特許異議申立
2023-701137
ポリエステル系樹脂組成物及びポリエステル系シュリンクフィルム
- 審判番号
- 2023-701137
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-509516
- 登録番号
- 7266766
- 請求日
- 2023年10月24日
- 審決日
- 2024年08月29日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】タキロンシーアイ株式会社
- 【権利者代理人】江森 健二
- 【権利者代理人】田中 有子
- 【権利者】ボンセット アメリカ コーポレーション
- 【権利者代理人】江森 健二
- 【権利者代理人】田中 有子
- 【異議申立人】早川 いづみ
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7266766号発明「ポリエステル系樹脂組成物及びポリエステル系シュリンクフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7266766号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。
特許第7266766号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7266766号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2022年(令和4年)10月6日(優先権主張 同年4月1日)を国際出願日とする出願であって、令和5年4月20日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年10月24日に特許異議申立人 早川 いづみ(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、同年12月18日付けで取消理由が通知され、令和6年2月22日に特許権者 タキロンシーアイ株式会社及びボンセット アメリカ コーポレーション(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年3月15日に特許権者から手続補正書(方式)2通が提出され、同年同月21日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)が通知され、同年4月16日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年5月17日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年7月19日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出されたものである。
なお、令和6年2月22日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、既に特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和6年7月19日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6及び7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断し、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときといえるから、特許異議申立人に再度の意見書の提出の機会を与えていない。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和6年7月19日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「構成(2):所定厚さのフィルムとした場合に、JIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値を20%未満の値とする。
構成(3):所定厚さのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を0.19~0.26の範囲内の値とする。」とあるのを、「構成(2):厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値を20%未満の値とする。
構成(3):前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を0.19~0.26の範囲内の値とする。」に訂正する。併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「再生PET樹脂を配合せず、かつ、所定厚さのフィルムとして、」とあるのを、「再生PET樹脂を配合しないポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとして、」に訂正する。併せて、請求項2の記載を引用する請求項3及び4も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「所定厚さのフィルムとした場合に、」とあるのを、「前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「所定厚さのフィルムとした場合に、」とあるのを、「前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「構成(2)」及び「構成(3)」における「フィルム」の「厚さ」が「所定厚さ」としか特定されていなかったのを具体的に特定した上で、「構成(3)」における「フィルム」を製造する際の製造条件を具体的に特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項2による請求項2についての訂正は、「構成(4)」における「フィルム」の「厚さ」が「所定厚さ」としか特定されていなかったのを具体的に特定した上で、「フィルム」を製造する際の製造条件を具体的に特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項3についての訂正は、請求項1及び2についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3による請求項3についての訂正は、「構成(5)」における「フィルム」の「厚さ」が「所定厚さ」としか特定されていなかったのを具体的に特定した上で、「フィルム」を製造する際の製造条件を具体的に特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし3による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項4についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項4についての訂正は、請求項1及び2についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項4による請求項4についての訂正は、「構成(6)」における「フィルム」の「厚さ」が「所定厚さ」としか特定されていなかったのを具体的に特定した上で、「フィルム」を製造する際の製造条件を具体的に特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1、2及び4による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項5ないし8についての訂正について
訂正事項1による請求項5ないし8についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項5ないし8についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、令和6年4月16日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する。
「特許権者は、「所定厚さ」が不明確との取消理由(当審注:令和5年12月18日付けで通知された取消理由2(明確性要件)のことである。)に対し、明細書中の「例えば30μm」との記載と実施例を根拠に、「厚さ30μm」に訂正することを請求している。
