特許異議申立
2022-700742
長尺位相差フィルムの製造方法
- 審判番号
- 2022-700742
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-127200
- 登録番号
- 7016333
- 請求日
- 2022年08月01日
- 審決日
- 2023年02月07日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】松谷 道子
- 【権利者代理人】森住 憲一
- 【権利者代理人】畑 征志
- 【異議申立人】加藤 浩志
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 石附 直弥
- 審判官 井口 猶二
- 分類
- P1651.113-Y (G02B) / P1651.121-Y (G02B) / P1651.536-Y (G02B) / P1651.537-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7016333号発明「長尺位相差フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7016333号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 分割出願の経緯の概略
特許第7016333号の請求項1~7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和元年7月8日(先の出願に基づく優先権主張 平成25年8月9日)にされた特許法44条1項の規定による特許出願であって、平成26年8月7日に出願した特願2014-161221号を最先の出願とする、いわゆる第2世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は、次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
最先の出願:特願2014-161221号(平成26年8月7日)
第1世代 :特願2019-1003号(平成31年1月8日)
本件出願 :特願2019-127200号(令和元年7月8日)
2 特許権の設定登録及び特許異議の申立て
本件特許について、令和4年1月27日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月4日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和4年8月1日に、特許異議申立人 加藤 浩志(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明7」という。また、それらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
(1)~(6)の工程;
(1)長尺基材に光配向膜形成用組成物を連続的に塗布して、該長尺基材上に第1塗布膜を形成する工程、
(2)該第1塗布膜を乾燥することにより、第1乾燥被膜を形成する工程、
(3)該第1乾燥被膜に、該長尺基材の長尺方向に対して30~60°の偏光を、照射することにより、配向規制力の方向が長尺基材の長尺方向に対して30~60°である長尺光配向膜を形成する工程、
(4)シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒と、重合性液晶化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物を、該長尺光配向膜の上に連続的に塗布して、該長尺光配向膜上に第2塗布膜を形成する工程、
(5)該第2塗布膜を乾燥することにより、第2乾燥被膜を形成する工程、及び
(6)該第2乾燥被膜を硬化することにより、式(1)~式(3):
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
100nm<Re(550)<160nm (3)
を満たす波長分散特性を有する長尺位相差膜を形成する工程
をこの順に有し、
前記光配向膜形成用組成物は、シンナモイル基を有するポリマーを含み、前記重合性液晶化合物は、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい、長尺位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記長尺基材が、セルロースエステル、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート又はポリメタクリル酸エステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(6)の後にさらに工程(7);
(7)長尺位相差膜、又は、長尺光配向膜及び長尺位相差膜を、粘接着剤を介して長尺被転写基材に転写し、長尺被転写基材、粘接着剤層及び長尺位相差膜からなる長尺位相差フィルム、又は、長尺被転写基材、粘接着剤層、長尺位相差膜及び長尺光配向膜からなる長尺位相差フィルムを得る工程
を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(1)~(6)及び(8)の工程;
(1)長尺基材に光配向膜形成用組成物を連続的に塗布して、該長尺基材上に第1塗布膜
を形成する工程、
(2)該第1塗布膜を乾燥することにより、第1乾燥被膜を形成する工程、
(3)該第1乾燥被膜に、該長尺基材の長尺方向に対して30~60°の偏光を、照射することにより、配向規制力の方向が長尺基材の長尺方向に対して30~60°である長尺光配向膜を形成する工程、
(4)該長尺光配向膜の上に、シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒と、重合性液晶化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物を連続的に塗布して、該長尺光配向膜上に第2塗布膜を形成する工程、
(5)該第2塗布膜を乾燥することにより、第2乾燥被膜を形成する工程、
(6)該第2乾燥被膜を硬化することにより、式(1)~式(3):
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
100nm<Re(550)<160nm (3)
を満たす波長分散特性を有する長尺位相差膜を形成する工程、及び
(8)長尺位相差膜に長尺偏光フィルムを貼合する工程
をこの順に有し、
前記光配向膜形成用組成物は、シンナモイル基を有するポリマーを含み、前記重合性液晶化合物は、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい、長尺円偏光板の製造方法。
【請求項5】
前記長尺基材が、セルロースエステル、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート又はポリメタクリル酸エステルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(8)の後にさらに工程(9);
(9)長尺基材、又は長尺基材及び長尺光配向膜を剥離する工程
を有する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれかに記載の方法により、前記長尺円偏光板を得、得られた該長尺円偏光板にさらに以下の工程(10);
(10)長尺円偏光板を枚葉状に切断する工程
を施す、円偏光板の製造方法。」
第3 特許異議申立ての概要
1 証拠
特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
(1)甲第1号証:特開2013-71956号公報
(2)甲第2号証:特開2013-33249号公報
(3)甲第3号証:特開2013-101328号公報
(4)甲第4号証:特開2005-35985号公報
(5)甲第5号証:特開2009-210973号公報
(6)甲第6号証:特開2010-39345号公報
(7)甲第7号証:特開2006-243653号公報
(8)甲第8号証:特開2013-33248号公報
なお、甲第1号証及び甲第8号証は主引用文献、甲第2~7号証は周知技術を示す文献である(以下、「甲第1号証」~「甲第8号証」をそれぞれ、「甲1」~「甲8」という。)。
2 申立て理由の概要
特許異議申立人が主張する取消しの理由は、概略、以下のとおりである。
(1)特許法29条1項3号(同法113条2号)
本件特許発明は、甲1に記載された発明である。
本件特許発明1~2は、甲8に記載された発明である。
よって、本件特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものである。
(2)特許法29条2項(同法113条2号)
本件特許発明は、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明は、甲8に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(3)特許法36条6項1号(同法113条4号)
本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)特許法36条6項2号(同法113条4号)
本件特許発明は、明確でないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)特許法36条4項1号(同法113条4号)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当合議体の判断(新規性・進歩性)
1 甲1及び甲8の記載並びに甲1及び甲8に記載された発明
(1)甲1の記載
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等において活用した箇所を示す。以下同様である。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び光学フィルムに関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1記載の組成物では、基材上に塗布する際に、その塗布条件によっては、塗布膜中で部分的に重合性液晶化合物の結晶化が生じる場合があった。そのため、該組成物は成膜性の点では改善の余地があった。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の発明を含む。
〔1〕以下の(A)、(B)及び(C)を含む組成物。
(A)式(A)で表される化合物
[図:0001395232000001.jpg]
[式(A)中、
X1は、酸素原子、硫黄原子又は-NR1-を表す。R1は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
Y1は、置換基を有していてもよい炭素数6~12の1価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい炭素数3~12の1価の芳香族複素環式基を表す。
Q3及びQ4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、-NR2R3又は-SR2を表すか、Q3及びQ4が互いに結合して、これらがそれぞれ結合する炭素原子とともに芳香環又は芳香族複素環を形成していてもよい。R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
D1及びD2は、それぞれ独立に、単結合、-C(=O)-O-、-C(=S)-O-、-CR4R5-、-CR4R5-CR6R7-、-O-CR4R5-、-CR4R5-O-CR6R7-、-CO-O-CR4R5-、-O-CO-CR4R5-、-CR4R5-O-CO-CR6R7-、-CR4R5-CO-O-CR6R7-又は-NR4-CR5R6-又は-CO-NR4-を表す。
R4、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
G1及びG2は、それぞれ独立に、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子又は-NH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい。
