特許異議申立
2023-700880
リスク管理システム、方法及びプログラム
- 審判番号
- 2023-700880
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-042455
- 登録番号
- 7237875
- 請求日
- 2023年08月29日
- 審決日
- 2023年12月07日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社東芝
- 【権利者】東芝エネルギーシステムズ株式会社
- 【異議申立人】村山 玉恵
- 審判長/審判官
- 審判長 秋田 将行
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P1651.121-Y (G21C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7237875号発明「リスク管理システム、方法及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7237875号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7237875号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和2年3月11日に出願され、令和5年3月3日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年8月29日に特許異議申立人村山玉恵は、特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
特許第7237875号の請求項1~8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分を登録する第1登録部と、
起因事象の進展を防止する一連の処置事項における成功/失敗の分岐を展開したイベントツリーを登録する第2登録部と、
前記イベントツリーの前記分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、前記EAL区分を関連付ける関連付け部と、
各々の前記処置事項における前記失敗の原因事象を階層的に展開したフォールトツリーを登録する第3登録部と、
前記フォールトツリーの末端に位置する前記原因事象の発生確率を入力し、対応する前記処置事項における前記失敗の分岐確率を演算する演算部と、
前記シーケンスに沿った前記分岐確率の各々に基づいて、前記終状態に関連付けられた前記EAL区分の到達頻度を計算する計算部と、を備えるリスク管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のリスク管理システムにおいて、
前記終状態に関連付け不能な前記EAL区分が関連付け可能となるよう新規の前記処置事項を前記イベントツリーに追加し、前記シーケンスを再展開する再展開部を、備えるリスク管理システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のリスク管理システムにおいて、
前記フォールトツリーの末端に位置する前記原因事象に関連するプロセス信号を取得する取得部を備え、
前記演算部は、前記プロセス信号に基づき更新した前記発生確率を入力して前記分岐確率を再演算し、
前記計算部は、再演算された前記分岐確率に基づいて、前記到達頻度を再計算するリスク管理システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリスク管理システムにおいて、
プラントに施す対策に伴う前記原因事象の変更に基づいて再展開された前記フォールトツリーを再登録させる再登録部を備え、
前記演算部は、前記再展開された前記フォールトツリーに基づいて前記分岐確率を再演算し、
前記計算部は、再演算された前記分岐確率に基づいて、前記到達頻度を再計算するリスク管理システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリスク管理システムにおいて、
プロセス信号に基づいて前記処置事項の成功/失敗の判定結果を出力する判定部と、
前記判定結果に基づいて、前記EAL区分への到達タイミングを推定する推定部と、を備えるリスク管理システム。
【請求項6】
請求項4を引用する請求項5に記載のリスク管理システムにおいて、
前記判定結果及び前記到達タイミングに基づいて前記対策に関する対策情報を提供するデータベースを備えるリスク管理システム。
【請求項7】
第1登録部に、緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分を登録するステップと、
第2登録部に、起因事象の進展を防止する一連の処置事項における成功/失敗の分岐を展開したイベントツリーを登録するステップと、
前記イベントツリーの前記分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、前記EAL区分を関連付けるステップと、
第3登録部に、各々の前記処置事項における前記失敗の原因事象を階層的に展開したフォールトツリーを登録するステップと、
