特許異議申立
2023-701016
2相ステンレス鋼
- 審判番号
- 2023-701016
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-091672
- 登録番号
- 7248894
- 請求日
- 2023年09月22日
- 審決日
- 2024年01月15日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】アセンド弁理士法人
- 【異議申立人】目黒 茂
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 井上 猛
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.121-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7248894号発明「2相ステンレス鋼」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7248894号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7248894号(請求項の数3。以下、「本件特許」という。)は、令和1年5月14日を出願日とする出願(特願2019-91672号)に係るものであって、令和5年3月22日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和5年3月30日である。)。
その後、令和5年9月22日に、本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、特許異議申立人である目黒茂(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
質量%で、
Cr:21.0~27.0%未満、
Mo:2.50~5.00%、
Ni:4.50~8.00%、
N:0.080~0.400%、
Ag:0.01~0.50%、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:2.00%以下、
sol.Al:0.040%以下、
V:0.50%以下、
O:0.010%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0300%以下、
W:0~2.50%、
Cu:0~0.80%、及び、
残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する、2相ステンレス鋼。
【請求項2】
請求項1に記載の2相ステンレス鋼であって、前記化学組成は、
W:0.10~2.50%を含有する、2相ステンレス鋼。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の2相ステンレス鋼であって、前記化学組成は、
Cu:0.01~0.80%を含有する、2相ステンレス鋼。
第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1~3に係る特許は、下記1~3のとおり、特許法113条2号に該当する。証拠方法は、甲第1号証~甲第7号証(以下、単に「甲1」等という。下記4を参照。)である。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~3は、甲1に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条2号に該当する。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1~3は、甲2に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条2号に該当する。
3 申立理由3(進歩性)
本件発明1~3は、甲3に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条2号に該当する。
4 証拠方法
・甲1 国際公開第2017/141907号
・甲2 特開2012-224904号公報
・甲3 特開2018-3054号公報
・甲4 特開2018-145511号公報
・甲5 特開2017-31473号公報
・甲6 特開2015-224358号公報
・甲7 特開2001-11582号公報
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1、6、[0015]、[0016]、[0057]~[0067])によれば、特に、請求項1、6の記載を前提として、本発明例である鋼No.O(表1)を用いた本発明例No.15(表2-1、表2-2)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、
C:0.015%、
N:0.16%、
Si:0.5%、
Mn:2.4%、
P:0.014%、
S:0.0009%、
Cr:23.9%、
Cu:1.9%、
Ni:4.8%、
Mo:3.4%、
Al:0.013%、
B:0.0024%、
Ca:0.0014%、
を含有し、
更に、
Hf:0.08%、
W:1.3%、
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、オーステナイト相の面積率が40%であり、下記の式(I)の中辺が1.10であり、下記の式(II)の中辺が1.13であり、下記の式(I)及び式(II)を満たす、フェライト-オーステナイト系二相ステンレス鋼材。
1.03≦[%Cr*F]/[%Cr]≦1.40 ・・・式(I)
1.05≦[%Mn*A]/[%Mn]≦1.80 ・・・式(II)
但し、式(I)及び式(II)中の[%元素記号]は鋼中の当該元素の含有量(質量%)、[%元素記号*F]はフェライト相中の当該元素の含有量(質量%)、[%元素記号*A]はオーステナイト相中の当該元素の含有量(質量%)を意味する。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「フェライト-オーステナイト系二相ステンレス鋼材」は、本件発明1における「2相ステンレス鋼」に相当する。
