特許異議申立
2023-700927
床スラブ付き鉄骨梁およびその補強方法
- 審判番号
- 2023-700927
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-181184
- 登録番号
- 7234084
- 請求日
- 2023年09月07日
- 審決日
- 2023年11月30日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】石川 壽彦
- 【権利者】清水建設株式会社
- 【異議申立人】福▲崎▼ さおり
- 審判長/審判官
- 審判長 住田 秀弘
- 審判官 澤田 真治
- 審判官 蔵野 いづみ
- 分類
- P1651.121-Y (E04B) / P1651.537-Y (E04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7234084号発明「床スラブ付き鉄骨梁およびその補強方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7234084号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7234084号の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和元年10月1日の出願であって、令和5年2月27日に特許権の設定登録がされ、令和5年3月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~3に係る特許に対し、令和5年9月7日に特許異議申立人福崎さおり(以下「申立人」という。当審注:崎はたつさきが正式表記)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3の特許に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
両端部が柱に剛接合されると共に横座屈補剛部材が設けられていないH形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上フランジの全長に亘って設けられた頭付きスタッドを介して接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁であって、
前記鉄骨梁は、梁長さと上下フランジの板厚中心間距離の比であるλwが15<λw≦30で、前記鉄骨梁の弱軸に関する細長比λyがA<λyであり、
前記頭付きスタッドの本数が、逆対称曲げモーメント分布時に完全合成梁として必要とされる本数の2倍以上とし、
前記鉄骨梁の上下フランジを繋ぐように接合された縦スチフナが、前記鉄骨梁の全長にわたって梁長さの0.2倍以下のピッチで、かつ前記柱に最も近い前記縦スチフナと前記柱との距離が梁長さの0.125倍以下となるように設けられていることを特徴とする床スラブ付き鉄骨梁。
ただし、Aは、鉄骨梁全長にわたって均等間隔で横補剛を設ける場合において、横座屈補剛が不要である鉄骨梁の弱軸に関する細長比の上限を定める係数である。
【請求項2】
前記縦スチフナは、板厚が前記鉄骨梁のウェブ板厚の0.5倍以上であり、かつ用いられている鋼材の設計基準強度が前記鉄骨梁に用いられている鋼材の設計基準強度より低く設定され、
かつ、前記鉄骨梁は、全塑性モーメントMpと下式によって与えられる弾性横座屈モーメントMeの比の平方根√(Mp/Me)で与えられる前記鉄骨梁の横座屈細長比λb=√(Mp/Me)が、0.5<λb≦0.54を満足することを特徴とする請求項1記載の床スラブ付き鉄骨梁。
【数1】
[図:0001404854000001.jpg]
【請求項3】
両端部が柱に剛接合されると共に横座屈補剛部材が設けられていないH形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上フランジの全長に亘って設けられた頭付きスタッドを介して接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁であって、
前記鉄骨梁は、梁長さと上下フランジの板厚中心間距離の比であるλwが15<λw≦30で、前記鉄骨梁の弱軸に関する細長比λyがA<λyであり、
