特許異議申立
2023-700902
逆止弁及び弁装置
- 審判番号
- 2023-700902
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-008423
- 登録番号
- 7233117
- 請求日
- 2023年09月01日
- 審決日
- 2024年08月07日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社不二工機
- 【権利者代理人】弁理士法人第一国際特許事務所
- 【異議申立人】瀬口 泰弘
- 審判長/審判官
- 審判長 窪田 治彦
- 審判官 北村 英隆
- 審判官 関口 哲生
- 分類
- P1651.121-YAA(F16K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7233117号発明「逆止弁及び弁装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7233117号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7233117号の請求項1~3、5に係る特許を維持する。
特許第7233117号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7233117号の請求項1~5に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」~「本件特許5」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、令和3年1月22日の出願であって、令和5年2月24日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和5年3月6日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和5年9月1日に、本件特許1~5に対し、特許異議申立人瀬口泰弘(以下「異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
特許異議の申立ての、その後の手続等の概要は以下のとおりである。
令和5年12月27日付け 取消理由通知書
令和6年 2月19日 意見書(特許権者)及び訂正請求書の提出
以下、令和6年2月19日付け訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。なお、異議申立人に対し特許法120条の5第5項の規定に基づく書面を送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、異議申立人から応答はなかった。
<証拠方法>
甲第1号証:特開昭54-10432号公報
甲第2号証:特開2012-87965号公報
甲第3号証:特開2015-77816号公報
甲第4号証:特開昭49-78230号公報
甲第5号証:国際公開第2020/194561号
甲第6号証:実願昭54-53087号(実開昭55-152868号)のマイクロフィルム
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
「特許第7233117号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5に訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「弁座及び通路を備えた中空の弁本体と、
前記弁本体の通路内に配設された弁体と、を有し、
前記弁体は、前記弁座に当接する基部と、前記基部から軸線に沿って延在する複数本の入口側脚部と、前記基部から前記入口側脚部とは逆側に延在する複数本の出口側脚部とを有し、
前記入口側脚部及び前記出口側脚部は、前記弁本体の内周に対して軸線方向に摺動可能であり、
前記弁本体の出口側に縮径通路が形成されており、前記弁体の前記出口側脚部の径方向外側面には、突起部が形成され、前記突起部が前記縮径通路の軸線方向内側面に当接することにより、前記弁本体から前記弁体が離脱することが阻止される、
ことを特徴とする逆止弁。」とあるのを、
「弁座及び通路を備えた中空の弁本体と、
前記弁本体の通路内に配設された弁体と、を有し、
前記弁体は、前記弁座に当接する基部と、前記基部から軸線に沿って延在する複数本の入口側脚部と、前記基部から前記入口側脚部とは逆側に延在する複数本の出口側脚部とを有し、
前記入口側脚部及び前記出口側脚部は、前記弁本体の内周に対して軸線方向に摺動可能であり、
前記弁本体の出口側に縮径通路が形成されており、前記弁体の前記出口側脚部の径方向外側面には、突起部が形成され、前記突起部が前記縮径通路の軸線方向内側面に当接することにより、前記弁本体から前記弁体が離脱することが阻止され、
前記出口側脚部の端部を互いに近接させたとき、前記弁本体の軸線方向に見て、前記突起部の外接円径は、前記縮径通路の内周円径よりも小さくなる、
ことを特徴とする逆止弁。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項に記載の逆止弁と、」と記載されているのを、「請求項1~3のいずれか一項に記載の逆止弁と、」に訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、出口側脚部に関し、「前記出口側脚部の端部を互いに近接させたとき、前記弁本体の軸線方向に見て、前記突起部の外接円径は、前記縮径通路の内周円径よりも小さくなる」ものに限定するものである。
したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1により、出口側脚部に関し、「前記出口側脚部の端部を互いに近接させたとき、前記弁本体の軸線方向に見て、前記突起部の外接円径は、前記縮径通路の内周円径よりも小さくなる」ものに限定された。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項1は、訂正前の請求項4に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、新規事項を追加するものではないことは、明らかである。
エ 独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~5について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項1に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
また、請求項1の記載を引用する請求項2~5についても同様である。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではないことは、明らかである。
さらに、本件においては、本件訂正前の請求項1~5について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項4に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3による訂正について
訂正事項3は、訂正前の請求項5が、請求項1~4の何れか1項を引用するものであったところ、訂正事項2により削除された請求項4との引用関係を解消するための訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、引用関係の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではないことは、明らかである。
さらに、本件においては、本件訂正前の請求項1~5について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項5に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係であるから、請求項1~5は、一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項1~5について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
(5)以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1~5に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
弁座及び通路を備えた中空の弁本体と、
前記弁本体の通路内に配設された弁体と、を有し、
前記弁体は、前記弁座に当接する基部と、前記基部から軸線に沿って延在する複数本の入口側脚部と、前記基部から前記入口側脚部とは逆側に延在する複数本の出口側脚部とを有し、
前記入口側脚部及び前記出口側脚部は、前記弁本体の内周に対して軸線方向に摺動可能であり、
前記弁本体の出口側に縮径通路が形成されており、前記弁体の前記出口側脚部の径方向外側面には、突起部が形成され、前記突起部が前記縮径通路の軸線方向内側面に当接することにより、前記弁本体から前記弁体が離脱することが阻止され、
前記出口側脚部の端部を互いに近接させたとき、前記弁本体の軸線方向に見て、前記突起部の外接円径は、前記縮径通路の内周円径よりも小さくなる、
ことを特徴とする逆止弁。
【請求項2】
前記突起部の入口側には斜面が形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の逆止弁。
【請求項3】
前記弁本体は、前記弁座と前記縮径通路との間に中央通路を備え、
前記出口側脚部は、前記中央通路の内周に対して摺動しない、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の逆止弁。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の逆止弁と、小径円筒面を備えた上流側配管と、前記小径円筒面より大径の大径円筒面を備えた下流側配管とを有し、
前記逆止弁の弁本体は、前記小径円筒面に挿入される縮径円筒部と、前記大径円筒面に挿入される拡径円筒部とを有する、
ことを特徴とする弁装置。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正前の請求項1、3、5に係る特許に対して、当審が令和5年12月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 理由1(進歩性)
(1)本件発明1、3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1、3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件発明5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証記載の技術的事項及び甲第3号証記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 甲各号証
