特許異議申立
2023-701146
調味オイル及びその製造方法、液体調味料、食品及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-701146
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-131387
- 登録番号
- 7266260
- 請求日
- 2023年10月27日
- 審決日
- 2024年01月26日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社Mizkan Holdings
- 【権利者代理人】小島 清路
- 【権利者代理人】鈴木 勝雅
- 【権利者代理人】平岩 康幸
- 【権利者】株式会社Mizkan
- 【権利者代理人】小島 清路
- 【権利者代理人】鈴木 勝雅
- 【権利者代理人】平岩 康幸
- 【異議申立人】井上 暁彦
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.55 -Y (A23D) / P1651.113-Y (A23D) / P1651.121-Y (A23D) / P1651.537-Y (A23D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7266260号発明「調味オイル及びその製造方法、液体調味料、食品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7266260号の請求項1ないし32に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7266260号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~32に係る特許についての出願は、令和4年8月19日(優先権主張 令和3年8月25日)の出願であって、令和5年4月20日にその特許権の設定登録(請求項の数32)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年10月27日に特許異議申立人井上暁彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がなされたものである。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~32に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明32」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~32に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
「[請求項1]
魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgであることを特徴とする調味オイル。
[請求項2]
前記アルデヒド系香味成分として、更に、2-メチルプロパナールを含む請求項1に記載の調味オイル。
[請求項3]
前記フラン系香味成分として、更に、2-メチルフランを含む請求項1に記載の調味オイル。
[請求項4]
前記2-メチルブタナールと前記2-エチルフランとを両方含み、
前記2-メチルブタナールの濃度をCA1(μg/kg)とし、前記2-エチルフランの濃度をCF1(μg/kg)とした場合に、CA1<CF1である請求項1に記載の調味オイル。
[請求項5]
前記魚系風味が、あご風味である請求項1に記載の調味オイル。
[請求項6]
前記基油は、植物油である請求項1に記載の調味オイル。
[請求項7]
前記魚系乾物が、煮干し及び/又は焼干しである請求項1に記載の調味オイル。
[請求項8]
前記煮干し及び/又は焼干しが、皮を含む請求項7に記載の調味オイル。
[請求項9]
食品(但し、ラーメンを除く)に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とし、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000ug/kgであることを特徴とする調味オイル。
[請求項10]
前記アルデヒド系香味成分として、更に、2-メチルプロパナールを含む請求項9に記載の調味オイル。
[請求項11]
前記フラン系香味成分として、更に、2-メチルフランを含む請求項9に記載の調味オイル。
[請求項12]
前記2-メチルブタナールと前記2-エチルフランとを両方含み、
前記2-メチルブタナールの濃度をCA1(μg/kg)とし、前記2-エチルフランの濃度をCF1(μg/kg)とした場合に、CA1<CF1である請求項9に記載の調味オイル。
[請求項13]
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の調味オイルの製造方法であって、
前記魚系乾物と前記基油とをともに温度50℃以上200℃以下に加熱して抽出油を得る加熱工程を備えることを特徴とする調味オイルの製造方法。
[請求項14]
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルの製造方法であって、
前記調味オイルは、魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに加熱して得た抽出油を主成分とし、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgであり、
前記魚系乾物と前記基油とをともに温度50℃以上200℃以下に40分間以下加熱して前記抽出油を得る加熱工程を備えることを特徴とする調味オイルの製造方法。
[請求項15]
前記基油は、植物油である請求項13に記載の調味オイルの製造方法。
[請求項16]
前記魚系乾物が、煮干し及び/又は焼干しである請求項13に記載の調味オイルの製造方法。
[請求項17]
前記煮干し及び/又は焼干しが、皮を含む請求項16に記載の調味オイルの製造方法。
[請求項18]
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の調味オイルを含むことを特徴とする液体調味料。
[請求項19]
前記液体調味料に含まれる調味オイルの含有量が0.01~15質量%である請求項18に記載の液体調味料。
[請求項20]
鍋用つゆ、麺類用つゆ、出汁用つゆ、豆腐用つゆ、ラーメン用スープ、和風スープ、洋風スープ、パスタ用調味料、ドレッシング、中食食品用調味料、又は惣菜用調味料である請求項18に記載の液体調味料。
[請求項21]
請求項9乃至12のうちのいずれか1項に記載の調味オイルを含むことを特徴とする液体調味料。
[請求項22]
鍋用つゆ、麺類用つゆ、出汁用つゆ、豆腐用つゆ、和風スープ、洋風スープ、パスタ用調味料、ドレッシング、中食食品用調味料、又は惣菜用調味料である請求項21に記載の液体調味料。
[請求項23]
添加対象物に対して請求項1乃至12のいずれか1項に記載の調味オイルを含有せしめる段階(i)を含むことを特徴とする食品の製造方法。
[請求項24]
前記段階(i)が、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にする段階である請求項23に記載の食品の製造方法。
[請求項25]
前記段階(i)が、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、3-メチルブタナールを0.13μg/kg以上とする段階を含む請求項24に記載の食品の製造方法。
[請求項26]
前記調味オイルが含有された前記添加対象物を調理する段階(ii)を更に含む請求項23に記載の食品の製造方法。
[請求項27]
前記食品が、中食食品及び/又は惣菜である請求項23に記載の食品の製造方法。
[請求項28]
請求項23に記載の食品の製造方法により製造された、調理感のある良好な焦がし風味が付与された及び/又は食品の味の強さの経時的低減が抑制された食品。
[請求項29]
添加対象物に対して請求項1乃至12のいずれか1項に記載の調味オイルを含有せしめて、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることを特徴とする調理感のある良好な焦がし風味を食品に対して魚系風味として付与する方法。
[請求項30]
添加対象物に対して請求項1乃至12のいずれか1項に記載の調味オイルを含有せしめて、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることを特徴とする食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法。
[請求項31]
請求項1乃至12のうちのいずれか1項に記載の調味オイルを含み、
前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上含むことを特徴とする食品。
[請求項32]
更に、3―メチルブタナールを0.13μg/kg以上含む請求項31に記載の食品。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記(5)に示す甲第1号証~甲第9号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲9」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当審が仮に付与した。
(1)理由1(新規事項追加)
本件特許は、令和3年3月7日付けの手続補正書によってなされた請求項1についての補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本件発明1~32についての特許は同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し取り消すべきものである。
(2)理由2(甲1~甲7に基づく新規性欠如)
本件発明1~4、6~8、10~12、18、21、23、26及び28は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1~甲7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(甲8参照)。
(3)理由3(甲1~甲7に基づく進歩性欠如)
本件発明1~32は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1~甲7に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(甲8参照)。
(4)理由4(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~13及び18~32についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである(甲9参照)。
一般に、魚類の種類によって味や風味は大きく異なるものであるから、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1の「魚系乾物」を用いた全ての場合において、「あご煮干し」を用いた場合(段落0092等)及び「イワシ煮干し」を用いた場合(段落0137等)と同様に、調理感のある焦がし風味を付与できるものであるか否かを当業者が理解できるとはいえず、発明の課題を解決できることを認識できるともいえない。
(5)証拠方法
甲1:風見鶏シン,「ラーメンを作ろう 特製煮干し香味油」,[クックパッド]簡単おいしいみんなのレシピが388万品,更新日2017年10月22日,[Internet]URL:https://cookpad.com/recipe/4617676
甲2:隊長のラーメン大学,「6.油の作り方」,公開日2020年7月13日,[Internet]URL:https://note.com/taichou_men/n/nee041a864e75
甲3:日本食糧新聞社,「エバラ通信:新製品ニュース=「エバラプラスアップ 煮干し風味油」,日食 外食レストラン新聞,2004年4月5日,283号4面,[Internet]URL:https://news.nissyoku.co.jp/restaurant/grs-283-0009
甲4:ベル食品株式会社,「名人直伝調味油煮干し風香味油300g」,ベル食品 業務用商品総合カタログ,2017年9月,p.1-2
甲5:味一筋本舗,「煮干オイル500g」,Amazon.co.jp:煮干オイル500g:食品・飲料・お酒,取り扱い開始日 2020年6月11日,[Internet]URL:https://www.amazon.co.jp/味一筋本舗-煮干オイル500g/dp/B089R366VF
甲6:ヤマダイ株式会社,「香味油のはなし」,2016年,[Internet]URL:https://www.newtouch.co.jp/recipe/6/
甲7:旭屋出版編集部編,「保存版 ラーメン・つけめん タレの技術教本」,第2版,株式会社旭屋出版,2012年3月30日,p.39-40
甲8:谷本昌太,坂本宏司,守本京三,「パージ・トラップ法による煮干イワシの臭気成分の分析」,日本水産学会誌,2005年,vol.71,No.2,p.215-217
甲9:海老塚広子,藤本智子,田中亜由美,塩谷一紗,「ノート 5種類の煮干しだしにおけるにおいと呈味成分の比較」,日本家政学会誌,2017年,Vol.68,No.10,p.526-532
なお、証拠の表記は当審による。
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てたいずれの申立理由によっても、本件発明1~32についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
1.理由1(新規事項追加)について
(1)請求項1についての補正の内容
令和5年3月7日付け手続補正書による補正(以下、「補正」という。)は、本件特許に係る出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の全文を補正するものであり、請求項1については、補正前の「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分から選択される少なくとも1種の香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含む、
前記香味成分の濃度が10~200,000μg/kgであることを特徴とする調味オイル。」という記載を、
「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgであることを特徴とする調味オイル。」に補正するものである。
(2)判断
ア 魚系乾物及び基油について
補正後の「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とする」という発明特定事項は、補正前の請求項6における「魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする請求項1に記載の調味オイル」との記載、補正前の請求項10における「前記加熱の温度が50℃以上である請求項6に記載の調味オイル」との記載及び願書に最初に添付した明細書の[0042]における加熱温度の上限の「200℃以下」との記載に基づき請求項1に係る発明の調味オイルを減縮し、さらに、令和4年10月25日付け拒絶理由通知書により通知された引用文献2及び3に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の拒絶理由を回避するために、「魚系乾物」を、願書に最初に添付した明細書の[0137]における「イワシ煮干し」とあご煮干しとを比較する記載、引用文献2に記載された香味油の魚系材料が煮干しのみであること、及び引用文献3に記載された香味油の魚系材料がアゴ粉末のみであることに基づいて「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」に減縮し、「基油」を、引用文献2に記載された香味油の油が「サラダ油」及び「ゴマ油」であることに基づいて「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」に減縮するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
イ 3-メチルブタナールについて
補正後の「及び3-メチルブタナールを含み」、「前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み」及び「前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」という発明特定事項は、補正前の請求項2における「前記アルデヒド系香味成分として、更に、2-メチルプロパナール及び3-メチルブタナールのうちの少なくとも一方を含む請求項1に記載の調味オイル」との記載及び願書に最初に添付した明細書の[0094][表1]の実験例8の3-メチルブタナールの濃度が「7.6μg/kg」と記載されていることに基づき請求項1に係る発明の調味オイルを減縮するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和5年10月27日に提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の第13~14頁において、概略、(ア)請求項1についての補正は、引用文献2及び3に記載された発明との重複部分のみを除く補正に該当しないから、新たな技術的事項を導入するものであること、並びに(イ)引用文献2における「煮干し(小羽)」及び「小羽のいりこ」の魚種がイワシだと特定する根拠がないことを主張している。
しかし、(ア)上記ア及びイに記載したとおり、上記補正により請求項1に導入される発明特定事項は、いずれも願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
また、(イ)煮干しの魚種としてはイワシが最も一般的であり、イワシ以外の魚種の煮干しを使用する場合は魚種に言及されることが通常であるから、引用文献2における煮干しの魚種はイワシであると解される。
