特許異議申立
2019-700612
グラビアインキおよび印刷物
- 審判番号
- 2019-700612
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-060016
- 登録番号
- 特許第6464403号(P6464403)
- 請求日
- 2019年08月02日
- 審決日
- 2020年02月04日
- 公報発行日
- 2020年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋インキSCホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者】東洋インキ株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【異議申立人】坂田 純子
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 川端 修
- 審判官 牟田 博一
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6464403号発明「グラビアインキおよび印刷物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6464403号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第6464403号の請求項1~5、7~10に係る特許を維持する。
特許第6464403号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6464403号の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成28年9月27日に出願された特願2016-187787号の一部を平成30年3月27日に新たな特許出願としたものであって、平成31年1月18日にその特許権の設定登録がされ、同年2月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年8月2日に特許異議申立人坂田純子(以下、単に「申立人」ともいう。)が特許異議の申立てを行った。当審は、同年10月2日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、その指定期間内である同年12月5日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和2年1月9日に意見書を提出した。
第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第6464403号の明細書及び特許請求の範囲の記載を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるというものであって、本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1~6のとおりである。
また、訂正事項1~5の請求項に係る訂正は、一群の請求項〔1-10〕に対して請求されたものである。また、訂正事項6の明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1-10〕について請求されたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(1)炭化水素系ワックス(B)の日本工業規格JISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5~12であり、かつ、平均粒子径が1~10μmである。」とあるのを、「(1)炭化水素系ワックス(B)の日本工業規格JISK2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5~12であり、融点が100~125℃であり、かつ、平均粒子径が1~10μmである。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5及び7~10も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。」と記載されているのを、「請求項1~5いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~10も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。」と記載されているのを、「請求項1~5、7、8いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。」に訂正する(請求項9の記載を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ」と記載されているのを、「請求項1~5、7~9いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0113】に記載された「なお、本明細書において実施例23~44、67~88以外は参考例である。」を「なお、本明細書において実施例24~28、30~44、68~72、74~88以外は参考例である。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の明細書の【0063】の「炭化水素系ワックス(B)は、DSC測定における融点が90~150℃であることが好ましく、更に好ましくは100~125℃である。」という記載等に基いて、訂正前の請求項1において、「炭化水素系ワックス(B)」について、融点が特定されていなかったものを、「融点が100~125℃であ」ることを特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正前の請求項7は訂正前の請求項1~6を引用するものであるところ、訂正事項3は、上記訂正事項2に係る請求項6の削除に伴って、訂正後の請求項7の引用請求項を、訂正後の請求項1~5とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正前の請求項9は訂正前の請求項1~8を引用するものであるところ、訂正事項4は、上記訂正事項2に係る請求項6の削除に伴って、訂正後の請求項9の引用請求項を、訂正後の請求項1~5、7、8とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5について