演算部に、前記フォールトツリーの末端に位置する前記原因事象の発生確率を入力し、対応する前記処置事項における前記失敗の分岐確率を演算させるステップと、
計算部に、前記シーケンスに沿った前記分岐確率の各々に基づいて、前記終状態に関連付けられた前記EAL区分の到達頻度を計算させるステップと、を含むリスク管理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分を登録するステップ、
起因事象の進展を防止する一連の処置事項における成功/失敗の分岐を展開したイベントツリーを登録するステップ、
前記イベントツリーの前記分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、前記EAL区分を関連付けるステップと、
各々の前記処置事項における前記失敗の原因事象を階層的に展開したフォールトツリーを登録するステップ、
前記フォールトツリーの末端に位置する前記原因事象の発生確率を入力し、対応する前記処置事項における前記失敗の分岐確率を演算させるステップ、
前記シーケンスに沿った前記分岐確率の各々に基づいて、前記終状態に関連付けられた前記EAL区分の到達頻度を計算させるステップ、を実行させるリスク管理プログラム。」
3 申立理由の概要
特許異議申立人村山玉恵(以下、単に「申立人」という。)は、
主たる証拠として、
(1)甲第5号証:特開2018-36939号公報(以下「甲5」という。)
及び、従たる証拠として、
(2)甲第1号証:NUREG CR7154, Vol.1 「Risk Informing Emergency Preparedness Oversight: Evaluation of Emergency Action Levels-A Pilot Study of Peach Bottom, Surry and Sequoyah」 United States Nuclear Regulatory Commission, 2013年1月発行(以下「甲1」という。)
(3)甲第2号証:AESJ-SC-TR011:2015「リスク評価の理解のために」一般社団法人日本原子力学会, 2016年4月発行(以下「甲2」という。)
(4)甲第3号証:「SAPHIRE Basics」Idaho National Laboratory, 2009年1月発行(以下「甲3」という。)
(5)甲第4号証:「平成29年度安全研究計画(案)説明資料」原子力規制委員会,2016年7月29日発行(以下「甲4」という。)
(6)甲第6号証:特開2017-49153号公報(以下「甲6」という。)
を提出し、請求項1~8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~8に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
4 文献の記載
(1)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5には、下記アに示した事項が記載され、下記イの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。
ア 甲5に記載された事項
(ア)発明の詳細な説明の記載(概要)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントや火力プラント、化学プラント等のプラントを監視する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントや火力プラント等の発電プラント及び化学プラントでは、信頼性の向上と保守作業の合理化を目的として、運転中の各種機器を監視する状態監視の導入が進められている。状態監視技術として、各種機器の温度や振動などを計測し、正常状態との比較により異常の有無を検知する方法が一般的に知られている。ただし、機器が異常状態であると判定されたとしても、直ちに故障してその機能を喪失するというわけではない。したがって、異常状態の機器に対して、プラントを停止して保守作業を行うか又はそのまま運転を継続するかについて判断が求められる。
【0003】
また、機器に異常が発生したときに、異常機器がプラントにどのように影響を与えるかを評価することは、プラントの保全という観点から重要である。この手法として、フォルトツリーを利用してプラントへの影響の範囲を評価する方法や確率論的安全評価によってプラント全体のリスクを計算する手法などがある。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のプラント機器の保守支援装置においては、主に、異常による故障モード(機器の機能障害を引き起こす不具合事象)の発生確率及び故障の影響度(例えば、5段階評価とし、プラント停止に至る故障を最も高い5に分類したもの)により決定されるプラント運転への影響度の評価値を用いて異常機器の点検時期を決定している。このように、プラントへの影響度の評価値を用いて異常機器の保守時期(点検時期)を決定する場合、異常状態の機器が故障したときの保守に与える影響について考慮がなされておらず、不合理な結果を招くおそれがある。
【0007】