1 甲各号証の記載
(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「本発明は逆止弁に関し、特に管状ハウジングと軸線方向に可動とした弁素子とを有し、弁素子が弁を通過する流体により変位する形式のものに関する。」(甲第1号証2ページ左下欄17-20行)
(イ)「この実施例による弁はほぼ管状のハウジング1を含み、このハウジングが中央に貫通流路2を有し、流路がその中央部分に円筒摺動面3を有する。フランジ4を、管状外ねじ環として、ハウジングの出口端部に設け、フランジ4の外ねじをハウジング1の出口端部における環状凹部の内ねじ5と結合させる。ハウジング内に案内部材10を配置し、この案内部材はハウジング内の流路を通して軸線方向に延在させ、案内部材により弁素子20をその両端の中間位置で支持する。図面に示すように、ハウジングを回転体として、すなわち円筒形状体として形成し、ハウジングにはその前端(上流側)に半径方向内向き部分を設けて弁座6を形成し、この弁座をハウジングの長手方向軸線上に心出しされた円形開口7と隣接させる。」(甲第1号証3ページ右上欄11行-同ページ左下欄6行)
(ウ)「閉鎖フランジ4に中央開口9を形成し、この中央開口を、ハウジング1内の流路の長手方向軸線および開口7と同心的に配置して、開口7および9内を貫通する案内部材10を軸線方向に変位可能とする。案内部材10に弁円板11と、案内面を限定する手段とを設け、この手段として本実施例では複数の半径方向外方に延在するリブ12および13を設け、これらのリブを円板11の軸線方向における対向側面に配置する。第3図に示すように、本実施例においては、4個のかかるリブを相互に90°ずつ離隔させて設け、これらのリブの外面を開口7および9の内面と隣接させる。もつとも、3個のリブによつても同様に良好な案内が行われることを確認した。各案内リブ13に傾斜肩部14を設け、この肩部をフランジ4の内側円錐面と協働させて、案内部材10の下流方向への軸線変位を制限するための停止位置を限定する。」(甲第1号証3ページ左下欄15行-同ページ右下欄11行)
(エ)甲第1号証の図1から、ハウジング1の弁座6と中央開口9との間に円筒摺動面3を有しており、リブ13は、この円筒摺動面3の内周に対して摺動しないことが看て取れる。
(オ)上記記載(イ)の「フランジ4の外ねじをハウジング1の出口端部における環状凹部の内ねじ5と結合させる。」、上記記載(ウ)の「この肩部をフランジ4の内側円錐面と協働させて、案内部材10の下流方向への軸線変位を制限するための停止位置を限定する。」及び甲第1号証の図1から、ハウジング1に案内部材10を組付ける際には、案内部材10をハウジング1内に挿入後、フランジ4をハウジング1の出口端部に結合させるようにした構成が看取される。
(カ)「Fig1
[図:0001416459000001.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
以上の(ア)~(カ)の記載から、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という)が記載されている。
(甲1発明)
「ほぼ管状のハウジング1を含み、このハウジング1が中央に貫通流路2を有し、ハウジング1に弁座6を形成し、
ハウジング1の貫通通路2内に案内部材10を配置し、
案内部材10に弁円板11と、半径方向外方に延在するリブ12およびリブ13を設け、これらのリブを弁円板11の軸線方向における対向側面に配置し、4個のかかるリブを相互に90°ずつ離隔させて設け、
閉鎖フランジ4を、ハウジング1の出口端部に設け、閉鎖フランジ4に中央開口9を形成し、この中央開口9を、ハウジング1内の流路の長手方向軸線および開口7と同心的に配置して、開口7および中央開口9内を貫通する案内部材10を軸線方向に変位可能とし、リブ12およびリブ13の外面を開口7および中央開口9の内面と隣接させ、
各案内リブ13に傾斜肩部14を設け、この肩部を閉鎖フランジ4の内側円錐面と協働させて、案内部材10の下流方向への軸線変位を制限するための停止位置を限定する、
逆止弁。」
(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0016】
図5は、逆止弁100の詳細を示す説明図である。逆止弁100は、プラスチック等で形成され、円盤状の逆止弁本体105と、逆止弁本体105から戻り通路34の出口34b側へ突出する3本のストッパ部110と、逆止弁本体105から戻り通路34の入口34a側へ突出する3本のガイド部120とを備え、逆止弁本体105とガイド部120との間には、弾性を有する環状のシール部材130が嵌装される。」
(イ)「【0017】
図6に示すように、戻り通路34の入口34aと逆止弁100が装備される逆止弁室36の間には、戻り通路34の出口34bよりも内径寸法を小さくした環状の弁座35が形成される。出口34bはストレートな通路であって、逆止弁100はこの出口34b側から逆止弁室36へ挿入される。ガイド部120は、先端の抜止部122が弁座35に接すると弾性で内方へ撓み、抜止部122が弁座35の内側の弁口を通過するとガイド部120は弾性で元の状態に復帰する。これにより、抜止部122が弁座35の第1のテーパー部35aに係合してガイド部120が戻り通路34の出口34b側へ抜け出るのが防止される。この状態において、逆止弁100は弁座35に接離する方向に移動自在となっている。
