特許異議申立
2023-700932
緊急時活動レベルの管理支援装置、方法及びプログラム
- 審判番号
- 2023-700932
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-205822
- 登録番号
- 7271397
- 請求日
- 2023年09月07日
- 審決日
- 2024年03月15日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東芝エネルギーシステムズ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人東京国際特許事務所
- 【権利者】東芝プラントシステム株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人東京国際特許事務所
- 【異議申立人】村山 玉恵
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 秋田 将行
- 審判官 安藤 達哉
- 分類
- P1651.121-Y (G21C) / P1651.536-Y (G21C) / P1651.537-Y (G21C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7271397号発明「緊急時活動レベルの管理支援装置、方法及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7271397号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7271397号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和元年11月13日に出願され、令和5年4月28日にその特許権の設定登録がされ、令和5年5月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年9月7日に特許異議申立人村山玉恵は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7271397号の請求項1~8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~8に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
少なくとも施設敷地緊急事態及び全面緊急事態に区分けして緊急時活動レベルのEAL判断基準を登録する第1登録部と、
確率論的リスク評価に基づき、起因事象及びその進展を防止する一連の処置事項がヘディングとなったPRAイベントツリーを登録する第2登録部と、
前記PRAイベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に、前記EAL判断基準を関連付ける関連付け部と、
前記関連付けの不能な前記EAL判断基準が関連付け可能となるよう前記PRAイベントツリーに新規の前記ヘディングを追加し、前記シーケンスを再展開する再展開部と、
前記分岐に関連付けたEAL判断基準が前記施設敷地緊急事態及び前記全面緊急事態のいずれに属するかに基づいて、各々の前記シーケンスの属性を決定する属性決定部と、
前記施設敷地緊急事態に属する前記シーケンスを抽出した第1抽出イベントツリー及び前記全面緊急事態に属する前記シーケンスを抽出した第2抽出イベントツリーを作成する作成部と、
前記第1抽出イベントツリー及び前記第2抽出イベントツリーの各々に基づいて前記施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び前記全面緊急事態の第2到達頻度を演算する演算部と、を備える緊急時活動レベルの管理支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の緊急時活動レベルの管理支援装置において、
前記EAL判断基準を、単一条件で定義された第1分類及び複数条件又はその組み合わせで定義された第2分類に分類するEAL分類部と、
前記第2分類の前記EAL判断基準を構成する前記複数条件を集約した十分条件を生成しこの十分条件を前記EAL判断基準に置換して前記関連付けをさせる置換部と、を備える緊急時活動レベルの管理支援装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の緊急時活動レベルの管理支援装置において、
前記第1到達頻度及び前記第2到達頻度の各々がそれぞれ第1閾値及び第2閾値より大きいか小さいかを判定する判定部を備える緊急時活動レベルの管理支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の緊急時活動レベルの管理支援装置において、
前記第1到達頻度及び前記第2到達頻度の少なくとも一方が、それぞれ第1閾値及び第2閾値より大きいと判定された場合、前記EAL判断基準の関連付けられた前記処置事項の重要度評価を行う評価部を備える緊急時活動レベルの管理支援装置。
【請求項5】
請求項4に記載の緊急時活動レベルの管理支援装置において、
重要度評価を行う重要度指標は、Fussell-Vesely重要度、リスク増加価値、Birmbaum重要度、リスク低減価値、及びクリティカリティ重要度のうち少なくとも一種である緊急時活動レベルの管理支援装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の緊急時活動レベルの管理支援装置において、
前記重要度評価に基づいて前記処置事項の修正優先度を決定する決定部を備え、
前記演算部は、修正した前記処置事項に基づいて前記第1到達頻度及び前記第2到達頻度を再演算する緊急時活動レベルの管理支援装置。
【請求項7】
少なくとも施設敷地緊急事態及び全面緊急事態に区分けして緊急時活動レベルのEAL判断基準を登録するステップと、
確率論的リスク評価に基づき、起因事象及びその進展を防止する一連の処置事項がヘディングとなったPRAイベントツリーを登録するステップと、
前記PRAイベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に、前記EAL判断基準を関連付けるステップと、
前記関連付けの不能な前記EAL判断基準が関連付け可能となるよう前記PRAイベントツリーに新規の前記ヘディングを追加し、前記シーケンスを再展開するステップと、
前記分岐に関連付けたEAL判断基準が前記施設敷地緊急事態及び前記全面緊急事態のいずれに属するかに基づいて、各々の前記シーケンスの属性を決定するステップと、
前記施設敷地緊急事態に属する前記シーケンスを抽出した第1抽出イベントツリー及び前記全面緊急事態に属する前記シーケンスを抽出した第2抽出イベントツリーを作成するステップと、
前記第1抽出イベントツリー及び前記第2抽出イベントツリーの各々に基づいて前記施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び前記全面緊急事態の第2到達頻度を演算するステップと、を含む緊急時活動レベルの管理支援方法。
【請求項8】
コンピュータに、
少なくとも施設敷地緊急事態及び全面緊急事態に区分けして緊急時活動レベルのEAL判断基準を登録するステップ、
確率論的リスク評価に基づき、起因事象及びその進展を防止する一連の処置事項がヘディングとなったPRAイベントツリーを登録するステップ、
前記PRAイベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に、前記EAL判断基準を関連付けるステップ、
前記関連付けの不能な前記EAL判断基準が関連付け可能となるよう前記PRAイベントツリーに新規の前記ヘディングを追加し、前記シーケンスを再展開するステップ、
前記分岐に関連付けたEAL判断基準が前記施設敷地緊急事態及び前記全面緊急事態のいずれに属するかに基づいて、各々の前記シーケンスの属性を決定するステップ、
前記施設敷地緊急事態に属する前記シーケンスを抽出した第1抽出イベントツリー及び前記全面緊急事態に属する前記シーケンスを抽出した第2抽出イベントツリーを作成するステップ、