前記頭付きスタッドの本数が、逆対称曲げモーメント分布時に完全合成梁として必要とされる本数の2倍以上である床スラブ付き鉄骨梁の補強方法であって、
前記鉄骨梁の上下フランジを繋ぐように縦スチフナを設け、かつ該縦スチフナを、前記鉄骨梁の全長にわたって梁長さの0.2倍以下のピッチで、かつ前記柱に最も近い前記縦スチフナと前記柱との距離が梁長さの0.125倍以下となるように設けることを特徴とする床スラブ付き鉄骨梁の補強方法。
ただし、Aは鉄骨梁全長にわたって均等間隔で横補剛を設ける場合において、横座屈補剛が不要である鉄骨梁の弱軸に関する細長比の上限を定める係数である。」
第3 特許異議申立理由及び証拠方法
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立て理由を主張するとともに、証拠方法として以下に示す各甲号証を提出している。
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明1及び本件発明3は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に基づいて、本件発明2は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件発明1は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、また、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(明確性)
本件発明2は、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件発明2に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
(1)甲第1号証:清川貴世他3名「床スラブ付き鉄骨梁の横座屈性状に関する研究(その1)実験結果」日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)、2017年8月、p.1035~1036(以下「甲1」という。)
(2)甲第2号証:特開平9-256459号公報(以下「甲2」という。)
(3)甲第3号証:社団法人日本建築学会「各種合成構造設計指針・同解説」2011年4月25日、社団法人日本建築学会、p.8~11、p.123~129(以下「甲3」という。)
(4)甲第4号証:特開2019-56220号公報(以下「甲4」という。)
(5)甲第5号証:特開2018-131883号公報(以下「甲5」という。)
3 証拠に記載された事項
(1)甲1について
ア 甲1の記載(下線は当審で付した。以下同じ。)
(ア)「床スラブ付き鉄骨梁の横座屈性状に関する研究(その1)実験結果」(p.1035左上部)
(イ)「1.はじめに
筆者らは、・・・本実験では,端部を縦リブ補強した薄肉ウェブを有する梁の基本的な構造性能についても検証する。
2.実験計画
試験体一覧を表1に,鋼材の機械的性質を表2に,試験体形状を図1に示す。・・・梁に、BH-600x175xtwx16(SN490B)を用いた・・・No.2-Lは,梁ウェブ板厚に9mm(幅厚比63.1(FD)),梁端には板厚9mmの縦リブを390mm間隔で2箇所配した。一方,No.2-Rは,梁ウェブ板厚を6mm(幅厚比94.7(FD))とし,板厚9mmの縦リブを240mm間隔で4箇所配した。スラブコンクリートには普通コンクリート(圧縮強度:17.5N/mm2)を用いた。
いずれの試験体も,梁スパン9600mm(細長比:231~270),スラブ幅3000mm、柱断面□‐400x500x32とし、・・・頭付きスタッドは,・・・試験梁と直交梁の上フランジに150mm間隔で配した(試験梁:2列,直交梁1列)。試験梁のスタッド本数は完全合成梁に必要な本数2)を満足する。」(p.1035左欄第1行~右欄第7行)
(ウ)「
[図:0001404854000002.jpg]
」(p.1035の図1)
(エ)「
[図:0001404854000003.jpg]
」(p.1035)
(オ)「
[図:0001404854000004.jpg]
」(p.1035)
(カ)「4.まとめ
1)いずれの試験体も,横座屈発生(θ=1/50程度)までは,安定した履歴性状を示し,最大荷重は体力計算値を満足する。
