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特許異議申立

2023-700926

床スラブ付き鉄骨梁およびその設計方法

審判番号
2023-700926
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-181115
登録番号
7234083
請求日
2023年09月07日
審決日
2023年11月30日
公報発行日
2023年12月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】JFEスチール株式会社
  • 【権利者代理人】石川 壽彦
  • 【権利者】清水建設株式会社
  • 【異議申立人】森山 涼子
審判長/審判官
  • 審判長 住田 秀弘
  • 審判官 蔵野 いづみ
  • 審判官 澤田 真治
分類
P1651.121-Y (E04B) / P1651.537-Y (E04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条、特許法第113条第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7234083号発明「床スラブ付き鉄骨梁およびその設計方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7234083号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7234083号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和元年10月1日に出願され、令和5年2月27日にその特許権の設定登録がされ、同年3月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年9月7日に特許異議申立人森山涼子(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~5の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ、請求項番号により「本件発明1」等という。また、請求項1の符号A等は、分説するため当審で付した。「A」等が付された事項を、以下「特定事項A」等という。)。 「【請求項1】 A 両端部が柱に剛接合されると共に下フランジの構面外変形が補剛されていないH形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上部に接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁であって、 B フランジ部を有し、該フランジ部が前記鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジの全長に亘って接合されると共に下式(1)を満たす鋼部材を有し、前記コンクリート床スラブが前記鋼部材の前記フランジ部に配設された頭付きスタッドを介して接合されている C ことを特徴とする床スラブ付き鉄骨梁。 TJ≧0.035×bJf ・・・(1) ここで、 TJ:鋼部材のねじり定数 bJf:鉄骨梁の上フランジのねじり定数 【請求項2】 前記鋼部材がフランジ部とウェブ部とを有するT形断面部材からなり、該T形断面部材を補強する補強リブが設けられ、該補強リブは前記鉄骨梁の梁せいの2倍以下のピッチで該T形断面部材の全長に亘って設けられると共に、該補強リブは、前記ウェブ部を挟んで該ウェブ部の両面に配置され、かつ該ウェブ部と前記フランジ部及び前記鉄骨梁の上フランジに両面すみ肉溶接接合されていることを特徴とする請求項1記載の床スラブ付き鉄骨梁。 【請求項3】 前記鋼部材が前記鉄骨梁と断続すみ肉溶接で接合され、かつ前記柱と接合されていないことを特徴とする請求項1又は2に記載の床スラブ付き鉄骨梁。 【請求項4】 前記頭付きスタッドが、2列以上の複数列に配置され、かつ前記頭付きスタッドと前記鋼部材におけるフランジ部側面との距離が60mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の床スラブ付き鉄骨梁。 【請求項5】 両端部が柱に剛接合されると共に下フランジの構面外変形が補剛されていないH形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上部に接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁の設計方法であって、 フランジ部を有する鋼部材を、前記フランジ部が前記鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジの全長に亘って接合し、かつ該鋼部材が下式(1)を満たすように設定することを特徴とする床スラブ付き鉄骨梁の設計方法。 TJ≧0.035×bJf ・・・(1) ここで、 TJ:鋼部材のねじり定数 bJf:鉄骨梁の上フランジのねじり定数」 第3 証拠一覧、特許異議申立理由の概要 1 証拠一覧 特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して提出された証拠は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開平8-189122号公報 甲第2号証:特開2012-12788号公報 甲第3号証:桑村仁、「鋼構造の性能と設計」、共立出版株式会社、2002年11月20日、p.163~165 甲第4号証:特開2018-172876号公報 甲第5号証:特開2018-204425号公報 甲第6号証: 氏家大介他、「小梁付き合成梁の横座屈性状に関する研究」、大成建設技術センター報第48号(2015)、2015年12月1日、p.21-1~7 (以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。) 2 特許異議申立理由の概要 申立人が申立書において主張する特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。 (1) 理由1(進歩性) ア 本件発明1~5は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は特許法第113条第2号に基づき取り消されるべきものである。 イ 本件発明1~5は、甲6に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は特許法第113条第2号に基づき取り消されるべきものである。 (2) 理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、また、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから、その発明に係る特許は、特許法第36条第6頂第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に基づき取り消されるべきものである。 第4 証拠について 1 甲1 (1) 記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。 「【0002】 【従来の技術】鉄骨造り建造物において、スパン間で床レベルに段差を設ける場合には、その段差に応じた段差を持つようにH型鉄骨梁を架設して対応するのが一般的であるが、この方法では仕口金物の製作のための溶接作業が過大になるため、これに代わる方法としてH型鉄骨梁は同一レベルで架設し、床レベルを高くするスパンではH型鉄骨梁と床スラブコンクリートとの間に鋼材を介在させる方法が採用されている。その方法は図2に示すように、リブ鋼板9を補剛材としたT型鋼8をH型鉄骨梁2の上面に溶接し、さらに、T型鋼8上面に頭つきスタッドボルト10を溶接した後、T型鋼8の上方に波型鋼板3の敷設、床スラブ用の配筋、床スラブコンクリート4の打設を行って床スラブを構築する方法である。」 「【0005】即ち、本発明は、上面に複数のX字状スリットを設けた逆U型曲げ鋼板の両側の脚をH型鉄骨梁上面に溶接し、該逆U型曲げ鋼板間に波型鋼板を敷設し、該逆U型曲げ鋼板上面のX字状スリットを引き起こして3角形状突起とした後、その上方に床スラブ用配筋を行い、床スラブコンクリートを打設することを特徴とする鉄骨造り建造物の床レベル調整方法である。 【0006】本発明の要点は、H型鉄骨梁と床スラブコンクリートとの間に介在させる鋼材として、上面に複数のX字状スリットを設けた逆U型曲げ鋼板を使用する点である。」 「【0015】この状態の逆U型曲げ鋼板1の両側の脚をH型鉄骨梁2の上面に溶接する。(図1(d)) (2)逆U型曲げ鋼板1を溶接したH型鉄骨梁2を用いて他のH型鉄骨梁、鉄骨柱とともに鉄骨造り躯体を組立てる。」 (2) 甲1に記載された発明及び技術事項 上記(1)より、甲1には次の2つの発明(以下「甲1発明1」等という。)及び技術事項(以下「甲1技術事項1」等という。)が記載されていると認められる。 (甲1発明1)(甲1技術事項1) 「鉄骨柱とともに鉄骨造り躯体を組立てるH型鉄骨梁の上面に、上面に複数のX字状スリットを設けた逆U型曲げ鋼板の両側の脚を溶接し、該逆U型曲げ鋼板間に波型鋼板を敷設し、該逆U型曲げ鋼板上面のX字状スリットを引き起こして3角形状突起とした後、その上方に床スラブ用配筋を行い、床スラブコンクリートを打設して(【0005】、【0015】)、 上面に複数のX字状スリットを設けた逆U型曲げ鋼板を間に介在させた床スラブコンクリートとH型鉄骨梁(【0006】)。」 (甲1発明2)(甲1技術事項2) 「鉄骨造り建造物において、リブ鋼板9を補剛材としたT型鋼8をH型鉄骨梁2の上面に溶接し、さらに、T型鋼8上面に頭つきスタッドボルト10を溶接した後、T型鋼8の上方に波型鋼板3の敷設、床スラブ用の配筋、床スラブコンクリート4の打設を行って構築される床スラブの、T型鋼8を間に介在させた床スラブコンクリートとH型鉄骨梁(【0002】)。」 2 甲2 (1) 記載事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 柱に接合され、ウェブとフランジとで構成された鉄骨梁と、 前記鉄骨梁に設けられ、前記鉄骨梁のフランジの横移動を拘束するのに必要とされるスタッド本数以上のスタッドで前記フランジと接合されたスラブと、 を有し、 前記スラブが、前記鉄骨梁の回転変形を拘束するねじり剛性を備え、前記鉄骨梁には横座屈を防止する横座屈補剛材が取り付けられていないスラブ付鉄骨梁。 【請求項2】 前記スラブのねじり剛性は下記(1)式で算出され、下記(2)式で算出される前記鉄骨梁のねじり剛性の10倍以上である請求項1に記載のスラブ付鉄骨梁。 [図:0001404853000001.jpg] [図:0001404853000002.jpg] 」 「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は、上記事実に鑑み、鉄骨梁に横座屈補剛材を取付けなくても、鉄骨梁の横座屈を拘束できるスラブ付鉄骨梁を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 請求項1に記載の発明に係るスラブ付鉄骨梁は、柱に接合され、ウェブとフランジとで構成された鉄骨梁と、前記鉄骨梁に設けられ、前記鉄骨梁のフランジの横移動を拘束するのに必要とされるスタッド本数以上のスタッドで前記フランジと接合されたスラブと、を有し、前記スラブが、前記鉄骨梁の回転変形を拘束するねじり剛性を備え、前記鉄骨梁には横座屈を防止する横座屈補剛材が取り付けられていないことを特徴としている。 【0011】 請求項1に記載の発明によれば、鉄骨梁の少なくとも一端が柱に接合され、鉄骨梁とスラブが鉄骨梁のフランジの横移動を拘束するのに必要とされるスタッド本数以上のスタッドで接合されている。そして、スラブが、鉄骨梁の回転変形を拘束するねじり剛性を備えている。 これにより、スラブのねじり剛性で鉄骨梁の回転変形が拘束され、鉄骨梁に横座屈補剛材を取付けなくても、スラブ付鉄骨梁の横座屈を拘束することができる。 【0012】 請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスラブ付鉄骨梁において、前記スラブのねじり剛性は下記(1)式で算出され、下記(2)式で算出される前記鉄骨梁のねじり剛性の10倍以上であることを特徴としている。 [図:0001404853000003.jpg] [図:0001404853000004.jpg] 【0013】 請求項2に記載の発明によれば、スラブのねじり剛性が、鉄骨梁のねじり剛性の10倍以上とされている。 これにより、スラブのねじり剛性により鉄骨梁の回転変形を拘束することができ、鉄骨梁に横座屈補剛材を取付けなくてもスラブ付鉄骨梁の横座屈を拘束することができる。」 「【0019】 鉄骨梁20は、梁成Wが1200mm以下のH形鋼とされ、両端面が柱14の側壁に固定されている。スラブ12は、鉄筋コンクリート製の厚さTが140mm以上とされ、鉄骨梁20の上面に形成されている。なお、鉄筋の図示は省略している。」 (2) 甲2に記載された技術事項 上記(1)より、甲2には次の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されていると認められる。 (甲2技術事項) 「柱に接合され、ウェブとフランジとで構成されたH形鋼の鉄骨梁と、前記鉄骨梁に設けられ、前記鉄骨梁のフランジの横移動を拘束するのに必要とされるスタッド本数以上のスタッドで前記フランジと接合されたスラブと、を有し、スラブのねじり剛性が、鉄骨梁のねじり剛性の10倍以上とされ、これにより、スラブのねじり剛性により鉄骨梁の回転変形を拘束することができ、鉄骨梁に横座屈補剛材を取付けなくてもスラブ付鉄骨梁の横座屈を拘束することができるため、前記鉄骨梁には横座屈を防止する横座屈補剛材が取り付けられていないスラブ付鉄骨梁(【0010】、【0013】、【0019】)。」 3 甲3 甲3には、細長い長方形断面のサン・ブナンねじり定数が [図:0001404853000005.jpg] であることが記載されている(p.165)。 4 甲4、甲5 甲4、甲5には、塑性変形倍率で鉄骨梁の設計上の評価をしていることが記載されている(甲4の【0019】、【0020】、甲5の【0050】)。 5 甲6 (1) 記載事項 甲6には、以下の事項が記載されている。 「1.はじめに 鉄骨梁とコンクリート床スラブを緊結した合成梁は,床スラブによる横座屈抑制効果が期待できる。筆者らは,これまでに比較的長スパンの合成梁を対象にした構造実験を行い,床スラブによる横補剛効果を検討してきた1)。既に横座屈補剛材を省略化・衛素化した横補剛設計法を実施適用しているが,断面が限定される。したがって大断面・長スパンの梁では,合成梁とした場合であっても十分な変形性能が得られないため,横座屈補剛材として小梁を均等配置するが,合成梁における横座屈補剛材として小梁の効果を実験的に検討した研究は少なく,その効果が明確になっていない。 ・・・」(21-1頁左欄1~12行) 「2.実験計画 2.1 試験体概要 試験体一覧を表-1に,試験体の形状・寸法を図-1に示す。試験体は,溶接組立H形断面梁とコンクリート床スラブとを頭付きスタッドで結合した合成梁を基本に,比較として床スラブのない純鉄骨梁を用意した。試験体の縮尺は実大の1/2~1倍を想定し,梁にBH-600×200×9(12)×19(SN490B)を用いた。梁の両端はH形鋼柱と接合しており,また柱の両外側に加力用梁を,柱の左右両側に直交梁を設けた。使用した鋼材の機械的性質を表-2に示す。 試験体数は4体で床スラブ・小梁の有無および小梁と床スラブの結合条件を実験変数とした。細長比λy(λb2))は270(1.3)と180(0.95)の2種を設定した。これらの細長比は学会指針2)の弾性限界細長比eλb(1.29)と塑性限界細長比pλb(0.9)に相当する。試験体No.1~No.3は小梁付きの試験体である。No.1は床スラブのない試験体で,小梁のみの横座屈補剛効果を確認する。No.2は床スラブ付きの試験体であるが,小梁と床スラブは頭付きスタッドで結合していない。小梁と床スラブのそれぞれの横補剛効果を単純に累加した場合の性能を確認する。No.3は小梁と床スラブを頭付きスタッドで結合した。一般の鉄骨造建物に用いられる仕様がこれにあたる。No.4は相対的にスパンの短い試験体で,床スラブのみの横座屈補剛効果を確認する。 ・・・ 頭付きスタッド(軸径φ9.5mm,全長50mm)は,みがき棒鋼用一般鋼材SGD3を切削加工して作製した。試験区間の梁上フランジに100mm間隔で2列(ゲージ間隔100mm)に配し,小梁・直交梁においては150mm間隔で1列に配した。いずれの試験体も試験区間のスタッド本数は学会指針4)で規定される完全合成梁を満足する。小梁の形状・寸法を図-2に示す。小梁RH-200×100×5.5×8(SS400)は2m間隔で均等に5箇所に配した。大梁と小梁はガセットプレート6mm(SS400)を介して高力ボルト3-M12(F10T)で摩擦接合した。なお,文献5)の均等補剛方法で設計される必要横補剛箇所数n(λy≦130+20n )は7であり,本試験体の小梁の数はこれに満たない。」(21-1頁左欄17行~21-2頁左欄17行) 「 [図:0001404853000006.jpg] 」 (2) 認定事項 「表-1 試験体一覧」には、「No.4」として、「小梁なし」と記載されている。 また、「1.はじめに」には、「大断面・長スパンの梁では,合成梁とした場合であっても十分な変形性能が得られないため,横座屈補剛材として小梁を均等配置する」と、「2.実験計画」の「2.1試験体概要」には、「試験体は,溶接組立H形断面梁とコンクリート床スラブとを頭付きスタッドで結合した合成梁・・・を用意した。」、「No.4は相対的にスパンの短い試験体で,床スラブのみの横座屈補剛効果を確認する。」と、それぞれ記載されている。 以上のことから、甲6には、「溶接組立H形断面梁とコンクリート床スラブとを頭付きスタッドで結合した合成梁において、横座屈補剛材としての小梁を設けない合成梁」が記載されていると認められる。 (3) 甲6に記載された発明 上記(1)及び(2)より、甲6には次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。 (甲6発明) 「両端がH形鋼柱と接合される溶接組立H形断面梁とコンクリート床スラブとを梁上フランジに配した頭付きスタッドで結合した合成梁において、横座屈補剛材としての小梁を設けない合成梁。」 第5 当審の判断 1 進歩性について (1) 本件発明1 ア 甲1を主引例とする場合 (ア) 対比 本件発明1と甲1発明1を対比する。なお、見出しは(a)等とし、本件発明1の各分説に対応させている。 (a) 甲1発明1の「鉄骨柱とともに鉄骨造り躯体を組立てるH型鉄骨梁」は、本件発明1の「両端部が柱に剛接合される」「H形断面の鉄骨梁」と、「両端部が柱に」「接合される」「H形断面の鉄骨梁」である点で共通する。 また、甲1発明1の「H型鉄骨梁の上面」に「溶接」された「逆U型曲げ鋼板」「の上方に」「打設」された「床スラブコンクリート」は、「逆U形曲げ鋼板」を介して「H型鉄骨梁」に接合しているといえるから、本件発明1の「該鉄骨梁の上部に接合されたコンクリート床スラブ」に相当する。 そうすると、甲1発明1の「床スラブコンクリートとH型鉄骨梁」は一体となっていることが明らかであるから、本件発明1の「床スラブ付き鉄骨梁」に相当する。 よって、甲1発明1は、本件発明1の特定事項Aと、「両端部が柱に」「接合される」「H形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上部に接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁」である点で共通する。 (b) 甲1発明1の「逆U型曲げ鋼板」は、その「両側の脚を」「H型鉄骨梁の上面に」「溶接」するものである。 してみると、甲1発明1の「逆U型曲げ鋼板」の「上面」は、「H型鉄骨梁」の上フランジの上方に配置されることは明らかであるから、甲1発明1の「逆U型曲げ鋼板」の「上面」は、本件発明1の「フランジ部」に相当し、甲1発明1の「H型鉄骨梁の上面に」、「両側の脚を溶接」する「逆U型曲げ鋼板」は、本件発明1の「該フランジ部が前記鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジ」「に」「接合される」「鋼部材」に相当する。 また、甲1発明1は、「逆U型曲げ鋼板上面のX字状スリットを引き起こして3角形状突起とした後、その上方に床スラブ用配筋を行い、床スラブコンクリートを打設」するものであるところ、このことは、本件発明1の「前記コンクリート床スラブが前記鋼部材の前記フランジ部に配設された頭付きスタッドを介して接合されている」ことと、「前記コンクリート床スラブが前記鋼部材の前記フランジ部に配設された」突出部「を介して接合されている」点で共通する。 よって、甲1発明1は、本件発明1の特定事項Bと「フランジ部を有し、該フランジ部が前記鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジ」「に」「接合される」「鋼部材を有し、前記コンクリート床スラブが前記鋼部材の前記フランジ部に配設された」突出部「を介して接合されている」点で共通する。 (c) 上記(a)より、甲1発明1の「床スラブコンクリートとH型鉄骨梁」は、本件発明1の「床スラブ付き鉄骨梁」に相当する。 よって、甲1発明1は、本件発明1の特定事項Cを備える。 以上のことから、本件発明1と甲1発明1は、 「A’両端部が柱に接合されるH形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上部に接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁であって、 B’フランジ部を有し、該フランジ部が前記鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジに接合される鋼部材を有し、前記コンクリート床スラブが前記鋼部材の前記フランジ部に配設された突出部を介して接合されている C 床スラブ付き鉄骨梁。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1](特定事項A) 鉄骨梁の両端部と柱の接合に関して、 本件発明1では、鉄骨梁の両端部が柱に剛接合されるのに対し、 甲1発明1では、H型鉄骨梁が鉄骨柱に接合されているが、剛接合であるか不明である点。 [相違点2](特定事項A) 本件発明1では、鉄骨梁の下フランジの構面外変形が補剛されていないのに対し、 甲1発明1では、このような特定がなされていない点。 [相違点3](特定事項B) 本件発明1では、鋼部材が、鉄骨梁の上フランジの全長に亘って接合されるのに対し、 甲1発明1では、逆U型曲げ鋼板が、H型鉄骨梁の上面に溶接されているが、全長に亘って溶接されているか不明である点。 [相違点4](特定事項B) 本件発明1の「鋼部材」は、下式(1)を満たすのに対し、 TJ≧0.035×bJf ・・・(1) ここで、 TJ:鋼部材のねじり定数 bJf:鉄骨梁の上フランジのねじり定数 甲1発明1の「逆U型曲げ鋼板」は、このような特定がなされていない点。 [相違点5](特定事項B) 鋼部材のフランジ部に、 本件発明1では、「頭付きスタッド」を配設しているのに対し、 甲1発明1では、逆U型曲げ鋼板上面のX字状スリットを引き起こして3角形状突起としている点。 (イ) 判断 事案に鑑み上記相違点4について検討する。 本件発明1の「鋼部材」は、式(1)を満たすこと、すなわち、鋼部材17のねじり定数を鉄骨梁9の上フランジ7のねじり定数の3.5%以上とすることにより、鋼部材17が鉄骨梁9の上フランジ7のねじれ変形を十分拘束し、地震時に鉄骨梁9に十分な変形能力が期待できるようにするものである(【0025】)。 そうすると、本件発明1の「床スラブ付き鉄骨梁」は、式(1)を満たす「鋼部材」を「コンクリート床スラブ」と「鉄骨梁」の間に介在させることにより、「鋼部材」により「鉄骨梁」の上フランジのねじれ変形を拘束するから、「コンクリート床スラブが鉄骨梁に対して高い位置にある場所であっても、横座屈による鉄骨梁の上フランジの構面外変形を拘束して十分な変形能力を確保できる」(【0010】)ものといえる。 しかしながら、甲2技術事項は、「スラブ付鉄骨梁」において、「スラブのねじり剛性」を、「鉄骨梁のねじり剛性の10倍以上と」し、「これにより、スラブのねじり剛性により鉄骨梁の回転変形を拘束することができ、鉄骨梁に横座屈補剛材を取付けなくてもスラブ付鉄骨梁の横座屈を拘束することができる」もの、つまり、「スラブ」により「鉄骨梁」の回転変形を拘束するものである。 してみると、甲2技術事項は、本件発明1の「鋼部材」に相当する構成を備えていないから、上記相違点4に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。 