前記第1抽出イベントツリー及び前記第2抽出イベントツリーの各々に基づいて前記施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び前記全面緊急事態の第2到達頻度を演算するステップ、を実行させる緊急時活動レベルの管理支援プログラム。」
第3 本件明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
【0001】
本発明の実施形態は、原子力施設に関連する緊急時活動レベルの到達頻度の管理を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
緊急時活動レベル(EAL:Emergency Action Level)とは、原子力施設において異常事象が発生した際、緊急事態を判断する基準を言う。この緊急事態は、施設の情報、放射線量等に基づき「警戒事態(AL:Alert)」、「施設敷地緊急事態(SE:Site Emergency)」及び「全面緊急事態(GE:General Emergency)」の3つに区分されている。そしてEALには、このように区分された緊急事態のうち、発生した異常事象がいずれに合致するかの判断基準が示されている(例えば、非特許文献1)。一方において、確率論的リスク評価(PRA:Probabilistic Risk Assessment)では、炉心損傷頻度(CDF:Core Damage Frequency)が評価されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】(社)日本電気協会原子力企画委員会、「原子力発電所の緊急時対策指針JEAG4102-2015」
【非特許文献2】(社)日本原子力学会、原子力学会標準「原子力発電所の出力状態を対象とした確率論的リスク評価に関する実施基準(レベル1PRA編):2013」
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る緊急時活動レベルの管理支援装置10A(10)(以下、単に「管理支援装置10A(10)」という)のブロック図である。図2は起因事象23及びその進展を防止する一連の処置事項24(24a,24b,24c)がヘディングとなったPRAイベントツリー20を示す図である。
【0011】
図3は緊急時活動レベル(EAL:Emergency Action Level)の判断基準35を示すマトリックス表である。このように緊急時活動レベル(EAL)は、発生した事態を、警戒事態(AL:Alert)、施設敷地緊急事態(SE:Site Emergency)及び全面緊急事態(GE:General Emergency)の3つに区分している。さらに緊急時活動レベル(EAL)は、発生事態がいずれの区分に該当するかの判断基準35が項目分けして定義されている。
なお以降において、特定の判断基準35を指す場合は、図3のマトリックスの行を特定する項目番号と列を特定する記号を用いて、例えば、SE27,GE42のように示す。
【0012】
警戒事態(AL)では、プラントの安全レベルが低下した場合、あるいは、その可能性があるような事象が発生した場合を判定基準とし、この場合、PAZ(予防的防護措置を準備する区域)内の災害時要援護者の避難の準備が開始される。
【0013】
施設敷地緊急事態(SE)では、公衆を防護するために必要とされるプラントの機能が喪失した場合、あるいは、その可能性があるような事象が発生した場合を判定基準とし、この場合、PAZ内の災害時要援護者の避難が実施され、PAZ内住民の避難準備が実施される。
【0014】
全面緊急事態(GE)では、炉心損傷若しくは燃料の溶融が発生した場合、あるいは、その可能性があるような事象が発生し、さらに格納容器の健全性を喪失する可能性がある事象が発生した場合を判定基準とし、この場合、PAZ内住民の避難が実施され、UPZ(緊急時防護措置を準備する区域)の屋内退避が実施される。
【0015】
図4は確率論的リスク評価(PRA:Probabilistic Risk Assessment)に基づき同定された起因事象23を定義する表である。
【0034】
図10は新設された処置事項24をヘディングに新規に追加しシーケンスを再展開したPRAイベントツリー20を示す図である。なおこの新設された処置事項24をヘディングのどの位置に追加するかは、運転手順等から判断される。
【0035】
そして再展開されたPRAイベントツリー20のシーケンス分岐37に、上述した第1分類のEAL判断基準35a(35)及び第2分類のEAL判断基準35b(35)が関連付けられる。この関連付けは、最初に到達するEAL判断基準35のみが割り当てられる。そしてヘディングに新設した処置事項24では何等かのEAL判断基準35が発生する場合のみシーケンスが分岐される。
【0037】
図12は施設敷地緊急事態(SE)の第1抽出イベントツリー21の起因事象23に関連付けられたEAL判断基準35の到達頻度30を示す表である。なお全面緊急事態(GE)の第2抽出イベントツリー22における到達頻度30は記載を省略している。
【図1】
[図:0001409137000001.jpg]
【図2】
[図:0001409137000002.jpg]
【図3】
[図:0001409137000003.jpg]
【図4】
[図:0001409137000004.jpg]
【図10】
[図:0001409137000005.jpg]
【図12】
[図:0001409137000006.jpg]
第4 申立理由の概要
特許異議申立人村山玉恵(以下、単に「申立人」という。)は、以下1~3の取消理由を主張する。
1 進歩性欠如
主たる証拠として、
(1)甲第5号証:特開2017-49153号公報(以下「甲5」という。)
及び、従たる証拠として、
(2)甲第1号証:ML13031A500 NUREG/CR-7154, Vol.1 「Risk Informing Emergency Preparedness Oversight: Evaluation of Emergency Action Levels-A Pilot Study of Peach Bottom, Surry and Sequoyah」 United States Nuclear Regulatory Commission, 2013年1月発行(以下「甲1」という。)
(3)甲第2号証:AESJ-SC-TR011:2015「リスク評価の理解のために」一般社団法人日本原子力学会, 2016年4月発行(以下「甲2」という。)
(4)甲第3号証:ML12044A174「SAPHIRE Basics」Idaho National Laboratory, 2009年1月発行(以下「甲3」という。)
(5)甲第4号証:「平成29年度安全研究計画(案)説明資料」原子力規制委員会,2016年7月29日発行(以下「甲4」という。)
を提出し、請求項1~8に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~8に係る特許は取り消されるべきものである。
2 明確性要件違反
請求項1~8に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1~8に係る特許は取り消されるべきものである。
3 実施可能要件違反
請求項1~8に係る特許は、その明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1~8に係る特許は取り消されるべきものである。
第5 文献の記載
1 甲5の記載事項及び甲5発明の認定
(1)甲5には以下の事項が記載されている。
【0001】
本発明は原子力プラントのアクシデント対策支援システム及びアクシデント対策支援方法に係り、特に、緊急時活動レベルに応じた対策に好適な原子力プラントのアクシデント対策支援システム及びアクシデント対策支援方法に関する。
【0002】
原子力プラントでは、プラント全体において計測器で計測して、正常運転するように計算機システムで制御を行っている。一方、原子力プラントに事故が発生した場合には、原子炉の核反応を緊急停止させる等の措置が必要となる。
