特許異議申立
2023-701202
ヒートシール積層体及び包装体
- 審判番号
- 2023-701202
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-065632
- 登録番号
- 7274641
- 請求日
- 2023年11月14日
- 審決日
- 2024年02月16日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋インキSCホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】高橋 俊一
- 【権利者代理人】伊藤 正和
- 【権利者】東洋インキ株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】高橋 俊一
- 【権利者代理人】伊藤 正和
- 【権利者】伊藤忠商事株式会社
- 【権利者】伊藤忠プラスチックス株式会社
- 【権利者】味の素株式会社
- 【異議申立人】山崎 貴啓
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 西堀 宏之
- 審判官 藤原 直欣
- 分類
- P1651.121-Y (B65D) / P1651.537-Y (B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7274641号発明「ヒートシール積層体及び包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7274641号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7274641号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和4年4月12日を出願日とする出願であって、令和5年5月8日にその特許権の設定登録がされ、令和5年5月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~9に係る特許に対し、令和5年11月14日に特許異議申立人山崎貴啓(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~9の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材とヒートシール層とを有し、
前記ヒートシール層が、カゼイン樹脂を含み、かつ、前記ヒートシール層の全質量中の水分量が、7~20質量%である、包装材用積層体。
【請求項2】
前記カゼイン樹脂のガラス転移温度が、40~80℃である、請求項1に記載の包装材用積層体。
【請求項3】
前記カゼイン樹脂の変性温度が、80~130℃である、請求項1に記載の包装材用積層体。
【請求項4】
前記ヒートシール層の塗工量が、4~12g/m2である、請求項1に記載の包装材用積層体。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の包装材用積層体を用いた、包装材。
【請求項6】
請求項5に記載の包装材と、食品及び食品添加物からなる群から選択される少なくとも1種を含む包装体とを含み、
前記包装体が、前記包装材により包装されている、包装体。
【請求項7】
前記食品及び食品添加物からなる群から選択される少なくとも1種が、固形状である、請求項6に記載の包装体。
【請求項8】
前記食品及び食品添加物からなる群から選択される少なくとも1種が、調味料、サプリメント、又は粉末スープである、請求項6に記載の包装体。
【請求項9】
食品及び食品添加物からなる群から選択される少なくとも1種を含む包装体を、請求項5に記載の包装材であって袋の形状を有する包装材に入れること、及び前記袋の形状を有する包装材の開口部をヒートシールすることを含む、包装体の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、本件特許の請求項1~9に係る特許に対して、本件特許異議申立書に以下の甲第1号証~甲第8号証を添付して、大要、次の申立理由を主張している。
1 申立理由1、2(甲第1号証~甲第8号証に基づく進歩性)
本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲第1号証または甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由3(サポート要件)
本件発明1~9は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1~9に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2019-64652号公報
甲第2号証:特開2002-88309号公報
甲第3号証:特開2021-46233号公報
甲第4号証:特開2008-105709号公報
甲第5号証:国際公開第2022/024846号
甲第6号証:特表2021-507982号公報
甲第7号証:大江礼三郎(翻訳監修)、「紙およびパルプ 製紙の化学と技術 第4巻」、有限会社中外産業調査会、昭和60年2月20日発行、64~67頁
甲第8号証:遊佐孝五、「カゼイン粒子の形態と其変成に関する研究」、日本畜産学会報、1956年、27(3)、197~202頁
