アクリル系共重合体」に相当する。
そして、甲1の段落【0040】には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような水酸基含有モノマー等の副モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系モノマーの凝集力を高めるために役立ち得る旨記載されているから、甲1発明の「2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)」は、本件発明1の「架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー」に相当する。
また、甲1発明の「イソシアネート系架橋剤」は、本件発明1の「架橋剤」に相当する。
さらに、甲1の段落【0077】には、粘着シートの貼付けは、水貼り方式によって好ましく行うことができる旨記載されており、同段落【0102】には、甲1発明を、水貼り方式で貼付けを行って評価することも記載されているから、甲1発明の粘着シートは、「水貼りで被着体に貼付する用途である」と認められる。
そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「基材と、粘着剤組成物から形成されてなる粘着剤層と、を有する粘着フィルムであって、
前記粘着剤組成物がアクリル系共重合体および架橋剤を含み、
前記アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび前記架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマーを含むモノマー混合物を共重合して得られ、
水貼りで被着体に貼付する用途である、粘着フィルム。」
(相違点1)
本件発明1の基材は、ポリウレタン系基材であるのに対して、甲1発明の基材は、ランダムポリプロピレンからなる基材である点。
(相違点2)
本件発明1は、温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら24時間放置し、24時間放置する前後に測定したずれ量(被着体:SUS板、貼付面積:25mm×25mm)が10mm以下であるのに対して、甲1発明ではそのような特定がされていない点。
(3)相違点の検討
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
甲1の段落【0127】には、「表1に示されるように、30分後剥離強度(S1)が0.10N/20mm未満であり、かつ48時間後剥離強度(S2)が0.05N/20mm以上である例1~19の粘着シートは、水貼り方式により上記フロントウィンドウガラスに貼り付けられた場合において、実用上問題のない貼付け性および浮き防止性を示した。」と記載され、同段落【0078】には、貼付け過程における保護シートの位置ずれ防止性(すなわち、保護シートの位置決め性)等の観点からは、S1が0.005N/20mm以上(例えば0.01N/20mm以上)の保護シートが有利である。」と記載されており、表1には、例1の粘着シート(甲1発明)のS1は、0.08N/20mmであり、S2は、3.21N/20mmであることが記載されている。
しかしながら、甲1に記載された「剥離強度」は、粘着力に係る物性値である一方、本件発明1の「ずれ量」は、保持力に係る物性値であり、それぞれ異なる物性を評価するものであることは技術常識であるところ、甲1発明が、粘着力と関連する剥離強度S1、S2が特定の数値範囲にあり、粘着力が所定の範囲内であることによる、貼付け性、浮き防止性、位置ずれ防止性が良好であることをもって、粘着剤層の保持力に関連する、甲1発明の粘着剤層のずれ量が、本件発明1のずれ量を満たすということはできない。
よって、上記相違点2は、実質的な相違点といえる。
ここで、甲4の請求項1、甲5の請求項1には、接着剤層が、1種類以上の(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体をベース樹脂とし、垂直に立設したSUS板に、貼着面積が15mm×20mmとなるように透明両面粘着シートの片面を貼着させ、60℃の雰囲気下で15分養生させた後、前記透明両面粘着シートに4.9Nの錘を垂直方向に掛けて60分間静置した後の、粘着位置のズレ量が1mm以上15mm未満である透明両面粘着シートが記載されており、甲4の段落【0028】、甲5の段落【0022】には、ズレ量が15mm以上のもの、若しくは1時間以内に落下するものは、保持力が弱く柔軟すぎる傾向があり、粘着シートを取り回す際のハンドリング性や裁断性のほか、粘着シートもしくは貼合後の部材保管時にクリープ変形を起こすおそれがあるため、好ましくないことが記載されている。
