特許異議申立
2023-701235
笠木用換気装置
- 審判番号
- 2023-701235
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-201531
- 登録番号
- 7279950
- 請求日
- 2023年11月22日
- 審決日
- 2025年02月07日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社トーコー
- 【権利者代理人】阿部 伸一
- 【権利者代理人】太田 貴章
- 【異議申立人】菅野 正
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 ▲吉▼川 康史
- 審判官 ▲高▼橋 祐介
- 分類
- P1651.121-YAA(E04B) / P1651.537-YAA(E04B) / P1651.55 -YAA(E04B) / P1651.536-YAA(E04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7279950号発明「笠木用換気装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7279950号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第7279950号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7279950号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、令和2年12月4日に出願され、令和5年5月15日にその特許権の設定登録がされ、同月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年11月22日に特許異議申立人菅野正(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和6年3月5日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年4月23日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、同年9月19日に意見書を提出した。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第7279950号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1~2について訂正することを求める、というものである。
請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「建造物の外壁下地材の上部に配置される上枠材と、前記外壁下地材の外面に配置される通気胴縁と、前記通気胴縁の外面に配置される外壁材と、前記上枠材及び前記外壁材の上方を覆う笠木とを有するパラペットに用いられ、前記外壁材と前記笠木との間に配置されて前記通気胴縁を上昇した空気を換気孔から排出する笠木用換気装置であって、
前記外壁材と前記笠木との間に配置される換気部材が、
換気部材底面板の前端から立ち上げた換気部材前面板と、
前記換気部材前面板の上端から後方に延出させた換気部材天面板と、
前記換気部材底面板の後端側から立ち上げた内部防水壁と
からなり、
前記換気部材前面板には、前記換気孔が形成され、
前記換気孔を、高さ方向が幅方向より短い長孔とし、
前記換気部材前面板の幅方向に前記換気孔が複数形成され、
前記換気部材底面板と前記換気部材天面板との間に、前記通気胴縁を上昇した前記空気が通過する換気通路が形成され、
前記内部防水壁を、前記換気通路に配置し、
前記内部防水壁の上端を前記内部防水壁の下端よりも前記換気部材前面板に近接させ、
前記内部防水壁の前記上端を、前記換気孔よりも高い位置とした
ことを特徴とする笠木用換気装置。」と記載されているのを、
「建造物の外壁下地材の上部に配置される上枠材と、前記外壁下地材の外面に配置される通気胴縁と、前記通気胴縁の外面に配置される外壁材と、前記上枠材及び前記外壁材の上方を覆う笠木とを有するパラペットに用いられ、前記笠木は、前記上枠材及び前記外壁材の上部を覆う天面部と、前記天面部から垂下して前記外壁材の側方に配置される垂下部材とを有し、前記外壁材と前記笠木との間に配置されて前記通気胴縁を上昇した空気を換気孔から排出する笠木用換気装置であって、
前記外壁材と前記笠木との間に配置される換気部材が、
換気部材底面板の前端から立ち上げた換気部材前面板と、
前記換気部材前面板の上端から後方に延出させた換気部材天面板と、
前記換気部材底面板の後端側から斜めに立ち上げた内部防水壁と
からなり、
前記換気部材前面板には、前記換気孔が形成され、
前記換気孔を、高さ方向が幅方向より短い長孔とし、
前記換気部材前面板の幅方向に前記換気孔が複数形成され、
前記換気部材底面板と前記換気部材天面板との間に、前記通気胴縁を上昇した前記空気が通過する換気通路が形成され、
前記内部防水壁を、前記換気通路に配置し、
前記換気部材前面板と前記垂下部材との間には換気部材側通気路が形成され、
前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至り、
前記内部防水壁を斜めに立ち上げることで前記内部防水壁の上端を前記内部防水壁の下端よりも前記換気部材前面板に近接させ、
前記内部防水壁の前記上端を、前記換気孔よりも高い位置とした
ことを特徴とする笠木用換気装置。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
イ 訂正事項1の詳細
訂正事項1の内容は具体的には次のとおりである(便宜上、訂正事項1における各訂正事項を、申立人が提出した意見書の記載に倣い、訂正事項Y1~Y5として区分した。)。
(ア)訂正事項Y1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記上枠材及び前記外壁材の上方を覆う笠木とを有するパラペットに用いられ、」の後に「前記笠木は、前記上枠材及び前記外壁材の上部を覆う天面部と、前記天面部から垂下して前記外壁材の側方に配置される垂下部材とを有し、」を加える。
(イ)訂正事項Y2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記換気部材底面板の後端側から立ち上げた内部防水壁と」と記載されているのを、「前記換気部材底面板の後端側から斜めに立ち上げた内部防水壁と」に訂正する。
(ウ)訂正事項Y3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記内部防水壁を、前記換気通路に配置し、」の後に「前記換気部材前面板と前記垂下部材との間には換気部材側通気路が形成され、」を加える。
(エ)訂正事項Y4
訂正事項Y3に続けて、「前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至り、」を加える。
(オ)訂正事項Y5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記内部防水壁の上端を前記内部防水壁の下端よりも前記換気部材前面板に近接させ、」と記載されているのを、「前記内部防水壁を斜めに立ち上げることで前記内部防水壁の上端を前記内部防水壁の下端よりも前記換気部材前面板に近接させ、」に訂正する。
ウ 一群の請求項
本件訂正前の請求項1、2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、2に対応する訂正後の請求項1、2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。
(2)訂正の目的の適否
訂正事項1に係る訂正は、
訂正事項Y1では、本件訂正前の請求項1における「笠木」について、「前記笠木は、前記上枠材及び前記外壁材の上部を覆う天面部と、前記天面部から垂下して前記外壁材の側方に配置される垂下部材とを有し、」との記載を加えることにより、「笠木」を減縮し、
訂正事項Y3及びY4では、令和6年3月5日に通知した取消理由(以下、単に「取消理由」という。)における、本件訂正前の請求項1に記載された「内部防水壁」の技術的意味を当業者が理解することができない旨の明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)の指摘に対し、発明の技術的意味が不明瞭となっていた記載等を正し、その記載内容を明確にするために、訂正事項Y1で「笠木」について減縮した「垂下部材」との関係から、「前記換気部材前面板と前記垂下部材との間には換気部材側通気路が形成され、」(訂正事項Y3)及び「前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至り、」(訂正事項Y4)との記載を加えることにより、「内部防水壁」の技術的意味を明確にするとともに減縮し、
