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特許異議申立

2024-700041

バリ取り工具

審判番号
2024-700041
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-136517
登録番号
7319439
請求日
2024年01月19日
審決日
2024年04月30日
公報発行日
2024年05月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社スギノマシン
  • 【権利者代理人】弁理士法人グローバル・アイピー東京
  • 【異議申立人】瀬口 泰弘
審判長/審判官
  • 審判長 渋谷 善弘
  • 審判官 大山 健
  • 審判官 田々井 正吾
分類
P1651.113-Y (B23C) / P1651.121-Y (B23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7319439号発明「バリ取り工具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7319439号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7319439号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和4年8月30日に出願されたものであって、令和5年7月24日にその特許権の設定登録がされ、令和5年8月1日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許に対し、令和6年1月19日に特許異議申立人 瀬口 泰弘(以下「申立人」という。)により全請求項(請求項1~6)に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。 なお、この申立てに係る特許異議申立書は、令和6年3月4日に提出された手続補正書により方式上の不備が補正されたところ、補正された特許異議申立書を、以下「申立書」という。 第2 本件発明 1 本件発明 特許第7319439号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6の特許に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。また、総合して、「本件発明」という場合がある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 A シリンダ穴を有するボディと、 B 前記シリンダ穴の内部に突出する回り止め体と、 C 先端工具を装着可能であり、前記シリンダ穴の内部を往復する円筒状のスライドシャフトであって、 外筒面に配置され、前記回り止め体が挿入されるガイド溝であって、前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝、 を有するスライドシャフトと、 D 前記スライドシャフトを前記切込み方向に付勢する弾性体と、 E1 を有する、バリ取り工具。 【請求項2】 F 前記ガイド溝は、らせん状であり、 G 前記変位幅は、前記ガイド溝の全長にわたって実質的に同一である、 E2 請求項1に記載のバリ取り工具。 【請求項3】 H 前記ガイド溝は、前記切込み方向の反対側の端部において、前記スライドシャフトの角変位に対して軸方向の変位量が比例関係にある、 請求項1又は2に記載のバリ取り工具。 【請求項4】 I 前記回り止め体は、ボールである、 請求項1又は2に記載のバリ取り工具。 【請求項5】 J 前記先端工具は、前記切込み方向に向かう切り刃を有する、 請求項1又は2に記載のバリ取り工具。 【請求項6】 K 前記ボディは、回り止め穴を有し、 L 前記ボディの周囲に配置され、加工位置と脱着位置を往復するトリガーであって、 前記トリガーが前記加工位置にあるときに、前記回り止め穴を覆い、前記回り止め体を前記ガイド溝に突出させる押さえ面と、 前記トリガーが前記脱着位置にあるときに、前記回り止め体を収納する逃し部と、 を有するトリガーを更に有する、 請求項1又は2に記載のバリ取り工具。」 符号A~Lは、申立書6~7ページにおいて、本件発明を分説して、それぞれの構成に付したものであり、以下、それぞれ「構成A」などという。 2 本件発明に関連する発明の詳細な説明 上記1の本件発明に関連して、本件特許の明細書及び図面には、次の記載がある。 「【0009】 (実施形態1) 図1に示すように、本実施形態のバリ取り工具10は、ボディ11と、トリガー13と、ボール(回り止め体)15と、スライド工具17と、圧縮コイルばね(弾性体)19と、を有する。・・・バリ取り工具10の切込み方向2は、先端方向である。バリ取り工具10は、先端方向(図1の下方)に向かって見たときに、時計方向に回転する。バリ取り工具10は、先端方向に向かってバリを削り取る。バリ取り工具10は、バリ取り工具10からみてワーク7(図4参照)の表側のバリ取りを行う。 ・・・ 【0011】 ・・・ ガイド溝17bは、らせん状である。ガイド溝17bは、スライドシャフト17aの外筒面に配置される。スライド工具17は、図2では上から下に向かってみて反時計回りに切削抵抗を受ける。そのため、ガイド溝17bは、全体として、バリ取り工具10の回転方向の逆方向(+θ)に進むにつれて、切込み方向2の逆方向(図2では上方)に向かうらせんを描く。・・・ 【0012】 図1に示すように、ボール15は、回り止め穴11dにそれぞれ挿入される。・・・ボール15は、ガイド溝17bに挿入され、スライドシャフト17aの運動を規制する。ボール15は、ガイド溝17bの底面又は側面と接触して、スライドシャフト17aに対して滑り運動をする。ボール15は、ボディ11の回転およびトルクを、スライド工具17に伝達する。ガイド溝17bは、ボール15に対して軸方向に広がりを有する。スライドシャフト17aは、ボディ11に対して、ガイド溝17bに沿ったらせん運動と、軸方向の往復運動をできる。 ・・・ 【0015】 図3は、ボディ11に対するスライドシャフト17aの位置と、回転角との関係を示す。縦軸は、スライドシャフト17aの軸方向の変位量h(図1参照)であり、スライド工具17の切込み方向2を負とする。横軸は、スライドシャフト17aの角変位θ(図1参照)であり、バリ取り工具10の回転方向(図1の下方向に向かって時計回り)を負とする。スライドシャフト17aは、図3のハッチングされた領域21a内を移動する。領域21aにおいて、変位量hは、任意の角変位θに対して、一定の変位幅wを有する。・・・例えば、変位幅wは、1mm~3mm(両端含む)である。変位幅wは、スライドシャフト17aが移動するときに、スライドシャフト17aが軸方向に逃げようとする量で決定される。変位幅wが大きすぎると、切削トルクTに応じて変位量hが応答しにくくなる。また、変位幅wが小さすぎると、先端工具17cがワーク7に接触するときや、ワーク7から離間するときに、スライドシャフト17aがスムーズに移動しにくい。 