【0003】
ここで、原子力プラントが安全な状態となったか、あるいは危険な状態が続いているかを把握するのが難しいので、事故発生時、原子炉の運転状態を基にリスク指標として燃料冷却指標を算出したり、格納容器内圧力等を基にリスク指標として格納容器指標を算出して原子炉の状態をリアルタイムで把握する技術が知られている。
【0005】
一方、原子力プラントの安全基準は東日本大震災以降見直されてきており、今後はシビアアクシデントが発生した際の運転員の行動や操作手順が増える事が予想される。すなわち、新たな原子力災害対策指針に基づき、緊急時活動レベル(EAL:Emergency Action Level)に沿って行動することが必要となる事が予想される。
【0006】
上記の従来技術では、リスク指標が得られるものの、各種プラントパラメータや原子炉等の状態に基づき原子炉等の異常を判断して緊急時活動レベル(EAL:Emergency Action Level)に沿って行動することはできない。
【0007】
シビアアクシデント発生時は各所で異常事態が発生している可能性が高く、発生時の緊急時活動レベルに応じて、重要度や優先度を即座に判断し行動しなければならないため、状況に応じて為すべき行動の詳細情報が必要となる。
【0008】
本発明の目的は、シビアアクシデント発生時において運転員を支援するガイドを提供し、負担を軽減することが可能な原子力プラントのアクシデント対策支援システム及び原子力プラントのアクシデント対策支援方法を提供することにある。
【0016】
図1は、本実施例のSA支援システムの構成図である。SA支援システムは、図1に示すように、データベース102と状態判定・制御手段103で構成される支援システムサーバ101と、ロジックモニタ画面108と、ロジックモニタを表示するためのロジック表示手段105と、EAL画面109と、EAL画面を表示するための画面表示手段106と、音声やメッセージによってガイドを表示する行動ガイド画面110と、行動ガイド画面を表示するためのガイド表示手段107で構成される支援システム端末104とによって構成される。
【0017】
状態判定・制御手段103は、収集されたプラントデータ・環境データ(或いはその加工情報)が格納されるデータベース102の記憶内容に応じて、ロジック表示手段105、画面表示手段106、ガイド表示手段107に通信経路を介して指令を送る。ロジック表示手段105、画面表示手段106、ガイド表示手段107は、送られた指令に応じてロジックモニタ画面108、EAL画面109、行動ガイド画面110に表示を行う。ロジックモニタ画面108、EAL画面109は、別々のディスプレイとして構成しても良く、単一のディスプレイに並べて表示しても、或いは、単一のディスプレイに切り替え表示するように構成しても良い。
【0018】
データベース102の格納データの詳細内容を図3に示す。データベース102には、図3に示されるように、地震、津波、炉異常、プール異常、放射線、冷却材、原子炉、電源の各項目に対応して、EAL1、EAL2、EAL3、メッセージ、ロジック、優先順位の内容が記憶されている。
【0019】
図2はEAL画面109の構成を示す。図2は概略図であるが、実際のシステムで表示する画面ではEALの全ての項目を集約表示しており、一目でEALに関する状況を確認することが出来る。EAL画面109は、原子力災害対策指針に基づき、緊急時活動レベルを判断する要素を集約表示し、事態の進展が1目で把握出来る構成としている。また、緊急事態レベルに従って警戒事態(EAL1)、施設敷地緊急事態(EAL2)、全面緊急事態(EAL3)の3つの区分に分け、緊急事態レベルに応じた対応が可能な構成としている。
【0020】
ここで、状態判定・制御手段103は、収集されたプラントデータ・環境データとデータベース102の記憶内容を比較して、例えば、震度6弱 以上の地震が発生していれば自然災害/地震EAL1と判断し、津波高さ10m以上の津波が発生していれば自然災害/津波EAL1と判断し、空間放射線量率5μSv/h以上の放射線、空間放射線量率500μSv/h以上の放射線が発生していれば各々放射線災害EAL2、EAL3と判断し、非常用炉心冷却装置の作動となり、非常用炉心冷却装置の注水不可となっていると各々冷却材災害EAL2、EAL3と判断し、原子炉が異常な圧力・温度上昇、最高圧力・温度となっていると各々原子炉災害EAL2、EAL3と判断し、交流電源喪失、交流電源及び直流電源の喪失の事象が発生していれば各々電源災害EAL2、EAL3と判断する。状態判定・制御手段103は、この判断に基づき、画面表示手段106に、例えば該当する項目のフリッカ等としてEAL画面109の表示の指示をする。
【0021】
また、EAL画面109はEALに関する全ての項目を集約表示しているが、各項目で異常等が発生している場合は、状態判定・制御手段103の指示に基づき、画面表示手段106は、画面上の各項目をフリッカおよび色替えし、その緊急度や異常発生度合いを即座に判断出来るようにしている。
【0022】
ここで、データベース102に、地震、津波、炉異常、プール異常、放射線、冷却材、原子炉、電源の各項目に対応して記憶されており、EAL1、EAL2、EAL3等の事故内容に対して優先度が記憶されている。そのため、データベース102から読み出された優先度に基づいて、例えばEAL1の条件に相当する地震が発生した場合は、自然災害項目201の自然災害ボタンおよび地震ボタンを成立を示す赤や黄色表示とし、原子炉の異常が発生した場合は、施設項目202の施設ボタンおよび炉異常ボタンを赤や黄色表示とし、EAL1を赤や黄色表示とする。同様に、例えば原災法第10条に対応する通信設備の異常が発生した場合は、原災法第10条項目203の通信設備ボタンとEAL2を赤や黄色表示とし、原災法第15条に対応する通信設備の異常が発生した場合は、原災法第15条項目204の通信設備ボタンとEAL3を赤や黄色表示とする。尚、ボタンの赤や黄色といった色は、例えば軽度の異常であれば黄色、深刻な異常であれば赤というように、異常の重要度や深刻度によって変化することで、優先すべき対応の判断要素とすることが出来る。
【0023】
複数の事故が発生した場合には、色表示或いは点滅状況を調整して、互いの優先度の高低が比較・目視認識できるようにEAL画面109に表示される。
【0024】
図4はEAL画面109の機能の構成を示す。EAL画面109の画面表示の一部を抜粋的に説明すると、EAL画面109の各項目をマウス操作で押下することで、ポップアップウインドウ302を表示し、その項目に関して為すべき行動を確認可能としている。このなすべき行動は、データベース102に、地震、津波、炉異常、プール異常、放射線、冷却材、原子炉、電源の各項目に対応して記憶されており、EAL1、EAL2、EAL3等の事故内容に対して、メッセージが表示されるようになっている。
【0029】
図6は行動ガイド画面110の構成を示す。状態判定・制御手段103の指示に基づき、ガイド表示手段107は、ガイド機能として警報の発生状況や事故の進展状況に連動して音声やメッセージによるガイドを出力する。緊急時活動レベルに沿って行動するために確認すべき原子炉等の状態、ならびに為すべき行動の詳細情報を提供して運転員の行動を支援する。また、緊急度や重要度に応じた音声ガイドならびにメッセージ表示を行うことで運転員が優先して行動すべき内容を明確にすることが出来る。表示するメッセージは優先度が高いものから順に表示し、その要因が消えるまで表示を継続する。
【図1】
[図:0001409137000007.jpg]
【図2】
[図:0001409137000008.jpg]
【図3】
[図:0001409137000009.jpg]
【図4】
[図:0001409137000010.jpg]
【図6】
[図:0001409137000011.jpg]
(2)甲5発明の認定
上記(1)から、甲5には、シビアアクシデント対策支援システムについて、以下の甲5発明が記載されていると認められる(なお、参考までに、認定の根拠とした箇所である甲5の段落等を括弧内に記載する。)。
<甲5発明>
「緊急時活動レベルに応じた対策に好適な原子力プラントのアクシデント対策支援システムであって、(【0001】)