L1及びL2は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、L1及びL2のうち少なくとも一方が、重合性基を有する有機基である。]
(B)メルカプト基を有する化合物
(C)光重合開始剤」
エ 「【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成膜性に優れた光学フィルム製造用の組成物及び該組成物から形成される光学フィルムが提供できる。」
オ 「【発明を実施するための形態】
【0008】
1.組成物(以下、本発明の組成物を場合により、「本組成物」という)
本組成物は、式(A)で表される化合物(以下、場合により「化合物(A)」という)、(B)チオール基を有する化合物及び(C)光重合開始剤を含む。本発明は、本組成物、本組成物を用いて形成される光学フィルム等を提供するものであり、以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。なお、図面中の寸法等は見易さのために任意になっている。
・・・中略・・・
【0232】
本組成物により形成される光学フィルムの波長分散特性は、本組成物が化合物(A)とともに液晶化合物(A’)を含むことにより制御できる。具体的には、光学フィルムに含まれる重合体(化合物(A)の重合体、又は化合物(A)と液晶化合物(A’)との(共)重合体)において、化合物(A)に由来する構造単位の含有量及び液晶化合物(A’)に由来する構造単位の含有量により所望の波長分散特性を有する光学フィルムを形成できる。光学フィルム中にある前記重合体の化合物(A)に由来する構造単位の含有量を増加させると、より逆波長分散特性を示す傾向がある。所望の波長分散特性を有する光学フィルムを形成するためには、化合物(A)に由来する構造単位の含有量が異なる本組成物を2~5種類程度調製し、それぞれの本組成物について、同じ膜厚の光学フィルムを製造してその位相差値を求める。そして、結果から、化合物(A)に由来する構造単位の含有量と光学フィルムの位相差値との相関を求め、得られた相関関係から、上記膜厚における光学フィルムに所望の位相差値を与えるために必要な化合物(A)に由来する構造単位の含有量を決定すればよい。
【0233】
1-5.有機溶剤
本組成物は、光学フィルム製造の操作性を良好にするために溶媒、特に有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶剤としては、化合物(A)等、本組成物の構成成分を溶解し得る有機溶剤が好ましく、さらには化合物(A)等の重合反応に不活性な溶剤がより好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びフェノール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート及び乳酸エチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等の非塩素系脂肪族炭化水素溶剤;トルエン及びキシレン等の非塩素系芳香族炭化水素溶剤;アセトニトリル等のニトリル系溶剤;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶剤;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素系溶剤;等が挙げられる。これら有機溶剤は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これら有機溶剤の中でも、アルコール、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、非塩素系脂肪族炭化水素溶剤及び非塩素系芳香族炭化水素溶剤が好ましい。特に、本組成物を構成する構成成分(化合物(A)、化合物(B)及び光重合開始剤)は相溶性に優れ、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、非塩素系脂肪族炭化水素溶剤及び塩素系芳香族炭化水素溶剤等にも溶解し得ることから、クロロホルム等の塩素系溶剤を用いなくとも、適当な基板上に塗布して光学フィルムを製造できる組成物を得ることができる。
・・・中略・・・
【0240】
2.光学フィルム
続いて、本組成物から形成される光学フィルム(以下、場合により「本光学フィルム」という)について説明する。
本光学フィルムは、上述した本組成物に含まれる重合性成分を重合してなるものである。本光学フィルムは、光を透過し得るフィルムであって、光学的な機能を有するフィルムである。光学的な機能とは、屈折、複屈折等を意味する。
・・・中略・・・
【0244】
2-1.位相差フィルム
光学フィルムの一種である位相差フィルムは本光学フィルムの好適な実施態様の一つである。該位相差フィルムは、直線偏光を円偏光や楕円偏光に変換したり、逆に円偏光又は楕円偏光を直線偏光に変換したり、直線偏光の偏光方向を変換したりするために用いられる。
・・・中略・・・
【0246】
前記位相差フィルムの位相差値は、用いられる表示装置により、30~300nmの範囲から適宜選択すればよい。
前記位相差フィルムを広帯域λ/4板として用いる場合は、Re(549)は113~163nm、好ましくは130~150nmに調整すればよい。広帯域λ/2板として用いる場合は、Re(549)は250~300nm、好ましくは265~285nmに調整すればよい。位相差値が前記の値であると、広範の波長の光に対し、一様に偏光変換できる傾向があり、好ましい。ここで、広帯域λ/4板とは、各波長の光に対し、その1/4の位相差値を発現する位相差フィルムであり、広帯域λ/2板とは、各波長の光に対し、その1/2の位相差値を発現する位相差フィルムである。ここでいうReについては後述する。
【0247】
なお、本組成物中の化合物(A)及び液晶化合物(A’)の含有量を適宜調整することにより、所望の位相差を与えるように膜厚を調製することができる。得られる位相差フィルムの位相差値(リタデーション値、Re(λ))は、式(4)のように決定されることから、所望のRe(λ)を得るためには、Δn(λ)と膜厚dを適宜調整すればよい。
Re(λ)=d×Δn(λ) (4)
(式中、Re(λ)は、波長λnmにおける位相差値を表し、dは膜厚を表し、Δn(λ)は波長λnmにおける複屈折率を表す。)
【0248】
2-2.本光学フィルムの製造方法
本光学フィルムは、適当な基材を準備し、該基材上に本組成物を塗布し、乾燥し、本組成物に含まれる化合物(A)を、又は化合物(A)と液晶化合物(A’)とを重合することにより製造することができる。以下、本光学フィルムの製造方法の一例を説明する。
【0249】
2-2-0.基材の準備
本光学フィルムの製造に用いることができる基材としては例えば、ガラス、プラスチックシート、プラスチックフィルム、透光性フィルムが好ましい。前記透光性フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン系ポリマー等のポリオレフィンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメタクリル酸エステルフィルム、ポリアクリル酸エステルフィルム、セルロースエステルフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルフォンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム及びポリフェニレンオキシドフィルム等が挙げられる。
【0250】
なお、かかる基材の本組成物を塗布する面には、配向膜が形成されていてもよい。
【0251】
2-2-1.未重合フィルムの作製
基材の上に、本組成物を塗布することにより、該基材上に未重合フィルムが得られる。
未重合フィルムがネマチック相等の液晶相を示す場合、モノドメイン配向による複屈折性を有する。
【0252】
基材上への塗布方法としては、例えば、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、CAP(キャップ)コーティング法、ダイコーティング法、インクジェット法、ディップコーティング法、スリットコーティング法、スピンコーティング法及びバーコーターによる塗布等が挙げられる。中でも、ロールtoロール形式で連続的に基材上に本組成物を塗布できる点で、CAPコーティング法、インクジェット法、ディップコーティング法、スリットコーティング法及びバーコーターによる塗布が好ましい。本組成物によれば、上記いずれの塗布方法によって未重合フィルムを形成しても、該未重合フィルム中で、本組成物の構成成分(化合物(A)等の重合性液晶化合物等)が結晶化することを良好に防止できる。
【0253】
本光学フィルムは、前記基材と積層した状態で使用してもよい。本光学フィルムに前記基材を積層しておくことで、フィルムの運搬、保管等を行う際に、本光学フィルムが破損することが抑制され、容易に取り扱うことができる。
・・・中略・・・
【0255】
配向膜を形成する方法としては、ラビングによって配向規制力が付与される配向性ポリマーを用いる方法(以下、場合により「ラビング法」という)、偏光を照射することにより配向規制力が付与される光配向性ポリマーを用いる方法(以下、場合により「光配向法」という)、基板表面に酸化ケイ素を斜方蒸着する方法、及びラングミュア・ブロジェット法(LB法)を用いて長鎖アルキル基を有する単分子膜を形成する方法等が挙げられる。中でも、本組成物に含まれる化合物(A)の配向均一性、本光学フィルム製造の処理時間及び処理コストの観点から、ラビング法及び光配向法が好ましく、光配向法がより好ましい。配向膜としては、その上に本組成物を塗布しても、本組成物に含まれる成分、例えば、本組成物に含まれる溶剤に溶解しない程度の耐溶剤性を有することが好ましい。また、該配向膜には、前記未乾燥フィルムからの溶剤の除去や、化合物(A)や液晶化合物(A’)の液晶配向時の熱処理に対する耐熱性、下地である基材に対しての密着性を有することも求められる。
・・・中略・・・
【0257】
配向膜が光配向法によって形成される場合、光配向法に用いられる光配向性ポリマーとしては、感光性構造を有するポリマーが挙げられる。感光性構造を有するポリマーに偏光を照射すると、照射された部分の感光性構造が異性化又は架橋することで光配向性ポリマーが配向し、光配向性ポリマーからなる膜に配向規制力が付与される。上記感光性構造としては、例えば、アゾベンゼン構造、マレイミド構造、カルコン構造、桂皮酸構造、1,2-ビニレン構造、1,2-アセチレン構造、スピロピラン構造、スピロベンゾピラン構造及びフルギド構造等が挙げられる。これらのポリマーは、単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。これらのポリマーは、感光性構造を有する単量体を用いて、脱水や脱アミン等による重縮合や、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等の連鎖重合、配位重合や開環重合等により得ることができる。また、異なる感光性構造を有する単量体を複数種用い、それらの共重合体であってもよい。このような光配向性ポリマーとしては、特許第4450261号、特許第4011652号、特開2010-49230号公報、特許第4404090号、特開2007-156439号公報、特開2007-232934号公報等に記載される光配向性ポリマーが挙げられる。
【0258】
基材上に配向膜を形成するためには、上記配向性ポリマー及び光配向性ポリマーは、溶剤に溶解した溶液(配向膜形成用組成物)とし、該配向膜形成用組成物を該基材上に塗布する方法が簡便で好ましい。配向膜形成用組成物に用いる溶剤は、該溶剤に溶解させる配向性ポリマー及び光配向性ポリマーの種類等により適宜選択できるが、具体的には、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート又は乳酸エチル等のエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン又はメチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;ペンタン、ヘキサン又はヘプタン等の脂肪族炭化水素溶剤;トルエン又はキシレン等の芳香族炭化水素溶剤、アセトニトリル等のニトリル溶剤;テトラヒドロフラン又はジメトキシエタン等のエーテル溶剤;クロロホルム又はクロロベンゼン等の塩素系溶剤;等が挙げられる。これら有機溶剤は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0259】