よって、申立人の主張はいずれも採用することができない。
(4)小括
よって、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
(5)その他の請求項の補正について
念のため、請求項1以外の請求項の補正について検討しても、請求項1と同様に考えることができるから、いずれの補正も特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
(6)理由1(新規事項追加)のまとめ
以上のことから、上記補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
よって、理由1(新規事項追加)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
2.理由2(甲1~甲7に基づく新規性欠如)及び理由3(甲1~甲8に基づく進歩性欠如)について
(1)甲1に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
ア 甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「煮干しの香りと旨味をじっくり弱火で油に抽出しました。ラーメン作りに欠かせない、煮干しの香り豊かな香味油の完成です
・・・
材料(約500cc)
サラダ油 450cc
ごま油 150cc
煮干し(瀬戸内産 小) 約80匹 約70g
昆布(羅臼昆布) 少々」(第1頁右上欄)
(1-2)「作り方
・・・
2 ・・・ 煮干し約40匹の頭を取る
3 ・・・ フライパンなどに、分量のサラダ油とごま油を入れ、よく混ぜる
4 ・・・ 頭を取り除いた身の方をフライパンに入れ、弱火(IH10段階中2)に火を付け、45分~60分、じっくり火を入れていく
・・・
6 ・・・ 火力に気をつけ、強いようなら弱めながら、たまにかき混ぜて、煮干しの焦げ付きに注意
7 ・・・ 45分ぐらい経って、身がパリッとしたら火を止め、追加で約40匹を頭ごと投入する。ジュワーというが、そのまま放置
8 ・・・ タッパーなどの保存容器に入れられるくらい冷ましてから、煮干しごと保存容器に入れ、昆布も入れる
・・・
10 ・・・ 一晩経ったら、ザルなどで濾せば、完成」(第1頁下欄~第2頁上欄)
(1-3)「このレシピの生い立ち
自分でラーメンを作るようになって、度々作ってきた香味油。煮干しラーメンに相性の良い、煮干しの香味油の作り方が固まってきました」(第2頁右中欄)
イ 甲8に記載された事項
甲8には以下の事項が記載されている。
(8-1)「パージ・トラップ法による煮干イワシの臭気成分の分析」(p.215左欄表題)
(8-2)「本研究では,パージ・トラップ法を用いて煮干イワシの臭気成分の捕集を行い,キャピラリーGCおよびGC/MSによる臭気成分の同定および定量を行った。
材料として6種類の煮干イワシを用いた。煮干イワシの平均体重,平均体長は,それぞれ0.6g~2.8g,6.0cm~7.4cmの範囲であった。」(p.215左欄下から8行~下から2行)
ウ 甲1に記載された発明
甲1の第1頁右上欄(摘記1-1)には、「煮干しの香りと旨味をじっくり弱火で油に抽出」した「ラーメン作りに欠かせない、煮干しの香り豊かな香味油」について、「材料(約500cc)」が「サラダ油 450cc」、「ごま油 150cc」、「煮干し(瀬戸内産 小) 約80匹 約70g」及び「昆布(羅臼昆布) 少々」であることが記載され、第1頁下欄~第2頁上欄(摘記1-2)には、香味油の作り方が「フライパンなどに、分量のサラダ油とごま油を入れ、よく混ぜる」工程、「煮干し約40匹」の「頭を取り除いた身の方をフライパンに入れ、弱火(IH10段階中2)に火を付け、45分~60分、じっくり火を入れていく」工程、「45分ぐらい経って、身がパリッとしたら火を止め、追加で約40匹を頭ごと投入する」工程、「冷ましてから、煮干しごと保存容器に入れ、昆布も入れる」工程及び「一晩経ったら、ザルなどで濾」す工程を含むことが記載されており、第2頁右中欄(摘記1-3)には、得られた香味油が「煮干しラーメンに相性の良い、煮干しの香味油」であることが記載されている。
そうすると、甲1には以下の発明が記載されている。
「煮干し(瀬戸内産 小)約40匹と、サラダ油450cc及びごま油150ccをフライパンに入れ、弱火(IH10段階中2)で45分~60分火を入れ、火を止めて追加の煮干し約40匹を投入し、冷ましてから昆布少々を入れ、一晩経ったらザルで濾すことにより得られる、煮干しの香りと旨味を油に抽出した、煮干しラーメンに相性の良い香味油」(以下、「甲1発明」という。)
「煮干し(瀬戸内産 小)約40匹と、サラダ油450cc及びごま油150ccをフライパンに入れ、弱火(IH10段階中2)で45分~60分火を入れ、火を止めて追加の煮干し約40匹を投入し、冷ましてから昆布少々を入れ、一晩経ったらザルで濾すことを含む、煮干しの香りと旨味を油に抽出した、煮干しラーメンに相性の良い香味油の製造方法」(以下、「甲1製法発明」という。)
エ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「煮干し(瀬戸内産 小)」、「サラダ油」及び「ごま油」、「火を入れ」、「油に抽出」、「煮干しラーメン」、「煮干しの香りと旨味」並びに「香味油」は、本件発明1における「魚系乾物」、「基油」、「加熱して」、「抽出油」、「食品」、「魚系風味」及び「調味オイル」に相当する。また、フライパンに投入された煮干しの分量及び加熱時間の配分からみて、甲1発明における「煮干し(瀬戸内産 小)約40匹と、サラダ油450cc及びごま油150ccをフライパンに入れ、弱火(IH10段階中2)で45分~60分火を入れ」ることにより得られる抽出油が香味油の「主成分」である。
そうすると、両者は、
「魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル。」
の点で一致し、
相違点1-1:本件発明1は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲1発明は「煮干し(瀬戸内産 小)」を用いる点
相違点1-2:本件発明1は「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」と特定するのに対し、甲1発明は「サラダ油」及び「ごま油」を用いる点
相違点1-3:本件発明1は「50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲1発明は「弱火(IH10段階中2)」である点
相違点1-4:本件発明1は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点1-1について
煮干しの魚種としてはイワシが最も一般的であり、イワシ以外の魚種の煮干しを使用する場合は魚種に言及されることが通常であるから、甲1発明における「煮干し(瀬戸内産 小)」は、イワシの煮干しであると解される。また、甲1発明における「煮干し(瀬戸内産 小)」は、甲1発明における唯一の魚系乾物である。
そうすると、甲1発明における「煮干し(瀬戸内産 小)」は、本件発明1の魚系乾物から「(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」という発明特定事項により除かれる「イワシ煮干しのみからなる魚系乾物」に相当するから、相違点1-1は実質的な相違点である。
また、甲1には、「煮干し(瀬戸内産 小)」以外の魚系乾物を採用する動機付けとなる記載は見いだせず、当業者は魚系乾物を変更すれば甲1発明の香味油の風味が変わってしまうものと理解するから、甲1発明において相違点1-1に係る魚系乾物を用いることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、申立人が副引用例として提出した甲8(摘記8-1及び8-2)にも、当業者が甲1発明において相違点1-1に係る構成を採用する動機付けとなる記載は存在しない。
(ウ)相違点1-2について
甲1発明1においては「サラダ油450cc及びごま油150cc」以外の基油は使用されていない。そうすると、甲1発明における上記基油は、本件発明1の基油から「(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」という発明特定事項により除かれる「サラダ油とゴマ油とのみからなる基油」に相当するから、相違点1-2は実質的な相違点である。
また、甲2には、「サラダ油」及び「ごま油」以外の基油を採用する動機付けとなる記載は見いだせず、当業者は基油を変更すれば甲1発明の香味油の風味が変わってしまうものと理解するから、甲1発明において相違点1-2に係る基油を用いることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、申立人が副引用例として提出した甲8(摘記8-1及び8-2)にも、当業者が甲1発明において相違点1-2に係る構成を採用する動機付けとなる記載は存在しない。
(エ)申立人の主張について
申立人は申立書第31~32頁において、甲1発明が煮干しと昆布を、サラダ油とごま油により弱火で抽出した香味油であることをもって、本件発明1における魚系乾物及び基油についての発明特定事項をも具備する旨を主張しているが、上記(イ)及び(ウ)に記載したとおり、本件発明1と甲1発明とは魚系乾物に関する相違点1-1及び基油に関する相違点1-2において実質的に相違するから、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は申立書第33頁において、「本件特許明細書の段落0002にも記載されているように、食品に魚系の風味を付与するために、魚系乾物として様々な種類の魚類を原料としたものを用いることは広く行われている。したがって、それらの魚類を原料とした魚系乾物の中から、最適又は好適なものを選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮である」と主張しているが、甲1の第2頁右中欄(摘記1-3)に、「煮干しラーメンに相性の良い、煮干しの香味油の作り方が固まってきました」と記載されているように、甲1に記載された香味油の材料及び製造方法は、煮干しラーメンとの相性において煮干しの風味が最適化されたものであると解され、また、甲1には魚系乾物を「煮干し(瀬戸内産 小)」以外の魚種に変更する動機付けとなる記載も存在しないから、当業者は甲1発明の香味油の煮干し風味の変更につながる魚系乾物の魚種の変更を動機付けられないといえる。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(オ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1-1及び相違点1-2はいずれも実質的な相違点であり、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、相違点1-3及び相違点1-4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。
カ 本件発明9について
(ア)本件発明9と甲1発明との対比
上記エ(ア)と同様に、本件発明9と甲1発明とを対比すると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする、
調味オイル。」
の点で一致し、
相違点1-5:本件発明9は「食品(但し、ラーメンを除く)に対して」と特定するのに対し、甲1発明は「煮干しラーメンに相性の良い」ものである点
相違点1-6:本件発明9は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲1発明は「煮干し(瀬戸内産 小)」を用いる点
相違点1-7:本件発明9は「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」と特定するのに対し、甲1発明は「サラダ油」及び「ごま油」を用いる点
相違点1-8:本件発明9は「50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲1発明は「弱火(IH10段階中2)」である点
相違点1-9:本件発明9は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点1-6及び相違点1-7について検討する。
(イ)相違点1-6及び相違点1-7について
相違点1-6及び相違点1-7は、それぞれ相違点1-1及び相違点1-2と同じ内容の相違点であるから、上記エ(イ)及び(ウ)と同じことがいえる。
よって、相違点1-6及び相違点1-7はいずれも実質的な相違点であり、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明9についてのまとめ
以上のことから、相違点1-5、相違点1-8及び相違点1-9について検討するまでもなく、本件発明9は甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
キ 本件発明10~12について
本件発明10~12は、いずれも本件発明9を引用し、本件発明9の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明9と同様に判断される。
ク 本件発明13について
(ア)本件発明13(請求項1を引用する場合)と甲1製法発明との対比
本件発明13のうち、請求項1を引用する場合の発明と甲1製法発明とを対比すると、甲1製法発明における「香味油の製造方法」、「煮干し(瀬戸内産 小)」、「サラダ油」及び「ごま油」、「火を入れ」並びに「油に抽出」は、それぞれ本件発明13における「調味オイルの製造方法」、「魚系乾物」、「基油」、「加熱して」及び「抽出油」に相当する。また、甲1製法発明における材料及び香味油の構成と、本件発明13における「請求項1に記載の調味オイル」との一致点及び相違点は、概ね、上記エ(ア)と同様である。
そうすると、両者は、
「魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルの製造方法であって、
前記魚系乾物と前記基油とをともに加熱して抽出油を得る加熱工程を備える調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点1-10:本件発明13は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲1製法発明は「煮干し(瀬戸内産 小)」を用いる点
相違点1-11:本件発明13は「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」と特定するのに対し、甲1製法発明は「サラダ油」及び「ごま油」を用いる点
相違点1-12:本件発明13は「温度50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲1製法発明は「弱火(IH10段階中2)」である点
相違点1-13:本件発明13は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点1-10及び相違点1-11について
相違点1-10及び相違点1-11は、それぞれ相違点1-1及び相違点1-2と同じ内容の相違点であるから、上記エ(イ)及び(ウ)と同じことがいえる。
よって、相違点1-10及び相違点1-11はいずれも実質的な相違点であり、また、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明13(請求項1を引用する場合)についてのまとめ
以上のことから、相違点1-12及び相違点1-13について検討するまでもなく、本件発明13は甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明13(請求項2~8のいずれか1項を引用する場合)について
上記オに記載したとおり、本件発明13における「請求項2~8のいずれか1項に記載の調味オイル」は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明13(請求項2~8のいずれか1項を引用する場合)は、本件発明13(請求項1を引用する場合)と同様に判断される。
(オ)本件発明13(請求項9を引用する場合)と甲1製法発明との対比
本件発明13のうち、請求項9を引用する場合の発明と甲1製法発明とを上記(ア)と同様に対比すると、甲1製法発明における材料及び香味油の構成と、本件発明13における「請求項9に記載の調味オイル」との一致点及び相違点は、概ね、上記カ(ア)と同様である。
そうすると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする調味オイルの製造方法であって、
前記魚系乾物と前記基油とをともに加熱して抽出油を得る加熱工程を備える調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点1-14:本件発明13は「食品(但し、ラーメンを除く)に対して」と特定するのに対し、甲1製法発明は「煮干しラーメンに相性の良い」ものである点
相違点1-15:本件発明13は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲1製法発明は「煮干し(瀬戸内産 小)」を用いる点
相違点1-16:本件発明13は「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」と特定するのに対し、甲1製法発明は「サラダ油」及び「ごま油」を用いる点
相違点1-17:本件発明13は「温度50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲1製法発明は「弱火(IH10段階中2)」である点
相違点1-18:本件発明13は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点1-15及び1-16について検討する。
(カ)相違点1-15及び相違点1-16について
相違点1-15及び相違点1-16は、それぞれ相違点1-1及び相違点1-2と同じ内容の相違点であるから、上記エ(イ)及び(ウ)と同じことがいえる。