訂正事項Y2及びY5では、本件訂正前の請求項1における「内部防水壁」について、換気部材底面板の後端側から「斜めに」立ち上げたこと(訂正事項Y2)、及び、内部防水壁の上端を内部防水壁の下端よりも換気部材前面板に近接させるための構成が、具体的には、「内部防水壁を斜めに立ち上げることで」(訂正事項Y5)あることを減縮するものである。
してみれば、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(3)新規事項の有無
ア 訂正事項Y1について
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)には、次の事項が記載されるから、訂正事項Y1は、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである(下線は合議体が付した。以下同様。)。
「【0012】
図1(c)に示す建造物のパラペット80は、外壁下地材81の上部に配置される上枠材82と、外壁下地材81の外面に配置される通気胴縁83と、通気胴縁83の外面に配置される外壁材84と、上枠材82及び外壁材84の上方を覆う笠木85とを有している。
笠木85は、上枠材82及び外壁材84の上部を覆う天面部85aと、天面部85aから垂下して外壁材84の側方に配置される垂下部材85bとを有している。
本実施例による笠木用換気装置は、建造物の外壁材84の上方で、外壁材84より外方に配置される垂下部材85bより内方に配置される。」
イ 訂正事項Y3及びY4について
(ア)訂正事項Y3及びY4について、特許明細書等には次の事項が記載されている。
「【0016】
図2は図1(c)の要部拡大断面図である。
本実施例による笠木用換気装置は、見切縁上面板11の奥行寸法L1を外壁材84の厚さL2よりも大きくすることで、見切縁前面板12と外壁材84との間に水切空間Bを形成している。
また、本実施例による笠木用換気装置は、見切縁上面板11の前端は、換気部材底面板21の前端より前方に突出させている。そして、見切縁前面板12と垂下部材85bとの間には、気密部材側通気路Cが形成され、換気部材前面板22と垂下部材85bとの間には、換気部材側通気路Dが形成される。
従って、換気部材側通気路Dは、気密部材側通気路Cよりも、通気路奥行き寸法が大きく、換気部材側通気路Dと気密部材側通気路Cとの通気路奥行き寸法を異ならせている。
【0017】
本実施例によれば、内部防水壁25の上端を内部防水壁25の下端よりも換気部材前面板22に近接させ、内部防水壁25の上端を、換気孔27よりも高い位置とすることで、換気孔27から流入する雨水を換気部材後面板24に至ることを防止できる。
また、本実施例によれば、第1防水パッキン31により見切縁上面板11と換気部材底面板21との間の防水を行い、第2防水パッキン32により見切縁後面板13の前面と外壁材84との間の防水を行うため、外壁材84の上端と換気部材20との間での防水性能を確保でき、外壁材84に沿って上昇する雨水は、水切空間Bに導かれ、見切縁前面板12に沿って落下するために、換気部材前面板22には導かれず、換気孔27から換気通路Aに流入しないので防水性能に優れる。
【0018】
また、本実施例によれば、雨水は、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇しなければ換気孔27に至らないため、換気通路Aに流入しにくく、更に防水性に優れる。
また、本実施例によれば、換気部材側通気路Dと気密部材側通気路Cとの通気路奥行き寸法を異ならせることで、雨水の流速が変化するため乱流が発生し、雨水は換気通路Aに流入しにくい。」
「【0023】
本実施例によれば、内部防水壁25の上端を内部防水壁25の下端よりも換気部材前面板22に近接させ、内部防水壁25の上端を、換気孔27よりも高い位置とすることで、換気孔27から流入する雨水を換気部材後面板24に至ることを防止できる。・・・」
「
[図:0001422400000001.jpg]
」
「
[図:0001422400000002.jpg]
」
(イ)訂正事項Y3について、特許明細書等の【0016】には、上で摘記したとおり、「換気部材前面板22と垂下部材85bとの間には、換気部材側通気路Dが形成される。」と記載されるから、訂正事項Y3は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(ウ)訂正事項Y4について、特許明細書等の【0018】には、上で摘記したとおり、「また、本実施例によれば、雨水は、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇しなければ換気孔27に至らないため、換気通路Aに流入しにくく、更に防水性に優れる。
また、本実施例によれば、換気部材側通気路Dと気密部材側通気路Cとの通気路奥行き寸法を異ならせることで、雨水の流速が変化するため乱流が発生し、雨水は換気通路Aに流入しにくい。」と記載され、特許明細書等に記載された実施例について、前段では、雨水は、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇した雨水が換気孔27に至り換気通路Aに流入する可能性があることを指摘しつつ、後段では、換気部材側通気路Dと気密部材側通気路Cとの通気路奥行き寸法を異ならせることで、雨水の流速が変化するため乱流が発生し、雨水が換気通路Aに流入しにくい構成を採用していることを説明していると理解される。そして、【0017】の「換気孔27から換気通路Aに流入しないので防水性能に優れる。」という記載に照らせば、換気孔27は換気通路Aに流入する経路にあることは明らかである。
そうすると、特許明細書等に記載された実施例について、【0018】の前段及び後段のいずれも、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇した雨水が換気孔27に至り換気通路Aに流入し難くするための構成を採用するが、雨水が換気通路Aに流入する可能性があることを否定するものではないから、特許明細書等には、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇した雨水は、少なくとも換気孔27に至る場合があることが記載されていると認められる。
してみれば、本件訂正前の請求項1に「前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至り、」との記載を加える訂正事項Y4は、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 訂正事項Y2及びY5について
(ア)訂正事項Y2及びY5について、特許明細書等には次の事項が記載されている。
「【0014】
換気部材20は、気密部材10の上面となる見切縁上面板11の上面に対向して配置される換気部材底面板21と、換気部材底面板21の前端から立ち上げた換気部材前面板22と、換気部材前面板22の上端から後方に延出させた換気部材天面板23と、換気部材天面板23の後端から垂下させた換気部材後面板24と、換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25とからなる。
換気部材前面板22には、換気孔27が形成されている。換気孔27は、高さ方向が幅方向より短い長孔であり、幅方向に複数形成されている。
換気部材底面板21より上方であって換気部材天面板23より下方で、換気部材前面板22の後方であって換気部材後面板24の前方に換気通路Aが形成される。
内部防水壁25は、換気通路Aに設けている。
内部防水壁25の上端は、内部防水壁25の下端よりも換気部材前面板22に近接させ、内部防水壁25の上端は、換気孔27よりも高い位置としている。」
(イ)ここで、【0014】に「換気部材底面板21の前端から立ち上げた換気部材前面板22」及び「換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25」と記載されていることを踏まえると、上記イ(ア)に摘記した図2より、換気部材底面板21の前端から立ち上げた換気部材前面板22と換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25とを有し、換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25は換気部材底面板21の前端から立ち上げた換気部材前面板22に向けて斜め上方に延出するとともに、内部防水壁25の上端は換気部材底面板21の後端と前端の略中央部の上方に位置することが看取される。そして、内部防水壁25の下端は、内部防水壁25が立ち上がる箇所である、換気部材底面板21の後端と内部防水壁25との境界となる箇所であるから、換気部材底面板21の後端と前端の略中央部の上方に位置する内部防水壁25の上端は、内部防水壁25の下端よりも換気部材前面板22に近い位置にあることは明らかである。