しかしながら、甲1発明において、粘着シートを取り回す際のハンドリング性や裁断性、粘着シートもしくは貼合後の部材の保管時のクリープ変形の防止の観点から、上記甲4、5に記載されたズレ量を採用したとしても、本件発明1のずれ量の測定は、SUS板に、貼付面積が25mm×25mmとなるように貼り付けた粘着フィルムに1kgの荷重をかけながら40℃、相対湿度80%RHで24時間放置し、24時間放置する前後の粘着フィルムのずれ量を測定したものであるのに対し、甲4、5に記載された粘着シートのズレ量の測定は、SUS板に、貼着面積が15mm×20mmとなるように両面粘着シートの片面を貼着させ、前記透明両面粘着シートに4.9N(0.5kg)の錘を垂直方向に掛けて60分間静置した後のシートのズレ量を測定したものであり、両者は、特に測定時の貼付面積、荷重、測定時間が異なり、さらに、湿度条件が比較できない。
そうすると、甲4、5に記載されたズレ量と、本件発明1のずれ量との対応関係が明らかでなく、甲1発明の粘着剤層のズレ量を、甲4、5に記載された数値範囲としたとしても、本件発明1のズレ量を充足するとまでは読み取れない。
また、甲6の段落【0001】には、フィルム基材の片面にアクリル系エマルジョン型粘着剤を用いて形成された粘着剤層を有する、耐粘着剤はみ出し性(保持力)等に優れる粘着シートが記載されており、同段落【0017】には、そのようなものとして、粘着剤層の厚さ20μm、シート形状25mm×25mm、試験板SUS380及び40℃の乾燥条件下で、荷重9.8Nで測定した70000秒後(19.4時間)のシートのズレ量が300μm以下である保持力を有している粘着シートが記載されており、このシートのズレ量が300μmを超えると保持力が不充分となり、所望の耐粘着剤はみ出し性が得られず、例えばスリット後や抜き加工後の粘着剤のはみ出しが生じる原因となると記載されている。
そして、同段落【0004】~【0005】には、アクリル系粘着剤としては、従来溶剤型のものが主として用いられてきたが、近年、塗工時における有機溶剤の揮発が環境衛生や安全面で問題となっており、それに代えてエマルジョン型のものが使用されるようになってきたが、ポリオレフィンなどの極性の低い被着体に対しては、該被着体への接着性を向上させるために凝集力を犠牲にし、被着体への濡れ性を高めた粘着剤が多く使われており、このような凝集力の低いアクリル系粘着剤は、スリット後や抜き加工後などにおいて粘着剤のはみ出しが生じやすいという課題がある旨記載されている。
しかしながら、甲1発明は、エマルジョン型のものではなく、溶剤型のものであるから、ズレ量を、上記特定の数値範囲とする動機付けはない。また、甲1発明は、水貼りで被着体に貼付する粘着シートであるところ、甲6には、水張りで被着体に貼付することについての記載も示唆もないから、甲1発明の粘着層剤を、甲6に記載された粘着剤層に置き換える動機付けもない。
仮に、甲1発明の粘着剤層のズレ量を、上記特定の数値範囲することができたとしたとしても、本件発明1のずれ量の測定は、SUS板に貼り付けた粘着フィルムに1kgの荷重をかけながら40℃、相対湿度80%RHで24時間放置し、24時間放置する前後の粘着フィルムのずれ量を測定したものであるのに対し、甲6に記載された粘着シートのズレ量の測定は、SUS版に貼り付けた粘着シートを、40℃の乾燥条件下で、荷重9.8N(1kg)で測定した70000秒後(19.4時間)のシートのズレ量を測定したものであり、両者は、特に測定時の湿度と測定時間が異なる。
そうすると、甲6に記載されたズレ量と、本件発明1のずれ量との対応関係が明らかでなく、甲1発明の粘着剤層のずれ量を、甲6に記載されたずれ量の数値範囲としたとしても、本件発明1のずれ量を充足するとまでは読み取れない。
さらに、甲7の請求項1を引用する請求項2には、偏光板と粘着剤層Aと光学補償フィルム及び粘着剤層Bを含む光学補償フィルム付き偏光板であって、前記粘着剤層Aをステンレス(SUS304)板の鏡面仕上げ面に、縦10mm、横10mmの面積を貼り付け、50℃の雰囲気下で200gの荷重を掛け、1時間後の粘着剤層Aのクリープ量が70μm以上であり、前記測定法と同様の測定法よる粘着剤層Bのクリープ量が70μm未満である光学補償フィルム付き偏光板が記載されており、同段落【0049】~【0055】、表1には、その具体例として、粘着剤層Aのクリープ量を90μmとし、粘着剤層Bのクリープ量を60μmとしたものが記載されている。
また、同段落【0010】には、「本発明の光学補償フィルム付き偏光板によれば、粘着剤層Aのクリープ量を70μm以上とすることにより、バックライト等から発生する熱によって発生する偏光板及び光学補償フィルムの寸法変化の差によって発生する応力を緩和できる。」と記載され、同段落【0011】には、「50℃の雰囲気下における粘着剤層Bのクリープ量を70μm未満とすることにより、偏光板の寸法変化によって発生する応力で光学補償フィルムが変形して位相差が発生することを防止でき、LCDパネルの表示ムラを改善できる。」と記載されている。