2)スラブコンクリートを軽量とした場合,普通に比べ,荷重低下勾配は大きくなるが,変形性能(μ=3.2程度)は変わらない。
3)薄肉ウェブの梁端縦リブ補強工法を用いた場合,通常ウェブに比べ,荷重低下勾配は大きくなり,変形性能は低下するが,μ=2.6以上を確保できる。」(p.1036右欄第13行~第20行)
イ 甲1の記載から認定される事項
(ア)上記ア(ア)の記載、及び、上記ア(イ)~(カ)の記載によれば、「試験体」及び「試験梁」は「鉄骨梁」であるといえる。
(イ)上記ア(ウ)の図によれば、試験体は、両端が柱に接合されていることが看取できる。
(ウ)上記ア(ウ)の図によれば、直交梁と試験体以外には小梁を含め横座屈補剛部材が設けられていないことが看取できる。
(エ)上記ア(エ)の表1によれば、No.2-Lの試験体は、細長比が252、No.2-Rの試験体は、細長比が231であることが看取できる。
(オ)上記ア(オ)の表2によれば、縦リブの材質はSS400であることが看取できる。
ウ 甲1発明
上記ア及びイから、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「横座屈性状に関する研究に用いたものであって、両端が柱に接合され、横座屈補剛部材が設けられていないBH-600x175xtwx16(SN490B)を用いた鉄骨梁と、鉄骨梁の上フランジに2列で150mm間隔で頭付きスタッドを配し完全合成梁に必要な本数を満足し、スラブコンクリートには普通コンクリートを用いた床スラブ付き鉄骨梁において、
鉄骨梁は、梁スパン9600mm、合成率が1.91で、No.2-Lの試験体は、細長比が252、No.2-Rの試験体は、細長比が231であって、No.2-Lは,梁端には板厚9mmの縦リブを390mm間隔で2箇所配し、No.2-Rは,板厚9mmの縦リブを240mm間隔で4箇所配し、端部を縦リブ補強した薄肉ウェブを有する床スラブ付き鉄骨梁。」(以下「甲1発明」という。)
(2)甲2について
ア 甲2の記載
(ア)「【0005】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するため、本発明に係る鉄骨梁の横座屈防止構造は、鉄骨大梁に装架される座屈止め鋼材または補強小梁を止めて、鉄骨大梁自体にスチフナーを取り付けて構成されている。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図面に示す本発明の最も好ましい実施例の形態について説明する。図2は平面図、図1(イ)及び(ロ)は断面図で1は柱、2は同柱1間に架設された鉄骨大梁、3は同大梁間に架設された鉄骨小梁、4はスラブで、前記鉄骨大梁2には1スパン当り3個所程度スチフナー5が夫々上下フランジ及びウエブに亘って配設されている。
【0007】このように鉄骨大梁2にスチフナー5を取り付けたことによって、同大梁2が補剛され、部材耐力及び変形性能に比して増大し、同大梁2の横座屈が防止される。
【0008】
【発明の効果】本発明によれば前記したように、従来鉄骨大梁と鉄骨小梁との間に装架されていた座屈止めまたは補強小梁の設置を止めて、鉄骨大梁自体にスチフナーを取り付けることによって、同スチフナーの補剛効果により鉄骨大梁の横座屈の防止を図ったものである。」
(イ)「
[図:0001404854000005.jpg]
」
(ウ)「
[図:0001404854000006.jpg]
」
イ 甲2の記載から認定される事項
上記ア(イ)の図1によれば、鉄骨大梁2の上フランジにはスラブ4が設けられていることが看取できる。
ウ 甲2に記載された技術事項
上記ア及びイから、甲2には、以下の技術事項が記載されていると認められる。
「柱1間に鉄骨大梁2が架設され、同大梁間に鉄骨小梁3が架設され、鉄骨大梁2の上フランジにはスラブ4が設けられており、
前記鉄骨大梁2には1スパン当り3個所程度スチフナー5が夫々上下フランジ及びウエブに亘って配設され、同大梁2が補剛され、部材耐力及び変形性能に比して増大し、同大梁2の横座屈が防止される鉄骨梁の横座屈防止構造。」(以下「甲2記載の技術事項」という。)
(3)甲3について
ア 甲3の記載
(ア)「
[図:0001404854000007.jpg]
」(p.123)
(イ)「
[図:0001404854000008.jpg]