そうすると、特許明細書等には、換気部材底面板21の前端から立ち上げた換気部材前面板22と換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25とを有し、換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25は換気部材底面板21の前端から立ち上げた換気部材前面板22に向けて斜め上方に延出するとともに、換気部材底面板21の後端と前端の略中央部の上方に位置する内部防水壁25の上端は、内部防水壁25の下端よりも換気部材前面板22に近い位置にあることが記載されていると認められる。
(ウ)したがって、本件訂正前の請求項1における「内部防水壁」について、換気部材底面板の後端側から「斜めに」立ち上げたとする訂正事項Y2、及び、内部防水壁の上端を内部防水壁の下端よりも換気部材前面板に近接させるための構成が、具体的には、「内部防水壁を斜めに立ち上げることで」あるとする訂正事項Y5は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
エ 新規事項の有無についてのまとめ
上記ア~ウで検討したとおり、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(2)に判断を示したとおり、訂正事項Y1~Y5はいずれも、特許請求の範囲の減縮を目的として含み、かつ、本件訂正前の請求項1を減縮する事項であるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。また、符号X1等は分説のため合議体が付した。
本件発明1
「X1 建造物の外壁下地材の上部に配置される上枠材と、前記外壁下地材の外面に配置される通気胴縁と、前記通気胴縁の外面に配置される外壁材と、前記上枠材及び前記外壁材の上方を覆う笠木とを有するパラペットに用いられ、
Y1 前記笠木は、前記上枠材及び前記外壁材の上部を覆う天面部と、前記天面部から垂下して前記外壁材の側方に配置される垂下部材とを有し、
X2 前記外壁材と前記笠木との間に配置されて前記通気胴縁を上昇した空気を換気孔から排出する笠木用換気装置であって、
X3 前記外壁材と前記笠木との間に配置される換気部材が、
X4 換気部材底面板の
X5 前端から立ち上げた換気部材前面板と、
X6 前記換気部材前面板の上端から後方に延出させた換気部材天面板と、
X7Y2 前記換気部材底面板の後端側から斜めに立ち上げた内部防水壁と
からなり、
X8 前記換気部材前面板には、前記換気孔が形成され、
X9 前記換気孔を、高さ方向が幅方向より短い長孔とし、
X10 前記換気部材前面板の幅方向に前記換気孔が複数形成され、
X11 前記換気部材底面板と前記換気部材天面板との間に、前記通気胴縁を上昇した前記空気が通過する換気通路が形成され、
X12 前記内部防水壁を、前記換気通路に配置し、
Y3 前記換気部材前面板と前記垂下部材との間には換気部材側通気路が形成され、
Y4 前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至り、
X13Y5 前記内部防水壁を斜めに立ち上げることで前記内部防水壁の上端を前記内部防水壁の下端よりも前記換気部材前面板に近接させ、
X14 前記内部防水壁の前記上端を、前記換気孔よりも高い位置とした
X01 ことを特徴とする笠木用換気装置。」
本件発明2
「X15 前記換気部材前面板は前記外壁材より前方に位置する
X02 ことを特徴とする請求項1に記載の笠木用換気装置。」
4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和6年3月5日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 理由1(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
イ 理由2(明確性)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
請求項1:甲第1号証
請求項2:甲第1号証、甲第6号証
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2016-89577号公報
甲第6号証:特開2012-102486号公報
(2)理由1(進歩性)について
(2-1)甲第1号証に記載された事項、甲1発明
ア 記載事項等
本願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(特開2016-89577号公報、以下「甲1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は合議体が付した。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋上やベランダの外壁として用いられるパラペットに設置するパラペット用換気装置に関する。」
「【実施例】
【0013】
以下本発明の一実施例によるパラペット用換気装置について説明する。
図1は本実施例によるパラペット用換気装置の要部断面図である。
本実施例によるパラペット用換気装置は、建物の屋上やベランダの外壁として用いられるパラペット10に設置される。
パラペット10は、構造用合板11の上部に配置される上枠材12と、構造用合板11の外面に配置される通気胴縁13と、通気胴縁13の外面に配置される外壁14と、上枠材12及び外壁14の上方を覆う笠木15とを有している。
笠木15は、上枠材12及び外壁14の上部を覆う天面部15aと、天面部15aから垂下して外壁14の側方に配置される垂下部15bとを有している。
換気部材20は、少なくとも一方の外壁14の上端に形成されるパラペット開放部30に配置される。換気部材20と構造用合板11との間にはスペーサー部材40を配置して通気路31を形成している。
換気部材20と外壁14との間には、シーリング材16を設けている。
垂下部15bの下端は、換気部材20の下端と同じ高さか、換気部材20の下端よりも下方に位置する。
・・・
【0015】
図2(a)に示すように、換気部材20本体は、上片21、外片22、下片23、及び内片24とで通気空間32を形成している。
図1に示すように、上片21は、上枠材12と天面部15aとの間に配置されてパラペット開放部30の上方を覆う。外片22は、垂下部15bの内方に配置されてパラペット開放部30の側方を覆う。下片23は、パラペット開放部30が形成されている位置の外壁14の上端の上方に配置される。内片24は、パラペット開放部30が形成されている位置の通気胴縁13の上方に配置される。
上片21、外片22、下片23、及び内片24は、1枚の板を折り曲げて形成される。
上片21と外片22との間には、段差部25を形成している。外片22には、多数の通気開口33を形成している。通気開口33の下端は、外片22の下端位置としている。
下片23は、外片22側が下方となるように傾斜している。内片24の上端には、外片22に向けた折り曲げ片24aを形成している。内片24の上端は、通気開口33の上端より高い位置としている。
・・・
【0017】
図2(c)に示す遮蔽板26と、図2(d)に示す遮蔽板取り付け材27とから、図2(e)に示す遮蔽部材が構成される。遮蔽板26及び遮蔽板取り付け材27は、それぞれ1枚の板材から形成され、上片21、外片22、下片23、及び内片24とで構成される換気部材20本体と同程度の幅寸法である。
【0018】
図2(e)に示すように、遮蔽板26と遮蔽板取り付け材27との間に2ミリメートル以上の隙間を開け、テープ28を用いて接着固定する。テープ28は、長手方向(幅方向)と直行する方向にガラス繊維が配置された、耐折り曲げ性にすぐれた素材に粘着材が塗布されたものである。また、遮蔽板26には弾性材29を設けている。
【0019】
図3は本実施例によるパラペット用換気装置を示す図であり、図3(a)は同パラペット用換気装置を示す側面図、図3(b)は同パラペット用換気装置を示す要部正面図、図3(c)は同パラペット用換気装置を示す底面図である。
・・・
【0024】
・・・
本実施例によれば、外片22と笠木15の垂下部15bとの距離を確保できるため、笠木15の中心を上枠材12の中心にあわせて配置することができる。
図4(a)に示すように、通気胴縁13を上昇した空気は、通気路31及び通気空間32を通過して通気開口33から排出される。
【0025】