しかしながら、甲1発明は、水貼りで被着体に貼付するという点で、甲7に記載されたものとは使用する態様が異なり、その用途も、光学補償フィルム付き偏光板の用途のものではないから、甲1発明は、甲7に記載された粘着剤層の課題、すなわち、バックライト等から発生する熱によって発生する偏光板及び光学補償フィルムの寸法変化の差によって発生する応力を緩和するという課題や偏光板の寸法変化によって発生する応力で光学補償フィルムが変形して位相差が発生することを防止し、LCDパネルの表示ムラを改善するという課題を有しておらず、甲1発明の粘着剤層において、甲7に記載されたクリープ量を採用する動機付けがない。
仮に、甲1発明の粘着剤層のクリープ量を、甲7に記載された範囲にすることができたとしたとしても、本件発明1のずれ量の測定は、SUS板に、貼付面積が25mm×25mmとなるように貼り付けた粘着フィルムに1kgの荷重をかけながら40℃、相対湿度80%RHで24時間放置し、24時間放置する前後の粘着フィルムのずれ量を測定したものであるのに対し、甲7に記載された粘着剤層のクリープ量の測定は、SUS版に貼り付けた粘着剤層を、縦10mm、横10mmの面積を貼り付け、50℃の雰囲気下で200gの荷重を掛け、1時間後のクリープ量を測定したものであり、両者は、特に測定時の貼付面積、測定時間、荷重が異なり、さらに、湿度条件が比較できない。
そうすると、甲7に記載された粘着剤層のクリープ量と、本件発明1のずれ量との対応関係が明らかでないから、甲1発明の粘着剤層のクリープ量を、甲7に記載された範囲にすることができたとしたとしても、本件発明1のずれ量を充足するとまでは読み取れない。
また、甲8には、粘着テープの保持力の測定方法や、凝集力は長期間加重の掛かる用途では極めて重要な特性であることが記載されており(上記第5の摘記8(1)、(2)を参照)、甲9には、保持力は、粘着テープの代表的な特性であること、その測定方法、長期間にわたるクリープ現象を解析することが重要であることが記載されているが(上記第5の摘記9を参照)、粘着フィルムにおいて、温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら、24時間放置し、24時間放置する前後に測定した粘着フィルムのずれ量(被着体:SUS板、貼付面積:25mm×25mm)を10mm以下とすることについては記載も示唆もされていない。
さらに、甲2の段落【0007】~【0009】、【0023】、甲3の段落【0004】~【0011】には、水貼り等により被着体に貼り付けを行う粘着フィルムの基材として、ポリウレタンを用いることについて記載されているが、粘着フィルムにおいて、温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけながら、24時間放置して、24時間放置する前後に測定した粘着フィルムのずれ量(被着体:SUS板、貼付面積:25mm×25mm)を10mm以下とすることについては記載も示唆もされていない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、甲1発明及び甲2~9に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(4)本件発明3~5について
本件発明3~5は、本件発明1を引用するものであるから、上記(1)~(3)で検討したのと同様の理由により、甲1発明及び甲2~9に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
(5)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第21~23頁、第25~26頁において、以下のとおり主張する。
(主張1)上記相違点2は、実質的な相違点ではない。
(主張2)上記相違点2が、実質的な相違点であったとしても、甲1発明の粘着剤層において、甲4~7に記載されたずれ量を採用して、温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけて測定したずれ量(被着体:SUS板、貼付面積:25mm×25mm)を10mm以下とすることは当業者にとって容易に想到できたことである。
また、申立人は、令和6年6月26日提出の意見書において、以下のとおり主張する。