」(p.124)
(ウ)「
[図:0001404854000009.jpg]
」(p.128)
(エ)「
[図:0001404854000010.jpg]
」(p.129)
イ 甲3の記載から認定される事項
(ア)上記ア(ア)の例図2.1によれば、鉄骨はH型であることが看取できる。
(イ)上記ア(ア)の例図2.1によれば、大梁は両端を柱に接合していることが看取できる。
(ウ)上記ア(ア)の例図2.1によれば、大梁間に小梁を設けていることが看取できる。
ウ 甲3に記載された技術事項
上記ア及びイから、甲3には、以下の技術事項が記載されていると認められる。
「大梁間に小梁を設け、大梁は両端を柱に接合し、上フランジは床スラブに緊結されたSN490B鋼を用いた鉄骨の大梁において、長期時に不完全合成梁として設計したときに配置間隔が230mmであり、地震時の完全合成梁となるように設計した場合は頭付きスタッドの間隔は434mmであるときに200mmの間隔で配置すること。」(以下「甲3記載の技術事項」という。)
第4 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)本件発明1の「両端部が柱に剛接合される」ことと、甲1発明の「両端が柱に接合され」ることとは、「両端部が柱に」「接合される」点で共通する。
(イ)甲1発明の鉄骨梁は、BH-600x175xtwx16(SN490B)を用いており、BHはビルドエッチの略であって鉄板を溶接して組み合わせてHの形に作るH形鋼のことであることは技術常識であるから、H形断面であるといえる。
(ウ)甲1発明では、頭付きスタッドを配し完全合成梁に必要な本数を満足していることから、頭付きスタッドにより鉄骨梁の上フランジと床スラブは接合されていることは技術常識から明らかである。
(エ)甲1発明では、スラブコンクリートには普通コンクリートを用いていることから、甲1発明の「床スラブ」は、本件発明1の「コンクリート床スラブ」に相当する。
(オ)甲1発明では、梁スパンは9600mmで、BH-600x175xtwx16であるから、λw=9600/(600-16)=16.4である。そうすると、甲1発明は、15<λw≦30を満たしているといえる。
(カ)甲1発明は、材質がSN490Bであるから、490N級鋼であって、鉄骨梁全長にわたって均等間隔で横補剛を設ける場合において、横座屈補剛が不要である鉄骨梁の弱軸に関する細長比の上限を定める係数Aは、130である(本件特許の特許掲載公報の【0010】参照)。
ここで、甲1発明では、試験体の細長比が強軸に関するものか、弱軸に関するものか明記はないものの、横座屈性状に関する研究に用いたものであるから、細長比は、弱軸に関するものであることは技術常識から明らかである。
そうすると、甲1発明は、A(=130)<λy(=252又は232)を満たしているといえる。
(キ)甲1発明では、合成率は1.91であり、合成率は、完全合成梁の頭付きスタッド所要本数に対する合成梁の頭付きスタッドの配置本数のことであるから、甲1発明は1.91倍であり、本件発明1の「前記頭付きスタッドの本数が、逆対称曲げモーメント分布時に完全合成梁として必要とされる本数の2倍以上と」することと、甲1発明の「鉄骨梁は、」「合成率が1.91で」あることとは、「前記頭付きスタッドの本数が、逆対称曲げモーメント分布時に完全合成梁として必要とされる本数の所定倍以上と」する点で共通する。
(ク)甲1発明では、「No.2-Lは,梁端には板厚9mmの縦リブを390mm間隔で2箇所配し、No.2-Rは,板厚9mmの縦リブを240mm間隔で4箇所配し」ており、「端部を縦リブ補強した」鉄骨梁であるから、各「縦リブ」は、鉄骨梁の上下フランジに繋がるように接合されていることは技術常識から明らかである。
そうすると、甲1発明の「縦リブ」は、本件発明1の「縦スチフナ」に相当する。
(ケ)甲1発明では、「No.2-Lは,梁端には板厚9mmの縦リブを390mm間隔で2箇所配し、No.2-Rは,板厚9mmの縦リブを240mm間隔で4箇所配」されているから、縦リブは、No.2-L及びNo.2-Rともに、梁の長さの0.2倍(9600×0.2=1920mm)以下のピッチで配されており、柱に最も近い縦リブは、梁長さの0.125倍(9600×0.125=1200mm)以下となるように配されている。