本件発明1における2相ステンレス鋼の化学組成と、甲1発明におけるフェライト-オーステナイト系二相ステンレス鋼材の鋼組成とは、少なくとも、Cr、Mo、Ni、N、C、Si、Mn、Al、P、S、W、Cuを含有する点で共通し、Mn、Cu以外の上記各成分の含有量も重複一致する。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「質量%で、
Cr:21.0~27.0%未満、
Mo:2.50~5.00%、
Ni:4.50~8.00%、
N:0.080~0.400%、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn、
sol.Al:0.040%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0300%以下、
W:0~2.50%、
Cu、及び、
Fe及び不純物を含有する化学組成を有する、2相ステンレス鋼。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1-1
2相ステンレス鋼の化学組成が、本件発明1では、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有するものであるのに対して、甲1発明では、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有するものではない点。
・相違点1-2
2相ステンレス鋼の化学組成が、本件発明1では、さらに「V:0.50%以下」、「O:0.010%以下」を含有し、「残部はFe及び不純物からなる」ものであるのに対して、甲1発明では、「V:0.50%以下」、「O:0.010%以下」を含有するものではなく、さらに「B:0.0024%」、「Ca:0.0014%」、「Hf:0.08%」を含有し、「残部がFe及び不可避的不純物からな」るものである点。
・相違点1-3
Mn及びCuの各含有量が、本件発明1では、それぞれ、「2.00%以下」、「0~0.80%」であるのに対して、甲1発明では、それぞれ、「2.4%」、「1.9%」である点。
イ 相違点1-1の検討
(ア)甲1には、フェライト-オーステナイト系二相ステンレス鋼材がAgを含有することについては、記載されていない。甲1には、甲1発明において、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることを動機付ける記載は見当たらない。
(イ)甲4には、電子部品に用いられるFe基合金について記載されている(【0001】)。
甲4には、
・上記Fe基合金が、C:0.001~0.020質量%、Si:0.01~0.40質量%、Mn:0.01~0.80質量%、S:0.0005~0.0050質量%、Al:0.001~0.020質量%を含み、かつ、Ni:25.0~45.0質量%、Co:0~22.0質量%を25.0質量%≦Ni+Co≦55.0質量%の範囲で含み、かつ、Au:0.0275質量%以下、Ag:0.0500質量%以下、Pd:0.0500質量%以下、Pt:0.0330質量%以下、Cu:0.300質量%以下の1種または2種以上を0.0020≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0500の範囲で含み、かつ、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものであること(【0012】)、
・上記Fe基合金では、母材と比べて貴な金属である、Au、Ag、Pd、Pt及びCuからなる群から選択された金属の少なくとも1種が添加、配合されることで、上記貴な金属と母材との間で電池が形成されて母材の溶解が助長される、いわゆるガルバニック腐食が生じることにより、母材の化学研磨速度が向上する結果、優れた表面平滑性が得られること(【0014】、【0015】)、
・上記貴な金属の配合量が調整されることで、Fe基合金の化学研磨時における腐食生成物の発生が抑制されるため、表面清浄性が得られること(【0014】、【0015】)、
が記載されている。
しかしながら、上記Fe基合金は、甲1発明のようにCr、Mo、Nを含有するものではなく、また、Niを含有するものの、その含有量は25.0~45.0質量%であり、Niの含有量が4.8質量%である甲1発明とは大きく異なるものであって、そもそも、「2相ステンレス鋼」とはいえないものである。
合金は、前提となる合金の種類(成分組成や組織等)が異なれば、当該合金に特定の合金元素を添加したとしても、それにより同様の効果が得られるかどうかは不明であることが通常であることを踏まえると、フェライト-オーステナイト系二相ステンレス鋼材に関する甲1発明において、上記のようなFe基合金に関する甲4の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることが動機付けられるとはいえない。
以上によれば、甲1発明において、甲4の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(ウ)甲5には、二相ステンレス鋼について記載されている(【0001】)。
甲5には、
・機械的性質、耐食性及び寿命の向上を実現するために、Cr、Mo、Fe等のσ相構成元素の拡散を抑制することにより、脆化相であるσ相を代表とするCrリッチ相の成長を抑制すること(【0016】)、
・Crリッチ相とFeリッチ相に相分離するスピノーダル分解が進行する温度範囲で磁場を印加する処理を行うことで、α相(フェライト相)に組成変調が生じ、それにより原子の拡散が遅くなって、σ相の成長が抑制されること(【0014】、【0017】~【0019】)、
・組成変調構造が発現されやすいように、添加元素としてNiの融点よりも低融点の元素(Sn、Ga、Ge、In、Au、Ag、Mg、Al、Zn、軽希土類元素等)を0.01~2mass%添加すること(【0021】、【0022】)、
が記載されている。
しかしながら、甲5の上記記載に基づいて、二相ステンレス鋼において、Niの融点よりも低融点の元素であるAgを0.01~2mass%添加した上で、Crリッチ相とFeリッチ相に相分離するスピノーダル分解が進行する温度範囲で磁場を印加する処理を行うことによって、σ相の成長が抑制され、その結果、耐食性の向上が実現することが理解できたとしても、その耐食性の具体的な内容は不明である(甲5の実施例では、耐食性については評価されていない。)。