シビアアクシデント発生時において運転員を支援するガイドを提供し、負担を軽減することが可能な原子力プラントのシビアアクシデント対策支援方法を提供するものであり、(【0008】)
SA支援システムは、データベース102と状態判定・制御手段103で構成される支援システムサーバ101と、ロジックモニタ画面108と、ロジックモニタを表示するためのロジック表示手段105と、EAL画面109と、EAL画面を表示するための画面表示手段106と、音声やメッセージによってガイドを表示する行動ガイド画面110と、行動ガイド画面を表示するためのガイド表示手段107で構成される支援システム端末104とによって構成され、(【0016】)
データベース102には、地震、津波、炉異常、プール異常、放射線、冷却材、原子炉、電源の各項目に対応して、EAL1、EAL2、EAL3、メッセージ、ロジック、優先順位の内容が記憶されており、(【0018】)
EAL画面109は、原子力災害対策指針に基づき、緊急時活動レベルを判断する要素を集約表示し、事態の進展が1目で把握出来る構成としており、また、緊急事態レベルに従って警戒事態(EAL1)、施設敷地緊急事態(EAL2)、全面緊急事態(EAL3)の3つの区分に分け、緊急事態レベルに応じた対応が可能な構成としており、(【0019】)
状態判定・制御手段103は、収集されたプラントデータ・環境データとデータベース102の記憶内容を比較して、例えば、震度6弱以上の地震が発生していれば自然災害/地震EAL1と判断し、津波高さ10m以上の津波が発生していれば自然災害/津波EAL1と判断し、空間放射線量率5μSv/h以上の放射線、空間放射線量率500μSv/h以上の放射線が発生していれば各々放射線災害EAL2、EAL3と判断し、非常用炉心冷却装置の作動となり、非常用炉心冷却装置の注水不可となっていると各々冷却材災害EAL2、EAL3と判断し、原子炉が異常な圧力・温度上昇、最高圧力・温度となっていると各々原子炉災害EAL2、EAL3と判断し、交流電源喪失、交流電源及び直流電源の喪失の事象が発生していれば各々電源災害EAL2、EAL3と判断し、(【0020】)
状態判定・制御手段103は、この判断に基づき、画面表示手段106に、例えば該当する項目のフリッカ等としてEAL画面109の表示の指示をし、(【0020】)
EAL画面109は、EALに関する全ての項目を集約表示しており、各項目で異常等が発生している場合は、状態判定・制御手段103の指示に基づき、画面表示手段106は、画面上の各項目をフリッカおよび色替えし、その緊急度や異常発生度合いを即座に判断出来るようにしており、(【0021】)
なすべき行動は、データベース102に、地震、津波、炉異常、プール異常、放射線、冷却材、原子炉、電源の各項目に対応して記憶されており、EAL1、EAL2、EAL3等の事故内容に対して、メッセージが表示されるようになっている、(【0024】)
シビアアクシデント対策支援システム。」
2 甲1の記載事項及び甲1技術事項
(1)甲1には以下の事項が記載されている。
a 「緊急時措置レベル(EAL)の評価プロジェクトでは、確率論的リスク評価(PRA)手法を、選定した緊急時措置レベル(EAL)に適用した。本研究の目的は、EALスキームに関するリスク洞察を提供するため、PRAの使用の実現可能性を調査することである。本研究は、原子力発電所(NPP)のEALスキームにPRA手法を適用した最初の取り組みである。・・・(中略)・・・ プラント固有の緊急時計画書に記載されたEAL閾値条件は、これらのプラントの標準化プラント解析リスク(SPAR)モデル固有のシナリオにマッピングされる。条件付き炉心損傷確率(CCDP)は、各EALシナリオを評価するリスク指標として使用される。本研究の結果は、将来のリスク情報を活用した(リスクインフォームド)緊急時計画(EP)の規制措置を策定する際に考慮すべき、一般的およびプラント固有の洞察を提供する。この結果により、現行のEALスキームは、緊急事態分類(EC)の深刻度が高いほどプラントのリスクが増加するという点で、一般に論理的であることが示された。しかしながら、この結果は、いくつかのEALのECランク付けに非一貫性があることも示唆している。」(甲1翻訳1頁2~16行)
b 「本研究の解析は、起因事象のリスク重要度を決定するため、事故シーケンス前兆事象(ASP)プログラム(参考文献5)で実施されたものと類似している。NRC(原子力規制委員会)のSystems Analysis Programs for Hands on Integrated Reliability Evaluations(SAPHIRE)ソフトウェアとSPARモデルは、もともと原子炉監視プログラム(ROP)やASPプログラムなどのNRCによる措置にリスク洞察を提供するために使用されていたものだが、本研究ではこれらをリスク計算ツールとして使用する。試験的プラントとしては、BWRとPWRをそれぞれ代表するピーチボトム、サリー、セコイヤが選択された。EP文書に記載されたEAL閾値条件をピーチボトム、サリー、セコイヤのSPARモデルに組み込み、条件付き炉心損傷確率(CCDP)を計算する。本研究ではCCDPをリスク指標として使用し、CCDPの結果を同じEC内のEALシナリオを比較・評価する手段として用いる。」(甲1翻訳2頁22~31行)
c 「本研究の目的は、EALスキームに関するリスク洞察を提供するため、PRAの使用の実現可能性を調査することである。本研究では、プラント固有のPRAモデルを用いて、選択されたEALシナリオのリスク示唆を評価し、代替リスク指標である条件付き炉心損傷確率(CCDP)の形式で結果を生成する。」(甲1翻訳9頁2~5行)
d 「2.1 SAPHIRE モデルおよびSPAR モデル
リスクインフォームド規制措置の適用の増加は、リスク情報を活用したソフトウェアやツールの急速な開発と利用の増加につながる。今日、Systems Analysis Programs for Hands on Integrated Reliability Evaluations(SAPHIRE)は、「ManagementDirective8.3」(参考文献9)で定義されるようなNRCのリスク情報を活用したプログラムで幅広く使用されている。SAPHIREソフトウェアは、NRCがスポンサーとなっているアイダホ国立研究所(INL)によって開発された。SAPHIREはNRCがこれにより、イベントツリー(ET)、フォルトツリー(FT)、シーケンスおよびカットセットを含むプラント固有のモデルロジックを解くことにより、リスクアナリストがIEに対するプラントの応答をモデル化し、炉心損傷頻度を定量化し、炉心損傷に重要な影響を与える要因を特定する(レベル1PRA)ことが可能になる。また、基本事象(BE)データの修正、変更セットの作成、不確実性解析の実行も可能である。
SPARモデル3は、SAPHIREプラットフォームと連携して作成された。各SPARモデルはサイト固有のモデルロジックで作成され、一貫したモデリングの仮定、命名法、およびIE頻度と機器故障率に関する業界データを用いて開発された。
・・・
3 SPARモデルは非公開。」(甲1翻訳12頁2~16行、脚注3)
e 「2.2 SAPHIREモデルおよびSPARモデルを用いたEALシナリオのモデリング
本研究では、SAPHIREソフトウェアのバージョン8を使用してCCDPを算出する。プラント固有のPRA解析には、SPARモデルとSAPHIREソフトウェアを併用する。・・・(中略)・・・
選択されたEALシナリオの分析には、ASPプログラムが運転事象を評価する際に使用するものと類似したプロセスを応用する。EAL条件の分析には、以下の一般的な手順を使用する。
ステップ1:入手可能なシナリオ情報の収集
ステップ2:事故状況のSPARモデルへのマッピング(シナリオ作成)
ステップ3:シナリオ固有のリスク指標を決定するためのPRAの利用
説明のため、ピーチボトムのAlertシナリオの1つ、MA3(ケース2)を例に挙げる。読者は、上記の各ステップが特定のEAL分析にどのように適用されるかを追うことができる。詳細なモデリング手法については、「SAPHIRE 8 User Guide」(参考文献12)を参照。