よって、相違点1-15及び相違点1-16はいずれも実質的な相違点であり、また、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(キ)本件発明13(請求項9を引用する場合)についてのまとめ
以上のことから、相違点1-14、相違点1-17及び相違点1-18について検討するまでもなく、本件発明13は甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ク)本件発明13(請求項10~12のいずれか1項を引用する場合)について
上記キに記載したとおり、本件発明13における「請求項10~12のいずれか1項に記載の調味オイル」は、いずれも本件発明9を引用し、本件発明9の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明13(請求項10~12のいずれか1項を引用する場合)は、本件発明13(請求項9を引用する場合)と同様に判断される。
ケ 本件発明14について
(ア)本件発明14と甲1製法発明との対比
本件発明14と甲1製法発明とを対比すると、甲1製法発明における「煮干しラーメン」、「煮干しの香りと旨味」、「香味油の製造方法」、「煮干し(瀬戸内産 小)」、「サラダ油」及び「ごま油」、「火を入れ」並びに「油に抽出」は、本件発明14における「食品」、「魚系風味」、「調味オイルの製造方法」、「魚系乾物」、「基油」、「加熱して」及び「抽出油」に相当する。また、フライパンに投入された煮干しの分量及び加熱時間の配分からみて、甲1製法発明における「煮干し(瀬戸内産 小)約40匹と、サラダ油450cc及びごま油150ccをフライパンに入れ、弱火(IH10段階中2)で45分~60分火を入れ」ることにより得られる抽出油が香味油の「主成分」である。
そうすると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルの製造方法であって、
前記調味オイルは、魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分とし、
前記魚系乾物と前記基油とをともに加熱して前記抽出油を得る加熱工程を備える調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点1-19:本件発明14は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲1製法発明は「煮干し(瀬戸内産 小)」を用いる点
相違点1-20:本件発明14は「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」と特定するのに対し、甲1製法発明は「サラダ油」及び「ごま油」を用いる点
相違点1-21:本件発明14は「温度50℃以上200℃以下に40分間以下」と特定するのに対し、甲1製法発明は「弱火(IH10段階中2)で45分~60分」である点
相違点1-22:本件発明14は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点1-19及び相違点1-20について
相違点1-19及び相違点1-20は、それぞれ相違点1-1及び相違点1-2と同じ内容の相違点であるから、上記エ(イ)及び(ウ)と同じことがいえる。
よって、相違点1-19及び相違点1-20はいずれも実質的な相違点であり、また、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明14についてのまとめ
以上のことから、相違点1-21及び相違点1-22について検討するまでもなく、本件発明14は甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
コ 本件発明15~32について
本件発明15~17は本件発明13を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明18~20は本件発明1~8を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明21、22は本件発明9~12を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明23~32は本件発明1~12を直接又は間接的に引用する発明であるから、上記エ~クと同様に判断される。
サ 甲1に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~32は、いずれも甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~32は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由2(甲1に基づく新規性欠如)及び理由3(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
(2)甲2に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
ア 甲2に記載された事項
甲2には以下の事項が記載されている。
(2-1)「ラーメン一杯当たり10~30ccくらいの油が入っています。その作り方です。」(第1頁)
(2-2)「煮干し油
・・・
常温のサラダ油2リットルに対してイワシ煮干し400g強を入れて弱火で45分間煮出します。セメント煮干し系にしか煮干し油を使わないのであれば煮干し油に使う煮干しは安い物で構いません。むしろ安物の方がエグエグ感が出てセメントファンには喜ばれます。逆に端麗系に使うのであれば瀬戸内系の上品な煮干しを選んだ方が良いかもしれません。
出来上がったら網などで濾して煮干しを取り出します。」(第2頁)
イ 甲2に記載された発明
甲2の第1頁(摘記2-1)には、「ラーメン一杯当たり10~30ccくらいの油が入っています。その作り方です」と記載され、第2頁(摘記2-2)には、「常温のサラダ油2リットルに対してイワシ煮干し400g強を入れて弱火で45分間煮出します」及び「出来上がったら網などで濾して煮干しを取り出します」と記載されている。
そうすると、甲2には以下の発明が記載されている。
「サラダ油2リットルに対してイワシ煮干し400g強を入れて弱火で45分間煮出し、網などで濾すことにより得られる、ラーメンに入れる煮干し油」(以下、「甲2発明」という。)
「サラダ油2リットルに対してイワシ煮干し400g強を入れて弱火で45分間煮出す工程、及び網などで濾す工程を有する、ラーメンに入れる煮干し油の製造方法」(以下、「甲2製法発明」という。)
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「イワシ煮干し」、「サラダ油」、「弱火」、「煮出し」、「ラーメン」及び「煮干し油」は、本件発明1における「魚系乾物」、「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」、「加熱して」、「抽出油」、「食品」及び「調味オイル」に相当する。また、甲2発明はイワシ煮干し及びサラダ油以外の材料を使用していないから、煮出した油が煮干し油の「主成分」であり、煮干しに由来する「魚系風味」を備えるものと認められる。
そうすると、両者は、
「魚系乾物と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル。」
の点で一致し、
相違点2-1:本件発明1は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲2発明は「イワシ煮干し」を用いる点
相違点2-2:本件発明1は「50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲2発明は「弱火」である点
相違点2-3:本件発明1は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲2発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点2-1について
甲2発明における「イワシ煮干し」は、甲2発明における唯一の魚系乾物である。
そうすると、甲2発明における「イワシ煮干し」は、本件発明1の魚系乾物から「(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」という発明特定事項により除かれる「イワシ煮干しのみからなる魚系乾物」に相当するから、相違点2-1は実質的な相違点である。
また、甲2には、「イワシ煮干し」以外の魚系乾物を採用する動機付けとなる記載は見いだせず、当業者は魚系乾物を変更すれば甲2発明の煮干し油の風味が変わってしまうものと理解するから、甲2発明において相違点2-1に係る魚系乾物を用いることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、申立人が副引用例として提出した甲8(摘記8-1及び8-2)にも、当業者が甲2発明において相違点2-1に係る構成を採用する動機付けとなる記載は存在しない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は申立書第34頁において、甲2発明がサラダ油2リットルに対してイワシ煮干し400g強を入れて弱火で45分間煮出した煮干しであることをもって、本件発明1における魚系乾物についての発明特定事項をも具備する旨を主張しているが、上記(イ)に記載したとおり、本件発明1と甲2発明とは魚系乾物に関する相違点2-1において実質的に相違するから、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は申立書第35頁において、「仮に相違する点があるとしても、本件特許発明1は引用発明2に基いて当業者が容易に想到することができたものである」と主張しているが、甲2に記載された煮干し油の材料及び製造方法は、ラーメンに入れるために風味が最適化されたものであると解され、また、甲2には魚系乾物を「イワシ煮干し」以外の魚種に変更する動機付けとなる記載も存在しないから、当業者は甲2発明の煮干し油の風味の変更につながる魚系乾物の魚種の変更を動機付けられないといえる。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点2-1は実質的な相違点であり、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、相違点2-2及び相違点2-3について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明ではなく、かつ、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。
オ 本件発明9について
(ア)本件発明9と甲2発明との対比
上記ウ(ア)と同様に、本件発明9と甲2発明とを対比すると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
魚系乾物と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする、
調味オイル。」
の点で一致し、
相違点2-4:本件発明9は「食品(但し、ラーメンを除く)に対して」と特定するのに対し、甲2発明は「ラーメンに入れる」ものである点
相違点2-5:本件発明9は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲2発明は「イワシ煮干し」を用いる点
相違点2-6:本件発明9は「50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲2発明は「弱火」である点
相違点2-7:本件発明9は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲2発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点2-5について検討する。
(イ)相違点2-5について
相違点2-5は相違点2-1と同じ内容の相違点であるから、上記ウ(イ)と同じことがいえる。
よって、相違点2-5は実質的な相違点であり、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明9についてのまとめ
以上のことから、相違点2-4、2-6及び相違点2-7について検討するまでもなく、本件発明9は甲2に記載された発明ではなく、かつ、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明10~12について
本件発明10~12は、いずれも本件発明9を引用し、本件発明9の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明9と同様に判断される。
キ 本件発明13について
(ア)本件発明13(請求項1を引用する場合)と甲2製法発明との対比
本件発明13のうち、請求項1を引用する場合の発明と甲2製法発明とを対比すると、甲2製法発明における「煮干し油の製造方法」、「イワシ煮干し」、「サラダ油」、「弱火」及び「煮出す工程」は、それぞれ本件発明13における「調味オイルの製造方法」、「魚系乾物」、「基油」、「加熱して」及び「抽出油を得る加熱工程」に相当する。また、甲2製法発明における材料及び煮干し油の構成と、本件発明13における「請求項1に記載の調味オイル」との一致点及び相違点は、概ね、上記ウ(ア)と同様である。
そうすると、両者は、
「魚系乾物と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルの製造方法であって、
前記魚系乾物と前記基油とをともに加熱して抽出油を得る加熱工程を備える調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点2-8:本件発明13は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲2製法発明は「イワシ煮干し」を用いる点
相違点2-9:本件発明13は「温度50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲2製法発明は「弱火」である点
相違点2-10:本件発明13は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲2製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点2-8について
相違点2-8は、相違点2-1と同じ内容の相違点であるから、上記ウ(イ)と同じことがいえる。
よって、相違点2-8は実質的な相違点であり、また、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明13(請求項1を引用する場合)についてのまとめ
以上のことから、相違点2-9及び相違点2-10について検討するまでもなく、本件発明13は甲2に記載された発明ではなく、かつ、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明13(請求項2~8のいずれか1項を引用する場合)について
上記エに記載したとおり、本件発明13における「請求項2~8のいずれか1項に記載の調味オイル」は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明13(請求項2~8のいずれか1項を引用する場合)は、本件発明13(請求項1を引用する場合)と同様に判断される。
(オ)本件発明13(請求項9を引用する場合)と甲2製法発明との対比
本件発明13のうち、請求項9を引用する場合の発明と甲2製法発明とを上記(ア)と同様に対比すると、甲2製法発明における材料及び煮干し油の構成と、本件発明13における「請求項9に記載の調味オイル」との一致点及び相違点は、概ね、上記オ(ア)と同様である。
そうすると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、魚系乾物と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする調味オイルの製造方法であって、
前記魚系乾物と前記基油とをともに加熱して抽出油を得る加熱工程を備える調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点2-11:本件発明13は「食品(但し、ラーメンを除く)に対して」と特定するのに対し、甲2製法発明は「ラーメンに入れる」ものである点
相違点2-12:本件発明13は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲2製法発明は「イワシ煮干し」を用いる点
相違点2-13:本件発明13は「温度50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲2製法発明は「弱火」である点
相違点2-14:本件発明13は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲2製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点2-12について検討する。
(カ)相違点2-12について
相違点2-12は、相違点2-1と同じ内容の相違点であるから、上記ウ(イ)と同じことがいえる。
よって、相違点2-12は実質的な相違点であり、また、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(キ)本件発明13(請求項9を引用する場合)についてのまとめ
以上のことから、相違点2-11、相違点2-13及び相違点2-14について検討するまでもなく、本件発明13は甲2に記載された発明ではなく、かつ、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ク)本件発明13(請求項10~12のいずれか1項を引用する場合)について
上記カに記載したとおり、本件発明13における「請求項10~12のいずれか1項に記載の調味オイル」は、いずれも本件発明9を引用し、本件発明9の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明13(請求項10~12のいずれか1項を引用する場合)は、本件発明13(請求項9を引用する場合)と同様に判断される。