しかしながら、「例えば30μm」は「30μm」と同義ではなく、その範囲は不明確であるものの、30μm以外も含むものである。よって、訂正前の請求項では、厚さ30μmのフィルムとした場合も、その他の厚さのフィルムとした場合もヘイズ値等の請求項の要件を満たす必要がある。一方、訂正後の請求項では、厚さが30μmのフィルムとした場合にさえヘイズ値等の請求項の要件を満たせばよいこととなり、条件が緩和され、権利範囲が訂正前より拡張されている。
また、段落番号【0008】には、
「・・・なお、ヘイズ値や色度座標におけるb*を測定する、所定厚さ(例えば、30μm)のフィルムは、具体的には、後述する参考例1(以下、実施例1と称する場合もある。)等に記載したシュリンクフィルムが典型例であるが、それに限られない。」
と記載されており、フィルムの厚さは実施例の30μmに限られず、それ以外の厚さでもヘイズ値や色度座標におけるb*を測定することが記載されている。
以上より、明細書中の「例えば30μm」との記載と実施例を根拠とした「厚さ30μm」への訂正は実質上権利範囲を拡張しており、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に違反しており、この訂正は認められず、本件特許発明1~8は明確性要件違反を治癒することができず、本件特許の請求項1~8に係る特許は取り消されるべきものである。」(上記意見書第5ページ)
イ 検討
そこで、上記主張について検討する。
本件訂正前の本件特許の請求項1ないし4に記載された「所定厚さ」が、樹脂組成物を特定する物性値を測定する際の条件であって、如何なる厚さでもよいことを意味しないことは、その記載自体から明らかであるし、そう理解することは、発明の詳細な説明において、「厚さ30μm」においてだけで、ヘイズ値や色度座標におけるb*を測定していることとも整合する。
したがって、「所定厚さ」を「厚さ30μm」へ訂正することは、単なる明瞭でない記載の釈明であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に違反するものではない。
ウ まとめ
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし4による請求項1ないし8についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし4による請求項1ないし8についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし8は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1ないし4による請求項1ないし8についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも再生PET樹脂を含有するポリエステル系樹脂組成物であって、下記の構成(1)~(3)及び(7)を満足することを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
構成(1):再生PET樹脂の配合量を、結晶性ポリエステル樹脂の一部又は全部として、ポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、20~50重量%の範囲内の値とする。
構成(2):厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値を20%未満の値とする。
構成(3):前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を0.19~0.26の範囲内の値とする。
構成(7):非結晶性ポリエステル樹脂(但し、多価アルコール100モル%中、ネオペンチルグリコールを40~60モル%共重合した共重合ポリエステルを30~60重量%で含有した場合を除く。)を含むと共に、当該非結晶性ポリエステル樹脂の配合量をポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、50~80重量%の範囲内の値とする。
【請求項2】
構成(4)として、再生PET樹脂を配合しないポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとして、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を、b*0とした場合に、b*-b*0で表される数値を、0.01以上の値とすることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
構成(5)として、前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるa*を-0.15~-0.05の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
構成(6)として、前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるL*を90以上の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物に由来してなるポリエステル系シュリンクフィルムであって、当該ポリエステル系シュリンクフィルムの主収縮方向をTD方向とし、当該TD方向における、80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の熱収縮率をA1としたときに、当該A1を20%以上、49%以下の値とすることを特徴とするポリエステル系シュリンクフィルム。
【請求項6】
前記TD方向における、98℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の熱収縮率をA2としたときに、当該A2を35%以上の値とすることを特徴とする請求項5に記載のポリエステル系シュリンクフィルム。
【請求項7】
前記TD方向における、70℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の熱収縮率をA3としたときに、当該A3を5%以上の値とすることを特徴とする請求項5又は6に記載のポリエステル系シュリンクフィルム。
【請求項8】
厚さを15~70μmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項5又は6に記載のポリエステル系シュリンクフィルム。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
令和5年10月24日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。なお、判断の便宜上、新規性・進歩性に関する申立理由については、主引用文献となる証拠毎に申立理由を整理した。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)非結晶性ポリエステル樹脂に関するサポート要件
本件特許発明1ないし8の組成に関する構成要件は、再生PET樹脂の配合量が20~50重量%の範囲内であり、非結晶性ポリエステル樹脂の配合量が50~80重量%である。一方、発明の効果が示されている実施例においては、非結晶性ポリエステル樹脂は、特定の組成であるPETG1(ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール63モル%、ジエチレングリコール13モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール24モル%からなる非結晶性ポリエステル樹脂)の1種類のみである(【0067】及び【0068】の【表1】)。そして、本件特許の明細書において、本件特許の構成にすることにより発明の課題が解決できる理由やメカニズムが記載されていない。よって、当業者は、本件特許の実施例で用いられている1つの特定の非結晶性ポリエステル樹脂により発明の課題を解決できることをもって、あらゆる非結晶性ポリエステル樹脂によっても発明の課題を解決できると認識することはできない。
(2)本件特許発明の課題である透明性に関するサポート要件