配向膜形成用組成物から配向膜を形成するためには、上述のように、まず、前記基材上に、該配向膜形成用組成物を塗布する。塗布方法としては、すでに説明した本組成物を基材上に塗布する方法として例示したものと同じ方法が採用できる。この場合も、ロールtoロール形式で連続的に基材上に本組成物を塗布できる方法が商業的生産の点では好ましい。
【0260】
続いて、配向膜形成用組成物を基材上に塗布した塗布膜(配向膜形成用塗布膜)を乾燥して、該配向膜形成用組成物に含まれる溶剤などの低沸点成分を該配向膜形成用塗布膜から除去する。
・・・中略・・・
【0262】
かくして基材上に形成された配向膜形成用塗布膜に、すでに説明した方法により配向規制力を付与して配向膜を形成する。ここでは、配向規制力を付与する好ましい方法として例示したラビング法及び光配向法について詳述する。
・・・中略・・・
【0267】
次に、配向膜形成用塗布膜に対し、光配向法により配向規制力を付与する光配向法について説明する。
光配向法により配向規制力を付与するには、配向膜形成用塗布膜上に、偏光照射(例えば、直線偏光紫外線)を行う。
・・・中略・・・
【0269】
かくして基材上に形成される配向膜又はパターン化配向膜の膜厚は、例えば10nm~10000nmであり、好ましくは10nm~1000nmである。このような範囲とすれば、本組成物に含まれる液晶性成分(化合物(A)、液晶化合物(A’))を所望の角度に配向させることができる。
【0270】
2-2-2.未重合フィルムの重合
基材上又は配向膜上に形成された前記未重合フィルムに含まれる化合物(A)を、又は、未重合フィルムに含まれる化合物(A)と液晶化合物(A’)とを重合し、硬化させることにより、光学フィルムが得られる。光学フィルムは、化合物(A)の配向性が固定化されており、熱による複屈折の変化の影響を受けにくい。
・・・中略・・・
【0272】
基材上又は配向膜上に、本組成物を塗布した形成された未重合フィルムに対し、そのまま光照射を行って、該未重合フィルムを硬化することもできるが、該未重合フィルムを乾燥して、該未重合フィルムから溶剤を除去しておくことが好ましい。このようにして、未重合フィルムを乾燥した場合であっても、該未重合フィルム中で、本組成物の構成成分(化合物(A)等の重合性液晶化合物等)が結晶化することを良好に防止できる。
なお、溶剤の除去は、重合反応と並行して行ってもよいが、重合を行う前に、ほとんどの溶剤を除去しておくことが好ましい。その除去方法としては、配向膜の形成方法において乾燥方法として例示したものと同じ方法が採用される。中でも、自然乾燥又は加熱乾燥が好ましく、自然乾燥又は加熱乾燥を行う際の温度は、0℃~250℃の範囲が好ましく、50℃~220℃の範囲がより好ましく、80℃~170℃の範囲がさらに好ましい。加熱時間は、10秒間~60分間が好ましく、より好ましくは30秒間~30分間である。加熱温度および加熱時間が上記範囲内であれば、基材として、耐熱性が必ずしも十分ではないものを用いることができる。
【0273】
化合物(A)等を重合させて、未重合フィルムを硬化させた後、基材を剥離することにより、配向膜と本光学フィルムとが積層されたフィルム(積層フィルム)が得られる。さらに、配向膜を剥離して、単層の本光学フィルムを得ることができる。また、他の基材(フィルム又は板)を、該積層フィルムに貼合しておいてから、本光学フィルムに積層されていた基材や配向膜を剥離することにより、転写を行うこともできる。
【0274】
3.偏光板
本光学フィルムは、例えば偏光板製造に用いることができる。当該偏光板は、上述した本光学フィルム(本光学フィルムが位相差フィルムである場合を含む)を少なくとも一つ有するものである。
この偏光板としては、図1(a)~図1(e)に示すように、(1)本光学フィルム1と、偏光フィルム層2とが、直接積層された偏光板4a(図1(a));(2)本光学フィルム1と偏光フィルム層2とが、接着剤層3を介して貼り合わされた偏光板4b(図1(b));(3)本光学フィルム1と、本光学フィルム1’とを積層させ、さらに、本発明の本光学フィルム1’と偏光フィルム層2とを積層させた偏光板4c(図1(c));(4)本光学フィルム1と、本光学フィルム1’とを接着剤層3を介して貼り合わせ、さらに、本光学フィルム1’上に偏光フィルム層2を積層させた偏光板4d(図1(d));及び、(5)本光学フィルム1と、本光学フィルム1’とを接着剤層3を介して貼り合わせ、さらに、本光学フィルム1’と偏光フィルム層2とを接着剤層3’を介して貼り合せた偏光板4e(図1(e))等が挙げられる。ここで接着剤とは、接着剤及び/又は粘着剤のことを総称するものである。なお、図1の説明では、光学フィルムとしては、本光学フィルムのみであってもよいし、本光学フィルムに配向膜が積層しているものであってもよいし、本光学フィルムに配向膜及び基材が積層しているものであってもよい。
【0275】
前記偏光フィルム層2は、偏光機能を有するフィルムであればよく、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素や二色性色素を吸着させて延伸したフィルム、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸して沃素や二色性色素を吸着させたフィルム等が挙げられる。
・・・中略・・・
【0280】
4-2.有機EL表示装置
有機EL表示装置としては、図3に示す有機EL表示装置等が挙げられる。上記有機EL表示装置としては、本発明の偏光板4と、有機ELパネル7とを、接着層5を介して貼り合わせてなる有機EL表示装置11が挙げられる。上記有機ELパネル7は、導電性有機化合物からなる少なくとも1層の層である。上記構成によれば、図示しない電極を用いて、有機ELパネルに電圧を印加することにより、有機ELパネルが有する発光層に含まれる化合物が発光し、白黒表示ができる。
なお、上記有機EL表示装置11において、偏光板4は、広帯域円偏光板として機能するものであることが好ましい。広帯域円偏光板として機能するものであると、有機EL表示装置11の表面において外光の反射を防止することができる。」
カ 「【実施例】
【0281】
・・・中略・・・
【0292】
2.組成物の調製
表2に示す各成分を混合し、得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して組成物を調製した。
【0293】
【表2】
[図:0001395232000002.jpg]
表2中、光重合開始剤は、Irg369(イルガキュア369(BASFジャパン社製))、レベリング剤には、BYK361N(ビックケミージャパン製)、溶剤はシクロペンタノンを用いた。
・・・中略・・・
【0296】
4-1.光学フィルムの製造例
(実施例3~4、比較例3~4)
ガラス基板にポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型、和光純薬工業株式会社製)の2重量%水溶液を塗布し、加熱乾燥後、厚さ89nm膜を得た。続いて、表面にラビング処理を施し、ラビング処理を施した面に、表2の組成物1~4の塗布液(混合溶液)をスピンコート法により塗布し、表4記載の温度(Tc)で1分間乾燥した。表4に記載の温度(Td)で1分間放置後、積算光量2400mJ/cm2の紫外線を照射してフィルムを作成した。
・・・中略・・・
【0299】
5.光学特性の測定
実施例3及び4で作成したフィルムの位相差値を測定機(KOBRA-WR、王子計測機器社製)により測定した。位相差値(nm)の測定は、ガラス基板、配向膜及びフィルムを含む積層体について行ったが、ガラス基板及び配向膜は複屈折性を有さない(配向膜及びガラス基板については、Re(447)=Re(547)=Re(628)=0)ので、測定された位相差値をフィルムの位相差値とすることができる。位相差値Re(λ)は、波長(λ)451nm、549nm及び628nmにおいて測定した。結果を表5に示す。
【0300】
【表5】
[図:0001395232000003.jpg]
」
キ 「【図1】
[図:0001395232000004.jpg]
」
(2)甲1発明
甲1には、基材と配向膜を剥離した「単層の本光学フィルム」(【0273】)との記載、及び「図1の説明では、光学フィルムとしては」、「本光学フィルムに配向膜及び基材が積層しているものであってもよい」(【0274】)との記載があることから、以下では表現を統一するため、基材と配向膜を含まないものを「単層の本光学フィルム」といい、「単層の本光学フィルム」に配向膜及び基材が積層しているものを「光学フィルム」ということとする。
ア 光学フィルムについて
甲1の【0244】及び【0246】には、「光学フィルム」の実施態様の一つとして位相差フィルムがあり、位相差フィルムを広帯域λ/4板として用いることが記載されている。
甲1の【0232】の記載より、「光学フィルム」は、式(A)で示される化合物(A)により、逆波長分散特性を示すものである。また、甲1の【0246】の記載からは、位相差フィルムを広帯域λ/4板として用いる際には、Re(549)を130nm~150nmとすることを把握することができる。「光学フィルム」が広帯域λ/4板として用いられる位相差フィルムであることから、「単層の本光学フィルム」が位相差膜として機能していることは明らかであるので、当該逆波長分散特性及びRe(549)は、「単層の本光学フィルム」の特性であると解される。
イ 光学フィルムの製造方法について
甲1の【0248】~【0273】には、「光学フィルム」の製造方法が記載されている。
甲1の【0255】には「本光学フィルム製造の処理時間及び処理コストの観点から、ラビング法及び光配向法が好ましく、光配向法がより好ましい。」との記載があり、配向膜の配向法として光配向法によることを把握できる。甲1の【0257】~【0267】の記載からは、配向膜形成用組成物を用い、塗布、乾燥、偏光照射を行って配向膜を形成することを把握できる。
甲1の【0272】~【0273】の記載からは、「本組成物」を用い、塗布、乾燥、硬化を行うことを把握できる。当該「本組成物」は、甲1の【0008】に記載の式(A)で表される化合物(A)、(B)チオール基を有する化合物、(C)光重合開始剤、及び、甲1の【0233】に記載の有機溶剤が含まれることを把握できる。当該化合物(A)は、甲1の【0252】の記載から「重合性液晶化合物」であることを把握できる。
また、甲1の【0259】等の記載に接した当業者ならば、「光学フィルム」が「ロールtoロール形式」により製造されることを把握できる。
さらに、「単層の本光学フィルム」が、化合物(A)等を重合させ、未重合フィルムを硬化させて形成されるものであることを把握できる。
ウ 前記ア~イより、甲1には、「光学フィルム」の製造方法として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「広帯域λ/4板として用いられる位相差フィルムである光学フィルムの製造方法であって、
光学フィルムは、基材に配向膜及び単層の本光学フィルムが積層されたものであり、
単層の本光学フィルムは、逆波長分散特性を示し、Re(549)が130nm~150nmであり、
光学フィルムは、ロールtoロール形式により製造されるものであり、以下の工程を有する光学フィルムの製造方法。
基材上に、感光性構造を有するポリマーである光配向性ポリマーを溶剤に溶解した溶液(配向膜形成用組成物)を塗布し、
配向膜形成用組成物を基材上に塗布した塗布膜(配向膜形成用塗布膜)を乾燥して、該配向膜形成用組成物に含まれる溶剤などの低沸点成分を該配向膜形成用塗布膜から除去し、
基材上に形成された配向膜形成用塗布膜上に、偏光照射を行い、光配向法により配向規制力を付与して配向膜を形成し、
配向膜上に、以下の式(A)で表され、重合性液晶化合物である化合物(A)、(B)チオール基を有する化合物、(C)光重合開始剤及び有機溶剤を含む組成物を塗布して形成された未重合フィルムを自然乾燥又は加熱乾燥により乾燥して、重合を行う前に、ほとんどの溶剤を除去しておき、
化合物(A)等を重合させ、未重合フィルムを硬化させて単層の本光学フィルムを形成する。