(ウ)「【図5】
[図:0001416459000002.jpg]
」
(エ)「【図6】
[図:0001416459000003.jpg]
イ 甲第2号証記載の技術的事項
以上の(ア)~(エ)の記載から、甲第2号証には以下の技術的事項が記載されている。
(甲第2号証記載の技術的事項)
「逆止弁本体105から入口34a側へ突出する3本のガイド部120と、逆止弁本体105から出口34b側へ突出するストッパ部110を有する逆止弁100。」
(3)甲第3号証について
ア 甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0092】
逆止弁24は、弁体部材24aと弁体収容部材24bとを有している。弁体収容部材24bは円筒状に形成されており、その両端部は雄状ソケット部になっている。一方の雄状ソケット部は、第2出口側コネクタ56の雌状ソケット部に挿入されている。他方の雄状ソケット部は、逆止弁用コネクタ53の雌状ソケット部に挿入されている。」
(イ)甲第3号証の図5には、上流側の逆止弁用コネクタ53の雌状ソケット部が下流側の第2出口側コネクタ56の雌状ソケット部よりも小径に形成され、弁体収容部材24bの両端部の雄状ソケット部が雌状ソケット部に対応する径とされることが記載されている。
(ウ)「【図5】
[図:0001416459000004.jpg]
」
イ 甲第3号証記載の技術的事項
上記(ア)~(ウ)の記載から、甲第3号証には以下の技術的事項が記載されている。
(甲第3号証記載の技術的事項)
「小径円筒面を備えた上流側の逆止弁用コネクタ53と、前記小径円筒面より大径の大径円筒面を備えた下流側の第2出口側コネクタ56とを有し、逆止弁24の弁体収容部材24bは、前記小径円筒面に挿入される縮径された雄状ソケット部と、前記大径円筒面に挿入される拡径された雄状ソケット部と有する弁装置。」
(4)甲第6号証について
ア 甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「本考案は逆止弁、特に合成樹脂等の弾性または可撓性のある容器に取付けるための逆止弁に関する。」(甲第6号証明細書第1頁15行~17行)
(イ)「弁座板2と係止部3をそれぞれ端部に有する筒体1の内部に、弁板5と弁板支持部6とよりなる弁体4を挿入する。筒体1内に弁体4を挿入する際は、弁体4は弾性のある合成樹脂材で成形しておけば、弁体4の弁板支持部6を内方(弁板5側)に、筒体1の係止部3の内のりの近傍か、その以下に窄ませて行えばよく、筒体1内への弁体4の挿入は極めて容易に行える。」(甲第6号証明細書第4頁1行~9行)
(ウ)「【第3図】
[図:0001416459000005.jpg]
」
(エ)「【第4図】
[図:0001416459000006.jpg]
」
(オ)「【第6図】
[図:0001416459000007.jpg]
」
(カ)上記(ア)及び(オ)より、出口側に弁板5の弁板支持部6を有している構成が看取される。
イ 甲第6号証記載の技術的事項
上記(ア)~(カ)の記載から甲第6号証には以下の技術的事項が記載されている。
(甲第6号証記載の技術的事項)
「出口側に弁板5の弁板支持部6を有しており、弁板支持部6を内方に、筒体1の係止部の内のり以下に窄ませることにより、筒対1内に弁体4を挿入する構成を備えた逆止弁。」
第6 当審の判断
1 理由(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「弁座6」及び「貫通通路2」は、本件発明1の「弁座」及び「通路」に相当し、甲1発明の「ハウジング1」は、弁座6と貫通流路2を備えるものであるから、本件発明1の「弁座及び通路を備えた中空の弁本体」に相当する。
甲1発明の「弁円板11」及び「案内部材10」は、ハウジング1の貫通通路2内に配置されるものであるから、本件発明1の「前記弁本体の通路内に配設された弁体」に相当する。
甲1発明の「弁円板11」は、弁座6に当接することは明らかであるから、本件発明1の「基部」に相当する。
また、甲1発明の「リブ12」及び「リブ13」は、それぞれ弁円板11の軸線方向に対向側面に配置される4個のリブからなるものであるから、本件発明1の「入口側脚部」及び「出口側脚部」とは、「基部から軸線に沿って延在する複数本の入口側部分」、「基部から入口側部分とは逆側に延在する複数本の出口側部分」の限度で一致する。
そして、甲1発明の「リブ12」及び「リブ13」は、ハウジング1の開口7、中央開口9の内面に隣接するものであり、軸線方向に変位可能な案内部材10に設けられていることから、本件発明1の「入口側脚部」及び「出口側脚部」とは、「前記弁本体の内周に対して軸線方向に摺動可能」であることで一致する。
甲1発明の「中央開口9」は、ハウジング1の出口端部に設けられる閉鎖フランジ4に形成され、閉鎖フランジ4の内側円錐面によって、案内部材10の下流方向への軸線変位を制限するものであるから、本件発明1における、弁本体の出口側に形成され、弁体が離脱することを阻止する「縮径通路」に相当する。また、甲1発明の「傾斜肩部14」は、リブ13に設けられ、フランジ4の内側円錐面と協働させて案内部材10の下流方向への軸線変位を制限するものであるから、本件発明1の「弁体の前記出口側部分の径方向外側面」に形成され、「前記突起部が前記縮径通路の軸線方向内側面に当接することにより、前記弁本体から前記弁体が離脱することが阻止される」「突起部」に相当する。