そうすると、本件発明1の「前記鉄骨梁の上下フランジを繋ぐように接合された縦スチフナが、前記鉄骨梁の全長にわたって梁長さの0.2倍以下のピッチで、かつ前記柱に最も近い前記縦スチフナと前記柱との距離が梁長さの0.125倍以下となるように設けられている」ことと、甲1発明の「No.2-Lの試験体は、細長比が252、No.2-Rの試験体は、細長比が231であって、No.2-Lは,梁端には板厚9mmの縦リブを390mm間隔で2箇所配し、No.2-Rは,板厚9mmの縦リブを240mm間隔で4箇所配」することとは、「前記鉄骨梁の上下フランジを繋ぐように接合された縦スチフナが、前記鉄骨梁の梁端に梁長さの0.2倍以下のピッチで、かつ前記柱に最も近い前記縦スチフナと前記柱との距離が梁長さの0.125倍以下となるように設けられている」点で共通する。
上記(ア)~(ケ)をふまえると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「両端部が柱に接合されると共に横座屈補剛部材が設けられていないH形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上フランジの全長に亘って設けられた頭付きスタッドを介して接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁であって、
前記鉄骨梁は、梁長さと上下フランジの板厚中心間距離の比であるλwが15<λw≦30で、前記鉄骨梁の弱軸に関する細長比λyがA<λyであり、
前記頭付きスタッドの本数が、逆対称曲げモーメント分布時に完全合成梁として必要とされる本数の所定倍以上とし、
前記鉄骨梁の上下フランジを繋ぐように接合された縦スチフナが、前記鉄骨梁の梁端に梁長さの0.2倍以下のピッチで、かつ前記柱に最も近い前記縦スチフナと前記柱との距離が梁長さの0.125倍以下となるように設けられている床スラブ付き鉄骨梁。
ただし、Aは、鉄骨梁全長にわたって均等間隔で横補剛を設ける場合において、横座屈補剛が不要である鉄骨梁の弱軸に関する細長比の上限を定める係数である。」
<相違点1>
「鉄骨梁」の「両端部」の「柱」に対する接合に関して、
本件発明1では、「剛接合」されているのに対して、
甲1発明では、どのように接合されているのかが明記されていない点。
<相違点2>
「頭付きスタッドの本数」に関して、
本件発明1では、「逆対称曲げモーメント分布時に完全合成梁として必要とされる本数の2倍以上」であるのに対して、
甲1発明では、「合成率が1.91で」ある点。
<相違点3>
「縦スチフナ」に関して、
本件発明1では、「前記鉄骨梁の全長にわたって」「設けられている」のに対して、
甲1発明では、「鉄骨梁」の「梁端に」「配し」ている点。
イ 判断
事案に鑑みて、上記相違点3について、まず検討する。
甲2記載の技術事項の「スチフナー5」、「鉄骨大梁2」は、それぞれ本件発明1の「縦スチフナ」、「鉄骨梁」に相当する。
また、甲2記載の技術事項では「前記鉄骨大梁2には1スパン当り3個所程度スチフナー5が夫々上下フランジ及びウエブに亘って配設され」ていることから、「スチフナー5」は、「鉄骨大梁2」の全長に0.25倍程度のピッチで、また、柱に最も近いスチフナー5と柱との距離は梁長さの0.25倍程度となるように配設されているといえる。
そうすると、本件発明1と甲2記載の技術事項では、「縦スチフナが、前記鉄骨梁の全長にわたって」「設けられている」点で共通しているといえるが、「縦スチフナが、前記鉄骨梁の全長にわたって梁長さの0.2倍以下のピッチで、かつ前記柱に最も近い前記縦スチフナと前記柱との距離が梁長さの0.125倍以下となるように設けられていること」については記載も示唆もされておらず、縦スチフナのピッチ及び柱に最も近い縦スチフナと柱との距離については相違している。
そして、甲1発明は、「鉄骨梁」の「梁端に」「縦リブを」「2箇所」又は「4箇所」「配」することで「端部を縦リブ補強」する「床スラブ付き鉄骨梁」であるから、甲2記載の技術事項の「1スパン当り3個所程度スチフナー5が夫々上下フランジ及びウエブに亘って配設」されて鉄骨大梁2が補剛されることとは、「縦リブ」と「スチフナ-5」を設けた位置の違いを踏まえると、梁をどのように補強するかの思想が異なっており、そのような甲2記載の技術事項のうちの一部(スチフナー5を鉄骨大梁2の全長にわたって設ける点)のみを甲1発明の縦リブのピッチ等を維持した状態で適用する動機付けがあるとはいえない。