【0016】 スライドシャフト17aは、らせん方向と、軸方向の2つの自由度を有する。ボディ11に対するスライド工具17の回転方向の位置が変化しない場合には、スライド工具17は、軸方向に変位幅wだけ移動できる。スライド工具17は、ボディ11に対してらせん方向に沿って、長さSだけ移動できる。 ・・・ 【0022】 特許文献1のように、コアシャフトの運動がらせん方向の1つの自由度しか有さない場合、切り刃がワーク7に接触したときに、コアシャフトが支持スリーブに対して、回転を伴わずに伸縮できない。すなわち、コアシャフトは、切削トルクの変動によってのみ、支持スリーブに対して回転する。すると、特許文献1の工具では、切削トルクの変動がなければ、コアシャフトが伸縮できない。そのため、バリ取り対象部位7aと支持スリーブの距離が変化するときに、コアシャフトの伸縮が追従しにくい場合がある。 例えば、コアシャフトがワークに最初に接触したときに、コアシャフトがらせん方向へスムーズに運動できず、強くワークに当たる場合がある。この場合、コアシャフトが受けるばねの弾性力とワークへの食い込みからの切削トルクが振動して、コアシャフトが振動しやすい。この場合、加工面が滑らかにならない。 また、スリーブに対して急激にワークが離れたときに、コアシャフトの伸びが追従せず、ワークから離れる場合がある。この場合、面取り量が小さくなりやすく、バリが残留しやすい。 【0023】 他方、本実施形態のバリ取り工具10によれば、ガイド溝17bは上下に変位幅wを有する。そのため、ワーク7から先端工具17cが受ける切削トルクや、圧縮コイルばね19の伸縮量に応じて、ボディ11に対してスライドシャフト17aがらせん方向と往復方向の2方向に自在に運動する。つまり、切削トルクの変動がない場合であっても、スライドシャフト17aは伸縮できる。そのため、バリ取り対象部位7aとボディ11の距離が変化するときに、スライドシャフト17aの伸縮がワーク7に追従しやすい。そのため、スライド工具17がワーク7に最初に接触するときに、振動が発生することを抑制できる。また、ワーク7が急激にボディ11から離れる局面において、加工量が一定に保たれやすい。」 「 [図:0001410251000001.jpg] [図:0001410251000002.jpg] [図:0001410251000003.jpg] 」 第3 申立理由の概要 申立人による特許異議申立理由の概要及び申立人が提出した証拠方法(以下、提出した甲各号証を「甲1」などという。)は以下のとおりである。 1 申立の理由の概要 申立人は、請求項1~6に係る特許は、以下の理由(1)、(2)により取り消されるべきものである旨を申立している。 (1)申立理由1(本件発明1、4についての新規性欠如) 本件発明1、4は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(本件発明1~6についての進歩性欠如) 本件発明1~6は、下記甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 申立人が提出した証拠方法 甲1:特開2005-349549号公報 甲2:特開2013-154428号公報 甲3:特開2013-184285号公報 甲4:特開平9-236162号公報 甲5:特開2000-187950号公報 甲6:特開2019-158110号公報 甲7:特開2012-71405号公報 甲8:実願昭58-107873号(実開昭60-14840号)のマイクロフィルム 甲9:実願昭55-176308号(実開昭57-100452号)のマイクロフィルム 第4 甲1に記載された事項及び発明等について 1 甲1について (1)甲1の記載事項(なお、下線部は当審で付した。以下同様。) 【0001】 本発明は、マシニングセンター等の工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられ、主軸により刃具を回転させて、ワークの面取り、バリ取り、ラッピングなどの加工を行う加工工具に関する。 ・・・ 【0017】 以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は第1実施形態の加工工具の正面図を示し、図2はその縦断面図を示している。この加工工具1は、概略的には、マシニングセンターなどの工作機械の主軸に、そのシャンク2を嵌着して装着され、シャンク2の下部に装着された円筒形のケース3内に自在継手ロッド5と傾動ケース4が配設され、傾動ケース4内に回転可能に配設された刃具用のホルダー6が自在継手ロッド5を介してシャンク2に連結された構造を持つ。そして、ケース3は、位置決め係合部7を介して工作機械の一部の固定部分に係止されて静止し、傾動ケース4内で回転可能に保持されたホルダー6が主軸により回転駆動され、ホルダー6の先端に装着した刃具9が回転してバリ取り加工などを行うように構成される。 ・・・ 【0029】 円筒状の傾動ケース4内には、ホルダー6が軸心位置に第三ベアリング42と第四ベアリング45を介して回転自在に配設される。傾動ケース4内の上部に第三ベアリング42のアウターレースが固定され、第三ベアリング42のインナーレースはホルダー6の上部大径部に固定される。第四ベアリング45は2個のニードルベアリングからなり、2個のニードルベアリングの間にカラー46が介装されている。第四ベアリング45としては、ニードルベアリングの他に滑り軸受などを使用することもできる。 【0030】 ホルダー6は、円筒形のホルダー本体61の内側に、摺動ホルダー62を軸方向に所定の範囲で摺動可能に装着されている。ホルダー本体61の上部の大径部には、継手凹部63が上方に開口して形成され、その継手凹部63の内周面には、所定幅で略半円形の溝が所定間隔で形成されている。この継手凹部63内に、自在継手ロッド5の下部の第2自在継手部52が嵌入され、第2自在継手部52は継手凹部63内に係合し、第2自在継手部52からホルダー本体61に回転を伝達すると共に、第2自在継手部52とホルダー本体61の連結状態は、全方向について所定の角度範囲で傾動可能とされる。 ・・・ 【0032】 ホルダー6のホルダー本体61内には、摺動ホルダー62が軸方向に摺動可能に配設されているが、その摺動範囲を決めるために軸心位置にボルト状の支持ロッド64が貫通して取り付けられ、その支持ロッド64の外周部にばね部材(コイルばね)67が、摺動ホルダー62を下方に付勢して嵌装されている。このばね部材67は、刃具9がワークから衝撃力などを受けた際、摺動ホルダー62が上方に摺動する力を吸収し、その衝撃力を吸収するものである。 【0033】 また、図6に示すように、摺動ホルダー62の外周部に係合溝65が軸方向に形成され、その係合溝65に係合鋼球66が係合すると共にホルダー本体61側の係合孔にも係合鋼球66が係合し、摺動ホルダー62の軸方向の摺動を許容しつつ、ホルダー本体61と摺動ホルダー62を一体に回転駆動可能としている。摺動ホルダー62の先端には、バリ取り用砥石などの刃具9を装着するためのチャック部69が取り付けられる。 ・・・ 【0039】 また、高速回転する刃具9の先端側部にワークWの縁部に接触したとき、刃具9がワークから受ける軸方向の押上力などは、摺動ホルダー62のばね部材67により吸収され、安定して加工を行うことができる。さらに、図5のように、刃具9がホルダー6と共に傾動し、刃具9の先端側部が適度な接触荷重をワークWのバリの部分に付与しながら、バリを除去するが、このワークWを刃具9の先端側部が押圧する際の押圧荷重は、ホルダー6の上端の受圧板41に印加される、傾動支持ピン装置30内のばね部材33を有する多数の傾動支持ピン32によって付与される。これらの傾動支持ピン32は円周上に多数本が配置されるため、何れの方向に刃具9とホルダー6が傾動した際にも、同様な荷重を安定して付与することができ、ワークWのバリ取りを良好に行うことができる。 図2 「 [図:0001410251000004.jpg] 」 図6 「 [図:0001410251000005.jpg] 」 (2)上記(1)から理解できる事項 ア 段落【0030】の「ホルダー6は、円筒形のホルダー本体61の内側に、摺動ホルダー62を軸方向に所定の範囲で摺動可能に装着されている。」との記載及び図2、6等から、ホルダー本体61は、摺動ホルダー62を摺動可能に受け入れるための開口を有することが理解できる。 イ 図2、6等には、係合鋼球66がホルダー本体61の開口の内部に突出していることが図示され、さらに段落【0033】の「図6に示すように、摺動ホルダー62の外周部に係合溝65が軸方向に形成され、その係合溝65に係合鋼球66が係合すると共にホルダー本体61側の係合孔にも係合鋼球66が係合し、摺動ホルダー62の軸方向の摺動を許容しつつ、ホルダー本体61と摺動ホルダー62を一体に回転駆動可能としている。」との記載から、当該係合鋼球66は回り止め体として機能することが理解できる。 ウ 上記段落【0033】の記載、及び図2、6等から、係合鋼球66が係合される係合溝65は、摺動ホルダー62の外周部に形成されており、当該係合溝65は、係合鋼球66に対して摺動ホルダー62が回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するものであるといえる。 エ 段落【0032】の「ホルダー6のホルダー本体61内には、摺動ホルダー62が軸方向に摺動可能に配設されているが、・・・その支持ロッド64の外周部にばね部材(コイルばね)67が、摺動ホルダー62を下方に付勢して嵌装されている。このばね部材67は、刃具9がワークから衝撃力などを受けた際、摺動ホルダー62が上方に摺動する力を吸収し、その衝撃力を吸収するものである。」、及び段落【0039】の「高速回転する刃具9の先端側部にワークWの縁部に接触したとき、刃具9がワークから受ける軸方向の押上力などは、摺動ホルダー62のばね部材67により吸収され、安定して加工を行うことができる。」との記載などから、ばね部材67は、摺動ホルダー62を刃具9の切込み方向(軸方向下方)に付勢するものであることが理解できる。 (3)甲1発明 上記(1)、(2)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。(便宜のため、本件発明1の構成A~E1に対応させて、甲1発明を分説し、それぞれの構成に1-a~1-e1の符号を付した。以下「構成1-a」などという。) <甲1発明> 「1-a:開口を有するホルダー本体61と、 1-b:前記開口の内部に突出する係合鋼球66と、 1-c:刃具9を装着可能であり、前記開口の内部を摺動する円筒状の摺動ホルダー62であって、 外周部に配置され、前記係合鋼球66が係合される係合溝65であって、前記係合鋼球66に対して前記摺動ホルダー62が回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有する係合溝65、 を有する摺動ホルダー62と、 1-d:前記摺動ホルダー62を切込み方向に付勢するばね部材67と、 1-e1:を有する加工工具1。」 2 甲2について (1)甲2の記載事項 【0001】 本発明は、回転駆動される回転シャフトの前端部にワークを加工するためのヘッド部を備えた回転工具に関する。 【0002】 従来、この種の回転工具として、回転駆動される筒形回転シャフトに、その前端側から圧縮コイルバネと直動ロッドの基端部とを収容して抜け止めし、その直動ロッドの先端部にバリ取り用のヘッド部を備えたものが知られている。そして、この回転工具では、ヘッド部をワークに押し付けたときに、ワークから受ける加工反力のばらつきを圧縮コイルバネの弾性変形によって吸収することで、ワークの削り過ぎを防いでいた(例えば、特許文献1参照)。 ・・・ 【0021】 [第1実施形態] 以下、本発明の実施形態を図1~図10に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態の回転工具10は、ベースシャフト11とコアシャフト20とを組み付けてなる回転シャフト10Sを有し、その回転シャフト10Sの前端部にワークを加工するためのヘッド部21を備えている。 【0022】 ベースシャフト11は、軸方向の中間部より先端側が本発明に係る中間筒部14をなし、中間部より後端側がロータ接続部12になっている。これら中間筒部14及びロータ接続部12は共に円筒状になっていて、ロータ接続部12より中間筒部14の外径が大きくなっている。また、ロータ接続部12の前端部外面には、中間筒部14に向かって徐々に拡径したテーパー面12Tが形成され、中間筒部14の前端部外面には、前方に向かって徐々に縮径したテーパー部14Tが備えられている。 ・・・ 【0026】 図3に示すように、中間筒部14のうち小径部15Aが形成された部分には、1対のピン装着孔19,19が形成されている。それら1対のピン装着孔19,19は、図5に示すように、中間筒部14の中心軸J1と直交する直線S1と平行な1対の直線S2,S2(以下、「第1基準線S2,S2」という)上に貫通形成されている。また、第1基準線S2,S2は、中間筒部14の内面に接する位置より僅かに中心軸J1寄りにずれて中間筒部14の内部を横切っていて、各ピン装着孔19の軸方向における中間部が、中間筒部14内で開放している。そして、両ピン装着孔19,19に係合ピン30,30が挿入されて、それら係合ピン30,30における軸方向の中央部が中間筒部14の内周面から突出し、本発明に係る「係合突部」になっている。 ・・・ 【0028】 図6に示すように、コアシャフト20は、本発明に係る中間軸部22と、その中間軸部22の先端に固定されたヘッド部21とからなり、その中間軸部22は、中間軸部本体22Hに当接リング42を組み付けてなる。具体的には、中間軸部22は、後端から前端側に向かって順番に、段階的に外径が大きくなるように、小径部22A、中径部22B、大径部22Cが備えられ、小径部22Aに当接リング42が圧入固定されている。 ・・・ 【0032】 そして、中間軸部22が後方に押されたときには、図7(A)に示すように、圧縮変形部材54が筒内面凹部51の後端面51Rと軸外面凹部52の前端面52Fとの間で押し縮められるように圧縮変形されて、中間軸部22を前方に押し戻す弾発力を発揮する。