2.2.1 ステップ1:入手可能なシナリオ情報の収集
ステップ1では、EALシナリオがどのように定義されるかを理解するため、分析者はEALの閾値条件と基本情報を調査する。MA3の例では、ECはAlertであり、その閾値条件は以下の通りである(参考文献13)。
1.原子炉保護システム(RPS)の設定値を超えた。
且つ
2.自動スクラムは、加熱範囲(1.00%)を下回る出力で原子炉出力を未臨界まで低下させなかった。
・・・(中略)・・・
上記のEAL情報を確認した後、分析者はモデルにマッピングできる情報に留意する。また、プラント固有の特徴や手順がEALにどのような影響を与えるかを理解するため、分析者は、技術仕様書、最終安全解析報告書、異常時および緊急時操作手順(EOP)などのプラント固有の技術文書も調査する。これらの文書は、ステップ1で各EALシナリオの「利用可能な情報」と定義されたものを構成する。
2.2.2 ステップ2:事故状況のSPARモデルへのマッピング(シナリオ作成)
ステップ2では、SPARモデルを用いて、EALの閾値条件とベースにより記述されたシナリオを再展開する。分析者はまず、EALの閾値条件の開始点をシミュレートするために、SPARモデルで起因(initiator)とも呼ばれる適切なIEを選択する。IEは、プラントの定常運転を中断させ、プラントの過渡変化を引き起こすものである。IEの原因は、プラントの内部または外部のどちらでもあり得る。これはハードウェアの故障、自然災害、人為的なミスや攻撃によって引き起こされ得る。本研究で使用するIEの例としては、グリッド関連LOOP(IE-LOOPGR)、過渡変化(IE-TRANS)、小規模LOCA(IE-SLOCA)などが挙げられる。
上記のMA3の閾値条件1は、プラント内で過渡変化が発生したことを示している。MA3(ケース2)の例では、過渡が原子炉の反応度スパイクにつながらないと仮定している。したがって、ピーチボトムSPARモデルにおける最も適切なIEは、過渡起因事象(IE-TRANS)である。INT-TRANSのIE確率は過渡変化が発生したことを意味する「1」に設定される。モデル内の他のすべてのIEは、発生しなかったことを意味する「0」に設定される。
適切なIEを選択し、適切な値に設定した後、閾値条件に適合するBEを選択する。BEは、PRAモデルで解析される最小詳細レベルの事象である。各プラントには独自の設計と操作手順があるため、BEはプラント固有のものである。以下は、SPARモデルで最も一般的なBEの種類と、ピーチボトムSPARモデルにおける各BEの例である。
1.機器の故障または利用不能。例えば、4160ボルト(V)の交流(AC)バスE42(20A18)の利用不能(ACP-BAC-LP-E42)。
2.人為的ミス。例えば、オペレータが1時間以内にEDGを復旧できなかった(EPS-XHE-XL-NR01H)。
3.共通原因故障事象。例えば、すべての直流(DC)バッテリの共通原因故障(CCF)(DCP-BAT-CF-ALL)。
いずれかのBEが発生した場合、BE失敗確率はTRUE(すなわち、失敗確率=1.0)に設定される。一方、BEが成功した場合、BE失敗確率はFALSE(すなわち、失敗確率=0)に設定される。場合によっては、BE失敗確率はNUREG/CR-6883(参考文献14)に記載されるSPAR-H法に従って、あるいは専門家の判断に基づいて計算される。これらの場合のBEの修正の前提条件については、本報告書の4章、5章および6章の「EALシナリオのSPARモデルへのマッピング」のサブセクションで述べる。シナリオ定義の影響を受けない他のすべてのBEについては、基本モデルの公称BE失敗確率が解析に使用される。
各シナリオに適用可能なBEは、ETシステムの頂上事象の下に位置するFTにおいて選択される。ETは、IEに対するプラントの重要な応答を論理的に表現したものであり、各シーケンスは安全状態(安全停止など)または事故状態(炉心損傷など)のいずれかに至る。ETシステムの頂上事象は、FTを用いてモデル化される。FTは、望ましくない事象を発生させる可能性のあるすべての信頼できるシーケンスを特定する。望ましくない事象は、FTの頂上に記述される。FTゲートは、頂上事象につながるBEの論理的な組み合わせを指定する(参考文献12)。ETシステムの頂上事象は、本報告書の付録Dに記載されている。
MA3の例では、原子炉トリップ系のBEがRPS FTの下に配置されているため、RPS FTが適用される。図2-1にRPS FTを示す。」(甲1翻訳13頁1行~14頁最下行)
f 「2.2.3 ステップ3:シナリオ固有のリスク指標を決定するためのPRAの利用
ステップ3の目的は、各EALシナリオのPRA結果を算出するだけでなく、PRA結果に基づく洞察を深めることである。ステップ3には以下の3つのサブステップがある:
a)分析者はまず、各EALシナリオのCCDPを取得し、すべてのCCDPデータのグラフ結果を作成する。図2-2は、CCDP範囲のグラフ結果である。
・・・(中略)・・・
b)図2-3は、EALシナリオのECランクが厳しくなるにつれてCCDPが増加するという一般的な傾向を示している。ほとんどのEALシナリオはこの一般的な傾向に従うが、この傾向に従わない異常値も存在する。このような異常値を特定し、意味のある洞察を得るため、分析者は、計算されたCCDPに基づき、様々なECに対してCCDPの範囲を設定する。この範囲は、本EAL研究において、異常値を特定するためのスクリーニングツールとして機能する。尚、この範囲は規制上の合格基準として使用することはできず、安全上の要件に対応するものでもないということに留意されたい。これらは主にピーチボトム、サリー、セコイヤの結果から求められたCCDPの範囲に基づいている。これらは規制上あるいは政策上の考慮を示すものではない。米国内のすべてのNPPを対象とした一般的な範囲を作成することは可能であろうが、より多くの研究が必要であろう。
各種ECに対するCCDPの推定範囲を以下に示す。
・NOUE:<1x10-5
・Alert: 1x10-5~ 1x10-3
・SAE: 1x10-3~ 1x10-1
・GE: 1x10-1~ 1
・・・(中略)・・・
c)各ECについてCCDPの範囲を設定した後、分析者は、あるシナリオのCCDPの結果を、設定したCCDPの範囲と比較した。これにより、そのEALシナリオが設定された範囲内か範囲外かを判断する。もし結果が設定された範囲外であれば、そのEALはさらに検討する必要があることを意味する。分析者は、洞察の前に、各EALシナリオのシーケンスとカットセットも検証し、類似する閾値条件を持つシナリオと比較して、類似するEALシナリオ間の結果の一貫性と差異を検証する。洞察は3章にまとめられ、記載されており、分析結果は本報告書の4章、5章、6章の「SPARモデルの結果とその示唆」のサブセクションに記載される。」(甲1翻訳15頁下から5行~16頁最下行)
(2)甲1技術事項
上記(1)から、甲1には、以下の甲1技術事項が記載されていると認められる。
「確率論的リスク評価(PRA)手法を用いて、各緊急時措置レベル(EAL)シナリオを評価するリスク指標として条件付き炉心損傷確率(CCDP)を使用し、(前記(1)a)
EALの閾値条件とベースにより記述されたシナリオを再展開し、EALの閾値条件の開始点をシミュレートするために、適切な起因事象(IE)を選択し、
(前記(1)e)
適切なIEを選択し、適切な値に設定した後、閾値条件に適合するBEを選択し、(前記(1)e)
各EALシナリオのCCDPを取得し、すべてのCCDPデータのグラフ結果を作成し、様々な緊急事態分類(EC)に対してCCDPの範囲を設定し、各ECについてCCDPの範囲を設定した後、あるシナリオのCCDPの結果を、設定したCCDPの範囲と比較すること。(前記(1)f)」
3 甲2の記載事項及び甲2技術事項
(1)甲2には以下の事項が記載されている。
a 「まえがき
日本原子力学会標準委員会は、その任務である標準の制定の一環として、確率論的リスク評価(PRA)の実施基準を制定してきた。炉心損傷の評価を行うレベル1PRA、格納容器機能損失からソースタームの環境放出を評価するレベル2PRA、そして環境影響を評価するレベル3PRAの実施基準、そして停止状態にあるプラントのPRA実施基準、さらに地震、津波、内部火災、内部溢水を起因とするPRA実施基準も制定している。」(i頁1~7行)