(主張3)新規性欠如、進歩性欠如が、取消理由通知の取消理由として採用されていないのは、本件発明が上記相違点2(10mm以下のずれ量)に係る構成を採用することによって、当業者の予測し得ない効果を奏するものであると推察するが、本件明細書の表1に記載された「ずれ量」が小さければ、大きいものに比べ、「外観」や「定荷重試験」が好ましい結果となることは当然である。そして、本件明細書のずれ量は、実施例及び比較例により、操作条件であるエポキシ系架橋剤量により、試験結果である「外観」や「定荷重試験」、そして、「ずれ量」に違いが生ずることを示すものであるから、エポキシ系架橋剤の種類及びエポキシ系架橋剤が特定されていない本件訂正発明は、依然として新規性及び進歩性が認めることができないものである。
また、エポキシ系架橋剤が増加すれば、「ずれ量」が小さくなることは当業者が容易に予想し得ることであるから、仮に、エポキシ系架橋剤の種類を特定し、配合量を限定したとしても、依然として進歩性を認めることができないものである。
以下、上記主張1~3について検討する。
ア 主張1について
上記(3)で検討したように、甲1発明は、所定の剥離強度S1、S2を有するものであるが、「剥離強度」は、粘着力に係る物性値である一方、本件発明1の「ずれ量」は、保持力に係る物性値であり、それぞれ異なる物性を評価するものであるから、両者の相関が明らかでなく、甲1発明が、特定の剥離強度を有することで、貼付け性、浮き防止性、位置ずれ防止性が良好であるとしても、甲1発明の粘着剤層のずれ量が、本件発明1のずれ量を充足するとは認められない。
また、申立人は、甲1発明が、特定の測定条件で測定した「ずれ量」が10mm以下であることを示す実験データ等の具体的な証拠も示していない。
よって、上記相違点2は、実質的な相違点であり、上記申立人の主張1は採用できない。
イ 主張2について
上記(3)で検討したように、甲4~甲7に記載された粘着剤層のずれ量と、本件発明1のずれ量とは、その測定方法が異なるから、両者の相関が明らかでなく、甲4~7のずれ量が、本件発明1のずれ量を充足するとは読み取れない。
また、甲6、甲7に記載されたものについては、その粘着剤層のずれ量を、甲1発明の粘着剤層に適用する動機もない。
よって、上記申立人の主張2は採用できない。
ウ 主張3について
上記(3)並びに上記ア及びイでも述べたとおり、相違点2は実質的な相違点であるとともに、甲1発明の粘着剤層の「ずれ量」を10mm以下とする動機付けはないから、申立人により提出された証拠からは、甲1発明の粘着剤層の特定の測定条件における「ずれ量」を「10mm以下」とする構成が導けない。
また、エポキシ系架橋剤を所定量添加したものに限らず、架橋剤の種類やその添加量を適宜調整することによって、特定の測定条件における「ずれ量」を「10mm以下」としたものは、本件明細書の表1以外の架橋剤や添加量であっても、被着体に水貼りした場合にも粘着剤の露出を抑制できるという従来知られていなかった効果を奏することができると認められるし、エポキシ系架橋剤以外のものを用いた場合に、発明の効果が得られないことについて、十分な証拠も提出されていない。
よって、上記申立人の主張3は採用できない。
4 取消理由通知に採用しなかった申立理由3(実施可能要件違反)及び申立理由4(サポート要件)について
(1)実施可能要件違反について
本件発明は、上記第3の1に記載のとおりの「粘着フィルム」であるから、本件発明は物の発明であり、本件発明が実施可能であるというためには、本件明細書の記載及び本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件発明に係る「粘着フィルム」を作ることができ、かつ、当該「粘着フィルム」を使用できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。
(2)「粘着フィルム」を作ることができるかについて
本件明細書の【0082】~【0089】、【0092】、表1には、実施例1~4として、本件発明1、3~5の発明特定事項を充足する粘着フィルムの具体例が記載されており、粘着剤組成物を構成する成分とその製造方法、当該粘着剤組成物を用いて、ポリウレタン系基材へ粘着剤層の形成する方法、ずれ量の測定方法が具体的に記載されている。
また、同段落【0020】には、本件発明で特定される「ずれ量」は、粘着剤組成物における架橋剤と、アクリル系共重合体の架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー由来の構成単位との含有比で調整することができることが記載され、本件明細書の段落【0021】には、その好ましい質量比についても具体的に記載されている。
さらに、同段落【0059】には、ずれ量の制御の点から、好ましいアクリル系共重合体に対する架橋剤の添加量について具体的に記載されている。
そうすると、当業者であれば、実施例の記載や上記本件明細書の記載を参考に、本件発明の「ずれ量」をはじめ、本件発明の発明特定事項を充足する粘着フィルムを実際に作ることができるというべきである。
