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特許異議申立

2023-700985

積層体、包装材、及び梱包体

審判番号
2023-700985
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-118599外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7243905
請求日
2023年09月19日
審決日
2024年05月31日
公報発行日
2024年09月27日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7243905号発明「積層体、包装材、及び梱包体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7243905号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7243905号の請求項1~10に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第7243905号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和4年7月26日(優先権主張 令和3年7年28日)の出願であって、令和5年3月13日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和5年3月22日発行)がされ、その後、その特許について、令和5年9月19日に特許異議申立人飯田進(以下「申立人1」という。)により、同じく9月21日に特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人2」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和5年12月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和6年2月19日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、この本件訂正請求について、令和6年4月5日に申立人1より意見書が提出されたものである。なお、申立人2から意見書は提出されなかった。

第2 本件訂正請求について

1.訂正の内容

本件訂正請求は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「無機酸化物層」とあるのを、「酸化アルミニウム層」に訂正する。

(2)訂正事項2

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「無機酸化物層」とあるのを、「酸化アルミニウム層」に訂正する。

(3)訂正事項3

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「無機酸化物層」とあるのを、「酸化アルミニウム層」に訂正する。

(4)訂正事項4

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「無機酸化物層」とあるのを、「酸化アルミニウム層」に訂正する。

(5)一群の請求項について

訂正前の請求項2~10は請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

2.訂正の適否

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、無機酸化物について「酸化アルミニウム」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

本件特許の明細書の【0083】には、無機酸化物として酸化アルミニウムが例示されており、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてするものである。

また、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2~4について

訂正事項2~4も、訂正事項1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、その訂正は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.訂正についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

よって、本件訂正後の請求項〔1~10〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明

上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、それらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂フィルムと酸化アルミニウム層を有する積層体であって、水蒸気透過率が3.0g/m2/day未満であり、前記酸化アルミニウム層の剥離力が0.7N/15mm以上であり、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことを特徴とする、積層体。
【請求項2】
主配向軸方向の145℃におけるtanδが0.25以下である、請求項1に記載の積層体。
続きを表示(全20行)
【請求項3】
前記酸化アルミニウム層が、前記ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に直接接している、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記酸化アルミニウム層の表面のSt値が700nm以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記酸化アルミニウム層の表面のSku値が300以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項6】
主配向軸方向のF5値をF5(x)、主配向軸直交方向のF5値をF5(y)とした際、F5(x)/F5(y)が1.3以上5.0以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項7】
酸素透過率が60cc/m2/day以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項8】
包装材に用いられる、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1または2に記載の積層体を有する、包装材。
【請求項10】
請求項9に記載の包装材により内容物が梱包されている、梱包体。」

第4 当審の判断

1.特許権者に通知した取消理由について

(1)特許権者に令和5年12月20日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。

(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

ア 実施例に記載されたAlOx以外の無機酸化物について

本件特許の発明の詳細な説明には、「ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層を有する積層体」の無機酸化物層を、AlOx以外の材料とした場合に、「水蒸気透過率が3.0g/m2/day未満」、「前記無機酸化物層の剥離力が0.7N/15mm以上」及び「SF145℃-SF121℃≦2.50MPa」を満たすこと、及び、「高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途に好適に用いることができる積層体を提供(【0007】)」できることが、記載も示唆もされていない。また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できるものともいえない。

よって、無機酸化物層にAlOx以外の材料を用いるものを含み得る本件発明1により、本件発明が解決しようとする課題を解決できるとは認識し得ない。

イ SiOxについて

本件特許の発明の詳細な説明の【0003】に、「具体的には、例えば特許文献2には、ポリプロピレンフィルムの上に、ポリエステル系ポルウレタン樹脂をベースとしたアンダーコート層を設け、その上にAlOxもしくはSiOxの透明蒸着層を設けることにより、密着性を強化した積層ポリプロピレンフィルムが記載されている。」と記載されるが、【0004】に、「しかしながら、特許文献2の積層ポリプロピレンフィルムは高温における耐熱性が不足しており、高温環境下での後加工工程において水蒸気バリア性が損なわれやすいという問題がある。・・(中略)・・すなわち、特許文献2や3の積層ポリプロピレンフィルムには、高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途へ適用が困難であるという課題があった。」と記載されている。更に、本件特許の発明の詳細な説明の【0113】~【0125】、【0128】~【0129】には、実施例1~10の無機酸化物層にAlOxのみが用いられているものが記載されている。