例えば、ある機器が異常に至った際のプラント運転への影響度の評価値が低い場合には、プラントを停止せずにプラントの運転を継続するように判断することが考えられる。このような場合であっても、その機器が故障した時の保守に与える影響が大きい場合、プラントを計画的に停止して当該機器の保守を行う方が合理的な場合がある。なぜなら、評価値が低い場合であっても、当該機器に予期しない故障が発生する可能性は残る。もし、当該機器に故障が発生した場合、計画的に保守を行う場合と比較して、例えば、保守の作業日数や諸経費等が膨大となる結果が生じる場合がある。つまり、正常状態から逸脱したプラント機器の保守を実施するか否かの判断指標として、プラント運転への影響度の評価では不十分である。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、プラント機器が正常状態から逸脱した際に、当該機器の保全計画の策定のためのより合理的な判断指標を提示することができるプラント監視装置及びプラント監視方法を提供することである。」
「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機器が正常状態から逸脱した際のプラントの停止確率を計算し、このプラント停止確率に基づき当該機器の保守に関する第1指標の期待値を計算するので、当該機器が故障したときの保守に与える影響を考慮した判断指標を提示することができる。つまり、機器が正常状態から逸脱した際に、より合理的な判断指標に基づいて当該機器の保全計画の策定が可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。」
「【0012】
以下、本発明のプラント監視装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
(・・・省略・・・)
図1において、プラント監視装置1は、原子力プラントや火力プラント、化学プラント等の複数の機器(図示せず)を有するプラントにおいて、運転中の各機器を監視するものである。さらに、機器が正常状態から逸脱した(異常の兆候が生じた)際に、プラントを計画的に停止して当該機器の保守を行う場合と当該機器の運転をそのまま継続して次回の定期検査で保守を行う場合のどちらが合理的かを判断するための判断指標を算出する。さらに、この判断指標に基づき、当該機器に対する保全優先度(保守又は継続運転)を判断する。本プラント監視装置1は、プラントを計画的に停止させた場合と計画外で停止した場合とで機器保守のための作業量や作業日数等に多大な差が生じることがある原子力プラントに特に好適なものである。
(・・・省略・・・)
【0016】
イベントツリーデータベース5には、プラントの停止確率を計算するための各種のイベントツリーが予め格納されている。各イベントツリーは、プラント停止を引き起こす起因事象及びその起因事象の進展を阻止するための応答を系統的に列挙して最終的にプラントが停止する発生条件を示すものである。例えば、図4に示すイベントツリーは、起因事象Aが発生した場合にプラントが停止する発生条件を示すものであり、起因事象Aの進展を阻止するための応答として、出力制御、給水、及び減圧の動作が挙げられている。分岐の上側は応答動作に成功した場合、下側は応答動作に失敗した場合を示す。プラントの停止は、出力制御、給水、減圧の動作のいずれか1つの動作が失敗した場合に生じる。P0、P1、P2、P3はそれぞれ、起因事象A、出力制御失敗、給水失敗、減圧失敗の発生確率を示している。P0は運転実績に基づき予め設定されている。それに対して、P1、P2、P3は、詳細は後述するが、フォルトツリーデータベース6に格納されている後述のフォルトツリーを解析した結果に基づき計算されるものである。
【0017】
フォルトツリーデータベース6には、プラントの停止確率を計算するための各種のフォルトツリーが予め格納されている。各フォルトツリーは、イベントツリーの起因事象の進展を阻止する応答の失敗事象を頂上事象とし、その頂上事象の発生に関与する要因事象を系統的に展開したものである。例えば、図5に示すフォルトツリーは、プラントの給水機能の喪失を頂上事象とするツリーであり、説明のために簡略化されたものである。この頂上事象は、図4に示すイベントツリーの給水失敗事象に相当するものである。ポンプA及びポンプBはプラントの給水機能を担う構成要素であり、ポンプA及びポンプBのいずれか一方に故障(要因事象)が発生した場合、プラントの給水機能が喪失する。フォルトツリーの要因事象としては、各機器の故障が挙げられる。つまり、ある機器が故障してその機能を喪失すると、それを要因として、プラント系統のある機能が喪失することがある。他の例として、図4に示すイベントツリーの出力制御失敗事象や減圧失敗事象を頂上事象とするフォルトツリー等がある。
【0018】
機器保守指標データベース7には、機器の保全優先度を評価するための判断指標を計算するための第1指標が予め格納されている。第1指標は、機器の故障によりプラントが計画外で停止して保守を行う場合における当該機器の保守に関する所定の指標である。また、機器の保全優先度を評価するための比較指標としての第2指標が予め格納されている。第2指標は、プラントを計画的に停止して機器の保守を行う場合における当該機器の保守に関する所定の指標である。
【0019】