よって、甲1発明及び甲2記載の技術事項に基づいて、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、仮に、甲2記載の技術事項のうちスチフナー5を鉄骨大梁2の全長にわたって設ける点のみを甲1発明に適用することができたとしても、その場合は、甲1発明において、全長にわたって1スパン当たり3個程度の縦リブを設けることとなり、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
さらに、申立人が提出した甲3~甲5をみても、相違点3に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
ウ 申立人の主張について
申立人は上記相違点3(当審注:申立書では「相違点2」に対応している。)について、次の主張をしている。
「(エ)相違点2について
甲2号証には鉄骨梁にスチフナーを設けることにより横座屈補剛部材をなくすことができると記載されている([0005]、[0008])。従って、甲1号証と効果が同じであるから、甲1号証に甲2号証を組み合わせることに阻害要因はなく何ら困難性もない。
そして、甲2号証には、鉄骨梁の全長にわたってスチフナーを設けたことが記載されている。
甲1号証のNo.2試験体は鉄骨梁の端部から960mm(梁長さの0.1倍の長さ)の間に240mm(梁長さの0.0125倍)のピッチで4個のスチフナが設置されている。してみると、甲1号証のNo.2試験体の鉄骨梁に甲2号証を組み合わせることにより、No.2試験体の鉄骨梁のスチフナを鉄骨梁の全長にわたって配置することは、当業者であれば容易に想到されることである。
ここで、甲2号証のスチフナの設置ピッチは鉄骨梁長さの0.25倍(1スパン当たり3個所程度)であるから、本件請求項1とはピッチが異なる。しかし、本件請求項1発明のスチフナの取付けピッチは、単に実施例1で解析した際の数値に過ぎず、「0.2倍」の数値自体に特段の意義があるわけではないことは明白である、従って、スチフナの取り付けピッチは当業者が適宜設定する事項に過ぎない。
以上のことから、相違点2は甲1号証に甲2号証を組み合わせることにより、当業者であれば、容易に想到できることであると思料する。」(申立書18頁10行~27行)
しかしながら、上記イで説示したとおり、甲1発明に、甲2記載の技術事項を適用する動機付けがあるとはいえないし、仮に適用することができたとしても、全長にわたって1スパン当り3個所程度設けるものとなって、相違点3に係る本件発明1の構成とはならないから、申立人の主張には理由がない。
エ 小括
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2記載の技術事項、甲3記載の技術事項及び甲4~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(1)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明3について
本件発明3は、「床スラブ付き鉄骨梁の補強方法」の発明であるが、本件発明1の「床スラブ付き鉄骨梁」を補強方法の発明として特定したものであり、本件発明1とカテゴリーが相違するのみで、実質的な発明特定事項は本件発明1と同じである。
したがって、上記(1)と同様の理由により、本件発明3は甲1発明、甲2記載の技術事項、甲3記載の技術事項及び甲4~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由1(進歩性)についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)判断
本件発明1についての記載は上記第2のとおりである。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0008】~【0009】によると、本件発明1の解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は「鉄骨梁が長い場合であっても、横座屈防止用の小梁、孫梁等を設けることなく、横座屈による鉄骨梁の上フランジの構面外変形を拘束して十分な変形能力を確保できる床スラブ付き鉄骨梁およびその設計方法を提供すること」である。