そうすると、仮に、フェライト-オーステナイト系二相ステンレス鋼材に関する甲1発明において、甲5の上記記載に基づいて、Agを0.01~0.5mass%程度添加した上で、Crリッチ相とFeリッチ相に相分離するスピノーダル分解が進行する温度範囲で磁場を印加する処理を行う動機付けがあったとしても、本件発明1は、2相ステンレス鋼において、Agを0.01~0.50%添加することで優れた耐孔食性が得られるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0010】~【0019】、【0057】~【0062】)から、甲1発明において、甲5の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(エ)甲6には、強度、成形性、耐孔食性、耐磨耗性に優れたフェライト系ステンレス鋼線について記載されており(請求項1、【0001】、【0010】)、フェライト系ステンレス鋼線において、0.05%以下のAgは、耐食性の向上に有用であること(【0045】)が記載されている。
また、甲7には、加工性及び耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼について記載されており(請求項1、【0001】)、フェライト系ステンレス鋼において、0.005~0.5%のAgは、ステンレス鋼の不動態化を促進し、耐食性を向上させること(【0049】)が記載されている。
しかしながら、甲1発明は、フェライト-オーステナイト系二相ステンレス鋼材に関するものであり、甲6、7に記載のフェライト系ステンレス鋼とは、いずれもステンレス鋼であるとはいえ、その種類が異なるものである。
合金は、前提となる合金の種類が異なれば、当該合金に特定の合金元素を添加したとしても、それにより同様の効果が得られるかどうかは不明であることが通常であることを踏まえると、フェライト-オーステナイト系二相ステンレス鋼材に関する甲1発明において、フェライト系ステンレス鋼に関する甲6、7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることが動機付けられるとはいえない。
以上によれば、甲1発明において、甲6、7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(オ)以上のとおり、甲1発明において、甲4~7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、甲4~7の記載から、Agを0.5質量%以下含有することでステンレス鋼の耐食性を向上させることは周知技術であるから、甲1発明において、Agを0.01~0.50%配合することは、当業者が容易に想到し得る事項であると主張する。
しかしながら、甲4については、上記イ(イ)のとおり、所定の成分組成を有するFe基合金において、母材と比べて貴な金属であるAgが添加、配合されることで、化学研磨時に母材の溶解が助長され、ガルバニック腐食が生じることが記載されており、当該記載によれば、Agはむしろ耐食性を劣化させるものであって、耐食性を向上させるものとはいえない。また、甲4には、貴な金属の配合量が調整されることで、Fe基合金の化学研磨時における腐食生成物の発生が抑制されることも記載されているが、このような記載があるとしても、Agが耐食性を劣化させるものであることに変わりはない。甲4の記載から、Agを0.5質量%以下含有することでステンレス鋼の耐食性を向上させることが理解できるとはいえない。
また、甲5については、そもそも、Crリッチ相とFeリッチ相に相分離するスピノーダル分解が進行する温度範囲で磁場を印加する処理を行うことで、α相(フェライト相)に組成変調が生じ、それにより原子の拡散が遅くなって、σ相の成長が抑制され、その結果、耐食性の向上が実現するというものであり、その際、組成変調構造が発現されやすいように、Agを添加するというものにすぎない。甲5の記載から、Agを0.5質量%以下含有することでステンレス鋼の耐食性を向上させることが理解できるとはいえない。
さらに、甲6、7については、甲6、7の記載から、Agを含有することでフェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上させることは理解できるとしても、ステンレス鋼の種類によらず、例えば「2相ステンレス鋼」も含め、あらゆるステンレス鋼の耐食性を向上させることまでは理解できるとはいえない。甲6、7の記載から、Agを0.5質量%以下含有することでステンレス鋼の耐食性を向上させることが理解できるとはいえない。
以上のとおり、甲4~7の記載から、Agを0.5質量%以下含有することでステンレス鋼の耐食性を向上させることは周知技術であるとはいえないから、申立人の主張は、その前提を欠くものであり、採用できない。
エ 小括
したがって、相違点1-2、1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、3についても同様に、甲1に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲1に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(進歩性)
(1)甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1~4、【0010】、【0015】、【0017】、【0020】、【0021】、【0032】~【0046】)によれば、特に、請求項1~4の記載を前提として、鋼種SUS329J4LであるNo.B(表1)の二相ステンレス鋼から得られた、光輝焼鈍後の冷帯である試験番号4(【0033】、【0036】、表2)に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「露点が-40℃である水素ガス雰囲気中で、温度が1060℃、焼鈍時間が120秒で焼鈍する光輝焼鈍方法によって光輝焼鈍された二相ステンレス鋼の冷帯であって、
前記二相ステンレス鋼が、C:0.014質量%、Si:0.26質量%、Mn:0.7質量%、Cr:24.7質量%、Ni:6.5質量%、Mo:3.2質量%、N:0.17質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライト相・オーステナイト相の組織を有し、前記フェライト相が47体積%、前記オーステナイト相が53体積%であり、