b 「この事故により、原子力施設が有するリスクを見直し低減していく謙虚な努力の重要性が強く認識された。原子力施設が有するリスクを客観的に評価する技術として確率論的リスク評価(Probabilistic Risk Assessment,以下PRAと呼ぶ)がある。PRAは、原子力施設で発生しうる事故のシナリオを体系的な情報で網羅的に探索し、その発生頻度及び影響の大きさを定量的に推定する安全評価の方法である。」(1頁6~10行)
c 「2.4.1 リスク特定と分析の特徴
リスク分析には、発生確率や影響の大きさを数値で評価する定量的評価手法の他にも、半定量的評価手法や、定性的評価手法がある。定性的評価手法で分析を行っても、そのシナリオ構造等から事故進展の重要な分岐点を把握する等の優位な結果を得ることができる。
リスク分析には、ハザード(潜在的危険源)を同定してリスクを算定するイベントツリー(ET)等による帰納的手法とリスクを同定してその原因を探るフォールトツリー(FT)等による演繹的手法がある。」(7頁9~16行)
d 「3.1.3 RPAの主要な技術要素
(1)炉心損傷事故シーケンス論理モデルの構築(レベル1PRA)
PRA実施のステップでは、大きく、事故シーケンスの分析に基づく論理モデルの作成段階及び各種パラメータに基づくリスクの定量化段階に分類できる。事故シーケンスの分析に基づく論理モデルの作成では、事故シーケンスを漏れなく摘出し、事故に至る様々な原因を包括的に表現しなくてはならない。このために、体系的なリスク評価手法を用いて、さらにこれらの手法を適切に組み合わせた分析を行う必要がある。
一般的に用いられるリスク評価手法は、オペラビリティスタディ、故障モード/影響解析(FMEA)、フォールトツリー解析(FTA)、イベントツリー解析(ETA)がある。これらの手法は大きく帰納的手法と演繹的手法に分類でき、それぞれ特徴が異なることから、補完的に用いられる。
現状のPRAの定量化では、図3.1.3-1に示すように、イベントツリー解析手法及びフォールトツリー解析手法を用いて論理モデルを構築することが多い。」(16頁8行~17頁1行)
e 図3.1.3-1 レベル1PRA論理モデルの概要
[図:0001409137000012.jpg]
f 図3.1.3-4 格納容器機能損失に対するイベントツリー例
[図:0001409137000013.jpg]
(2)甲2技術事項
上記(1)から、甲2には、以下の甲2技術事項が記載されていると認められる。
「原子力施設が有するリスクを客観的に評価する確率論的リスク評価(PRA)は、原子力施設で発生しうる事故のシナリオを体系的な情報で網羅的に探索し、その発生頻度及び影響の大きさを定量的に推定する安全評価の方法であり、(前記(1)b)
炉心損傷の評価を行うレベル1PRAにおける確率論的リスク評価(PRA)において、現状のPRAの定量化では、図3.1.3-1に示すように、イベントツリー解析手法及びフォールトツリー解析手法を用いて論理モデルを構築すること。(前記(1)a及びd)」
4 甲3の記載事項及び甲3技術事項
(1)甲3には以下の事項が記載されている。
a 「1.2. SAPHIREとは何か、何ができるのか?
SAPHIREは、ユーザがパソコンを使ってフォルトツリーやイベントツリーを作成・解析できる統合PRAソフトウェアーツールである。」(甲3翻訳2頁11~13行)
b 「事故シーケンス(Accident Sequence)
起因事象と(イベントツリーで定義された)システムの失敗や成功との組み合わせであり、提起可能な結果を引き起こすものである。原子力発電所のPRAの場合、結果は一般的に炉心損傷である。」(甲3翻訳3頁最下行~4頁3行)
c 「・イベントツリー
[図:0001409137000014.jpg]
◆イベントツリーとは、起因事象に対するプラントの重要な応答を論理的に表現したものである。
◇各シーケンスは、安全状態(安全停止など)または事故状態(炉心損傷など)のいずれかをもたらす。
◇イベントツリーは、システム/機能をシーケンス進行に関連付ける。
◇イベントツリーは、事故シーケンスのエンドツーエンドのトレーサビリティを提供する。
◆イベントツリーは、以下の機能を実行するため、追跡可能な経路を提供する。
◇事故シーケンスの特定。
◇必須安全システム機能の特定。
◇シーケンス頻度の定量化。
・フォルトツリー
[図:0001409137000015.jpg]
」
◆フォルトツリーとは、望ましくない事象を引き起こす可能性のある不具合を論理的に表現したものである。
◇望ましくない事象は、フォルトツリーの頂上に記述される。
◇フォルトツリーのゲートは、頂上事象につながる基本事象の論理的な組み合わせを指定する。
◇フォルトツリーは、システムの「弱点」を特定するために用いることができる。
◇フォルトツリーは、フォルト事象間の相互関係を認識するのに役立つ。
◇SAPHIREは、フォルトツリーを評価して、システムの最小カットセットとシステムの故障確立を求める。
◆フォルトツリーは、論理ゲートと、論理ゲートへの入力である基本事象から構成される。
・論理ゲート
入力事象のブール演算(論理和、論理積など)を表す。
・基本事象
ハードウェア障害、人為的ミス、悪条件などの不具合を表す。」(甲3翻訳4頁最下行~6頁6行)
(2)甲3技術事項
上記(1)から、甲3には、以下の甲3技術事項が記載されていると認められる。
「SAPHIREは、ユーザがパソコンを使ってフォルトツリーやイベントツリーを作成・解析できる統合PRAソフトウェアーツールであり、(前記(1)a)
起因事象とイベントツリーで定義されたシステムの失敗や成功との組み合わせであり、提起可能な結果を引き起こす事故シーケンスは、原子力発電所のPRAの場合、結果は一般的に炉心損傷であること。(前記(1)b)」
5 甲4の記載事項及び甲4技術事項
(1)甲4には以下の事項が記載されている。
a 「13.重大事故の事故シーケンスグループに係る事故進展解析」(甲4の39頁)
b 「1.背景
重大事故等対処設備を考慮したレベル1確率論的リスク評価(以下「PRA」という。)モデル及びレベル2PRAモデルから、重大事故等対処設備の作動及び不作動を組み合わせた事故シーケンスを抽出することができる。」(甲4の41頁、「13.重大事故の事故シーケンスグループに係る事故進展解析」スライド2頁)
c 「3.安全研究の実施計画(1/7)
(1)事故進展解析(1/3)
PWRプラント及びBWRプラントの種々のプラントについて、事故進展の解析を実施する。
●重大事故等対処設備を考慮したPRAから解析対象とする事故シーケンスを選定。
●選定した事故シーケンスについて、事故発生から格納容器破損までの事故進展解析を実施。
●選定した各事故シーケンスの事故進展の現象を支配する主要なパラメータを抽出し、事故発生から格納容器破損までの事故進展に係る感度解析を実施。」
(甲4の43頁、「13.重大事故の事故シーケンスグループに係る事故進展解析」スライド4頁)
d 「(1)事故進展解析(2/3)
[図:0001409137000016.jpg]
」(甲4の44頁、「13.重大事故の事故シーケンスグループに係る事故進展解析」スライド5頁)
e 「1.背景(1/2)
発電用原子炉施設を対象として事業者が原子力災害対策指針に基づき策定する防災業務計画のうち、原子力災害発生時のプラントの状況に応じて防護措置を適切に実施するための緊急事態区分に対する判断基準である緊急時対応レベル(以下「EAL」という。)については、これまでに炉型に応じた効果的な運用を確保することを目的として、事象想定、事故時のプラントパラメータ及びその指標値より構成されるEALの確認項目(安全系の作動状況、圧力、温度、放射性物質障壁の健全性等)を整備してきている。
最近、米国原子力規制委員会(以下「NRC」という。)などにより、確率論的リスク評価の研究を踏まえて、EALにより分類される緊急事態区分が炉心損傷頻度、早期大規模放出頻度と整合するような改善が検討されている。」(甲4の53頁、「30.緊急時対応レベル(EAL)に係るリスク情報活用等の研究」スライド2頁)
