特許異議申立
2023-701175
溶接方法および溶接装置
- 審判番号
- 2023-701175
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-212256
- 登録番号
- 7354402
- 請求日
- 2023年11月07日
- 審決日
- 2024年12月10日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】古河電気工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】西村 裕之
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 鈴木 貴雄
- 審判官 堀内 亮吾
- 分類
- P1651.121-YAA(B23K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7354402号発明「溶接方法および溶接装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7354402号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~19〕、〔20~24〕について訂正することを認める。
特許第7354402号の請求項1、5~24に係る特許を維持する。
特許第7354402号の請求項2~4に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報の発行までの経緯
特許第7354402号(以下「本件特許」という。)の請求項1~24に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)6月4日(優先権主張 令和2年6月4日(以下「優先日」という。))を国際出願日とする国際特許出願である特願2022-528922の一部を、令和4年12月28日に新たな特許出願としたものであって、令和5年9月22日にその特許権の設定登録がされ、同年10月2日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許についての特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和5年11月7日
特許異議申立人 西村 裕之(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~24に係る特許に対する特許異議の申立て(申立てのために提出された特許異議申立書を以下単に「申立書」という。)
(2)令和6年5月28日付け(発送日:同月31日)
取消理由の通知 (以下「取消理由通知」という。)
(3)令和6年7月9~16日(同月17日の応対記録参照)
特許権者 古河電気工業株式会社(以下単に「特許権者」という。)との電話及び電子メールでの応対(面接審理の要望、調整、訂正案等の受信)
(4)令和6年7月17日(同日の面接記録参照)
特許権者との面接審理の実施
(5)令和6年7月30日
特許権者による、訂正の請求(請求された訂正を以下「本件訂正」といい、本件訂正のために提出された訂正請求書を以下単に「訂正請求書」という。)、及び意見書の提出
(6)令和6年9月13日
申立人による、意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容について
特許権者は、本件訂正により、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~24について訂正することを求めるところ、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付して示す。)。
<請求項1~19について>
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における、
「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射する、溶接方法。」
との記載を、
「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、
前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、
前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接方法。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5~19も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5における、
「請求項1~4のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1に記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6~19も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7における、
「請求項1~6のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5、6のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8~19も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8における、
「請求項1~7のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~7のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9~19も同様に訂正する。)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9における、
「請求項1~8のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~8のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10~19も同様に訂正する。)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10における、
「請求項1~9のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~9のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11~19も同様に訂正する。)。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11における、
「請求項1~10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12~19も同様に訂正する。)。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12における、
「請求項1~11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13~19も同様に訂正する。)。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項13における、
「請求項1~12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項13の記載を引用する請求項14~19も同様に訂正する。)。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項14における、
「請求項1~13のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~13のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項15~19も同様に訂正する。)。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項15における、
「請求項1~14のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~14のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項15の記載を引用する請求項16~19も同様に訂正する。)。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項16における、
「請求項1~15のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~15のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項16の記載を引用する請求項17~18も同様に訂正する。)。
(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項17における、
「請求項1~16のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~16のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する(請求項17の記載を引用する請求項18も同様に訂正する。)。
(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項18における、
「請求項1~17のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~17のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する。
(18)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項19における、
「請求項1~15のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
との記載を、
「請求項1、5~15のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」
に訂正する。
<請求項20~24について>
(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項20における、
「レーザ発振器と、
金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、
を備え、金属部材と複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射する、溶接装置。」
との記載を、
「レーザ発振器と、
金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、
を備え、前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、
前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、
前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接装置。」
に訂正する(請求項20の記載を引用する請求項21~24も同様に訂正する。)。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~19については、請求項2~19がそれぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、本件訂正前の請求項20~24については、請求項21~24がそれぞれ請求項20の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項19によって記載が訂正される請求項20に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1~19〕、〔20~24〕について請求をするものである。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、全ての請求項を対象としているので、訂正事項1~19に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件(すなわち、訂正後の請求項1、5~24に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件)は課されない。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
<一群の請求項1~19について>
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項1のうち、「レーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する」と訂正する点は、本件訂正前の「前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接」することが、レーザ光を照射することで「前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成」することによりなされることを具体的に限定するものである。
(イ)訂正事項1のうち、本件訂正前の「前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射し、」との記載を、「前記レーザ光を、前記複数の金属箔の・・・第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、」と訂正する点は、金属部材と複数の金属箔とを溶接するために金属箔の第二面上に照射するレーザ光が、その第二面上で掃引されることを具体的に限定するものである。
(ウ)訂正事項1のうち、新たに「前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、」という事項を訂正する点は、金属箔の第二面上に照射するレーザ光における、第一レーザ光が照射される領域と第2レーザ光が照射される領域との位置関係を付加して限定するものである。
(エ)訂正事項1のうち、新たに「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、」という事項を訂正する点は、金属箔の第二面上に照射するレーザ光の、第一レーザ光及び第2レーザ光のそれぞれにより、金属部材と複数の金属箔に形成される溶接金属の形成態様を付加して限定するものである。
(オ)上記(ア)~(エ)のとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1において特定されていた事項を具体的に限定し、第一及び第二レーザ光が照射される領域の位置関係や、溶接金属の形成態様を付加するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
(ア)訂正事項1のうち、「レーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する」と訂正する点は、本件明細書の段落【0050】に「溶接部14は、溶接金属14aを含んでいる。溶接金属14aは、表面Waから、金属部材11に向けて延びている。溶接金属14aは、第一部位14a1と、第二部位14a2とを有している。第一部位14a1は、主として第一レーザ光の照射によって形成され、第二部位14a2は、主として第二レーザ光の照射によって形成される。図2の例では、第二部位14a2は、表面WaからZ方向の反対方向に延びている。第二部位14a2は、第一部位14a1に対してZ方向に隣接している。すなわち、第一部位14a1は、第二部位14a2に対してZ方向の反対方向に隣接している。第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている。第一部位14a1は、複数の金属箔12と金属部材11とに渡って延びている。」(下線は当審にて付した。以下同様。)と記載されるように、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
(イ)訂正事項1のうち、「前記レーザ光を、前記複数の金属箔の・・・第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、」と訂正する点は、本件明細書の段落【0049】に「このようなレーザ光Lの照射により、溶接部14は、表面Waから、Z方向の反対方向に向けて延びることになる。Z方向の反対方向は、溶接部14の深さ方向とも称されうる。また、レーザ光Lが表面Wa上でX方向(掃引方向SD)に掃引されることにより、溶接部14は、図2と略同様の断面形状で、X方向にも延びることになる。X方向は、第二方向の一例である。溶接部14の長手方向や延び方向とも称されうる。また、Y方向は、溶接部14の幅方向とも称されうる。」と記載されるように、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(ウ)訂正事項1のうち、「前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、」と訂正する点は、本件明細書の段落【0054】に「図4は、表面Wa上に照射されたレーザ光Lのビーム(スポット)を示す模式図である。ビームB1およびビームB2のそれぞれは、そのビームの光軸方向と直交する断面の径方向において、たとえばガウシアン形状のパワー分布を有する。ただし、ビームB1およびビームB2のパワー分布はガウシアン形状に限定されない。また、図4のように各ビームB1,B2を円で表している各図において、当該ビームB1,B2を表す円の直径が、各ビームB1,B2のビーム径である。各ビームB1,B2のビーム径は、そのビームのピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域の径として定義する。なお、図示されないが、円形でないビームの場合は、掃引方向SDと垂直方向における、ピーク強度の1/e2以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義できる。また、表面Waにおけるビーム径は、スポット径と称する。」と記載され、段落【0055】に「図4に示されるように、本実施形態では、一例として、レーザ光Lのビームは、表面Wa上において、第一レーザ光のビームB1と第二レーザ光のビームB2とが重なり、ビームB2がビームB1よりも大きく(広く)、かつ、ビームB2の外縁B2aがビームB1の外縁B1aを取り囲むよう、形成されている。この場合、ビームB2のスポット径D2は、ビームB1のスポット径D1よりも大きい。表面Wa上において、ビームB1は、第一スポットの一例であり、ビームB2は、第二スポットの一例である。」と記載され、段落【0056】に「また、本実施形態では、図4に示されるように、表面Wa上において、レーザ光Lのビーム(スポット)は、中心点Cに対する点対称形状を有しているため、任意の掃引方向SDについて、スポットの形状は同じになる。」と記載され、さらに、図4として次の図:
「
[図:0001422398000001.jpg]
」
が示されていることから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(エ)訂正事項1のうち、「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、」と訂正する点は、本件明細書の段落【0050】に「溶接部14は、溶接金属14aを含んでいる。溶接金属14aは、表面Waから、金属部材11に向けて延びている。溶接金属14aは、第一部位14a1と、第二部位14a2とを有している。第一部位14a1は、主として第一レーザ光の照射によって形成され、第二部位14a2は、主として第二レーザ光の照射によって形成される。図2の例では、第二部位14a2は、表面WaからZ方向の反対方向に延びている。第二部位14a2は、第一部位14a1に対してZ方向に隣接している。すなわち、第一部位14a1は、第二部位14a2に対してZ方向の反対方向に隣接している。第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている。第一部位14a1は、複数の金属箔12と金属部材11とに渡って延びている。」と記載され、段落【0063】に「したがって、被溶接部位には、まずは、領域B2fにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、熱伝導型の溶融領域が生じる。その後、被溶接部位には、第一レーザ光の照射によって、より深いキーホール型の溶融領域が生じる。この場合、被溶接部位には、予め熱伝導型の溶融領域が形成されているため、当該熱伝導型の溶融領域が形成されない場合に比べて、より低いパワーの第一レーザ光によって所要の深さの溶融領域を形成することができる。さらにその後、被溶接部位には、領域B2bにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、溶融状態が変化する。」と記載され、さらに、図2として次の図:
「
[図:0001422398000002.jpg]
」
が示されていることから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(オ)上記(ア)~(エ)のとおり、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
なお、申立人は、申立人意見書において、訂正事項1が新規事項を追加するものである旨を主張しているが、当該主張は、以下の第8の2(1)で検討する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1において特定されていた事項を具体的に限定し、第一レーザ及び第二レーザが照射される領域の位置関係、並びに、溶接金属の形成態様を付加するように訂正するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2~4
ア 訂正の目的について
訂正事項2~4は、請求項2~4をそれぞれ削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2~4は、請求項を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2~4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(3)訂正事項5~18
ア 訂正の目的について
訂正事項5~18は、訂正事項2~4による請求項2~4の削除に伴い、請求項5~19における引用請求項から請求項2~4を除いて記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5~18は、訂正事項2~4による請求項2~4の削除に伴い、請求項5~18における引用請求項から請求項2~4を単に除くものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5~18は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