本件特許発明1ないし8の課題は、原材料に再生PET樹脂(PCR)を相当量含有したとしても、透明性や無着色性を維持することであると記載されている(本件特許の【0007】)。一方、本件特許の【表1】、【図2】及び【図5】によれば、再生ペット樹脂(PCR)が100重量%の場合(本件特許の範囲外)のヘイズ値やL*は良好な値であり、本件特許の構成要件を満たす場合(実施例2、3)と同等の値である。以上のことから、本件特許発明は「透明性」の課題を解決していないか、そもそも「透明性」の課題が存在しないことが分かる。よって、本件特許発明1ないし8は、発明の課題を解決できることを当業者は認識できない。
(3)フィルム厚さに関するサポート要件
本件特許の発明の詳細な説明の【0039】には「このようにポリエステル系シュリンクフィルムの熱収縮前の厚さを所定範囲内の値に具体的に制限することにより、熱収縮率A1、A2、A3や、ヘイズ等を、それぞれ所定範囲内の値に、更に容易に制御しやすくなる。」と記載され、【0040】には「ポリエステル系シュリンクフィルムの熱収縮前の厚さが、15μm未満になったり、あるいは70μmを超えたりすると、熱収縮時のポリエステル系シュリンクフィルムにおいて、急激な熱応答による不均一な収縮を抑制できず、着色したり、透明性等が低下したりする場合があるためである。」と記載されており、シュリンクフィルムの厚さが、本件特許発明の課題である着色や透明性に影響することが記載されている。一方、本件特許発明1ないし4はポリエステル系樹脂組成物の発明でありシュリンクフィルムの発明ではなく、シュリンクフィルムの厚さの構成要件がない。
以上のことから、当業者であればシュリンクフィルムにしたときのシュリンクフィルムの厚さの限定がない樹脂組成物の発明が、本件特許発明の課題を解決できると認識することはできない。
4 申立理由4(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1では、ヘイズ値も、色度座標におけるb*も、「所定厚さのフィルムとした場合」に測定することとなっている。本件特許発明2では、色度座標のb*0を「所定厚さのフィルムとして」測定することとなっている。そして、本件特許発明3でa*を、本件特許発明4ではL*を「所定厚さのフィルムとした場合」に測定することとなっている。しかし、「所定厚さ」がどの厚さなのかが記載されていない。よって、本件特許発明1ないし4は明確性要件を満たしていない。また、本件特許発明5ないし8は、直接又は間接的に請求項1を引用しており、これらの特許発明も明確性要件を満たしていない。
なお、本件特許明細書には、「所定厚さ(例えば、30μm)」との文言が用いられている箇所があるが、請求項にこの文言が入れられたとしても、厚さが一義的に定まらず、明確性要件違反は解消されない。
5 証拠方法
甲第1号証:特開2004-196918号公報
甲第2号証:特開2019-163475号公報
甲第3号証:国際公開第2020/090720号
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和6年5月17日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。
・取消理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1はポリエステル系樹脂組成物の発明であって、該樹脂組成物を、「厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*」の値で特定されるものである。
他方、上記「b*」の値は、樹脂組成物から、「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件により変化するものであり、また、どのように変化するかは、当業者であっても正確に予測することができないことは、当業者の技術常識である。
そうすると、「厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*」の値で樹脂組成物の発明を特定する場合には、「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件を、例えば、本件特許の発明の詳細な説明の【0071】に記載されたような、厚さ150μmの原反シートを得るための押し出し成形の押出温度の条件並びに同【0072】に記載されたような、厚さ150μmの原反シートから厚さ30μmのフィルムを得るための予備加熱温度、延伸温度、熱固定温度及び延伸倍率等の条件のように明確にする必要があるといえるが、本件特許の請求項1の記載は、「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件が明確であるとはいえない。
また、本件特許発明2における「厚さ30μmのフィルムとして、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を、b*0とした場合に、b*-b*0で表される数値」、本件特許発明3における「厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるa*」の値、本件特許発明4における「厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるL*」の値についても、上記「b*」の値と同様に「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件を明確にする必要があるといえるが、本件特許の請求項2ないし4の記載は、「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件が明確であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。
また、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明5ないし8についても同様であり、本件特許発明5ないし8に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。
よって、本件特許発明1ないし8は明確であるとはいえない。
第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
2 明確性要件の判断
取消理由(決定の予告)の取消理由3は、令和6年2月22日にされた訂正請求により訂正された本件特許の請求項1ないし4において、「構成(3)」、「構成(4)」、「構成(5)」及び「構成(6)」における「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件が特定されていないことに起因するものであるところ、本件訂正により、本件特許の請求項1においては「構成(3)」における「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件が具体的に特定され、同請求項2においては「構成(4)」における「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件が具体的に特定され、同請求項3においては「構成(5)」における「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件が具体的に特定され、同請求項4においては「構成(6)」における「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件が具体的に特定された。
そして、本件特許の請求項1ないし8の記載は、上記第3のとおりであり、本件特許の請求項1ないし8の記載には、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
3 取消理由(決定の予告)についての当審の判断のむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、取消理由(決定の予告)の取消理由3によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由についての当審の判断
取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は次のとおりである。
・申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
