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特許異議申立

2023-700983

ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物

審判番号
2023-700983
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-074100
登録番号
7273597
請求日
2023年09月15日
審決日
2024年07月30日
公報発行日
2024年11月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】協同油脂株式会社
  • 【権利者代理人】田中 伸一郎
  • 【権利者代理人】須田 洋之
  • 【権利者代理人】山崎 一夫
  • 【権利者代理人】市川 さつき
  • 【権利者代理人】服部 博信
  • 【権利者代理人】松田 七重
  • 【異議申立人】鈴木 憲治
審判長/審判官
  • 審判長 村守 宏文
  • 審判官 瀬下 浩一
  • 審判官 光本 美奈子
分類
P1651.113-YAA(C10M) / P1651.121-YAA(C10M) / P1651.537-YAA(C10M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第126条第7項
データ出所
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特許第7273597号発明「ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7273597号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第7273597号の請求項1-4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許に係る出願は、平成31年4月9日の出願であって、令和5年5月2日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行され、その後、同年9月15日に鈴木 憲治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、当審は、令和6年1月30日付けで取消理由を通知し、特許権者は、取消理由通知の指定期間内である同年4月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行い、当審は、特許権者から訂正請求があったことを、同年同月16日付けで特許異議申立人に通知し、それに対して、特許異議申立人は何ら応答しなかったものである。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 本件訂正は、以下の訂正事項1からなる。訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において「前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物であり」と記載されているのを、「前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物のみからなり」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する)。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1において「前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物であり」と記載されているのを、「前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物のみからなり」と訂正するものである。 前記訂正事項は、訂正前の請求項1における「前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物であり」との記載を、「前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物のみからなり」と訂正することにより、グリース組成物に含まれる増ちょう剤が、式(I)で表されるジウレア化合物のみを含むことを明確にするものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、上記のとおり、グリース組成物に含まれる増ちょう剤が、式(I)で表されるジウレア化合物のみを含むことを明確にするものであるから、技術的範囲を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 新規事項の有無 訂正事項1は、上記のとおり、グリース組成物に含まれる増ちょう剤が、式(I)で表されるジウレア化合物のみを含むことを明確にするものに過ぎないことに加えて、特許掲載公報の明細書段落[0008]においても、「本発明のグリース組成物に含まれる増ちょう剤が、式(I)で表される脂肪族ジウレア化合物のみであると、低トルクおよびトルク変動の低減性に優れるので好ましい。」として、グリース組成物に含まれる増ちょう剤が式(I)で表されるジウレア化合物のみを含むことが記載されている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件 本件特許異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項1~4について特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (2)一群の請求項について 訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 このように、本件訂正は、一群の請求項である訂正前の請求項1~4についてされたものであるから、特許法120条の5第4項の規定に適合するといえる。 3 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~4に係る発明は、令和6年4月2日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」等、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。 「【請求項1】 増ちょう剤及び基油を含有するラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物であって、 ボールねじを構成する要素はいずれも鋼であり、 前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物のみからなり、 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。) 前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり、 混和ちょう度が265~385であり、 但し、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーのいずれも含まない、前記グリース組成物。 【請求項2】 前記増ちょう剤が、式中、R1およびR3が互いに異なる炭素数の直鎖アルキル基であるジウレア化合物である、請求項1記載のグリース組成物。 【請求項3】 前記増ちょう剤が、式中、R1およびR3のいずれか一方がオクチル基であり、他方がステアリル基である、請求項1又は2記載のグリース組成物。 【請求項4】 前記基油が、ポリαオレフィンを含有する、請求項1~3のいずれか1項記載のグリース組成物。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 令和6年1月30日付けで通知した取消理由の概要は、次の理由1~4である。 理由1(新規性)本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 理由2(進歩性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2006-306275号公報 甲第2号証:特開2006-307023号公報 甲第3号証:特開2012-172066号公報 甲第6号証:特開2004-237924号公報 甲第7号証:特開2004-243945号公報 第5 前記第4の理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について 1 甲号証について 甲第1号証~甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証は前記第4のとおり。 2 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。) 1a「【請求項1】 増ちょう剤として、 (a)平均分子量500~750の脂肪族ジウレア化合物で、その直鎖状炭化水素基の内10~70モル%が不飽和成分であり、且つ、原料となる1級アミンの全アミン価が200~400の範囲であるジウレア化合物、 (b)脂肪酸金属塩、 (c)一般式(I)~(II)に示される脂肪族アミドおよび脂肪族ビスアミドよりなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のアミド化合物 R1CONH2 (I) R1CONHR2NHCOR1 (II) (但し、R1は炭素数15~17の飽和または不飽和のアルキル基を示し、R2はメチレン基またはエチレン基を示す。) の混合物からなり、 (a)および(b)ならびに(c)の配合比率は a/(b+c)=0.2~10の関係にあり、それぞれ (1)(a)成分が1~10の配合比、 (2)(b)成分が0.5~2.5の配合比、 (3)(c)成分が0.5~2.5の配合比、 である混合増ちょう剤が全体量の2~30重量%、 (d)基油として、流動点が-25℃以下で、且つ主成分が合成炭化水素油である潤滑基油、 (e)添加剤として、有機モリブデン錯体、ジチオカルバミン酸の有機亜鉛化合物、ジチオリン酸の有機亜鉛化合物からなる混合物を、全体量の1~7重量%配合した潤滑グリース組成物を用いたことを特徴とする転動装置。 【請求項2】 前記転動装置がボールねじ機構であることを特徴とする請求項1記載の転動装置。 【請求項3】 前記転動装置が転がり軸受けであることを特徴とする請求項1記載の転動装置。 【請求項4】 前記転がり軸受けがボールの転がりを利用した玉軸受けであることを特徴とする請求項3記載の転動装置。 