前記有機溶剤は、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びフェノール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート及び乳酸エチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等の非塩素系脂肪族炭化水素溶剤;トルエン及びキシレン等の非塩素系芳香族炭化水素溶剤;アセトニトリル等のニトリル系溶剤;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶剤;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素系溶剤;等が挙げられ、これら有機溶剤は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
式(A)
[図:0001395232000005.jpg]
[式(A)中、
X1は、酸素原子、硫黄原子又は-NR1-を表す。R1は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
Y1は、置換基を有していてもよい炭素数6~12の1価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい炭素数3~12の1価の芳香族複素環式基を表す。
Q3及びQ4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、-NR2R3又は-SR2を表すか、Q3及びQ4が互いに結合して、これらがそれぞれ結合する炭素原子とともに芳香環又は芳香族複素環を形成していてもよい。R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
D1及びD2は、それぞれ独立に、単結合、-C(=O)-O-、-C(=S)-O-、-CR4R5-、-CR4R5-CR6R7-、-O-CR4R5-、-CR4R5-O-CR6R7-、-CO-O-CR4R5-、-O-CO-CR4R5-、-CR4R5-O-CO-CR6R7-、-CR4R5-CO-O-CR6R7-又は-NR4-CR5R6-又は-CO-NR4-を表す。
R4、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
G1及びG2は、それぞれ独立に、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子又は-NH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい。
L1及びL2は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、L1及びL2のうち少なくとも一方が、重合性基を有する有機基である。]」
(3)甲8の記載
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光反応性液晶配向剤、液晶配向素子及びその製造方法に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重合性液晶化合物が、ネマチック相、及びより高次なスメクチック相の重合性液晶となる配向能を有する光配向層、及び該光配向層を形成し得る、新規な光配向剤(光反応性液晶配向剤)が求められている。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の〔1〕~〔12〕からなる。
〔1〕式(1-1)で表されるポリマーを含む光反応性液晶配向剤。
[図:0001395232000006.jpg]
[式(1-1)中、
n及びmはそれぞれ独立に、0又は1を表す。
v及びwはそれぞれ独立に、1~3の整数を表す。
S1及びS2はそれぞれ独立に、フッ素原子又はシアノ基を有していてもよい炭素数1~12のアルカンジイル基を表す。
S3は、フッ素原子又はシアノ基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表す。
X1、X2、X3、X4及びX5はそれぞれ独立に、単結合、酸素原子、カルボニルオキシ基又はメチレン基を表す。
Y1及びY2はそれぞれ独立に、単結合、酸素原子又はカルボニルオキシ基を表す。
R1及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基を表す。
R2及びR4はそれぞれ独立に、炭素数1~2のアルコキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表し、vが2又は3の場合、複数存在するR2は、同一又は相異なり、wが2又は3の場合、複数存在するR4は、同一又は相異なる。
R5、R6及びR7はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。
p、q及びrは、全構造単位に対する各構造単位のモル分率を表し、0.25<p≦1、0≦q<0.75及び0≦r<0.75の関係を満たす。]
〔2〕前記ポリマーが、
前記式(1-1)のqが0のポリマーである、前記〔1〕記載の光反応性液晶配向剤。
〔3〕前記ポリマーが、
前記式(1-1)のrが0のポリマーである、前記〔1〕又は〔2〕記載の光反応性液晶配向剤。
〔4〕前記ポリマーが、
前記式(1-1)のR1及びR2がそれぞれ独立に、メトキシ基又はエトキシ基のポリマーである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか記載の光反応性液晶配向剤。
〔5〕前記ポリマーが、
前記式(1-1)のn及びmがともに0のポリマーである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか記載の光反応性液晶配向剤。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の光反応性液晶配向剤から塗布膜を形成し、該塗布膜を偏光照射してなる液晶配向層。
〔7〕前記〔6〕記載の液晶配向層と、偏光層とを有する液晶配向素子であり、
前記偏光層が、前記液晶配向層上に、重合性液晶化合物を含む組成物溶液を塗布して塗布膜を得、
前記塗布膜中に含まれる前記重合性液晶化合物を偏光照射によって重合することによって形成されたものである液晶配向素子。
〔8〕前記重合性液晶化合物が、スメクチック相の液晶状態を示す化合物である、前記〔7〕記載の液晶配向素子。
〔9〕前記重合性液晶化合物が、高次スメクチック相の液晶状態を示す化合物である、前記〔7〕記載の液晶配向素子。
〔10〕前記重合性液晶化合物が、等方相の液晶状態から直接ネマチック相の液晶状態を示す化合物である、前記〔7〕記載の液晶配向素子。
〔11〕前記重合性液晶化合物が、式(2)で表される、前記〔10〕記載の液晶配向素子。
[図:0001395232000007.jpg]
[式(2)中、
Q1は、置換もしくは非置換の多環式芳香族炭化水素基又は置換もしくは非置換の多環式芳香族複素環基を表す。
D1及びD2は、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表す。
G1及びG2は、それぞれ独立に、2価の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4アルコキシ基、シアノ基又はニトロ基で置換されていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成する-CH2-は、-O-、-S-又は-NH-に置き換わっていてもよい。
E1及びE2は、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表す。
B1及びB2は、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表す。
A1及びA2は、それぞれ独立に、2価の脂環式炭化水素基又は2価の芳香族炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基及び該芳香族炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4アルコキシ基、シアノ基又はニトロ基で置換されていてもよい。該炭素数1~4のアルキル基及び該炭素数1~4アルコキシ基に含まれる水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。
k及びlは、それぞれ独立に、0~3の整数を表す。kが2以上の場合、複数存在するA1は、互いに同一又は相異なり、複数存在するB1は、互いに同一又は相異なる。lが2以上の場合、複数存在するA2は、互いに同一又は相異なり、複数存在するB2は、互いに同一又は相異なる。
F1及びF2は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基に含まれる水素原子は、炭素数1~5のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよく、該アルカンジイル基を構成する-CH2-は、-O-又は-CO-に置き換わっていてもよい。
P1及びP2は、それぞれ独立に、水素原子、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を表すが、P1及びP2がともに水素原子であることはない。]
〔12〕式(1-3)で表される化合物。
[図:0001395232000008.jpg]
[式(1-3)中、
nは、0又は1を表す。vは、1~3の整数を表す。
S1は、フッ素原子又はシアノ基を有していてもよい炭素数1~12のアルカンジイル基を表す。
X1及びX3はそれぞれ独立に、単結合、酸素原子、カルボニルオキシ基又はメチレン基を表す。
Y1は、単結合、酸素原子又はカルボニルオキシ基を表す。
R1は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基を表す。
R2は、炭素数1~2のアルコキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表し、vが2又は3の場合、複数存在するR2は、同一又は相異なる。
R5は、水素原子又はメチル基を表す。]」
エ 「【発明の効果】
【0007】
本発明の光反応性液晶配向剤によれば、重合性液晶化合物がネマチック相、及びより高次なスメクチック相の重合性液晶となる配向能を有する光配向層を形成できる・」
オ 「【発明を実施するための形態】
・・・中略・・・
【0092】
<重合性ネマチック液晶化合物を用いた液晶配向素子>
次に、本液晶配向剤から形成された光配向膜上に、位相差層形成用組成物(重合性ネマチック液晶化合物を含む溶液)を用いて位相差層を形成する方法に関して説明する。
・・・中略・・・
【0280】
[図:0001395232000009.jpg]
(式(A1)中の2つの*は、(A1-1)~(A1-8)のいずれかの*と結合している。)
・・・中略・・・
【0352】
位相差層形成に用いる重合性ネマチック液晶化合物としては、例示した化合物(2)を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜混合させてもよい。とりわけ式(A1)~式(A73)のいずれかで表される化合物を用いると、得られる位相差層が逆波長分散位相差層となるのでより好ましい。これらの化合物(2)は、その波長分散性がより理想的な逆波長分散性を示す点からも好ましい。
・・・中略・・・
【0354】
前記位相差層形成用組成物は、その流動性の点で、溶剤、特に有機溶剤を含むことが好ましい。この有機溶剤は、該位相差層形成用組成物に用いる重合性ネマチック液晶化合物の種類及びその量などに応じて適宜選択することができるが、具体的には、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル等のアルコール溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の非塩素化脂肪族炭化水素溶剤;トルエン、キシレン、フェノール等の非塩素化芳香族炭化水素溶剤;アセトニトリル等のニトリル溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル溶剤;クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素化炭化水素溶剤;フェノール;などが挙げられる。これら有機溶剤は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。特に、アルコール溶剤、エステル溶剤、ケトン溶剤、非塩素化脂肪族炭化水素溶剤及び非塩素化芳香族炭化水素溶剤が好ましい。
・・・中略・・・