<一群の請求項20~24について>
(4)訂正事項19
ア 訂正の目的について
訂正事項19における、溶接装置に係る請求項20についての訂正は、訂正事項1における、溶接方法に係る請求項1についての訂正と、実質的に同様の事項で限定して訂正するものであるから、上記(1)アと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項19についての訂正は、上記アのとおり、訂正事項1と実質的に同様の事項にて訂正するものであるから、訂正事項19は、上記(1)イ及びウで検討した訂正事項1と同様に、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
5 小括
上記4(1)~(4)のとおり、訂正事項1~19に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~19〕、〔20~24〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められることから、本件特許の請求項1~24に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明24」という。なお、請求項2~4は削除されている。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~24に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、
前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、
前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記第二面における前記第二レーザ光の第二エネルギ密度に対する前記第二面における前記第一レーザ光の第一エネルギ密度の比が、1以上10以下である、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記第二面における前記第二レーザ光の第二エネルギ密度に対する前記第二面における前記第一レーザ光の第一エネルギ密度の比が、2以上8以下である、請求項5に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られている、請求項1、5、6のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項8】
前記金属部材の前記第一方向の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下であり、かつ前記複数の金属箔の層の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下である、請求項1、5~7のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項9】
前記レーザ光を、ウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記第二面に照射する、請求項1、5~8のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項10】
前記第二面上で、前記レーザ光を複数回掃引する、請求項1、5~9のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項11】
前記第二面上で、前記レーザ光を掃引し、前記第二面上での掃引の途中で前記第二面上での掃引速度を変更する、請求項1、5~10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項12】
前記第二面上で、前記レーザ光を掃引し、前記第二面上での掃引の途中で前記レーザ光のパワーを変更する、請求項1、5~11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項13】
前記金属部材は、めっき付き金属板を含む、請求項1、5~12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項14】
前記第二面上において、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットは、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットより広い、請求項1、5~13のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項15】
前記レーザ光は、前記第二面の法線方向が前記第一方向と略平行な状態で、前記第二面上に照射される、請求項1、5~14のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項16】
前記第二面上において、前記レーザ光によって前記第二面上に形成されるスポットの形状は、当該スポットの中心に対する点対称形状を有する、請求項1、5~15のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項17】
前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とが同軸で照射される、請求項1、5~16のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項18】
前記第二面上において、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットの中心と、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットの中心とが略一致する、請求項1、5~17のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項19】
前記第二面上において、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットと、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットとが、互いにずれている、請求項1、5~15のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項20】
レーザ発振器と、
金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、
を備え、前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、
前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、
前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接装置。
【請求項21】
前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを備えた、請求項20に記載の溶接装置。
【請求項22】
前記レーザ光が前記第二面上で前記第一方向と交差した第二方向に沿う掃引方向に移動するよう、前記レーザ光の出射方向を変化させるガルバノスキャナを備えた、請求項20または21に記載の溶接装置。
【請求項23】
前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、ウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記第二面に照射する、請求項20~22のうちいずれか一つに記載の溶接装置。
【請求項24】
前記光学ヘッドは、前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とを同軸で照射する、請求項20~23のうちいずれか一つに記載の溶接装置。」
第4 申立人が主張する申立ての理由の概要
1 申立書における申立ての理由について
申立人による申立ての理由は、以下のとおり整理することができる。
<進歩性(特許法第29条第2項、同法第113条第2号)について>
(1)申立ての理由1:請求項1~24
甲1に記載された発明を主引用発明とした、進歩性欠如(申立書第1~5、14~23、56~71ページ)
(2)申立ての理由2:請求項1~24
甲2に記載された発明を主引用発明とした、進歩性欠如(申立書第5~8、24~34、72~85ページ)
2 証拠方法
申立人による証拠方法は、書証として提出された、申立書に添付した甲第1号証~甲第13号証と、申立人意見書に添付した甲第14号証~甲第15号証である。
(1)甲第1号証:特開2015-217422号公報
(2)甲第2号証:国際公開第2018/159857号
(3)甲第3号証:武田 晋,「高出力ダイレクト半導体レーザ発振器の動向と適用事例」,レーザ加工学会誌,2019.10,Vol.26,No.3,p.13~19
(4)甲第4号証:特開2019-67570号公報
(5)甲第5号証:特開2020-17483号公報
(6)甲第6号証:特開2020-4643号公報
(7)甲第7号証:特開2011-224655号公報
(8)甲第8号証:特開2015-163412号公報
(9)甲第9号証:特開2018-187660号公報
(10)甲第10号証:特開2011-212711号公報
(11)甲第11号証:特開2019-5769号公報
(12)甲第12号証:特開平10-180469号公報
(13)甲第13号証:国際公開第2010/131298号
(14)甲第14号証:Markus Ruetering, “Hybrid Solution Moves
Boundaries of Copper Welding”, Photonics Views, 米国, John Wiley &
Sons, Inc., 2019.10.9, Vol.16, Issue 5, p.46-50(なお、uのウムラウトは「ue」と代替表記した。)
(15)甲第15号証:特開2019-93436号公報
(「甲第1号証」~「甲第15号証」を、以下それぞれ「甲1」等という。)
第5 当審より通知した取消理由の概要
取消理由通知における、本件訂正前の請求項1~24に係る特許に対する取消理由の要旨は、以下のとおりである。
<進歩性について(主引用発明:甲2に記載された発明)>
本件特許の請求項1~24に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲2に記載された発明、並びに、甲1及び甲4~甲13に記載された技術的事項に基づいて(以下の1~7を参照)、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
1 請求項1~4、20~22
引用した文献:甲2、甲4~甲6、甲13
2 請求項5~7
引用した文献:甲2、甲4~甲8、甲13
3 請求項8
引用した文献:甲1~甲2、甲4~甲8、甲13
4 請求項9
引用した文献:甲1~甲2、甲4~甲10、甲13
5 請求項10
引用した文献:甲1~甲2、甲4~甲11、甲13
6 請求項11~19
引用した文献:甲1~甲2、甲4~甲13
7 請求項23~24
引用した文献:甲2、甲4~甲6、甲9~甲10、甲13
第6 取消理由通知における取消理由について
本件訂正後の本件発明1、5~24について、取消理由通知にて示した取消理由(甲2に記載された事項から主引用発明を認定した進歩性欠如、上記第5)について、以下判断する。なお、申立人意見書において、実質的に新たな証拠方法として甲14~甲15が提示されているが、本件訂正により追加された事項についての証拠方法であって、本件訂正の内容に付随して提出されたものであるため、当審の判断は、甲14~甲15も踏まえて行う(審判便覧67-05.4の1.(2))。
1 本件発明1について
(1)本件発明1の認定
本件発明1は、上記第3の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
(2)甲2に記載された発明の認定
ア 甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)請求の範囲(請求項1~3、8、11~14、16)
「[請求項1]
加工対象を、レーザ装置からのレーザ光の照射される領域に配置し、
前記レーザ装置からの前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、
工程を含み、
前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、主ビームのパワー密度は副ビームのパワー密度以上である、
加工対象をレーザによって溶接する方法。
[請求項2]
前記主ビームのパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうる強度である、請求項1に記載の溶接方法。
[請求項3]
前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向後方に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する、請求項1に記載の溶接方法。」
「[請求項8]
前記主ビームおよび前記副ビームのうち少なくとも前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、請求項1に記載の溶接方法。」
「[請求項11]
前記主ビームおよび前記副ビームは、異なる発振器から出射されたレーザ光である、請求項1から請求項9の何れか1項に記載の溶接方法。
[請求項12]
前記主ビームおよび前記副ビームは、前記発振器と前記加工対象との間に配置されたビーシェイパ(当審注:「ビームシェイパ」の誤記と認める。)によって形成される、請求項1から請求項11の何れか1項に記載の溶接方法。
[請求項13]
前記ビームシェイパは回折光学素子である、ことを特徴とする請求項12に記載の溶接方法。
[請求項14]
前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材であり、前記加工対象をレーザ光の照射される領域に配置する前記工程は、前記少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である、請求項1から請求項13の何れか1項に記載の溶接方法。」
「[請求項16]
レーザ発振器と、
レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
によって構成され、
前記光学ヘッドは前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能な様に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、
前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、主ビームのパワー密度は副ビームのパワー密度以上である、
加工対象をレーザによって溶接するレーザ溶接装置。」
(イ)明細書
A 技術分野
「[0001]
本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。」
B 背景技術
「[0002]
鉄や銅などの金属材料を溶接する手法の一つとして、レーザ溶接が知られている。レーザ溶接とは、レーザ光を加工対象の溶接部分に照射し、レーザ光のエネルギーで溶接部分を溶融させる溶接方法である。レーザ光が照射された溶接部分には、溶融池と呼ばれる溶融した金属材料の液溜りが形成され、その後、溶融池の金属材料が固まることによって溶接が行われる。
[0003]
また、レーザ光を加工対象に照射する際には、その目的に応じ、レーザ光のプロファイルが成型されることもある。例えば、レーザ光を加工対象の切断に用いる場合に、レーザ光のプロファイルを成型する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
[0004]
従前は、レーザ光発生装置の出力が低かったので、反射率の低い(吸収率の高い)金属材料に対してのレーザ溶接が実用されてきたが、近時ではレーザ光発生装置の集光性も向上している傾向にあるので、銅やアルミ等の反射率の高い金属材料に対するレーザ溶接も実用化されつつある(例えば特許文献2~4参照)。」
C 先行技術文献 特許文献
「[0005]
・・・
特許文献4:国際公開第2010/131298号」
D 発明を実施するための形態(第1実施形態)
「[0047](第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、第1実施形態に係る溶接装置100は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。図1に示すように、溶接装置100は、レーザ光を発振する発振器110と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド120と、発振器110で発振されたレーザ光を光学ヘッド120へ導く光ファイバ130とを備えている。加工対象Wは、溶接されるべき少なくとも2つの部材である。
[0048]
発振器110は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器110は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
[0049]
光学ヘッド120は、発振器110から導かれたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド120は、内部にコリメートレンズ121と集光レンズ122とを備えている。コリメートレンズ121は、光ファイバ130によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ122は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
[0050]
光学ヘッド120は、加工対象Wにおけるレーザ光Lの照射位置を移動(掃引)させるために、加工対象Wとの相対位置を変更可能に設けられている。加工対象Wとの相対位置を変更する方法としては、光学ヘッド120自身を移動することや、加工対象Wを移動することなどが含まれる。すなわち、光学ヘッド120はレーザ光Lを、固定されている加工対象Wに対して掃引可能に構成されてもよい、または、光学ヘッド120からのレーザ光Lの照射位置は固定され、加工対象Wが、固定されたレーザ光Lに対して移動可能に保持されてもよい。加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程では、溶接されるべき少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させるまたは、隣接させるように配置する。
[0051]
第1実施形態に係る光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間にビームシェイパとしての回折光学素子123を備えている。ここでいう回折光学素子とは、図15に示す概念の様に周期の異なる複数の回折格子1501を1体にした光学素子1502を指している。これを通過したレーザ光は各回折格子の影響を受けた方向に曲げられ、重なり合い、任意の形にレーザ光を形成することができる。本実施形態において、回折光学素子123は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように、レーザ光Lを成型するためのものである。なお、回折光学素子123は、回転可能に設ける構成とすることができる。また、交換可能に設ける構成とすることもできる。
[0052]
ここで、主ビームまたは副ビームのパワー密度は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2の以上の強度の領域でのパワー密度である。また、主ビームまたは副ビームのビーム径は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2の以上の強度の領域の径である。円形でないビームの場合は、本明細書に於いては移動方向に対し垂直方向の、ピーク強度の1/e2以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義する。副ビームのビーム径は、主ビームのビーム径と略等しい又は大きくてもよい。
[0053]
加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有することの作用は、以下の通りである。図2A、2Bは、レーザ光が加工対象を溶融する状況の比較を示す図である。
[0054]
図2Aに示すように、従来のレーザ溶接では、レーザ光が1つのビームBを有しているので、レーザ光が照射された位置から移動方向(矢印v)の反対方向に、加工対象Wが溶融した溶融池WPが溶融領域として形成される。一方、図2Bに示すように、第1実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、加工対象W上におけるレーザ光のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームB1と副ビームB2とを有している。主ビームB1のパワー密度は、例えば、少なくともキーホールを発生させうる強度である。なお、キーホールについては後に詳述する。そして、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向(矢印v)の前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する。また、副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1の存在下または単独にて、加工対象Wを溶融し得る強度である。したがって、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い領域がある溶融池WP1が溶融領域として形成されることになる。これを便宜上、浅瀬領域Rと呼ぶことにする。
[0055]
図2Bに示すように、主ビームB1と副ビームB2のレーザ光のビームの溶融強度領域は、重なってもよいが、必ずしも重なる必要はなく、溶融池が重なればよい。副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、その溶融池に主ビームB1が形成する溶融強度領域が到達できればよい。上記のように、主ビームB1および副ビームB2のパワー密度は加工対象Wを溶融し得る強度であり、溶融強度領域とは、主ビームB1または副ビームB2の周囲における加工対象Wを溶融し得るパワー密度のレーザ光のビームの範囲のことをいう。
[0056]
第1実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1が照射される位置よりも前方に浅瀬領域Rが存在することで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1が安定化する。先述したように、スパッタは、溶融金属が飛散したものであるので、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1が安定化することは、スパッタの発生を抑制することにつながる。実際、後述する実験でも、このスパッタの発生を抑制する効果が確かめられた。