(以下、甲第1号証を「甲1」という。他の甲各号証についても、同様である。)
第4 当審の判断
1 申立理由1、2(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項・発明
ア 甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与し、「・・・」は文章の省略を表す。)。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼイン又はカゼインの塩を含むことを特徴とする包装用フィルム。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
食品を包装するフィルムに、これまでプラスチックフィルムが多く使われてきた。しかし、近年の地球環境保護の機運の高まりから、原料に石油を使わないフィルムについて研究開発がされている。オブラートは澱粉からなるフィルムであるが、ガスバリア性が十分ではなく、包装された食品の長期安定性に改良の余地がある。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食品の包装用フィルムは、包装する食品の種類や用途によっては耐油性やデッドホールド性が求められる。従来の可溶性フィルムには、耐油性やデッドホールド性についての知見は見られなかった。また、ガスバリア性についても更なる改善が求められる。
【0006】
本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、原料に石油を使わないで環境負荷が小さく、包装する食品の種類や用途に応じたガスバリア性、耐油性又はデッドホールド性等に優れた包装用フィルム及び包装容器を提供することを目的とする。」
(エ)「【発明を実施するための形態】
・・・
【0012】
本発明の包装用フィルムは、カゼイン又はカゼインの塩を含む。カゼインは、牛乳に含まれる蛋白質のうちの大部分を占める主要な蛋白質である。カゼインフィルムは、一例として水と、カゼイン原料、例えばカゼインナトリウムやカゼインカルシウムと、グリセリンとを混合・攪拌した後、バットに混合液を流し込んで常温で乾燥させることによりフィルムとすることができる。
【0013】
上記のようにして製造されたカゼインフィルムは、酸素バリア性が高い。発明者が実際にカゼインフィルムを作成し、酸素透過度を測定したところ、食品用包装材のポリエチレンテレフタレート(PET)の約6倍の酸素バリア性を示した。この測定結果より、カゼインフィルムは、食品の包装材に用いることで食品の酸化を抑制するので、食品の長期保存性に優れたフィルムである。
・・・
【0016】
また、上記カゼインフィルムは、シール性を有している。したがって、上記カゼインフィルムは、カゼインフィルム同士を対向させて加熱しながら加圧することによりヒートシールすることができる。よって、カゼインフィルムを食品の包装材に用いることで別途にシール層を備えた積層構造とすることを必ずしも要しない。もっとも、基材とシール層とを少なくとも備える積層フィルムの当該基材又は当該シール層に、上記カゼインフィルムを用いることを排除するものではない。
【0017】
また、上記カゼインフィルムは、食用油に長期間接しても変質や変形を生じない耐油性を有している。したがって、カゼインフィルムは、食品の包装材に用いることで、食用油を含む食品や調味料、例えばドレッシングの包装材に用いることができる。カゼインフィルムが上記の耐油性を有していることは、これまで知られておらず、発明者の新規知見と考えられる。この新規知見によって、カゼインフィルムの用途の拡大を図ることができた。
・・・
【0019】
以上述べたように、上記のカゼインフィルムは、酸素バリア性、透明性、水溶性(可食性)、シール性ばかりでなく、耐油性及びデッドホールド性を有している。これらの特性は、食品又は薬品の用途の包装材として好ましい。なかでも耐油性及びデッドホールド性は、発明者が見出した特性と考えられ、包装材の用途をドレッシング用包装材や蓋材に拡大できる。
・・・
【0021】
本発明の包装用フィルムは、単層構造でもよいし、積層構造でもよい。積層構造の場合には、基材層とシール層とを少なくとも含む積層構造のうち、基材層がカゼインを含む層であってもよいし、シール層がカゼインを含む層であってもよい。
・・・
【0023】
本発明の包装用フィルムの製造方法は、例えば以下に述べる方法がある。カゼイン原料、例えばカゼインナトリウムと、保水剤としてのグリセリンと、水とを混合し、攪拌し、消泡のために冷蔵で約1日程度保存してから、バットに混合液を所定量で流し込み、常温、例えば25℃、24時間程度で乾燥させることにより、所定厚さのフィルムが得られる。カゼインナトリウムに対するグリセリンの配合割合は、質量割合でカゼインナトリウム100gに対して、グリセリンを20g~40g程度とするのが好適である。
【0024】
本発明の包装用フィルムを用いて、包装容器を製造することができる。包装容器は、例えば本発明の包装用フィルムの2枚を重ねて三方の縁部をヒートシールする三方袋や、四方の縁部をヒートシールする四方袋などを例示することができるが、包装容器は、これらの例に限定されない。」
(オ)「【実施例】