・申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
・申立理由3(サポート要件)
・申立理由4(明確性要件)
以下、順に検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「熱収縮性フィルム用材料、ポリエステル系熱収縮性フィルム及びポリエステル系シュリンクラベル」に関して、おおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
・「【請求項1】
(A)ポリエチレンテレフタレート製容器由来の再生樹脂と(B)非晶性ポリエステル樹脂とを加熱混合して得られるポリエステル樹脂からなる熱収縮性フィルム用材料。」
・「【請求項3】
請求項1又は2記載の熱収縮性フィルム用材料で構成されているポリエステル系熱収縮性フィルム。」
・「【0004】
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレート製容器からの再生原料を有効利用できる新しい用途を提供することにある。
本発明の他の目的は、より安価に製造できるポリエステル系の熱収縮性フィルム用材料、ポリエステル系熱収縮性フィルム及びポリエステル系シュリンクラベルを提供することにある。」
・「【0014】
非晶性ポリエステル樹脂(B)を構成するジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2,4-ジメチル-1,3-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール;チオジエタノール;ジエチレングリコール、ジプロピレンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、シス-1,4-シクロヘキサンジメタノール、トランス-1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等の脂環式ジオール(脂環式炭化水素環含有ジオール);2,2-ビス(4′-β-ヒドロキシエトキシジフェニル)プロパン、ビス(4′-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等のビスフェノール系化合物のエチレンオキサイド付加物、キシリレングリコール等の芳香族ジオール(フェノール類を含む)などが挙げられる。これらのジオール成分は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
ジオール成分としては、エチレングリコールを主として(特に、ジオール成分全量に対して80~95モル%の割合で)含有していることが好ましい。エチレングリコールと併用することができるジオール成分として、前記例示のジオール成分から適宜選択することができ、好ましくは、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。」
・「【0019】
ポリエチレンテレフタレート製容器由来の再生樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)との割合は、熱収縮性等を損なわない範囲で適宜選択されるが、一般には前者/後者(重量比)=10/90~93/7、好ましくは前者/後者(重量比)=40/60~90/10、さらに好ましくは前者/後者(重量比)=60/40~85/15程度である。前記割合が10/90よりも小さい場合には、再生樹脂(A)の利用性、及びコストの点で不利であり、前記割合が93/7より大きい場合には、収縮率が低く実用性が低下する。」
・「【0031】
ポリエステル系熱収縮性フィルムの主収縮方向の熱収縮率(温水80℃×10秒)は、各種容器等への収縮密着性の点から、30%以上(例えば、30~80%程度)が好ましい。ポリエステル系熱収縮性フィルムの厚さは、用途や取扱性等を考慮して適宜設定できるが、一般には10~100μm、好ましくは20~60μm程度である。また、ポリエステル系熱収縮性フィルムの表面は、用途等に応じて、コロナ処理等の適当な表面処理が施されていてもよい。」
・「【0038】
実施例1
市販されている飲料用PETボトル(ポリエチレンテレフタレート100重量%の樹脂)から、内容飲料、ラベル、キャップを除き、ボトル本体を洗浄、乾燥した後、粉砕機でフレーク状に粉砕した。このフレークの極限粘度(IV)は、0.85であった。このフレーク80重量部に、非晶性ポリエステルチップ(Eastman Chemical社製、商品名「EASTBOND」、ガラス転移温度51℃、結晶融解熱0J/g)20重量部を加えて十分に混合した。この混合物100重量部に対して、ジエチレングリコール1重量部、酢酸マグネシウム0.01重量部及び球状合成シリカ粒子(平均粒径2μm)0.1重量部を添加し、混合した。
この混合物を二軸スクリュー押出機に供給して、270℃で溶融混練し、ダイからストランド状に押し出して、水冷後、回転式カッターで、長さ約3mmのチップとした。二軸スクリューのスクリュー回転方向は、同方向回転であり、且つ2個のベント孔から真空吸引して水分や揮発分を除去した。得られたチップの極限粘度(IV)は0.71、結晶融解熱は23J/gであった。
このチップをフィルム製造用の二軸押出機に供給し、2カ所のベント孔から真空吸引しつつ、260℃で溶融押出し、ギアポンプで計量後、焼結金属フィルターで濾過し、T型ダイからシート状に押出し、これを冷却ロール(表面温度20℃)に巻き付けて、冷却固化せしめ、厚さ約200μmのシートとした。このシートを80℃に予熱した後、長手方向に1.05倍延伸し、冷却し、これをテンター式横延伸機に送り込んで、幅方向に4.2倍延伸した。テンター内の予熱、延伸、熱固定の各温度は、100℃、78℃、80℃とし、熱処理部では、幅方向に約3%の弛緩を付与した。テンターから出てきたフィルムを均一冷却し、巻き取った。このフィルムロールを30℃のエイジングルームに24時間保管し、延伸歪みを除去し、次いで1000mm幅にスリットして、厚さ45μmの収縮フィルムを得た。得られたフィルムの極限粘度(IV)は0.68、結晶融解熱は10J/gであった。このフィルムを8色のグラビア印刷機に供給して、水性インキでデザインを印刷し、巻き取った。これをラベルの幅にスリットし、その両端部を接着剤で接着して、筒状のシュリンクラベルとした。印刷面は、筒の内側、つまり裏印刷とした。このラベルの幅方向収縮率(80℃の水に10秒間浸漬したときの収縮率)は41%であった。このラベルを新しいPETボトル(500ml容量の角形)に被せて、スチームトンネルを通して収縮させたところ、しわなどの外観不良もなく、きれいに仕上がっていた。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に【請求項1】、【請求項3】、【0015】、【0019】及び【0031】に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」及び「甲1フィルム発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「(A)ポリエチレンテレフタレート製容器由来の再生樹脂と(B)非晶性ポリエステル樹脂とを加熱混合して得られるポリエステル樹脂からなる熱収縮性フィルム用材料であって、ポリエチレンテレフタレート製容器由来の再生樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)との割合は、前者/後者(重量比)=10/90~93/7、好ましくは前者/後者(重量比)=40/60~90/10、さらに好ましくは前者/後者(重量比)=60/40~85/15程度であり、非晶性ポリエステル樹脂(B)を構成するジオール成分としては、エチレングリコールを主として(特に、ジオール成分全量に対して80~95モル%の割合で)含有している、一般には厚さが10~100μm、好ましくは20~60μm程度である熱収縮性フィルム用材料。」
<甲1フィルム発明>