[0057]
第1実施形態に係る溶接方法は、加工対象Wを、レーザ装置である発振器110からのレーザ光Lの照射される領域に配置し、発振器110からのレーザ光Lを加工対象Wに向かって照射しながらレーザ光Lと加工対象Wとを相対的に移動させ、レーザ光Lを加工対象W上で掃引しつつ、照射された部分の加工対象Wを溶融して溶接を行う、工程を含む。このとき、レーザ光Lは、主ビームB1と、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームB2によって構成され、主ビームB1のパワー密度は副ビームB2のパワー密度以上である。加工対象Wは溶接されるべき少なくとも2つの部材である。加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程は、少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である。
[0058]
なお、副ビームB2のパワー密度は、浅瀬領域Rが、許容されるポロシティ(空隙状、内部から表面まで穴の開いたピット形状、ブローホール等の溶接欠陥)の直径よりも深くなるようなパワー密度とすることが好ましい。これにより、ポロシティの原因の一つである、加工対象Wの表面に付着した不純物が、浅瀬領域Rを流れて主ビームB1が形成する溶融池WP1に流れ込むので、ポロシティが発生しにくくなる。なお、許容されるポロシティの直径は、例えば加工対象Wの使用用途に応じて定まる。一般的には200μm以下が許容され、100μmが好ましく、50μm以下がさらに好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がより一層好ましく、10μm以下がさらに一層好ましく、全く存在しない事が最も好ましい。
[0059]
次に、図3A~3Fを参照しながら、加工対象上におけるレーザ光のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するための、レーザ光の断面形状の例を説明する。図3A~3Fに示すレーザ光の断面形状の例は、必須の構成ではないが、図3A~3Fに例示されるレーザ光の断面形状が加工対象Wの表面に実現されるように、回折光学素子123を設計することで、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルが実現される。なお、図3A~3Fに例示されるレーザ光の断面形状は、全て紙面上方(図中矢印v)を移動方向としている。
・・・
[0061]
図3Bは、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有するのみならず、主ビームB1の移動方向後方にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する例である。溶接加工は必ずしも前進のみではなく、後進も行うこともある。したがって、図3Bに示される例のように、主ビームB1の移動方向後方にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を設ければ、光学ヘッドの向きを変えずとも本発明の効果を得ることができる。
・・・
[0063]
図3Dは、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有するのみならず、主ビームB1の移動方向の後方および横方向にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する例である。つまり、図3Dに示される例は、図3Bおよび3Cに示される例の両方のメリットを併せ持つことになる。
[0064]
図3Eは、主ビームB1の周囲に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を分散して有する例である。図3A~3Dに示される例は、副ビームB2が線状に構成されていたが、ある程度近い間隔で副ビームB2を配置すれば、必ずしも副ビームB2が連続している必要はない。ある程度近い間隔で副ビームB2を配置すれば、浅瀬領域Rが繋がるので、実効的な効果が得られるからである。図3Fは、主ビームB1の周囲に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2をリング状に有する例である。図3Eとは逆に、副ビームB2を連続的に一周する形で設けることも可能である。
[0065]
なお、主ビームB1と副ビームB2との間の距離d(たとえば図3Aに示す)は、主ビームB1のビーム径の外縁と、副ビームB2のビーム径の外縁との最短距離である。距離dは、副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、その溶融池に主ビームB1が形成する溶融領域が到達できればよいが、副ビームB2のビーム径の2倍未満が好ましく、1倍未満がより好ましく、0.5倍未満がさらに好ましい。
[0066]
また、主ビームB1と副ビームB2とのパワー密度が等しくてもよい。」
E 発明を実施するための形態(第4実施形態)
「[0077](第4実施形態)
図6は、第4実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。図6に示すように、第4実施形態に係る溶接装置400は、加工対象Wにレーザ光L1,L2を照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第4実施形態に係る溶接装置400は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置400の装置構成の説明のみを行う。
[0078]
図6に示すように、溶接装置400は、レーザ光を発振する複数の発振器411,412と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド420と、発振器411,412で発振されたレーザ光を光学ヘッド420へ導く光ファイバ431,432とを備えている。
[0079]
発振器411,412は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器411,412は、それぞれの内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
・・・
[0081]
第4実施形態に係る光学ヘッド420も、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように構成されている。すなわち、光学ヘッド420が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やすことにより、図3に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成され得る。」
F 発明を実施するための形態(すべての実施形態に関して)
「[0093]
なお、本明細書のすべての実施形態に関して、主ビームの溶接形態は、キーホール型溶接であってもよいし、熱伝導型溶接であってもよい。ここでいうキーホール溶接とは、高いパワー密度を用い、加工対象Wが溶融した際に発生する金属蒸気の圧力により発生するくぼみや穴(キーホール)を利用した溶接方法である。一方、熱伝導型溶接とは、母材の表面でレーザ光が吸収されて発生した熱を利用して加工対象Wを溶融させる溶接方法である。」
G 発明を実施するための形態(レーザ光の断面形状の例)
「[0100]
図11、12は、レーザ光の断面形状の例を示す図であって、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低いV字状の副ビームB2を有する例である。図11は主ビームB1と副ビームB2とが重なっている例であり、図12は主ビームB1と副ビームB2とが重なっていない例である。」
H 発明を実施するための形態(金属材料の反射率)
「[0101](金属材料の反射率)
ここで、金属材料の反射率について説明する。図13に示すグラフは、代表的金属材料の反射率を光の波長に関して示したものである。図13に示すグラフは、横軸を波長とし、縦軸を反射率とするものであり、金属材料の例として、アルミニウム、銅、金、ニッケル、白金、銀、ステンレス鋼、チタン、およびスズを記載している。なお、図13に示すグラフは、NASA TECHNICAL NOTE (D-5353)に記載のデータをグラフ化したものである。
[0102]
図13に示すグラフから読みとれるように、ステンレス鋼などと比べると、銅およびアルミニウムなどは反射率が高い。特に、レーザ溶接において一般的に用いられる赤外レーザ光の波長領域ではその差は顕著である。例えば、1070nm付近では銅やアルミニウムの反射率が95%程度であることから、照射したレーザ光のエネルギーの5%程度しか加工対象に吸収されないことになる。これは、ステンレス鋼と比較すると、照射するエネルギーの効率が6分の1程度になってしまっていることを意味する。
[0103]
一方、銅やアルミニウムなどの反射率が高いといっても、全ての波長の光に対して反射率が高いわけではない。特に、銅における反射率の変化は顕著である。上述のように、1070nm付近での銅の反射率は95%程度であったものが、黄色の波長(例えば600nm)では、銅の反射率は75%程度となり、そこから急峻に減少し、紫外光の波長(例えば300nm)では、銅の反射率は20%程度となる。したがって、一般的な赤外レーザ光を用いるよりも、青や緑のレーザ光を用いたレーザ溶接の方がエネルギーの効率が高い。具体的には、300nmから600nmの間の波長のレーザ光を用いることが好ましい。
[0104]
なお、上記波長の範囲は一例であり、対象材料の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長のレーザ光を用いてレーザ溶接を行えば、反射率の観点で、エネルギーの効率が高い溶接が行える。この場合の赤外領域とは、一般的なレーザ溶接に用いられる赤外レーザ光の波長である1070nmとすることが好ましい。
[0105]
以下で説明する本発明の実施形態に係る溶接方法および溶接装置は、上記特性を活用したものである。」
I 発明を実施するための形態(第7実施形態)
「[0111]
一方、図14Bに示すように、第11実施形態(当審注:「第7実施形態」の誤記と認める。[0113]についても同様。)に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、加工対象W上におけるレーザ光のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームB1と副ビームB2とを有している。そして、パワー密度が高い主ビームB1よりも掃引方向(矢印v)の前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する。また、副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1の存在下または単独にて、加工対象Wを溶融し得る強度である。したがって、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い溶融池が形成されることになる。これを便宜上、前方溶融池WPfと呼ぶことにする。
[0112]
図14Bに示すように、主ビームB1と副ビームB2のレーザ光のビームの溶融強度領域は、必ずしも重なる必要はなく、溶融池が重なればよい。つまり、副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、前方溶融池WPfに主ビームB1が形成する溶融強度領域が到達できればよい。上記のように、主ビームB1および副ビームB2のパワー密度は加工対象Wを溶融し得る強度であり、溶融強度領域とは、主ビームB1または副ビームB2の周囲における加工対象Wを溶融し得るパワー密度のレーザ光のビームの範囲のことをいう。
[0113]
第11実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1が照射される位置よりも前方に前方溶融池WPfが存在することで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化する。先述したように、スパッタは、溶融金属が飛散したものであるので、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化することは、スパッタの発生を抑制することにつながる。
[0114]
しかも、第7実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1および副ビームB2のうち少なくとも副ビームB2(本例では両方)を形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池WPfを効率良く形成することができる。
[0115]
第7実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1におけるパワー密度よりも、副ビームB2におけるパワー密度が低いことが好ましい。より具体的には、副ビームB2におけるパワー密度は、1×107W/cm2以下であることが好ましい。副ビームB2の目的は、主ビームB1が照射される位置よりも前方に前方溶融池WPfを形成することであり、前方溶融池WPfの作用は、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化することにある。前方溶融池WPfの深さは、溶融池WPを安定させる程度の浅いもので十分であり、しかも、先述のように、副ビームB2を形成するレーザ光を加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長とすることで加工対象に対する反射率が低減されるので、パワー密度が過度に高いことが要求されない。副ビームのパワー密度が過度に高いと、副ビーム自体がスパッタ発生の一因となってしまう。一方、主ビームの目的は加工対象Wを十分に溶融し、加工対象を確実に溶接することが求められている。これらを考慮すると、主ビームB1におけるパワー密度よりも、副ビームB2におけるパワー密度が低いことが好ましいことになる。」
J 発明を実施するための形態(第10実施形態)
「[0125](第10実施形態)
第10実施形態に係る溶接装置は、図6に示す第4実施形態に係る溶接装置400によって実現できる。
[0126]
第10実施形態では、レーザ発振器411とレーザ発振器412とは、異なるレーザ発振器であり、同一の波長のレーザ光を発振してもよいが、異なるレーザ光を発振するように構成してもよい。その場合、主ビームおよび副ビームのうち副ビームを形成するレーザ光L2の波長が300nmから600nmの間の波長となるように、レーザ発振器412を構成する。
[0127]
光学ヘッド420は、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有するように構成されている。すなわち、光学ヘッド420が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やすことにより、図3A~3F、11、12に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成され得る。
[0128]
第10実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビームを形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池を効率良く形成することができる。一方、主ビームを形成するレーザ光L1の波長は、必ずしも加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長とする必要がないので、レーザ発振器411は、従来品と同様に、赤外波長の高出力レーザ発振器を用いることができる。つまり、本実施形態では、副ビームを形成するレーザ光の波長は、主ビームを形成するレーザ光の波長における加工対象の反射率よりも低い反射率を持つ波長となる。赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、溶融状態では反射率が低くなるので、レーザ発振器411は、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等の赤外波長の高出力レーザ発振器を用いても十分に加工対象を溶融することができる。」
K 発明を実施するための形態(検証実験2)
「[0139](検証実験2)
ここで、本発明の効果の検証実験2の結果について説明する。本検証実験2で用いられる装置構成は、第7実施形態に係る溶接装置の構成であり、溶接装置100と同じ構成である。・・・なお、共通の実験条件として、光学ヘッド120と加工対象Wとの掃引速度を毎分5mとし、シールドガスとして窒素ガスを用いている。なお、加工対象Wは厚み2mmのタフピッチ銅を採用している。
・・・
[0141]
第2の実験条件では、レーザ発振器110として、発振波長450nmの半導体レーザ装置を用い、これを1kWの出力で使用する。使用する回折光学素子123は、図10に示されるような照射面形状のレーザ光が加工対象Wに照射されるように設計されたものである。出力の分配は、1kWの出力のうち300Wを半円状の副ビームにほぼ均等に分配している。このとき、主ビームの平均パワー密度は2.2×106W/cm2であり、副ビームの平均パワー密度は8.0×104W/cm2である。
[0142]
上記実験条件の下、検証実験を行ったところ、以下のような結果が得られた。
・・・
[0144]
一方、第2の実験条件では、レーザ発振器の出力が1kWであったにも拘わらず、銅材は波長450nmにおける吸収率が高いので、所望の深さまで溶接をすることができ、しかも、掃引方向前方に配した300Wの半円状の副ビームク(当審注:「副ビーム」の誤記と認める。)によって前方溶融池を形成することも可能であった。結果、副ビームによって形成された前方溶融池の効果により、スパッタおよび溶接欠陥が顕著に少なくなり、20%程度またはそれ以下になることが高速度カメラ観察から確認された。」
(ウ)図面
「[図1]
[図:0001422398000003.jpg]
[図2B]
[図:0001422398000004.jpg]
[図3B]
[図:0001422398000005.jpg]
[図3D]
[図:0001422398000006.jpg]
[図3E]
[図:0001422398000007.jpg]
[図3F]
[図:0001422398000008.jpg]
[図6]
[図:0001422398000009.jpg]
[図11]
[図:0001422398000010.jpg]
[図13]
[図:0001422398000011.jpg]
[図14B]
[図:0001422398000012.jpg]
」
イ 上記アから、甲2には以下の事項が記載されているといえる。
(ア)甲2の、請求項14、段落[0050]、[0057]には、「加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程では、溶接されるべき少なくとも2つの部材を重ねる」旨が記載され、並びに、段落[0002]~[0004]に記載された背景技術、段落[0047]~[0066]、図1~3に記載された第1実施形態、及び、段落[0125]~[0128]、図6に記載された第10実施形態についての記載から、
甲2には、赤外領域のレーザ光の反射率の高い銅やアルミニウムなどを含む、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wに対して、レーザ光Lを照射して前記重ねた加工対象Wにわたる溶接金属を形成することにより、前記重ねた加工対象Wを溶接する溶接方法が記載されている、といえる。
(イ)甲2の、第10実施形態における段落[0126]及び[0128]の記載から、甲2に記載されたレーザ光Lは、赤外波長の高出力レーザ発振器411からのレーザ光L1と、レーザ発振器412からの300nmから600nmの間の波長であるレーザ光L2と、を含むことがわかる。また、甲2における、赤外波長のレーザ光L1の波長は、段落[0104]の記載から1070nmであるとわかり、また、300nmから600nmの間の波長であるレーザ光L2の波長として、段落[0141]、[0144]の記載から、450nmが例示されていることがわかる。してみると、甲2に記載のレーザ光Lは、1070nmの赤外波長のレーザ光L1と、450nmの波長のレーザ光L2と、を含むものである、といえる。
(ウ)甲2の、第1実施形態における段落[0050]の記載、第10実施形態における段落[0127]の記載から、甲2に記載された溶接方法は、加工対象Wにおけるレーザ光Lの照射位置を、加工対象Wのレーザ光Lが照射される面(以下「照射面」という。)上で掃引するものである、といえる。そして、段落[0127]の記載から、レーザ光L1は主ビームB1を形成するために用いられ、レーザ光L2は副ビームB2を形成するために用いられ、少なくとも主ビームB1よりも掃引方向前方に副ビームB2が位置するように構成されるものであって、段落[0059]~[0064]及び[0100]の記載から、加工対象Wの照射面上における主ビームB1及び副ビームB2のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、図3A~3F及び11に例示されるレーザ光の断面形状のような好適なものとして実現されることが理解できる。
(エ)甲2の、段落[0052]の記載から、主ビームB1または副ビームB2のビーム径は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域の径で定義されることがわかる(以下、主ビームB1の、ピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域を「主ビームB1強度領域」といい、副ビームB2の、ピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域を「副ビームB2強度領域」という。)。そして、上記(ウ)から、主ビームB1強度領域と副ビームB2強度領域とは、段落[0100]の記載から、図11のように、少なくとも一部が重なってもよいことが理解され、副ビームB2強度領域は、図3B、3D~3Fのように、主ビームB1強度領域と重ならない、主ビームB1強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有するように形成してもよいことが理解できる。
(オ)甲2の、段落[0093]の記載から、甲2に記載された溶接方法における溶接形態には、高いパワー密度を用い、加工対象Wが溶融した際に発生する金属蒸気の圧力により発生するくぼみや穴(キーホール)を利用した「キーホール型溶接」と、母材の表面でレーザ光が吸収されて発生した熱を利用して加工対象Wを溶融させる「熱伝導型溶接」とがあることが理解できる。