【0025】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
【0026】
水68gに、カゼインナトリウム9gとグリセリン3gとを混合し、攪拌し、冷蔵で1日保存し、バットに液を所定量流し込み、25℃で24時間乾燥して、厚さ40μm及び150μmの、厚さの異なる2種の透明性及び柔軟性の高いフィルムを得た。」
イ 甲1に記載された発明
以上より、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材層とシール層とを少なくとも含む積層構造の包装用フィルムであって、シール層がカゼインを含む層である積層構造の包装用フィルム。」
(2)甲2に記載された事項・発明
ア 甲2には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
低湿表面固有抵抗値(30℃、30%RH、印可電圧560Vで測定)が1012Ω以下である塗膜を形成しうることを特徴とするヒートシール性コート剤。
【請求項2】
(a)水性樹脂、及び(b)尿素、ポリエチレングリコール類、シリカ化合物類、セルロース類、カゼイン類のうち少なくとも一種類の添加剤を混合してなることを特徴とする請求項1記載のヒートシール性コート剤。
【請求項3】
水性樹脂が、水分散系樹脂であることを特徴とする請求項2に記載のヒートシール性コート剤。
【請求項4】
(I)基材からなる層及び(II)請求項1乃至3の何れかに記載のヒートシール性コート剤から得られるヒートシール層の二層を少なくとも一部に含んでいることを特徴とする、二層以上のヒートシール性多層構造体。」
(イ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
以上の問題点をすべて解決し、低温で充分なヒートシール性があり、耐侯性、耐水性、耐溶剤性、作業性(低湿度下での良好な表面固有抵抗値発現性)に優れ、また焼却時にハロゲン化水素、ダイオキシンなどの有毒ガスを発生する恐れのないヒートシール性コート剤及び包装材料を提供する。」
(ウ)「【0005】
【発明の実施の形態】
・・・
【0006】
また、本発明のヒートシール性コート剤は、(a)水性樹脂、及び(b)尿素、ポリエチレングリコール類、シリカ化合物類、セルロース類、カゼイン類のうち少なくとも一種類の添加剤を混合してなるものである。
【0007】
[(a)水性樹脂]水性樹脂については特に制限はないが、塗工剤の扱いやすさなどを考慮すると水溶性高分子よりは水分散系樹脂が好ましい。具体的にはアクリルエマルション、アイオノマーエマルション、アクリル/アイオノマー複合化エマルション、ポリオレフィンエマルションなどがより好ましい。
【0008】
[水分散体系樹脂の調製]本発明において使用する水分散体系樹脂の製造方法は、特に制限されない。また、本発明において使用する水分散体系樹脂は、通常、公知の機械乳化法、乳化重合法などにより製造することができる。アイオノマーエマルションの市販品の例としては、ケミパールS-100,S-650,S-659(何れも三井化学株式会社製商品名)などが挙げられる。乳化重合法によるアクリルエマルションの重合例としては特開平12-52502号公報が挙げられる。
【0009】
[(b)添加剤]本発明において添加剤としては尿素、ポリエチレングリコール類(ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノエステルもしくはジエステル類)、コロイダルシリカなどのシリカ化合物類、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース類、カゼイン類などの保水性・保湿性を有するものが挙げられる。なかでも尿素及び、ポリエチレングリコール類などが好ましく用いられ、さらに好ましくは尿素である。また、添加量は特に制限はないが、少なければ効果が小さく、また多すぎれば添加したほどの物性向上効果が見られないため、通常は水性樹脂の固形分100部に対して0.3~30重量部が好ましい。また、これらの添加剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を適切な比率で混合、併用しても構わない。
・・・
【0011】
このようにして得られるヒートシール性コート剤を、基材からなる層上に塗工してヒートシール層とすることで本発明のヒートシール性多層構造体を得ることができる。
【0012】
[基材]基材についても特に制限はなく、一般的に包装材に用いうるポリオレフィンフィルムなどが使用可能で、高圧法低密度ポリエチレン、中低圧法高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂等、α-オレフィンを50%以上含む重合体を主成分とする無延伸フィルム、一軸延伸フィルム及び二軸延伸フィルムが挙げられる。中でも、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリアミドフィルムが好ましい。基材の厚みについても特に制限はないが、フィルムの強度、加工性、経済性を考慮すると12~100μmが好ましい。また、ヒートシール層と基材との密着性向上のためにコロナ放電処理などの表面処理を行っても良い。
【0013】
上記のヒートシール性コート剤は、そのまま基材上に塗工しても良いし、基材との間に一層以上のプライマー層を設けても良い。使用されるプライマー種については特に制限はない。