ク 本件発明14について
(ア)本件発明14と甲2製法発明との対比
本件発明14と甲2製法発明とを対比すると、甲2製法発明における「ラーメン」、「煮干し油の製造方法」、「イワシ煮干し」、「サラダ油」、「弱火」及び「煮出す工程」は、本件発明14における「食品」、「魚系風味」、「調味オイルの製造方法」、「魚系乾物」、「基油」、「加熱して」及び「抽出油を得る加熱工程」に相当する。また、甲2製法発明はイワシ煮干し及びサラダ油以外の材料を使用していないから、煮出した油が煮干し油の「主成分」であり、煮干しに由来する「魚系風味」を備えるものと認められる。
そうすると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルの製造方法であって、
前記調味オイルは、魚系乾物と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに加熱して得た抽出油を主成分とし、
前記魚系乾物と前記基油とをともに加熱して前記抽出油を得る加熱工程を備える調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点2-15:本件発明14は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲2製法発明は「イワシ煮干し」を用いる点
相違点2-16:本件発明14は「温度50℃以上200℃以下に40分間以下」と特定するのに対し、甲2製法発明は「弱火で45分間」である点
相違点2-17:本件発明14は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲2製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点2-15について
相違点2-15は、相違点2-1と同じ内容の相違点であるから、上記ウ(イ)と同じことがいえる。
よって、相違点2-15は実質的な相違点であり、また、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明14についてのまとめ
以上のことから、相違点2-16及び相違点2-17について検討するまでもなく、本件発明14は甲2に記載された発明ではなく、かつ、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ケ 本件発明15~32について
本件発明15~17は本件発明13を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明18~20は本件発明1~8を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明21、22は本件発明9~12を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明23~32は本件発明1~12を直接又は間接的に引用する発明であるから、上記ウ~キと同様に判断される。
コ 甲2に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~32は、いずれも甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~32は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由2(甲2に基づく新規性欠如)及び理由3(甲2に基づく進歩性欠如)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
(3)甲3に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
ア 甲3に記載された事項
甲3には以下の事項が記載されている。
(3-1)「「今トレンドの魚系のだしのきいたラーメンを簡単においしく作りたい」。そんな声にこたえられるのがエバラ食品工業(株)の「エバラプラスアップ 煮干し風味油」だ。」(記事本文1~2行)
(3-2)「「エバラプラスアップ 煮干し風味油」はエバラ食品工業(株)の特殊な製法によって、菜種油とコメ油をベースに、煮干し、サバ節、アジ節を加え、だし感のある香味油に仕上げたもの。また、煮干しだけでなくサバ節とアジ節を合わせることで、味に深みを出している。
使い方は丼に入れた醤油だれに小さじ一杯から二杯、加えるだけ。あとはスープを仕上げれば、煮干しの風味とコクがプラスされ、うまみがグンとアップしたラーメンスープが出来上がる。」(記事本文10~14行)
(3-3)「「エバラプラスアップ 煮干し風味油」原材料=菜種油、コメ油、魚粉末(イワシ、サバ、アジ)ほか/内容量=九一五g/商品サイズ=胴径八三×高さ二六八(ミリメートル)/賞味期限=開栓前常温八ヵ月/入数=六」(記事本文下から3行~最終行)
イ 甲3に記載された発明
甲3の記事本文1~2行(摘記3-1)には、エバラ食品工業(株)の「エバラプラスアップ 煮干し風味油」という商品が、「魚系のだしのきいたラーメンを簡単においしく作りたい」という声にこたえられる商品であることが記載され、記事本文10~14行(摘記3-2)には、上記商品が「エバラ食品工業(株)の特殊な製法によって、菜種油とコメ油をベースに、煮干し、サバ節、アジ節を加え、だし感のある香味油に仕上げたもの。また、煮干しだけでなくサバ節とアジ節を合わせることで、味に深みを出している」ものであることが記載され、使い方は「丼に入れた醤油だれに小さじ一杯から二杯、加えるだけ。あとはスープを仕上げれば、煮干しの風味とコクがプラスされ、うまみがグンとアップしたラーメンスープが出来上がる」と記載されている。また、記事本文下から3行~最終行(摘記3-3)には、上記商品の原材料が「菜種油、コメ油、魚粉末(イワシ、サバ、アジ)ほか」と記載されている。
そうすると、甲3には以下の発明が記載されている。
「菜種油、コメ油、魚粉末(イワシ、サバ、アジ)ほかを原材料とし、エバラ食品工業(株)の特殊な製法により製造される、煮干しの風味とコクがプラスされ、うまみがグンとアップしたラーメンスープを作るための煮干し風味油」(以下、「甲3発明」という。)
「菜種油、コメ油、魚粉末(イワシ、サバ、アジ)ほかを原材料とし、エバラ食品工業(株)の特殊な製法を備える、煮干しの風味とコクがプラスされ、うまみがグンとアップしたラーメンスープを作るための煮干し風味油の製造方法」(以下、「甲3製法発明」という。)
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「魚粉末(イワシ、サバ、アジ)」、「菜種油、コメ油」、「ラーメンスープ」、「煮干しの風味とコクがプラスされ、うまみがグンとアップした」及び「煮干し風味油」は、本件発明1における「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」、「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」、「食品」、「魚系風味を付与できる」及び「調味オイル」に相当する。
そうすると、両者は、
「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とを原材料とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル。」
の点で一致し、
相違点3-1:本件発明1は「50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とする」と特定するのに対し、甲3発明は「エバラ食品工業(株)の特殊な製法により製造される」ものである点
相違点3-2:本件発明1は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲3発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点3-2について検討する。
(イ)相違点3-2について
甲3には、煮干し風香味油に含まれる具体的な化合物名及び含有量は記載されていない。また、本件明細書に記載された実施例における原材料及び加熱条件と、甲3発明における原材料及び「エバラ食品工業(株)の特殊な製法」とが一致しているともいえないため、本件明細書の記載から甲3発明に含まれる具体的な化合物名及び含有量を類推することはできず、甲3発明が相違点3-2に係る構成を備えているとはいえない。よって、相違点3-2は実質的な相違点である。
また、甲3には、相違点3-2に係る特定の化合物に着目する動機付けとなる記載はなく、特定化合物の含有量を相違点3-2に係る範囲に限定する動機付けとなる記載もないから、甲3発明において相違点3-2に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、申立人が副引用例として提出した甲8(摘記8-1及び8-2)にも、当業者が甲3発明において相違点3-2に係る構成を採用する動機付けとなる記載は存在しない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は申立書第35~36頁において、「本件特許明細書の実施例の項での実験(段落0094、表1)と、甲3発明の調製は、原料及び処理条件の点で極めて類似するものであるから、甲3発明においても、「前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgであること」を満たす蓋然性が高い」と主張している。
しかし、本件明細書の[0094]の[表1]の実験で用いられた原料は、[0093]によると「あご煮干し(100g)」及び「キャノーラオイル(400g)」であるから、甲3に記載された「魚粉末(イワシ、サバ、アジ)」及び「菜種油、コメ油」とは異なる原料である。また、処理条件は、本件明細書の[0093]によると「あご煮干し(100g)をキャノーラオイル(400g)に浸漬し、50℃(実験例1)、70℃(実験例2)、90℃(実験例3)、110℃(実験例4)、130℃(実験例5)、150℃(実験例6)、170℃(実験例7)及び190℃(実験例8)の各温度で、各々10分間加熱して得た抽出油を調製」したというものであるが、甲3には「エバラ食品工業(株)の特殊な製法」の具体的な内容が記載されていないから、本件明細書の[0093]に記載された処理条件と甲3発明の製法が類似しているといえる根拠は見いだせない。よって、本件明細書の記載を参酌しても、甲3発明が相違点3-2に係る構成を備えているとはいえないから、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は申立書第36頁において、「仮に相違する点があるとしても、本件特許発明1は引用発明3に基いて当業者が容易に想到することができたものである」と主張しているが、甲3には相違点3-2に係る特定の化合物に着目する動機付けとなる記載はなく、加熱温度等の条件を調製することにより特定化合物の含有量を調整することができるという技術的思想も開示されておらず、さらに各化合物の含有量を相違点3-2に係る範囲に限定する動機付けとなる記載もないから、甲3発明において相違点3-2に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。なお、甲8には、6種類の煮干しイワシの臭気成分の分析結果が記載されているが、甲8にも相違点3-2に係る特定の化合物に着目する動機付けとなる記載はなく、煮干し風香味油において特定成分の含有量を相違点3-2に係る範囲に限定する動機付けとなる記載も見いだせない。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点3-2は実質的な相違点であり、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、相違点3-1について検討するまでもなく、本件発明1は甲3に記載された発明ではなく、かつ、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。
オ 本件発明9について
(ア)本件発明9と甲3発明との対比
上記ウ(ア)と同様に、本件発明9と甲3発明とを対比すると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とを原材料とする、
調味オイル。」
の点で一致し、
相違点3-3:本件発明9は「食品(但し、ラーメンを除く)に対して」と特定するのに対し、甲3発明は「ラーメンスープを作るための」ものである点
相違点3-4:本件発明9は「50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とする」と特定するのに対し、甲3発明は「エバラ食品工業(株)の特殊な製法により製造される」ものである点
相違点3-5:本件発明9は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲3発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点3-5について検討する。
(イ)相違点3-5について
相違点3-5は相違点3-2と同じ内容の相違点であるから、上記ウ(イ)と同じことがいえる。
よって、相違点3-5は実質的な相違点であり、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明9についてのまとめ
以上のことから、相違点3-3及び相違点3-4について検討するまでもなく、本件発明9は甲3に記載された発明ではなく、かつ、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明10~12について
本件発明10~12は、いずれも本件発明9を引用し、本件発明9の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明9と同様に判断される。
キ 本件発明13について
(ア)本件発明13(請求項1を引用する場合)と甲3製法発明との対比
本件発明13のうち、請求項1を引用する場合の発明と甲3製法発明とを対比すると、甲3製法発明における「煮干し風味油の製造方法」、「魚粉末(イワシ、サバ、アジ)」及び「菜種油、コメ油」は、それぞれ本件発明13における「調味オイルの製造方法」、「魚系乾物」及び「基油」に相当する。また、甲3製法発明における材料及び煮干し風味油の構成と、本件発明13における「請求項1に記載の調味オイル」との一致点及び相違点は、概ね、上記ウ(ア)と同様である。
そうすると、両者は、
「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とを原材料とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点3-6:本件発明13は「温度50℃以上200℃以下に加熱して抽出油を得る加熱工程を備える」と特定するのに対し、甲3製法発明は「エバラ食品工業(株)の特殊な製法を備える」ものである点
相違点3-7:本件発明13は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲3製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点3-7について検討する。
(イ)相違点3-7について
相違点3-7は、相違点3-2と同じ内容の相違点であるから、上記ウ(イ)と同じことがいえる。
よって、相違点3-7は実質的な相違点であり、また、甲3製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明13(請求項1を引用する場合)についてのまとめ
以上のことから、相違点3-6について検討するまでもなく、本件発明13は甲3に記載された発明ではなく、かつ、甲3製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明13(請求項2~8のいずれか1項を引用する場合)について
上記エに記載したとおり、本件発明13における「請求項2~8のいずれか1項に記載の調味オイル」は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明13(請求項2~8のいずれか1項を引用する場合)は、本件発明13(請求項1を引用する場合)と同様に判断される。
(オ)本件発明13(請求項9を引用する場合)と甲3製法発明との対比
本件発明13のうち、請求項9を引用する場合の発明と甲3製法発明とを上記(ア)と同様に対比すると、甲3製法発明における材料及び煮干し風味油の構成と、本件発明13における「請求項9に記載の調味オイル」との一致点及び相違点は、概ね、上記オ(ア)と同様である。
そうすると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とを原材料とする、調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点3-8:本件発明13は「食品(但し、ラーメンを除く)に対して」と特定するのに対し、甲3製法発明は「ラーメンスープを作るための」ものである点
相違点3-9:本件発明13は「温度50℃以上200℃以下に加熱して抽出油を得る加熱工程を備える」と特定するのに対し、甲3製法発明は「エバラ食品工業(株)の特殊な製法を備える」ものである点
相違点3-10:本件発明13は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲3製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点3-10について検討する。
(カ)相違点3-10について
相違点3-10は、相違点3-2と同じ内容の相違点であるから、上記ウ(イ)と同じことがいえる。
よって、相違点3-10は実質的な相違点であり、また、甲3製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(キ)本件発明13(請求項9を引用する場合)についてのまとめ
以上のことから、相違点3-8及び相違点3-9について検討するまでもなく、本件発明13は甲3に記載された発明ではなく、かつ、甲3製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ク)本件発明13(請求項10~12のいずれか1項を引用する場合)について