機器の保守に関する所定の指標として、例えば図6に示すように、機器の保守に要する作業日数が挙げられる。図6の左欄に示す第2指標としての計画作業日数とは、対象機器の保守に関して、定期検査等でプラントを計画的に停止した場合に必要な作業日数を意味する。一方、図6の右欄に示す第1指標としての計画外作業日数とは、対象機器の故障により計画外にプラントが停止した場合に必要な作業日数を意味する。計画外の保守では、作業人員の確保、交換部品の調達、故障原因の究明や対策など、計画的な保守と比較して作業項目が追加されるので、計画外作業日数は計画作業日数に比べて増える。例えば、ポンプAについて、計画的な保守の場合、10日で作業を終了できる一方、計画外の保守の場合、作業に150日を要する。なお、機器が正常状態から逸脱して定期点検前に保守を行うと判断して保全計画を立案し、後日保守のためにプラントを停止する場合は、プラントを計画的に停止して保守する場合(計画作業日数の場合)に相当するものである。
(・・・省略・・・)
【0022】
機器故障確率計算部12は、機器異常度計算部11の計算結果(機器の異常度)に基づき、各機器の故障確率を計算するものである。具体的には、少なくとも1つの機器の異常度が閾値より大きいと機器異常度計算部11が判断した場合に、機器異常度計算部11から各機器の機器異常度を取り込むと共に、機器故障確率データベース4から機器の異常度と故障確率との関係を示すデータを取り込む。取り込んだデータを参照することで、機器異常度計算部11の計算結果としての機器の異常度から各機器の故障確率を計算する。計算結果としての各機器の故障確率を出力部22へ出力する。
【0023】
プラント停止確率計算部13は、イベントツリーデータベース5に格納されたイベントツリー及びフォルトツリーデータベース6に格納されたフォルトツリーに対して機器故障確率計算部12の計算結果を適用することで、プラントの停止確率を計算するものである。具体的には、イベントツリーデータベース5から各種のイベントツリーを、フォルトツリーデータベース6から各種のフォルトツリーを取り込むと共に、機器故障確率計算部12から計算結果としての各機器の故障確率を取り込む。取り込んだ各種のフォルトツリー(例えば、図5参照)の頂上事象の発生確率を計算する。フォルトツリーで展開されている各要因事象は各機器の故障に相当するので、フォルトツリーの頂上事象の発生確率は、フォルトツリーの各要因事象に対して機器故障確率計算部12の計算結果としての各機器の故障確率を割り当てることで計算することができる。さらに、取り込んだイベントツリーの各応答の失敗事象の発生確率(例えば、図4に示すP1、P2、P3を参照)を計算する。イベントツリーの各応答の失敗事象は各フォルトツリーの頂上事象に相当するので、各応答の失敗事象の発生確率は、上記計算により求めた各フォルトツリーの頂上事象の発生確率を割り当てることで計算することができる。最後に、すべての応答の失敗事象を考慮して各イベントツリーのプラントの停止確率を計算する。」
「【0025】
機器保守指標計算部14は、プラント停止確率計算部13の計算結果及び機器保守指標データベース7に格納されている第1指標に基づき、第1指標の期待値を計算するものである。具体的には、機器保守指標データベース7から第1指標(例えば、図6の右欄参照)を取り込むと共に、プラント停止確率計算部13から計算結果としてのプラント停止確率を取り込む。取り込んだプラント停止確率と第1指標との積により第1指標の期待値を計算する。」
「【0027】
保全優先度評価部15は、機器保守指標計算部14の計算結果を機器保守指標データベース7に格納されている第2指標と比較することで、対象機器の保全優先度を評価するものである。具体的には、機器保守指標データベース7から第2指標(例えば、図6の左欄参照)を取り込むと共に、機器保守指標計算部14から計算結果としての第1指標の期待値を取り込む。取り込んだ第1指標の期待値が第2指標よりも小さい場合には、保全優先度が低いと判断する。この場合、プラントの監視者等は、保全優先度評価部15のこの判断に基づき、プラント運転を継続させ、次回の定期検査において対象機器の保守を実施するような保全計画を策定することができる。それに対して、第1指標の期待値が第2指標以上である場合には、保全優先度が高いと判断する。この場合、プラントの監視者等は、定期検査の前に計画的にプラントを停止させて対象機器の保守を実施するような保全計画を策定することができる。」
「【0056】
また、上述した実施の形態においては、機器の保守に関する所定の指標(第1指標及び第2指標)として、機器の保守に要する作業日数(計画外作業日数及び計画作業日数)を用いた例を示したが、機器の保守に要する作業量、人員数、諸費用、及び、機器の保守により発生する損失額のうち、少なくとも1つを用いることもできる。すわなち、正常状態から逸脱した機器の保守に関する影響について考慮がなされた指標であればよい。この場合、機器保守指標データベース7には、プラントが計画外及び計画的に停止した場合における、機器の保守に要する作業量、人員数、諸費用、及び、機器保守により発生する損失額のデータの少なくとも1つを予め格納しておく。さらに、機器保守指標計算部14によりプラントの計画外停止時の機器保守に要する作業量、人員数、諸費用、及び、機器保守により発生する損失額の少なくとも1つの期待値が計算され、これらの期待値とプラントの計画的停止時のそれらに対応する指標とが保全優先度評価部15により比較されて対象機器の保全優先度が評価される。つまり、機器の保守に関する所定の指標として、上記指標を用いる場合であっても、機器の保全優先度の評価のための合理的な指標を提示することができる。」
