特許異議申立
2023-701281
バネ表面の植毛加工方法
- 審判番号
- 2023-701281
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-558670
- 登録番号
- 7287980
- 請求日
- 2023年12月05日
- 審決日
- 2024年05月02日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】太倉▲カ▼蘭平汽車零部件有限公司
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】ジュネスプロパティーズ 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-Y (B60N) / P1651.537-Y (B60N) / P1651.536-Y (B60N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7287980号発明「バネ表面の植毛加工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7287980号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7287980号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)10月30日(優先権主張外国庁受理 2018年1月12日、同年同月31日、いずれも中国(CN))を国際出願日とする出願であって、令和5年5月29日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月5日に特許異議申立人 ジュネスプロパティーズ株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし17)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し、前記バネは前記搬送チェーンと共に生産ラインに入り、
接着剤のスプレー塗布の間、接着剤はノズルによって噴霧されて負に帯電され、前記バネは接地されるか又はゼロ電位に接続され、前記接着剤は静電吸着によってバネ表面に均一に吸着され、
接着剤のスプレー塗布後の前記バネは、植毛のために静電植毛室に入り、前記バネは接地されるか又はゼロ電位に接続され、移動中に繊維がバネ表面に接触すると、前記繊維は直交方向において前記バネ表面に対して垂直となり、静電引力の作用で前記接着剤に挿入され、
植毛後の前記バネは、乾燥のために乾燥装置に入り、
乾燥後の前記バネはブラシを通過し、前記バネ表面は圧縮空気を吹き付けられて、前記バネ表面の余分な繊維が取り除かれ、
植毛され且つ余分な繊維が取り除かれた後の前記バネは、降ろされてパッケージに入れられる、
手順を少なくとも含むことを特徴とするバネ表面の植毛加工方法。
【請求項2】
前記バネが前記生産ラインに入って前進する間、前記バネ自身は自軸を中心に回転し、前記植毛中に、前記接着剤及び前記繊維が前記バネ表面に均等に植え付けられ得ることを保証することを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項3】
光電センサスイッチが、前記接着剤のスプレー塗布の動作を制御し、前記光電センサスイッチが前記バネを検知すると、静電式の接着剤スプレー塗布装置が動作を開始することを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項4】
前記接着剤スプレー塗布装置は、前記接着剤の流量を調節することによって前記接着剤の厚さを制御することができ、前記接着剤の厚さを0.05mm~0.2mmとすることを特徴とする、請求項3に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項5】
前記静電植毛室は、下部に負電圧、上部に正電圧を有する高圧電界で構成されており、高圧静電界の作用を受けて、前記繊維が磁束線方向に移動し、連続的に帯電と放電とを行うことを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項6】
前記繊維が、ナイロンPA66又はポリエステルPE66から作製されており、3.3dtexの繊度及び0.5mm~1.0mmの長さを有することを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項7】
乾燥温度が70℃~200℃、時間が20分~1時間であることを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項8】
前記バネ表面の余分な繊維が圧縮空気によって除去された後に、前記バネから吹き飛ばされた余分な繊維を繊維収集装置によって収集することをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項9】
前記バネの外表面にのみ植毛するステップさらに含み、
このステップが、
(1)一端が固定された金属ロッド内に前記バネを配置し、圧縮装置で前記バネを圧縮し、次に金属ロッドの反対側に金属プラグピンを挿入して前記バネを固定すること、
(2)圧縮された前記バネを金属ロッドと共に、表面植毛のために搬送装置に接続すること、及び、
(3)前記バネを降ろして圧縮のために前記圧縮装置に戻し、次に前記金属プラグピンを取り外して前記バネを解放すること、
を特に含むことを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項10】
前記バネの金属表面が、電着コーティング又は亜鉛-アルミニウムコーティングで被覆されていることを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項11】
前記バネは、円形のワイヤ、楕円形のワイヤ、又は長円形のワイヤから作製されていることを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項12】