前記二相ステンレス鋼の冷帯の厚さが、2.0mmである、二相ステンレス鋼の冷帯。」(以下、「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「露点が-40℃である水素ガス雰囲気中で、温度が1060℃、焼鈍時間が120秒で焼鈍する光輝焼鈍方法によって光輝焼鈍された」「厚さが、2.0mmである」「二相ステンレス鋼の冷帯」は、本件発明1における「2相ステンレス鋼」に相当する。
本件発明1における2相ステンレス鋼の化学組成と、甲2発明における二相ステンレス鋼の成分組成とは、少なくとも、Cr、Mo、Ni、N、C、Si、Mnを含有する点で共通し、上記各成分の含有量も重複一致する。
以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「質量%で、
Cr:21.0~27.0%未満、
Mo:2.50~5.00%、
Ni:4.50~8.00%、
N:0.080~0.400%、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:2.00%以下、及び、
Fe及び不純物を含有する化学組成を有する、2相ステンレス鋼。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2-1
2相ステンレス鋼の化学組成が、本件発明1では、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有するものであるのに対して、甲2発明では、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有するものではない点。
・相違点2-2
2相ステンレス鋼の化学組成が、本件発明1では、さらに「sol.Al:0.040%以下」、「V:0.50%以下」、「O:0.010%以下」、「P:0.030%以下」、「S:0.0300%以下」、「W:0~2.50%」、「Cu:0~0.80%」を含有し、「残部はFe及び不純物からなる」ものであるのに対して、甲2発明では、「sol.Al:0.040%以下」、「V:0.50%以下」、「O:0.010%以下」、「P:0.030%以下」、「S:0.0300%以下」、「W:0~2.50%」、「Cu:0~0.80%」を含有するものではなく、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」るものである点。
イ 相違点2-1の検討
(ア)甲2には、二相ステンレス鋼がAgを含有することについては、記載されていない。甲2には、甲2発明において、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることを動機付ける記載は見当たらない。
(イ)甲4には、上記1(2)イ(イ)で指摘したとおりの記載があるところ、甲4に記載されたFe基合金は、上記1(2)イ(イ)で述べたとおり、そもそも、「2相ステンレス鋼」とはいえないものであるから、二相ステンレス鋼の冷帯に関する甲2発明において、上記のようなFe基合金に関する甲4の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることが動機付けられるとはいえない。
以上によれば、甲2発明において、甲4の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(ウ)甲5には、上記1(2)イ(ウ)で指摘したとおりの記載があるところ、上記1(2)イ(ウ)で述べたのと同様に、仮に、二相ステンレス鋼の冷帯に関する甲2発明において、甲5の上記記載に基づいて、Agを0.01~0.5mass%程度添加した上で、Crリッチ相とFeリッチ相に相分離するスピノーダル分解が進行する温度範囲で磁場を印加する処理を行う動機付けがあったとしても、本件発明1は、2相ステンレス鋼において、Agを0.01~0.50%添加することで優れた耐孔食性が得られるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものであるから、甲2発明において、甲5の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(エ)甲6、7には、上記1(2)イ(エ)で指摘したとおりの記載があるところ、上記1(2)イ(エ)で述べたのと同様に、甲2発明は、二相ステンレス鋼の冷帯に関するものであり、甲6、7に記載のフェライト系ステンレス鋼とは、いずれもステンレス鋼であるとはいえ、その種類が異なるものであるから、二相ステンレス鋼の冷帯に関する甲2発明において、フェライト系ステンレス鋼に関する甲6、7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることが動機付けられるとはいえない。
以上によれば、甲2発明において、甲6、7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(オ)以上のとおり、甲2発明において、甲4~7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、甲2発明についても、上記1(2)ウと同様に主張するが、上記1(2)ウで述べたのと同様の理由により、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲2に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、3についても同様に、甲2に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲2に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(進歩性)
(1)甲3に記載された発明
甲3の記載(請求項1、【0010】、【0011】、【0058】~【0068】)によれば、特に、請求項1の記載を前提として、鋼No.15(表3)の熱延焼鈍板(【0058】、【0059】)に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.019%、Si:0.58%、Mn:0.58%、P:0.025%、S:0.0028%、Al:0.002%、N:0.195%、Ni:6.55%、Cr:25.04%、Mo:2.76%、B:0.0010%、Ca:0.0014%、W:0.14%、Cu:0.02%、O:0.0063%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する二相ステンレス鋼の熱延焼鈍板であって、