そして、段落[0054]の記載から、副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1よりも低く、単独にて加工対象Wを溶融し得る強度であって、図2Bに示されるように、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い浅瀬領域Rを溶融領域として形成することを理解できる。また、段落[0115]の記載から、副ビームB2のパワー密度は、図14Bに示されるように、スパッタの発生することのない、前方溶融池WPfを形成する程度のものであり、段落[0126]、[0128]の記載から、甲2の第10実施形態では、副ビームB2を形成するレーザ光L2の波長が300nmから600nmの間の波長となるようにレーザ発振器412を構成し、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長で、前方溶融池WPfを効率良く形成するものであることがわかる。してみると、甲2に記載された溶接方法では、レーザ光L2によって、加工対象Wの照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより、前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rを形成するといえる。
一方、段落[0054]の記載から、主ビームB1のパワー密度は、キーホールを発生させうる強度であることがわかり、また、段落[0128]の記載から、甲2の第10実施形態では、主ビームB1を形成するレーザ光L1は高出力レーザ発振器411を用いていることから、甲2に記載された溶接方法では、レーザ光L1によってキーホールを生じさせる「キーホール型溶接」により、加工対象Wを溶接するといえる。さらに、段落[0112]~[0115]の記載から、図14Bに示されるように、副ビームB2で形成された前方溶融池WPfが固化する前に、前方溶融池WPfに主ビームB1が形成する溶融強度領域である主ビームB1強度領域が到達できるようにすることで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1の状態が安定化し、スパッタの発生が抑制された状態で、加工対象Wを十分に溶融し、加工対象Wを確実に溶接することがわかる。すなわち、レーザ光L1によって、少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wのうち、照射面から最も離れた部材とも確実に溶接がされるように、前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rに対して照射面とは反対側に隣接する位置から、照射面から最も離れた部材内まで延びるように、溶融池WP1が形成されるものと理解できる。
ウ 上記ア~イからみて、甲2の、第10実施形態(当該実施形態は、第4実施形態及び第1実施形態を参照するものである。)として記載された事項を、本件発明1に合わせて整理すると、甲2には以下の発明(以下「甲2発明A」という。)が記載されているといえる。
(括弧内には、甲2に記載の事項に対応する本件発明1の発明特定事項、又は、甲2の参照箇所を記載した。以下、同様。)
「銅やアルミニウムなどの金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wに対して、レーザ光L(レーザ光)を照射して前記重ねた加工対象Wにわたる溶接金属を形成することにより、前記重ねた加工対象Wを溶接する溶接方法であって(上記イ(ア)を参照。)、
前記レーザ光Lは、1070nmの赤外波長(800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長)のレーザ光L1(第一レーザ光)と、450nm(400[nm]以上500[nm]以下)の波長のレーザ光L2(第二レーザ光)と、を含み(上記イ(イ)を参照。)、
前記レーザ光Lを、前記重ねた加工対象Wの照射面(第二面)上に照射するとともに前記照射面上で掃引し(上記イ(ア)、(ウ)を参照。)、
前記照射面上で、前記レーザ光L1のピーク強度の1/e2以上の主ビームB1強度領域(第一強度領域)の少なくとも一部が、前記レーザ光L2のピーク強度の1/e2以上の副ビームB2強度領域(第二強度領域)と重なり、前記副ビームB2強度領域は、前記主ビームB1強度領域と重ならない、当該主ビームB1強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し(上記イ(ウ)、(エ)を参照。)、
前記レーザ光L2によって前記重ねた加工対象Wの前記照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前方溶融池WPfとしての浅瀬領域R(前記溶接金属の第二部位)を形成するとともに、前記レーザ光L1によってキーホールを発生させる(キーホール型溶融を生じさせる)ことにより、前記前方溶融池WPfとしての浅瀬領域R(第二部位)に対して前記照射面とは反対側に隣接した位置から、前記重ねた加工対象Wのうち前記照射面から最も離れた部材(前記金属部材)内まで延びる溶融池WP1(前記溶接金属の第一部位)を形成する(上記イ(オ)を参照。)、溶接方法。」
エ 甲2の段落[0004]~[0005]に特許文献4として挙げられた甲13の、段落[0001]~[0004]には、リチウムイオン二次電池等を製造する工程におけるレーザ反射率の高い部材に対するレーザ溶接に関して記載されることからみて、甲2発明Aは、リチウムイオン二次電池等を製造する工程におけるレーザ反射率の高い部材に対するレーザ溶接の方法に適用されることも想定されている、と理解できる。
(3)甲4~甲6に記載された技術的事項
ア 甲4に記載された技術的事項
(ア)甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
従来から、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug in Hybrid Vehicle)などの車両には、電動機などへの供給電力を蓄える蓄電装置としてリチウムイオン二次電池などが搭載されている。二次電池は、複数のシート状の正極電極と負極電極とが絶縁された状態で交互に積層された電極組立体と、該電極組立体を収容するケースとを備える。
【0003】
正極電極及び負極電極は、金属箔と、金属箔の両面又は片面に存在する活物質層と、活物質層が存在せず、金属箔が露出する未塗工部とを有する。未塗工部は、例えば、金属箔の一辺から突出したタブである。電極組立体は、各極性のタブが積層された未塗工部群としてのタブ群を備える。二次電池からの電力の取り出しは、電極組立体と電気的に接続された電極端子を通して行われる。電極組立体と電極端子とは、タブ群と電極端子に導電部材を溶接することで電気的に接続されている。
【0004】
ところで、タブ群と導電部材との溶接において、タブ群を構成するタブの枚数が多くなるほど、全てのタブを一度に溶接する際のタブの積層方向における溶け込み深さが深くなるため、溶接に要するレーザ光のエネルギーが大きくなる。この場合、タブ群のうちレーザ光の照射位置に近いタブに破れが生じることがある。これに対し、例えば特許文献1では、保護板と導電部材とでタブ群を挟み込んでレーザ溶接することで、溶接時のタブの破れを抑制している。
・・・
【0006】
しかしながら、保護板は、タブ群と導電部材を溶接する際に、タブ群に溶接されるため、タブ群と導電部材とを溶接する度に必要になる。また、保護板は、二次電池の部品点数の増加につながる。
【0007】
本発明の目的は、保護板を用いなくても未塗工部の破れの発生を抑制できる溶接用治具及び溶接部の形成方法を提供することにある。」
「【0021】
正極電極21及び負極電極22は、矩形シート状の金属箔24を備える。正極電極21の金属箔24は、例えばアルミニウム箔であり、負極電極22の金属箔24は、例えば銅箔である。正極電極21及び負極電極22は、金属箔24の両面に存在する活物質層25を備える。活物質層25は、極性に応じた活物質、導電材、及びバインダを含む。正極電極21及び負極電極22は、一対の長辺に沿う縁部のうち一方の縁部の一部から突出した矩形状のタブ26を備える。本実施形態では、タブ26の長手方向は、縁部からのタブ26の突出方向と一致する。タブ26は、活物質層25が存在せず、金属箔24が露出する未塗工部である。
【0022】
電極組立体12は、各正極電極21のタブ26が正極電極21、負極電極22、及びセパレータ23が積層される方向の一端に集箔されて積層された未塗工部群としてのタブ群18を備える。同様に、電極組立体12は、各負極電極22のタブ26が正極電極21、負極電極22、及びセパレータ23が積層される方向の一端に集箔されて積層された未塗工部群としてのタブ群18を備える。タブ26が積層される方向を積層方向とする。各タブ群18は、電極組立体12において蓋14と対向している端面12aに存在する。電極組立体12は、タブ26の突出方向におけるタブ群18の基端部及び先端部が折り曲げられた状態でケース11に収容される。なお、図3以降では、説明の便宜上、タブ群18を折り曲げずに延ばした状態で図示している。
【0023】
図3(a)及び図3(b)に示すように、二次電池10は、溶接部31を備える。図3(a)に示すように、溶接部31は、積層方向全てのタブ26をレーザ溶接して形成されている。なお、タブ群18の積層方向を上下方向とし、タブ群18の積層方向一端を下端とするとともに、積層方向他端を上端とする。タブ群18を積層方向他端側(上側)から見たとき、溶接部31は直線的に延びる帯状である。溶接部31の長手は、タブ26の短手方向に延びる。溶接部31の長手方向への長さは、例えば、タブ26の短手方向への長さが22mmであれば10mmに設定され、溶接部31の短手方向への長さは例えば1.0mmに設定される。なお、溶接部31の長手方向への長さは、タブ26の短手方向への長さの範囲内であれば適宜変更してもよいし、溶接部31の短手方向への長さは、タブ26の長手方向への長さの範囲内であれば適宜変更してもよい。
【0024】
なお、図3(c)に示すように、溶接部31は、スポット径50μmのレーザ光Rを、タブ26の長手方向(溶接部31の短手方向)へ往復させながら、タブ26の短手方向(溶接部31の長手方向)に移動させて形成されている。本実施形態では、溶接部31の長手方向は、レーザ光Rの進行方向であり、溶接部31の短手方向は、進行方向に対する直交方向である。」
「【0025】
次に、溶接用治具を用いた溶接部の形成方法について説明する。
溶接部の形成方法は、集箔工程、加圧工程及び溶接工程を備える。
集箔工程は、電極組立体12が備える複数枚のタブ26を集箔してタブ群18を形成する工程である。集箔工程は、図5又は図6に示すように、作業台Sに載置された導電部材17上に、電極組立体12の全てのタブ26を配置する。すなわち、積層方向一端のタブ26より外側(下側)に導電部材17を配置する。
【0026】
なお、導電部材17は、既に電極端子15に接合されるとともに、その電極端子15は蓋14に締結されており、蓋14に導電部材17が一体化されている。よって、図6に示すように、導電部材17は蓋14から若干離れた状態で片持ち支持されている。導電部材17の上にタブ26が配置された状態では、全てのタブ26は、蓋14に片持ち支持された導電部材17の上に配置される。次に、図示しない集箔装置によって、タブ26を挟んだ導電部材17の反対側(積層方向他端側)から全てのタブ26を押圧して集箔し、タブ群18を形成する。
【0027】
加圧工程は、タブ群18を積層方向他端から加圧する工程である。加圧工程には、溶接用治具50が用いられる。ここで、溶接用治具50について説明する。
溶接用治具50は、セラミックス製であり、セラミックスとしてはマシナブルセラミックスや窒化ケイ素などが挙げられる。なお、マシナブルセラミックスは、雲母などを複合した機械切削加工しやすい快削性セラミックスのことである。本実施形態では、マシナブルセラミックスとして、熱伝導率が低く、かつ耐熱衝撃性が高いものを使用しており、例えば、SiO2・AlO2を主成分としたホトベール(登録商標)や、AlN・BNを主成分としたものシェイパルMソフト(登録商標)が挙げられる。」
「【0041】
図6に示すように、溶接工程は、溶接部31を形成する工程である。溶接工程はレーザ溶接によって行われる。レーザ照射装置62によって、タブ群18を加圧している溶接用治具50の貫通孔53にレーザ光Rを照射し、貫通孔53にレーザ光Rを通過させる。つまり、タブ群18の積層方向他端のタブ26にレーザ光Rを照射する。そして、図3(c)に示すように、レーザ光Rを進行方向に移動させる。このとき、溶接用治具50によってタブ群18を加圧しておくことにより、タブ群18において、第1押圧部52a同士の間では、各タブ26が引っ張られ、突っ張った状態となる。その結果、積層方向に隣り合うタブ26同士が密着した状態でレーザ溶接が行われ、溶接部31が形成される。」
「【0042】
次に、本実施形態の作用効果を記載する。
(1)溶接用治具50の接触部52のうち、一対の第1押圧部52aの間隔K1を50μmより広く、かつ5mm以下に設定した。このため、溶接用治具50によりタブ群18を加圧したとき、タブ26において、一対の第1押圧部52aで挟まれた部分を突っ張らせることができる。その結果、積層方向に隣り合うタブ26同士を密着させた状態としながら、溶接用治具50にレーザ光Rを通過させることで溶接部31を形成できる。このため、積層方向に溶融が進みやすくなり、レーザ光Rの照射位置に近いタブ26にエネルギーが集中することが抑制される。よって、保護板を用いることなくタブ26の破れの発生を抑制できる。その結果として、タブ群18と導電部材17のレーザ溶接の度に保護板を用いる場合と比べると、溶接工程が容易となるとともに、二次電池10の部品点数の増加もない。」
「【図2】
[図:0001422398000013.jpg]
【図3】
[図:0001422398000014.jpg]
【図5】
[図:0001422398000015.jpg]
【図6】
[図:0001422398000016.jpg]
」
(イ)上記(ア)から、甲4には、以下の技術的事項(以下「甲4記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。
「リチウムイオン二次電池など(段落【0002】)の二次電池10のアルミニウムからなる正極電極21及び銅からなる負極電極22(段落【0021】)として、導電部材17(金属部材)の上(第一面上)に積層方向(第一方向)に配置された(重ねられた)複数のタブ26(金属箔)に対して(段落【0025】、図5)、前記導電部材17(金属部材)の反対側からレーザ光R(レーザ光)を照射して複数のタブ26と導電部材17とにわたる溶接部31(溶接金属)を形成する(段落【0023】、【0041】、図3、図6)ことにより、前記導電部材17(金属部材)と複数のタブ26(金属箔)とを溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光R(レーザ光)を、複数のタブ26(金属箔)のうち前記積層方向(第一方向)において前記導電部材17(金属部材)から最も離れたタブ26(金属箔)の前記導電部材17(金属部材)とは反対側の積層方向の他端側の面(第二面)上に照射するとともに積層方向の他端側の面(第二面)上で移動し(掃引し)(段落【0023】~【0024】、【0041】、図3、図6)、
前記レーザ光R(レーザ光)によって前記積層方向の他端側の面(第二面)から前記導電部材17(金属部材)内まで延びる前記溶接部31(溶接金属)を形成する(段落【0023】、【0041】、図2~3)こと。」
イ 甲5に記載された技術的事項
(ア)甲5には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
従来から、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug in Hybrid Vehicle)などの車両には、電動機などへの供給電力を蓄える蓄電装置としてリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などが搭載されている。特許文献1には、従来の二次電池として、金属箔と、金属箔の少なくとも片面に存在する活物質層と、活物質層が存在せず、金属箔が露出した未塗工部とを有する複数の電極が積層され、かつ未塗工部が積層された未塗工部群を備える電極組立体と、電極組立体と外部装置とを接続する端子構造と、未塗工部群と端子構造とが重ねられた状態でレーザ溶接された溶接部とを備えたものが開示されている。溶接部は、重ねられた未塗工部群及び端子構造に対し、未塗工部群側からレーザを照射することで形成される。」
「【0004】
ところで、未塗工部群を構成する未塗工部の枚数を増やすほど、溶接部の溶け込み深さを深くする必要がある。溶接部の溶け込み深さは、溶接時の入熱量(レーザの出力)を増大させることで深くできる。しかしながら、入熱量を増大させ過ぎると、未塗工部群を構成する複数の未塗工部のうち、レーザの照射側に位置する未塗工部が溶断して他の未塗工部から剥離し、剥離した未塗工部と他の未塗工部とが溶接されないことがある。この場合、剥離した未塗工部を有する電極と端子構造とが電気的に接続されず、二次電池の出力が低下してしまう。」
「【0017】
正極電極21は、矩形状の金属箔としての正極金属箔24と、正極金属箔24の両面に存在する活物質層としての正極活物質層25とを有する。本実施形態の正極金属箔24の材料は、アルミニウム(熱伝導率:236[W/m・K])である。正極電極21は、長手方向に沿う縁部のうちの一方の縁部にタブ側縁部21aを備える。正極電極21は、タブ側縁部21aの一部から突出した矩形状の正極のタブ26を有する。正極のタブ26は、正極活物質層25が存在せず、正極金属箔24が露出した未塗工部である。正極のタブ26の長手方向は、タブ側縁部21aからのタブ26の突出方向と一致し、正極のタブ26の短手方向は、タブ側縁部21aに沿う方向と一致する。
【0018】
負極電極22は、矩形状の金属箔としての負極金属箔27と、負極金属箔27の両面に存在する活物質層としての負極活物質層28とを有する。本実施形態の負極金属箔27の材料は、銅(熱伝導率:398[W/m・K])である。負極電極22は、長手方向に沿う縁部のうちの一方の縁部にタブ側縁部22aを備える。負極電極22は、タブ側縁部22aの一部から突出した矩形状の負極のタブ26を有する。負極のタブ26は、負極活物質層28が存在せず、負極金属箔27が露出した未塗工部である。負極のタブ26の長手方向は、タブ側縁部22aからのタブ26の突出方向と一致し、負極のタブ26の短手方向は、タブ側縁部22aに沿う方向と一致する。」
「【0020】
図1に示すように、二次電池10は、電極組立体12から電気を取り出すための各極性の端子構造16を備える。正極の端子構造16の材料はアルミニウムであり、負極の端子構造16の材料は銅である。各端子構造16は、矩形状の導電部材16aと、導電部材16aから突出する電極端子16bとを有する。正極の導電部材16aは、後述の溶接部18によって正極のタブ群15に接合され、負極の導電部材16aは、後述の溶接部18によって負極のタブ群15に接合される。積層方向の一端に位置する正極電極21のタブ26は、正極の導電部材16aと対向し、積層方向の一端に位置する負極電極22のタブ26は、負極の導電部材16aと対向する。各電極端子16bは、蓋14の貫通孔14aを貫通してケース11外に突出する。各電極端子16bの先端部には、二次電池10同士を電気的に接続する図示しない外部装置としてのバスバーが固定可能である。各端子構造16は、電極組立体12とバスバーとを電気的に接続する。二次電池10は、蓋14と各端子構造16の電極端子16bとを絶縁するための絶縁リング17を備える。
【0021】
図3に示すように、二次電池10は、正極のタブ群15と、正極の端子構造16の導電部材16aとが重ねられた状態で溶接された正極の溶接部18を備える。また、二次電池10は、負極のタブ群15と端子構造16の導電部材16aとが重ねられた状態で溶接された負極の溶接部18とを備える。各溶接部18は、キーホール方式のレーザ溶接によって形成される。溶接部18は、レーザ溶接の熱により、タブ群15及び端子構造16の導電部材16aが溶融した後に凝固し、タブ群15と導電部材16aとが一体となった部分である。
【0022】
各溶接部18は帯状である。溶接部18の長手方向は、タブ26の短手方向に延び、溶接部18の短手方向は、タブ26の長手方向に延びている。図2に示すように、タブ群15と導電部材16aとが重なる方向において、溶接部18の最深部18aは、導電部材16aの厚さ方向の半分程度まで到達している。よって、溶接部18は、導電部材16aにおける電極端子16b側の面からは視認されない。
【0023】
次に、二次電池の製造方法の一部について説明する。
二次電池の製造方法は、電極組立体12が備える複数のタブ26を集箔してタブ群15を形成する集箔工程と、タブ群15と導電部材16aとを溶接して溶接部18を形成する溶接工程と、溶接部18を検査する溶接検査工程とを含む。
【0024】
集箔工程では、図示しない作業台に載置された導電部材16a上に、電極組立体12の全てのタブ26を配置する。次に、図示しない集箔装置によって、タブ26を挟んで導電部材16aの反対側から全てのタブ26を押圧することで、タブ26を積層方向の一端側に集箔しタブ群15を形成する。導電部材16aにおける電極端子16bが突出する面とは反対側の面は、タブ群15を構成する複数のタブ26のうち、積層方向の一端に位置するタブ26と対向する。
【0025】
溶接工程では、まず、タブ群15の上方に配置された図示しない治具によって、タブ群15を導電部材16aに向けて押圧する。なお、タブ群15において押圧される部分は、後に溶接部18となる部分を囲む部分であり、タブ群15において溶接部18となる部分は押圧されず、露出している。これにより、タブ群15を構成する積層方向に隣り合うタブ26同士、及びタブ群15と導電部材16aとは密接する。
【0026】
次に、図4に示すように、治具によりタブ26同士及びタブ群15と導電部材16aとを密接させた状態で、レーザ照射装置30によって、重ねられたタブ群15及び導電部材16aに向けてタブ群15側からレーザを照射する。本実施形態のレーザ照射装置30は、連続波のレーザを照射しながらタブ26の短手方向の一端から他端に向けて移動する。よって、タブ群15及び導電部材16aに対するレーザの照射位置は移動する。
【0027】
タブ群15においてレーザが照射された部分とその周辺では、タブ群15の溶融が急激に進むとともに、金属蒸気の反跳力により、溶融した金属が押し広げられることでキーホールHが形成される。レーザは、形成されたキーホールH内に侵入するとともにキーホールH内で多重反射する。これにより、キーホールHの深さは更に深くなる。そして、キーホールHの最深部が導電部材16aまで到達すると、タブ群15及び導電部材16aが溶融した溶融部が形成される。レーザの通過後、溶融部が凝固することで、タブ群15と導電部材16aとが溶接された溶接部18が形成される。溶接部18の長手方向は、レーザ照射装置30の移動方向、すなわちレーザの進行方向と一致し、溶接部18の短手方向は、タブ26に沿い、かつレーザの進行方向と直交する方向と一致する。
【0028】
なお、レーザの照射により形成されたキーホールHは、溶融部が凝固して溶接部18となる前に、溶融した金属の表面張力によって埋められる。また、レーザの照射条件は、レーザが導電部材16aを貫通しないような条件に設定される。レーザの照射条件とは、レーザの出力、スポット径、導電部材16aの厚さ方向における焦点の位置、レーザ照射装置30の移動速度などを指す。溶接工程では、レーザの出力によっては、レーザの照射側である積層方向の他端側に位置するタブ26への入熱量が多くなることで、積層方向の他端側に位置するタブ26が溶断し、溶断したタブ26が隣り合うタブ26から剥離することがある(図6(a)参照)。」
「【0052】