上記カに記載したとおり、本件発明13における「請求項10~12のいずれか1項に記載の調味オイル」は、いずれも本件発明9を引用し、本件発明9の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明13(請求項10~12のいずれか1項を引用する場合)は、本件発明13(請求項9を引用する場合)と同様に判断される。
ク 本件発明14について
(ア)本件発明14と甲3製法発明との対比
本件発明14と甲3製法発明とを対比すると、甲3製法発明における「ラーメンスープ」、「煮干しの風味とコクがプラスされ、うまみがグンとアップした」、「煮干し風味油の製造方法」、「魚粉末(イワシ、サバ、アジ)」及び「菜種油、コメ油」は、本件発明14における「食品」、「魚系風味を付与できる」、「調味オイルの製造方法」、「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」及び「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」に相当する。
そうすると、両者は、
「食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルの製造方法であって、
前記調味オイルは、魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とを原料とする、
調味オイルの製造方法。」
の点で一致し、
相違点3-11:本件発明14は「前記魚系乾物と前記基油とをともに温度50℃以上200℃以下に40分間加熱して前記抽出油を得る加熱工程を備える」及び「加熱して得た抽出油を主成分とし」と特定するのに対し、甲3製法発明は「エバラ食品工業(株)の特殊な製法を備える」ものである点
相違点3-12:本件発明14は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲3製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点3-12について検討する。
(イ)相違点3-12について
相違点3-12は、相違点3-2と同じ内容の相違点であるから、上記ウ(イ)と同じことがいえる。
よって、相違点3-12は実質的な相違点であり、また、甲3製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(ウ)本件発明14についてのまとめ
以上のことから、相違点3-11について検討するまでもなく、本件発明14は甲3に記載された発明ではなく、かつ、甲3製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ケ 本件発明15~32について
本件発明15~17は本件発明13を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明18~20は本件発明1~8を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明21、22は本件発明9~12を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明23~32は本件発明1~12を直接又は間接的に引用する発明であるから、上記ウ~キと同様に判断される。
コ 甲3に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~32は、いずれも甲3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~32は、いずれも甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由2(甲3に基づく新規性欠如)及び理由3(甲3に基づく進歩性欠如)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
(4)甲4に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
ア 甲4に記載された事項
甲4には以下の事項が記載されている。
(4-1)「名人直伝調味油煮干し風香味油300g
豚脂をベースに煮干しと野菜を炊き出した油を合わせた煮干し風香味油です。」(第2頁右上最上欄)
(4-2)「使用方法
ラーメンスープの調味油としてお好みの分量をそのままお使いください。料理の風味、つや出しコク出しにお使いいただけます。」(第2頁右上最上欄)
イ 甲4に記載された発明
甲4の第2頁右上最上欄(摘記4-1及び4-2)には、「名人直伝調味油煮干し風香味油300g」という商品が、「豚脂をベースに煮干しと野菜を炊き出した油を合わせた煮干し風香味油」であることが記載され、使用方法については「ラーメンスープの調味油として」又は「料理の風味、つや出しコク出しに」使用できることが記載されている。
そうすると、甲4には以下の発明が記載されている。
「豚脂をベースに煮干しと野菜を炊き出した油を合わせた煮干し風香味油であって、ラーメンスープの調味油として、又は料理の風味、つや出しコク出しに使用できる煮干し風香味油」(以下、「甲4発明」という。)
「煮干しと野菜を炊き出した油を製造する工程、及び豚脂をベースに前記炊き出した油を合わせる工程を備える、ラーメンスープの調味油として、又は料理の風味、つや出しコク出しに使用できる煮干し風香味油の製造方法」(以下、「甲4製法発明」という。)
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「煮干し」、「油」、「炊き出した油」、「ラーメンスープ」及び「料理」、「煮干し風」並びに「香味油」は、本件発明1における「魚系乾物」、「基油」、「加熱して得た抽出油」、「食品」、「魚系風味」及び「調味オイル」に相当する。
そうすると、両者は、
「魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を含有する
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル。」
の点で一致し、
相違点4-1:本件発明1は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲4発明は「煮干し」を用いる点
相違点4-2:本件発明1は「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」と特定するのに対し、甲4発明は「油」である点
相違点4-3:本件発明1は「50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点
相違点4-4:本件発明1は「抽出油を主成分とする」と特定するのに対し、甲4発明は「豚脂をベースに」「煮干しと野菜を炊き出した油を合わせた」ものである点
相違点4-5:本件発明1は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点4-1について
煮干しの魚種としてはイワシが最も一般的であり、イワシ以外の魚種の煮干しを使用する場合は魚種に言及されることが通常であるから、甲4発明における「煮干し」は、イワシの煮干しであると解される。また、甲4発明における「煮干し」は、甲4発明における唯一の魚系乾物である。
そうすると、甲4発明における「煮干し」は、本件発明1の魚系乾物から「(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」という発明特定事項により除かれる「イワシ煮干しのみからなる魚系乾物」に相当するから、相違点4-1は実質的な相違点である。
また、甲4には、「煮干し」以外の魚系乾物を採用する動機付けとなる記載は見いだせず、当業者は魚系乾物を変更すれば甲4発明の香味油の風味が変わってしまうものと理解するから、甲4発明において相違点4-1に係る魚系乾物を用いることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、申立人が副引用例として提出した甲8(摘記8-1及び8-2)にも、当業者が甲4発明において相違点4-1に係る構成を採用する動機付けとなる記載は存在しない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は申立書第36頁において、甲4発明が豚脂をベースに、煮干しと野菜を炊き出した油を合わせた煮干し風香味油であることをもって、本件発明1における魚系乾物についての発明特定事項をも具備する旨を主張しているが、上記(イ)に記載したとおり、本件発明1と甲4発明とは魚系乾物に関する相違点4-1において実質的に相違するから、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は申立書第37頁において、「仮に相違する点があるとしても、本件特許発明1は引用発明4に基いて当業者が容易に想到することができたものである」と主張しているが、甲4発明はスープの調味油又は料理の風味出しに使用するために風味が最適化されたものであると解され、また、甲4には魚系乾物を「イワシ煮干し」以外の魚種に変更する動機付けとなる記載も存在しないから、当業者は甲4発明の煮干し風香味油の風味の変更につながる魚系乾物の魚種の変更を動機付けられないといえる。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点4-1は実質的な相違点であり、また、甲4発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、相違点4-2~相違点4-5について検討するまでもなく、本件発明1は甲4に記載された発明ではなく、かつ、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2~32について
本件発明2~32と甲4発明ないし甲4製法発明との対比、判断は、上記(2)に記載した本件発明2~32と甲2発明ないし甲2製法発明との対比、判断と同様に行うことができ、いずれの発明との対比においても、少なくとも上記相違点4-1と同じ内容の相違点が存在するものと認められる。そして、当該相違点についての判断は上記ウ(イ)と同じであり、実質的な相違点であって、また、甲4発明ないし甲4製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2~32は甲4に記載された発明ではなく、かつ、甲4発明ないし甲4製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 甲4に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~32は、いずれも甲4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~32は、いずれも甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由2(甲4に基づく新規性欠如)及び理由3(甲4に基づく進歩性欠如)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
(5)甲5に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
ア 甲5に記載された事項
甲5には以下の事項が記載されている。
(5-1)「油そば・まぜそば用 煮干オイル」(第1頁左上写真の商品名)
(5-2)「原材料 食用大豆油(風味原料として煮干)/酸化防止剤V.E」
(第1頁左上写真の原材料欄)
イ 甲5に記載された発明
甲5の第1頁左上に掲載された写真(摘記5-1及び5-2)には、「油そば・まぜそば用 煮干オイル」という商品が、「原材料 食用大豆油(風味原料として煮干)/酸化防止剤V.E」からなることが記載されている。
そうすると、甲5には以下の発明が記載されている。
「食用大豆油、風味原料として煮干及び酸化防止剤V.Eからなる、油そば・まぜそば用煮干オイル」(以下、「甲5発明」という。)
「食用大豆油、風味原料として煮干及び酸化防止剤V.Eを原料とする、油そば・まぜそば用煮干オイルの製造方法」(以下、「甲5製法発明」という。)
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲5発明との対比
本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明における「煮干」、「食用大豆油」、「油そば・まぜそば用」及び「煮干オイル」は、本件発明1における「魚系乾物」、「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」、「食品」及び「調味オイル」に相当する。また、甲5発明は「風味原料として煮干」を原料とするものであるから、「魚系風味を付与できる」ものと認められる。
そうすると、両者は、
「魚系乾物と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とを原材料とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル。」
の点で一致し、
相違点5-1:本件発明1は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲5発明は「煮干し」を用いる点
相違点5-2:本件発明1は「50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とする」と特定するのに対し、甲5発明はそのように特定されていない点
相違点5-3:本件発明1は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲5発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点5-1について
煮干しの魚種としてはイワシが最も一般的であり、イワシ以外の魚種の煮干しを使用する場合は魚種に言及されることが通常であるから、甲5発明における「煮干」は、イワシの煮干しであると解される。また、甲5発明における「煮干」は、甲5発明における唯一の魚系乾物である。
そうすると、甲5発明における「煮干」は、本件発明1の魚系乾物から「(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」という発明特定事項により除かれる「イワシ煮干しのみからなる魚系乾物」に相当するから、相違点5-1は実質的な相違点である。
また、甲5には、「煮干し」以外の魚系乾物を採用する動機付けとなる記載は見いだせず、当業者は魚系乾物を変更すれば甲5発明の煮干油の風味が変わってしまうものと理解するから、甲5発明において相違点5-1に係る魚系乾物を用いることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、申立人が副引用例として提出した甲8(摘記8-1及び8-2)にも、当業者が甲5発明において相違点5-1に係る構成を採用する動機付けとなる記載は存在しない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は申立書第37頁において、甲5発明が食用大豆油と煮干を原材料とする煮干オイルであることをもって、本件発明1における魚系乾物についての発明特定事項をも具備する旨を主張しているが、上記(イ)に記載したとおり、本件発明1と甲5発明とは魚系乾物に関する相違点5-1において実質的に相違するから、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は申立書第38頁において、「仮に相違する点があるとしても、本件特許発明1は引用発明5に基いて当業者が容易に想到することができたものである」と主張しているが、甲5発明は油そば・まぜそば用に風味が最適化されたものであると解され、また、甲5には魚系乾物を「イワシ煮干し」以外の魚種に変更する動機付けとなる記載も存在しないから、当業者は甲5発明の煮干し風香味油の風味の変更につながる魚系乾物の魚種の変更を動機付けられないといえる。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点5-1は実質的な相違点であり、また、甲5発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、相違点5-2及び相違点5-3について検討するまでもなく、本件発明1は甲5に記載された発明ではなく、かつ、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2~32について
本件発明2~32と甲5発明ないし甲5製法発明との対比、判断は、上記(2)に記載した本件発明2~32と甲2発明ないし甲2製法発明との対比、判断と同様に行うことができ、いずれの発明との対比においても、少なくとも上記相違点5-1と同じ内容の相違点が存在するものと認められる。そして、当該相違点についての判断は上記ウ(イ)と同じであり、実質的な相違点であって、また、甲5発明ないし甲5製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2~32は甲5に記載された発明ではなく、かつ、甲5発明ないし甲5製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 甲5に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~32は、いずれも甲5に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~32は、いずれも甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由2(甲5に基づく新規性欠如)及び理由3(甲5に基づく進歩性欠如)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
(6)甲6に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
ア 甲6に記載された事項
甲6には以下の事項が記載されている。
(6-1)「2)香味油を作ろう!