(イ)図1、4及び5
「図1
[図:0001405844000001.jpg]
」
「図4
[図:0001405844000002.jpg]
」
「図5
[図:0001405844000003.jpg]
」
(ウ)上記(イ)の図4から見てとれる事項
上記(ア)の【0016】・【0017】・【0023】・【0024】の記載を踏まえて、図4を見ると、図4のイベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、正常またはプラント停止という結果が関連付けられていることが見て取れる。
イ 甲5発明
上記アによれば、甲5には、第1の実施の形態に係るプラント監視装置について、以下の発明が記載されていると認められる。(なお、参考までに、認定の根拠とした箇所である甲5の段落等を括弧内に記載する。)
「機器が異常状態であると判定されたとしても、直ちに故障してその機能を喪失するというわけではなく、その機器が故障した時の保守に与える影響が大きい場合、プラントを計画的に停止して当該機器の保守を行う方が合理的な場合があるため、異常状態の機器に対して、プラントを停止して保守作業を行うか又はそのまま運転を継続するかについて判断する上で、より合理的な判断指標に基づいて当該機器の保全計画を策定するためのプラント監視装置であって、(【0002】、【0007】、【0010】)
プラント停止を引き起こす起因事象及びその起因事象の進展を阻止するための応答を系統的に列挙して最終的にプラントが停止する発生条件を示すイベントツリーを格納するイベントツリーデータベース5と、(【0016】、図4)
前記イベントツリーの起因事象の進展を阻止する応答の失敗事象を頂上事象とし、その頂上事象の発生に関与する要因事象を系統的に展開したものである各種のフォルトツリーが予め格納されるフォルトツリーデータベース6と、(【0017】、図5)
機器異常度計算部11の計算結果としての機器の異常度から各機器の故障確率を計算する機器故障確率計算部12と、(【0022】)
前記イベントツリーデータベース5に格納されたイベントツリー及び前記フォルトツリーデータベース6に格納されたフォルトツリーに対して機器故障確率計算部12の計算結果を適用し、フォルトツリーの各要因事象に対して各機器の故障確率を割り当てることで、フォルトツリーの頂上事象の発生確率を計算して、プラントの停止確率を計算するプラント停止確率計算部13と、(【0023】)
前記プラント停止確率計算部13の計算結果及び機器保守指標データベース7に格納されている第1指標に基づき、第1指標の期待値を計算する機器保守指標計算部14と、(【0025】)
機器の保全優先度を評価するための判断指標を計算するための所定の指標(例えば、機器の保守に要する作業日数、機器の保守に要する作業量、人員数、諸費用、及び、機器の保守により発生する損失額等)が予め格納されている機器保守指標データベース7と、(【0018】、【0019】、【0056】)
前記機器保守指標計算部14からの第1指標の期待値が、機器保守指標データベース7から取り込んだ第2指標よりも小さい場合には、所定の指標の保全優先度が低いと判断する保全優先度評価部15と、(【0027】)
を備え、
前記保全優先度評価部15の判断指標に基づくことで、プラント運転を継続させ、次回の定期検査において対象機器の保守を実施するような保全計画を策定するか、定期検査の前に計画的にプラントを停止させて対象機器の保守を実施するような保全計画を策定することができるプラント監視装置であって、(【0027】)
前記イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、正常またはプラント停止という結果が関連付けられている、(上記ア(ウ))
プラント監視装置。」
(2)本件特許の出願前に頒布された甲1~6の記載から把握できる技術的事項について
ア 甲1(第19頁の14~38行、表1-1)、甲2(付表B-1(6/8))、甲4(「30.緊急時対応レベル(EAL)に係るリスク情報活用等の研究」(第51~60頁))及び甲6(【0005】、図2)の記載を踏まえれば、緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分は、本件特許の出願前に周知であったといえる。
イ 甲1(第30頁下1行~10行、第33頁18~22行、図3-1)、甲2(付表B-1(6/8))及び甲4(「30.緊急時対応レベル(EAL)に係るリスク情報活用等の研究」スライド2(第57頁))の記載を踏まえれば、EALの到達頻度を管理する上で、確率論的リスク評価(PRA)の手法を用いるという課題は、本件特許の出願前に周知であったといえる。
ウ 甲1(第25頁の1~12行、同25~27行、第27頁25~31行、第30頁下1行~10行、第33頁18~22行、図3-1)、甲2(図3.1.3-1)、甲3(第14~15頁)、甲4(「13.重大事故の事故シークエンスグループに係る事故進展解析」スライド5(第44頁))、甲5(【0016】、【0023】、図4)の記載を踏まえれば、原子力プラントの情報管理において、イベントツリーを用いることは、本件特許の出願前に周知であったといえる。
