特許拒絶査定不服審判
2021-007780
乗物シート用移動システム
- 審判番号
- 2021-007780
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-101720
- 請求日
- 2021年06月15日
- 審決日
- 2022年09月20日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】トヨタ紡織株式会社
- 【請求人代理人】名古屋国際特許業務法人
- 審判長/審判官
- 審判長 芦原 康裕
- 審判官 藤井 昇
- 審判官 一ノ瀬 覚
- 分類
- P18 .121-WY (B60N) / P18 .536-WY (B60N) / P18 .537-WY (B60N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-101720号「乗物シート用移動システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月13日出願公開、特開2018-197027号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1.手続の経緯
本願は、平成29年5月23日の出願であって、令和2年10月14日付けで拒絶理由が通知され、同年11月4日に意見書が提出されたが、令和3年4月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年6月15日に拒絶査定不服審判の請求がされた。
その後、当審において令和4年4月26日付けで拒絶理由が通知され、同年6月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。
第2.原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
「(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(明確性要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
・請求項 1-5
出願人は意見書において、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1-5に係る発明を実施可能な程度に明確かつ十分に発明を開示している旨主張している。
そこで、本願の明細書及び図面による実施例についての開示を確認する。
本願の明細書においては、その[0029]-[0032]に記載されているように、複数の深度カメラ21、22を利用して上面視画像データ及び側面視画像データを取得すると記載されている。[0023]に記載されているように、2つの深度カメラ21、22を用いてこれらのデータを取得できる旨記載されている。この2つの深度カメラ21、22は車室内の天井部に搭載され([0036])、図1、図3-4、図6に記載されているように、車両の前後方向に2つ並んだものとして記載されている。
深度カメラの視界は図1、図3-4、図6に記載のとおりである。図6に記載のとおり監視カメラ22の視界はシート1Bに着座した乗員を含まず、またシート1Aの背面を含まない。そのため、深度カメラからシート1Bに着座した乗員及びシート1Aの背面に関する画像データを得られるとすると、専ら深度カメラ21からのものとなる。図1、図3-4及び図6の記載のとおり、深度カメラ21の視界は、シート1Bに着座した乗員のすべてを撮影するものではなく、シート1Aの背面のすべてを撮影するものでもない。
シート1B(乗員が着座している場合には乗員を含む。)とシート1Aとの間の距離を測定し制御開始値を超す距離があることを確認する設定領域A1-A3([0039]-[0041]、図6)については、単に距離を測定し比較する領域としか記載されておらず、深度カメラの視界との関係については規定されていない。
深度カメラは深度を検出可能なカメラであり([0035])、スクリーン座標系の深度データを取得可能なもの([0031])として記載され、一の深度カメラで複数の画像データを得ることができるものとして記載されたものではない。
これらの開示事項からみて、明細書及び図面による実施例についての開示内容だけでは、上面視画像データ及び側面視画像データという2つの画像データを得ることができないし、複数の設定領域のそれぞれにおいて距離を求めることができないものと認められる。
出願人は通常の創作能力をもって実施することができる旨主張しているが、通常の創作能力で何をどのように補填して実施するかについて述べておらず、採用することができない。
したがって、出願人の主張によっても、実施可能要件及び明確性要件を満たすとの心証を得ることができない。よって、本願は拒絶すべきものである。」
第3.当審の拒絶理由の概要
当審が通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 1~3
・引用文献 1
・請求項 4
・引用文献 1、2
・請求項 5
・引用文献 1、2又は1、2、3
引用文献一覧
1.特開2010-184526号公報
2.特開2006-264529号公報
3.特開2007-99157号公報」
第4.本願発明
本願請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明4」という。)は、令和4年6月1日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
乗物に搭載される乗物用シートと、
前記乗物用シートを移動させるための移動装置と、
前記乗物用シート及び当該乗物用シート周囲の上面視画像データ及び側面視画像データをカメラを利用して取得するとともに、当該取得した画像データに含まれる物体間の距離を演算する物体間距離演算装置と、