実は香味油、ご家庭でも簡単に作れます。
1.まず、香りをつけたい材料を用意します。
(ねぎ、玉ねぎ、にんにく、生姜、魚介類(海老の頭、煮干)など)
2.材料を細かくみじん切り、もしくはぶつ切りにします。
3.サラダ油を鍋に入れ、そこに刻んだ材料を入れ、軽く混ぜます。(目安として油の3分の1程度)
4.火にかけ、水分を飛ばすように微沸騰状態で30分ほどかき混ぜます。(一気に加熱すると焦げてしまい、素材の香りが引き出せません)
5.30分後、水分の蒸発がふつふつと落ち着いてきたら火を止め、粗熱を取り、布もしくは目の細かいザルなどで漉します。
6.濾した油を鍋に戻し、100度以上で10分程加熱し、油の中の水分を飛ばします。(水分を飛ばすことで油の劣化を防ぎます)
7.粗熱を取り、びん等の容器に移して一晩冷蔵庫に入れ、香りをなじませれば出来上がり。
ラーメンはもちろん、サラダなどにかけてもGOOD!」(第1頁写真下「2)香味油を作ろう!」の項)
イ 甲6に記載された発明
甲6の第1頁の「2)香味油を作ろう!」の項(摘記6-1)には、香味油の原料として「香りをつけたい材料(ねぎ、玉ねぎ、にんにく、生姜、魚介類(海老の頭、煮干)など)」を用意すること、「サラダ油を鍋に入れ、そこに刻んだ材料を入れ、軽く混ぜ」る工程、「火にかけ、水分を飛ばすように微沸騰状態で30分ほどかき混ぜ」る工程、「30分後、水分の蒸発がふつふつと落ち着いてきたら火を止め、粗熱を取り、布もしくは目の細かいザルなどで漉」す工程、「濾した油を鍋に戻し、100度以上で10分程加熱し、油の中の水分を飛ば」す工程及び「粗熱を取り、びん等の容器に移して一晩冷蔵庫に入れ、香りをなじませ」る工程を備えた方法により製造することができること、及び「ラーメンはもちろん、サラダなどにかけてもGOOD!」なものであることが記載されている。
そうすると、甲6には、香りを付けたい材料として魚介類を用いる場合の発明として、以下の発明が記載されている。
「香りをつけたい材料(魚介類(海老の頭、煮干))とサラダ油とを微沸騰状態で30分ほどかき混ぜ、30分後、火を止め、粗熱を取り、布もしくは目の細かいザルなどで漉し、濾した油を100度以上で10分程加熱し、粗熱を取り、びん等の容器に移して一晩冷蔵庫に入れ、香りをなじませて得られる、ラーメン、サラダなどにかけて用いられる香味油。」(以下、「甲6発明」という。)
「香りをつけたい材料(魚介類(海老の頭、煮干))をとサラダ油とを微沸騰状態で30分ほどかき混ぜる工程、30分後、火を止め、粗熱を取り、布もしくは目の細かいザルなどで漉す工程、濾した油を100度以上で10分程加熱する工程、及び粗熱を取り、びん等の容器に移して一晩冷蔵庫に入れ、香りをなじませる工程を備える、ラーメン、サラダなどにかけて用いられる香味油の製造方法。」(以下、「甲6製法発明」という。)
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲6発明との対比
本件発明1と甲6発明とを対比すると、甲6発明における「煮干」、「サラダ油」、「微沸騰状態」、「かき混ぜ」、「ラーメン、サラダなどにかけて用いられる」及び「香味油」は、本件発明1における「魚系乾物」、「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」、「加熱して」、「抽出」、「食品」及び「調味オイル」に相当する。また、甲6発明は「香りをつけたい材料」として「魚介類(海老の頭、煮干)」のみを用いるものであるから、「魚系風味を付与できる」ものであり、甲6発明における「香りをつけたい材料(魚介類(海老の頭、煮干))とサラダ油とを微沸騰状態で30分ほどかき混ぜ」ることにより得られる抽出油が香味油の「主成分」である。
そうすると、両者は、
「魚系乾物と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル。」
の点で一致し、
相違点6-1:本件発明1は「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」と特定するのに対し、甲6発明は「煮干」を用いる点
相違点6-2:本件発明1は「50℃以上200℃以下」と特定するのに対し、甲6発明は「微沸騰状態」である点
相違点6-3:本件発明1は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲6発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点6-1について
煮干しの魚種としてはイワシが最も一般的であり、イワシ以外の魚種の煮干しを使用する場合は魚種に言及されることが通常であるから、甲6発明における「煮干」は、イワシの煮干しであると解される。また、甲6発明における「煮干」は、甲6発明における唯一の魚系乾物である。
そうすると、甲6発明における「煮干」は、本件発明1の魚系乾物から「(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」という発明特定事項により除かれる「イワシ煮干しのみからなる魚系乾物」に相当するから、相違点6-1は実質的な相違点である。
また、甲6には、「煮干し」以外の魚系乾物を採用する動機付けとなる記載は見いだせず、当業者は魚系乾物を変更すれば甲6発明の煮干油の風味が変わってしまうものと理解するから、甲6発明において相違点6-1に係る魚系乾物を用いることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、申立人が副引用例として提出した甲8(摘記8-1及び8-2)にも、当業者が甲6発明において相違点6-1に係る構成を採用する動機付けとなる記載は存在しない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は申立書第38頁において、甲6発明がサラダ油に刻んだ魚介類(海老の頭、煮干)を入れ、微沸騰状態で30分ほどかき混ぜて得た香味油であることをもって、本件発明1における魚系乾物についての発明特定事項をも具備する旨を主張しているが、上記(イ)に記載したとおり、本件発明1と甲6発明とは魚系乾物に関する相違点6-1において実質的に相違するから、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は申立書第39頁において、「仮に相違する点があるとしても、本件特許発明1は引用発明5(当審注:引用発明6の誤記と解される)に基いて当業者が容易に想到することができたものである」と主張しているが、甲6発明はラーメン、サラダなどにかけて用いられるように風味が最適化されたものであると解され、また、甲6には魚系乾物を「イワシ煮干し」以外の魚種に変更する動機付けとなる記載も存在しないから、当業者は甲6発明の香味油の風味の変更につながる魚系乾物の魚種の変更を動機付けられないといえる。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点6-1は実質的な相違点であり、また、甲6発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、相違点6-2及び相違点6-3について検討するまでもなく、本件発明1は甲6に記載された発明ではなく、かつ、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2~32について
本件発明2~32と甲6発明ないし甲6製法発明との対比、判断は、上記(2)に記載した本件発明2~32と甲2発明ないし甲2製法発明との対比、判断と同様に行うことができ、いずれの発明との対比においても、少なくとも上記相違点6-1と同じ内容の相違点が存在するものと認められる。そして、当該相違点についての判断は上記ウ(イ)と同じであり、実質的な相違点であって、また、甲6発明ないし甲6製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2~32は甲6に記載された発明ではなく、かつ、甲6発明ないし甲6製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 甲6に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~32は、いずれも甲6に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~32は、いずれも甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由2(甲6に基づく新規性欠如)及び理由3(甲6に基づく進歩性欠如)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
(7)甲7に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
ア 甲7に記載された事項
甲7には以下の事項が記載されている。
(7-1)「試作 味噌ラーメン
味噌はほどよく香る程度で、魚介だしの風味がきちんと生かされている。スープとよくなじんでいるため、マイルドで食べやすい。生姜がすっきりとした印象をプラス。
・・・
味噌ダレ・・・40ml
スープ・・・100ml
煮干し油・・・22ml
長ねぎ(ねぎ油用)・・・適量
豚挽き肉(炒めたもの)・・・適量
おろし生姜・・・適量」(第39頁左上欄)
(7-2)「煮干し油
煮干しの力強い香りが効いた「きみはん」で使用する香味油。スープづくりで使った3種類の煮干しとラードで作る。ここでは、提供ごとに煮干し油で長ねぎを炒めて“焦がしねぎ油”を作り、味噌ダレに個性を付加している。」(第39頁左下欄)
(7-3)「スープ
「きみはん」の営業用スープ(写真左)」を使用。鶏ガラをベースに大量の煮干しや節を加えて1本の寸胴鍋で炊き出した“香る”スープ。脂ののりの異なる3種類の煮干し(カタクチイワシ煮干し2種、アジ煮干し1種)をふんだんに使い、サバ節、カツオ節を合わせることで、香り高いスープに仕上げている。全体で約8時間炊き、煮干しは旨味だけを抽出したいので最後の段階で投入する。ほどよいタレの味噌の香ばしさと甘みは、魚介の風味を引き立てる。」(第39頁右下欄)
イ 甲7に記載された発明
甲7の第39頁左上欄(摘記7-1)には「試作 味噌ラーメン」について、「味噌はほどよく香る程度で、魚介だしの風味がきちんと生かされている」こと、及び材料が「味噌ダレ40ml、スープ100ml、煮干し油22ml、長ねぎ(ねぎ油用)適量、豚挽き肉(炒めたもの)適量、おろし生姜適量」であることが記載されている。また、第39頁左下欄(摘記7-2)には、上記煮干し油について「煮干しの力強い香りが効いた「きみはん」で使用する香味油。スープづくりで使った3種類の煮干しとラードで作る」と記載されており、第39頁右下欄(摘記7-3)には、上記スープについて「脂ののりの異なる3種類の煮干し(カタクチイワシ煮干し2種、アジ煮干し1種)をふんだんに使い、サバ節、カツオ節を合わせることで、香り高いスープに仕上げている」ことが記載されている。。
そうすると、甲7には以下の発明が記載されている。
「脂ののりの異なる3種類の煮干し(カタクチイワシ煮干し2種、アジ煮干し1種)とラードで作る煮干し油からなり、味噌ラーメンに対して煮干しの力強い香りが効いた魚介だしの風味を付与できる香味油。」(以下、「甲7発明」という。)
「脂ののりの異なる3種類の煮干し(カタクチイワシ煮干し2種、アジ煮干し1種)とラードで煮干し油を作る工程を備える、味噌ラーメンに対して煮干しの力強い香りが効いた魚介だしの風味を付与できる香味油の製造方法。」(以下、「甲7製法発明」という。)
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲7発明との対比
本件発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明における「脂ののりの異なる3種類の煮干し(カタクチイワシ煮干し2種、アジ煮干し1種)」、「ラード」、「味噌ラーメンに対して」、「煮干しの力強い香りが効いた魚介だしの風味を付与できる」及び「香味油」は、本件発明1における「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)」、「基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)」、「食品に対して」、「魚系風味を付与できる」及び「調味オイル」に相当する。また、甲7発明における「煮干し油」は、煮干しの力強い香りを有していることからみて、少なくとも煮干しの香りが抽出されているといえるから、本件発明1における「抽出油」に相当し、甲7発明の香味油の「主成分」でもあると認められる。
そうすると、両者は、
「魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とから得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル。」
の点で一致し、
相違点7-1:本件発明1は「50℃以上200℃以下で加熱」と特定するのに対し、甲7発明はそのように特定されていない点
相違点7-2:本件発明1は
「アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgである」
と特定するのに対し、甲7発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点7-2について検討する。
(イ)相違点7-2について
甲7には、香味油に含まれる具体的な化合物名及び含有量は記載されていない。また、本件明細書に記載された実施例における原材料及び加熱条件と、甲7発明における材料及び煮干し油の作り方とが一致しているともいえないため、本件明細書の記載から甲7発明に含まれる具体的な化合物名及び含有量を類推することはできず、甲7発明が相違点7-2に係る構成を備えているとはいえない。よって、相違点7-2は実質的な相違点である。
また、甲7には、相違点7-2に係る特定の化合物に着目する動機付けとなる記載はなく、特定化合物の含有量を相違点7-2に係る範囲に限定する動機付けとなる記載もないから、甲7発明において相違点7-2に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、申立人が副引用例として提出した甲8(摘記8-1及び8-2)にも、当業者が甲7発明において相違点7-2に係る構成を採用する動機付けとなる記載は存在しない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は申立書第39頁において、「本件特許明細書の実施例の項での実験(段落0094、表1)と、甲7発明の調製は、原料及び処理条件の点で極めて類似するものであるから、甲7発明においても、「前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgであること」を満たす蓋然性が高い」と主張している。
しかし、本件明細書の[0094]の[表1]の実験で用いられた原料は、[0093]によると「あご煮干し(100g)」及び「キャノーラオイル(400g)であるから、甲7に記載された「脂ののりの異なる3種類の煮干し(カタクチイワシ煮干し2種、アジ煮干し1種)」及び「ラード」とは異なる原料である。また、処理条件は、本件明細書の[0093]によると「あご煮干し(100g)をキャノーラオイル(400g)に浸漬し、50℃(実験例1)、70℃(実験例2)、90℃(実験例3)、110℃(実験例4)、130℃(実験例5)、150℃(実験例6)、170℃(実験例7)及び190℃(実験例8)の各温度で、各々10分間加熱して得た抽出油を調製」したというものであるが、甲7には煮干し油の作り方の具体的な内容が記載されていないから、本件明細書の[0093]に記載された処理条件と甲7発明の製法が類似しているといえる根拠は見いだせない。よって、本件明細書の記載を参酌しても、甲7発明が相違点7-2に係る構成を備えているとはいえないから、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は申立書第40頁において、「仮に相違する点があるとしても、本件特許発明1は引用発明7に基いて当業者が容易に想到することができたものである」と主張しているが、甲7には相違点7-2に係る特定の化合物に着目する動機付けとなる記載はなく、加熱温度等の条件を調製することにより特定化合物の含有量を調整することができるという技術的思想も開示されておらず、さらに各化合物の含有量を相違点7-2に係る範囲に限定する動機付けとなる記載もないから、甲7発明において相違点7-2に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。なお、甲8には、6種類の煮干しイワシの臭気成分の分析結果が記載されているが、甲8にも相違点7-2に係る特定の化合物に着目する動機付けとなる記載はなく、煮干し油からなる香味油において特定成分の含有量を相違点7-2に係る範囲に限定する動機付けとなる記載も見いだせない。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点7-2は実質的な相違点であり、また、甲7発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、相違点7-1について検討するまでもなく、本件発明1は甲7に記載された発明ではなく、かつ、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2~32について