(2)甲4技術事項の認定
上記(1)から、甲4には、以下の甲4技術事項が記載されていると認められる。
「重大事故等対処設備を考慮した確率論的リスク評価(PRA)から解析対象とする事故シーケンスをイベントツリーを用いて選定し、選定した事故シーケンスについて、事故発生から格納容器破損までの事故進展解析を実施すること。(前記(1)c)」
第6 当審の判断
1 申立理由1について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲5発明の対比
(ア)甲5発明のデータベース102には、地震、津波、炉異常、プール異常、放射線、冷却材、原子炉、電源の各項目に対応して、EAL1、EAL2、EAL3、メッセージ、ロジック、優先順位の内容が記憶され、状態判定・制御手段103により、収集されたプラントデータ・環境データとデータベース102の記憶内容を比較して、EAL2、EAL3と判断しているから、当該データベース102は、収集されたプラントデータ・環境データと比較されるEAL2、EAL3の判断基準が登録されているといえる。
そして、上記EAL2及びEAL3は、それぞれ「施設敷地緊急事態(EAL2)」及び「全面緊急事態(EAL3)」であるから、甲5発明の当該データベース102は、本件発明1の「少なくとも施設敷地緊急事態及び全面緊急事態に区分けして緊急時活動レベルのEAL判断基準を登録する第1登録部」に相当する。
(イ)甲5発明のシビアアクシデント対策支援システムは、緊急時活動レベルに応じた対策に好適な原子力プラントのアクシデント対策支援システムであって、シビアアクシデント発生時において運転員を支援するガイドを提供し、負担を軽減することが可能な原子力プラントのシビアアクシデント対策支援方法を提供するものであり、実際にシビアアクシデントが発生している際に緊急時活動レベルに応じて運転員を支援するガイドを提供するシステムである。
一方、本件発明1は、緊急時活動レベル(EAL)の到達頻度を管理する(【0005】~【0006】)、緊急時活動レベルの管理支援装置である。
そうすると、本件発明1の「緊急時活動レベルの管理支援装置」と、甲5発明の「シビアアクシデント対策支援システム」は、「緊急時活動レベルの支援装置」である点で共通する。
イ 一致点及び相違点
上記アから、本件発明1と甲5発明は以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
(ア)一致点
「少なくとも施設敷地緊急事態及び全面緊急事態に区分けして緊急時活動レベルのEAL判断基準を登録する第1登録部、を備える緊急時活動レベルの支援装置。」
(イ)相違点
a 相違点1
本件発明1が、
「確率論的リスク評価に基づき、起因事象及びその進展を防止する一連の処置事項がヘディングとなったPRAイベントツリーを登録する第2登録部と、
前記PRAイベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に、前記EAL判断基準を関連付ける関連付け部と、
前記関連付けの不能な前記EAL判断基準が関連付け可能となるよう前記PRAイベントツリーに新規の前記ヘディングを追加し、前記シーケンスを再展開する再展開部と、
前記分岐に関連付けたEAL判断基準が前記施設敷地緊急事態及び前記全面緊急事態のいずれに属するかに基づいて、各々の前記シーケンスの属性を決定する属性決定部と、
前記施設敷地緊急事態に属する前記シーケンスを抽出した第1抽出イベントツリー及び前記全面緊急事態に属する前記シーケンスを抽出した第2抽出イベントツリーを作成する作成部と、
前記第1抽出イベントツリー及び前記第2抽出イベントツリーの各々に基づいて前記施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び前記全面緊急事態の第2到達頻度を演算する演算部」を備えるのに対して、甲5発明は上記構成を備えていない点。
b 相違点2
緊急時活動レベルの支援装置について、本件発明1が、緊急時活動レベルの到達頻度を管理する支援装置であるのに対し、甲5発明のシビアアクシデント対策支援システムは、シビアアクシデント発生時において運転員を支援するガイドを提供し、負担を軽減することが可能な原子力プラントのシビアアクシデント対策支援方法を提供する装置であるものの、「緊急時活動レベルの管理」を行うものではない点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
以下で検討するとおり、施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び全面緊急事態の第2到達頻度を演算するための構成である、相違点1に係る本件発明1の「前記PRAイベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に、前記EAL判断基準を関連付ける関連付け部」並びに当該関連付け部の存在を前提とした、再展開部、属性決定部、作成部及び演算部を備えることは、甲1~甲4のいずれにも記載も示唆もされておらず、甲5発明においてこれらの構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
すなわち、甲1技術事項は、炉心損傷確率(CCDP)をリスク指標として緊急時活動レベル(EAL)を評価するものであり、EALはその閾値条件の開始点をシミュレートするために、適切な起因事象(IE)が選択されるものであり、イベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に関連付けられるものではないし、演算されるのはCCDPであって、施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び全面緊急事態の第2到達頻度ではない、
また、甲2~甲4技術事項は、イベントツリーを用いて確率論的リスク評価(PRA)を行う技術に関するものであるが、甲2~甲4のいずれにも、確率論的リスク評価(PRA)手法のイベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に緊急時活動レベル(EAL)判断基準を関連付けることも、施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び全面緊急事態の第2到達頻度を演算することも記載されていないし、これらを示唆もしていない。
以上のとおり、甲1~甲4のいずれにも、確率論的リスク評価(PRA)手法のイベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に緊急時活動レベル(EAL)判断基準を関連付けることも、施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び全面緊急事態の第2到達頻度を演算することも記載されていないし、さらにいえば、甲5発明は、EAL画面109は、EALに関する全ての項目を集約表示するものであるところ、シビアアクシデント発生時において運転員を支援するガイドを提供するためのものであって、到達頻度(確率)ではなく、既に異常等が発生していることを示して、その緊急度や異常発生度合いを即座に判断出来るようにするためのものであるから、確率論的リスク評価に基づいて「施設敷地緊急事態(EAL2)」又は「全面緊急事態(EAL3)」の到達頻度を演算する構成を適用する動機付けがあるともいえない。
そうすると、甲1~4技術事項を踏まえても、甲5発明において、本件発明1に係る相違点1の構成のごとく、施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び全面緊急事態の第2到達頻度を演算するための構成である、「前記PRAイベントツリーで展開されるシーケンスの分岐に、前記EAL判断基準を関連付ける関連付け部」及び当該関連付け部の存在を前提とした、再展開部、属性決定部、作成部、演算部を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。
(イ)相違点2について