図4(b)に示すように、所定の風速以上の条件で通気開口33から空気が流入すると、遮蔽板26は変位し、遮蔽板26に設けた弾性材29が内片24に当接し、遮蔽板26によって通気空間32は遮断される。従って、外気の流入によって雨水が浸入することを防止することができる。」
「
[図:0001422400000003.jpg]
」
図1より、外壁14と傘木15との間にパラペット開放部30が形成されていることが看取される(認定事項1)。
「
[図:0001422400000004.jpg]
」
【0017】に、「・・・上片21、外片22、下片23、及び内片24とで構成される換気部材20本体と同程度の幅寸法である。」と記載され、【0021】に、「また、図3(b)に示すように、通気開口33の高さ寸法H1は、外片22の高さ寸法H2の50%以上、好ましくは64%以上とし、通気開口33の幅寸法W1は、隣り合う通気開口33の間の閉塞幅寸法W2の120%以上、好ましくは160%以上としている。・・・」と記載されていることを踏まえ、
図3(b)を併せみると、甲1には、通気開口33は、縦長の長方形であって、外片22の幅方向に複数設けられているといえる(認定事項2)。
また、図3(a)より、上片21と外片22との間に形成された段差部25から、下方に向けて、外片22と略平行に遮蔽板26が配置されていることが看取される(認定事項3)。
「【図4】(b)
[図:0001422400000005.jpg]
」
【0013】に、「笠木15は、上枠材12及び外壁14の上部を覆う天面部15aと、天面部15aから垂下して外壁14の側方に配置される垂下部15bとを有している。」と記載され、
【0015】に、「外片22は、垂下部15bの内方に配置されてパラペット開放部30の側方を覆う。・・・通気開口33の下端は、外片22の下端位置としている。」と記載され、
【0024】に、「外片22と笠木15の垂下部15bとの距離を確保できる」と記載されていることを踏まえ、
図4(b)を併せみると、笠木15の天面部15aから垂下した垂下部15bその内側に位置する外片22との間には距離を確保して空間が形成され、当該空間の下方となる垂下部15bの下端と外片22との間は開放されていることが看取される。
そうすると、甲1には、笠木15の天面部15aから垂下した垂下部15bと垂下部15bの内方に配置されてパラペット開放部30の側方を覆う外片22との間には距離を確保して空間が形成され、その空間の下方は開放されていることが記載されていると認められる(認定事項4)。
加えて、図4(b)より、上記認定事項4で認定した「空間」から「通気開口」を表す符号「33」が付された箇所に横方向に向いた矢印が記載されていることが看取され、
【0025】に、「図4(b)に示すように、所定の風速以上の条件で通気開口33から空気が流入すると、遮蔽板26は変位し、遮蔽板26に設けた弾性材29が内片24に当接し、遮蔽板26によって通気空間32は遮断される。従って、外気の流入によって雨水が浸入することを防止することができる。」と記載されていることを参酌すると、当該矢印は空気(外気)が流れる向きを示し、通気開口33から通気空間32に空気(外気)が流入し、かつ、空気(外気)には雨水が混ざっている場合があることを意味していると認められる。
さらに、【0013】に、「垂下部15bの下端は、換気部材20の下端と同じ高さか、換気部材20の下端よりも下方に位置する。」と記載されているとともに、図4(b)より、上記横方向に向いた矢印は、垂下部15bの下端よりも上部に位置することが看取されるから、認定事項4で認定した「空間」では、垂下部15bの下端と同じ高さで下方が開放されている空間の下側からその上方に位置する上記横方向に向いた矢印に向けて上方向に空気(外気)が流れる動きをするものと認められる。
これらの事項から、甲1には、垂下部15bの下端と同じ高さで下方が開放されている空間の下側から上方向に雨水が混ざっている場合がある空気(外気)が流れ、通気開口33から通気空間32に空気(外気)が流入することが記載されていると認められる(認定事項5)。
イ 甲1発明
上記「ア 記載事項等」より、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
甲1発明
「建物の屋上やベランダの外壁として用いられるパラペット10に設置されるパラペット用換気装置であって、
パラペット10は、構造用合板11の上部に配置される上枠材12と、構造用合板11の外面に配置される通気胴縁13と、通気胴縁13の外面に配置される外壁14と、上枠材12及び外壁14の上方を覆う笠木15とを有し、笠木15は、上枠材12及び外壁14の上部を覆う天面部15aと、天面部15aから垂下して外壁14の側方に配置される垂下部15bとを有し(【0013】)、
外壁14と傘木15との間にパラペット開放部30が形成され(認定事項1)、
換気部材20は、少なくとも一方の外壁14の上端に形成されるパラペット開放部30に配置され、換気部材20と構造用合板11との間にはスペーサー部材40を配置して通気路31を形成し、垂下部15bの下端は、換気部材20の下端と同じ高さか、換気部材20の下端よりも下方に位置し(【0013】)、
換気部材20本体は、上片21、外片22、下片23、及び内片24とで通気空間32を形成していて、
上片21は、上枠材12と天面部15aとの間に配置されてパラペット開放部30の上方を覆い、外片22は、垂下部15bの内方に配置されてパラペット開放部30の側方を覆い、下片23は、パラペット開放部30が形成されている位置の外壁14の上端の上方に配置され、内片24は、パラペット開放部30が形成されている位置の通気胴縁13の上方に配置され、上片21、外片22、下片23、及び内片24は、1枚の板を折り曲げて形成され、上片21と外片22との間には、段差部25を形成し、
外片22には、多数の通気開口33を形成し、通気開口33の下端は、外片22の下端位置としていて、下片23は、外片22側が下方となるように傾斜し、
内片24の上端には、外片22に向けた折り曲げ片24aを形成し、内片24の上端は、通気開口33の上端より高い位置としていて(【0015】)、通気開口33は、縦長の長方形であって、外片22の幅方向に複数設けられ(認定事項2)、
遮蔽板26と遮蔽板取り付け材27とから遮蔽部材が構成され、遮蔽板26及び遮蔽板取り付け材27は、それぞれ1枚の板材から形成され、上片21、外片22、下片23、及び内片24とで構成される換気部材20本体と同程度の幅寸法であって(【0017】)、遮蔽板26には弾性材29を設け(【0018】
)、上片21と外片22との間に形成された段差部25から、下方に向けて、外片22と略平行に遮蔽板26が配置され(認定事項3)、
笠木15の天面部15aから垂下した垂下部15bと垂下部15bの内方に配置されてパラペット開放部30の側方を覆う外片22との間には距離を確保して空間が形成され、その空間の下方は開放され(認定事項4)、
垂下部15bの下端と同じ高さで下方が開放されている空間の下側から上方向に雨水が混ざっている場合がある空気(外気)が流れ、通気開口33から通気空間32に空気(外気)が流入し(認定事項5)、
通気胴縁13を上昇した空気は、通気路31及び通気空間32を通過して通気開口33から排出され(【0024】)、所定の風速以上の条件で通気開口33から空気が流入すると、遮蔽板26は変位し、遮蔽板26に設けた弾性材29が内片24に当接し、遮蔽板26によって通気空間32は遮断され、外気の流入によって雨水が浸入することを防止することができる(【0025】)、
パラペット用換気装置(【0013】)。」
(2-2)甲6技術
本願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証(特開2012-102486号公報、以下「甲6」という。)には、次の技術(以下「甲6技術」という。)が記載されていると認められる。
甲6技術
「カバー部材3を取り付けたパラペット部1の上端付近に、換気本体2を取り付けて、パラペット部1の内部の気体を屋外へ排出して換気するパラペット換気構造(【0013】)において、
建物の屋上やベランダの外壁として用いられるパラペット部1の上端付近に、換気本体2を取り付けて(【0013】)、パラペット部1は、笠木4、縦胴縁5、柱体6a、6a、間柱6b、6b、外壁7、7とカバー部材3とからなり、
両側の柱体6a、6aの間に所定の間隔をもって適宜配置された間柱6b、6bの上側に平面状の部材である笠木4を取り付けて(【0014】)、
換気本体2を取り付けるパラペット部1には、屋内気を排出するためのパラペット開放部8が形成され、このパラペット開放部8は、パラペット部1の一方の外壁7の上端付近に形成され(【0015】)、換気本体2をこのパラペット開放部8に取り付け(【0016】)、