本件発明2~32と甲7発明ないし甲7製法発明との対比、判断は、上記(3)に記載した本件発明2~32と甲3発明ないし甲3製法発明との対比、判断と同様に行うことができ、いずれの発明との対比においても、少なくとも上記相違点7-2と同じ内容の相違点が存在するものと認められる。そして、当該相違点についての判断は上記ウ(イ)と同じであり、実質的な相違点であって、また、甲7発明ないし甲7製法発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2~32は甲7に記載された発明ではなく、かつ、甲7発明ないし甲7製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 甲7に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~32は、いずれも甲7に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~32は、いずれも甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由2(甲7に基づく新規性欠如)及び理由3(甲7に基づく進歩性欠如)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
3.理由4(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の[0006]等の記載から見て、本件発明1~12の課題は「調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与することができる新規な調味オイル」を提供することにあり、本件発明13~17の課題は上記調味オイルの製造方法を提供することにあり、本件発明18~22の課題は上記調味オイルを含む液体調味料を提供することにあり、本件発明23~27及び28の課題は上記調味オイルを含有する食品の製造方法及び製造された食品を提供することにあり、本件発明29の課題は上記調味油を含有させることにより調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与する方法を提供することにあり、本件発明30の課題は上記調味油を含有させることにより食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法を提供することにあり、本件発明31及び32の課題は上記調味オイルを含む食品を提供することにあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
「[技術分野]
[0001]
本発明は、調味オイル及びその製造方法、液体調味料、食品及びその製造方法に関する。更に詳しくは、食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル及びその製造方法、並びに、この調味オイルを含んだ液体調味料、食品の製造方法、調理感のある良好な焦がし風味を食品に対して魚系風味として付与する方法、並びに、食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法に関する。」
「[発明が解決しようとする課題]
[0004]
特許文献1には、特有の繊細なうま味や好ましい香りが増強されたあごだしを含有する液体調味料として、あごだしの抽出前の乾燥原料(水分15%に換算した場合)が、0.05質量%以上0.5質量%以下である液体調味料が開示されている。この技術により、あごだしに起因する風味を家庭で日常的に味わう機会をより多く得ることができるようになったものの、上述の通り、近年の利用増加に応じて、更なる製品向上が求められる状況となっている。
[0005]
そこで、発明者は、あごだしに代表される魚系風味の特徴について検討を行った。その結果、あごだしは、上品な煮干し風の旨みに加えて、調理感のある焦がし風味を付与できる点が特徴であると考えるに至った。とりわけ、この調理感のある焦がし風味が、魚系風味における1つの特徴と捉えられる。この特徴は、前述した(1)炭火等で焼いて出汁原料にする方法、及び、(3)煮干しを更に焼いて出汁原料にする方法、により顕著に得られた。しかしながら、これらの方法は、魚体や煮干しを均一に焼くことが難しい。即ち、魚体や煮干しは、その部位によって形状や構成分(肉、内蔵、骨及び皮等)の多さが異なっている。このような魚体や煮干しを均一に適切に焦がすことがそもそも難しい。このため、適切に焦がすことができた部位からは調理感のある好ましい焦がし風味が得られると考えられる一方、過度に焦がされた部位からは、苦味やエグ味等として表現される風味がより強く抽出され、全体の風味に影響を与えると考えられた。しかしながら、苦味やエグ味は皆無であっても、調理感のある良好な焦がし風味は成立し難く、この焦げに起因する風味バランスを工業的にコントロールすることは、魚系風味の特徴をより良く得るうえで大きな課題となった。
[0006]
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与することができる新規な調味オイル及びその製造方法を提供することを目的とする。」
「[課題を解決するための手段]
[0007]
本発明者は、焼きあごを用いて形成されただしを分析することによって、「調理感のある良好な焦がし風味」の形成に関わる香味成分の特定を試みた。具体的には、焼きあごだしをGCMS(ガスクロマトグラフィー質量分析)に供し、種々の香味成分の定性及び定量を行った。更に、GCMSのスニッフィングポートを介して実際に個々の香味成分を嗅ぐことにより、各成分の雰囲気と強度の差異等を評価した。これらの検証を通して、500種以上の成分のなかから、「調理感のある良好な焦がし風味」の形成に影響度が高いと考えられる成分を数十種へ、更には15種類へ、更には5種類へと順次絞り込みを行った。結果として、これら5つの香味成分が、風味及び香味の構成において重要な役目を果たすことを知見した。
[0008]
更に、これらの香味成分は、いずれも水溶性を有するものの、基本的に親油性の成分であり、水のみで効率的に抽出できないことを見出した。一方で、これらの香味成分は親油性であることから、油に対して効率よく抽出できることを確認できた。そして、油に抽出して得られた調味オイルは、少量の添加により、既存の液体調味料に含まれる香味成分量を大幅に増加させることができた。この増加を、従来の水抽出物で達成するには、だし原料を増量する必要がある。しかしながら、だし原料を増加させると大幅なコスト増が見込まれる。また、だし原料を増量すると、味のバランスを低下させることが危惧される。そのために、実際には行うことが困難である。この点、調味オイルは、味のバランスを崩すことなく、少量の添加で風味を確実に向上させることができた。更に、あごの煮干しを油中加熱することによって、均一な加熱を行うことができること、更に、焦げそのものを形成せずとも、焦げ臭を得ることができ、尚且つ、形成された香味成分を油中へ効率的に取り込むことができること、を見出し、本発明を完成させた。また、得られた調味オイルを使用すると、上述の通り、調理感のある良好な焦がし風味が、食品に対して魚系風味として付与されることに加えて、食品の味の強さの経時的低減を抑制する作用に優れることを見出し、本発明を完成させた。」
「[0018]
アルデヒド系香味成分は、2-メチルブタナール以外のアルデヒド化合物として、更に、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール、ブタナール、2-ブテナール等のうちの少なくとも1種を含有できる。これらのなかでも、3-メチルブタナール及び2-メチルプロパナールのうちの少なくとも一方を含有できる。アルデヒド系香味成分が、2-メチルブタナールと共に、3-メチルブタナール及び2-メチルプロパナールのうちの少なくとも一方を含有する場合には、これらを含まない場合と比較して、より豊かな調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。
尚、上述したアルデヒド系香味成分のうち、2-メチルブタナールは光学異性体を有するが、いずれの異性体も目的とする風味を生じさせることができるため、含まれる異性体の種類は問わない。
[0019]
本調味オイルは、香味成分としてアルデヒド系香味成分を含有することで、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対し、調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。特に、アルデヒド系香味成分として2-メチルブタナールを含有する場合には、この効果に優れ、とりわけ、2-メチルブタナールと共に、後述するフラン系香味成分として2-エチルフランを含有する場合に、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、特に好ましい調理感のある焦がし風味を効果的に付与することができる。」
「[0022]
R2は、ヘテロ原子を含んでもよいが、本発明では、ヘテロ原子を含まない炭化水素基であることが好ましい。更に、R2が炭化水素基である場合、R2の炭素数は限定されないものの、通常、10以下であることが好ましく、更には、4以下が好ましく、3以下であることが特に好ましい。このようなフラン系香味成分として、上記の2-エチルフランが挙げられる。2-エチルフランは「-R2」が「-C2H5」のフラン化合物である。
[0023]
フラン系香味成分は、2-エチルフラン以外のフラン化合物として、2-メチルフラン、2-エチル-5-メチルフラン、2-ペンチルフラン等を含有できる。これらのなかでも、更に、2-メチルフランを含有できる。フラン系香味成分が、2-エチルフランと共に、2-メチルフランを含有する場合には、これを含まない場合と比較して、より豊かな調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。
本調味オイルは、香味成分としてフラン系香味成分を含有することで、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対し、調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。特に、フラン系香味成分として2-エチルフランを含有する場合には、この効果に優れ、とりわけ、2-エチルフランと共に、前述したアルデヒド系香味成分として2-メチルブタナールを含有する場合に、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、特に好ましい調理感のある焦がし風味を効果的に付与することができる。」
「[0024]
本発明の調味オイルは、香味成分を10~200,000μg/kgの濃度で含有する。この範囲において、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、調理感のある焦がし風味を付与することができる。」
「[0029]
本発明の調味オイルは、基油と、魚系風味成分と、香味成分(アルデヒド系香味成分及び/又はフラン系香味成分)と、を含む。本発明の調味オイルはどのように得られたものであってもよいが、例えば、魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分として形成できる。魚系乾物と基油とをともに加熱することにより、当該条件において、魚系乾物から抽出される成分が含まれて抽出油となる。この抽出過程では、加熱を伴うことによって、少なくとも魚系風味成分が基油へ含有され、より好適な条件では、魚系風味成分と香味成分との両方が基油へ含有されると考えられる。
尚、魚系風味成分は、抽出成分のうちの香味成分を除いた成分である。魚系風味成分は、アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を除く、他の香味成分や、アミノ酸、核酸等から構成されると考えられる。
[0030]
抽出油は、上述の通り、少なくとも魚系風味成分を含有する。従って、抽出油は、それ単独で、食品に対して魚系風味を付与する能力を有する。その一方で、抽出油は、香味成分(アルデヒド系香味成分及び/又はフラン系香味成分)を含んでもよく、含まなくてもよい。更に、抽出油が香味成分を含む場合には、その香味成分量は10~200,000μg/kgであってもよいし、その香味成分量は10μg/kg未満であってもよい。抽出油が香味成分を含有しない場合は、香味成分量が10~200,000μg/kgとなるように、抽出油に対して香味成分を添加することができる。この添加によって調味オイルを形成できる。また、抽出油が香味成分を含有するものの、香味成分量が10μg/kg未満である場合も、香味成分量が10~200,000μg/kgとなるように、当該抽出油に対して香味成分を添加することができる。この添加によって調味オイルを形成できる。
更に、抽出油が香味成分を含有し、香味成分量が200,000μg/kg未満である場合、当該抽出油は、調味オイルとしてそのまま利用できる。また、必要な場合には、香味成分量が10~200,000μg/kgとなるように、当該抽出油に対して香味成分を添加することもできる。即ち、適宜、香味成分量を調整することができる。」
「[0092]
[1]香味成分の特定
(1)あご煮干し(100g)をキャノーラオイル(400g)に浸漬し、130~190℃の各温度で10分間加熱して得た抽出油をGCMS分析に供し、種々の香味成分の定性及び定量を行った。更に、GCMSのスニッフィングポートを介して実際に個々の香味成分を嗅ぐことにより、各成分の雰囲気と強度の差異等を評価した。これらの過程を経て、焼きあごだし特有の「調理感のある良好な焦がし風味」の形成に寄与する成分の特定を試みた。
その結果、500種以上の候補物質を数十種へ絞り込み、更に絞り込みを行うことによって、2-メチルプロパナール、3-メチルブタナール、2-メチルブタナール、2-メチルフラン、2-エチルフラン、2,3-ブタンジオン、ブタナール、2-ブタノン、2-ブテナール、2-プロペン-1-アミン、3-ペンタノン、2-エチル-5-メチルフラン、2-ペンチルフラン、2,3-ペンタンジオン、メタンチオールの15種の候補物質を得た。
[0093]
(2)上記(1)で得られた成分は、水にも油にも溶解する両親媒性のものや、水溶性を有するものの、油溶性がまさるものが多いことから、あご煮干し(100g)をキャノーラオイル(400g)に浸漬し、50℃(実験例1)、70℃(実験例2)、90℃(実験例3)、110℃(実験例4)、130℃(実験例5)、150℃(実験例6)、170℃(実験例7)及び190℃(実験例8)の各温度で、各々10分間加熱して得た抽出油を調製した。ここで調整した抽出油の脂質の濃度は、99.5~99.8質量%であった。なお、脂質の濃度は「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析法等」にもとづき測定した。
そして、これらの抽出油を各々GCMSに供し、各成分の濃度を測定した。その結果、50℃抽出油からの濃度増加が大きい成分として、2-エチルフラン、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール、2-メチルフランの5成分の濃度変化を表1に示した。また、加熱温度と各成分の濃度との相関をグラフにして図1に示した。