【0357】
前記位相差層とは、直線偏光を円偏光や楕円偏光に変換したり、逆に円偏光又は楕円偏光を直線偏光に変換したりするために用いられる。
【0358】
前記位相差層は、前記位相差層形成用組成物に含まれる重合性ネマチック液晶化合物を重合することにより得られる。
【0359】
本液晶配向剤から形成された光配向層上に、前記位相差層形成用組成物を塗布し、乾燥することにより、未重合フィルム(位相差層形成用の乾燥被膜)が得られる。なお、かかる塗布方法や乾燥方法は、前記偏光層形成用塗布膜から、偏光層形成用の塗布膜及び乾燥被膜を得る方法において説明したものと同じである。
未重合フィルム中の重合性ネマチック液晶をネマチック相の液晶状態にした後、重合させることにより得られる位相差層は、モノドメイン配向による複屈折性を示す。」
カ 「【実施例】
【0368】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、質量%及び質量部である。
・・・中略・・・
【0375】
実施例2(光反応性基を有するポリマーの製造)
前記化合物(M1-1-1)からの光反応性基を有するポリマーの製造は以下のようにして行った。
[図:0001395232000010.jpg]
シュレンク管中に、化合物(M1-1-1)1.00g(2.76mmol)、及び10gのテトラヒドロフランを加えて、脱酸素後、窒素を流しながらアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.27mgを加え、60℃で72時間攪拌させた。得られた反応溶液をトルエン200gに加えた。析出物を濾取し、ヘプタンで洗浄後、真空乾燥させることにより、0.75gのポリマー1を得た。収率は化合物(M1-1-1)を基準として75%であった。GPC測定より、得られたポリマーの分子量はポリスチレン標準で数平均分子量28200、Mw/Mn1.82を示し、モノマー含有量は0.5%であった。このポリマーをポリマー(1-1-1)とする。
・・・中略・・・
【0377】
実施例3:光反応性液晶配向剤の製造
ポリマー(1-1-1)を、濃度5質量%となるようにシクロペンタノンに溶解し、光反応性液晶配向剤を製造した。
【0378】
評価例1
〔偏光層形成用組成物の調整〕
下記の成分を混合し、80℃で1時間攪拌することで、重合性液晶組成物を得た。
重合性液晶化合物;化合物(3-1-6) 75部
化合物(3-1-7) 25部
二色性色素;アゾ色素(G205;林原生物化学研究所製) 3.0部
重合開始剤;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184;チバスペシャルティケミカルズ社製) 6部
レベリング剤;ポリアクリレート化合物(BYK-361N;BYK-Chemie社製) 1.5部
溶剤;シクロペンタノン 250部
【0379】
〔相転移温度の測定〕
偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって相転移温度を確認した。偏光層形成用組成物に含まれる重合性液晶化合物は、120℃まで昇温して溶剤を除去乾燥後、降温時において、110℃でネマチック相に相転移し104℃でスメクチックA相に相転移し、83℃でスメクチックB相へ相転移したことを確認した。
【0380】
〔光配向層の作製〕
実施例3で得られた光反応性液晶配向剤を、ポリエチレンテレフタレート基板(PET基板)上にバーコート法により塗布し、60℃で1分間乾燥後、厚さ100nmの乾燥被膜を形成した。続いて、得られた乾燥被膜の表面に偏光UV照射処理を施して光配向層を形成した。偏光UV処理は、UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、波長365nmで測定した強度が100mJの条件で行った。
【0381】
〔偏光層の作製〕
光配向膜上に、偏光層形成用組成物をバーコート法により塗布し、120℃の乾燥オーブンにて1分間加熱乾燥した後、室温まで冷却した。UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、露光量1200mJ/cm2(365nm基準)の紫外線を、偏光層形成用組成物から形成された層に照射することにより、偏光層を形成し、液晶配向素子を製造した。この際の偏光層の膜厚をレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社社製 OLS3000)により測定したところ、1.6μmであった。
・・・中略・・・
【0399】
評価例6
評価例1の重合性液晶(1-6)、(1-7)の代わりにポリビニルアルコールのラビング膜に配向させることのできる重合性ネマチック液晶化合物(例えばA1-1、A5-1、A6-1、A7-1、A9-1、A10-1、A11-1、A15-1、A21-1、A25-1、A63-1、A69-1、A70-1、A71-1、A72-1又はA73-1)を用い、かつ二色性色素を用いない位相差層形成用組成物を調製し、評価例1で示した光配向層上に塗布、ネマチック相転移温度まで加温した後、該重合性ネマチック液晶化合物を重合することにより、光配向層上にネマチック液晶相の液晶配向素子を作製できる。該液晶配向素子は液晶相を所望の位相差になるように厚みを調節すれば位相差層として機能する。」
(4)甲8発明
甲8の【0399】には、「光配向層上にネマチック液晶層の液晶配向素子を作製」する方法について、「評価例6」において「評価例1の重合性液晶(1-6)、(1-7)の代わりにポリビニルアルコールのラビング膜に配向させることのできる重合性ネマチック液晶化合物(例えばA1-1、A5-1、A6-1、A7-1、A9-1、A10-1、A11-1、A15-1、A21-1、A25-1、A63-1、A69-1、A70-1、A71-1、A72-1又はA73-1)を用い、かつ二色性色素を用いない位相差層形成用組成物を調製」することが記載されている。
上記記載から、甲8の「評価例6」として、重合性ネマチック液晶化合物として「A1-1」を用いることが把握できる。
また、甲8の【0378】には、「評価例1」として、「重合性液晶組成物」に、「重合性液晶化合物」である「化合物(3-1-6)」及び「化合物(3-1-7)」と、「二色性色素」と、「重合開始剤」と、「レベリング剤」と、「溶剤;シクロペンタノン」を用いることが記載されている。甲8の【0399】における「評価例1の重合性液晶(1-6)、(1-7)」は、同【0378】を参照すると「評価例1の重合性液晶(3-1-6)、(3-1-7)」の誤記であることは明らかであるといえるので、甲8の「評価例6」に係る「位相差層形成用組成物」としては、「重合性ネマチック液晶化合物」としての「A1-1」と、「重合開始剤」と、「レベリング剤」と、「溶剤;シクロペンタノン」を含むものが把握できる。
さらに、甲8の【0380】には、「光配向層の作製」において、「実施例3で得られた光反応性液晶配向剤」を用いることが記載され、当該「光反応性液晶配向剤」については、甲8の【0377】に記載されている。
加えて、甲8の【0280】には、「式(A1)」で表される化合物が記載され、「(式(A1)中の2つの*は、(A1-1)~(A1-8)のいずれかの*と結合している。)」と記載されているから、甲8の【0399】における「A1-1」とは、式(A1)中の2つの*が、式(A1-1)の*と結合した化合物であることが把握できる。
そして、甲8の【0352】を参照すると、「A1-1」を用いた場合、「得られる位相差層が逆波長分散位相差層となる」ことが把握できる。
そうすると、甲8には、「評価例6」から理解される、「光配向層上にネマチック液晶層の液晶配向素子を作製」する方法の発明として、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。
「光反応性液晶配向剤を、ポリエチレンテレフタレート基板(PET基板)上にバーコート法により塗布し、60℃で1分間乾燥後、厚さ100nmの乾燥被膜を形成し、続いて、得られた乾燥被膜の表面に偏光UV照射処理を施して光配向層を形成し、
重合性ネマチック液晶化合物、重合開始剤、レベリング剤、溶剤であるシクロペンタノンを含む位相差層形成用組成物を光配向層上に塗布、ネマチック相転移温度まで加温した後、該重合性ネマチック液晶化合物を重合することにより、光配向層上にネマチック液晶相の液晶配向素子を作製する方法であって、
前記光反応性液晶配向剤は、下記ポリマー(1-1-1)を、濃度5質量%となるようにシクロペンタノンに溶解したものであり、
前記重合性液晶化合物は、下記A1-1であり、
該液晶配向素子は液晶相を所望の位相差になるように厚みを調節して位相差層とし、
得られた位相差層が逆波長分散位相差層となる、
液晶配向素子を作製する方法。
ポリマー(1-1-1)
[図:0001395232000011.jpg]
A1-1
[図:0001395232000012.jpg]
[図:0001395232000013.jpg]
(式(A1)中の2つの*は、(A1-1)の*と結合している。)」
2 甲1を主引用文献とした場合について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア)(1)の工程
甲1発明の「光学フィルムは、ロールtoロール形式により製造されるものであ」ることから、長尺形状であることは明らかであるから、本件特許発明1の「長尺基材」に相当する。
甲1発明の「感光性構造を有するポリマーである光配向性ポリマーを溶剤に溶解した溶液(配向膜形成用組成物)」は、本件特許発明1の「光配向膜形成用組成物」に相当する。
そうすると、甲1発明の「基材上に、感光性構造を有するポリマーである光配向性ポリマーを溶剤に溶解した溶液(配向膜形成用組成物)を塗布」する工程は、本件特許発明1の「(1)」の工程と、「(1)長尺基材に光配向膜形成用組成物を」「塗布して、該長尺基材上に第1塗布膜を形成する工程」という点で共通する。
(イ)(2)の工程
甲1発明の「配向膜形成用組成物を基材上に塗布した塗布膜(配向膜形成用塗布膜)を乾燥して、該配向膜形成用組成物に含まれる溶剤などの低沸点成分を該配向膜形成用塗布膜から除去」する工程における、「乾燥」により「溶剤などの低沸点成分を」「除去」された「配向膜形成用塗布膜」は、本件特許発明1の「第1乾燥被膜」に相当する。
そうすると、甲1発明の「配向膜形成用組成物を基材上に塗布した塗布膜(配向膜形成用塗布膜)を乾燥して、該配向膜形成用組成物に含まれる溶剤などの低沸点成分を該配向膜形成用塗布膜から除去」する工程は、本件特許発明1の「(2)該第1塗布膜を乾燥することにより、第1乾燥被膜を形成する工程」に相当する。
(ウ)(3)の工程
甲1発明の「配向膜」は、「光配向法により配向規制力を付与して」「形成」されたものであり、また、「光学フィルムは、ロールtoロール形式により製造されるものであ」るところ、長尺形状であることは明らかであるから、本件特許発明1の「長尺光配向膜」に相当する。
そうすると、甲1発明の「基材上に形成された配向膜形成用塗布膜上に、偏光照射を行い、光配向法により配向規制力を付与して配向膜を形成」する工程は、本件特許発明1の「(3)」の工程と、「(3)該第1乾燥被膜に、」「偏光を、照射することにより、」「長尺光配向膜を形成する工程」という点で共通する。
(エ)(4)の工程
甲1発明の「有機溶剤」は、本件特許発明1の「溶媒」に相当する。
甲1発明の「式(A)で表され、重合性液晶化合物である化合物(A)」は、本件特許発明1の「重合性液晶化合物」に相当する。
また、甲1発明の「式(A)で表され、重合性液晶化合物である化合物(A)、(B)チオール基を有する化合物、(C)光重合開始剤及び有機溶剤を含む組成物」は、後の工程で「未重合フィルムを硬化させて単層の本光学フィルム」となるものであることから、本件特許発明1の「液晶硬化膜形成用組成物」に相当する。
さらに、甲1発明の「塗布して形成された未重合フィルム」は、本件特許発明1の「第2塗布膜」に相当する。
そうすると、甲1発明の「配向膜上に、」「式(A)で表され、重合性液晶化合物である化合物(A)、(B)チオール基を有する化合物、(C)光重合開始剤及び有機溶剤を含む組成物を塗布」する工程は、本件特許発明1の「(4)」の工程と、「(4)」「溶媒と、重合性液晶化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物を、該長尺光配向膜の上に」「塗布して、該長尺光配向膜上に第2塗布膜を形成する工程」という点で共通する。
(オ)(5)の工程