したがって、無機酸化物層にSiOxを用いることを含み得る本件発明1により、本件発明が解決しようとする課題を解決できるとは認識し得ない。

ウ AlOxとSiOxの二元蒸着について

本件特許の発明の詳細な説明の【0006】には、「また、特許文献3の積層ポリプロピレンフィルムにおいては、AlOxとSiOxの二元蒸着の場合は蒸着層が厚くなり、クラックや層間剥離が生じやすい点も問題となる。すなわち、特許文献2や3の積層ポリプロピレンフィルムには、高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途へ適用が困難であるという課題があった。」と記載されている。更に、本件特許の発明の詳細な説明の【0113】~【0125】、【0128】~【0129】には、実施例1~10においては無機酸化物層にAlOxのみが用いられている一方、無機酸化物層にAlOxとSiOxの二元蒸着がされているものについては、比較例1に「水蒸気透過率が3.0g/m2/day未満」及び「前記無機酸化物層の剥離力が0.7N/15mm以上」を満たさず、ヒートシール性及び長期保管時の寸法安定性がいずれも×であるものが記載されている。

したがって、無機酸化物層にAlOxとSiOxの二元蒸着がされているものを含み得る本件発明1により、本件発明が解決しようとする課題を解決できるとは認識し得ない。

エ 本件発明2~10についても同様である。

(2)取消理由についての判断

ア 本件訂正により、請求項1の無機酸化物について「酸化アルミニウム」に限定され、「AlOx以外の無機酸化物」、「SiOx」及び「AlOxとSiOxの二元蒸着」は含まないものとなったことから、令和5年12月20日付けで通知した取消理由は解消した。

イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途に好適に用いることができる積層体を提供すること」(【0007】)である。

ウ 本件特許の発明の詳細な説明には、上記課題の解決につき、次の記載がある。

(ア)「本発明の積層体は、ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層を有する。」(【0011】)

(イ)「この無機酸化物層は、主に積層体の水蒸気バリア性を高める役割を担う。周期表の2族から14族(ただし炭素を除く)より選ばれる元素の中でも加工コストやガスバリア性の観点から、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、及びケイ素より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、アルミニウム、ケイ素より選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、アルミニウムであることがさらに好ましい。」(【0012】)

(ウ)「本発明の積層体は、湿気の影響を軽減する特性が求められる用途への適用の観点から、水蒸気透過率が3.0g/m2/day未満であることが重要である。水蒸気透過率を3.0g/m2/day未満とすることで、例えば、積層体を包装材料用に用いる際に、内容物が吸湿して劣化するのを軽減することができる。」(【0014】)

(エ)「また、本発明の積層体は、無機酸化物層の剥離力が0.7N/15mm以上であることが重要である。無機酸化物層の剥離力は、ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層の剥離強度のことであり、無機酸化物層を積層した側の面に接着剤でポリプロピレンフィルムをラミネートし、これを剥離することにより測定することができる。詳細な測定方法は後述する。無機酸化物層の剥離力を0.7N/15mm以上とすることで、製袋加工時や搬送時にポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層が自然剥離し、水蒸気バリア性が低下するのを防ぐことができる。そのため、本発明の積層体を包装材料用途に用いる際の信頼性が向上する。」(【0016】)

(オ)実施例1~10は、いずれも無機酸化物層がAlOxであり、水蒸気透過率の評価は良好である。他方、比較例1はAlOxとSiOxの二元蒸着であるが、水蒸気透過率は3.0g/m2/dayを超える結果である。

エ 上記ウの記載からみて、本件訂正後の請求項1~10に係る発明は、発明の詳細な説明において、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