前記乗物用シートが移動可能範囲の端部位置(以下、リミット位置という。)に到達したか否かを検出する位置センサと、
前記物体間距離演算装置により演算された物体間の距離を利用して前記移動装置の作動又は停止を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記乗物用シートが前記リミット位置に到達したときには、当該乗物用シート移動を停止させ、
さらに、
前記乗物用シートが搭載された空間内に設定された複数の領域それぞれを設定領域とし、
前記複数の設定領域毎に予め設定された閾値を制御開始値とし、
前記物体間距離演算装置により演算された物体間の距離を演算距離としたとき、
前記制御部は、前記乗物用シートが前記リミット位置に到達していない状態において、前記複数の設定領域のうちいずれかの設定領域における前記演算距離が、当該設定領域についての前記制御開始値以下となったときに、前記乗物用シートの移動を停止、又は移動速度を低下させることが可能である乗物シート用移動システム。
【請求項2】
前記物体間距離演算装置は、深度カメラを利用して前記上面視画像データ及び前記側面視画像データを取得する請求項1に記載の乗物シート用移動システム。
【請求項3】
前記制御部は、「ウォークイン機能」の作動に連動して前記移動装置の作動又は停止を制御する
請求項1又は2に記載の乗物シート用移動システム。
【請求項4】
前記制御部は、乗物の乗降口ドアが開く作動に連動させて前記乗物用シートの移動を開始させることが可能である
請求項1又は2に記載の乗物シート用移動システム。」
第5.引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
引用文献1において、「座席シート33」、「シート駆動装置32」、「車載機器制御装置1」を備えたものは、全体として「シート用システム」といえるものである。
そうすると、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。また、()書きで主な参照箇所を付記した。以下同様。)。
「車両3の座席シート33と(段落【0016】、【0017】)、
前記座席シート33を駆動させるアクチュエータであるシート駆動装置32と(段落【0023】)、
前記座席シート33のシートバック33aと後部座席の乗員との距離を、3Dカメラを用いた3D映像装置31で取得してシートポジション制御(シート位置制御)するシート制御部23を含む車載機器制御装置1と、
を備えるシート用システムであって(段落【0046】、【0015】、【0024】、【0039】、図1)、
前記3D映像装置31は3次元の画像情報を取得する機能を有しており(段落【0018】)、
前記シートポジション制御(シート位置制御)は、前記取得した距離が所定距離以下とならないように座席シート33の停止処理を含めた位置制御を行うとともに(【請求項1】、段落【0015】、【0033】、【0034】)、前記取得した距離が短くなるほど減速するように前記座席シート33の速度を調整して位置制御を行うシート用システム(【請求項4】、段落【0036】~【0039】)。」
2.引用文献2について
当審の拒絶理由において下位の請求項について引用された、引用文献2の段落【0025】には、シートスライド装置によりウォークインを行う場合に、低出力・高回転の第2モータによりシートスライドを可能にすることが記載されている。
3.引用文献3について
当審の拒絶理由において下位の請求項について引用された、引用文献3の請求項1には、解錠動作が行われる際に、後部座席へ乗り込みやすくなるように前部座席を動作させるウォークイン機能を動作させるシート制御手段が記載されている。
第6.対比・判断
1.本願発明1について
(1)発明の対比
ア.本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「車両3の座席シート33」は前者の「乗物用シート」及び「乗物に搭載される乗物用シート」に相当し、以下同様に、「シート駆動装置32」は「移動装置」に、「3Dカメラ」は「カメラ」に、「画像情報」は「画像データ」に、「シート制御部23」は「制御部」に、「座席シート33」「シート駆動装置32」「車載機器制御装置1」を備えた「シート用システム」は「乗物シート用移動システム」に、それぞれ相当する。
イ.後者の「前記座席シート33を駆動させるアクチュエータであるシート駆動装置32」は上記ア.の相当関係を踏まえると、前者の「前記乗物用シートを移動させるための移動装置」に相当する。
ウ.後者の「3Dカメラを用いた3D映像装置31」は「前記座席シート33のシートバック33aと後部座席の乗員との距離」を「取得」するから、前者の「前記乗物用シート及び当該乗物用シート周囲の上面視画像データ及び側面視画像データをカメラを利用して取得するとともに、当該取得した画像データに含まれる物体間の距離を演算する物体間距離演算装置」とは、「前記乗物用シート及び当該乗物用シート周囲の画像データをカメラを利用して取得するとともに、当該取得した画像データに含まれる物体間の距離を演算する物体間距離演算装置」において共通する。
エ.後者の「前記座席シート33のシートバック33aと後部座席の乗員との距離を、3Dカメラを用いた3D映像装置31で取得してシートポジション制御(シート位置制御)するシート制御部23を含む車載機器制御装置1とを備えるシート用システムであって、前記シートポジション制御(シート位置制御)は、前記取得した距離が所定距離以下とならないように座席シート33の停止処理を含めた位置制御を行うとともに、前記取得した距離が短くなるほど減速するように前記座席シート33の速度を調整して位置制御を行う」ことは、上記ア.~ウ.の相当関係を踏まえると前者の「前記物体間距離演算装置により演算された物体間の距離を利用して前記移動装置の作動又は停止を制御する制御部とを備え」ることに相当する。