甲1発明の「未重合フィルムを自然乾燥又は加熱乾燥により乾燥して、重合を行う前に、ほとんどの溶剤を除去しておき」との工程において、「乾燥」により「ほとんどの溶剤を除去」された「未重合フィルム」は、本件特許発明1の「第2乾燥被膜」に相当する。
そうすると、甲1発明の「未重合フィルムを自然乾燥又は加熱乾燥により乾燥して、重合を行う前に、ほとんどの溶剤を除去しておき」との工程は、本件特許発明1の「(5)該第2塗布膜を乾燥することにより、第2乾燥被膜を形成する工程」に相当する。
(カ)(6)の工程
甲1発明の「光学フィルム」は、「広帯域λ/4板として用いられる位相差フィルム」であることから、「単層の本光学フィルム」が位相差膜として機能していることは明らかであり、また、「光学フィルムは、ロールtoロール形式により製造されるものであ」ることから、「単層の本光学フィルム」も長尺形状となっていることは明らかである。よって、甲1発明の「単層の本光学フィルム」は、本件特許発明1の「長尺位相差膜」に相当する。
また、甲1発明の「逆分散特性を示す」「単層の本光学フィルムが」が、本件特許発明1の式(1)及び式(2)を満たすことは技術常識から明らかである。
さらに、甲1発明の「光学フィルム」は「Re(549)が130nm~150nm」に調整されたものである。波長が1nm異なったとしても、その面内位相差が大きく変化することはないから、甲1発明の「Re(549)が130nm~150nm」に調整された「光学フィルム」のRe(550)は「100nm<Re(550)<160nm」を満たすことは明らかである。
よって、甲1発明の「単層の本光学フィルム」は、本件特許発明1の式(3)を満たす。
そうすると、甲1発明の「化合物(A)等を重合させて、未重合フィルムを硬化させ」る工程は、本件特許発明1の「(6)該第2乾燥被膜を硬化することにより、式(1)~式(3):
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
100nm<Re(550)<160nm (3)
を満たす波長分散特性を有する長尺位相差膜を形成する工程」という要件を満たす。
(キ)(1)~(6)の工程
前記(ア)~(カ)に照らすと、甲1発明は、本件特許発明1の「(1)~(6)」の工程を「この順に有し」という要件を満たす。
(ク)シンナモイル基を有するポリマー
甲1発明の「配向膜形成用組成物」に含まれる「感光性構造を有するポリマー」は、本件特許発明1の「シンナモイル基を有するポリマー」と、「ポリマー」という点で共通する。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1と、「前記光配向膜形成用組成物は、」「ポリマーを含み」という点で共通する。
(ケ)重合性液晶化合物
甲1発明の「式(A)」の「G1及びG2」は、「炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子又は-NH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい」は、本件特許発明1の「炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい」とされるものである。
そうすると、甲1発明の「式(A)で表され、重合性液晶化合物である化合物(A)」は、本件特許発明1の「重合性液晶化合物」における「炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい」という要件を満たす。
(コ)長尺位相差フィルムの製造方法
甲1発明の「光学フィルム」は「広帯域λ/4板として用いられる位相差フィルム」であることから、「光学フィルム」についても「位相差フィルム」としての特性を有するものと認められる。さらに、「光学フィルムは、ロールtoロール形式により製造されるものであ」ることから、「光学フィルム」についても長尺形状であり、また、「フィルム」状であることは明らかである。
よって、甲1発明の「光学フィルム」は、本件特許発明1の「長尺位相差フィルム」に相当する。
そうすると、甲1発明の「光学フィルムの製造方法」は、本件特許発明1の「長尺位相差フィルムの製造方法」に相当する。
イ 一致点
本件特許発明1と甲1発明は次の点で一致する。
「 (1)~(6)の工程;
(1)長尺基材に光配向膜形成用組成物を塗布して、該長尺基材上に第1塗布膜を形成する工程、
(2)該第1塗布膜を乾燥することにより、第1乾燥被膜を形成する工程、
(3)該第1乾燥被膜に、偏光を、照射することにより、長尺光配向膜を形成する工程、
(4)溶媒と、重合性液晶化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物を、該長尺光配向膜の上に塗布して、該長尺光配向膜上に第2塗布膜を形成する工程、
(5)該第2塗布膜を乾燥することにより、第2乾燥被膜を形成する工程、及び
(6)該第2乾燥被膜を硬化することにより、式(1)~式(3):
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
100nm<Re(550)<160nm (3)
を満たす波長分散特性を有する長尺位相差膜を形成する工程
をこの順に有し、
前記光配向膜形成用組成物は、ポリマーを含み、前記重合性液晶化合物は、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい、長尺位相差フィルムの製造方法。」
ウ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は次の点で相違する。
(ア)相違点1-1
「光配向膜形成用組成物」及び「液晶硬化膜形成用組成物」を「塗布」することについて、本件特許発明1では「連続的」であるのに対し、甲1発明では「連続的」であるか否かが明らかでない点。
(イ)相違点1-2
「(3)」「の工程」の「長尺光配向膜」について、本件特許発明1では「長尺基材の長尺方向に対して30°~60°の偏光を、照射することにより、配向規制力の方向が長尺基材の長尺方向に対して30°~60°である」のに対して、甲1発明では、照射される「偏光」の角度についての特定がなく、また、「配向規制力の方向が長尺基材の長尺方向に対して30°~60°である」との特定がない点。
(ウ)相違点1-3
「液晶硬化膜形成用組成物」に含まれる「溶媒」について、本件特許発明1では、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む」のに対して、甲1発明では、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む」ものではない点。
(エ)相違点1-4
「光配向膜形成用組成物」に含まれる「ポリマー」について、本件特許発明1では、「シンナモイル基を有する」のに対して、甲1発明では、「感光性構造を有する」と特定されるのみである点。
エ 判断
事案に鑑み、相違点1-3について検討する。
(ア)甲1の記載及び示唆
甲1(【0233】及び【0293】などを参照。)には、本件特許発明1の「液晶硬化膜形成用組成物」に相当する「本組成物」に含まれる「有機溶剤」について、「N-メチル-2-ピロリドン」を用いることは記載も示唆もされていない。
(イ)甲2、甲4及び甲7に記載された技術的事項及び周知技術
また、甲1発明は、「重合性液晶化合物」を含む「液晶硬化膜形成用組成物」を用いる「光学フィルム」の製造方法であるところ、同じ技術分野に関する技術的事項が記載された甲2(【0032】及び【0079】などを参照。)には、「重合性液晶化合物」を含む「液晶硬化膜形成用組成物」の溶剤として、「例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン又はプロピレングリコールメチルエーテルアセテート及び乳酸エチルなどのエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン及びメチルイソブチルケトンなどのケトン溶剤;ペンタン、ヘキサン及びヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶剤;トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素溶剤、アセトニトリルなどのニトリル溶剤;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタンなどのエーテル溶剤;クロロホルム及びクロロベンゼンなどの塩素含有溶剤;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン及びジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤などが挙げられる。これら溶剤は、単独種で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。」と記載されているものの、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドン」の具体的な組み合わせについては記載も示唆もされていない。
そして、「重合性液晶化合物」を含む「液晶硬化膜形成用組成物」を用いる「光学フィルム」の製造方法に関し、「液晶硬化膜形成用組成物」の溶剤として、「シクロペンタノン」を用いることが記載されていること、「N-メチル-2-ピロリドン」を用いることが記載されていること、複数種を組み合わせて用いることが記載されていること、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドン」の具体的な組み合わせについて記載されていないことは、甲4(【0136】~【0138】などを参照。)及び甲7(【0074】~【0075】などを参照。)も同様である。
そうすると、仮に、「光学フィルム」における「重合性液晶化合物」を含む「液晶硬化膜形成用組成物」の溶剤として、「シクロペンタノン」を用いる点、「N-メチル-2-ピロリドン」を用いる点、及び、複数種を組み合わせて用いる点がそれぞれ周知技術であったとしても、特定の溶媒の組み合わせを含む溶媒、すなわち、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒」を用いることは、周知技術ではなく、また、「シクロペンタノン」及び「N-メチル-2-ピロリドン」以外の溶媒を用いることも周知技術であるから、多数の溶媒の候補の中から、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドン」の特定の組み合わせを選択する動機付けは見出し難い。
(ウ)甲5及び甲6に記載された技術的事項及び周知技術
甲5(【0001】及び【0028】などを参照。)には、「カラーペーストにおける溶媒」として「N-ピロリドンとシクロペンタノンの混合溶媒」が記載されているものの、「カラーペースト」は、「光学フィルム」における「液晶硬化膜形成用組成物」ではないし、「重合性液晶化合物」を含むものでもない。
また、甲6(【0001】及び【0028】などを参照。)には、「液晶表示装置用樹脂組成物であり、高さの異なるパターンを一括加工するための樹脂組成物」の溶媒として「N-メチルピロリドンとシクロペンタノンの混合溶媒」が記載されているものの、「液晶表示装置用樹脂組成物であり、高さの異なるパターンを一括加工するための樹脂組成物」は、「光学フィルム」における「液晶硬化膜形成用組成物」ではないし、「重合性液晶化合物」を含むものでもない。
そうすると、仮に、甲5に記載の「カラーペースト」の分野や、甲6に記載の「液晶表示装置用樹脂組成物であり、高さの異なるパターンを一括加工するための樹脂組成物」の分野において、「N-メチルピロリドンとシクロペンタノンの混合溶媒」を用いることが周知技術(以下「甲5~6周知技術」という)であったとしても、甲5~6周知技術が属する技術分野は、「重合性液晶化合物」を含む「液晶硬化膜形成用組成物」を用いる「光学フィルム」の製造方法に関するものでないから、甲1発明と異なる技術分野であり、かつ、甲5~6周知技術は、「重合性液晶化合物」を用いるものでもないから「重合性液晶化合物」を溶解するという作用及び機能の点でも甲1発明と異なる。したがって、甲1発明の「液晶硬化膜形成用組成物」に含まれる「溶媒」を改良しようとする当業者が、甲5~6周知技術を参考にして、「N-メチルピロリドンとシクロペンタノンの混合溶媒」を採用する動機付けは見出し難い。
(エ)相違点1-3についての判断の小括