[0094]
[表1]
[図:0001407866000001.jpg]
[0095]
これら5成分は、「調理感のある焦がし風味」を形成するうえで重要な成分と考えられる。更に、図1からは、上記5成分のなかでも、濃度が特に高い2-エチルフランは重要な成分であることが分かる。2-エチルフランは、70~90℃の加熱において大幅な増加が認められ、130℃において最大となり、170~190℃の加熱において大幅な減少が認められる。このことから、50℃以上の温度で加熱した抽出油において魚系風味を得ることができ、更に、70℃以上の温度且つ190℃未満の温度で加熱した抽出油が「調理感のある焦がし風味」を形成するうえで好ましいことが分かる。
一方、その他の4成分の濃度は、90~130℃にかけて大きく上昇することが分かる。なかでも、2-メチルプロパナール及び3-メチルブタナールが110~130℃以上において飽和するのに対して、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールは、170℃程まで濃度が更に高くなることが分かる。このことから、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールも「調理感のある焦がし風味」を形成するうえで5成分のなかでも重要な成分と考えられ、このうち、2-メチルブタナールはより高い濃度を有しており、重要な成分と考えられる。即ち、上述の5成分のなかでも、2-メチルブタナールと2-エチルフランとがより重要な成分と考えられる。
尚、2-エチルフランの濃度は、その他の4成分の濃度に比べて大きいため、2-エチルフランの濃度は左軸に従い、その他の4成分の濃度は右軸に従うように図1に示している。」
「[0096]
[2]試薬を用いた再現性
(1)低濃度再現性
そこで、50℃抽出油(実験例1)に対して、2-メチルブタナール(東京化成工業株式会社)又は2-エチルフラン(東京化成工業株式会社)を試薬で添加することによって、これらの成分が単独(「調理感のある焦がし風味」を形成する他成分の添加がなくとも)で「調理感のある焦がし風味」を代表的に有している130℃抽出(実験例5)の香味へと近づけることができるかの検討を下記方法で行った。
尚、50℃抽出油(実験例1)は、魚系風味を有するものの、調理感のある焦がし風味という観点からは、他の抽出油より乏しいものである。一方、130℃抽出油(実験例5)は、魚系風味を有しつつ、調理感のある焦がし風味が特に優れたものである。
・・・
[0100]
[表2]
[図:0001407866000002.jpg]
[0101]
表2の結果から、2-メチルブタナール及び2-エチルフランのいずれにおいても、濃度10μg/kg以上となることで、評価の中央値3を超えることが分かる。従って、アルデヒド系香味成分として2-メチルブタナール、又は、フラン系香味成分として2-エチルフランを含み、これら香味成分の濃度が10μg/kgであることにより、調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与できることが分かる。」
「[0102]
(2)高濃度再現性
同様にして、50℃抽出油(実験例1)に対して、2-メチルブタナール又は2-エチルフランを試薬により添加することによって、これらの成分が単独(「調理感のある焦がし風味」を形成する他成分の添加がなくとも)で、「調理感のある焦がし風味」を代表的に有している130℃抽出(実験例5)の香味へと近づけることができるかの検討を下記方法で行った。
・・・
[0106]
[表3]
[図:0001407866000003.jpg]
[0107]
表3の結果から、2-メチルブタナール及び2-エチルフランのいずれにおいても濃度100,000μg/kgでも、評価値3を超えることが分かる。従って、アルデヒド系香味成分として2-メチルブタナール、又は、フラン系香味成分として2-エチルフランを含み、これら香味成分の濃度が100,000μg/kg以下であることにより、調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与できることが分かる。一方で、実験例17の評価値4.6に対して、実験例18の評価値は4.0と低下が認められる。同様に、実験例19の評価値4.4に対して、実験例20の評価値は3.6、実験例21の評価値は3.4であり、各々評価値の低下が認められる。従って、2-メチルブタナールにおいても、2-エチルフランにおいても、各々過度な含有となると、再現性を損なう可能性があることが分かる。」
「[0108]
[3]部位による香味成分の違い
あご煮干しを、ひれ、身、皮の3部に分解し、各々を100gずつ用意した。この各々を、キャノーラオイル(400g)に浸漬し、130℃で10分間加熱して抽出油を得た。得られた抽出油(ひれ-実験例22、身-実験例23、皮-実験例24)を、各々GCMSに供し、2-メチルプロパナール、3-メチルブタナール、2-メチルブタナール、2-メチルフラン、2-エチルフランの5成分の濃度を測定した。その結果を表4に示した。
[0109]
[表4]
[図:0001407866000004.jpg]
[0110]
表1-3までの結果から、調味オイルの香味成分として、2-メチルブタナール及び2-エチルフランの濃度の影響が大きいことが理解されるところ、表4の結果から、2-メチルブタナール及び2-エチルフランの濃度をより効果的に向上させ得るのは、ひれ、身及び皮のなかでは、皮が最も効果的であることが分かる。
[0111]
以上から、例えば、魚系風味を有するものの、調理感のある焦がし風味においては不十分な調味オイルでは、2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランが香味成分として濃度10~200,000μg/kgの範囲になるように添加することで、食品に対して魚系風味を調理感のある焦がし風味を伴って付与できる調味オイルとすることができることが分かる。また、この2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランの添加は、試薬によって行うこともできるし、魚系乾物と基油とをともに所定温度以上の温度域において加熱して得た抽出油を用いて行うこともできることが分かる。更に、例えば、魚系乾物と基油とをともに70℃以上の温度で加熱して得た抽出油は、2-メチルブタナール及び2-エチルフランが香味成分として濃度10~200,000μg/kgの範囲で含むため、抽出油そのものを調味オイルとして利用することで、食品に対して魚系風味を調理感のある焦がし風味を伴って付与できることが分かる。」
「[0112]
[4]調味オイルを含有する食品及び製造
(1)調味オイルを含有する食品(サトイモの煮物)
・・・
[0119]
[表5]
[図:0001407866000005.jpg]
[0120]
[表6]
[図:0001407866000006.jpg]
[0121]
[表7]
[図:0001407866000007.jpg]
・・・
[0123]
(3)調味オイルを含有する食品(その他)
・・・
[0129]
(4)食品の評価
・・・
[0137]
(5)魚系乾物の魚種の違い
イワシ煮干し(100g)をキャノーラオイル(400g)に浸漬し、130℃で10分間加熱して抽出油(実験例25)を得た。この抽出油を上記した手法にもとづき、GCMS分析に供し、香味成分の定性及び定量を行うことで、2-エチルフラン、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール、2-メチルフランの5成分の濃度を求めた。得られた抽出油の2-メチルブタナールの濃度は330.0μg/kg、2-エチルフランの濃度は1794.3μg/kg、2-メチルプロパナールの濃度は190.4μg/kg、2-メチルフランの濃度は110.1μg/kg、3-メチルブタナールの濃度は430.3μg/kgであった。なお、ここで得た抽出油の味と香りは魚系風味を有しつつ、調理感のある焦がし風味を有するものであった。あご煮干しを加熱して得た抽出油(実験例3や5)と比べると、あご煮干しを使用した抽出油が、より調理感のある焦がし風味が感じられ、すっきりした上品な風味が感じられるものであった。また、ここで得た抽出油の脂質の濃度は、99.5質量%であった。なお、脂質の濃度は「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析法等」にもとづき測定した。
・・・
[0140]
[表8]
[図:0001407866000008.jpg]
[0141]
[表9]
[図:0001407866000009.jpg]
」
「[図1]
[図:0001407866000010.jpg]
」
(4)サポート要件についての判断
本件明細書の[0007]には、焼きあごを用いて形成されただしを分析することによって、「調理感のある良好な焦がし風味」の形成に関わる香味成分の特定を試み、風味の形成に影響度が高いと考えられる成分を順次絞り込んだ結果、5つの香味成分が、風味及び香味の構成において重要な役目を果たすことを知見したことが記載され、[0008]にはこれらの香味成分は親油性であることから、油に対して効率よく抽出できること、油に抽出して得られた調味オイルは、少量の添加により、既存の液体調味料に含まれる香味成分量を大幅に増加させることができ、味のバランスを崩すことなく、少量の添加で風味を確実に向上させることができたこと、更に、あごの煮干しを油中加熱することによって、均一な加熱を行うことができること、更に、焦げそのものを形成せずとも、焦げ臭を得ることができ、尚且つ、形成された香味成分を油中へ効率的に取り込むことができることが記載されている。
また、香味成分の具体的な化合物名及び特徴について、[0018]には「アルデヒド系香味成分が、2-メチルブタナールと共に、3-メチルブタナール及び2-メチルプロパナールのうちの少なくとも一方を含有する場合には、これらを含まない場合と比較して、より豊かな調理感のある良好な焦がし風味を付与できる」こと、[0019]には「2-メチルブタナールと共に、後述するフラン系香味成分として2-エチルフランを含有する場合に、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、特に好ましい調理感のある焦がし風味を効果的に付与することができる」こと、[0023]には「香味成分としてフラン系香味成分を含有することで、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対し、調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。特に、フラン系香味成分として2-エチルフランを含有する場合には、この効果に優れ、とりわけ、2-エチルフランと共に、前述したアルデヒド系香味成分として2-メチルブタナールを含有する場合に、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、特に好ましい調理感のある焦がし風味を効果的に付与することができる」こと、[0024]には「香味成分を10~200,000μg/kgの濃度で含有する。この範囲において、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、調理感のある焦がし風味を付与することができる」ことが記載されている。
さらに、上記香味成分を含有する調理油の製造方法について、[0029]には「魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分として形成できる」こと、[0030]には「抽出油が香味成分を含有しない場合・・・また、抽出油が香味成分を含有するものの、香味成分量が10μg/kg未満である場合も、香味成分量が10~200,000μg/kgとなるように、当該抽出油に対して香味成分を添加することができる」ことが記載されている。
そして、上記の記載を裏付ける実施例として、[0088]~[0095]及び図1には、あご煮干しをキャノーラ油に浸漬し、50℃~190℃の各温度で10分間加熱して得た抽出油に含まれる香味成分の分析結果が記載され、[0096]~[0107]には上記実施例で絞り込まれた特定化合物(2-メチルブタナール又は2-エチルフラン)を試薬として抽出油に添加し、濃度を高めることにより「調理感のある焦がし風味を有する魚系風味」の官能評価を向上させることができることが記載され、[0108]~「0111」には抽出に用いる煮干しの部位によって各香味成分の抽出量を調整することができることが記載され、[0137]には、魚系乾物の魚種によって抽出される香味成分の濃度が異なることが記載され、[0112]~[0142]には、上記[0088]~[0095]の実験例で得られた調味オイルを食品に添加し、官能評価によって「調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味」が付与され、96時間までの冷蔵保管後も味の強さの経時的低減の抑制効果が得られたことが記載されている。
そうすると、当業者は、本件明細書及び図面の記載に基づいて、本件発明1に特定される各香味化合物の濃度と「調理感のある焦がし風味を有する魚系風味」との関係を理解することができ、適宜の濃度調整手段によって本件発明1を満たすものとされた調味オイルは、実施例と同様に発明の課題を解決できるものと理解することができる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件発明1と同様の内容の発明特定事項を備える本件発明9(調味オイル)、本件発明1又は9を直接又は間接的に引用する本件発明2~8、10~12(調味オイル)、18~22(液体調味料)、23~27(食品の製造方法)、28(食品)、29(風味を付与する方法)、30(食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法)、31及び32(食品)、並びに、本件発明1と同様の内容の発明特定事項を備える本件発明13~17(調味オイルの製造方法)も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は申立書第53頁において、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、実際に調味オイルを調製して「調理感のある焦がし風味」を評価した実験例である「あご煮干し」を用いた場合(段落0092等)とイワシ煮干しを用いた場合(段落0137)は解決しようとする課題が解決できるものと理解できるとしても、その他の場合は不明であると主張し、甲9には白身魚であるたいの煮干しのだしは、他の4種類(片口いわし、平子いわし、あご、あじ)の煮干しだしとは異なる特徴的なにおいを有していたことが記載されていることを証拠として引用している。
しかし、上記(4)に記載したとおり、本件明細書の一般記載には具体的な香味成分の種類及び濃度が「調理感のある良好な焦がし風味」の形成に寄与することが記載され、実施例において香味成分の濃度が官能評価の向上に寄与することが裏付けられており、香味成分の濃度は魚系乾物の部位、魚種、試薬の添加等の手段により調整できることも記載されているから、当業者は、具体的な実験データはなくとも、また、甲9に記載されたような魚種によるにおいの違いがあるとしても、本件明細書及び図面の記載を参酌することにより、本件発明1に相当する香味成分を含む調味オイルであれば発明の課題を解決できると認識することができる。本件発明2~32についても同様である。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(6)理由4(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~32は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由4(サポート要件違反)により本件発明1~32についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~32についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701146