(3)「粘着フィルム」を使用できるかについて
本件明細書の段落【0069】には、粘着フィルムの粘着剤層面および被着体の粘着フィルム接触面の少なくとも一方に水系媒体を付与し(工程1)、粘着剤層面を被着体上に接触させ(工程2)、工程2の後に必要に応じて水系媒体を除去する(工程3)粘着フィルムの貼付方法が記載されており、同段落【0070】~【0077】には、上記工程1~3を実施する際の具体的な説明が記載されている。
また、同段落【0013】には、「自動車車体などの曲面形状を有する被着体に粘着フィルムを貼付する際には、曲面形状に粘着フィルムが沿うように粘着フィルムを延伸しながら水貼りする。したがってポリウレタン系基材には延伸方向に力が働くが、フィルムが貼り付けられ、フィルムを延伸する力が取り除かれると、ポリウレタン系基材が延伸方向と逆方向に戻ろうとする力が粘着剤層に働く。この際、粘着剤層は水貼りの際に付与される水を含んでいる状態であるが、このような状態で粘着剤層が保持力を維持していないと、上記ポリウレタン系基材から働く力に耐えられず、粘着フィルムの端部で基材の端から粘着剤層が露出してしまう。これに対し、粘着フィルムの温度40℃、相対湿度80%RH環境下で1kgの荷重をかけて測定したずれ量が10mm以下である場合、水を含んだ状態であっても粘着剤層が保持力を維持できることで、粘着フィルム端部においても、粘着剤層がせん断方向に凝集破壊することがなく、ゆえに、外観不良を抑制することができる。」と記載されており、粘着剤層を特定のずれ量の範囲とすることで作用効果が得られるメカニズムが記載されており、特定の「ずれ量」が特定された本件発明の粘着フィルムであれば、技術上の意義のある態様で使用することができることが読み取れる。
そうすると、本件発明の粘着フィルムを使用できるといえる。
(4)小括
以上で検討したとおり、本件明細書の記載は、当業者が本件発明1、3~5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
(5)サポート要件違反について
上記(1)~(4)で検討したとおり、特定の測定条件で測定した粘着フィルムのずれ量が10mm以下という発明特定事項を満たす本件発明1の粘着フィルムは、本件明細書の記載を参酌すれば、当業者が、製造、使用できるものであり、かつ、上記第6の「取消理由1(サポート要件違反)について」で述べたとおり、本件発明1は、特定の測定条件で測定した粘着フィルムのずれ量が10mm以下という発明特定事項を全て含むものについては、本件発明1は、「粘着フィルムを曲面形状を有する被着体に水貼りした場合にも粘着剤の露出を抑制できる粘着フィルムを提供する」という発明の課題を解決できると認められる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
また、本件発明1を引用する本件発明3~5についても同様である。
したがって、本件発明1、3~5についての特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
(6)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第29~31頁において、以下の主張を行っている。
(主張1)本件特許発明1は、「官能基含有ビニルモノマー」と反応しうる「架橋剤」を発明特定事項とするものであるところ、実施例1~4、比較例1、2には、架橋性官能基がカルボキシル基であるアクリル系共重合体と、エポキシ系架橋剤を用いたものしか記載されておらず、架橋性官能基がカルボキシル基である場合において、架橋剤として、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤を使用した場合にも、エポキシ系架橋剤を用いた場合と同様な効果を奏するかは、本件特許明細書の記載からは不明である。
また、架橋性官能基が水酸基である場合、架橋性官能基がアミド基である場合に、架橋性官能基がカルボキシル基であるアクリル系共重合体とエポキシ系架橋剤を用いた場合と同様な効果を奏するかは、本件明細書の記載からは不明である。
(主張2)本件特許発明は、「粘着フィルムを曲面形状を有する被着体に水張りした場合にも、粘着剤の露出を抑制できる粘着フィルムを提供することを目的とする」(段落【0006】)ものであり、「ずれ量」の数値範囲を発明特定事項とする発明であるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、「ずれ量」と発明の効果である「外観」、「定荷重試験」の関係が記載されているのは、SUS板に貼付した場合だけであり、SUS板と一般的な被着体であるプラスチック板、ガラス板、被塗金属板とは表面の構造や特性が異なり、被着体としてSUS板を用いる本件特許発明1で規定する測定方法(JIS Z0237:2009)による「ずれ量」が「10mm以下」である粘着フィルムが、プラスチック板、ガラス板、被塗金属板などのSUS板以外の被着体に貼付した時も、SUS板に貼付した時と同様の効果を奏するかは不明である。