オ.後者の「前記座席シート33のシートバック33aと後部座席の乗員との距離を、3Dカメラを用いた3D映像装置31で取得してシートポジション制御(シート位置制御)するシート制御部23を含む車載機器制御装置1とを備えるシート用システムであって、前記シートポジション制御(シート位置制御)は、前記取得した距離が所定距離以下とならないように座席シート33の停止処理を含めた位置制御を行うとともに、前記取得した距離が短くなるほど減速するように前記座席シート33の速度を調整して位置制御を行うシート用システム」と、前者の「前記物体間距離演算装置により演算された物体間の距離を演算距離としたとき、前記制御部は、前記乗物用シートが前記リミット位置に到達していない状態において、前記複数の設定領域のうちいずれかの設定領域における前記演算距離が、当該設定領域についての前記制御開始値以下となったときに、前記乗物用シートの移動を停止、又は移動速度を低下させることが可能である乗物シート用移動システム」とは、上記ア.~ウ.の相当関係を踏まえると「前記物体間距離演算装置により演算された物体間の距離を演算距離としたとき、前記制御部は、前記演算距離に応じて、前記乗物用シートの移動を停止、又は移動速度を低下させることが可能である乗物シート用移動システム」において共通する。
カ.そうすると両者は、
「乗物に搭載される乗物用シートと、
前記乗物用シートを移動させるための移動装置と、
前記乗物用シート及び当該乗物用シート周囲の画像データをカメラを利用して取得するとともに、当該取得した画像データに含まれる物体間の距離を演算する物体間距離演算装置と、
前記物体間距離演算装置により演算された物体間の距離を利用して前記移動装置の作動又は停止を制御する制御部とを備え、
前記物体間距離演算装置により演算された物体間の距離を演算距離としたとき、前記制御部は、前記演算距離に応じて、前記乗物用シートの移動を停止、又は移動速度を低下させることが可能である乗物シート用移動システム。」
において一致し、以下の点において相違すると認められる。
<相違点1>
前記乗物用シート及び当該乗物用シート周囲の画像データを取得することに関して「画像データ」が、本願発明1では、「前記乗物用シート及び当該乗物用シート周囲の上面視画像データ及び側面視画像データ」であるのに対して、引用発明では、前記座席シート33のシートバック33aと後部座席の乗員との距離を、3Dカメラを用いた3D映像装置31で取得する3次元の画像情報である点。
<相違点2>
本願発明1では、「前記乗物用シートが移動可能範囲の端部位置(以下、リミット位置という。)に到達したか否かを検出する位置センサと、」「前記制御部は、前記乗物用シートが前記リミット位置に到達したときには、当該乗物用シート移動を停止させ、さらに、前記乗物用シートが搭載された空間内に設定された複数の領域それぞれを設定領域とし、前記複数の設定領域毎に予め設定された閾値を制御開始値とし、」前記物体間距離演算装置により演算された物体間の距離を演算距離としたとき、「前記制御部は、前記乗物用シートが前記リミット位置に到達していない状態において、前記複数の設定領域のうちいずれかの設定領域における前記演算距離が、当該設定領域についての前記制御開始値以下となったときに、」前記乗物用シートの移動を停止、又は移動速度を低下させることが可能であるのに対して、引用発明では、「前記シートポジション制御(シート位置制御)は、前記取得した距離が所定距離以下とならないように座席シート33の停止処理を含めた位置制御を行うとともに、前記取得した距離が短くなるほど減速するように前記座席シート33の速度を調整して位置制御を行う」点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み、先に、相違点2から検討する。
当審の拒絶理由において引用した引用文献1~3のいずれにも、「前記乗物用シートが搭載された空間内に設定された複数の領域それぞれを設定領域とし、前記複数の設定領域毎に予め設定された閾値を制御開始値とし、」「前記複数の設定領域のうちいずれかの設定領域における前記演算距離が、当該設定領域についての前記制御開始値以下となったときに、」前記乗物用シートの移動を停止、又は移動速度を低下させること(以下「上記構成」という。)については、何ら記載されていない。
そして、本願発明1は、上記構成により「より適切に乗物用シート(1B)の移動を自動制御でき得る。」(本願明細書段落【0008】参照。)という格別の作用効果を奏するものである。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2、3に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたとはいえない。
2.本願発明2~4について
本願発明2~4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定して発明を特定するものである。
本願発明2~4については、本願発明1と同じ理由により、引用発明、引用文献2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をできたものではない。
第7.原査定についての判断
本願発明1~4は、深度カメラを適宜配置することにより、複数の設定領域及びそれらの設定範囲にある物体間の距離も検出可能なものと認められるから、実施可能である。
また、本願発明1~4は、明確である。
したがって、原査定を維持することはできない。
第8.むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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