オ 申立人1は、令和6年4月5日の意見書において、本件特許の明細書の【背景技術】の項からみて、「包装材として使用する積層体にはリサイクル性の向上という技術課題が存在しています。しかし、実施例7として記載の積層体では、ポリプロピレン系樹脂フィルムと酸化アルミニウム層の積層において、樹脂フィルムのコロナ放電処理及びイオンビーム処理に代えて、樹脂フィルムにアンダーコート層を積層した後に酸化アルミニウム層を形成させているところ、このようにして得られた積層体のリサイクル性の評価は、「×:薄膜サンプル中に異物が見られた」となっています。」「すなわち、訂正後の請求項1で特定される構成を満たす場合であっても、積層体のポリプロピレン系樹脂フィルムと酸化アルミニウム層の間にアンダーコート層が存在する場合には、リサイクル性の向上という課題を解決することができないと思料いたします。」「したがって、訂正後の本件特許の請求項1、2及び4~10に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たしていない特許出願に対してされたものと思料いたします。」と主張する。

しかし、上記イのとおり、本件発明の解決しようとする課題は「高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途に好適に用いることができる積層体を提供すること」であり、この課題は、上記ウ、エで述べたように、当業者は、本件訂正後の請求項1~10に係る発明により解決し得ると認識できるものであるから、申立人の上記主張は採用できない。

カ よって、本件発明1~10は、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たすものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものではない。

2.取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(1)申立人1の進歩性の申立理由

ア 申立人1は、次の甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲1」~「甲4」という。)を提出し、本件発明1~10は、甲1~甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである旨主張する。

甲1:特開2004-168040号公報
甲2:国際公開第2015/111572号
甲3:特開2015-174270号公報
甲4:特開2018-1521号公報

イ 甲1には、次の「甲1発明」が記載されている。(【請求項1】、【0103】、【0115】、【0116】、【0118】)

「230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)の関係が、次式(1)
log(MS)>-0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含み、かつ、極性基を実質的に含まない石油樹脂が混合された二軸延伸ポリプロピレンフィルムからなる基層の少なくとも片面に、不完全酸化アルミニウム層が設置されている金属蒸着二軸延伸ポリプロピレンフィルムである積層体であって、水蒸気透過率が1g/m2/d以下であり、前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムと前記不完全酸化アルミニウム層との剥離強度が0.5N/cm以上である、積層体。」

ウ 本件発明1と甲1発明を対比する。

甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルムからなる基層」は、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂フィルム」に相当する。

甲1発明の「不完全酸化アルミニウム層」と本件発明1の「酸化アルミニウム層」とは、「蒸着層」という限りで一致する。

甲1発明の「水蒸気透過率が1g/m2/d以下」であることは、本件発明1の「水蒸気透過率が3.0g/m2/day未満」であることに相当する。

甲1発明の「前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムと前記不完全酸化アルミニウム層との剥離強度が0.5N/cm以上」であることは、15mmあたりに換算すると0.75N以上となるので、本件発明1の「前記酸化アルミニウム層の剥離力が0.7N/15mm以上」であることと、「蒸着層の剥離力が0.7N/15mm以上」である限りで一致するものである。

そして、甲1発明の「積層体」は、本件発明1の「積層体」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「ポリプロピレン系樹脂フィルムと蒸着層を有する積層体であって、水蒸気透過率が3.0g/m2/day未満であり、蒸着層の剥離力が0.7N/15mm以上である、積層体」で一致し、次の相違点で相違する。

《相違点1》

蒸着層に関し、本件発明1が、「酸化アルミニウム層」であるのに対し、甲1発明は「不完全酸化アルミニウム層」である点。

《相違点2》

本件発明1が、「熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たす」のに対し、

甲1発明の積層体は、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすか否か不明である点。

エ 事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。

甲1の積層体が、「熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たす」ものと判断する根拠はない。また、甲1には、加熱時の収縮応力に着目する記載はなく、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすようにすることは当業者といえども想到することはない。さらに、甲2~甲4にも記載されていない。