換気本体2は、枠部材11と閉塞部材31とからなり、両者を重ね合わせて固定し、一つの換気本体2として、枠部材11は箱状の部材である箱体部12と取付部13とからなり(【0018】)、
箱体部12は、上部水平板14、屋外側垂直板15、下部水平板16の3つの面からなり、その断面形状は略コの字状であって、箱体部12の長手方向の長さは、取り付けるパラペット部1の長さにより適宜決定され、箱体部12の上部水平板14は水平状であり、その屋外側から下方に垂直状に折曲して屋外側垂直板15を形成し、その面に複数の開口部19、19を形成し(【0019】)、屋外側垂直板15は、外壁7より屋外側に位置している(下記認定事項6)技術。」
なお、甲6技術の認定に際し、以下の事項を考慮した。
【0019】に、「・・・その屋外側から下方に垂直状に折曲して屋外側垂直板15を形成し、その面に複数の開口部19、19を形成し・・・」と記載され、この記載より、複数の開口部19、19は、屋外側垂直板15の面に形成されているといえる。そうすると、以下に摘記した図7において、図中、符号「19」が付された箇所は、「屋外側垂直板15」の面がある箇所を示している。
そうすると、図4と併せて図7をみると、図7より、屋外側垂直板15は、外壁7より屋外側に位置していることが看取される。
したがって、甲6には、屋外側垂直板15は、外壁7より屋外側に位置していることが記載されている(認定事項6)。
「
[図:0001422400000006.jpg]
」
(2-3)本件発明1についての対比
分説にしたがい、本件発明1と甲1発明を対比する
ア 特定事項X1について
甲1発明の「建物の屋上やベランダの外壁」、「構造用合板11」、「上部に配置される」こと、「上枠材12」、「外面に配置される」こと、「通気胴縁13」、「外面に配置される」こと、「外壁14」、「上方を覆う笠木15」、「パラペット10」はそれぞれ、本件発明1の「建造物」、「外壁下地材」、「上部に配置される」こと、「上枠材」、「外面に配置される」こと、「通気胴縁」、「外面に配置される」こと、「外壁材」、「上方を覆う笠木」、「パラペット」に相当する。
してみれば、甲1発明は、本件発明1の特定事項X1に相当する構成を備える。
イ 特定事項Y1について
上記アより、甲1発明の「上枠材12」、「外壁14」、「笠木15」がそれぞれ、本件発明1の「上枠材」、「外壁材」、「笠木」に相当することに加え、
甲1発明の「上枠材12及び外壁14の上部を覆う天面部15a」、「天面部15aから垂下して外壁14の側方に配置される垂下部15b」はそれぞれ、本件発明1の「前記上枠材及び前記外壁材の上部を覆う天面部」、「前記天面部から垂下して前記外壁材の側方に配置される垂下部材」に相当する。
してみれば、甲1発明は、本件発明1の特定事項Y1に相当する構成を備える。
ウ 特定事項X2、X01について
上記アを踏まえると、甲1発明の「外壁14と傘木15との間に」「形成され」た「パラペット開放部30」に「換気部材20」が「配置され」ていることは、本件発明1の「笠木用換気装置」が、「前記外壁材と前記笠木との間に配置されて」いることに相当する。
また、甲1発明の「通気胴縁13を上昇した空気」、「通気開口33」、「排出され」ること、「パラペット用換気装置」はそれぞれ、本件発明1の「通気胴縁を上昇した空気」、「換気孔」、「排出する」こと、「笠木用換気装置」に相当する。
してみれば、甲1発明は、本件発明1の特定事項X2、X01に相当する構成を備える。
エ 特定事項X3~X7Y2について
上記ウの検討を踏まえると、甲1発明の「換気部材20」は、本件発明1の特定事項X3の「前記外壁材と前記笠木との間に配置される換気部材」に相当する。
加えて、甲1発明の「下片23」は、本件発明1の特定事項X4の「換気部材底面板」に相当し、
甲1発明の「外片22」は、本件発明1の特定事項X5の「前端から立ち上げた換気部材前面板」に相当し、
甲1発明の「上片21」は、本件発明1の特定事項X6の「換気部材前面板の上端から後方に延出させた換気部材天面板」に相当する。
そして、甲1発明の「内片24」及び「内片24の上端に」「形成」され「外片22に向けた折り曲げ片24a」、又は、「内片24」及び「内片24の上端に」に「形成」され「外片22に向けた折り曲げ片24a」並びに「弾性材29が内片24に当接」することで「通気空間32」を「遮断」する「遮蔽板26」の少なくともひとつが、本件発明1の特定事項X7Y2の「内部防水壁」に相当するので、甲1発明と本件発明1の特定事項X7Y2の「換気部材底面板の後端側から斜めに立ち上げた内部防水壁」とは、「前記換気部材底面板の後端側から」「立ち上げた内部防水壁」である点で共通する。
してみれば、甲1発明は、本件発明1の特定事項X3~X6に相当する構成を備え、甲1発明と本件発明1の特定事項X7Y2とは、換気部材が、「前記換気部材底面板の後端側から」「立ち上げた内部防水壁と」を備える点で共通する。
オ 特定事項X8、X10について
上記ウより、甲1発明の「通気開口33」が本件発明1の「換気孔」に相当し、上記エより、甲1発明の「外片22」が本件発明1の「換気部材前面板」に相当することを踏まえると、
甲1発明において、「通気開口33は、」「外片22の幅方向に複数設けられ」ていることは、本件発明1の特定事項X8において、「前記換気部材前面板には、前記換気孔が形成され」ていること、及び、同特定事項X8において、「前記換気部材前面板の幅方向に前記換気孔が複数形成され」ていることに相当する。
してみれば、甲1発明は、本件発明1の特定事項X8、X10に相当する構成を備える。
カ 特定事項X11について
上記アより、甲1発明の「通気胴縁13」が本件発明1の「通気胴縁」に相当し、上記イより、甲1発明の「通気胴縁13を上昇した空気」が本件発明1の「通気胴縁を上昇した空気」に相当し、上記エより、甲1発明の「下片23」、「上片21」がそれぞれ、本件発明1の「換気部材底面板」、「換気部材天面板」に相当することを踏まえると、
甲1発明の「換気部材20本体は、上片21、外片22、下片23、及び内片24とで通気空間32を形成してい」ることは、本件発明1の「前記換気部材底面板と前記換気部材天面板との間に、」「換気通路が形成され」ていることに相当する。
してみれば、甲1発明は、本件発明1の特定事項X11に相当する構成を備える。
キ 特定事項X12について
上記エより、甲1発明の「内片24」及び「折り曲げ片24a」も、また、「内片24」及び「折り曲げ片24a」並びに「遮蔽板26」も、本件発明1の「内部防水壁」に相当する。
そして、甲1発明において、「遮蔽板26に設けた弾性材29が内片24に当接し、遮蔽板26によって通気空間32は遮断され」ていることは、「上片21、外片22、下片23、及び内片24とで通気空間32」が「形成」されること、「上片21と外片22との間に形成された段差部25から、下方に向けて、外片22と略平行に遮蔽板26が配置され」ることから、「遮蔽板26」が「変位し、遮蔽板26に設けた弾性材29が内片24に当接」するのは、「通気空間32」内であることが明らかであり、「遮蔽板26」及び「内片24」、又は、「内片24」が、「通気空間32」の中において「外気の流入によって雨水が浸入することを防止する」防水壁として機能することは明らかであるから、甲1発明は、本件発明1の「前記内部防水壁を、前記換気通路に配置し」ていることに相当する構成を備えているといえる。
ク 特定事項Y3、Y4について
上記イより、甲1発明の「垂下部15b」が本件発明1の「垂下部材」に相当し、
上記ウより、甲1発明の「通気開口33」が本件発明1の「換気孔」に相当し、
上記エより、甲1発明の「外片22」が本件発明1の「換気部材前面板」に相当することを踏まえると、
甲1発明の「垂下部15bと垂下部15bの内方に配置されてパラペット開放部30の側方を覆う外片22との間に」「形成され」た「空間」は、本件発明1の「換気部材側通気路」に相当し、
甲1発明の「垂下部15bの下端と同じ高さで下方が開放されている空間の下側から上方向に雨水が混ざっている場合がある空気(外気)が流れ、通気開口33から通気空間32に空気(外気)が流入」することは、「通気空間32」に至る経路である「通気開口33」を「雨水が混ざっている場合がある空気(外気)」通過することを意味しているから、本件発明1の「前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至」ることに相当する。
してみれば、甲1発明は、本件発明1の特定事項Y3、Y4に相当する構成を備える。
ケ 特定事項X13Y5、X14について
上記エより、甲1発明の「内片24」及び「折り曲げ片24a」も、また、「内片24」及び「折り曲げ片24a」並びに「遮蔽板26」も、本件発明1の「内部防水壁」と相当するから、以下(ア)、(イ)において、「内片24」、「折り曲げ片24a」、「遮蔽板26」という3つの部材のうち、前2者が「内部防水壁」と相当する場合と、3者を併せたものが「内部防水壁」と相当する場合に分けて対比する。