【請求項5】 請求項1~4のいずれか1項に記載の転動装置を用いたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。」 1b「【0008】 ・・・ このときに発生するステアリングを構成している個々の部品の摩擦とは、例えば、特許文献1の図2に記載されるシールドベアリング33や34の摺動部、およびラック軸15の歯面とピニオン軸22の歯面との接触部、または、ボールねじ溝15bとボールねじ溝38Aの間に介在するボールベアリング39との間の摺動部などが挙げられる。 ・・・ 【0009】 ・・・ 本発明に係る電動パワーステアリング装置は、特許文献1に開示されている添付図の装置、即ちボールねじ機構37とベアリング33および34の転がり軸受けから構成されるラックアシスト式電動パワーステアリング装置であるが、本装置はラック軸に連結されたボールねじにて軸方向の動力をアシストするものである。このボールねじ機構は、工作機械等に装着されているボールねじ機構に近似している事から、従来この部位の潤滑グリースは、これらの工作機械で頻繁に用いられているリチウム系グリースが使用されていた。 また、ラックアシスト式電動パワーステアリング装置として、特許文献1に開示されているものは電動モーターをラック軸と同軸に配置したものであるが、電動モーターがラック軸と同軸でなく平行に配置されたタイプ(例えば特許文献13)、電動モーターとラック軸とが軸心を交差させるように配置されたタイプ(例えば特許文献14)もある。これらのタイプのものは、電動モーターとボールねじ機構(ボールねじナット)とが歯車機構やベルト等の伝動手段で連結されている。 ・・・ 【0010】 【特許文献1】 特開2003-335249号公報 ・・・ 【0011】 本発明は、転がり滑り摩擦面にて発生する不整な摩擦変動を大幅に縮減し、また広い温度範囲で低く安定したトルク特性を示し、更に、高温においても十分な油膜を維持できる長寿命の新規な増ちょう剤配合と特定の基油と添加剤組成を用いた潤滑グリース組成物を用いた転動装置および電動パワーステアリング装置に関するものである。」 1c「【0016】 本発明における(d)成分である合成炭化水素油としては、ポリα-オレフィンやポリブテンおよびエチレンとα-オレフィンのコオリゴマー等があり、何れも流動点が-25℃以下のものが本装置において最適な効果を発揮する。-25℃より高い流動点である潤滑油をグリースに用いると、グリースそのものの粘弾性が強くなり、本装置において低温での所定のトルク特性が得られなくなる。 ・・・」 1d「【実施例】 【0020】 以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。 【0021】 実施例1~4 表1に示す配合割合にてグリース試料の試作製造を行った。 その方法は、密閉式グリース試作装置に基油とジイソシアネートとを張り込み、攪拌しながら60℃まで加熱し、各種アミンと基油を混合溶解した原料をホッパーより加え反応させた。更に攪拌しながら170℃まで加熱し30分間保持し反応を完結させた。その後速やかに冷却し、その冷却工程中にて、表1に示す配合割合の脂肪酸金属塩とアミド化合物を攪拌混合し80℃まで冷却した。更に表1に示す配合割合にて添加剤を添加し、最後に酸化防止剤として、オクチルジフェニルアミンをそれぞれ1.0%外割にて添加した。約60℃まで放冷後、ホモジナイザーにて処理してグリースを得た。 ・・・ 【0023】 表1~表2に示す(a)ジウレア化合物の原料であるジイソシアネートとは分子量250で以下の化学構造のものである。 【化1】 [図:0001416464000001.jpg] アミンAは、炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)。 アミンBは、炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)。 アミンCは、炭素数18の不飽和アルキル基が約50%ならびに炭素数18から炭素数14の飽和もしくは不飽和アルキル基を含有する平均分子量255の直鎖状一級アミン(工業用牛脂アミン)。 アミンDは、炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)。 (b)の脂肪酸金属塩については、 脂肪酸金属塩Aは、12-ヒドロキシステアリン酸のリチウム塩である。 脂肪酸金属塩Bは、ステアリン酸のリチウム塩である。 脂肪酸金属塩Cは、ステアリン酸のカルシウム塩である。 脂肪酸金属塩Dは、ステアリン酸のアルミニウム塩である。 (c)のアマイド化合物については、 アミドAは、N,N′エチレンビスステアリルアミドである。 アミドBは、ステアリルアミドである。 また、実施例及び比較例に示す鉱油の40℃の動粘度は、101.5mm2/sで流動点は-15℃であり、合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)の40℃の動粘度は、14.94mm2/sで流動点は-67.7℃である。また、合成炭化水素油B(CASNo.68037-01-4)の40℃の動粘度は、396.2mm2/sで流動点は-36℃である。 添加剤Aは、有機モリブテン錯体で特公平5-66435号公報に記載されている油溶解性有機モリブテン化合物、 添加剤Bは、1級Zn-DTP(プライマリーZnジチオホスフェート)、 添加剤Cは、Zn-DTC(Znジチオカーバメート)、 【0024】 各表の実施例と比較例の性状は、次の試験方法に従い株式会社エス・ブイ・シー東京へ委託して行った。 ちょう度:JIS K2220 滴点 :JIS K2220 離油度 :JIS K2220B法で、条件は100℃、24時間である。 【0025】 これら実験結果から、以下のことが明らかとなった。 (1)本発明の潤滑グリースを用いた電動パワーステアリング装置は、転がり滑り摩擦面にて発生する不整な摩擦変動が大幅に縮減し安定したトルク特性を示した。 (2)本発明の潤滑グリースを用いた電動パワーステアリング装置は、広い温度範囲で低く安定したトルク特性を示した。 (3)本発明の潤滑グリースを用いた電動パワーステアリング装置は、高温での寿命も非常に長い。 本発明を適用する電動パワーステアリング装置としては、例えば特開2003-335249号公報に記載されたようなものがある。このものの構成は同公報に記載されたとおりであり、主たる構成として、同公報の図2に示されるように、車輪に連結されたラックシャフト15、このラックシャフト15を包囲するように配置された電動モーター30、前記ラックシャフト15の外周面に設けられたボールねじ溝15Bおよび前記電動モーター30のモータシャフト32の一端に装着されたボールねじナット38からなるボールねじ機構37を備えている。この構成において、ボールねじ機構37ならびに前記モータシャフト32の両端を支持するベアリング33および34が転動装置であり、中でもベアリング33および34が転がり軸受け、より詳細にはボールの転がりを利用した玉軸受けである。 この電動パワーステアリング装置の転動装置に前記実施例、比較例のグリースを潤滑剤として用いた試料を用意し、これら試料の性能比較を次の試験方法に従って行った。 【0026】 1.ハンドルひっかかり試験 運転者がハンドルを操作する(操舵する)際、前記ステアリング装置の転動装置、特にボールネジ機構において摩擦が不整に変動する部位が生じていると、ハンドル操作の途中で操舵トルクが突出する領域が現れ、ハンドルがひっかかるような違和感を運転者が感じ取り不快な感覚としておぼえることがある。そこで、この試験においては、常温下で、電動パワーステアリング装置にてハンドル操作を行い、その際の操舵トルクの変動を測定した。 具体的には、電動パワーステアリング装置に対して、左操舵エンドから右操舵エンドまで操舵した後、左操舵エンドまで戻るハンドル操作を行い、その際の負荷トルクを測定する。そして、測定されたトルクの平均値(平均トルク値)、この平均トルク値に対して所定以上、突出したトルクが測定された場合の突出量(突出トルク値)を求め、突出トルク値が出現した回数(突出トルク出現頻度)を比較評価(相対評価)した。実施例1~4のグリースは、比較例2~3に比較して何れも突出トルク出現頻度が低く安定した結果であった。 したがって、実施例のグリースを転動装置、特にボールねじ機構に用いることにより、工作機械などの転動装置においては安定したスムーズな作動性が期待でき、また、この転動装置を用いた電動パワーステアリング装置においては、運転者がハンドルを操作する(操舵する)際、ハンドルがひっかかるような違和感を殆ど覚えず、スムーズで快適な操舵感を与えられる。 【0027】 2.低温~常温性能試験 低温域においてグリースの粘度が上昇すると、前記転動装置、特にボールネジ機構にかかるプレロードが上昇し、操舵フィーリングを損ねる(ハンドルが重くなり、特に、いわゆる「ハンドル戻り」性が悪化する)ことがある。そこで、実施例および比較例のグリースを用いた転動装置を適用した電動パワーステアリング装置を、電動モーターを作動させない状態、つまりパワーアシストを行わない状態に設定し、この状態にてハンドルを所定角度、回転させるのに要するハンドルトルクを測定し、その測定値(プレロード)を比較評価した。 その結果、実施例1~4のグリースは、比較例4のグリースに較べて、常温(25℃)から低温(-20℃)まで良好な性能を示した。したがって、実施例のグリースを転動装置、特にボールネジ機構に用いることにより、低く安定したトルク特性を示す転動装置が得られる。また、この転動装置を用いた電動パワーステアリング装置によれば、エンジン 始動直後の暖機がされていない状況下や厳寒の地においても良好な操舵フィーリングが得られ、特に、いわゆる「ハンドル戻り」が円滑に行われることで、本グリースの優位性が示される。 【0028】 3.耐久性能試験 高温域においてグリースの粘度が低下すると、前記転動装置においてグリースによって生成されるべき油膜がほとんど消失した状態(油膜切れ)が生じることがある。また、長期使用によるグリースの劣化、消耗によっても、油膜切れは起きる。この油膜切れにより、転動装置における円滑な潤滑が阻害されて操舵フィーリングが損なわれるばかりか、焼き付き(固化)が発生するに至ると、最悪の場合、転動装置が破損することも考えられる。そこで、この試験においては、実使用を模擬した耐久試験を行った。 具体的には、特開2003-335249号公報に示される電動パワーステアリング装置の転動部に潤滑グリースを充填し、実用条件に見合う以上の一定の負荷を加えながら正転および逆転動作を12万回繰り返し、装置の作動状態の変化や試験後の各種ベアリングやボールネジ機構の表面状態や損傷の有無ならびにグリースの状態を確認し、耐久性能を比較評価した。 