「甲1発明から製造された一般には厚さが10~100μm、好ましくは20~60μm程度である熱収縮性フィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「(A)ポリエチレンテレフタレート製容器由来の再生樹脂」及び「ポリエステル樹脂からなる熱収縮性フィルム用材料」は本件特許発明1における「再生PET樹脂」及び「ポリエステル系樹脂組成物」にそれぞれ相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「少なくとも再生PET樹脂を含有するポリエステル系樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては「構成(1):再生PET樹脂の配合量を、結晶性ポリエステル樹脂の一部又は全部として、ポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、20~50重量%の範囲内の値とする。」及び「構成(7):非結晶性ポリエステル樹脂(但し、多価アルコール100モル%中、ネオペンチルグリコールを40~60モル%共重合した共重合ポリエステルを30~60重量%で含有した場合を除く。)を含むと共に、当該非結晶性ポリエステル樹脂の配合量をポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、50~80重量%の範囲内の値とする。」を「満足する」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては「構成(2):厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値を20%未満の値とする。」を「満足する」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-3>
本件特許発明1においては「構成(3):前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を0.19~0.26の範囲内の値とする。」を「満足する」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲1発明においては、「ポリエチレンテレフタレート製容器由来の再生樹脂(A)」と「非晶性ポリエステル樹脂(B)」(本件特許発明1における「非結晶性ポリエステル樹脂」に相当する。)との割合が「前者/後者(重量比)=10/90~93/7、好ましくは前者/後者(重量比)=40/60~90/10、さらに好ましくは前者/後者(重量比)=60/40~85/15程度であり」と特定され、「前者/後者(重量比)=10/90~93/7」は本件特許発明1における「構成(1)」の「20~50重量%」の数値範囲を包含し、「好ましくは」とされる「前者/後者(重量比)=40/60~90/10」は「構成(1)」の「20~50重量%」の数値範囲と重複するものの、「さらに好ましくは」とされる「前者/後者(重量比)=60/40~85/15」は「20~50重量%」の数値範囲と全く重複しない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1発明において、「ポリエチレンテレフタレート製容器由来の再生樹脂(A)」と「非晶性ポリエステル樹脂(B)」(本件特許発明1における「非結晶性ポリエステル樹脂」に相当する。)との割合を、「さらに好ましくは」とされる「前者/後者(重量比)=60/40~85/15」と全く重複しない「20~50重量%」の数値範囲とする動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明5について
ア 対比
本件特許発明5と甲1フィルム発明を対比する。
本件特許発明5は請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、両者の間には、相違点1-1ないし相違点1-3がある。また、両者は、次の点でも一応相違する。
<相違点1-4>
本件特許発明5においては「当該ポリエステル系シュリンクフィルムの主収縮方向をTD方向とし、当該TD方向における、80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の熱収縮率をA1としたときに、当該A1を20%以上、49%以下の値とする」と特定されているのに対し、甲1フィルム発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、検討する。
本件特許発明5と甲1フィルム発明の間には、相違点1-1があることから、本件特許発明1と同様に判断される。すなわち、本件特許発明5は甲1フィルム発明であるとはいえないし、甲1フィルム発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明6ないし8について
本件特許発明6ないし8は、請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明5と同様に、甲1フィルム発明であるとはいえないし、甲1フィルム発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし8は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「熱収縮性ポリエステル系ラベル、包装体、熱収縮性ポリエステル系ラベルの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項7】
PETボトルリサイクル原料を含有する熱収縮性ポリエステル系フィルムの両端部を重ねて有機溶剤で接着することにより形成された熱収縮性ポリエステル系ラベルであって、
前記有機溶剤は、比誘電率が6.2以上9.8以下であり、かつ芳香環構造を有する環状化合物を含み、
前記熱収縮性ポリエステル系ラベルの溶剤接着部に残存する前記環状化合物の濃度が4000ppm以上25000ppm以下であり、
溶剤接着部の剥離強度が3N/15mm以上、
であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系ラベル。」
・「【請求項11】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みが12μm以上50μm以下である請求項7~10のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系ラベル。」
・「【0010】
本発明は、フィルムの厚みが薄くても溶剤突き抜けを起こさない溶剤接着部を有する熱収縮性ポリエステル系ラベルおよび包装体の提供を課題とし、特に、高速化したチュービング工程でも、あるいはPETボトルリサイクル原料を多く用いた熱収縮性ポリエステルフィルムであっても、安定的に高い剥離強度が得られる溶剤接着部を有する熱収縮性ポリエステル系ラベルおよび包装体の提供を課題としている。」
・「【0037】
第2の態様においては、エチレンテレフタレートユニットは、PETボトルリサイクル原料由来のユニットを含んでいてもよい。PETボトルリサイクル原料とは、飲料用のPETボトルをフレークやペレットに加工したものである。ポリエステルフィルムを成膜するときに、このPETボトルリサイクル原料を、ポリエステル原料100質量%中、90質量%以下で使用することが好ましい。90質量%を超えてPETボトルリサイクル原料を用いると、PETボトルを構成するポリエチレンテレフタレートの結晶性が高いため、得られるフィルムの溶剤接着性や熱収縮特性が低下するおそれがある。リサイクル推進のためには、PETボトルリサイクル原料をポリエステル原料100質量%中20質量%以上使うことが望ましい。」
・「【0043】
また、ポリエステルは、全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中の非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が15モル%以上、好ましくは16モル%以上、より好ましくは17モル%以上、特に好ましくは18モル%以上である。また非晶質成分となり得るモノマー成分の合計の上限は特に限定されないが、上限は30モル%が好ましい。」
・「【0044】
非晶質成分となり得るモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸を用いるのが好ましい。」
・「【0060】
[熱収縮率(温湯熱収縮率)]