そして、発明の詳細な説明の【0013】には、「本発明によれば、梁長さが長い鉄骨梁においても、頭付きスタッドを介してコンクリート床スラブと接合すると共に縦スチフナを設けることで、横座屈防止用の小梁、孫梁、アングルを省略しても、地震時に十分な変形能力を発揮することができる。」と記載され、【0017】~【0022】には、鉄骨梁に関する事項が記載され、【0023】には、コンクリート床スラブに関する事項が記載され、【0024】~【0025】には、頭付きスタッドに関する事項が記載され、【0026】~【0027】には、縦スチフナに関する事項が記載され、【0028】には、「上記のように構成された本実施の形態の床スラブ付き鉄骨梁1であれば、鉄骨梁5は長い場合で、小梁45やアングル47等の横座屈補剛部材がない場合であっても、横座屈による鉄骨梁5の上フランジ7の構面外変形を拘束して十分な変形能力を確保できる。」と記載され、少なくとも、
「前記鉄骨梁は、梁長さと上下フランジの板厚中心間距離の比であるλwが15<λw≦30で、前記鉄骨梁の弱軸に関する細長比λyがA<λyであり、
前記頭付きスタッドの本数が、逆対称曲げモーメント分布時に完全合成梁として必要とされる本数の2倍以上とし、
前記鉄骨梁の上下フランジを繋ぐように接合された縦スチフナが、前記鉄骨梁の全長にわたって梁長さの0.2倍以下のピッチで、かつ前記柱に最も近い前記縦スチフナと前記柱との距離が梁長さの0.125倍以下となるように設けられていることを特徴とする床スラブ付き鉄骨梁。
ただし、Aは、鉄骨梁全長にわたって均等間隔で横補剛を設ける場合において、横座屈補剛が不要である鉄骨梁の弱軸に関する細長比の上限を定める係数である。」
として構成された床スラブ付き鉄骨梁であれば、鉄骨梁5が長い場合で、小梁45やアングル47等の横座屈補剛部材がない場合であっても、横座屈による鉄骨梁5の上フランジ7の構面外変形を拘束して十分な変形能力を確保できることが記載されているといえる。
また、【0032】~【0038】では、その数値範囲内にある床スラブ付き鉄骨梁について、横座屈による鉄骨梁5の上フランジ7の構面外変形を拘束して十分な変形能力を確保できることが記載されている。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)申立人の主張について
申立人は、次の主張をしている。
「本件請求項1に記載の発明(本件請求項1発明)において、縦スチフナは以下の2つの要件を満足する必要がある。
・鉄骨梁の全長にわたって梁長さの0.2倍以下のピッチであること(以下、この要件を「0.2L以下ピッチ」とよぶ。)。・柱に最も近い縦スチフナと柱との距離が梁長さの0.125倍以下であること。
設けられていること(以下、この要件を「梁端0.125L以下位置」とよぶ。)。」(申立書25頁3行~8行)
「しかし、請求項1の要件である「0.2L以下ピッチ」の「0.2Lピッチ」、および「梁端00.125L以下位置」の「0.125L」の数値のもつ意義については説明されていない。想像するに、「0.2Lピッチ」はケース4のピッチを、「0.125L」はケース3の梁端からの位置を根拠に設定したものと思われる。
ここで懸念されるのは、「0.2Lピッチ」で「梁端0.125L位置」の両方を満たす実施例がないことである。例えばケース4は「0.2Lピッチ」で「梁端0.1L位置」になっており、ケース3は「0.15Lピッチ」で「梁端0.125L」になっている。
図4と図5を「0.2L以下ピッチ」と「梁端0.125以下位置」の根拠とするのであれば、負曲げ側の梁の最大耐力(Mmax)を全塑性モーメント(Mp)で基準化したもの(図4の縦軸)と、負曲げ側の梁の最大耐力時の塑性変形倍率(Rmax)(図5の縦軸)のそれぞれが、どの値を基準値として課題解決と見なせるのかが示されていない。基準値が示されていない中で課題が解決したかどうかは、当業者といえども理解できない。