よって、本件発明1の上記相違点2に係る構成は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではないから、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件発明2~10についても同様である。

オ 申立人1は、「甲1発明の基層に用いる二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、熱収縮率が小さく、寸法安定性が良好なものが望まれる旨が甲1に記載されているところ、甲1発明のフィルムの製造方法は、本件特許明細書等で「SF145℃-SF121℃≦2.50MPa」を満たすための手段として記載された、フィルムをテンターで延伸する際の熱処理温度や延伸後の弛緩率を満たし、また、石油樹脂も特定の量を配合しており、さらに、得られたフィルムは寸法安定性に優れるものであったことから、甲1発明の積層体は、本件発明1で定義されるSF121℃及びSF145℃を測定した場合に、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たす蓋然性が高い。」(特許異議申立書28頁)と主張する。

しかし、甲1に記載された二軸延伸ポリプロピレンフィルムの樹脂組成物(参考例1~5)は、本件特許明細書等に記載された実施例1~10のものと同じではなく、製造方法が同じであるという理由のみで、加熱時の収縮応力が同じになるという技術常識もないから、甲1発明の積層体が、加熱時の収縮応力を規定する「SF145℃-SF121℃≦2.50MPa」を満たすとは判断できない。

カ 申立人1は、令和6年4月5日の意見書に添付して参考資料1(特開平9-290477号公報)を提出し、「参考資料1には、これらのバリア性フィルムの酸化アルミニウム層の剥離力及び熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃は記載されていません。しかし、これらのバリア性フィルムは、ガスバリア性や水蒸気バリア性に優れ、OPP基材との密着性の良いことが、具体的なデータにより示されていますので、これらのバリア性フィルムの酸化アルミニウム層の剥離力及びSF145℃-SF121℃の値は、訂正後の請求項1で特定する範囲内のものであると思料いたします。」(意見書6頁)とも主張する。

しかし、この参考資料1についても、加熱時の収縮応力に着目する記載はなく、ガスバリア性や水蒸気バリア性に優れ、OPP基材との密着性が良いという理由のみで、加熱時の収縮応力を規定する「SF145℃-SF121℃≦2.50MPa」を満たすとは判断できない。

キ 以上より、申立人1の進歩性の申立理由は採用できない。

(2)申立人2の実施可能要件の申立理由

ア 申立人2は、本件特許には、「SF145℃-SF121℃≦2.50MPa」を満足するための達成手段として、「ポリプロピレン系樹脂フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂組成物の分子量分布Mz/Mwを1.5以上4.5以下とする方法と、対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値を1.0%以上10%以下とする方法が記載されている(【0022】)ものの、分子量分布Mz/Mwを所定範囲内にする方法については、水素ガス濃度の範囲や触媒及び助触媒の種類、組成について記載されておらず、どのような重合方法を選定するのか記載されていない旨、また、対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値を1.0%以上10%以下とする方法については、何ら記載されていない旨(特許異議申立書11頁13行~12頁5行)主張する。

しかし、本件特許明細書等の【0109】に記載されるように、多様なポリプロピレン系樹脂の中から、分子量分布Mz/Mwと対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値について、所定範囲内のものを、適宜、選択することができ、「SF145℃-SF121℃≦2.50MPa」を満たす積層体を製造(生産)することができるものといえる。

イ 申立人2は、本件特許の実施例には、使用する樹脂をどのようにして得たのかが何ら記載されていない(特許異議申立書12頁6~7行)とも主張する。

しかし、本件特許明細書等の【0109】には、各ポリプロピレン系樹脂について、融点、MFR、Log(M)=6.5のときの微分分布値及びMz/Mwが明記されており、当業者であれば、これらの数値を参考に、市販のポリプロピレン系樹脂の中から選択することができ、本件発明の積層体を製造(生産)することができるものといえる。

ウ よって、上記ア及びイより、実施に際して過度の試行錯誤を要するとはいえず、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、申立人2の実施可能要件の申立理由は採用できない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本件発明1~10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2023-700985

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