一方、中間軸部22が前方に引っ張られたときには、図7(B)に示すように、圧縮変形部材54が筒内面凹部51の前端面51Fと軸外面凹部52の後端面52Rとの間で押し縮められるように圧縮変形されて、中間軸部22を後方に引き戻す弾発力を発揮する。 ・・・ 【0034】 図6に示すように、中間軸部22の大径部22Cにおける後端寄り位置には、本発明の「前進用係合摺接部」に相当す前進用係合摺接面24Aと、本発明の「後退用係合摺接部」に相当する後退用係合摺接面24Bとを接続してなる係合摺接面25が、中間軸部22の周方向に180度の間隔を空けて2箇所に形成されている。ここで、係合摺接面25は、中間軸部22に軸方向の所定位置で直交する基準面P0に対して面対称形状になっていて、その基準面P0より後端側に前進用係合摺接面24Aが配置される一方、基準面P0より前端側に後退用係合摺接面24Bが配置されている。 【0035】 より詳細には、1対の係合摺接面25,25は、例えば、係合ピン30と略同一の外径を有した図6に示す1対のカッタ26,26にて中間軸部22に加工されている。それら、カッタ26,26は、中間軸部22のうち基準面P0より距離L1だけ後方にずれた第1位置P1で中間軸部22に両側方から押し付けられ、それらカッタ26,26の中心軸が、中間軸部22に対して前記した第1基準線S2,S2と同一の位置に到ったら、カッタ26,26を第1位置P1から基準面P0に向けて、中間軸部22に対して相対的に直動させながら、中間軸部22を中心軸J1(図5参照)の回りに捻れ角θ1(図8参照)だけ回転させる。換言すれば、カッタ26,26を、中間軸部22に対して単位直動距離だけ相対的に直動させるごとに中間軸部22の中心軸J1回りに単位回転角Δθ(=θ1/L1)だけ回転させて第1位置P1から基準面P0まで移動する。このようにして、1対の前進用係合摺接面24A,24Aが中間軸部22に形成されている。そして、基準面P0から距離L2(=L1)だけ前方に離れた第2位置P2に向けて、カッタ26,26を中間軸部22に対して相対的に直動させながら、中間軸部22を中心軸J1の回りに捻れ角θ1(図6参照)だけ逆方向に回転させる。このようにして、1対の後退用係合摺接面24B,24Bが中間軸部22に形成されている。 【0036】 各係合摺接面25には、各係合ピン30が線接触した状態で係合し、それらの線接触状態を維持して中間軸部22を中間筒部14に対して回動させることができる。また、図2に示すように、中間筒部14と中間軸部22との間に軸方向の負荷が作用していない状態では、各係合ピン30が各係合摺接面25における前進用係合摺接面24Aと後退用係合摺接面24Bとの境界線と線接触するように、中間筒部14と中間軸部22とが圧縮変形部材54によって位置決めされ、このときのヘッド部21の位置が直動可能範囲における原点位置になっている。そして、ヘッド部21が原点位置から僅かに後方に移動すると、係合ピン30が後退用係合摺接面24Bと係合して、ヘッド部21が原点位置から僅かに前方に移動すると、係合ピン30が前進用係合摺接面24Aと係合する。 ・・・ 【0038】 ここで、係合ピン30と後退用係合摺接面24Bとが係合した状態で、中間筒部14に対して中間軸部22を先端側から見て時計回り方向に回転させるトルクを付与すると、係合ピン30と後退用係合摺接面24Bとの摺接によって前記したトルクが中間軸部22を中間筒部14の後端側に向かって移動させる推進軸力に変換される。一方、係合ピン30と前進用係合摺接面24Aとが係合した状態で、中間筒部14に対して中間軸部22を先端側から見て時計回り方向に回転させるトルクを付与すると、係合ピン30と前進用係合摺接面24Aとの摺接によって前記したトルクが中間軸部22を中間筒部14の前端側に向かって移動させる推進軸力に変換される。また、図8に示すように、係合摺接面25の両端部には、カッタ26の外径に対応した円弧溝状のストッパ面24C,24Cが形成されているので、係合摺接面25の両端部で係合ピン30がストッパ面24C,24Cに係止し、中間筒部14に対する中間軸部22の直動範囲が第1位置P1と第2位置P2との間の距離L1+L2に制限される。 【0039】 図1に示すように、ヘッド部21は、前側に先端縮径テーパー部21Bを備えると共に、後側に先端拡径テーパー部21Aを備えている。先端縮径テーパー部21Bは、ヘッド部21の先端側に向かうに従って縮径した円錐形状をなす一方、先端拡径テーパー部21Aは、ヘッド部21の先端側に向かうに従って拡径した円錐台形状になしている。また、それら先端縮径テーパー部21B及び先端拡径テーパー部21Aの外面には、複数の切削刃21C(図2参照)が備えられている。 【0040】 本実施形態の回転工具10の構成に関する説明は以上である。次に、この回転工具10の作用効果について説明する。本実施形態の回転工具10は、ロータ接続部12が回転駆動源に接続され、図9に示すように、回転工具10の先端側から見て反時計回り方向の回転動力Tnを回転駆動源から受けて回転駆動される。そして、その回転状態でヘッド部21における例えば先端縮径テーパー部21Bの傾斜面をワークWのエッジ部Eの先端に押し付け、エッジ部Eに沿って移動することで、ワークWに面取り加工を施すことができる。このとき、中間軸部22は、加工反力として、回転動力Tnとは逆向きの負荷トルクTrと、回転工具10が後側(回転駆動源側)に押し戻される軸力F4とを受ける。その押し戻しの軸力F4によって圧縮変形部材54が僅かに押し縮められるか、又は、寸法公差によるガタの範囲で圧縮変形部材54が押し縮められずに、ヘッド部21が原点位置より後方に僅かに移動して係合ピン30と後退用係合摺接面24Bとが係合する。そして、その係合ピン30と後退用係合摺接面24Bとの摺接によって負荷トルクTrが中間筒部14を後端側を向って移動させる推進軸力F3に変換され、その推進軸力F3によって圧縮変形部材54が更に押し縮められる。そして、中間軸部22は、押し戻しの軸力F4と推進軸力F3との和と圧縮変形部材54の弾発力とが釣り合った直動位置に配置される。 ・・・ 【0046】 [第2実施形態] 本実施形態の回転工具10Vは、図11及び図12にされており、回転シャフト10Sを構成するベースシャフト11Vに対してコアシャフト20Vが回転不能かつ直動可能に嵌合されている点が第1実施形態と異なる。具体的には、図11に示すように、コアシャフト20Vの中間筒部22の大径部22Cにおける軸方向の中間部に軸方向に延びた長孔61が貫通形成されている。また、図12に示すように、中間筒部14に、その中心軸と直交するピン孔62が形成され、それらピン孔62に挿入されて抜止リング18にて抜け止めされた係合ピン30Vが長孔61にスライド可能に係合して、本発明に係る回転規制部60が構成されている。このような構成にしても、ヘッド部21の先端縮径テーパー部21BでワークWを加工する場合にワークWからヘッド部21が受ける押し戻しの軸力と、ヘッド部21の先端拡径テーパー部21AでワークWを加工する場合にヘッド部21がワークWから受ける引き戻しの軸力との何れの軸力(加工反力)に対しても、同じ圧縮変形部材54が圧縮変形される。即ち、本実施形態の回転工具10Vによっても、ワークWから受ける異なる向きの加工反力のばらつきを同じ圧縮変形部材54の圧縮変形で吸収することができ、これにより2つの圧縮コイルバネを備えていた従来の回転工具に比べて小型化が可能になる。 