上記(ア)のとおり、甲5発明は、EAL画面109は、EALに関する全ての項目を集約表示するものであるところ、シビアアクシデント発生時において運転員を支援するガイドを提供するためのものであるから、緊急時活動レベルの到達頻度を管理する支援装置として構成する動機付けがあるともいえない。
そうすると、甲5発明において、本件発明1に係る相違点2の構成のごとく、「緊急時活動レベルの管理」を支援するための構成を適用することは当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。
(ウ)小括
上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、本件発明1は、甲5発明及び甲1~4技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、甲1のEALシナリオを再展開するとの記載から、イベントツリーで展開されるシーケンスの分岐にEALの閾値条件を関連づけていると認められる旨主張するが(異議申立書70頁20~23行)、当該再展開が具体的に意味するところは、上記(ア)に説示したとおり、EALはその閾値条件の開始点をシミュレートするために、適切な起因事象(IE)が選択されることであって、イベントツリーで展開されるシークエンスの分岐に関連付けられることではない。
b 申立人は、甲1には少なくとも施設敷地緊急事態(SE)及び全面緊急事態(GE)を含む各EALシナリオの到達頻度を条件付き炉心損傷確率(CCDP)として算出した結果が記載されていると主張するが(異議申立書37頁19~21行)、CCDPはEALシナリオの到達頻度ではない。
c 申立人は、甲5には、EAL判断基準の全ての項目(施設敷地緊急事態、全面緊急事態を含む)の異常発生度合(頻度)を演算していると主張するが(異議申立書2頁表右欄10~14行、72頁下から7行~下から4行)、上記(ア)及び(イ)に説示したとおり、甲5には、本件発明1の「緊急時活動レベル」の「到達頻度」を演算することは記載も示唆もされていない。
d 申立人は、甲5の「シビアアクシデント対策支援システム」が、本件発明1の「緊急時活動レベルの管理支援装置」に相当すると主張するが(異議申立書69頁7~10行)、上記ア及びイに説示したとおり、甲5の「シビアアクシデント対策支援システム」が、本件発明1の「緊急時活動レベルの管理支援装置」に相当するとはいえない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1に従属するものであり、さらに請求項2~6それぞれの記載により特定される発明特定事項を追加したものであるから、前記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2~6に係る発明は、甲5発明及び甲1~4技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、緊急時活動レベルの管理支援装置という物の発明である本件発明1を、本件発明7は緊急時活動レベルの管理支援方法という方法の発明となしたものであり、本件発明8は緊急時活動レベルの管理支援プログラムというプログラムの発明となしたものであって、本件発明7及び8と甲5発明との相違点は、本件発明1と甲5発明の相違点1及び2と同様の相違点を含むものである。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明7及び8は、甲5発明及び甲1~4技術事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
2 申立理由2について
申立人の主張する申立理由2、すなわち、本件発明1、7、8における「確率論的リスク評価に基づき、起因事象及びその進展を防止する一連の処置事項がヘディングとなったPRAイベントツリーを登録する」ことについて、「確率論的リスク評価」との記載について、発明の詳細な説明には何ら具体的な説明はなく、当該用語がどのような意味で使われているのか定かではないとの主張について、以下検討する。
例えば甲1~4技術事項からみて、確率論的リスク評価(PRA)手法は原子力発電所の炉心損傷の到達頻度を評価する手法であって、その内容として、起因事象及びその進展を防止する一連の処置事項がヘディングとなったPRAイベントツリーを登録するものとして周知の評価手法であり、本件発明において、当業者は、確率論的リスク評価の技術的意味を理解することができるといえる。
そして、本件発明において、確率論的リスク評価を当該周知の評価手法と異なる技術として用いていると解すべき理由はない。
そうすると、本件発明における「確率論的リスク評価に基づき、起因事象及びその進展を防止する一連の処置事項がヘディングとなったPRAイベントツリーを登録する」ことは、上記周知の確率論的リスク評価(PRA)手法を用いて起因事象及びその進展を防止する一連の処置事項がヘディングとなったPRAイベントツリーを登録することを意味すると当業者は理解することができるから、本件発明は明確である。
3 申立理由3について
申立人の主張する申立理由3、すなわち、発明の詳細な説明の記載をみても、各シーケンス分岐に分岐確率が紐付いていることや分岐確率をどのように設定するかについてなんら記載されていないから、本件発明1、7、8の「第1到達頻度」及び「第2到達頻度」をどのように演算するかについて、実施可能要件を満たさないとの主張について、以下検討する。
例えば甲1~4技術事項からみて、確率論的リスク評価(PRA)手法として、次の手順により原子力発電所の炉心損傷の到達頻度を評価する手法は技術常識である。
(1)フォールトツリー解析により、イベントツリーの「進展を防止する一連の処置事項」の分岐の成功及び失敗の確率が演算される。例えば、甲2の「図3.1.3-1レベル1PRA論理モデルの概要」のフォールトツリー解析により、イベントツリーの「進展を防止する一連の処置事項」である「安全機能A喪失」について(失敗)分岐確率PAが決定される。
(2)イベントツリーの各分岐における(失敗)分岐確率PA、分岐確率PB、分岐確率PCに基づいて、それぞれの分岐の成功及び失敗の分岐をたどり、そのたどった分岐により炉心損傷が発生する確率、すなわち、発生頻度を演算する。例えば、甲2の「図3.1.3-1レベル1PRA論理モデルの概要」のイベントツリーで太線で分岐をたどった結果、炉心損傷の発生頻度をF×PCのように演算する(なお、同図においてF×PCとされている太線の発生頻度は、正確にはF×(1-PA)×(1-PB)×PCであるが、現実にはPAやPBが非常に小さいため、(1-PA)や(1-PB)を1と置いたものと理解される。)。
このように、確率論的リスク評価(PRA)手法において、イベントツリーの各シーケンス分岐に所定の分岐確率が紐付けられることは技術常識であるところ、確率論的リスク評価に基づきPRAイベントツリーのシーケンスを展開する本件発明においても、各シーケンス分岐に所定の分岐確率が紐付いていることは自明である。
また、確率論的リスク評価(PRA)手法における各シーケンス分岐の分岐確率の演算についても、当該シーケンス分岐が属する処置事項に応じて、甲2に例示されるフォールトツリー解析による演算や、実機試験により算出する方法、シミュレーションにより算出する方法、過去の実績データに基づいて算出する方法、専門家の意見等を踏まえて適当な値を設定する方法等、種々の方法によって決定し得ることが本願の出願時の技術常識である。そうすると、本件発明において、当業者は、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、確率論的リスク評価を用いて到達頻度を演算することができるといえる。
以上検討のとおり、当業者は、本件発明における「前記第1抽出イベントツリー及び前記第2抽出イベントツリーの各々に基づいて前記施設敷地緊急事態の第1到達頻度及び前記全面緊急事態の第2到達頻度を演算する」ことを、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて実施することができるといえる。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700932