訂正前の請求項10は訂正前の請求項1~9を引用するものであるところ、訂正事項5は、上記訂正事項2に係る請求項6の削除に伴って、訂正後の請求項10の引用請求項を、訂正後の請求項1~5、7~9とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、本件訂正前の明細書中の実施例23~44、67~88において、訂正事項1に伴って、「炭化水素系ワックス(B)」の「融点が100~125℃であ」るものではない実施例23、29、67及び73を参考例とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)小括
上記のとおり、訂正事項1~6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正明細書及び訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~5、7~10に係る発明(以下、「本件発明1」なとどいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5、7~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材またはプラスチック基材に印刷するためのグラビアインキであって、バインダー樹脂(A)、炭化水素系ワックス(B)および有機溶剤を含有し、下記(1)~(3)を満たすことを特徴とする有機溶剤系グラビアインキ。
(1)炭化水素系ワックス(B)の日本工業規格JIS K 2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5~12であり、融点が100~125℃であり、かつ、平均粒子径が1~10μmである。
(2)グラビアインキ100質量%中、炭化水素系ワックス(B)を0.1~2.5質量%含有する。
(3)バインダー樹脂(A)は、ポリアミド樹脂(A3)/セルロース系樹脂(A2)、またはアクリル樹脂/セルロース系樹脂(A2)いずれかの組み合わせである二種の樹脂を質量比95/5~30/70で含有する。
【請求項2】
表刷り用であることを特徴とする、請求項1に記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項3】
バインダー樹脂(A)は、軟化点100~140℃のポリアミド樹脂(A3)と、窒素分が10.5~12.5質量%のニトロセルロースとを質量比95/5~30/70で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項4】
バインダー樹脂(A)は、ガラス転移温度が40~110℃のアクリル樹脂と、窒素分が10.5~12.5質量%のニトロセルロースとを質量比95/5~30/70で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項5】
炭化水素系ワックス(B)が、ポリエチレンワックス(b1)、ポリプロピレンワックス(b2)およびフィッシャー・トロプシュ・ワックス(b3)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1~4いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
更に、脂肪酸アミド(C)を含有し、炭化水素系ワックス(B)がポリエチレンワックス(b1)を含有し、
炭化水素系ワックス(B)と脂肪酸アミド(C)との質量比(B)/(C)が、80/20~20/80の範囲内であり、グラビアインキ100質量%中、脂肪酸アミド(C)とポリエチレンワックス(B)の合計は0.3~3質量%であることを特徴とする請求項1~5いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項8】
脂肪酸アミド(C)が、炭素数10~25の脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸アミドを含有することを特徴とする請求項7に記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項9】
更にキレート架橋剤としてチタンキレートをグラビアインキ中に0.5~2.0質量%含有することを特徴とする請求項1~5、7、8いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキ。
【請求項10】
請求項1~5、7~9いずれかに記載の有機溶剤系グラビアインキにより印刷された印刷物。」
第4 取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1~10に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「(進歩性)本件の訂正前の請求項1~10に係る発明は、下記の甲第1~11号証(以下、「甲1」などという。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
甲第1号証:特開2005-105049号公報
甲第2号証:特開2007-291360号公報
甲第3号証:特開2013-127038号公報
甲第4号証:特開平7-331154号公報
甲第5号証:特開2016-29122号公報
甲第6号証:特開2002-155228号公報
甲第7号証:特開2007-246822号公報
甲第8号証:特開2008-163231号公報
甲第9号証:檜垣寅雄、「機能化進む印刷インキ」、株式会社シーエムシー、昭和56年4月28日、238-239頁
甲第10号証:府瀬川健蔵、「改訂 ワックスの性質と応用 第2版」、株式会社幸書房、1993年3月1日、130-150頁
甲第11号証:特開2016-43600号公報」
第5 甲1、甲9、10の記載、及び、甲1に記載された発明
1 甲1
甲1には、「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス及びその使用方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(i)~(vii)で規定される印刷インキ用ポリエチレン系ワックス。