○ タブ26及び端子構造16の材料は、アルミニウムや銅に限定されない。タブ26及び端子構造16の材料は、熱伝導率が200[W/m・K]以上の導電性材料であるのが好ましい。熱伝導率が200[W/m・K]以上の導電性材料としては、例えば、アルミニウムや銅の金めっき(熱伝導率:295[W/m・K])や、アルミニウムや銅の銀めっき(熱伝導率:418[W/m・K])が挙げられる。」
「【図2】
[図:0001422398000017.jpg]
【図4】
[図:0001422398000018.jpg]
【図5】
[図:0001422398000019.jpg]
【図6】
[図:0001422398000020.jpg]
」
(イ)上記(ア)から、甲5には、以下の技術的事項(以下「甲5記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。
「リチウムイオン二次電池など(段落【0002】)の二次電池10のアルミニウムからなる正極電極21及び銅からなる負極電極22(段落【0017】~【0018】、【0020】~【0021】)として、導電部材16a(金属部材)の上(第一面上)に積層方向(第一方向)に配置された(重ねられた)複数のタブ26(金属箔)に対して(段落【0024】、図4)、前記導電部材16a(金属部材)の反対側からレーザ(レーザ光)を照射して複数のタブ26と導電部材16aとにわたる溶接部18(溶接金属)を形成する(段落【0025】~【0028】、図4~6)ことにより、前記導電部材16a(金属部材)と複数のタブ26(金属箔)とを溶接する溶接方法であって、
前記レーザ(レーザ光)を、複数のタブ26(金属箔)のうち前記積層方向(第一方向)において前記導電部材16a(金属部材)から最も離れたタブ26(金属箔)の前記導電部材16a(金属部材)とは反対側の積層方向の他端側の面(第二面)上に照射するとともに積層方向の他端側の面(第二面)上で移動し(掃引し)(段落【0025】~【0028】、図4)、
前記レーザ(レーザ光)によってキーホール型溶融を生じさせることにより(段落【0027】~【0028】)前記積層方向の他端側の面(第二面)から前記導電部材16a(金属部材)内まで延びる前記溶接部18(溶接金属)を形成する(段落【0022】、【0027】~【0028】、図4~5)こと。」
ウ 甲6に記載された技術的事項
(ア)甲6には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
従来から、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug in Hybrid Vehicle)などの車両には、電動機などへの供給電力を蓄える蓄電装置としてリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などが搭載されている。特許文献1に開示の二次電池は、複数の電極が積層された電極組立体を備える。電極は、金属箔と、金属箔の少なくとも片面に存在する活物質層と、活物質層が存在せず、金属箔が露出した未塗工部(芯体露出部)とを有する。電極組立体は、未塗工部が積層された未塗工部群を備える。二次電池は、電極組立体と外部装置とを接続する端子(集電用部材)と、未塗工部群と端子とがレーザ溶接により一体となった接合部を備える。」
「【0004】
このような二次電池において、接合強度が低い場合、例えば、二次電池を車両に搭載した後に車両が振動すると、未塗工部群と端子との接合や未塗工部群を構成する未塗工部同士の接合が解除されることがある。未塗工部群と端子との接合が解除されると、電極組立体から電気を取り出せなくなってしまう。また、未塗工部群を構成する未塗工部同士の接合が解除されると、未塗工部群における電気抵抗が増大してしまう。よって、接合強度の向上が望まれている。」
「【0016】
正極電極21は、矩形状の金属箔としての正極金属箔24と、正極金属箔24の両面に存在する活物質層としての正極活物質層25とを有する。本実施形態の正極金属箔24の材料は、アルミニウム(熱伝導率:236[W/m・K])である。正極金属箔24は、アルミニウムの基材が圧延されることにより形成される。正極電極21は、長手方向に沿う縁部のうちの一方の縁部にタブ側縁部21aを備える。正極電極21は、タブ側縁部21aの一部から突出した矩形状の正極のタブ26を有する。正極のタブ26の長手方向は、正極電極21の短手方向と一致し、正極のタブ26の短手方向は、正極電極21の長手方向と一致する。正極のタブ26は、正極活物質層25が存在せず、正極金属箔24が露出した未塗工部である。図4(b)に示すように、正極金属箔24において、アルミニウムの結晶は、細長形状であり、タブ26の長手方向に延びている。
【0017】
負極電極22は、矩形状の金属箔としての負極金属箔27と、負極金属箔27の両面に存在する活物質層としての負極活物質層28とを有する。本実施形態の負極金属箔27の材料は、銅(熱伝導率:398[W/m・K])である。負極金属箔27は、銅の基材が圧延されることにより形成される。負極電極22は、長手方向に沿う縁部のうちの一方の縁部にタブ側縁部22aを備える。負極電極22は、タブ側縁部22aの一部から突出した矩形状の負極のタブ26を有する。負極のタブ26の長手方向は、負極電極22の短手方向と一致し、負極のタブ26の短手方向は、負極電極22の長手方向と一致する。負極のタブ26は、負極活物質層28が存在せず、負極金属箔27が露出した未塗工部である。図4(b)に示すように、負極金属箔27において、銅の結晶は、細長形状であり、タブ26の長手方向に延びている。」
「【0019】
図1に示すように、二次電池10は、電極組立体12から電気を取り出すための各極性の端子16を備える。正極の端子16の材料はアルミニウムであり、負極の端子16の材料は銅である。各端子16は、矩形状の板部16aと、板部16aから突出する軸部16bとを有する。正極の端子16の板部16aは正極のタブ群15に接合され、負極の端子16の板部16aは負極のタブ群15に接合される。各軸部16bは、蓋14の貫通孔14aを貫通してケース11外に突出する。各軸部16bの先端部には、二次電池10同士を電気的に接続する図示しない外部装置としてのバスバーが固定可能である。各端子16は、電極組立体12とバスバーとを電気的に接続している。二次電池10は、蓋14と各端子16の軸部16bとを絶縁するための絶縁リング17を備える。」
「【0021】
図4(a)に示すように、二次電池10は、正極のタブ群15と正極の端子16の板部16aとが接合され、一体となった正極の接合部32と、負極のタブ群15と端子16の板部16aとが接合され、一体となった負極の接合部32とを備える。電極組立体12は、接合部32により、端子16と一体化される。
【0022】
各接合部32は、キーホール方式のレーザ溶接によって形成される。接合部32は、レーザ溶接の熱により、タブ群15及び端子16の板部16aが溶融した後に凝固することで金属組織が変化するとともに、タブ群15と端子16の板部16aとが一体となった部分である。タブ群15と端子16とが重なる方向において、接合部32の最深部32aは、端子16の板部16aの厚さ方向の半分程度まで到達している。各タブ群15及び各端子16の板部16aにおいて、接合部32の外側で、溶接前と変わらず分離している部分は、非接合部31である。
【0023】
接合部32の外側では更に、接合部32と非接合部31との間に熱影響部33が存在する。熱影響部33は、レーザ溶接の熱により、溶融までは至らないものの、タブ群15及び端子16の板部16aの金属組織が変化した部分である。つまり、上述した接合部32と熱影響部33は、レーザ溶接により、タブ群15及び端子16の板部16aの金属組織が変化した部分である。接合部32及び熱影響部33を合わせて溶接部30とする。」
「【0029】
次に、二次電池10の製造方法の一部について説明する。
二次電池10の製造方法は、電極組立体12が備える複数のタブ26を集箔してタブ群15を形成する集箔工程と、タブ群15と端子16の板部16aとを接合し、溶接部30を形成する接合工程と、電極組立体12をケース11に収容する収容工程とを含む。
【0030】
集箔工程では、図示しない金属製の作業台に載置された端子16の板部16a上に、電極組立体12の全てのタブ26を配置する。次に、図示しない集箔装置によって、タブ26を挟んで板部16aの反対側から全てのタブ26を押圧して集箔し、タブ群15を形成する。板部16aにおける軸部16bが突出する面とは反対側の面は、タブ群15を構成する複数のタブ26のうち、積層方向の一端に位置するタブ26と対向する。
【0031】
接合工程では、まず、タブ群15の上方に配置された図示しない金属製の治具によって、タブ群15を端子16の板部16aに向けて押圧する。なお、タブ群15において押圧される部分は、溶接部30となる部分を囲む部分であり、溶接部30となる部分は押圧されない。これにより、タブ群15を構成する積層方向に隣り合うタブ26同士、及びタブ群15と板部16aとは密接する。次に、治具によりタブ26同士及びタブ群15と板部16aとを密接させた状態で、図示しないレーザ照射装置によって、タブ群15側からタブ群15と板部16aに向けてレーザを照射する。本実施形態のレーザ照射装置は、レーザを照射しながら板部16aの長手方向の一端から他端に向けて移動する。
【0032】
タブ群15においてレーザが照射された部分とその周辺では、タブ群15の溶融が急激に進むとともに、金属蒸気の反跳力により溶融した金属が押し広げられることでキーホールが形成される。レーザは、形成されたキーホール内に侵入するとともにキーホール内で多重反射する。これにより、キーホールの深さは更に深くなる。そして、キーホールの最深部が端子16の板部16aまで到達すると、タブ群15及び端子16の板部16aが溶融した溶融部が形成される。レーザの通過後、溶融部が凝固することで、タブ群と端子16の板部16aとが一体となった接合部32が形成される。また、溶融部が形成される際に、非接合部31と溶融部との間には熱影響部33が形成される。つまり、溶接部30が形成される。レーザの照射により形成されたキーホールは、溶融部が凝固して接合部32となる前に、溶融した金属の表面張力によって埋められる。なお、レーザの照射条件は、レーザが端子16の板部16aを貫通しないような条件に設定される。レーザの照射条件とは、レーザの出力、スポット径、端子16の板部16aの厚さ方向における焦点の位置、レーザ照射装置の移動速度などを指す。タブ群15及び端子16の溶接部30は、レーザ照射後、自然冷却される。熱影響部33における結晶の成長、すなわち結晶粒径の粗大化は、冷却により緩やかになる。
【0033】
ここで、上述したようにタブ26及び端子16の材料はアルミニウムや銅であり、アルミニウムや銅の熱伝導率は、例えば、鋼の熱伝導率(熱伝導率:67[W/m・K])と比較して高い。このため、本実施形態のタブ26及び端子16の冷却速度は、タブ26及び端子16の材料が鋼である場合の冷却速度よりも速い。また、結晶粒径は、冷却時間が長くなるほど粗大化することが一般に知られている。よって、本実施形態の熱影響部33の結晶粒径は、タブ26及び端子16の材料が鋼である場合の熱影響部33の結晶粒径よりも小さくなる。その結果、タブ26及び端子16の材料が鋼である場合、熱影響部33の結晶粒径は、非接合部31の結晶粒径よりも大きくなるのに対し、本実施形態の熱影響部33の結晶粒径は、非接合部31の結晶粒径よりも小さくなる。」
「【0048】
○ タブ26及び端子16の材料は、アルミニウムや銅に限定されず、熱伝導率が200[W/m・K]以上の導電性材料であればよく、例えば、アルミニウムや銅の金めっき(熱伝導率:295[W/m・K])でもよいし、アルミニウムや銅の銀めっき(熱伝導率:418[W/m・K])でもよい。タブ26及び端子16の材料の熱伝導率が200[W/m・K]以上であれば、熱影響部33の結晶粒径は非接合部31の結晶粒径よりも小さくなる。」
「【図2】
[図:0001422398000021.jpg]
【図4】
[図:0001422398000022.jpg]
」
(イ)上記(ア)から、甲6には、以下の技術的事項(以下「甲6記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。
「リチウムイオン二次電池など(段落【0002】)の二次電池10のアルミニウムからなる正極電極21及び銅からなる負極電極22(段落【0016】~【0017】、【0019】)として、端子16の板部16a(金属部材)の上(第一面上)に積層方向(第一方向)に配置された(重ねられた)複数のタブ26(金属箔)に対して(段落【0030】)、前記端子16の板部16a(金属部材)の反対側からレーザ(レーザ光)を照射して複数のタブ26と端子16の板部16aとにわたる溶接部30(溶接金属)を形成する(段落【0023】、【0031】~【0032】、図2、図4)ことにより、前記端子16の板部16a(金属部材)と複数のタブ26(金属箔)とを溶接する溶接方法であって、
前記レーザ(レーザ光)を、複数のタブ26(金属箔)のうち前記積層方向(第一方向)において前記端子16の板部16a(金属部材)から最も離れたタブ26(金属箔)の前記端子16の板部16a(金属部材)とは反対側の積層方向の他端側の面(第二面)上に照射するとともに積層方向の他端側の面(第二面)上で移動し(掃引し)(段落【0031】~【0032】、図4)、
前記レーザ(レーザ光)によってキーホール型溶融を生じさせることにより(段落【0022】、【0032】)前記積層方向の他端側の面(第二面)から前記端子16の板部16a(金属部材)内まで延びる前記溶接部30(溶接金属)を形成する(段落【0022】、【0031】~【0032】、図4)こと。」
(4)甲14、甲3に記載された技術的事項
ア 甲14に記載された技術的事項
(ア)甲14には、以下の事項が記載されている。
A 46ページ 第1~8行
「For copper joining, blue diode lasers have made it possible to
・・・ and in so doing moves the boundaries of copper welding
altogether.」
<日本語訳>
(なお、日本語訳については、申立人が提出した翻訳文(以下「甲14翻訳文」という。)に基づく。日本語訳については、以下同様。)
「銅の接合では、青色ダイオードレーザーにより、熱伝導溶接の制御が初めて可能になりました。銅の深堀り溶接(当審注:甲14翻訳文では「深絞り溶接」と記載されているが、「深堀り溶接」の誤記と認める。「深絞り溶接」の誤記については、以下同様。)では、赤外線レーザーでも満足のいく結果が得られず、この技術は現在の限界に達しています。青色ダイオードレーザーと赤外線ダイオードレーザーを接続したLaserline社のハイブリッドコンセプトが、今、新たな製造の選択肢を切り開きました。この手法は、シートの接合だけでなく、ヘアピンの静止溶接でも発揮され、銅溶接の境界線を完全に移動させることに成功しました。」(甲14翻訳文第1ページ第3~7行)
B 46ページ 左欄第1行~中欄第7行
「Copper belongs to metals with the highest electrical conductivity,
・・・ and ranges from wafer-thin wires and foils to robust
sheets and connectors.」
<日本語訳>
「銅は最も電気伝導率の高い金属に属し、古くから最も重要な導体材料の一つであった。銀とほぼ同等の導電性を持ちながら、明らかに安価なため、伝統的にほとんどの送電線と誘導コイルに使用されています。家電の巨大市場とエレクトロモビリティの強いトレンドにより、その価値は著しく、急速に高まっています。現在では、携帯端末機器の超薄型電池セルや、電気自動車の二次電池やモーターに使用されています。また、発電所のサーキットブレーカーや鉄道車両のモーター、産業用アクチュエーターなどでも、変わらぬ役割を担っています。これらで使用される銅部品の範囲はかなり広く、ウエハーシンのワイヤーやフォイルから、頑丈なシートやコネクターまで、さまざまなものがあります。」(甲14翻訳文第1ページ第8~14行)
C 47ページ 左欄第22行~右欄第2行
「Deep welding as a critical challenge
・・・ which caused pores and spatters and left behind
qualitatively inadequate joining seams.」
<日本語訳>
「重要な課題である深堀り溶接
しかし、青色ダイオードレーザーも、より高い材料厚の銅部品を接合しなければならなくなると、すぐに限界に達してしまうのです。そのためには、銅の熱伝導率が高いため、非常に高い強度の溶接を行う必要があり、簡単に言えば、局部的に加わったエネルギーが部品全体に早く散ってしまうのです。青色レーザーの最大溶接溶け込み深さは、出力500Wで0.3~0.4mm、1000Wで約0.6~0.7mmとなります。理論的には、より高い出力によってこれを変更することが可能です。現在1.5kWのレーザー装置がすでにあり、その他も進行中である。しかし、深堀り溶接を視野に入れると、青色ダイオードレーザーは赤外線方式に比べて製造コストが高くなるため、効率の問題が出てくるかもしれません。しかし、技術的には疑問が残るものの、銅の深堀り溶接で使用することは可能である。なぜなら、赤外線の吸収率が低いため、材料を定着・浸透させるためには、このような高いエネルギー入力が必要となり、プロセスや結果が満足のいくものにならないからです。これまで赤外線レーザーを使って銅の深堀り溶接を実現しようとした場合、非常にダイナミックな溶融池が定期的に発生し、気孔やスパッタが発生し、接合部の品質が不十分なままでした。」(甲14翻訳文第1ページ下から第6行~第2ページ第7行)
D 第47ページ 右欄第3行~48ページ中欄第10行
「Hybrid welding concept connects blue and infrared laser beams
・・・ the approach is therefore clearly more efficient.」
<日本語訳>
「青色レーザーと赤外線レーザーをつなぐハイブリッド溶接コンセプト
青色レーザーや赤外線レーザーだけでは、技術的にも商業的にも納得のいく銅のキーホール溶接ができないことから、ダイオードレーザー専門メーカーのLaserline社は、別のアプローチを試行しました。青色レーザーや赤外線レーザーだけに頼るのではなく、まったく新しいハイブリッドコンセプトを開発しました。これは、両方のレーザーを接続し、特殊な集光光学系を介してLDM青色ダイオードレーザーのビームを、従来のLDM赤外線レーザーのビームと一体化させるものです(図1)。これにより、直径1mmの青色スポットと0.3mmの赤外線スポットがスポット中心に重なります(図2)。しかし、必要に応じて2つのレーザーを別々に使用することも可能で、ある時間だけ1つのワークに青色又は赤外線のみを照射することができる(図3)。赤外線レーザーのLDMの代わりに、より大きなシステム(例:LaserlineLDF)を検討することもできます。ハイブリッド構成は、既存の全ての赤外線ダイオードレーザー設備に問題なくアップグレードすることができます。溶接工程では、まず青色ダイオードレーザーの高い吸収率でワークの表面を溶かし、スイッチオンした赤外線レーザーでキーホールを開き、実際のキーホール溶接工程を実現します。溶融プールを落ち着かせ、プロセス全体を安定させるため、蒸気キャピラリーが開いた後も、青色レーザーは接続されたままです。銅の平均をはるかに超える熱伝導を補うため、赤外線レーザーの出力は青色レーザーの約2~5倍(プロセス構成により異なる)に設定されています。これまでの実験では1~5kWだったので、純粋な赤外線を使った銅溶接の実験に比べれば、まだ低い。一方、青色レーザーでは、1kWの出力で十分な場合が多く、(接合部が薄い場合は)500W程度でも、それだけでは深い溶接はできなかった。純粋なエネルギー投入量を考えても、このアプローチの方が明らかに効率的です。」(甲14翻訳文第2ページ第8~26行)
E 図1(第47ページ)
「図1
[図:0001422398000023.jpg]
」
<日本語訳>
「図1 Laserlineのハイブリッドコンセプトは、LDM青色ダイオードレーザーのビームを特殊な集光光学系で従来のLDM赤外線レーザーのビームと結合します。」(甲14翻訳文第3ページ下から第2~1行)
F 図2(第47ページ)
「
[図:0001422398000024.jpg]
」
<日本語訳>
「図2 直径1mmの青色スポットと、0.3mmの赤外線スポットとがスポット中心で重なっています。」(甲14翻訳文第4ページ第1行)
G 図4~6(第48ページ)
[図:0001422398000025.jpg]
」
<日本語訳>
「図4~6 青色1kWと赤外線3kWにより、送り速度2m/minで板厚1mmと2mmの2枚の銅板を重ね溶接したところ、溶接溶け込み深さは1.45mmに達することができた。赤外線レーザーの出力を3.5kW又は4kWに上げると、同じ送り速度で1.91mm又は2.36mmの溶け込み深さを実現することができた。」(甲14翻訳文第4ページ第4~7行。以下、レーザーが照射される板厚1mmの銅板を「銅板B」といい、銅板Bのレーザーが照射される面を「第二面」といい、板厚2mmの銅板を以下「銅板A」といい、銅板Aの銅板Bと重ねられる面を「第一面」という。)
(イ)上記(ア)から、甲14には、以下の技術的事項(以下「甲14記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。
「銅板Aの第一面上に第一方向に重ねられた銅板Bに対して、銅板Aの反対側からレーザーを照射して銅板Aと銅板Bとにわたる溶接金属を形成することにより、銅板Aと銅板Bとを溶接する溶接方法であって、
レーザーは、赤外線レーザーと青色レーザーと、を含み、
レーザーを、銅板Bの銅板Aとは反対側の第二面上に照射するとともに第二面上で送り速度2m/minで掃引し、
銅板Bの第二面上で、赤外線レーザーの赤外線スポットの全域が、青色レーザーの青色スポットと重なり、青色スポットは、赤外線スポットと重ならない、赤外線スポットに対して掃引方向の前側に位置する領域と後方に位置する領域とを有し(上記Fの図2、及び上記Dの「直径1mmの青色スポットと0.3mmの赤外線スポットがスポット中心に重なります(図2)」との記載を参照。)、
1kWの青色レーザーによって板厚1mmの銅板Bの第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより銅板B内に留まった溶接金属の第二部位を形成する(上記Gの溶接条件、及び上記Cの「青色レーザーの最大溶接溶け込み深さ」は「1000Wで約0.6~0.7mm」との記載を参照。)とともに、3kWの赤外線レーザーによってキーホール型溶融を生じさせることにより第二部位に対して第二面とは反対側に隣接した位置から銅板A内まで延びる溶接金属の第一部位を形成する(上記Gの「溶接溶け込み深さは1.45mmに達する」との記載を参照。)、溶接方法。」
イ 甲3に記載された技術的事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)6.2 高出力ブルーDDL発振器の深溶込み溶接(第18ページ左欄第14行~右欄第4行)「高出力ブルーDDL発振器開発は、大出力化、高輝度化の方向で大きく動いておりその開発動向に大きな注目を集めているが、その一方で近赤外域のレーザ光とのハイブリッド化によるソリューションも研究されている(Fig.19)。