5 当審の判断
(1)請求項1に係る発明について
ア 請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と甲5発明とを対比する。
(ア)甲5発明の「プラントの停止に至る起因事象」、「その起因事象の進展を阻止する応答」及び「系統的に示すイベントツリー」は、本件発明の「起因事象」、「起因事象の進展を防止する一連の処置事項」及び「成功/失敗の分岐を展開したイベントツリー」にそれぞれ相当する。
したがって、甲5発明の「前記プラントの停止に至る起因事象及びその起因事象の進展を阻止する応答を系統的に示すイベントツリーを格納するイベントツリーデータベース」は、本件発明の「起因事象の進展を防止する一連の処置事項における成功/失敗の分岐を展開したイベントツリーを登録する第2登録部」に相当する。
(イ)甲5発明は、「イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、正常またはプラント停止という結果が関連付けられてい[る]」から、このような関連付けを行う関連付け部を備えるといえる。
また、甲5発明における「正常またはプラント停止という結果」は、結果の区分といえる。
したがって、甲5発明の「イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、正常またはプラント停止という結果」を「関連付け[る]」関連付け部は、本件発明の「前記イベントツリーの前記分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、前記EAL区分を関連付ける関連付け部」と、「前記イベントツリーの前記分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、所定の区分を関連付ける関連付け部」の点で共通する。
(ウ)甲5発明の「イベントツリーの進展を阻止する応答の失敗事象」は、本件発明の「各々の前記処置事項における前記失敗の原因事象」に相当する。
また、甲5発明の「フォルトツリー」が、「イベントツリーの起因事象の進展を阻止する応答の失敗事象を頂上事象とし、その頂上事象の発生に関与する要因事象を系統的に展開したものである」ことからみて、当該フォルトツリーは、頂上事象と要因事象を階層的に展開したものであるから、甲5発明の「イベントツリーの応答の失敗事象を頂上事象とするフォルトツリー」は、本件発明の「各々の前記処置事項における前記失敗の原因事象を階層的に展開したフォールトツリー」に相当する。
したがって、甲5発明の「前記イベントツリーの応答の失敗事象を頂上事象とするフォルトツリーを格納するフォルトツリーデータベース」は、本件発明の「各々の前記処置事項における前記失敗の原因事象を階層的に展開したフォールトツリーを登録する第3登録部」に相当する。
(エ)甲5発明の「フォルトツリーの頂上事象の発生確率」は、本件発明の「前記フォールトツリーの末端に位置する前記原因事象の発生確率」に相当する。
また、甲5発明の「フォルトツリーの各要因事象に対して割り当てられる各機器の故障確率」は、本件発明の「対応する前記処置事項における前記失敗の分岐確率」に相当する。
したがって、甲5発明は、本件発明の「前記フォールトツリーの末端に位置する前記原因事象の発生確率を入力し、対応する前記処置事項における前記失敗の分岐確率を演算する演算部」を備える。
(オ)甲5発明の「前記イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、正常またはプラント停止という結果が関連付けられていて」、「前記イベントツリーデータベースに格納されている前記イベントツリー」「に対して、前記機器故障確率計算部の計算結果を割り当てることで、前記プラントの停止確率を計算する」「プラント停止確率計算部」は、本件発明の「前記シーケンスに沿った前記分岐確率の各々に基づいて、前記終状態に関連付けられた前記EAL区分の到達頻度を計算する計算部」と「前記シーケンスに沿った前記分岐確率の各々に基づいて、前記終状態に関連付けられた区分の到達頻度を計算する計算部」の点で共通する。
(カ)甲5発明の「プラント監視装置」と本件発明の「リスク管理システム」は、情報管理システムである点で共通する。
(キ)以上によれば、両発明は、
「起因事象の進展を防止する一連の処置事項における成功/失敗の分岐を展開したイベントツリーを登録する第2登録部と、
前記イベントツリーの前記分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に、所定の区分を関連付ける関連付け部と、
各々の前記処置事項における前記失敗の原因事象を階層的に展開したフォールトツリーを登録する第3登録部と、
前記フォールトツリーの末端に位置する前記原因事象の発生確率を入力し、対応する前記処置事項における前記失敗の分岐確率を演算する演算部と、
前記シーケンスに沿った前記分岐確率の各々に基づいて、前記終状態に関連付けられた区分の到達頻度を計算する計算部と、を備える情報管理システム。」
の点で一致する。