(i) エチレン単独重合体、もしくはエチレンと炭素原子数3~20のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体であり、
(ii) 135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.06~0.35dl/g、
(iii) ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定された重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.7~3.2の範囲、
(iv)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が1.5~2.0の範囲、
(v)密度が920~980kg/m3、
(vi)針入硬度が5dmm以下、及び
(vii)酸価が0.3~9.9KOH・mg/g
【請求項2】・・・(略)・・・
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のポリエチレン系ワックスを、体積平均粒径が0.3μm~10μmの範囲にある微粒子の形態で、芳香族溶剤を5重量%未満の割合で含有する印刷インキ中に0.1~10重量%の割合で添加して使用する方法。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷インキ用添加剤に関し、さらに詳しくは芳香族系溶剤を全く含有しない印刷インキ添加剤として高性能なワックス、及びその使用方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記に挙げた非芳香族溶剤中で安定に分散し、印刷インキの耐磨耗性及び耐ブロキング性が同時に改善されうるようなポリエチレン系ワックス、及びこのワックスを用いて製造された貯蔵安定性に優れた印刷インキ用ワックスディスパージョンを提供することである。」
「【0012】
本発明のポリエチレン系ワックスの針入硬度(JIS K2207で測定)は5dmm以下、好ましくは3dmm以下である。針入硬度が5dmm以下であれば適度な強度を持つために、印刷インキ用ワックスとして優れた耐磨耗性、耐ブロキング性を示す。」
「【0075】
次に本発明で使用するポリエチレン系ワックスの合成例を示す。
【実施例1】
【0076】
(ポリエチレン系ワックスの合成例1)
メタロセン触媒を用いて、次のようにしてポリエチレン系ワックスを合成した。十分に窒素置換した内容積2リットルのSUS製オートクレーブにヘキサン970ml及びプロピレン30mlを装入し、水素を1.3kg/cm2(ゲージ圧)となるまで導入した。次いで系内の温度を150℃に昇温した後、トリイソブチルアルミニウム0.3ミリモル、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.004ミリモル、(t-ブチルアミド)ジメチル(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)シランチタンジクロライド(シグマアルドリッチ社製)0.02ミリモルをエチレンで圧入することにより重合を開始した。その後、エチレンのみを連続的に供給することにより全圧を30kg/cm2(ゲージ圧)に保ち、150℃で20分間重合を行なった。
【0077】
少量のエタノールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のエチレン及びプロピレンをパージした。得られたポリマー溶液を、100℃減圧下で一晩乾燥した。その結果、[η]=0.13dl/g、密度が941kg/m3、Mw/Mn=2.6、Mz/Mw=1.7、針入硬度が4dmmであるポリエチレン系ワックスを85.5g得た。
【0078】
上記の合成作業を5回繰り返し、合成した5回分のメタロセン系ワックスを溶融混合した後、冷却しサンプル1とした。
【0079】
(酸化ポリエチレンワックスの製造例1)
2リットルのオートクレーブ(温度計、圧力計、ガス導入管、ガス排気管を備える)で酸化反応を実施した。400gのポリエチレン系ワックス(サンプル1)を溶融させ、内温が165℃に達した後、攪拌機を300min-1に設定し、1.2リットル/minで空気を溶融物中に導入した。このとき内圧は0.69MPaを示した。空気を導入しながら、反応温度を165℃、攪拌速度を300min-1、圧力を0.69MPaに維持し、1時間後に反応を終了した。その結果、[η]=0.13dl/g、密度が941kg/m3、Mw/Mn=2.6、Mz/Mw=1.7、針入硬度が3dmm、酸価1.1KOHmg/gであるポリエチレン系ワックス(サンプル1-E)を得た。
【0080】
(ポリエチレン系ワックスのディスパージョンの製造例1)
粉砕機による予備粉砕により体積平均粒径を約150μmにしたサンプル1-Eを25重量部と溶剤40重量部(イソプロピルアルコール20重量部、及び酢酸エチル20重量部)を1リットルのクロム鋼製ボールミルに入れて密閉後24時間回転粉砕した。その後、上記組成の溶剤を35重量部追加してポリエチレン系ワックス固形分が25重量%になるように希釈した。こうして得たディスパージョン(ディスパージョン1)の体積平均粒径は、マイクロトラック(ハネウェル社:HRA)で測定したところ、4.5μmであった。
【0081】
(ディスパージョンの貯蔵安定性評価例1)
ディスパージョン1を試験管(30φ×200mm)に入れて室温に10日間静置させ、その後ワックスの沈降により生じた溶剤層の高さを評価した。この高さが低いほど貯蔵安定性に優れる。結果は表2に記載した。
【0082】
(芳香族溶剤を含まない印刷インキの製造例1)
攪拌機,温度計,還流冷却器及び、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコにアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールから得られる数平均分子量2000のポリエステルジオール1000部とイソホロンジイソシアネート222部を仕込み、窒素気流下に90℃で6時間反応させた。次いで、イソホロンジアミン82部,ジ-n-ブチルアミン7.8部,酢酸エチル2143部及びイソプロピルアルコール 918部を添加し、攪拌下に50℃で3時間反応させ、固形分30%,25℃における粘度600cps,数平均分子量45,000のポリウレタン樹脂溶液(A)を得た。