その結果、実施例1~4のグリースを用いることにより満足した耐久性能が得られることがわかった。したがって、本発明のグリースを転動装置や電動パワーステアリング装置に用いることにより、油膜切れや焼き付き等が発生しにくく、長期使用によっても高い信頼性を維持できる転動装置および電動パワーステアリング装置が得られる。 【0029】 【表1】 [図:0001416464000002.jpg] 」 (2)甲2号証(以下、「甲2」という。) 2a「【請求項1】 増ちょう剤成分として (a)ウレア系化合物、 (b)脂肪酸金属塩、 (c)一般式(I)~(II)に示される脂肪族アミドおよび脂肪族ビスアミドよりなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のアミド化合物 R1CONH2 ………………(I) R1CONHR2NHCOR1………(II) (但し、R1は炭素数15~17の飽和または不飽和のアルキル基を示し、R2はメチレン基またはエチレン基を示す。) の混合物からなり、 (a)および(b)ならびに(c)の配合比率は a/(b+c)=0.20~10の関係にあり、それぞれ (1)(a)成分が1~10の配合比、 (2)(b)成分が0.5~2.5の配合比、 (3)(c)成分が0.5~2.5の配合比、 である混合増ちょう剤を全体量の2~30重量%混合せしめたことを特徴とする潤滑グリース組成物。 【請求項2】 (a)ウレア系化合物が、平均分子量500~1000のウレア系化合物であることを特徴とする請求項1記載の潤滑グリース組成物。 【請求項3】 (a)ウレア系化合物の直鎖状炭化水素基の10~70モル%が不飽和成分であり、且つ、原料となる1級アミンの全アミン価が200~500の範囲であるウレア系化合物を用いたことを特徴とする請求項2記載の潤滑グリース組成物。」 2b「【0001】 本発明は、機械の転がり滑りの摺動部において時折発生する不整な摩擦変動を大幅に縮減し、安定した摩擦特性と潤滑性を得ることが出来る新規な増ちょう剤を用いた潤滑グリース組成物に関するものである。 【背景技術】 【0002】 自動車産業を初めとして各種産業機械の摺動部ならびに回転部においては、何らかの潤滑基材が使われているが、中でもシール構造を簡略化でき、装置を小型でコンパクトにできるグリース潤滑方式を採用している機械は非常に多い。例えば回転体を支える各種ころがり軸受やすべり軸受を初め、送りネジ構造を有するすべりネジやボールネジ及び、直動構造を有するリニヤガイドや、リンク構造を有するボールジョイントならびに各種歯車等々、使用範囲は極めて広く、またその要求品質も年々向上し、要求される性能も高度になり且つ様々な仕様を付加した差別化を計った機械が多くなっている。 これらの機械の品質ならびに特性の向上は、設計で対応する部分も勿論多いが、摺動部においての作動状態や摩擦変動などの挙動は潤滑剤が大きく関係しており、円滑な作動状態や粘りある動き、または、人間が感覚的に感じる挙動などについては、潤滑剤の要素が非常に大きい。 【0003】 例えば、自動車のステアリング装置の場合は、操舵する際に運転者が感じ取る感覚が非常に重要で、軽すぎる場合は不安定感を感じ、重すぎる場合は操作性も悪化し運転者に不快な疲労感を与える。更に、ステアリングの操舵感は、直進時と蛇行時において同一のフィーリングであってはならず、直進時においての操舵が微動の状態では粘りのあるしっとりとした操舵感が自動車の直進安定性に寄与し運転者が安心する心地よい走行感を与える。 またステアリングを切り返して操舵する場合には、軽やかであり且つ安定した操舵感を与えるものでなければならない。 また、工作機械のXYテーブルなどは加工物を正確に精度よく仕上げるため、安定した作動性は極めて重要であり、油膜変動や油膜切れなどの摩擦現象を生じた場合は、工作物の品質の低下に繋がり加工精度の信頼性を損なう。 これ以外にも、自動車の冷却ファンの軸受やステアリング装置の各種歯車ならびに軸受およびラックガイドの摺動部、ボールジョイントやエアコンのコンプレッサーの軸受等があり、これらの自動車部品は、頻繁に稼動と停止を繰り返しているため、摩擦変動が起き易い潤滑環境にあると言える。また、建設機械のパワーショベルやブルドーザーのバケットピンや、旋回歯車、クレーンのブームの摺動部も同様に稼動と停止を繰り返しているため、摩擦変動が起き易い潤滑環境にある。更に、鉄鋼設備などのテーブルローラーは鋼材の通過時には回転し、通過後には回転が停止するなどを繰り返しており、また鍛造プレスのジャーナル軸受などもエキセン軸は材料を加工する時にのみクランクが稼動し、加工物をプレスする工程をとっているため、ここで使用される軸受は、常に作動、停止が繰り返し行われる条件にあるため、摩擦やトルク変動が起き易い環境と言える。 【0004】 これら、不整な摩擦変動が起きる要因としては、例えば転動体が存在しない工作機械のすべりネジや自動車のボールジョイント、鍛造プレスのジャーナル軸受などは、100%の相対すべりの環境にあり、グリースの供給や介入が不足したり、一定の潤滑膜が形成されない場合は摩擦変動が発生し、特に停止状態から運動状態に移行する過程でこの摩擦変動が起き易い。また、歯車装置なども、構造自体は異なるものの、歯面間の接触部位においては常に滑り摩擦が生じており、グリースの供給や介入が不足したり、介入したグリースの粘弾性が不足または低下した場合は、摩擦変動が発生し摩耗も多くなる。 また、転動体を介在する各種ころがり軸受やボールネジなどは、転動体が介在する軌道面の距離が内径と外径に差があることから、そこに介在するボールやコロ等の転動体と起動面の間ですべりが生じ、またリテーナーが存在しないボールネジ等に代表されるボールが複数配列された機構においては、介在する複数のボールがお互いに接触し回転することから、その接触面においては、相対すべりが生じ、また、正転から逆転に作動する過程において、ボールとボールの間隔にずれが生ずることでボールが整然と回転状態に移行するまでに時間的誤差が生じ、グリースの油膜や粘弾性が不足するとスティックスリップ等の摩擦変動が起き易い状況になる。 ・・・ 【0008】 本発明は、機械の転がり滑りの摺動部において時折発生する不整な摩擦変動を大幅に縮減し、安定した摩擦特性と潤滑性を得ることが出来る新規な増ちょう剤を用いた潤滑グリース組成物に関するものである。」 2c「【0016】 本発明における潤滑基油とは、一般的に潤滑油やグリースの基油として使用される潤滑基油であり、鉱物油、合成油、植物油が挙げられる。 合成油の具体例としては、α-オレフィンオリゴマーやポリブテン等のポリオレフィン、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ジ-2-エチルヘキシルセバケートやジ-2-エチルヘキシルアジペート等のジエステル、トリメチロールプロパンエステルやペンタエリスリトールエステル等のポリオールエステル、パーフルオロアルキルエーテル、シリコーン油、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、植物油の代表例としては、ひまし油や菜種油が挙げられる。 これら基油は、単独又は混合して使用することができる。 これら例示は本発明を何等限定するものではない。」 2d「【0019】 以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。 【0020】 実施例1~6 表1に示す配合割合にて、密閉式グリース試作装置に基油と各種イソシアネートとを張り込み、攪拌しながら60℃まで加熱し、各種アミン或いはステアリルアルコールを基油に混合溶解した原料をホッパーより加え反応させた。更に攪拌しながら170℃まで加熱し30分間保持し反応を完結させた。その後速やかに冷却し、その冷却工程中にて、表1に示す配合割合の脂肪酸金属塩とアミド化合物を攪拌混合し80℃まで冷却した。更に酸化防止剤として、オクチルジフェニルアミンをそれぞれ1.0%外割にて添加し、約60℃まで放冷後、ホモジナイザーにて処理してグリースを得た。また、実施例3~6のグリースについては、更に添加剤として有機モリブテン錯体1.5%、1級Znジチオホスフェート1.0%、Znジチオカーバメート1.0%を外割にて添加し供試グリースとした。 ・・・ 【0022】 【表1】 [図:0001416464000003.jpg] ・・・ 【0024】 表1~表2に示す(a)のウレア化合物の原料であるイソシアネートとは、 イソシアネートAは、トルレンジイソシアネートであり2.4異性体と2.6位異性体が80%:20%の混合割合のもので、分子量は174.16である。 イソシアネートBは、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネートで、分子量250.26である。 アミンAは、炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)。 アミンBは、炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)。 アミンCは、炭素数18の不飽和アルキル基が約50%ならびに炭素数18から炭素数14の飽和もしくは不飽和アルキル基を含有する平均分子量255の直鎖状一級アミン(工業用牛脂アミン)。 アミンDは、炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)。 アミンEは、エチレンジアミンである。 また、ウレタンを合成させるために用いる原料であるアルコールAとは、ステアリルアルコールである。 (b)の脂肪酸金属塩については、 脂肪酸金属塩Aは、12-ヒドロキシステアリン酸のリチウム塩である。 脂肪酸金属塩Bは、ステアリン酸のリチウム塩である。 脂肪酸金属塩Cは、ステアリン酸のカルシウム塩である。 脂肪酸金属塩Dは、ステアリン酸のアルミニウム塩である。 脂肪酸金属塩Eは、ステアリン酸のマグネシウム塩である。 (c)のアミド化合物については、 アミドAは、ステアリルアミドである。 アミドBは、N,N′エチレンビスステアリルアミドである。 また、実施例及び比較例に示す鉱油の40℃の動粘度は、101.5mm2/sで流動点は-15℃であり、合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)の40℃の動粘度は、14.94mm2/sで流動点は-67.7℃である。また、合成炭化水素油B(CASNo.68037-01-4)の40℃の動粘度は、396.2mm2/sで流動点は-36℃である。 【0025】 各表の実施例と比較例の性状は、次の試験方法に従って行った。 1.ちょう度:JIS K2220 2.滴点 :JIS K2220 3.離油度 :JIS K2220B法で、条件は100℃、24時間である。 