前記接着剤のスプレー塗布の前に、電気集塵ステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項13】
前記接着剤のスプレー塗布において、ロールコーティングにより前記接着剤を均一に塗布し得ることを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項14】
前記乾燥装置が、赤外線ヒータ又は電気ヒータと、温度調節装置とを備えることを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項15】
前記高圧電界は、80000ボルトの電圧を有することを特徴とする、請求項5に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項16】
前記電着コーティング又は前記亜鉛-アルミニウムコーティングは、15μm~20μmの厚さを有することを特徴とする、請求項10に記載のバネ表面の植毛加工方法。
【請求項17】
接着剤のスプレー塗布に使用される前記接着剤は、2500Cst~3500Cstの粘度を有することを特徴とする、請求項1に記載のバネ表面の植毛加工方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
令和5年12月5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし17は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の請求項1には、「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し、前期バネは前記搬送チェーンと共に生産ラインに入り、」との記載がある。
ここで、「フック」とは、一般的には、「鉤。鉤形のもの。」(広辞苑第七版より)と解釈され、鉤形の形状であることから、これにより対象物を吊るすように用いられるのが一般的である。そして、フックを使用して搬送チェーンでバネを搬送する場合、搬送チェーンにフックを設け、これにバネを吊るすことが想定される。しかしながら、上記の記載では、「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し」と記載されており、バネは搬送チェーンの上方に固定されると考えられるが、上述したような一般的なフックの解釈からすると、フックによって搬送チェーンの上方にバネをどのように固定するのか明確ではない。
以上より、請求項1の「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し」との記載は、審査基準に示されている「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に記載された用語の意味内容を当業者が理解できない結果、発明が不明確となる場合」に該当すると考えられる。よって、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2~17は、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)請求項1の「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し」との記載について、発明の詳細な説明には、フックにより搬送チェーンの上方にバネがどのように固定されるか全く記載されていない。したがって、審査基準に示されている「請求項に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない場合」に該当する。
よって、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2~17は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許発明の課題は、全自動植毛加工ラインを設計することであるので、手動操作を経ることなく、全自動でバネに植毛を行うものであると考えられる。しかしながら、請求項1では、バネが搬送チェーンとともに生産ラインに入ることは記載されているものの、バネヘの植毛が全自動で行われることを特定する事項は一切記載されていない。したがって、請求項1で特定されている事項からは、バネヘの植毛を全自動で行っているか否かを窺い知ることはできない。
したがって、請求項1の記載は、審査基準で示されている「請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる場合」に該当する。
よって、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2~17は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許公報の発明の詳細な説明には、例えば、第4実施形態に、バネ1とフック3との関係は示されているが、搬送チェーンとの関係が全く記されておらず、依然として、フックにより搬送チェーンの上方にバネがどのように固定されるかが全く記載されていない。
特に、請求項1には「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し」と記載されていることから、フックと搬送チェーンとの関係が必要であるところ、本件特許公報の発明の詳細な説明には,その関係が一切記載されていない。
したがって、本件特許公報の発明の詳細な説明は、本件特許発明1について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2~17は、特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができない。
5 証拠方法
甲第1号証:中国実用新案登録第204564500号公報
甲第2号証:甲第1号証の翻訳文
甲第3号証:特開2013-215904号公報
甲第4号証:実願昭62-82021号(実開昭63-191349号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特開昭60-241966号公報