【0083】
次にポリウレタン樹脂溶液(A)を50重量部、顔料を10重量部、酢酸エチルを22重量部、イソプロピルアルコールを5重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルを10重量部、純水を3重量部、及び上記のディスパージョン1を3重量部の割合で配合した後,攪拌混合し、サンドミルを使用して常法に従って顔料分散し、印刷インキ 組成物(インキ1)を得た。顔料としては、ジスアゾイエロー(東洋インキ 製造社製「リオノールイエロー1405G」)を使用した。
【0084】
(印刷インキの印刷例1)
評価における印刷は、インキ1を希釈溶剤(組成:酢酸エチル/イソプロピルアルコール=60重量部/40重量部)で希釈し、粘度を離合社製ザーンカップ#3で15秒に調整し、グラビア印刷機にて処理OPPフィルム(東洋紡社製「P-2161」,厚さ20μ)に行った。グラビア版としては、グラデーション部(5μ~40μ)及び35μベタ部の面付けのあるものを使用した。」
2 甲9
甲9の表5-30には、ポリエチレンワックスの融点が105~122℃であることが記載されている。
3 甲10
甲10の表4.2.2には、ポリエチレンワックスの融点が100~128℃であることが記載されている。
4 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の請求項3における印刷インキは、芳香族溶剤を5重量%未満の割合で含有する印刷インキであって、請求項1のポリエチレン系ワックスを、体積平均粒径が0.3μm~10μmの範囲にある微粒子の形態で、0.1~10重量%の割合で添加されたものといえる。
また、甲1の請求項1に記載された「針入硬度」は、【0012】から、「JIS K2207で測定」されたものである。
そうすると、甲1には、請求項3における印刷インキとして、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「芳香族溶剤を5重量%未満の割合で含有する印刷インキであって、
次の(i)~(vii)で規定される印刷インキ用ポリエチレン系ワックスを、体積平均粒径が0.3μm~10μmの範囲にある微粒子の形態で、0.1~10重量%の割合で添加された印刷インキ。
(i)エチレン単独重合体、もしくはエチレンと炭素原子数3~20のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体であり、
(ii)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.06~0.35dl/g、
(iii)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定された重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.7~3.2の範囲、
(iv)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたz平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が1.5~2.0の範囲、
(v)密度が920~980kg/m3、
(vi)JIS K2207で測定された針入硬度が5dmm以下、及び
(vii)酸価が0.3~9.9KOH・mg/g。」
第6 当審の判断
1 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1の「有機溶剤系グラビアインキ」と甲1発明の「印刷インキ」とは、「インキ」である点で共通する。
甲1発明の「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」は、「ポリエチレン」が炭化水素であるから、本件発明1の「炭化水素系ワックス(B)」に相当する。
また、本件発明1の「炭化水素系ワックス(B)」の「硬度(針入度)」と甲1発明の「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」の「針入硬度(dmm)」とは、いずれも「JIS K2207」で測定されたものであり、表記された単位も同じものといえるから、両者は、「0.5~5」の範囲で重複する。
そして、本件発明1の「炭化水素系ワックス(B)」の「平均粒子径」と甲1発明の「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」の「体積平均粒径」とは、「1~10μm」の範囲で重複する。
さらに、本件発明1における「炭化水素系ワックス(B)」の含有量と、甲1発明における「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」の含有量とは、「0.1~2.5質量%」の範囲で重複する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「インキであって、炭化水素系ワックス(B)を含有し、下記(1)~(2)を満たすインキ。
(1)炭化水素系ワックス(B)の日本工業規格JIS K 2207で規定された25℃における硬度(針入度)が、0.5~5であり、かつ、平均粒子径が1~10μmである。
(2)インキ100質量%中、炭化水素系ワックス(B)を0.1~2.5質量%含有する。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
インキについて、本件発明1は、「紙基材またはプラスチック基材に印刷するための有機溶剤系グラビアインキ」であって、「有機溶剤」を含有するのに対し、甲1発明は、このような規定はされていない点。
(相違点2)
「炭化水素系ワックス(B)」について、本件発明1は、「硬度(針入度)」が「0.5~12」、「融点」が「100~125℃」であり、「平均粒子径」が「1~10μm」、及び、含有量が「0.1~2.5質量%」であることが特定されているのに対し、甲1発明の「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」は、上記(i)~(vii)で規定され、「硬度(針入度)」は「5以下」、「平均粒子径」は「0.3μm~10μm」であり、含有量は「0.1~10重量%」であって、「融点」は規定されていない点。
(相違点3)