そうしてみると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「弁座及び通路を備えた中空の弁本体と、
前記弁本体の通路内に配設された弁体と、を有し、
前記弁体は、前記弁座に当接する基部と、前記基部から軸線に沿って延在する複数本の入口側部分と、前記基部から前記入口側部分とは逆側に延在する複数本の出口側部分とを有し、
前記入口側部分及び前記出口側部分は、前記弁本体の内周に対して軸線方向に摺動可能であり、
前記弁本体の出口側に縮径通路が形成されており、前記弁体の前記出口側部分の径方向外側面には、突起部が形成され、前記突起部が前記縮径通路の軸線方向内側面に当接することにより、前記弁本体から前記弁体が離脱することが阻止される、
逆止弁。」
(相違点1)
本件発明1は、「入口側脚部」及び「出口側脚部」を有し、「出口側脚部の端部を互いに近接させたとき、弁本体の軸線方向に見て、前記突起部の外接円形は、前記縮径通路の内周円形よりも小さくなる」構成を有しているのに対し、甲1発明は、「リブ12」及び「リブ13」を有し、その形状、機能が相違する点。
イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
a 甲1発明及び甲第2号証記載の技術的事項について
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1において弁体30を組付ける場合、作業者が出口側脚部33の先端を摘んで弾性変形させ、突起部34の外接円形を縮径通路の内周円形よりも小さくすることで、突起部34を弁本体20内に進入させ組付けることが記載されている(【0023】、【0024】)。つまり、出口側脚部の端部を互いに近接させたとき、突起部の外接円径が、縮径通路の内周円形よりも小さくなるのは、弁体30を弁本体20内に組み付けるためといえる。
甲1発明は、案内部材10に半径方向外側に延在するリブ12および13を設けた構成を有する逆止弁である。そして、出口側のリブ13には傾斜肩部14が設けられ、この傾斜肩部14を閉鎖フランジ4の内側円錐面と協働させて、案内部材10の下流方向軸線変位を制限する構成となっている。
他方、甲2号証記載の技術的事項は、逆止弁本体105から入口34a側へ突出する3本のガイド部120および、出口34b側へ突出するストッパ部110を備えた逆止弁である。そして、入口34a側へ突出する3本のガイド部120に設けられた抜止部122により出口34b側へ抜け出るのが防止される構成となっている(第5 1(2)ア(イ)(ウ))。
したがって、甲1発明において、案内部材10の下流方向軸線変位を制限するという課題のもと、当該課題を解決するための構成が異なる甲第2号証記載の技術的事項を、出口側のリブ13に適用する動機付けがないといえる。
また、仮に甲1発明のリブ13に代えて、甲第2号証記載の技術的事項におけるストッパ部110を適用したとしても、当該ストッパ部110は端部を互いに近接させる構造を備えたものではなく、また、甲1発明は、ねじで結合された閉鎖フランジ4を外すことで案内部材10を組付ける構成となっており、案内部材10は変形しないことを前提としたものであると解されることから、上記相違点1に係る構成のようにすることは当業者といえども容易に想到できるものではなく、上記相違点1に係る構成のように特定された本件発明1には至らない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る発明特定事項を備えることにより、弁本体に弁体を組付ける場合、突起部が縮径通路の内側を通過して、弁体内に進入することができる(【0023】、【0024】)といった、格別な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲第2号証記載の技術的事項に基いて容易に発明することができたものではない。
次に甲第6号証について検討する。
b 甲1発明、甲第2号証記載の技術的事項及び甲第6号証記載の技術的事項
甲第6号証記載の技術的事項は「出口側に弁板5の弁板支持部6を有しており、弁板支持部6を内方に、筒体1の係止部の内のり以下に窄ませることにより、弁体1内に弁体4を挿入する構成を備えた逆止弁。」であり、弁板支持部6の端部を窄ませることで弁体4への挿入を行う構成を有しているといえる。
しかし、甲第6号証記載の技術的事項は、弁体1の出口側のみに弁板支持部6を備えたものであり、弁体の入口側にも入口側部分を有する、甲1発明及び甲2号証記載の技術的事項とは弁体の構造が異なり、また、甲1発明及び甲2号証記載の技術的事項はともに組み付けのためにリブ13やストッパ部110を窄ませる必要のない構成を備えたものである。
そうすると、甲1発明において、リブ13に代えて、甲第6号証記載の技術的事項を適用する動機はない。
また、甲1発明のリブ12、13に代えて、甲2号証記載の技術的事項の3本のストッパ部110の構造を採用し、それを前提にさらに、3本のストッパ部110に対して甲第6号証記載の技術的事項の弁体支持部6における端部を窄ませる構成を適用することは、多段階に改変すること(いわゆる容易の容易)となるため、当業者が容易に発明することができたものとは認められない。