4.摩擦変動試験 図1に示す測定装置を用い、ボールねじナット2を往復動させ、その時に発生する 摩擦力をロードセル6を介してひずみ検出器8に入力および記録させる。ボールネジ ナット2を往復動させる事により、ボールねじ1は回転するが、その時に、定常的に 回転している状態の摩擦力を定常摩擦力とし、その定常摩擦力の30%を越える摩擦 力を変動摩擦力として、ひずみ検出器8によりカウントさせ、試験中の変動摩擦力が 発生した頻度を摩擦変動発生率として算出する。 尚、ボールねじ1の外径は29mmねじ部の長さは約225mmである。またボー ルねじ1とボールねじナット2の間には転動体であるボール3が複数列存在するが、 このボール3の外径は4.0mmである。この複数列存在するボールは螺旋路を経由 して元の起動に戻る一般的な構造である。検出する摩擦力は、このボールとボール接 触部および/またはボールとボールねじの転動部および/またはボールとボールねじ ナットの転動部および/またはボールと螺旋路の摺動部で発生する摩擦力を検出する 測定装置である。 5.SRV摩擦試験 ASTMD5707に準拠し下記条件にて試験を行った。測定は試験中の平均摩擦 係数と試験後のテストプレートの摩耗深さを測定し共試グリースの判定を行った。 荷重:700N 温度:50℃ 時間:60分 振幅距離:500μ 振幅速度:15Hz」 (3)甲第3号証(以下、「甲3」という。) 3a「【請求項1】 増ちょう剤と、基油とを含み、前記増ちょう剤が下記式(1)で示されるジウレア化合物であり、かつグリース組成物中の前記増ちょう剤量の割合が3~20質量%であるグリース組成物。 【化1】 [図:0001416464000004.jpg] (式(1)中、R2は、ジフェニルメタン基を示す。R1及びR3は、同一又は異なっていても良く、シクロへキシル基又は炭素数8~22の直鎖又は分岐アルキル基を示す。式(1)中、シクロへキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+アルキル基の数)}×100]は70~80モル%である。) 【請求項2】 増ちょう剤が、式(1)中、アルキル基が炭素数16~20の直鎖アルキル基であるジウレア化合物である、請求項1記載のグリース組成物。 【請求項3】 転がり軸受、歯車、ボールネジ、直動軸受、カム又は継ぎ手に使用される、請求項1又は2記載のグリース組成物。 【請求項4】 請求項1~3のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した機械部品。」 3b「【0006】 本発明が解決しようとする課題は、攪拌抵抗を低くしたグリース組成物を提供することである。 ・・・ 【0014】 〔基油〕 本発明における基油の種類や動粘度は特に限定されない。必要に応じて基油の種類や動粘度を選定することができる。ただし、転がり軸受用として使用するグリースに含ませる基油の40℃における動粘度としては、好ましくは10~200mm2/s、より好ましくは15~100mm2/sである。基油は、一種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。 本発明において使用可能な基油の種類としては、大別して鉱物油、合成油がある。合成油の例としてはジエステル油、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、ポリ-α-オレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテルに代表されるエーテル系合成油、ポリプロピレングリコールに代表されるポリグリコール系合成油、シリコーン系合成油、フッ素系合成油が挙げられる。このうち、耐熱性に優れるため合成油が好ましい。合成炭化水素油及びエステル系合成油がより好ましい。これら基油を含ませると、低温での撹拌抵抗をより低くすることができる。合成炭化水素油としてはポリ-α-オレフィンが好ましい。エステル系合成油としてはペンタエリスリトールエステル、トリメチロールプロパンエステルが好ましい。」 3c「【0017】 本発明のグリース組成物は、各種機械部品に封入して用いることができる。各種機械部品としては、転がり軸受、歯車、ボールネジ、直動軸受、カム又は継ぎ手等が挙げられる。具体的には、産業機械用各種モータ、事務機器用各種モータ、自動車用各種モータ、自動車電装部品や補機部品等に使用される転がり軸受、風車やロボット、自動車などの減速機や増速機等に使用される歯車、電動パワーステアリングや工作機械等に使用されるボールネジ、産業機器や電子機器等に使用される直動軸受、カム又は継ぎ手が挙げられる。」 3d「【0018】 <試験グリースの調製> 表1に示した増ちょう剤及び基油を用い、実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。具体的には、基油中で、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートと所定のアミンとを反応させ、昇温、冷却した後、3本ロールミルで混練し、実施例1及び2、及び比較例1~9のグリース組成物を得た。基油としては、JIS K2220 23.に準拠して測定した、40℃における動粘度が70.2mm2/sの合成炭化水素油であるポリ-α-オレフィン油、又は40℃における動粘度が11.6mm2/sのジエステル油であるジオクチルセバケートを用いた。増ちょう剤量は、グリース組成物の混和ちょう度(試験方法JIS K2220 7.)が300になるように調節した。 上で調製したグリース組成物を、下記の試験方法により評価した。結果を表1に示す。 【0019】 <試験方法> ・攪拌抵抗(レオメータ) 試験は、Anton Paar社製の粘弾性測定装置、Physica MCR301を用いて測定を行った。 所定のプレートの間に試験グリースを塗布し、所定のプレート間距離に設定した後、はみ出した余分のグリースを除去した。その後、下記に示すせん断速度にて回転させた時のせん断応力を読み取った。 試験条件を下記に示す。 せん断速度:1~104s-1 試験温度:25℃ プレート間距離:0.2mm プレート直径:25mm <評価> せん断速度1~104s-1におけるせん断応力の平均値を算出し、測定結果とした。 2000Pa未満・・・合格 2000Pa以上・・・不合格 【0020】 【表1】 [図:0001416464000005.jpg] 」 (4)甲第6号証(以下、「甲6」という。) 6a「【0003】 そこで、これらの問題を解決するものとして、電動モータを動力源とする電動パワーステアリング装置(Electric Power Steering、以下EPSと記す)が近年注目されている。EPSには、電動モータの電源に車載バッテリを用いるために直接的なエンジンの駆動損失が無く、電動モータが操舵アシスト時にのみに起動されるため に走行燃費の低下も抑えられる他、電子制御が極めて容易に行える等の特長がある。 ・・・ 【0005】 ラックアシスト型EPSでは、ラックシャフトに形成されたボールねじ軸の雄ねじ溝とボールナットに形成された雌ねじ溝とが多数個の循環ボール(鋼球)を介して係合しており、ラックシャフトと同軸あるいは別軸に配置された電動モータによってボールナットが回転駆動され、これによりラックシャフトが軸方向に移動する。別軸式ラックアシスト型EPSにおける電動モータとボールナットとの間の動力伝達方法としては、特許文献1に記載されたタイミングベルト式の他、特許文献2に記載されたギヤ式等が一般的である。 ・・・ 【0037】 ラックシャフト23には、雄ねじ溝51が形成される一方、ボールナット45には、雌ねじ溝53が形成され、雄ねじ溝51と雌ねじ溝53との間には、循環ボールたる多数個の鋼球55が介装されている。また、ボールナット45には、鋼球55を循環させるための循環こま(図示せず)が装着されている。 【0038】 ドリブンギヤ39と、ボールナット45とは、共に、鋼製であるが、ドリブンギヤ39の熱処理硬度は、ボールナット45の熱処理硬度より低く設定されており、シェービング加工による仕上げが容易となっている。また、ドリブンギヤ39と、ボールナット45では、鋼の素材についても機械的強度やコスト等を勘案して最適な素材が選択されている。」 (5)甲第7号証 7a「【0003】 そこで、これらの問題を解決するものとして、電動モータを動力源とする電動パワーステアリング装置(Electric Power Steering、以下EPSと記す)が近年注目されている。EPSには、電動モータの電源に車載バッテリを用いるために直接的なエンジンの駆動損失が無く、電動モータが操舵アシスト時にのみに起動されるために走行燃費の低下も抑えられる他、電子制御が極めて容易に行える等の特長がある。 ・・・ 【0005】 ラックアシスト型EPSでは、ラックシャフトに形成されたボールねじ軸の雄ねじ溝とボールナットに形成された雌ねじ溝とが多数個の循環ボール(鋼球)を介して係合しており、ラックシャフトと同軸あるいは別軸に配置された電動モータによってボールナットが回転駆動され、これによりラックシャフトが軸方向に移動する。別軸式ラックアシスト型EPSにおける電動モータとボールナットとの間の動力伝達方法としては、特許文献1に記載されたタイミングベルト式の他、特許文献2に記載されたギヤ式等が一般的である。 ・・・ 【0024】 ラックシャフト23には、雄ねじ溝51が形成される一方、ボールナット45には、雌ねじ溝53が形成され、雄ねじ溝51と雌ねじ溝53との間には、循環ボールたる多数個の鋼球55が介装されている。また、ボールナット45には、鋼球55を循環させるための循環こま(図示せず)が装着されている。 【0025】 ドリブンギヤ(ナットギヤ)39と、ボールナット45とは、共に、鋼製であるが、ドリブンギヤ(ナットギヤ)39の熱処理硬度は、ボールナット45の熱処理硬度より低く設定されており、シェービング加工による仕上げが容易となっている。また、ドリブンギヤ(ナットギヤ)39と、ボールナット45では、鋼の素材についても機械的強度やコスト等を勘案して最適な素材が選択されている。」 