仮に、甲2技術事項が、「鉄骨梁」の変形を拘束する部材のねじり剛性を「鉄骨梁」のねじり剛性の定数倍とする点で、上記相違点4に係る本件発明1の構成を備えているとしても、甲1発明1の「逆U型曲げ鋼板1」が「H型鉄骨梁2」の上面の変形を拘束することについて甲1には記載も示唆もされていないのだから、甲1発明1に甲2技術事項を適用すると、甲1発明1の「床スラブコンクリート(甲2技術事項の「スラブ」に相当。)」のねじり剛性が、「H型鉄骨梁2(甲2技術事項の「H形鋼の鉄骨梁」に相当。)」のねじり剛性の10倍以上とされるものとなり、いずれにしても、上記相違点4に係る本件発明1の構成を得ることはできない。 したがって、甲1発明1に甲2技術事項を適用して、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。 さらに、甲3~甲6をみても、上記相違点4に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。 (ウ) 申立人の主張について 申立人は上記相違点4(当審注:申立書では「相違点2」に対応している。)について、 「(エ)相違点2について 相違点2も甲2号証から容易に想到されることである。以下、それについて説明する。 (エ-1)本件特許の式(1)の導出について 甲2号証に記載の発明は、鉄骨梁に横座屈補剛材を取り付けなくても、鉄骨梁の横座屈を拘束できるスラブ付鉄骨梁に関する発明である([0009])。そのため、スラブが鉄骨梁の回転変形を拘束するねじり剛性を備えることを特徴としている(請求項1、[0010])。ねじり剛性については、スラブのねじり剛性が鉄骨梁のねじり剛性の10倍以上であるとよいとされ(請求項2、[0012])、以下の式が提案されている。 スラブのねじり剛性=CG×CJ≧10×SG×SJ ・・・(甲2号証の式(1)) 甲2号証の記載の発明が、鉄骨梁に横座屈補剛材を取り付けなくても、なぜスラブにより梁の横座屈を拘束できるスラブ付鉄骨梁とすることができるかについては、明細書[0018]~[0043]に詳細に記載されている。 甲2号証の式(1)を変形して、スラブのねじり定数と鉄骨梁のねじり定数の関係式として以下の式を導くことができる。(以下この式を「甲2号証から導かれる式」と呼ぶ。) CJ≧10×SG/CG×SJ CG=スラブのせん断弾性係数 CJ=スラブのサンブナンのねじり定数 SG=鉄骨梁のせん断弾性係数 SJ=鉄骨梁のサンブナンのねじり定数 この甲2号証から導かれる式は、本件特許の式(1):TJ≧0.035×bJfに酷似している。ここで、本件特許の式(1)中のbJfは鉄骨梁上フランジのねじり定数であり、bJf=B×tf3/3で示されているが、これは甲3号証にも記載されているサンブナンのねじれ定数そのものである(甲3号証のP165式(8.3)およびP164表8.1中の「薄い板」)。 甲1号証の鉄骨梁は、鉄骨梁の上フランジ上の逆U型曲げ鋼板(本件特許の「溝形断面部材(鋼部材)」に相当する。)を介してコンクリート床スラブと接合していることから、逆U型曲げ鋼板(本件特許の「溝形断面部材(鋼部材)」)で鉄骨梁の上フランジの変形を拘束するものと考えれば、従来の設計方法、例えば甲2号証から導かれる式を適用することができる。 さらに、甲2号証には『スラブのねじり剛性で鉄骨梁の回転変形が拘束され、鉄骨梁に横座屈補剛材を取付けなくても、スラブ付鉄骨梁の横座屈を拘束することができる。』と記載されている([0011])。即ち、甲2号証から導かれる式は、床スラブで鉄骨梁の回転変形(ねじれ変形)を拘束することを示す式であるから、甲2号証から導かれる式において、床スラブに代わり甲1号証の逆U型曲げ鋼板(本件特許の「鋼部材」)を、鉄骨梁の代わりに鉄骨梁の上フランジを当てはめることにより、甲1号証の逆U型曲げ鋼板(本件特許の「鋼部材」)で鉄骨梁の上フランジのねじり変形を拘束することを示せることは容易に想到される。 とすると、甲2号証から導かれる式においてスラブのサンブナンのねじり定数CJを本件特許の銅部材のねじり定数TJに置換し、鉄骨梁のねじり定数SJを上フランジのねじり定数bJfに置換して以下に示す関係式を導くことは容易に想到される。 TJ≧K×bJf Kは甲2号証から導かれる式の10×SG/CGに相当することからも分かるように定数である。 以上のことから、相違点2における本件特許の式(1)は甲2号証から容易に導けるものであり、あとは定数Kをどのように決定するか、ということが相違点2のキーポイントとなる。」(申立書17頁21行~19頁7行)と主張し、さらに、 「(エ-2)定数Kについて」(申立書19頁8行)として、本件特許の段落【0025】、【0036】~【0038】を引用し、 「上記記載から分かるように、本件特許の式(1)における係数0.035は、実施例1の表1に示される形状の鉄骨梁と鋼部材(しかもT形断面形状のみ)を組み合わせた特殊条件下でのFEM解析に基づいたものである。そして、その特殊条件での解析から鋼部材と鉄骨梁の上フランジのねじり定数比(TJ/bJf)と塑性変形倍率の関係から、鋼部材を配置しない場合の鉄骨梁より塑性変形倍率が大きい範囲を選択したものであることが分かる(図10)。即ち式(1)の定数0.035は、実施例1の極めて特殊な条件下において選択決定した数値にすぎない。 とすると、本件特許の式(1)は、前述した甲2号証から導かれる式の定数Kを、特許権者が特殊条件下で選択した0.035に置換したものにすぎない。即ち、本件特許の式(1)は、甲2号証から導かれる式の定数Kを当業者が適宜選択した数値にしただけのものである。従ってから、本件特許の式(1)と甲2号証から導かれる式は実質的に同等のものである。 ここで鉄骨梁の設計において塑性変形倍率を用いて評価することは、当業者が通常行う事項である。例えば甲4号証や鋼5号証(当審注:「甲5号証」の誤記と認められる。)は、本件特許と同じ床スラブ付き鉄骨梁に関する特許公開公報であるが、そこには塑性変形倍率で鉄骨梁の設計上の評価をしていることが記載されている(甲4号証の[0019]、甲5号証の[0050])。従って、塑性変形倍率を用いて評価すること自体に新規性も進歩性もない。 以上のことから、相違点2である本件特許の式(1)は、甲1号証に甲2号証を組み合わせることにより、当業者であれば容易に想到し得ることである。」(申立書20頁10~28行)と主張する。 