これは現時点で1mm以上の厚い銅板や太い銅ワイヤなどへ、青色波長による溶接品質向上の効果を狙った深い溶込み加工の実現を目的としている。これからさまざまな加工試験を実施していくが、今のところ一般的な近赤外レーザの大出力レーザ光によるキーホール溶接と青色波長のスパッタの発生のない穏やかな溶融池の両者のもつ長所が良く現れた深溶け込み溶接結果が得られた(Fig.20、Fig.21)」
(イ)図19、図21(第18ページ)
「
[図:0001422398000026.jpg]
[図:0001422398000027.jpg]
」
(5)甲1に記載された技術的事項
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。
(ア)明細書
「【技術分野】
【0001】
本開示は、密閉電池などで電極として用いられる積層箔の積層体を含む集電部などをレーザビームで溶接する方法に関し、特に、レーザを用いた場合に溶接部に発生する空隙などの品質不良を防止するレーザ溶接方法に関する。」
「【0012】
図5(a)~(c)を用いて、従来のレーザ溶接方法における問題点について説明する。まず、被溶接物が第1の部材(上板:集電体)61と第2の部材(下板:集電体受け部品)62に挟まれた第3の部材(積層箔)63の構成で形成されている場合について説明する。この被溶接物をレーザで溶接する場合に、従来のレーザ溶接方法では空隙の発生する原因としては、積層箔63への強パワーのレーザ64の照射にある。積層箔63は、積層されているとはいえ薄箔の集合体であり厚みのある金属一枚板とは異なり、箔自体の熱容量が小さく、また熱逃げの場所がない。そして、積層された箔間にはいくら強く押さえて固定したとしても隙間が存在する。この状態で、図5(b)に示すように通常の強パワーのレーザ64を照射した場合には、積層箔63にレーザが照射された時点で図5(c)に示すように、積層箔63の溶融時に金属蒸気や有機蒸気66などが多量に発生する、または隙間に存在したエアーや水分が気化することがあり、その成分が溶融部65内に留まり、ブローホールと呼ばれる空隙66が発生するという課題がある。
【0013】
また、この時発生する蒸気は、レーザを金属に照射する場合の妨げになり、レーザ加工の偏りなどが発生する。これによりレーザ照射が不均一になり、さらに正常な溶融が起こりにくくなり、空隙の発生がさらに増加するという悪循環が生じる原因になる。」
「【発明の効果】
【0016】
以上のように、本開示に係るレーザ溶接方法によれば、上板と下板とその間に積層箔を挟んだ構成の集電体の接合時に溶融部に空隙などのブローホールの発生を抑制することが出来る。」
「【0028】
(実施の形態1)
<レーザ溶接装置>
図3は、実施の形態1に係るレーザ溶接装置40の構成を示すブロック図である。このレーザ溶接装置40は、第1の部材18と、第2の部材19と、第1の部材18と第2の部材19との間に設けられた第3の部材15と、からなる被溶接部材についてレーザビームを照射しながら走査して溶接するレーザ溶接装置であって、第1のレーザ部41と、第2のレーザ部42と、第3のレーザ部43と、走査部44と、を備える。第1のレーザ部41は、第1の部材18の表面を溶融させるが、第1の部材18を貫通しない第1のレーザパワー密度を有する第1のレーザビーム30を第1の部材18に照射する。第2のレーザ部42は、第1のレーザビーム30の内側に、第1のレーザビーム30の第1のレーザパワー密度より高い第2のレーザパワー密度を有する第2のレーザビーム31を照射する。第3のレーザ部43は、第1のレーザビーム30の内側に、第2のレーザビーム31と並んで、第1のレーザビーム30の第1のレーザパワー密度より高い第3のレーザパワー密度を有する第3のレーザビーム32を照射する。走査部44は、第2のレーザビーム31、及び、第3のレーザビーム32を第1の部材18について走査する。
【0029】
実施の形態1に係るレーザ溶接装置40によれば、第1のレーザ部41から照射される第1のレーザビーム30は、比較的広い範囲にわたって照射されるが、その第1のレーザパワー密度は弱いので、被溶接部材である第1の部材18の表面について熱伝導溶融させる。
【0030】
また、第2のレーザ部42から照射する第2のレーザビーム31は、第1のレーザビーム30の内側に照射される。この第2のレーザビーム31は、第1のレーザビーム30の第1のレーザパワー密度より高い第2のレーザパワー密度を有するので、第1のレーザビーム30によって溶融している第1の部材18の溶融部30aの中で、第2のレーザビーム31に沿って、より高温の溶融部31aからなる第1のキーホールを生じさせる。その結果、より高温の第1のキーホール31aの下部の溶融部30aは、熱伝導溶融によってさらに第3の部材15を溶融し始める。この場合、通常のキーホール溶接の場合とは異なり、第1の部材18から第3の部材15にわたる溶融部30aの生成において、すでに溶融状態にある溶融部30aの深さの変化として生じるのでスパッタや空隙の発生を抑制できる。
【0031】
さらに、第3のレーザビーム32は、第2のレーザビーム31と同様に、第1のレーザパワー密度より高い第3のレーザパワー密度を有するので、溶融部30aの中で、第3のレーザビーム32に沿って、より高温の溶融部32aからなる第2のキーホールを生じさせる。その結果、より高温の第2のキーホール32aの下部の溶融部30aは、熱伝導溶融によってさらに第2の部材19を溶融し始める。この場合にも通常のキーホール溶接の場合とは異なり、第1の部材18、第3の部材15、及び、第2の部材にわたる溶融部30aの生成において、すでに溶融状態にある溶融部30aの深さの変化として生じるのでスパッタや空隙の発生を抑制できる。なお、第3のレーザビーム32の第3のレーザパワー密度を、第2のレーザビーム31の第2のレーザパワー密度よりも大きくすることによって、第2のキーホールの溶融部32aの深さを第1のキーホールの溶融部31aの深さより深くすることができる。
【0032】
具体的には、各レーザ部41、42、43の種類としては、例えば、基本波である波長1070nm程度のものを用いることができる。なお、レーザの波長は上記に限られない。また、レーザとしては、例えば、Nd:YAGレーザ(発振波長:1064nm)、炭酸ガスレーザ(発振波長:9.6μm、10.6μm)、Arレーザ(発振波長:480.0nm、514.5nm)、アレキサンドライトレーザ、エキシマレーザ等を使用できる。なお、上記レーザの種類に限られるものではなく、その他のレーザも使用できる。レーザパワーとしては、被溶接部材である上板(第1の部材)18、下板(第2の部材)19、積層箔(第3の部材)15の特性に依存するところが大きい。一例として、各部材18、19、15の材質をアルミニウム、厚みをそれぞれ順に上板18の厚さ0.4mm、下板19の厚さ0.8mm、積層箔の総厚0.5mmとした場合、加工速度150mm/sの場合には、第1のレーザビーム30は、300W、第2のレーザビーム31は、600W、第3のレーザビーム32は、1000Wとビーム強度を変えてもよい。また、照射の範囲も第1のレーザビーム30は、スポット径で、例えば約1000μmと比較的広く設定し、第2のレーザビーム31、及び、第3のレーザビーム32は、それぞれ約100μm程度になるようにビームプロファイルを設定してもよい。これによって空隙の発生を抑制したレーザ溶接が実現出来る。
【0033】
また、第1から第3のレーザ部41、42、43としては、上記のレーザ溶接装置40では、互いに異なるビーム強度を有する3つのレーザ部41、42、43を独立に設け、同時に照射して溶接しているが、このような構成に限られない。このレーザプロファイルの作り方としては、3つの独立したレーザから同一スポットに向けてそれぞれ照射することで実現してもよく、あるいは回折格子などを用いて1つのレーザビームを3つに分けた後、同一スポットに向けて照射してもよい。・・・
【0034】
走査部44は、第2のレーザビーム31と、第3のレーザビーム32とを第1の部材18について走査できればよい。この場合、第2のレーザビーム31と、第3のレーザビーム32とを、第1のレーザビーム30の照射範囲の内側で走査する。さらに、走査部44は、第1のレーザビーム30についても第1の部材18に対して走査してもよい。・・・
【0035】
<レーザ溶接方法>
次に、実施の形態1に係るレーザ溶接方法に関して、同じく図2(a)~図2(e)を用いて説明する。図2(a)~図2(e)は、本実施の形態1における集電体部のレーザ溶接方法の各工程を経時的に示す断面図である。図2(a)から図2(e)の順に時間経過を示している。
【0036】
(a)まず、図2(a)は、レーザ溶接前の被溶接部材の構成を表している。図2(a)に示すように、本実施の形態1における溶接方法では、被溶接部材は、例えば、下板(第2の部材)19、積層箔(第3の部材)15、上板(第1の部材)18の順に重ね合わせている。積層箔15は、薄い金属箔が重ねられたもので、電池の場合、アルミニウムまたは銅を用いる場合が多いが、これに限られない。また厚みは5~100μm程度と幅広いが、主に5~20μm程度の場合が多く、箔厚みが薄い程、本発明の効果が大きい。積層箔15内の箔枚数は10~100枚程度のものがあり、枚数が多い程、本発明の効果が大きい。上板18の厚みは0.2~2mm程度であり、材質は電池の場合、アルミニウムまたは銅を用いる場合が多いが、その限りではない。下板19も上板18と同様であるが、上板厚みが下板厚みより薄い方が本発明の効果が大きい。なお、上板18、下板19、積層箔15は、いずれも同一金属であっても、あるいは、それぞれ異なる金属からなる場合であってもよい。ここでは主に10枚~100枚の金属箔が重ねられている積層箔15の部分に着目し、説明を行う。
【0037】
なお、本開示のレーザ溶接方法を電池の集電体、積層箔、集電体受け部品のレーザ溶接に用いる場合、積層箔としては正極箔又は負極箔のいずれであってもよい。さらに、積層箔は、巻回形のものであっても積層形のものであってもよい。またさらに、電池としては、一次電池、非水電解質二次電池、又は、水性電解質二次電池であってもよい。
【0038】
(b)図2(b)は、第1のレーザビームを照射する第1溶融工程の概略断面図である。図2(b)では、弱いビームである第1のレーザビーム30の照射によって熱伝導溶融のために上板(第1の部材)18の上部30aに金属溶融が発生していることを示している。第1のレーザビーム30の第1のレーザパワー密度が相対的に低い為、このレーザビーム30のみでは上板18を貫通するだけの溶融は出来ない。つまり表面のみ溶融した状態になる。
なお、第1のレーザビーム30は、相対的に弱いビームであるので、熱伝導溶融が生じる。この熱伝導溶融とは、ビームが弱い場合にビームの熱が低速に伝わりながら溶融が起こる状態を示している。
【0039】
(c)続いて、図2(c)は、第2のレーザビームを照射する第2溶融工程の概略断面図である。図2(c)では、弱い第1のレーザビーム30が通過し、その後、第2のレーザビーム31である強いビーム31が到着し、溶融部30aの中に第2のレーザビーム31に沿って深い溶融部(第1のキーホール)31aが形成されることが示されている。第2のレーザビーム31の第2のレーザパワー密度は、第1のレーザパワー密度より高い。この工程によって、溶融深さが全体的に深くなる。溶融部30aの深さが深くなるのは、第2のレーザビーム31に沿って、高パワーで溶融している溶融部(第1のキーホール)31aの熱の影響により、通常以上に溶融部30aが熱伝導溶融するパワーを有するからである。
【0040】
第2のレーザビーム31は、相対的に強いビームであるのでキーホール溶融が生じる。ここで、ビームが強い、弱いとは、例えば、単位面積当たりのビーム強度(レーザパワー密度)のことを示しており、4kW/mm2以上のものを強いビーム、それ以下のものを弱いビームと位置づけている。なお、材料、加工条件などによって上記条件は変化するため、4kW/mm2との指標に限られるものではない。
【0041】
また、「キーホール」とは、ビームが強い場合にレーザビームが溶融部を掘りながら溶融していく状態を示している。具体的には、「キーホール」とは、溶接用語の一つであって、溶融池の先端部分で熱源が母材(被溶接部材、ここでは、第1の部材、積層箔、及び第2の部材)の裏側へ貫通してできる円孔と定義されている(JIS Z3001 2676)。
なお、ここでは第1のレーザビームによって熱伝導溶融している溶融部30aの中でさらに第2のレーザビーム31に沿って生じる、より高温の溶融部の箇所を第1のキーホール31aと呼んでいる。この第1のキーホール31aは、溶融部30aと比べて、レーザパワー密度の差に起因して溶融池の温度が高いと考えられる。その結果、第1のキーホール31aの下部の溶融部30aにおける熱伝導溶融も進行して、溶融部30a自体の深さが深くなっていくと考えられる。
【0042】
但し、第2のレーザビーム31には、上板18を貫通して第3の部材である積層箔15に達する程のレーザパワー密度は持たず、第2のレーザビーム31だけでは積層箔15へ到達することはない。つまり、第1のレーザビーム30の内側の溶融部30aに第2のレーザビーム31を照射することによって、溶融部30aの内部により高温の第1のキーホール31aを生じさせ、熱伝導溶融による溶融部30aをさらに深くできる。
なお、通常のキーホール溶接では、急激な溶融加工である為、スパッタや空隙の発生が考えられるが、本開示ではすでに溶融中である溶融部30a上へのレーザ照射である為、スパッタや空隙の発生を抑制できる。
【0043】
(d)次に、図2(d)では、第2溶融工程において、さらに第1のレーザビーム30及び第2のレーザビーム31が進行することにより、弱い第1のレーザビーム30による溶融部30aの深さが増加し、積層箔15の部分で溶融が開始されることが示されている。
なお、従来の強いレーザビームであれば、レーザビームが積層箔15に到達した時点で金属蒸気や有機蒸気などが急激に発生し、溶融部の内部に空隙を形成する。一方、本開示では相対的に弱い第1のレーザビーム30を使用しており、キーホール溶接ではなく、熱伝導溶融による溶融速度の遅い溶接の為、溶融状態を維持しながら溶融部30aの深さが変化する。このため、溶融部30aにおける空隙の発生を抑制できる。
【0044】
(e)図2(e)は、第3のレーザビームを照射する第3溶融工程の概略断面図である。図2(d)の後、図2(e)に示すように、さらに第3の強いレーザビーム32が到着し、溶融部30aはさらに深くまで溶け込み、下板19までも溶け込みが発生し、集電体全体が接合される。この時、強い第3のレーザビーム32は、積層箔15内を通過することになるが、その時点では、積層箔15自体は溶融部32aとして多層の積層箔ではなく一体化されていることもあり、熱逃げの場所もあれば、また箔内にあったエアーなどもすでに熱伝導溶融時に抜けている為、空隙が発生することはほとんどない。
なお、ここでは第1のレーザビームによって熱伝導溶融している溶融部30aの中でさらに第3のレーザビーム32に沿って、第2のキーホール32aが生じている。この第2のキーホール32aは、溶融部30aと比べて、レーザパワー密度の差に起因して溶融池の温度が高いと考えられる。その結果、第2のキーホール32aの下部の溶融部30aにおける熱伝導溶融も進行して、溶融部30a自体の深さがさらに深くなっていくと考えられる。
【0045】
以上によって、上板18、積層箔15、及び、下板19が溶融され、被溶接部材が溶接される。・・・」
「【0059】
今回、被溶接部材として、上板18、下板19を用いて積層箔15をはさんだ状態でレーザ加工を行ったが、片側だけの場合、積層箔15自体に剛性が無い為、上下板で挟んだ場合と同程度に強固に押さえることが難しく、本発明の効果を実現することは難しかった。これにより、上板18と下板19とで積層箔15を挟みこむことが必須であると考えられる。
【0060】
また実験結果より、上板18の厚さと下板19の厚さとを比較した場合、上板18の厚さ<下板19の厚さの場合、つまり上板18の厚さを下板19の厚さより薄くした方が溶融部における空隙の発生が少ないことを本発明者は確認している。この理由としては上板18を厚くすると上板18を積層箔15の近くまで溶融する為には大きなパワーが必要であり、その場合、積層箔15には大きなパワーのレーザが照射されてしまう可能性があり、そのリスクを避ける為にも下板19よりも上板18が薄いことが望ましい。」
(イ)図面
「【図2(a)】
[図:0001422398000028.jpg]
【図2(b)】
[図:0001422398000029.jpg]
【図2(c)】
[図:0001422398000030.jpg]
【図2(d)】
[図:0001422398000031.jpg]
【図2(e)】
[図:0001422398000032.jpg]
」
イ 上記アから、甲1には、以下の技術的事項(以下「甲1記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。
「下板19(金属部材)の上に順に(第一面上に第一方向に)重ねられた積層箔15(複数の金属箔)、上板18に対して(段落【0036】)、下板19(前記金属部材)の反対側である上板18の表面からレーザビーム30~32(レーザ光)を照射して上板18と積層箔15(前記複数の金属箔)と下板19(前記金属部材)とにわたる溶接金属を形成することにより、アルミニウムまたは銅などの金属からなる下板19(前記金属部材)と上板18と積層箔15(前記複数の金属箔)とを溶接する溶接方法(段落【0035】~【0045】)であって、
レーザビーム30~32(前記レーザ光)は、基本波である波長1070nm程度のもののほか、Arレーザ(発振波長:480.0nm、514.5nm)も使用できる、第3のレーザビーム32、第2のレーザビーム31および第1のレーザビーム30を含み(段落【0032】)、
レーザビーム30~32(前記レーザ光)を、上板18の下板19(前記金属部材)とは反対側の表面(第二面)上に照射する(段落【0028】、【0035】~【0045】)とともに上板18の表面(前記第二面)上で走査(掃引)し(段落【0034】)、
上板18の表面(前記第二面)上で、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域)の全域が、第1のレーザビーム30のスポット径(前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域)と重なり、第1のレーザビーム30のスポット径(前記第二強度領域)は、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(前記第一強度領域)と重ならない、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(当該第一強度領域)に対して走査方向(掃引方向)の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し(段落【0028】、【0032】、図2(e))、
第1のレーザビーム30(前記第二レーザ光)および第2のレーザビーム31によって上板18の表面側の一部を熱伝導溶融することにより上板19内に留まった溶融部30aを形成し(段落【0042】、図2(c))、第1のレーザビーム30及び第2のレーザビーム31が進行し熱伝導溶融により溶融部30aの深さが増加することによって積層箔15の部分で溶融が開始される(前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融する)ことにより(段落【0043】、図2(d))積層箔15自体が一体化された溶融部30a(前記溶接金属の第二部位、段落【0044】)を形成するとともに、第3のレーザビーム32(前記第一レーザ光)によって第2のキーホール32a(キーホール型溶融)を生じさせることにより下板19までも溶け込みが発生し(段落【0044】)溶融部30a(前記第二部位)に対して上板18の表面(前記第二面)とは反対側に隣接した位置から下板19(前記金属部材)内まで延びる溶融部30a(前記溶接金属の第一部位)を形成する(段落【0044】、図2(e))、こと。」
(6)本件発明1と甲2発明Aとの対比
ア 相当関係
本件発明1と甲2発明Aとを対比すると、次の相当関係があるといえる。
(ア)甲2発明Aにおける「レーザ光L」は、その作用・機能からみて、本件発明1における「レーザ光」に相当し、以下同様に、「レーザ光L1」は「第一レーザ光」に、「レーザ光L2」は「第二レーザ光」に、「主ビームB1強度領域」は「第一強度領域」に、「副ビームB2強度領域」は「第二強度領域」に、「前方溶融池WPfとしての浅瀬領域R」は「溶接金属の第二部位」に、「キーホールを発生させる」は「キーホール型溶融を生じさせる」に、「溶融池WP1」は「溶接金属の第一部位」に、それぞれ相当する。
(イ)甲2発明Aにおける「銅やアルミニウムなどの金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象W」(及び「前記重ねた加工対象W」)は、溶接方法における溶接対象であることから、
「金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象」(及び「前記重ねた溶接対象」)である限りにおいて、
本件発明1における、「金属部材」及び「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔」の組合せと一致する。
また、甲2発明Aにおける、「前記重ねた加工対象Wの照射面」(及び「前記照射面」)は、レーザ光が溶接対象に対して照射される「照射面」であることから、「前記重ねた溶接対象の照射面」(及び「前記照射面」)である限りにおいて、本件発明1における、「前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面」と一致する。
また、甲2発明Aにおける「レーザ光L2によって前記重ねた加工対象Wの前記照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rを形成する」ことは、
「第二レーザ光によって前記重ねた溶接対象の前記照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより溶接金属の第二部位を形成する」ことの限りにおいて、
本件発明1における、「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成する」ことと一致する。
また、甲2発明Aにおける「前記重ねた加工対象Wのうち前記照射面から最も離れた部材」は、
「前記重ねた溶接対象のうち前記照射面から最も離れた部材」の限りにおいて、
本件発明1における「前記金属部材」と一致する。
(ウ)甲2発明Aにおける「レーザ光L1」の波長は、1070nmの赤外波長であるから、本件発明1における「第一レーザ光」の、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の数値範囲のなかに含まれる。同様に、「レーザ光L2」の波長は、450nmの波長であるから、本件発明1における「第二レーザ光」の、400[nm]以上500[nm]以下の波長の数値範囲のなかに含まれる。
(エ)甲2発明Aにおける、「前記照射面上で、前記レーザ光L1のピーク強度の1/e2以上の主ビームB1強度領域の少なくとも一部が、前記レーザ光L2のピーク強度の1/e2以上の副ビームB2強度領域と重な」る点は、
「前記照射面上で、第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の少なくとも一部が、第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重な」る限りにおいて、