そうすると、被着体として、SUS板以外のものを使用した場合には、本件特許発明1で規定する測定方法(JIS Z0237:2009)による「ずれ量」を、「10mm以下」とするだけでは、SUS板に貼付した時と同様の効果を奏することができるとは言えず、「粘着フィルムを曲面形状を有する被着体に水貼りした場合にも粘着剤の露出を抑制できる」ようにするには、どのように実施するかを、当業者は理解できない。
(主張3)当業者は、請求項1、3ないし5に係る発明を発明の詳細な説明に基づき実施することができないのであるから、請求項1、3ないし5の記載は、サポート要件を満たしていない。
また、申立人は、令和6年6月26日提出の意見書において、以下のとおり主張する。
(主張4)
本件特許明細書の発明の詳細な説明では、特定のエポキシ系架橋剤が特定の範囲の量で添加された粘着フィルについてのみ、「外観」や「定荷重試験」において効果が確認されているだけであり、エポキシ系架橋剤の種類およびエポキシ系架橋剤量が特定されていない本件訂正発明は、依然として、実施可能要件及びサポート要件を満たしていない。
以下、上記主張1~4について検討する。
ア 主張1及び4について
上記(2)で述べたとおり、本件明細書には、実施例とともに、粘着フィルムの製造方法やずれ量の測定方法について具体的な説明が記載されている。
また、同段落【0020】~【0021】には、「ずれ量」は、粘着剤組成物における架橋剤と、アクリル系共重合体の架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー由来の構成単位との含有比で調整することがでることや、その好ましい質量比についても具体的に記載されている。
さらに、同段落【0059】には、ずれ量の制御の点から、好ましいアクリル系共重合体に対する架橋剤の添加量について具体的に記載されている。
そうすると、当業者であれば、「架橋剤」の種類や「架橋剤と反応しうる官能基」の種類に応じて、「架橋剤」や「架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー」の含有比や「架橋剤」の添加量を適宜調整して、特定の「ずれ量」の範囲の本件発明の粘着シートを製造できるといえるから、本件発明において、エポキシ系架橋剤の種類や添加量が特定されていなかったとしても、本件発明を実施できないものとはいえない。
よって、上記申立人の主張1及び4は採用できない。
イ 主張2について
SUS板を用いて、本件発明の特定の条件で測定した粘着フィルムの「ずれ量」が10mm以下のものについては、そうでないものよりも、粘着剤層の保持力が高いということは一般的にいうことができる。
そうすると、SUS板以外の被着体に、本件発明の粘着剤層を適用した場合にも、粘着剤の露出を抑制できる効果が得られると解されるから、上記申立人の主張2は採用できない。
ウ 主張3について
上記(1)~(4)で検討したとおり、本件発明1、3~5は、当業者が発明の詳細な説明に基づき実施することができるものである。
特に、上記アで検討したとおり、「架橋剤」や「架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー」に関して、当業者であれば、「架橋剤」の種類や「架橋剤と反応しうる官能基」の種類に応じて、「架橋剤」や「架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー」の含有比や「架橋剤」の添加量を適宜調整して、特定の「ずれ量」の範囲の本件発明の粘着シートを製造できるといえるから、本件発明において、エポキシ系架橋剤の種類や添加量が特定されていなかったとしても、特定の条件で測定した「ずれ量」が10mm以下である本件発明を実施できないものとはいえない。
さらに、上記イで検討したとおり、特定の条件で測定した粘着フィルムの「ずれ量」が10mm以下のものについては、そうでないものよりも、粘着剤層の保持力が高く、SUS板以外の被着体に、本件発明の粘着剤層を適用した場合にも、粘着剤の露出を抑制できる効果が得られると解される。
そして、本件発明は、特定の条件で測定した「ずれ量」が10mm以下であるという発明特定事項を含むものであるから、発明の課題を解決できると当業者が認識できるものである。
よって、上記申立人の主張3は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1、3~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701318