(1)式の左辺が0.020であり、上記PおよびBが(1)式を満たし、
(2)式の左辺が329.1であり、上記Si,Mn,Ni,Cr,Mo,NおよびBが(2)式を満たす二相ステンレス鋼の熱延焼鈍板。
%P-10%B+0.005≧0 ・・・(1)
5%Si+30%Mn+10%Ni+7%Cr+30%Mo-50%N-5000%B<355 ・・・(2)」(以下、「甲3発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「二相ステンレス鋼の熱延焼鈍板」は、本件発明1における「2相ステンレス鋼」に相当する。
本件発明1における2相ステンレス鋼の化学組成と、甲3発明における二相ステンレス鋼の成分組成とは、少なくとも、Cr、Mo、Ni、N、C、Si、Mn、Al、O、P、S、W、Cuを含有する点で共通し、上記各成分の含有量も重複一致する。
以上によれば、本件発明1と甲3発明とは、
「質量%で、
Cr:21.0~27.0%未満、
Mo:2.50~5.00%、
Ni:4.50~8.00%、
N:0.080~0.400%、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:2.00%以下、
sol.Al:0.040%以下、
O:0.010%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0300%以下、
W:0~2.50%、
Cu:0~0.80%、及び、
Fe及び不純物を含有する化学組成を有する、2相ステンレス鋼。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3-1
2相ステンレス鋼の化学組成が、本件発明1では、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有するものであるのに対して、甲3発明では、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有するものではない点。
・相違点3-2
2相ステンレス鋼の化学組成が、本件発明1では、さらに「V:0.50%以下」を含有し、「残部はFe及び不純物からなる」ものであるのに対して、甲3発明では、「V:0.50%以下」を含有するものではなく、さらに「B:0.0010%」、「Ca:0.0014%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からなる」ものである点。
イ 相違点3-1の検討
(ア)甲3には、二相ステンレス鋼がAgを含有することについては、記載されていない。甲3には、甲3発明において、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることを動機付ける記載は見当たらない。
(イ)甲4には、上記1(2)イ(イ)で指摘したとおりの記載があるところ、甲4に記載されたFe基合金は、上記1(2)イ(イ)で述べたとおり、そもそも、「2相ステンレス鋼」とはいえないものであるから、二相ステンレス鋼の熱延焼鈍板に関する甲3発明において、上記のようなFe基合金に関する甲4の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることが動機付けられるとはいえない。
以上によれば、甲3発明において、甲4の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(ウ)甲5には、上記1(2)イ(ウ)で指摘したとおりの記載があるところ、上記1(2)イ(ウ)で述べたのと同様に、仮に、二相ステンレス鋼の熱延焼鈍板に関する甲3発明において、甲5の上記記載に基づいて、Agを0.01~0.5mass%程度添加した上で、Crリッチ相とFeリッチ相に相分離するスピノーダル分解が進行する温度範囲で磁場を印加する処理を行う動機付けがあったとしても、本件発明1は、2相ステンレス鋼において、Agを0.01~0.50%添加することで優れた耐孔食性が得られるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものであるから、甲3発明において、甲5の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(エ)甲6、7には、上記1(2)イ(エ)で指摘したとおりの記載があるところ、上記1(2)イ(エ)で述べたのと同様に、甲3発明は、二相ステンレス鋼の熱延焼鈍板に関するものであり、甲6、7に記載のフェライト系ステンレス鋼とは、いずれもステンレス鋼であるとはいえ、その種類が異なるものであるから、二相ステンレス鋼の熱延焼鈍板に関する甲3発明において、フェライト系ステンレス鋼に関する甲6、7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることが動機付けられるとはいえない。
以上によれば、甲3発明において、甲6、7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(オ)以上のとおり、甲3発明において、甲4~7の記載に基づいて、さらに「Ag:0.01~0.50%」を含有させることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、甲3発明についても、上記1(2)ウと同様に主張するが、上記1(2)ウで述べたのと同様の理由により、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲3に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、3についても同様に、甲3に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲3に記載された発明及び甲4~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由3(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701016