したがって、甲1発明は、少なくとも、相違点1-3に係る本件特許発明1の構成において、本件特許発明1と相違する。
また、甲1発明において、甲2及び甲4~7に記載された技術的事項及び周知技術に接した当業者が、相違点1-3に係る本件特許発明1の構成に容易に想到し得たということはできない。
オ 特許異議申立人の主張について
(ア)新規性
特許異議申立人は、特許異議申立書の第32~33頁において、「ア.構成要件C-1は、シクロぺンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを用いることを特定しているが、その配合比が特定されていない。」としたうえで、「イ.他方で、甲1には、下記の(4)~(6)が記載されている。」「(4)甲1には、溶媒としてのシクロペンタノンと、重合性液晶化合物とを含む光学フィルム形成用の組成物を、長尺状の配向膜の上に連続的に塗布して、当該配向膜上に重合性液晶化合物の塗布膜を形成する工程が記載されている(段落233、248、252、293)。」「構成要件C-1はシクロペンタノンが略100%に近い態様を包含しているから、甲1と実質的な相違はない。」と主張する。
確かに、本件特許発明1は、「シクロペンタノン及びN-メチルピロリドン」の配合比は特定していないものの、「N-メチル-2-ピロリドン」を含むことは特定されているので、「液晶硬化膜形成用組成物」の「溶媒」に「N-メチル-2-ピロリドン」を必須成分として含むものである。そうしてみると、甲1には、「N-メチル-2-ピロリドン」は記載されていないのだから、甲1に記載の発明をどのように認定したとしても、「N-メチル-2-ピロリドン」を含むか否かで、少なくとも、本件特許発明1と甲1に記載の発明とは実質的に相違する。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(イ)進歩性
特許異議申立人は、特許異議申立書の第36~38頁において、「[6]補足2」として、「ア.仮に、本件第1発明が、液晶化合物の溶媒がシクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む点(構成要件C-1)を甲1との相違点であると認定したとしても(相違点(ii))、当該相違点(ii)に技術的意味はなく、当業者が適宜採用しうる設計的事項にすぎない。」と主張する。
しかし、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒」を採用することを当業者が容易に想到し得たということができない点は、前記エで述べたとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
カ 本件特許発明1についての小括
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、相違点1-1、1-2、1-4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲2及び甲4~7に記載された技術的事項及び周知技術、並びに、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(2)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1と同様に、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒と、重合性液晶化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物」という構成を具備するものである。
そうしてみると、前記(1)カと同様に、本件特許発明4も、甲1に記載された発明ではない。また、本件特許発明4は、甲1に記載された発明、甲2及び甲4~7に記載された技術的事項及び周知技術、並びに、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件特許発明2~3及び5~7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~3及び5~7は、いずれも、請求項1又は請求項4を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~3及び5~7は、本件特許発明1又は本件特許発明4の構成を全て具備するものである。
そうしてみると、前記(1)カ及び前記(2)と同様に、本件特許発明2~3及び5~7も、甲1に記載された発明でない。
また、前記(1)カ及び前記(2)と同様に、本件特許発明2~3及び5~7も、甲1に記載された発明、甲2及び甲4~7に記載された技術的事項及び周知技術、並びに、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
3 甲8を主引用文献とした場合について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲8発明を対比する。
(ア)(1)の工程
甲8発明の「ポリエチレンテレフタレート基板(PET基板)」は、本件特許発明1の「長尺基材」と、「基材」である点で共通する。
また、甲8発明の「光反応性液晶配向剤」は、本件特許発明1の「光配向膜形成用組成物」に相当する。
そうすると、甲8発明の「光反応性液晶配向剤を、ポリエチレンテレフタレート基板(PET基板)上にバーコート法により塗布し」という工程は、本件特許発明1の「(1)」の工程と、「(1)」「基材に光配向膜形成用組成物を」「塗布して、該」「基材上に第1塗布膜を形成する工程」という点で共通する。
(イ)(2)の工程
甲8発明の「光反応性液晶配向剤を、ポリエチレンテレフタレート基板(PET基板)上にバーコート法により塗布」の後に行う「60℃で1分間乾燥後、厚さ100nmの乾燥被膜を形成」する工程は、本件特許発明1の「(2)該第1塗布膜を乾燥することにより、第1乾燥被膜を形成する工程」に相当する。
(ウ)(3)の工程
甲8発明の「光配向層」は、本件特許発明1の「長尺光配向膜」と、「光配向膜」である点で共通する。
そうすると、甲8発明の「得られた乾燥被膜の表面に偏光UV照射処理を施して光配向層を形成」する工程は、本件特許発明1の「(3)」の工程と、「(3)該第1乾燥被膜に、」「偏光を、照射することにより、」「光配向膜を形成する工程」という点で共通する。
(エ)(4)の工程
甲8発明の「位相差層形成用組成物」の「溶剤であるシクロペンタノン」は、本件特許発明1の「溶媒」のうち、「シクロペンタノン」を含む点で共通する。
また、甲8発明の「重合性ネマチック液晶化合物」である「A1-1」は、本件特許発明1の「重合性液晶化合物」に相当する。
さらに、甲8発明の「位相差層形成用組成物」は、本件特許発明1の「液晶硬化膜形成用組成物」に相当する。
そうすると、甲8発明の「重合性ネマチック液晶化合物、重合開始剤、レベリング剤、溶剤であるシクロペンタノンを含む位相差層形成用組成物を光配向層上に塗布」する工程は、本件特許発明1の「(4)」の工程と、「(4)シクロペンタノン」「を含む溶媒と、重合性液晶化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物を、該」「光配向膜の上に」「塗布して、該」「光配向膜上に第2塗布膜を形成する工程」という点で共通する。
(オ)(5)の工程
甲8発明の「重合性ネマチック液晶化合物、重合開始剤、レベリング剤、溶剤であるシクロペンタノンを含む位相差層形成用組成物を光配向層上に塗布」した後に、「ネマチック相転移温度まで加温した後、該重合性ネマチック液晶化合物を重合することにより、光配向層上にネマチック液晶相の液晶配向素子を作製」する工程は、技術的にみて、「被膜」を形成していることは明らかであるから、本件特許発明1の「(5)」の工程と、「(5)」「第2」「被膜を形成する工程」という点で共通する。
(カ)(6)の工程
甲8発明の「位相差層」は、「逆波長分散位相差層」であるので、本件特許発明1の式(1)及び式(2)を満たすことは技術常識から明らかである。
そうすると、甲8発明の、「位相差層形成用組成物を調製し、評価例1で示した光配向層上に塗布、ネマチック相転移温度まで加温した後」に、「該重合性ネマチック液晶化合物を重合すること」は、本件特許発明1の「(6)」の工程と、「(6)該第2」「被膜を硬化することにより、式(1)」及び「式(2)」「:
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)」
「を満たす波長分散特性を有する」「位相差膜を形成する工程」という点で共通する。
(キ)(1)~(6)の工程
前記(ア)~(カ)に照らすと、甲8発明は、本件特許発明1の「(1)~(6)」の工程を「この順に有し」という要件を満たす。
(ク)シンナモイル基を有するポリマー
甲8発明の「反応性液晶配向剤」に含まれる「ポリマー(1-1-1)」は、その化学構造から、本件特許発明1の「シンナモイル基を有するポリマー」に相当する。
そうすると、甲8発明は、本件特許発明1の「前記光配向膜形成用組成物は、シンナモイル基を有するポリマーを含み」という要件を満たす。
(ケ)重合性液晶化合物
甲8発明の「重合性ネマチック液晶化合物」である「A1-1」は、式(A1)に含まれるシクロへキシレン基を有する。当該シクロへキシレン基は、本件特許発明1の「炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基」に該当する。
そうすると、甲8発明の「重合性液晶化合物」は、本件特許発明1の「重合性液晶化合物」の「炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい」という要件を満たす。
(コ)製造方法の全体構成
以上総合すると、製造方法全体として、本件特許発明1と甲8発明とは、「位相差膜を有する光学素子の製造方法」である点で共通する。
イ 一致点
本件特許発明1と甲8発明は次の点で一致する。
「 (1)~(6)の工程;
(1)基材に光配向膜形成用組成物を塗布して、該基材上に第1塗布膜を形成する工程、
(2)該第1塗布膜を乾燥することにより、第1乾燥被膜を形成する工程、
(3)該第1乾燥被膜に、偏光を、照射することにより光配向膜を形成する工程、
(4)シクロペンタノンを含む溶媒と、重合性液晶化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物を、該光配向膜の上に塗布して、該光配向膜上に第2塗布膜を形成する工程、
(5)第2被膜を形成する工程、及び
(6)該第2被膜を硬化することにより、位相差膜を形成する工程
をこの順に有し、
前記光配向膜形成用組成物は、シンナモイル基を有するポリマーを含み、前記重合性液晶化合物は、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい、
位相差膜を有する光学素子の製造方法。」
ウ 相違点
本件特許発明1と甲8発明は次の点で相違する。
(ア)相違点8-1
本件特許発明1では、
「基材」、「光配向膜」及び「位相差膜」が「長尺」であり、
「光配向膜形成用組成物」及び「液晶硬化膜形成用組成物」を「塗布」することが「連続的」であり、
「光配向膜を形成する工程」が「該長尺基材の長尺方向に対して30~60°の偏光を、照射することにより、配向規制力の方向が長尺基材の長尺方向に対して30~60°である長尺光配向膜を形成する工程」であり、
「第2」「被膜」が「第2乾燥被膜」であり、「(5)該第2塗布膜を乾燥することにより、第2乾燥被膜を形成する工程」を有し、
「位相差膜」が「式(3):」
「100nm<Re(550)<160nm (3)」
「を満たす波長分散特性を有」するのに対して、
甲8発明では、
「基材」、「光配向膜」及び「位相差膜」が「長尺」ではなく、
「光配向膜形成用組成物」及び「液晶硬化膜形成用組成物」を「塗布」することが「連続的」か否かが明らかでなく、
「光配向膜を形成する工程」は、照射される「偏光」の角度についての特定がなく、また、「配向膜」について「配向規制力の方向が長尺基材の長尺方向に対して30~60°である」との特定がなく、
「(5)該第2塗布膜を乾燥することにより、第2乾燥被膜を形成する工程」を有するか否かは明らかでなく、「第2」「被膜」が「第2」「被膜」が「第2乾燥被膜」であるか否かも明らかでなく、
「位相差膜」が前記「式(3)」「を満たす波長分散特性を有する」か否かは不明である点。
(イ)相違点8-2