・・・
【0016】
塗工量についても特に制限はないが、0.3g/m2~5.0g/m2が好ましい。薄すぎると塗膜欠陥等を生じて、充分なヒートシール性が得られず、逆に厚すぎるとヒートシールさせるのに時間、熱量がかかりすぎるなどコストの割には効果がない。」
イ 甲2に記載された発明
以上より、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリオレフィンフィルムなどからなる基材とヒートシール層とを有し、
前記ヒートシール層に添加剤としてのカゼインを含むヒートシール性多層構造体。」
(3)本件発明1について(甲1発明を主引用例とする理由)
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「基材層」と本件発明1の「紙基材」とは、積層体の基材である限りにおいて一致する。
(イ)甲1発明の「シール層」はヒートシール性を有するものであるから、本件発明1の「ヒートシール層」に相当する。
(ウ)カゼイン樹脂はカゼイン単体から構成されるものを含むことから、甲1発明の「カゼイン」は、本件発明1の「カゼイン樹脂」に相当する。
(イ)甲1発明の「積層構造の包装用フィルム」は、本件発明1の「包装材用積層体」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次の通りである。
【一致点1】
「基材とヒートシール層とを有し、前記ヒートシール層が、カゼイン樹脂を含む包装材用積層体。」
【相違点1】
本件発明1は、基材が「紙」であるのに対して、甲1発明は基材の材質が不明である点。
【相違点2】
本件発明1は、「ヒートシール層の全質量中の水分量が、7~20質量%である」のに対して、甲1発明は、ヒートシール層の水分量が不明である点。
イ 相違点1について
甲1には、基材層の材質についての具体的な記載はなく、甲1発明は、ガスバリア性、デッドホールド性に加え、耐油性に優れた包装用フィルムを提供することを課題(段落【0006】)とするものであるところ、ガスバリア性や耐油性の向上に紙基材が好適であるとはいえないから、甲3~甲5に記載されるように紙基材にヒートシール層を設けて包装材とすることが周知技術であったとしても、甲1発明の基材層として、紙基材を敢えて採用する動機付けはない。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 相違点2について
(ア)甲6のフィルムは、カゼイン樹脂を含む熱可塑性物質からなる単層構造のフィルムであり、当該フィルムをロールに巻き取った後に容易に解舒できることを課題とし(段落【0009】~【0010】)、フィルムに用いられる生分解性熱可塑性物質中の水の配合量を4~13%とする他、可塑剤、疎水性薬剤及び界面活性剤を含むようにしたもの(段落【0011】~【0012】)である。
甲6のフィルムは積層構造ではなく、ロールに巻き取った後に容易に解舒できるようにするための構成のうち、水の配合量を4~13%とすることのみを、ヒートシール性を向上させることを課題とする甲1発明のシール層の全質量中の水分量に採用することの動機付けはない。
(イ)また、甲7には、カゼイン単体の平衡含水量が、20%RHで8%、50%RHで12%、80%RHで17%であることが記載されている。
しかし、甲1発明のシール層はカゼイン以外の成分も含み得るものであり、他の成分も含み得る甲1発明のシール層の含水率が、甲7に記載されるガゼイン単体の平衡含水量となるとは必ずしもいえない。また、甲7のガゼインは、「顔料の凝集を防ぐ効果をもつ。」(甲7の65頁)と記載されるように、塗工紙用のバインダーとして用いられるものであって、ヒートシール性を向上させることを課題とする甲1発明のシール層の全質量中の水分量に採用することの動機付けはない。
(ウ)よって、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明、及び、甲6、7記載の事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
エ そうすると、本件発明1は甲1発明、甲6、7に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明1について(甲2発明を主引用例とする理由)
ア 甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「ポリオレフィンフィルムなどからなる基材」と、本件発明1の「紙基材」とは、ヒートシール層が積層される基材である限りにおいて一致する。
(イ)甲2発明のカゼイン樹脂は単体のカゼインから構成されるものを含むことから、ヒートシール層に添加剤として含まれる「カゼイン」は、本件発明1のヒートシール層に含まれる「カゼイン樹脂」に相当する。
(ウ)甲2発明の「ヒートシール性多層構造体」は、甲2の【0001】~【0003】に記載されるように包装材として用いられるから、本件発明1の「包装材用積層体」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次の通りである。
【一致点2】
「基材とヒートシール層とを有し、前記ヒートシール層が、カゼイン樹脂を含む包装材用積層体。」