3 甲号証に記載された発明 (1)甲1に記載された発明 ア 甲1発明1 甲1には、甲1に記載のグリース組成物に係る電動パワーステアリング装置はラックアシスト式電動パワーステアリング装置であり、グリース組成物がボールねじ機構用であることが記載されるから(摘記1b参照)、実施例1のグリース試料として「(a)ジウレア化合物の原料であり、分子量250で、以下の化学構造のジイソシアネートと [図:0001416464000006.jpg] アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)、 アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)及び、 アミンD:炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)から得られたジウレア化合物、 鉱油、合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)を含む40℃の動粘度が15.69mm2/sである基油、 (b)脂肪酸金属塩、 (c)アミド化合物及び、 添加剤からなり、JIS K2220に従って測定したちょう度が311である、ラックアシスト式電動パワーステアリング装置のボールねじ機構用グリース試料。」の発明が記載されているといえる(摘記1d参照)。 イ 甲1発明2 甲1には実施例2のグリース試料として「(a)ジウレア化合物の原料であり、分子量250で、以下の化学構造のジイソシアネートと [図:0001416464000007.jpg] アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)、 アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン) アミンC:炭素数18の不飽和アルキル基が約50%ならびに炭素数18から炭素数14の飽和もしくは不飽和アルキル基を含有する平均分子量255の直鎖状一級アミン(工業用牛脂アミン)及び、 アミンD:炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)から得られたジウレア化合物、 鉱油、合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)及び合成炭化水素油B(CASNo.68037-01-4)からなる40℃の動粘度が18.39mm2/sである基油、 (b)脂肪酸金属塩、 (c)アミド化合物及び、 添加剤からなり、JIS K2220に従って測定したちょう度が322である、ラックアシスト式電動パワーステアリング装置のボールねじ機構用グリース試料。」の発明が記載されているといえる(摘記1d参照)。 以下、甲1発明1及び2に関し、「分子量250で、以下の化学構造のジイソシアネート [図:0001416464000008.jpg] 」を、単に「ジイソシアネート」と記載し、 「アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)」、 「アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)」、 「アミンC:炭素数18の不飽和アルキル基が約50%ならびに炭素数18から炭素数14の飽和もしくは不飽和アルキル基を含有する平均分子量255の直鎖状一級アミン(工業用牛脂アミン)」及び、 「アミンD:炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)」を、それぞれ、単に、「アミンA」、「アミンB」、「アミンC」及び「アミンD」と記載することがある。 (2)甲2に記載された発明 ア 甲2発明1 甲2には甲2に記載のグリースは自動車のステアリング装置のボールネジ用であることが記載されるから(摘記2b参照)、実施例3のグリースとして「(a)イソシアネートB:4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、 アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)、 アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)及び アミンD:炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)から得られたウレア化合物、 鉱油及び合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)からなる40℃の動粘度が15.77mm2/sである基油、 (b)脂肪酸金属塩、 (c)アミド化合物からなり、JIS K2220に従って測定したちょう度が305である、自動車のステアリング装置のボールネジ用であるグリース。」の発明が記載されているといえる(摘記2d参照)。 イ 甲2発明2 甲2には実施例4のグリースとして「(a)イソシアネートB:4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、 アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)、 アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン) アミンC:炭素数18の不飽和アルキル基が約50%ならびに炭素数18から炭素数14の飽和もしくは不飽和アルキル基を含有する平均分子量255の直鎖状一級アミン(工業用牛脂アミン)及び、 アミンD:炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)から得られたウレア化合物、 鉱油及び合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)からなる40℃の動粘度が18.94mm2/sである基油、 (b)脂肪酸金属塩及び、 (c)アミド化合物からなり、JIS K2220に従って測定したちょう度が320である、自動車のステアリング装置のボールネジ用であるグリース。」の発明が記載されているといえる(摘記2d参照)。 以下、甲2発明1または2に関し、「イソシアネートB:4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート」を単に「イソシアネートB]と記載し、 「アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)」、 「アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)」、 「アミンC:炭素数18の不飽和アルキル基が約50%ならびに炭素数18から炭素数14の飽和もしくは不飽和アルキル基を含有する平均分子量255の直鎖状一級アミン(工業用牛脂アミン)」及び、 「アミンD:炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)」それぞれ、単に、「アミンA」、「アミンB」、「アミンC」及び「アミンD」と記載することがある。 (3)甲3に記載された発明 甲3には、甲3に記載のグリース組成物は自動車に使用される電動パワーステアリングのボールネジ用であることが記載されているから(摘記3c参照)、実施例1のグリース組成物として「4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、シクロヘキシルアミン及びオクタデシルアミンを反応させて得た増ちょう剤、 基油として40℃における動粘度が70.2mm2/sの合成炭化水素油であるポリ-α-オレフィン油からなり、混和ちょう度が300である、自動車に使用される電動パワーステアリングのボールネジ用であるグリース組成物。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる(摘記3d参照)。 4 対比・判断 (1)甲1発明1または2を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲1発明1または2との対比 本件特許発明1と甲1発明1または2を対比する。 甲1発明1の「(a)ジウレア化合物の原料であり、分子量250で、以下の化学構造のジイソシアネートと [図:0001416464000009.jpg] アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)、 アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン))・・・から得られたジウレア化合物」、または、甲1発明2の「(a)ジウレア化合物の原料であり、分子量250で、以下の化学構造のジイソシアネートと [図:0001416464000010.jpg] アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)、 アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)・・・から得られたジウレア化合物」は、いずれも本件特許発明1の「下記式(I)で表されるジウレア化合物 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)」であり、前記2(1)1aの請求項1の記載から、甲1発明1または甲2発明2のジウレア化合物は、増ちょう剤として含まれるものと認められるから、本件特許発明1と、甲1発明1または甲1発明2は、 「下記式(I)で表されるジウレア化合物を含む増ちょう剤 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)」を含有する組成物であるという点で共通するものである。 甲1発明1の「鉱油、合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)を含む40℃の動粘度が15.69mm2/sである基油」及び甲1発明2の「鉱油、合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)及び合成炭化水素油B(CASNo.68037-01-4)からなる40℃の動粘度が18.39mm2/sである基油」は、いずれも、本件特許発明1の「基油」及び「前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり」に相当する。 甲1発明1の「JIS K2220従って測定したちょう度が311である」及び甲1発明2の「JIS K2220従って測定したちょう度が322である」は、本件特許発明1の混和ちょう度は、本件特許明細書【0016】によれば、JIS K2220 7.に従って測定したものであるから、本件特許発明1の「混和ちょう度が265~385であり」に相当する。 