フィルムを長手方向およびその直交方向(幅方向)に沿うように10cm×10cmの正方形に裁断し、90℃±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬した後、水中から引き出して、試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従って求めた値である。
熱収縮率(%)={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}
本実施例では、フィルムの最も収縮率の大きい方向(主収縮方向)は幅方向である。」
・「【0068】
合成例(ポリエステルの合成)
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、グリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)添加して、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.025モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.6Pa(0.2トール)の減圧条件下で重縮合反応を行い、固有粘度0.70dl/gのポリエステルAを得た。このポリエステルはポリエチレンテレフタレートである。なお、上記ポリエステルAの製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して8000ppm添加した。また、上記と同様にして、表1に示すポリエステル(B,C,D)と表2に示すポリエステルE,F,Gを合成した。また、PETボトルリサイクル原料として、「クリアペレット」(よのペットボトルリサイクル社製;固有粘度0.63dl/g)をチップHとして用いた。」
・「【0069】
表中、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、NPGはネオペンチルグリコール、IPAはイソフタル酸、BDは1,4-ブタンジオールである。表1のポリエステルの固有粘度は、チップAが0.70dl/g、チップBが0.70dl/g、チップCが0.73dl/g、チップDが0.73dl/g、チップEが0.70dl/g、チップFが0.73dl/g、チップGが0.73dl/g、チップHが0.63dl/gであった。なお、各ポリエステルは適宜チップ状にした。」
・「【0071】
【表2】
[図:0001417625000001.jpg]
」
・「【0075】
<フィルムAの製造方法>
上記合成例で得られた各チップを別個に予備乾燥し、表4に示したように、チップE5質量%、チップF70質量%およびチップH25質量%で混合して押出機に投入した。この混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押し出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに接触させて急冷することにより、厚さ90μmの未延伸フィルムを得た。フィルム中の非晶成分量とTgを表4に示した。このときの未延伸フィルムの引き取り速度(金属ロールの回転速度)は約20m/minであった。
【0076】
上記未延伸フィルムをテンターへ導き、予熱ゾーンで100℃に加熱し、78℃の設定温度の延伸ゾーンで幅方向に5倍延伸した。続いて82℃で5秒間熱処理を行って、その後冷却した。両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ18μmの横一軸延伸フィルムを1100mに亘って連続的に製造した。得られたフィルムAは幅方向にのみ熱収縮する熱収縮性ポリエステルフィルムであった。90℃で測定した温湯熱収縮率を表4に示した。」
・「【0078】
<フィルムCの製造方法>
未延伸フィルムの厚さを90μmから225μmに変更した以外は、フィルムAと同様の方法で厚さ45μmの横一軸延伸フィルムを1000mの長さに亘って連続的に製造した。得られたフィルムCは幅方向にのみ熱収縮する熱収縮性ポリエステルフィルムであった。90℃で測定した温湯熱収縮率を表4に示した。」
・「【0081】
【表4】
[図:0001417625000002.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に【0068】、【0069】、【0071】、【0075】、【0076】及び【0078】に記載された「フィルムA」及び「フィルムC」について整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2発明」及び「甲2フィルム発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「ポリエステルEのチップ5質量%、ポリエステルFのチップ70質量%及びポリエステルHのチップ25質量%を混合した厚さ18μm又は45μmの横一軸延伸フィルム用の材料。」(当審注:「ポリエステルE」、「ポリエステルF」及び「ポリエステルH」については、上記アの記載を参照。)
<甲2フィルム発明>
「甲2発明から製造された厚さ18μm又は45μmの横一軸延伸フィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2の【0068】によると、甲2発明における「ポリエステルHのチップ」は、「クリアペレット」(よのペットボトルリサイクル社製;固有粘度0.63dl/g)であり、甲2の【0037】によると、結晶性が高いものであるから、本件特許発明1における「結晶性ポリエステル樹脂」である「再生PET樹脂」に相当し、甲2発明における「ポリエステルHのチップ」の含有量の「25質量%」は本件特許発明1における「20~50重量%の範囲内の値」である。
甲2の【0071】の【表2】によると、甲2発明における「ポリエステルFのチップ」は、ジメチルフタレート(DMT)100モル%とエチレングリコール(EG)70モル%及び1,4-シクロヘキサンジメタノール30モル%を重合させて得たポリエステルであり、甲2の【0044】によると、1,4-シクロヘキサンジメタノールは非晶質成分となり得るモノマーであるから、本件特許発明1における「非結晶性ポリエステル樹脂(但し、多価アルコール100モル%中、ネオペンチルグリコールを40~60モル%共重合した共重合ポリエステルを30~60重量%で含有した場合を除く。)」に相当し、甲2発明における「ポリエステルFのチップ」の含有量の「70質量%」は本件特許発明1における「50~80重量%の範囲内の値」である。
甲2発明における「材料」は「ポリエステルEのチップ5質量%、ポリエステルFのチップ70質量%及びポリエステルHのチップ25質量%を混合」したものであるから、本件特許発明1における「ポリエステル系樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「少なくとも再生PET樹脂を含有するポリエステル系樹脂組成物であって、下記の構成(1)及び(7)を満足するポリエステル系樹脂組成物。
構成(1):再生PET樹脂の配合量を、結晶性ポリエステル樹脂の一部又は全部として、ポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、20~50重量%の範囲内の値とする。
構成(7):非結晶性ポリエステル樹脂(但し、多価アルコール100モル%中、ネオペンチルグリコールを40~60モル%共重合した共重合ポリエステルを30~60重量%で含有した場合を除く。)を含むと共に、当該非結晶性ポリエステル樹脂の配合量をポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、50~80重量%の範囲内の値とする。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1においては「構成(2):厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値を20%未満の値とする。」を「満足する」と特定されているのに対し、甲2発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1においては「構成(3):前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を0.19~0.26の範囲内の値とする。」を「満足する」と特定されているのに対し、甲2発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
「厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*」の値は、樹脂組成物から「厚さ30μmのフィルム」を製造する際の製造条件により変化するものであり、また、どのように変化するかは、当業者であっても正確に予測することができないことは、当業者の技術常識である。
そうすると、甲2発明の認定の根拠となった「フィルムA」及び「フィルムC」を製造する際の製造条件は、本件特許発明1における「構成(3)」に示された製造条件と異なることから、甲2発明における「厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*」が「0.19~0.26の範囲内の値」となっているかは不明である。
したがって、相違点2-2は実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2発明において、「厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*」を「0.19~0.26の範囲内の値」とする動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
したがって、甲2及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明5について
ア 対比
本件特許発明5と甲2フィルム発明を対比する。
本件特許発明5は請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明5と甲2フィルム発明の間には、相違点2-1及び2-2がある。また、両者は、次の点でも一応相違する。
<相違点2-3>
本件特許発明5においては「当該ポリエステル系シュリンクフィルムの主収縮方向をTD方向とし、当該TD方向における、80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の熱収縮率をA1としたときに、当該A1を20%以上、49%以下の値とする」と特定されているのに対し、甲2フィルム発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、検討する。
本件特許発明5と甲2フィルム発明の間には、相違点2-2があることから、本件特許発明1と同様に判断される。すなわち、本件特許発明5は甲2フィルム発明であるとはいえないし、甲2フィルム発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明6ないし8について
本件特許発明6ないし8は、請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明5と同様に、甲2フィルム発明であるとはいえないし、甲2フィルム発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、令和6年4月16日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する。
(ア)主張1
「(2-1)甲2発明のフィルムAの原料と製造条件について
・・・(略)・・・
即ち、本件特許に係る発明のフィルムは、製造条件が実施例の製造条件と同じである必要はない。
以上より明らかな様に、甲2発明のフィルムAは、本件特許の明細書に記載された原料と製造条件で製造されており、本件特許発明1~8に新規性はない。」(上記意見書第2及び3ページ)
(イ)主張2
「(2-2)本件特許発明1~4はフィルムの発明でないことについて
本件特許の特許権者は、甲2発明のフィルムAと、本実施例のフィルムは、原料と製造条件が異なっており、本件特許発明は新規性がある旨の主張をしている。
しかしながら、本件特許発明1~4は樹脂組成物の発明でありフィルムの発明ではない。そして、樹脂組成物の発明にはフィルムの製造条件は関係ない。よって、この点からも、特許権者の新規性に関する主張は誤っている。
即ち、本件特許発明1~4の新規性は、甲第2号証に記載された樹脂組成物との比較において議論されるべきであり、甲2発明のフィルムは、必ずしも本件特許発明1のb*値を満たしている必要はなく、甲第2号証は本件特許発明1~4の新規性を否定できる。また、本件特許発明5~8はフィルムの発明であるが、本件特許発明1の樹脂組成物に由来していることが要件となっているものの、フィルムが特定のb*値を有することは要件とはなっておらず、甲2発明のフィルムは、必ずしも本件特許発明1のb*値を満たしていなくても、甲第2号証は本件特許発明5~8の新規性を否定できる。」(上記意見書第3及び4ページ)
(ウ)主張3
「本件特許の特許権者は、甲2発明は透明性や無着色性を全く問題としていないと主張している。しかしながら、甲2発明は熱収縮性ポリエステル系ラベルの発明であり、ラベルはラベルを見る人に情報伝え良い印象を与える為のものであり、当然に見た目が重要であり、透明性や無着色性は甲2発明の自明の課題である。よって、ヘイズ値、b*、b*-b*0、a*及びL*の範囲の最適化は、当業者の通常の創作能力の発揮であり、進歩性はない。」(上記意見書第4ページ)
イ 検討
そこで、上記主張1ないし3について検討する。
(ア)主張1について
本件特許の請求項1の記載からみて、本件特許発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2ないし8は、特定の製造条件で厚さ30μmのフィルムを製造した場合に、該フィルムが特定の物性値を示すポリエステル系樹脂組成物及び該ポリエステル系樹脂組成物に由来してなるシュリンクフィルムの発明であるところ、甲2発明の認定の根拠となった「フィルムA」及び「フィルムC」を製造する際の製造条件は本件特許発明1ないし8において特定される製造条件と異なる。
したがって、「甲2発明のフィルムAは、本件特許の明細書に記載された原料と製造条件で製造されており、本件特許発明1~8に新規性はない。」とはいえない。
(イ)主張2について
本件特許の請求項1の記載からみて、本件特許発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2ないし4は、特定の製造条件で厚さ30μmのフィルムを製造した場合に、該フィルムが特定の物性値を示すポリエステル系樹脂組成物の発明であり、「フィルムの製造条件は関係ない」とはいえない。
したがって、甲2発明において、本件特許発明1ないし4と同じ製造条件で厚さ30μmのフィルムを製造した場合に、本件特許発明1ないし4と物性値が同じであれば、新規性を否定できるが、甲2に記載された事項及び技術常識を考慮しても、本件特許発明1ないし4と物性値が同じであるとはいえないので、新規性を否定できない。また、本件特許発明5ないし8についても、同様に、新規性を否定できない。
(ウ)主張3について
甲2発明のような熱収縮性ポリエステル系ラベルにおいて、透明性や無着色性は自明の課題であったとしても、甲2発明において、特定の製造条件で製造された厚み30μmのフィルムにb*の値に着目し、その値を特定の範囲にする動機付けがいずれの証拠にも記載されていない以上、「ヘイズ値、b*、b*-b*0、a*及びL*の範囲の最適化は、当業者の通常の創作能力の発揮であり、進歩性はない。」とはいえない。
ウ まとめ
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(7)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし8は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
イ 発明の課題
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題は「原材料に、再生PET樹脂(PCR)を相当量含有したとしても、透明性や無着色性を維持するポリエステル系シュリンクフィルムに最適なポリエステル系樹脂組成物」を提供することであり、本件特許発明5ないし8の解決しようとする課題は「原材料に、再生PET樹脂(PCR)を相当量含有したとしても、透明性や無着色性を維持するポリエステル系シュリンクフィルム」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