「液晶硬化膜形成用組成物」に含まれる「溶媒」について、本件特許発明1では、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む」のに対して、甲8発明では、「シクロペンタノン」のみである点。
(ウ)相違点8-3
位相差膜を有する光学素子が、本件特許発明1では、「フィルム」であるのに対して、甲8発明では、「フィルム」とは必ずしもいえない点。
エ 判断
事案に鑑み、相違点8-2について検討する。
甲8(【0354】、【0378】及び【0399】などを参照。)には、本件特許発明1の「液晶硬化膜形成用組成物」に相当する「位相差層形成用組成物」に含まれる「溶剤」について、「N-メチル-2-ピロリドン」を用いることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲8発明は、少なくとも、相違点8-2に係る本件特許発明1の構成において、本件特許発明1と相違する。
また、前記2(1)エ(イ)及び(ウ)と同様の理由により、甲8発明において、甲2及び甲4~7に記載された技術的事項及び周知技術に接した当業者が、相違点8-2に係る本件特許発明1の構成に容易に想到し得たということはできない。
オ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第47~50頁において、前記2(1)オと同様の主張をしている。
しかし、特許異議申立人の当該主張は、前記2(1)オと同様に採用できない。
カ 甲8のその他の発明について
前記ア~オは、甲8の「A1-1」(【0399】)を「A5-1、A6-1、A7-1、A9-1、A10-1、A11-1、A15-1、A21-1、A25-1、A63-1、A69-1、A70-1、A71-1、A72-1又はA73-1」(【0399】)のいずれかに替えて甲8発明を認定したとしても同様である。
キ 本件特許発明1についての小括
したがって、本件特許発明1は、甲8に記載された発明ではない。
また、相違点8-1、8-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲8に記載された発明、甲2及び甲4~7に記載された技術的事項及び周知技術、並びに、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(2)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1と同様に、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドンを含む溶媒と、重合性液晶化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物」という構成を具備するものである。
そうしてみると、前記(1)キと同様に、本件特許発明4も、甲8に記載された発明ではない。また、本件特許発明4は、甲8に記載された発明、甲2及び甲4~7に記載された技術的事項及び周知技術、並びに、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件特許発明2~3及び5~7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~3及び5~7は、いずれも、請求項1又は請求項4を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~3及び5~7は、本件特許発明1又は本件特許発明4の構成を全て具備するものである。
そうしてみると、前記(1)キ及び前記(2)と同様に、本件特許発明2~3及び5~7も、甲8に記載された発明でない。
また、前記(1)キ及び前記(2)と同様に、本件特許発明2~3及び5~7も、甲8に記載された発明、甲2及び甲4~7に記載された技術的事項及び周知技術、並びに、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第5 当合議体の判断(記載要件)
1 サポート要件
(1)発明の課題
本件特許発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0004】に記載のとおり、「フィルムの長尺方向に対して斜め方向に光軸を有する位相差フィルムの工業的な製造は、煩雑な加工技術を要するものであり、新たな製造方法が求められていた。」というものと認められる。
(2)課題を解決するための手段及び作用機序
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0005】には、「[1](1)~(6)の工程をこの順に有する長尺位相差フィルムの製造方法。
(1)長尺基材に光配向膜形成用組成物を連続的に塗布して、該長尺基板上に第1塗布膜を形成する工程
(2)該第1塗布膜を乾燥することにより、第1乾燥被膜を形成する工程
(3)該第1乾燥被膜に、該長尺基材の長尺方向に対して斜め方向の偏光を、照射することにより、配向規制力の方向が長尺基材の長尺方向に対して斜めである長尺光配向膜を形成する工程
(4)該長尺光配向膜の上に、重合性液晶化合物を含む液晶硬化膜形成用組成物を連続的に塗布して、該長尺光配向膜上に第2塗布膜を形成する工程
(5)該第2塗布膜を乾燥することにより、第2乾燥被膜を形成する工程
(6)該第2乾燥被膜を硬化することにより、長尺位相差膜を形成する工程」と記載されている。
(3)判断
前記(2)によれば、本件特許発明は、上記下線部の技術的特徴を有することで、「フィルムの長尺方向に対して斜め方向に光軸を有する位相差フィルムの工業的な製造」として、「煩雑な加工技術を要するもの」でない、「新たな製造方法」を提供することに技術的な意義を有する発明である。
そうしてみると、本件特許発明は、上記下線部の技術的特徴を有しているので、前記(1)の課題を解決できることを当業者が認識し得るに足りる十分なものといえる。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第54~56頁において、「(4-5-1-1)溶媒の材料」、「(4-5-1-2)重合性液晶化合物」、「(4-5-1-3)偏光照射の角度」について、それぞれ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に一例しか記載されていないことを主な根拠にしてサポート要件違反を主張する。
特許異議申立人の上記主張は、要するに、本件特許発明が実施例以外の様態も含むからサポート要件違反に該当するというものであるが、本件特許発明は、たとえ実施例以外の態様であっても、前述したとおり、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
2 明確性
(1)判断
本件特許発明は、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドン」、「前記重合性液晶化合物は、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい」、「該第1乾燥被膜に、該長尺基材の長尺方向に対して30~60°の偏光を、照射する」という発明特定事項を有しているが、溶媒の種類、重合性液晶化合物が有する官能基、照射角度がそれぞれ特定されているので、本件特許発明の技術的範囲は明確であるといえる。
したがって、本件特許発明は明確である。
(2)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第56頁において、「(4-5-2-1)溶媒の材料」、「(4-5-2-2)重合性液晶化合物」、「(4-5-2-3)偏光照射の角度」について、それぞれ、いかなる技術的意味があるのか不明確であることを主な根拠にして明確性要件違反を主張する。
しかし、仮に、技術的意味が不明確であったとしても、それによって、本件特許発明の技術的範囲が不明確になるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
3 実施可能要件
(1)溶媒の材料
ア 判断
本件特許発明は、「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドン」という発明特定事項を有している。
「シクロペンタノン及びN-メチル-2-ピロリドン」の配合比は本件特許発明で特定されていないものの、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0066】に「溶剤としては、重合性液晶化合物を完全に溶解し得るものが好ましく」と記載されていることから、当該配合比は、用いる「重合性液晶化合物」等に応じて当業者が実験的に適宜設定し得る程度のものであり、当該配合比を決定するために過度の試行錯誤を要するものではない。
イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第56~57頁において、「(4-5-3-1)溶媒の材料」として、「両材料の配合比とその作用効果(重合性液晶化合物の溶解性)との関係が、当業者が実施できる程度に記載されているといえない。」と述べて、実施可能要件違反を主張する。
しかし、前記アのとおり、配合比は、用いる「重合性液晶化合物」を実際に溶解する実験等を行えば決定できるものであり、当該配合比を決定するために過度の試行錯誤を要するものではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(2)重合性液晶化合物
ア 判断
本件特許発明は、「前記重合性液晶化合物は、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を有し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子またはNH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい」という発明特定事項を有している。
当該発明特定事項を有する「重合性液晶化合物」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0039】~【0062】に記載されており、当業者であれば、当該記載を参照することで「重合性液晶化合物」を決定して、本件特許発明を実施できる。
イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第57頁において、「(4-5-3-2)重合性液晶化合物」として、「当該発明特定事項にいかなる技術的意味があるのか、当該発明特定事項のみで位相差フィルムを製造し得るのか、当該発明特定事項以外の材料を用いた場合とどのように位相差フィルムの特性、作用効果が異なるのか、当業者が実施しうる程度に説明がなされていない。」と述べて実施可能要件違反を主張する。
しかし、前記アのとおり、当業者であれば本件特許発明を実施できる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)偏光照射の角度
ア 判断
本件特許発明は、「該第1乾燥被膜に、該長尺基材の長尺方向に対して30~60°の偏光を、照射する」という発明特定事項を有している。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0030】には当該偏光照射について説明されているため、当業者であれば、当該記載を参照することで当該偏光照射を含む本件特許発明を実施できる。
イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第57頁において、「(4-5-3-3)偏光照射の角度」として、「当該角度範囲にいかなる技術的意味があり、当該範囲以外の場合と何が異なるのか当業者が実施しうる程度に説明がなされていない。」と述べて実施可能要件違反を主張する。
しかし、前記アのとおり、当業者であれば本件特許発明を実施できる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
4 小括
本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件特許発明は明確である。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
第6 むすび
請求項1~7に係る特許は、いずれも、特許異議の申立ての理由及び証拠によって取り消すことはできない。また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700742