甲第6号証:特開2008-68991号公報
甲第7号証:特開2001-325961号公報
甲第8号証:特開平7-1626号公報
甲第9号証:特開2018-102815号公報
甲第10号証:特開昭63-293780号公報
甲第11号証:実公昭57-15171号公報
甲第12号証:特開平3-267164号公報
甲第13号証:特開2008-68991号公報
甲第14号証:特開2014-73985号公報
甲第15号証:特開平9-173673号公報
甲第16号証:特開2008-31519号公報
甲第17号証:特開2016-179415号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「植毛バネライン構成」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語文献のため、翻訳文として提出された甲2の記載のみを摘記する。摘記に際し、半角数字等は全角で摘記した。下線は当審で付したものである。
・「[0003]
従来技術の不足を克服することとして、本実用新案は自動化レベルの高さ、植毛安定して信頼性の植毛バネライン構成を提供する。」
・「[0007]
さらに改善として、前記バネ静電植毛装置にフック上が掛けたバネが回転した回動機構を駆動することを設け、植毛の過程にフックに掛けたバネを駆動して回転し、バネの植毛効果をより良くし、植毛は更に均一である。」
・「[0012]
図1が示すように、本実用新案植毛バネライン構成はバネ自動糊付け装置1、バネ静電植毛装置2と自動乾燥装置3を含み、前記バネ自動糊付け装置1、バネ静電植毛装置2と自動乾燥装置3の間で自動搬送バネの搬送チェーン4を設け、前記搬送チェーン4上に水平にバネに掛けるフック41を設け、前記バネ自動糊付け装置1に前記搬送チェーン4上にバネに掛けるフック41の力所が自動噴射グルーを設ける吐出ヘッド11に対応し、前記吐出ヘッド11はバネ自動糊付け装置1頂部に設けられる供膠装置12を接続し、前記バネ静電植毛装置2の頂部は絨毛を設けて材料庫21を記憶し、前記絨毛は材料庫21の底部を記憶して絨毛送出口211を設け、前記絨毛送出口211はその下方送達ばねの搬送チェーン4を正対していて、前記バネ静電植毛装置2にまた静電気発生装置22を設け、前記静電気発生装置22と植毛を必要とするバネは接続し、前記自動乾燥装置3に赤外線ヒータと温度調節装置を設ける。」
・「
[図:0001410239000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「バネ自動糊付け装置1、バネ静電植毛装置2と自動乾燥装置3を含む植毛バネライン構成であって、前記バネ自動糊付け装置1、バネ静電植毛装置2と自動乾燥装置3の間でバネを自動搬送するための搬送チェーン4を設け、前記搬送チェーン4上に水平にバネを掛けるフック41を設け、前記バネ自動糊付け装置1には、バネが掛けられる前記搬送チェーン4上のフック41に対応して自動噴射グルーを設ける吐出ヘッド11が設けられ、前記吐出ヘッド11はバネ自動糊付け装置1頂部に設けられる供膠装置12に接続し、前記バネ静電植毛装置2の頂部は絨毛を保管する材料庫21が設けられ、前記絨毛を保管する材料庫21の底部に絨毛送出口211を設け、前記絨毛送出口211はその下方でばねを搬送する搬送チェーン4と正対していて、前記バネ静電植毛装置2に静電気発生装置22を設け、前記静電気発生装置22と植毛を必要とするバネは接続され、前記自動乾燥装置3に赤外線ヒータと温度調節装置を設けた、植毛バネライン構成による、糊付け、植毛、乾燥の手順を含むバネ表面の植毛加工方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「バネ」及び「植毛を必要とするバネ」は本件特許発明1における「バネ」に相当する。
甲1発明における「フック41」は本件特許発明1における「フック」に相当する。
甲1発明における「搬送チェーン4」は本件特許発明1における「搬送チェーン」に相当する。
甲1発明における「バネ自動糊付け装置1」は本件特許発明1における「接着剤」を「塗布」するものに相当する。
甲1発明における「バネ静電植毛装置2」は本件特許発明1における「静電植毛室」に相当する。
甲1発明における「自動乾燥装置3」は本件特許発明1における「乾燥装置」に相当する。
甲1発明における「植毛バネライン構成」は本件特許発明1における「生産ライン」に相当する。
そうすると、両者は次の点で相違する。
<一致点>
「フックを使用して搬送チェーンにバネを固定し、前記バネは前記搬送チェーンと共に生産ラインに入り、
接着剤の塗布の間、接着剤はバネ表面に塗布され、
接着剤の塗布後の前記バネは、植毛のために静電植毛室に入り、移動中に繊維がバネ表面に接触すると、静電引力の作用で前記接着剤に挿入され、
植毛後の前記バネは、乾燥のために乾燥装置に入る、
手順を少なくとも含むバネ表面の植毛加工方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
「フックを使用して搬送チェーンにバネを固定し」に関して、本件特許発明1においては「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し」と特定されているのに対し、甲1発明においては「前記搬送チェーン4上に水平にバネに掛けるフック41を設け」と特定されている点。
<相違点2>
「接着剤の塗布の間、接着剤はバネ表面に塗布され」に関して、本件特許発明1においては「接着剤のスプレー塗布の間、接着剤はノズルによって噴霧されて負に帯電され、前記バネは接地されるか又はゼロ電位に接続され、前記接着剤は静電吸着によってバネ表面に均一に吸着され」と特定されているのに対し、甲1発明においては「前記バネ自動糊付け装置1には、バネが掛けられる前記搬送チェーン4上のフック41に対応して自動噴射グルーを設ける吐出ヘッド11が設けられ、前記吐出ヘッド11はバネ自動糊付け装置1頂部に設けられる供膠装置12に接続し」と特定されている点。
<相違点3>