(ア)甲1発明の「内片24」及び「折り曲げ片24a」が、本件発明1の「内部防水壁」と相当するとした場合
この場合、図3(a)より、「内片24」と「外片22」とは、互いに鉛直方向に延び、略平行に位置することが看取され、「外片22に向けた折り曲げ片24a」があることから、「外片22」方向に向かう「折り曲げ片24a」の長さの分だけ、「内片24の上端」は、「内片24」の下端より、「外片22」に近い距離にあるといえる。
そうすると、甲1発明は、本件発明1の特定事項X13Y5と「前記内部防水壁を」「立ち上げることで前記内部防水壁の上端を前記内部防水壁の下端よりも前記換気部材前面板に近接させ」るという点で共通する。
また、上記の検討を踏まえると、甲1発明において、「内片24の上端は、通気開口33の上端より高い位置として」いることは、本件発明1の特定事項X14に相当するといえる。
(イ)甲1発明の「内片24」及び「折り曲げ片24a」並びに「遮蔽板26」が、本件発明1の「内部防水壁」と相当するとした場合
この場合、本件発明1の「内部防水壁」に相当する部材のうち、甲1発明の「上片21と外片22との間に形成された段差部25から、下方に向けて、外片22と略平行に」「配置され」た「遮蔽板26」が、もっとも「外片22」に近く、かつ、「通気開口33の上端より高い位置」にある(図3(a)も併せて参照。)。
そうすると、上記(ア)の検討も加味して、甲1発明は、本件発明1の特定事項X13Y5と「前記内部防水壁を」「立ち上げることで前記内部防水壁の上端を前記内部防水壁の下端よりも前記換気部材前面板に近接させ」るという点で共通し、本件発明1の特定事項X14に相当する構成を備えるといえる。
コ 一致点及び相違点
上記ア~ケによれば、本件発明1と甲1発明は、
[一致点]
「X1 建造物の外壁下地材の上部に配置される上枠材と、前記外壁下地材の外面に配置される通気胴縁と、前記通気胴縁の外面に配置される外壁材と、前記上枠材及び前記外壁材の上方を覆う笠木とを有するパラペットに用いられ、
Y1 前記笠木は、前記上枠材及び前記外壁材の上部を覆う天面部と、前記天面部から垂下して前記外壁材の側方に配置される垂下部材とを有し、
X2 前記外壁材と前記笠木との間に配置されて前記通気胴縁を上昇した空気を換気孔から排出する笠木用換気装置であって、
X3 前記外壁材と前記笠木との間に配置される換気部材が、
X4 換気部材底面板の
X5 前端から立ち上げた換気部材前面板と、
X6 前記換気部材前面板の上端から後方に延出させた換気部材天面板と、
X7Y2’ 前記換気部材底面板の後端側から立ち上げた内部防水壁と
を備え、
X8 前記換気部材前面板には、前記換気孔が形成され、
X10 前記換気部材前面板の幅方向に前記換気孔が複数形成され、
X11 前記換気部材底面板と前記換気部材天面板との間に、前記通気胴縁を上昇した前記空気が通過する換気通路が形成され、
X12 前記内部防水壁を、前記換気通路に配置し、
Y3 前記換気部材前面板と前記垂下部材との間には換気部材側通気路が形成され、
Y4 前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至り、
X13Y5’ 前記内部防水壁を立ち上げることで前記内部防水壁の上端を前記内部防水壁の下端よりも前記換気部材前面板に近接させ、
X14 前記内部防水壁の前記上端を、前記換気孔よりも高い位置とした
X01 笠木用換気装置。」
である点で一致し、次の相違点で相違する。
[相違点]
・相違点1(特定事項X9)
換気孔の形状について、本件発明1は、「前記換気孔を、高さ方向が幅方向より短い長孔とし」ているのに対し、甲1発明の「通気開口33は、縦長の長方形であ」る点。
・相違点2(特定事項X7Y2、X13Y5)
内部防水壁の上端を内部防水壁の下端よりも換気部材前面板に近接させるために、換気部材底面板の後端側から内部防水壁を立ち上げる向きについて、本件発明1は「斜めに」立ち上げるのに対し、甲1発明はそのような構成でない点。
(2-4)本件発明1についての判断
相違点1(特定事項X9)及び相違点2(特定事項X7Y2、X13Y5)は関連するのでまとめて検討する。
ア 本件発明1において、内部防水壁の上端を内部防水壁の下端よりも換気部材前面板に近接させるために、換気部材底面板の後端側から内部防水壁を立ち上げる向きを「斜めに」する(特定事項X7Y2、X13Y5)ことの技術的意義は、「換気部材前面板の幅方向に」「高さ方向が幅方向より短い長孔とし」(特定事項X14)た「換気孔が複数形成され」(特定事項X9、X10)、「前記内部防水壁の前記上端を、前記換気孔よりも高い位置とした」(特定事項X14)ことと相俟って、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇した雨水が、換気部材前面板22の幅方向に複数形成された、高さ方向が幅方向より短い長孔とした換気孔27から流入した場合であっても、流入した雨水を内部防水壁25が遮るように、内部防水壁25を、その上端を下端よりも換気部材前面板22に近接させ、換気部材底面板21の後端から前端側に向けて斜め上方に延出する配置とすることにより、「換気孔27から流入する雨水を換気部材後面板24に至ることを防止できる。」(【0017】)ことにある。
そして、「換気部材前面板の幅方向に」(特定事項X14)「換気孔が複数形成され」(特定事項X9、X10)、「前記内部防水壁の前記上端を、前記換気孔よりも高い位置とし」た(特定事項X14)笠木用換気装置に対して、上記相違点1、2に係る本件発明1の構成である、「高さ方向が幅方向より短い長孔とし」(特定事項X14)、かつ、内部防水壁の上端を内部防水壁の下端よりも換気部材前面板に近接させるために、換気部材底面板の後端側から内部防水壁を立ち上げる向きを内部防水壁を立ち上げる向きを「斜めに」する(特定事項X7Y2、X13Y5)手段を設けることは請求項2に対して提示した甲6にも記載も示唆もされておらず、他に当該手段を記載又は示唆する文献も見当たらず、また当該手段が設計事項であるとも周知技術であるともいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易になし得るものではない。
イ 申立人は、令和6年9月19日に提出した意見書において、証拠方法として後掲する参考資料1~7を提出して、屋内と屋外とを連絡する空気の流路の途中に、空気の流通方向に対して斜めの邪魔板を設けることにより雨水の侵入を防止するという技術的思想は、本件特許の出願以前から存在し、様々な場面で広く採用されていることが、参考資料1~7によって証明され、甲1発明に、参考資料1~7記載の周知技術を適用するのは容易であり、それによって、本件発明1の特定事項X7Y2及びX13Y5と同様の構成とすることは、当業者が容易になし得た旨主張する。
しかし、参考資料1~7には、「換気部材前面板の幅方向に」(特定事項X14)「換気孔が複数形成され」(特定事項X9、X10)、「前記内部防水壁の前記上端を、前記換気孔よりも高い位置とし」た(特定事項X14)笠木用換気装置に対して、上記相違点1、2に係る本件発明1の構成である、「高さ方向が幅方向より短い長孔とし」(特定事項X14)、かつ、内部防水壁の上端を内部防水壁の下端よりも換気部材前面板に近接させるために、換気部材底面板の後端側から内部防水壁を立ち上げる向きを「斜めに」する(特定事項X7Y2、X13Y5)手段を設けることは記載も示唆もされておらず、笠木用換気装置に限らず、建築構造物に対象を拡げたとしても同様である。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。
なお、申立人が令和6年9月19日に提出した意見書において、証拠方法として提出した参考資料1~7は次のとおりである。
参考資料1:特開2014-227715号公報
参考資料2:特開2010-265651号公報
参考資料3:特開2010-1732号公報
参考資料4:特開2008-304140号公報
参考資料5:特開2008-280699号公報
参考資料6:特開2007-308917号公報
参考資料7:特開2005-9197号公報
ウ 以上の検討より、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。
(2-5)本件発明2についての対比
本件発明2は、本件発明1に対して、さらに、「前記換気部材前面板は前記外壁材より前方に位置する」(特定事項X15)という技術的事項を追加したものである。
よって、上記(2-3)、(2-4)に示した理由と同様の理由により本件発明2は、甲1発明及び甲6技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。
(2-6)まとめ