甲1発明1及び2の「ラックアシスト式電動パワーステアリング装置のボールねじ機構用グリース試料」は、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーを含まないから、本件特許発明1の「ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物」及び「但し、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーのいずれも含まない、前記グリース組成物」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明1または2は、「下記式(I)で表されるジウレア化合物を含む増ちょう剤 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)及び基油を含有するラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物であって、 前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり、 混和ちょう度が265~385であり、 但し、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーのいずれも含まない、前記グリース組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-1> 本件特許発明1はボールねじを構成する要素はいずれも鋼であるのに対し、甲1発明1及び2はそのような特定がない点。 <相違点1-2> 増ちょう剤が、本件特許発明1では、下記式(I) R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)で表されるジウレア化合物のみからなるのに対し、甲1発明1または2は、(b)脂肪酸金属塩及び(c)アミド化合物を含み、さらにジウレア化合物として、甲1発明1はジイソシアネートとアミンDとから得られたジウレア化合物を、甲1発明2はジイソシアネートとアミンC及びアミンDとから得られたジウレア化合物を含む点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、<相違点1-2>から検討する。 甲1発明1及び2のラックアシスト式電動パワーステアリング装置のボールねじ機構用グリース試料における増ちょう剤のうち(a)として前記化学構造のジイソシアネートとアミンA及びアミンBの両方との反応により得られるジウレア化合物が、本件特許発明1における式(I)で表されるジウレア化合物であるが、甲1に記載されるように、転がり滑り摩擦面にて発生する不整な摩擦変動を大幅に縮減し、また広い温度範囲で低く安定したトルク特性を示し、更に、高温においても十分な油膜を維持できる長寿命の新規な増ちょう剤配合と特定の基油と添加剤組成を用いた潤滑グリース組成物を用いた転動装置および電動パワーステアリング装置を提供するために、甲1発明1または2のラックアシスト式電動パワーステアリング装置のボールねじ機構用グリース試料における増ちょう剤は前記(a)のジウレア化合物として、アミンA及びアミンBの両方との反応により得られるジウレア化合物以外を含み、さらに(b)及び(c)を含むものであり(摘記1a、1b参照)、増ちょう剤がアミンA及びアミンBの両方との反応により得られるジウレア化合物のみからなる(a)のみであっても、そのような転動装置および電動パワーステアリング装置を提供できることは開示されていないから、甲1には、増ちょう剤を(a)の式(I)で表されるジウレア化合物のみとする動機付けとなる記載があるとはいえない。 また、甲2、甲3、甲6及び甲7にも、甲1発明1及び2のラックアシスト式電動パワーステアリング装置のボールねじ機構用グリース試料における増ちょう剤を、前記(a)の式(I)で表されるジウレア化合物のみとすることを動機付ける記載はない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 本件特許明細書の実施例からみて、本件特許発明1は、式(I)で表されるジウレア化合物のみからなる増ちょう剤により、ラックアシスト式電動パワーステアリングのボールねじ部におけるトルク変動を抑制し、かつ、広い速度域に亘って低トルクを実現できるという効果を奏するものであり、そのような効果は、甲1発明1または2から、当業者が予測できない顕著なものであるといえる。 (エ)小括 したがって、<相違点1-1>について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明、並びに、甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 イ 本件特許発明2~4 本件特許発明2~4は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲1発明1及び2との<相違点1-2>と同じの相違点を有するものであり、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明、並びに、甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 (2)甲2発明1または2を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲2発明1または2との対比 本件特許発明1と甲2発明1または2を対比する。 甲2発明1の「(a)イソシアネートB:4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、 アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)、 アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)及び アミンD:炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)から得られたウレア化合物」及び甲2発明2の「(a)イソシアネートB:4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、 アミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)、 アミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン) アミンC:炭素数18の不飽和アルキル基が約50%ならびに炭素数18から炭素数14の飽和もしくは不飽和アルキル基を含有する平均分子量255の直鎖状一級アミン(工業用牛脂アミン)及び、 アミンD:炭素数18の不飽和アルキル基を主体(70%以上)とする平均分子量260の直鎖状一級アミン(工業用オレイルアミン)から得られたウレア化合物」は、イソシアネートB:4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネートとアミンA:炭素数8の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量130の直鎖状一級アミン(工業用カプリルアミン)及びアミンB:炭素数18の飽和アルキル基を主体(90%以上)とする平均分子量270の直鎖状一級アミン(工業用ステアリルアミン)が反応して得られたものは、本件特許発明1の式(I)で表されるジウレア化合物R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I)において、式中、R1およびR3の一方が炭素数8の直鎖アルキル基であり、他方が炭素数18の直鎖アルキル基であるもの、R1およびR3の両方が炭素数8の直鎖アルキル基であるもの、又は、R1およびR3の両方が炭素数18の直鎖アルキル基であるものであり、R2が炭素数13の2価の芳香族炭化水素基であるものとなるから、いずれも本件特許発明1「下記式(I)で表されるジウレア化合物であり、 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)」であり、前記2(2)2aの請求項1の記載から、甲2発明1または甲2発明2のジウレア化合物は、増ちょう剤として含まれるものと認められるから、本件特許発明1と、甲2発明1または甲2発明2は、 「下記式(I)で表されるジウレア化合物を含む増ちょう剤 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)」を含有する組成物であるという点で共通するものである。 甲2発明1の「鉱油及び合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)からなる40℃の動粘度が15.77mm2/sである基油」及び甲2発明2の「鉱油及び合成炭化水素油A(CASNo.68037-01-4)からなる40℃の動粘度が18.94mm2/sである基油」、いずれも、本件特許発明1の「基油」及び「前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり」に相当する。 甲2発明1の「JIS K2220従って測定したちょう度が305である」及び甲2発明2の「JIS K2220従って測定したちょう度が320である」は、本件特許発明1の混和ちょう度は、本件特許明細書【0016】によれば、JIS K2220 7.に従って測定したものであるから、本件特許発明1の「混和ちょう度が265~385であり」に相当する。 甲2発明1または2の「自動車のステアリング装置のボールネジ用であるグリース」は、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーを含まないから、本件特許発明1の「パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物」及び「但し、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーのいずれも含まない、前記グリース組成物」の限りにおいて一致する。 そうすると、本件特許発明1と甲2発明1または2は、「増ちょう剤及び基油を含有するパワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物であって、 前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり、 混和ちょう度が265~385であり、 但し、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーのいずれも含まない、前記グリース組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2-1> パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物が、本件特許発明1はラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用であるのに対し、甲2発明1または2はそのような特定がない点。 <相違点2-2> 本件特許発明1はボールねじを構成する要素はいずれも鋼であるのに対し、甲2発明1または2はそのような特定がない点。 <相違点2-3> 増ちょう剤が、本件特許発明1では、下記式(I) R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)で表されるジウレア化合物のみからなるのに対し、甲2発明1または2は、(b)脂肪酸金属塩及び(c)アミド化合物を含み、さらにジウレア化合物として、甲2発明1はジイソシアネートとアミンDとから得られたジウレア化合物を、甲2発明2はジイソシアネートとアミンC及びアミンDとから得られたジウレア化合物を含む点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、<相違点2-3>から検討する。 甲2発明1または2の自動車のステアリング装置のボールネジ用であるグリースにおける増ちょう剤のうち(a)として前記化学構造のジイソシアネートとアミンA及びアミンBの両方との反応により得られるものが、本件特許発明1における式(I)で表されるジウレア化合物であるが、甲2に記載されるように、機械の転がり滑りの摺動部において時折発生する不整な摩擦変動を大幅に縮減し、安定した摩擦特性と潤滑性を得ることが出来る新規な増ちょう剤を用いた潤滑グリース組成物を提供するために、甲2発明1または2のステアリング装置のボールネジ用であるグリースにおける増ちょう剤は前記(a)、(b)及び(c)を含むものであり(摘記2a、2b参照)、増ちょう剤を(a)のみとすれば、そのような潤滑グリース組成物を提供できることは開示されていないから、その増ちょう剤を(a)のみとして、さらに、前記化学構造のジイソシアネートとアミンA及びアミンBの両方との反応により得られるものとして、式(I)で表されるジウレア化合物のみであるものとする動機付けがあるとはいえない。 また、甲1、甲3、甲6及び甲7にも、甲2発明1または2の自動車のステアリング装置のボールネジ用であるグリースにおいて増ちょう剤を(a)のみとする動機付けとなる記載はない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 本件特許明細書の実施例からみて、本件特許発明1は、増ちょう剤が式(I)で表されるジウレア化合物のみであっても、ラックアシスト式電動パワーステアリングのボールねじ部におけるトルク変動を抑制し、かつ、広い速度域に亘って低トルクを実現できるという効果を奏するものであり、そのような効果は、甲2発明1または2から、当業者が予測できない顕著なものであるといえる。 (エ)小括 したがって、本件特許発明1は、<相違点2-1>及び<相違点2-2>について検討するまでもなく、甲2に記載された発明、並びに、甲1、甲3、甲6及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 イ 本件特許発明2~4 本件特許発明2~4は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲2発明1または2との<相違点2-3>と同じの相違点を有するものであり、甲2に記載された発明、並びに、甲1、甲3、甲6及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 (3)甲3発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲3発明との対比 本件特許発明1と甲3発明を対比する。 甲3発明の「4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートと、シクロヘキシルアミン及びオクタデシルアミンを反応させて得た増ちょう剤」は、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとオクタデシルアミンが反応して得られたものは、本件特許発明1の式(I)で表されるジウレア化合物R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I)において、R1およびR3の両方が炭素数18の直鎖アルキル基であるものであり、R2が炭素数13の2価の芳香族炭化水素基であるものとなるから、本件特許発明1の「増ちょう剤」及び「増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物であり、 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)」に相当する。 甲3発明の「基油として40℃における動粘度が70.2mm2/sの合成炭化水素油であるポリ-α-オレフィン油」は本件特許発明1の「基油」及び「前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり」に相当する。 甲3発明の「混和ちょう度が300である」は本件特許発明1の「混和ちょう度が265~385であり」に相当する。 甲3発明の「自動車に使用される電動パワーステアリングのボールネジ用であるグリース組成物」は、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーを含まないから、本件特許発明1の「電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物」及び「但し、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーのいずれも含まない、前記グリース組成物」の限りにおいて一致する。 そうすると、本件特許発明1と甲3発明は、「増ちょう剤及び基油を含有する電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物であって、 前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物であり、 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。) 前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり、 混和ちょう度が265~385であり、 但し、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーのいずれも含まない、前記グリース組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3-1> 電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物が、本件特許発明1はラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用であるのに対し、甲3発明はそのような特定がない点。 <相違点3-2> 本件特許発明1はボールねじを構成する要素はいずれも鋼であるのに対し、甲3発明はそのような特定がない点。 <相違点3-3> 増ちょう剤が、本件特許発明1では、下記式(I) R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)で表されるジウレア化合物のみからなるのに対し、甲3発明では、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、シクロヘキシルアミン及びオクタデシルアミンを反応させて得たもの、並びに、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート及びシクロヘキシルアミンを反応させて得たものを含む点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、<相違点3-3>から検討する。 甲3発明の自動車に使用される電動パワーステアリングのボールネジ用であるグリース組成物における増ちょう剤のうち4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとオクタデシルアミンとの反応により得られるものが、本件特許発明1における式(I)で表されるジウレア化合物であるが、甲3に記載されるように、攪拌抵抗を低くしたグリース組成物を提供するために、甲3発明の自動車に使用される電動パワーステアリングのボールネジ用であるグリース組成物における増ちょう剤はシクロへキシル基とアルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合を70~80モル%とするものであり(摘記3a、3b参照)、その増ちょう剤を4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとオクタデシルアミンとの反応により得られるもののみとして、シクロへキシル基を含まないものとすれば、そのようなグリース組成物を提供できることが開示されているとはいえないから、その増ちょう剤を4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとオクタデシルアミンとの反応により得られるもののみとして、式(I)で表されるジウレア化合物のみであるものとする動機付けがあるとはいえない。 また、甲1、甲2、甲6及び甲7にも、甲3発明の自動車に使用される電動パワーステアリングのボールネジ用であるグリース組成物において増ちょう剤を4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとオクタデシルアミンとの反応により得られるもののみとする動機付けとなる記載はない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 本件特許明細書の実施例からみて、本件特許発明1は、増ちょう剤が式(I)で表されるジウレア化合物のみであっても、ラックアシスト式電動パワーステアリングのボールねじ部におけるトルク変動を抑制し、かつ、広い速度域に亘って低トルクを実現できるという効果を奏するものであり、そのような効果は、甲3発明から、当業者が予測できない顕著なものであるといえる。 (エ)小括 したがって、本件特許発明1は、<相違点3-1>及び<相違点3-2>について検討するまでもなく、甲3に記載された発明、並びに、甲1、甲2、甲6及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 イ 本件特許発明2~4 本件特許発明2~4は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲3発明との<相違点3-3>と同じの相違点を有するものであり、甲3に記載された発明、並びに、甲1、甲2、甲6及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由 理由1(新規性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である前記第4の甲第1号証、甲第2号証または甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 理由2(サポート要件)本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 特許法第36条第6項第1号は、発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載することになれば、公開されていない発明について権利が発生することになるため、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない旨を規定している。 そして、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討してなされ、この対比、検討に当たっては、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとの実質的な対応関係について検討すべきである。 また、この実質的な対応関係についての検討は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かを調べることによりなされ、請求項に係る発明が、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていると判断された場合は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえず、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていないことになる。 ここで、本件特許発明1は、 増ちょう剤及び基油を含有するラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物であって、 ボールねじを構成する要素はいずれも鋼であり、 前記増ちょう剤が、下記式(I)で表されるジウレア化合物であり、 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式中、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。) 前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり、 混和ちょう度が265~385であり、 但し、不飽和又は飽和脂肪酸のアミン塩、及び重量平均分子量が2万~30万の鎖状の炭化水素系ポリマーのいずれも含まない、前記グリース組成物である。 上記ジウレア化合物については、式(I)の定義によれば、基Rl、R2、R3の組み合わせについて200通り以上が考えられるところ、実施例において実質的に記載されているといえるのは、基R1がC8、基R3がC8またはC18のもののみである(【表1】の実施例1~実施例5)。 これらの実施例については、トルクの評価が○(lmm/sのとき、平均値が55未満または20mm/sのとき、平均値が130未満)または◎(1mm/sのとき、平均値が55以上70未満または20mm/sのとき、平均値が130以上140未満)となっており、トルク変動の評価は、いずれも○(尖度の値が3未満)となっていることから、所定の効果を奏するものと認められる。 その一方で、本件特許発明1によれば、上記の200通り以上の基Rl、R2、R3の組合せの可能性に加えて、基油の40℃における動粘度を4~100mm2/sという、比較的広い範囲から選択し、かつグリース組成物の混和ちょう度は、265~385という、こちらも比較的広い範囲から選択する必要があるところ、実施例1、4、5と、実施例2、3とでは、トルクの評価に変動があり、その理由もしくは原因は、増ちょう剤の種類によるものであるのか、その量であるのか、あるいは基油の40℃における動粘度または組成物の混和ちょう度によるものであるのかが不明である。 そうなると、本件特許発明1において、ジウレア化合物が、実施例に記載のジウレア化合物とは異なる基Rl、R2、R3である場合や、基R1とR3とが同じ基である場合のようなジウレア化合物において、基油の40℃における動粘度または組成物の混和ちょう度について本件特許発明1による範囲内の場合にも、あるいは基油がポリ-α-オレフィン(PAO)以外の場合であっても、同様の効果を奏し、本件特許「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かを調べるにあたって、本件特許発明の出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないし、グリース組成物における増ちょう剤としてのジウレア化合物の含有量によっても課題を解決できるか否かが影響を受けるのであれば、本件特許発明1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるといえる。 本件特許発明2~4についても同様である。 従って、本件特許発明1~4は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていることから、請求項1~4に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえない。 よって、本件特許発明1~4は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。 第7 前記第6の理由1(新規性)について 1 甲号証について 前記第6の甲第1号証~甲第3号証。 2 甲号証の記載について 前記第4 2(1)~(3)のとおり。 3 甲号証に記載された発明 甲1発明1及び2、甲2発明1及び2、並びに、甲3発明は、前記第4 3(1)ア及びイ、(2)ア及びイ、並びに、(3)のとおり。 4 対比・判断 (1)甲1発明1または2を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明4 本件特許発明4は、本件特許発明1において「前記基油が、ポリαオレフィンを含有する」と特定するものであるが、この点は甲1発明1または2との対比において実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明4は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。 (2)甲2発明1または2を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 前記第4 4(2)ア(ア)で検討したとおり、本件特許発明1と甲2発明1または2は<相違点2-1>~<相違点2-3>の点で相違し、<相違点2-1>~<相違点2-3>は実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。 イ 本件特許発明2~4 本件特許発明2~4は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲2発明1または2との<相違点2-1>~<相違点2-3>と同じの相違点を有するものであり、甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。 (3)甲3発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 前記第4 4(3)ア(ア)で検討したとおり、本件特許発明1と甲3発明は<相違点3-1>~<相違点3-3>の点で相違し、<相違点3-1>~<相違点3-3>は実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。 イ 本件特許発明2~4 本件特許発明2~4は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲3発明との<相違点3-1>~<相違点3-3>と同じの相違点を有するものであり、甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。 第8 前記第6の理由2(サポート要件)について 本件特許発明の課題は、本件特許明細書の【0004】に記載からみて、ラックアシスト式電動パワーステアリング装置の操舵時の応答性や静粛性を向上させるようトルク変動を抑制し、かつ、広い速度範囲域でも低トルクである、ラックアシスト式電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物を提供することにあると認める。 ここで、本件特許明細書【0005】には、ラックアシスト式電動パワーステアリング装置のトルク変動の抑制と、広い速度域に亘る低トルクを両立するため、増ちょう剤として、直鎖飽和脂肪族基を有する脂肪族ジウレアを用い、混和ちょう度を265~385に設定することが記載され、本件特許明細書の実施例の記載から、式(I)の基R1がC8、基R3がC8またはC18であり、基R2が炭素数13の2価の芳香族炭化水素基であるジウレア化合物を含み、40℃における動粘度が30~100mm2/sの一般的な基油といえるPAOを含み、かつ、混和ちょう度が294~371であるものが、前記課題を解決できることが理解できるから、実施例のものと多少トルク特性が劣るものを含むかもしれないが、本件特許発明1のようにR1およびR3は、互いに独立して、炭素数8~20の直鎖アルキル基であり、R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基であるジウレア化合物を含み、40℃における動粘度が4~100mm2/sの基油を含み、かつ、混和ちょう度が265~385であるものが、前記課題を解決できることは十分に推認でき、また、特許異議申立人らは、本件特許発明1のもののうちに前記課題を解決できないものがあることを実証しているわけでもない。 そうすると、本件特許発明1および本件特許発明1を引用する本件特許発明2~4は、本件特許発明の課題を解決できない範囲を包含しているとまではいえない。 第9 むすび 以上のとおりであるから、令和6年1月30日付けの取消理由通知及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700983

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