また、ケース3とケース4を対比すると、ピッチは広がり、梁端からの距離は狭まっているが、図5の変形能力はほぼ同じ値である。これはピッチと梁端からの距離の関係で相殺されているとも考えられる。とすると、「0.2Lピッチ」「梁端0.125L位置」にしたときに、変形能力がケース3の場合より悪化されることも否定できない。とすると、課題解決判断の基準値がない中で、耐力も変形能力も高い方を良しとして課題が解決されると判断するのであれば、「0.2Lピッチ」「梁端0.125L位置」にしたときに課題が解決されるかどうかは判断できないということになる。
さらに、そもそも図4や図5および実施例は、図3の解析モデルに[0034]に記載の梁形状や材料特性を適用した極めて特殊な条件でのFEM解析で求めたものであることから、この特殊条件のみ当てはまる特殊解であることは、当業者であれば容易に理解できる。とすると、縦スチフナに関する請求項1の要件である「0.2L以下ピッチ」と「梁端0.125L以下位置」を満たすだけでは、当業者といえども、全ての床スラブ付鉄骨梁において課題が解決されるかどうかは理解できない。」(申立書26頁7行~27頁2行)
しかしながら、本件発明1は、上記(2)で述べたとおり、「頭付きスタッドを介してコンクリート床スラブと接合する」と共に「縦スチフナを設けること」により、発明の詳細な説明に記載の発明の課題を解決するものであって、請求項1の要件である「0.2L以下ピッチ」と「梁端0.125L以下位置」についてみると、それぞれ、ケース3及びケース4(【0033】)に記載されたものである。
そして、例えばケース3は、「梁端から0.125Lの位置」と「0.15Lのピッチで梁全体にわたって」縦スチフナを設けたものであるところ、「梁全体にわたって」「0.20のピッチ」とした場合に、ケース3と比較して変形能力が若干変化する可能性があるとしても、ケース1の縦スチフナ15無しのものや、ケース2の梁端から0.125Lの位置のみに縦スチフナ15を設けたもの(【0033】)と比べ、発明の課題を解決することができることは十分に理解できる。
また、本件明細書に記載された実施例は、基本とする梁の形状が1種類であったとしても特段、特殊な条件下で求められたものとも認められず、請求項1の上記の要件を導き出すにあたって、少なくとも2つのケース(ケース3及びケース4)を根拠とするものであるから、上記の要件を満たすことにより、発明の課題を解決するものと理解できる。
以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
3 申立理由3(明確性)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)本件発明2について
本件発明2についての記載は上記第2のとおりであって、それ自体に不明確な記載は見当たらないし、本件明細書の記載や図面とも整合することを踏まえると、請求項2の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、請求項2のうち、「鉄骨梁の横座屈細長比λb=√(Mp/Me)が、0.5<λb≦0.54を満足すること」に関して、次の主張をしている。
「ところで、例えばλb=0.54の場合、小数点以下を四捨五入するとλb=0.5となり、0.5<λbの不等式からこの範囲に入らないことになる。一方でλb≦0.54の不等式からは、当然に、この範囲に入ることになる。即ち、λb=0.54においてこの不等式は矛盾をはらむことから式として成立しない。
とすると、少なくともλb=0.54の場合の床スラブ付鉄骨梁が請求項2に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていないことは明白である。」(申立書27頁20行~25行)
しかしながら、「例えば、λb=0.54の場合、小数点以下を四捨五入するとλb=0.5となり」との申立人の主張において、小数点以下第2位を四捨五入しているようであるが、請求項2に記載されたλbの範囲の最大値が0.54と小数点以下第2位まで特定されていることから、上記の範囲と比較する際に、λbの値の小数点以下第2位自体を四捨五入することは、通常行われないことである。
また、小数点以下第2位を四捨五入することは、本件明細書にも記載されておらず、上記検討からみても、小数点以下第2位を四捨五入することを前提とする上記主張は意味不明であって採用することはできない。
(4)小括
以上のとおりであるから、申立理由3はその理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700927