したがって、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号により取り消されるべきものではない。
(3)理由2(明確性)について
(3-1)取消理由の概要
訂正前の請求項1には、「換気部材後面板」に対応する事項が、発明特定事項として含まれておらず、「傘木用換気装置」のどの部位に換気孔から流入した雨水が至らないようにすることを理解することができない。
したがって、特定事項X7、X12~X14により特定される「内部防水壁」の技術的意味を当業者が理解することができず、訂正前の請求項1、2の記載は、不明確となっている。
(3-2)判断
本件訂正により、本件発明1は、
「X11 前記換気部材底面板と前記換気部材天面板との間に、前記通気胴縁を上昇した前記空気が通過する換気通路が形成され、
X12 前記内部防水壁を、前記換気通路に配置し、
Y3 前記換気部材前面板と前記垂下部材との間には換気部材側通気路が形成され、
Y4 前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至り、」という発明特定事項を備えるものとなった。
そして、上記2(3)イ(ウ)で検討したとおり、特許明細書等に記載された実施例について、【0018】の前段及び後段のいずれも、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇した雨水が換気孔27に至り換気通路Aに流入し難くするための構成を採用するが、雨水が換気通路Aに流入する可能性があることを否定するものではない。また、特許明細書等の【0026】には「また、本実施例による笠木用換気装置は、内部防水壁25の上端を内部防水壁25の下端よりも換気部材前面板22に近接させており、換気孔27から流入する雨水を換気部材後面板24に至ることを防止できる。
なお、本実施例による笠木用換気装置では、通気胴縁83を上昇した空気は、換気通路Aを通過して換気孔27から排出される。」と記載されるから、換気通路Aに配置された内部防水壁25の機能は、換気孔27から流入する雨水を換気部材後面板24に至ることを防止すること、すなわち、内部防水壁25の後ろ側に位置する通気胴縁83に雨水を流入させないことにあると理解できる。
そうすると、本件発明1は、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路D(本件発明1の「換気部材側通気路」に対応。)を上昇した雨水は、少なくとも換気孔27に至る場合があるが、換気通路A(本件発明1の「換気通路」に対応)に内部防水壁25(本件発明1の「内部防水壁」に対応。)を配置することにより、内部防水壁25の後ろ側に位置する通気胴縁83(本件発明1の「通気胴縁」に対応。)に雨水を流入させないという構成に対応する発明特定事項を備えているということができる。
以上の検討より、本件発明1は、「内部防水壁」を備えることにより、換気孔から流入した雨水が「通気胴縁」に至らないようにするという構成であることが理解できるから、「換気部材後面板」に関わる事項が発明特定事項として記載されていなくても、本件発明1の「内部防水壁」の技術的意味を当業者が理解することができ、本件発明1及び本件発明2は明確である。
(4)まとめ
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1及び本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人が特許異議申立書において主張する理由
ア 証拠方法
申立人は、特許異議申立書において証拠方法として次の甲第1号証~甲第6号証(以下では、甲各号証を「甲1」等という。)は次のとおりである。
甲第1号証:特開2016-89577号公報
甲第2号証:特開2017-133265号公報
甲第3号証:特開2017-197961号公報
甲第4号証:特開2002-70195号公報
甲第5号証:特開2001-254492号公報
甲第6号証:特開2012-102486号公報
イ 申立人が主張する理由
申立人が、請求項1、2に対し、特許異議申立書において主張する理由は概略、次のとおりである。
(ア)特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
請求項1に対し、
a 甲1に基づき容易想到。
b 甲2又は甲3と、甲4及び甲5との組み合わせから容易想到。
請求項2に対し、
c 甲1に甲6を適用することにより容易想到。
d 甲2又は甲3と甲4及び甲5との組み合わせに、甲6を適用することにより容易想到。
(イ)特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号)
出願時の請求項1から「換気部材後面板」を削除して、訂正前の請求項1とする補正は新規事項の追加に該当する。
(ウ)特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)
訂正前の請求項1は、発明の詳細な説明に記載されていない、換気部材後面板によらない固定手段を採用した換気装置の発明を文言上含んでいるから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えサポート要件を満たしていない。
(エ)特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)
本件特許明細書には、発明の効果として「換気孔から流入する雨水を換気部材後面板に至ることを防止できる。」(【0007】参照)と記載されており、権利者も、「換気部材後面板」が訂正前の請求項1において必須の要素であると認識しているものと考えられ、また、訂正前の請求項1に係る換気装置が所期の機能を発揮するには、当然、換気部材を何らかの手段で固定しなくてはならないと考えられるところ、訂正前の請求項1には、そのための構成が記載されていないから、訂正前の請求項1は、発明の機能及び効果を発揮するのに必要不可欠な構成を欠いていると言うべきであって明確でない。
ウ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は次のとおりである。
請求項1に対し、
b 甲2又は甲3と、甲4及び甲5との組み合わせから容易想到。
請求項2に対し、
d 甲2又は甲3と甲4及び甲5との組み合わせに、甲6を適用することにより容易想到。
(a)上記bの理由について検討する。
i 甲2について
甲2において、「外側開口22」と「内部垂直板21」に着目すると、「外側開口22」の形状は不明であり、かつ、「内部垂直板21」は、「下部水平板の内部側端部を略90度折り曲げて連続し、さらに、上端で鋭角に曲げられて邪魔板16に連続する。」(【0044】、図8)構成であるから、甲2を主引例とした場合、本件発明1と、少なくとも上記4(2-3)に挙げた相違点1(特定事項X9)及び相違点2(特定事項X7Y2、X13Y5)と同じ点で相違する。
ii 甲3について
甲3において、「換気孔81」及び「第2遮蔽部62」に着目すると、「換気孔81」は、「上下方向に細長い孔」(【0035】、図2(c))であり、かつ、「第2遮蔽部62」は、「下板部43の右端からは、笠木対向部41に向かって上方向に第2遮蔽部62が突出し」(【0033】、図2(a))、その突出方向は略鉛直方向上方であることが図2(a)より看取されるから、甲3を主引例とした場合、本件発明1と、少なくとも上記4(2-3)に挙げた相違点1(特定事項X9)及び相違点2(特定事項X7Y2、X13Y5)と同じ点で相違する。
iii 甲2、甲3を主引例とした場合の判断
そして、上記相違点1、2に関わる構成は、甲4、甲5にも記載も示唆もされていないから、甲1を主引例とした場合と同様、上記4(2-4)ア~ウの説示のとおり、甲2、甲3を主引例とした場合も、本件発明1は、当業者が容易に想到することができたものではない。
(b)上記dの理由について検討する。
本件発明2は、本件発明1に対して、さらに、「前記換気部材前面板は前記外壁材より前方に位置する」(特定事項X15)という技術的事項を追加したものである。
よって、上記(a)に示した理由と同様の理由により本件発明2は、甲2、甲3を主引例とした場合も、当業者が容易に想到することができたものではない。
(イ)特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号)、特許法第36条第6項第1号及び第2号(同法第113条第4号)において採用しなかった特許異議申立理由はいずれも、「換気部材後面板」に関わる理由であるのでまとめて検討する。