「接着剤の塗布後の前記バネは、植毛のために静電植毛室に入り、移動中に繊維がバネ表面に接触すると、静電引力の作用で前記接着剤に挿入され」に関して、本件特許発明1においては「接着剤のスプレー塗布後の前記バネは、植毛のために静電植毛室に入り、前記バネは接地されるか又はゼロ電位に接続され、移動中に繊維がバネ表面に接触すると、前記繊維は直交方向において前記バネ表面に対して垂直となり、静電引力の作用で前記接着剤に挿入され」と特定されているのに対し、甲1発明においては「前記バネ静電植毛装置2の頂部は絨毛を保管する材料庫21が設けられ、前記絨毛を保管する材料庫21の底部に絨毛送出口211を設け、前記絨毛送出口211はその下方でばねを搬送する搬送チェーン4と正対していて、前記バネ静電植毛装置2に静電気発生装置22を設け、前記静電気発生装置22と植毛を必要とするバネは接続され」と特定されている点。
<相違点4>
本件特許発明1においては「乾燥後の前記バネはブラシを通過し、前記バネ表面は圧縮空気を吹き付けられて、前記バネ表面の余分な繊維が取り除かれ」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点5>
本件特許発明1においては「植毛され且つ余分な繊維が取り除かれた後の前記バネは、降ろされてパッケージに入れられる」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1発明においては、「前記静電気発生装置22」と「植毛を必要とするバネ」が「接続」されるものである。すなわち、甲1発明において、「バネ」は「接地」されるものでも「ゼロ電位に接続」されるものでもなく、むしろ「接地」される又は「ゼロ電位に接続」されるものは、「絨毛送出口211」の方といえる。
そして、「絨毛送出口211」の方が「接地」される又は「ゼロ電位に接続」される甲1発明において、「バネ」の方を「接地」される又は「ゼロ電位に接続」されるようにする動機付けとなる記載は、甲1にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「しかしながら、この構成は、静電植毛における周知技術である。
例えば、甲第6号証は、静電植毛に関するものであり、・・・(略)・・・すなわち、甲第6号証には、静電植毛の対象物をアースしていることが記載されている。
また、甲第7号証には、静電植毛に関する技術が開示されている。・・・(略)・・・すなわち、甲第7号証には、静電植毛の対象物をアースしていることが記載されている。
このように、静電植毛を行う際に、対象物にプラスまたはマイナスの電荷を帯電させるか、あるいは接地するかは単なる設計的事項である。したがって、構成1cにおける相違点は設計変更に過ぎない。」旨主張する(特許異議申立書第24及び25ページ)。
そこで、該主張について検討する。
甲6及び7には、静電植毛の対象物をアースすることが記載されているものの、それにとどまり、甲1発明のように、「絨毛送出口211」の方が「接地」される又は「ゼロ電位に接続」されているものを、「バネ」の方を「接地」される又は「ゼロ電位に接続」されるようにする動機付けとなる記載があるとはいえない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することが単なる設計変更に過ぎないとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし17について
本件特許発明2ないし17は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし17は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
3 申立理由2(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし17の記載は、上記第2のとおりであり、それら自体に不明確な記載はなく、また、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし17に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の申立理由2における主張について検討する。
「フック」は、対象物を吊すように用いる以外に、発明の詳細な説明の【0044】ないし【0051】及び図5に記載された第4の実施形態にみられるように並びに甲1の[0012]に「前記搬送チェーン4上に水平にバネに掛けるフック41を設け」と記載されているように、水平に対象物を掛ける場合にも用いられるものであるから、請求項1の「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し」という記載の意味内容を当業者は理解できる。
したがって、請求項1の記載は、審査基準に示されている「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に記載された用語の意味内容を当業者が理解できない結果、発明が不明確となる場合」に該当するものではない。
よって、特許異議申立人の申立理由2における主張は採用できない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の請求項1ないし17の記載は、上記第2のとおりである。
他方、発明の詳細な説明の【0009】及び【0010】の記載によると、本件特許発明1ないし17の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「バネ表面の植毛加工に適用される全自動植毛加工ラインであって、連続生産を達成しかつ高い生産効率を有する全自動植毛加工ライン」に適用可能な「バネ表面の植毛加工方法」を提供することである。
また、発明の詳細な説明の【0010】ないし【0026】には、本件特許発明1ないし17に対応する記載がある。