本件発明1における「前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重な」ることと一致する。
イ 一致点
上記アを踏まえると、本件発明1と甲2発明Aとは以下の点で一致する。
「金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象に対して、レーザ光を照射して前記重ねた溶接対象にわたる溶接金属を形成することにより、前記重ねた溶接対象を溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記レーザ光を、前記重ねた溶接対象の照射面上に照射するとともに前記照射面上で掃引し、
前記照射面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の少なくとも一部が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、
前記第二レーザ光によって前記重ねた溶接対象の前記照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより、前記第二部位に対して前記照射面とは反対側に隣接した位置から、前記重ねた溶接対象のうち前記照射面から最も離れた部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接方法。」
ウ 相違点
一方、本件発明1と甲2発明Aとは以下の相違点1~3で相違する。
(ア)相違点1
「金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象」及び「照射面」に関して、
本件発明1においては、「金属部材」及び「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔」を溶接対象とし、「金属部材の反対側」から、「前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面」上にレーザ光を照射して、「複数の金属箔と金属部材とにわたる溶接金属を形成する」ことにより「金属部材と複数の金属箔とを溶接」する溶接方法であるのに対し、
甲2発明Aにおいては、「銅やアルミニウムなどの金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象W」を溶接対象とし、重ねた加工対象Wの「照射面」上にレーザ光Lを照射して、重ねた加工対象Wにわたる溶接金属を形成することにより、重ねた加工対象Wを溶接する溶接方法であって、重ねた加工対象Wが金属部材及び複数の金属箔であるか不明であり、そのため「照射面」が金属部材又は金属箔のどちらの面であるか不明である点。
(イ)相違点2
「第一強度領域」と「第二強度領域」との位置関係に関して、
本件発明1においては、「第一強度領域の全域」が「第二強度領域」と重なるのに対し、
甲2発明Aにおいては、「主ビームB1強度領域の少なくとも一部」が「副ビームB2強度領域」と重なるものである点。
(ウ)相違点3
「第二レーザ光によって重ねた溶接対象の照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより溶接金属の第二部位を形成する」ことに関して、
本件発明1においては、「第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成する」ものであるのに対し、
甲2発明Aにおいては、「前記レーザ光L2によって前記重ねた加工対象Wの前記照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rを形成する」ものであって、上記相違点1のとおり、重ねた加工対象Wが金属部材及び複数の金属箔であるか不明であるから、前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rが「複数の金属箔内に留まった」状態で形成されているか不明である点。
以下、事案に鑑み、相違点3について検討するが、当該検討の前に、相違点3に関連する相違点1について検討する。
(7)相違点1に対する当審の判断
ア 相違点1に関して、甲4~甲6には、それぞれ、上記(3)ア(イ)~ウ(イ)に示した、甲4~甲6記載の技術的事項が記載されており、いずれも、リチウムイオン二次電池等を製造する際に、積層されたアルミニウム箔又は銅箔の面からレーザ光を照射して溶接する技術に関する事項といえる。
イ 甲2発明Aと甲4~甲6記載の技術的事項とは、銅やアルミニウムなどの部材にレーザ光を照射する溶接方法である点で技術分野が関連するとともに、少なくとも2つの部材を重ねた加工対象にレーザ光を照射して全ての部材にわたる溶接金属を形成することにより、少なくとも2つの部材を重ねた加工対象を溶接する方法である点で作用・機能が共通する。さらに、上記(2)エのとおり、甲2には、甲2発明Aを、リチウムイオン二次電池等を製造する工程におけるレーザ反射率の高い部材に対するレーザ溶接の方法に適用することが示唆されているといえる。してみると、甲2発明Aに甲4~甲6記載の技術的事項を適用し、加工対象Wを、「金属部材」と、当該金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた「複数の金属箔」とするとともに、レーザ光Lを「複数の金属箔のうち第一方向において金属部材から最も離れた金属箔」の「金属部材とは反対側」の「第二面」上に照射するようにすることで、上記相違点1に係る本件発明1のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(8)相違点3に対する当審の判断
ア 上記(7)のとおり、甲2発明Aの溶接対象を、金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に改変し、金属箔の第二面上にレーザ光を照射するように構成することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとの前提で、相違点3を検討すると、甲2発明Aに甲4~甲6記載の技術的事項を適用した場合に、金属部材から積層方向に最も離れた金属箔の照射面に450nmの波長のレーザ光L2を照射して、照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することによって前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rが形成されることになるといえる。
イ しかしながら、当該浅瀬領域Rを、上記相違点3に係る本件発明1のように「複数の金属箔内に留まった」状態とすることについては、申立人が提出した甲1、甲3、甲7~甲15を参照しても、記載や示唆はないし、相違点1に係る改変を前提として、さらに、浅瀬領域Rを「複数の金属箔内に留まった」状態とするように改変を行うことは、多段階の改変となり得るため、上記相違点3に係る本件発明1のようにすることは、当業者が容易になし得たことである、ということはできない。
ウ むしろ、申立人が証拠方法として提出した書証(上記第4の2)のうち、スポット径及びエネルギー密度の異なる複数のレーザ光による多層の金属箔の溶接に伴う溶融現象について唯一記載された甲1を参照すると、上記(5)ア(ア)~(イ)に摘記したように、下板19、積層箔15及び上板18の順に重ね合わされた被溶接部材に対するレーザ溶接方法に関し(段落【0036】)、第1のレーザビーム30と第2のレーザビーム31とが照射された時点では、溶融部30aは上板18に留まり、積層箔15に到達していない(段落【0042】、図2(c))ものの、熱伝導溶融により、溶融部30aの深さは増加し、積層箔15の部分で溶融が開始され(段落【0043】、図2(d))、第3のレーザビーム32が到着するまでに、「積層箔15自体は溶融部32aとして多層の積層箔ではなく一体化され」、そこに第3のレーザビーム32が照射されて下板19までも溶け込みが発生し、集電体全体が接合される(段落【0044】、図2(e))旨が記載されている。そして、「積層箔15自体は溶融部32aとして多層の積層箔ではなく一体化され」という記載は、多層の積層箔15が全て溶融することを意味すると理解できるから、当業者が、浅瀬領域Rを「複数の金属箔内に留まった」状態とするように改変を行う動機があるとはいえない。
エ したがって、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、甲2発明A並びに甲1、甲3~甲13及び甲14~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(9)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲2発明A、並びに、甲1及び甲3~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
2 本件発明5~19について
本件発明5~19は、請求項1の記載を引用するものであるところ、本件発明1が上記1のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明5~19についても同様に、甲2発明A、並びに、甲1及び甲3~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項5~19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
3 本件発明20について
本件発明20は、溶接装置に係る発明であって、溶接方法に係る本件発明1と実質的に発明のカテゴリーのみが異なるものである。
そして、甲2には、方法の発明である甲2発明Aとともに、対応する装置の発明(以下「甲2発明B」という。)も記載されるものの、本件発明20と甲2発明Bとを対比すると、少なくとも相違点1及び相違点3と同様の相違点を有するといえるから、本件発明20は、本件発明1と同様の理由により、甲2発明B、並びに、甲1及び甲3~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
4 本件発明21~24について
本件発明21~24は、請求項20の記載を引用するものであるところ、本件発明20が上記3のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明21~24についても同様に、甲2発明B、並びに、甲1及び甲3~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項21~24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
第7 申立人が主張するその他の申立ての理由について
申立人による申立ての理由(上記第4の1)のうち、上記第6にて検討した以外の、その他の申立ての理由(上記第4の1(1))について、以下検討する。
<進歩性(特許法第29条第2項、同法第113条第2号)について>
請求項1~24
甲1に記載された発明を主引用発明とした、進歩性欠如(申立書第1~5、14~23、56~71ページ)
1 本件発明1について
(1)甲1に記載された発明の認定
甲1には、上記第6の1(5)アに示した事項が記載され、同イに示した甲1記載の技術的事項を含む、以下の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。
「下板19(金属部材)の上に順に(第一面上に第一方向に)重ねられた積層箔15(複数の金属箔)、上板18に対して、下板19(前記金属部材)の反対側である上板18の表面からレーザビーム30~32(レーザ光)を照射して上板18と積層箔15(前記複数の金属箔)と下板19(前記金属部材)とにわたる溶接金属を形成することにより、下板19(前記金属部材)と上板18と積層箔15(前記複数の金属箔)とを溶接する溶接方法であって、
レーザビーム30~32(前記レーザ光)は、基本波である波長1070nm程度のもののほか、Arレーザ(発振波長:480.0nm、514.5nm)も使用できる、第3のレーザビーム32、第2のレーザビーム31および第1のレーザビーム30を含み、
レーザビーム30~32(前記レーザ光)を、上板18の下板19(前記金属部材)とは反対側の表面(第二面)上に照射するとともに上板18の表面(前記第二面)上で走査(掃引)し、
上板18の表面(前記第二面)上で、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域)の全域が、第1のレーザビーム30のスポット径(前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域)と重なり、第1のレーザビーム30のスポット径(前記第二強度領域)は、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(前記第一強度領域)と重ならない、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(当該第一強度領域)に対して走査方向(掃引方向)の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、
第1のレーザビーム30(前記第二レーザ光)および第2のレーザビーム31によって上板18の表面側の一部を熱伝導溶融することにより上板19内に留まった溶融部30aを形成し、第1のレーザビーム30および第2のレーザビーム31が進行し熱伝導溶融により溶融部30aの深さが増加することによって積層箔15の部分で溶融が開始される(前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融する)ことにより積層箔15自体が一体化された溶融部30a(前記溶接金属の第二部位)を形成するとともに、第3のレーザビーム32(前記第一レーザ光)によって第2のキーホール32a(キーホール型溶融)を生じさせることにより下板19までも溶け込みが発生し溶融部30a(前記第二部位)に対して上板18の表面(前記第二面)とは反対側に隣接した位置から下板19(前記金属部材)内まで延びる溶融部30a(前記溶接金属の第一部位)を形成する、溶接方法。」
(2)本件発明1と甲1発明Aとの対比
本件発明1と甲1発明Aとを対比すると、以下の相違点4~5で相違し、その余の点で一致する。
ア 相違点4
本件発明1においては、「金属部材」および「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔」を溶接対象とし、「金属部材の反対側」から、「前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面」上にレーザ光を照射して、「複数の金属箔と金属部材とにわたる溶接金属を形成する」ことにより「金属部材と複数の金属箔とを溶接」する溶接方法であり、第二レーザ光によって複数の金属箔の第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位を形成するのに対し、
甲1発明Aにおいては、「下板19」、「積層箔15」および「上板18」を順に重ね合わせたものを溶接対象とし、「下板19の反対側」から、「上板18の表面」上にレーザビーム30~32を照射して、「上板18と積層箔15と下板19とにわたる溶接金属を形成する」ことにより、「下板19と上板18と積層箔15とを溶接」する溶接方法であり、第1のレーザビーム30および第2のレーザビーム31によって上板18の表面側の一部を熱伝導溶融することにより上板19内に留まった溶融部30aを形成し、第1のレーザビーム30及び第2のレーザビーム31が進行し熱伝導溶融により溶融部30aの深さが増加することによって積層箔15の部分で溶融が開始されることにより積層箔15自体が一体化された溶融部30aを形成する点。
イ 相違点5
本件発明1においては、レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含んでいるのに対し、
甲1発明Aにおいては、レーザビーム30~32は、第3のレーザビーム32、第2のレーザビーム31および第1のレーザビーム30を含んでおり、基本波である波長1070nm程度のもののほか、Arレーザ(発振波長:480.0nm、514.5nm)も使用できるものの、第1のレーザビーム30、第2のレーザビーム31、第3のレーザビーム32の各波長を異ならせたものであるのか、不明である点。
(3)相違点4に対する当審の判断
ア 相違点4に関して、甲4を参照すると、上記第6の1(3)ア(イ)に示した甲4記載の技術的事項が記載される。また、甲4には、次の記載がある。
「【0006】
しかしながら、保護板は、タブ群と導電部材を溶接する際に、タブ群に溶接されるため、タブ群と導電部材とを溶接する度に必要になる。また、保護板は、二次電池の部品点数の増加につながる。
【0007】
本発明の目的は、保護板を用いなくても未塗工部の破れの発生を抑制できる溶接用治具及び溶接部の形成方法を提供することにある。」
イ 甲1発明Aと甲4記載の技術的事項とは、銅やアルミニウムからなる電極をレーザ溶接する方法である点で技術分野が関連するとともに、複数の金属箔と金属部材とを溶接する点で作用・機能が共通する。さらに、上記アのとおり、甲4には、甲1発明Aが備える上板18を用いなくとも、積層箔15(甲4のタブ群)と下板19(甲4の導電部材)とを溶接するとの、記載上の示唆がある。
ウ しかしながら、次の(ア)及び(イ)から、甲1発明A及び甲4記載の技術的事項に基づいて、上記相違点4に係る本件発明1の構成を想到することは、当業者にとって容易であるということはできない。
(ア)甲1の段落【0059】に記載されるように、甲1発明Aに係る溶接方法の被溶接対象は、上板18と下板19とで積層箔15を挟みこむことを必須とするものであって、当該被溶接対象のために最適化されたレーザパワー密度をそれぞれ有する第1~第3のレーザビーム30~32で溶接することを特徴とする発明である。すなわち、甲1発明Aの各レーザビーム30~32は、それぞれ異なる役割を有しており、具体的には、ビームの熱が低速に伝わりながら溶融が起こる状態である熱伝導溶融が生じる第1のレーザビーム30のみでは上板18を貫通するだけの溶融はできない(段落【0038】)ため、第1のキーホール31aを形成する第2のレーザビーム31を必須とし、他方、スパッタや空隙の発生を抑制するために、第2のレーザビーム31には、上板18を貫通して第3の部材である積層箔15に達する程のレーザパワー密度は持たず、第2のレーザビーム31だけでは積層箔15へ到達することはない(段落【0042】)ような第2のレーザパワー密度とされ、第2のレーザビーム31が通過した後の第1のレーザビーム30による溶融部30aの深さが増加し、積層箔15の部分で溶融が開始され、その後、集電体全体が接合されるように、第3のレーザビーム32が到着し、溶融部30aはさらに深くまで溶け込み、下板19までも溶け込みが発生するものである。
このように、第1~第3のレーザビームは、上板18、積層箔15及び下板19に対応して存在するため、甲1発明Aにおいて、仮に、甲4の上記イの技術的事項を適用すれば、甲1発明Aの被溶接対象において必須の構成である上板18を取り除くことになるが、その場合には、上板18が存在することを前提とした、それぞれに役割を有する3種のレーザビーム30~32を用いる必然性がなくなるため、甲1発明Aに甲4記載の技術的事項を適用しつつ、複数種のレーザビームを採用するとはいえない。強いていえば、甲1発明Aに内在する課題(積層箔を挟み込むために上板を必須とする課題)を甲4記載の技術的事項で解決できるのであれば、甲4記載の技術的事項に示される1種のレーザビームを採用することが自然であるというべきである。
(イ)さらに、仮に、甲1発明Aに甲4記載の技術的事項を適用することで、上板18を単に不要とし得たとしても、第1のレーザビーム30によっては、積層箔15内に留まる溶接金属を形成し得たとはいえない。すなわち、甲1発明Aは、第1のレーザビーム30および第2のレーザビーム31により、上板18の表面側の一部を熱伝導溶融することにより溶融部30aを形成し(図2(c))、その後、第1のレーザビーム30及び第2のレーザビーム31が進行し熱伝導溶融により溶融部30aの深さが増加することによって積層箔15の部分で溶融が開始される(図2(d))ことにより、積層箔15自体が一体化された(すなわち、多層の積層箔15内で留まることなく、下板19(導電部材)に接する最下層の積層箔15にまで達する)溶融部30aを形成するものである(上記第6の1(8)ウを参照。)。
そして、甲1発明Aの溶融部30aは、積層箔全体を第一方向に溶融して下板19の上面にまで達するものであるから、仮に、甲1発明Aに、甲4記載の技術的事項を適用したとしても、相違点4に係る「第二レーザ光によって複数の金属箔の第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位を形成する」という構成には至らない。
エ また、他の甲2~甲3及び甲5~甲15を参照しても、「第二レーザ光によって複数の金属箔の第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位を形成する」ことについては、記載や示唆はない。
オ したがって、相違点4に係る本件発明1の構成は、甲1発明A及び甲2~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(4)小括
上記(3)のとおり、本件発明1は、相違点5について検討するまでもなく、甲1発明A、及び、甲2~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
2 本件発明5~19について
本件発明5~19は、請求項1の記載を引用するものであるところ、本件発明1が上記1のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明5~19についても同様に、甲1発明A、及び、甲2~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項5~19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
3 本件発明20について
本件発明20は、溶接装置に係る発明であって、溶接方法に係る本件発明1と実質的に発明のカテゴリーのみが異なるものである。
そして、甲1には、方法の発明である甲1発明Aとともに、対応する装置の発明(以下「甲1発明B」という。)も記載されるものの、本件発明20と甲1発明Bとを対比すると、少なくとも相違点4~5と同様の相違点を有するといえるから、本件発明20は、本件発明1と同様の理由により、甲1発明B、及び、甲2~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
4 本件発明21~24について
本件発明21~24は、請求項20の記載を引用するものであるところ、本件発明20が上記3のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明21~24についても同様に、甲1発明B、及び、甲2~甲15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項21~24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
第8 申立人意見書における申立人の主張について
1 申立人の主張
申立人は、申立人意見書において、訂正事項1(及び19)により訂正された次の事項:
「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する」
に関して、以下の点を主張する。
(1)訂正要件違反について
上記事項に関して:新規事項の追加(申立人意見書第2~9ページ)
ア 本件明細書の段落【0050】には「第一部位14a1は、主として第一レーザ光の照射によって形成され、第二部位14a2は、主として第二レーザ光の照射によって形成される。」と記載されるのみであり、「第二レーザ光」及び「第一レーザ光」のみによって「第二部位」及び「第一部位」がそれぞれ形成されている訳ではないが、本件訂正後の請求項1の「前記第二レーザ光によって・・・、前記第一レーザ光によって・・・」との記載は、本件明細書に開示のない「前記第二レーザ光のみによって・・・、前記第一レーザ光のみによって・・・」との構成を包含するものであるから、本件明細書等に記載された範囲内のものといえない。
イ 本件明細書の段落【0050】に「第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている」と記載されるのみであり、また、図1~2を踏まえても「前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成する」点は、本件明細書等に記載されていたとはいえない。
ウ 「金属箔内に留まる第二部位」の根拠となる「第二部位」は、本件明細書中では一貫として「溶融して凝固した部位」であり(段落【0050】、【0068】、【0070】、【0071】、【0075】)、溶融中の領域を意味しておらず、溶融中の領域は「溶融領域」という別の表現がなされている(段落【0063】)ところ、本件訂正の訂正事項1の根拠である図1~2には、レーザ光Lが図示されていることから、「溶融して凝固した部位」を示すものではない。
(2)容易想到性の判断について
ア 甲14に関して(申立人意見書第17~19ページ)
本件明細書の段落【0075】の記載から、第二部位の深さはビード幅の1/2であり、甲14の図4~6の条件に当て嵌めれば、第二部位の深さは約0.9mmであって銅板の板厚の1mmよりも小さいから、甲14には、第二部位が上側の銅板内に留まることが開示されている。
また、本件明細書の段落【0067】に「図6は、厚さ2[mm]の1枚の銅板である加工対象Wに形成された溶接部14の断面を示している。Z方向に重ねられた金属部材11と複数の金属箔12との金属積層体10に形成される溶接部14の形態は、図6に示される1枚の金属材料である加工対象Wに形成された溶接部14の形態と略同等であると推定できる。」と記載されるように、1枚の金属板と、Z方向に重ねられた金属部材と複数の金属箔との金属積層体とは、溶接部の形態が略同等であるとして判断すべきである。
イ 甲2に関して(申立人意見書第23~26ページ)
(ア)甲2の段落【0058】には、加工対象Wの表面に付着した不純物が、浅瀬領域Rを流れて主ビームB1が形成する溶融池WP1に流れ込むことで、ポロシティが発生しにくくなるという作用効果と、そうなるように浅瀬領域Rの深さを設定することが開示されるものの、甲2発明は、段落【0056】や発明の課題、効果の段落に記載されるように、スパッタの抑制が主たる作用効果であって、ポロシティの抑制は浅瀬領域Rの深さをより好適にした場合の副次的な効果であり、スパッタ抑制のみを目的として、金属箔内に留まる浅瀬領域の深さを設定する可能性を排除するものではない。
またポロシティの抑制を目的としたとしても、不純物は1番上の箔だけに付着しやすいことから、浅瀬領域Rの深さが下板まで到達しないことは十分にあり得ることである。
(イ)甲2発明において、下板まで到達する深さの溶接領域は重ね溶接に十分な溶融深さであり、もはや「浅瀬」といえないから、下板の上側が積層箔にせよ板にせよ、浅瀬領域を下板まで届かせると考えるのは不自然である。
(ウ)甲2発明における浅瀬領域を作る副ビームによる溶融は熱伝導型の溶融であり、仮に下板まで溶融して重ね溶接が済むのであれば強い主ビームが不要となるところ、甲2の段落[0006]及び[0115](並びに甲1の段落【0011】)の記載から、スパッタを発生させない程度の熱伝導型の溶融で可能な溶融深さでは、下板まで溶融できず溶接できない加工対象も包含していることとなる。甲2発明を積層箔と下板の溶接に採用するときも下板まで溶融できない積層箔の厚さとするはずであり、副ビームによる浅瀬領域は金属箔内に留まることになると理解すべきである。
ウ 甲1に関して(申立人意見書第26~32ページ)
(ア)親出願の異議決定(異議2023-701172)では、甲1の段落【0012】及び【0044】の記載を根拠に、甲1は第3の強いレーザビーム32が到着するよりも前に溶融部の深さが下板19まで達するとして、本件発明1の「第二レーザ光が金属箔内に留まった第二部位を形成する」構成を開示していないと認定する。
しかしながら、段落【0044】では、溶融部として一体化しているのは「積層箔」であって、第3のレーザビーム32が通過するよりも前に下板まで溶融しているかどうかまでは記載されていない。
また、段落【0012】の金属箔の熱容量の小ささと熱の逃げづらさから第3のレーザビームが届く前に下板も溶融するのが必然と認定しているが、技術常識からみて誤りである。すなわち、当該段落の記載は、段落【0011】の記載からみて、キーホール型の溶融に対する記載であることは明らかである。
さらに、甲1の段落【0036】には、金属箔と下板の材質が同一金属であっても、異なる金属からなる場合であってもよいことが記載されるところ、甲15を踏まえれば、上板がアルミニウム板で下板が銅板の場合には、下板の銅板は融点に達しないから、下板も溶融するとの判断は誤りである。このことは、甲1の段落【0044】に、第3の強いビーム32が到達して初めて下板19までも溶け込みが発生するとしていることからも明らかである。
(イ)本件発明1は、上記(1)イ(ア)のとおり、「前記第二レーザ光のみによって・・・、前記第一レーザ光のみによって・・・」との構成を包含するものであって、仮に本件訂正がその構成に限定解釈されないものとして認められるのであれば、第二レーザ光及び第一レーザ光によって複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位を形成するとともに、第一レーザ光及び第二レーザ光によって金属部材内まで延びる溶接金属の第一部位を形成するものも包含すると解釈されることとなる。すなわち、第一レーザ光及び第二レーザ光により、複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位と金属部材内まで延びる溶接金属の第一部位とを形成するのであるから、第二レーザ光のみによる溶接金属が、複数の金属箔内に留まるのか金属部材内まで延びるのかは、問題とならない。
(3)上記事項に係る本件訂正により新たに生じた取消理由について(申立人意見書第32~33ページ)
ア 明確性要件違反
(ア)第一レーザ光と第二レーザ光とは重畳しており、溶融池は地続きであるから、溶融池の多くの領域で第一レーザ光による溶融(入熱)と第二レーザ光による溶融(入熱)とは相互に影響し合うため、どこまでが主として第二レーザ光が形成する第二部位となるのか識別することができないため、金属箔内に留まるという第二部位の構成は不明確である。
(イ)また、段落【0071】~【0075】において第一部位と第二部位とは、凝固後の結晶粒の断面積の平均値から観測される部位か、図6及び図7のような凝固後の幾何学的な形状によって定義される部位としか記載されていないところ、それ以外の定義を含む本件発明1は、不明瞭である。
イ サポート要件違反
本件発明1における本件訂正後の上記事項は、上記ア(イ)のとおり、第一部位と第二部位の定義の点が特定されていないため、発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、サポート要件を満たしていない。
2 当審の判断
上記主張について検討する。
(1)上記1(1)について
上記第2の4(1)イ(エ)にて検討したように、訂正事項1のうち申立人が指摘する上記事項は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
上記1(1)アの主張についてみると、訂正事項1においては、「前記第二レーザ光のみによって・・・、前記第一レーザ光のみによって・・・」とまで訂正されたものでなく、少なくとも第二レーザ光によって複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成し、少なくとも第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成するものと理解できるから、訂正事項1は、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであるといえる。また、申立人は、本件発明1が「第二レーザ光のみ」及び「第一レーザ光のみ」により「第二部材」及び「第一部材」をそれぞれ形成するものを包含することから、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものでない旨主張するが、第二レーザ光によって熱伝導型溶融すること、第一レーザ光によってキーホール型溶融が生じることは、段落【0060】~【0063】に記載されることからみて、段落【0050】の記載のみならず、本件明細書等の全ての記載を総合してみれば、本件発明1が「第二レーザ光のみ」により「第二部位」を形成するものを包含するとしても、訂正事項1が本件明細書等に記載された事項の範囲内であるとの判断に誤りはない。
また、「第一レーザ光」の全域と「第二レーザ光」とが重なることから、「第一レーザ光のみ」により「第一部位」を形成するものを包含することはない。
上記1(1)イの主張についてみると、明細書に「第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている」と記載されることから、第二部位14a2が複数の金属箔12内のみに形成されている概念が示されているといえ、また、図2を併せて参照すれば、第二部位14a2が複数の金属箔12内に留まって形成されていると解釈できることから、訂正事項1は、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであるといえる。
なお、申立人が申立人意見書にて「図面は、明細書を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない」と主張するとおり、本件の図2は、設計図面ほど正確な寸法にて描かれているとはいえないものの、段落【0050】の記載と総合してみれば、第二部位が複数の金属箔内に形成されている程度の正確さを示しているというべきである。
上記1(1)ウの主張についてみると、訂正事項1により、前記第二レーザ光によって「複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより」前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成すること、及び、前記第一レーザ光によって「キーホール型溶融を生じさせることにより」前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成すること、すなわち、第二レーザ光及び第一レーザ光により、まず熱伝導型溶融及びキーホール型溶融をそれぞれ生じさせ、それらの溶融領域が凝固することによって、溶接金属の第二部位及び第一部位をそれぞれ形成することを特定していることは、技術常識に照らして明らかであるから、図2が凝固前の溶融領域を示す図であったとしても、何ら矛盾はない。
(2)上記1(2)について
上記第6の1(7)~(8)及び上記第7の1(3)において検討したように、訂正事項1(及び19)により訂正された上記事項は、甲2発明A及び甲1、甲3~甲15記載の技術的事項、並びに、甲1発明A及び甲2~甲15記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ア 上記1(2)アについて検討する。
申立人は、甲14には、第二部位は上側の銅板内に留まるものであることを主張するものの、甲14記載の技術的事項をもって、第二部位が複数の金属箔内に留まる本件発明1を容易に想到し得たとはいうことができない(なお、甲14記載の技術的事項を認定するにあたっては、甲14に記載された内容から特定することが適切であり、特に本件明細書等の記載を参酌して本件発明によせて甲14記載の技術的事項の認定をすることは、後知恵になり得るし、本件明細書に記載の実験の条件と甲14に記載の実験の条件とは溶接対象等の点で完全に一致するものではないことから、申立人の主張の根拠をそのまま採用することはできない。当審の甲14記載の技術的事項(特に、1kWの青色レーザーによって板厚1mmの銅板Bの第二面(照射面)側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより銅板B内に留まった溶接金属の第二部位を形成する点)の認定は、本件明細書等の記載を参酌しなくとも、上記第6の1(4)ア(イ)のとおり可能である。)。
また、本件明細書等の段落【0067】には「Z方向に重ねられた金属部材11と複数の金属箔12との金属積層体10に形成される溶接部14の形態は、図6に示される1枚の金属材料である加工対象Wに形成された溶接部14の形態と略同等であると推定できる。」と記載されるものの、当該事項は当然に本件出願の優先日前に公表されたものでなく、容易想到性の判断の根拠とすることができない。むしろ、申立人から提出された証拠方法の1つである甲1には、段落【0012】に「積層箔63は、積層されているとはいえ薄箔の集合体であり厚みのある金属一枚板とは異なり、箔自体の熱容量が小さく、また熱逃げの場所がない。そして、積層された箔間にはいくら強く押さえて固定したとしても隙間が存在する。」と記載されるから、優先日時点においては、その熱容量の違いから、金属一枚板(甲14)と、複数の金属箔が積層されたもの(本件発明1、甲2発明Aに甲4~6記載の技術的事項を適用したもの)とは、発生する溶融の進行状態が異なるとの証拠が存在するのみであると解するのが適当といえる(なお、甲1の段落【0012】の参酌の妥当性については、以下のウ(ア)で後述する。)。
また仮に、甲14記載の技術的事項が、複数の金属箔が積層されたものにおいても、1kWの青色レーザーによって熱伝導型溶融することにより形成される第二部位が複数の金属箔内に留まることを示唆していたとしても、甲2発明Aを主発明として、甲4~甲6記載の技術的事項を適用したうえで、さらに甲14に記載の技術的事項を適用することは、多段階の改変となることから、甲14をもって、甲2発明Aを主発明とする本件発明1の進歩性を否定することはできない。
イ 上記1(2)イについて検討する。
(ア)上記第6の1(8)で説示するとおり、甲2の段落【0058】を根拠として、相違点3が、甲2発明A並びに甲1、甲3~甲13及び甲15に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない旨の判断をしているわけではないから、上記1(2)イ(ア)における申立人の主張は失当である。
(イ)上記1(2)イ(イ)及び(ウ)における主張は、甲2には、副ビーム(第二レーザ)による浅瀬領域Rは下板まで達するものではなく(下板まで達するならば、副ビームのあとに掃引される主ビーム(第一レーザ)が不要となる。)、副ビームB2の目的は、主ビームB1が照射される位置よりも前方に主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化するための前方溶融池WPfを形成することであり、前方溶融池WPfの深さは、溶融池WPを安定させる程度の浅いもので十分である(段落[0115])と記載されることから、甲2発明Aに甲4~甲6記載の技術的事項を適用した場合にも、必然的に、副ビームによる溶融は下板まで達することなく、複数の積層箔の内部に留まることとなる、というものと推察する。
しかしながら、甲2には、前方溶融池WPfをどの程度浅くするのか、具体的な記載はないから、甲2発明Aに甲4~甲6記載の技術的事項を適用した場合に、必然的に、副ビームによる溶融が複数の積層箔の内部に留まるとまではいえない。
ウ 上記1(2)ウについて検討する。
(ア)上記1(2)ウ(ア)における、甲1の段落【0044】では、溶融部として一体化しているのは「積層箔」であって、第3のレーザビーム32が通過するよりも前に下板まで溶融しているかどうかまでは記載されていない、との主張に関しては、積層箔が溶融部として一体化して、積層箔が存在していない以上、甲1の溶融部は、積層箔の内部に留まっているとはいえないことは明らかである。
また、甲1の段落【0012】の記載は、段落【0011】の記載から続くものであり、キーホール型の溶融に対する記載である旨主張する。しかしながら、段落【0012】には「・・・積層箔63は、積層されているとはいえ薄箔の集合体であり厚みのある金属一枚板とは異なり、箔自体の熱容量が小さく、また熱逃げの場所がない。そして、積層された箔間にはいくら強く押さえて固定したとしても隙間が存在する。この状態で、図5(b)に示すように通常の強パワーのレーザ64を照射した場合には、・・・」と記載されるように、当該段落は、積層箔の一般的な特性について記載したうえで、その記載のあとに「この状態で・・・」と、キーホール型の溶融に対する記載が続くものである。したがって積層箔の一般的な特性の記載については、溶融の種類に依存するものではない。
さらに、申立人は、甲1の段落【0036】の記載に基づき、甲15を挙げながら、上板がアルミニウム板で下板が銅板の場合には、上板のアルミニウム板が溶融しても下板の銅板は融点に達しない旨を主張する。しかしながら、甲1の段落【0010】の記載から、甲1には、EV、HEV用の密閉電池の電極体であって、積層箔と集電体との溶接に用いられる技術を対象とするものと解されるところ、例えば甲4の段落【0021】、甲5の段落【0017】~【0018】、【0020】、甲6の段落【0016】~【0017】、【0019】に記載されるように、リチウムイオン電池等のEV、HEV用の密閉電池の電極体では、正極にはアルミニウム又はアルミニウム合金が、負極には銅又は銅合金が、それぞれ用いられることが一般的であり、例えばアルミニウムからなる積層箔と銅からなる集電体とを溶接して電極体とすることまで想定されているとは解されない(段落【0036】に記載の「異なる金属」とは、例えば、銅と銅合金等と理解するのが相当である。)。
(イ)上記1(2)ウ(イ)における、訂正事項1の「前記第二レーザ光のみによって・・・、前記第一レーザ光のみによって・・・」との構成を包含する訂正が認められる場合、「第二レーザ光及び第一レーザ光によって複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位を形成するとともに、第一レーザ光及び第二レーザ光によって金属部材内まで延びる溶接金属の第一部位を形成するものも包含すると解釈される」との解釈が成り立ち、第二レーザ光のみによる溶接金属が、複数の金属箔内に留まるのか金属部材内まで延びるのかは、問題とならない旨の主張に関しても失当である。
すなわち、本件発明1は「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する」と特定されるものであって、熱伝導型溶融することにより形成される部位か、キーホール型溶融が生じることにより形成される部位かで区別されるべきであって、両部位を同一のものとして認定したうえでの容易想到性の判断をすることはできない。
(ウ)してみると、甲2発明Aに甲4~甲6記載の技術的事項を適用した場合に、相違点3に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。また、甲1発明A及び甲4記載の技術的事項から、相違点4に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たということもできない。
(3)について
ア 上記1(3)ア(ア)における、どこまでが主として第二レーザ光が形成する第二部位となるのか識別することができないため、本件発明1における、金属箔内に留まるという第二部位の構成は不明確である、との主張に関し検討する。
本件明細書の段落【0071】~【0075】の記載を参酌すれば、凝固後の結晶粒の断面積の平均値から第二部位を識別したり、図6及び図7のような凝固後の幾何学的に定めた領域から第二部位を識別したりすることができるといえる。また、本件発明1は、溶接方法に関する発明であり、本件発明19は、溶接装置に関する発明であるところ、本件発明1、19と同様に2つの異なる波長の主副レーザを照射する技術が開示される甲14には、「必要に応じて2つのレーザーを別々に使用することも可能で、ある時間だけ1つのワークに青色又は赤外線のみを照射することができる(図3)」(上記第6の1(4)ア(ア)D参照)と記載されるように、本件発明1に係る溶接方法や本件発明19に係る溶接装置において、第二レーザ光のみが照射されるようにして検証することで、熱伝導型溶融により形成される第二部位が金属箔内に留まるか否かを判別することが可能であるともいえる。
したがって、本件発明1は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、本件の優先日当時における当業者の技術常識を基礎として判断すれば、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまでいうことはできない。
イ 上記1(3)のア(イ)及びイにおける、本件発明1は、段落【0071】~【0075】に記載された、凝固後の結晶粒の断面積の平均値から第二部位を識別したり、図6及び図7のような凝固後の幾何学的に定めた領域から第二部位を識別したりすることができる以外の態様を含む旨の主張について検討する。
第二部位に関して、「第二レーザ光によって複数の金属箔の第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより」形成された溶接金属の部位であって、複数の金属箔内に留まったものであることが特定されるところ、その記載は明確であり、第二部位をどのような手段で識別することができるかまで特定されていなくとも、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
また、第二部位に関して、「第二レーザ光によって複数の金属箔の第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより」形成された溶接金属の部位であって、複数の金属箔内に留まったものであることについては、上記第2の4(1)イ(ウ)で検討したように、本件明細書等に記載された事項の範囲内であるといえる。
したがって、申立人の申立人意見書での主張は、採用することができない。
第9 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1、5~24に係る特許は、取消理由通知に示した取消理由(上記第6を参照。)、又は、申立書に記載された申立ての理由(上記第7を参照。)によっては、取り消すことはできない。また、本件特許の請求項1、5~24に係る特許を取り消すべき他の理由も発見しない。
そして、本件特許の請求項2~4は、上記第2及び第3のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による本件特許の請求項2~4に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701175