しかしながら、上記(イ)で説示のとおり、甲2技術事項は、本件発明1の「鋼部材」に相当する構成を備えていないから、上記相違点4に係る本件発明1の構成を備えているとはいえないし、仮に、甲2技術事項が、「鉄骨梁」の変形を拘束する部材のねじり剛性を「鉄骨梁」のねじり剛性の定数倍とする点で、上記相違点4に係る本件発明1の構成を備えているとしても、甲1発明1の「逆U型曲げ鋼板1」が「H型鉄骨梁2」の上面の変形を拘束することについて甲1には記載も示唆もされていないのだから、甲1発明1に甲2技術事項を適用すると、甲1発明1の「床スラブコンクリート(甲2技術事項の「スラブ」に相当。)」のねじり剛性が、「H型鉄骨梁2(甲2技術事項の「鉄骨梁」に相当。)」のねじり剛性の10倍以上とされるものとなるにすぎず、スラブと鉄骨梁に係る甲2号証から導かれる式の定数Kを、鉄骨梁と鋼部材に係る本件発明1の式(1)における係数0.035とすることは、各式が対象とする部材の違いを踏まえると、単に、置換したものに過ぎないものでも、適宜選択した数値にしただけのものとは認められないし、該置換や選択に係る十分な説明はされていない。 よって、申立人の主張には理由がない。 (エ) 小括 以上のことから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1、甲2技術事項及び甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (オ) 甲1発明2との対比・判断 本件発明1と甲1発明2を対比すると、両者の相違点として、上記(ア)に記載した相違点4も含まれる。 よって、上記(イ)と同様の理由で、本件発明1は、甲1発明2、甲2技術事項及び甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 甲6を主引例とする場合 (ア) 対比 本件発明1と甲6発明を対比する。なお、見出しは(a)等とし、本件発明1の各分説に対応させている。 (a) 甲6発明の「両端がH形鋼柱と接合される溶接組立H形断面梁」は、本件発明1の「両端部が柱に剛接合される」「H形断面の鉄骨梁」と、「両端部が柱に」「接合される」「H形断面の鉄骨梁」である点で共通する。 また、甲6発明の「溶接組立H形断面梁と」「梁上フランジに配した頭付きスタッドで結合した」「コンクリート床スラブ」は、「頭付きスタッド」を介して「溶接組立H形断面梁」に接合しているといえるから、本件発明1の「該鉄骨梁の上部に接合されたコンクリート床スラブ」に相当する。 そうすると、甲6発明の「溶接組立H形断面梁とコンクリート床スラブとを梁上フランジに配した頭付きスタッドで結合した合成梁」は、本件発明1の「床スラブ付き鉄骨梁」に相当する。 よって、甲6発明は、本件発明1の特定事項Aと、「両端部が柱に」「接合される」「H形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上部に接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁」である点で共通する。 (b) 甲6発明の「コンクリート床スラブ」「を」「頭付きスタッドで結合」することは、本件発明1の「前記コンクリート床スラブが」「配設された頭付きスタッドを介して接合されている」ことに相当する。 よって、甲6発明は、本件発明1の特定事項Bと「前記コンクリート床スラブが」、鉄骨梁の上方に、「頭付きスタッドを介して接合されている」点で共通する。 (c) 上記(a)より、甲6発明の「合成梁」は、本件発明1の「床スラブ付き鉄骨梁」に相当する。 よって、甲6発明は、本件発明1の特定事項Cを備える。 以上のことから、本件発明1と甲6発明は、 「A’両端部が柱に接合されるH形断面の鉄骨梁と、該鉄骨梁の上部に接合されたコンクリート床スラブとを有する床スラブ付き鉄骨梁であって、 B’前記コンクリート床スラブが、鉄骨梁の上方に、頭付きスタッドを介して接合されている C 床スラブ付き鉄骨梁。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点6](特定事項A) 鉄骨梁の両端部と柱の接合に関して、 本件発明1では、鉄骨梁の両端部が柱に剛接合されるのに対し、 甲6発明では、溶接組立H形断面梁の両端がH形鋼柱に接合されているが、剛接合であるか不明である点。 [相違点7](特定事項A) 本件発明1では、鉄骨梁の下フランジの構面外変形が補剛されていないのに対し、 甲6発明では、このような特定がなされていない点。 [相違点8](特定事項B) 本件発明1では、フランジ部を有し、該フランジ部が前記鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジの全長に亘って接合されると共に下式(1)を満たす鋼部材を有するのに対し、 TJ≧0.035×bJf ・・・(1) ここで、 TJ:鋼部材のねじり定数 bJf:鉄骨梁の上フランジのねじり定数 甲6発明では、そのような特定がなされていない点。 [相違点9](特定事項B) 頭付きスタッドが 本件発明1では、鋼部材のフランジ部に配設されているのに対し、 甲6発明では、溶接組立H形断面梁の梁上フランジに配されている点。 (イ) 判断 事案に鑑み上記相違点8について検討する。 本件発明1の「鋼部材」は、式(1)を満たすこと、すなわち、鋼部材17のねじり定数を鉄骨梁9の上フランジ7のねじり定数の3.5%以上とすることにより、鋼部材17が鉄骨梁9の上フランジ7のねじれ変形を十分拘束し、地震時に鉄骨梁9に十分な変形能力が期待できるようにするものである(【0025】)。 ここで、甲1技術事項1の「逆U型曲げ鋼板」は、「両側の脚を」「H型鉄骨梁の上面に」「溶接」するものであり、「逆U型曲げ鋼板」の「上面」は、「H型鉄骨梁」の上フランジの上方に配置されることは明らかであるから、甲1技術事項1の「逆U型曲げ鋼板」の「上面」は、本件発明1の「フランジ部」に相当し、甲1技術事項1の「H型鉄骨梁の上面に」、「両側の脚を溶接」する「逆U型曲げ鋼板」は、上記相違点8に係る本件発明1の構成における「該フランジ部が前記鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジ」「に」「接合される」「鋼部材」に相当する。 