さらに、発明の詳細な説明の【0030】ないし【0052】には、「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し、前記バネは前記搬送チェーンと共に生産ラインに入り」という「手順」(発明の詳細な説明の【0033】及び【0045】)、「接着剤のスプレー塗布の間、接着剤はノズルによって噴霧されて負に帯電され、前記バネは接地されるか又はゼロ電位に接続され、前記接着剤は静電吸着によってバネ表面に均一に吸着され」という「手順」(同【0034】及び【0046】)、「接着剤のスプレー塗布後の前記バネは、植毛のために静電植毛室に入り、前記バネは接地されるか又はゼロ電位に接続され、移動中に繊維がバネ表面に接触すると、前記繊維は直交方向において前記バネ表面に対して垂直となり、静電引力の作用で前記接着剤に挿入され」という「手順」(同【0035】及び【0048】)、「植毛後の前記バネは、乾燥のために乾燥装置に入り」という「手順」(同【0036】及び【0049】)、「乾燥後の前記バネはブラシを通過し、前記バネ表面は圧縮空気を吹き付けられて、前記バネ表面の余分な繊維が取り除かれ」という「手順」(同【0037】及び【0050】)及び「植毛され且つ余分な繊維が取り除かれた後の前記バネは、降ろされてパッケージに入れられる」という「手順」(同【0038】及び【0051】)を「少なくとも含むバネ表面の植毛加工方法」を含む「バネ表面に適用される自動静電植毛プロセス」が記載されている。
そうすると、当業者は、「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し、前記バネは前記搬送チェーンと共に生産ラインに入り、
接着剤のスプレー塗布の間、接着剤はノズルによって噴霧されて負に帯電され、前記バネは接地されるか又はゼロ電位に接続され、前記接着剤は静電吸着によってバネ表面に均一に吸着され、
接着剤のスプレー塗布後の前記バネは、植毛のために静電植毛室に入り、前記バネは接地されるか又はゼロ電位に接続され、移動中に繊維がバネ表面に接触すると、前記繊維は直交方向において前記バネ表面に対して垂直となり、静電引力の作用で前記接着剤に挿入され、
植毛後の前記バネは、乾燥のために乾燥装置に入り、
乾燥後の前記バネはブラシを通過し、前記バネ表面は圧縮空気を吹き付けられて、前記バネ表面の余分な繊維が取り除かれ、
植毛され且つ余分な繊維が取り除かれた後の前記バネは、降ろされてパッケージに入れられる、
手順を少なくとも含むバネ表面の植毛加工方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「バネ表面の植毛加工方法」であり、本件特許発明2ないし17は上記「バネ表面の植毛加工方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし17は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし17に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の申立理由3における主張について検討するに、以下のとおりいずれも採用できない。
ア 申立理由3(1)について
上記3(3)のとおり、請求項1の「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し」という記載の意味内容を当業者は理解できるから、発明の詳細な説明に、フックにより搬送チェーンの上方にバネがどのように固定されるかについて、具体的な態様やその詳細が全く記載されていないとしても、本件特許発明1は当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、請求項1の記載は、審査基準に示されている「請求項に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない場合」に該当するものではない。
よって、特許異議申立人の申立理由3(1)における主張は採用できない。
イ 申立理由3(2)について
上記(2)のとおり、発明の課題は、「バネ表面の植毛加工に適用される全自動植毛加工ラインであって、連続生産を達成しかつ高い生産効率を有する全自動植毛加工ライン」に適用可能な「バネ表面の植毛加工方法」を提供することであって、「全自動植毛加工ラインを設計すること」ではない。
そうすると、請求項1に、バネヘの植毛が全自動で行われることを特定する事項は一切記載されていないとしても、本件特許発明1は当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、請求項1の記載は、「請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる場合」に該当するものではない。
したがって、特許異議申立人の申立理由3(2)における主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない
5 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし17は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明の【0030】ないし【0051】には、本件特許発明1ないし17の発明特定事項を有する実施例について具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし17に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足するといえる。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の申立理由4における主張について検討する。
上記3(3)のとおり、請求項1の「フックを使用して搬送チェーンの上方にバネを固定し」という記載の意味内容を当業者は理解できるから、発明の詳細な説明に、フックにより搬送チェーンの上方にバネがどのように固定されるか全く記載されていないとしても、発明の詳細な説明に、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1を実施することができる程度の記載があるといえる。
また、本件特許発明2ないし17についても同様である。
したがって、特許異議申立人の申立理由4における主張は採用できない。
(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701281