ウ 判断
発明の詳細な説明の【0008】には「本発明によれば、少なくとも再生PET樹脂を含有するポリエステル系樹脂組成物であって、下記の構成(1)~(3)を満足することを特徴とするポリエステル系樹脂組成物が提供され、上述した問題点を解決することができる。
(1)再生PET樹脂の配合量を、結晶性ポリエステル樹脂の一部又は全部として、ポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、10重量%以上の値とする。
(2)所定厚さ(例えば、30μm)のフィルムとした場合に、JIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値を20%未満とする。
(3)所定厚さ(例えば、30μm)のフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標(以下、単に、CIE色度座標と称する場合がある。)におけるb*を0.15~0.3の範囲内の値とする。
すなわち、少なくとも構成(1)~(3)を全て満足することによって、原材料に、結晶性ポリエステル樹脂である再生PET樹脂を相当量含有したとしても、所定形状に成形して、それをリサイクルした場合であっても、優れた透明性や無着色性(主として黄色系)を得ることができる。」と記載され、同【0009】ないし【0015】及び【0039】には本件特許発明1ないし8に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0026】には「3.構成(1)
構成(1)は、再生PET樹脂の配合量を、結晶性ポリエステル樹脂の一部又は全部として、ポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、10重量%以上の値とする旨の必須構成要件である。
すなわち、原材料に、所定量以上の結晶性ポリエステル樹脂である再生PET樹脂を含有したとしても、透明性や無着色性を維持することができ、リサイクルに適したポリエステル系樹脂組成物とすることができる。」と記載され、同【0028】には「4.構成(2)
又、構成(2)は、所定厚さ(例えば、30μm)のフィルムとした場合において、JIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値を20%未満とする旨の必須構成要件である。
すなわち、所定量の再生PET樹脂を含有するポリエステル系樹脂組成物を、後述する実施例1等に準じて、所定厚さのポリエステル系シュリンクフィルム等とした場合に、ヘイズ値を比較的小さくすることによって、リサイクルした場合であっても、各種用途への汎用性を維持することができる。」と記載され、同【0030】には「5.構成(3)
又、構成(3)は、所定厚さ(例えば、30μm)のフィルムとした場合において、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を0.15~0.3の範囲内の値とする旨の必須構成要件である。
すなわち、所定量の再生PET樹脂を含有するポリエステル系樹脂組成物を、後述する実施例1等に準じて、所定のポリエステル系シュリンクフィルム等とした場合に、色度座標におけるb*を所定範囲の値とすることによって、繰り返しリサイクルしても、更に透 明性や、黄色系の無着色性を、精度良く維持するポリエステル系樹脂とすることができる。
従って、b*を0.17~0.28の範囲内の値とすることがより好ましく、0.19~0.26の範囲内の値とすることが更に好ましい。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0071】及び【0072】には、「JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*」を測定する対象となる「シュリンクフィルム」の作成方法が記載されている。
発明の詳細な説明の【0078】、【0079】及び【0083】の【表1】には、「非結晶性ポリエステル樹脂(PETG1)を70質量部と、リサイクル結晶性ポリエステル樹脂(PCR)を30重量部」を用いて、「押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して」、作成した「厚さ30μmのフィルム」の「JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*」の値が「0.22」であること及び「非結晶性ポリエステル樹脂(PETG1)を50質量部と、リサイクル結晶性ポリエステル樹脂(PCR)を50重量部」を用いて、「押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して」、作成した「厚さ30μmのフィルム」の「JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*」の値が「0.26」であることを確認する記載がある。
そうすると、当業者であれば、発明の詳細な説明に記載された事項から、「少なくとも再生PET樹脂を含有するポリエステル系樹脂組成物であって、下記の構成(1)~(3)を満足するポリエステル系樹脂組成物。
構成(1):再生PET樹脂の配合量を、結晶性ポリエステル樹脂の一部又は全部として、ポリエステル系樹脂組成物の全体量に対して、20~50重量%の範囲内の値とする。
構成(2):厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値を20%未満の値とする。
構成(3):前記ポリエステル系樹脂組成物を押出温度245℃で押し出し成形を行い厚さ150μmの原反シートを得て、前記原反シートから、予備加熱温度80℃、延伸温度80℃、熱固定温度75℃、MD方向100%でTD方向500%の延伸倍率で延伸して、厚さ30μmのフィルムとした場合に、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定されるCIE1976 L*a*b*色空間の色度座標におけるb*を0.19~0.26の範囲内の値とする。」及び該「ポリエステル系樹脂組成物」に由来してなる「シュリンクフィルム」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ポリエステル系樹脂組成物」をさらに限定したものであり、本件特許発明5ないし8は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ポリエステル系樹脂組成物」に由来してなる「シュリンクフィルム」をさらに限定したものであるから、本件特許発明1ないし8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものであるといえる。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 3のとおり主張している。
そこで、検討する。
当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は上記(2)のとおりであり、本件特許発明1ないし8はそれらをさらに限定したものであるところ、上記第4 3の主張は、本件特許発明1ないし8の範囲内であっても、発明の課題を解決できないものがあることの理論的な説明や具体的な証拠を伴うものではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断
明確性要件の判断は、上記第6 2のとおりである。すなわち、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(2)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 4のとおり主張している。
そこで、上記主張について検討する。
上記主張は、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし4において「フィルム」の厚さが具体的に特定されていないことに起因するものであるところ、本件訂正により、本件特許の請求項1ないし4において「フィルム」の厚さは「30μm」に具体的に特定された。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701137