図2 「 [図:0001410251000006.jpg] 」 図11 「 [図:0001410251000007.jpg] 」 (2)上記(1)から理解できる事項 上記(1)の[実施形態1]及び[実施形態2]について以下のことが理解できる。 ア [実施形態1]について (ア)段落【0026】、【0035】、【0036】の記載及び図2等から、中間筒部14の内周面から突出する係合ピン30は、コアシャフト20(中間軸部22)の外周部に形成された係合摺接面25に、線接触した状態で係合するから、当該係合ピン30は回り止め体として機能することが理解できる。 (イ)段落【0036】に「各係合摺接面25には、各係合ピン30が線接触した状態で係合し、それらの線接触状態を維持して中間軸部22を中間筒部14に対して回動させることができる。」、及び段落【0040】に「そして、その回転状態でヘッド部21における例えば先端縮径テーパー部21Bの傾斜面をワークWのエッジ部Eの先端に押し付け、エッジ部Eに沿って移動することで、ワークWに面取り加工を施すことができる。このとき、中間軸部22は、加工反力として、回転動力Tnとは逆向きの負荷トルクTrと、回転工具10が後側(回転駆動源側)に押し戻される軸力F4とを受ける。」と記載されていることなどから、係合摺接面25は、コアシャフト20(ヘッド部21)が、ワークからの加工反力(軸力F4)を受けて、後方(図2における上方)に移動すると、係合ピン30が線接触した状態を維持して、コアシャフト20(中間軸部22)を中間筒部14に対して回動させるものであることが理解できる。すなわち、ワークからの加工反力を受けた際に、コアシャフト20は、係合摺接面25によって、ベースシャフト11(中間筒部14)に対して、回動するとともに後方(図2における上方)に移動することが理解できる。 イ [実施形態2]について (ア)段落【0046】の記載及び図11等から、中間筒部14の内周面から突出する係合ピン30Vは、コアシャフト20Vの軸方向に形成された長孔61に、スライド可能に係合し、回転規制部を構成しているから、当該係合ピン30Vは回り止め体として機能することが理解できる。 (イ)段落【0046】の記載及び図11等から、コアシャフト20Vの軸方向には長孔61が形成され、当該長孔61は、係合ピン30Vに対してコアシャフト20Vが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するものであるといえる。 (3)甲2発明 上記(1)、(2)から、甲2には、以下の2つの発明が記載されていると認められる。 ・甲2の実施形態1に基づく甲2実施形態1発明(以下「甲2実施形態1発明」という。) ・甲2の実施形態2に基づく甲2実施形態2発明(以下「甲2実施形態2発明」という。また、「甲2実施形態1発明」と総合して、甲2発明という場合がある。) ア 甲2実施形態1発明 <甲2実施形態1発明> 「2-1-a:中間筒部14の内周面を有するベースシャフト11と、 2-1-b:前記中間筒部14の内周面の内部に突出する係合ピン30と、 2-1-c:ヘッド部21を装着可能であり、前記中間筒部14の内周面の内部を往復するコアシャフト20であって、 外周部に配置され、前記係合ピン30が挿入される係合摺接面25であって、前記ベースシャフト11に対して回動するとともに後方にコアシャフト20を移動する係合摺接面25 を有するコアシャフト20と、 2-1-d:前記コアシャフト20を前方に付勢する圧縮変形部材54と、 2-1-e1:を有する回転工具10。」(便宜のため、本件発明1の構成A~E1に対応させて、甲2実施形態1発明を分説し、それぞれの構成に2-1-a~2-1-e1の符号を付した。以下「構成2-1-a」などという。) イ 甲2実施形態2発明 <甲2実施形態2発明> 「2-2-a:中間筒部14の内周面を有するベースシャフト11Vと、 2-2-b:前記中間筒部14の内周面の内部に突出する係合ピン30Vと、 2-2-c:ヘッド部21を装着可能であり、前記中間筒部14の内周面の内部を往復するコアシャフト20Vであって、 前記係合ピン30Vが挿入される長孔61であって、前記係合ピン30Vに対して前記コアシャフト20Vが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有する長孔61 を有するコアシャフト20Vと、 2-2-d:前記コアシャフト20Vを前方に付勢する圧縮変形部材54と、 2-2-e1:を有する回転工具10V。」(便宜のため、本件発明1の構成A~E1に対応させて、甲2実施形態2発明を分説し、それぞれの構成に2-2-a~2-2-e1の符号を付した。以下「構成2-2-a」などという。) 第5 当審の判断 1 申立理由1(本件発明1、4についての新規性欠如)(第3の1(1))について) (1)対比 本件発明1と、甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ホルダー本体61」は本件発明1の「ボディ」に相当し、以下同様に、「開口(を有するホルダー本体61)」は「シリンダ穴(を有するボディ)」に、「係合鋼球66」は上記第4の1(2)イに示したとおり「回り止め体」に、「刃具9」は「先端工具」に、「摺動する」は「往復する」に、「円筒状の摺動ホルダー62」は「円筒状のスライドシャフト」に、「外周部」は「外筒面」に、「(係合鋼球66が)係合される」は「(回り止め体が)挿入される」に、「係合溝65」は「ガイド溝」に、「ばね部材67」は「弾性体」に、「加工工具1」はバリ取りの加工も行うもの(段落【0001】を参照。)であるから「バリ取り工具」に、それぞれ相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「シリンダ穴を有するボディと、 前記シリンダ穴の内部に突出する回り止め体と、 先端工具を装着可能であり、前記シリンダ穴の内部を往復する円筒状のスライドシャフトであって、 外筒面に配置され、前記回り止め体が挿入されるガイド溝であって、前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するガイド溝、 を有するスライドシャフトと、 前記スライドシャフトを切込み方向に付勢する弾性体と、 を有するバリ取り工具。」 <相違点1> ガイド溝(係合溝65)が、本件発明1では「前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」(構成C)と特定されているのに対し、甲1発明では、係合溝65がそのようなものであるか不明な点。 (2)判断 甲1発明の摺動ホルダー62には、係合鋼球66に対して摺動ホルダー62が回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有する係合溝65(構成1-c)、すなわち、軸方向の係合溝65が形成されている。 