しかしながら、甲1技術事項1は、上記相違点8に係る本件発明1の構成のうち、「前記鉄骨梁の上フランジの全長に亘って接合されると共に式(1)を満たす」ことについては特定されていない。 また、甲1には、「逆U型曲げ鋼板」を用いて「H型鉄骨梁」の上面の変形を拘束することについて記載も示唆もないし、「逆U型曲げ鋼板」のねじり定数と「H型鉄骨梁」のねじり定数の関係に着目する記載もない。 してみると、甲1技術事項1において、「逆U型曲げ鋼板」のねじり定数を「H型鉄骨梁」のねじり定数の3.5%以上とすることにより、上記相違点8に係る本件発明1の構成のうち「式(1)を満たす」ことに相当するようにすることは設計事項とはいえない。 以上のことから、甲1技術事項1は、上記相違点8に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。 このことは、甲1技術事項2についても同様である。 したがって、甲6発明に甲1技術事項1を適用して、上記相違点8に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。 また、甲6発明に甲1技術事項2を適用して、上記相違点8に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。 さらに、甲2~甲5をみても、上記相違点8に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。 (ウ) 申立人の主張について 申立人は上記相違点8(当審注:申立書では「相違点7」に対応している。)について、次の主張をしている。 「(ウ)相違点7について ・・・ 上記記載から分かるように、本件特許の式(1)における係数0.035は、実施例1の特殊条件下でのFEM解析に基づいたものである。そして、その特殊条件での解析から鋼部材と鉄骨梁の上フランジのねじり定数比(TJ/bJf)と塑性変形倍率の関係から、鋼部材を配置しない場合の鉄骨梁より塑性変形倍率が大きい範囲を選択したものであることが分かる(図10)。即ち式(1)の示すものは、実施例1の特殊条件下における塑性変形倍率が約5以上の範囲を示しているにすぎない。 鉄骨梁の設計において塑性変形倍率を用いて評価することは、当業者が通常行う事項である。例えば、甲4号証や甲5号証は、本件特許と同じ床スラブ付き鉄骨梁に関する特許公開公報であるが、そこには塑性変形倍率を用いて鉄骨梁の設計上の評価をしていることが記載されている(甲4号証の[0019]、甲5号証の[0050])。 さらに、鋼部材と鉄骨梁の上フランジのねじり定数比(TJ/bJf)と塑性変形倍率の関係は、鋼部材や鉄骨梁の上フランジの形状(各部寸法)により異なることは当業者にとっては技術常識であり、式を見れば自明である。したがって、本件特許公報の図10からは、鋼部材を配置しない鉄骨梁の塑性変形倍率が約5であるから、それ以上のものであればよいように読めるが、これは単に実施例1の極めて特殊な条件での評価にすぎない。 そもそも、本件特許の式(1)を満たせば地震時に鉄骨梁が十分な変形能力を持つと説明しているが([0025])、式(1)は特殊な条件での評価にすぎないのだから式(1)の係数「3.5%(0.035)」という数値に技術的な意味があるとは言えない。強いて言えば、本件特許の実施例1の特殊条件下において、鋼部材を有さない場合に比べれば鋼部材を有した方が変形能を有するという程度のことしか言えないことは、当業者であれば誰でも理解できることである。 以上のことから、式(1)自体、当業者が適宜設定する事項にすぎないことは明白であるから、相違点7も当業者が適宜設定する事項(いわゆる設計事項)にすぎない。」(申立書26頁14行~28頁7行) しかしながら、上記(イ)で説示のとおり、甲1には、「逆U型曲げ鋼板」を用いて「H型鉄骨梁」の上面の変形を拘束することについて記載も示唆もないし、「逆U型曲げ鋼板」のねじり定数と「H型鉄骨梁」のねじり定数の関係に着目する記載もないから、甲1技術事項1において、「逆U型曲げ鋼板」のねじり定数を「H型鉄骨梁」のねじり定数の3.5%以上とすることにより、「式(1)を満たす」ことに相当するようにすることは設計事項とはいえない。 よって、申立人の主張には理由がない。 (エ) 小括 以上のことから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明、甲1技術事項1及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明1は、甲6発明、甲1技術事項2及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2) 本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えた発明である。 したがって、本件発明2~4は、本件発明1と同様の理由により、甲1発明1、甲2技術事項及び甲3~甲6に記載された事項に基づいて、または、甲1発明2、甲2技術事項及び甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明2~4は、本件発明1と同様の理由により、甲6発明、甲1技術事項1及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、または、甲6発明、甲1技術事項2及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 本件発明5 本件発明5は、「床スラブ付き鉄骨梁の設計方法」の発明であるが、本件発明1の「床スラブ付き鉄骨梁」を設計方法の発明として特定したものであり、本件発明1とカテゴリーが相違するのみで、実質的な発明特定事項は本件発明1と同じである。 