本件発明1は、「バインダー樹脂(A)」を含有し、「バインダー樹脂(A)」は「ポリアミド樹脂(A3)/セルロース系樹脂(A2)、またはアクリル樹脂/セルロース系樹脂(A2)いずれかの組み合わせである二種の樹脂を質量比95/5~30/70で含有する」のに対し、甲1発明は、このような規定はされていない点。
ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点2における「融点」について検討する。
甲1には、「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」の融点についての記載はなく、【0076】~【0078】に記載された「ポリエチレン系ワックスの合成例1」、【0079】に記載された「酸化ポリエチレンワックスの製造例1」を参照しても、その融点は明らかではない。また、【0079】の「2リットルのオートクレーブ(温度計、圧力計、ガス導入管、ガス排気管を備える)で酸化反応を実施した。400gのポリエチレン系ワックス(サンプル1)を溶融させ、内温が165℃に達した後、攪拌機を300min-1に設定し、・・・」という記載から、「ポリエチレン系ワックス(サンプル1)」は165℃で溶融していることから、その融点は165℃以下であることは理解できても、甲1発明の「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」の融点が「100~125℃」の範囲内のものかどうかは不明というほかない。
そして、甲9、10には、ポリエチレンワックスの融点が「100~125℃」の範囲内のものが記載されているとしても、甲1発明の「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」は上記(i)~(vii)で規定されるところ、甲9、10に記載されたポリエチレンワックスが、そのような規定を満たすかどうかも明らかではないことから、甲1発明における「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」が甲9、10に記載されたポリエチレンワックスに含まれるものであるとまではいえない。
そして、甲1発明において、「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」の融点によって、印刷インキの特性がどのように変わるかは当業者にとって明らかではないことから、上記(i)~(vii)で規定される「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」の融点を、「100~125℃」の範囲内のものとする動機付けは見出せない。
これに対し、本件発明1は、上記相違点2に係る発明特定事項を備えた「炭化水素系ワックス(B)」を用いることで、「本発明のグラビアインキにより、印刷適性や印刷層の光沢が良好であり、更に耐ブロッキング性および接着性での基材汎用性と、耐熱性、耐油性を両立することができた。」(本件明細書【0018】)という格別顕著な作用効果を奏するものであり、発明の詳細な説明においても、本件発明1の実施例は、上記融点が「100~125℃」の範囲に含まれない参考例67及び73に比較して、「耐ブロッキング性(耐防曇フィルム)」が向上したことが示されている。
また、甲2~8、11には、「印刷インキ用ポリエチレン系ワックス」の融点についての記載は見当たらない。
したがって、相違点1、3について検討するまでもなく、本件発明1は、周知技術を考慮したとしても、甲1発明及び甲2~11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
2 本件発明2~5、7~10
本件発明2~5、7~10は、本件発明1を引用し、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2~11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
3 申立人の主張について
申立人は、上記相違点2に関連して、次のように主張している。
「甲9、甲10に記載のように、ポリエチレン系ワックスの融点が100~120℃にあることは、周知技術であるところ、エチレンープロピレン共重体のような他の炭化水素系ワックスであってもその融点が大きく変わることはない。そして、炭化水素系ワックスの融点が、分子量を調製することで、仮に上記記載の100~120℃を多少外れることはあっても、常識的にはせいぜい80~150℃程度であり、広範な数値範囲を有するものではないところ、その中心値の100~125℃を選択し、端部の範囲を除外する補正は、見かけ上数値を限定しているようにみえるが、実質的な限定を付すものではない。
よって、相違点3’(当審注:「炭化水素系ワックス(B)の融点が100~125℃である」点)は実質的な相違点ではない。」(令和2年1月9日付け意見書の3頁下から8行~4頁1行)
しかしながら、上述したように、甲1発明の「印刷用インキ用ポリエチレン系ワックス」の融点は不明というほかないことから、当該融点は、実質的な相違点である。
そして、汎用のポリエチレン系ワックスの融点が100~120℃であり、汎用の炭化水素系ワックスの融点が80~150℃程度であるとしても、上述したように、甲1発明における上記(i)~(iv)で規定される印刷インキに特化したポリエチレン系ワックスについて、融点が100~125℃内のものを選択する動機付けはないし、その範囲内の融点のものは、そうでないものと比較して、耐防曇フィルム等に対する耐ブロッキング性が向上することは、当業者が予測し得るものではないことから、甲1発明の「印刷用インキ用ポリエチレン系ワックス」の融点として、100~125℃を選択することは当業者が容易に想到し得たこととはいえず、申立人の上記主張は採用できない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。
第8 むすび
以上のとおり、請求項1~5、7~10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~5、7~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項6に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700612