他方、本件発明1のスライドシャフトが有する構成Cのガイド溝は、「ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動する」ものであるところ、当該ガイド溝が「切削抵抗を受ける方向」に進むのは、本件発明1のバリ取り工具がバリを削り取る際に、回転するバリ取り工具の切り刃(17d)が受ける回転方向の成分を含む切削抵抗を受けることによるものであり、このことは本件特許の明細書の段落【0011】の「スライド工具17は、図2では上から下に向かってみて反時計回りに切削抵抗を受ける。」との記載(上記第2の2を参照。)からも裏付けられるものである。また、「先端工具の切込み方向」は、本件特許の明細書の段落【0009】、【0015】の記載(上記第2の2を参照。)から、スライドシャフト17aの先端方向(軸方向の下方向)であると解される。 以上から、本件発明1のガイド溝は、本質的に、回転方向の成分を含む切削抵抗を受けて回転方向に進みつつ先端工具の切込み方向の逆方向に進むらせん形状(すなわち、本件特許の明細書及び図面におけるボディに対して上から下に向かってみて反時計回りの方向(切削抵抗を受ける方向)に進むにつれて、スライドシャフトを軸方向の上方向(先端工具の切込み方向と逆方向)に移動するもの)であることが理解される。 また、本件特許の明細書の段落【0011】に「ガイド溝17bは、らせん状である。・・・スライド工具17は、図2では上から下に向かってみて反時計回りに切削抵抗を受ける。そのため、ガイド溝17bは、全体として、バリ取り工具10の回転方向の逆方向(+θ)に進むにつれて、切込み方向2の逆方向(図2では上方)に向かうらせんを描く。」及び段落【0012】に「スライドシャフト17aは、ボディ11に対して、ガイド溝17bに沿ったらせん運動と、軸方向の往復運動をできる。」と記載されていることに鑑みれば、本件発明1の「前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」(構成C)とは、スライドシャフトをらせん方向に移動させるらせん溝であって、かつ回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するものであるから、甲1発明のようなスライドシャフトを軸方向の1自由度のみに移動させる溝は含まないと解される。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、ガイド溝の構成が異なるから、上記相違点1は実質的な相違点であると認められる。 したがって、本件発明1は甲1発明ではない。 (3)申立人の主張 上記相違点1に関連して、申立人は、申立書17~18ページにおいて、本件発明1のガイド溝には、スライドシャフトの軸方向に延びる直線状の溝も含まれるし、本件特許の明細書の段落【0009】に、「バリ取り工具の切込み方向2は、先端方向である」及び「バリ取り工具10は、先端方向に向かってバリを削り取る。」と記載されていることから、本件発明1の「切込み方向」は「先端工具の先端方向」を意味し、本件発明1における「前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて」とは、「スライドシャフトが先端方向に進むにつれて」ということを意味する旨を主張している。 しかしながら、上述(2)で説示したとおり、本件発明1のガイド溝には、スライドシャフトを軸方向の1自由度のみに移動させる溝は含まれないと解されるものである。 また、仮に、申立人の主張するように「切込み方向」を解釈した場合、本件発明1の構成Cの「前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動する」との構成は、スライドシャフトが、先端方向(すなわち、下方向)に進むにつれて、先端方向(切込み方向)と逆方向(すなわち、上方向)に移動するとの矛盾を含んだ記載となるのであるから、そのように解釈することは妥当でない。 以上から、申立人の主張は採用できない。 (4)本件発明4について 本件発明4は請求項1を引用するものであり、本件発明4と、甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1では相違するから、本件発明4は甲1発明ではない。 (5)小括 したがって、本件発明1、4は、甲1発明ではないから、請求項1、4に係る本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたとする申立理由1により、取り消すことはできない。 2 申立理由2(本件発明1~6についての進歩性欠如(第3の1(2))について) 申立理由2については、例えば申立書25~26ページの記載からみて、本件発明1とその本件発明1を引用する本件発明2~6に対して、異なる発明(「甲2第1発明」、「甲2第2発明」、「甲3発明」、及び「甲1発明」)が主引用発明とされ、進歩性欠如の理由に一貫性がないが、以下の(1)~(4)では、それぞれの発明を主引用発明として検討した。 (1)甲2実施形態2発明に基づく進歩性欠如 ア 対比 (ア)申立人は、申立書18~19ページにおいて、本件発明1と、甲2実施形態2発明(なお、申立書において、申立人は、甲2の実施形態2に係る発明を「甲2第1発明」としていると認められる(申立書9~10ページ)。)とを対比して、甲2実施形態2発明及び甲1に記載の技術的事項に基づいて、本件発明1が容易になし得た旨を主張しているから、以下に甲2実施形態2発明に基づく進歩性欠如について検討する。 (イ)甲2実施形態2発明は、上記第4の2(3)イに記載のとおりであり、本件発明1と対比する。 甲2実施形態2発明の「中間筒部14の内周面」は本件発明1の「シリンダ穴」に相当し、以下同様に、「ベースシャフト11V」は「ボディ」に、「係合ピン30V」は上記第4の2(2)イ(ア)に示したとおり「回り止め体」に、「ヘッド部21」は「先端工具」に、「コアシャフト20V」は「スライドシャフト」に、「圧縮変形部材54」は「弾性体」に、「回転工具10V」はヘッド部がバリ取りを行うもの(段落【0002】を参照。)であるから「バリ取り工具」に、それぞれ相当する。 また、弾性体が付勢する方向である、甲2実施形態2発明の「コアシャフト20V」の「前方」は、本件発明1の「スライドシャフト」の「切込み方向」に相当する。 さらに、甲2実施形態2発明の「長孔61」は、係合ピン30Vをガイドするとの機能に照らせば、本件発明1の「ガイド溝」と、「ガイド部」である限りで共通し、同様に、甲2実施形態2発明の「前記係合ピン30Vが挿入される長孔61であって、前記係合ピン30Vに対して前記コアシャフト20Vが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有する長孔61」と、本件発明1の「外筒面に配置され、前記回り止め体が挿入されるガイド溝であって、前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」とは、「前記回り止め体が挿入されるガイド部であって、前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するガイド部」である限りで共通するといえる。 (ウ)本件発明1と甲2実施形態2発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点2、3で相違する。 <一致点> シリンダ穴を有するボディと、 前記シリンダ穴の内部に突出する回り止め体と、 先端工具を装着可能であり、前記シリンダ穴の内部を往復するスライドシャフトであって、 前記回り止め体が挿入されるガイド部であって、前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するガイド部、 を有するスライドシャフトと、 前記スライドシャフトを前記切込み方向に付勢する弾性体と、 を有する、バリ取り工具。 <相違点2> スライドシャフト(コアシャフト20V)が、本件発明1では、「円筒状」であるのに対し、甲2実施形態2発明では、円筒状か不明な点。 <相違点3> スライドシャフトに形成されるガイド部が、本件発明1では、スライドシャフトの「外筒面に配置」され、「前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」である(構成C)のに対し、甲2実施形態2発明では、係合ピン30Vに対してコアシャフト20Vが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有する長孔61である点。 イ 判断 事案に鑑みて、相違点3から検討する。 甲2実施形態2発明の長孔61は、係合ピン30Vが挿入される長孔61であって、係合ピン30Vに対してコアシャフト20Vが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するもの(構成2-2-c)、すなわち、甲1発明の「軸方向の係合溝65」と同様に、甲2実施形態2発明の「軸方向の長孔61」は、コアシャフト20Vを、中間筒部14に対して、軸方向の1自由度のみに移動させるものである。 他方、本件発明1のガイド溝は、「前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」(構成C)との構成により、スライドシャフトを、回転せずに軸方向に変位することを許容しつつらせん方向に移動させるものであると解される。 そして、申立人が提示した各甲号証には、回転工具において、回り止め体に対してスライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するようなガイド溝(すなわち、スライドシャフトをらせん方向に移動させるらせん溝であって、かつ回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するガイド溝)は記載も示唆もされておらず、またそのようなガイド溝を上記各甲号証に適用する動機があるともいえない。 さらに、甲2の段落【0046】には、実施形態2について、「回転シャフト10Sを構成するベースシャフト11Vに対してコアシャフト20Vが回転不能かつ直動可能に嵌合されている点が第1実施形態と異なる。」と記載されていることに鑑みれば、長孔61を、中間筒部14に対して、スライドシャフトをらせん方向にも移動させるように設計変更することには、むしろ阻害事由があるともいえる。 したがって、本件発明1は、甲2実施形態2発明、及びその他の甲号証に基づいて、当業者が容易になし得たとはものとはいえない。 ウ 相違点3についての申立人の主張 申立人は、申立書19ページにおいて、上記相違点3に関して、甲1の「係合溝65」を適用する旨の主張をしているが、甲1発明の「軸方向の係合溝65」は、甲2実施形態2発明の「軸方向の長孔61」と同様に、スライドシャフトを、ボディに対して、軸方向の1自由度のみに移動させるものであるところ、甲2実施形態2発明に甲1の軸方向の係合溝65を適用しても、スライドシャフトを、ボディに対して、軸方向に変位可能にらせん方向でガイドすることはできないから、甲2実施形態2発明に甲1に記載の技術的事項を適用しても、相違点3に係る本件発明1にならないことは明らかである。 エ 本件発明2~6について 本件発明2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、甲2実施形態2発明と対比すると、少なくとも、上記相違点2、3で相違するから、本件発明1と同様の理由により、甲2実施形態2発明、及びその他の甲号証に基づいて、当業者が容易になし得たということはできない。 オ 小括 以上から、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1~6は、甲2実施形態2発明、及びその他の甲号証に基づいて、当業者が容易になし得たとはいえない。 (2)甲2実施形態1発明に基づく進歩性欠如 ア 対比 (ア)申立人は、本件発明2等について、甲2実施形態1発明に基づく進歩性欠如を申立てしているから(なお、申立書において、申立人は、甲2の実施形態1に係る発明を「甲2第2発明」としていると認められる(申立書10~11ページ)。)、以下に甲2実施形態1発明に基づく進歩性欠如についても、一応検討する。 (イ)甲2実施形態1発明は、上記第4の2(3)アに記載のとおりであるところ、本件発明1と対比する。 甲2実施形態1発明の「中間筒部14の内周面」は本件発明1の「シリンダ穴」に相当し、以下同様に、「ベースシャフト11」は「ボディ」に、「係合ピン30」は上記第4の2(2)ア(ア)に示したとおり「回り止め体」に、「ヘッド部21」は「先端工具」に、「外周部」はその指し示す位置に照らせば「外筒部」に、「コアシャフト20」は「スライドシャフト」に、「圧縮変形部材54」は「弾性体」に、「回転工具10」はヘッド部がバリ取りを行うもの(段落【0002】を参照。)であるから「バリ取り工具」に、それぞれ相当する。 また、弾性体が付勢する方向である、甲2実施形態1発明の「コアシャフト20」の「前方」は、本件発明1の「スライドシャフト」の「切込み方向」に相当する。 さらに、甲2実施形態1発明の「係合摺接面25」は、係合ピン30をガイドするとの機能に照らせば、本件発明1の「ガイド溝」に相当し、甲2実施形態1発明の「後方にコアシャフト20を移動する」ことは、甲2の「後方」はヘッド部21が切込む方向(前方)とは逆方向であるから、本件発明1の「先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動する」ことに相当する。 そして、甲2実施形態1発明の「前記係合ピン30が挿入される係合摺接面25であって、前記ベースシャフト11に対して回動するとともに後方にコアシャフト20を移動する係合摺接面25」と、本件発明1の「前記回り止め体が挿入されるガイド溝であって、前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」とは、「前記回り止め体が挿入されるガイド溝であって、前記ボディに対して回転方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」である限りで共通するといえる。 (ウ)本件発明1と甲2実施形態1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点4、5で相違する。 <一致点> シリンダ穴を有するボディと、 前記シリンダ穴の内部に突出する回り止め体と、 先端工具を装着可能であり、前記シリンダ穴の内部を往復するスライドシャフトであって、 外筒面に配置され、前記回り止め体が挿入されるガイド溝であって、前記ボディに対して回転方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝、 を有するスライドシャフトと、 前記スライドシャフトを前記切込み方向に付勢する弾性体と、 を有する、バリ取り工具。 <相違点4> スライドシャフト(コアシャフト20)が、本件発明1では、「円筒状」であるのに対し、甲2実施形態1発明では、円筒状か不明な点。 <相違点5> ガイド溝が、本件発明1では、「前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」であるのに対し、甲2実施形態1発明では、係合摺接面25(ガイド溝)は、コアシャフト20を、ベースシャフト11に対して回動するとともに後方に移動させるものである点。 イ 判断 事案に鑑みて、相違点5から検討する。 甲2実施形態1発明では、係合摺接面25(ガイド溝)は、コアシャフト20を、ベースシャフト11に対して回動するとともに後方に移動させるもの(構成2-1-c)、すなわち、らせん方向にのみガイドするといえるものである。 他方、(1)イでも説示したとおり、本件発明1のガイド溝は、「前記回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、前記ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて前記先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するガイド溝」(構成C)との構成により、スライドシャフトを、回転せずに軸方向に変位することを許容しつつらせん方向に移動させるものであると解される。 そして、申立人が提示した各甲号証には、回転工具において、回り止め体に対してスライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有し、ボディに対して切削抵抗を受ける方向に進むにつれて先端工具の切込み方向と逆方向にスライドシャフトを移動するようなガイド溝(すなわち、スライドシャフトをらせん方向に移動させるらせん溝であって、かつ回り止め体に対して前記スライドシャフトが回転せずに軸方向に変位可能な変位幅を有するガイド溝)は記載も示唆もされておらず、またそのようなガイド溝が技術常識であるともいえない。 さらに、本件発明1は、構成Cのガイド溝を備えることにより、従来技術のスライドシャフトの運動がらせん方向の1つの自由度しか有さない場合に比して、切削トルクの変動がない場合であっても、スライドシャフトは伸縮できるため、バリ取り対象部位とボディの距離が変化するときに、スライドシャフトの伸縮がワークに追従しやすく、スライド工具がワークに最初に接触するときに、振動が発生することを抑制でき、ワークが急激にボディから離れる局面において、加工量が一定に保たれやすいとの、予測し得ない作用効果を奏するものである(本件特許の明細書の段落【0022】、【0023】を参照。)。 したがって、本件発明1は、甲2実施形態1発明、及びその他の甲号証に基づいて、当業者が容易になし得たとはものとはいえない。 ウ 相違点5についての申立人の主張 申立人は、申立書21ページにおいて、甲4~甲6に開示されているように、らせん状のガイド溝と、それに係合するものとの間に適正なクリアランスを設けることは周知であり、そのようなクリアランスを、らせん状のガイド溝の全長にわたって実質的に同一にすることも周知である旨を主張している。 しかしながら、甲4~甲6はいずれも回転工具に関するものではなく、本件発明と技術分野が異なるものであるから、甲2実施形態1発明に甲4~甲6に記載の技術的事項を適用する動機付けは見いだせない。 さらに、甲4~甲6のクリアランスは、スムーズな送りや、ガタつき防止のために設けられるものであるから、仮に甲2実施形態1発明に甲4~甲6に記載の技術的事項を適用しても、係合ピンとの線接触を維持してコアシャフト20をらせん方向でガイドする係合摺接面25(ガイド溝)を、構成Cのガイド溝とする構成には至らない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 エ 本件発明2~6について 本件発明2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、甲2実施形態1発明と対比すると、少なくとも、上記相違点4、5で相違するから、本件発明1と同様の理由により、甲2実施形態1発明、及びその他の甲号証に基づいて、当業者が容易になし得たということはできない。 オ 小括 以上から、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1~6は、甲2実施形態1発明、及びその他の甲号証に基づいて、当業者が容易になし得たとはいえない。 (3)甲3発明に基づく進歩性欠如 申立人は、甲3から、甲2実施形態1発明と同様の発明(以下「甲3発明」という。)が認定できる旨を主張し(申立書12~14ページを参照。)、本件発明2等が、甲3発明等に基づいて、当業者が容易になし得た旨を主張している(申立書22~25ページを参照。)。 しかしながら、上記甲2実施形態1発明に基づく進歩性欠如についての判断(上記(2)イを参照。)と同様の理由により、本件発明1~6は、甲3発明、及びその他の甲号証に基づいて、当業者が容易になし得たということはできない。 (4)甲1発明に基づく進歩性欠如 申立人は、本件発明5等について、甲1発明に基づく進歩性欠如を申立てしている(申立書24~25ページを参照。)から、甲1発明に基づく進歩性欠如についても検討する。 本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記相違点1(上記1(1))で相違するところ、甲1発明の「軸方向の係合溝65」は、甲2実施形態2発明の「軸方向の長孔61」と同様に、スライドシャフトを、ボディに対して、軸方向の1自由度のみに移動させるものであるから、上記甲2実施形態2発明に基づく進歩性欠如についての判断(上記(1)イを参照。)と同様の理由により、本件発明1~6は、甲1発明、及びその他の甲号証に基づいて、当業者が容易になし得たとはいえない。 (5)小括 したがって、本件発明1~6は、甲2発明又は甲3発明又は甲1発明、及びその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、請求項1~6に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとする申立理由2により、取り消すことはできない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700041

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