したがって、本件発明5は、上記(1)アと同様の理由により、甲1発明1、甲2技術事項及び甲3~甲6に記載された事項に基づいて、または、甲1発明2、甲2技術事項及び甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明5は、上記(1)イと同様の理由により、甲6発明、甲1技術事項1及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、または、甲6発明、甲1技術事項2及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1~5は、甲1発明1、甲2技術事項及び甲3~甲6に記載された事項に基づいて、または、甲1発明2、甲2技術事項及び甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明1~5は、甲6発明、甲1技術事項1及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、または、甲6発明、甲1技術事項2及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 サポート要件 (1) 判断基準 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2) 判断 本件発明1についての記載は上記第2のとおりである。 また、本件特許の発明の詳細な説明の【0007】~【0010】によると、本件発明1の解決しようとする課題は、「コンクリート床スラブが鉄骨梁に対して高い位置にある場所であっても、横座屈による鉄骨梁の上フランジの構面外変形を拘束して十分な変形能力を確保できる床スラブ付き鉄骨梁およびその設計方法を提供すること」である。 そして、発明の詳細な説明の【0016】には、「本発明においては、フランジ部を有し、該フランジ部が鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジの全長に亘って接合されると共に所定の捻り定数を有する鋼部材を有し、コンクリート床スラブが前記鋼部材の前記フランジ部に配設された頭付きスタッドを介して接合されていることにより、コンクリート床スラブが鉄骨梁に対して高い位置にあるにもかかわらず、横座屈による鉄骨梁の上フランジの構面外変形を拘束して、横座屈防止用の小梁、孫梁、アングルを省略しても、地震時に十分な変形能力を発揮することができる。」と記載され、【0019】には柱に関する事項が記載され、【0020】~【0021】には鉄骨梁に関する事項が記載され、【0022】にはコンクリート床スラブに関する事項が記載され、【0023】~【0027】には鋼部材に関する事項が記載され、【0028】~【0031】には頭付きスタッド19に関する事項が記載されている。 そして、【0025】には、「また、本発明では、鋼部材17が鉄骨梁9の上フランジ7のねじれ変形を十分拘束できるよう、鋼部材17に必要なねじり定数を規定している。すなわち、鋼部材17のねじり定数が鉄骨梁9の上フランジ7のねじり定数の3.5%以上であれば、地震時に鉄骨梁9に十分な変形能力が期待できる。」と記載されており、 「フランジ部を有し、該フランジ部が前記鉄骨梁の上フランジの上方に配置されるように、前記鉄骨梁の上フランジの全長に亘って接合されると共に下式(1)を満たす鋼部材を有し、前記コンクリート床スラブが前記鋼部材の前記フランジ部に配設された頭付きスタッドを介して接合されている C ことを特徴とする床スラブ付き鉄骨梁。 TJ≧0.035×bJf ・・・(1) ここで、 TJ:鋼部材のねじり定数 bJf:鉄骨梁の上フランジのねじり定数」 として構成された床スラブ付き鉄骨梁であれば、コンクリート床スラブが鉄骨梁に対して高い位置にある場合であっても、横座屈による鉄骨梁の上フランジの構面外変形を拘束して、横座屈防止用の小梁、孫梁、アングルを省略しても、地震時に十分な変形能力を発揮することができることが記載されているといえる。 また、【0032】~【0038】では、その数値範囲内にある床スラブ付き鉄骨梁について、鋼部材17を設けることなくコンクリート床スラブ11と直接接合した鉄骨梁9と同等の変形能力を発揮するためには、鋼部材17と鉄骨梁9の上フランジ7のねじり定数比が3.5%以上必要であることが記載されている。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 本件発明5は、「床スラブ付き鉄骨梁の設計方法」の発明であるが、本件発明1の「床スラブ付き鉄骨梁」を設計方法の発明として特定したものであり、本件発明1とカテゴリーが相違するのみで、実質的な発明特定事項は本件発明1と同じである。 そうすると、本件発明5に関して、特許請求の範囲の記載は、本件発明1と同様の理由によりサポート要件に適合する。 (3) 申立人の主張について 申立人は、サポート要件について、 「(ウ)本件特許の式(1)について ・・・ 即ち、上記記載から分かるように、本件特許の式(1)における係数0.035は、実施例1の表1に示される形状の鉄骨梁と鋼部材(しかもT形形状のみ)を組み合わせた特殊条件下でのFEM解析に基づいたものである。そして、その特殊条件での解析から鋼部材と鉄骨梁の上フランジのねじり定数比(TJ/bJf)と塑性変形倍率の関係から、鋼部材を配置しない場合の鉄骨梁より塑性変形倍率が大きい範囲を選択したものであることが分かる(図10)。即ち式(1)の定数0.035は、実施例1の極めて特殊な条件下において選択した数値にすぎない。 ・・・ (エ)小括 以上のことから、請求項1に係る発明(本件請求項1発明)の全ての範囲にまで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。よって、請求項1に記載の発明(本件請求項1発明)はサポート要件を満たしていない。」と主張する(申立書34頁1行~35頁31行)。 しかしながら、上記(2)で検討したとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件発明1の全ての範囲にまで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (4) まとめ 以上によれば、本件発明1~5は、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 よって、本件発明1~5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことができない。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700926

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