一方、本件発明が、「緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分を登録する第1登録部」を備え、関連付け部が関連付ける区分が「EAL区分」であるとともに、到達頻度を計算する計算部が計算する区分の到達頻度が「EAL区分」の到達頻度であり、当該EAL区分に到達するリスクを管理するのに対して、甲5発明は「緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分」を登録するものではなく、当該区分が、「正常またはプラント停止という結果」であり、故障した対象機器の保守を実施するような保全計画を策定するためにプラントを監視する点(以下「相違点」という。)で相違する。
イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)甲5発明において、「イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態である「プラント停止」は、プラントの保守のために当該プラントを計画的に停止するか否かを判断することが許される程度の事象にとどまり、故障した機器のメンテナンスが可能であることを前提とするものであって、本件発明が対象とする「緊急時」に行う「緊急時活動」が想定されている発明ではない。そして、本件発明と甲5発明は、イベントツリーやフォールトツリーを用いて、終状態に関連付けられた所定の区分の到達頻度を確率的に計算するという点で共通するにすぎず、管理する対象も異なるから、技術分野が関連するものとはいえない。
(イ)甲5発明は、「イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態に」は、「正常またはプラント停止という結果」のみが関連付けられており、甲5全体を見ても、「正常」及び「プラント停止」以外に、公衆リスクを低減させる「緊急時活動」が必要となる状況を示唆する記載は見当たらないから、甲5発明の「イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態」における「正常またはプラント停止という結果」に代えて、「緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分」を適用する動機付けも存在しない。
(ウ)また、上記4(2)のとおり、緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分やEALの到達頻度を管理する上で、確率論的リスク評価(PRA)の手法を用いるという課題や、原子力プラントの情報管理において、フォールトツリーやイベントツリーを用いることは、本件特許の出願前に周知であったとしても、いずれも一般的な課題や技術レベルの理解にとどまり、甲5発明において、「イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態」における「正常またはプラント停止という結果」に代えて、「緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分」を適用することを示唆するものではない。
(エ)したがって、甲5発明の「イベントツリーの各分岐により展開された各々のシーケンスの終状態」における「正常またはプラント停止という結果」に代えて、「緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分」を適用して、上記相違点に係る本件発明の構成となすことは当業者が容易になし得たということはできない。
(オ)申立人は、甲5発明から出発した当業者が、甲5発明と同じく原子力プラントにおけるリスク評価管理に関する発明である甲1-4及び6の記載を参照して容易に発明できたものであると主張する。
しかし、甲5発明のリスク評価管理の対象は、プラントの保守のために当該プラントを計画的に停止するか否かを判断することが許される程度の事象にとどまり、「緊急時」という状況が想定されておらず、「緊急時活動レベルの判断基準を示すEAL区分」を適用して、上記相違点に係る本件発明の構成となすことは当業者が容易になし得たということはできないことは上記(ウ)及び(エ)で述べたとおりであって、かかる主張には理由がない。
(カ)よって、本件発明は、甲5発明及び周知技術に基いて当業者が容易になし得るものではない。
(2)請求項2~6に係る発明について
請求項2~6に係る発明は、本件発明に対して、さらに請求項2~6それぞれで特定する技術的事項を追加したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、請求項2~6に係る発明は、甲5発明及び周知技術に基いて当業者が容易になし得るものではない。
(3)請求項7及び8に係る発明について
リスク管理システムという物の発明である本件発明を、請求項7はリスク管理方法という方法の発明となしたものであり、請求項8はリスク管理プログラムというプログラムの発明となしたものであって、いずれも発明の属するカテゴリーを変更するものにすぎない。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、請求項7及び8に係る発明は、甲5発明及び周知技術に基いて当業者が容易になし得るものではない。
6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700880