以上によれば、甲1発明及び甲2号証記載の技術的事項において組付けのために、構造の異なる甲第6号証記載の技術的事項の「弁板支持部」を適用する動機付けはなく、仮に適用したとしても、相違点1に係る構成のようにすることは当業者が容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る発明特定事項を備えることにより、弁本体に弁体を組付ける場合、突起部が縮径通路の内側を通過して、弁体内に進入することができる(【0023】、【0024】)といった、格別な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、当業者であっても、甲1発明、甲2号証記載の技術的事項及び甲第6号証記載の技術的事項に基いて容易に発明することができたものではない。
(2)本件発明3について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3は、本件発明1を特定するための事項をすべて含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3は、甲1発明、甲2号証記載の技術的事項及び甲第6号証記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
(3)本件発明5について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明5は、本件発明1を特定するための事項をすべて含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明5は、甲1発明、甲第2号証記載の技術的事項、甲3号証記載の技術的事項、及び甲第6号証記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
第7 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立ての理由について
1 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立ての理由の概要は、次のとおりである。
(1)申立ての理由(進歩性)
本件発明2は、以下の点で、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件発明2は、甲1発明、甲第2号証記載の技術的事項及び甲第2号証乃至甲第5号証に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 申立ての理由(進歩性)について
(1)当審の判断
本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明との対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記「第6 1(1)ア」における相違点1に加えて、以下の点において相違する。
(相違点2)
本件発明2は、「突起部の入口側には斜面が形成」されているのに対して、甲1発明では、そのような斜面を有していない点。
イ 判断
(ア)相違点1について
相違点1については、上記「第6 1(1)イ(ア)」で述べたとおりである。
(イ)相違点2について
本件発明2の「斜面」は突起部34の入口側に形成され、当該突起部34は、弾性変形する出口側脚部33の径方向外側面に形成されるものであり、これら構成を備えることで、弁体30の弁本体20内への円滑な組付けに貢献するものである。そして、相違点2における「突起部の入口側には斜面が形成」された構成は、先端を摘んで互いに近接させる出口側脚部33を弁本体20内に挿入する際、出口側脚部33の先端が弾性変形し、進入時に突起部34が縮径通路24に当接しても、弁本体20内への進入が阻止されることなく、円滑に組付けることに貢献するものであり、相違点1に係る構成である、「出口側脚部の端部を互いに近接させたとき、弁本体の軸線方向に見て、前記突起部の外接円径は、前記縮径通路の内周円径よりも小さくなる」「出口側脚部」を前提とするものであるといえる(【0023】~【0024】)。
しかし、相違点1についての検討で述べたとおり、甲1発明において出口側の「リブ13」を本件発明1の「出口側脚部」のようにすることは、当業者であっても容易に想到できるものではない。
そうすると、甲1発明において出口側の「リブ13」を、「出口側脚部の端部を互いに近接させたとき、弁本体の軸線方向に見て、前記突起部の外接円径は、前記縮径通路の内周円径よりも小さくなる」「出口側脚部」のようにすることを前提として、更に「突起部の入口側には斜面が形成」される請求項2に係る構成のようにすることは、甲第2号証乃至甲第5号証に記載の技術的事項を勘案しても、当業者が容易になし得たとはいえない。
(2)まとめ
したがって、本件発明2は、甲1発明、甲第2号証記載の技術的事項及び甲第2号証乃至甲第5号証に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第8 請求項4に係る特許についての特許異議の申立てについて
前記第2のとおり、本件訂正が認められるので、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
第9 むすび
以上のとおりであるから、本件特許1~3、5は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1~3、5を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項4は、本件訂正により削除され、これにより、請求項4に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700902