【相違点3】
本件発明1は、基材が「紙」であるのに対して、甲2発明は基材がポリオレフィンフィルムなどである点。
【相違点4】
本件発明1は、「ヒートシール層の全質量中の水分量が7~20質量%である」のに対して、甲2発明は、ヒートシール層の水分量が不明である点。
イ 相違点3について
甲2発明の包装材用積層体の基材については特に制限はないとされるものの、ポリオレフィンフィルムが例示され、実施例、比較例においてはポリプロピレンフィルムが用いられており(段落【0012】、実施例)、甲3~甲5に記載されるように紙基材にヒートシール層を設けて包装材とすることが周知技術であったとしても、敢えて紙基材とする動機付けはない。
よって、相違点3に係る本件発明1の構成は、甲2発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 相違点4について
上記相違点2について検討した理由と同様に、甲6及び甲7の技術的事項を、ヒートシール性を向上させることを課題とする甲2発明のヒートシール層の全質量中の水分量に採用することの動機付けはない。
よって、相違点4に係る本件発明1の構成は、甲2発明、及び、甲6、7記載の事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
エ そうすると、本件発明1は甲2発明、甲6、7に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(3)、(4)で検討したものと同じ理由により、本件発明2~9は、甲1発明又は甲2発明、甲6、7に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由3(サポート要件)について
(1)判断
本件特許明細書の段落【0007】に記載されているように、本件発明の課題は「環境負荷を低減し、さらにヒートシール性及び耐ブロッキング性が良好であり、残留溶剤量が少ないヒートシール積層体及び包装体を提供すること」であると認められる。
そして、発明の詳細な説明には、ヒートシール層中の樹脂と水分量を変えた実施例、比較例について、ヒートシール強度、耐ブロッキング性、及び残留溶剤の観点で評価した結果が記載され、同じカゼイン樹脂(カゼイン樹脂-1)を用いた実施例と比較例の対比において、水分量が7質量%の実施例2と20質量%の実施例4に対し、6質量%の比較例1、22質量%の比較例2が、いずれもヒートシール強度、耐ブロッキング性、あるいは残留溶剤の点で評価が劣ることが確認されている。
また、異なるカゼイン樹脂(カゼイン樹脂-2)を用いた実施例9や、カゼインと水性ウレタン樹脂溶液を混合した実施例10~12も、水分量が12質量%について、ヒートシール強度、耐ブロッキング性、及び残留溶剤の評価は良好である。
これらの記載から、当業者であれば、本件発明が本件発明の課題を解決することを認識し得るものといえる。
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
(2)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、以下のとおり主張している。
「紙基材上にヒートシール層を設けるに際して、ヒートシール剤の組成(本件特許発明の場合、例えば、用いるカゼイン樹脂の構造、分子量やヒートシール剤中の含有量、他の樹脂を含有する場合はその種類など)、さらには添加物の種類等によって、そのヒートシール性や耐ブロッキング性が異なることは出願時における技術常識であることに鑑みれば、これらについて何ら特定されない本件特許発明に係る「ヒートシール層がカゼイン樹脂を含」む、包装用積層体、及びそれを用いた包装材、食品を包装した包装体、及び、その包装体の製造方法の発明によって、当業者は、上記本件特許発明の課題が解決し得ると直ちに認識することはできない。そして、上述のとおり、実施例におけるカゼイン樹脂-1については、その組成、含まれるカゼインの種類や構造や商品名等について何ら特定されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者が本件特許発明の課題を解決し得るヒートシール剤として具体的に開示されていると理解し得るのは、結局のところ、カゼイン樹脂-2を用いて特定の条件によって塗工、乾燥させたヒートシール剤(製造例2(HS2))に関する実施例9のみである。
したがって、本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明2~9は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載されているものとはいえない。」(特許異議申立書第19~20頁)
しかし、上記(1)で述べたように、7~20質量%の臨界的意義が示され、異なるカゼインや他の樹脂との混合溶液についても、本件発明の課題を解決することが確認されているのに対し、申立人は、本件発明1~9が、課題を解決できないとする根拠を具体的に示しておらず、申立人の上記主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人が提出した特許異議の申立の理由及び証拠によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701202