上記4(3-2)に判断を示したとおり、本件発明1は、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路D(本件発明1の「換気部材側通気路」に対応。)を上昇した雨水は、少なくとも換気孔27に至る場合があるが、換気通路A(本件発明1の「換気通路」に対応)に内部防水壁25(本件発明1の「内部防水壁」に対応。)を配置することにより、内部防水壁25の後ろ側に位置する通気胴縁83(本件発明1の「通気胴縁」に対応。)に雨水を流入させないという構成に対応する発明特定事項を備えているということができ、本件発明1は、「内部防水壁」を備えることにより、換気孔から流入した雨水が「通気胴縁」に至らないようにするという構成であることが理解できる。
そうすると、本件発明1において、「換気部材後面板」が必須の構成であるということはできず、「換気部材後面板」に関わる事項が発明特定事項として記載されていなくても、本件発明1の発明特定事項の技術的意味を当業者が理解することができる。
そして、本件発明1において、発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できることは上記のとおりであるから、本件発明1の記載では、発明特定事項が不足していることが明らかであるため発明が不明確となるということはできない。
また、本件出願時の請求項1から「換気部材後面板」を削除しても、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものに該当するという理由は見出せず、同様に、「換気部材後面板」が発明特定事項とされていなくても、発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できることは上記のとおりであるから、本件発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、本件発明1と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応しているので、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしている。
そして、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2についても同様である。
したがって、本件発明1、2に係る特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号の要件を満たし、本件発明1、2に係る特許は、同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではない。
(2)申立人が令和6年9月19日に提出した意見書における主張について
ア 申立人は、令和6年9月19日に提出した意見書において概略、次の主張をしている。
(ア)本件訂正請求について
a 訂正事項Y4
訂正事項Y4は、雨水が換気孔に至るための条件を欠いているので、どのような場合に、換気部材側通気路を上昇する雨水が換気孔に至るかが不明である。従って、上記Y4を導入する訂正は、明確性に関する新たな取消理由を生じさせるものである。
b 訂正事項Y1、Y3
訂正事項Y1、Y3は、甲1のほか、甲2や甲3にも記載されている周知の技術事項を追加するものに過ぎない。
c 訂正事項Y2及びY5
訂正事項Y2及びY5は、内部防水壁について、これを斜めに立ち上げることを特定するものであるが、本件特許の出願時明細書のどこにも「内部防水壁を斜めに立ち上げる」との記載は存在していないから、上記Y2及びY5は、新規事項の追加に該当する。また、本件特許の出願時明細書には、内部防水壁を斜めに立ち上げた実施態様の記載がないから、上記Y2及びY5を導入した本件訂正発明1は、明細書に記載されていない発明に該当するので、サポート要件を満たさないと言うことができる。
(イ)本件発明1、2について
本件発明1、2は、その効果を発揮すると共に、実施を可能とするうえで必要不可欠な「換気部材後面板」を欠いている。従って、このような必要不可欠の構成要件を欠いている本件発明1、2は、如何にして所期の効果を発揮し、実施することが可能であるかが不明であるから、明確性又は実施可能要件を欠いていると言わねばならない。
イ 主張に対する検討
(ア)本件訂正請求について
a 訂正事項Y4
上記2(3)イ(ウ)で本件訂正請求の訂正の根拠について検討したとおり、本件訂正前の請求項1に「前記換気部材側通気路を上昇する雨水が前記換気孔に至り、」との記載を加える訂正事項Y4に関し、特許明細書等に記載された実施例について、【0018】の前段及び後段のいずれも、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇した雨水が換気孔27に至り換気通路Aに流入し難くするための構成を採用するが、雨水が換気通路Aに流入する可能性があることを否定するものではないから、特許明細書等には、気密部材側通気路C及び換気部材側通気路Dを上昇した雨水は、少なくとも換気孔27に至る場合があることが記載されていると理解され、本件発明1の記載は、「内部防水壁」の機能が、換気孔に雨水が至った場合の防水を意図するものと理解できるから、明確性に関する新たな取消理由を生じさせるものにはあたらない。
b 訂正事項Y1、Y3
訂正事項Y1、Y3は、甲1のほか、甲2や甲3にも記載されている周知の技術事項を追加するものに過ぎないという主張については、上記4(2-4)ア~ウに判断を示したとおりであるから、理由がない。
c 訂正事項Y2及びY5
(a)新規事項
訂正事項Y2及びY5を追加する点が新規事項の追加にあたるかどうかという点について、本件の明細書には「内部防水壁を斜めに立ち上げる」との記載は存在しない。しかし、上記2(3)ウに判断を示したとおり、【0014】及び図2の記載事項から、内部防水壁について、これを斜めに立ち上げることが記載されているといえるから、訂正事項Y2及びY5は、特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものに該当しない。
(b)サポート要件
次に、サポート要件の点について、本件特許の発明の詳細な説明には、「内部防水壁を斜めに立ち上げる」旨の直接の記載は存在しない。しかしながら、図面は明細書を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるところ、図2より、換気部材底面板21の前端から立ち上げた換気部材前面板22と換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25とを有し、換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25は換気部材底面板21の前端から立ち上げた換気部材前面板22に向けて斜め上方に延出するとともに、内部防水壁25の上端は換気部材底面板21の後端と前端の略中央部の上方に位置することが看取され(上記2(3)ウ(イ)において認定した事項。)、
また、発明の詳細な説明には、「換気部材20は、・・・換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25とからなる。
・・・
内部防水壁25の上端は、内部防水壁25の下端よりも換気部材前面板22に近接させ、内部防水壁25の上端は、換気孔27よりも高い位置としている。」(【0014】)と記載されるから、【0014】の記載に接した当業者が図面を併せみて、換気部材底面板21の後端から立ち上げた内部防水壁25の上端は、内部防水壁25の下端よりも換気部材前面板22に近接させる実施態様として、防水壁25が斜め上方に延出する態様(図2参照)を採用していることを理解することができる。
してみれば、本件発明1が、発明の詳細な説明における「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものではないから、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしている。
(イ)本件発明1、2について
本件発明1において、「換気部材後面板」が必須の構成であるということはできず、「換気部材後面板」に関わる事項が発明特定事項として記載されていなくても、本件発明1の発明特定事項の技術的意味を当業者が理解することができることは、上記5(1)ウ(イ)に示したとおりであるから、本件発明1は明確である。
また、本件発明1において、「換気部材後面板」が特定されているか否かに関わらず、発明の詳細な説明及び図面には、「換気部材後面板24」に関わる構成が記載されているから、発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、実施可能要件を満たしている。
ウ 意見書の主張についてのまとめ
上記イ(ア)、(イ)のとおり、申立人の令和6年9月19日に提出した意見書における主張を採用することはできない。
6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701235